説明

水性エマルジョン

【目的】 重合安定性に優れ、かつ機械的安定性,高温放置安定性,凍結融解安定性,耐水性の諸性質において極めて優れた水性エマルジョンを開発すること。
【構成】 分子末端にメルカプト基を有すると共に、特定の重合度とけん化度を有するポリビニルアルコール系重合体を分散安定剤とし、アクリル酸エステル系重合体および/またはメタクリル酸エステル系重合体を分散質としてなる水性エマルジョンである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、水性エマルジョンに関し、詳しくは重合安定性,機械的安定性,高温放置安定性,凍結融解安定性および耐水性の諸性質に優れた水性エマルジョンに関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、エチレン性不飽和単量体あるいはジエン系単量体のようなラジカル重合可能な不飽和単量体を乳化(共)重合するにあたっては、従来より、アニオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤を単独であるいは二種以上混合して用いられてきた。このような方法で製造されるエマルジョンは、塗料,接着剤,紙加工剤等の広範な用途において有用ではあるが、界面活性剤を使用することに起因する多くの問題点を有している。すなわち、(1)エマルジョンの放置安定性,機械的安定性,凍結融解安定性や顔料混和性等が不充分であること、(2)エマルジョンの粘度が低いため、接着剤等の用途に供する場合には、何らかの方法で増粘する必要があり、操作が煩雑であること、また(3)その増粘方法として、現在のところ増粘剤の添加や、不飽和酸の共重合によるアルカリ増粘などの方法が採られているが、いずれも経時的に粘度が変化したり、増粘剤の最終用途物性への悪影響があること等、様々な問題を有している。さらには界面活性剤の樹脂表面への移行による接着阻害が、粘接着剤の用途においてトラブルとなることも多い。
【0003】以上のような界面活性剤を用いる従来の乳化重合法の問題点に対して、これまでも(1)共重合性乳化剤を用いる、(2)ソープフリー重合を行う、さらには(3)水溶性高分子を乳化分散安定剤に用いるなど、様々な工夫が提案されている。しかし、上記(1)については、粒子表面に乳化剤が化学的に結びつき、安定性が向上したり、乳化剤の樹脂表面への移行の問題がなくなる場合もあるが、対象とする不飽和単量体との反応性とも関連し、必ずしもすべてのエマルジョンに適用できるわけではない。また適用できる場合でも、粘度の高いエマルジョンは得られず、所望の粘度にするにはやはり後増粘が必要であり、この場合も前述したように増粘物の経時変化という問題を有している。
【0004】上記(2)は、不飽和カルボン酸やその塩、不飽和スルホン酸塩等の極性の不飽和単量体を共重合したり、開始剤として用いる過硫酸塩の開始剤切片の極性基でエマルジョンの安定化を図ろうとするものである。これについては、乳化剤の樹脂表面への移行の問題や乳化剤の存在によるエマルジョン皮膜の耐水性低下の問題に対しては有効となる場合もあるが、エマルジョンの安定性は一般に低下する。また、エマルジョンの粘度も(1)のエマルジョンと同様に低いため、所望の粘度にするには増粘操作が必要である。
【0005】さらに、(3)については、確かに酢酸ビニル系や塩化ビニル系の乳化重合において、水溶性高分子であるポリビニルアルコール(PVA)を乳化分散安定剤として製造したエマルジョンは、機械的安定性,凍結融解安定性,顔料混和性等の分散安定性に優れ、重合処方により所望の粘度のエマルジョンが得られるので、後増粘の必要がなく、PVAは低分子乳化剤に比べて樹脂表面への移行が小さいという特徴がある。そして水溶性高分子のなかでも、PVAは比較的少ない使用量で上述の特徴を有するエマルジョンを与える有用な乳化分散安定剤である。しかしながら、この場合PVAへのグラフト反応が、エマルジョンの安定性に関係していると考えられており、対象はもっぱらラジカル反応性の大きい酢酸ビニルや塩化ビニルに限られていて、ラジカル反応性の小さいアクリル酸エステル単量体やメタクリル酸エステル単量体に対しては、PVAを用いても安定なエマルジョンが得られない。もっとも、PVAと界面活性剤を併用すれば、比較的安定なエマルジョンは得られるが、PVAを単独で使用した場合のエマルジョンに比べると、低分子乳化剤使用による前述したような問題点を有している。
【0006】以上のような理由から、アクリル酸エステル系単量体やメタクリル酸エステル単量体に対して、PVAを単独に用いて安定なエマルジョンを得ることが、当業界では強く望まれているのが現状である。この点に関しては、これまでに幾つかの改良手段が講じられている。例えば乳化重合の処方を工夫するという観点から、特公昭45−15033号公報には、特定のアリル化合物を共存させたり、特開昭57−158252号公報には、開始剤としてモノマー溶解性であると共に部分的に水溶性でもある有機開始剤を用いること等が提案されている。またPVAを改質するという観点からは、例えば特公昭54−34425号公報等には、スルホン化PVAが、また特開昭53−44419号公報等では、疎水基と親水基とを導入したいわゆる変性PVAを用いることが提案されている。
【0007】前者の場合には、安定性も充分なレベルに達していないばかりか、製造条件が極めて狭い範囲に限定されるという欠点がある。一方、後者の変性PVAを用いる場合も、従来の未変性PVAよりは数段安定性の高いエマルジョンが得られるが、まだ充分ではなかった。また、PVAを単独に用いて、より安定なエマルジョンを得るために、例えば特公平3−24481号公報には、メルカプト基を有するPAV系重合体を分散安定剤として用いることが提案されている。この場合、重合安定性という観点からは、確かに実用上充分であり、末変性PVAはもちろんのこと、前記変性PVAよりも数段高い安定性を有している。ところが、近年の水性化指向に伴う水性エマルジョンの用途拡大に伴い、重合安定性と耐水性や接着性等の性能を併せもつものが要求されており、その意味においては、必ずしも満足できるものではないというのが現状であった。
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術における問題点を解消し、重合安定剤と、耐水性や接着性等の性能を併せもつPVAを分散安定剤とする水性エマルジョンを提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的の下に鋭意研究を重ねたところ、分子末端にメルカプト基を有すると共に、特定の重合度とけん化度を有するPVA系重合体を分散安定剤として一定量用い、またアクリル酸エステル系重合体やメタクリル酸エステル系重合体を分散質とした水性エマルジョンが目的に適うものであることを見出した。本発明はかかる知見に基いて完成したものである。すなわち本発明は、分子末端にメルカプト基を有し、かつ重合度200〜700およびけん化度80〜95モル%であるポリビニルアルコール系重合体を分散安定剤とするとともに、アクリル酸エステル系重合体および/またはメタクリル酸エステル系重合体を分散質とし、該分散質100重量部に対して、前記分散安定剤を2〜5.5重量部の割合で用いてなる水性エマルジョンを提供するものである。
【0009】本発明の水性エマルジョンは、上述の如き分散質および分散安定剤を含有するが、ここで分散質は、アクリル酸エステル系重合体および/またはメタクリル酸エステル系重合体からなる。ここでアクリル酸エステル系重合体およびメタクリル酸エステル系重合体を構成する単量体単位としては、様々なものがあるが、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基を有する単量体単位、例えばアクリル酸メチル,アクリル酸エチル,アクリル酸プロピル,アクリル酸ブチル,アクリル酸2−エチルヘキシル,アクリル酸デシル,アクリル酸ドデシル,アクリル酸2−ヒドロキシエチル,メタクリル酸メチル,メタクリル酸エチル,メタクリル酸プロピル,メタクリル酸ブチル,メタクリル酸2−エチルヘキシル,メタクリル酸デシル,メタクリル酸ドデシル,メタクリル酸2−ヒドロキシエチル,アクリル酸ジメチルアミノエチル,メタクリル酸ジメチルアミノエチルおよびこれらの四級化物から誘導された単位、さらにはアクリルアミド,メタクリルアミド,N−メチロールアクリルアミド,N,N−ジメチルアクリルアミド,アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびそのナトリウム塩から誘導された単位などがある。そのうち、特に炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸エステル単位あるいはメタクリル酸エステル単位が好ましい。
【0010】なお、本発明の水性エマルジョンでは、分散質としてアクリル酸エステル系重合体および/またはメタクリル酸エステル系重合体が用いられるが、そのほかのエチレン性不飽和単量体やジエン系不飽和単量体の一種または二種以上を構成単位とする(共)重合体を含有することもできる。このようなエチレン性不飽和単量体としては、エチレン,プロピレン,イソブチレン等のオレフィン、塩化ビニル,フッ化ビニル,塩化ビニリデン,フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン、ギ酸ビニル,酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,バーサチック酸ビニル等のビニルエステル、スチレン,α−メチルスチレン,p−スチレンスルホン酸およびそのナトリウム,カリウム塩等のスチレン系単量体、その他N−ビニルピロリドン等が挙げられる。またジエン系不飽和単量体としては、ブタジエン,イソプレン,クロロプレンが挙げられる。しかし、本発明の水性エマルジョンにおいては、分散質全体の少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも30重量%がアクリル酸エステル系重合体および/またはメタクリル酸エステル系重合体から構成されていることが望ましい。これは、アクリル酸エステル系重合体やメタクリル酸エステル系重合体の含有量が多い程、エマルジョンを造膜して得られる皮膜の耐候性および耐加水分解性が向上するからである。
【0011】一方、本発明の水性エマルジョンにおける分散安定剤は、上述の如く分子末端にメルカプト基を有するPVA系重合体からなる。このPVA系重合体は、分子の主鎖中にメルカプト基を有する重合体でも充分な効果を有するが、この場合PVA系重合体自体の酸化によりジスルフィド結合を形成して不溶化する恐れがあるので、分子の末端、特に片末端にのみメルカプト基が結合したものが、不溶化の心配がなく取扱い上便利である。このような分子の片末端にのみメルカプト基を有するPVA系重合体は、様々な方法により製造することができるが、例えば、チオール酸の存在下にビニルエステル類を主体とするビニルモノマーを重合して得たポリビニルエステル系重合体を常法によりけん化することによって得ることができる。この製造方法において使用するチオール酸は、−COSH基を有する有機チオール酸を包含する。例えばチオール酢酸,チオールプロピオン酸,チオール酪酸,チオール吉草酸等が挙げられるが、なかでもチオール酢酸が分解性もよく最も好ましい。
【0012】またビニルエステル類は、ラジカル重合可能なビニルエステルであれば各種のものが使用できる。例えばギ酸ビニル,酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル,バーサティック酸ビニル,ラウリル酸ビニル,ステアリン酸ビニル,ピバリン酸ビニル,バレリル酸ビニル,カプリン酸ビニル,安息香酸ビニル等が挙げられるが、なかでも酢酸ビニルが最も重合性がよく好ましい。またこれらビニルエステル類と共重合可能なモノマーを共存させて共重合することもできる。例えば、エチレン,プロピレン,イソブチレン,アクリル酸,メタクリル酸,マレイン酸,イタコン酸又はその塩あるいはこれらのアルキルエステル、アクリロニトリル,メタクリロニトリル,アクリルアミド,メタクリルアミド,トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド,エチルビニルエーテル,ブチルビニルエーテル,N−ビニルピロリドン,塩化ビニル,臭化ビニル,フッ化ビニル,塩化ビニリデン,フッ化ビニリデン,テトラフルオロエチレン,ビニルスルホン酸ナトリウム,アリルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0013】チオール酸の存在下の酢酸ビニル等のビニルエステル類を主体とするビニルモノマーの重合は、ラジカル重合開始剤の存在下、塊状重合法,溶液重合法,パール重合法,乳化重合法等いずれの方法でも行なうことができるが、メタノールを溶媒とする溶液重合法が工業的には最も有利である。重合中に存在させるチオール酸の重合系への添加量、添加方法には特に制限はなく、目的とするポリビニルエステル系重合体の物性値によって適宜決定されるべきものである。重合方式としては回分式,半連続式,連続式等公知の方法を採用しうる。
【0014】ラジカル重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル,過酸化ベンゾイル,過酸化カーボネート等公知のラジカル重合開始剤が使用できるが、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤が取扱い易く好ましい。また放射線,電子線等も使用することができる。重合温度は使用する開始剤の種類により適当な温度を採用することが望ましいが、通常30〜90℃の範囲から選ばれる。所定時間重合した後、未重合のビニルエステル類を通常の方法で除去することにより末端にチオール酸エステル基を有するポリビニルエステル系重合体が得られる。
【0015】このようにして得られたポリビニルエステル系重合体は常法によりけん化されるが、通常重合体をアルコール溶液とりわけメタノール溶液として実施するのが有利である。アルコールは無水物のみならず少量の含水系のものも目的に応じて用いられ、また酢酸メチル,酢酸エチル等の有機溶媒を任意に含有せしめてもよい。けん化温度は通常10〜70℃の範囲から選ばれる。けん化触媒としては水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,ナトリウムメチラート,カリウムメチラート等のアルカリ性触媒が好ましく、該触媒の使用量はけん化度の大小および水分量等により適宜決められるが、ビニルエステル単位に対しモル比で0.001以上、好ましくは0.002以上用いることが望ましい。
【0016】一方、アルカリの量が多くなりすぎると残存アルカリをポリマー中より除去することが困難となり、ポリマーが着色する等好ましくない現象が起きるので、モル比で0.2以下にすることが望ましい。なおポリビニルエステル系重合体中にカルボキシル基やそのエステル基等、アルカリ触媒と反応しアルカリを消費する成分が含有されている場合、その分量を加えた量のアルカリ触媒を使用することが望ましい。このけん化反応により末端にチオール酸エステル基を有するポリビニルエステル系重合体の末端のチオール酸エステルと主鎖のビニルエステル結合がけん化され、ポリマー末端はメルカプト基に、主鎖はビニルアルコールになるが、主鎖のビニルエステル単位のけん化度は使用目的に応じて80〜95モル%の範囲で適宜選定すればよい。けん化反応後、析出した重合体は例えばメタノールで洗浄する等公知の方法で精製し、残存アルカリ,酢酸のアルカリ金属塩等の不純物を除去して乾燥することにより通常白色粉末として得ることができる。
【0017】本発明で使用される分子末端にメルカプト基を有するPVA系重合体は、例えば以上のようにして製造されるが、このPVA系重合体の重合度は200〜700の範囲で選定される。ここで重合度が200未満のものでは、エマルジョンの機械的安定性が低下し、逆に700を超えるものでは、重合安定性が低下し、凝固物が増加する。なお、このPVA系重合体の重合度は、該PVA系重合体の30℃における水中での極限粘度数〔η〕から、次式により求めた粘度平均重合度(P)である。
P=(〔η〕×103 /7.51)(1/0.64)また、上記分子末端にメルカプト基を有するPVA系重合体は、けん化度が80〜95モル%である。このけん化度が80モル%未満でも、また95モル%を超えても、重合安定性が低下し、凝固物が増加する。
【0018】本発明の水性エマルジョンは、上述の如く、分子末端にメルカプト基を有するPVA系重合体を分散安定剤とし、アクリル酸エステル系重合体および/またはメタクリル酸エステル系重合体を分散質とするものであるが、ここで分散安定剤の使用量は、上記分散質100重量部に対して、2〜5.5重量部の範囲で選定すべきである。ここで分散安定剤の使用量が2重量部未満では、重合安定性及び分散安定性が低下し、実用上好ましくない。また、5.5重量部を超えると、重合安定性や分散安定性は良好であるが、耐水性や接着性能等が低下し、実用的でない。
【0019】ところで、本発明の水性エマルジョンは、種々の方法で調製することができるが、例えば水,上記分子末端にメルカプト基を有するPVA系重合体からなる分散安定剤および重合開始剤の存在下に、前述したアクリル酸エステル系単量体やメタクリル酸エステル系単量体、更に必要に応じて他の単量体を、一時または連続的に添加して、加熱,攪拌するような通常の乳化重合法によることができる。また、上記の単量体を予め分散安定剤の水溶液と混合乳化したものを、連続的に添加する方法によることもできる。あるいは非水溶媒中での分散重合によることもできる。この際に用いる重合開始剤としては、各種のものが充当できるが、例えばPVA系重合体末端のメルカプト基と、臭素酸カリウム,過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウム,過酸化水素等の水溶性酸化剤によるレドックス系も可能であり、この中でも臭素酸カリウムは、通常の重合条件下では単独ではラジカルを発生せず、PVA系重合体末端のメルカプト基とのレドックス反応によってのみ分解し、ラジカルを発生することから、PVA系重合体とのブロック共重合体を有効に生成し、もって安定化効果を大ならしめるので特に好ましい開始剤である。また重合開始時に臭素酸カリウムを用いたのち、他の酸化剤を追加添加するというように酸化剤の併用も可能である。
【0020】本発明の分子末端にメルカプト基を有するPVA系重合体よりなる分散安定剤を用いて乳化(共)重合を行うに際し、重合系が酸性であることが重要であり、望ましい。これは、ラジカル重合において極めて活性な反応を示すメルカプト基が塩基性下においては、モノマーの二重結合へイオン的に付加,消失する速度が大きく、その為重合効率が著しく低下するためであり、不飽和単量体の種類にもよるが、全ての重合操作をpH6以下、好ましくはpH4以下で実施することが望ましい。本発明における水性エマルジョンの分散質の平均粒径は、特に制限はないが、0.2〜2.0μmが好ましく、より好ましくは0.3〜1.5μmである。さらに、この水性エマルジョンにおける分散質の濃度は、各種の状況により適宜選定すればよいが、30〜70重量%が好ましく、より好ましくは40〜60重量%である。
【0021】なお、本発明の分子末端にメルカプト基を有するPVA系重合体よりなる分散安定剤は、前述のように単独で用いるのが望ましいが、必要に応じて従来公知のアニオン性,ノニオン性あるいはカチオン性の界面活性剤を適宜併用することもできる。
【0022】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによってなんら制限されるものではない。なお、実施例中、「部」および「%」はいずれも重量基準を意味する。
参考例(分子末端にメルカプト基を有するPVA系重合体の合成)
特開昭59−187003号公報に記載された方法によって、以下に示す分子片末端にメルカプト基を有するPVA系重合体を合成した。
PVA No.1:重合度 230, けん化度 88.0モル%PVA No.2:重合度 500, けん化度 94.0モル%PVA No.3:重合度 350, けん化度 84.0モル%
【0023】実施例1還流冷却器,滴下ロート,温度計,窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、窒素置換後、上記参考例で得られたPVA No.1(重合度230,けん化度88.0モル%)の5.7%水溶液 210.5gを仕込み、希硫酸でpHを3.5に調整した。次いで140rpmで攪拌しながら、スチレン120gとアクリル酸n−ブチル120gを仕込み60℃に昇温したのち、5%過硫酸アンモニウム水溶液10ccを添加し、重合を開始した。5時間で重合率99.7%となり、その後冷却した。生成したエマルジョンをpH調整後、100メッシュの金網でろ過したが、凝固物は全く認められなかった。得られたエマルジョンの固形分濃度は49.4%、粘度は1600mPa・sec(ミリパスカル・秒)であった。このエマルジョンについて以下の各項目についてそれぞれ評価した。結果を第1表に示す。
【0024】(1)機械的安定性マロン式機械的安定性測定装置を用いて、試料50g,荷重20kg,10分間の条件で試験したのち、被験液を80メッシュの金網でろ過し、金網上の凝固物の量を測定し、次式により凝固率を求めた。
凝固率(%)=〔凝固物重量(乾燥分)/(50×エマルジョンの固形分濃度)〕×100(2)高温放置安定性エマルジョン50gを温度60℃の恒温槽に5日間放置後、3時間放冷し、外観の状態を観察し、下記のように優,良,可,不可で評価した。
優:外観,粘度変化のないもの良:わずかに増粘傾向のもの可:流動性はあるが、増粘傾向が大きいもの不可:凝固物が生成するもの(3)凍結融解安定性エマルジョン50gを−15℃で16時間保ち、凍結させたのち、30℃で1時間融解後、外観の状態を観察し、上記(2)と同様に優,良,可,不可で評価した。評価規準の内容は(2)と同様である。
(4)フィルムの吸水率エマルジョンをテフロンシート上に流延し、50℃で乾燥させてフィルム(厚み約500μm)を作製した。そのフィルムを20℃の水中に7日間浸漬した後の吸水率を次式のように求めた。
吸水率(%)=(Ww−Wd)/Wd×100Ww:浸漬後のフィルム重量(湿潤状態)を示す。
Wd:浸漬後のフィルム重量(絶乾状態)を示す。
【0025】実施例2還流冷却器,滴下ロート,温度計,窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、窒素置換後、上記参考例で得られたPVA No.2(重合度500,けん化度94.0モル%)の5.7%水溶液 189.5gを仕込み、希硫酸でpHを3.0に調整した。次いで140rpmで攪拌しながら、スチレン48gおよびアクリル酸n−ブチル48gを仕込み60℃に昇温した後、2.0%臭素酸カリウム10ccを添加し、重合を開始した。1時間で重合率85%となったところで、スチレン72gおよびアクリル酸n−ブチル72gを2時間で逐次添加し、その後、5%過硫酸アンモニウム5gを添加して重合を完結させた。重合率は99.9%となり、生成したエマルジョンをpH調整後、100メッシュの金網でろ過したが、凝固物は全く認められなかった。得られたエマルジョンの固形分濃度は50.2%、粘度は1200mPa・secであった。該エマルジョンについて、実施例1と同様に上記諸物質を測定し、その結果を第1表に示した。
【0026】比較例1実施例2において、PVA No.2の5.7%水溶液を 252.6g使用したこと以外は、実施例2と同様の方法でエマルジョンを得た。得られたエマルジョンは、固形分濃度47.5%,粘度1850mPa・secであり、pH調整後、100メッシュの金網でろ過したが凝固物は全く認められなかった。該エマルジョンについて、実施例1と同様に上記諸物質を測定し、その結果を第1表に示した。
【0027】比較例2実施例2において、PVA No.2の1.5%水溶液を240g使用したこと以外は、実施例2と同様の方法でエマルジョンを得た。得られたエマルジョンは、固形分濃度42.0%,粘度320mPa・secであり、pH調整後、100メッシュの金網でろ過したところ、13.5%(乾燥重量換算)の凝固物が認められた。該エマルジョンについて、実施例1と同様に上記諸物質を測定し、その結果を第1表に示した。
【0028】比較例3実施例1において、PVA No.1の代わりに無変性PVA((株)クラレ製,商品名:PVA205,重合度500,けん化度88.2モル%)の5.7%水溶液を 210.5g使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で重合したが、30分後、重合率15%の時点で数mm大の粗粒が発生し、重合の継続が困難となった。
【0029】実施例3実施例1において、PVA No.1の代わりにPVA No.3(重合度350,けん化度84.0モル%)の5.7%水溶液を 210.5g使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でエマルジョンを得た。得られたエマルジョンは、固形分濃度49.7%,粘度2200mPa・secであり、pH調整後、100メッシュの金網でろ過したところ、凝固物は全く認められなかった。該エマルジョンについて、実施例1と同様に上記諸物質を測定し、その結果を第1表に示した。
【0030】実施例4実施例2において、PVA No.2の代わりにPVA No.1(重合度230,けん化度88.0モル%)の2.0%水溶液を240g使用したこと以外は、実施例2と同様の方法でエマルジョンを得た。得られたエマルジョンは、固形分濃度48.0%,粘度180mPa・secであり、pH調整後、100メッシュの金網でろ過したところ、0.1%(乾燥重量換算)の凝固物が認められた。該エマルジョンについて、実施例1と同様に上記諸物質を測定し、その結果を第1表に示した。
【0031】実施例5実施例1において、スチレン120gとアクリル酸n−ブチル120gの代わりにアクリル酸2−エチルヘキシル240gを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でエマルジョンを得た。得られたエマルジョンは、固形分濃度48.0%,粘度1800mPa・secであり、pH調整後、100メッシュの金網でろ過したところ、凝固物は認められなかった。該エマルジョンについて、実施例1と同様に上記諸物質を測定し、その結果を第1表に示した。
【0032】比較例4実施例1において、PVA No.1の代わりにアリルスルホン酸ナトリウム変性PVA(SAS化PVA)(重合度300,けん化度90.2%,アリルスルホン酸ナトリウム3モル%変性)の5.7%水溶液を 210.5gを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法でエマルジョンを得た。得られたエマルジョンは、固形分濃度39.9%,粘度300mPa・secであり、pH調整後、100メッシュの金網でろ過したところ、17.2%(乾燥重量換算)の凝固物が認められた。該エマルジョンについて、実施例1と同様に上記諸物質を測定し、その結果を第1表に示した。
【0033】比較例5還流冷却器,滴下ロート,温度計,窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水120g,スチレン24g,アクリル酸n−ブチル24g,アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩(三洋化成(株)製,商品名:サンデットBL)0.6gおよびポリオキシエチレン40モル付加ノニルフェニルエーテル(三洋化成(株)製,商品名:ノニポール400)を6.0g仕込み、140rpmで攪拌しながら60℃に昇温した。次いで5%過硫酸アンモニウム水溶液10ccを添加し重合を開始後、イオン交換水120g,スチレン96gおよびアクリル酸n−ブチル96gに、サンデットBLを0.6gとノニポール400を6.0g添加して予め乳化したものを3時間にわたって逐次添加した。5時間後、重合率は99.5%となり、その後冷却した。エマルジョンをpH調整後、100メッシュの金網でろ過したところ、0.2%(乾燥重量換算)の凝固物が認められた。得られたエマルジョンは、固形分濃度49.8%,粘度30mPa・secであった。該エマルジョンについて、実施例1と同様に上記諸物質を測定し、その結果を第1表に示した。
【0034】
【表1】


【0035】
【表2】


【0036】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明の水性エマルジョンは、重合安定性に優れ、かつ機械的安定性,高温放置安定性,凍結融解安定性,耐水性の諸性質において極めて優れたものである。したがって、本発明のエマルジョンはそのまま、あるいは従来公知の添加剤を配合して、各種の用途に利用される。例えば塗料,接着剤,繊維加工剤,紙加工剤,無機物バインダー,セメント混和剤,モルタルプライマー等に広範にかつ有効に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 分子末端にメルカプト基を有し、かつ重合度200〜700およびけん化度80〜95モル%であるポリビニルアルコール系重合体を分散安定剤とするとともに、アクリル酸エステル系重合体および/またはメタクリル酸エステル系重合体を分散質とし、該分散質100重量部に対して、前記分散安定剤を2〜5.5重量部の割合で用いてなる水性エマルジョン。

【公開番号】特開平6−128443
【公開日】平成6年(1994)5月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−282574
【出願日】平成4年(1992)10月21日
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)