説明

水性コーティング剤及びコーティング膜

【課題】水性コーティング剤及びコーティング膜において、亜鉛系めっき鋼等の金属の防錆性を向上させることができ、優れた成膜性を有し、低コストで製造することができ、環境にも優しいこと。
【解決手段】水性コーティング剤及びコーティング膜の特性を、成膜性・防錆性・密着性・硬さ・耐水性・冷熱サイクルの6項目について評価した。評価する供試体は、基材として長さ150mm×幅70mm×厚さ0.8mmの亜鉛めっき/3価クロメート鋼板を用いて、これに水性コーティング剤をエアスプレー法で塗装膜厚30μmになるように塗装し、140℃×5分間乾燥して作製した。コロイダルシリカとSBRエマルジョンとを含有し、固形分重量比が10/90<コロイダルシリカ/SBRエマルジョン<70/30の範囲内である水性コーティング剤は、6項目の全てについて○以上の評価であった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛系めっき鋼等の金属表面の耐食性(防錆性)を向上させることができる水性コーティング剤及びコーティング膜に関し、特にコロイダルシリカとスチレン−ブタジエン共重合体エマルジョンとを含有する水性コーティング剤及びコーティング膜に関するものである。なお、「亜鉛系めっき鋼」とは、亜鉛めっき鋼及び亜鉛合金めっき鋼をいう。
【0002】
ここで、「エマルジョン(emulsion,エマルションともいう。)」とは、乳濁液ともいい、液体中に液体粒子がコロイド粒子あるいはそれより粗大な粒子として乳状をなすもの(分散系)、が本来の意味であるが(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」152頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)、本明細書及び特許請求の範囲、要約書においては、より広い意味で一般的に用いられている「液体中に固体または液体の粒子が分散しているもの」として、「エマルジョン」という用語を用いるものとする。
【背景技術】
【0003】
亜鉛の鉄に対する犠牲防食作用を利用した塗料はジンクリッチ塗料として広く利用されているが、有機溶剤を用いたものが主であり、揮発性有機化合物(VOC)として有機溶剤を含有するため環境に悪影響を与えるという問題を有している。これに対して、近年、有機溶剤を用いない水性ジンクリッチ塗料の開発が行なわれているが、亜鉛と水の混合による水素ガスの発生という問題や、防錆性能に劣るという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1においては、水性塗料液・亜鉛末・水性アルミニウム顔料を含有する腐食防止被覆組成物の発明について開示している。これによって、特に亜鉛合金めっき鋼に対して防錆性に優れた塗膜を形成することができる腐食防止被覆組成物が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−53769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術においては、依然として防錆性能が不足しており、しかも亜鉛末及び水性アルミニウム顔料を大量に使用するため、製造コストが高くなってしまうという問題点があった。また、腐食防止被覆組成物を基材に塗布して得られる塗膜は、大きな温度変化が繰り返される場合には、基材の温度変化に起因する膨張収縮に追従して膨張収縮する必要があるが、上記特許文献1に記載された技術においては、かかる伸縮性を塗膜に付与することができないという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明はかかる課題を解決すべくなされたものであって、亜鉛系めっき鋼等の金属の防錆性を向上させることができ、優れた成膜性を有するとともに、低コストで製造することができ、環境にも優しい水性コーティング剤の提供を目的とするものである。また、本発明は、基材の温度変化に起因する膨張収縮に追従できる伸縮性を塗膜に付与することができる水性コーティング剤、及びかかる伸縮性を有するコーティング膜の提供をも目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係る水性コーティング剤は、コロイダルシリカとスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)エマルジョンとを含有する水性コーティング剤であって、前記コロイダルシリカと前記SBRエマルジョンの固形分重量比が、10/90<コロイダルシリカ/SBRエマルジョン<70/30の範囲内、より好ましくは20/80≦コロイダルシリカ/SBRエマルジョン≦60/40の範囲内であり、固形分を除く溶媒が実質的に水のみであるものである。
【0009】
ここで、「コロイダルシリカ」としては、ゾル法によって合成されたシリカ粒子を分散質とするものであって、シリカ粒子の平均一次粒子径が10nm〜50nmであるものが好ましく、表面をカチオン性に改質したシリカ粒子を分散質とするカチオン性コロイダルシリカであることが、安定性の観点から好ましい。なお、平均一次粒子径とは、一次粒子が判別できる程度まで分散された粒子の電子顕微鏡観察によって、一定面積内に存在する100個の粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子の一次粒子径として求めたものの平均をいう。
【0010】
このようなコロイダルシリカとしては、日本化学工業(株)製のシリカドール(登録商標)、(株)ADEKA製のアデライト(登録商標)AT、触媒化成工業(株)製のカタロイド(登録商標)、日産化学工業(株)製のスノーテックス(登録商標)、等を挙げることができる。
【0011】
また、「溶媒が実質的に水のみである」とは、水性コーティング剤の溶媒としては水のみを用いて、水性コーティング剤の溶媒として積極的に有機溶剤を使用しないことを意味しており、必ずしも水性コーティング剤中に全く有機溶剤を含まないことを意味するものではない。例えば、添加剤に内部溶剤として有機溶剤が含まれる場合には、必然的に水性コーティング剤中にも少量の有機溶剤が含まれ、また表面張力や蒸発速度を制御するために少量の有機溶剤を添加する場合もあるが、それらの場合をも排除する意味ではない。すなわち、溶媒以外の用途で有機溶剤が含まれる場合もあるが、溶媒として積極的に使用されるのは水のみであるという意味である。
【0012】
請求項2の発明に係る水性コーティング剤は、請求項1の構成において、更にシランカップリング剤を、前記コロイダルシリカと前記SBRエマルジョンの合計量固形分100重量部に対して、0.1重量部〜5重量部の範囲内で含有するものである。ここで、「シランカップリング剤」は、1つの分子中に有機官能基と加水分解性基の両者を併せ持ち、有機合成樹脂等と無機物表面等とを強固に結びつける機能を有する有機ケイ素化合物である。
【0013】
請求項3の発明に係る水性コーティング剤は、請求項1または請求項2の構成において、更に無機フィラーを、前記コロイダルシリカと前記SBRエマルジョンの合計量固形分100重量部に対して、10重量部〜50重量部の範囲内で含有するものである。
【0014】
請求項4の発明に係るコーティング膜は、コロイダルシリカとスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)とを含有するコーティング膜であって、前記コロイダルシリカと前記SBRとの間にシランカップリング剤が介在して、該シランカップリング剤が前記コーティング膜に伸縮性を付与しているものである。
【0015】
請求項5の発明に係るコーティング膜は、請求項4の構成において、前記シランカップリング剤は、その末端がアミノ基またはエポキシ基であるものである。
【0016】
このようなシランカップリング剤としては、例えば、信越化学(株)製のKBM−403(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、KBM−603(N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、KBE−603(N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、KBM−602(N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン)等や、東レ・ダウコーニング(株)製のZ−6610(3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、Z−6011(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、Z−6094(3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン)、Z−6883(3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン)、Z−6040(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、Z−6042(3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン)等がある。
【0017】
請求項6の発明に係るコーティング膜は、請求項4または請求項5の構成において、前記コーティング膜は、亜鉛系めっき鋼の表面に形成されたものである。ここで、「亜鉛系めっき鋼」とは、上述したように、亜鉛めっき鋼及び亜鉛合金めっき鋼をいう。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明においては、水性コーティング剤がコロイダルシリカとSBRエマルジョンとを含有することから、亜鉛等の金属との密着性に優れるコロイダルシリカによって亜鉛系めっき鋼等の金属の防錆性を向上させることができ、コロイダルシリカとの相溶性が良く柔軟な硬化物を形成するSBRエマルジョンによって良好な成膜性を得ることができる。そして、溶媒が実質的に水のみであることから、揮発性有機化合物(VOC)を発生させる恐れも殆どなく、環境に優しい水性コーティング剤となる。
【0019】
ここで、コロイダルシリカとSBRエマルジョンの固形分重量比が10/90以下であると(SBRエマルジョンの比率が高過ぎると)、形成される塗膜の防錆性が低下するとともに塗膜の硬さも低下し、固形分重量比が70/30以上であると(コロイダルシリカの比率が高過ぎると)、形成される塗膜の表面にクラックが発生して成膜性が低下する。したがって、コロイダルシリカとSBRエマルジョンの固形分重量比は、10/90<コロイダルシリカ/SBRエマルジョン<70/30の範囲内であることが好ましい。
【0020】
更に、コロイダルシリカとSBRエマルジョンの固形分重量比が20/80≦コロイダルシリカ/SBRエマルジョン≦60/40の範囲内であると、より確実に優れた防錆性と成膜性とを兼ね備えた水性コーティング剤が得られるため、より好ましい。
【0021】
このようにして、亜鉛系めっき鋼等の金属の防錆性を向上させることができ、優れた成膜性を有するとともに、低コストで製造することができ、環境にも優しい水性コーティング剤となる。
【0022】
請求項2に係る発明においては、水性コーティング剤が、コロイダルシリカとSBRエマルジョンの合計量固形分100重量部に対して、更にシランカップリング剤を0.1重量部〜5重量部の範囲内で含有することから、請求項1に係る発明の効果に加えて、シランカップリング剤の架橋による補強効果及び伸縮性付与の効果によって、急激な温度変化の繰り返しに対する塗膜の強度と金属への密着性がより高くなる。したがって、より温度変化に強い塗膜を形成することができる水性コーティング剤となる。
【0023】
すなわち、コロイダルシリカ粒子とSBRエマルジョン中のSBR分子との間にシランカップリング剤が介在することによって、コロイダルシリカ粒子とSBR分子とから形成される塗膜が、急激な温度変化の繰り返しに起因する金属の膨張収縮に追従して伸縮するのを可能にする。このようにして、亜鉛系めっき鋼等の金属の防錆性を向上させることができ、優れた成膜性を有するとともに、低コストで製造することができ、環境にも優しく、かつ、基材の温度変化に起因する膨張収縮に追従できる伸縮性を塗膜に付与することができる水性コーティング剤となる。
【0024】
請求項3に係る発明においては、水性コーティング剤が、コロイダルシリカとSBRエマルジョンの合計量固形分100重量部に対して、更に無機フィラーを10重量部〜50重量部の範囲内で含有することから、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加えて、無機フィラーの補強効果によって、急激な温度変化の繰り返しに対する塗膜の強度と金属への密着性がより高くなる。したがって、より温度変化に強い塗膜を形成することができる水性コーティング剤となる。
【0025】
請求項4に係る発明においては、コロイダルシリカ粒子の水酸(−OH)基が金属表面と結合し、更にシランカップリング剤分子を介してSBR分子が結合してコーティング膜を形成することによって、急激な温度変化で金属が伸縮したときに、金属表面とともに移動するシリカ粒子とSBR分子との間にシランカップリング剤分子があることから、シランカップリング剤分子の伸縮性によって、コーティング膜がひび割れる事態が防止される。このように、シランカップリング剤分子がコーティング膜に伸縮性を付与していることから、コーティング膜が、急激な温度変化の繰り返しに起因する金属の膨張収縮に追従して伸縮するのを可能にする。
【0026】
このようにして、亜鉛系めっき鋼等の金属の防錆性を向上させることができ、優れた成膜性を有するとともに、低コストで製造することができ、環境にも優しく、かつ、基材の温度変化に起因する膨張収縮に追従できる伸縮性を有するコーティング膜となる。
【0027】
請求項5に係る発明においては、シランカップリング剤の末端がアミノ基またはエポキシ基であることから、請求項4に係る発明の効果に加えて、より低コストで形成することができるコーティング膜となる。
【0028】
請求項6に係る発明においては、コーティング膜が亜鉛系めっき鋼の表面に形成されたことから、コロイダルシリカ粒子とSBR分子との間にシランカップリング剤分子が介在するコーティング膜は、亜鉛系めっき鋼の表面との密着性に優れるため、請求項4または請求項5に係る発明の効果に加えて、より成膜性と密着性に優れたコーティング膜となる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態に係る水性コーティング剤及びコーティング膜について説明する。本実施の形態に係る水性コーティング剤は、コロイダルシリカとSBRエマルジョンとを含有し、または更にシランカップリング剤及び/または無機フィラーを含有し、溶媒が実質的に水のみであり、コロイダルシリカとSBRエマルジョンの固形分重量比が、10/90<コロイダルシリカ/SBRエマルジョン<70/30の範囲内である。
【0030】
本実施の形態においては、コロイダルシリカとして日本化学工業(株)製のシリカドール40(固形分40%)を、SBRエマルジョンとして旭化成ケミカルズ(株)製のA7032(固形分50%)を用いた。(なお、「シリカドール」は、日本化学工業(株)の登録商標である。)コロイダルシリカとSBRエマルジョン(及びこれらに含有される溶媒としての水)のみからなり、固形分重量比が10/90<コロイダルシリカ/SBRエマルジョン<70/30の範囲内である水性コーティング剤を、実施例1〜実施例5として作製した。
【0031】
ここで、コロイダルシリカとしてのシリカドール40が固形分40%であり、SBRエマルジョンとしてのA7032が固形分50%であるため、「コロイダルシリカ/SBRエマルジョン」の固形分重量比を所定の値とするためには、溶媒としての水分を含むシリカドール40を、溶媒としての水分を含むA7032に対して、所定の固形分重量比よりも多めに配合する必要がある。シリカドール40とA7032の配合量と、それによって得られる固形分重量比の関係を、表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
また、実施例2においては、コロイダルシリカとSBRエマルジョンの固形分重量比を50/50に固定し、SBRエマルジョンとして、旭化成ケミカルズ(株)製のA7032のみでなく、旭化成ケミカルズ(株)製のA2245、旭化成ケミカルズ(株)製のL7360の、3種類のSBRエマルジョンをそれぞれ用いた組み合わせについて水性コーティング剤を作製して、試験を行なった。3種類のSBRエマルジョンの物性値は、固形分がいずれも50%、TgがA7032:−16℃、A2245:−10℃、L7360:−2℃で、平均粒子径がA7032:220nm、A2245:130nm、L7360:200nmである。
【0034】
更に、コロイダルシリカとSBRエマルジョンの固形分重量比を50/50(100重量部)に固定し、この100重量部に対して、シランカップリング剤を0.1重量部〜5重量部の範囲内で添加した水性コーティング剤を、実施例6〜実施例17として作製した。また、シランカップリング剤の配合比を1重量部に固定し、これに無機フィラーを10重量部〜50重量部の範囲内で添加した水性コーティング剤を、実施例18〜実施例27として作製した。
【0035】
ここで、シランカップリング剤としては、信越化学(株)製のKBM−403(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、KBM−603(N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、KBE−603(N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、KBM−602(N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン)の4種類を使用した。また、無機フィラーとしては、コープケミカル(株)製の合成マイカ(合成雲母)MK−100及びソブエクレー(株)製のタルクCSの2種類を使用した。実施例1〜実施例27の各配合を、表2の上段に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
これに対して、特性を比較するために、コロイダルシリカとSBRエマルジョン(及びこれらに含有される溶媒としての水)のみからなり、固形分重量比が10/90以下または70/30以上である水性コーティング剤を、比較例1〜比較例6として作製した。比較例1〜比較例6の各配合を、表3の上段に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
これらの実施例1〜実施例27及び比較例1〜比較例6の水性コーティング剤及びコーティング膜の特性を、成膜性・防錆性・密着性・硬さ・耐水性・冷熱サイクルの6項目について評価した。評価する供試体は、基材として長さ150mm×幅70mm×厚さ0.8mmの亜鉛めっき/3価クロメート鋼板を用いて、これに水性コーティング剤をエアスプレー法で塗装膜厚30μmになるように塗装し、140℃×5分間乾燥して作製した。
【0040】
成膜性については、このようにして作製した供試体の塗装表面を目視観察して、クラックが多いものを×、少しクラックがあるものを△、クラックが全くないものを○として評価した。また、防錆性については、JIS−Z2371「塩水噴霧試験方法」に準じて、供試体について塩水噴霧試験(SST)を2000時間行なった後の塗膜表面を目視観察して、表面の50%以上に赤錆が見られるものを×、表面の50%未満に赤錆が見られるものを△、赤錆の発生が全くないものを○として評価した。
【0041】
更に、密着性については、JIS−K5400に準じて、供試体の塗膜について碁盤目テープテスト(1mm幅、100マス)を行なって、1マスでも剥がれたものは×、剥がれのなかったものを○として評価した。また、塗膜の硬さについては、JIS−K5600に準じて鉛筆硬度を測定して、2B以下のものを×、B以上のものを○として評価した。更に、耐水性については、40℃の温水に240時間浸漬した後に碁盤目テープテスト(1mm幅、100マス)を行なって、1マスでも剥がれたものは×、剥がれのなかったものを○として評価した。
【0042】
また、冷熱サイクルとしては、供試体を−20℃に1時間置いた後に80℃に1時間置くという2時間のサイクルを100サイクル実施した後、碁盤目テープテスト(1mm幅、100マス)を行なって、1マスでも剥がれたものは×、剥がれのなかったものを○とした。更に、鉛筆硬度についても測定して、1マスでも剥がれて鉛筆硬度が2ランク以上低下したものを×、剥がれがなく鉛筆硬度が1ランク低下したものを○、剥がれがなくしかも鉛筆硬度が低下しなかったものを◎として評価した。以上の6項目についての評価結果を、表2の下段及び表3の下段に示す。
【0043】
表2の下段に示されるように、実施例1〜実施例5の水性コーティング剤及びコーティング膜については、以上の6項目の全てにおいて○の評価であり、また実施例6〜実施例27の水性コーティング剤及びコーティング膜については、6項目のうち成膜性・防錆性・密着性・硬さ・耐水性の5項目は○の評価で、冷熱サイクルにおいては◎の評価であった。
【0044】
したがって、コロイダルシリカとSBRエマルジョンとを含有し、固形分重量比が10/90<コロイダルシリカ/SBRエマルジョン<70/30の範囲内である水性コーティング剤及びコーティング膜は、成膜性・防錆性・密着性・硬さ・耐水性・冷熱サイクルの全てについて○以上の評価であり、更にシランカップリング剤(更には無機フィラー)を含有する水性コーティング剤及びコーティング膜は、冷熱サイクルが◎の評価である。
【0045】
これに対して、表3の下段に示されるように、比較例1〜比較例3の水性コーティング剤については、成膜性の評価が×であり、クラックが多いため以下の評価試験を実施することができなかった。また、比較例4の水性コーティング剤については、成膜性の評価が△であり、防錆性の評価が×であった。このように、コロイダルシリカとSBRエマルジョンの固形分重量比が70/30以上である水性コーティング剤については、コロイダルシリカの配合率が大きすぎるため成膜性に劣るという結果が出た。
【0046】
更に、表3の下段に示されるように、比較例5及び比較例6の水性コーティング剤については、成膜性の評価は○であったが、防錆性の評価が△及び×であり、塗膜の硬さの評価も×であった。このように、コロイダルシリカとSBRエマルジョンの固形分重量比が10/90以下である水性コーティング剤については、コロイダルシリカの配合率が小さすぎるため、防錆性及び塗膜硬度に劣るという結果が出た。
【0047】
以上説明したように、コロイダルシリカとSBRエマルジョンとを含有し、固形分重量比が10/90<コロイダルシリカ/SBRエマルジョン<70/30の範囲内である水性コーティング剤、特に、固形分重量比が20/80≦コロイダルシリカ/SBRエマルジョン≦60/40の範囲内である水性コーティング剤は、成膜性及び防錆性が非常に優れており、更にこれにシランカップリング剤(更には無機フィラー)を添加した水性コーティング剤を塗布してなるコーティング膜は、冷熱サイクルについても極めて優れた特性を示すことが明らかになった。
【0048】
すなわち、水性コーティング剤にシランカップリング剤を配することで、冷熱サイクルの評価結果から明らかなように、基材の温度変化に追従することができるコーティング膜となっている。これに対して、シランカップリング剤を添加しない水性コーティング剤を塗布してなるコーティング膜は、鉛筆硬度の低下が見られることから、膜にダメージが残っており、伸縮性が不十分と考えられる。したがって、シランカップリング剤の分子がコロイダルシリカ粒子とSBR粒子との間に介在することによって、コーティング膜の伸縮性が向上し、基材の膨張収縮に追従して膨張収縮することが可能になったものと考えられる。
【0049】
また、これらの水性コーティング剤は、溶媒として実質的に水のみを含むため、VOCを含有せず、環境にも極めて優しいものとなる。そして、金属粉等を全く使用せず、配合が簡単であるため、低コストで製造することができる。
【0050】
このように、本実施の形態に係る水性コーティング剤は、亜鉛系めっき鋼等の金属の防錆性を向上させることができ、優れた成膜性を有するとともに、低コストで製造することができ、環境にも優しいものである。更に、本実施の形態に係る水性コーティング剤のうち実施例6〜実施例27の水性コーティング剤及びコーティング膜は、基材の温度変化に起因する膨張収縮に追従できる伸縮性を塗膜に付与することができる水性コーティング剤、及びかかる伸縮性を有するコーティング膜である。
【0051】
本実施の形態においては、コロイダルシリカとして日本化学工業(株)製のシリカドール40を、SBRエマルジョンとして旭化成ケミカルズ(株)製のA7032、A2245またはL7360を用いた場合について説明したが、コロイダルシリカ及びSBRエマルジョンとしては、その他の種類のものを用いることもできる。
【0052】
また、本実施の形態においては、本発明に係る水性コーティング剤及びコーティング膜を、亜鉛系金属製品としての亜鉛めっき/3価クロメート鋼板に適用した場合について説明したが、本発明に係る水性コーティング剤及びコーティング膜は、その他の亜鉛系金属製品や、アルミニウム系金属製品、マグネシウム系金属製品等に対する防錆目的での使用も可能である。
【0053】
更に、本実施の形態の変形例に係る水性コーティング剤として、本実施の形態に係る水性コーティング剤に、少量の金属顔料、例えば亜鉛フレークやアルミニウムフレークを添加したものとすることもできる。これによって、本実施の形態の変形例に係る水性コーティング剤を塗装してなる塗膜に、防錆性とともに導電性をも持たせることができるという作用効果が得られる。
【0054】
本発明を実施するに際しては、水性コーティング剤のその他の構成、成分、材料、配合、形状、大きさ、製造方法等についても、コーティング膜のその他の構成、成分、材料、配合、形状、大きさ、製造方法等についても、本実施の形態に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態で上げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更しても実施を否定するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカとスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)エマルジョンとを含有する水性コーティング剤であって、
前記コロイダルシリカと前記SBRエマルジョンの固形分重量比が、10/90<コロイダルシリカ/SBRエマルジョン<70/30の範囲内であり、固形分を除く溶媒が実質的に水のみであることを特徴とする水性コーティング剤。
【請求項2】
更にシランカップリング剤を、前記コロイダルシリカと前記SBRエマルジョンの合計量固形分100重量部に対して、0.1重量部〜5重量部の範囲内で含有することを特徴とする請求項1に記載の水性コーティング剤。
【請求項3】
更に無機フィラーを、前記コロイダルシリカと前記SBRエマルジョンの合計量固形分100重量部に対して、10重量部〜50重量部の範囲内で含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水性コーティング剤。
【請求項4】
コロイダルシリカとスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)とを含有するコーティング膜であって、
前記コロイダルシリカと前記SBRとの間にシランカップリング剤が介在して、該シランカップリング剤が前記コーティング膜に伸縮性を付与していることを特徴とするコーティング膜。
【請求項5】
前記シランカップリング剤は、その末端がアミノ基またはエポキシ基であることを特徴とする請求項4に記載のコーティング膜。
【請求項6】
前記コーティング膜は、亜鉛系めっき鋼の表面に形成されたことを特徴とする請求項4または請求項5に記載のコーティング膜。

【公開番号】特開2010−132854(P2010−132854A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112490(P2009−112490)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】