説明

水性コーティング剤

【課題】本発明が解決しようとする課題は、例えば夏場等の比較的高温環境下に保存した場合であっても、ゲル化等を引き起こさないレベルの優れた保存安定性と、優れた防汚性とを両立した水性コーティング剤を提供することである。
【解決手段】本発明は、水系媒体と、前記水系媒体に分散した特定のカチオン性ポリウレタン樹脂(A)と、金属アルコキシドまたはその縮合物(B)と、酸触媒(C)とを含有してなり、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)と前記金属アルコキシドまたはその縮合物(B)の加水分解縮合物(B1)との質量割合[(A)/(B1)]が70/30を超えて95/5以下の範囲であることを特徴とする水性コーティング剤に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築外装の塗装をはじめとする様々な用途に使用可能な水性コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング剤には、各種基材表面に意匠性を付与する役割のほかに、基材表面を外的要因から保護する役割が求められている。特に近年は、汚れの付着を防止でき、かつ付着した場合であっても容易に除去可能な被膜を形成可能なコーティング剤等の開発が進められている。
【0003】
前記防汚性に優れた被膜を形成可能なコーティング剤としては、例えば加水分解性シリル基・酸基併有重合体の存在下に、あるいは加水分解性シリル基および酸基と、さらには、これらの両基以外の官能基をも併有する重合体の存在下に、珪素原子に結合した加水分解性基を有する特定の珪素化合物の加水分解縮合反応を行なって得られる複合樹脂を、塩基性化合物で、部分中和ないしは完全中和したのち、水に分散ないしは溶解して得られる水性塗料組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかし、前記水性塗料組成物では、汚れを除去した後も痕跡が残るなどの建築外装、内装用途で使用可能なレベルの耐汚染性が発現しないという問題があった。
【0005】
ところで、前記したようなコーティング剤は、一般に、常温環境下では非常に優れた安定性を有することが多いため、秋から春にかけての温度環境下であれば、比較的長期間、安定して保存することが可能な場合が多い。
しかし、前記コーティング剤によっては、夏場等の比較的高温環境下で保存した場合に、バインダー樹脂等のゲル化や凝集を引き起こすものがあり、これらを長期間安定して保存する場合には、所定の温度環境に調整された倉庫内に保存する等の対策が必要である。
【0006】
ここで、前記コーティング剤としては、例えば、側鎖に特定構造のカチオン性基を有するポリウレタン樹脂と、金属アルコキシド等と、酸触媒とを含有する水性塗料組成物が、非常にすぐれた耐水性等を有する塗膜を形成可能なものとして知られており(例えば、特許文献2参照。)、かかる水性塗料組成物も、常温環境下であれば比較的長期間安定して保存することが可能である。
【0007】
しかし、前記水性塗料組成物は、比較的高温の環境下で保存した場合に、金属アルコキシドに起因した架橋反応を著しく進行させ、その結果、一部ゲル化等を引き起こす場合があった。
【0008】
【特許文献1】特開平10−036515号公報
【特許文献2】特開2007−197683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、例えば夏場等の比較的高温環境下に保存した場合であっても、ゲル化等を引き起こさないレベルの優れた保存安定性と、優れた防汚性とを両立した水性コーティング剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を解決すべく検討を進めた結果、金属アルコキド等の使用量が特定の範囲内である場合に優れた防汚性とともに非常に優れた保存安定性を両立できることを見いだした。
【0011】
即ち、本発明は、水系媒体と、前記水系媒体に分散した下記一般式[I]で示される構造単位を含有するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)と、金属アルコキシドまたはその縮合物(B)と、酸触媒(C)とを含有してなり、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)と前記金属アルコキシドまたはその縮合物(B)の加水分解縮合物(B1)との質量割合[(A)/(B1)]が70/30を超えて95/5以下の範囲であることを特徴とする水性コーティング剤に関するものである。
【0012】
【化1】

【0013】
〔式(I)中、Rは脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキレン鎖、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン鎖であり、R及びRは、互いに独立して脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキル基であり、Rは水素原子又は4級化反応により導入された4級化剤の残基であり、Xはアニオン性の対イオンである。〕
【発明の効果】
【0014】
本発明の水性コーティング剤は、概ね40℃前後の比較的高温環境下に保存した場合であっても、概ね2週間程度であれば樹脂等の沈殿やゲル化を引き起こすことさないという点で優れた保存安定性を有することから、例えば水性コーティング剤が一定期間屋外等の高温環境下に放置される場合の多い建築外装用コーティング剤等に使用することが可能である。
また、本発明の水性コーティング剤は、前記保存安定性に加えて、優れた造膜性と防汚性とを両立できることから、例えば建築物の外壁被覆や太陽光発電装置等の光発電装置等の受光表面の被覆等の屋外用途だけでなく、壁紙や床板の被覆や家電製品の表面被覆等の幅広い用途に使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、水系媒体と、前記水系媒体に分散した下記一般式[I]で示される構造単位を含有するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)と、金属アルコキシドまたはその縮合物(B)と、酸触媒(C)と、必要に応じてその他の添加剤を含有してなり、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)と前記金属アルコキシドまたはその縮合物(B)の加水分解縮合物(B1)との質量割合[(A)/(B1)]が70/30を超えて95/5以下の範囲であることを特徴とする水性コーティング剤に関するものである。
【0016】
【化2】

【0017】
〔式(I)中、Rは脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキレン鎖、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン鎖であり、R及びRは、互いに独立して脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキル基であり、Rは水素原子又は4級化反応により導入された4級化剤の残基であり、Xはアニオン性の対イオンである。〕
【0018】
本発明では、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)と前記金属アルコキシドまたはその縮合物(B)の加水分解縮合物(B1)との質量割合[(A)/(B1)]が70/30を超えて95/5以下の範囲であることが、水性コーティング剤に優れた保存安定性を付与するうえで重要である。具体的には、前記質量割合が65/35である水性コーティング剤は、概ね20℃程度の環境下であれば比較的良好な保存安定性を有するものの、40℃程度の環境下では5日程でゲル化等が生じる場合があった。
また、前記したような比較的高温下における優れた保存安定性に加え、優れた防汚性等を両立する観点から、前記質量割合は75/25〜95/5の範囲であることが好ましく、80/20〜90/10の範囲であることがより好ましい。
【0019】
はじめに、本発明で使用するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)について説明する。
【0020】
本発明で使用するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、前記一般式[I]で表される構造単位を有し、水性媒体中で安定に分散するものである。その分散したポリウレタン樹脂(A)からなる樹脂粒子の平均粒子径としては、得られる被膜の防汚性や造膜性を両立する点から、0.005μm〜1μmであることが好ましく、より好ましくは0.01μm〜0.4μmである。
【0021】
前記一般式[I]中のカチオン性の官能基の含有量としては、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)が水性媒体中で溶解することがなく、安定な分散体を形成できる範囲であれば、特に限定されるものではない。従って、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の分子量・分岐度等の前記一般式[I]以外の構造等によって、好ましいカチオン性官能基の含有量が異なるものであるが、通常、該カチオン性ポリウレタン樹脂(A)中に、カチオン当量として0.01〜1当量/kg含有していれば良好な水分散安定性を有するといえる。また、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水性媒体中への分散安定性と得られる塗膜の耐水性の向上とを両立する観点から、0.02〜0.8当量/kg含有していることが好ましく、0.03〜0.6当量/kg含有していることが特に好ましい。
【0022】
また、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)としては、前記一般式(I)で示される構造単位を有するポリウレタン樹脂であればいずれも使用することができるが、なかでもポリエーテルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上に由来する構造単位を有するものを使用することが、優れた保存安定性と防汚性とを両立する観点から好ましい。
【0023】
前記ポリカーボネートポリオール及びポリエーテルポリオールからなる群より選ばれる1種以上に由来する構造単位は、前記ポリウレタン樹脂(A)を製造する際に使用するポリオールとしてポリエーテルポリオールやポリカーボネートポリオールを使用することによって、ポリウレタン樹脂(A)中に導入することができる。
【0024】
また、前記ポリカーボネートポリオール由来の構造単位としては、1,4−ブタンジオールを含むポリオールと、ジアルキルカーボネートとを反応させて得られるポリカーボネートポリオールに由来する構造単位であることが、より一層優れた防汚性を塗膜に付与するうえで好ましい。
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)全体に占める前記ポリカーボネートポリオール由来の構造単位の割合は、0.3〜90質量%であることが、優れた防汚性と塗膜の耐久性とを両立するうえで好ましい。
【0025】
前記ポリエーテルポリオール由来の構造単位としては、好ましくはポリテトラメチレングリコール由来の構造単位であることが、より一層優れた防汚性を塗膜に付与するうえで好ましい。
また、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)全体に占める前記ポリエーテルポリオール由来の構造単位の割合は、0.3〜90質量%であることが、優れた防汚性と塗膜の耐久性とを両立するうえで好ましい。
【0026】
また、本発明のカチオン製ポリウレタン樹脂(A)は、前記ポリエーテルポリオール由来の構造単位とポリカーボネートポリオール由来の構造単位の両方を有することが好ましい。かかる場合、前記カチオン重合性ポリウレタン樹脂(A)全体に対して、前記ポリエーテルポリオール由来の構造単位を0.3〜30質量%、かつ前記ポリカーボネートポリオール由来の構造単位を3〜90質量%有するものを使用することが、特に好ましい。
【0027】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値で求められる数平均分子量(Mn)としては、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)が水性媒体中で溶解せずに安定な分散体を形成できる範囲であれば特に限定されるものではなく、通常1000〜5000000の範囲であり、好ましくは、5000〜1000000の範囲である。
【0028】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、種々の化合物を使用して製造することができるが、工業的に入手容易でかつ安価な原料を用いる製造方法としては、下記一般式[IV]で示される1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)と2級アミン(a−2)とを反応させて得られる3級アミノ基含有ポリオール(a)とを含むポリオール、及び後述するポリイソシアネートを反応させる方法が最も有用である。
【0029】
【化3】

【0030】
(式[IV]中、Rは、脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキレン鎖、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン鎖である。)
前記3級アミノ基含有ポリオール(a)は、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)に水分散性を付与するための3級アミノ基の中和塩や4級アミノ基なるカチオン性基を、ポリウレタン樹脂骨格の側鎖に導入するために用いる化合物である。
【0031】
前記3級アミノ基含有ポリオール(a)は、その分子内に含有する3級アミノ基を、酸による中和、あるいは4級化剤による4級化によってカチオン性基を発生させるための前駆体である。
【0032】
前記3級アミノ基含有ポリオール(a)は、例えば、1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)と2級アミン(a−2)とを、エポキシ基1当量に対してNH基1当量となるように配合し、無触媒で、常温下又は加熱下で開環付加反応させることにより容易に得られる。
【0033】
前記1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)としては、前記一般式[IV]中のRが脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキレン鎖であるものとして、例えばエタンジオール−1,2−ジグリシジルエーテル、プロパンジオール−1,2−ジグリシジルエーテル、プロパンジオール−1,3−ジグリシジルエーテル、ブタンジオール−1,4−ジグリシジルエーテル、ペンタンジオール−1,5−ジグリシジルエーテル、3−メチル−ペンタンジオール−1,5−ジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコール−ジグリシジルエーテル、ヘキサンジオール−1,6−ジグリシジルエーテル、ポリブタジエングリコール−ジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジオール−1,4−ジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパン(水素添加ビスフェノールA)のジグリシジルエーテル、水素添加ジヒドロキシジフェニルメタンの異性体混合物(水素添加ビスフェノールF)のジグリシジルエーテル等を使用することができる。
【0034】
また、前記1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)としては、前記一般式[IV]中のRが2価フェノール類の残基であるものとして、例えばレゾルシノール−ジグリシジルエーテル、ハイドロキノン−ジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン(ビスフェノールA)のジグリシジルエーテル、ジヒドロキシジフェニルメタンの異性体混合物(ビスフェノールF)のジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルプロパンのジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルシクロヘキサンのジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルのジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジベンゾフェノンのジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタンのジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタンのジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3−tertブチルフェニル)−2,2−プロパンのジグリシジルエーテル、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタンのジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)のジグリシジルエーテル等を使用することができる。
【0035】
また、前記1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)としては、前記一般式[IV]中のRがポリオキシアルキレン鎖であるものとして、例えばジエチレングリコール−ジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコール−ジグリシジルエーテル、更にオキシアルキレンの繰り返し単位数が3〜60のポリオキシアルキレングリコール−ジグリシジルエーテル、例えば、ポリオキシエチレングリコール−ジグリシジルエーテル及びポリオキシプロピレングリコール−ジグリシジルエーテル、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体のジグリシジルエーテル、ポリオキシテトラエチレングリコール−ジグリシジルエーテル等を使用することができる。
【0036】
これらの中でも、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水分散性をより向上させることができることから、上記一般式[IV]のRが、ポリオキシアルキレン鎖であるポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、特に、ポリオキシエチレングリコール−ジグリシジルエーテル、及び/又はポリオキシプロピレングリコール−ジグリシジルエーテル、及び/又はエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体のジグリシジルエーテルを用いることが好適である。
【0037】
前記一般式[IV]のRがポリオキシアルキレン鎖となるポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテルを用いる場合の該化合物のエポキシ当量としては、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の種々の機械的特性や熱特性等の物性への影響を最小限に抑制し、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)中のカチオン濃度の設計を広範囲に行える点で、好ましくは1000g/当量以下、より好ましくは500g/当量以下、特に好ましくは300g/当量以下である。
【0038】
また、前記1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)との開環付加反応に使用する2級アミン(a−2)としては、種々の化合物を使用できるが、反応制御の容易さの点で、分岐状又は直鎖状の脂肪族2級アミンが好ましい。
【0039】
前記2級アミン(a−2)としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−tert−ブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジ−n−ペンチルアミン、ジ−n−ペプチルアミン、ジ−n−オクチルアミン、ジイソオクチルアミン、ジノニルアミン、ジイソノニルアミン、ジ−n−デシルアミン、ジ−n−ウンデシルアミン、ジ−n−ドデシルアミン、ジ−n−ペンタデシルアミン、ジ−n−オクタデシルアミン、ジ−n−ノナデシルアミン、ジ−n−エイコシルアミン等を使用することができる。
【0040】
なかでも、3級アミノ基含有ポリオール(a)を製造する際に揮発し難いこと、あるいは、含有する3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、又は4級化剤で4級化する際に立体障害を軽減できること、などの理由から、炭素数2〜18の範囲の脂肪族2級アミンが好ましく、炭素数3〜8の範囲の脂肪族2級アミンがより好ましい。
【0041】
3級アミノ基含有ポリオール(a)が有する3級アミノ基の一部又は全てを、酸で中和、又は4級化剤で4級化することにより、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)に水分散性を付与することができる。
【0042】
上記の3級アミノ基の一部又は全てを中和する際に使用することができる酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、アジピン酸などの有機酸類や、スルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機スルホン酸類、及び、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、硼酸、亜リン酸、フッ酸等の無機酸等を使用することができる。これらの酸は単独使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
また、前記3級アミノ基の一部又は全てを4級化する際に使用することができる4級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のジアルキル硫酸類や、メチルクロライド、エチルクロライド、ベンジルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、ベンジルブロマイド、メチルヨーダイド、エチルヨーダイド、ベンジルヨーダイドなどのハロゲン化アルキル類、メタンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸メチル等のアルキル又はアリールスルホン酸メチル類、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等のエポキシ類などを使用することができる。これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
【0044】
本発明において、3級アミノ基の中和又は4級化に使用する酸や4級化剤の量は、特に制限はないが、本発明で用いるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)の優れた分散安定性を発現させるために、3級アミノ基1当量に対して、0.1〜3当量の範囲であることが好ましく、0.3〜2.0当量の範囲であることがより好ましい。
【0045】
本発明で用いるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)が、従来の手法により得られるカチオン性ポリウレタン樹脂と、樹脂中に存在するカチオン濃度を同一にして比較した場合、より優れた自己水分散性を有し、得られるカチオン性ポリウレタン樹脂は水性媒体への良好な分散安定性を有する。
【0046】
この様な効果を発現できる機構としては、ポリウレタン樹脂中のウレタン結合同士は、水素結合などにより擬結晶構造をとることは周知であり、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の側鎖に存在する3級アミノ基の中和塩、又は4級アミノ基は、例えば従来の手法のような3級アミノ基の中和塩、又は4級アミノ基がポリウレタン樹脂骨格の主鎖に存在する場合と比較して、立体障害の影響を受け難く、自由度が大きいため、水分散に重要な水分子との会合構造を容易に取れるためと推測される。
【0047】
次に、前記1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)と前記2級アミン(a−2)とを用いた前記3級アミノ基含有ポリオール(a)の製造方法について説明する。
【0048】
前記1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)が有するエポキシ基と2級アミン(a−2)が有するNH基との反応比率[NH基/エポキシ基]は、好ましくは当量比で0.5/1〜1.1/1の範囲であり、より好ましくは当量比で0.9/1〜1/1の範囲である。
【0049】
これらの反応は無溶剤条件下にて行うこともできるが、反応制御を容易にする目的で、あるいは粘度低下による撹拌負荷の低減や均一に反応させる目的で、有機溶剤を使用し行うこともできる。
【0050】
前記有機溶剤としては、反応を阻害しない有機溶剤であればよく、例えばケトン類、エーテル類、酢酸エステル類、炭化水素類、塩素化炭化水素類、アミド類及びニトリル類などを使用することができる。
【0051】
前記ケトン類としては、例えばアセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等を使用することができる。エーテル類としては、例えばジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等を使用することができる。
【0052】
前記酢酸エステル類としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル等が例示できる。炭化水素類としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を使用することができる。塩素化炭化水素類としては、例えば四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエタン等を使用することができる。アミド類としては、例えばジメチルホルムアミド、ニトリル類としては、例えばN−メチルピロリドン、アセトニトリル等を使用することができる。
【0053】
前記した有機溶剤のうち、低沸点を有する有機溶剤を使用する場合は、揮発による飛散を防止するために、密閉系により加圧反応をすることが好ましい。
【0054】
1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)と2級アミン(a−2)とは、反応容器中に一括供給し反応させてもよく、また、1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)と2級アミン(a−2)の何れか一方を反応容器に仕込み、他方を滴下することにより反応させてもよい。
【0055】
1分子中にエポキシ基を2個有する化合物(a−1)と2級アミン(a−2)との反応は、反応性が高いため通常は触媒を必要としない。しかし、2級アミン(a−2)の窒素原子が有する脂肪族などの置換基が大きく、前記化合物(a−1)との反応が、立体障害により遅くなる場合には、フェノール、酢酸、水、アルコール類などに代表されるプロトン供与性物質を触媒として使用してもよい。
【0056】
また、反応温度は、好ましくは室温〜160℃の範囲であり、より好ましくは60℃〜120℃の範囲である。また、反応時間は、特に限定しないが、通常30分〜14時間の範囲である。また、反応終点は、赤外分光法(IR法)にて、エポキシ基に起因する842cm−1付近の吸収ピークの消失によって確認できる。また、常法によりアミン当量(g/当量)と水酸基当量(g/当量)を求めることができる。
【0057】
また、本発明で使用する前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の製造する際には、前記した各種ポリオールに加えポリカーボネートポリオールやポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールを使用してもよく、なかでもポリエーテルポリオールやポリカーボネートポリオールを使用することが好ましい。
【0058】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール又はポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のようなジオール類と、ジメチルカーボネート等によって代表されるようなジアルキルカーボネート或いはエチレンカーボネート等によって代表されるような環式カーボネートとの反応生成物などを使用することができる。
【0059】
なかでも、塗膜に非常に高いレベルの防汚性を付与する観点から、1,4−ブタンジオールを含むポリオールと、ジアルキルカーボネートとを反応させて得られるポリカーボネートポリオールを使用することが好ましい。
【0060】
また、前記ポリカーボネートポリオールとしては、300〜6000の数平均分子量を有するものを使用することが好ましい。
【0061】
前記前記ポリカーボネートポリオールとしては、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の製造に使用する原料全体に対して、0.3〜90質量%使用することが、特に優れた防汚性と塗膜の耐久性とを両立するうえで好ましい。
【0062】
また、前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、後述する活性水素原子を少なくとも2個有する化合物を開始剤として使用し、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレン等の化合物の1種以上を付加重合することによって得られるものを使用することができる。
【0063】
前記活性水素原子を少なくとも2個有する化合物としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール;アクニット酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、燐酸、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリイソプロパノールアミン、ピロガロール、ジヒドロ安息香酸、ヒドロキシフタール酸、1,2,3−プロパントリチオール等を使用することができる。
【0064】
前記ポリエーテルポリオールとしては、ポリテトラメチレングリコールを使用することが好ましい。これにより、汚染物質の塗膜への付着を抑制できるとともに、付着した場合であっても水等によって容易に除去できるという点で非常に優れた防汚性を付与することができる。
【0065】
前記ポリエーテルポリオールとしては、300〜6000の数平均分子量を有するものを使用することが好ましい。
【0066】
また、前記ポリカーボネートポリオールと前記ポリエーテルポリオールとは、組み合わせ使用することが好ましい。かかる場合、前記カチオン重合性ポリウレタン樹脂(A)全体に対して、前記ポリエーテルポリオールを0.3〜30質量%、かつ前記ポリカーボネートポリオールを3〜90質量%使用することが、特に好ましい。
【0067】
また、前記ポリエステルポリオールとしては、ポリオールとポリカルボン酸とを反応させて得られるものを使用することができる。
前記ポリオールとしては例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール(数平均分子量300〜6000の範囲)、ポリプロピレングリコール(数平均分子量300〜6000の範囲)、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体(数平均分子量300〜6000の範囲);ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA及びそのアルキレンオキサイド付加体;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペ
ンタエリストール、ソルビトールを使用することができる。また、前記ポリカルボン酸としては、例えばコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、及びこれらのポリカルボン酸の無水物あるいはエステル形成誘導体等を使用することができる。
【0068】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際には、前記3級アミノ基含有ポリオール(a)、前記ポリカーボネートポリオールや前記ポリエーテルポリオールや前記ポリエステルポリオールの他に、目的、用途に応じて一般にポリウレタンの合成に利用される種々のポリオールを用いることができる。
【0069】
前記その他のポリオールとしては、例えば、好ましくは数平均分子量200〜10,000の範囲、より好ましくは数平均分子量300〜5,000の範囲の、ポリエステルアミドポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリチオエーテルポリオール、及びポリブタジエンポリオール等の各種ポリオールを、本発明の効果を損なわない範囲で私用することができる。
【0070】
また、本発明で用いるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際に使用することができるポリイソシアネートとしては、芳香族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、及び脂肪族ポリイソシアネート等の、水性ポリウレタン樹脂の製造において用いられる種々の有機ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0071】
前記芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−及び1,4−フェニレンジイソシアネート、1−メチル−2,4−フェニレンジイソシアネート、1−メチル−2,6−フェニレンジイソシアネート、1−エチル−2,4−フェニレンジイソシアネート、1−イソプロピル−2,4−フェニレンジイソシアネート、1,3−ジメチル−2,4−フェニレンジイソシアネート、1,3−ジメチル−4,6−フェニレンジイソシアネート、1,4−ジメチル−2,5−フェニレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)−ベンゼン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)−ベンゼン、メタ−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、パラ−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ジエチルベンゼンジイソシアネート、ジイソプロピルベンゼンジイソシアネート、1−メチル−3,5−ジエチルベンゼンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ジエチルベンゼン−2,4−ジイソシアネート、1,3,5−トリエチルベンゼン−2,4−ジイソシアネート、ナフタレン−1,4−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、1−メチル−ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、ナフタレン−2,6−ジイソシアネート、ナフタレン−2,7−ジイソシアネート、1,1’−ジナフチル−2.2’−ジイソシアネート、ビフェニル−2,4’−ジイソシアネート、ビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート等を使用することができる。
【0072】
また、脂環式ポリイソシアネート及び脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロペンチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等及びこれらの3量体等を使用することができる。
【0073】
比較的安価なこと、原料を入手しやすいことから、1−メチル−2,4−フェニレンジイソシアネート、1−メチル−2,6−フェニレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)−ベンゼン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)−ベンゼン、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好適である。
【0074】
また、前記同様、得られる塗膜の耐熱変色、耐光変色による塗膜の劣化を防止するために、ポリイソシアネートとして、一般に無黄変型といわれる脂環式ポリイソシアネート及び/又は脂肪族ポリイソシアネートを使用することにより、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)にかかる脂環式ポリイソシアネート及び/又は脂肪族ポリイソシアネートに由来する構造単位を導入することが好ましい。
【0075】
また、前記ポリイソシアネートとしては、原料を入手しやすさを考慮すると、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを使用することが特に好ましい。
【0076】
更に、得られる塗膜の耐水性をより向上させる目的で、シラノール基を含有する構造単位を前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)に導入することが好ましい。シラノール基を含有する構造単位を導入すると、有機成分であるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)からなる粒子と、金属アルコキシド(B)により形成される無機の金属酸化物マトリクスとの間に架橋構造が形成されるため、より強固な有機無機ハイブリッドの塗膜を得ることができる。
【0077】
シラノール基を含有する構造単位としては、下記一般式[II]で表される構造単位を例示できる。
【0078】
【化4】

【0079】
(式[II]中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基であり、、Rはハロゲン原子、アルコキシル基、アシロキシ基、フェノキシ基、イミノオキシ基又はアルケニルオキシ基であり、nは0、1又は2である。)
前記一般式[II]で表される構造単位をカチオン性ポリウレタン樹脂(A)に導入するために用いる化合物としては、下記一般式[III]で示される化合物であることが好ましい。
【0080】
【化5】

【0081】
(式[III]中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基であり、Rはハロゲン原子、アルコキシル基、アシロキシ基、フェノキシ基、イミノオキシ基又はアルケニルオキシ基であり、nは0、1又は2であり、Yは活性水素基を少なくとも1個以上含有する有機残基である。)
前記一般式[III]で示される化合物としては、例えば、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシランまたはγ−(N,N−ジ−2−ヒドロキシルエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシランまたはγ−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトフェニルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0082】
カチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際には、種々の機械的特性や熱特性等の物性を有するポリウレタン樹脂の設計を行う目的で、ポリアミンを鎖伸長剤として使用してもよい。
【0083】
前記鎖伸長剤として使用可能なポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等のジアミン類;N−ヒドロキシメチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシプロピルアミノプロピルアミン、N−エチルアミノエチルアミン、N−メチルアミノプロピルアミン等の1個の1級アミノ基と1個の2級アミノ基を含有するジアミン類;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミン類;ヒドラジン、モノメチルヒドラジン、N,N’−ジメチルヒドラジン等のヒドラジン類;コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジヒドラジド類;β−セミカルバジドプロピオン酸ヒドラジド、3−セミカルバジド−プロピル−カルバジン酸エステル、セミカルバジド−3−セミカルバジドメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン等のセミカルバジド類を使用することができる。更に、水も鎖伸長剤として使用することができる。
【0084】
カチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際には、前記ポリアミンの他に、ポリウレタン樹脂の種々の機械的特性や熱特性等の物性を調整する目的で、その他の活性水素原子含有の鎖伸長剤を使用することもできる。
【0085】
前記その他の活性水素含有の鎖伸長剤として使用することができるものは、例えば、エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等のグリコール類;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等のフェノール類、及び水が挙げられ、本発明のカチオン性ポリウレタン樹脂水分散体の保存安定性を低下させない範囲内においてこれらを単独もしくは併用しても構わない。
【0086】
本発明で使用するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する方法としては、例えば、次のような方法を例示できる。これら方法によればカチオン性ポリウレタン樹脂(A)からなる粒子が水性媒体中に均一に分散した水性分散体を得ることができる。
【0087】
〔方法1〕前記ポリイソシアネートと3級アミノ基含有ポリオール(a)と、必要に応じて前記ポリカーボネートポリオール等のポリオールと前記一般式[III]で示される化合物とを、一括又は分割して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることによりポリウレタン樹脂を製造し、得られたポリウレタン樹脂中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水分散せしめる方法。
【0088】
〔方法2〕前記ポリイソシアネートと3級アミノ基含有ポリオール(a)と、必要に応じてポリカーボネートポリオール等のポリオールと前記一般式[III]で示される化合物とを、一括又は分割して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることにより末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造した後、ポリアミンを用いて鎖伸長することによりポリウレタン樹脂を製造し、前記ポリウレタン樹脂中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水分散せしめる方法。
【0089】
〔方法3〕前記ポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)、必要に応じてポリカーボネートポリオール等のポリオールと前記一般式[III]で示される化合物とを、一括又は分割して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることにより末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、得られたウレタンプレポリマー中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水分散せしめ、その後にポリアミンを用いて鎖伸長する方法。
【0090】
〔方法4〕前記ポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)、必要に応じてポリカーボネートポリオール等のポリオールと前記一般式[III]で示される化合物とを、一括又は分割してこれらを仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることにより末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、得られたウレタンプレポリマー中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水系媒体中にホモジナイザー等の機械を用いて強制的に乳化させて水溶化又は水分散せしめ、その後にポリアミンを用いて鎖伸長する方法。
【0091】
〔方法5〕前記ポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)、必要に応じてポリカーボネートポリオール等のポリオールと前記一般式[III]で示される化合物とポリアミンとを、一括して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることによりポリウレタン樹脂を製造し、得られたポリウレタン樹脂中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水溶化又は水分散せしめる方法。
【0092】
〔方法6〕前記ポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)、必要に応じてポリカーボネートポリオール等のポリオールとを、一括又は分割して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることによりポリウレタン樹脂を製造し、得られたポリウレタン樹脂中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水分散せしめる方法。
【0093】
〔方法7〕前記ポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)、必要に応じてポリカーボネートポリオール等のポリオールとを、一括又は分割して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることにより末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造した後、ポリアミンを用いて鎖伸長することによりポリウレタン樹脂を製造し、得られたポリウレタン樹脂中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水分散せしめる方法。
【0094】
〔方法8〕前記ポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)、必要に応じてポリカーボネートポリオール等のポリオールとを、一括又は分割して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることにより末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、得られたウレタンプレポリマー中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水分散せしめ、その後にポリアミンを用いて鎖伸長する方法。
【0095】
〔方法9〕前記ポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)、必要に応じてポリカーボネートポリオール等のポリオールとを、一括又は分割してこれらを仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることにより末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水系媒体中にホモジナイザー等の機械を用いて強制的に乳化させて水分散せしめ、その後にポリアミンを用いて鎖伸長する方法。
【0096】
〔方法10〕前記ポリイソシアネート(g)と3級アミノ基含有ポリオール(a)、必要に応じてポリカーボネートポリオール等のポリオールとポリアミンとを、一括して仕込み、溶剤中又は無溶剤下で反応させることによりポリウレタン樹脂を製造し、得られたポリウレタン樹脂中の3級アミノ基の一部又は全てを酸で中和、及び/又は4級化剤で4級化した後、水を投入して水分散せしめる方法。
【0097】
尚、上記〔方法1〕〜〔方法10〕の製造方法において、乳化剤を必要に応じて用いてもよい。
【0098】
本発明で使用可能な乳化剤としては、特に限定しないが、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水分散体の優れた保存安定性を維持する観点から、基本的にノニオン性又はカチオン性であることが好ましい。例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン系乳化剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン系乳化剤等を使用することが好ましい。なお、前記カチオン性ポリウレタン樹脂水分散体への乳化剤の混和安定性が保たれる範囲内であれば、アニオン性又は両性の乳化剤を併用しても構わない。
【0099】
前記方法によりカチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際には、該樹脂の水分散性を助ける助剤として、親水基となりうる基を有する化合物(以下、親水基含有化合物という。)を使用してもよい。
【0100】
かかる親水基含有化合物としては、アニオン性基含有化合物、カチオン性基含有化合物、両性基含有化合物、又はノニオン性基含有化合物を用いることができるが、カチオン性ポリウレタン樹脂水分散体の優れた保存安定性を維持する観点から、ノニオン性基含有化合物が好ましい。
【0101】
前記ノニオン性基含有化合物としては、分子内に少なくとも1個以上の活性水素原子を有し、かつエチレンオキシドの繰り返し単位からなる基、及びエチレンオキシドの繰り返し単位とその他のアルキレンオキシドの繰り返し単位からなる基からなる群から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する化合物を使用することができる。
【0102】
例えば、エチレンオキシドの繰り返し単位を少なくとも30質量%以上含有し、ポリマー中に少なくとも1個以上の活性水素原子を含有する数平均分子量300〜20,000のポリオキシエチレングリコール又はポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体グリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシブチレン共重合体グリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシアルキレン共重合体グリコール又はそれらのモノアルキルエーテル等のノニオン基含有化合物又はこれらを共重合して得られるポリエステルポリエーテルポリオールなどの化合物を使用することが可能である。
【0103】
次に、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際の、原料仕込み比率(当量比)は、前記カチオン重合性ポリウレタン樹脂(A)の製造に使用するポリイソシアネートのイソシアネート基と全ポリオールの水酸基の当量比〔イソシアネート基の当量/水酸基の当量〕が、0.9/1〜1.1/1の範囲であることが好ましい。
【0104】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)を製造する際に、鎖伸長剤として、たとえばポリアミンを使用する場合、前記当量比[〔イソシアネートの当量〕/〔水酸基の当量+ポリアミンが有するアミノ基の当量〕]が、0.9/1〜1.1/1の範囲であることが好ましい。
【0105】
また、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、ウレタンプレポリマーを製造した後に、ポリアミンを用いて鎖伸長反応させることにより製造してもよい。かかる場合、前記当量比[〔イソシアネート基の当量〕/〔水酸基の当量〕]が、1.1/1〜3/1の範囲であることが好ましく、1.2/1〜2/1の範囲であることがより好ましい。この場合、ポリアミンで鎖伸長する際のポリアミンが有するアミノ基と過剰のイソシアネート基との当量比は、好ましくは1.1/1〜0.9/1の範囲である。
【0106】
かかる反応において、反応温度は、好ましくは20℃〜120℃の範囲であり、より好ましくは30℃〜100℃の範囲である。
【0107】
また、3級アミノ基含有ポリオール(a)は、優れた保存安定性を発現させることを目的として、最終的に得られるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)に対して、好ましくは0.005〜1.5当量/kgの範囲であり、より好ましくは0.03〜1.0当量/kgであり、さらにより好ましくは0.15〜0.5当量/kgの範囲である。
【0108】
また、一般式[III]で示される化合物は、金属アルコキシド(B)とより強固な有機無機ハイブリッドの塗膜を形成させることを目的として、最終的に得られるカチオン性ポリウレタン樹脂(A)に対して、好ましくは0.1〜20質量%の範囲であり、より好ましくは0.5〜10質量%の範囲である。
【0109】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、無溶剤条件下で製造することもできるが、反応制御を容易にする目的で、又は粘度低下による撹拌負荷の低減や均一に反応させる目的で、有機溶剤下で製造することも可能である。
【0110】
前記有機溶剤としては、例えば、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル等の酢酸エステル類;アセトニトリル等のニトリル類;n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;四塩化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエタン等の塩素化炭化水素類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類等を使用することができる。
【0111】
前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)は、無触媒下で製造することも可能であるが、種々の触媒、例えば、オクチル酸第一錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫ジフタレート、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫ジアセチルアセテート、ジブチル錫ジバーサテート等の錫化合物、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、トリエタノールアミンチタネート等のチタネート化合物、その他、3級アミン類、4級アンモニウム塩等を使用してもよい。
【0112】
上記のようにして得られるカチオン性ポリウレタン樹脂(a)の水分散体中に含まれる有機溶剤は、必要により、反応の途中又は反応終了後に、例えば減圧蒸留などの方法により除去することが好ましい。
【0113】
次に、本発明で使用する金属アルコキシドまたはその縮合物(B)について説明する。
【0114】
本発明で使用する金属アルコキシド又はその縮合物(B)は、耐水性や耐候性に加え、比較的良好な防汚性に優れた被膜を形成するうえで使用する成分である。
【0115】
前記金属アルコキシド又はその縮合物(B)としては、例えば珪素アルコキシド、チタンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド等を使用することができる。
【0116】
前記珪素アルコキシド又はその縮合物としては、一般的にゾル−ゲル反応で用いられるアルコキシシランであれば、特に限定されるものではない。例示するならば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシランまたはこれらの部分縮合物等が挙げられる。
【0117】
前記チタンアルコキシドとしては、例えば、チタンイソプロポキシド、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート等を使用することができ、前記アルミニウムアルコキシドとしては、例えば、アルミニウムイソプロポキシド等を使用することができる。
【0118】
これらの中でも、工業的入手のしやすさから、珪素アルコキシド又はその縮合物を用いるのが好適である。その中でも最も好適なのは、テトラメトキシシラン及びその縮合物である。また、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)中のカチオン性官能基と反応する官能基を有するアルコキシシランを併用することにより、塗膜の架橋をさらに緻密にすることができ、耐水性等の塗膜物性をより向上させることもできる。この場合に最も好適なのは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである。
【0119】
また、本発明は、前記金属アルコキシドまたはその縮合物(B)を前記割合で使用すればよいというものではなく、前記したポリエーテルポリオール由来の構造単位を有する特定のカチオン性ポリウレタン樹脂(A)と組み合わせ使用することが重要である。これらを組み合わせ使用することによって、優れた保存安定性とともに、優れた防汚性や造膜性を両立した水性コーティング剤を得ることができる。
【0120】
なお、金属アルコキシドの加水分解反応式は以下の通りである。

〔式中、Rは有機基であり、Rはアルキル基であり、Xは(m+n)価の金属原子である。〕
従って、完全加水分解縮合後の金属アルコキシドの質量(B1)は、(仕込み量)/(加水分解反応前の金属アルコキシドの式量)×(加水分解反応後の金属アルコキシドの式量)で計算することができる。
【0121】
次に、本発明で使用する酸触媒(C)について説明する。
【0122】
本発明で使用する酸触媒(C)は、前記金属アルコキシド間の加水分解縮合反応を促進するうえで必須である。
【0123】
かかる酸触媒(C)としては、例えば、塩酸、ホウ酸、硫酸、フッ酸、リン酸といった無機酸や、酢酸、フタル酸、マレイン酸、フマル酸、パラトルエンスルホン酸、などといった有機酸を用いることができる。また、これらの酸は単独、もしくは2種以上を併用してもよい。これらの中でも、目的とするpHの範囲への調整が容易であり、得られる防汚コーティング剤の保存安定性が良好で、且つ得られる有機無機複合塗膜の耐水性に優れる点から、マレイン酸を用いることが好ましい。
【0124】
また、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)と酸触媒(C)とを含む水分散体のpHとしては、酸による機械の腐食等の問題が起こりにくく、且つ、得られる防汚コーティング剤の保存安定性が良好である点から、通常1.0〜4.0の範囲で、好ましくは1.0〜3.0の範囲で、さらに好ましくは2.0〜3.0の範囲である。この範囲にpHを調整することが耐摩耗性と耐水性とに優れる有機無機複合塗膜を得るために重要であり、酸触媒(C)を徐々に滴下しながら、pHの調整を行うことが好ましい。
【0125】
次に、本発明の水性コーティング剤の製造方法について説明する。
【0126】
本発明の水性コーティング剤は、例えば、予め製造したカチオン性ポリウレタン樹脂(A)と、酸触媒(C)とを水系媒体中に混合し均一化した後、金属アルコキシド又はその縮合物(B)を混合することによって製造することができる。
また、予めカチオン性ポリウレタン樹脂(A)の水分散体を製造した場合には、該水分散体と酸触媒(C)とを混合、均一化した後、金属アルコキシド又はその縮合物(B)を混合することによって製造することができる。
【0127】
また、前記金属アルコキシド又はその縮合物(B)の加水分解により生成するアルコールは、残存したまま本発明の水性コーティング剤としても良く、また、種々の方法、例えば減圧下で放置又は加温することにより、該アルコールを除去したものを水性コーティング剤としても良い。
【0128】
前記水性コーティング剤を製造する際に使用する水系媒体としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−及びイソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル類;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム類、等が挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、又は、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみが特に好ましい。
【0129】
前記水性コーティング剤全体に対する前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の使用量は、25〜75質量%の範囲であることが好ましい。また、前記金属アルコキシド又はその縮合物(B)の使用量は、0.05〜20質量%の範囲であることが好ましく、前記酸触媒(C)の使用量は、0.05〜2質量%の範囲であることが好ましい。
【0130】
本発明の水性コーティング剤の不揮発分としては、特に限定されるものではないが、10質量%以上、50質量%以下であることが、保存安定性が良好である点から好ましい。
【0131】
また、本発明の水性コーティング剤は、本発明の効果を妨げない範囲で、各種の増粘剤、濡れ剤、チキソ剤、撥水剤、撥油剤などの添加剤、あるいはフィラー等を含有していてもよい。また、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)中の官能基と反応するような官能基を有する架橋剤、例えば、ポリエポキシ化合物や、ジアルデヒド化合物、ジカルボン酸化合物といった架橋剤を併用しても良い。
【0132】
本発明の水性コーティング剤は、各種基材に優れた防汚性と造膜性とを付与できることから、例えば建築物の外壁等の被覆用として建築外装用コーティング剤や、自動車タイヤ用コーティング剤、自動車外板用コーティング剤、自動車内装用コーティング剤、皮革用表面処理剤、鉄道車輪用コーティング剤や太陽光発電装置等の光発電装置等の受光表面の被覆用コーティング剤や、壁紙や床板の被覆や家電製品の表面被覆等の建築内装用コーティング剤等の幅広い用途に使用することが可能である。
また、夏場等の比較的高温環境下に放置した場合であっても、概ね2週間程度の期間、ゲル化などを引き起こすことなく、保存安定性に優れることから、屋外施工に使用されるような、例えば建築外装用コーティング剤等に使用することができる。
【0133】
本発明の水性コーティング剤は、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム等の金属基材、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)、ポリカーボネート、PMMA(ポリメタクリレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリスチレン等のプラスチック基材、ガラス、木材、セメント等からなる基材の表面に被膜を形成することができる。
前記基材は前記材質からなる平面状のものであっても曲部を有するものであってもよく、また、不織布のような繊維からなる基材であってもよい。
【0134】
前記したような基材に対して本発明の水性コーティング剤を塗布する方法としては、例えばエアースプレー法、フローコーター法、ロールコーター法、グラビアコーター法、ナイフコーター法、ローラー塗り、刷毛塗り、布又はスポンジにコーティング剤を湿らせ手で塗るなどの各種の方法を適用することができる。
【0135】
また、前記被膜は、前記方法で基材上に水性コーティング剤を塗布した後、例えば、20℃〜250℃の間で乾燥することが好ましく、60℃〜200℃の間で乾燥することがさらに好ましい。
【0136】
前記方法で得られた被膜は、優れた防汚性を長期間維持する観点から、乾燥後の膜厚が概ね0.1μm〜100μm、より好ましくは0.1μm〜50μmであることが好ましい。
【0137】
また、前記方法で得られた被膜は、金属酸化物(B’)からなるマトリクス中に、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の粒子が分散した有機無機複合被膜となる。
【0138】
前記金属酸化物(B’)は、前述の金属アルコキシド又はその縮合物(B)の加水分解・縮合反応によって得られるものであり、該複合塗膜中では、マトリクスを形成している。これは、前述のようにカチオン性ポリウレタン樹脂(A)が水性分散体中で形成する微粒子の表面を取り囲むように金属ゲルが濃縮されているため、水性媒体が揮発した後は、近接する微粒子の該表面の金属ゲルが架橋することによって形成されるものである。したがって、カチオン性ポリウレタン樹脂(A)の微粒子同士は凝縮することがなく、有機無機複合塗膜中で分散していることになる。
このような有機無機複合被膜は、例えば、油性インク、水性インク、飲料、汗などの他、口紅整髪料などの化粧品などの水性や油性の生活汚れ、屋外設置物の塗装面に対する水垢、特に水垢のタレスジの付着を防止できるとともに、これらが付着した場合であっても、容易に除去できるという点で、非常に優れた防汚性を有するものであることから、例えば建築内装や建築外装の被覆用途をはじめ、光発電装置の受光面の被覆用途、建築物等のガラスの表面被覆用途、自動車の内装や外装の被覆用途、自動車タイヤ等のゴム製製品の表面被覆用途、鞄や靴等の製造に使用する天然皮革、合成皮革、人工皮革等の表面被覆用途をはじめとする様々な用途に使用可能である。
【実施例】
【0139】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。
【0140】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0141】
〔合成例1〕
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、ポリプロピレングリコール−ジグリシジルエーテル(エポキシ当量201g/当量。)590質量部を仕込んだ後、フラスコ内を窒素置換した。次いで、前記フラスコ内の温度が70℃になるまでオイルバスを用いて加熱した後、滴下装置を使用してジ−n−ブチルアミン380質量部を30分間で滴下し、滴下終了後、90℃で10時間反応させた。反応終了後、赤外分光光度計(FT/IR−0460Plus、日本分光株式会社製)を用いて、反応生成物のエポキシ基に起因する842cm− 1 付近の吸収ピークが消失していることを確認し、3級アミノ基含有ポリオール(E)−I(アミン当量339g/当量、水酸基当量339g/当量。)を調製した。
【0142】
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、「PCDL T−4692」〔旭化成ケミカルズ株式会社製、1,6−ヘキサンジオールと1,4ブタンジオールとジメチルカーボネートとを反応させて得られるポリカーボネートポリオール、水酸基当量1000g/当量。〕を1075質量部加え、減圧度0.095MPaにて100〜110℃で脱水を行った。
脱水後、70℃に冷却し、酢酸エチル666質量部を加え、50℃まで冷却しながら十分に撹拌混合した。撹拌混合後、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート280質量部とオクチル酸第一錫0.3質量部とを加え、70℃で2時間反応させた。
次いで、前記4ツ口フラスコに、合成例1で得られた3級アミノ基含有ポリオール(E)−Iを84質量部添加し、4時間反応させた後、55℃に冷却し、「KBE−903」〔信越化学工業株式会社製、3−アミノプロピルトリエトキシシラン〕47質量部を添加して、1時間反応させることにより、末端イソシアネ−ト基を有するウレタンプレポリマー溶液を調製した。次いで、前記ウレタンプレポリマー溶液にヒドラジン水和物15質量部を加え、鎖伸長反応を1時間行った。
【0143】
次いで、前記4ツ口フラスコに、酢酸エチルを1954質量部、89質量%オルトリン酸水溶液を29質量部添加して、55℃で1時間保持した後、40℃に冷却し、イオン交換水3300質量部を添加することにより、水分散体を調製した。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が30質量%で、pHが3.1である、カチオン性ポリウレタン樹脂水分散体(A−1)を調製した(カチオン性アミノ基含有量0.162当量/kg)。なお、pHは、PHメーター(株式会社堀場製作所製、M−12)を用い、25℃の環境下で測定した値である。以下、同様の方法で、pHを測定した。
【0144】
〔合成例2〕
「PCDL T−4692」の使用量1075質量部のうち537質量部を、「PTMG−2000」〔三菱化学株式会社製、ポリテトラメチレングリコール、水酸基当量1000g/当量。〕に変更すること以外は、合成例1に記載の方法と同様の方法で、不揮発分が30質量%でpHが3.1であるカチオン性ポリウレタン樹脂水分散体(A−2)を調製した(カチオン性アミノ基含有量0.162当量/kg)。
【0145】
〔合成例3〕
3級アミノ基含有ポリオール(E)−Iの代わりに、N−メチル−ジエタノールアミン30質量部、ヒドラジン水和物を8.5質量部使用すること以外は、合成例1と同様の方法で、不揮発分が35質量%で、pHが3.5である乳白色のカチオン性ポリウレタン樹脂水分散体(A−3)を調製した。
【0146】
(実施例1)
合成例1で得られたカチオン性ウレタン樹脂(A−1)の水分散体49.5質量部、イオン交換水9.9質量部、2−プロパノール(以下、IPAと称す)29.7質量部を撹拌混合した後、20質量%マレイン酸水溶液1.8質量部を徐々に滴下した。このときの混合液のPHは2.5であった。
引き続き、撹拌しながらテトラメトキシシラン縮合物(メチルシリケート51:多摩化学工業株式会社製品。以下、MS−51と称す。)7.0質量部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(以下、GPTMSと称す。)2.1質量部からなる混合液を徐々に加えて、一時間攪拌後、200メッシュナイロンシャーにて濾過を行い、水性コーティング剤(1)を得た。
【0147】
(実施例2〜10)
表1〜2に記載の配合に変更する以外は上記実施例1記載と同様の方法で、水性コーティング剤(2)〜(10)を調製した。
【0148】
(比較例1〜10)
表3〜4に記載の配合に変更する以外は上記実施例1記載と同様の方法で、水性コーティング剤(11)〜(20)を調製した。
【0149】
【表1】

【0150】
【表2】

【0151】
【表3】

【0152】
【表4】

【0153】
表1〜4の脚注
[(A)/(B1)]はカチオン性ポリウレタン樹脂の質量(A)と、金属アルコキシド又はその縮合物の加水分解縮合後の質量(B1)との比を表す。
【0154】
(水性コーティング剤の安定性評価方法)
実施例1〜10、及び比較例1〜10で得られた水性コーティング剤を40℃で保管したときの塗液状態を目視で観察し、経過日数と粘度やゲル化の状態より液安定性を評価した。
【0155】
◎:4週間以上経過後も変化なし。
○:2週間以上経過後も変化なし。
△:2週間経過後に増粘した。
×:2週間以内にゲル化した。
××:1〜5日以内にゲル化した。
【0156】
(塗膜作製方法)
実施例1〜10、及び比較例1〜10で得られた水性コーティング剤(1)〜(20)を、ガラス板(株式会社 エンジニアリングテストサービス社製、JIS3202ガラス、サイズ2.0×70×150mm)上に塗布後、130℃で30分乾燥させ、膜厚約10μmの有機無機複合塗膜(塗膜1〜20)を得た。
【0157】
(耐汚染性の評価方法)
前記で得られた塗膜1〜20の塗面を上向きにして水平に置き、JIS S 6037に規定するマーキングペンの黒色のペン先を塗面に軽く押しつけ、ペン先の広い幅に直角の方に、毎秒約150mmの速さで動かして、塗面中央に長辺に平行な長さ約20mmの線を引いた。次いで、該黒色マーキングペンの代わりに赤色のマーキングペンを用いる以外は上記と同様の方法で、前記黒線に接するように赤線を引いた。次いで、前記黒色マーキングペンの代わりに青色のマーキングペンを使用すること以外は上記と同様の方法で、前記赤線に接するように青線を引いた。以上の方法により、約4cmの面積を、上記3色の線によって塗りつぶした。
【0158】
前記塗りつぶした後、18時間常温の環境下に放置した塗膜表面を、メチルエチルケトンを浸した清潔なガーゼを用いて拭き、塗膜表面に付着したマーキングペンのインクをふき取った。次いで、該塗膜表面を乾燥した清潔なガーゼを用いて軽く拭いたものを、1時間室温で放置した。
【0159】
前記放置後の塗膜表面を、拡散昼光の下で目視によって観察し、耐汚染性試験前の塗膜と比較して塗膜の色・つやの変化及び膨れの有無に基づき評価した。
◎:色・つやの変化が認められない。
○:色・つやの変化がごく僅かに認められる。
△:色・つやの変化が見られる。
×:色・つやの変化が非常に顕著に認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系媒体と、前記水系媒体に分散した下記一般式[I]で示される構造単位を含有するカチオン性ポリウレタン樹脂(A)と、金属アルコキシドまたはその縮合物(B)と、酸触媒(C)とを含有してなり、前記カチオン性ポリウレタン樹脂(A)と前記金属アルコキシドまたはその縮合物(B)の加水分解縮合物(B1)との質量割合[(A)/(B1)]が70/30を超えて95/5以下の範囲であることを特徴とする水性コーティング剤。

〔式中、R1は、脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキレン基、2価フェノール類の残基、又はポリオキシアルキレン基を、R及びRは、互いに独立して脂肪族環式構造を含んでいてもよいアルキル基を、Rは、水素原子又は4級化反応により導入された4級化剤の残基を、Xはアニオン性の対イオンを表す。〕
【請求項2】
前記金属アルコキシドまたはその縮合物(B)が珪素アルコキシド又はその縮合物である、請求項1に記載の水性コーティング剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水性コーティング剤からなる建築外装用水性コーティング剤。
【請求項4】
請求項1または2に記載の水性コーティング剤からなる、光発電装置の受光面被覆用水性コーティング剤。
【請求項5】
受光面の表面に請求項1または2に記載の水性コーティング剤によって形成された被膜を有する光発電装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の水性コーティング剤からなる建築内装用水性コーティング剤。
【請求項7】
請求項1または2に記載の水性コーティング剤からなるガラス用水性コーティング剤。
【請求項8】
請求項1または2に記載の水性コーティング剤からなるゴム製タイヤの表面被覆用水性コーティング剤。
【請求項9】
請求項1または2に記載の防汚コーティング剤からなる自動車外装被覆用水性コーティング剤。
【請求項10】
請求項1または2に記載の防汚コーティング剤からなる自動車内装用水性コーティング剤。
【請求項11】
請求項1または2に記載の防汚コーティング剤からなる被膜を表面に有する皮革。

【公開番号】特開2010−138274(P2010−138274A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315544(P2008−315544)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】