説明

水性コーティング用樹脂組成物およびその製造方法

【課題】ハロゲン原子を含まなくても優れた帯電防止性能を有する水性コーティング用樹脂組成物を提供する。また、前記水性コーティング用樹脂組成物の樹脂の主鎖に組み込まれる第4級アンモニウム塩(イオン性モノマー)、および前記水性コーティング用樹脂組成物中に添加される第4級アンモニウム塩(カチオン性界面活性剤)、並びに前記イオン性モノマーを含む水性コーティング用樹脂組成物の製造方法、および前記カチオン性界面活性剤を含む水性コーティング用樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】有機酸イオンを対イオンとする、特定の構造を有する第4級アンモニウム塩を含む水性コーティング樹脂組成物、並びに前記第4級アンモニウム塩および前記水性コーティング用樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第4級アンモニウム塩を含む帯電防止性能を有する水性コーティング用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂は、透明性、耐衝撃性、電気絶縁性等の優れた特徴を有し、工業用資材、建築用資材として種々の用途に利用されている。しかし、その反面で、摩擦等により静電気が発生しやすいという問題点を有する。前記静電気は蓄積(帯電)し、人体に対するショック、空気中の埃等を集めることによる成型品の汚れ、電子機器に対する電気障害など、種々のトラブルの原因となる。上記トラブルを防止する方法として、一般的に、界面活性剤を利用して成型品表面の静電物性を変え、帯電防止性能を付与することが行われている。具体的な方法としては、例えば、帯電防止剤を成型品製造時に練り込む方法(練り込み型)、および界面活性剤を含む帯電防止剤を成型品表面に塗布する方法(塗布型)が挙げられる。
【0003】
前記練り込み型の方法では、帯電防止剤が逐次表面に配向し、成型品表面に導電膜を形成することにより効果を発揮するものと考えられている。しかしながら、帯電防止効果は成形後すぐに得られるわけではなく、効果の即効性に問題がある。また、帯電防止剤を練り込む際には樹脂溶融温度以上の加熱が必要となる。
【0004】
一方、前記塗布型の方法では、樹脂溶融温度以上の加熱を必要としないため、食品用容器および電子材料の搬送用キャリアテープ等の熱可塑性樹脂を有する成型品に主として用いられている。しかしながら、前記練り込み型の方法とは反対に、効果に即効性があるものの、表面に配向した界面活性剤が空気中の水分等により徐々に除去され、効果が減少していくという問題がある。そこで、このような問題点を改善すべく、多くの帯電防止剤が開発されてきた。具体的には、アニオンまたはカチオンのような電荷を有する化合物を含む帯電防止剤が挙げられ、特に第4級アンモニウム塩を含む帯電防止剤が好適に用いられている。
【0005】
前記電荷を有する化合物のうち、カチオン性の帯電防止剤は、対イオンにイオン性の高いもの(すなわち、対イオンとして安定なもの)を用いると強力な帯電防止性能を示すことが知られている。特に、その対イオンとしての安定性からハロゲン化物イオンが好適に用いられてきた。現在でも多くの製品において、ハロゲン化物イオンを対イオンとする帯電防止剤が市販されている。しかしながら、近年、ハロゲン原子を対イオンとする第4級アンモニウム塩を電子製品等の成形品に用いると、前記成形品表面に施されている金属メッキなどの腐食の原因となる問題が指摘されている。また、近年の環境への配慮の高まりから、環境に対して負荷が大きいハロゲン原子の使用量を低減させた、またはこれを含まない帯電防止剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−227617号公報
【特許文献2】特開2008−214375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、ハロゲン原子を含まなくても優れた帯電防止性能を有する水性コーティング用樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、前記水性コーティング用樹脂組成物の樹脂の主鎖に組み込まれる第4級アンモニウム塩(イオン性モノマー)、および前記水性コーティング用樹脂組成物中に添加される第4級アンモニウム塩(カチオン性界面活性剤)の製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、前記イオン性モノマーを含む水性コーティング用樹脂組成物の製造方法、および前記カチオン性界面活性剤を含む水性コーティング用樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、有機酸イオンを対イオンとする、特定の構造を有する第4級アンモニウム塩を含む水性コーティング用樹脂組成物が、従来のハロゲン原子を含む帯電防止剤と同等の帯電防止性能を有するとともに、即効性および持続性を併せ持つことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、対イオンとして有機酸イオンを用いる特定の構造を有する第4級アンモニウム塩を、イオン性モノマーおよび/またはカチオン性界面活性剤として用いることにより、ハロゲン原子を含む従来の帯電防止剤と同等の帯電性防止性能を有する水性コーティング用樹脂組成物を提供することが可能となる。また、本発明によれば、対イオンとして有機酸イオンを用いることから、ハロゲン原子の使用量が低減された、またはハロゲン原子を含まなくても優れた帯電防止性能を有する水性コーティング用樹脂組成物を提供することができる。この結果として、本発明に係る水性コーティング用樹脂組成物を用いると、コーティングされる成形品に施されている金属メッキなどを腐食させる問題が生じにくくなるとともに、従来の帯電防止剤よりも環境に対する負荷が少なくなる利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施形態を説明する。
【0011】
[水性コーティング用樹脂組成物]
本発明の一実施形態によると、本発明に係る水性コーティング用樹脂組成物は、下記式(1):
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、RはC1〜C20のアルキル基またはC2〜C20のアルケニル基であり;RおよびRは、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキル基であり;RはC2〜C5のアルケニル基、メチルスチリル基、または−OR基であり、この際、RはC2〜C5のアルケニル基、C2〜C4のアルキニル基、または−C(O)R基であり、この際、RはC2〜C5のアルケニル基であり;Aは有機酸イオンを表す。)
で表されるイオン性モノマーと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体を含む。
【0014】
また、本発明の他の実施形態によると、本発明に係る水性コーティング用樹脂組成物は、下記式(2):
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、RはC6〜20のアルキル基またはC6〜20のアルケニル基であり;RおよびRは、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキル基であり;R10はC1〜C5のアルキル基、C2〜C5のアルケニル基、メチルスチリル基、または−OR11基であり、この際、R11はC1〜C5のアルキル基、C2〜C5のアルケニル基、C2〜C4のアルキニル基、−C(O)R12基、−R13−R14基、または−(B−O)−H基であり、この際、R12はC1〜C5のアルキル基またはあC2〜C5のアルケニル基であり、R13はC1〜C8のアルキレン基または−R15−O−R16−O−R17−(この際、R15〜R17は、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキレン基である)であり、R14は下記式
【0017】
【化3】

【0018】
で表される基(この際、R〜Rは上述の通りである)であり、BはC1〜C8のアルキレン基であり、nは1〜100の整数であり;Aは有機酸イオンを表す。)
で表されるカチオン性界面活性剤を含む。
【0019】
第4級アンモニウム塩が、前記式(1)で表されるイオン性モノマーとして用いられる場合には、当該第4級アンモニウム塩は樹脂の主鎖に組み込まれることとなる。一方、第4級アンモニウム塩が、前記式(2)で表されるカチオン性界面活性剤として用いられる場合には、当該第4級アンモニウム塩は水性コーティング用樹脂組成物の添加剤として含まれることとなる。本発明に係る水性コーティング用樹脂組成物は、式(1)で表されるイオン性モノマーまたは前記式(2)で表されるカチオン性界面活性剤のいずれかを必須の構成成分として含む。前記式(1)で表されるイオン性モノマーを含む共重合体と、前記式(2)で表されるカチオン性界面活性剤とをともに含む水性コーティング用樹脂組成物であってもよい。
【0020】
[式(1)で表されるイオン性モノマー]
本発明の一実施形態によると、イオン性モノマーとして用いられる第4級アンモニウム塩は下記式(1)で表される。
【0021】
【化4】

【0022】
前記式(1)において、RはC1〜C20のアルキル基またはC2〜C20のアルケニル基であり、Rの具体例としては、特に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ペンタデシル基、イコシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基、デケニル基、ペンタデケニル基、イコセニル基等のアルケニル基が挙げられる。また、前記式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキル基であり、RおよびRの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基が挙げられる。さらに、RはC2〜C5のアルケニル基、メチルスチリル基、または−OR基であり、Rの具体例としては、特に限定されないが、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基等のアルケニル基;2−メチルスチリル基、3−メチルスチリル基、4−メチルスチリル基等のメチルスチリル基;−OR基が挙げられる。前記RはC2〜C5のアルケニル基、C2〜C4のアルキニル基、または−C(O)R基であり、Rの具体例としては、特に限定されないが、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基等のアルキニル基;−C(O)R基が挙げられる。さらに、前記RはC2〜C5のアルケニル基であり、Rの具体例としては、特に限定されないが、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基等のアルケニル基が挙げられる。また、Aは有機酸イオンである。Aの具体例としては、特に限定されないが、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、マンデル酸、没食子酸、メリト酸、ケイ皮酸、ピルビン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、グルタル酸、アジピン酸、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸のイオンが挙げられる。これらのうち、飽和脂肪族モノカルボン酸が好ましく、酢酸やプロピオン酸等のアルキル基が1〜4程度のカルボン酸がさらに好ましい。
【0023】
前記式(1)で表される第4級アンモニウム塩は、イオン性モノマーとして用いられ、前記イオン性モノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体として樹脂の主鎖に組み込まれることから、Rに少なくとも1つの不飽和基を含む必要がある。前記式(1)で表される第4級アンモニウム塩において、有機酸イオンAが、ハロゲン化物イオンではない点に本発明の技術的特徴を有する。したがって、下記実施例に示すように、本発明に係る第4級アンモニウム塩が、ハロゲン原子を含む従来の帯電防止剤と同等の帯電性防止性能を有するため、本発明に係る第4級アンモニウム塩を従来のハロゲン原子を含む帯電防止剤と併用して用いた場合、得られる水性コーティング用樹脂組成物に含まれるハロゲン原子の総量をより低減することができる。また、本発明に係る第4級アンモニウム塩を単独またはハロゲン原子を含まない他の化合物とともに用いた場合には、得られる水性コーティング用樹脂組成物はハロゲン原子を含まない。よって、本発明によると、従来の帯電防止剤と比較して、ハロゲン原子の使用量を低減させる、またはこれを含まないことから環境に優しい水性コーティング用樹脂組成物が提供できる。当然のことながら、好ましい実施形態は、ハロゲン原子を含まない水性コーティング樹脂組成物である。なお、ハロゲン原子の使用量を低減させることのみを目的とすると、対イオンとして硫酸および硝酸等の強酸のイオンも用いることができると考えられる。しかしながら、前記強酸イオンの安定性は、ハロゲン化物イオンの安定性に匹敵するため、前記強酸を対イオンとする第4級アンモニウム化合物を含む水性コーティング用樹脂組成物を用いると、ハロゲン化物イオンを対イオンとして用いた場合と同様に、成形品表面に施されている金属メッキなどに腐食が生じうる。したがって、本発明において用いられる対イオンは有機酸イオンである。
【0024】
[式(2)で表されるカチオン性界面活性剤]
本発明の他の実施形態によると、カチオン性界面活性剤として用いられる第4級アンモニウム塩は下記式(2)で表される。
【0025】
【化5】

【0026】
前記式(2)において、RはC6〜20のアルキル基またはC6〜20のアルケニル基であり、Rの具体例としては、特に限定されないが、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、イコシル基等のアルキル基;ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デケニル基、ドデケニル基、ペンタデケニル基、イコセニル基等のアルケニル基が挙げられる。また、前記式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキル基であり、RおよびRの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基が挙げられる。さらに、R10はC1〜C5のアルキル基、C2〜C5のアルケニル基、メチルスチリル基、または−OR11基であり、R10の具体例としては、特に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基等のアルケニル基;2−メチルスチリル基、3−メチルスチリル基、4−メチルスチリル基等のメチルスチリル基;−OR11基が挙げられる。前記R11はC1〜C5のアルキル基、C2〜C5のアルケニル基、C2〜C4のアルキニル基、−C(O)R12基、−R13−R14基、または−(B−O)−H基であり、R11の具体例としては、特に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基等のアルキニル基;−C(O)R12基;−R13−R14基;−(B−O)−H基が挙げられる。前記R12は、C1〜C5のアルキル基またはC2〜C5のアルケニル基であり、R12の具体例としては、特に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基等のアルケニル基が挙げられる。また、前記R13はC1〜C8のアルキレン基または−R15−O−R16−O−R17−であり、R13の具体例としては、特に限定されないが、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ヘキシレン基等のアルキレン基が挙げられる。さらに、前記R14は下記式
【0027】
【化6】

【0028】
で表される基(この際、R〜Rは上述の通りである。)である。また、前記R15〜R17は、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキレン基であり、R15〜R17の具体例としては、特に限定されないが、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等のアルキレン基が挙げられる。さらに、前記BはC1〜C8のアルキレン基であり、Bの具体例としては、特に限定されないが、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ヘキシレン基等のアルキレン基が挙げられる。nは1〜100の整数である。
【0029】
前記式(2)で表される第4級アンモニウム塩はカチオン性界面活性剤として用いられ、水性コーティング用樹脂組成物の添加剤として用いられる。また、前記式(2)で表される第4級アンモニウム塩は界面活性剤であることから、Rは少なくとも炭素数6の炭素鎖を有する必要がある。前記炭素鎖とすることで、疎水性部と親水性部とを分子中に含むこととなり、界面活性剤として用いることができる。また、前記式(1)と同様に、前記式(2)においてもAが、ハロゲン化物イオンではなく、有機酸イオンである点に本発明の技術的特徴を有する。
【0030】
[式(1)で表される第4級アンモニウム塩(イオン性モノマー)の製造方法]
本発明において、水性コーティング用樹脂組成物の樹脂の主鎖に組み込まれる下記式(1)で表される第4級アンモニウム塩(イオン性モノマー)は、
【0031】
【化7】

【0032】
下記式(3)で表される第3級アミンと、
【0033】
【化8】

【0034】
下記式(4)で表されるエポキシドと、
【0035】
【化9】

【0036】
を反応させることにより製造されうる。
【0037】
前記式中のR〜Rの定義は、上述の通りである。
【0038】
前記式(3)で表される第3級アミンは公知のものを用いることができ、目的とする式(1)で表される第4級アンモニウム塩に応じて適宜選択されうる。具体例としては、特に限定されないが、トリメチルアミン、ブチルジメチルアミン、ジメチルへキシルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルステアリルアミン、トリエチルアミンが挙げられる。
【0039】
前記式(4)で表されるエポキシドは公知のものを用いることができ、目的とする式(1)で表される第4級アンモニウム塩に応じて適宜選択されうる。具体例としては、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルが挙げられる。
【0040】
上記製造方法において、式(3)で表される第3級アミンと、式(4)で表されるエポキシドとのモル比は、第3級アミン1モルに対して、エポキシド0.5〜1.5モルであり、好ましくは0.7〜1.3モルである。前記製造方法における反応条件は、式(1)で表される第4級アンモニウム塩が得られる条件であれば、特に限定されないが、通常、酸性条件下で行われる。強酸のイオンを用いて第4級アンモニウム塩を合成した後、対イオンを交換することも可能であるが、有機酸イオンを用いて目的とする第4級アンモニウム塩を直接合成することが好ましい。反応温度および反応時間は、前記反応に応じて適宜設定されうる。生成する第4級アンモニウム塩は分子中に不飽和基を含むため、第4級アンモニウム塩の重合化の副反応を防止するためメトキノン(MQ)、ハイドロキノン(HQ)等の重合禁止剤を添加することが好ましい。また、反応系に空気をバブリングしてもよい。
【0041】
[式(2)で表される第4級アンモニウム塩(カチオン性界面活性剤)の製造方法]
本発明において、水性コーティング用樹脂組成物の添加剤として含まれる下記式(2)で表される第4級アンモニウム塩(カチオン性界面活性剤)は、
【0042】
【化10】

【0043】
下記式(5)で表される第3級アミンと、
【0044】
【化11】

【0045】
下記式(6)で表されるエポキシドと、
【0046】
【化12】

【0047】
を反応させることにより製造されうる。
【0048】
前記式中のR〜R10の定義は、上述の通りである。
【0049】
前記式(4)で表される第3級アミンは公知のものを用いることができ、目的とする式(1)で表される第4級アンモニウム塩に応じて適宜選択される。具体例としては、ジメチルヘキシルアミン、ジメチルヘプチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジメチルラウリルアミン等が挙げられる。
【0050】
前記式(5)で表されるエポキシドは、公知のものを用いることができる。具体例としては、メタクリル酸グリシジル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0051】
上記式(2)で表される第4級アンモニウム塩の製造方法において、第3級アミンとエポキシドとの反応モル比、反応条件、反応温度、および反応時間は、上述の式(1)で表される第4級アンモニウム塩の製造方法と同様であるが、反応モル比は、式(4)中のエポキシ基に基づくものであることから、式(4)中に2つのエポキシ基を有する場合には、第3級アミンに対するエポキシドのモル比は2倍の値となる。また、式(2)で表される第4級アンモニウム塩が分子中に不飽和基を含まない場合には、重合禁止剤は添加しなくてもよい。
【0052】
[式(1)で表されるイオン性モノマーを含む水性コーティング用樹脂組成物の製造方法]
本発明の一実施形態において、水性コーティング用樹脂組成物は、下記式(1)で表されるイオン性モノマーと、
【0053】
【化13】

【0054】
これと共重合可能な他のモノマーとを、水性媒体中で乳化重合させることにより製造されうる。前記イオン性モノマーが共重合体の構成成分として樹脂の主鎖に組み込まれることにより、水性コーティング用樹脂組成物が帯電防止性能を有する。
【0055】
前記式中のR〜Rの定義は、上述の通りである。
【0056】
前記イオン性モノマーと共重合可能な他のモノマーは、分子中に不飽和基を有するものであればよく、表面配向性、接着性等を考慮して適宜選択されうる。この際、前記式(1)におけるRおよび前記他のモノマー中に不飽和基が含まれていれば、エーテル基、エステル基等の官能基の存在および炭素鎖の構造に関わらず、重合反応が問題なく進行することは公知の技術常識である。したがって、前記式(1)および前記他のモノマーは特に限定されない。前記他のモノマー(単量体)の具体例としては、(メタ)アクリレート単量体、芳香族炭化水素系ビニル単量体、ビニルエステルやアリル化合物、ニトリル基含有ビニル系単量体、エポキシ基含有ビニル系単量体、水酸基含有ビニル系単量体、スルホン酸基含有ビニル系単量体、不飽和カルボン酸塩、ポリオキシアルキレン鎖を有するビニル系単量体などが挙げられる。さらに具体的には、メチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート単量体;スチレン、2‐メチルスチレン、4‐ヒドロキシスチレン、ビニルトルエン等の芳香族炭化水素系ビニル単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ジアリルフタレート等のビニルエステルやアリル化合物;ニトリル基含有ビニル系単量体;エポキシ基含有ビニル系単量体;水酸基含有ビニル系単量体;スチレンスルホン酸ナトリウム、2−スルホエチルメタクリレートナトリウム、2−スルホエチルメタクリレートアンモニウム等のスルホン酸基含有ビニル系単量体;アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム等の不飽和カルボン酸塩;ポリオキシアルキレン鎖を有するビニル系単量体が挙げられる。これらの他、重合性の不飽和基を2つ以上有する単量体、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンを用いてもよい。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、メタアクリレートまたはアクリレートを意味する。
【0057】
なお、前記重合性の不飽和基を2つ以上有する単量体を使用すると、生成した粒子内部に架橋を有する構造となり、形成したコーティング膜の耐水性が向上しうる。また、スルホン酸基含有ビニル系単量体、不飽和カルボン酸塩、ポリオキシアルキレン鎖を有するビニル系単量体等の親水基を有するビニル系単量体を使用すると、帯電防止性能の付与の効果およびエマルションの安定性が向上しうる。
【0058】
本発明の一実施形態によると、式(1)で表されるイオン性モノマーと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合は、特に制限はないが、ラジカル重合、特に乳化重合によって好適に行われる。乳化重合により重合を行うと、重合度が高くなるとともに、粒子が微細化して得られるため、コーティング膜の外観が向上しうる。前記乳化重合は、公知の方法、例えばバッチ重合法、モノマー滴下重合法、乳化モノマー滴下重合法などによって行われる。また、コア部となる単量体を乳化重合した後、水性分散剤の存在下でシェル部を導入することにより、コアシェル型エマルションを製造してもよい。この際、前記シェル部の導入は分割して行ってもよい。
【0059】
本発明の一実施形態によると、前記共重合は乳化重合で行われるため、重合の際には界面活性剤が添加される。前記界面活性剤は、乳化重合が進行するものであれば、公知の非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、および両性界面活性剤を用いることができ、このうち、非イオン性界面活性剤およびカチオン性界面活性剤を用いることが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル等のポリオキシエチレン鎖を有するものが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、およびアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩が挙げられる。本発明に係る式(2)で表されるカチオン性界面活性剤を用いてもよい。また、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンアルキルエーテルや、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の反応性界面活性剤を用いてもよい。上述の界面活性剤のうち、本発明に係る式(2)で表されるカチオン性界面活性剤を用いると、水性コーティング樹脂組成物の帯電防止性能がより向上することから、前記式(2)で表されるカチオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
【0060】
なお、上述の界面活性剤のうち、分子中に不飽和基を有する界面活性剤を用いると、樹脂組の泡立ちが抑制されるとともに、得られる水性コーティング用樹脂組成物の耐水性および耐候性が向上しうる。また、分子中にポリオキシアルキレン基を有する反応性界面活性剤を用いると、機械的安定性が向上しうる。
【0061】
上述の界面活性剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。界面活性剤の総使用量は、単量体全量100重量部に対して、有効成分量として10重量部以下、好ましくは1〜8重量部である。
【0062】
[式(2)で表されるカチオン性界面活性剤を含む水性コーティング用樹脂組成物の製造方法]
本発明の一実施形態において、水性コーティング用樹脂組成物は、樹脂を形成させるための乳化重合を、下記式(2):
【0063】
【化14】

【0064】
で表されるカチオン性界面活性剤の存在下で行うことにより製造されうる。この結果、前記式(2)で表されるカチオン性界面活性剤は、製造された水性コーティング用樹脂組成物に含まれることにより、水性コーティング用樹脂組成物が帯電防止性能を有する。
【0065】
前記式中のR〜Rの定義は、上述の通りである。
【0066】
本発明の一実施形態において、前記樹脂は、表面配向性、接着性等を考慮して適宜選択され、公知のものが用いられうる。前記樹脂の例としては、特に制限されないが、アクリル樹脂等が挙げられる。前記樹脂は、本発明に係る式(1)で表されるイオン性モノマーが組み込まれた共重合体であってもよく、水性コーティング用樹脂組成物の帯電防止性能の向上の観点から、前記式(1)で表されるイオン性モノマーが組み込まれた共重合体を用いることが好ましい。前記樹脂の形成は、特に限定されないが、上述の場合と同様に、ラジカル重合、特に乳化重合により行われることが好ましい。前記重合は公知の方法により行われうる。また、コアシェル型エマルションを製造してもよい。
【0067】
本発明の一実施形態によると、前記樹脂の形成は乳化重合で行われることから、前記式(2)で表されるカチオン性界面活性剤を添加することにより、モノマーを媒体に分散させることができる。乳化重合の際に添加する界面活性剤は、前記式(2)で表されるカチオン性界面活性剤を単独で用いてもよいが、さらに上述の公知の界面活性剤と組み合わせて用いてもよい。前記式(2)で表されるカチオン性界面活性剤の有効成分量としての使用量は、帯電防止性能を発揮させるため、界面活性剤の総量100重量部に対して、1〜100重量部含むことが好ましい。
【0068】
[添加剤]
本発明の一実施形態によると、樹脂は、乳化重合により製造される。この際、一般的な乳化重合と同様に、重合開始剤を添加して乳化重合が行われうる。用いられる重合開始剤としては、特に限定はなく、アゾビス−2−メチルブチロニトリル等のアゾ化合物;過硫酸カリウムや過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;クメンヒドロペルオキシド等の有機過酸化物が挙げられる。重合開始剤の使用量は、単量体100重量部に対して、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部である。重合開始剤の使用量が0.01重量部以上であれば、重合がより進行しやすくなるため好ましく、10重量部を以下である場合には、生成する重合体が所望の分子量で得られやすくなるため好ましい。
【0069】
本発明の一実施形態によると、乳化重合において、重合開始剤の活性温度、重合中の反応溶液の安定性、および重合の反応性を考慮すると、重合温度は70〜85℃、好ましくは75℃〜80℃である。
【0070】
本発明の一実施形態によると、本発明に係るコーティング用樹脂組成物は水性であり、前記乳化重合の媒体として水を含むものが好ましい。前記水は、工業的に得られるものであれば品質は特に限定されないが、成形品の品質およびエマルションに対する塩の影響等の観点から、純度が高い水を用いることが好ましく、イオン交換処理を行った脱イオン水および蒸留処理した蒸留水を用いることがさらに好ましい。前記媒体には水の他、有機溶剤を含みうる。前記有機溶剤は、特に限定されないが、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤;プロピレングリコール等のグリコール系溶剤;エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤;プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤が挙げられる。しかしながら、重合時のエマルションの安定性、環境配慮の観点、および成形品に対する影響等の観点から、媒体は有機溶剤を含有しないことがより好ましい。
【0071】
本発明の一実施形態によると、乳化重合の系中の樹脂の固形分濃度を調整することが好ましい。前記固形分濃度は、好ましくは5〜70重量%であり、さらに好ましくは10〜40重量%である。固形分濃度が70重量%以下であると、系の粘度が著しく上昇しないため好ましい。粘度を制御することができると、重合時に発生した熱が除去しやすくなり、重合反応器から樹脂組成物を取り出しやすくなり、並びに水性コーティング樹脂のコーティング膜が厚くなり過ぎない等の利点がある。また、固形分濃度が5重量%以上であると、1回の重合反応によって得られる樹脂の量が多くなり、また経済性、塗装作業性、塗膜性の観点から好ましい。
【0072】
本発明の一実施形態によると、得られた樹脂組成物には、コーティング材に用いられる公知の添加剤が添加されうる。前記添加剤の例としては、グリコール類、成膜助剤、可塑剤、分散剤、湿潤剤、増粘剤、防腐剤、凍結防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、消泡剤などが挙げられる。前記グリコール類の例としては、特に限定されないが、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。また、前記成膜助剤としては、特に限定されないが、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエステル類等が挙げられる。
【実施例】
【0073】
以下に実施例および比較例により本発明の効果を詳細に説明するが、本発明を限定するものではない。
【0074】
合成例1:イオン性モノマーとしての第4級アンモニウム塩の合成(1)
温度計、還流冷却器、ガス吹きこみ管、滴下漏斗を備えた500mLの反応器に、ジメチルラウリルアミン71部、イオン交換水10部、メタノール50部、メトキノン(MQ)0.04部を仕込んだ。次いで、撹拌しながら、酢酸26部をゆっくり滴下した。重合を防止するため、空気をバブリングしながら、50℃に昇温した。メタクリル酸グリシジル61.6部を2時間かけて滴下した後、50℃で6時間、室温で16時間遮光しで熟成させた。次いで、50℃まで昇温し、空気を激しく導入してメタノールを除去した。得られた生成物は、透明な粘ちょう性の液体であった。生成物中に含まれる未反応第3級アミンの残存量は、電位差滴定により定量したところ0.48%であった。また、生成物中に含まれる未反応のエポキシドの残存量は、エポキシ当量を測定したところ0%であった。
【0075】
【化15】

【0076】
合成例2:イオン性モノマーとしての第4級アンモニウム塩の合成(2)
温度計、還流冷却器、ガス吹きこみ管、滴下漏斗を備えた500mLの反応器に、ジメチルオクチルアミン79部、イオン交換水15部、メタノール60部、MQ 0.06部を仕込んだ。次いで、撹拌しながら、酢酸39部をゆっくり滴下した。重合を防止するため、空気をバブリングしながら、50℃まで昇温した。メタクリル酸グリシジル92.4部を2時間かけて滴下した後、50℃で6時間、室温で16時間遮光して熟成させた。次いで、50℃まで昇温し、空気を激しく導入して、反応器内のメタノールを除去した。得られた生成物は、透明な粘ちょう性液体であった。生成物中に含まれる未反応第3級アミンの残存量は、電位差滴定により定量したところ0.64%であった。また、生成物中に含まれる未反応のエポキシドの残存量は、エポキシ当量を測定したところ0%であった。
【0077】
【化16】

【0078】
合成例3:カチオン性界面活性剤としての第4級アンモニウム塩の合成(3)
温度計、還流冷却器、ガス吹きこみ管、滴下漏斗を備えた500mLの反応器に、ジメチルラウリルアミン85.2部、メタノール60部、イオン交換水12部を仕込んだ。次いで、撹拌しながら、酢酸28部をゆっくり滴下した。43〜45℃まで昇温し、エチレングリコールジグリシジルエーテル53.9部を2時間かけて滴下した後、43〜45℃で5時間、室温で16時間遮光して熟成させた。次いで、50℃まで昇温し、窒素ガスを激しく導入して、反応器内のメタノールを除去した。得られた生成物は黄色の粘ちょう性液体であった。生成物中に含まれる未反応第3級アミンの残存量は、電位差滴定により定量したところ0%であった。
【0079】
【化17】

【0080】
合成例4:カチオン性界面活性剤としての第4級アンモニウム塩の合成(4)
温度計、還流冷却器、ガス吹きこみ管、滴下漏斗を備えた500mLの反応器に、ジメチルラウリルアミン85.2部、メタノール60部、イオン交換水12部を仕込んだ。次いで、撹拌しながら、酢酸28部をゆっくり滴下した。40〜42℃まで昇温し、ブタンジオールジグリシジルエーテル45.2部を2時間かけて滴下した後、40〜42℃で5時間、室温で16時間遮光して熟成させた。次いで、50℃まで昇温さし、窒素ガスを激しく導入して、反応器内のメタノールを除去した。得られた反応物は黄色の粘ちょう性液体であった。生成物中に含まれる未反応第3級アミンの残存量は、電位差滴定により定量したところ0.7%であった。
【0081】
【化18】

【0082】
(実施例1)
撹拌機、還流冷却器、温度計、滴下漏斗を備えた反応器に水207部、合成例3で得られたカチオン系界面活性剤4.4部を仕込んだ。反応器とは別の容器に、水138部、合成例3で得られたカチオン系界面活性剤1.1部、合成例1で得られたイオン性モノマー15部、反応性活性剤としてAntox LMA-20(日本乳化剤株式会社製)2.5部を仕込み、撹拌した。その後、メタクリル酸メチル20部、n-アクリル酸ブチル5部、アクリル酸グリシジル10部、過硫酸アンモニウム10%水溶液0.5部を添加して撹拌し、プレエマルションを調製した。前記プレエマルションのうち、全量の10%を反応器に仕込んだ。反応器を80℃に昇温して初期重合させた後、残りのプレエマルションを3時間かけて滴下して乳化重合させた。さらに80℃で1時間熟成させた後に冷却してポリマーエマルションを得た。
(実施例2〜4および比較例1〜3)
実施例2〜4および比較例1〜3についても、カチオン性界面活性剤およびイオン性モノマー等を適宜変更して、実施例1と同様の方法で乳化重合を行い、ポリマーエマルションを得た。
【0083】
実施例1〜4は、合成例1または2で合成されたイオン性モノマー、および合成例3または4で合成されたカチオン性界面活性剤を含むポリマーエマルションである。
【0084】
比較例1および2は、前記イオン性モノマーおよびカチオン性界面活性剤に変えて、従来のハロゲン原子含有イオン性モノマー(MOTAC)およびハロゲン原子含有カチオン性界面活性剤(DTAC)を含むポリマーエマルションである。また、比較例3は、対イオンとしてヒドリドイオンを用いた、ハロゲン原子を含まない公知の界面活性剤(Texnol L-7)を含むポリマーエマルションである。
【0085】
以下の表1にそれぞれの実施例および比較例における組成を示す。
【0086】
【表1】

【0087】
前記表中の化合物の構造を下記に示す。
【0088】
【化19】

【0089】
それぞれの実施例および比較例で得られたポリマーエマルションについて、重合安定性、平均粒子径、コーティング膜の透明性、コーティング膜の表面固有抵抗値を評価した。それぞれの評価方法は、下記の通りである。
【0090】
重合安定性
得られたポリマーエマルションを200メッシュのナイロン網を用いて濾過し、ナイロン網上の残渣を水洗後、乾燥し、その重量をエマルションの固形分に対して百分率で示した。
【0091】
平均粒子径
レーザー回折式粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製:LS-230)を用いて平均粒子径を測定した。
【0092】
コーティング膜の透明性
ポリカーボネート片をポリマーエマルションに浸漬した後、ドライヤーで風乾した。目視で確認して、コーティング膜が透明なものを○、濁りが見られたものを×と表示した。
【0093】
コーティング膜の表面固有抵抗値
ガラス板にポリマーエマルションを3ミルの膜厚で塗布した。110℃で3分間乾燥した後、室温まで冷却してコーティング膜を調製した。得られたコーティング膜の表面固有抵抗値を簡易式表面抵抗計(太陽電機産業株式会社製:WA-400)で測定した。コーティング膜の調製から室温で1週間放置したコーティング膜についても同様に表面固有抵抗値を測定した。
【0094】
得られた結果を下記表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
表2の結果からも明らかなように、実施例1〜4のポリマーエマルションは、ハロゲン原子を含む比較例1および2のポリマーエマルションと同等の帯電防止性能を示し、ハロゲン原子を含まない公知の界面活性剤を用いた比較例3のポリマーエマルションよりも優れた帯電防止性能を有することが分かる。さらに、コーティング膜の表面固有抵抗値の測定値(直後および1週間後)から、本発明に係る水性コーティング樹脂組成物の帯電防止性能は、即効性および持続性を併せ持つことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

(式中、RはC1〜C20のアルキル基またはC2〜C20のアルケニル基であり;RおよびRは、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキル基であり;RはC2〜C5のアルケニル基、メチルスチリル基、または−OR基であり、この際、RはC2〜C5のアルケニル基、C2〜C4のアルキニル基、または−C(O)R基であり、この際、RはC2〜C5のアルケニル基であり;Aは有機酸イオンを表す。)
で表されるイオン性モノマーと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体を含む、水性コーティング用樹脂組成物。
【請求項2】
前記他のモノマーが、不飽和基を有する非イオン性界面活性剤を含む、請求項1に記載の水性コーティング用樹脂組成物。
【請求項3】
下記式(2):
【化2】

(式中、RはC6〜20のアルキル基またはC6〜20のアルケニル基であり;RおよびRは、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキル基であり;R10はC1〜C5のアルキル基、C2〜C5のアルケニル基、メチルスチリル基、または−OR11基であり、この際、R11はC1〜C5のアルキル基、C2〜C5のアルケニル基、C2〜C4のアルキニル基、−C(O)R12基、−R13−R14基、または−(B−O)−H基であり、この際、R12はC1〜C5のアルキル基またはC2〜C5のアルケニル基であり、R13はC1〜C8のアルキレン基または−R15−O−R16−O−R17−(この際、R15〜R17は、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキレン基である)であり、R14は下記式
【化3】

で表される基(この際、R〜Rは上述の通りである)であり、BはC1〜C8のアルキレン基であり、nは1〜100の整数であり;Aは有機酸イオンを表す。)
で表されるカチオン性界面活性剤を含む、水性コーティング用樹脂組成物。
【請求項4】
ポリオキシアルキレン鎖を有する非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項3に記載の水性コーティング用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の要件および請求項3または4に記載の要件を満たす、水性コーティング用樹脂組成物。
【請求項6】
前記有機酸イオンが、カルボン酸イオンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性コーティング用樹脂組成物。
【請求項7】
ハロゲン原子を含まないことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性コーティング用樹脂組成物。
【請求項8】
下記式(3):
【化4】

(式中、RはC1〜20のアルキル基またはC2〜20のアルケニル基であり;RおよびRは、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキル基を表す。)
で表される第3級アミンと、下記式(4):
【化5】

(式中、RはC2〜C5のアルケニル基、メチルスチリル基、または−OR基であり、この際、RはC2〜C5のアルケニル基、C2〜C4のアルキニル基、または−C(O)R基であり、この際、RはC2〜C5のアルケニル基を表す。)
で表されるエポキシドと、を反応させることを含む、下記式(1):
【化6】

(式中、R〜Rは上述の通りであり;Aは有機酸イオンを表す。)
で表される化合物の製造方法。
【請求項9】
下記式(5):
【化7】

(式中、RはC6〜20のアルキル基またはC6〜20のアルケニル基であり;RおよびRは、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキル基を表す。)
で表される第3級アミンと、下記式(6):
【化8】

(式中、R10はC1〜C5のアルキル基、C2〜C5のアルケニル基、メチルスチリル基、または−OR11基であり、この際、R11はC1〜C5のアルキル基、C2〜C5のアルケニル基、C2〜C4のアルキニル基、−C(O)R12基、−R13−R14基、または−(B−O)−H基であり、この際、R12はC1〜C5のアルキル基またはC2〜C5のアルケニル基であり、R13はC1〜C8のアルキレン基または−R15−O−R16−O−R17−(この際、R15〜R17は、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキレン基である)であり、R14は下記式:
【化9】

で表される基(この際、R〜Rは上述の通りである)であり、BはC1〜C8のアルキレン基であり、nは1〜100の整数を表す。)
で表されるエポキシドと、を反応させることを含む、下記式(2):
【化10】

(式中、R〜R10は上述の通りであり;Aは有機酸イオンを表す。)
で表される化合物の製造方法。
【請求項10】
下記式(1):
【化11】

(式中、RはC1〜C20のアルキル基またはC2〜C20のアルケニル基であり;RおよびRは、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキル基であり;RはC2〜C5のアルケニル基、メチルスチリル基、または−OR基であり、この際、RはC2〜C5のアルケニル基、C2〜C4のアルキニル基、または−C(O)R基であり、この際、RはC2〜C5のアルケニル基であり;Aは有機酸イオンを表す。)
で表されるイオン性モノマーと、これと共重合可能な他のモノマーとを、水性媒体中で乳化重合させることを含む、水性コーティング用樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
樹脂を形成させるための乳化重合を、下記式(2):
【化12】

(式中、RはC6〜20のアルキル基またはC6〜20のアルケニル基であり;RおよびRは、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキル基であり;R10はC1〜C5のアルキル基、C2〜C5のアルケニル基、メチルスチリル基、または−OR11基であり、この際、R11はC1〜C5のアルキル基、C2〜C5のアルケニル基、C2〜C4のアルキニル基、−C(O)R12基、−R13−R14基、または−(B−O)−H基であり、この際、R12はC1〜C5のアルキル基またはC2〜C5のアルケニル基であり、R13はC1〜C8のアルキレン基または−R15−O−R16−O−R17−(この際、R15〜R17は、それぞれ独立して、C1〜C4のアルキレン基である)であり、R14は下記式
【化13】

で表される基(この際、R〜Rは上述の通りである)であり、BはC1〜C8のアルキレン基であり、nは1〜100の整数であり;Aは有機酸イオンを表す。)
で表されるカチオン性界面活性剤の存在下で行うことを含む、水性コーティング用樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
乳化重合を、請求項11に記載のカチオン性界面活性剤の存在下で行う、請求項10に記載の水性コーティング用樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記水性媒体が水を含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−201764(P2012−201764A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66750(P2011−66750)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(390014856)日本乳化剤株式会社 (26)
【Fターム(参考)】