説明

水性コート剤および積層体

【課題】バインダ成分として植物由来材料を使用しながら、帯電防止性能だけでなく、透明性、基材との密着性、耐擦過性を有する塗膜を得ることのできる水性コート剤を提供するとともに、この水性コート剤を積層した積層体を提供する。
【解決手段】ダイマー酸系樹脂微粒子(A)100質量部と、酸化スズ系微粒子(B)30〜2000質量部と、塩基性化合物(C)と、水性媒体(D)とを含有し、不揮発性水性化助剤を実質的に含有しないことを特徴とする水性コート剤。ダイマー酸系樹脂100質量部と、酸化スズ系微粒子30〜2000質量部とを含有する層が、基材の少なくとも一方の面に形成されていることを特徴とする積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来材料をバインダ成分として使用しながら、透明性が高く、密着性、耐擦過性に優れた塗膜を得ることができる水性コート剤、およびそれを塗工してなる積層体に関するものであり、具体的には、帯電防止コート剤及び透明帯電防止フィルム等として利用されるものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料はその加工性に加えて、軽くてさびず、さらに、安価であるなどの理由から、種々の産業界で大量に使われている。しかし、樹脂は表面抵抗率が高いために摩擦などにより帯電し、しかもそれが容易に除電されないため、塵やホコリを吸着しやすい。その結果、外観不良や異物混入、さらには電気電子機器の機能破壊や作動不良などの原因となるため、帯電防止コート剤によって樹脂に表面処理が求められるケースは少なくない。
【0003】
帯電防止コート剤は、帯電防止性能を有する無機系フィラーと、結着剤としてのバインダ成分とから構成され、これを基材上に塗工、乾燥させることで帯電防止層を積層することができる。本発明者らも、特許文献1、2、3などで、水分散性樹脂をバインダに使用した帯電防止コート剤を提案している。
【0004】
昨今、化石資源の枯渇や地球の温暖化対策として、再生可能な材料である植物由来材料の使用が推奨され始めている。基材はもちろん、塗剤のバインダ成分としても植物由来材料の使用が広く検討されている。上記特許文献のうち、特許文献1、2では、帯電防止コート剤に、石油由来樹脂をバインダ成分として使用しているのに対し、特許文献3では、バインダ成分として、ポリ乳酸の使用が提案されている。ポリ乳酸は、とうもろこしやさつまいもなどの農作物を原料とする植物由来であり、資源的にも有利で、生分解性であり、更に透明性にも優れている。しかしながら、バインダ成分としてポリ乳酸を使用したコート剤においては、ポリ乳酸系樹脂以外の樹脂材料に対する密着性、特に耐擦過性が十分でないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4005392号公報
【特許文献2】特許第4064086号公報
【特許文献3】特開2006−124439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、バインダ成分として植物由来材料を使用しながら、帯電防止性能だけでなく、透明性、基材との密着性、耐擦過性を有する塗膜を得ることのできる水性コート剤を提供するとともに、この水性コート剤を積層した積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、バインダ成分として植物由来材料であるダイマー酸系樹脂を使用すると、この樹脂の水性分散体と酸化スズ系微粒子の水分散体とから調製した水性コート剤を塗工することで形成された塗膜は、帯電防止性能、透明性、基材との密着性、耐擦過性に優れているという事実を見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
【0008】
(1)ダイマー酸系樹脂微粒子(A)100質量部と、酸化スズ系微粒子(B)30〜2000質量部と、塩基性化合物(C)と、水性媒体(D)とを含有し、不揮発性水性化助剤を実質的に含有しないことを特徴とする水性コート剤。
(2)ダイマー酸系樹脂が、ジカルボン酸成分としてダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含有し、酸価が1〜20mgKOH/gであることを特徴とする(1)に記載の水性コート剤。
(3)ダイマー酸系樹脂が、ダイマー酸系ポリアミド樹脂であることを特徴とする(1)または(2)に記載の水性コート剤。
(4)ダイマー酸系樹脂100質量部と、酸化スズ系微粒子30〜2000質量部とを含有する層が、基材の少なくとも一方の面に形成されていることを特徴とする積層体。
(5)表面抵抗率が1012Ω/□以下であることを特徴とする(4)に記載の積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性コート剤から得られる塗膜は、帯電防止性に優れ、基材との密着性、透明性、耐擦過性にも優れている。また、植物由来材料であるダイマー酸をバインダ成分の原料として使用しているなどの理由から環境保全性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の水性コート剤は、ダイマー酸系樹脂微粒子(A)、酸化スズ系微粒子(B)、塩基性化合物(C)および水性媒体(D)を含有する。なお、本発明において微粒子とは、数平均粒子径が1μm以下の粒子を意味する。
【0011】
本発明におけるダイマー酸系樹脂とは、樹脂原料としてダイマー酸を使用したものである。
ダイマー酸とは、オレイン酸やリノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られるジカルボン酸であり、植物由来の脂肪酸である。
ダイマー酸系樹脂は、ジカルボン酸成分を含有することを必須とする樹脂であり、ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含有することが好ましい。ダイマー酸成分の25質量%以下であれば、単量体であるモノマー酸(炭素数18)および三量体であるトリマー酸(炭素数54)および炭素数20〜54の他の重合脂肪酸を含んでもよく、さらに水素添加して不飽和度を低下させたものでもよい。また、ジカルボン酸成分として、ダイマー酸以外の成分、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ピメリン酸、スベリン酸、ノナンジカルボン酸、フマル酸などを50モル%未満含有することにより、樹脂の軟化点や接着性などを自由に制御することができる。
【0012】
ダイマー酸をジカルボン酸成分として含むダイマー酸系樹脂としては、ダイマー酸系ポリアミド樹脂、ダイマー酸系ポリエステル樹脂などが挙げられ、これらを混合して用いてもよい。特にダイマー酸系ポリアミド樹脂は、接着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性に優れた樹脂であることから、本発明におけるダイマー酸系樹脂として好ましい。
【0013】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂とは、主鎖にアミド結合を有するものであり、主にジカルボン酸成分とジアミン成分を用いた脱水縮合反応によって得られるものである。
本発明におけるダイマー酸系ポリアミド樹脂は、中でもジカルボン酸成分としてダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含むことが好ましく、さらには70モル%以上含むことが好ましい。ダイマー酸の割合が50モル%未満であると、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の特性や効果を奏することが困難となる。
ダイマー酸系ポリアミド樹脂を構成するジアミン成分は、特に限定されるものではないが、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、m−キシレンジアミン、フェニレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピペラジンなどを用いることができ、中でもエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、m−キシレンジアミン、ピペラジンが好ましい。
さらに、樹脂を重合する際のジカルボン酸成分とジアミン成分の仕込み比によって、樹脂の重合度や酸価もしくはアミン価を制御することが可能となる。
【0014】
また、ダイマー酸系ポリエステル樹脂とは、主鎖にエステル結合を有するものであり、主にジカルボン酸成分とジオール成分から構成されるものである。なお、重合法については特に限定されず、常法により適宜行えばよい。
ダイマー酸系ポリエステル樹脂を構成するジオール成分は、特に限定されるものではないが、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。また、3官能以上の多価アルコール、例えばグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が含まれていてもよい。
【0015】
本発明におけるダイマー酸系樹脂の酸価は、1〜20mgKOH/gであることが好ましく、1〜15mgKOH/gであることがより好ましく、3〜12mgKOH/gであることがさらに好ましい。ここで酸価とは、樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数で定義されるものであり、例えばJIS K 2501に記載の方法で評価される。ダイマー酸系樹脂の酸価が1mgKOH/g未満では、安定な水性分散体を得ることが困難になり、一方20mgKOH/gを超えると、本来のダイマー酸系樹脂の良好な特性である耐薬品性が低下することがある。
【0016】
ダイマー酸の市販品としては、例えば、ハリダイマーシリーズ(ハリマ化成社製)、プリポールシリーズ(クローダジャパン社製)、ツノダイムシリーズ(築野食品工業社製)などが挙げられる。
【0017】
本発明の水性コート剤は、上記ダイマー酸系樹脂を微粒子として含有する。ダイマー酸系樹脂微粒子(A)を含有する水性コート剤は、ダイマー酸系樹脂微粒子(A)の水性分散体を使用して製造することができる。
【0018】
本発明において、ダイマー酸系樹脂微粒子(A)の水性分散体の製造方法は特に限定されるものではないが、ダイマー酸系樹脂微粒子(A)が水性媒体中に均一に分散化される方法によって製造することができる。例えば、所定量のダイマー酸系樹脂、塩基性化合物(C)、水に加えて、好ましくは水性化を促進する目的で親水性有機溶剤を容器に入れ、70〜280℃の温度で、毎分100〜1000回転で樹脂が完全に分散されるまで撹拌することによって、ダイマー酸系樹脂微粒子(A)の水性分散体を得ることができる。もしくは、容器を70〜280℃に加熱しておき、所定量のダイマー酸系樹脂および塩基性化合物(C)、水に加えて、好ましくは水性化を促進する目的で親水性有機溶剤を圧入し、毎分100〜1000回転で樹脂が完全に分散されるまで撹拌することによっても得ることができる。ここで、「ダイマー酸系樹脂微粒子(A)が水性媒体中に均一に分散化された状態」とは、外観上、水性媒体中に沈殿、相分離あるいは皮張りといった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見いだされない状態にあることをいう。
水性分散体における樹脂含有率は、特に限定されるものではないが、1〜60質量%が好ましく、取り扱いの観点から5〜45質量%がより好ましく、10〜30質量%が特に好ましい。
親水性有機溶剤の添加量は、水を含む媒体成分において、10〜60質量%が好ましく、20〜50質量%であることがより好ましい。親水性有機溶剤が10質量%未満では、ダイマー酸系樹脂の水性分散化が十分に進行しない場合があり、60質量%を超えると分散体がゲル化する恐れがある。
ダイマー酸系樹脂微粒子(A)の水性分散体の製造工程において、必要に応じて、トルエンやシクロヘキサンなどの炭化水素系有機溶剤を、水および親水性有機溶剤の含有量の合計に対して10質量%以下添加してもよい。炭化水素系有機溶剤が10質量%を超えると、製造工程において水との分離が激しくなり、均一な水性分散体が得られない場合がある。
また、ダイマー酸系樹脂、塩基性化合物、水、親水性有機溶剤を含有する水性分散体から、親水性有機溶剤を留去することにより、完全水系のダイマー酸系樹脂微粒子の分散体を得ることが可能である。
【0019】
上述のダイマー酸系樹脂微粒子(A)の水性分散体の製造方法によれば、得られた水性分散体を室温まで冷却することによって、その過程で何ら凝集することなく、低粘度の水性分散体を得ることができる。具体的には、分散体の25℃における粘度は500mPa・s以下と十分に低粘度の水性分散体であり、加工性や安定性に優れている。
【0020】
ダイマー酸系樹脂微粒子(A)水性分散体におけるダイマー酸系樹脂微粒子(A)の数平均粒子径は、水性コート剤とする際の液混合性の観点から500nm未満が好ましく、低温造膜性およびこれにともなう透明性、密着性の観点から200nm以下がより好ましく、100nm以下がより好ましい。ダイマー酸系樹脂微粒子(A)の数平均粒子径が500nmを超えると、混合安定性、透明性、密着性が不十分となる場合がある。前述の特定組成のダイマー酸系樹脂を用い、上記製造方法を採用することにより500nm以下の数平均粒子径を有する水性分散体を得ることができる。なお、ダイマー酸系樹脂微粒子(A)の数平均粒子径は、後述する酸化スズ系微粒子の場合と同様に、動的光散乱法によって測定される。
【0021】
本発明の水性コート剤は、酸化スズ系微粒子(B)を含有する。酸化スズ系微粒子(B)の具体例としては、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化スズ、酸化スズドープインジウム、アルミニウムドープ酸化スズ、タングステンドープ酸化スズ、酸化チタン−酸化セリウム−酸化スズの複合体、酸化チタン−酸化スズの複合体などが挙げられ、それらの溶媒和物や配位化合物も用いることができる。なかでも導電性などの性能に優れかつそれとコストとがバランスのとれた酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、酸化スズドープインジウムおよびそれらの溶媒和物や配位化合物が好ましく用いられる。
【0022】
本発明の水性コート剤は、ダイマー酸系樹脂微粒子(A)100質量部に対して、酸化スズ系微粒子(B)を、30〜2000質量部含有していることが必要であり、100〜1800質量部含有していることが好ましく、300〜1500質量部含有していることがより好ましい。酸化スズ系微粒子(B)の含有量が30質量部未満では、このコート剤を用いて得られる塗膜の帯電防止性が不十分になる。一方、2000質量部を超えると、コート剤の塗工性、並びに基材と塗膜との密着性が共に低下する。
【0023】
酸化スズ系微粒子(B)の数平均粒子径は、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下である。数平均粒子径が100nmを超えると、塗膜の透明性、密着性が低下する場合がある。ここで、酸化スズ系超微粒子の数平均粒子径は、微粒物質の粒子径を測定するために一般的に使用されている動的光散乱法によって測定される。
【0024】
一方、酸化スズ系微粒子(B)の製造方法も、特に限定されない。
たとえば酸化スズ微粒子は、金属スズやスズ化合物を加水分解または熱加水分解する方法や、スズイオンを含む酸性溶液をアルカリ加水分解する方法や、スズイオンを含む溶液をイオン交換膜やイオン交換樹脂によりイオン交換する方法などにより製造することができる。
また、後述する酸化スズ系微粒子の水分散体についても、その製造方法は特に限定されない。例えば、分散安定剤としてアルキルアミンを用いて酸化スズ系微粒子水分散体を製造する方法などが挙げられる。
また、市販されている酸化スズ系微粒子の水分散体を使用することもできる。例えば、一般的な酸化スズ微粒子の水分散体としては、ユニチカ社製 AS11T、アンチモンドープ酸化スズ系微粒子の水分散体としては、石原産業社製 SN100Dなどがある。そして、酸化スズドープインジウム微粒子としては、シーアイ化成社製 ITOなどがある。
【0025】
また、本発明の水性コート剤は、塩基性化合物(C)を含有することが必要である。
塩基性化合物(C)は、ダイマー酸系樹脂中のカルボキシル基を中和し、中和によって生成したカルボキシルアニオン間の静電気的反発力によって、水性コート剤中でのダイマー酸系樹脂粒子(A)間の凝集が防がれ、水性コート剤に安定性が付与される。また、塩基性化合物(C)は、酸化スズ系微粒子(B)の水性分散体中での分散安定性にも寄与し、水性コート剤に安定性が付与される。したがって、塩基性化合物(C)としてはダイマー酸系樹脂中のカルボキシル基を中和でき、かつ酸化スズ系微粒子(B)を分散安定化できるものが用いられる。
なお、塩基性化合物(C)は、常圧時の沸点が185℃未満であることが好ましい。沸点が185℃を超えると、水性コート剤を塗膜にする際に、乾燥によって塩基性化合物(C)、特に有機アミンを揮発させることが困難になり、衛生面や塗膜物性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0026】
塩基性化合物(C)としては、アンモニア、有機アミンなどのアミン類などが挙げられる。有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N、N−ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。これらは混合して用いてもよい。
【0027】
水性コート剤における塩基性化合物(C)の含有量は、ダイマー酸系樹脂の種類や、酸化スズ系微粒子(B)の種類、ダイマー酸系樹脂微粒子(A)と酸化スズ系微粒子(B)との比率、水性コート剤の固形分濃度によっても異なるが、水性コート剤のpHが8.0〜12.0になる量が好ましく、pHが9.0〜11.0になる量がさらに好ましい。pHが8.0未満では水性コート剤の安定性が乏しくなる場合がある。一方、pHが12.0を超えるとコストアップの原因となったり、塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水性コート剤が着色する場合がある。pHが上記範囲を著しく逸脱すると、分散安定性に優れた水性コート剤は得られない。
【0028】
本発明における水性媒体(D)は、水を主成分とする液体からなる媒体であり、親水性有機溶剤を含有してもよい。水性媒体(D)に親水性有機溶剤が含有されると、水性コート剤の塗工性が向上するため好ましい。
【0029】
本発明において親水性有機溶剤とは、水との混合安定性に優れた有機溶剤であり、具体的には、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上の親水性有機溶剤を意味する。
親水性有機溶剤の沸点は、30〜250℃であることが好ましく、50〜200℃であることがより好ましく、50〜120℃であることが特に好ましい。親水性有機溶剤の沸点が30℃未満の場合は、揮発する割合が多くなり、組成のコントロールが困難になる。また、後述する水性分散体の促進剤として使用する場合にも、揮発する割合が多くなり、製造工程が煩雑になりかねない。沸点が250℃を超える場合は、塗膜にする際に膜に残留しやすく耐溶剤性が低下する恐れがある。
【0030】
親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール(以下、「NPA」と称する)、イソプロピルアルコール(以下、「IPA」と称する)等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン(以下、「THF」と称する)等のエーテル類を用いることができ、これらを2種以上混合してもよい。これらの親水性有機溶剤の中でも、低温乾燥性の点から、エタノール、NPA、IPAが特に好ましい。
これらの親水性有機溶剤の濃度は特に限定されるものではないが、1〜40質量%が好ましい。1質量%以下では添加した効果が乏しく、40質量%を超えると、酸化スズ微粒子の分散性が不十分になる場合がある。
【0031】
本発明の水性コート剤において、水性媒体(D)中にダイマー酸系樹脂微粒子(A)および酸化スズ系微粒子(B)が含有された状態としては、両方の成分が水性媒体(D)中に分散している状態であることが必要である。ダイマー酸系樹脂が媒体中に溶解している状態では、酸化スズ系微粒子(B)が安定に分散することができず、酸化スズ粒子が安定に分散している状態では、ダイマー酸系樹脂が安定に溶解していることができない。
【0032】
本発明の水性コート剤における固形分濃度すなわちダイマー酸系樹脂微粒子(A)と酸化スズ系微粒子(B)との総濃度は、1〜40質量%が好ましい。固形分濃度が1質量%未満では、基材に塗工する際に十分な厚さの塗膜を形成しにくくなる傾向があり、一方40質量%を超えると、酸化スズ系微粒子(B)の分散性が不十分になることがある。
【0033】
耐水性や耐溶剤性などの各種塗膜特性をさらに向上させるため、本発明の水性コート剤に、架橋剤を混合して塗膜の強度を上げることができる。架橋剤としては、ダイマー酸系樹脂が有する官能基、例えばカルボキシル基と反応性を有するものが用いられ、例えば、フェノール樹脂、アミノ樹脂、多官能エポキシ樹脂、多官能イソシアネート化合物及びその各種ブロックイソシアネート化合物、多官能アジリジン化合物、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物などが挙げられる。このような架橋剤は1種類のみでも、2種類以上を併用してもよい。
【0034】
また、本発明の水性コート剤には、その特性が損なわれない範囲で酸化防止剤、滑剤、着色剤、安定化剤、湿潤剤、増粘剤、起泡剤、消泡剤、凝固剤、ゲル化剤、沈降防止剤、老化防止剤、軟化剤、可塑剤等を添加することができる。これらの種類は特に限定されない。
【0035】
本発明の水性コート剤の製造方法は特に限定されないが、上述したダイマー酸系樹脂微粒子(A)の水性分散体と、酸化スズ系微粒子(B)の水分散体とを別々に調製しておき、これを混合して得る方法が好ましい。
【0036】
別々の操作によって得られたダイマー酸系樹脂微粒子(A)の水性分散体と、酸化スズ系微粒子(B)の水分散体とを混合する際には、ダイマー酸系樹脂微粒子(A)の水性分散体に、酸化スズ系微粒子(B)の水分散体を加えて混合してもよく、逆に酸化スズ系微粒子(B)の水分散体に、ダイマー酸系樹脂微粒子(A)の水性分散体を加えて混合してもよく、混合順序は任意である。
使用する装置としては、液/液撹拌装置として広く知られている装置を使用することが可能であり、混合液の分散性が良好であるため、極めて短時間かつ簡単な混合操作でよい。また、混合液の分散安定性を維持するために、必要に応じて、混合液のpHが8.0〜12.0になるようにpH調整を行うことが好ましい。さらに、混合後の固形分濃度の調整方法としては、例えば、所望の固形分濃度となるように水性媒体を留去したり、水や親水性有機溶剤により希釈したりする方法が挙げられる。
【0037】
また、前述の特定組成のダイマー酸系樹脂を用い、上記製造方法を採用することにより、不揮発性水性化助剤を用いることなく水性分散体を得ることができるので、本発明の水性コート剤には、この不揮発性水性化助剤は含有しない。ここで、不揮発性水性化助剤としては、乳化剤成分あるいは保護コロイド作用を有する化合物などを指す。
【0038】
乳化剤成分としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
保護コロイドを有する化合物としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0039】
なお、本発明における、不揮発性水性化助剤を実質的に含有しない、とは、不揮発性水性化助剤を積極的には系に添加しないことにより、結果的にこれらを含有しないことを意味する。こうした不揮発性水性化助剤は、含有量がゼロであることが特に好ましいが、本発明の効果を損ねない範囲で、ダイマー酸系樹脂成分に対して0.1質量%未満程度含まれていても差し支えない。
【0040】
このようにして、本発明の水性コート剤が得られる。このコート剤は、基材上に均一に塗布され、この後、加熱・乾燥することにより、基材上に塗膜が形成される。塗工方法としては、マイヤーバー法、ディップコート法、はけ塗り法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、カーテンフローコート法、各種印刷法などが挙げられる。乾燥には、熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーターなどを用いる。乾燥温度は60〜200℃が好ましく、帯電防止性能の観点から60〜180℃がより好ましく、塗膜の透明性の観点から90〜150℃が特に好ましい。乾燥時間は15秒間〜30秒間が好適である。このときに形成される塗膜の厚さとしては、強度および傷が付きにくい均一な厚さの塗膜が得られる0.05〜50μmが好ましく、0.1〜20μmがより好ましく、0.1〜5μmがさらに好ましい。0.05μm未満では帯電防止性能などの塗膜特性が十分に発現されない場合があり、50μmを超えると不経済である。
【0041】
水性コート剤を塗工する基材としては、樹脂材料、ガラス材料等で形成されたものが挙げられる。基材の厚みは、特に限定されるものではないが、通常は10〜1000μmであればよく、10〜500μmが好ましく、10〜200μmが好ましい。
【0042】
基材に用いることができる樹脂材料としては、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ(メタ)アクリルロニトリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、トリアセテートセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、再生セルロース系樹脂、ジアセチルセルロース系樹脂、アセテートブチレートセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノルボルネン系樹脂等が挙げられる。樹脂材料は延伸処理されていてもよい。樹脂材料は、公知の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤などを含んでいてもよい。樹脂材料は、その他の材料と積層する場合の密着性を良くするために、表面に前処理としてコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理等を施したものでもよい。また、シリカ、アルミナ等が蒸着されていてもよく、バリア層や易接着層、帯電防止層、紫外線吸収層、接着層、離型層、反射防止層、ハードコート層、アンチグレア層などの他の層が積層されていてもよい。
【0043】
本発明の積層体は、ダイマー酸系樹脂100質量部と、酸化スズ系微粒子30〜2000質量部とを含有する層が、基材の少なくとも一方の面に形成されたものであり、本発明の水性コート剤を基材上に塗工して製造することができる。積層体の表面抵抗率は1012Ω/□以下と低く、優れた帯電防止性能を有する。また同時に耐水性、密着性、耐ブロッキング性にも優れる。さらに、ヘイズが10%以下となる。すなわち非常に高い透明性を有する。
【0044】
こうして得られた積層体のうち、基材がフィルムである場合の積層フィルムは、例えば、包装材料、工程材料、磁気記録材料や電子材料、グラフィックフィルム、製版フィルム、OHPフィルム等の用途に使用することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例・比較例において、各分析は、下記の方法に従って行った。
(1)酸価およびアミン価
JIS−K2501に記載の方法に準じて、ダイマー酸系樹脂の酸価及びアミン価を測定した。
(2)軟化点
樹脂10mgをサンプルとし、顕微鏡用加熱(冷却)装置ヒートステージ(リンカム社製、Heating-Freezing ATAGE TH-600型)を備えた顕微鏡を用いて、昇温速度20℃/分の条件で測定を行い、樹脂が溶融した温度を軟化点とした。
(3)溶融粘度
ブルックフィールド溶融粘度計DV-II+PRO型にて、樹脂温度200℃、ずり速度1.25/sで測定した。溶融開始後、約25分間回転し、粘度がほぼ経過時間で安定した時点での溶融粘度の値を読み取った。
(4)pH
pHメーター(HORIBA社製、9611−10D)を用いて測定した。
(5)水性コート剤の粘度
BROOKFIELD ENGINEERING LABORATORIES,INC.製B型粘度計BROOKFIELD DIAL VISCOMETER Model LVT(Spindle 18)を用いて温度20℃にて測定した。
(6)数平均粒子径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、数平均粒子径を求めた。粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.57、酸化スズの屈折率は1.99とした。
(7)液安定性
水性コート剤の液安定性を、目視により評価した。すなわち、ダイマー酸系樹脂水性分散体(または水性溶液)と酸化スズ系微粒子水分散体、必要に応じて親水性有機溶剤などを所定量混合することにより調製した水性コート剤を透明な容器に分け取り、塗剤の状態を目視で観察して、以下のように評価した。
○:沈殿物、凝集物、ゲル化無し
×:沈殿物、凝集物、ゲル化有り
(8)塗膜の厚さ
接触式膜厚計により、積層体全体の厚さを求め、その結果から基材の厚さを減じて求めた。
(9)ヘイズ
JIS−K7361−1に基づいて、濁度計(日本電色工業社製、NDH2000)を用いて、積層体のヘイズ測定を行った。ただし、この評価値は、各実施例で用いた基材フィルムの濁度(2軸延伸PETフィルム:2.8%、延伸PPフィルム:2.4%、延伸Ny6フィルム:3.2%)を含んでいる。
(10)帯電防止特性
JIS−K6911に基づいて、アドバンテスト社製デジタル超高抵抗/微少電流計、R8340を用いて、積層体の塗膜の表面抵抗率を温度23℃、湿度65%の雰囲気下で測定した。
(11)密着性
基材フィルムと塗布層との密着性を、テープ剥離により評価した。すなわち、積層体の塗膜面に粘着テープ(ニチバン社製TF−12)を張りつけた後、勢い良くテープを剥離し、塗膜面の状態を目視で観察して、以下のように評価した。
○:剥離無し
△:部分的に剥離有り
×:剥離有り
(12)耐擦過性
塗膜の耐擦過性を塗膜の擦りあわせにより評価した。すなわち、積層体の塗膜面を重ね合わせて5回擦り合わせた後の、両塗膜面の状態を目視で観察して、下記の基準で評価した。
○:塗膜の滑落無し
×:塗膜の一部に滑落有り
(13)塗膜強度
塗膜強度をラビング試験により評価した。すなわち、積層体の塗膜面をワイパー(クレシア社製 キムワイプ ワイパーS−200)で5回擦った後の、塗膜面の状態を目視で観察して、下記の基準で評価した。
○:塗膜の滑落無し
×:塗膜の一部に滑落有り
【0046】
以下の樹脂製造、分散体製造、実施例、比較例において、下記の製品を使用した。
・ダイマー酸:築野食品工業社製 ツノダイム395、ダイマー酸含有率94%
・アゼライン酸:和光純薬社製
・ステアリン酸:和光純薬社製
・エチレンジアミン:和光純薬社製
・ピペラジン:和光純薬社製
・NPA(n−プロピルアルコール):和光純薬社製
・IPA(イソプロピルアルコール):和光純薬社製
・THF(テトラヒドロフラン):和光純薬社製
・トルエン:和光純薬社製
・N,N−ジメチルエタノールアミン:和光純薬社製
・トリエチルアミン:和光純薬社製
・オキサゾリン系架橋剤:日本触媒社製 WS−500、固形分濃度:40質量%
・ポリ乳酸樹脂水性分散体:第一工業製薬社製 プラセマL110、樹脂固形分濃度:52.0質量%、数平均粒子径:600nm
・酸化スズ微粒子の水分散体:ユニチカ社製 AS11T、固形分濃度:11.5質量%、数平均粒子径:7.0nm
・アンチモンドープ酸化スズ水分散体:石原産業社製 SN−100D、固形分濃度:30質量%、数平均粒子径:58nm
・2軸延伸PETフィルム:ユニチカ社製 エンブレット、厚さ12μm
・延伸PPフィルム:東セロ社製 ♯20u−1、厚さ20μm
・延伸Ny6フィルム:ユニチカ社製 エンブレムON−15、厚さ15μm
【0047】
〔ダイマー酸系ポリアミド樹脂P−1の製造〕
撹拌機、留去管を取り付けた1リットルの4口フラスコ中に、ダイマー酸616.0g、エチレンジアミン60.1g、ステアリン酸11.4gを添加し、窒素雰囲気下において、200℃まで昇温し30分間反応を行った。さらに、所望の酸価、アミン価になるように反応時間を調整し、ポリアミド樹脂P−1を得た。得られた樹脂の酸価は15.0mgKOH/g、アミン価0.3mgKOH/g、軟化点110℃、200℃における溶融粘度は1,100mPa・sであった。
【0048】
〔ダイマー酸系ポリアミド樹脂P−2の製造〕
ダイマー酸504.0g、アゼライン酸18.8g、エチレンジアミン18.0g、ピペラジン60.3g、ステアリン酸5.7gを反応原料として、P−1と同様にポリアミド樹脂P−2を得た。得られた樹脂の酸価は5.0mgKOH/g、アミン価0.1mgKOH/g、軟化点140℃、200℃における溶融粘度は23,000mPa・sであった。
【0049】
〔ダイマー酸系ポリアミド樹脂P−3の製造〕
ダイマー酸476.0g、アゼライン酸28.2g、エチレンジアミン30.1g、ピペラジン43.1g、ステアリン酸5.7gを反応原料として、P−1と同様にポリアミド樹脂P−3を得た。得られた樹脂の酸価は10.0mgKOH/g、アミン価0.1mgKOH/g、軟化点158℃、200℃における溶融粘度は10,000mPa・sであった。
【0050】
【表1】

【0051】
(ダイマー酸系樹脂微粒子の水性分散体E−1の製造)
撹拌機およびヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、75.0gのダイマー酸系ポリアミド樹脂P−1、37.5gのIPA、37.5gのTHF、7.2gのN,N−ジメチルエタノールアミンおよび217.8gの蒸留水を仕込んだ。回転速度を300rpmで撹拌しながら、系内を加熱し、120℃で60分間保持した。その後、撹拌しながら室温(約30℃)まで冷却し、80gの蒸留水を追加した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過した。得られた水性分散体を1Lナスフラスコに入れ、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、100gのIPA、THF、水の混合媒体を留去し、ダイマー酸系ポリアミド樹脂水性分散体E−1を得た。得られた水性分散体の特性を表2に示す。
【0052】
(ダイマー酸系樹脂微粒子の水性分散体E−2の製造)
撹拌機およびヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、75.0gのダイマー酸系ポリアミド樹脂P−2、75.0gのIPA、75.0gのTHF、6.0gのN,N−ジメチルエタノールアミン、7.5gのトルエンおよび136.5gの蒸留水を仕込んだ。回転速度を300rpmで撹拌しながら、系内を加熱し、130℃で60分間保持した。その後、撹拌しながら室温(約30℃)まで冷却し、300gの蒸留水を追加した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過した。得られた水性分散体を1Lナスフラスコに入れ、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、230gのIPA、THF、トルエン、水の混合媒体を留去し、ダイマー酸系ポリアミド樹脂水性分散体E−2を得た。得られた水性分散体の特性を表2に示す。
【0053】
(ダイマー酸系樹脂微粒子の水性分散体E−3の製造)
撹拌機およびヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、75.0gのダイマー酸系ポリアミド樹脂P−3、93.8gのIPA、6.0gのN,N−ジメチルエタノールアミンおよび200.3gの蒸留水を仕込んだ。回転速度を300rpmで撹拌しながら、系内を加熱し、120℃で60分間保持した。その後、撹拌しながら室温(約30℃)まで冷却し、130gの蒸留水を追加した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過した。得られた水性分散体を1Lナスフラスコに入れ、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、100gのIPA、水の混合媒体を留去し、ダイマー酸系ポリアミド樹脂水性分散体E−3を得た。得られた水性分散体の特性を表2に示す。
【0054】
(ダイマー酸系樹脂微粒子の水性分散体E−4の製造)
N,N−ジメチルエタノールアミン6.0gの代わりに、トリエチルアミンを6.8g、蒸留水添加量を199.5gに変更する以外は、E−3の製造に記載と同様の方法により、加熱攪拌を行い、その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過した。得られた水性分散体を1Lナスフラスコに入れ、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、100gのIPA、水の混合媒体を留去し、ダイマー酸系ポリアミド樹脂水性分散体E−4を得た。得られた水性分散体の特性を表2に示す。
【0055】
(ダイマー酸系樹脂水性溶液 E−5の製造)
撹拌機およびヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器に、75.0gのダイマー酸系ポリアミド樹脂P−1、300.0gのIPAを仕込んだ。回転速度を300rpmで撹拌しながら、系内を加熱し、120℃で60分間保持した。その後、撹拌しながら室温(約30℃)まで冷却し、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過することで、ダイマー酸系ポリアミド樹脂水性溶液E−5を得た。得られた水性溶液の特性を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
実施例1
酸化スズ微粒子の水分散体に、NPAを全液量の30質量%相当添加し、手動で軽く撹拌した後、ダイマー酸系樹脂水性分散体E−1を、ダイマー酸系樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ微粒子が800質量部となるように添加し、手動で軽く撹拌することで水性コート剤Z−1を得た。
得られた水性コート剤を、2軸延伸PETフィルムの片面にフィルムアプリケーター(安田精機製作所製、542−AB)を使用して塗布後、130℃で60秒間乾燥することにより、フィルム面に厚さ0.1μmの被膜を形成したコートフィルムを得、各種評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0058】
実施例2
ダイマー酸系樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ微粒子が1800質量部となるように添加した以外は実施例1と同様にして、水性コート剤Z−2を得、次いで積層フィルムを作製し、各種評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0059】
実施例3
ダイマー酸系樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ微粒子が100質量部となるように添加した以外は実施例1と同様にして、水性コート剤Z−3を得、次いで積層フィルムを作製し、各種評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0060】
実施例4
ダイマー酸系樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ微粒子が50質量部となるように添加した以外は実施例1と同様にして、水性コート剤Z−4を得、次いで積層フィルムを作製し、各種評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0061】
実施例5
基材として2軸延伸PETフィルムの代わりに、延伸PPフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作製し、各種評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0062】
実施例6
基材として2軸延伸PETフィルムの代わりに、延伸Ny6フィルムを用いた以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作製し、各種評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0063】
実施例7、8、9
ダイマー酸系樹脂水性分散体を、E−2、E−3、E−4にした以外は、実施例1と同様の操作を行って、水性コート剤Z−5、Z−6、Z−7を得、次いで積層フィルムを作製し、各種評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0064】
実施例10
酸化スズ微粒子の水分散体の代わりにアンチモンドープ酸化スズ水分散体を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、水性コート剤Z−8を得、次いで積層フィルムを作製し、各種評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0065】
実施例11
ダイマー酸系樹脂固形分100質量部に対してアンチモンドープ酸化スズ微粒子が100質量部となるように添加した以外は実施例10と同様にして、水性コート剤Z−9を得、次いで積層フィルムを作製し、各種評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0066】
実施例12
実施例1で調製した水性コート剤(Z−1)100質量部に、オキサゾリン系架橋剤を2質量部添加した以外は実施例1と同様の操作を行って、水性コート剤Z−10を得、次いで積層フィルムを作製し、各種評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0067】
比較例1
実施例1のダイマー酸系樹脂水性分散体E−1の代わりに、ポリ乳酸樹脂水性分散体を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って、水性コート剤H−1を得、次いで積層フィルムを作製し、各種評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0068】
比較例2
ダイマー酸系樹脂水性分散体E−1の代わりにダイマー酸系樹脂水性溶液E−5を用いた以外は実施例1と同様の操作を行って水性コート剤H−2を得、次いで積層フィルムを作製し、各種評価を行うことを試みたが、塗工性に乏しく、著しい塗工斑が生じた。評価結果を表4に示す。
【0069】
比較例3
ダイマー酸系樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ微粒子が10質量部となるように添加し、水性コート剤H−3を得た。そして、それ以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作製し、各種評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0070】
比較例4
ダイマー酸系樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ微粒子が3000質量部となるように添加した以外は実施例1と同様にして、水性コート剤H−4を得、次いで積層フィルムを作製し、各種評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
実施例1〜11の積層フィルムは、いずれも優れた帯電防止性を示し、密着性に優れ、透明性、耐擦過性を有するものであった。実施例12は架橋剤を添加したことで、塗膜強度にも優れたものになった。
【0074】
比較例1では、水性コート剤のバインダ成分としてポリ乳酸樹脂を用いたため、得られた積層フィルムは、耐擦過性に劣るものとなった。比較例2では、水性コート剤のバインダ成分としてダイマー酸系樹脂の溶液を用いたため、水性コート剤は塗工性、液安定性に乏しく、得られた積層フィルムは帯電防止性能が不十分であった。比較例3では、水性コート剤における酸化スズ系微粒子の含有量が少なかったため、得られた積層フィルムは帯電防止性能に劣るものであった。比較例4の水性コート剤は、バインダ樹脂としてのダイマー酸系樹脂が少ないものであったため、塗工性が劣り、また得られた積層フィルムは密着性に劣るものであった。
【0075】
以上の実施例、比較例から明らかなように、本発明の水性分散体から得られる積層フィルムは、高い帯電防止性能を有し、密着性に優れ、透明性を有する積層フィルムであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイマー酸系樹脂微粒子(A)100質量部と、酸化スズ系微粒子(B)30〜2000質量部と、塩基性化合物(C)と、水性媒体(D)とを含有し、不揮発性水性化助剤を実質的に含有しないことを特徴とする水性コート剤。
【請求項2】
ダイマー酸系樹脂が、ジカルボン酸成分としてダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含有し、酸価が1〜20mgKOH/gであることを特徴とする請求項1に記載の水性コート剤。
【請求項3】
ダイマー酸系樹脂が、ダイマー酸系ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性コート剤。
【請求項4】
ダイマー酸系樹脂100質量部と、酸化スズ系微粒子30〜2000質量部とを含有する層が、基材の少なくとも一方の面に形成されていることを特徴とする積層体。
【請求項5】
表面抵抗率が1012Ω/□以下であることを特徴とする請求項4に記載の積層体。




【公開番号】特開2012−17348(P2012−17348A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153512(P2010−153512)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】