説明

水性スラリー中の固形分の粒度測定方法

【課題】地盤や岩盤に注入される固結注入材などのように水硬性組成物を含有する水性スラリーについて、スラリー中の固形分の粒径を精度よく測定する方法と該測定方法に利用した高品質の注入材を提供する。
【解決手段】水性スラリー中の固形分の粒度測定方法であって、無色透明な糖蜜状の希釈液をスラリーに添加することによってスラリー中の粒子の凝集分散状態を保った状態で顕微鏡観察して粒径を測定することを特徴とする粒度測定方法、および、この方法で測定した最大粒径が20μm以下の単粒子および凝集粒子の含有率が含有固形分中の95質量%以上であることを特徴とする注入材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性スラリー中の固形分の粒度測定方法に関する。より詳しくは、本発明は、地盤や岩盤に注入される固結注入材などのように水硬性組成物を含有する水性スラリーについて、スラリー中の固形分の粒径を精度よく測定する方法と、該測定方法を利用した高品質の注入材に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径を測定する方法として、粒度分布測定器を用いる方法、走査型や透過型の電子顕微鏡を用いた画像観察によって測定する方法などが従来知られている。特に、粒子径が10μm以下の微粒子については、分解能と操作性に優れた走査型電子顕微鏡(SEM)が用いられ、真空系チャンバー下による観察が広く行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−292055号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】磯田英典, 大森啓至, 丸田俊久, 吉田了三, 橘田一臣:超微粒子セメントの浸透性阻害要因に関する一考察, 無機マテリアル学会学術講演会講演要旨集,Vol.96th, Page44-45, 1998.06.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
粒度分布測定器を用いる測定方法は、散乱光の強さの角度分布によって粒径を測定しているため、液体中の固形分粒子の粒径を測定するには、液体中の粒子数を大幅に減少させなければ精度の高い結果を得ることが出来ず、液体の数百倍以上の溶媒を用いて希釈しているため、粒子の凝集状態が変化し、正確な粒径や粒度分布を測定することが難しい。
【0006】
真空系チャンバーを用いるSEM観察では、真空環境下で、液体から粒子を濾過等で取り出し、乾燥して測定するため、粒子の凝集状態を含めて観察することは困難であった。
【0007】
本発明は、従来の測定方法における上記問題点を解決したものであり、液体に含まれる固形分の粒子について、液体に含まれる状態を保って粒径を測定することができる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有する粒径測定方法に関し、この方法によって測定した最大粒径以下の粒子が特定量含まれる注入材に関する。
〔1〕水性スラリー中の固形分の粒度測定方法であって、無色透明な糖蜜状の希釈液をスラリーに添加することによってスラリー中の粒子の凝集分散状態を保った状態で顕微鏡観察して粒径を測定することを特徴とする粒度測定方法。
〔2〕無色透明な糖蜜状の希釈液としてグリセリン、または増粘剤を用いる上記[1]に記載する粒度測定方法。
〔3〕スラリー中の固形分粒子の含有量100質量部に対して100〜1000質量部の無色透明な糖蜜状希釈液を添加する上記[1]または上記[2]に記載する粒度測定方法。
〔4〕水性スラリーが水硬性組成物を含有し、地盤または岩盤に注入されてこれを固結する注入材である上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する粒度測定方法。
〔5〕上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する方法によって測定した最大粒径が20μm以下の単粒子および凝集粒子の含有率が含有固形分中の95質量%以上であることを特徴とする注入材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の測定方法によれば、無色透明な糖蜜状の希釈液をスラリーに添加することによってスラリー中の粒子の凝集分散状態を保った状態で顕微鏡観察するので、スラリー中の粒子の粒径を正確に測定することができる。従って、地盤や岩盤の注入材などのように、水硬性組成物を含有する水性スラリーについて、固形分粒子の粒径を正確に測定して粒度調整することができ、高品質の注入材を得ることができる。
【0010】
スラリーに添加する無色透明な糖蜜状の希釈液としてグリセリンを用いることができ、グリセリンは一般に入手しやすいので容易に実施することができる。また、従来のSEM観察では真空チャンバーを用いているが、本発明の方法は真空チャンバーなどを必要とせず、簡単な装置構成によって容易に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】注入材について、最大粒子径と排出量の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明は、水性スラリー中の固形分の粒度測定方法であって、無色透明な糖蜜状の希釈液をスラリーに添加することによってスラリー中の粒子の凝集分散状態を保った状態で顕微鏡観察して粒径を測定することを特徴とする粒度測定方法である。
【0013】
水性スラリーとして注入材などを対象にすることができる。注入材はセメントなどの水硬性組成物を含有する水性スラリーであり、固形分として含まれるセメント粒子などについて、スラリー中の粒径を測定することができる。
【0014】
粒子の種類は限定されず、例えば、セメント、石灰石微粉末、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフュームなどの粒子について、粒径を測定することができる。
【0015】
スラリーに添加する無色透明な糖蜜状の希釈液としては、スラリー中の粒子の凝集分散状態を保つものであればよく、例えば、グリセリンが用いられる。グリセリンは20℃で約1500mpa・sの粘度を有する粘性の液体であり、植物原料、牛脂原料、合成(石油系)原料などがら製造されており、植物原料にはヤシ油、パーム油等があるが、何れの原料から製造されたものでも良い。本発明の希釈剤としては500〜1500mpa・s程度の粘度を有するものが好ましい。
【0016】
グリセリンの他に増粘剤などを用いることができる。なお、粘性が過度に大きいものは粒子の凝集分散状態が影響を受けるので適当ではない。また、油性の液体も水と分離し、粒子の凝集分散状態が影響を受けるので適当ではない。さらに不透明な液体を用いると粒径を観察できず、着色液体は観察し難くなるので好ましくない。
【0017】
上記希釈液の添加量は、スラリー中の固形分粒子の含有量100質量部に対して100〜1000質量部が適当であり、スラリー中の固形分粒子の含有量に応じて添加量を調整すればよい。粒子数が多い場合、または顕微鏡の観察中に粒子の動きが速く画像の取得が困難である場合は、上記希釈液の添加量を多くすればよい。
【0018】
水性スラリーに無色透明の糖蜜状の希釈液を添加したものをスライドガラスに滴下し、空気が入らないようカバーガラスを載せて顕微鏡にて観察し、粒径を測定する。顕微鏡は水性スラリー中の粒子を凝集分散状態を変化させること無く観察できれるものでさればよく、光学顕微鏡、偏光顕微鏡、CCDカメラ、CMOSカメラが内蔵されたマイクロスコープなどを用いることができる。
【0019】
このような方法によれば粒子の凝集状態の変化が小さく、混合方法、分散剤の性能、粒子の凝集量を経時変化を含めて定量化することができる。水硬性組成物を含有する水性スラリー中の粒子を凝集分散状態のまま観察することができるので、水硬性組成物を含有する水性スラリー中の粒度を正確に求めることができる。
【0020】
スラリー中の固形分粒度は、例えば、撮影した画像を画像処理によって二値化処理して測定することができる。具体的には、撮影した画像を二値化処理して最大粒径を求めることができる。また、画像に示される単位面積あたりの粒子数とその粒径を求めることによって、粒度分布を測定することができる。なお、撮影した画像の処理は市販の画像処理ソフトを用いることによって簡単に行うことができ、最大粒径や粒度分布を容易に求めることができる。
【0021】
注入材はセメント等の水硬性組成物の粒子を含有し、地盤や岩盤に注入してこれらを固結するために用いられる。注入材に含まれる固形分粒子の粒径が大きすぎると、地盤や岩盤に注入し難く注入量が少なくなる。
【0022】
そこで、本発明の測定方法を用いて、水性スラリー中の固形分粒子について最大粒径を測定し、この最大粒径が20μm以下の単粒子および凝集粒子の含有率が含有固形分中の95質量%以上であるように固形分粒子を調整することによって、高品質の注入材を得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
使用したセメントの最大粒子径を表1に示す。この最大粒子径は粒度分布測定器を用い、練り混ぜる前のセメントをエタノールの溶媒を加えて分散させ、さらに超音波分散させて凝集部分が残らないようにして測定した。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示すセメントに水を加えて水性スラリーを調製した。また、一部のスラリーに分散剤を添加した。配合は水セメント比を600%とし、分散剤はセメントに対して質量割合で添加し練混ぜ水に内割りとした。
水性スラリーの練り混ぜは水と分散剤とを十分に溶解させてからセメントを投入し、投入完了から90秒間ハンドミキサ(1100rpm)で混合した。20℃環境で実施した。表2に配合を示す。
【0026】
【表2】

【0027】
配合1〜6の試料について、グリセリンを添加して混合し、グリセリンを加えた試料をスライドガラスに滴下し、空気が入らないようカバーガラスを載せ、偏光顕微鏡観察によってスラリー中粒子の最大粒子径を測定した。一方、従来のように粒度分布測定器を用いてスラリー中粒子の最大粒子径を測定した。粒度分布測定器を用いたものは溶媒に水道水を用い、スラリー中の凝集部分が変化しないように超音波は使用しなかった。この結果を表3に示す。
【0028】
表3に示すように、水性スラリー中の最大粒子径は、エタノール分散したセメント粒子の最大粒子径(表1)と異なっている。分散剤の添加量が少ない配合(配合1、2)は、最大粒子径が大きくなっており、粒子が凝集していることを示している。また、セメントCについて、配合5、6は分散剤の添加量が異なるが、実施例6,7に示すように測定される最大粒子径が分散剤の量に応じて異なっており、粒子の凝集分散状態が正確に反映されている。なお、配合3について、グリセリンを用いない比較例1は実施例3〜5に比較して測定値が大幅に異なり、正確な測定ができないことを示している。
【0029】
このように、本発明の測定方法によれば凝集部分含めて水性スラリー中の粒子径を正確に測定するkとがでる。一方、粒度分布測定器を用いた場合には、測定結果は表1の結果と同様であり、分散剤を添加しても表1と同様の結果を示しており、スラリー中の凝集状態を正確に反映しておらず、従って凝集部分を含めて粒径が正確に測定されていない。
【0030】
【表3】

【0031】
〔注入性試験〕
表4に示す水性スラリー(注入材)について、注入性能を評価した。試験は所定の間隙(w40×L80×t0.04mm)に注入し、間隙を通過した量によって注入性能を評価した。注入圧力はピストン式の加圧装置を用い1.0MPaとした。注入前には注入圧力で透水試験を実施し所定の間隙になっているかを確認した。注入性能は間隙から排出された注入材の重量を1分間隔で注入開始から注入終了までの15分間測定した。15分経過前に注入材が550ml排出された場合は、その時点で試験を終了した。表4に注入性試験結果を示す。また、最大粒子径と排出量の関係を図1に示した。
【0032】
図1に示すように、顕微鏡を用いて測定した最大粒子径は排出量との相関が認められた。最大粒子径が20μmよりも大きくなると、注入材の排出量が著しく減少した。排出量が減少すると目標とする止水効果や強度向上の効果が得られなくなるため、さらに注入口を設けなければならず、工期の遅れを招く。
【0033】
以上のように、本発明の測定方法によれば、凝集状態を含めた水性スラリー中の粒子径を正確に測定することができるので、注入材の性能を簡易的に評価することができ、浸透性に優れた超微粒子セメントの配合設計に活用することが出来る。
【0034】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性スラリー中の固形分の粒度測定方法であって、無色透明な糖蜜状の希釈液をスラリーに添加することによってスラリー中の粒子の凝集分散状態を保った状態で顕微鏡観察して粒径を測定することを特徴とする粒度測定方法。
【請求項2】
無色透明な糖蜜状の希釈液としてグリセリンまたは増粘剤を用いる請求項1に記載する粒度測定方法。
【請求項3】
スラリー中の固形分粒子の含有量100質量部に対して100〜1000質量部の無色透明な糖蜜状希釈液を添加する請求項1または請求項2に記載する粒度測定方法。
【請求項4】
水性スラリーが水硬性組成物を含有し、地盤または岩盤に注入されてこれを固結する注入材である請求項1〜請求項3の何れかに記載する粒度測定方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れかに記載する方法によって測定した最大粒径が20μm以下の単粒子および凝集粒子の含有率が含有固形分中の95質量%以上であることを特徴とする注入材。

【図1】
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【公開番号】特開2011−247857(P2011−247857A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124399(P2010−124399)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)