説明

水性ゾル−ゲル法を用いた透明な無機−有機ハイブリッド材料

厚く高透明性の硬質被膜である無機−有機ハイブリッド被膜を形成するためのゾルに関するものである。そのハイブリッド被膜は、少なくとも1種の加水分解可能なシランと少なくとも1種の加水分解可能な金属酸化物前駆体を含む複合水性ゾルから形成されたものであり、存在する有機溶剤は、該シランと該金属酸化物前駆体の加水分解により生成した有機溶剤のみである。一態様として、テトラエトキシシランおよびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを過剰の水を用いて加水分解して作製したゾルと、チタニウムテトラブトキシドおよびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを不足した水を用いて加水分解して作製したゾルとを組み合わせて、無機−有機ハイブリッド被膜を形成する。その複合ゾルでプラスチック基材を被覆し、該複合ゾルを少なくとも5μmの厚さまでゲル化させ、150℃より低い温度まで加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2008年10月31日に出願された米国仮出願第61/110,435号の利益を主張するものであり、すべての図、表および図面を含む当該出願の開示内容は、出典明示によりすべて本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
ゾル−ゲル技術を用いて作製される透明被膜は、無機ガラスに非常に近いものであり、アルコールまたは他の非水系溶媒を用いて一般的に作製されている。例えば、連続した透明被膜を得るために、アルコール溶媒にキレート剤を存在させて、あるいはグローブボックス中での合成等の特別の条件でテトラアルコキシチタネートを縮合させることにより、酸化チタンガラスがしばしば作製されている。水性溶媒あるいは製造過程における大量の水の使用は、一般的に、粒子状ガラスへの前駆体の縮合を促進する。非水系溶媒を用いた場合でも、得られたガラスが溶媒の蒸発や副生物の縮合損失に伴う応力により発生する収縮により亀裂を生じる傾向を有しているため、堅く頑丈な被膜を生成させるためには問題がある。この亀裂を発生させる性質のため、厚さが1.5μmを越える被膜の場合、一般的に多数の薄層被膜層を形成させる必要があり、通常現実的には20から30の被膜層が形成されている。厚い単層被膜の形成は、無機/有機複合体、有機的に改質されたセラミックスを用いて非水系溶媒中で多くの場合達成されており、有機成分はコロイド状のゾル−ゲル系の中に含まれている。一般的にこれらの無機成分と有機成分との間には相互浸透がほとんどないので、光学的透明性と高強度の両立は、その系では一般には実現されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
LCDディスプレイやLED照明等の有機ポリマー系デバイスの使用が増加しているので、厚く耐摩耗性で透明な被膜に対する大きなニーズが存在しており、該被膜はプラスチックや他の有機基材に対して優れた保護機能を有し、下側の基材を傷つけることなく単層の被膜層を形成できる。下側の基材に対する優れた拡散障壁として働く、高固形分含量の透明硬質皮膜を形成することに対するニーズは依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の態様は、無機−有機ハイブリッド被膜に関するものであり、ゾル−ゲルガラスは、少なくとも1種の加水分解可能なシランから得られるものであり、該少なくとも1種のシランは、該シランに結合した少なくとも1種の重合可能な有機基と、少なくとも1種の加水分解可能な金属酸化物前駆体を含んでいる。ゾルは、該シランと該金属酸化物前駆体の加水分解により生成する有機溶媒の量を超える有機溶媒を含まない。シランの構造は、R(4−n)SiXであり、nは1から4であり;XはCからCのアルコキシ、塩素、臭素、ヨウ素、水素、CからCのアシルオキシおよびNR’R’’から別々に選択された加水分解性基、ただし、R’とR’’は別々に水素またはCからCのアルキル、C(O)R’’’であり、ただし、R’’’は別々に水素またはCからCのアルキルであり;Rは別々にCからC12のラジカルであり、酸素、硫黄、NHおよびNR’’’’を含む1以上のヘテロ原子を含んでもよく、ただしR’’’’はCからCのアルキルまたはアリルである。該ラジカルは、シランから加水分解することはできず、塩素、臭素、ヨウ素、無置換または単置換の、アミノ、アミド、カルボキシル、メルカプト、イソシアナート、ヒドロキシル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシルオキシ、リン酸、アクリロキシ、メタクリロキシ、エポキシ、ビニル、アルケニルまたはアルキニルから選択された重付加反応や重縮合反応が可能な基を含んでいる。一態様として、シランはテトラエトキシシラン(TEOS)とγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)である。金属酸化物前駆体は、MXであってもよく、nは2から4であり;MはTi、Zr、Al、B、SnおよびVからなる群から選択された金属であり;XはCからCのアルコキシ、塩素、臭素、ヨウ素、水素、およびCからCのアクリロキシからなる群から選択された加水分解可能な部分である。一態様として、金属酸化物前駆体はテトラブトキシチタン(TTB)を含む。
【0005】
ゾルおよびそれを用いた被膜は、分散されたナノ粒子を含んでもよく、該ナノ粒子は、球状、針状または板状の形状を有する、Si、Al、B、TiまたはZrの酸化物、酸化物の水和物、窒化物または炭化物である。例えば、該ナノ粒子に、SiO、TiO、ZrO、Al、Al(O)OH、Siまたはそれらの混合物を用いてもよい。代表的なナノ粒子の断面は、2〜50nmであってもよい。一態様として、ナノ粒子が、棒状べーマイト、小板状トベーマイトまたはそれらの組み合わせであってもよい。
【0006】
本発明の他の態様は、上述の組成を有する複合ゾルからなる無機−有機ハイブリッド材料を基材に被覆する方法に関するものであり、少なくとも1種のケイ酸塩ゾルを金属酸化物ゾルに添加して複合ゾルを形成するものであり、該ケイ酸塩ゾルは少なくとも1種の加水分解可能なシランを含み、該シランの少なくとも1種は該シランに結合した少なくとも1種の重合可能な有機基と化学量論量を超える水を含み、該金属酸化物ゾルは、少なくとも1種の金属酸化物と、少なくとも1種の加水分解可能なシランであって、該シランに結合した少なくとも1種の重合可能な有機基を含む該シランと、該シランおよび金属酸化物前駆体に対する化学量論量より少ない水を含む。この複合ゾルで基材を被覆し、ゲル化させて可視光に対して透明な被膜を形成する。少なくとも2μmの厚さを有する被膜は、少なくとも95%の透過率を有している。本発明の態様として、ナノ粒子を複合ゾルに分散させてもよい。浸漬、延展、刷毛塗り、ナイフ塗布、ローリング、吹き付け、スピン塗布、スクリーン印刷およびカーテン塗布を含む種々の技術を用いて被覆を行ってもよい。その上に被膜を形成する基材に固定された状態で室温でまたは加熱してゲル化させてもよい。例えば、基材に、熱可塑性物質等の有機材料を用いてもよく、また熱可塑性物質のガラス転移温度よりも低い温度でゲル化を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、複合ゾル組成物を含むガラス瓶の複写写真(photographic reproduction)であり、本発明の一態様に基づき、エポキシケイ酸塩のケイ酸塩前駆体に対する割合を表1に示すように変化させて、組成一定のチタン酸塩−ケイ酸塩ゾルをエポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾルと組み合わせた。
【図2】図2は、複合ゾル組成物を含むガラス瓶の複写写真であり、本発明の一態様に基づき、エポキシケイ酸塩のチタン酸塩前駆体に対する割合を表2に示すように変化させて、組成一定のエポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル(B)をエポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾル(A)と組み合わせた。
【図3】図3は、γ−グリシドオキシプロピルトリエトキシシラン(GPTMS)、チタニウムテトラブトキシド(TBT)およびテトラエトキシシラン(TEOS)の組成を示すプロットであり、該プロットは、本発明の態様に基づき、混合後3時間以内にゲル化せず透明な複合ゲルを形成する組成を示している。
【図4】図4は、2つの膜についての波長と透過率の関係を示すプロットであり、該2つの膜は、複合ゾルの中にスライドガラスを浸漬して形成した、本発明の態様に基づく、厚さ約3.6μmの60GPTMS:30TBT:10TEOSの膜である。
【図5】図5は、本発明の態様に基づき水性システムで作製した80GPTMS:10TBTL:10TEOSの膜と、有機溶媒で作製した同等の膜についての、ナノインデンション(nanoindention)測定のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の態様は、有機溶媒が含まれない水系のゾル−ゲル法に関するものであるが、溶媒としてしばしば使用される有機化合物が、水系溶媒中でのゾル前駆体の加水分解により放出されてもよい。水性環境で、有機基を含む前駆体が加水分解され、かつ無機前駆体と縮合することにより無機−有機ハイブリッド材料が形成される。無機前駆体には、シリコン、チタン、アルミニウムまたはジルコニウムの混合金属酸化物を形成するものを用いてもよい。水性優位なシステムでこれらの金属酸化物前駆体の間で白色沈殿が形成されるような一般的の方法とは異なり、本発明の態様に係る方法では、そのような沈殿は生成せず、水性溶液からの1回の沈着により、厚く透明で亀裂のないガラスを形成することが可能となる。得られるガラスは、可視光領域で少なくとも95%の透過率を有し、かつ優れた機械特性を有する。本発明のいくつかの態様では、種々の金属酸化物粒子をガラス前駆体中に分散させることができ、最終ガラスの中で硬化する。
【0009】
有機基を含む前駆体および無機前駆体として、加水分解可能なシランを用いてもよい。加水分解可能なシランには、式R(4−n)SiXで表される化合物またはそれらの混合物も用いてもよく、nは1から4であり;XはCからCのアルコキシ、塩素、臭素、ヨウ素、水素、CからCのアシルオキシおよびNR’R’’から別々に選択された加水分解性基、ただし、R’とR’’は別々に水素またはCからCのアルキル、C(O)R’’’であり、ただし、R’’’は別々に水素またはCからCのアルキルである。本発明の態様にとって特に有用なX基は、C1からC4のアルコキシ基であり、加水分解により揮発性アルコールが生成するからである。nが4の場合、シランは無機前駆体である。nが4より小さい時は、シランは、有機基を含む前駆体を構成する。有機基を含む前駆体として、Rは別々にCからC12のラジカルであり、酸素、硫黄、NHおよびNR’’’’を含む1以上のヘテロ原子を含んでもよく、ただしR’’’’はCからCのアルキルまたはアリルであり、該ラジカルはシランから加水分解せず、塩素、臭素、ヨウ素、無置換または単置換の、アミノ、アミド、カルボキシル、メルカプト、イソシアナート、ヒドロキシル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシルオキシ、リン酸、アクリロキシ、メタクリロキシ、エポキシ、ビニル、アルケニルまたはアルキニルから選択された重付加反応や重縮合反応が可能な基を含んでいる。特に有用なR基は、γ−グリシドキシプロピルであり、例えば、式R(4−n)SiXの化合物は、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)またはγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランである。
【0010】
無機前駆体は、酸化ケイ素前駆体だけでなく、追加の加水分解可能な金属酸化物前駆体を含んでもよく、追加の金属酸化物前駆体は、式MXで表される1以上の化合物であり、nは2から4であり;Mは、Ti、Zr、Al、B、SnおよびVからなる群から選択された金属であり;Xは、CからCのアルコキシ、塩素、臭素、ヨウ素、水素およびCからCのアクリロキシからなる群から選択された加水分解可能な部分である。Ti、AlおよびZrは好ましい金属である。また、本発明の態様にとって特に有用なX基は、CからCのアルコキシ基であり、それは加水分解により揮発性アルコールが生成するからである。
【0011】
有機基を含む前駆体を、最終の未充填のゲル化した被膜に対して、組み合わせた前駆体の約20〜約99モル%の量まで用いてもよい。酸化ケイ素前駆体を、最終の未充填のゲル化した被膜に対して、組み合わせた前駆体の約70モル%までの量を用いてもよい。他の金属酸化物無機前駆体は、組み合わせた前駆体の約40モル%までの量を用いてもよい。本発明のいくつかの態様では、さらに、複合水性ゾルの中に複合フィラーとして金属酸化物ナノ粒子を懸濁させてもよい。ナノ粒子は、Si、Al、B、TiまたはZrの酸化物、酸化物の水和物、窒化物または炭化物から選択される。ナノ粒子の直径は1〜100nm、好ましくは2〜50nm、さらに好ましくは5〜20nmである。ナノ粒子は、1以上のゾルの中に粉末として含有されてもよく、あるいは水性溶媒中に懸濁物として含有されてもよい。本発明で用いるに適したナノ粒子は、SiO、TiO、ZrO、Al、Al(O)OHおよびSiである。ナノ粒子の形状は、球状、針状、板状または他の形状であってもよい。好ましくは、水に速やかに分散して、凝集して大粒子を生成しないことである。特に有用な粒子には、べーマイト型の酸化アルミニウムが含まれる。例えば、ベーマイトの棒状粒子は水中に10重量%分散させることができ、平均粒径が約10nmで、非水系溶媒では一般的な凝集した大粒子の生成はない。板状のように大きなアスペクト比を持ったナノ粒子は、自由に流れる水性懸濁液を水の中に形成することができ、本発明の態様において、水性ゾルと結合させることができる。
【0012】
前駆体の加水分解およびそれに続く縮合に用いる触媒を、必要に応じて被覆用配合処方の中に含有させてもよい。触媒には酸または塩基を用いることができるが、一般的には酸である。例えば、酸には硝酸を用いてもよい。シランのいくつかまたはすべてのR基に用いる重付加用または重縮合用の追加の触媒被覆用配合処方の中に含有させてもよい。触媒には光開始剤を用いてもよい。最終のゲル化被膜に所望の特性および硬化特性を付与するために、必要に応じてゾルの配合処方に他の成分を別々にあるいは一緒に含有させてもよく、該成分には、着色剤、レベリング剤、紫外線安定化剤および光増感剤がある。
【0013】
2種の異なる金属の無機前駆体を用いる本発明の態様では、一方の金属の無機前駆体と有機基を含む前駆体は加水分解されかつ縮合して一つのゾルを形成し、他方の金属の無機前駆体と有機基を含む前駆体は加水分解されかつ縮合して別のゾルを形成するので、最終的なゾルはその2つのゾルの複合物である。好ましくは、個々のゾルまたは複合ゾルを、ゲル化することなくさらに長い期間保存できることである。複合ゾルを、最終的には表面に付着させ、低温で硬化させて所望のゲルを得ることができる。2つの複合化させたゾルの前駆体および水の比率を変化させてもよい。速やかに加水分解し、ゆっくりと縮合する無機前駆体は、化学量論量を超える水と組み合わせて、水の多いゾルを形成する。加水分解後速やかに縮合する無機前駆体、例えば酸化チタン前駆体からの生成物を含むゾルは、化学量論量よりも少ない水と組み合わせる。さらに、ゲル化に対する相対的な速度論的および/または機能的な限界のため、縮合してゲル化するのが遅い、有機官能基を有する前駆体の場合は、無機前駆体と有機官能基を有する前駆体との間の交差縮合(cross-condensation)を促進し、および縮合した凝集体に結合した非加水分解性基を有するゾルを得るために、速やかに加水分解し縮合する前駆体を混合する前に、しばしば少ない水と組み合わせる。
【0014】
本発明の一態様として、チタニウムテトラアルコキシドを加水分解し、γ−グリシドキシプロポキシトリアルコキシシランとシリコンテトラアルコキシドを縮合させた。例えば、化学量論量より少ない水であって触媒量の硝酸を含む水と、GPTMSとを混合して、部分加水分解混合物を得る。この部分加水分解混合物は、室温で短時間、例えば約1時間攪拌することにより生成させることができる。この部分加水分解混合物に、チタニウムテトラブトキシド(TBT)を含有させて、部分縮合エポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾルを形成させる。このエポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾルの調製と併行して、化学量論量よりはるかに多い水であって触媒量の硝酸を含む水と、混合して完全に加水分解した混合物を得ることができる。この加水分解混合物を室温で約3時間テトラエトキシシラン(TEOS)とともに攪拌すると、透明な水性エポキシケイ酸塩ゾルが生成する。エポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾルおよびエポキシケイ酸塩ゾルを激しく攪拌して結合させ、複合エポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾルを生成させる。そのゾルは速やかに透明になる。
【0015】
本発明の態様に基づき調製したゾルは、広く種々の基材を被覆するのに用いることができる。基材は、分解または変形することなく約100℃またはそれを越える温度に加熱できる材料であれば特に限定されない。特に、有機材料を用いることができる。一態様として、基材は、透明な熱可塑性プラスチック、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)またはポリメチルメタクリレート(PMMA)である。基材の熱転移が起きなければ、約150℃またはそれを越える温度に加熱して被膜のゲル化を促進させてもよい。本発明のいくつかの態様では、触媒、例えば、光化学的に生成する酸を用いて100℃より低い温度でゲル化を促進させることもできる。本発明の一の態様では、加水分解した金属アルコキシドの縮合反応をもっぱら熱のみによって進行させる一方で、適当な触媒または開始剤を含有させた状態でシランの有機官能基の反応を光化学的に進行させてもよい。例えば、反応混合物中に含まれるシランがオレフィン置換基を含む場合、ラジカル光開始剤等の適当な光開始剤を含有させた状態でビニル付加反応を光化学的に進めてもよく、アルコキシシラン基およびアルコキシチタン基等の金属アルコキシド基の縮合は、熱的に誘導された加水分解および縮合によって進行する。
【0016】
方法および材料
モル比が60:30:10であるGPTMS:TBT:TEOS複合ゾルの調製
触媒量の硝酸を含む0.5gの水に3.0gのGPTMSを混合してエポキシケイ酸塩ゾルを調製した(HO:GPTMS=2.2)。その混合物を室温で1時間攪拌した。この部分加水分解GPTMSゾルに、4.3gのTBTを添加し、その混合物を室温で3時間攪拌して、安定なエポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾルを得た。別の容器で、3.0gのGPTMSと、触媒量の硝酸を含む10gの水を混合し(HO:GPTMS=44)、ゾルを生成させ、それに0.9gのTEOSを添加した。得られた透明なエポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾルを室温で3時間攪拌した。2つのゾル、エポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾルとエポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾルを混合して不透明な懸濁液とし、それを激しく攪拌して約2分程度で透明な複合ゾルへと変化させた。
【0017】
透明ゾル調製のための組成パラメータの決定
エポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾルおよび複合ゾル中のGPTMSの割合を変化させた以外は、上記の方法を用いて、十分に安定なエポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾル(A)とエポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル(B)を形成できる種々の前駆体の割合を決定した。一つの系列の実験では、以下の表1に示すように、エポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル(B)から最終複合ゾルに供給されるTEOSの量を一定に維持し、およびエポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾル(A)の組成を一定に維持した。この方法では、チタン酸のケイ酸前駆体に対する割合を固定し、該割合に対してエポキシケイ酸塩の割合を変化させた。エポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル(B)とエポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾル(A)からの水の量は一定とした。表1からわかるように、エポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル(B)および複合ゾル中のGPTMSの割合が減少すると、エポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル(B)中に存在するGPTMSの量が、エポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾル(A)中に存在するGPTMSの量の1/3より小さくなると、ゲル化が早く起こり、複合ゾルが不安定となるため、確実に被膜を形成することができなくなる。
【0018】
表1.エポキシケイ酸塩のケイ酸前駆体に対する割合をいろいろ変化させたエポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル(B)と、割合が固定されたチタン酸塩−ケイ酸塩ゾル(A)を組み合わせた時の種々の組成の複合ゾルの安定性。
【0019】
【表1】

【0020】
別の系列の実験を以下の表2に示すが、エポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾル(A)から最終複合ゲルへ供給するTBTの量を一定にし、およびエポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル(B)の組成を一定にした。この方法では、チタン酸塩とケイ酸塩前駆体の割合を固定し、該割合に対しエポキシケイ酸塩の割合を変化させた。エポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル(B)とエポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾル(A)からの水の量は一定とした。表2からわかるように、エポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾル(A)および複合ゾル中のGPTMSの割合が減少すると、エポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾル(A)中のGPTMSのTNTに対するモル比が、エポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル(B)中のGPTMSのTNTに対するモル比の2/3よりも小さくなると、ゲル化が早く起こり、複合ゾルが不安定となるため、確実に被膜を形成することができなくなる。
【0021】
表2.エポキシケイ酸塩のチタン酸塩前駆体に対する割合をいろいろ変化させたエポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾル(A)と、割合が固定されたエポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル(B)を組み合わせた時の複合ゾルの安定性。
【0022】
【表2】

【0023】
表1に示す組成物は、均一な混合物が生成し、ゲル化した混合物であってもほぼ均一であり、このことは図1に示すように、これら混合物を含むガラス瓶の複写写真からも明らかである。一方、表2のゲル化した組成物は、図2の複写写真からわかるように、ゲル化だけでなく相分離も起きている。
【0024】
別の系列の実験を以下の表3に示すが、最終複合ゾルに供給するGPTMS、TBT、TEOSおよび水の量を一定にし、エポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾルおよびエポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル中のGPTMSの量を変化させ、および複合ゾル中のすべての前駆体の割合が一定となるように、適切な量で2つのゾルを組み合わせた。表3からわかるように、エポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾル(A)またはエポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル(B)中ではGPTMSの割合が低く、ゾルは不安定であった。この結果は、エポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾル(A)は、TBTに対するGPTMSの比率が0.5〜2で、GPTMSがエポキシケイ酸塩−チタン酸塩ゾル(A)とエポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル(B)の間に0.5〜11の比率で分配されることを示している。
【0025】
表3.複合ゾルの組成を一定にしながら、エポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾル(B)とチタン酸塩−ケイ酸塩ゾルの組成をいろいろと変化させた時の複合ゾルの安定性。
【0026】
【表3】

【0027】
図3は、透明なゾルが得られ、3時間攪拌してもゲル化しない、複合ゾル中のGPTMS、TBTおよびTEOSの割合のプロットを示している。しかしながら、エポキシケイ酸塩−ケイ酸塩ゾルとチタン酸塩−ケイ酸塩ゾルの間にGPTMSが配分される方法は、GPTMS、TBTおよびTEOSの割合が安定なゾルを形成できる範囲内であっても、安定なゾルの生成を妨げる。
【0028】
本発明の態様によれば、膜の光学特性は被膜として優れている。図4は、スライドガラスを複合ゾル中に浸漬して作製した60 GPTMS:30 TBT:10 TEOSの厚さ3.6μmの2つの膜の透過率と波長の関係を示すプロットである。ミツヨト製のデジマチックインジケーターを用いて測定した。透過率は、未被覆のスライドガラスを比較として、パーキン・エルマー製のラムダ800紫外/可視分光光度計を用いて測定した。図4からわかるように、膜は可視光域において実質的に透明である。
【0029】
80 GPTMS:10 TBT:10 TEOSの組成を有する複合ゾルを用いてガラス基材上に膜を作製した。方法は、上述の方法と同様であり、有機溶剤系で作製した以外は、同じ割合のゾル前駆体から作製した膜と比較した。ヒストロン・トライボインデンター(登録商標)を用いてナノインデンション測定を行った。図5からわかるように、水系で作製した膜の場合、同じ深さの圧痕を与えるためには、少なくとも2回負荷を与える必要があり、硬度と靱性が向上したことを示している。剛性および靱性の比較を以下の表4に示す。
【0030】
表4.水溶液と有機溶媒溶液を用いて作製した80 GPTMS:10 TBT:10 TEOS膜についてのナノインデンターションにより測定した機械特性。
【0031】
【表4】

【0032】
無機−有機ハイブリッド材料は、粒子を含んでもよい。80 GPTMS:10 TBT:10 TEOSが板状形状のべーマイトを40〜80重量%含む、複合体を調製した。複合ゾル中のベーマイトの懸濁液を、平坦なガラスまたはPET表面に沈着させた。ハイブリッド材料にベーマイトを60重量%まで含有させた組成物については、すべてのケースについて亀裂は認められなかった。組成物が65重量%のベーマイトを含む場合、PET上の被膜で亀裂が認められたが、ガラス上に形成した被膜については、ベーマイトを75重量%含有させても亀裂は発生しなかった。80 GPTMS:10 TBT:10 TEOSは、ベーマイト複合体のマトリックスガラスを形成するためのゾルの最適な組成ではない。他のゾル組成物または異なる硬化条件および揮発分除去条件が、粒子をより高濃度に含有させることを可能にするより高い柔軟性を備えた最適化されたマトリックスガラスを与えることができる。
【0033】
本明細書で参照または引用された、上記または下記の、すべての特許、特許出願、仮出願および文献は、本明細書中の明確な教示に矛盾しない範囲で、すべての図面および表を含むすべての内容が、出典明示によりすべて本明細書に組み入れられる。
【0034】
本明細書に記載された実施例および実施形態は、例示のみを目的とするものであること、並びにそれに基づく種々の変形および変更は、当業者への教示となりかつ本願の精神および範囲の中に含まれるべきものであることは理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機−有機ハイブリッド被膜作製用ゾル:
水;
少なくとも1種の加水分解可能なシラン;および
少なくとも1種の加水分解可能な金属酸化物前駆体を含み、
上記のシランの少なくとも1種は、上記のシランに結合した少なくとも1種の重合可能な有機基を含み、
上記のゾルは、上記のシランおよび上記の金属酸化物前駆体の加水分解で生成する有機溶媒の量を超える有機溶媒を含まない。
【請求項2】
請求項1記載のゾルであって、上記のシランがR(4−n)SiXで示される構造を有する:
nは1から4であり;
XはCからCのアルコキシ、塩素、臭素、ヨウ素、水素、CからCのアシルオキシおよびNR’R’’から別々に選択された加水分解性基、ただし、R’とR’’は別々に水素またはCからCのアルキル、C(O)R’’’であり、ただし、R’’’は別々に水素またはCからCのアルキルであり;および
Rは別々にCからC12のラジカルであり、酸素、硫黄、NHおよびNR’’’’を含む1以上のヘテロ原子を含んでもよく、ただしR’’’’はCからCのアルキルまたはアリルであり、
該ラジカルは、シランから加水分解することはできず、塩素、臭素、ヨウ素、無置換または単置換の、アミノ、アミド、カルボキシル、メルカプト、イソシアナート、ヒドロキシル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシルオキシ、リン酸、アクリロキシ、メタクリロキシ、エポキシ、ビニル、アルケニルまたはアルキニルから選択された重付加反応や重縮合反応が可能な基を含んでいる。
【請求項3】
上記のシランが、テトラエトキシシラン(TEOS)およびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)を含む請求項1記載のゾル。
【請求項4】
上記のシランが、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)を含む請求項1記載のゾル。
【請求項5】
請求項1記載のゾルであって、上記の金属酸化物前駆体がMXで示される構造を有する:
nは2から4であり;
Mは、Ti、Zr、Al、B、SnおよびVからなる群から選択された金属であり;および
Xは、CからCのアルコキシ、塩素、臭素、ヨウ素、水素およびCからCのアクリロキシからなる群から選択された加水分解可能な部分である。
【請求項6】
上記の金属酸化物前駆体が、チタニウムテトラブトキシド(TTB)である請求項1記載のゾル。
【請求項7】
さらに分散されたナノ粒子を含み、該ナノ粒子は、Si、Al、B、TiまたはZrの酸化物、酸化物の水和物、窒化物または炭化物であって球状、針状または板状のものを含む請求項1記載のゾル。
【請求項8】
上記のナノ粒子は、SiO、TiO、ZrO、Al、Al(O)OH、Siまたはそれらの混合物を含む請求項7記載のゾル。
【請求項9】
上記のナノ粒子は、断面が2〜50nmである請求項7記載のゾル。
【請求項10】
上記のナノ粒子は、断面が5〜20nmである請求項7記載のゾル。
【請求項11】
上記のナノ粒子は、棒状ベーマイト、板状ベーマイトまたはそれら棒状と板状のベーマイトの混合物を含む請求項1記載のゾル。
【請求項12】
以下の工程を含む無機−有機ハイブリッド材料を用いた基材の被覆方法:
水と少なくとも1種の加水分解可能なシランを含む少なくとも1種のケイ酸ゾルを用意する工程であって、上記のシランの少なくとも1種が、上記のシランに結合した少なくとも1種の有機基を含み、および上記の水の量が上記のシランの完全加水分解に必要な化学量論量を超える量である該工程;
上記のケイ酸ゾルに少なくとも1種の金属酸化物ゾルを添加して複合ゾルを形成する工程であって、上記の金属酸化物ゾルが、水、少なくとも1種の加水分解可能な金属酸化物前駆体と、少なくとも1種の加水分解可能なシランであって、該シランに結合した少なくとも1種の重合可能な有機基を含む該シランを含み、上記の金属酸化物ゾル中の上記の水の量が、上記の金属酸化物ゾル中の上記のシランおよび金属酸化物前駆体の完全加水分解に必要な化学量論量より少ない量である該工程;
基材を上記の複合ゾルで被覆する工程;および
上記の複合ゾルを上記の基材上でゲル化させる工程を含み、
得られた被膜は、少なくとも2μmの厚さにおいて、少なくとも95%の透過率を有し可視光に対して透明である。
【請求項13】
上記の重合可能な有機基が、グリシドキシプロピルを含む請求項12記載の方法。
【請求項14】
上記のシランが、テトラエトキシシラン(TEOS)およびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)を含む請求項12記載の方法。
【請求項15】
上記のシランが、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)を含む請求項12記載の方法。
【請求項16】
上記の加水分解可能な金属酸化物前駆体が、金属アルコキシドを含む請求項12記載の方法。
【請求項17】
上記の加水分解可能な金属酸化物前駆体が、チタニウムテトラブトキシド(TBT)を含む請求項12記載の方法。
【請求項18】
さらに、ナノ粒子を上記の複合ゾルに分散させる工程を含む請求項12記載の方法。
【請求項19】
上記のナノ粒子がベーマイトのナノ板状粒子を含む請求項18記載の方法。
【請求項20】
上記の分散させる工程が、上記のナノ粒子の分散体を水に添加することを含む請求項18記載の方法。
【請求項21】
上記の被覆する工程が、浸漬、延展、刷毛塗り、ナイフ塗布、ローリング、吹き付け、スピン塗布、スクリーン印刷およびカーテン塗布を含む請求項12記載の方法。
【請求項22】
上記のゲル化させる工程が、上記の被覆基材を加熱することを含む請求項12記載の方法。
【請求項23】
上記の加熱を180℃より低い温度で行う請求項22記載の方法。
【請求項24】
上記の基材が有機材料を含む請求項12記載の方法。
【請求項25】
上記の有機材料が、熱可塑性プラスチックを含む請求項24記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−507597(P2012−507597A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534557(P2011−534557)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/056618
【国際公開番号】WO2010/062436
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(507371168)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファンデーション インコーポレーティッド (38)
【Fターム(参考)】