説明

水性トップコート用樹脂組成物

【課題】透明性と低角度から見た際の高い艶消し性を有する水性トップコート用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】トップコート用樹脂と有機微粒子を含む成分が水に希釈され、有機微粒子がトップコート用樹脂に対して3〜40重量%含有されている水性トップコート用樹脂組成物であって、有機微粒子の光散乱法によって測定した平均粒子径が1〜9μmであり、有機微粒子とトップコート用樹脂が、両者の屈折率差が0〜0.04の範囲にあるように選択されていることを特徴とする水性トップコート用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁紙材、床材、天井材、外壁材などの建材において有用な艶消し性と透明性を兼備したトップコートに用いる水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、皮膜中に有機微粒子あるいは無機微粒子を含有させることによって艶消し性を付与したトップコート皮膜が知られている。それらのうち、艶消し剤として微粉ケイ酸等の無機微粒子を使用したものは、透明性が悪いために下地の色合いが白くかすむ白ぼけ現象や、皮膜の耐摩擦性、破壊強度に劣るという問題があった。
【0003】
一方、艶消し剤として有機微粒子を使用した場合には、透明性が良く、下地の色調を損なうことなく艶消し性が得られる。例えば、ポリイソシアネートとポリアミンの界面重合によって形成されたポリウレタン尿素架橋粒子を用いた艶消し塗料組成物が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0004】
しかしながら、このような方法で得られる塗料組成物の含有するポリウレタン樹脂は、粒子径が大きく、皮膜化した際に十分な比表面積が得られず、特に低角度からの艶消し性が得られないという問題があった。低角度からの艶消し性が悪いトップコート皮膜を建材塗料用途などに使用した場合、正面から塗装部を見た際に艶消しによる高級感を得ることができず、これに対して十分な艶消し効果を発現させようと添加量を増やすと皮膜の外観を損なう問題を有していた。ポリウレタン樹脂の場合に限らず、例えばポリメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂を用いた場合も同様の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−139582号公報
【特許文献2】特開平4−323272号公報
【特許文献3】特開平5−1239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑み創案されたものであり、その目的は、高い透明性と低角度から見た際の高い艶消し性を有するトップコートを与えることができる水性トップコート用樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、粒子径が小さく、トップコート樹脂との屈折率差が小さい有機微粒子を一定量含有させることによって、従来技術の問題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の(1)及び(2)の構成を有するものである。
(1)トップコート用樹脂と有機微粒子を含む成分が水に希釈され、有機微粒子がトップコート用樹脂に対して3〜40重量%含有されている水性トップコート用樹脂組成物であって、有機微粒子の光散乱法によって測定した平均粒子径が1〜9μmであり、有機微粒子とトップコート用樹脂が、両者の屈折率差が0〜0.04の範囲にあるように選択されていることを特徴とする水性トップコート用樹脂組成物。
(2)(1)に記載の水性トップコート用樹脂組成物を用いて形成されたトップコート皮膜であって、20°グロス値が0〜10%であり、かつ内部ヘイズ値が0〜8%であることを特徴とするトップコート皮膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性トップコート用樹脂組成物は、高い透明性だけでなく低角度から見た際の高い艶消し効果も有する、高級感のあるトップコート皮膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で得られたトップコート皮膜のSEM写真(100倍)を示す。
【図2】比較例1で得られたトップコート皮膜のSEM写真(100倍)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のトップコート用樹脂組成物は、トップコート用樹脂と有機微粒子を含む成分が水に希釈されて構成されるものであり、使用する有機微粒子の平均粒子径と、有機微粒子とトップコート樹脂の屈折率差の値に特徴を有する。
【0012】
本発明で使用するトップコート用樹脂は、コーティングされる基材の色や模様を損なうことがない透明性を有する限り、従来公知の樹脂から適宜選択して使用することができ、例えばアクリル樹脂などを使用することができる。
【0013】
本発明で使用する有機微粒子は、トップコート表面に凹凸をつくり、表面の艶を消すために添加されるが、光散乱法によって測定した平均粒子径が1〜9μm、好ましくは2〜6μm、より好ましくは2〜4μmであることが必要である。平均粒子径が上記範囲未満であると、皮膜の表面に凹凸が付き難くなって十分な艶消し効果を発現できず、一方、平均粒子径が上記範囲を越えると、比表面積が小さくなるために低角度から見た際の艶消し性が損なわれるおそれがある。有機微粒子としては、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)系樹脂などからなるものを使用することができる。
【0014】
トップコート用樹脂に対する有機微粒子の添加量は3〜40重量%、好ましくは5〜35重量%、より好ましくは8〜30重量%であることが必要である。添加量が上記範囲未満であると、艶消し性を十分に低下させることができず、一方、添加量が上記範囲を越えると、皮膜の外観が損なわれるおそれがある。
【0015】
本発明のトップコート用樹脂組成物では、有機微粒子とトップコート用樹脂は、両者の屈折率差が0〜0.04、好ましくは0〜0.03、より好ましくは0〜0.02であるように選択されることが必要である。この屈折率差は可能な限り小さい方が好ましく、屈折率差が小さいほど内部ヘイズ値は低下し、皮膜は透明になる。
【0016】
本発明のトップコート用樹脂組成物を塗料にする方法としては、従来公知の方法を採用することができるが、例えば市販の透明な水性トップコート塗料に対して純水と有機微粒子を加えて高速ディスパーやホモジナイザー、サンドミル等で攪拌し、このとき必要に応じて消泡剤、難燃剤、防腐剤、防カビ剤、粘度調整剤などの助剤を添加する方法が挙げられる。
【0017】
本発明のトップコート用樹脂組成物を使用して形成されたトップコート皮膜は、0〜10%の20°グロス値と0〜8%の内部ヘイズ値が得られ、高い透明性を維持しながら、低角度から見た際の艶消し性も有し、従来得られなかった高級感を有する皮膜外観を達成することができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明の効果を説明するが、本発明の範囲はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例における特性値の評価は以下の方法に従った。
【0019】
(1)20°グロス値
隠蔽率試験紙上に作成したトップコート皮膜サンプルを光沢度計(VG 2000:日本電色(株)製)によって測定した。
【0020】
(2)内部ヘイズ値
まずPETフィルム(コスモシャイン:東洋紡(株)製)上に作成したトップコート皮膜サンプルの表面にセロファンテープを貼り付けて表面凹凸をなくした状態にして、ヘイズメーター(NDH 2000:日本電色(株)製)でヘイズ値を測定した(ヘイズA(%))。次にPETフィルムにセロファンテープを貼り付けたサンプルのヘイズ値を測定した(ヘイズB(%))。下記式より内部ヘイズ値(%)を算出した。
内部ヘイズ値[%]=ヘイズA[%]−ヘイズB[%]
【0021】
(3)屈折率差
測定するサンプルをスライドガラスにセットして標準屈折液(カーギル標準屈折液)を滴下後、カバーガラスをセットして光学顕微鏡によってサンプルを観察した。サンプルが確認できなくなるまで標準屈折液を変更し、確認できなくなった標準液の屈折率をサンプルの屈折率とした。屈折率差は2つのサンプルの屈折率の差の絶対値である。
【0022】
(4)皮膜外観
トップコート皮膜の外観を目視にて観察し、クラック、ひび割れ、フィッシュアイ等の物理的欠陥が確認される場合を×と判定し、それらの物理的欠陥がなく均一な皮膜であれば○と判定した。
【0023】
実施例1
水性トップコート塗料(水溶性つやだしニス:和信ペイント株式会社、成分:アクリル樹脂、樹脂濃度:30重量%)100重量部に対して純水50重量部、平均粒子径:2.7μmのPMMA粒子3.0重量部を加え、ホモジナイザーで10分間攪拌した。得られた塗料を使用してトップコート皮膜を作成した。トップコート皮膜は、基材となるPETフィルム(コスモシャイン:東洋紡(株)製)上に塗料を適量滴下しガラス棒で引っ張り引き延ばし、その後50℃の熱風乾燥機中で30分乾燥する方法で作成した。ガラス棒の両端には予めビニールテープが張り付けてあり、このビニールテープ厚みで一定クリアランスを確保し、均一厚みの皮膜を作成した。得られた塗料の詳細とトップコート皮膜の評価結果を表1に示した。また、得られたトップコート皮膜のSEM写真(100倍)を図1に示す。
【0024】
実施例2
水性トップコート塗料(水溶性つやだしニス:和信ペイント株式会社、成分:アクリル樹脂、樹脂濃度:30重量%)100重量部に対して純水50重量部、平均粒子径:8.0μmのPMMA粒子3.0重量部を加え、ホモジナイザーで10分間攪拌した。得られた塗料を使用して実施例1と同様にトップコート皮膜を作成した。得られた塗料の詳細とトップコート皮膜の評価結果を表1に示した。
【0025】
実施例3
水性トップコート塗料(水溶性つやだしニス:和信ペイント株式会社、成分:アクリル樹脂、樹脂濃度:30重量%)100重量部に対して純水50重量部、平均粒子径:2.7μmのPMMA粒子1.5重量部を加え、ホモジナイザーで10分間攪拌した。得られた塗料を使用して実施例1と同様にトップコート皮膜を作成した。得られた塗料の詳細とトップコート皮膜の評価結果を表1に示した。
【0026】
実施例4
水性トップコート塗料(水溶性つやだしニス:和信ペイント株式会社、成分:アクリル樹脂、樹脂濃度:30重量%)100重量部に対して純水50重量部、平均粒子径:2.7μmのPMMA粒子10.5重量部を加え、ホモジナイザーで10分間攪拌した。得られた塗料を使用して実施例1と同様にトップコート皮膜を作成した。得られた塗料の詳細とトップコート皮膜の評価結果を表1に示した。
【0027】
実施例5
水性トップコート塗料(水溶性つやだしニス:和信ペイント株式会社、成分:アクリル樹脂、樹脂濃度:30重量%)100重量部に対して純水50重量部、平均粒子径:6.0μmのPAN系粒子3.0重量部を加え、ホモジナイザーで10分間攪拌した。得られた塗料を使用して実施例1と同様にトップコート皮膜を作成した。得られた塗料の詳細とトップコート皮膜の評価結果を表1に示した。
【0028】
比較例1
水性トップコート塗料(水溶性つやだしニス:和信ペイント株式会社、成分:アクリル樹脂、樹脂濃度:30重量%)100重量部に対して純水50重量部、平均粒子径:17μmのPMMA系粒子3.0重量部を加え、ホモジナイザーで10分間攪拌した。得られた塗料を使用して実施例1と同様にトップコート皮膜を作成した。得られた塗料の詳細とトップコート皮膜の評価結果を表1に示した。得られたトップコート皮膜のSEM写真(100倍)を図2に示す。
【0029】
比較例2
水性トップコート塗料(水溶性つやだしニス:和信ペイント株式会社、成分:アクリル樹脂、樹脂濃度:30重量%)100重量部に対して純水50重量部、平均粒子径:17μmのPMMA系粒子14.4重量部を加え、ホモジナイザーで10分間攪拌した。得られた塗料を使用して実施例1と同様にトップコート皮膜を作成した。得られた塗料の詳細とトップコート皮膜の評価結果を表1に示した。
【0030】
比較例3
水性トップコート塗料(水溶性つやだしニス:和信ペイント株式会社、成分:アクリル樹脂、樹脂濃度:30重量%)100重量部に対して純水50重量部、平均粒子径:5μmのシリカ粒子3.0重量部を加え、ホモジナイザーで10分間攪拌した。得られた塗料を使用して実施例1と同様にトップコート皮膜を作成した。得られた塗料の詳細とトップコート皮膜の評価結果を表1に示した。
【0031】
比較例4
水性トップコート塗料(水溶性つやだしニス:和信ペイント株式会社、成分:アクリル樹脂、樹脂濃度:30重量%)100重量部に対して純水50重量部、平均粒子径:5.0μmのスチレン系粒子3.0重量部を加え、ホモジナイザーで10分間攪拌した。得られた塗料を使用して実施例1と同様にトップコート皮膜を作成した。得られた塗料の詳細とトップコート皮膜の評価結果を表1に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1〜5は、優れた艶消し性能を有しながら、高い透明性、皮膜外観を併せ持つことがわかる。比較例1は粒子径が大きいために艶消し性能が不足している。比較例2は粒子添加量が多いために粒子径が大きいにもかかわらず十分な艶消し性能が得られているが、一方で皮膜にクラックが発生し皮膜外観が悪いものであった。比較例3、4は屈折率差が大きいために内部ヘイズが高く白ボケした外観であった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のトップコート用樹脂組成物から得られたトップコート皮膜は、皮膜表面に微細で緻密な凹凸を形成し、かつ塗膜樹脂との屈折率差の小さい有機微粒子を含有することによって、高い艶消し性能と高い透明性を両立することを可能としている。従って、下地の色合い、柄、模様等をぼかすことなく艶消し性を付与した高級感のあるトップコート皮膜を提供することが可能となった。本発明のトップコート皮膜は、建材の塗料用途などに幅広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トップコート用樹脂と有機微粒子を含む成分が水に希釈され、有機微粒子がトップコート用樹脂に対して3〜40重量%含有されている水性トップコート用樹脂組成物であって、有機微粒子の光散乱法によって測定した平均粒子径が1〜9μmであり、有機微粒子とトップコート用樹脂が、両者の屈折率差が0〜0.04の範囲にあるように選択されていることを特徴とする水性トップコート用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の水性トップコート用樹脂組成物を用いて形成されたトップコート皮膜であって、20°グロス値が0〜10%であり、かつ内部ヘイズ値が0〜8%であることを特徴とするトップコート皮膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−180296(P2010−180296A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23525(P2009−23525)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】