説明

水性フロアーポリッシュ組成物

【課題】皮膜上に水が付着した状態における耐スリップ性が良好で、雨天時における滑り、転倒の危険を回避することができる、水性フロアーポリッシュを提供する。
【解決手段】水性フロアーポリッシュ組成物において、皮膜形成成分として、スチレン単位が30質量%以上であるスチレン−アクリル共重合樹脂を含有させ、ワックス類を含有させない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学系床材、石質系床材、木質系床材等の床材に塗布、乾燥して皮膜を形成し、床材の美観を保つと共に床材を保護する水性フロアーポリッシュ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の床面には、床面の保護および美観の向上を目的に水性フロアーポリッシュを塗布してメンテナンスが行われてきた。この水性フロアーポリッシュは、水分が揮発した後、乾燥樹脂皮膜として残存し、光沢、耐汚染性、耐きず性等の諸性能を発揮する。水性フロアーポリッシュを塗布した床面に水が付着した場合、滑りやすくなるが、この滑りやすくなる理由としては、「水が潤滑剤として作用して摩擦係数が低下する」、「フロアーポリッシュ皮膜が膨潤して滑りやすくなる」と考えられていた。
【0003】
雨天時、店舗等では、かさ袋や吸水マット等を設置して雨水の浸入を防止する努力をしているが、床面に水が付着することを完全に防止することはできず、店舗内で、歩行時の滑り、転倒が発生する危険が存在していた。
【0004】
特許文献1には、皮膜表面に凹凸を付与することで、物理的に滑りを防止する水性フロアーポリッシュ組成物が記載されている。
【特許文献1】特開2004−10876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の水性フロアーポリッシュは、表面凹凸により通常の状態での防滑性を付与するものであり、皮膜表面に水が存在するときにおける滑りを防止することを目的とするものではない。また、表面に凹凸を付与することにより、皮膜表面の光沢度が低くなるという問題があった。
【0006】
ウエット状態での耐スリップ性の改善については、これまであまり考慮されてなく、一般的に、ウエット状態においては、スリップは避けられないものであると認識されていた。
【0007】
しかし、高齢化が進む我国においては、大怪我をまねくおそれがある高齢者の雨天時のスリップを、このまま見過ごすことは適切ではない。そこで、本発明は、皮膜上に水が付着した状態における耐スリップ性が良好で、雨天時における滑り、転倒の危険を回避することができる、水性フロアーポリッシュを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、多くの配合検討とウエット状態における実歩行による耐スリップ性試験と静摩擦係数(JIS K3920−17)測定とを重ねた結果、ウエット状態での静摩擦係数が0.5以上であれば、歩行時に滑りの危険性がないことを見出し、このような性能を有する皮膜を形成することができる、以下の本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、皮膜形成成分として、スチレン単位が30質量%以上であるスチレン−アクリル共重合樹脂を含有し、ワックス類を含有しない、水性フロアーポリッシュ組成物である。このような組成の水性フロアーポリッシュ組成物を用いて皮膜を形成することによって、皮膜上に水が付着した状態における耐スリップ性が良好となり、雨天時における滑り、転倒の危険を回避することができる。ここで、「ワックス類」とは、植物系、動物系、鉱物系、石油系ワックス等の天然ワックス、または合成炭化水素、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、変性ワックス等の合成ワックスをいい、従来の水性フロアーポリッシュ組成物において必須成分として配合されていたものをいう。
【0010】
本発明において、スチレン−アクリル共重合樹脂のガラス転移点は、30℃以上80℃未満であることが好ましい。このようなガラス転移点を有するスチレン−アクリル共重合樹脂を用いることにより、ウエット時に滑りをより効果的に防止すると共に、ポリッシュ組成物の低温造膜性を良好にできる。
【0011】
本発明の水性フロアーポリッシュ組成物を用いて形成した皮膜のウエット状態での静摩擦係数(JIS K3920−17)は、0.5以上とすることができる。形成した皮膜がウエット状態でこのような静摩擦係数を備えていれば、ウエット状態の皮膜上の歩行者が滑る危険性を無くすことができる。
【0012】
また、本発明の水性フロアーポリッシュ組成物を用いて形成した皮膜の純水の接触角は、60°以上とすることができる。これにより、皮膜上に水が濡れ広がることが防止され、スリップを生じさせる箇所を減らし、安全性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性フロアーポリッシュ組成物を用いて皮膜を形成することによって、皮膜上に水が付着した状態における耐スリップ性が良好となり、雨天時における滑り、転倒の危険を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を実施形態に基づき説明する。
【0015】
<水性フロアーポリッシュ組成物>
本発明の水性フロアーポリッシュ組成物は、皮膜形成成分として、スチレン−アクリル共重合樹脂を含有している。また、従来の水性フロアーポリッシュには必須成分として配合されていた、ポリエチレンワックス等のワックス類を含有しない。以下、各成分について説明する。
【0016】
(スチレン−アクリル共重合樹脂)
スチレン−アクリル共重合樹脂は、該樹脂全体の質量を基準(100質量%)として、スチレン単位が30質量%以上であることが好ましい。このようなスチレン−アクリル共重合樹脂を使用することで、本発明の水性フロアーポリッシュにより形成した皮膜にウエット状態での耐スリップ性を付与できる。
【0017】
また、スチレン−アクリル共重合樹脂のガラス転移点(Tg)は、30℃以上80℃未満であることが好ましい。Tgが低すぎると、ウエット状態での耐スリップ性が不十分となるおそれがあり、また、Tgが高すぎるとポリッシュの低温造膜性が劣る。
【0018】
水性フロアーポリッシュ組成物中におけるスチレン−アクリル共重合樹脂の配合割合は、水性フロアーポリッシュ組成物全体の質量を基準(100質量%)として、10質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。本発明のフロアーポリッシュ組成物は、通常、スチレン−アクリル共重合樹脂が水中に分散されたエマルションの形態とされる。
【0019】
(ワックス類)
従来、水性フロアーポリッシュ組成物には、皮膜形成成分、艶出し成分、および滑り調節剤として、植物系、動物系、鉱物系、石油系ワックス等の天然ワックスまたは合成炭化水素、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、変性ワックス等の合成ワックスが必須成分として配合されていた。これに対して、本発明の水性フロアーポリッシュ組成物は、これらのワックス類を全く含有しないことが特徴である。これにより、本発明の水性フロアーポリッシュ組成物により形成した皮膜に、ウエット状態での耐スリップ性を付与することができる。
【0020】
(添加成分)
本発明の水性フロアーポリッシュ組成物は、更に必要に応じ、レベリング性を付与したり、剥離性を向上させたりする等の補助剤的に使用されるアルカリ可溶性樹脂、ポリマーの皮膜形成を常温でも容易に行わせる可塑剤、皮膜形成後に揮散して皮膜に残らない高沸点溶剤からなる皮膜形成助剤、エマルションの表面張力を下げて床面への濡れ性をよくするフッ素系界面活性剤、耐洗剤性および剥離性を向上させるための多価金属化合物、その他乳化剤、防腐剤、消泡剤等を適量含有することもできる。各成分の含有量としては、例えば、水性フロアーポリッシュ組成物全体の質量を基準(100質量%)として、アルカリ可溶性樹脂1質量%以上5質量%以下、可塑剤1質量%以上5質量%以下、皮膜形成助剤4質量%以上10質量%以下、とすることができる。
【0021】
(静摩擦係数、接触角)
本発明の水性フロアーポリッシュ組成物は、床に塗布し、乾燥して使用される。これにより床上に皮膜が形成される。本発明の組成物により形成された皮膜は、ウエット状態の耐スリップ性が良好である。具体的には、皮膜上に水が存在した状態における、JIS K3920−17に基づく静摩擦係数を、0.5以上、好ましくは0.6以上とすることができる。
【0022】
また、本発明の組成物により形成された皮膜の純水の接触角を、60°以上とすることができる。このように、本発明の組成物により形成された皮膜は、撥水性が良好である。これにより、皮膜上に水が存在する箇所を最小限に抑え、スリップの発生を防止することができる。
【0023】
(製造方法)
本発明の水性フロアーポリッシュ組成物は、上述の成分と水とを固形分濃度が、組成物全体を基準(100質量%)として、10質量%以上40質量%以下となるように配合し、通常のミキサーで均一に混合することにより製造される。
【実施例】
【0024】
<スチレン−アクリル共重合樹脂の製造>
(製造例1:ポリマーエマルションA)
撹拌装置、還流冷却器、滴下ロート、温度計および窒素導入管を備えた反応容器に純水390g、ラウリル硫酸ナトリウム4g、過流酸アンモニウム1gを加え、窒素封入後、水浴中で70℃まで加温した。そして、滴下ロートに表1に示す組成のモノマー260gを移し、2時間かけて滴下して重合を完了させた。40℃まで冷却後、下記の炭酸亜鉛アンモニア溶液50gを加え、不揮発分38質量%のポリマーエマルションAを得た。
【0025】
(炭酸亜鉛アンモニア溶液)
純水67gに酸化亜鉛7gを加え分散した。これに28%アンモニア水14g、炭酸アンモニウム12gを加え撹拌して、亜鉛含有量6%の炭酸亜鉛アンモニア溶液を得た。
【0026】
(製造例2:ポリマーエマルションB)
モノマーを表1に示す組成に変更した以外は、製造例1と同様の方法にて製造した。不揮発分38質量%のポリマーエマルションBを得た。
【0027】
(製造例3:ポリマーエマルションC)
モノマーを表1に示す組成に変更した以外は、製造例1と同様の方法にて製造した。不揮発分38質量%のポリマーエマルションCを得た。
【0028】
(製造例4:ポリマーエマルションD(スチレンが30%未満))
モノマーを表1に示す組成に変更した以外は、製造例1と同様の方法にて製造した。不揮発分38質量%のポリマーエマルションDを得た。
【0029】
(製造例5:ポリマーエマルションE(スチレンが30%未満))
モノマーを表1に示す組成に変更した以外は、製造例1と同様の方法にて製造した。不揮発分38質量%のポリマーエマルションEを得た。
【0030】
(製造例6:ポリマーエマルションF(スチレンが30%未満でTgが30℃未満)
モノマーを表1に示す組成に変更した以外は、製造例1と同様の方法にて製造した。不揮発分38質量%のポリマーエマルションFを得た。
【0031】
(製造例7:ポリマーエマルションG(Tgが30℃未満))
モノマーを表1に示す組成に変更した以外は、製造例1と同様の方法にて製造した。不揮発分38質量%のポリマーエマルションGを得た。
【0032】
(製造例8:ポリマーエマルションH(Tgが80℃以上))
モノマーを表1に示す組成に変更した以外は、製造例1と同様の方法にて製造した。不揮発分38質量%のポリマーエマルションHを得た。
【0033】
【表1】

【0034】
<水性フロアーポリッシュ組成物の調整>
製造したポリマーエマルションA〜Hを使用して、水性フロアーポリッシュ組成物を調整した(実施例および比較例)。各配合を表2および表3に示す。表中では、各成分を質量%で表示している。
【0035】
(実施例1)
撹拌装置を備えた容器に水399.5g、トリブトキシエチルフォスフェート20g、ジエチレングリコールモノエチルエーテル60g、フッ素系界面活性剤(セイミケミカル社製 商品名 サーフロンS−111)0.5gを加えて撹拌した。続いて、ポリマーエマルションA 420g、アルカリ可溶性樹脂水溶液100gを加えて、不揮発分19質量%の水性フロアーポリッシュ組成物を調整した。
アルカリ可溶性樹脂水溶液としては、アルコケミカル社製のSMA2625Aをアンモニア水を用いて溶解した水溶液を用いた(不揮発分15%)。
【0036】
(実施例2)
ポリマーエマルションにポリマーエマルションBを使用した以外は、実施例1と同様に調整した。不揮発分は19質量%であった。
【0037】
(実施例3)
ポリマーエマルションにポリマーエマルションCを使用した以外は、実施例1と同様に調整した。不揮発分は19質量%であった。
【0038】
(比較例1)
ポリマーエマルションにポリマーエマルションDを使用した以外は、実施例1と同様に調整した。不揮発分は19質量%であった。
【0039】
(比較例2)
ポリマーエマルションにポリマーエマルションEを使用した以外は、実施例1と同様に調整した。不揮発分は19質量%であった。
【0040】
(比較例3)
ポリマーエマルションにポリマーエマルションFを使用した以外は、実施例1と同様に調整した。不揮発分は19質量%であった。
【0041】
(参考例1)
ポリマーエマルションにポリマーエマルションGを使用した以外は、実施例1と同様に調整した。不揮発分は19質量%であった。
【0042】
(参考例2)
ポリマーエマルションにポリマーエマルションHを使用した以外は、実施例1と同様に調整した。不揮発分は19質量%であった。
【0043】
(比較例4)
撹拌装置を備えた容器に水399.5g、トリブトキシエチルフォスフェート20g、ジエチレングリコールモノエチルエーテル60g、フッ素系界面活性剤(セイミケミカル社製、商品名:サーフロンS−111)0.5gを加えて撹拌した。続いて、ポリマーエマルションB 420g、アルカリ可溶性樹脂水溶液100g、ワックスエマルション100gを加えて、不揮発分21質量%の水性フロアーポリッシュ組成物を調整した。
ワックスエマルションとしては、東邦化学社製 商品名:ハイテック E−4000(不揮発分40%)を用いた。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
<評価方法>
実施例および比較例で得られた各水性フロアーポリッシュ組成物を床材に塗布して、各種試験に供した。
【0047】
(試験片の調整)
床材としては、ホモジニアスビニル床タイル30cm角(商品名:ジニアスプレーンGE1106(タジマ製))を用いた。該タイルに、JIS K3920(フロアーポリッシュ試験方法)に準じて、1回あたりの塗布量を10ml/mとしてポリッシュ組成物を3回塗布した。そして、室温で4日間乾燥後、各種試験に供した。
【0048】
(光沢度)
JIS K3920(光沢度)に準じて、3回塗布後の光沢度を測定した。
【0049】
(ウエット状態における実歩行による耐スリップ性試験)
試験片を床に敷き詰め、雨天時を想定して、100ml/mの水道水を均一に撒いた。硬質ゴム底(JIS S5050(革靴))の紳士靴で歩行して、滑りの程度を以下の基準で判定した。
評価基準
×:つるつるとよく滑る。滑りが止まらない。転倒し易く、歩行は非常に危険な状態。
△:つるつるとは滑らないが、滑りやすい。気を付けて歩かないと転倒する状態。
○:滑らない。通常の歩行が可能な状態。
【0050】
(ウエット状態における静摩擦係数(JIS K3920−17))
JIS K3920に準じて、静摩擦係数を測定した。滑り片は、硬質ゴム底(JIS S5050(革靴))を用いた。試験片の中央に水道水10mlをシリンジで撒き、水の上に滑り片を乗せて、静摩擦係数を測定した。静摩擦係数(JIS K3920−17)が0.5未満は、実歩行において滑り易いとして取り扱われている。ASTM D2047参照。
【0051】
(純水の接触角の測定)
FACE接触角計CA−DT A型(協和界面科学社製)を用いて、ポリッシュ組成物を塗布した試験片の接触角(純水)を測定した。
【0052】
(低温造膜性)
冬季を想定して、室温を5℃に調節した恒温室内で、ポリッシュ組成物を床材に1回塗布した。塗布方法は上記(試験片の調整)に準じた。5℃で24時間乾燥後、皮膜状態を以下の基準で評価した。
評価基準
○:均一で丈夫な皮膜を形成している。常温乾燥と同等の皮膜状態。
△:皮膜を形成するが、細かなクラック(ひび割れ)があり、皮膜がもろい。
×:皮膜を形成せず、パウダリング状態。
【0053】
【表4】

【0054】
本発明の水性フロアーポリッシュ組成物(実施例1〜3)は、ウエット状態での実歩行による耐スリップ性に優れていた。また、実施例1〜3はウエット状態における静摩擦係数が0.5以上と高く、実歩行による耐スリップ性と相関していることが解った。更に、実施例1〜3は水に濡れ難く、接触角が60°以上と大きく、実歩行による耐スリップ性と相関していることが解った。
【0055】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う水性フロアーポリッシュ組成物もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膜形成成分として、スチレン単位が30質量%以上であるスチレン−アクリル共重合樹脂を含有し、ワックス類を含有しない、
水性フロアーポリッシュ組成物。
【請求項2】
前記スチレン−アクリル共重合樹脂のガラス転移点が、30℃以上80℃未満である、請求項1に記載の水性フロアーポリッシュ組成物。
【請求項3】
形成した皮膜のウエット状態での静摩擦係数(JIS K3920−17)が0.5以上である、請求項1または2に記載の水性フロアーポリッシュ組成物。
【請求項4】
形成した皮膜の純水の接触角が60°以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の水性フロアーポリッシュ組成物。

【公開番号】特開2009−19180(P2009−19180A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184899(P2007−184899)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)