説明

水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた水性ボールペン

【課題】本発明の課題は、ドライアップ性能と顔料分散性に優れた水性ボールペン用インキ組成物を提供することである。
【解決手段】本発明は、少なくとも水、着色剤、発酵セルロースからなることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ボールペン用インキ組成物に関し、さらに詳細としては、ドライアップ性能と顔料分散性に優れた水性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた水性ボールペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボールペン先を大気中に放置すると、インキ中の溶媒などが蒸発して、着色剤や樹脂などが乾燥固化して詰まり、筆跡カスレや、筆記不良になってしまうことがあった。
【0003】
そのため、水性ボールペン用インキ組成物のペン先の乾燥防止剤として、エチレングリコールやプロピレングリコール等の多価アルコール溶剤や尿素及び/又は尿素誘導体などにより、ドライアップ性能を向上した水性ボールペン用インキ組成物が知られている。
【0004】
しかしながら、前者のエチレングリコールやプロピレングリコール等の多価アルコール溶剤は十分なドライアップ性能を得るためには多量の添加が必要となり、その結果、インキ粘度の上昇によるインキ追従不良や、筆跡の滲み等が発生する、さらに擦過性能が劣ってしまう。また、後者の尿素及び/又は尿素誘導体は、ある程度のドライアップ性能の向上は認められるものの、高温環境下では分解してアンモニアを発生させ、インキ経時が不安定になる問題が発生してしまう。
【0005】
こうした問題を鑑みて、新たに添加剤を含有する技術として、特開平9−67535号公報「水性インキ組成物」には、セリンを含有したもの、特開2002−173616号公報「水性インキ組成物」には、1,6-ヘキサンジオール、特開2010−37369号公報「筆記具用インキ」には、ジペンタエリスリトールを含有したものが開示されている。
【0006】
また、耐水性や耐光性を向上するために、着色剤として顔料を用いる場合は、顔料分散を安定させる目的で、剪断減粘性付与剤、水溶性高分子など用いたものとして、特許第2920570号公報「水性ボールペン用インキ組成物」には、ウェランガムを含有したもの、特開2005−68363号公報「水性インキ組成物とそれを用いた水性ボールペン」には、ダイユータンガムを含有したもの等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】「特開平9−67535号公報」
【特許文献2】「特開2002−173616号公報」
【特許文献3】「特開2010−37369号公報」
【特許文献4】「特許第2920570号公報」
【特許文献5】「特開2005−68363号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜3のように、新たにドライアップ抑制剤を含有することで、チップ先端を大気中に放置した状態では、ある程度のドライアップ性能の向上は認められるものもあるが、皮膜が硬すぎたり、柔らかすぎたりするため、十分に満足できるドライアップ性能ではなく、また、ジペンタエリスリトールは水に対する溶解度が低いため、析出してしまうため、筆記性能に影響が出てしまう問題を抱えていた。
【0009】
また、インキ粘度調整剤や顔料分散剤として、特許文献4、5のようにウェランガム、ダイユータンガムなどの剪断減粘性付与剤を含有したが、ある程度の顔料分散性の向上することはできたが、長期間の顔料分散安定性を保つのは難しく、筆跡に濃淡が発生したり、顔料の均一分散が壊れてしまい凝集によるチップ先端で、インキ詰まりを発生するものもあった。さらに、ノック式水性ボールペンや回転繰り出し式水性ボールペン等においては、キャップ式ボールペンよりも、チップ先端を出したままの状態であるため、ドライアップ性能の向上が望まれていた。
【0010】
本発明の目的は、ドライアップ性能と顔料分散性に優れた水性ボールペン用インキ組成物と水性ボールペンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、
「1.少なくとも水、着色剤、発酵セルロースからなることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。
2.前記水性ボールペン用インキ組成物に、多糖類を含有することを特徴とする第1項に水性ボールペン用インキ組成物。
3.前記水性ボールペン用インキ組成物に、単糖類の還元物を含有することを特徴とする第1項または第2項のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
4.前記水性ボールペン用インキ組成物に、セルロース誘導体を含有することを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に水性ボールペン用インキ組成物。
5.前記着色剤が、顔料を含有することを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
6.前記顔料が、吸油量1〜200g(/100g)のカーボンブラックであることを特徴とする第5項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
7.前記顔料のインキ組成物全量に対する含有量をAとし、前記発酵セルロースのインキ組成物全量に対する含有量をBとした場合、A、Bが0.01≦B/A≦1.0の関係であることを特徴とする第5項または第6項のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
8.前記セルロース誘導体のインキ組成物全量に対する含有量をCとした場合、B、Cが0.01≦C/B≦1.0の関係であることを特徴とする第4項ないし第7項のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
9.第1項ないし第8項のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物を直詰めしたインキ収容筒の先端部に、チップ本体のボール抱持室にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して具備したボールペンレフィルを、軸筒内に摺動自在に配設し、前記ボールペンチップを前記軸筒の先端開口部から出没可能としたことを特徴とする水性ボールペン。」
とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、水性ボールペン用インキ組成物においてチップ先端を大気中に放置した状態でも、チップ先端に柔らかい樹脂皮膜を形成することで、ドライアップ性能に優れ、さらに、顔料を用いた場合でも、顔料沈降や凝集を抑制することで、顔料分散性を向上する水性ボールペン用インキ組成物と水性ボールペンを提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の特徴は、少なくとも水、着色剤、発酵セルロースからなる水性ボールペン用インキ組成物であることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物を用いることである。
【0014】
発酵セルロースは、酢酸菌の亜種を適正な培地で通気撹拌培養し、菌体外産出されたセルロース繊維を分離・回収したものであり、非常に繊細な繊維性粒子からなる。本願発明者は、発酵セルロースを用いることで、ドライアップ性能を向上する効果が得られることが解った。これは、従来から、用いられているウェランガム、ダイユータンガム等の樹脂とは違い、チップ先端を大気中に放置した状態でも、チップ先端に柔らかい樹脂皮膜を形成するため、着色剤が染料系、顔料系などに限らず、ドライアップ時の書き出しにおいて、筆跡が良好となる効果が得られるためである。
【0015】
前記発酵セルロースの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.01〜5.0質量%が好ましい。これは、この範囲を下まわると、樹脂皮膜が形成しづらい傾向があり、十分にドライアップ性能を向上しづらく、この範囲を超えると、インキ中で溶解しづらい傾向があるためである。よりドライアップ性能や溶解安定性について考慮すれば、0.1〜2.0質量%が、最も好ましい。
【0016】
また、前記発酵セルロースを含有した水性ボールペン用インキ組成物には、単糖類の還元物を併用することが好ましい。これは、単糖類の還元物は、より吸湿効果が高く、チップ先端で樹脂皮膜を形成時に、吸湿作用が働くことで、より柔らかい樹脂皮膜を形成しやすく、着色剤が染料系、顔料系などに限らず、ドライアップ時の書き出しがより良好となりやすいためである。
【0017】
単糖類の還元物については、糖類の中でもこれ以上加水分解されない構成単位が単糖類であり、代表的なものはグルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなどの単糖類があり、それらの単糖類を還元したものである。特に、その中でも糖アルコールが好ましく用いられる。
【0018】
前記単糖類の還元物の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1〜10.0質量%が好ましい。これは、この範囲を下まわると、吸湿効果が十分得られない傾向があり、この範囲を超えると、吸湿効果の高すぎる傾向があるため、ドライアップ性能が劣る傾向があるためである。よりドライアップ性能について考慮すれば、0.5〜5.0質量%が、最も好ましい。
【0019】
さらに、ドライアップ性能を向上するためには、セルロース誘導体を用いる方が好ましい。これは、発酵セルロースと併用することで、相乗的にドライアップ性能を向上しやすい傾向があるためで、より効果的である。
【0020】
セルロース誘導体としては、前記発酵セルロースとは異なるものが挙げられるが、カルボキシメチルセルロース又はその塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、酢酸セルロース等が挙げられる。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0021】
前記セルロース誘導体の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.01〜5.0質量%が好ましい。これは、この範囲を下まわると、樹脂皮膜が形成しづらい傾向があり、十分にドライアップ性能を向上しづらく、この範囲を超えると、インキ中で溶解しづらい傾向があるためである。よりドライアップ性能や溶解安定性について考慮すれば、0.1〜2.0質量%が、最も好ましい。
【0022】
また、着色剤として、顔料を用いる場合は、発酵セルロースを用いると、顔料沈降や凝集を抑制することで、顔料分散性を向上しやすく、より効果的に用いることが可能である。これは、水性インキ組成物中で、発酵セルロースの繊維がほどけて、三次元網目構造を形成し、顔料を該三次元網目構造の抵抗力により、顔料沈降や凝集を抑制することが可能である。そのように、発酵セルロースを用いることで、顔料分散性の向上と、前述したドライアップ性能の向上の2つの効果を向上することが可能となる。
【0023】
また、顔料を用いる場合は、発酵セルロースとの顔料分散性を考慮して、吸油量が1〜200g(/100g)である顔料を用いる方が好ましい。これは、吸油量は顔料のつながりであるストラクチャーをあらわす代替特性であり、吸油量の大きさによって、ストラクチャーは、大きくなるが、吸油量が1g(/100g)未満だと、ストラクチャーが小さすぎて、顔料が凝集しやすく、また吸油量が200 g(/100g)を超えると、ストラクチャーが大きすぎて、前記発酵セルロースの三次元網目構造の抵抗力を超える傾向があるため、顔料沈降が発生しやすい傾向がある。
ここで、顔料の吸油量は、顔料のストラクチャーを示す特性であり、乾燥された一定量の顔料がDBP(ジブチルフタレート)を吸収する量をいいJISK6221に規定される試験方法で測定される。
【0024】
また、顔料の吸油量については、50〜200g(/100g)が好ましい。これは、吸油量が、50g(/100g)未満だと、顔料が凝集しやすい傾向があり、顔料分散性に影響が出やすいためである。さらに、吸油量が、180g(/100g)を超えると、顔料が沈降しやすい傾向があるため、50〜180g(/100g)が最も好ましい。
【0025】
また、顔料のインキ組成物全量に対する含有量をAとし、発酵セルロースのインキ組成物全量に対する含有量をBとした場合、A、Bが0.01≦B/A≦1.0の関係である方が好ましい。これは、0.01>B/Aだと、顔料分散させるための発酵セルロースの絶対量が足りず、顔料分散性に影響が出やすい傾向となるためであり、1.0>B/Aだと、ドライアップ時のチップ先端の樹脂皮膜が厚くなる傾向があるため、書き出しに影響が出やすい。より、顔料分散性とドライアップ性能を考慮すれば、0.05≦B/A≦0.5の関係である方が最も好ましい。
【0026】
また、本発明のように、発酵セルロースの1つの特性である顔料分散性をより向上するためには、セルロース誘導体を併用する方が好ましい。これは、発酵セルロースとセルロース誘導体を併用することで、水性インキ組成物中で各々が複合的に絡み合うことで発酵セルロースとセルロース誘導体の複合体を形成し、より細かな網目の三次元網目構造を形成しやすく、該三次元網目構造の抵抗力がより向上しやすい傾向があるため、より顔料分散性を向上する傾向がある。さらに、各々セルロース樹脂であるため、性質も類似しており、長期間三次元網目構造を安定して保ちやすい傾向がある。そのため、発酵セルロースとセルロース誘導体を併用することで、より顔料分散性の向上と、よりドライアップ性能の2つの効果を向上しやすくする傾向がある。
【0027】
また、顔料を用いる場合は、セルロース誘導体の中でも、カルボキシメチルセルロース又はその塩を用いる方が好ましい。これは、発酵セルロースと絡みやすく、長期間安定しているため、より顔料分散安定しやすいためである。
【0028】
また、セルロース誘導体のインキ組成物全量に対する含有量をCとした場合、発酵セルロースの含有量Bとの関係は、0.01≦C/B≦1.0の関係である方が好ましく、これは、0.01>C/Bだと、セルロース誘導体の絶対量が足りず、細かな三次元網目構造になりにくく、該三次元網目構造の抵抗力が小さくなる傾向があり、顔料分散性に影響が出やすく、1.0>C/Bでも、顔料分散性やドライアップ性能に影響が出やすいためである。より顔料分散性の向上を考慮すれば、最も好ましくは、0.1≦C/B≦0.5である。
【0029】
本発明で用いる着色剤は、特に限定されないが、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ギオキサジン系、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、補色顔料等が挙げられる。染料については、直接染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、及び各種造塩タイプ染料等が採用可能である。その他、着色樹脂粒子体として顔料を媒体中に分散させてなる着色体を公知のマイクロカプセル化法などにより樹脂壁膜形成物質からなる殻体に内包または、固溶化させたマイクロカプセル顔料を用いても良い。更に、顔料を透明、半透明の樹脂等で覆った着色樹脂粒子などや、また着色樹脂粒子や無色樹脂粒子を、顔料もしくは染料で着色したもの等も用いることもできる。これらの顔料および染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。含有量は、インキ組成物全量に対し、1.0〜20.0質量%が好ましい。
【0030】
また、インキ粘度調整剤として、剪断減粘性付与剤を使用しても良い。剪断減粘性付与剤としては、多糖類として、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガム、λ−カラギーナン、ダイユータンガムや、ポリアクリル酸などが挙げられる。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。その中でも、泣きボテが発生しづらく、筆跡が良好である多糖類を用いる方が好ましくい。さらに、より顔料分散性を向上し、より泣きボテが発生しづらい傾向があるキサンタンガムを用いるのが、最も好ましい。
【0031】
また、水分の溶解安定性、水分蒸発乾燥防止等を考慮し、水溶性有機溶剤を使用しても良い。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、チオジグリコールなどのグリコール系溶剤、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、3―メトキシブタノール、3―メトキシー3―メチルブタノール等のグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。その中でも、前記発酵セルロースとの溶解安定性や、ドライアップ性能が向上する傾向であるグリコール系溶剤を用いる方が好ましい。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。水溶性有機溶剤の含有量は、溶解性、ドライアップ性能、にじみ等を考慮すると、インキ組成物全量に対し、10.0〜30.0質量%が好ましい。
【0032】
その他の添加剤として、着色剤の経時安定性や潤滑性を向上させるために、pH調整剤や界面活性剤として、リン酸エステル系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、脂肪酸等、1,2ベンゾイソチアゾリン−3−オン等の防菌剤、尿素などの保湿剤、ベンゾトリアゾール等の防錆剤、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤などを添加することができる。また、樹脂または樹脂エマルジョンとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂などを添加することができる。これらは単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0033】
なお、インキ粘度については、限定されるものではないが、本発明で用いるカーボンブラックの分散安定性や筆記性能の向上を考慮すると、剪断速度1.92sec−1において、1000〜3500mPa・sにする方が好ましく、より好ましくは、1200〜2500mPa・sである。
【0034】
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1
水 60.3質量部
水溶性有機溶剤(エチレングリコール) 20.0質量部
潤滑剤(リン酸エステル系界面活性剤) 1.0質量部
単糖類の還元物 5.0質量部
pH調整剤(トリエタノールアミン) 3.0質量部
防菌剤(1、2ベンゾイソチアゾリン−3−オン) 0.5質量部
防錆剤(ベンゾトリアゾール) 0.5質量部
顔料(吸油量:52g(/100g)) 6.0質量部
樹脂(アクリル系樹脂) 3.0質量部
発酵セルロース 0.6質量部
セルロース誘導体 0.1質量部
剪断減粘性付与剤(キサンタンガム) 0.4質量部
【0035】
まず、水、水溶性有機溶剤、pH調整剤、顔料、樹脂を適量採取し、ビーズミル、ボールミル、ロールミルなどの分散機を使用し、充分に分散した後、遠心分離を行い、粗大分を除去して顔料分散体を得る。その後、作製した顔料分散体、水、水溶性有機溶剤、潤滑剤、単糖類の還元物、pH調整剤、防菌剤、防錆剤をマグネットホットスターラーで加温撹拌等してベースインキを作成した。
【0036】
その後、上記作製したベースインキを加温しながら、発酵セルロース、セルロース誘導体、剪断減粘性付与剤を投入してホモジナイザー攪拌機を用いて均一な状態となるまで充分に混合攪拌した後、濾紙を用い濾過を行って、実施例1の水性ボールペン用インキ組成物を得た。尚、実施例1のインキ粘度は、ブルックフィールド社製DV−II粘度計(CPE−42ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度1.92sec−1(回転数0.5rpm)の条件にてインキ粘度を測定したところ、2100mPa・sであった。また、実施例1の発酵セルロース含有量(B)/顔料含有量(A)=0.10、セルロース誘導体含有量(C)/発酵セルロース含有量(B)=0.17であった。
【0037】
実施例2〜9
インキ配合を表1、2に示すように変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2〜9の水性ボールペン用インキ組成物を得た。表1、2に、インキ配合および測定、評価結果を示す。
【表1】

【表2】

【0038】
比較例1〜3
インキ配合を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様な手順で比較例1〜3の水性ボールペン用インキ組成物を得た。表3に、インキ配合および測定、評価結果を示す。
【表3】

【0039】
試験および評価
実施例1〜9及び比較例1〜3で作製した水性ボールペン用インキ組成物を、インキ収容筒の先端にボール径が0.7mmのボールを回転自在に抱持したボールペンチップをチップホルダーに介して具備したインキ収容筒内(ポリプロピレン製)に充填したレフィルを(株)パイロットコーポレーション製のゲルインキボールペン(商品名:G−knock)に装着して、水性ボールペンを作製し、以下の試験および評価を行った。
尚、ドライアップ性能試験の評価は、筆記試験用紙としてJIS P3201 筆記用紙Aを用い、以下のような試験方法で評価を行った。
【0040】
ドライアップ性能試験:ペン先を出したまま、50℃で2週間放置した後、手書き筆記した際の筆跡の状態を評価した。
筆跡にカスレがなく、筆跡が良好のもの ・・・◎
筆跡に若干カスレが出るが、実用上問題ないもの ・・・○
筆跡にカスレが出るもの ・・・△
筆跡にカスレがひどく、実用性に乏しいもの ・・・×
【0041】
顔料分散試験:直径15mmの密開閉ガラス試験管に各水性ボールペン用インキ組成物を入れて、常温にて1か月放置後、適量採取し、顕微鏡で顔料の分散状態を観察した。
顔料が均一分散されているもの ・・・◎
顔料の沈降や凝集が、一部確認されたもの ・・・○
顔料の沈降や凝集があるが、実用上問題ないのもの ・・・△
顔料の沈降や凝集がひどく、筆記不良になるもの ・・・×
【0042】
表1の結果より、実施例1〜9では、ドライアップ性能試験、顔料分散試験ともに良好もしくは、問題のないレベルの性能が得られた。
【0043】
表2の結果より、比較例1〜3では、発酵セルロースを用いなかったため、ドライアップ性能試験において、筆跡にカスレが発生してしまい、顔料分散試験においても、顔料の沈降や凝集が発生した。
【0044】
本発明において、水性ボールペン用インキ組成物を直詰めしたインキ収容筒の先端部に、チップ本体のボール抱持室にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して具備したボールペンレフィルを、軸筒内に摺動自在に配設し、前記ボールペンチップを前記軸筒の先端開口部から出没可能としたことを特徴とするノック式水性ボールペンや回転繰り出し式水性ボールペン等においては、キャップ式ボールペンとは異なり、チップ先端での乾燥固化によるドライアップ性能が重要になるため、本発明の効果が顕著となる。
【0045】
本発明において、ボールペンチップ先端縁の内壁に、ボールを押圧するコイルスプリングを配設することによって、ボールペンチップ先端のシール性を保つことで、チップ先端のインキ増粘を抑制しやすくすることで、ドライアップ性能向上をしやすくなるため、より好ましく用いることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は水性ボールペンとして利用でき、さらに詳細としては、該水性ボールペン用インキ組成物を充填した、キャップ式、出没式等の水性ボールペンとして広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水、着色剤、発酵セルロースからなることを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項2】
前記水性ボールペン用インキ組成物に、多糖類を含有することを特徴とする請求項1に水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項3】
前記水性ボールペン用インキ組成物に、単糖類の還元物を含有することを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項4】
前記水性ボールペン用インキ組成物に、セルロース誘導体を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項5】
前記着色剤が、顔料を含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項6】
前記顔料が、吸油量1〜200g(/100g)のカーボンブラックであることを特徴とする請求項5に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項7】
前記顔料のインキ組成物全量に対する含有量をAとし、前記発酵セルロースのインキ組成物全量に対する含有量をBとした場合、A、Bが0.01≦B/A≦1.0の関係であることを特徴とする請求項5または6のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項8】
前記セルロース誘導体のインキ組成物全量に対する含有量をCとした場合、B、Cが0.01≦C/B≦1.0の関係であることを特徴とする請求項4ないし7のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の水性ボールペン用インキ組成物を直詰めしたインキ収容筒の先端部に、チップ本体のボール抱持室にボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接又はチップホルダーを介して具備したボールペンレフィルを、軸筒内に摺動自在に配設し、前記ボールペンチップを前記軸筒の先端開口部から出没可能としたことを特徴とする水性ボールペン。

【公開番号】特開2013−91730(P2013−91730A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234975(P2011−234975)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】