説明

水性ボールペン用インキ組成物及び水性ボールペン

【課題】平均粒子径が小さい熱変色性のマイクロカプセル顔料を使用しても十分な描線濃度が得られ、インキの保存安定性、筆記性能に優れた水性ボールペン用インキ組成物及び水性ボールペンを提供する。
【解決手段】平均粒子径が0.1〜1.0μmである壁膜がアミノ樹脂で形成されたマイクロカプセル顔料と、ケトンを主鎖とするポリマーであって、化学構造内に酸性官能基を持ち、かつ酸価が3〜40(mgKOH/g)である化学物質とを少なくとも含有することを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセル顔料を含有する水性ボールペン用インキ組成物及び水性ボールペンに関し、更に詳しくは、平均粒子径が小さい熱変色性のマイクロカプセル顔料を使用しても十分な描線濃度が得られ、インキの保存安定性、筆記性能に優れた水性ボールペン用インキ組成物及び水性ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ロイコ染料の顕色、消色機構を利用した熱変色性のマイクロカプセル顔料を使用したインキ組成物は、数多く知られている。
例えば、(イ)ロイコ染料である電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)顕色剤である電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める変色温度調整剤となる反応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、水を少なくとも含有してなり、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径が2.5〜4.0μmの範囲にあり、且つ、2.0μm以下の粒子が全マイクロカプセル顔料中の30体積%以下であることを特徴とする可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物(例えば、特許文献1参照)や、水と、(イ)ロイコ染料である電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)顕色剤である電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める変色温度調整剤となる反応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、高分子凝集剤と、側鎖にカルボキシル基を有する櫛形高分子分散剤と、水溶性樹脂とからなり、上記マイクロカプセル顔料の最大外径の平均値が0.5〜5.0μmである可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0003】
しかしながら、一般に上記マイクロカプセル顔料は、その平均粒子径が小さくなるにしたがって、色濃度が低下し、好ましくない傾向にあることは、上記特許文献1の段落0023に、2.5μm未満の系では高濃度の発色性を示し難いことを記載し、2.0μm以下の粒子が全マイクロカプセル顔料中の30体積%以下である、より好ましくは10体積%以下であることを記載している。また、上記特許文献2においても、マイクロカプセル顔料の最大外径の平均値が0.5〜5.0μmであることを記載しているが、各実施例をみると、2.3〜2.5μmのマイクロカプセル顔料を使用している。これは、マイクロカプセル顔料におけるカプセル厚が相対的に増加することに起因するものである。
【0004】
一方、水性ボールペンに当該マイクロカプセル顔料を用いる場合、筆記性やインキの保存安定性の点から平均粒子径が小さい顔料を用いることが好ましい。しかしながら、上記理由によって、これまでは諸性能を満足する熱変色性のマイクロカプセル顔料を含有するインキやボールペンが得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−280440号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2009−227954号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状に鑑み、これを解消しようとするものであり、平均粒子径が0.1〜1.0μmという小さい粒子径の熱変色性のマイクロカプセル顔料を使用しても十分な描線濃度が得られ、かつ、インキの保存安定性、筆記性能に優れた水性ボールペン用インキ組成物及び水性ボールペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、平均粒子径が0.1〜1.0μmである特定物性の壁膜で形成されたマイクロカプセル顔料と、特定物性の化学物質とを少なくとも含有することにより、上記目的の水性ボールペン用インキ組成物及び水性ボールペンが得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(4)に存する。
(1) 平均粒子径が0.1〜1.0μmである壁膜がアミノ樹脂で形成されたマイクロカプセル顔料と、ケトンを主鎖とするポリマーであって、化学構造内に酸性官能基を持ち、かつ酸価3〜40(mgKOH/g)である化学物質とを少なくとも含有することを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。
(2) 更に、ポリオキシエチレン脂肪族アミン(脂肪族の炭素数が10〜20である)を含有することを特徴とする上記(1)記載の水性ボールペン用インキ組成物。
(3) 前記ポリオキシエチレン脂肪族アミンにおけるポリオキシエチレンの付加モル数が10〜50であることを特徴とする上記(2)記載の水性ボールペン用インキ組成物。
(4) 上記(1)〜(3)記載の何れか一つに記載の水性ボールペン用インキ組成物を搭載したことを特徴とする水性ボールペン
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、平均粒子径が0.1〜1.0μmという小さい粒子径の熱変色性のマイクロカプセル顔料を使用しても十分な描線濃度が得られ、かつ、インキの保存安定性、筆記性能に優れた水性ボールペン用インキ組成物及び水性ボールペンが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の水性ボールペン用インキ組成物は、平均粒子径が0.1〜1.0μmである壁膜がアミノ樹脂で形成されたマイクロカプセル顔料と、ケトンを主鎖とするポリマーであって、化学構造内に酸性官能基を持ち、かつ酸価3〜40(mgKOH/g)である化学物質とを少なくとも含有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明に用いるマイクロカプセル顔料は、平均粒子径が0.1〜1.0μmである壁膜がアミノ樹脂で形成されたものであり、少なくともロイコ染料、顕色剤、変色温度調整剤から構成される熱変色性組成物を内包させたものである。
用いることができるロイコ染料としては、電子供与性染料で、発色剤としての機能するものであれば、特に限定されものではない。具体的には、発色特性に優れるインキを得る点から、トリフェニルメタン系、スピロピラン系、フルオラン系、ジフェニルメタン系、ローダミンラクタム系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系等従来公知のものが、単独(1種)で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という)用いることができる。
具体的には、6−(ジメチルアミノ)−3,3−ビス[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1(3H)−イソベンゾフラノン、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、1,3−ジメチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−クロロ−3−メチル−6−ジメチルアミノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−キシリジノフルオラン、2−(2−クロロアニリノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、3,6−ジメトキシフルオラン、3,6−ジ−n−ブトキシフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジエチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジブチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−エチルイソアミルアミノフルオラン、2−メチル−6−(N−p−トリル−N−エチルアミノ)フルオラン、2−(N−フェニル−N-−メチルアミノ)−6−(N−p−トリル−N−エチルアミノ)フルオラン、2−(3’−トリフルオロメチルアニリノ)−6−ジエチルアミノフルオラン、3−クロロ−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、2−メチル−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、3−メトキシ−4−ドデコキシスチリノキノリンなどが挙げられ、これらは、少なくとも1種用いることができる。
更に、黄色〜赤色の発色を発現させるピリジン系化合物、キナゾリン系化合物、ビスキナゾリン系化合物等も用いることができる。
これらのロイコ染料は、ラクトン骨格、ピリジン骨格、キナゾリン骨格、ビスキナゾリン骨格等を有するものであり、これらの骨格(環)が開環することで発色を発現するものである。
【0012】
用いることができる顕色剤は、ロイコ染料を発色させるものであり、例えば、無機酸、芳香族カルボン酸及びその無水物又は金属塩類、有機スルホン酸、その他の有機酸及びフェノール性化合物等が挙げられる。特に好ましいものとしてビスフェノールA等のフェノール性水酸基を有する化合物である。
具体的には、ビスフェノールA、o−クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ドデシルフェノール、n−ステアリルフェノール、p−クロロフェノール、p−ブロモフェノール、o−フェニルフェノール、ヘキサフルオロビスフェノール、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸n−オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1−フェニル−1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘキサン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−オクタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ノナン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−デカン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ドデカン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ノナンなどが挙げられ、これらは、少なくとも1種用いることができる。
【0013】
用いることができる変色温度調整剤は、ロイコ染料と顕色剤との反応を特定温度域において可逆的に発揮させるものであり、この機能を有するものであれば、特に限定されず、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、酸アミド類、アゾメチン類、脂肪酸類、炭化水素類などが挙げられる。
具体的には、ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ミリスチルアルコール、ラウリルアルコール、ウンデシルアルコール、デシルアルコール、ノニルアルコール、オクチルアルコール、ヘキシルアルコール、ネオペンチルアルコール、ブチルアルコール、メチルアルコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、セロソルブ、グリセリン、ペンタエリスリトール、ベンジルアルコール、シクロヘキシルアルコール、カプリン酸オクチル、カプリン酸デシル、ラウリン酸ラウリル、ラウリン酸ミリスチル、ミリスチン酸デシル、ミリスチン酸ラウリル、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸ラウリル、パルミチン酸セチル、パルミチン酸ステアリル、ステアリン酸ラウリル、p−t−ブチル安息香酸セチル、4−メトキシ安息香酸ステアリル、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジラウレート、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、ステアリルベンゾエート、ベンジルステアレート、チオジプロピオン酸ジベンジル、チオジプロピオン酸時ステアリル、安息香酸ベンジル、トリラウレート、トリエチルシトレート、フタル酸ジステアリル、アジピン酸ジデシル、ジデシルエーテル、ジステアリルエーテル、ジステアリルケトン、アセトン、アセトフェノン、ステアリン酸アマイド、ラウリン酸アマイド、ラウリルアルコール・アクリロニトリル付加物、ステアリルアルコール・アクリロニトリル付加物、ベンジリデン・p−トルイジン、ベンジリデン・ブチルアミン、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ラウリン酸、シクロパラフィンなどが挙げられ、これらは、少なくとも1種用いることができる。
【0014】
本発明に用いるマイクロカプセル顔料は、少なくとも上記ロイコ染料、顕色剤、変色温度調整剤からなる熱変色性組成物を平均粒子径が0.1〜1.0μmとなるように、かつ、壁膜がアミノ樹脂で形成されるように原料を選択して、マイクロカプセル化することにより製造することができる。
マイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、用途に応じて適宜選択することができる。
例えば、水溶液からの相分離法では、ロイコ染料、顕色剤、変色温度調整剤を加熱溶融後、乳化剤溶液に投入し、加熱攪拌して油滴状に分散させ、次いで、カプセル膜剤として、壁膜がアミノ樹脂で形成できる樹脂原料などを使用、例えば、アミノ樹脂溶液、具体的には、メチロールメラミン水溶液、尿素溶液、ベンゾグアナミン溶液などの各液を徐々に投入し、引き続き反応させて調製後、この分散液を濾過することにより目的の熱変色性のマイクロカプセル顔料を製造することができる。
これらのロイコ染料、顕色剤、変色温度調整剤の含有量は、用いるロイコ染料、顕色剤、変色温度調整剤の種類、マイクロカプセル化法などにより変動するが、ロイコ染料1に対して、質量比で顕色剤0.1〜100、変色温度調整剤1〜100である。また、カプセル膜剤は、カプセル内容物に対して、質量比で0.1〜1である。
本発明のマイクロカプセル顔料では、上記ロイコ染料、顕色剤及び変色温度調整剤の種類、量などを好適に組み合わせることにより、各顔料の色、任意の発色温度、消色温度とすることができる。
【0015】
本発明のマイクロカプセル顔料では、壁膜がアミノ樹脂で形成されることが必要であり、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などで形成されることが好ましく、更に好ましくは、製造性、保存安定性、筆記性の点から、メラミン樹脂で形成されることが望ましい。
壁膜がアミノ樹脂以外の樹脂、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などで形成された場合は、描線濃度、保存安定性、筆記性の少なくとも1つ以上が劣ることとなり、好ましくない。
マイクロカプセル顔料の壁膜の厚さは、必要とする壁膜の強度や描線濃度に応じて適宜決められる。
なお、壁膜がアミノ樹脂で形成するためには、各マイクロカプセル化法を用いる際に、好適なアミノ樹脂原料(メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアンアミン樹脂等)、並びに、分散剤、保護コロイドなどを選択する。
【0016】
得られるマイクロカプセル顔料の平均粒子径は、着色性、発色性、易消色性、安定性の点、並びに、筆記性への悪影響を抑制する点から、0.1〜1.0μm、更に好ましくは、0.2〜0.9μmであるものが望ましい。なお、本発明(実施例等含む)で規定する「平均粒子径」は、粒度分布測定装置〔粒子径測定器N4Plus(COULTER社製)〕にて、平均粒子径を測定した値である。
この平均粒子径が0.1μm未満であると、十分な描線濃度が得られず、一方、1.0μmを越えると、筆記性の劣化やマイクロカプセル顔料の分散安定性の低下が発生し、好ましくない。
なお、上記範囲(0.1〜1.0μm)となる平均粒子径のマイクロカプセル顔料は、マイクロカプセル化法により変動するが、水溶液からの相分離法などでは、マイクロカプセル顔料を製造する際の攪拌条件を好適に組み合わせることにより調製することができる。
【0017】
本発明において、マイクロカプセル顔料の含有量は、インキ組成物全量に対して、好ましくは、5〜30質量%(以下、単に「%」という)、更に好ましくは、10〜25%とすることが望ましい。
この着色剤(顕色粒子)の含有量が5%未満であると、着色力、発色性が不十分となり、一方、30%を超えると、カスレが生じやすくなり、好ましくない。
【0018】
本発明に用いる化学物質は、ケトンを主鎖とするポリマーであって、化学構造内に酸性官能基を持ち、かつ酸価3〜40(mgKOH/g)であるものであり、インク中のマイクロカプセル顔料との相互作用により描線濃度の向上などの機能を発揮するものである。
用いることができる化学物質は、ケトンを主鎖とするポリマーであって、化学構造内の酸性官能基としては、カルボン酸基、リン酸基などが挙げられる。
この酸価が3mgKOH/g未満であると、筆記性においてカスレが生じやすくなり、一方、40mgKOH/gを超えると、インクの安定性が低下して析出物が発生しやすくなり、好ましくない。より好ましい酸価は5〜15mgKOH/gである。
【0019】
具体的には、ソルスパース44000(主鎖:ケトン、酸性官能基:カルボン酸、酸価約12mgKOH/g、日本ルーブリゾール社製)、ソルスパース46000(主鎖:ケトン、酸性官能基:カルボン酸、酸価約12mgKOH/g、日本ルーブリゾール社製)などが挙げられ、これらは、少なくとも1種用いることができる。
【0020】
この化学物質の含有量は、好ましくは、インキ組成物全量に対して、0.1〜10%、更に好ましくは、0.3〜5%とすることが望ましい。
この含有量が0.1%未満であると、満足する描線濃度が得られず、またマイクロカプセル顔料の安定性が低下する。一方、10%を超えると、筆記時にカスレが生じやすくなり好ましくない。
【0021】
本発明に用いるポリオキシエチレン脂肪族アミン(以下、「POE脂肪族アミン」という)は、脂肪族の炭素数が10〜20であり、マイクロカプセル顔料の分散安定化などの機能を発揮するものである。
この脂肪族の炭素数が10未満であると、顔料への吸着性が悪くなり、顔料分散効果が不十分となり、一方、炭素数が20を超えると、水への溶解性が不十分となり、好ましくない。
好ましいPOE脂肪族アミンは、水への溶解性、筆記性の点から、POE脂肪族アミンにおけるPOEの付加モル数は10〜50であるものが望ましく、さらに望ましくは10〜20モルである。
用いることができるPOE脂肪族アミンとしては、例えば、POE(15)オレイルアミン、POE(15)ステアリルアミンを挙げることができ、これらは、少なくとも1種用いることができる。
【0022】
これらのPOE脂肪族アミンの含有量は、好ましくは、インキ組成物全量に対して0.1〜10%、更に好ましくは、0.3〜5%とすることが望ましい。
この含有量が0.1%未満であると、顔料分散効果が不十分となり、一方、10%を超えると、筆記時にカスレが生じやすくなり、好ましくない。
【0023】
本発明のボールペン用水性インキ組成物では、上記マイクロカプセル顔料、化学物質、POE脂肪族アミン、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、本発明の効果を損なわない範囲で、水溶性溶剤、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などを適宜含有することができる。
【0024】
用いることができる水溶性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。
用いることができる増粘剤としては、例えば、合成高分子、天然ゴム、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少くとも一種が望ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、カゼイン、キサンタンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体及びその塩、非架橋型アクリル酸重合体及びその塩、スチレンアクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
【0025】
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
【0026】
本発明のボールペン用水性インキ組成物を製造するには、従来から知られている方法が採用可能であり、例えば、上記各成分を所定量配合し、ホモミキサー、もしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することによって得られる。更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインキ組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
【0027】
このように構成される本発明の水性ボールペン用インキ組成物では、少なくとも平均粒子径が0.1〜1.0μmである壁膜がアミノ樹脂で形成されたマイクロカプセル顔料と、ケトンを主鎖とするポリマーであって、化学構造内に酸性官能基を持ち、かつ酸価3〜40(mgKOH/g)である化学物質とを含有するインキを処方し、この平均粒子径が小さいマイクロカプセル顔料含有するインキを搭載したボールペン体にて紙面等に筆記しても、十分な描線濃度が得られ、かつ、インキの保存安定性、筆記性能に優れた水性ボールペン用インキ組成物が得られるものとなる。
本発明の水性ボールペン用インキ組成物が何故平均粒子径が0.1〜1.0μmとなる小さいマイクロカプセル顔料を使用しても、十分な描線濃度が得られ、かつ、インキの保存安定性、筆記性能に優れるかは以下の理由によるものと推察される。
すなわち、本発明では、上記化学物質が、マイクロカプセル顔料に対して緩やかな凝集を引き起こすことで描線濃度を向上させ、更にポリオキシエチレン脂肪族アミンがこの凝集状態を安定に保つ役目を果たしているためである。
【0028】
次に、本発明の水性ボールペンは、水性ボールペンとして一般的な構成、例えば、金属製チップを備えた樹脂製のインキ収容管と、これに内蔵された上記本発明のボールペン用水性インキ組成物及び筆記具本体(軸体)を含むノック式、非ノック式(キャップ式)の各種ボールペン構成を採用することができ、その製造は常法に従い行なうことが可能である。
本発明では、上記構成の水性ボールペン用インキ組成物を搭載するので、インキ追従体が搭載された各種ボールペン構成を採用することが好ましい。
【0029】
本発明の水性ボールペンに用いるインキ追従体の製法は、例えば、疎水性シリカなどの無機増粘剤を用いる場合、基油、界面活性剤などのすべてのインキ追従体成分を室温で予備混練し、ロールミル、ニーダーなどの分散機で混練するというきわめて単純な方法を採用できる。また、室温下で溶解、分散が困難なポリマーなどを添加する際は、必要に応じて、加熱撹拌、加熱混練等することができる。また、製造されたインキ追従体を、更にロールミル、ニーダーなどの分散機で再混練したり、加熱したりすることで調整することも可能である。
【0030】
このように構成される本発明の水性ボールペンでは、上記構成のボールペン用水性インキ組成物を搭載したボールペン体にて紙面に筆記しても、当該ボールペン用水性インキ組成物が従来にない上述の作用効果を有するため、十分な描線濃度が得られ、かつ、インキの保存安定性、筆記性能に優れたきのうを発揮するものとなる。
【実施例】
【0031】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0032】
〔実施例1〜8及び比較例1〜3〕
〔マイクロカプセル顔料:A−1〜A−6の処方〕
(顔料A−1)
ロイコ色素:6−(ジメチルアミノ)−3,3−ビス[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1(3H)−イソベンゾフラノン1部、顕色性物質:ビスフェノールA2部、及び変色温度調整剤:4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジラウレート24部を加熱溶融後、95℃、pH4に調整したメチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重樹脂(GANTREZAN−179:GAF CHEMICALS社製)水溶液400部に投入し、過熱攪拌して油滴状に分散させ、次いでカプセル膜剤として、50%メチロールメラミン水溶液20部を徐々に投入し、引き続き1時間反応させて調製した。この分散液を濾過することによりマイクロカプセル顔料を得た。なお、出来上がったマイクロカプセル顔料の平均粒子径は0.3μmであった。
【0033】
(顔料A−2)
顔料A−1の処方に準じて、攪拌条件を変えることにより平均粒子径0.6μmのマイクロカプセル顔料を得た。
【0034】
(顔料A−3)
顔料A−1の処方に準じて、攪拌条件を変えることにより平均粒子径0.9μmのマイクロカプセル顔料を得た。
【0035】
(顔料A−4)
ロイコ色素:6−(ジメチルアミノ)−3,3−ビス[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1(3H)−イソベンゾフラノン1部、顕色性物質:ビスフェノールA2部、及び変色温度調整剤:4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジラウレート24部を加熱溶融後、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1部を含む60℃の水276部に攪拌しながら投入し油滴状に分散した。さらに尿素10部にホルマリン(ホルムアルデヒド37%水溶液)17部、 水を73部加えた溶解液を前述の油滴状に分散した液中に投入して80℃に調整した後、酢酸20%水溶液を5部添加し、2時間反応させた。この分散液を濾過することによりマイクロカプセル顔料を得た。なお、出来上がったマイクロカプセル顔料の平均粒子径は0.8μmであった。
【0036】
(顔料A−5)
ロイコ色素:6−(ジメチルアミノ)−3,3−ビス[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1(3H)−イソベンゾフラノン1部、顕色性物質:ビスフェノールA2部、及び変色温度調整剤:4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジラウレート24部及びイソシアネート(MR−200:日本ポリウレタン工業社製)5部を加熱溶融後、リン酸三カルシウム2部とドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.04部を含む60℃の水溶液400部に投入し、加熱攪拌して油滴状に分散させ、次いでキシリレンジアミン2部を滴下し、60℃で約3時間攪拌して反応を終了させた後、塩酸処理を行った。この分散液を濾過することによりマイクロカプセル顔料を得た。なお、出来上がったマイクロカプセル顔料の平均粒子径は0.8μmであった。
【0037】
(顔料A−6)
ロイコ色素:6−(ジメチルアミノ)−3,3−ビス[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1(3H)−イソベンゾフラノン1部、顕色性物質:ビスフェノールA2部、及び変色温度調整剤:4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジラウレート24部及びエポキシ樹脂(jER828:ジャパンエポキシレジン社製)を加熱溶融後、95℃、pH4に調整したメチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重樹脂(GANTREZAN−179:GAF CHEMICALS社)水溶液400部に投入し、過熱攪拌して油滴状に分散させ、次いでアミン系硬化剤(jER U:ジャパンエポキシレジン社製)3部を投入し、引き続き4時間反応させた。この分散液を濾過することによりマイクロカプセル顔料を得た。なお、出来上がったマイクロカプセル顔料の平均粒子径は0.6μmであった。
【0038】
(インキの処方)
下記表1に示す配合処方(マイクロカプセル顔料:A−1〜A−6、アミン類:トリエタノールアミン、B−1〜B−3、増粘剤、防錆剤、防腐剤、溶剤、水)にしたがって、常法により各水性ボールペン用水性インキ組成物を調製した。
【0039】
(水性ボールペンの作製)
上記で得られた各インキ組成物を用いて水性ボールペンを作製した。具体的には、ボールぺン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:シグノUM−100〕の軸を使用し、内径3.8mm、長さ113mmポリプロピレン製インキ収容管とステンレス製チップ(超硬合金ボール、ボール径0.5mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに上記各インキを充填し、インキ後端に鉱油を主成分とするインキ追従体を装填し、水性ボールペンを作製した。
得られた実施例1〜8及び比較例1〜3の水性ボールペンを用いて、下記各評価方法で描線濃度、保存安定性、筆記性の評価を行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0040】
(描線濃度の評価方法)
各ペン体をISO規格に準拠した筆記用紙に、フリーハンドで螺旋筆記し、目視により描線濃度を下記の基準で評価した。
評価基準:
○:本願発明の化学物質を配合していないインクにより得られた筆記描線と比較して十分に濃い描線濃度。
△:本願発明の化学物質を配合していないインクにより得られた筆記描線と比較して濃い描線濃度。
×:本願発明の化学物質を配合していないインクにより得られた筆記描線と比較して同等以下の描線濃度。
【0041】
(保存安定性の評価方法)
得られた各インキを15mlのガラス製蓋付き瓶に充填し、密封した後に、50℃の条件下で
3ヶ月保存した後、夫々のインキの状態を目視で確認し、下記の基準で評価した。
評価基準:
○:分離、凝集は発生していない。
△:僅かな分離または凝集。
×:分離または凝集がある。
【0042】
(筆記性の評価方法)
各ペン体をISO規格に準拠した筆記用紙に、フリーハンドで螺旋筆記し、目視により筆記性を下記の基準で評価した。
評価基準:
○:カスレを生じることなく筆記可能。
△:部分的にカスレが生じる。
×:全体的に大きくカスレが生じる。
【0043】
【表1】

【0044】
上記表1の結果から明らかなように、本発明となる実施例1〜8は、本発明の範囲外となる比較例1〜3に較べて、描線濃度、保存安定性及び筆記性に優れていることが判明した。
これに対して、比較例1〜3では、平均粒子径が0.1〜1.0μmとしたマイクロカプセル顔料を用いても、壁膜がアミノ樹脂以外のウレタン樹脂、エポキシ樹脂で形成されているため、目的の効果を発揮できないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
平均粒子径が0.1〜1.0μmとしたマイクロカプセル顔料を用いても、従来にない優れた描線濃度が得られ、インキの保存安定性、筆記性能にも優れているので、水性ボールペン用インキ組成物及び水性ボールペンに最適となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.1〜1.0μmである壁膜がアミノ樹脂で形成されたマイクロカプセル顔料と、ケトンを主鎖とするポリマーであって、化学構造内に酸性官能基を持ち、かつ酸価が3〜40(mgKOH/g)である化学物質とを少なくとも含有することを特徴とする水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項2】
更に、ポリオキシエチレン脂肪族アミン(脂肪族の炭素数が10〜20である)を含有することを特徴とする請求項1記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項3】
前記ポリオキシエチレン脂肪族アミンにおけるポリオキシエチレンの付加モル数が10〜50であることを特徴とする請求項2記載の水性ボールペン用インキ組成物。
【請求項4】
請求項1〜3記載の何れか一つに記載の水性ボールペン用インキ組成物を搭載したことを特徴とする水性ボールペン。

【公開番号】特開2011−122010(P2011−122010A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278763(P2009−278763)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】