説明

水性ポリウレタン分散体及びその製造方法

【課題】 イソシアネート成分として、芳香族ポリイソシアネートを主成分とするにも拘らず、均質で高い安定性を有し、接着力、耐熱性に優れた水性ポリウレタン分散体を提供する。
【解決手段】 有機ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物から得られた末端NCOウレタンプレポリマーを鎖延長剤で高分子量化したポリウレタンウレアが水に分散している水性ポリウレタン分散体であって、該ポリウレタンウレアが以下の条件を満たす水性ポリウレタン分散体、及びその製造方法。
(ア)有機ポリイソシアネートの60〜95mol%が芳香族ポリイソシアネートであり、かつ5〜40mol%が脂肪族ポリイソシアネートである
(イ)細管式粘度計で測定した10%メチルエチルケトン溶液の30℃における動粘度が5〜50mm/sである

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ポリウレタン分散体及びその製造方法に関し、さらに詳しくは均質で分散安定性が極めて良好であり、接着剤、塗料、印刷インキ、各種のコーティング剤等の用途に使用可能であり、特に初期接着力、耐熱性に優れた接着剤に適した水性ポリウレタン分散体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水性ポリウレタン分散体は、例えば、ウレタンプレポリマー骨核中に親水性基を導入して自己乳化性を付与した自己乳化性ウレタンプレポリマーを中和後、水に分散させ、さらにポリアミンで鎖延長させることにより製造される。
【0003】
この際、有機ポリイソシアネートとして、芳香族ポリイソシアネートを使用してウレタンプレポリマーを調製すると、遊離イソシアネート基の反応性が非常に高いため、以降の工程において、イソシアネート基と水との反応による高分子量化が無視できない割合で生じたり、ポリアミン化合物と反応してゲル化が起こるため、均質で安定性の高い高分子分散体を得ることは難しかった。芳香族ポリイソシアネートの中でも、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)のイソシアネート基は特に反応性が高いためゲル化しやすく、直鎖状分子構造で接着性に優れた水性ポリウレタン分散体を得ることは非常に困難であった。
【0004】
このため、通常は、有機ポリイソシアネートとして反応性の低い脂肪族ポリイソシアネートが使用されている。
【0005】
しかしながら、脂肪族ポリイソシアネートは、汎用の芳香族ポリイソシアネートより高価であるため、得られた水性ポリウレタン分散体が高価であるという問題があった。また、性能的にも機械的強度及び耐熱性の観点から必ずしも満足されるものではなかった。
【0006】
これらの問題を解決するため、安価な芳香族ポリイソシアネートを主成分とした水性ポリウレタン分散体を得る方法が提案されているが(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)、これらの安定性は不十分であったり、接着性、耐熱性が劣る等の問題が残されている。
【0007】
【特許文献1】特開平2−269723号公報
【特許文献2】特許第3193400号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、イソシアネート成分として、芳香族ポリイソシアネートを主成分とするにも拘らず、均質で高い安定性を有し、接着力、耐熱性に優れた水性ポリウレタン分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、新規な水性ポリウレタン分散体及びその製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、有機ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物から得られたウレタンプレポリマーを鎖延長剤で高分子量化したポリウレタンウレアが水に分散している水性ポリウレタン分散体であって、該ポリウレタンウレアが以下の条件を満たす水性ポリウレタン分散体、及びその製造方法である。
(ア)有機ポリイソシアネートの60〜95mol%が芳香族ポリイソシアネートであり、かつ5〜40mol%が脂肪族ポリイソシアネートである
(イ)細管式粘度計で測定した10%メチルエチルケトン溶液の30℃における動粘度が5〜50mm/sである
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明の水性ポリウレタン分散体は、有機ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物から得られた末端NCOウレタンプレポリマーを鎖延長剤で高分子量化したポリウレタンウレアが水に分散している水性ポリウレタン分散体であって、該ポリウレタンウレアが以下の条件を満たすものである。
(ア)有機ポリイソシアネートの60〜95mol%が芳香族ポリイソシアネートであり、かつ5〜40%が脂肪族ポリイソシアネートである
(イ)細管式粘度計で測定した10%メチルエチルケトン溶液の30℃における動粘度が5〜50mm/sである
本発明における有機ポリイソシアネートは、芳香族ポリイソシアネートと脂肪族ポリイソシアネートである。
【0011】
本発明における芳香族ポリイソシアネートは、芳香族環に直接少なくとも2個のイソシアネート基が結合している化合物であり、具体的には、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、粗製MDI、4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート及びこれらのビュレット化合物やイソシアヌレート化合物が挙げられる。これらの化合物の中で、接着強度及び耐熱性の観点から、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートがさらに好ましい。芳香族ポリイソシアネートとして、上記の化合物を2種類以上混合したものでも良い。
【0012】
本発明における脂肪族ポリイソシアネートは、脂肪族炭化水素の炭素に直接少なくとも2個のイソシアネート基が結合している化合物であり、具体的には、線状の脂肪族ポリイソシアネートとして、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられ、脂肪族環を含有する脂肪族ポリイソシアネート(脂環族ポリイソシアナート)として、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1−イシソアナト−3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)、ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられ、芳香族環を含有する脂肪族ポリイソシアネート(芳香脂肪族ポリイソシアネート)として、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられ、これらのビュレット化合物やイソシアヌレート化合物も含まれる。これらの化合物の中で、接着性能および経済性の観点から、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1−イシソアナト−3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)が好ましい。脂肪族ポリイソシアネートとして、上記の化合物を2種類以上混合したものでも良い。
【0013】
本発明におけるポリヒドロキシ化合物は、イソシアネート基に対して反応性を有する水酸基を2個以上有する化合物である。
【0014】
分子量が400以上である高分子のポリヒドロキシ化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール(a)、ポリエーテルポリオール(b)及びこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0015】
ポリエステルポリオール(a)としては、例えば、縮合ポリエステルポリオール(a1)、ポリカーボネートポリオール(a2)、ポリラクトンポリオール(a3)等が挙げられる。
【0016】
縮合ポリエステルポリオール(a1)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のジオール類とコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸との反応物が挙げられ、具体的には、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレンアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートジオール等のアジペート系縮合ポリエステルジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール等のアゼレート系縮合ポリエステルジオール等を例示できる。
【0017】
ポリカーボネートポリオール(a2)としては、例えば、上記ジオール類とジメチルカーボネート等によって代表されるようなジアルキルカーボネートの反応物等が挙げられ、具体的には、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリ3−メチルペンタメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等を例示できる。
【0018】
ポリラクトンポリオール(a3)としては、例えば、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン及びこれらの2種以上の混合物の開環重合物が挙げられ、具体的にはポリカプロラクトンジオール等を例示できる。
【0019】
ポリエーテルポリオール(b)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、カテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA等の活性水素原子を少なくとも2個有する化合物の1種又は2種以上を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレン等のモノマーの1種又は2種以上を付加重合させた反応物が挙げられ、ブロック付加、ランダム付加又は両者の混合系でも良い。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を例示できる。これらの高分子のポリヒドロキシ化合物の中で、縮合ポリエステルポリオール(a1)及びポリカーボネートポリオール(a2)が接着力の観点から好ましい。
【0020】
高分子のポリヒドロキシ化合物の水酸基価としては、10〜300mgKOH/gが好ましく、より好ましくは20〜250mgKOH/gである。水酸基価は、JIS−K0070に規定された方法、すなわち、試料に無水酢酸およびピリジンを加えて溶解させ、放冷後、水、トルエンを加えて調整した滴定試料液を、KOHエタノール溶液で中和滴定することで測定できる。水酸基価は、1gの試料に含まれる水酸基をアセチル化するために消費された酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表される。
【0021】
分子量が400未満である低分子のポリヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等の脂環族ジオール、ビスフェノールA、ハイドロキノン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族ジオール、また多官能低分子のポリヒドロキシ化合物としてグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0022】
自己乳化性末端NCOウレタンプレポリマーを合成する際に当該プレポリマー骨核中に共重合によって親水性基を導入可能な低分子のポリヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸等が挙げられる。親水性基を導入可能な高分子のポリヒドロキシ化合物としては、これらを原料の一部として製造したカルボキシレート基含有ポリエステルポリオールを挙げることができる。また、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸等によってスルホネート基が導入されたポリエステルポリオールを使用しても良い。これらの親水性基を導入可能なポリヒドロキシ化合物は、アンモニア、トリエチルアミン等の有機アミンやNa、K、Li、Ca等の金属塩基から選ばれる少なくとも1種によって中和した後、末端NCOウレタンプレポリマーの原料として用いることもできる。
【0023】
本発明の水性ポリウレタン分散体は、水に分散しているポリウレタンウレアが以下の条件を満たすものである。
(ア)有機ポリイソシアネートの60〜95mol%が芳香族ポリイソシアネートであり、かつ5〜40%が脂肪族ポリイソシアネートである
(イ)細管式粘度計で測定した10%メチルエチルケトン溶液の30℃における動粘度が5〜50mm/sである
該有機ポリイソシアネートにおける芳香族ポリイソシアネートと脂肪族ポリイソシアネートの成分比に関しては、60〜95mol%が芳香族ポリイソシアネートであり、かつ5〜40mol%が脂肪族ポリイソシアネートである必要がある。芳香族ポリイソシアネートが60mol%未満では、ウレタン骨格への芳香環の導入量が不充分なため、また95mol%を超えるとゲル化が起こるためいずれも接着性能は不充分である。65〜95mol%が芳香族ポリイソシアネートであり、かつ5〜35mol%が脂肪族ポリイソシアネートであることがより好ましく、さらに好ましくは70〜90mol%が芳香族ポリイソシアネートであり、かつ10〜30mol%が脂肪族ポリイソシアネートである。
【0024】
また、本発明におけるポリウレタンウレアの細管式粘度計で測定した10%メチルエチルケトン溶液の30℃における動粘度は、5〜50mm/sである必要がある。動粘度が5mm/s未満の場合は、分子量が低すぎて、塗膜が脆くなる傾向があり、また、50mm/sを超える場合、架橋密度が高すぎるため、十分な熱溶融性と粘着性が得られない。5〜40mm/sがより好ましく、さらに好ましくは5〜30mm/sである。
【0025】
動粘度の測定は、以下の方法によって実施することができる。水性ポリウレタン分散体をシャーレ中、常温で放置し、乾燥物を得る。乾燥物をメチルエチルケトンに溶解させ固形分10重量%の溶液を調製する。次に、30℃の恒温水浴中でウベローデ細管式粘度計を用いて、溶液の動粘度を測定する。
【0026】
本発明の水性ウレタン分散体の平均粒径は特に制限するものではないが、水性ポリウレタン分散体の粘度を適度に維持して高固形分の水性ポリウレタン分散体を得て、安定性を維持するため、0.02〜0.50μmであることが好ましい。
【0027】
本発明の水性ポリウレタン分散体の製造方法に関しては、例えば以下の方法を例示できる。1)自己乳化性末端NCOウレタンプレポリマーを水中に分散し、続いてポリアミン化合物で鎖延長する。2)自己乳化性末端NCOウレタンプレポリマーをアセトン等の有機溶媒中、ポリアミン化合物で鎖延長した後、水中に分散する。3)末端NCOウレタンプレポリマーをアセトン等の有機溶媒中、親水性基を有するポリアミン化合物で鎖延長した後、水中に分散する。
【0028】
本発明で用いる末端NCOウレタンプレポリマーは、脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートおよびポリヒドロキシ化合物をNCO/OHモル比が1以上で重合することで得られ、例えば以下に示す方法により効率的に合成することが可能である。
【0029】
脂肪族ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物を、残留イソアネート基が添加したイシシアネート基の20〜80mol%、好ましくは30〜70mol%、さらに好ましくは45〜55mol%になるまで反応させ、続いて芳香族ポリイソシアネート、必要に応じてポリヒドロキシ化合物を反応させる。すなわち、脂肪族ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物を、脂肪族イソシアネート基の残留率([残留イソシアネート基]/[反応前イソシアネート基])が通常20〜80mol%、好ましくは30〜70mol%、さらに好ましくは45〜55mol%の範囲まで反応させる。
【0030】
水性ポリウレタン分散体の製造方法において使用される芳香族ポリイソシアネートと脂肪族ポリイソシアネートの成分比に関しては、60〜95mol%が芳香族ポリイソシアネートであり、かつ5〜40%が脂肪族ポリイソシアネートであることが好ましい。芳香族ポリイソシアネートが60mol%未満では、ウレタン骨格への芳香環の導入量が不充分であるため、また95mol%を超えると、その後の工程でゲル化が起こるため、いずれも接着性能は不充分である。65〜95mol%が芳香族ポリイソシアネートであり、かつ5〜35mol%が脂肪族ポリイソシアネートであることがより好ましく、さらに好ましくは70〜90mol%が芳香族ポリイソシアネートであり、かつ10〜30mol%が脂肪族ポリイソシアネートである。
【0031】
末端NCOウレタンプレポリマーを合成する際に、有機ポリイソシアネート由来のイソシアネート基(NCO)の合計とポリヒドロキシ化合物由来の水酸基(OH)の合計のモル比(NCO/OH)は、1.03〜1.40であることが必要であり、好ましくは1.10〜1.30である。NCO/OHモル比が1.03未満ではNCO末端ウレタンプレポリマーの粘度が高くなりすぎて分散不良を起こしやすく、一方、1.40を超えると、その後の工程において、末端イソシアネート基が水やジアミンと激しく反応してゲル化が起こり、接着強度が低下する。
【0032】
このような方法で末端NCOプレポリマーを合成することで、末端に脂肪族ポリイソシアネート由来のイソシアネート基を有する末端NCOウレタンプレポリマーが効率的に得られる。このため、乳化中の水との副反応や、ポリアミンによる鎖延長時のゲル化が抑制されるため、安定性に優れ、接着性能の高い水性ポリウレタン分散体を得ることができる。
【0033】
末端NCOウレタンプレポリマーの合成を行う際に、反応を均一に進行させるため、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のイソシアネート基に不活性な有機溶剤を反応中、又は反応終了後に添加してもよい。
【0034】
末端NCOウレタンプレポリマーの合成時の反応温度に関して、脂肪族ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物とを反応させる際(すなわち末端NCOプレポリマー合成における1段目の反応)の反応温度については、特に制限はないが、40〜120℃が好ましく、50〜100℃がさらに好ましい。さらに、芳香族ポリイソシアネートを反応させる際(すなわち末端NCOウレタンプレポリマー合成における2段目の反応)の反応温度については、20〜65℃である必要があり、好ましくは30〜60℃である。反応温度が20℃未満の場合は、反応が完結しない恐れがあり、一方、65℃より高いと、末端NCOウレタンプレポリマー中に分岐が生じ接着強度が低下する。
【0035】
適正な反応時間は、反応温度等の条件に依存するが、通常0.1〜10時間反応させることで末端NCOウレタンプレポリマーを得ることができる。
【0036】
自己乳化性末端NCOウレタンプレポリマーは、カルボン酸基やスルホン酸基のような親水性基が導入された末端NCOウレタンプレポリマーである。親水性基の導入は、末端NCOウレタンプレポリマーを調製する際に、親水性基を導入可能なポリヒドロキシ化合物を共重合することで実施できる。水性ポリウレタンの分散安定性を維持して相分離を防止し、かつ乾燥塗膜の耐水性を維持するため、ウレタン骨格への親水性基の導入量は、末端NCOウレタンプレポリマー1gあたり0.05〜1.0mmolの範囲であることが好ましい。
【0037】
末端NCOウレタンプレポリマーがカルボキシル基やスルホン酸基のような塩形成可能な親水性基を含む場合は、中和剤を用いて親水化した後、水に乳化、分散させる。親水化(中和)の方法としては、特に限定するものではないが、例えば、(a)末端NCOウレタンプレポリマーの合成中又は合成後に中和剤と反応させる、(b)末端NCOウレタンプレポリマーを中和剤を含む水に分散させる等の方法で行うことができる。また、中和剤としての塩基性化合物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基類、アンモニア水、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール、N−メチルモルホリン等の第3級アミン類が挙げられる。
【0038】
本発明の製造方法において、鎖延長反応は、末端NCOウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基をウレア結合で連結することで高分子量化し、接着強度や耐久性を付与する目的で行われ、乳化前、又は乳化後いずれの場合も実施することが可能である。鎖延長剤は、1級又は2級のアミノ基を2個以上含有するポリアミン化合物又は水であって、具体的には、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、ヒドラジン、炭酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0039】
ウレタン骨格中に親水基又は潜在性親水基を導入可能な鎖延長剤としては、2−(2−アミノエチルアミノ)エタンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とエチレンジアミンの付加反応物のナトリウム塩、リジン、1,3−プロピレンジアミン−β−エチルスルホン酸ナトリウム等をあげることができる。これらの親水基を導入可能な鎖延長剤による鎖延長は、乳化前に行われる。
【0040】
鎖延長剤の使用量は、総量として、末端NCOウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基に対して0.5〜1.5等量、好ましくは0.6〜1.0等量で任意に選ぶことができる。また2種類以上の鎖延長剤を併用することも可能である。
【0041】
得られた水性ポリウレタン分散体が有機溶剤を含有する場合は、減圧下、30〜80℃で有機溶媒を留去することにより、水性ポリウレタン分散体を得ることができる。
【0042】
本発明の水性ポリウレタン分散体を含有する組成物を調製する際には、乳化剤を使用することもできる。使用可能な乳化剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールエーテル型、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンラウレート型、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型、ソルビタン誘導体型、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル型等のノニオン系乳化剤、アルキルベンゼンスルホン酸塩型、ジアルキルサクシネートスルホン酸塩型等のアニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤、及び両性イオン系乳化剤等が挙げられる。これら乳化剤の中でもノニオン系乳化剤及び/又はアニオン系乳化剤が好適であり、乳化剤の含有量はポリウレタン樹脂固形分に対して、好ましくは10%以下である。
【0043】
また、本発明の水性ポリウレタン分散体を含有する組成物には、耐久性をさらに向上させる目的で、架橋剤を使用することもできる。使用できる架橋剤としては、例えば、アミノ樹脂、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、ポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0044】
さらに、本発明の水性ポリウレタン分散体を含有する組成物には、凝集性を阻害しない範囲で通常に使用される添加剤、例えば、可塑剤、粘着付与剤(ロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂石油樹脂、クマロン樹脂等)、充填剤、顔料、増粘剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、防腐剤等を使用することも可能である。
【発明の効果】
【0045】
本発明の水性ポリウレタン分散体は、均質で分散安定性が極めて良好である。この水性ポリウレタン分散体は、接着剤、塗料、印刷インキ、各種のコーティング剤等の用途に使用可能であり、特に初期接着力、耐熱性に優れた接着剤として適している。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、それらの内容は本発明の範囲を特に制限するものではない。
【0047】
水性ポリウレタン分散体に関する測定法及び評価法は以下の通りである。
【0048】
<イソシアネート濃度の測定方法>
イソシアネート濃度の測定は、JIS−K1556に準拠した方法、すなわち、試料中のイソシアネート基を過剰のn−ジブチルアミンと反応させ、未反応のn−ジブチルアミンを塩酸標準溶液で逆滴定する方法で測定することが可能であり、例えば以下のように測定できる。
【0049】
ウレタンプレポリマー溶液2〜5gを精秤し、トルエン10mlに溶解させる。この溶液に0.5規定のn−ジブチルアミンのトルエン溶液10mlを加え、15分間放置する。2−プロパノール20mlを加えた後、0.5規定の塩酸で逆滴定し、中和に要した塩酸の体積からイソシアネート基のモル数を求める。イソシアネート濃度は、以下の式で計算できる。
【0050】
イソシアネート濃度=イソシアネート基のモル数×42(イソシアネート基の式量)/採取したウレタンの重量(g)×100(%)
したがって、脂肪族イソシアネート基の残留率([残留イソシアネート基]/[反応前イソシアネート基])は、反応後のイソシアネート濃度/反応前のイソシアネート濃度×100(%)により計算することができる。
【0051】
<平均粒子径の測定方法>
水性ポリウレタン分散体の平均粒子径は、マイクロトラックUPA150(日機装(株)製)を使用して粒径分布を測定し、体積平均粒径を求めた。
【0052】
<動粘度の測定方法>
水性ポリウレタン分散体をシャーレ中、常温で放置し、乾燥物を得た。乾燥物2gを18gのメチルエチルケトンに溶解させ固形分10重量%の溶液を調製した。得られた溶液の動粘度を、30℃の恒温水浴中でウベローデ細管式粘度計を用いて測定した。
【0053】
<接着剤組成物の調製法>
水性ポリウレタン分散体100重量部に対して、増粘剤2重量部を添加して接着剤組成物(組成物A)とした。また、耐熱性を付与した組成物として、イソシアネート硬化剤をさらに5重量部添加した接着剤組成物(組成物B)を調製した。
【0054】
<接着強度の測定方法>
水性ポリウレタン分散体を50mm(幅)×150mm(長さ)×2mm(厚さ)の2枚のPVCシートに刷毛を用いて、1平方メートルあたり100g塗布した。60℃で5分間熱風乾燥機中にて乾燥させ、ローラーで張り合わせた後、1インチの幅で打ち抜くことで試験片を調製した。張り合わせ1分後、1日後の剥離強度を引張り試験機によって、速度100mm/分の条件で測定した。
【0055】
<耐熱クリープの評価方法>
上記の試験片を3日間室温にて養生硬化させた。試験片に0.3kgの錘を吊して、70℃にて30分間熱風循環乾燥機に入れ、180度方向の耐熱クリープ試験を行った。剥離した距離(mm)、又は錘が落下するまでの時間(min)を測定した。
【0056】
実施例および比較例中で使用した原料は、以下の通りである。
【0057】
エステルポリオールA:ポリブチレンアジペートジオール、ニッポラン4010、日本ポリウレタン社製、平均分子量2000、OH価55mgKOH/g
エステルポリオールB:ポリブチレンアジペートジオール、ニッポラン4009、日本ポリウレタン社製、平均分子量1000、OH価111mgKOH/g
2,2−ジメチロールプロピオン酸:東京化成社製
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート:ミリオネートMT、日本ポリウレタン社製
イソホロンジイソシアネート:東京化成社製
1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート:東京化成社製
増粘剤:UH−420、アデカ社製
イソシアネート硬化剤:デスモジュールDA、バイエル社製
実施例1
攪拌翼、加熱装置及び還流冷却器を備えた反応装置にエステルポリオールA300重量部を加え、120℃に加熱し、60分間減圧下で脱水を行なった。70℃に冷却した後、2,2−ジメチロールプロピオン酸13.4重量部、アセトン165.0重量部を加え、均一溶液になった後、イソホロンジイソシアネート19.8重量部を加えた。脂肪族ポリイソシアネートを添加した直後の溶液中のイソシアネート濃度は1.50%であり、上記混合物を70℃で2.5時間反応させた時点でのイソシアネート濃度は0.75%であった。すなわち、脂肪族イソシアネート基の残留率は50mol%であり、添加したイソシアネート基の50%が未反応であった。
【0058】
続いて、反応溶液を50℃まで冷却した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート52.0重量部を加え、さらに4時間反応させ、ウレタンプレポリマー溶液を得た。室温に戻した後、アセトン412.7重量部を加え、固形分濃度を40wt%に調整した。
【0059】
このウレタンプレポリマー溶液500.0重量部に撹拌しながらイソホロンジアミン4.0重量部を添加し鎖延長させた。続いて、トリエチルアミン5.3重量部を加え中和した後、蒸留水310.9重量部を撹拌しながら加え、乳化、分散させた。最後に、得られた乳化液を脱溶剤し、蒸留水で調整して固形分濃度40%の水性ポリウレタン分散体を得た。この水性ポリウレタン分散体の平均粒子径は0.10μmであった。10%−メチルエチルケトン溶液の動粘度を測定したところ、9.5mm/sであった。
【0060】
得られた水性ポリウレタン分散体を用いて、接着剤組成物AおよびBを調製し、接着強度及び耐熱クリープ性の評価を行った。結果を表1に示す。本発明の水性ポリウレタン分散体は、優れた接着強度と耐熱クリープ性を有していた。
【0061】
【表1】

実施例2〜実施例6
実施例1と同様にして、表1又は表2に示した条件に従って水性ポリウレタン分散体を調製した。得られた水性ポリウレタン分散体を用いて接着剤組成物AおよびBを調製し、接着性能の評価を行った。結果を表1又は表2に示す。本発明の水性ポリウレタン分散体は、優れた接着強度と耐熱クリープ性を有していた。
【0062】
【表2】

実施例7
攪拌翼、加熱装置及び還流冷却器を備えた反応装置にエステルポリオールA133重量部とエステルポリオールB167.5重量部を加え、120℃に加熱し、60分間減圧下で脱水を行なった。70℃に冷却した後アセトン157.8重量部を加え、均一溶液になった後、イソホロンジイソシアネート12.3重量部を加えた。脂肪族ポリイソシアネートを添加した直後の溶液中のイソシアネート濃度は0.98%であり、上記混合物を70℃で2.0時間反応させた時点でのイソシアネート濃度は0.49%であった。すなわち、脂肪族イソシアネート基の残留率は50mol%であり、添加したイソシアネート基の50%が未反応であった。
【0063】
続いて、反応溶液を50℃まで冷却した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート55.5重量部を加え、さらに4時間反応させ、ウレタンプレポリマー溶液を得た。室温に戻した後、アセトン394.7重量部を加え、固形分濃度を40wt%に調整した。
【0064】
このウレタンプレポリマー溶液500.0重量部に撹拌しながら2−(2−アミノエチルアミノ)エタンスルホン酸ナトリウムの50%水溶液9.4重量部を添加し鎖延長させた。続いて、蒸留水307.2重量部を撹拌しながら加え、乳化、分散させた。最後に、得られた乳化液を脱溶剤し、蒸留水で調整して固形分濃度40%の水性ポリウレタン分散体を得た。この水性ポリウレタン分散体の平均粒子径は0.15μmであった。10%−メチルエチルケトン溶液の動粘度を測定したところ、13.5mm/sであった。
【0065】
得られた水性ポリウレタン分散体を用いて、接着剤組成物AおよびBを調製し、接着強度及び耐熱クリープ性の評価を行った。結果を表2に示す。本発明の水性ポリウレタン分散体は、優れた接着強度と耐熱クリープ性を有していた。
【0066】
実施例8
実施例7と同様にして、表2に示した条件に従って水性ポリウレタン分散体を調製した。得られた水性ポリウレタン分散体を用いて接着剤組成物AおよびBを調製し、接着性能の評価を行った。結果を表2に示した。本発明の水性ポリウレタン分散体は、優れた接着強度と耐熱クリープ性を有していた。
【0067】
実施例9
攪拌翼、加熱装置及び還流冷却器を備えた反応装置にエステルポリオールA300重量部を加え、120℃に加熱し、60分間減圧下で脱水を行なった。70℃に冷却した後、2,2−ジメチロールプロピオン酸13.4重量部、アセトン165.0重量部を加え、均一溶液になった後、イソホロンジイソシアネート19.8重量部を加えた。脂肪族ポリイソシアネートを添加した直後の溶液中のイソシアネート濃度は1.50%であり、上記混合物を70℃で2.0時間反応させた時点でのイソシアネート濃度は0.72%であった。すなわち、脂肪族イソシアネート基の残留率は48mol%であり、添加したイソシアネート基の48%が未反応であった。
【0068】
続いて、反応溶液を50℃まで冷却した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート42.9重量部を加え、さらに4時間反応させ、ウレタンプレポリマー溶液を得た。室温に戻した後、ウレタンプレポリマー溶液500.0重量部にトリエチルアミン9.2重量部を加え5分間撹拌した。次に、撹拌しながら蒸留水545.2重量部を加え乳化、分散させ、続いてイソホロンジアミン7.0重量部を添加し鎖延長させた。得られた乳化液を脱溶剤し、蒸留水で調整して固形分濃度40%の水性ポリウレタン分散体を得た。この水性ポリウレタン分散体の平均粒子径は0.08μmであった。10%−メチルエチルケトン溶液の動粘度を測定したところ、22.6mm/sであった。
【0069】
得られた水性ポリウレタン分散体を用いて、接着剤組成物AおよびBを調製し、接着強度及び耐熱クリープ性の評価を行った。結果を表3に示す。本発明の水性ポリウレタン分散体は、優れた接着強度と耐熱クリープ性を有していた。
【0070】
【表3】

実施例10〜実施例12
実施例9と同様にして、表3に示した条件に従って水性ポリウレタン分散体を調製した。得られた水性ポリウレタン分散体を用いて接着剤組成物AおよびBを調製し、接着性能の評価を行った。結果を表3に示す。本発明の水性ポリウレタン分散体は、優れた接着強度と耐熱クリープ性を有していた。
【0071】
比較例1
攪拌翼、加熱装置及び還流冷却器を備えた反応装置にエステルポリオールA300重量部を加え、120℃に加熱し、60分間減圧下で脱水を行なった。50℃に冷却した後、2,2−ジメチロールプロピオン酸13.5重量部、アセトン166.3重量部を加え、均一溶液になった後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート74.6重量部を加え、4時間反応させ、ウレタンプレポリマー溶液を得た。室温に戻した後、アセトン415.8重量部を加え、固形分濃度を40wt%に調整した。
【0072】
このウレタンプレポリマー溶液500.0重量部に撹拌しながらイソホロンジアミン4.0重量部を添加し鎖延長させた。続いて、トリエチルアミン5.3重量部を加え中和した後、蒸留水315.2重量部を撹拌しながら加え、乳化、分散させた。最後に、得られた乳化液を脱溶剤し、蒸留水で調整して固形分濃度40%の水性ポリウレタン分散体を得た。この水性ポリウレタン分散体の平均粒子径は0.12μmであった。10%−メチルエチルケトン溶液の動粘度を測定したところ、45.0mm/sであった。
【0073】
得られた水性ポリウレタン分散体を用いて、接着剤組成物AおよびBを調製し、接着強度及び耐熱クリープ性の評価を行った。結果を表4に示す。イソシアネート成分として、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを単独で使用した場合、接着強度が非常に低い水性ポリウレタン分散体しか得られなかった。乳化の際に、イソシアネート基と水又はポリアミンが激しく反応し、ゲル化が進んだものと推定される。
【0074】
【表4】

比較例2
比較例1と同様にして、表4に示した条件に従ってイソホロンジイソシアネートを原料とする水性ポリウレタン分散体を調製した。得られた水性ポリウレタン分散体を用いて接着剤組成物AおよびBを調製し、接着性能の評価を行った。結果を表4に示す。
【0075】
イソシアネート成分として、イソホロンジイソシアネートを単独で使用した場合、接着強度が低い水性ポリウレタン分散体しか得られなかった。ウレタン骨格中に芳香環を含まないため、凝集力が低いものと推定される。
【0076】
比較例3
実施例2と同様にして、表4に示した条件に従って水性ポリウレタン分散体を調製した(有機ポリイソシアネートに対する芳香族ポリイソシアネートの割合は50mol%)。得られた水性ポリウレタン分散体を用いて接着剤組成物AおよびBを調製し、接着性能の評価を行った。結果を表4に示す。有機ポリイソシアネートに対する芳香族ポリイソシアネートの割合が50mol%である場合、接着強度が低い水性ポリウレタン分散体しか得られなかった。ウレタン骨格中の芳香環の含有量が少ないため、凝集力が低いものと推定される。
【0077】
比較例4
実施例2と同様にして、表4に示した条件に従って水性ポリウレタン分散体を調製した(プレポリマー合成におけるNCO/OHモル比は1.43、10%−メチルエチルケトン溶液の30℃における動粘度は125.0mm/s)。得られた水性ポリウレタン分散体を用いて接着剤組成物AおよびBを調製し、接着性能の評価を行った。結果を表4に示す。この水性ポリウレタン分散体は、架橋密度が高いため、熱溶融性が悪く、低い接着強度しか示さなかった。また、硬化剤を添加した接着剤組成物(組成物B)の耐熱クリープ性は低いものであった。
【0078】
比較例5
実施例2と同様にして、表4に示した条件に従って水性ポリウレタン分散体を調製した(プレポリマー合成における反応温度は70℃、10%−メチルエチルケトン溶液の動粘度は82.5mm/s)。得られた水性ポリウレタン分散体を用いて接着剤組成物AおよびBを調製し、接着性能の評価を行った。結果を表4に示す。この水性ポリウレタン分散体は、架橋密度が高いため、熱溶融性が悪く、低い接着強度しか示さなかった。また、硬化剤を添加した接着剤組成物(組成物B)の耐熱クリープ性は低いものであった。
【0079】
比較例6〜比較例8
実施例9と同様にして、表5に示した条件に従って水性ポリウレタン分散体を調製した。得られた水性ポリウレタン分散体を用いて接着剤組成物AおよびBを調製し、接着性能の評価を行った。結果を表5に示す。これらの水性ポリウレタン分散体は、架橋密度が高いため、熱溶融性が悪く、低い接着強度しか示さなかった。
【0080】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物から得られた末端NCOウレタンプレポリマーを鎖延長剤で高分子量化したポリウレタンウレアが水に分散している水性ポリウレタン分散体であって、該ポリウレタンウレアが以下の条件を満たすことを特徴とする水性ポリウレタン分散体。
(ア)有機ポリイソシアネートの60〜95mol%が芳香族ポリイソシアネートであり、かつ5〜40mol%が脂肪族ポリイソシアネートである
(イ)細管式粘度計で測定した10%メチルエチルケトン溶液の30℃における動粘度が5〜50mm/sである
【請求項2】
芳香族ポリイソシアネートが4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートであることを特徴とする請求項1に記載の水性ポリウレタン分散体。
【請求項3】
脂肪族ポリイソシアネートが1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート又は1−イシソアナト−3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水性ポリウレタン分散体。
【請求項4】
水性ポリウレタン分散体の平均粒子径が0.02〜0.5μmであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載の水性ポリウレタン分散体。
【請求項5】
脂肪族ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物を、残留イソシアネート基が添加したイソシアネート基の20〜80mol%になるまで反応させ、続いて20〜65℃の温度で芳香族ポリイソシアネートを反応させ、かつ、反応における有機ポリイソシアネート由来のイソシアネート基(NCO)の合計とポリヒドロキシ化合物由来の水酸基(OH)の合計のモル比(NCO/OH)を1.03〜1.40として末端NCOウレタンプレポリマーを得、当該末端NCOウレタンプレポリマーを鎖延長した後、水中で乳化、分散させることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載の水性ポリウレタン分散体の製造方法。
【請求項6】
脂肪族ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物を、残留イソアネート基が添加したイソシアネート基の20〜80mol%になるまで反応させ、続いて20〜65℃の温度で芳香族ポリイソシアネートを反応させ、かつ、反応における有機ポリイソシアネート由来のイソシアネート基(NCO)の合計とポリヒドロキシ化合物由来の水酸基(OH)の合計のモル比(NCO/OH)を1.03〜1.40として末端NCOウレタンプレポリマーを得、当該末端NCOウレタンプレポリマーを水中で乳化、分散させた後、鎖延長することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載の水性ポリウレタン分散体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載の水性ポリウレタン分散体を含有することを特徴とする水性接着剤。

【公開番号】特開2009−185137(P2009−185137A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24801(P2008−24801)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】