説明

水性ポリウレタン分散体及びそれを用いた水性塗料

【課題】 水性塗料や水性接着剤等といった各種の水系ポリウレタン樹脂用途において、とりわけ、優れた耐溶剤性が所望される分野において好適に用いることが可能な、水性ポリウレタン分散体を提供することを目的とする。
【解決手段】 特定のアロファネート変性ポリイソシアネートを含有する有機ポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)、中和剤(D)、鎖延長剤(E)を反応させて得られる、特定の要件を全て満たす水性ポリウレタン分散体により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥フィルムの水溶性、再溶解性に優れ、かつ、MEK等の有機溶剤に対して不溶性を示す、水性ポリウレタン分散体、及びそれを用いた水性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
水性ポリウレタン分散体は、基材への密着性、耐摩耗性、耐衝撃性、耐溶剤性等に優れていることから塗料、インキ、接着剤、各種コーテイング剤として紙、プラスチックス、フィルム、金属、繊維製品等に幅広く使用され、またその製造方法についても種々検討されている。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドン、芳香族系有機溶剤等を単独、若しくは混合溶剤中でウレタン樹脂溶液を製造後に水分散化及び脱溶剤過程を経てエマルジョン、コロイダルディスパージョン、水溶液等の水性ポリウレタン樹脂が開発されている。
【0003】
アロファネート変性ポリイソシアネートは、他のウレタン変性ポリイソシアネートやイソシアヌレート変性ポリイソシアネートと比較すると、一般的に低粘度であり、また、変性剤の選定により、イソシアネート骨格内に様々な側鎖基を導入することができる。例えば、ポリオキシエチレン基を導入すれば、親水性のポリイソシアネートが得られる。また、炭素数の多い炭化水素基を導入すれば、貧溶剤可溶のポリイソシアネートが得られる。
【0004】
特許文献1には、側鎖にポリオキシエチレン基を導入したアロファネート変性ポリイソシアネートをポリウレタン樹脂のイソシアネート成分に用いた水性ポリウレタンエマルジョンが示されている。しかしながら、特許文献1において、アロファネート変性ポリイソシアネートの原料に、2,4−トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の異なる反応性を有する2個のイソシアネート基を有する有機ジイソシアネート(非対称ジイソシアネート)を用いている。一般的な非対称有機ジイソシアネートは、通常環構造(一種のラダー構造)を有するため、分子骨格の柔軟性が低く、また、粘度も高いものとなりやすい。
【0005】
特許文献2には、水性ポリウレタン樹脂分散体の製造の際、有機溶剤を用いない方法が提案されている。しかしながら、特許文献2の製造方法においては、イソシアネート基末端プレポリマーの粘度が非常に高いため、強力な剪断力を有するホモミキサー、ホモジナイザー、マイクロフルイタイザーを用いないことには、水分散が進行しない場合が多く、製造設備改造の必要がある。
【0006】
他方、水性ポリウレタン分散体を用いて得られる乾燥フィルムについて、水溶性や再溶解性に優れ、かつ、MEK等の有機溶剤に対しては不溶性を示すような特性を有するものが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−104612号公報
【特許文献2】特開平10−265539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記のような背景を鑑み、得られる乾燥フィルムについて、水溶性や再溶解性に優れ、かつ、MEK等の有機溶剤に対しては不溶性を示すような特性を有する水性ポリウレタン分散体を得ることを目的とする。
【0009】
本発明はまた、前記のような特性を有する水性ポリウレタン分散体を用いた水性塗料を得ることをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の一連の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の要件を満たす水性ポリウレタン分散体を用いることにより、前記の一連の課題を解決できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下の(1)〜(5)に示されるものである。
【0012】
(1) 有機ポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)、中和剤(D)、鎖延長剤(E)を反応させて得られるポリウレタン樹脂を水中に乳化させてなる水性ポリウレタン分散体において、有機ポリイソシアネート(A)が、繰り返し単位中オキシエチレン基を50モル%以上含有するアルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコール(A1−1)とヘキサメチレンジイソシアネート(A1−2)から得られるアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)を含有し、有機ポリイソシアネート(A)と高分子ポリオール(B)のモル比が、(A)/(B)=3〜20であり、樹脂中におけるカルボン酸基に基づく酸価が50〜100mgKOH/gであり、かつ、鎖延長剤(E)がポリアミン化合物と水との混合物であることを特徴とする、水性ポリウレタン分散体。
(2) 鎖延長剤(E)におけるポリアミン化合物が、ジエチレントリアミン及び/またはトリエチレンテトラミンであることを特徴とする、(1)に記載の水性ポリウレタン分散体。
(3) 水性ポリウレタン分散体中の固形分におけるメチルエチルケトンを用いたゲル分率が80%以上であることを特徴とする、(1)または(2)のいずれかに記載の水性ポリウレタン分散体。
(4) 有機ポリイソシアネート(A)が、繰り返し単位中オキシエチレン基を50モル%以上含有するアルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコール(A1−1)とヘキサメチレンジイソシアネート(A1−2)から得られるアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)と、脂環族系ジイソシアネート(A2)からなる有機ポリイソシアネート混合物であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の水性ポリウレタン分散体。
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の水性ポリウレタン分散体を用いた水性塗料。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、得られる乾燥フィルムについて水溶性や再溶解性に優れ、かつ、MEK等の有機溶剤に対しては不溶性を示すような特性を有する水性ポリウレタン分散体を得ることが可能となった。
【0014】
また、本発明により、前記のような特性を有する水性ポリウレタン分散体を用いた水性塗料を得ることも可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
<有機ポリイソシアネート(A)>
本発明の水性ポリウレタン分散体を構成する有機ポリイソシアネート(A)は、繰り返し単位中オキシエチレン基を50モル%以上含有するアルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコール(A1−1)とヘキサメチレンジイソシアネート(A1−2)から得られるアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)を含有するものである。前記のアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)は実質的に分子中にイソシアヌレート基を含有しないものである。イソシアヌレート基を実質的に含有すると、有機ポリイソシアネート(A)の粘度が増大し、水性ポリウレタン分散体の製造時において、有機溶剤による希釈といった粘度の低下を行う必要がある。
【0017】
本発明においては、前記のアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)を含有することを前提として、前記のアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)以外の有機ポリイソシアネートと併用して有機ポリイソシアネート(A)とすることができる。
【0018】
前記アロファネート変性ポリイソシアネート(A1)以外の有機ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、ジベンジルジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、HDI(前記のアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)に相当するものを除く)、リジンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサヘチレン−1,6−ジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサヘチレン−1,6−ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加トリメチルキシリレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートがある。これらの有機ジイソシアネートは単独でも用いることができるし、混合物にして用いても良い。更には、これらのアダクト変性体、カルボジイミド変性体、アロファネート変性体(前述のものを除く)、ビュレット変性体、ウレトジオン変性体、ウレトイミン変性体、イソシアヌレート変性体等の変性体も使用できる。
【0019】
本発明においては、前記のアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)と併用する有機ポリイソシアネートとして、前記の脂環族系ジイソシアネートを用いることが好ましく、中でも、イソホロンジイソシアネート(以下「IPDI」と略記。)を選択して用いるのが好ましい。
【0020】
<アロファネート変性ポリイソシアネート(A1)>
本発明に用いられるアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)は、繰り返し単位中のオキシエチレン基を50モル%以上(好ましくは70モル%以上)含有するアルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコール(A1−1)とHDI(A1−2)から得られる。ここで、アルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコールにおける繰り返し単位中のオキシエチレン基が50モル%未満の場合、得られる水性ポリウレタン分散体の水分散能(水性ポリウレタン分散体におけるの均一分散安定性)が不十分となる。また、HDI以外の他の有機ジイソシアネート、例えばトルエンジイソシアネート(以下「TDI」と略記。)やイソホロンジイソシアネート(以下「IPDI」と略記。)を用いた場合は、環構造(一種のラダー構造)を有するため、分子骨格の柔軟性が低く、また、水性ポリウレタン分散体における粘度も高いものとなりやすい。このため、このようなアロファネート変性ポリイソシアネートを製造する際に有機溶剤が必要になるため、本発明においては好ましくない。
【0021】
本発明においては、前記のアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)のイソシアネート基含有量は5〜15質量%の範囲内であることが好ましく、中でも8〜13質量%の範囲内であることが特に好ましい。また、前記のアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)の25℃における粘度は1,000mPa・s以下であることが好ましく、100〜800mPa・sの範囲内であることが特に好ましい。イソシアネート基含有量が5質量%未満の場合、または、粘度が1,000mPa・sを超える場合、反応の最中における中間反応物の粘度が高くなり、製造装置に大きな負荷がかかる(製造装置の故障が発生する)場合がある。また、イソシアネート基含有量が15質量%を超える場合、または、粘度が例えば800mPa・s未満と過度に低すぎる場合、アロファネート変性ポリイソシアネート(A1)におけるアロファネート変性の度合が不充分である可能性が多く、得られるポリウレタン分散体の分散能(水性ポリウレタン分散体における均一分散安定性)が不充分となりやすい。
【0022】
前記のアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)の製造方法は、次の通りである。アルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコールに対して、過剰量のHDI(アルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコール/HDI=1/5〜1/20(モル比)が好ましい)を仕込み、ウレタン化反応を行う。次いでカルボン酸の金属塩等のアロファネート化触媒を仕込み、アロファネート化反応を行う。リン酸等の反応停止剤を仕込み、アロファネート化反応を停止させ、薄膜蒸留等で未反応のHDIを除去して、目的のアロファネート変性ポリイソシアネートが得られる。
【0023】
なお、好ましいアロファネート化触媒は、ジルコニウムのカルボン酸塩、ジルコニルのカルボン酸塩、スズ(二価)のカルボン酸塩である。これら以外のアロファネート化触媒では、イソシアヌレート化反応等の副反応の程度が大きく、目的のアロファネート変性ポリイソシアネート含有量が低いものになる。このような方法で得られたポリイソシアネートは平均官能基数が大きく、ポリウレタン樹脂製造の際ゲル化が生じやすい。なお、アロファネート化触媒の具体的商品としては、ニッカオクチックスジルコニウム(日本化学産業株式会社製)等が挙げられる。
【0024】
HDI以外の市場に広く流通している有機ジイソシアネートを用いて、前述のジルコニウム系触媒を用いてアロファネート変性ポリイソシアネートを製造した場合、アロファネート化反応が不充分であり、目的とするアロファネート変性ポリイソシアネートが得られにくい。
【0025】
アロファネート変性ポリイソシアネート(A1)に用いられるアルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコール(A1−1)は、一般的には炭素数1〜10の1個の水酸基を有する化合物を開始剤として、エチレンオキサイド50モル%以上含有するアルキレンオキサイドを開環付加させることで得られる。
【0026】
ここで、開始剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール(各種異性体を含む)、ブタノール(各種異性体を含む)、ペンタノール(各種異性体を含む)等の飽和脂肪族系アルコール化合物、アリルアルコール等の不飽和脂肪族系アルコール化合物、フェノール等のフェノール系化合物、ベンジルアルコール等の芳香脂肪族系アルコール等が挙げられる。本発明では、親水性付与効果を高くするため、炭素数が5以下の脂肪族系アルコールが好ましく、特に好ましくは炭素数2以下の飽和脂肪族系アルコールである。また、アルキレンオキサイドのエチレンオキサイド含有量は、得られるポリウレタン分散体における水分散能(水性ポリウレタン分散体における均一分散安定性)を考慮すると、70モル%以上であることがより好ましい。
【0027】
アルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコール(A1−1)の数平均分子量は200〜2,000の範囲内であることが好ましく、特に好ましくは300〜1,000の範囲内である。アルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコール(A1−1)の数平均分子量が200未満の場合、アロファネート変性ポリイソシアネート(A1)における親水性付与効果が小さく、これを用いた水性ポリウレタン分散体の水分散能が不充分である。また、数平均分子量が2,000を超える場合、ポリオキシエチレン鎖の結晶化のため、得られるアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)の粘度が大きくなり、又は固化しやすくなり、溶剤を用いることなく水性ポリウレタン分散体を製造することが困難になる。
【0028】
<高分子ポリオール(B)>
本発明において使用される高分子ポリオールとしては、ポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオール或いはポリカーボネートポリオールなどが使用され、それらにはポリウレタン樹脂の原材料としての通常のものが用いられて、特に規定はされない。
【0029】
本発明において使用される高分子ポリオールとしては、数平均分子量が800〜6,000(より好ましくは数平均分子量が800〜2,500、とりわけ好ましくは、より安定した水性ポリウレタン分散体の分散性、並びに生産性を確実に併せ得られるとの観点から、数平均分子量が1,000〜2,000)のものが好ましく、代表的には、ポリプロピレンエチレンポリオール(PPG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTG)などが例示される。
【0030】
より具体的には、ポリエステルポリオールとしては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、その他の二塩基酸などと、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、或いはグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのポリオール類とからの重縮合反応により得られるポリエステルポリオールが使用される。さらに、ε−カプロラクトンなどの環状エステル、ジオールの一部をヘキサメチレンジアミンやイソホロンジアミンなどのアミン類に変更したポリエステルアミドポリオールなども使用し得る。
【0031】
ポリエーテルポリオールとしては、前記のジオール類、ポリオール類と、或いはこれらとエチレンジアミン、プロピレンジアミン、トルエンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジフェニルメタンジアミンなどのアミン類と共に、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイド、メチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルなどのアルキル或いはアリールグリシジルエーテル、テトラヒドロフランなどの環状エーテルなどを付加重合することにより得られるポリエーテルポリオールが使用される。
【0032】
ポリカーボネートポリオールとしては、前記のジオール類、ポリオール類と、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどとの反応により得られるポリカーボネートポリオールが使用される。
【0033】
なお、本発明の水性ポリウレタン分散体においては、前記の有機ポリイソシアネート(A)と前記の高分子ポリオール(B)におけるモル比が、(A)/(B)=3〜20の範囲内となるように用いられる。
【0034】
<カルボキシル基含有低分子グリコール(C)>
本発明において用いられるカルボキシル基含有低分子グリコール(C)としては、末端水酸基を二個有す脂肪酸が好適に使用される。当脂肪酸は末端水酸基を活性水素基として二個有し、例えば両末端の活性水素基がイソシアネート基と反応してプレポリマーの主鎖に組み込まれ、遊離のカルボキシル基が親水性なのでプレポリマーの水分散性を高める作用をなす。活性水素基を有す脂肪酸化合物としては、例えば、末端水酸基を二個有すジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等が挙げられる。
【0035】
<中和剤(D)>
本発明において用いられる中和剤(D)は、ウレタンプレポリマー主鎖に組み込まれたカルボキシル基含有低分子グリコールのカルボキシル基を中和して、ポリウレタン樹脂の水分散性をより高める効果を付与する。この中和剤(D)としては、例えば、アンモニア、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−アミノ−2−エチル−1−プロパノール等の有機アミン類、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの無機アルカリ類等が挙げられる。
【0036】
<鎖延長剤(E)>
本発明において用いられる鎖延長剤(D)は、活性水素を3以上有するポリアミン化合物が使用される。活性水素を3以上有する化合物としては、例えば、エチレンジアミン(EDA)、ジエタノールアミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。
【0037】
本発明においては、前記の鎖延長剤(E)として、ジエチレントリアミン(DETA)及び/またはトリエチレンテトラミン(TETA)を選択して用いるのが好ましい。
【0038】
なお、本発明においては、前記の鎖延長剤(E)は、水と混合して用いられる。
【0039】
<任意成分>
本発明における水性ポリウレタン分散体は、前記の特定の有機ジイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)、中和剤(D)、並びに鎖延長剤(E)を必須とするが、必要に応じて、水への分散を促す効果を有する粘度低下剤(水への溶解度が0.1〜40質量%で引火点が50℃以上)を添加することができる。該粘度低下剤の具体例としては、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(商品名:ジメチルプロピレンジグリコール(略称:DMM、水への溶解度:37.0質量%、引火点:65℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(商品名:ジブチルジグリコール、略称:DBDG、水への溶解度:0.3質量%、引火点:122℃)、N−メチルピロリドン(略称:NMP、水への溶解度:(任意)質量%、引火点:91℃)等が挙げられる。
【0040】
また、本発明における水性ポリウレタン分散体には、ポリウレタン樹脂を形成するうえで反応を促進させる目的から、必要に応じて、ジブチルチンジラウレートやナフテン酸亜鉛のような金属系触媒、或いは、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン等のようなアミン系触媒等、ウレタン反応の硬化触媒(重合触媒)としての樹脂化触媒(ウレタン化触媒)を併せ用いることができる。
【0041】
さらに、本発明の水性ポリウレタン分散体に所望される物性を高め、また、各種物性を付加する目的から、各種の添加剤として、難燃剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、内部離型剤、補強材、艶消し剤、導電性付与剤、帯電制御剤、帯電防止剤、滑剤、その他の加工助剤を用いることができる。
【0042】
<水性ポリウレタン分散体>
本発明の水性ポリウレタン分散体は、前記のとおり、有機ポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)、中和剤(D)、鎖延長剤(E)を反応させて得られるポリウレタン樹脂を水中に乳化させてなる水性ポリウレタン分散体であり、有機ポリイソシアネート(A)が、繰り返し単位中オキシエチレン基を50モル%以上含有するアルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコール(A1−1)とヘキサメチレンジイソシアネート(A1−2)から得られるアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)を含有する有機ポリイソシアネート(A)であり、有機ポリイソシアネート(A)と高分子ポリオール(B)のモル比が、(A)/(B)=3〜20であり、樹脂中におけるカルボン酸基に基づく酸価が50〜100mgKOH/gであり、かつ、鎖延長剤(E)がポリアミン化合物と水との混合物であることを特徴とするものである。なお、酸価の測定方法は、例えば日本工業規格JIS K5400等に開示されている方法による。
【0043】
<水性ポリウレタン分散体の製造方法>
次に、本発明の水性ポリウレタン分散体の製造方法について述べる。前記一連の特定の有機ポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)を反応させる。この際、前記の任意成分として挙げた水への分散を促す効果を有する粘度低下剤、並びに、ウレタン化触媒を反応系内に介在させてもよい。次いで、中和剤(D)にてカルボキシル基を中和して、カルボン酸アミン塩を含有して水分散性の高められたイソシアネート基末端プレポリマーを得る。このイソシアネート基末端プレポリマーを水に分散させて乳化させた後に、前記の鎖延長剤(E)にて鎖延長反応を行うことにより、本発明の水性ポリウレタン分散体が得られる。
【0044】
この場合、イソシアネート基末端プレポリマーを水に分散させて乳化する工程は、イソシアネート基末端プレポリマーを予め仕込んだ系内に水を追加投入して分散させて乳化するより、水を予め仕込んだ系内にイソシアネート基末端プレポリマーを追加投入して分散させて乳化するのが好ましい。
【0045】
<水性塗料>
本発明の水性ポリウレタン分散体を用いることにより、得られる乾燥フィルム(即ち、本発明の水性ポリウレタン分散体によって得られる塗膜または被膜)は、水溶性や再溶解性に優れ、かつ、MEK等の有機溶剤に対しては不溶性を示すような特性を有することが可能となる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。なお、実施例及び比較例中において「部」並びに「%」は、断り書きがない限り各々「質量部」並びに「質量%」を示す。
【0047】
<アロファネート変性ポリイソシアネートの合成>
製造例1:
攪拌機、温度計、冷却器及び窒素ガス導入管のついた容量1Lの反応器に、「HDI(本発明の(A1−2)に相当)」を863g、「メトキシポリエチレングリコール(数平均分子量=400:本発明の(A1−1)に相当)」を137g、「2−エチルヘキサン酸ジルコニウム」を0.2g仕込み、窒素雰囲気下90℃で2時間反応を行った。次いで、リン酸エステル「JP−508(城北化学(株)製)」を0.1g仕込み50℃で1時間停止反応を行った。停止反応後の反応生成物のイソシアネート基含有量は40.2%であった。この反応生成物を130℃×0.04kPaにて薄膜蒸留を行い、本発明の(A1)に相当するアロファネート変性ポリイソシアネートイソシアネート「ALP−1」を得た。「ALP−1」のイソシアネート含量は11.4%、25℃の粘度は140mPa・s、遊離ジイソシアネート(即ち「HDI」)の含有量は0.1%であった。また、「ALP−1」をFT−IR及び13C−NMRにて分析したところ、ウレタン基、イソシアヌレート基はほとんど確認されず、アロファネート基の存在が確認された。
【0048】
<水性ポリウレタン分散体の合成>
実施例1:
攪拌機、温度計、窒素シール管、冷却器のついた容量:3Lの反応器に、「ポリオール−1」を200g(モル比=1.0相当)、「DMPA」を94g(モル比=7.0相当)を各々仕込み、100℃にて均一に混合した。その後、前記の製造例1において得られた「ALP−1」を176.4g(モル比=4.8相当)、「IPDI」を106.6g(モル比=4.8相当)を各々仕込み、次いで、「DOTDL」を0.05g仕込み、80℃で3時間撹拌・反応を行った。次いで、「KOH」を95.2g(モル比=5.6相当)仕込んでカルボキシル基を中和し、イソシアネート基末端プレポリマーを得た。その後、水を1650g仕込んで乳化させた。乳化したところで、あらかじめ水を46.8gと「DETA」を8.2g(モル比=0.8相当)とを配合したアミン水を仕込んで鎖延長反応を行った。FT−IRによりイソシアネート基の存在が確認されなくなったところで反応を終了して25℃まで冷却した後、「MEK」を92.5g仕込み、水性ポリウレタン分散体(本発明の水性ポリウレタン分散体に相当)を得た。この水性ポリウレタン分散体の諸性能等について、表1に示す。
なお、記載中における“モル比”は高分子ポリオール(B)に対するモル比であり、また、“固形分”以外は、水が85%とMEKが15%からなる混合液である(いずれも、以下の各実施例並びに各比較例において同じ)。
【0049】
実施例2〜6、比較例1〜5:
表1並びに表2に示す組成(モル比)に従って、前記の実施例1と同じ方法に基づいて、各々の水性ポリウレタン分散体を得た。これらの水性ポリウレタン分散体各々の諸性能等について、表1並びに表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
前記の実施例1、表1、並びに表2における各々の略称の詳細は、以下のとおり。
・「IPDI」(本発明の(A2)に相当): イソホロンジイソシアネート。
・「ポリオール−1」(本発明の(B)に相当): ポリプロピレングリコール(平均官能基数=2、数平均分子量=2,000)。
・「DMPA」(本発明の(C)に相当): 2,2−ジメチロールプロピオン酸。
・「DOTDL」 :ジオクチルチンジラウレート。
・「KOH」(本発明の(D)に相当): 水酸化カリウム(33%水溶液)。
・「DETA」(本発明の(E)に相当): ジエチレントリアミン。
・「TETA」(本発明の(E)に相当): トリエチレンテトラミン。
・「EDA」(本発明の(E)に相当): エチレンジアミン。
・「MEK」: メチルエチルケトン。
【0053】
<水性ポリウレタン分散体を用いた塗膜物性の評価>
一連の実施例並びに比較例において得られた各々の水性ポリウレタン分散体について、板ガラスに水性ポリウレタン分散体をキャストして25℃で5日間乾燥させて、20μmの膜厚を有する乾式フィルムを作成し、以下に記載する物性測定を行った。一連の結果を表1並びに表2に併せて示す(表2中における「−」は”測定不可”を意味する)。
<引張物性>
引張試験(25℃:100%モジュラス、破断時強度、伸び):
引張速度=200mm/分
JIS K6301(1995)の4号ダンベルにて打ち抜いてサンプルを作成した。
引張物性測定装置:オリエンテック(株)製 テンシロン UTA−500
【0054】
<水性ポリウレタン分散体中の固形分におけるMEKを用いたゲル分率の評価>
一連の実施例並びに比較例において得られた各々の水性ポリウレタン分散体について、前記の塗膜物性の評価と同様、板ガラスに水性ポリウレタン分散体をキャストして25℃で5日間乾燥させて、20μmの膜厚を有する乾式フィルム(水性ポリウレタン分散体中の固形分からなるフィルム)を作成した。このフィルムについて1.5gをカットし、それぞれをあらかじめ秤量した円筒濾紙に入れて秤量した。これをMEKに漬け込み、MEKの沸点(80℃)にて5時間煮沸後、MEKの蒸気にて1時間リンスした。リンス終了後、乾燥、秤量して、ゲル分率を求めた。一連の結果を表1並びに表2に併せて示す。
【0055】
<水性ポリウレタン分散体を用いた2液型水性塗料としての評価>
実施例7〜12:
前記の実施例1〜6において得られた各々の水性ポリウレタン分散体を主剤とし、かつ、自己乳化型ポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業製「アクアネート(登録商標)200」)を硬化剤と併せ用いて、以下に示す方法により2液型水性塗料としての評価を行った。なお、配合比は、固形分換算で主剤/硬化剤=100/50(質量比)とした。評価結果を表3に示す。
【0056】
<塗布、硬化条件>
基材: アルミニウム板(50mm×25mm×0.5mm)。
塗布面については、MEKをしみ込ませた脱脂綿により脱脂。
塗布量: 50g/m2
塗布温度: 20℃。
硬化条件: 室温×10分+50℃×24時間+室温×24時間。
<性能試験>
密着性: JIS K5400、碁盤目テープ法に準じて測定。
ラビング試験: 塗膜にキシレンをしみ込ませた脱脂綿を100回擦り付け、塗膜外観の変 化を観察。
耐屈曲性: JIS K5400に準じて測定。
心棒の直径は2mmのものを使用。
【0057】
【表3】

【0058】
一連の性能試験の結果、前記の実施例1〜6において得られた各々の水性ポリウレタン分散体を用いた2液型水性塗料としての評価(実施例7〜12)は、いずれも、以下の評価であった。
<密着性>
「○」:被膜残存率が80%以上。
<ラビング試験>
「○」:被膜に傷等がほとんど確認できない。
<耐屈曲性>
「○」:被膜に割れや剥がれ等が全く認められない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明により得られる水性ポリウレタン分散体は、水性塗料や水性接着剤等といった各種の水系ポリウレタン樹脂用途、特に、水性ポリウレタン分散体により得られる固形分(ひいてはフィルム等)において、とりわけ優れた耐溶剤性が所望される分野において、好適に用いることができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)、中和剤(D)、鎖延長剤(E)を反応させて得られるポリウレタン樹脂を水中に乳化させてなる水性ポリウレタン分散体において、
有機ポリイソシアネート(A)が、繰り返し単位中オキシエチレン基を50モル%以上含有するアルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコール(A1−1)とヘキサメチレンジイソシアネート(A1−2)から得られるアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)を含有し、
有機ポリイソシアネート(A)と高分子ポリオール(B)のモル比が、(A)/(B)=3〜20であり、
樹脂中におけるカルボン酸基に基づく酸価が50〜100mgKOH/gであり、かつ、
鎖延長剤(E)がポリアミン化合物と水との混合物
であることを特徴とする、水性ポリウレタン分散体。
【請求項2】
鎖延長剤(E)におけるポリアミン化合物が、ジエチレントリアミン及び/またはトリエチレンテトラミンであることを特徴とする、請求項1に記載の水性ポリウレタン分散体。
【請求項3】
水性ポリウレタン分散体中の固形分におけるメチルエチルケトンを用いたゲル分率が80%以上であることを特徴とする、請求項1または請求項2のいずれかに記載の水性ポリウレタン分散体。
【請求項4】
有機ポリイソシアネート(A)が、繰り返し単位中オキシエチレン基を50モル%以上含有するアルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコール(A1−1)とヘキサメチレンジイソシアネート(A1−2)から得られるアロファネート変性ポリイソシアネート(A1)と、脂環族系ジイソシアネート(A2)からなる有機ポリイソシアネート混合物であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の水性ポリウレタン分散体。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の水性ポリウレタン分散体を用いた水性塗料。






【公開番号】特開2010−229224(P2010−229224A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76271(P2009−76271)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】