説明

水性ポリウレタン樹脂エマルジョン被覆剤組成物及びその製造方法

【課題】水性ポリウレタン樹脂エマルジョン被覆剤において、耐水性や耐溶剤性などの各種の物性を低下させることなく、常温での成膜性(被覆層の均一性や耐久性など)を改良する。
【解決手段】アロファネート変性ジイソシアネート(a1)及び有機ジイソシアネート(a2)を含有するポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)を反応させて得られるウレタンプレポリマー(D)と、多官能ポリイソシアネート(E)を混合し、中和処理後に水と混合して乳化分散させた後に、鎖延長剤(F)と反応させたポリウレタン樹脂を主剤とする、水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ポリウレタン樹脂エマルジョン被覆剤組成物及びその製造方法に関し、特に、そのエマルジョン被覆剤組成物を使用して、物性を低下させずに室温成膜性能を向上させた水性ポリウレタン樹脂被覆剤に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂組成物は、従来は専ら有機溶剤を使用した組成物として使用され、各種の素材への密着性が高く種々の物性に優れているので、被覆剤や塗料或いは接着剤や印刷インキなどとして汎用されてきた。
近年においては、社会的及び産業界からの要請である環境保全性や作業安全性などからして有機溶剤を使用しない水性(水系)の組成物が要望され、有機溶剤を使用しないことで経済的に有利でもあるので、最近では、有機溶剤によるポリウレタン樹脂組成物から、水分散体を使用する水性のポリウレタン樹脂組成物への変換が普遍的に行われている。
【0003】
水性のポリウレタン樹脂組成物においては、基本的な問題として、ポリウレタン樹脂主剤の水媒体への分散性を高め、水との反応性の高いイソシアネート基における水との反応性を抑制して可使時間を長くすることが重要であり、これらに対処する多数の技術が開示されている。そして、これらの要件を共に満たす樹脂組成物として、例えば、水酸基価を特定したポリオール及び塩基で中和されたホスフィン系化合物が結合したポリイソシアネートとからなる水系ポリウレタン組成物が提示されているが(特許文献1を参照)、何れも分散性と可使時間を共に充分に向上するには至っていない。
また、水性のポリウレタン樹脂組成物、特に水性ポリウレタン樹脂被覆剤においては、有機溶剤系の被覆剤よりも耐久性や耐溶剤性などの各種の物性が概して低いので、有機溶剤系の被覆剤と同等の各種の物性を得るための改良の検討も続けられている。その改良法の代表的なひとつとして、カルボキシル基を導入したイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを中和させ水分散性にした後に、水に乳化させ鎖延長反応を行ったウレタンプレポリマーと、水に相溶しないウレタンプレポリマーを含有する水性一液被覆剤用ポリウレタンエマルジョンが提示されているが(特許文献2を参照)、被覆剤の被膜物性が全体として未だ不充分である。そして、いわゆるブロックイソシアネート化合物を利用する水系の一液型ポリウレタン樹脂被覆剤もよく知られ(例えば、特許文献3を参照)、この種の被覆剤は、常温では架橋硬化が進行しないようにイソシアンート基がブロック(封鎖)され、加熱によりイソシアネート基のブロック体が外れて被覆層が硬化する、いわゆる一液焼付け型の被覆剤であり、被覆層が概ね常温乾燥型のものより耐水性や耐溶剤性或いは耐久性や密着性などの諸性能において良好であるが、有機溶剤系のものに比してなお、耐久性や耐溶剤性など、或いは耐衝撃性や光沢性などが未だ充分であるとはいえず、更には水分散性や貯蔵安定性なども満足されるものではない。
【0004】
そして最近において、かかる水性ポリウレタン樹脂被覆剤における被膜の外観及び耐水性や耐溶剤性などの各種の物性を向上させる改良技術として、有機ジイソシアネート、高分子ポリオール及びカルボキシル基含有低分子グリコールを反応させて、カルボキシル基含有イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A)を製造し、これと疎水性ポリイソシアネート又はノニオン性極性基含有ポリイソイアネート(B)を混合してから、系中のカルボキシル基を中和剤(C)にて中和させた後、水に乳化させ鎖延長反応させることからなる水性コーティング剤用ポリウレタンエマルジョンの製造方法が提示されている(特許文献4及び特許文献5)。
当コーティング用エマルジョンにおいては、各種の物性は概ね高められているが、被膜の乾燥時に被膜に微細な割れが生じることがあり、常温での成膜性が充分に良好であるとはいえない。
【0005】
【特許文献1】特開平10−306255号公報(要約)
【特許文献2】特開平7−188371号公報(要約及び段落0011,0015)
【特許文献3】特表2005−522559号公報(要約及び請求項1)
【特許文献4】特開2005−194375号公報(要約及び段落0041)
【特許文献5】特開2005−247897号公報(要約)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
背景技術の段落0003〜0004に概述したように、水性のポリウレタン樹脂組成物においては、その技術改良の流れの中で各種の物性の向上は確実になされているところ、特に先の特許文献4,5に係る水性コーティング剤(被覆剤)用ポリウレタン樹脂エマルジョンは、本出願人により開示された改良技術であるが、水性被覆剤としての被膜の外観及び耐水性や耐溶剤性などの各種の物性の充分な向上がなされているとしても、常温での成膜性(被覆層の均一性や耐久性など)が不足し、乾燥時に被膜に微細な割れが生じることがあるので、本発明は当水性エマルジョンの成膜性をも改良することを、発明の課題として目指すものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、上記の課題を解決するために、水性のポリウレタン樹脂エマルジョン組成物による水性被覆剤において、低分子化合物原材料、イオン性分散化モノマー、ポリウレタン樹脂の化学構造や物性、鎖延長剤などの反応助剤、或いは多官能性架橋剤などについて、更には乳化分散工程や成膜法(塗装法)などについての改良や改質などを中心に、種々の勘案による考察及び試行実験による検証などを行って、新たな改良手法を探求した。
そして、一般に水性エマルジョンの成膜性を向上させる手法として、N−メチルピロリドンやジグリコールジエーテル系化合物などの成膜助剤を添加する方法は知られているが、成膜助剤に依存すると、これらの揮発性有機成分(VOC)が増加してしまい水性被覆剤としては不都合であり、また、被膜を被覆後に常温より高く加熱しても成膜性を高めることもできるが、被覆基材が熱可塑性樹脂などでは加熱が好ましくないので、VOC成分を増加させることなく高物性を保持し損なわずに、加熱もしない常温成膜性を高める手段を探索する過程において、特定の有機イソシアネート剤を併用しその配合量を適量にすることにより、耐水性などを低下させずに常温の成膜性を高め得る手法を知見することができ、それにより上記の発明の課題を解決し得ることとなり、本発明の基本要件を見い出すに至った。
その基本要件は、先の特許文献4,5における水性ポリウレタン樹脂エマルジョン被覆剤において、有機ジイソシアネート材料にアロファネート変性ジイソシアネート、特にM−PEG(末端アルコキシポリエチレングリコール)開始のアロファネート変性ポリイソシアンート、を組み合わせ併用することである。
【0008】
より具体的には、被覆剤媒体として有機溶剤を使用しない水系のポリウレタン樹脂エマルジョン組成物において、アロファネート変性ジイソシアネート及び有機ジイソシアネートを共に含有するポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)を反応させて得られるウレタンプレポリマー(D)と、架橋剤としての多官能ポリイソシアネート(E)を混合し、アルカリ成分にて中和処理して水分散性を高めた後に水と混合して乳化分散させ、次いで鎖延長剤(F)と反応させて得たポリウレタン樹脂を主剤とする、水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物である。
【0009】
好ましい態様として、アロファネート変性ジイソシアネートが脂肪族ジイソシアネート化合物をアロファネート変性したM−PEGアロファネートであり、有機ジイソシアネートが脂肪族又は脂環族ジイソシアネートであり、高分子ポリオールが数平均分子量800〜6,000程度のポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオール或いはポリカーボネートポリオール又はポリオレフィンポリオールであり、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)がジメチロール脂肪酸であり、多官能ポリイソシアネート(E)がイソシアヌレート変性ポリイソシアネートであり、中和処理が代表的には第三級アミン、その他に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの中和剤によりなされ、鎖延長剤(F)が水又はアミン化合物であり、エマルジョン組成物がコーティング用(被覆用)組成物である。
なお、水分散性を高めるために、カルボキシル基含有低分子グリコールのような末端水酸基を二個有す脂肪酸をプレポリマーに組み込むことが有効であり、この脂肪酸基は上記の第三級アミンなどの中和剤で中和処理され、より水分散性が高められる。
【0010】
更に、具体的な好ましい態様として、ポリイソシアネートにおいてM−PEGアロファネートが10〜60mol%含有され、水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物が着色剤などの添加剤を含有する水性ポリウレタン樹脂塗料であり、水性ポリウレタン樹脂塗料による塗膜が形成された、金属又は無機物或いはプラスチック又は木材からなる資材をも発明の対象とする。
【0011】
本発明の水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物の製造方法としては、アロファネート変性ジイソシアネート及び有機ジイソシアネートを含有するポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)によりウレタン化反応を行いウレタンプレポリマー(D)を形成し、次いで多官能ポリイソシアネート(E)を混合し、中和剤にてカルボキシル基を中和してカルボン酸塩とした後に、水を混合して乳化分散させ更に鎖延長剤(F)と反応させることにより、ポリウレタン樹脂を主剤とする水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物を製造することができる。
【0012】
本発明の水性のポリウレタン樹脂エマルジョン組成物においては、段落0008に記述したその特有の組成成分の採用により、顕著な特徴(効果)としては、先の特許文献4,5の先行技術において、揮発性有機成分(VOC)の成膜助剤を増加させることなく、また加熱乾燥を必要とすることなく、当先行技術の耐水性などの各種高物性を保持し損なわずに、常温での成膜性を高めることができ、均一で耐久性の良い被膜を形成できることである。
また、更なる特徴として、被膜物性を高めるために架橋剤の多官能ポリイソシアネートを架橋用の成分材料とすると、架橋度が増して通常は成膜性が低下するのに、本発明では予期し得ないことに当架橋剤を使用しても、M−PEGアロファネートの併用により成膜性が高められる。この理由としては、M−PEGアロファネートで変性したイソシアネート材料は、多官能のイソシアヌレート変性ポリイソシアネートと異なり二官能なので、分子主鎖を長くでき分子主鎖に親水性基がぶら下がり分子主鎖が柔軟になり、親水性基が相互に融合し易くなって成膜性が向上し、更に粒子径も小さくなり分散性が上昇して最密充填できて成膜性が向上することによると考えられる。
その他の特徴としては、アロファネート変性ジイソシアネートはノニオン性なので、被膜が保湿性を有して被膜がいわゆるソフトフィール性(しっとり感)を呈して、被膜の指触感が好適になる。
これらの特徴は、後記する各実施例と各比較例の対照により、実証されているものである。
【0013】
本発明の水性のポリウレタン樹脂エマルジョン組成物は、段落0008及び0012に記述した、特有の構成の要件と顕著な特徴を有するものであり、このような要件及び特徴は、段落0005において前記した先行技術文献において見い出すことはできない。
なお、これら以外の関連文献として本出願人による特開2006−22133号公報に、M−PEGアロファネート変性ジイソシアネートを併用する水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物が提示されているが(当公報の要約及び請求項1を参照)、本発明と異なり多官能ポリイソシアネート架橋剤は成分として使用されず、上記した段落0012における本発明の特徴(効果)を窺わせるものでもない。
【0014】
以上のとおりに創作され、特有の要件と顕著な特徴を備えた本発明について、その全体の構成を俯瞰して明確に記載すると、本発明は、次の発明単位群から形成されるものであって、[1]及び[6]の発明を基本発明とし、それ以外の発明は、基本発明を具体化ないしは実施態様化するものである。なお、発明群全体をまとめて「本発明」という。
【0015】
[1]アロファネート変性ジイソシアネート(a1)及び有機ジイソシアネート(a2)を含有するポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)を反応させて得られるウレタンプレポリマー(D)と、多官能ポリイソシアネート(E)を混合し、中和処理後に水と混合して乳化分散させた後に、鎖延長剤(F)と反応させたポリウレタン樹脂を主剤とすることを特徴とする、水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物。
[2]アロファネート変性ジイソシアネート(a1)が脂肪族ジイソシアネート化合物をアロファネート変性したM−PEGアロファネートであり、有機ジイソシアネート(a2)が脂肪族又は脂環族ジイソシアネートであり、高分子ポリオール(B)が数平均分子量800〜6,000のポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオール或いはポリカーボネートポリオール又はポリオレフィンポリオールであり、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)がジメチロール脂肪酸であり、多官能ポリイソシアネート(E)がイソシアヌレート変性ポリイソシアネートであり、中和処理が第三級アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの中和剤によりなされ、鎖延長剤(F)が水又はアミン化合物であり、エマルジョン組成物がコーティング用組成物であることを特徴とする、[1]における水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物。
[3]ポリイソシアネート(A)においてM−PEGアロファネートが8〜60mol%含有されていることを特徴とする、[2]における水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物。
[4][1]〜[3]のいずれかにおける水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物が着色剤などの添加剤を含有することを特徴とする水性ポリウレタン樹脂塗料。
[5][4]における水性ポリウレタン樹脂塗料による塗膜が形成されたことを特徴とする、金属又は無機物或いはプラスチック又は木材からなる資材。
[6]アロファネート変性ジイソシアネート(a1)及び有機ジイソシアネート(a2)を含有するポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)によりウレタン化反応を行いウレタンプレポリマー(D)を形成し、次いで多官能ポリイソシアネート(E)を混合し、中和剤にてカルボキシル基を中和してカルボン酸塩とした後に、水を混合して乳化分散させ、更に鎖延長剤(F)と反応させることを特徴とする、ポリウレタン樹脂を主剤とする水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明における水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物は、水性ポリウレタン樹脂被覆剤としての使用態様において、揮発性有機成分の成膜助剤を増加させることなく、また加熱乾燥を必要とすることなく、常温での成膜性を高めることができ、均一で耐久性の良い被膜を形成することができる。また、被膜外観や指触性(タック性)が良好であり、耐水性や耐薬品性などの各種の物性も優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明については、課題を解決するための手段として、本発明の基本的な構成に沿って前述したが、以下においては、前述した本発明群の発明の実施の形態を具体的に詳しく説明する。
【0018】
1.水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物の原材料
(1)有機ジイソシアネート
有機ジイソシアネート化合物は、ポリウレタン樹脂の原材料としての通常のものが用いられて、特に規定はされない。コーティング被膜の紫外線による黄変を避けるために、芳香族ジイソシアネートよりも脂肪族又は脂環族ジイソシアネートが好ましい。
なお、明細書の煩雑な記載を避け、発明の本質部分を主要な記載として、明細書を簡明にするために、以下における各化合物の例示列記は簡潔なものとしているが、発明の本質には影響がないのは当然である。
【0019】
具体的な化合物としては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートが例示され、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加トリメチルキシリレンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネートが例示される。これらのジイソシアネートは、1種単独又は2種以上の混合で使用される。
更には、これらのカルボジイミド変性体、ビュレット変性体、ウレトジオン変性体、ウレトイミン変性体、イソシアヌレート変性体なども使用できる。
【0020】
芳香族ジイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシレン−1,4−ジイソシアネート、キシレン−1,3−ジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2,2´−ジフェニルプロパン−4,4´−ジイソシアネート、3,3´−ジメチルジフェニルメタン−4,4´−ジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフチレン−1,4−ジイソシアネートなどが例示される。
【0021】
(2)アロファネート変性ジイソシアネート
本発明において使用される、アロファネート変性ジイソシアネート化合物は、本発明の水性のポリウレタン樹脂エマルジョン組成物において、揮発性有機成分の成膜助剤を増加させることなく、また被膜を加熱乾燥することなく、常温での成膜性を高めるための主要な成分材料である。
【0022】
具体的には、脂肪族ジイソシアネートと炭素数1〜6のモノオールから得られるアロファネート変性ジイソシアネートが例示される。特に、M−PEG(末端アルコキシポリエチレングリコール)開始のアロファネート変性ポリイソシアンートが好適に使用されるが、その理由は段落0012の中段に前記したとおりのものである。
ポリイソシアネート(A)においてM−PEGアロファネートは、好ましくは8〜60mol%、より好ましくは10〜50mol%含有されている。後記の実施例における、M−PEGアロファネートの導入量による室温成膜性のデータからして、60mol%を超えると被膜の耐水性が低下し、8mol%未満では成膜性が低下して好ましくない。
【0023】
具体例としては、アロファネート変性ポリイソシアネートは、繰り返し単位中にオキシエチレン基を50モル%以上含有するアルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコールとヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)から得られる。繰り返し単位中のオキシエチレン基が50モル%未満の場合、得られるポリウレタン樹脂の水分散能が不充分となる。また、HDI以外の他の有機ジイソシアネート、例えばトリレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアンートの場合は、環構造を有するため、分子骨格の柔軟性が低く粘度も高いものとなりやすくて、このようなアロファネート変性ポリイソシアネートを製造する際は、有機溶剤が必要になるため、本発明においては好ましくない。アルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコールは、一般的には炭素数1〜10の1個の水酸基を有する化合物を開始剤として、エチレンオキサイドを50モル%以上含有するアルキレンオキサイドを開環付加させることで得られる。
【0024】
アロファネート変性ジイソシアネートの製造方法の具体例は、アルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコールに対して、過剰量のHDIを仕込み(アルコキシポリ(オキシアルキレン)グリコール/HDI=1/5〜1/20(モル比)が好ましい)、ウレタン化反応を行い、次いでカルボン酸の金属塩などのアロファネート化触媒を仕込み、アロファネート化反応を行い、更に、リン酸などの反応停止剤にてアロファネート化反応を停止させ、薄膜蒸留などで未反応のHDIを除去して、目的のアロファネート変性ポリイソシアネートが得られる。
【0025】
(3)高分子ポリオール
本発明において使用される高分子ポリオールとしては、主としてポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオール或いはポリカーボネートポリオール又はポリオレフィンポリオールなどが使用され、それらにはポリウレタン樹脂の原材料としての通常のものが用いられて、特に規定はされない。
数平均分子量が800〜6,000程度のものが好ましく、代表的には、ポリプロピレンエチレンポリオール(PPG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTG)などが例示される。
【0026】
より具体的には、ポリエステルポリオールとしては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、その他の二塩基酸などと、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、或いはグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのポリオール類とからの重縮合反応により得られるポリエステルポリオールが例示される。
さらに、ε−カプロラクトンなどの環状エステル、ジオールの一部をヘキサメチレンジアミンやイソホロンジアミンなどのアミン類に変更したポリエステルアミドポリオールなども使用し得る。
【0027】
ポリエーテルポリオールとしては、上記のジオール類、ポリオール類と、或いはこれらとエチレンジアミン、プロピレンジアミン、トルエンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジフェニルメタンジアミンなどのアミン類と共に、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイド、メチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテルなどのアルキル或いはアリールグリシジルエーテル、テトラヒドロフランなどの環状エーテルなどを付加重合することにより得られるポリエーテルポリオールが例示される。
【0028】
ポリカーボネートポリオールとしては、段落0026に前記したジオール類、ポリオール類と、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどとの反応により得られるポリカーボネートポリオールが例示される。
【0029】
ポリオレフィンポリオールとしては、水酸基を2個以上有する、ポリブタジエンや水素添加ポリブタジエン及びポリイソプレンや水素添加ポリイソプレンなどが例示される。
【0030】
これらの高分子ポリオールの中で、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)は、ポリウレタン樹脂被膜において、低温特性や機械強度に優れ、ポリプロピレングリコール(PPG)は柔軟性や低温特性に富み安価であり、ポリカプロラクトンポリオール(PCL)は可撓性や耐候性及び低温特性に優れ、ポリカーボネートポリオール(PCD)は耐熱性や耐候性及び耐水性や機械強度更に耐加水分解性に富み、ポリエステルポリオール(PES)は付着性や密着性において優れている。したがって、これらの特性を考慮して高分子ポリオールが選択使用される。
【0031】
(4)カルボキシル基含有低分子グリコール
本発明において使用されるカルボキシル基含有低分子グリコールとしては、末端水酸基を二個有す脂肪酸が好適に使用される。
当脂肪酸は末端水酸基を活性水素基として二個有し、例えば両末端の活性水素基がイソシアネート基と反応してプレポリマーの主鎖に組み込まれ、遊離のカルボキシル基が親水性なのでプレポリマーの水分散性を高める作用をなす。
活性水素基を有す脂肪酸化合物としては、末端水酸基を二個有すジメチロールプロピオン酸及びジメチロールブタン酸が例示される。
【0032】
(5)多官能ポリイソシアネート
本発明において、多官能ポリイソシアネートはポリウレタン樹脂の架橋剤として使用される主要な成分であり、イソシアヌレート変性ポリイソシアネートが好ましく例示される。
イソシアヌレート変性ポリイソシアネートの製造方法は、(1)脂肪族ジイソシアネート及び/又は脂環族ジイソシアネートに、イソシアヌレート化触媒を添加してイソシアヌレート化反応を行い、その後未反応の脂肪族ジイソシアネート及び/又は脂環族ジイソシアネートを除去する、(2)脂肪族ジイソシアネート及び/又は脂環族ジイソシアネートと、前述のポリエステルポリオールを得るのに用いられる低分子ポリオールとを、ウレタン化反応させてから、イソシアヌレート化触媒を添加してイソシアヌレート化反応を行い、その後未反応の脂肪族ジイソシアネート及び/又は脂環族ジイソシアネートを除去する、などにより例示される。
【0033】
(6)中和剤
本発明における中和剤としては、主として各種のアルカリが使用され、代表的には第三級アミン、その他に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどが使用される。
好ましくはアミン系中和剤が使用され、アンモニア、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリンなどが例示される。
これらのアミン化合物は、ウレタンプレポリマー主鎖に組み込まれたカルボキシル基含有低分子グリコールのカルボキシル基を中和して、ポリウレタン樹脂の水分散性をより高めるものである。
【0034】
(7)鎖延長剤
本発明においては鎖延長剤としては、通常の鎖延長剤が使用される。主としては水又はアミン類が使用され、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン、N−アミノエチル−N−エタノールアミンなどが例示される。
【0035】
(8)硬化触媒及び硬化剤
ウレタン反応の硬化触媒(重合触媒)としての樹脂化触媒(ウレタン化触媒)は、必要により使用され、ジブチルチンジラウレートやナフテン酸亜鉛のような金属系触媒或いはトリエチレンジアミンやN−メチルモルホリンのようなアミン系触媒などの通常の硬化触媒が用いられ、反応速度を速くし反応温度を低くすることができる。
本発明の水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物においては、ポリウレタン樹脂を硬化させる硬化剤は基本的には使用しなくてもよく、一液型としての被膜剤(塗料)製品とされる。硬化剤は必要により適宜に使用してもよい。その場合には、二液システム(二液型の組成物)の一液として使用され、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)やイソホロンジイソシアネート(IPDI)から由来する、1分子中のNCO基が3個以上のトリマー体やアダクト体が使用される。具体的には、有機ジイソシアネート類のウレタン変性体、ウレア変性体、アロファネート変性体、ビュレット変性体、ウレトジオン変性体、イソシアヌレート変性体などが挙げられる。
【0036】
(9)その他の助剤
より物性を高め、また、各種物性を付加するために、各種の添加剤として汎用されている、成膜剤、粘度調節剤、ゲル化防止剤、難燃剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、充填剤、内部離型剤、補強材、艶消し剤、導電性付与剤、帯電制御剤、帯電防止剤、滑剤、染料、顔料その他の加工助剤を用いることができる。
【0037】
2.水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物の製造方法
本発明における水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物の製造は、アロファネート変性ジイソシアネート(a1)及び有機ジイソシアネート(a2)を併用し含有するポリイソシアネート(A)と高分子ポリオール(B)及び水分散性を高めるためのカルボキシル基含有低分子グリコール(C)によりウレタン化反応を行いウレタンプレポリマー(D)を形成し、次いで架橋のための多官能ポリイソシアネート(E)を混合し、中和剤にてカルボキシル基を中和してカルボン酸塩とした後に、水を混合して乳化分散させ、更に鎖延長剤(F)と反応させ鎖延長することにより行われる。
【0038】
(A)成分と(B)成分の配合比は、乳化や被膜強度の観点から、100/10〜100/100mol%が好ましく、成分(A)における(a1)の使用割合は、段落0022に記載のとおりに、8〜60mol%が好ましい。(C)成分の使用量は、得られるエマルジョンの粒子径又は被膜の耐水性の観点から、0.1〜0.6mmol/gの割合である。
ウレタン化反応においては、触媒として段落0035に前記した通常のウレタン化触媒を使用してもよく、反応温度も通常の0〜100℃程度でよい。
【0039】
3.被覆剤
(1)被覆剤としての特徴
本発明の水性のポリウレタン樹脂エマルジョン組成物は、その特有のポリウレタン樹脂における組成成分の採用により、実施態様である被覆剤としての態様において、特に塗料としての使用において、段落0012及び0016などに前記したとおりに、その特徴と効果を最もよく顕現するものである。
【0040】
(2)被覆剤としての態様
本発明の水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物は、水性ポリウレタン樹脂塗料として、その塗料による塗膜が形成された、金属又は無機物或いはプラスチック又は木材からなる資材において、実施の態様が代表され、これらの資材はその塗膜における外観及び耐水性や耐久性などの優れた各種物性により、産業資材として重要なものといえる。
【実施例】
【0041】
以下においては、本発明における成分材料及びエマルジョンの製法を提示し、各実施例によって、各比較例を対照しながら、本発明をより詳細に具体的に示して、本発明の構成と効果をより明確にし、本発明の構成の各要件の合理性と有意性及び従来技術に対する卓越性を実証する。
【0042】
〔アロファネート変性ポリイソシアネートの合成〕
撹拌機、温度計、冷却器及び窒素ガス導入管を備えた容量が1Lの反応器に、ヘキサメチレンジアミン(HDI)を800g、数平均分子量400のメトキシポリエチレングリコールを200g、オクチル酸ジルコニウムを0.1g仕込み、110℃で6時間反応を行った。次いで、リン酸を0.1g仕込み50℃で1時間停止反応を行った。停止反応後の反応生成物のイソシアネート含量は35.7%であった。この反応生成物を130℃・0.04kPaにて薄膜蒸留を行い、アロファネート変性ポリイソシアネート(ALP−1)を得た。
イソシアネート含量は10.8%、25℃の粘度は200mPa・s、遊離ジイソシアネート含有量は0.1%であった。また、ALP−1をFT−IR及び13C−NMRにて分析したところ、ウレタン基とイソシアヌレート基は殆ど確認されず、アロファネート基の存在が確認された。
【0043】
〔イソシアヌレート変性ポリイソシアネートの製造〕
撹拌機、温度計、窒素シール管、及び冷却器を装着した容量500mlの反応器にヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)300gと、1,3−ブタンジオール(1,3−BD)2.8gとを仕込んだ後、該反応容器内を窒素置換して、撹拌しながら反応温度80℃に加温し、同温度で2時間反応させた。この反応液のイソシアネート含量を測定したところ、48.6%であった。次に触媒としてカプリン酸カリウム0.06g、助触媒としてフェノール0.3gを加え、60℃で6時間イソシアネート化反応を行った。この反応液に停止剤としてリン酸を0.042g加え、反応温度で1時間撹拌後、遊離HDIを120℃・1.3kPaの条件下で薄膜蒸留により除去して、イソシヌレート変性ポリイソシアネート(polyNCO−1)を得た。
淡黄色透明液体、イソシアネート含量21.3%、25℃の粘度2,200mPa・s、遊離HDI含有量0.3%であった。
【0044】
〔ポリウレタン樹脂エマルジョンの製造〕
撹拌機、温度計、窒素シール管、及び冷却器を装着した容量500mlの反応器に、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG−2000)を86.7g、ジメチロールプロピオン酸(DMPA)を5.8g、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMDPG)を25.0g、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を23.0g、ALP−1を26.8g仕込み、85℃に加温し、同温度で4時間反応させた。このプレポリマー溶液のイソシアネート含量は2.6%であった。次いで、polyNCO−1を28.5g仕込み、均一に混合してから、トリエチルアミン(TEA)を4.4g仕込んでカルボキシル基を中和した後、撹拌しながら水を271.5g仕込み、乳化させた。乳化後、30分以内にアミン水(水24.1g、ジエチレントリアミン(DETA)4.3gを配合)を仕込み、アミン鎖延長反応を30℃にて12時間行った。FT−IRによりイソシアネート基の存在が確認されなくなったところで充填して、水性ポリウレタンエマルジョン(サンプル名;EK−008)を得た。
【0045】
〔その他のポリウレタン樹脂エマルジョンの製造〕
各原材料の仕込み組成(配合量;質量)を表1,2に記載のとおりにして、段落0044のポリウレタン樹脂エマルジョンの製造と同様にして、表1,2に掲載された各サンプルのポリウレタン樹脂エマルジョンを製造した。
表3におけるポリウレタン樹脂エマルジョンのサンプルである、EK−002,EK−004,EK−005も、表3の仕込み組成の仕様にて、段落0044のポリウレタン樹脂エマルジョンの製造と同様にして製造した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
表中の記号の内容は次のとおりである。
ALP;アロファネート変性ジイソシアネート DMPA;ジメチロールプロピオン酸 IPDI;イソホロンジイソシアネート ALP−1;段落0042におけるアロファネート変性ポリイソシアネート DMDPG;ジプロピレングリコールジメチルエーテル polyNCO−1;段落0043におけるイソシアヌレート変性ポリイソシアネート TEA;トリエチルアミン DETA;ジエチレントリアミン
【0049】
なお、表1,2における各ポリウレタン樹脂エマルジョンサンプルにおいて、架橋量とアルファネート変性ジイソシアネート(ALP)量の相対関係を図式的に表示すると、次のようになる。表中のALP−1量がALP量を、polyNCO−1量が架橋量を示す。架橋量は高いほうが好ましく、ALP量は段落0061の末尾の記載のように適量とされる。

【0050】
[被覆剤としての試験項目]
(成膜性)
室温(23℃)において、100μmアプリケーターでガラス板に塗布し、24時間後に塗膜の微細ひび割れの有無を目視にて観察した。
(耐水性及び耐水白化性)
成膜性試験で作製した試験体を用い、養生(室温で1日養生し、60℃で1日養生)した後に、室温で水に浸漬し、24時間後に塗膜の溶解や膨潤の有無などの塗膜状態及び白化状態を評価した。
(タック性)
塗布後、24時間後に、指蝕にて表面付着性を観察した。
【0051】
[実施例1〜2及び比較例1〜5]
実施例1〜2及び比較例1〜5として、各被覆剤の性能を調べるために、表3に掲載の仕様にて、ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物による被覆剤を作成した。そして、被覆剤としての試験結果を表4に掲載した。
【0052】
【表3】

【0053】
表中の記号の内容は次のとおりである。
PTG−2000;ポリテトラメチレンエーテルグリコール DMPA;ジメチロールプロピオン酸 IPDI;イソホロンジイソシアネート DMDPG;ジプロピレングリコールジメチルエーテル TEA;トリエチルアミン DETA;ジエチルトリアミン polyNCO−1;イソシアヌレート変性ポリイソシアネート ALP;アロファネート変性ジイソシアネート ALP−1;M−PEG400開始のアロファネート変性ジイソシアネート
【0054】
【表4】

【0055】
[実施例3〜5及び比較例6〜8]
実施例3〜5及び比較例6〜8として、アロファネート変性ジイソシアネート配合量の適量を調べるために、表5に掲載の仕様にて、ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物における、M−PEGよる被覆剤を作成した。そして、被覆剤としての試験結果を表5に掲載した。なお、各サンプルにおいては、プレポリマー減粘のためDMDPGを5%含有し、多官能ポリイソシアネートとして polyNCO−1をプレポリマーの20%導入し,多官能ポリアミンとしてDETAによりNCOの50%を鎖延長している。
【0056】
【表5】

【0057】
表中の記号の内容は次のとおりである。
PTMG;ポリテトラメチレンエーテルグリコール DMPA;ジメチロールプロピオン酸 IPDI;イソホロンジイソシアネート ALP−1;M−PEG400開始のアロファネート変性ジイソシアネート
【0058】
[実施例と比較例の結果の考察]
(参考例) 表3における参考例(サンプル名;EK−001)は、本発明の必須成分である、アロファネート変性ジイソシアネート(a1)及び多官能ポリイソシアネート(E;架橋剤)を共に仕込み配合していないので、表4における試験結果においては、塗膜全面に割れが生じて成膜性が悪く、塗膜が脆くて耐水性も劣っている。
【0059】
(比較例1) 表3における比較例1(サンプル名;EK−002)は、上記の参考例において多官能ポリイソシアネート(E; polyNCO−1)を10%配合するサンプルであるが、本発明の必須成分である、アロファネート変性ジイソシアネート(a1)を仕込み配合していないので、表4における試験結果においては、塗膜全面に大きな割れが生じて成膜性が非常に悪く、塗膜が脆くて耐水性も劣っている。
(比較例2) 表3における比較例2(サンプル名;EK−003)は、上記の参考例においてアロファネート変性ジイソシアネート(a1)を配合するサンプルであるが、本発明の必須成分である、多官能ポリイソシアネート(E; polyNCO−1)を仕込み配合していないので、表4における試験結果においては、成膜性が良好であるとしても、タック性が若干劣り、塗膜が若干膨潤して耐水性が悪くなっている。
(比較例3) 表3における比較例3(サンプル名;EK−004)は、上記の参考例においてアロファネート変性ジイソシアネート(a1)を配合するサンプルであり、比較例2に対して倍量配合しているが、本発明の必須成分である、多官能ポリイソシアネート(E;polyNCO−1)を仕込み配合していないので、表4における試験結果においては、成膜性が良好であるとしても、タック性が劣り、塗膜が極端に膨潤して耐水性が非常に悪くなっている。
(比較例4) 表3における比較例4(サンプル名;EK−005)は、上記の参考例においてアロファネート変性ジイソシアネート(a1)を配合するサンプルであるが、本発明の必須成分である、有機ジイソシアネート(a2)及び多官能ポリイソシアネート(E;polyNCO−1)を仕込み配合していないので、表4における試験結果においては、成膜性が良好であるとしても、タック性が劣り、塗膜が溶解して耐水性が非常に悪くなっている。
(比較例5) 表3における比較例5(サンプル名;EK−006)は、上記の参考例においてアロファネート変性ジイソシアネート(a1)を配合するサンプルであるが、本発明の必須成分である、有機ジイソシアネート(a2)及び多官能ポリイソシアネート(E;polyNCO−1)、更にカルボキシル基含有低分子グリコール(C)を仕込み配合していないので、水性ポリウレタン樹脂エマルジョンを合成できない結果になっている。
【0060】
(実施例1) 表3における実施例1(サンプル名;EK−007)は、上記の比較例2において本発明の必須成分である、多官能ポリイソシアネート(E;polyNCO−1)をも仕込み配合しているので、表4における試験結果においては、成膜性が良好である。なお、タック性と耐水性が少し不足しているが、架橋剤(polyNCO−1)の仕込み量が多少不足しているためである。
(実施例2) 表3における実施例2(サンプル名;EK−008)は、上記の比較例2において本発明の必須成分である、多官能ポリイソシアネート(E;polyNCO−1)をも仕込み配合しているので、表4における試験結果においては、成膜性とタック性及び耐水白化性が押しなべて良好である。
【0061】
(実施例3〜5及び比較例6〜8) 表5における実施例3〜5及び比較例6〜8の各データは、M−PEGアロファネート仕込量の量変化による室温成膜性の差異を示すものである。
比較例6(サンプル名;上限)では、ポリイソシアネート(A)中のM−PEGアロファネートのmol比率が高すぎるので、成膜性が良好であるとしても、耐水性が悪くなっている。
比較例7(サンプル名;EK−011)では、ポリイソシアネート(A)中のM−PEGアロファネートのmol比率が不足するので、成膜性と耐水性が共に悪くなっている。
比較例8(サンプル名;ALPなし)では、M−PEGアロファネートが仕込み配合されていないので、成膜性と耐水性が共に非常に悪くなっている。
実施例3〜5(サンプル名;EK−010,EK−008,EK−009)では、ポリイソシアネート(A)中のM−PEGアロファネートのmol比率が適量なので、成膜性と耐水性が共に良好である。
よって、M−PEGアロファネートの導入量(ALP量)による室温成膜性のデータからして、60mol%を超えると被膜の耐水性が低下し、8mol%未満では成膜性と耐水性が低下するといえる。
【0062】
上記のデータからして、本発明においては、アロファネート変性ジイソシアネートを併用することにより、常温の成膜性が向上し、アロファネート変性ジイソシアネートの仕込み配合量を適量にして架橋剤をも用いることにより、耐水白化性を低下させずに常温の成膜性を向上させ得ることが明らかにされている。
【0063】
以上の各データ結果と考察によって、本発明の構成要件の合理性と有意性が実証され、本発明が従来技術に比べて顕著な卓越性を有していることが明確にされているといえる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
アロファネート変性ジイソシアネート(a1)及び有機ジイソシアネート(a2)を含有するポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)を反応させて得られるウレタンプレポリマー(D)と、多官能ポリイソシアネート(E)を混合し、中和処理後に水と混合して乳化分散させた後に、鎖延長剤(F)と反応させたポリウレタン樹脂を主剤とすることを特徴とする、水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物。
【請求項2】
アロファネート変性ジイソシアネート(a1)が脂肪族ジイソシアネート化合物をアロファネート変性したM−PEGアロファネートであり、有機ジイソシアネート(a2)が脂肪族又は脂環族ジイソシアネートであり、高分子ポリオール(B)が数平均分子量800〜6,000のポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオール或いはポリカーボネートポリオール又はポリオレフィンポリオールであり、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)がジメチロール脂肪酸であり、多官能ポリイソシアネート(E)がイソシアヌレート変性ポリイソシアネートであり、中和処理が第三級アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの中和剤によりなされ、鎖延長剤(F)が水又はアミン化合物であり、エマルジョン組成物がコーティング用組成物であることを特徴とする、請求項1に記載された水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物。
【請求項3】
ポリイソシアネート(A)においてM−PEGアロファネートが8〜60mol%含有されていることを特徴とする、請求項2に記載された水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載された水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物が着色剤などの添加剤を含有することを特徴とする水性ポリウレタン樹脂塗料。
【請求項5】
請求項4に記載された水性ポリウレタン樹脂塗料による塗膜が形成されたことを特徴とする、金属又は無機物或いはプラスチック又は木材からなる資材。
【請求項6】
アロファネート変性ジイソシアネート(a1)及び有機ジイソシアネート(a2)を含有するポリイソシアネート(A)、高分子ポリオール(B)、カルボキシル基含有低分子グリコール(C)によりウレタン化反応を行いウレタンプレポリマー(D)を形成し、次いで多官能ポリイソシアネート(E)を混合し、中和剤にてカルボキシル基を中和してカルボン酸塩とした後に、水を混合して乳化分散させ、更に鎖延長剤(F)と反応させることを特徴とする、ポリウレタン樹脂を主剤とする水性ポリウレタン樹脂エマルジョン組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−156488(P2008−156488A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347399(P2006−347399)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【出願人】(000116301)亜細亜工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】