説明

水性ポリエステル樹脂、皮膜形成用樹脂組成物、ポリエステルフィルム及び繊維

【課題】ポリエステル樹脂の水性化によって塗布性が向上されると共に溶剤に起因する作業環境、環境保全の問題を解消することができ、また繊維やPETフィルム等の基材に対する加工に用いられる場合でもこれらの基材を侵すことがなく、しかも優れた耐燃焼性を備える水性ポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】本発明に係る水性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸成分、グリコール成分、水溶性付与成分が、層状珪酸塩の存在下で反応して縮合又は重縮合する工程を経て製造される。この水性ポリエステル樹脂は、水溶性付与成分によって水系溶媒に分散又は溶解可能であるという性質が付与される。しかも層状珪酸塩とナノコンポジット化することで難燃性が付与される。更に層状珪酸塩とのナノコンポジット化により、燃焼したとしても形状が崩れにくくなって高温の液滴の飛散が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系溶媒に分散又は溶解可能であり、且つ燃焼時の高温の液滴の飛散が抑制された水性ポリエステル樹脂、この水性ポリエステル樹脂を含有する皮膜形成用樹脂組成物、並びにこの皮膜形成用樹脂組成物にて加工処理が施されたポリエステルフィルム及び繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、周知のごとくその優れた機械的性質および化学的特性のため、衣料用、産業用等の繊維のほか磁気テープ、フレキシブルディスク等の磁気記録材料用基材として、或いは写真用、電気絶縁用、ケーブルラッピング用、コンデンサー用、蒸着用、粘着テープ用、プリンターリボン用及び磁気カード用基材として、また、FRP等の離型用、包装用及び農業用等の各種産業用途にも幅広く用いられている。
【0003】
近年、火災防止の観点から合成繊維や各種プラスチック製品の耐燃焼性の向上への要請が強まっているが、従来のポリエステル樹脂は耐燃焼性の面では不充分であった。このため、ポリエステル製造時にハロゲン系有機化合物やアンチモン化合物等に代表される難燃剤を添加する等によって難燃化が図られてきた。
【0004】
しかしながら、これらの難燃化剤は接炎時に有毒なガスを発生するという問題点があり、このため、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水和金属化合物を添加することが提案されたが、充分な難燃性を得るには多量に添加する必要があり、ポリエステル樹脂本来の優れた特性が失われてしまうものであった。
【0005】
そこで、これらの問題を解決するために、ポリエステル製造時に難燃剤として特定のリン化合物を添加又は共重合する方法が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0006】
しかしながら、これらのリン含有ポリエステル樹脂は、トルエン、キシレン等の汎用有機溶剤に難溶なものが多く、これらの汎用有機溶剤をもちいた繊維やPETフィルム等の加工処理用リン含有ポリエステル樹脂の溶液、分散液を得るためには、重合度を極めて低いものとしなければならず、ポリエステル樹脂本来の特性を維持しにくいものであった。このため、このようなリン含有ポリエステル樹脂の重合度を高く保ってポリエステル樹脂の本来の特性を維持しつつ、繊維やPETフィルム等の基材加工処理用樹脂として塗布により施そうとする場合には、ジオキサン、DMF、HFIP、OCP等の溶解性が高い有機溶剤を使用しなければならず、これらの溶剤は溶解性が高いものの、作業環境、環境保全の見地から問題があった。
【0007】
また有機溶剤を用いた場合には加工基材である繊維やPETフィルム等自体を侵すという問題もあったが、リン含有ポリエステル樹脂は水への分散性や溶解性を有さず、溶剤として水系の溶剤を用いることもできなかった。
【0008】
そこで、本出願人は、これらの問題を解決するため、ポリエステルの合成の際に反応系中に水溶性付与成分と反応性リン含有化合物とを含有させることを提案している(特許文献4参照)。これにより、ポリエステル樹脂本来の有する優れた性質を保持しつつ、難燃性が付与され、且つ水性系により加工処理が可能となった水性ポリエステル樹脂が得られる。
【特許文献1】特開平6−16796号公報
【特許文献2】特開2001−139784号公報
【特許文献3】特開2001−163962号公報
【特許文献4】特開2004−67910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のようにポリエステル樹脂の難燃化が進められているが、本発明者らは、ポリエステル樹脂の水性化を達成しつつ、火災防止等のため、難燃性の付与だけでなく、更なる特性をポリエステル樹脂に付与すべく、ポリエステル樹脂の改良をすすめてきた。そして、本発明者らは、ポリエステル樹脂が燃焼した場合でも燃焼後のポリエステル樹脂から高温の液滴が飛散することに着目し、このような液滴の飛散を防止することができれば、仮にポリエステル樹脂が燃焼した場合でも、被害の拡大を抑制することができるとの着想を得た。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、ポリエステル樹脂の水性化によって塗布性が向上されると共に溶剤に起因する作業環境、環境保全の問題を解消することができ、また繊維やPETフィルム等の基材に対する加工に用いられる場合でもこれらの基材を侵すことがなく、しかも仮に燃焼した場合でも高温の液滴の飛散が抑制された水性ポリエステル樹脂、この水性ポリエステル樹脂を含有する皮膜形成用樹脂組成物、並びにこの皮膜形成用樹脂組成物にて加工処理が施されたポリエステルフィルム及び繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る水性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸成分、グリコール成分及び水溶性付与成分が、層状珪酸塩の存在下で反応して縮合又は重縮合する工程を経て製造されたものであることを特徴とする。このため、この水性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂本来の有する優れた性質が保持されたまま、水溶性付与成分によって水系溶媒に分散又は溶解可能であるという性質が付与される。しかも層状珪酸塩とナノコンポジット化することで難燃性が向上し、また燃焼したとしても形状が崩れにくくなって高温の液滴の飛散が抑制される。
【0012】
尚、水溶性付与成分は多価カルボン酸成分とグリコール成分のうちいずれかにも該当することがある。
【0013】
上記水溶性付与成分の使用量は、前記多価カルボン酸成分と水溶性付与成分の使用量の合計量に対して1〜60モル%の範囲であることが好ましい。この場合、水性ポリエステル樹脂に十分な水分散性若しくは水溶性が付与され、且つ良好な樹脂強度が維持される。
【0014】
また、上記層状珪酸塩の使用量は、ポリエステル樹脂に対して0.1〜15質量%の範囲であることが好ましい。この場合、層状珪酸塩を含む水性ポリエステル樹脂の水分散液の安定性が向上し、またこの水性ポリエステル樹脂から形成される皮膜に優れた強度や透明性が付与される。
【0015】
また、上記層状珪酸塩は、天然品及び合成品から選択される一種以上のものであることが好ましい。この場合、層状珪酸塩とポリエステル樹脂とが有効にハイブリッド化した水性ポリエステル樹脂が得られる。
【0016】
また、上記層状珪酸塩は有機層状珪酸塩であっても良い。この場合、層状珪酸塩とポリエステル樹脂との相溶性が向上し、両者のハイブリッド化が促進される。尚、この場合は有機層状珪酸塩に適した分散溶媒が用いられることが望ましい。
【0017】
また、上記水溶性付与成分は、金属スルホネート基を有するジカルボン酸、三塩基酸、四塩基酸、或いはこれらのエステル形成性誘導体から選択される一種以上を含むことが好ましい。この場合、水性ポリエステル樹脂中に金属スルホネート基が有効に残存し、水性ポリエステル樹脂に優れた親水性が付与される。
【0018】
また、上記金属スルホネート基を有するジカルボン酸は、5−ソジウムスルホイソフタル酸及びそのエステル形成性誘導体から選択される一種以上であり、この5−ソジウムスルホイソフタル酸及びそのエステル形成性誘導体の使用量の総量が、上記多価カルボン酸成分全量に対して1〜60モル%の範囲であることが好ましい。この場合、水性ポリエステル樹脂中にスルホン酸ナトリウム基が有効に残存することで、水性ポリエステル樹脂に特に優れた親水性が付与され、層状珪酸塩とハイブリッド化した水性ポリエステル樹脂に特に優れた水分散性若しくは水溶性が付与される。
【0019】
また、水溶性付与成分である三塩基酸、四塩基酸及びこれらのエステル形成性誘導体の使用量の総量は、上記多価カルボン酸成分全量に対して1〜60モル%の範囲であることが好ましい。この場合、水性ポリエステル樹脂中にカルボキシル基が有効に残存することで、水性ポリエステル樹脂に特に優れた親水性が付与され、層状珪酸塩とハイブリッド化した水性ポリエステル樹脂に特に優れた水分散性若しくは水溶性が付与される。
【0020】
また、水溶性付与成分である三塩基酸として、トリメリット酸及びそのエステル形成性誘導体から選択される少なくとも一種が使用されることが好ましい。この場合、水性ポリエステル樹脂中にカルボキシル基を有効に残存し、水性ポリエステル樹脂に更に優れた親水性が付与される。
【0021】
本発明に係る皮膜形成用樹脂組成物は、上記のような水性ポリエステル樹脂を含有することを特徴とする。このため、この皮膜形成用樹脂組成物は、ポリエステル樹脂本来の有する優れた性質が保持されたまま、組成物中の水性ポリエステル樹脂に水溶性付与成分によって水系溶媒に分散又は溶解可能であるという性質が付与される。しかもこの水性ポリエステル樹脂は層状珪酸塩とナノコンポジット化していることで、難燃性が向上するだけでなく、燃焼時にその形状が崩れにくくなり、高温の液滴が飛散することが抑制される。
【0022】
この皮膜形成用樹脂組成物は、ポリエステルフィルム表面加工用であることが好ましい。この場合、この皮膜形成用樹脂組成物によって表面加工が施されたポリエステルフィルムの表面に難燃性が付与され、また燃焼時における高温の液滴の飛散が抑制される。
【0023】
また、この皮膜形成用樹脂組成物は、繊維加工用であることも好ましい。この場合、この皮膜形成用樹脂組成物による加工が施された繊維の難燃性が向上するだけでなく、燃焼時にその形状が崩れにくくなり、高温の液滴が飛散することが抑制される。
【0024】
本発明に係るポリエステルフィルムは、上記皮膜形成用樹脂組成物による表面処理が施されていることを特徴とする。このため、このポリエステルフィルムは難燃性が向上するだけでなく、燃焼時にその形状が崩れにくくなり、高温の液滴が飛散することが抑制される。
【0025】
本発明に係る繊維は、上記皮膜形成用樹脂組成物による加工処理が施されていることを特徴とする。このため、この繊維は難燃性が向上するだけでなく、燃焼時にその形状が崩れにくくなり、高温の液滴が飛散することが抑制される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、水性ポリエステル樹脂に、ポリエステル樹脂が本来有する優れた性質に加えて、水系溶媒に分散又は溶解可能であるという性質が付与され、この水性ポリエステル樹脂、並びにこの水性ポリエステル樹脂を含有する皮膜形成用樹脂組成物は、水系の組成物の状態での塗布が可能となり、労働安全性、環境保全性及び基材の加工の容易性等の観点から優れている。しかも水性ポリエステル樹脂の難燃性が向上し、且つ燃焼したとしてもその形状が崩れにくくなって高温の液滴が飛散することが抑制され、耐燃焼性が高くなる。また、この水性ポリエステル樹脂を含有する皮膜形成用樹脂組成物による加工が施されたポリエステルフィルム及び繊維には、優れた耐燃焼性が付与される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0028】
本発明に係る水性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸成分、グリコール成分、水溶性付与成分を、層状珪酸塩の存在下で反応させて縮合又は重縮合させる工程を経て得られる。
【0029】
尚、このように水性ポリエステル樹脂の原料を、多価カルボン酸成分、グリコール成分、水溶性付与成分と分類した場合における、多価カルボン酸成分及びグリコール成分には、水溶性付与成分に該当するものも含まれる。
【0030】
上記の多価カルボン酸成分は、二価以上の多価カルボン酸と、この多価カルボン酸の無水物、エステル、酸クロライド、ハロゲン化物等の誘導体であって後述するグリコール成分と反応してエステルを形成するもの(多価カルボン酸のエステル形成性誘導体)から選択される1種以上の化合物から成る。
【0031】
この前記多価カルボンとしては、例えば芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸等のジカルボン酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ジフェン酸、ナフタル酸、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸等を挙げることができ、脂肪族ジカルボン酸としては例えば直鎖、分岐及び脂環式のシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタール酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジグリコール酸、チオジプロピオン酸等が挙げられる。
【0032】
これらの多価カルボン酸及びそのエステル形成性誘導体は一種単独で使用され、或いは複数種が併用される。これらの多価カルボン酸及びそのエステル形成性誘導体のうち、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、並びにコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸類が、反応の容易性、得られる樹脂の耐候性、耐久性等の点から好適に使用される。特に水溶性付与成分に該当しない多価カルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸類のみが用いられるか、或いは芳香族ジカルボン酸類が多価カルボン酸成分の主成分であることが最適である。
【0033】
上記グリコール成分には、グリコールのほか、グリコールに対応するジアセテート化合物等のようなグリコールの誘導体であって前記多価カルボン酸成分と反応してエステルを形成するもの(グリコールのエステル形成性誘導体)も含まれ得る。
【0034】
このグリコールとしては、例えばエチレングリコール及びジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ヘプタエチレングリコール、オクタエチレングリコール等のポリエチレングリコール、並びにプロピレングリコール及びジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール等のポリプロピレングリコール、並びに1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−イソブチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、4,4’−ジヒドロキシビフェノール、4,4’−メチレンジフェノール、4,4’−イソプロピリデンジフェノール、1,5−ジヒドロキシナフタリン、2,5−ジヒドロキシナフタリン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビスフェノールS等が挙げられる。
【0035】
これらのグリコール及びそのエステル形成性誘導体は一種単独で使用され、或いは複数種が併用される。これらのグリコール及びそのエステル形成性誘導体のうち、特にエチレングリコール、ジエチレングリコール、並びに1,4−ブタンジオール等のブタンジオール類、並びに1,6−ヘキサンジオール等のヘキサンジオール類、並びに1,4−シクロヘキサンジメタノール類、ネオペンチルグリコール及びビスフェノールA等が、反応の容易性、得られる樹脂の耐久性等の点から好適に使用される。
【0036】
上記水溶性付与成分は、水性ポリエステル樹脂の原料中の多価カルボン酸、グリコール及びこれらのエステル形成性誘導体のうち少なくともいずれかと反応して、水性ポリエステル樹脂の骨格構造の一部を構成する。またこのとき水性ポリエステル樹脂の骨格中に水溶性付与成分に起因するイオン性の極性基を導入するなどして、水性ポリエステル樹脂に親水性を付与し、水性ポリエステル樹脂を水系溶媒に分散又は溶解可能なものとするものである。
【0037】
このような水溶性付与成分としては、例えば金属スルホネート基を有するジカルボン酸、三塩基酸無水物や四塩基酸無水物等の三価以上の多価カルボン酸、並びにこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。
【0038】
この水溶性付与成分のうち、金属スルホネート基を有するジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体(以下、総称して金属スルホネート基を有するジカルボン酸等という)としては、例えば5−スルホイソフタル酸、2−スルホイソフタル酸、4−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホナフタレン−2,6−ジカルボン酸等のアルカリ金属塩並びにこれらのエステル、酸クロライド、ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体が挙げられる。水性ポリエステル樹脂に良好な水分散性又は水溶性が付与されるためには、前記アルカリ金属がナトリウム、カリウム又はリチウムであることが好ましい。
【0039】
金属スルホネート基を有するジカルボン酸等が水溶性付与成分として用いられると、水性ポリエステル樹脂中に金属スルホネート基が有効に残存し、優れた親水性が付与される。特に水溶性付与成分として5−ソジウムスルホイソフタル酸又はそのエステル(例えば5−スルホン酸ナトリウムジメチルイソフタル酸)が用いられると、水性ポリエステル樹脂中にスルホン酸ナトリウム基が有効に残存し、優れた親水性が付与される。
【0040】
また、水溶性付与成分として三価以上の多価カルボン酸及びそのエステル形成性誘導体(以下、総称して三価以上の多価カルボン酸等という)が用いられる場合、縮合反応又は重縮合反応による水性ポリエステル樹脂の調製時に、前記三価以上の多価カルボン酸等に起因するカルボキシル基が骨格中に残存する状態で反応を終了させた後、この残存カルボキシル基が、例えばアンモニア、アルカノールアミン、アルカリ金属化合物等の塩基性化合物で中和されることで、水性ポリエステル樹脂が水系溶媒に分散又は溶解可能となる。
【0041】
上記三価以上の多価カルボン酸等としては、例えばヘミメリット酸、トリメリット酸、トリメジン酸、メロファン酸、ピロメリット酸、ベンゼンペンタカルボン酸、メリット酸、シクロプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、エタンテトラカルボン酸等の多価カルボン酸、並びにこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも特に無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸並びにこれらのエステル形成性誘導体が使用されると、水性ポリエステル樹脂の三次元架橋が充分に抑制されて重縮合反応後のカルボキシル基が有効に残存する点で、好ましい。
【0042】
このような三価以上の多価カルボン酸等、特に三塩基酸無水物、四塩基酸無水物及びそのエステル形成性誘導体のうち少なくとも一種が、水溶性付与成分として用いられると、水性ポリエステル樹脂中に、カルボキシル基が有効に残存し、優れた親水性が付与される。
【0043】
水溶性付与成分としては、上記の三価以上の多価カルボン酸等、金属スルホネート基を有するジカルボン酸等のうち、一種のみが用いられても良く、或いは二種以上が併用されても良い。
【0044】
金属スルホネート基を有するジカルボン酸等や三価以上の多価カルボン酸等のような多価カルボン酸成分に該当する水溶性付与成分が用いられる場合、水溶性付与成分の使用量は、多価カルボン酸成分全量に対して1〜60モル%の範囲であること好ましい。この場合、水性ポリエステル樹脂に特に優れた親水性が付与され、層状珪酸塩とハイブリッド化した水性ポリエステル樹脂に優れた水分散性若しくは水溶性が付与されると共に、良好な樹脂強度が維持される。また前記使用量が特に2〜40モル%の範囲であれば、水性ポリエステル樹脂を含有する皮膜形成性組成物から形成される皮膜に特に高い難燃性、耐久性等が付与される。
【0045】
また、水溶性付与成分として金属スルホネート基を有するジカルボン酸等が用いられる場合、金属スルホネート基を有するジカルボン酸等の使用量は多価カルボン酸成分全量に対して1〜60モル%の範囲であることが好ましい。この場合、水性ポリエステル樹脂は引張破壊強さ等の特に良好な樹脂強度を有すると共に、皮膜形成性組成物に用いられる場合には特に良好な耐水性、耐久性を有することとなる。
【0046】
また特に金属スルホネート基を有するジカルボン酸として5−ソジウムスルホイソフタル酸及びそのエステル形成性誘導体から選択される一種以上が使用される場合には、この5−ソジウムスルホイソフタル酸及びそのエステル形成性誘導体の使用量の総量が、多価カルボン酸成分全量に対して1〜60モル%の範囲であると、水性ポリエステル樹脂中にスルホン酸ナトリウム基が充分に残存し、層状珪酸塩とハイブリッド化した水性ポリエステル樹脂に優れた水分散性若しくは水溶性が付与される。この5−ソジウムスルホイソフタル酸及びそのエステル形成性誘導体の使用量の総量が1〜30モル%の範囲であると、特に優れた効果が得られる。
【0047】
また水溶性付与成分として三価以上の多価カルボン酸等が用いられる場合、三価以上の多価カルボン酸等の使用量は、多価カルボン酸成分全量に対して1〜60モル%の範囲であることが好ましい。この場合、不必要な架橋反応が排除されるような重合条件下で水性ポリエステル樹脂が製造される場合において、充分な重合度と水分散性若しくは水溶性とを有する水性ポリエステル樹脂が得られる。また水溶性付与成分として三価以上の多価カルボン酸等のみが使用される場合は、三価以上の多価カルボン酸等の使用量は、多価カルボン酸成分全量に対して5〜40モル%の範囲であることが好ましい。
【0048】
また、特に三価以上の多価カルボン酸等として三塩基酸、四塩基酸及びこれらのエステル形成性誘導体から選択されるものが用いられる場合は、この三塩基酸、四塩基酸及びこれらのエステル形成性誘導体の使用量の総量が、多価カルボン酸成分全量に対して1〜60モル%の範囲であると、水性ポリエステル樹脂中にカルボキシル基が充分に残存し、層状珪酸塩とハイブリッド化した水性ポリエステル樹脂に優れた水分散性若しくは水溶性が付与される。この三塩基酸、四塩基酸及びこれらのエステル形成性誘導体の使用量の総量が1〜30モル%の範囲であると、特に優れた効果が得られる。
【0049】
尚、本明細書における水系溶媒とは、水単独のほか、水と親水性溶媒との混合溶媒を含む。親水性溶媒としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルセロソルブ及びブチルセロソルブ等のグリコールエーテル等、シクロヘキサノン等が例示される。上記の水と親水性溶媒との混合溶媒において、水と親水性溶媒の比率は特に限定されないが、ポリエステル樹脂液の安定性及び作業性環境の安全性等を考慮すれば、混合溶媒中に0.1〜50重量%の親水性溶媒が含まれることが好ましい。
【0050】
なお、本発明の水性ポリエステル樹脂において、三価以上の多価カルボン酸等が水溶性付与成分として用いられる場合、既述のように例えばアンモニア、アルカノールアミン等の塩基性化合物で中和されることにより水性ポリエステル樹脂が水系溶媒に分散又は溶解可能なものとなるが、このような手段が用いられる場合であっても、上記と同様である。
【0051】
また、上記多価カルボン酸成分、グリコール成分及び水溶性付与成分の配合量は、各成分に含まれるカルボキシル基及びそのエステル形成性誘導基の総数と、ヒドロキシル基及びそのエステル形成性誘導基の総数とが、モル比率で1:1〜2.5の範囲となるように調整されることが好ましい。尚、この場合、水溶性付与成分である三価以上の多価カルボン酸等はジカルボン酸とみなして配合量が算出される。
【0052】
また、水性ポリエステル樹脂の調製時には、分子量を調整するために、適宜の量の公知の多官能性化合物、例えば、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジメチロールブタン酸、3官能性カルボン酸などが使用されることも好ましい。
【0053】
また、上記以外の反応成分として、例えばp−ヒドロキシ安息香酸、1価の脂肪族アルコール等が併せて用いられることも可能である。
【0054】
また、層状珪酸塩は、本発明に係る水性ポリエステル樹脂をナノコンポジット化するために使用される。この層状珪酸塩としては、特に膨潤性やイオン交換能を有する各種スメクタイト、膨潤性フッ素マイカ、膨潤性雲母等が用いられる。この層状珪酸塩は、天然品、合成品のいずれであっても良い。また層状珪酸塩は一種単独で用いられても良く、また複数種が併用されても良い。
【0055】
また、この層状珪酸塩は、結晶層間に存在する陽イオンが、第4級アンモニウムイオン等の有機イオンとイオン交換されている有機層状珪酸塩であっても良い。有機層状珪酸塩が用いられる場合には、この有機層状珪酸塩に適した分散溶媒が使用されることが望ましい。
【0056】
水性ポリエステル樹脂が調製される際の層状珪酸塩の使用量は適宜設定されるが、特にこの使用量が、生成する水性ポリエステル樹脂全量に対して0.1〜15質量%の範囲であることが好ましい。この場合、水性ポリエステル樹脂の難燃性の向上や燃焼時の高温の液滴の飛散抑制等の効果に加えて、層状珪酸塩を含む水性ポリエステル樹脂の水分散液の安定性が向上すると共に水性ポリエステル樹脂から形成される皮膜強度や透明性が向上する。
【0057】
また、層状珪酸塩の粒径等の寸法は特に制限されないが、好ましくは粒径が1μm以下、更に好ましくは100nm以下となるようにする。
【0058】
本発明の水性ポリエステル樹脂は、公知のポリエステル製造方法により多価カルボン酸成分、グリコール成分及び水溶性付与成分を重合又は縮重合させて生成される。例えば多価カルボン酸成分が多価カルボン酸であり、且つグリコール成分がグリコールである場合に、この多価カルボン酸とグリコールとを一段階の反応で反応させる直接エステル化反応が採用される。
【0059】
また、例えば多価カルボン酸成分が多価カルボン酸のエステル形成性誘導体であり、グリコール成分がグリコールである場合に、多価カルボン酸のエステル形成性誘導体とグリコールとのエステル交換反応である第一段反応と、前記第一段反応による反応生成物が重縮合する第二段反応とを経て、水性ポリエステル樹脂が製造されても良い。例えば、多価カルボン酸成分としてテレフタル酸ジメチル(DMT)が、グリコール成分としてエチレングリコール(EG)が用いられる場合、DMTとEGとのエステル交換反応(第一段反応)によりビスヒドロキシエチレンテレフタレート(BHET)が生成し、このBHETの重縮合(第二段反応)により、ポリエチレンテレフタレートが生成する。なお、この場合、多価カルボン酸成分及びグリコール成分以外の成分は、上記第一段反応の当初から第二段反応終了に至るまでの任意の時期に添加され、反応に供される。
【0060】
上記第一段反応と第二段反応とを経る水性ポリエステル樹脂の製造方法について、更に具体的に説明する。第一段反応であるエステル交換反応においては、反応系中に水性ポリエステル樹脂の製造に供される全ての原料が最初から含有されていて良い。このエステル交換反応は、例えばジカルボン酸ジエステルとグリコール化合物とが反応容器に保持された状態で、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、常圧条件下で、150〜260℃まで徐々に昇温加熱してエステル交換反応を進行させる。
【0061】
第二段反応である重縮合反応は、例えば6.7hPa(5mmHg)以下の減圧下、160〜280℃の温度範囲内で進行させる。
【0062】
この第一段反応及び第二段反応において、任意の時期に反応系中に触媒として、従来公知のチタン、アンチモン、鉛、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、マンガン、アルカリ金属化合物等が添加されても良い。
【0063】
上記のようにして水性ポリエステル樹脂が製造される過程において、多価カルボン酸成分、グリコール成分及び水溶性付与成分の縮合又は重縮合は、層状珪酸塩の存在下で進行させる。例えば水性ポリエステル樹脂が一段階の反応(直接エステル化反応)で生成される場合には、多価カルボン酸成分、グリコール成分及び水溶性付与成分を含む反応系中に層状珪酸塩を含有させ、この状態で多価カルボン酸成分、グリコール成分及び水溶性付与成分の縮合又は重縮合を進行させる。また、水性ポリエステル樹脂が上記第一段反応と第二段反応の二段階の反応で生成する場合には、第一段反応の前や後など任意のタイミングで反応系中に層状珪酸塩を加え、この状態で第二段反応を進行させる。
【0064】
反応系への層状珪酸塩の添加は適宜の手法で行われる。例えば、まず水分散性ベントナイト等の水分散性の層状珪酸塩を水に分散させて、水分散液を調製する。このとき層状珪酸塩の粒子が膨潤し、結晶内の層間距離が大きくなる。この水分散液を反応系中に滴下するなどして、層状珪酸塩を反応系に添加する。また、有機層状珪酸塩が使用される場合には、有機層状珪酸塩を適宜の有機溶剤に分散させた分散液を調製する。この場合も有機層状珪酸塩の粒子が膨潤し、結晶の層間距離が大きくなる。この分散液を反応系中に滴下するなどして、有機層状珪酸塩を反応系に添加する。
【0065】
このようにして多価カルボン酸成分、グリコール成分及び水溶性付与成分の縮合又は重縮合が、層状珪酸塩の存在下で進行すると、層状珪酸塩が単層剥離して分散した剥離型ナノコンポジットが形成され、或いはポリエステル樹脂の分子鎖が層状珪酸塩の層間に挿入した挿入型ナノコンポジットが形成される。
【0066】
このようにして層状珪酸塩とナノコンポジット化した水性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂本来の有する優れた性質が保持されたまま、水系溶媒に分散又は溶解可能であるという性質が付与される。また、この水性ポリエステル樹脂には難燃性が付与され、更に仮に燃焼したとしても高温の液滴が飛散しにくいという特性が付与される。
【0067】
本発明に係る水性ポリエステル樹脂は各種用途に用いられる。特に、この水性ポリエステル樹脂は上述した如く、耐久性等に優れかつ水系溶媒に分散又は溶解可能であるという特徴を具備することから、この水性ポリエステル樹脂は、皮膜形成用樹脂組成物の調製に好適に使用される。なお、水性ポリエステル樹脂が皮膜形成用樹脂組成物の調製に使用される場合、前記水性ポリエステル樹脂の数平均分子量は5000〜50000の範囲であることが好ましい。このように数平均分子量が5000以上であれば、水性ポリエステル樹脂の耐久性及び耐水性が特に優れたものとなり、また、耐加水分解性の向上にも充分な効果を発揮する。またこの数平均分子量が50000以下であることで、皮膜形成用樹脂組成物中で水性ポリエステル樹脂が水系溶媒に分散又は溶解された場合に、優れた溶液安定性が維持される。
【0068】
また水性ポリエステル樹脂が皮膜形成用樹脂組成物の調製に使用される場合、この水性ポリエステル樹脂の固有粘度は0.05〜1.0の範囲が好ましい。この場合、皮膜形成用樹脂組成物に優れた難燃性、耐久性及び耐水性が付与されると共に、分散液もしくは溶液の長期保存安定性が向上する。すなわち、固有粘度が0.05以上であることで皮膜形成用樹脂組成物から特に優れた強度のフィルムが形成されると共に、固有粘度が1.0以下であることで分散液もしくは溶液の長期保存安定性を特に優れたものとなる。また、特に前記固有粘度が0.12〜0.9の範囲で、特に優れた効果が得られる。また更に前記固有粘度が0.2〜0.9の範囲で、最適な効果が得られる。
【0069】
本発明に係る皮膜形成用樹脂組成物は、上記水性ポリエステル樹脂を含有するため、水系の組成物の状態での塗布が可能であり、この皮膜形成用樹脂組成物の使用により基材の加工処理が行われる際の労働安全性及び環境保全性が優れている。なお、この皮膜形成用樹脂組成物には、必要に応じ、例えば浸透剤、難燃剤、静電気防止剤、顔料、染料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、分散助剤等の添加剤が含有されても良い。
【0070】
本発明に係る皮膜形成用樹脂組成物が繊維製品の処理に対して使用される場合の処理方法としては、例えばこの皮膜形成用樹脂組成物を織物、編物、不織布、敷物、ウエブ等に浸漬法、パディング法、コーティング法等により塗布する方法、経糸糊付け方法と同様にサイジング機によって水性ポリエステル樹脂を糸条に塗布する方法、前記処理された糸条を製織に供する方法等が挙げられる。
【0071】
また、この皮膜形成用樹脂組成物がPETフィルムのポリエステルフィルムの表面処理に使用される場合の使用方法としては、例えば、製造されたPETフィルムに対して事後的に皮膜形成用樹脂組成物を塗布する方法が挙げられる。また、例えばPET等のポリエステルを常法によりフィルム化する過程のいずれかの段階で、ポリエステルフィルムの表面に皮膜形成用樹脂組成物を塗布する方法も挙げられる。後者の場合、PETのフィルム化は、例えばPETの乾燥、溶融押し出し、未延伸シート化、二軸延伸、熱処理の各工程を経て行われるが、皮膜形成用樹脂組成物は前記いずれかの工程で、例えば浸漬法、カーテンコート法、グラビアコート法、ワイヤーバー法、スプレーコート法、リバースコート法またはダイコート法等によりフィルム表面に塗布される。
【0072】
さらに、本発明に係る水性ポリエステル樹脂を含有する皮膜形成用樹脂組成物の用途としては、上記に例示される用途のほか、金属、ガラス、紙、木材等のコーティング剤、並びに電子基板等のオーバーコート剤、並びにアンカーコート剤、インクバインダー等の接着剤関係、並びにポリ塩化ビニル、ポリカーボネート等のプラスチックフィルムの表面処理剤等としての用途も挙げられる。
【0073】
このように皮膜形成用樹脂組成物による表面処理が施されたポリエステルフィルムや繊維等には難燃性が付与され、また火災等により燃焼したとしても表面の水性ポリエステル樹脂が崩れにくくなり、高温の液滴の飛散が抑制される。このため、火災等における被害の拡大が抑制される。
【実施例】
【0074】
以下に本発明を具体的な実施例に基づいて更に詳述する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されない。尚、以下に使用される「部」及び「%」は、特に示さない限り、全て重量基準である。
【0075】
(実施例1)
層状珪酸塩として水分散性ベントナイト(ホージュン株式会社製「ベンゲルブライト23」)を用い、この層状珪酸塩13.5部と、水300部とを混合し、ホモミキサーを用いて5000rpm、30分の条件で攪拌して、層状珪酸塩の水分散液を調製した。
【0076】
また、反応容器内に、ジメチルテレフタル酸(DMT)179.4部、ジメチルイソフタル酸(DMI)46.2部、5−スルホン酸ナトリウムジメチルイソフタル酸(SIPM)47.0部、エチレングリコール(EG)163.0部、及び触媒としてシュウ酸チタニウムカリ0.1部を加え、常圧、窒素雰囲気中で攪拌混合しながら200℃に昇温した。次に、3時間かけて反応温度を260℃にまで徐々に昇温し、エステル交換反応を終了させた。
【0077】
その後、反応系を130〜180℃の温度範囲に保った状態で、200rpmの条件で攪拌しながら、この反応系中に上記層状珪酸塩の水分散液を少量ずつ滴下した。この間に蒸発する水は系外に排出した。
【0078】
その後、反応系に三酸化アンチモンを0.08部加えた後、この反応系を250℃に保持した状態で徐々に減圧し、250℃、0.67hPa(0.5mmHg)の条件に2時間保持することで重縮合反応を進行させ、水性ポリエステル樹脂を得た。
【0079】
得られた水性ポリエステル樹脂25部と、水75部とを、溶解槽中で混合し、温度80〜95℃で2時間かけて攪拌することにより、水性ポリエステル樹脂を水に溶解させた。これにより、水性ポリエステル樹脂の25%水溶液を得た。
【0080】
(実施例2)
実施例1において、層状珪酸塩として、ホージュン株式会社製「ベンゲルブライト23」に代えて、ホージュン株式会社製「ベンゲルブライト25」を用いた。それ以外の条件は実施例1と同一にして、水性ポリエステル樹脂の25%水溶液を得た。
【0081】
(実施例3)
実施例1において、層状珪酸塩の水分散液の調製時における層状珪酸塩の使用量を21.6部、水の使用量を500部に変更した。それ以外の条件は実施例1と同一にして、水性ポリエステル樹脂の25%水溶液を得た。
【0082】
(実施例4)
実施例1において、層状珪酸塩の水分散液の調製時における層状珪酸塩の使用量を27.0部、水の使用量を700部に変更した。それ以外の条件は実施例1と同一にして、水性ポリエステル樹脂の25%水溶液を得た。
(実施例5)
実施例1において、層状珪酸塩の水分散液の調製時における層状珪酸塩の使用量を16.0部、テレフタル酸ジメチルの使用量を82.0部、5−スルホン酸ナトリウムジメチルイソフタル酸の使用量を195.8部に変更した。それ以外の条件は実施例1と同一にして、水性ポリエステル樹脂の25%水溶液を得た。
(実施例6)
層状珪酸塩として水分散性ベントナイト(ホージュン株式会社製「ベンゲルブライト23」)を用い、この層状珪酸塩13.8部と、水300部とを混合し、ホモミキサーを用いて5000rpm、30分の条件で攪拌して、層状珪酸塩の水分散液を調製した。
【0083】
また、反応容器内に、ジメチルテレフタル酸171.7部、ジメチルイソフタル酸46.2部、エチレングリコール163.0部及び触媒として触媒としてシュウ酸チタニウムカリ0.1部を加え、常圧、窒素雰囲気中で攪拌混合しながら200℃に昇温した。次に、4時間かけて反応温度を260℃にまで徐々に昇温し、エステル交換反応を終了させた。
【0084】
その後、反応系を80℃以下まで冷却し、この反応系に上記層状珪酸塩の水分散液を加えた。次いで、この反応系を100℃まで昇温し、反応系中の水を全て蒸発させた。次に、この反応系に無水トリメリット酸38.1部を添加した後、この反応系を250℃に保持した状態で徐々に減圧し、250℃、0.67hPa(0.5mmHg)の条件に2時間保持することで重縮合反応を進行させ、酸価50.2、固有粘度0.37、数平均分子量7700の水性ポリエステル樹脂を得た。
【0085】
得られた水性ポリエステル樹脂25部と、水73.7部と、25%アンモニア水1.3部とを溶解槽中で混合し、攪拌しながら、温度80〜95℃で2時間かけて攪拌することにより、水性ポリエステル樹脂を水に溶解させた。これにより、水性ポリエステル樹脂の25%水溶液を得た。
【0086】
(実施例7)
実施例6において、ジメチルテレフタル酸の使用量を184.6部に変更し、更に無水トリメリット酸に代えて、無水ピロメリット酸を28.8部使用した。それ以外の条件は実施例6と同一にして、水性ポリエステル樹脂の25%水溶液を得た。
【0087】
(実施例8)
実施例6において、層状珪酸塩の水分散液の調製時における層状珪酸塩の使用量を14.8部、ジメチルテレフタル酸の使用量を82.0部、無水トリメリット酸の使用量を127.0部に変更した。それ以外の条件は実施例6と同一にして、水性ポリエステル樹脂の25%水溶液を得た。
【0088】
(実施例9)
層状珪酸塩として水分散性ベントナイト(ホージュン株式会社製「ベンゲルブライト23」)を用い、この層状珪酸塩13.8部と、水300部とを混合し、ホモミキサーを用いて5000rpm、30分の条件で攪拌して、層状珪酸塩の水分散液を調製した。
【0089】
また、反応容器内に、ジメチルテレフタル酸174.3部、ジメチルイソフタル酸46.2部、5−スルホン酸ナトリウムジメチルイソフタル酸23.5部、エチレングリコール163.0部及び触媒として触媒としてシュウ酸チタニウムカリ0.1部を加え、常圧、窒素雰囲気中で攪拌混合しながら200℃に昇温した。次に、4時間かけて反応温度を260℃にまで徐々に昇温し、エステル交換反応を終了させた。
【0090】
その後、反応系を80℃以下まで冷却し、この反応系に上記層状珪酸塩の水分散液を加えた。次いで、この反応系を100℃まで昇温し、反応系中の水を全て蒸発させた。次に、この反応系に無水トリメリット酸20.3部を添加した後、この反応系を250℃に保持した状態で徐々に減圧し、250℃、0.67hPa(0.5mmHg)の条件に2時間保持することで重縮合反応を進行させ、酸価50.2、固有粘度0.37、数平均分子量7700の水性ポリエステル樹脂を得た。
【0091】
得られた水性ポリエステル樹脂25部と、水73.7部と、25%アンモニア水1.3部とを溶解槽中で混合し、攪拌しながら、温度80〜95℃で2時間かけて攪拌することにより、水性ポリエステル樹脂を水に溶解させた。これにより、水性ポリエステル樹脂の25%水溶液を得た。
【0092】
(実施例10)
実施例9において、ジメチルテレフタル酸の使用量を179.4部に変更し、更に無水トリメリット酸に代えて、無水ピロメリット酸を17.3部使用した。それ以外の条件は実施例9と同一にして、水性ポリエステル樹脂の25%水溶液を得た。
【0093】
(比較例1)
実施例1において、層状珪酸塩の水分散液を調製せず、反応系に層状珪酸塩の水分散液を加えることなく、他は実施例1と同一の条件で、固有粘度0.40、数平均分子量8000の水性ポリエステル樹脂を生成し、この水性ポリエステル樹脂を用いて水性ポリエステル樹脂の25%水溶液を得た。
【0094】
(比較例2)
実施例1において、層状珪酸塩の水分散液を反応系に加えることなく、それ以外は実施例1と同一の条件で水性ポリエステル樹脂を生成した。この水性ポリエステル樹脂と、水分散性ベントナイト(ホージュン株式会社製「ベンゲルブライト23」)に水を加えて、実施例1と同じ濃度の水性ポリエステル樹脂の25%水溶液を得た。
【0095】
(燃焼試験)
各実施例及び比較例で得られた水性ポリエステル樹脂の25%水溶液を用い、ポリエステルトロピカル布に対してパディング法にて加工を施し、これを110℃で5分間乾燥させた後、180℃で1分間キュア処理を施して、試験布を得た。
【0096】
この試験布に対して、接炎法(JIS L 1091 D法)に準拠して燃焼性試験を実施し、試験布が燃焼するまでに要した接炎回数を測定した。
【0097】
また、この燃焼性試験によって試験布が燃焼した場合には、この試験布からの高温の液滴の滴下の有無を確認した。
【0098】
この結果を表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
上記結果から明らかなように、実施例1〜10では接炎回数が多く、難燃性が高いことが確認された。
【0101】
また、比較例1,2では試験布が燃焼した際には高温の液滴が下方に滴下したのに対して、実施例1〜10では燃焼してもこのような滴下が生じなかった。従って、実施例1〜10では、例えば火災時における燃え広がりの抑制にも効果を発揮することが確認された。
【0102】
(X線回折)
株式会社リガク製のX線回折測定装置「SWXD−FK」を用い、各実施例で得られた水性ポリエステル樹脂の粉末X線回折測定を行ったところ、層状珪酸塩に特徴的な13〜14Åの面間隔に対応する回折ピークが確認されず、各実施例における水性ポリエステル樹脂中には層状珪酸塩が単層剥離して分散したナノコンポジット構造が形成されていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カルボン酸成分、グリコール成分及び水溶性付与成分が、層状珪酸塩の存在下で反応して縮合又は重縮合する工程を経て製造されたものであることを特徴とする水性ポリエステル樹脂。
【請求項2】
上記水溶性付与成分の使用量が、前記多価カルボン酸成分と水溶性付与成分の使用量の合計量に対して1〜60モル%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の水性ポリエステル樹脂。
【請求項3】
上記層状珪酸塩の使用量が、水性ポリエステル樹脂全量に対して0.1〜15質量%の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水性ポリエステル樹脂。
【請求項4】
上記層状珪酸塩が、天然品及び合成品から選択される一種以上のものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水性ポリエステル樹脂。
【請求項5】
上記層状珪酸塩が有機層状珪酸塩であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の水性ポリエステル樹脂。
【請求項6】
上記水溶性付与成分が、金属スルホネート基を有するジカルボン酸、三塩基酸、四塩基酸、或いはこれらのエステル形成性誘導体から選択される一種以上を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の水性ポリエステル樹脂。
【請求項7】
上記金属スルホネート基を有するジカルボン酸が、5−ソジウムスルホイソフタル酸及びそのエステル形成性誘導体から選択される一種以上であり、この5−ソジウムスルホイソフタル酸及びそのエステル形成性誘導体の使用量の総量が、上記多価カルボン酸成分全量に対して1〜60モル%の範囲であることを特徴とする請求項6に記載の水性ポリエステル樹脂。
【請求項8】
三塩基酸、四塩基酸及びこれらのエステル形成性誘導体の使用量の総量が、上記多価カルボン酸成分全量に対して1〜60モル%の範囲であることを特徴とする請求項6に記載の水性ポリエステル樹脂。
【請求項9】
三塩基酸としてトリメリット酸及びそのエステル形成性誘導体から選択される少なくとも一種が使用されることを特徴とする請求項6に記載の水性ポリエステル樹脂。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の水性ポリエステル樹脂を含有することを特徴とする皮膜形成用樹脂組成物。
【請求項11】
ポリエステルフィルム表面加工用であることを特徴とする請求項10に記載の皮膜形成用樹脂組成物。
【請求項12】
繊維加工用であることを特徴とする請求項10に記載の皮膜形成用樹脂組成物。
【請求項13】
請求項10又は11に記載の皮膜形成用樹脂組成物による表面処理が施されていることを特徴とするポリエステルフィルム。
【請求項14】
請求項10又は12に記載の皮膜形成用樹脂組成物による加工処理が施されていることを特徴とする繊維。

【公開番号】特開2009−275186(P2009−275186A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130075(P2008−130075)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000166683)互応化学工業株式会社 (57)
【Fターム(参考)】