説明

水性レチノイドおよび過酸化ベンゾイルゲル

本発明の実施形態は過酸化ベンゾイルおよびレチノイドの双方を含む組成物に関する。さらに、BPOおよびレチノイドを含む水性ゲルの塗布による尋常性座瘡の治療に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化ベンゾイル(“BPO”)とレチノイド、好ましくはトレチノインとの両方を含む組成物に関する。さらに、本発明は、過酸化ベンゾイルおよびレチノイド(好ましくはトレチノイン)を水性ゲルとして同時に塗布適用すること、または過酸化ベンゾイルの水性ゲルおよびレチノイド(好ましくはトレチノイン)の水性ゲルを逐次塗布適用することによる、にきびと呼ばれる尋常性座瘡の治療に関する。独特なドラッグデリバリーシステムにトレチノインおよび過酸化ベンゾイルを含ませる新規な方法が開示され、過酸化ベンゾイルおよびトレチノインは、疎水的に改質されたカルボマーを用いて作成された、立体的に安定化されたエマルションコンプレックスに配合され、これにより二つの相容れない活性成分の安定性が確保される。
【背景技術】
【0002】
にきびは皮膚中の毛嚢脂腺構造に炎症を生じ、面皰、膿疱、および小結節の形成に至る皮膚の疾患である。重症例ではにきびは永続的な瘢痕化に至る可能性がある。
【0003】
にきびは、毛嚢脂腺構造の過角化によってその構造の開口が全体的にまたは部分的に塞がれ、結果として皮脂、ケラチンおよびプロピオンバクテリウムアクネ(アクネ菌(P.acne))で満たされた面皰を生じたときに発生すると一般的に考えられている。これらの病変は一般ににきびとして同定される。アクネ菌は正常な皮膚においても自然に生じるが、特に特徴的には、にきび病変に存在する。毛嚢脂腺構造中のアクネ菌に由来する代謝副産物および代謝廃棄物はにきび病変の炎症を引き起こし、または一因となると考えられている。
【0004】
従来のにきび治療は多数の形態で行われてきた。経口薬はテトラサイクリン、ミノサイクリン、ドキシサイクリンおよびエリスロマイシンを含有する。サリチル酸のような局所角質溶解剤が使用されることもある。角質溶解剤は、塞がれた毛包脂腺構造の開通を促進し、従って、炎症に好ましい状態の減少を促進すると考えられる。抗菌性である過酸化ベンゾイルは、依然として一般的かつ効果的な治療法とされている。アクネ菌に対して効果的なクリンダマイシンの様な局所抗生物質も、生体からの代謝副産物の形成を防止する観点においてまた使用されてきた。トレチノインのような局所レチノイドもまた、にきびの治療法として使用されている。
【0005】
本明細書中では、別に述べない限り、“レチノイド”の用語はレチノール、レチナール、トレチノイン(全てトランス型のレチノイン酸)レチノイン酸、イソトレチノイン、アリトレチノインのような構造上のレチノイドおよびアダパレン、タザロテンのようなレチノイド受容体に結合する機能上のレチノイド、ならびにそれらの混合物を意味する。本明細書中では、別に述べない限り、“水性ゲル”は水を含みかつアルコールを含まないゲルを意味する。
【0006】
トレチノインおよびその他のレチノイドは、異常な落屑やトール様受容体2(TLR-2)の鎮静を改善する能力に基づいて、にきび治療薬として広範囲にわたって使用されている。トレチノインは皮膚を刺激する可能性が高い治療薬法として知られていた。Bazzano(米国特許第5,721,275号。参照によって本明細書中に組み込まれている)は安定で、刺激性を最小限にしたトレチノインを含有する水性ゲル組成物を発明することによってトレチノイン治療法を進歩させた。水性ゲル中のトレチノインの安定性は、クリーム中に含まれるトレチノインやアルコール性のゲル(例えばRetin-Aゲル等)中に含まれるトレチノインと比較すると著しく優れていた。Bazzanoの組成物は、皮膚中へのトレチノインの放出を遅くすることを可能にするようであり、患者の皮膚への刺激がより少なくなった。
【0007】
過酸化ベンゾイル(C14H10O4)もまた、アクネ菌を鎮静する能力によりにきびを治療する。過酸化ベンゾイルは水に不溶性であり、従って、先行技術の組成物は過酸化ベンゾイルを懸濁状態で含有する。先行技術における過酸化ベンゾイルアルコール性ゲルの一例としてMedicis’ Triaz Gel(3%、6%および9%)が挙げられる。Bazzanoはにきび治療のために過酸化ベンゾイルとトレチノインを組み合わせることについて何も教示しなかった。
【0008】
医師は長い間、さらに優れた結果のために、それぞれが疾患および状態を治療する、二つまたはそれ以上の薬剤を組み合わせようと試みてきた。しかしながら、二つの薬剤が相容れない、または薬剤の組み合わせが少なくともその内の一つの分解を引き起こす場合には、組み合わせの治療法はもはや所望でなく、または有用でない。
【0009】
先行技術では、過酸化ベンゾイルおよびレチノイド(特にトレチノイン)は組み合わせの処方では利用できないと思われた。Cotterillは“過酸化ベンゾイル”(Acta Dermatology (Stockholm), Suppl. 89, 1980 (参照によって本明細書中に組み込まれている))で、“レチノイン酸および過酸化ベンゾイルは、過酸化ベンゾイルがレチノイン酸を酸化するので化学的に相容れない。”と述べている。さらに、先行技術では、過酸化ベンゾイルおよびトレチノインの双方がにきび治療として利用される場合には、順に、8〜12時間の間隔で塗布しなければならないとされていた。例えば、過酸化ベンゾイルは朝使用され、トレチノインは晩に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,721,275号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Acta Dermatology (Stockholm), Suppl. 89, 1980
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一つの実施形態は水、過酸化ベンゾイル、レチノイドおよび高分子ゲル化剤を含む半水性ゲル組成物を含む組成物である。ある実施形態では、高分子ゲル化剤は乳化性重合体を含む。
【0013】
その他の実施形態は過酸化ベンゾイルおよびレチノイドを含む水性ゲルの皮膚への塗布を含むにきび治療の方法を含む。
【0014】
さらにその他の実施形態は、実質上アルコールが存在しない、約0.025重量%のトレチノイン、約5重量%の過酸化ベンゾイル、高分子ゲル化剤および水を含む組成物を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は先行技術にて一般的に認められてきた見識からの著しい脱却である。先行技術では、レチノイド(例えばトレチノイン)および過酸化ベンゾイルは順に、少なくとも8時間以内に塗布されると、レチノイドが酸化される(従って、分解され、にきび治療に有用でなくなる)と教示されていた。
【0016】
Bazzanoは、水性ゲルは安定なトレチノイン組成物を生成する上で非常に有用であることを報告した。メディシス社のZiana(登録商標)ゲルはその様な刺激性のレベルが低い安定なトレチノイン水性ゲルの商業的な一形態である。Ziana(登録商標)ゲルは1.2%のリン酸クリンダマイシンおよび一部は可溶化形態であり、その他は懸濁した結晶形態である0.025%のトレチノインを含む。Ziana(登録商標)ゲルはまた、精製水USP、グリセリンUSP、カルボマー981 NF、メチルパラベンNF、ポリソルベート80NF、エデト酸二ナトリウムUSP、クエン酸USP、プロピルパラベンNF、ブチル化ヒドロキシトルエンNF、およびトロメタミンUSPも含む。本明細書中では(特許請求の範囲を含む)、%は別段に記述しない限りは、全組成に対する重量%を意味する。
【0017】
特定のメカニズムに限定されることは望まないが、トレチノインの安定性はトレチノインを可溶化することおよび経時的にゆっくりとトレチノインを放出することによると考えられる。トレチノインの可溶化した形態は結晶性トレチノインよりも前に、大部分が皮膚に浸透すると考えられる。結晶性トレチノインは、皮膚上でまず可溶化されなければならないので、皮膚中に速やかには放出されにくい。
【0018】
本発明ではこのゆっくり放出する安定なレチノイド(好ましくはトレチノイン)水性ゲルを利用し、かつ過酸化ベンゾイルを組み込む。メカニズムに限定されることはないが、過酸化ベンゾイルは水性ゲル中で可溶化したトレチノインから分離され、結晶性トレチノイン、即座に皮膚中に放出され、従って、過酸化ベンゾイルへのトレチノインの長時間の暴露は起こらず、予期される酸化は起こらないと考えられる。
【0019】
本発明の一つの実施形態は、水性ゲル中にレチノイド(好ましくはトレチノイン)および過酸化ベンゾイルの双方を含む組成物であり、ここで、過酸化ベンゾイルはトレチノインを酸化しない、または人間の皮膚上における滞留時間中に組成物が薬剤として活性のままであることが可能であるように十分に遅い速度で酸化する。
【0020】
組成物
本発明の一つの実施形態は例えばトレチノインであるレチノイドおよび過酸化ベンゾイルを水性ゲル中に含み、アルコールを含まない組成物である。トレチノインの少なくとも一部が可溶化していることが好ましく、さらに好ましくは、トレチノインの少なくとも50%が可溶化している。結晶性トレチノインの好ましい粒径は、粒子の少なくとも約50%が約10μm以下の大きさであり、粒子の少なくとも約90%が約20μm以下の大きさである。組成物は少なくとも40%〜50%の水を含むことが好ましく、通常はさらに多い。
【0021】
別の実施形態では、トレチノインは約1.0%〜約0.01%で存在し、好ましくは約0.025%であり、過酸化ベンゾイルは約3%〜約9%で存在し、好ましくは約5%である。
【0022】
別の実施形態では、好ましくはトレチノインであるレチノイドを含む水性ゲルは皮膚に塗布され、短期間内(前または後)に、ゲル、好ましくは水性ゲルであり得る過酸化ベンゾイル組成物が皮膚に塗布される。レチノイド水性ゲルおよび過酸化ベンゾイルゲルの塗布はいかなる順序でも良いが、好ましくはレチノイド水性ゲルが始めである。
【0023】
本発明において有用なゲル化剤は、水性媒体中でゲルを生成し、遅い放出およびレチノイドの完全性の維持のためにレチノイドを保持するものである。ゲルは、例えばCarbopol(登録商標)(CAS 9003-01-4)の様な、ポリアクリル酸の高分子量の共重合体および種々のタイプの医薬製剤および化粧品組成物に利用される既知の薬剤である、関連する高分子を始めとする高分子ゲル化剤を非限定的に含めて、いかなる既知のゲル化剤によって生成しても良い。ポリアクリル酸の架橋重合体は水酸化ナトリウムやアミンの様な塩基で中和し、pHを約4〜約6以上にすると膨潤してゲルを生成する。
【0024】
本発明の実施形態において、ゲルは水中油型エマルションのゲル化した水性相であることができる。これは、ゲルを生成する高分子乳化剤、例えば、ゲル生成性のポリアクリル酸またはポリアルキルアクリレート高分子乳化剤、例えばPemulen(登録商標)TR-1、Pemulen(登録商標)TR-2、Pemulen(登録商標)TR-1 NFもしくはPemulen(登録商標)TR-2 NF(これらは、乳化性の高分子量アクリル酸/C10-C30アルキルアクリレート共重合体である)を利用して成し遂げることができる。
【0025】
いくつかの実施形態においては、過酸化ベンゾイルおよびトレチノインを含む局所ゲル配合物は水中油型エマルションであり、水性相がゲル化されている。これはアクリル酸/C10-C30アルキルアクリレート共重合体の乳化の利用によって達成することができる。例えば、一つの実施形態では、界面活性剤/乳化剤は商標Pemulen(登録商標)TR-1およびPemulen(登録商標)TR-2で商業的に入手できる。その他の実施形態においては、界面活性剤或いは乳化剤はPemulen(登録商標)TR1 NFおよび/またはPemulen(登録商標)11 NFであっても良い。Pemulen(登録商標)高分子乳化剤は、大部分が高分子量のポリアクリル酸重合体である。これらの新規な一次乳化剤は、大きな親水性の部分に加えて小さな親油性の部分を有する。この化学的構造によって、これらの共重合体は水中油型エマルション中で一次乳化剤として機能することが可能となる。Carbopol(登録商標)水溶性高分子は二次水中油(o/w)型エマルション安定剤として有用であると判明しているのに対して、Pemulen(登録商標)重合体は実際にo/w型エマルションを生成することができる。親油性の部分は油水界面に吸着し、親水性の部分は水中で膨潤し、油滴の周りにゲルネットワークを形成して広範な油に対して例外的なエマルション安定性を提供する。
【0026】
好ましい実施形態においては、局所ゲル配合物は約0.1重量%〜約1.0重量%の乳化性界面活性剤、および約4重量%〜約80重量%の水を含む。ある種の実施形態においては、局所ゲル配合物はさらに約1重量%〜約5重量%の親水性重合体および約15重量%〜約30重量%の脂肪ベースを含む。適切な親水性重合体の例としては、非限定的であるが、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロースおよびエチルセルロースの様なセルロース誘導体が挙げられる。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの利用はある種の実施形態において特に好ましい。いくつかの実施形態において、脂肪ベースはC12-C18脂肪酸もしくはそれらのエステル、シリコーン、ワセリンまたはパラフィン油から選択できる。
【0027】
組成物中の追加の成分としては非制限的に、粘度調整剤、噴射剤、臭気改善剤、界面活性剤、香料、抗酸化物質、着色剤、保存剤、乳化剤およびpH調整剤を挙げることができる。
【0028】
さらに、例えば抗菌剤、抗炎症剤、角質化モジュレーター、脱色剤、免疫刺激剤、抗真菌剤および鎮痛剤などの、その他の追加の活性成分を組成物中に含ませることができる。
【0029】
本発明による組成物はアクネ菌に対して効果的な天然および半合成抗生物質を含むこともできる。この点で、抗生物質のテトラサイクリン類が有用である。テトラサイクリン、ドキシサイクリンおよびミノサイクリンが例として挙げられる。この点では、リンコサミド系抗生物質も有用である。例としてクリンダマイシンおよびリンコマイシンが挙げられる。アクネ菌に対して効果的な抗生物質は塩およびエステルの様ないかなる許容可能な形態においても使用可能である。例としては塩酸クリンダマイシン、クリンダマイシンパルミテート、クリンダマイシンリン酸エステル、塩酸ミノシクリンおよびその他のその様な化合物が挙げられる。
【0030】
その他の本発明の実施形態において有用な抗菌剤は非限定的に、例えばポピドンヨード、ヘキサクロロフェン、スルファサラジン、スルファソキサゾール、アセチルスルファソキサゾールおよびそれらの組み合わせの様なものを含む。
【0031】
抗炎症剤は、非限定的にアルドメタソン、アムシノニド(amcenonide)、ベータメタゾン、ベータメタゾンエステル、デソニド, クロベタゾールプロピオン酸エステル、クロコルトロンピバラート(clocortolone pivilate)、トリアムシノロンアセトニド、デスオキシメタゾン ジフロロゾン、 フランカルボン酸モメタゾン、プレドニカルベート, フルオシノニド(cluocinonide)、フルオシノロンアセトニド、ヒドロコルチゾンおよびそれらの組み合わせを含むことができる。一つの実施形態では、組成物はさらにクリンダマイシンを含む。
【0032】
本開示による組成物はまた、抗酸化物質を有利に含むことができる。これらの化合物は組成物を安定化するために働き、皮膚に対する抗酸化効果を与え、または双方の機能を発揮する可能性がある。この点において有用な抗酸化物質の例はアスコルビン酸、脂肪酸アスコルビルエステル、ビタミンE、トコフェロールリン酸の様なビタミンE誘導体、αリポ酸、エピカテキン、BHTおよびイソフラボンである。
【0033】
角質化モジュレーターは非限定的に、レチノイド、アルファヒドロキシ酸、ベータヒドロキシ酸、サリチル酸、レゾルシノールおよびそれらの組み合わせを含むことができる。
【0034】
免疫調整剤は非限定的に、シクロスポリン、イミキモド、フルオロウラシル(flurouracil)、ポドフィロックス、ポドフィリンおよびそれらの組み合わせを含む。
【0035】
抗真菌剤は非限定的に、ナイスタチン、シクロピロクスおよびシクロピロクスオラミン、グリセオフルビン、イトラコナゾール、フルコナゾール、ケトコナゾール、テルビナフィン、エコナゾール、ベンジルアルコール、ウンデシレン酸およびそれらの塩、安息香酸ベンジルおよびそれらの組み合わせを含むことができる。
【実施例】
【0036】
実施例1
等容積の6%の過酸化ベンゾイルゲルと混合した際のZiana(登録商標)ゲル中のトレチノインの分解プロファイルを35℃に保温後24時間に渡り測定した。トレチノイン分析は、ベースライン、2、4、6、8、および24時間で行った。
【表1】

【0037】
トレチノインは8時間後に96.8%の有効性で安定した状態を保ち、過酸化ベンゾイル水性ゲルおよびトレチノイン水性ゲルの同時(または近接した順序で)での適用はトレチノインの急速な分解を引き起こさないことを示唆している。
【0038】
実施例2
Ziana(登録商標)ゲル中のトレチノインの分解および浸透を、5%の過酸化ベンゾイルゲルの塗布の有無および紫外線暴露の有無の条件下で研究した。
【0039】
人間の死体胴体皮膚を1.0cm2のFranz拡散セル上に載せ、洗浄した。リザーバ溶液はリン酸緩衝等張食塩水(pH 7.4±0.1)であった。分離したチャンバをセットしてセルを収容した。一組のチャンバにはコントロールの紫外線非暴露下において投薬し、サンプリングした。サンプリングしない時にはチャンバを暗状態に維持した。他の組のチャンバでは皮膚表面の上方33インチの太陽シミュレータ光源(KBD Custom Research, Inc.のFS24772 UVB-HO))に皮膚表面を暴露した。紫外線は各1回用量塗布およびサンプル回収後20分持続して供給した。
【0040】
Ziana(登録商標)ゲルの1回用量5μL/cm2の配合物を皮膚外面に塗布した。2時間後、5%過酸化ベンゾイルの5μL/cm2の配合物を皮膚外面に塗布した。トレチノインおよびイソトレチノイン薬物吸収は、皮膚内面が浸っているリザーバ溶液中のその出現割合をモニタリングすることで測定した。イソトレチノインはトレチノインの分解生成物である。塗布後、皮膚表面から配合物を回収するために、選択したチャンバの表面を80%イソプロパノールおよび20%水で2度(各0.5mL)洗浄した。洗浄の後、角質層を回収するために皮膚表面をテープで剥離した。テープで剥離した後、皮膚をチャンバから取り出し、表皮と真皮に分割した。全ての皮膚の層を80%イソプロパノールおよび20%水で一晩抽出した。
【0041】
ガラス皿サンプルの場合約20gのZiana(登録商標)ゲルを調製し、別のガラス皿でZiana(登録商標)ゲル(20g)および5%過酸化ベンゾイルゲル(20g)の混合物を調製し、よく混合した。配合物を再混合した後2、4、6および8時間で、配合物の3つの100μLアリコートをそれぞれの皿から回収し、イソプロパノール:水(80:20)と混合し、その後の分析のために保存した。
【0042】
全てのサンプルを処理し、トレチノインおよびその活性異性体イソトレチノインについて分析した。Ziana(登録商標)ゲル中のトレチノインの分解を32.0℃±1.0℃にて24時間にわたって評価した。分析はベースライン、ベースライン後2、4、6、8および24時間にて評価した。
【0043】
トレチノイン濃度は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。ダイオードアレイ検出器を備えたAgilent 1100シリーズLCと共にHewlett-Packard 1100シリーズHPLCシステムを利用した。5%の0.1M酢酸アンモニウム(pH5)、酢酸および95%/5% 酢酸/アセトニトリルからなる溶媒系をPhenomenex Luna C18(2)-100Aカラム(100 x 4.6; 3 μ)に流速0.5mL/分にて流した。10μlのサンプルを注入した。
【0044】
24時間を通したデータは、Ziana(登録商標)ゲルからのトレチノインが人間の皮膚に浸透することを示している。浸透はゆっくりと始まり、表皮のおよび真皮の濃度は次第に増加する。
【0045】
Ziana(登録商標)ゲル塗布の2時間後、過酸化ベンゾイル水性ゲルに皮膚をさらした場合、光条件下でトレチノイン浸透に対する認められるほどの効果はなかった。Ziana(登録商標)ゲル塗布の4〜12時間後、暗状態下で過酸化ベンゾイルの暴露後にトレチノイン浸透は僅かに増加するように見えた。
【0046】
実施例3 ドナーを通じたトレチノインについてのトータル皮膚含有量
1回の塗布からの過酸化ベンゾイルの有無による、光条件および暗条件下における人間の死体皮膚へのトレチノインの経皮吸収(塗布した用量の百分率としての平均±標準誤差(n=2))。
【表2】

【0047】
ゼロは検出限界の下限以下の結果であることを示している。皮膚含有量は表皮および真皮の含有量の合計を含む。
【0048】
実施例4 ドナーを通じたイソトレチノインについてのトータル皮膚含有量
1回の塗布からの過酸化ベンゾイルの有無による、光条件および暗条件下における人間の死体皮膚へのイソトレチノインの経皮吸収(塗布した用量の百分率としての平均±標準誤差(n=2))。
【表3】

【0049】
ゼロは検出限界の下限以下の結果であることを示している。皮膚含有量は表皮および真皮の含有量の合計を含む。表3は、過酸化ベンゾイルゲルを塗布したときトレチノインからイソトレチノインへの分解が測定されなかったことを示している。物質収支は以下に示す。
【表4】

【0050】
この結果は、過酸化ベンゾイル水性ゲルと共にトレチノイン水性ゲルを晩に塗布することが好ましいことを示す(トレチノインおよび過酸化ベンゾイルの双方が同一の水性ゲル中に存在しようと、または水性ゲル中のトレチノインおよび別のゲル中の過酸化ベンゾイルが逐次短期間の間に、好ましくは約2時間以内に塗布されようとも)。
【0051】
実施例5
本発明による組成物は以下の方法で作成される。第一の容器中で、パラフィン軽油、イソステアリン酸イソステアリル、リノール酸(licoleic acid)、ブチルヒドロキシアニソール(butylhydroxyenisol)、およびフェノキシエタノールを均一になるまで熱し、混合する。第二の容器に、精製水を熱し混合する。これにエチレンジアミン四酢酸(EDTA)ナトリウムを加え、溶解するまで混合する。第二の容器からの混合物を主容器に加え、混合する。主容器から一部分を取り出し、シリコーンマイクロカプセルおよびトレチノインを加える。主容器にPemulen(登録商標)TR-1およびHPMCを加え、十分に混合してゲル化剤を水和させる。シリコーンマイクロカプセルとトレチノインの混合物を主容器に加え、均質になるまで混合する。過酸化ベンゾイルを主容器に加え、均質になるまで混合する。香料を加え、混合する。混合しながら主容器を30℃未満まで冷却する。主容器のpHを水酸化ナトリウム水溶液で調整する。
【0052】
実施例6
本発明により、下記の方法にてにきびを治療する。刺激性の少ないせっけんおよび温水で丁寧に洗顔する。かるくたたく様にして乾かす。豆粒大の量の表5に示したようなトレチノインゲルを指先に取り、顔全体に広げる。優しく皮膚に伸ばす。トレチノインゲルを目、口、唇、小鼻または開放創に入れてはいけない。
【0053】
実施例10
刺激性の少ないせっけんおよび温水で丁寧に洗顔する。かるくたたく様にして乾かす。豆粒大の量のトレチノイン/過酸化ベンゾイルゲルを指先に塗布し、顔全体に広げる。優しく皮膚に伸ばす。トレチノイン/過酸化ベンゾイルゲルを目、口、唇、小鼻または開放創に入れてはいけない。
【0054】
本発明は、その本質的特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で実施してもよい。記載された実施形態はあらゆる点で、単なる例示であって、限定的であるとは考えられない。従って、本発明の範囲は前記説明ではなく特許請求の範囲により示される。特許請求の範囲と同等の意味および範囲内となる変更は全て本発明の範囲内に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、過酸化ベンゾイル、レチノイドおよび高分子量の高分子ゲル化剤を含む組成物。
【請求項2】
レチノイドがレチノール、レチナール、トレチノイン、レチノイン酸、イソトレチノイン、アリトレチノインおよびそれらの混合物からなる群から選択される1つまたはそれ以上からなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
レチノイドがトレチノインからなる請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
トレチノインの少なくとも一部が可溶化されている請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
トレチノインの少なくとも一部が結晶化されている請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
トレチノイン粒子の少なくとも50%が約10μm未満の大きさであり、トレチノイン粒子の少なくとも90%が約20μm未満の大きさである請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
水性ゲルが水中油型エマルションの水相である請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
高分子量の高分子ゲル化剤が高分子乳化性ゲル化剤からなる請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
高分子ゲル化剤がポリアクリル酸からなる請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
高分子ゲル化剤がポリアクリル酸の高分子量共重合体からなる請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
高分子ゲル化剤が乳化性アクリル酸/C10-C30アルキルアクリレート共重合体からなる請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
抗生物質を更に含む請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
抗酸化物質を更に含む請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
過酸化ベンゾイルおよびレチノイドを含む水性ゲルを皮膚に適用することを含む、にきびの治療方法。
【請求項15】
レチノイドがトレチノインからなる、請求項14に記載の方法
【請求項16】
約0.025重量%のトレチノイン、約5重量%の過酸化ベンゾイル、高分子量の高分子ゲル化剤および水を含んでおり、実質上アルコールを含まない、組成物。
【請求項17】
少なくとも約50%のトレチノインが結晶性であり、結晶性トレチノインの少なくとも約50%が10μm未満の粒径であり、結晶性トレチノインの少なくとも約90%が20μm未満の粒径である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
高分子ゲル化剤がポリアクリル酸ゲル化剤からなる、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
高分子ゲル化剤が高分子量のポリアクリル酸共重合体ゲル化剤からなる、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
高分子ゲル化剤が乳化性アクリル酸/C10-C30アルキルアクリレート共重合体ゲル化剤からなる請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
高分子量の高分子ゲル化剤がカルボマー、カルボビニル重合体、重合体を含有する疎水的に改質されたカルボマーおよびそれらの混合物からなる群から選択されるポリアクリル酸系重合体に属する重合体からなる、請求項16に記載の組成物。
【請求項22】
治療を必要としている患者の皮膚に請求項1〜13のいずれかに記載の組成物を適用するステップを含む、にきびの治療方法。

【公表番号】特表2011−500687(P2011−500687A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529979(P2010−529979)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/011941
【国際公開番号】WO2009/051839
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(502105258)メディシス・ファーマシューティカル・コーポレーション (4)
【Fターム(参考)】