説明

水性中塗り塗料組成物および複層塗膜形成方法

【課題】水性中塗り塗料組成物を塗装して未硬化の中塗り塗膜を設けた後、硬化させることなく水性ベース塗料組成物を塗装するウェットオンウェット塗装において好適に用いることができる水性中塗り塗料組成物を提供すること。
【解決手段】アクリル樹脂エマルション(A)、ダイマー酸誘導体水分散物(B)、および硬化剤(C)を含む、水性中塗り塗料組成物であって、このダイマー酸誘導体水分散物(B)は、(b−1)ダイマー酸還元ジオール、ダイマー酸還元ジオールとダイマー酸とを反応させて得られた、またはダイマー酸および/またはダイマー酸還元ジオールとジカルボン酸化合物および/またはジオール化合物とを反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物に、(b−2)親水基を有する酸無水物を反応させて得られた、固形分酸価5〜60mgKOH/gである水分散物である、水性中塗り塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性中塗り塗料組成物を塗装して未硬化の中塗り塗膜を設けた後、硬化させることなく水性ベース塗料組成物を塗装するウェットオンウェット塗装において好適に用いることができる水性中塗り塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体などの塗装は、基本的には、電着塗膜、中塗り塗膜、そしてベース塗膜とクリヤー塗膜とからなる上塗り塗膜を、被塗物である鋼板の上に順次積層して行われる。このような塗装において、各構成塗膜を形成する毎に焼付け硬化する方法と、積層された複数の塗膜を同時に硬化する方法とがある。ここで、積層された複数の塗膜を同時に硬化する方法においては、焼付け乾燥工程を省略することができ、塗装の省エネルギー化を実現することができるという利点がある。
【0003】
積層された複数の塗膜を同時に硬化する方法として、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を、順次ウェットオンウェットで塗膜形成し、その後に焼き付け硬化させる3コート1ベーク塗装が実施されている。しかし、従来の3コート1ベーク塗装においては、中塗り塗料組成物を塗装した後、例えば60〜100℃で2〜20分乾燥させる、いわゆるプレヒートと呼ばれる予備乾燥工程が必要である。これは、未硬化の中塗り塗膜を形成した後、すぐにベース塗膜を形成すると、上層である未硬化のベース塗膜に含まれる水分および有機溶剤といった成分が、未硬化の中塗り塗膜に移行し、これら2つの塗膜層が混じり合い(混層)、これにより得られる複層塗膜の塗膜外観が悪化するためである。
【0004】
一方で、近年における、省エネルギー化およびCO排出量削減といった環境負荷低減に対するさらなる要請により、未硬化の中塗り塗膜形成後のプレヒート工程をも省略することが望まれるようになった。その一方で、得られる積層塗膜に対しては、従来の塗装方法と比較して劣ることのない、良好な塗膜外観であることが求められる。
【0005】
特開2001−9357号公報(特許文献1)には、基材上に、水性中塗り塗料組成物により中塗り塗膜、水性メタリックベース塗料組成物によりメタリックベース塗膜およびクリヤー塗料組成物によりクリヤー塗膜を、順次形成する塗膜形成方法において、上記水性中塗り塗料組成物および/または上記水性メタリックベース塗料組成物が、ポリカルボジイミド化合物およびカルボキシル基含有水性樹脂を含有することを特徴とする塗膜形成方法が記載されている(請求項1)。そしてこの方法によって、水性中塗り塗膜および上塗り塗膜を順次塗装した場合の、各塗膜層間の界面でのなじみや反転を制御し、高外観を有する積層塗膜を形成することができると記載されている。しかしこの塗膜形成方法においては、80℃で5分間のプレヒートが行われている([0101]段落)。
【0006】
特開2004−358462号公報(特許文献2)には、水性中塗り塗料組成物、水性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装し、その後同時に焼き付け硬化させる複層塗膜形成方法において、水性中塗り塗料組成物が、ガラス転移温度−50〜20℃、固形分酸価2〜60mgKOH/gおよび固形分水酸基価10〜120mgKOH/gを有するアクリル樹脂エマルション、固形分酸価5〜50mgKOH/gを有するウレタン樹脂エマルション、および硬化剤を含有することを特徴とする複層塗膜の形成方法が記載されている(請求項1)。そしてこの方法により、中塗り塗膜とベース塗膜との混相を有効に防止して表面平滑性に優れる複層塗膜を形成することができると記載されている。しかしこの複層塗膜の形成方法においてもまた、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、80℃で5分間のプレヒートが行われている([0117]段落)。
【0007】
特開2009−262002号公報(特許文献3)には、水性中塗り塗料組成物、水性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装し、その後同時に焼き付け硬化させる、複層塗膜を形成する方法であって、水性中塗り塗料組成物は、固形分水酸基価が50〜120および固形分酸価が20〜60mgKOH/gであるアクリル樹脂エマルション;アルキル側鎖の炭素数が1〜4である完全アルキルエーテル化メラミン樹脂;および、カルボジイミド化合物;を含む、複層塗膜形成方法が記載されている(請求項1)。そしてこの方法により、3コート1ベーク法において中塗り塗膜とベース塗膜との間の混層を防止することができると記載されている。しかしこの複層塗膜形成方法においてもまた、80℃で5分間のプレヒートが行われている([0162]段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−9357号公報
【特許文献2】特開2004−358462号公報
【特許文献3】特開2009−262002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、水性中塗り塗料組成物を塗装して未硬化の中塗り塗膜を設けた後、硬化させることなく水性ベース塗料組成物を塗装するウェットオンウェット塗装において、混層などの不具合が生じない水性中塗り塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
アクリル樹脂エマルション(A)、ダイマー酸誘導体水分散物(B)、および硬化剤(C)を含む、水性中塗り塗料組成物であって、
このアクリル樹脂エマルション(A)は、ガラス転移温度−20〜60℃、固形分酸価2〜60mgKOH/gおよび固形分水酸基価10〜120mgKOH/gであるアクリル樹脂から構成されるエマルションであり、
上記ダイマー酸誘導体水分散物(B)は、(b−1)ダイマー酸還元ジオール、ダイマー酸還元ジオールとダイマー酸とを反応させて得られた、またはダイマー酸および/またはダイマー酸還元ジオールとジカルボン酸化合物および/またはジオール化合物とを反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物に、(b−2)親水基を有する酸無水物を反応させて得られた、固形分酸価5〜60mgKOH/gである水分散物である、
水性中塗り塗料組成物、を提供するものであり、これにより上記課題が解決される。
【0011】
上記ダイマー酸誘導体水分散物(B)は、数平均分子量700〜7,000であるのがより好ましい。
【0012】
本発明はまた、
硬化電着塗膜の上に、水性中塗り塗料組成物を塗装して、未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
得られた未硬化の中塗り塗膜の上に、水性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を順次ウェットオンウェットで塗装し、未硬化のベース塗膜およびクリヤー塗膜を形成する工程、
得られた未硬化の中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる工程、
を包含する、複層塗膜形成方法であって、
上記水性中塗り塗料組成物が、アクリル樹脂エマルション(A)、ダイマー酸誘導体水分散物(B)および硬化剤(C)を含む、水性中塗り塗料組成物であって、
上記アクリル樹脂エマルション(A)は、ガラス転移温度−20〜60℃、固形分酸価2〜60mgKOH/gおよび固形分水酸基価10〜120mgKOH/gであるアクリル樹脂から構成されるエマルションであり、
上記ダイマー酸誘導体水分散物(B)は、(b−1)ダイマー酸還元ジオール、ダイマー酸還元ジオールとダイマー酸とを反応させて得られた、またはダイマー酸および/またはダイマー酸還元ジオールとジカルボン酸化合物および/またはジオール化合物とを反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物に、(b−2)親水基を有する酸無水物を反応させて得られた、固形分酸価5〜60mgKOH/gである水分散物である、
複層塗膜形成方法、も提供する。
【0013】
上記方法は好ましくは、未硬化の中塗り塗膜を形成した後、水性ベース塗料組成物を塗装するまでの間に、プレヒートを行わないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水性中塗り塗料組成物は、アクリル樹脂エマルション(A)、ダイマー酸誘導体水分散物(B)および硬化剤(C)を含むことを特徴とする。そして本発明の水性中塗り塗料組成物は、ダイマー酸誘導体水分散物(B)を含むことによって、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、プレヒートを行うことなくウェットオンウェットで水性ベース塗料組成物を塗装しても、未硬化の中塗り塗膜とベース塗膜とが混じり合う混層などの不具合が生じず、平滑性に優れ、そして塗膜外観が良好である複層塗膜を得ることができるという利点がある。本発明の水性中塗り塗料組成物を用いることによって、中塗り塗装後のプレヒート工程を省略することができる。これにより、塗装工程における省エネルギー化およびCO排出量削減を図ることができ、さらに塗装設備の削減やメンテナンス費用の削減、塗装ラインの省スペース化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
水性中塗り塗料組成物
本発明の水性中塗り塗料組成物は、アクリル樹脂エマルション(A)、ダイマー酸誘導体水分散物(B)および硬化剤(C)を、水性媒体中に分散または溶解された状態で含む。この水性中塗り塗料組成物にはさらに、顔料および必要に応じた添加剤を含んでもよい。
【0016】
アクリル樹脂エマルション(A)
アクリル樹脂エマルション(A)を構成するアクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は−20℃〜60℃であるのが好ましく、−10℃〜50℃であるのがより好ましく、0℃〜40℃であるのがさらに好ましい。樹脂のTgが−20℃未満では塗膜の機械的強度が不足し、耐チッピング性が低下する。一方、樹脂のTgが60℃を超えると、塗膜が硬くて脆くなるため、耐衝撃性に欠け、耐チッピング性が低下する。上記アクリルエマルション(A)のTgは、構成するモノマーまたはホモポリマーの既知のTgおよび組成比に基づいて算出することができる。
【0017】
アクリル樹脂エマルション(A)を構成するアクリル樹脂の固形分酸価は2〜60mgKOH/gである。樹脂の固形分酸価が2mgKOH/g未満では、樹脂エマルションやそれを用いた水性中塗り塗料組成物の保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性などが低下し、また、メラミン樹脂などの硬化剤との硬化反応において、十分な硬化性が確保できず、塗膜の諸強度、耐チッピング性、耐水性が低下する。一方、樹脂の固形分酸価が60mgKOH/gを超えると、樹脂の重合安定性が低下したり、得られた塗膜の耐水性が低下する。アクリル樹脂の固形分酸価は、上記各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂の固形分酸価が上記範囲となるように選択することによって調整することができる。下記に詳述するが、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)の内でもカルボキシル基含有モノマーを用いることが重要であり、モノマー(ii)の内、カルボキシル基含有モノマーが50質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上含まれるのがより好ましい。アクリル樹脂エマルション(A)を構成するアクリル樹脂の固形分酸価は、5〜50mgKOH/gであるのが好ましい。
【0018】
アクリル樹脂エマルション(A)を構成するアクリル樹脂の固形分水酸基価は10〜120mgKOH/gである。固形分水酸基価が10mgKOH/g未満では、上記硬化剤との硬化反応において、十分な硬化性が確保できず、塗膜の機械的性質が低く、耐チッピング性が低下し、耐水性および耐溶剤性も低下する。一方、固形分水酸基価が120mgKOH/gを超えると、得られた塗膜の耐水性が低下したり、上記硬化剤との相溶性が低く、塗膜にひずみが生じ、硬化反応が不均一に起こり、その結果、塗膜の諸強度、特に耐チッピング性、耐溶剤性および耐水性が低下する。アクリル樹脂エマルション(A)を構成するアクリル樹脂の固形分水酸基価は20〜100mgKOH/gであるのが好ましい。
【0019】
上記アクリル樹脂の固形分酸価および固形分水酸基価は、使用したモノマー混合物の固形分酸価および固形分水酸基価に基づいて算出することができる。
【0020】
本発明の水性中塗り塗料組成物に含まれるアクリル樹脂エマルション(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)、および水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)を含むモノマー混合物を乳化重合して得ることができる。尚、モノマー混合物の成分として以下に例示される化合物(i)〜(iii)は、それぞれ1種のみを用いてもよく、または2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0021】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)はアクリル樹脂エマルション(A)の主骨格を構成するために使用する。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。本明細書中において、例えば、「(メタ)アクリル酸メチル」とは、アクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチルを表す。
【0022】
酸基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)は、得られるアクリル樹脂エマルション(A)の貯蔵安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性などの諸性能を向上させ、塗膜形成時におけるメラミン樹脂などの硬化剤との硬化反応を促進するために使用する。酸基は、カルボキシル基、スルホン酸基およびリン酸基などから選ばれることが好ましい。特に好ましい酸基は、上記諸安定性向上や硬化反応促進機能の観点から、カルボキシル基である。
【0023】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびフマル酸などが挙げられる。スルホン酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、p−ビニルベンゼンスルホン酸、p−アクリルアミドプロパンスルホン酸、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸などが挙げられる。リン酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸モノエステル、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートのリン酸モノエステルのライトエステルPM(共栄社化学社製)などが挙げられる。
【0024】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)は、水酸基に基づく親水性をアクリル樹脂エマルション(A)に付与し、これを塗料組成物として用いた場合における作業性や凍結に対する安定性を向上させると共に、硬化剤(C)として好適に用いることができるメラミン樹脂またはイソシアネート系硬化剤などとの硬化反応性を付与するために使用する。
【0025】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミド、アリルアルコール、ε−カプロラクトン変性アクリルモノマーなどが挙げられる。
【0026】
ε−カプロラクトン変性アクリルモノマーの具体例としては、ダイセル化学工業社製のプラクセルFA−1、プラクセルFA−2、プラクセルFA−3、プラクセルFA−4、プラクセルFA−5、プラクセルFM−1、プラクセルFM−2、プラクセルFM−3、プラクセルFM−4およびプラクセルFM−5などが挙げられる。
【0027】
アクリル樹脂エマルション(A)の調製に用いられるモノマー混合物は、上記モノマー(i)〜(iii)以外にも、任意成分として、スチレン系モノマー、(メタ)アクリロニトリルおよび(メタ)アクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含んでよい。スチレン系モノマーとしては、スチレンのほかにα−メチルスチレンなどが挙げられる。
【0028】
また、上記モノマー混合物は、カルボニル基含有エチレン性不飽和モノマー、加水分解重合性シリル基含有モノマー、種々の多官能ビニルモノマーなどの架橋性モノマーを含んでよい。これらの架橋性モノマーが含まれる場合、得られるアクリル樹脂エマルション(A)は自己架橋性を有する。
【0029】
カルボニル基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するアルキルビニルケトン(例えばメチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン)などのケト基を含有するモノマーが挙げられる。これらのうちジアセトン(メタ)アクリルアミドが好適である。
【0030】
加水分解重合性シリル基含有モノマーとしては、例えば、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル基を含有するモノマーが挙げられる。
【0031】
多官能ビニル系モノマーは、分子内に2つ以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物であり、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレートなどのジビニル化合物が挙げられ、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなども挙げられる。
【0032】
アクリル樹脂エマルション(A)は、上記(i)〜(iii)を含むモノマー混合物を乳化重合することによって調製することができる。乳化重合(乳化共重合)は、上記モノマー混合物を水性液中で、ラジカル重合開始剤および乳化剤の存在下で、攪拌下加熱することによって実施することができる。反応温度は例えば30〜100℃として、反応時間は例えば1〜10時間が好ましい。水と乳化剤を仕込んだ反応容器にモノマー混合物またはモノマープレ乳化液の一括添加または暫時滴下によって、反応温度の調節を行うことができる。
【0033】
ラジカル重合開始剤としては、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤を使用することができる。具体的には、水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、または4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸などのアゾ系化合物が、水溶液の形で使用される。また、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸などの還元剤とが組み合わされたいわゆるレドックス系開始剤を水溶液の形で使用するのが好ましい。
【0034】
乳化剤としては、炭素数が6以上の炭素原子を有する炭化水素基と、カルボン酸塩、スルホン酸塩または硫酸塩部分エステルなどの親水性部分とを同一分子中に有する両親媒性化合物から選ばれるアニオン系または非イオン系の乳化剤が用いられる。このうちアニオン系の乳化剤としては、アルキルフェノール類または高級アルコール類の硫酸半エステルのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩;アルキルまたはアリルスルホナートのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアリルエーテルの硫酸半エステルのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩などが挙げられる。また非イオン系の乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアリルエーテルなどが挙げられる。またこれら公知のアニオン系、ノニオン系乳化剤の他に、分子内にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する、すなわちアクリル系、メタクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系、マレイン酸系などの基を有する各種アニオン系、ノニオン系反応性乳化剤なども適宜、単独または2種以上の組み合わせで使用される。
【0035】
また乳化重合の際、メルカプタン系化合物、低級アルコールまたはα−メチルスチレンダイマーなどの分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)を、必要に応じて用いてもよい。これらの助剤(連鎖移動剤)を用いることは、乳化重合を進める観点から、また塗膜の円滑かつ均一な形成を促進し基材への接着性を向上させる観点から、好ましい場合が多い。
【0036】
また乳化重合としては、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法や、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法など、いずれの重合法も利用することができる。
【0037】
このようにして本発明で用いられるアクリル樹脂エマルション(A)が調製される。アクリル樹脂エマルション(A)を構成するアクリル樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、一般的に50,000〜1,000,000程度であるのが好ましく、100,000〜800,000程度であるのがより好ましい。本発明において、樹脂成分の重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定することができ、ポリスチレン標準による換算値によって算出することができる。
【0038】
こうして得られたアクリル樹脂エマルション(A)に対して、塩基性化合物を添加して、カルボン酸の一部または全量を中和することによりアクリル樹脂エマルション(A)の分散安定性を向上させてもよい。これら塩基性化合物としては、アンモニア類、各種アミン類、アルカリ金属などを用いることができる。
【0039】
ダイマー酸誘導体水分散物(B)
本発明の水性中塗り塗料組成物に含まれるダイマー酸誘導体水分散物(B)は、固形分酸価が5〜60mgKOH/gである。ダイマー酸誘導体水分散物(B)の固形分酸価が5mgKOH/g未満である場合は、ダイマー酸誘導体水分散物(B)の水分散性が劣ることとなり、水性中塗り塗料組成物の塗料組成物安定性が劣ることとなる。またダイマー酸誘導体水分散物(B)の固形分酸価が60mgKOH/gを超える場合は、水性中塗り塗料組成物を塗装後にプレヒートを行わずに水性ベース塗料組成物を塗装する場合により得られる複層塗膜の塗膜外観が劣ることとなる。ダイマー酸誘導体水分散物(B)の固形分酸価は10〜50mgKOH/gであるのがより好ましい。なお本発明において、ダイマー酸誘導体水分散物(B)の固形分酸価は、JIS K 5601−2−1に規定された方法に従って求めることができる。
【0040】
上記ダイマー酸誘導体水分散物(B)は、数平均分子量700〜7,000であるのが好ましい。ダイマー酸誘導体水分散物(B)の数平均分子量が700未満である場合は、ウェットオンウェット塗装における優れた混層防止性能を発揮できず、得られる複層塗膜の外観が低下するおそれがある。またダイマー酸誘導体水分散物(B)の数平均分子量が7,000を超える場合は、ダイマー酸誘導体水分散物(B)の水分散性が低下するおそれがある。なお本発明において、ダイマー酸誘導体水分散物(B)の数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定することができ、ポリスチレン標準による換算値によって算出することができる。
【0041】
本発明の水性中塗り塗料組成物に含まれるダイマー酸誘導体水分散物(B)は、(b−1)ダイマー酸還元ジオール、ダイマー酸還元ジオールとダイマー酸とを反応させて得られた、またはダイマー酸および/またはダイマー酸還元ジオールとジカルボン酸化合物および/またはジオール化合物とを反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物に、(b−2)親水基を有する酸無水物を反応させて得られる水分散物である。
【0042】
ダイマー酸誘導体水分散物(B)の調製には、(b−1)ダイマー酸還元ジオール、ダイマー酸還元ジオールとダイマー酸とを反応させて得られた、またはダイマー酸および/またはダイマー酸還元ジオールとジカルボン酸化合物および/またはジオール化合物とを反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物、が用いられる。ここでダイマー酸は、一般に乾性油または半乾性油などから得られる不飽和脂肪酸の付加反応によって製造される脂肪酸誘導体であり、脂肪酸の二量体を主成分としている。ダイマー酸の主な例は、C18不飽和脂肪酸の付加によって得られるC36二塩基酸などを主成分とするものである。但し、このダイマー酸の構造は単一ではなく、非環、単環および多環の混合物である。また、市販のダイマー酸には、少量のモノマー酸、トリマー酸などが含まれる場合もある。ダイマー酸の原料となる脂肪酸としては、トール油、大豆油、ヤシ油、ひまし油、パーム油または米ぬか油などの植物油系脂肪酸、および牛脂系脂肪酸または豚脂系脂肪酸などの動物油系脂肪酸などが挙げられる。
【0043】
また、ダイマー酸還元ジオールは、上記ダイマー酸が有する、脂肪酸に由来するカルボン酸基を、当業者において通常用いられる方法で水酸基に還元した化合物をいう。
【0044】
ダイマー酸誘導体水分散物(B)の調製に用いられる上記(b−1)は、ダイマー酸骨格を有し、かつ、両末端に水酸基を有する化合物である。上記(b−1)は、具体的には、
・ダイマー酸還元ジオール、
・ダイマー酸およびダイマー酸還元ジオールを反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物、
・ダイマー酸およびジオール化合物を反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物、
・ダイマー酸還元ジオールおよびジカルボン酸化合物を反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物、
・ダイマー酸、ジカルボン酸化合物およびジオール化合物を反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物、
・ダイマー酸還元ジオール、ジカルボン酸化合物およびジオール化合物を反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物、
・ダイマー酸、ダイマー酸還元ジオールおよびジカルボン酸化合物を反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物、
・ダイマー酸、ダイマー酸還元ジオールおよびジオール化合物を反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物、
・ダイマー酸、ダイマー酸還元ジオール、ジカルボン酸化合物およびジオール化合物を反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物、
から選択される1種またはそれ以上であるのが好ましい。
【0045】
上記ジオール化合物として、例えば、アルキレンジオール、ポリエーテルジオール、ポリカプロラクトンジオールなどが挙げられる。このようなジオール化合物の具体例として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、プロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,4−および1,3−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなどが挙げられる。
【0046】
上記ジカルボン酸化合物として、例えば、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。このようなジカルボン酸化合物の具体例として、例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラクロロフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アゼライン酸、1,10−デカンジカルボン酸などが挙げられる。
【0047】
上記(b−1)のダイマー酸還元ジオールまたは上記両末端に水酸基を有する反応物として、市販の化合物を用いてもよい。ダイマー酸還元ジオールとして、例えばCroda社製のPripol 2033(数平均分子量540、固形分水酸基価208mgKOH/g)、Cognis社製のSovermol 908(数平均分子量544、固形分水酸基価206mgKOH/g)などが挙げられる。また上記両末端に水酸基を有する反応物として、Croda社のPriplast 3172(数平均分子量3,000、固形分水酸基価37mgKOH/g)、Priplast 3192(数平均分子量2,000、固形分水酸基価56mgKOH/g)、Priplast 3162(数平均分子量1,000、固形分水酸基価112mgKOH/g)などが挙げられる。
【0048】
ダイマー酸誘導体水分散物(B)は、上記(b−1)のダイマー酸還元ジオールまたは上記両末端に水酸基を有する反応物と、親水基を有する酸無水物(b−2)とを反応させて得られる。上記(b−1)のダイマー酸還元ジオールまたは上記両末端に水酸基を有する反応物は、いずれも疎水性化合物であり、水分散性は低い。ここで、上記(b−1)のダイマー酸還元ジオールまたは上記両末端に水酸基を有する反応物と、親水基を有する酸無水物(b−2)とを反応させることによって、水分散性が付与されることとなる。より詳しくは、(b−1)の化合物が有する水酸基と、親水基を有する酸無水物(b−2)が有する酸無水基とが反応し、そしてこの反応により、(b−1)の化合物の末端に、(b−2)の親水基と、そして(b−2)が有していた無水酸基の開裂により生じたカルボン酸基が存在することとなる。そしてこれらの基が導入されることによって、水分散性が向上する。
【0049】
親水基を有する酸無水物(b−2)の親水基は酸基であるのが好ましく、カルボン酸基であるのが特に好ましい。
【0050】
親水基を有する酸無水物(b−2)の例として、脂肪族トリカルボン酸無水物、芳香族トリカルボン酸無水物などが挙げられる。このような親水基を有する酸無水物(b−2)の具体例として、例えば、3−カルボキシメチルグルタル酸無水物、1,2,4−ブタントリカルボン酸−1,2−無水物、cis−プロペン−1,2,3−トリカルボン酸−1,2−無水物、1,3,4−シクロペンタントリカルボン酸無水物、ベンゼントリカルボン酸無水物(1,2,3−ベンゼントリカルボン酸無水物、トリメリット酸無水物(1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物)など)、ナフタレントリカルボン酸無水物(1,2,4−ナフタレントリカルボン酸無水物、1,4,5−ナフタレントリカルボン酸無水物、2,3,6−ナフタレントリカルボン酸無水物、1,2,8−ナフタレントリカルボン酸無水物など)、3,4,4’−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、3,4,4’−ビフェニルエーテルトリカルボン酸無水物、3,4,4’−ビフェニルトリカルボン酸無水物、2,3,2’−ビフェニルトリカルボン酸無水物、3,4,4’−ビフェニルメタントリカルボン酸無水物、3,4,4’−ビフェニルスルホントリカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0051】
ダイマー酸誘導体水分散物(B)は、固形分水酸基価20〜200mgKOH/gであるのが好ましい。このダイマー酸誘導体水分散物(B)の固形分水酸基価は、ダイマー酸誘導体水分散物(B)の固形分酸価および分子量に依存して変化することとなる物性値である。固形分水酸基価が20mgKOH/g未満である場合は、ダイマー酸誘導体水分散物(B)の水分散性が低下するおそれがある。固形分水酸基価が200mgKOH/gを超える場合は、ウェットオンウェット塗装における優れた混層防止性能を発揮できず、得られる複層塗膜の外観が低下するおそれがある。
【0052】
本発明の水性中塗り塗料組成物は、上記ダイマー酸誘導体水分散物(B)が含まれることによって、この水性中塗り塗料組成物を塗装して未硬化の水性中塗り塗膜を得た後、プレヒート工程を行うことなく、水性ベース塗料組成物をウェットオンウェット塗装する場合であっても、未硬化の中塗り塗膜とベース塗膜とが混じり合う混層などの不具合が生じず、かつ優れた外観を有する複層塗膜を得ることができるという利点がある。このように、ダイマー酸誘導体水分散物(B)が含まれることによってプレヒート工程が不要となる理由として、理論に拘束されるものではないが、ダイマー酸誘導体水分散物(B)が有するダイマー酸部分が、未硬化の水性中塗り塗膜中において擬似的に結晶状態を形成し、そしてこれにより疎水性が発揮され、これにより未硬化の中塗り塗膜とベース塗膜との間に生じうる水および有機溶剤の移動を防止し、混層を防止する効果が発揮されるためと考えられる。
【0053】
硬化剤(C)
本発明の水性中塗り塗料組成物は硬化剤(C)を含む。この硬化剤(C)は、上記アクリル樹脂エマルション(A)と硬化反応を生じ、水性中塗り塗料組成物中に配合することができるものであれば、特に限定されずに用いることができる。硬化剤(C)として、例えば、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート樹脂、オキサゾリン系化合物あるいはカルボジイミド系化合物などが挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
メラミン樹脂としては特に限定されず、硬化剤として通常用いられるものを使用することができる。メラミン樹脂として、例えば、アルキルエーテル化したアルキルエーテル化メラミン樹脂が好ましく、メトキシ基および/またはブトキシ基で置換されたメラミン樹脂がより好ましい。このようなメラミン樹脂としては、メトキシ基を単独で有するものとして、サイメル325、サイメル327、サイメル370、マイコート723 ; メトキシ基とブトキシ基との両方を有するものとして、サイメル202、サイメル204、サイメル211、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル251、サイメル254、サイメル266、サイメル267、サイメル285(いずれも商品名、日本サイテックインダストリーズ社製);ブトキシ基を単独で有するものとして、マイコート506(商品名、三井サイテック社製)、ユーバン20N60、ユーバン20SE(いずれも商品名、三井化学社製)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、サイメル211、サイメル251、サイメル285、サイメル325、サイメル327、マイコート723がより好ましい。
【0055】
ブロックイソシアネート樹脂は、ポリイソシアネート化合物を適当なブロック剤でブロックしたものである。上記ポリイソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)などの脂肪族ジイソシアネート類;イソホロンジイソシアネート(IPDI)などの脂環族ジイソシアネート類;キシリレンジイソシアネート(XDI)などの芳香族−脂肪族ジイソシアネート類;トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などの芳香族ジイソシアネート類;ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、水素化されたTDI(HTDI)、水素化されたXDI(H6XDI)、水素化されたMDI(H12MDI)などの水素添加ジイソシアネート類、および以上のジイソシアネート類のアダクト体およびヌレート体などを挙げることができる。さらに、これらの1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0056】
ポリイソシアネート化合物をブロックするブロック剤としては、特に限定されず、例えば、メチルエチルケトオキシム、アセトキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;m−クレゾール、キシレノールなどのフェノール類;ブタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのアルコール類;ε−カプロラクタムなどのラクタム類;マロン酸ジエチル、アセト酢酸エステルなどのジケトン類;チオフェノールなどのメルカプタン類;チオ尿酸などの尿素類;イミダゾール類;カルバミン酸類などを挙げることができる。なかでも、オキシム類、フェノール類、アルコール類、ラクタム類、ジケトン類が好ましい。
【0057】
オキサゾリン系化合物は、2個以上の2−オキサゾリン基を有する化合物であることが好ましく、例えば、下記のオキサゾリン類やオキサゾリン基含有重合体などを挙げることができる。これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。オキサゾリン系化合物は、アミドアルコールを触媒の存在下で加熱して脱水環化する方法、アルカノールアミンとニトリルとから合成する方法、またはアルカノールアミンとカルボン酸とから合成する方法などを用いることによって得られる。
【0058】
オキサゾリン類としては、例えば、2,2’−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2、2’−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィドなどが挙げられる。これらの1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0059】
オキサゾリン基含有重合体は、付加重合性オキサゾリンおよび必要に応じて少なくとも1種の他の重合性単量体を重合したものである。付加重合性オキサゾリンとしては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンなどを挙げることができる。これらの1種または2種以上が適宜組み合わされて使用される。中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0060】
付加重合性オキサゾリンの使用量は特に限定されるものではないが、オキサゾリン基含有重合体中、1質量%以上であることが好ましい。1質量%未満の量では硬化の程度が不十分となる傾向にあり、得られる塗膜の耐久性、耐水性などが損なわれる傾向にある。
【0061】
他の重合性単量体としては、付加重合性オキサゾリンと共重合可能で、かつ、オキサゾリン基と反応しない単量体であれば特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどの不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどのハロゲン化α,β−不飽和単量体類;スチレン、α−メチルスチレンなどのα,β−不飽和芳香族単量体類などが挙げられる。これらの1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0062】
オキサゾリン基含有重合体は付加重合性オキサゾリンおよび必要に応じて少なくとも1種の他の重合性単量体を、従来公知の重合法、例えば懸濁重合、溶液重合、乳化重合などにより製造できる。上記オキサゾリン基含有化合物の供給形態は、有機溶剤溶液、水溶液、非水ディスパーション、エマルションなどが挙げられるが、特にこれらの形態に限定されない。
【0063】
カルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができるが、基本的には有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応によりイソシアネート末端ポリカルボジイミドを合成して得られたものを挙げることができる。より具体的には、ポリカルボジイミド化合物の製造において、1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するポリカルボジイミド化合物と、分子末端に水酸基を有するポリオールとを、上記ポリカルボジイミド化合物のイソシアネート基のモル量が上記ポリオールの水酸基のモル量を上回る比率で反応させる工程と、上記工程で得られた反応生成物に、活性水素および親水性部分を有する親水化剤を反応させる工程とにより得られた親水化変性カルボジイミド化合物が好ましいものとして挙げることができる。
【0064】
1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するカルボジイミド化合物としては、特に限定されないが、反応性の観点から、両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物であることが好ましい。両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物の製造方法は当業者によってよく知られており、例えば、有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応を利用することができる。
【0065】
本発明で用いる水性中塗り塗料組成物は、上記成分(A)〜(C)に加えて、例えば、追加の樹脂成分、顔料分散ペースト、増粘剤、その他の添加剤成分などを含んでもよい。
【0066】
上記追加の樹脂成分としては特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、カーボネート樹脂およびエポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0067】
顔料分散ペーストは、顔料と顔料分散剤とを少量の水性媒体に予め分散して得られる。顔料分散剤は、顔料親和部分および親水性部分を含む構造を有する樹脂である。顔料親和部分および親水性部分としては、例えば、ノニオン性、カチオン性およびアニオン性の官能基を挙げることができる。顔料分散剤は、1分子中に上記官能基を2種類以上有していてもよい。
【0068】
ノニオン性官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミド基、ポリオキシアルキレン基などが挙げられる。カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基などが挙げられる。また、アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。このような顔料分散剤は、当業者にとってよく知られた方法によって製造することができる。
【0069】
顔料分散剤としては、少量の顔料分散剤によって効率的に顔料を分散することができるものが好ましい。顔料分散剤として、例えば、市販されているもの(以下、いずれも商品名)を使用することもでき、具体的には、アニオン・ノニオン系分散剤であるDisperbyk 190、Disperbyk 181、Disperbyk 182、Disperbyk 184(いずれもビックケミー社製)、EFKAPOLYMER4550(EFKA社製)、ノニオン系分散剤であるソルスパース27000(アビシア社製)、アニオン系分散剤であるソルスパース41000、ソルスパース53095(いずれもアビシア社製)などを挙げることができる。
【0070】
顔料分散剤の数平均分子量は、1,000〜100,000であることが好ましい。1,000未満であると、分散安定性が充分ではない場合があり、100,000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となる場合がある。より好ましくは、2,000〜50,000であり、更に好ましくは、4,000〜50,000である。
【0071】
上記顔料分散ペーストは、顔料分散剤と顔料とを公知の方法に従って混合分散することにより得ることができる。顔料分散ペースト製造時の顔料分散剤の割合は、顔料分散ペーストの固形分に対して、1〜20質量%であることが好ましい。1質量%未満であると、顔料を安定に分散しにくく、20質量%を超えると、得られる塗膜の物性が劣る場合がある。好ましくは、5〜15質量%である。
【0072】
顔料としては、通常の水性塗料組成物に使用される顔料であれば特に限定されないが、耐候性を向上させ、かつ隠蔽性を確保する点から、着色顔料であることが好ましい。特に二酸化チタンは着色隠蔽性に優れ、しかも安価であることから、より好ましい。
【0073】
二酸化チタン以外の顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、金属錯体顔料などの有機系着色顔料;黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラックなどの無機着色顔料などが挙げられる。これら顔料に、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクなどの体質顔料を併用してもよい。
【0074】
また顔料として、カーボンブラックと二酸化チタンとを主要顔料とした標準的なグレーの塗料組成物を用いることもできる。他にも、上塗り塗料組成物と明度または色相などを合わせた塗料組成物や各種の着色顔料を組み合わせた塗料組成物を用いることもできる。
【0075】
顔料は、水性中塗り塗料組成物中に含まれる全ての樹脂の固形分および顔料の合計質量に対する顔料の質量の比(PWC;pigment weight content)が、10〜60質量%であることが好ましい。10質量%未満では、隠蔽性が低下するおそれがある。60質量%を超えると、硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が低下することがある。
【0076】
増粘剤としては特に限定されないが、例えば、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、市販されているもの(以下、いずれも商品名)としては、チローゼMHおよびチローゼH(いずれもヘキスト社製)などのセルロース系のもの;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、市販されているもの(以下、いずれも商品名)としては、プライマルASE−60、プライマルTT−615、プライマルRM−5(いずれもローム&ハース社製)、ユーカーポリフォーブ(ユニオンカーバイト社製)などのアルカリ増粘型のもの;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、市販されているもの(以下、いずれも商品名)としては、アデカノールUH−420、アデカノールUH−462、アデカノールUH−472、UH−540、アデカノールUH−814N(いずれも旭電化工業社製)、プライマルRH−1020(ローム&ハース社製)、クラレポバール(クラレ社製)などの会合型のものを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
増粘剤を含有することにより、水性中塗り塗料組成物の粘度を高くすることができ、水性中塗り塗料組成物を塗装する際に、タレが発生することを抑制することができる。また、中塗り塗膜とベース塗膜との間での混層をより抑制することができる。その結果、増粘剤を含まない場合に比べて、塗装時の塗装作業性が向上し、得られる塗膜の仕上がり外観を優れたものとすることができる。
【0078】
増粘剤の含有量は、上記水性中塗り塗料組成物の樹脂固形分(水性中塗り塗料組成物に含まれる全ての樹脂の固形分)に対して、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましい。0.01質量%未満であると、増粘効果が得られず、塗装時のタレが発生するおそれがあり、20質量%を超えると、外観および得られる塗膜の諸性能が低下するおそれがある。
【0079】
その他の添加剤としては、上記成分の他に通常添加される添加剤、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、表面調整剤、ピンホール防止剤などが挙げられる。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0080】
本発明の水性中塗り塗料組成物は、上述のアクリル樹脂エマルション(A)、ダイマー酸誘導体水分散物(B)、硬化剤(C)、そして必要に応じた他の成分などを混合して調製される。
アクリル樹脂エマルション(A)、ダイマー酸誘導体水分散物(B)および硬化剤(C)の量は、樹脂固形分質量比で、
アクリル樹脂エマルション(A)1〜60質量%、より好ましくは15〜50質量%、
ダイマー酸誘導体水分散物(B)1〜40質量%、より好ましくは10〜40質量%、および
硬化剤(C)5〜80質量%、より好ましくは10〜70質量%、
であるのが好ましい。
アクリル樹脂エマルション(A)の量が60質量%を超える場合は、得られる塗膜の外観が低下するおそれがある。
アクリル樹脂エマルション(A)の量が1質量%未満である場合は、塗装作業性が低下するおそれがある。
ダイマー酸誘導体水分散物(B)の量が40質量%を超える場合は、得られる塗膜の耐チッピング性が低下するおそれがある。
ダイマー酸誘導体水分散物(B)の量が1質量%未満である場合は、ウェットオンウェット塗装における混層防止性能が発揮できず、得られる塗膜の外観が低下するおそれがある。
硬化剤(C)の量が80質量%を超える場合は、得られる塗膜の耐チッピング性が低下するおそれがある。
硬化剤(C)の量が5質量%未満である場合は、得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0081】
必要に応じて用いることのできる、追加の樹脂成分、顔料分散ペーストやその他の添加剤は、適量で混合することができる。但し、追加の樹脂成分は、水性中塗り塗料組成物用組成物中に含まれる全ての樹脂の固形分を基準として、50質量%以下の割合で配合することが好ましい。50質量%を超えて配合した場合は、塗料組成物中の固形分濃度を高くすることが困難になるため、好ましくない。
【0082】
これら成分を加える順番は、アクリル樹脂エマルション(A)およびダイマー酸誘導体水分散物(B)に硬化剤(C)を加える前であってもよく、また硬化剤を加えた後であってもよい。なお本発明の水性中塗り塗料組成物は、水性であれば形態は特に限定されず、例えば、水溶性、水分散型、水性エマルションなどの形態が挙げられる。
【0083】
水性ベース塗料組成物
本発明の方法で用いる水性ベース塗料組成物として、自動車車体の塗装において通常用いられる水性ベース塗料組成物を用いることができる。このような水性ベース塗料組成物として、例えば、水性媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成樹脂、硬化剤、光輝性顔料、着色顔料や体質顔料などの顔料、各種添加剤などを含むものを挙げることができる。塗膜形成樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、カーボネート樹脂およびエポキシ樹脂などを使用することができる。顔料分散性や作業性の点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂を含む塗膜形成樹脂と、メラミン樹脂を含む硬化剤との組み合わせが好ましい。
【0084】
水性ベース塗料組成物中に含まれる顔料濃度(PWC)は、一般的には、0.1〜50質量%であり、より好ましくは、0.5〜40質量%であり、更に好ましくは、1〜30質量%である。上記顔料濃度が0.1質量%未満であると、顔料による効果が得られず、50質量%を超えると、得られる塗膜の外観が低下するおそれがある。
【0085】
水性ベース塗料組成物は、中塗り塗料組成物と同様の方法によって調製することができる。また、水性ベース塗料組成物は、水性であれば形態は特に限定されず、例えば、水溶性、水分散型、水性エマルションなどの形態であればよい。
【0086】
クリヤー塗料組成物
本発明の方法で用いるクリヤー塗料組成物として、自動車車体用クリヤー塗料組成物として通常用いられている塗料組成物を用いることができる。このようなクリヤー塗料組成物として、例えば、媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成性樹脂、そして必要に応じた硬化剤およびその他の添加剤を含むものを挙げることができる。塗膜形成性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらはアミノ樹脂および/またはイソシアネート樹脂などの硬化剤と組み合わせて用いることができる。透明性または耐酸エッチング性などの点から、アクリル樹脂および/もしくはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、または、カルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/もしくはポリエステル樹脂などを用いることが好ましい。
【0087】
クリヤー塗料組成物の塗料組成物形態としては、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルション)、非水分散型、粉体型のいずれであってもよい。また、クリヤー塗料組成物は、必要に応じて硬化触媒、表面調整剤、粘性制御剤、紫外線吸収剤、光安定剤などを含んでもよい。
【0088】
複層塗膜形成方法
本発明の複層塗膜形成方法は、下記工程:
硬化電着塗膜の上に、水性中塗り塗料組成物を塗装して、未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
得られた未硬化の中塗り塗膜の上に、水性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を順次ウェットオンウェットで塗装し、未硬化のベース塗膜およびクリヤー塗膜を形成する工程、
得られた未硬化の中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる工程、
を包含する方法である。
【0089】
本発明の複層塗膜の形成方法では、まず、硬化電着塗膜が形成された被塗物を提供する。硬化電着塗膜は、被塗物に対して電着塗料組成物を電着塗装し、焼き付け硬化することによって形成される。被塗物は、電着塗装可能な素材であれば特に制限されない。例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛およびこれらの金属を含む合金、並びに、これらの金属によるメッキまたは蒸着製品などを挙げることができる。
【0090】
電着塗料組成物は、特に限定されるものではなく公知のカチオン電着塗料組成物またはアニオン電着塗料組成物を使用することができる。また、電着塗装および焼き付けは、自動車車体を電着塗装するのに通常用いられる方法および条件で行うことができる。
【0091】
次いで、硬化電着塗膜の上に水性中塗り塗料組成物を塗布して、未硬化の中塗り塗膜を形成する。中塗り塗料組成物は、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと言われる回転霧化式の静電塗装機などを用いてスプレーして塗布することができる。
【0092】
塗布量は、硬化後の塗膜の膜厚が5〜40μm、好ましくは10〜30μmになるように調節する。膜厚が5μm未満であると得られる塗膜の外観および耐チッピング性が低下するおそれがあり、40μmを超えると塗装時のタレや焼付け硬化時のピンホールなどの不具合が起こることがある。
【0093】
本発明の複層塗膜形成方法においては、水性中塗り塗料組成物を塗装して得られた中塗り塗膜を加熱硬化させることなく、次の水性ベース塗料組成物を塗装する。そして本発明の複層塗膜形成方法においては、未硬化の中塗り塗膜を形成した後、水性ベース塗料組成物を塗装するまでの間に、プレヒートを行わずにウェットオンウェット塗装することができるという利点がある。
【0094】
従来のウェットオンウェット塗装においては、未硬化の中塗り塗膜は、水性ベース塗料組成物を塗布する前に、加熱によって乾燥させるプレヒート工程が一般に行われていた。プレヒート工程が行われていた理由は、未硬化の中塗り塗膜中に残存した水が複層塗膜を焼き付ける工程で突沸を起こし、ワキの発生が生じやすいこと、そして未硬化の中塗り塗膜上に水性ベース塗料組成物を塗装した際に中塗り塗膜とベース塗膜とが混ざりあって混層が生じ、これにより得られる複層塗膜の塗膜外観が低下してしまうためである。このようなプレヒート工程としては、例えば80℃程の温度で1〜10分間乾燥させる工程などが行われていた。
【0095】
本発明においては、ダイマー酸誘導体水分散物(B)が含まれる上記水性中塗り塗料組成物を用いて塗装することによって、水性中塗り塗料組成物を塗装して未硬化の水性中塗り塗膜を得た後、上記のようなプレヒート工程を行うことなく、水性ベース塗料組成物をウェットオンウェット塗装することができるという利点がある。ここで「プレヒート工程を行うことなく」とは、例えば、水性中塗り塗料組成物を室温(例えば10〜30℃)で塗装した後、0〜30分以内で、水性ベース塗料組成物を塗装する態様が挙げられる。本発明におけるこのような性能は、ダイマー酸誘導体水分散物(B)が有するダイマー酸部分が、未硬化の水性中塗り塗膜中において擬似的に結晶状態を形成して疎水性が発揮され、これにより未硬化の中塗り塗膜とベース塗膜との間に生じうる水および有機溶剤の移動を防止し、混層を防止する効果が発揮されるためと考えられる。
【0096】
上記により得られた未硬化の中塗り塗膜の上に、水性ベース塗料組成物を塗装して、未硬化のベース塗膜を形成する。水性ベース塗料組成物は、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」などと言われる回転霧化式の静電塗装機などを用いてスプレーして塗布することができる。
【0097】
水性ベース塗料組成物は、通常、塗膜の硬化後の膜厚が5〜30μmとなるように塗布量が調節される。硬化後の膜厚が5μm未満である場合、下地の隠蔽が不充分になったり、色ムラが発生するおそれがあり、また、30μmを超える場合、塗装時にタレや、加熱硬化時にピンホールが発生したりするおそれがある。
【0098】
次いで、得られたベース塗膜の上に、クリヤー塗料組成物を塗装する。クリヤー塗料組成物は、その塗料形態に応じた塗装方法を用いて塗装することができる。クリヤー塗料組成物は、通常、塗膜の乾燥硬化後の膜厚が10〜70μmとなるように塗布量が調節される。硬化後の膜厚が10μm未満であると複層塗膜のつや感などの外観が低下するおそれがある。一方で膜厚が70μmを超えると、鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、タレなどの不具合が生じるおそれがある。なお、ベース塗膜形成後に、例えば40〜100℃で2〜10分間プレヒートすることによって、より良好な仕上がり外観を得ることができ、好ましい。
【0099】
次いで、得られた未硬化の中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を焼き付け硬化させる。焼き付けは、通常110〜180℃、好ましくは120〜160℃の温度に加熱して行われる。これにより、高い架橋度の硬化塗膜を得ることができる。加熱温度が110℃未満であると、硬化が不十分になる傾向があり、180℃を超えると、得られる塗膜が固く脆くなるおそれがある。加熱する時間は、上記温度に応じて適宜設定することができるが、例えば、温度が120〜160℃である場合、10〜60分間である。
【0100】
本発明の複層塗膜形成方法によって得られる複層塗膜は、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、プレヒートを行うことなくウェットオンウェットで水性ベース塗料組成物を塗装しても、平滑性が高くそして塗膜外観が良好である複層塗膜を得ることができるという利点がある。そのため、中塗り塗装後のプレヒート工程を行う必要がなく、塗装工程における省エネルギー化およびCO排出量削減を図ることができ、さらに塗装設備費用および塗装ラインスペース上における利点もある。
【実施例】
【0101】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0102】
製造例1 アクリル樹脂エマルション(A−1)の製造
攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器および窒素導入管などを備えた通常のアクリル系樹脂エマルション製造用の反応容器に、水445部およびニューコール293(日本乳化剤社製)5部を仕込み、攪拌しながら75℃に昇温した。メタクリル酸メチル145部、スチレン50部、アクリル酸エチル220部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル70部およびメタクリル酸15部を含むモノマー混合物、水240部およびニューコール293(日本乳化剤社製)30部の混合物を、ホモジナイザーを用いて乳化し、そのモノマープレ乳化液を上記反応容器中に3時間にわたって攪拌しながら滴下した。モノマープレ乳化液の滴下と併行して、重合開始剤としてAPS(過硫酸アンモニウム)1部を水50部に溶解した水溶液を、上記反応容器中に上記モノマープレ乳化液の滴下終了時まで均等に滴下した。モノマープレ乳化液の滴下終了後、さらに80℃で1時間反応を継続し、その後、冷却した。冷却後、ジメチルアミノエタノール2部を水20部に溶解した水溶液を投入し、固形分濃度40.6質量%の水性アクリル樹脂エマルション(A−1)を得た。
得られたアクリル樹脂エマルションは、固形分酸価20mgKOH/g、固形分水酸基価60mgKOH/g、Tg30℃であった(固形分濃度:JIS K 5601−1−2 加熱残分測定方法に従って測定)。
【0103】
製造例2 顔料分散ペーストの製造
分散剤であるDisperbyk 190(ビックケミー社製ノニオン・アニオン系分散剤)4.5部、消泡剤であるBYK−011(ビックケミー社製消泡剤)0.5部、イオン交換水22.9部、二酸化チタン72.1部を予備混合した後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で粒度5μm以下となるまで混合分散し、顔料分散ペーストを得た。
【0104】
製造例3 ダイマー酸誘導体水分散物(B−1)の製造
攪拌機、温度計、環流冷却器および窒素導入管などを備えた通常のポリエステル系樹脂製造用反応容器に、Priplast3172(Croda社製ダイマー酸還元ジオール、数平均分子量3,000、固形分水酸基価37mgKOH/g)120部、無水トリメリット酸7.6部を仕込み、撹拌しながら135℃に昇温した。
無水トリメリット酸の反応完了後、90℃まで冷却した。冷却後、ジメチルアミノエタノール6部とイオン交換水185部とを加え、固形分濃度37%のダイマー酸誘導体水分散物(B−1)を得た。
得られたダイマー酸誘導体水分散物(B−1)は、固形分酸価35mgKOH/g、固形分水酸基価18mgKOH/gであった。
【0105】
製造例4 ダイマー酸誘導体を含まないポリエステル樹脂水分散物(B−2)の製造
攪拌機、温度計、環流冷却器および窒素導入管などを備えた通常のポリエステル系樹脂製造用反応容器に、イソフタル酸19部、ヘキサヒドロフタル酸無水物36部、トリメチロールプロパン7部、ネオペンチルグリコール12部、1,6−ヘキサンジオール26部、触媒としてジブチル錫オキサイド0.1部を仕込み、150℃から230℃まで3時間かけて昇温し、230℃で5時間程度保持した。
135℃まで冷却後、無水トリメリット酸7.7部を加え1時間撹拌することで、固形分酸価50mgKOH/g、固形分水酸基価45mgKOH/g、数平均分子量2500のポリエステル樹脂を得た。90℃まで冷却し、ジメチルエタノールアミン7.3部とイオン交換水225部とを加え、固形分濃度30%のポリエステル樹脂水分散体(B−2)を得た。
【0106】
実施例1
水性中塗り塗料組成物(1)の調製
上記製造例2より得られた顔料分散ペースト206.6部、上記製造例1より得られたアクリル樹脂エマルション45.0部、上記製造例3より得られたダイマー酸誘導体水分散物(B−1)98.6部、および硬化剤としてサイメル211(日本サイテックインダストリーズ社製メラミン樹脂、不揮発分80%)78.7部を混合した後、アデカノールUH−814N(ADEKA社製ウレタン会合型増粘剤、有効成分30%)1.5部を混合撹拌し、水性中塗り塗料組成物(1)を得た。
【0107】
複層塗膜の形成
リン酸亜鉛処理したダル鋼板に、パワーニクス110(日本ペイント社製カチオン電着塗料組成物)を、乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間の加熱硬化後冷却して、硬化電着塗膜を形成した。
【0108】
硬化電着塗膜を形成した基板に、上記水性中塗り塗料組成物(1)を、室温で、エアースプレー塗装にて20μm塗装し、未硬化の水性中塗り塗膜を得た。その後すぐに(プレヒートオーブンに入れることなく)、アクアレックスAR−2000シルバーメタリック(日本ペイント社製水性メタリックベース塗料組成物)をエアースプレー塗装にて10μm塗装し、そして80℃で3分プレヒートを行った。更に、その塗板にクリヤー塗料組成物として、マックフロー O−1800W−2クリヤー(日本ペイント社製酸エポキシ硬化型クリヤー塗料組成物)をエアースプレー塗装にて35μm塗装した後、140℃で30分間の加熱硬化を行い、複層塗膜を有する試験片を得た。
【0109】
なお、上記水性中塗り塗料組成物、水性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物は、下記条件で希釈し、塗装に用いた。
【0110】
・水性中塗り塗料組成物
希釈溶媒:イオン交換水
40秒/NO.4フォードカップ/20℃
【0111】
・水性メタリックベース塗料組成物
希釈溶媒:イオン交換水
45秒/NO.4フォードカップ/20℃
【0112】
・クリヤー塗料組成物
希釈溶媒:EEP(エトキシエチルプロピオネート)/S−150(エクソン社製芳香族系炭化水素溶剤)=1/1(質量比)の混合溶剤
30秒/NO.4フォードカップ/20℃
【0113】
比較例1 ダイマー酸誘導体水分散物を含まない水性中塗り塗料組成物の調製および複層塗膜の形成
実施例1において(B−1)の代わりに、製造例4より得られたポリエステル樹脂水分散体(B−2)を用いる以外は、同様の操作にて水性中塗り塗料組成物(2)を得た。得られた水性中塗り塗料組成物を用いて、実施例1と同様の手順により、複層塗膜を有する試験片を得た。
【0114】
参考例 複層塗膜の形成
比較例1により調製された水性中塗り塗料組成物(2)を用いて複層塗膜を形成した。複層塗膜の形成において、水性中塗り塗料組成物(2)をエアースプレー塗装にて20μm塗装した後、アクアレックスAR−2000シルバーメタリックを塗装する前に、80℃で3分間プレヒート行ったこと以外は、実施例1と同様の手順により、複層塗膜を有する試験片を得た。
【0115】
上記より得られた複層塗膜を有する試験片を用いて、下記評価を行った。
【0116】
複層塗膜の平滑性評価
ウエーブスキャン DOI(BYK Gardner社製)により、ショートウエーブ値(SW値)を求めた。このSW値は、値が大きい程、塗膜の表面の粗さが粗いことを意味する。なお、SW値の値は下記基準により評価することができる。
○ : ショートウエーブ値が20以下
△ : ショートウエーブ値が21以上30以下
× : ショートウエーブ値が31以上
【0117】
【表1】

【0118】
実施例で用いた水性中塗り塗料組成物は、中塗り塗料組成物塗装後に、プレヒートを行うことなく水性ベース塗料を塗装しても、表面平滑性に優れており、かつ塗膜外観が良好である複層塗膜を得ることができた。
一方で、比較例1によって調製された水性中塗り塗料組成物を用いる場合は、中塗り塗料組成物塗装後に、プレヒートを行うことなく水性ベース塗料を塗装した場合は、得られる複層塗膜の表面平滑性が劣っており、塗膜外観も劣ることが確認できる。
参考例は、比較例1で用いた水性中塗り塗料組成物を用いて、中塗り塗料組成物塗装後に、プレヒートを行って複層塗膜を形成した例である。この参考例と実施例を比較することによって、実施例により得られた複層塗膜は、中塗り塗料組成物塗装後にプレヒートを行わなくても、プレヒートを行った場合と同等の塗膜外観が達成されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の水性中塗り塗料組成物は、アクリル樹脂エマルション(A)、ダイマー酸誘導体水分散物(B)および硬化剤(C)を含むことを特徴とする。そして本発明の水性中塗り塗料組成物を用いることによって、水性中塗り塗料組成物を塗装した後、プレヒートを行うことなくウェットオンウェットで水性ベース塗料組成物を塗装しても、平滑性が高くそして塗膜外観が良好である複層塗膜を得ることができるという利点がある。そのため、中塗り塗装後のプレヒート工程を行う必要がなく、塗装工程における省エネルギー化およびCO排出量削減を図ることができ、さらに塗装設備費用および塗装ラインスペース上における利点もある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂エマルション(A)、ダイマー酸誘導体水分散物(B)、および硬化剤(C)を含む、水性中塗り塗料組成物であって、
該アクリル樹脂エマルション(A)は、ガラス転移温度−20〜60℃、固形分酸価2〜60mgKOH/gおよび固形分水酸基価10〜120mgKOH/gであるアクリル樹脂から構成されるエマルションであり、
該ダイマー酸誘導体水分散物(B)は、(b−1)ダイマー酸還元ジオール、ダイマー酸還元ジオールとダイマー酸とを反応させて得られた、またはダイマー酸および/またはダイマー酸還元ジオールとジカルボン酸化合物および/またはジオール化合物とを反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物に、(b−2)親水基を有する酸無水物を反応させて得られた、固形分酸価5〜60mgKOH/gである水分散物である、
水性中塗り塗料組成物。
【請求項2】
前記ダイマー酸誘導体水分散物(B)は、数平均分子量700〜7,000である、請求項1記載の水性中塗り塗料組成物。
【請求項3】
硬化電着塗膜の上に、水性中塗り塗料組成物を塗装して、未硬化の中塗り塗膜を形成する工程、
得られた未硬化の中塗り塗膜の上に、水性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を順次ウェットオンウェットで塗装し、未硬化のベース塗膜およびクリヤー塗膜を形成する工程、
得られた未硬化の中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる工程、
を包含する、複層塗膜形成方法であって、
該水性中塗り塗料組成物が、アクリル樹脂エマルション(A)、ダイマー酸誘導体水分散物(B)および硬化剤(C)を含む、水性中塗り塗料組成物であって、
該アクリル樹脂エマルション(A)は、ガラス転移温度−20〜60℃、固形分酸価2〜60mgKOH/gおよび固形分水酸基価10〜120mgKOH/gであるアクリル樹脂から構成されるエマルションであり、
該ダイマー酸誘導体水分散物(B)は、(b−1)ダイマー酸還元ジオール、ダイマー酸還元ジオールとダイマー酸とを反応させて得られた、またはダイマー酸および/またはダイマー酸還元ジオールとジカルボン酸化合物および/またはジオール化合物とを反応させて得られた、両末端に水酸基を有する反応物に、(b−2)親水基を有する酸無水物を反応させて得られた、固形分酸価5〜60mgKOH/gである水分散物である、
複層塗膜形成方法。
【請求項4】
前記未硬化の中塗り塗膜を形成した後、水性ベース塗料組成物を塗装するまでの間に、プレヒートを行わないことを特徴とする、請求項3記載の複層塗膜形成方法。

【公開番号】特開2012−116879(P2012−116879A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265249(P2010−265249)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】