説明

水性中塗り塗料

【課題】中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を3コート1ベーク方式で形成した際においても、意匠性および機能性に優れる多層塗膜を形成することができる水性中塗り塗料を提供することにある。
【解決手段】(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂、(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂および(c)メラミン樹脂を含む水性中塗り塗料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性中塗り塗料に関するものであり、更に詳細には、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を3コート1ベーク方式で形成した際において、意匠性および機能性に優れる多層塗膜を形成することができる水性中塗り塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料分野、特に自動車塗装分野において、省資源、省コスト及び環境負荷(VOC及びHAPs等)削減の課題を解決するため、有機溶剤系塗料から水性塗料への転換や塗装工程の短縮化が強く求められている。塗装工程の短縮化に関していえば、従来の自動車塗装仕上げ手順においては、電着塗膜の焼付け形成後、中塗り塗膜を形成して一旦焼き付けし、さらにベース塗膜及びクリヤー塗膜を形成した後に焼付けする3コート2ベーク塗装方法が、通常用いられていたが、近年、電着塗膜の焼付け後に、中塗り塗料、ベース塗料及びクリヤー塗料をウエットオンウエットで塗布し、これら重層化した未硬化塗膜を一括して焼付けを行う3コート1ベーク塗装方式が開発されている。
【0003】
一般に、塗膜には外観向上等の意匠性に関する役割や被塗装物の保護等の機能性に関する役割があり、中塗り塗膜には、特にこの意匠性および機能性に関する優れた性能が要求される。例えば、自動車用中塗り塗料については、電着粗度の隠蔽性(下地隠蔽性)や、耐チッピング性などの塗膜性能を満たす塗膜が形成される必要がある。
【0004】
上記の塗膜性能を得るために、従来、特定の有機溶剤系中塗り塗料を使用し、中塗り塗料の塗布後に一旦焼付けを行った上でベース塗装及びクリヤー塗装を施すことで多層塗膜を形成することが行われ、当該方法により鋼板や電着塗膜等の下地の微小なうねりの隠蔽や耐チッピング性の向上が達成されてきた。また、中塗り塗料の水性化および上記3コート1ベーク方式への対応に関する塗装技術も近年開発されている。例えば、特許文献1は特定のポリエステル樹脂を含有する水性中塗り塗料を開示し、当該塗料により上塗り塗膜との密着性に優れる中塗り塗膜が形成される。
【0005】
しかしながら、上記の塗装技術においても、3コート1ベーク方式の課題であった、下地粗度の影響による多層塗膜形成物の外観低下を解決するまでには至っておらず、優れた塗膜外観を得るためには下地の管理等が必要であった。したがって、3コート1ベーク方式においても十分な下地隠蔽効果を有し、意匠性および機能性に優れる多層塗膜を形成することができる中塗り塗料および塗装方法の開発が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2002−126637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を3コート1ベーク方式で形成した際においても、平滑性および顔料分散性に優れる中塗り塗膜が形成され、外観および耐水性、耐チッピング性等の機能性にも優れる多層塗膜を形成することができる水性中塗り塗料、多層塗膜形成方法および当該多層塗膜が形成された被塗膜形成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、3コート1ベーク方式により多層塗膜を形成する際、すなわち電着塗膜が形成された被塗装物上に、水性中塗り塗料を塗布して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程(1)、前記未硬化の中塗り塗膜の上に、水性ベース塗料を塗布して未硬化のベース塗膜を形成する工程(2)、前記未硬化のベース塗膜上にクリヤー塗料を塗布して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程(3)、前記中塗り塗膜、前記ベース塗膜、および前記クリヤー塗膜を同時に加熱硬化させる工程(4)を含む多層塗膜形成方法によって多層塗膜を形成する際において、ベース塗料の塗布前の中塗り塗膜中の固形分濃度を高くすることで、十分な下地隠蔽効果が得られることを見出した。しかしながら、この塗装方法によると水性中塗り塗膜表面の肌が悪化する(平滑性が低下する)ため、当該方法による多層塗膜の外観向上は困難であった。
しかしながら、本発明者らはさらに鋭意検討した結果、特定の水性中塗り塗料を使用することで、下地隠蔽性および平滑性に優れる中塗り塗膜が形成され、さらに、優れた耐水性および耐チッピング性をも有する多層塗膜が形成されることを見出した。
すなわち本発明は、下記(1)〜(13)を提供するものである。
(1)(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂、(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂および(c)メラミン樹脂を含む水性中塗り塗料、
(2)(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂が、酸価20〜100mgKOH/g、中和度70〜100%、重量平均分子量は10000〜150000のポリエステル樹脂であり、(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂が、酸価25〜50mgKOH/g、中和度70〜100%、重量平均分子量は5000〜30000のポリエステル樹脂である上記(1)に記載の水性中塗り塗料、
(3)(c)メラミン樹脂が、その反応性基が(I)式
【0009】
【化1】

【0010】
で表される基であるメチロール型、(II)式
【0011】
【化2】

【0012】
で表される基であるイミノ型、並びに(I)式および(II)式で表される基が混在するメチロール/イミノ型から選ばれる一種または二種以上のメラミン樹脂であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の水性中塗り塗料、
(4)(c)メラミン樹脂が、その反応性基が(I)式
【0013】
【化3】

【0014】
で表される基であるメチロール型、(II)式
【0015】
【化4】

【0016】
で表される基であるイミノ型、並びに(I)式および(II)式で表される基が混在するメチロール/イミノ型から選ばれる一種または二種以上のメラミン樹脂と、反応性基が(III)式
【0017】
【化5】

【0018】
(R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
で表される基である完全アルキルエーテル型のメラミン樹脂を併用してなり、(c)メラミン樹脂全量に対して、完全アルキルエーテル型のメラミン樹脂の含有量が60質量%以下である上記(1)または(2)に記載の水性中塗り塗料、
(5)(d)水溶性エポキシ樹脂をさらに含有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の水性中塗り塗料、
(6)(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂と(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂の質量比が、樹脂固形分換算で、5:95〜95:5であり、樹脂固形分換算で、(c)メラミン樹脂の含有量が、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂および(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂の合計量に対して、25〜100質量%であり、樹脂固形分換算で、(d)水溶性エポキシ樹脂の含有量が、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂、(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂および(c)メラミン樹脂の合計量に対して3〜25質量%である上記(5)に記載の水性中塗り塗料、
(7)(e)架橋樹脂粒子をさらに含有し、樹脂固形分換算で、(e)架橋樹脂粒子の含有量が、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂、(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂、(c)メラミン樹脂および(d)水溶性エポキシ樹脂の合計量に対して3〜40質量%である上記(5)または(6)に記載の水性中塗り塗料、
(8)(f)顔料をさらに含有し、(f)顔料の含有量が、顔料重量濃度(PWC)で20〜70質量%であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の水性中塗り塗料、
(9)電着塗膜が形成された被塗装物上に、水性中塗り塗料を塗布して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程(1)、前記未硬化の中塗り塗膜の上に、水性ベース塗料を塗布して未硬化のベース塗膜を形成する工程(2)、前記未硬化のベース塗膜上にクリヤー塗料を塗布して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程(3)、前記未硬化の中塗り塗膜、前記未硬化のベース塗膜、および前記未硬化のクリヤー塗膜を同時に加熱硬化させる工程(4)を含む多層塗膜形成方法に用いる水性中塗り塗料である上記(1)〜(8)のいずれかに記載の水性中塗り塗料、
(10)電着塗膜が形成された被塗装物上に、水性中塗り塗料を塗布して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程(1)、前記未硬化の中塗り塗膜の上に、水性ベース塗料を塗布して未硬化のベース塗膜を形成する工程(2)、前記未硬化のベース塗膜上にクリヤー塗料を塗布して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程(3)、前記未硬化の中塗り塗膜、前記未硬化のベース塗膜、および前記未硬化のクリヤー塗膜を同時に加熱硬化させる工程(4)を含む多層塗膜形成方法であって、前記水性中塗り塗料として上記(1)〜(8)のいずれかに記載の水性中塗り塗料を用いることを特徴とする多層塗膜形成方法、
(11)前記水性ベース塗料として、アクリルエマルションを含むベース塗料を用いる上記(10)に記載の多層塗膜形成方法、
(12)前記工程(1)と工程(2)の間、および/または、工程(2)と工程(3)の間に、プレヒートを行う上記(10)または(11)に記載の多層塗膜形成方法、
(13)上記(10)〜(12)のいずれかに記載の多層塗膜形成方法により形成された多層塗膜形成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を3コート1ベーク方式で形成した際において、意匠性および機能性に優れる多層塗膜を形成することができる水性中塗り塗料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の水性中塗り塗料は、塗膜形成樹脂として、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂と(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂とを含む。すなわち、本発明の水性中塗り塗料は、塗膜形成樹脂として親水性のポリエステル樹脂を含み、当該親水性のポリエステル樹脂として水分散性ポリエステル樹脂と水溶性ポリエステル樹脂とを併用するものである。ここで、水溶性樹脂とは水に溶解可能な樹脂をいい、水分散性樹脂とは水溶性ではないがエマルションやサスペンションのように水中に微分散された状態となる樹脂をいう。
【0021】
本発明において用いる樹脂(前記ポリエステル樹脂および(d)水溶性エポキシ樹脂)が水溶性か水分散性かどうかの判断は、水と混合したときに濁りが認められるかどうか、すなわち濁度法によって行うことができる。当該判断するにあたり、溶媒は水のみであることが好ましいが、少量(樹脂・水混合液に対して約5重量%程度)であれば水とともにブチルセロソルブ等の親水性溶媒が含まれていてもよい。
【0022】
本発明で使用する(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂は、ビニル重合体部分を有する脂肪酸鎖が結合した水分散性のポリエステル樹脂である。好ましくは(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂の15〜45質量%が前記ビニル重合体部分であり、前記ビニル重合体部分の10〜50質量%がカルボキシル基を有するα、β−エチレン性不飽和単量体に由来する構成単位である。
【0023】
(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂は、例えば、不飽和脂肪酸の存在下で、カルボキシル基含有α、β−エチレン性不飽和単量体、及びその他の共重合可能なα、β−エチレン性不飽和単量体をラジカル重合させることによって得られるビニル重合体部分を有するビニル変性脂肪酸〔以下、(a−1)ビニル変性脂肪酸と称する。〕と、後述する水酸基を有するポリエステル樹脂〔以下、(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂と称する。〕を縮合させる方法により得ることができる。
【0024】
上記不飽和脂肪酸としては、例えば、桐油、亜麻仁油、大豆油、サフラワー油、ひまし油、脱水ひまし油、米糠油、綿実油、やし油などの各種(半)乾性油類及び不乾性油類由来の脂肪酸が挙げられ、これらを単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
不飽和脂肪酸の使用量は、(a−1)ビニル変性脂肪酸を製造する際に使用する全原料に対して20〜70質量%の範囲が好ましく、30〜60質量%の範囲がより好ましい。かかる範囲の不飽和脂肪酸を用いて得られるビニル変性脂肪酸を使用することで、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂の分散安定性、本発明の水性塗料の貯蔵安定性、さらに本発明の水性中塗り塗料を用いて得られる多層塗膜の耐水性等の塗膜物性を向上させることができる。
【0026】
上記カルボキシル基含有α、β−エチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα、β−エチレン性不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα、β−エチレン性不飽和ジカルボン酸、さらにマレイン酸、イタコン酸等の酸無水物、さらにこれら酸無水物のモノエステル化物が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を使用することが好ましく、得られる塗膜の物性を良好なものにすることができる点でメタクリル酸を使用することがより好ましい。
【0027】
カルボキシル基含有α、β−エチレン性不飽和単量体の使用量は、得られる(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂中におけるビニル重合体部分の10〜50質量%が、カルボキシル基含有α、β−エチレン性不飽和単量体に由来する構成単位となるように設定することが好ましい。かかる範囲内にすることで、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂の水分散性を向上させ、本発明の水性中塗り塗料の貯蔵安定性を優れたものとすることができ、さらに乾燥後も白化しにくい塗膜を得ることができる。
【0028】
(a−1)ビニル変性脂肪酸の中では、カルボキシル基とアリール基とを有するビニル重合体部分を有するビニル変性脂肪酸〔以下、アリール基含有ビニル変性脂肪酸と称する。〕を用いることが好ましい。アリール基含有ビニル変性脂肪酸と(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂との縮合で得られるビニル変性ポリエステル樹脂を使用することで、貯蔵安定性に優れた水性中塗り塗料が得られる。
【0029】
アリール基含有ビニル変性脂肪酸は、例えば、不飽和脂肪酸の存在下で、カルボキシル基含有α、β−エチレン性不飽和単量体、アリール基含有α、β−エチレン性不飽和単量体、及び、その他の共重合可能なα、β−エチレン性不飽和単量体をラジカル重合させることによって得ることができる。
【0030】
上記アリール基含有α、β−エチレン性不飽和単量体としては、例えば、スチレンやスチレンの有する芳香族環の各位に例えばアルキル基等の官能基を有するスチレン誘導体等が挙げられる。スチレン誘導体としては、例えばターシャリーブチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。
【0031】
アリール基含有α、β−エチレン性不飽和単量体の使用量は、特に限定されないが、カルボキシル基とアリール基とを有するビニル重合体部分の重合に使用される全α、β−エチレン性不飽和単量体の合計量に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30〜70質量%である。アリール基含有α、β−エチレン性不飽和単量体の使用量を前記範囲内にすることで、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂の水分散性が向上し、本発明の水性中塗り塗料の貯蔵安定性もより優れたものとなる。
【0032】
前述のように、(a−1)ビニル変性脂肪酸を製造する際には、カルボキシル基含有α、β−エチレン性不飽和単量体やアリール基含有α、β−エチレン性不飽和単量体の他に、その他の共重合可能なα、β−エチレン性不飽和単量体を併用することができる。その他の共重合可能なα、β−エチレン性不飽和単量体としては、前記したカルボキシル基含有α、β−エチレン性不飽和単量体及びアリール基含有α、β−エチレン性不飽和単量体以外のα、β−エチレン性不飽和単量体であって、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル類を使用することができる。
【0033】
また、その他の共重合可能なα、β−エチレン性不飽和単量体としては、本発明の目的を達成する範囲内で、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類を使用することができる。さらに、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの非イオン性の界面活性能を有するα、β−エチレン性不飽和単量体を使用することもできる。
【0034】
(a−1)ビニル変性脂肪酸は、例えば、溶液重合法、塊状重合法などの方法で製造することができる。
【0035】
溶液重合法によれば、例えば、有機溶剤中で、重合開始剤の存在下、不活性ガス雰囲気下において、前記したカルボキシル基含有α、β−エチレン性不飽和単量体等のα、β−エチレン性不飽和単量体類、及び不飽和脂肪酸を、間欠もしくは連続滴下、又は一括添加し、約70〜150℃に保つことで(a−1)ビニル変性脂肪酸を得ることができる。また、重合開始剤は、上述のとおり予め有機溶剤中に添加しておいてもよいが、各種α、β−エチレン性不飽和単量体類及び不飽和脂肪酸を滴下する際に同時に添加してもよい。
【0036】
この溶液重合法で使用することのできる有機溶剤は、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤等が挙げられる。また、(a−1)ビニル変性脂肪酸と(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂との縮合反応に悪影響を及ぼさない範囲内でイソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール系溶剤、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のグルコールエーテル系溶剤等を使用することができる。
【0037】
また、溶液重合法で使用することのできる重合開始剤としては、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキシド等の有機過酸化物や、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられ、前記した有機過酸化物が好適に使用される。
【0038】
また、溶液重合法で(a−1)ビニル変性脂肪酸を製造する際には、必要に応じて連鎖移動剤を使用することができ、かかる連鎖移動剤としては、t−ドデシルメルカプタン、ノルマルドデシルメルカプタン、ノルマルオクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類、あるいはα−メチルスチレンダイマー等が好適である。
【0039】
また、塊状重合法によれば、例えば、有機溶剤を使用せずに、前記したカルボキシル基含有α、β−エチレン性不飽和単量体等のα、β−エチレン性不飽和単量体類、及び不飽和脂肪酸を一括添加、又は、間欠もしくは連続滴下しながら、加熱・混合することで(a−1)ビニル変性脂肪酸を製造することができる。
【0040】
また、このとき、後述する(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂の存在下で、各種α、β−エチレン性不飽和単量体類及び不飽和脂肪酸を塊状重合させることで、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂を直接製造することができる。
【0041】
次に、(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂について説明する。当該(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂とは、多塩基酸及び多価アルコールを主成分として用いて縮合反応させて得られるもののうち、水酸基を有するものである。かかる(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂は、線状構造あるいは分岐構造のどちらであってもよく、用途目的に応じて、ウレタン変性、シリコーン変性等がなされているものであってもよい。
【0042】
(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂を製造する際に使用する多塩基酸は、1分子中に2〜4個のカルボキシル基を含有するものが好ましく、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ハイミック酸、トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、ピロメリット酸等およびこれらの無水物が挙げられる。
【0043】
また、(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂を製造する際に使用する多価アルコールとしては、1分子中に2〜6個の水酸基を含有するものが好ましく、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、1.4−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリスイソシアヌレート、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0044】
また、(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂を製造する際には、前記した多塩基酸の他に、必要に応じて動物油、植物油及びそれらを加水分解して得られる脂肪酸、さらには「カージュラ(登録商標)E」(シェル社製の分岐状脂肪族モノカルボン酸のグリシジルエステル)などを、本発明の目的を達成する範囲内で併用することができる。
【0045】
前記の動物油、植物油及びそれらを加水分解して得られる脂肪酸としては、例えば、やし油、水添やし油、米糠油、トール油、大豆油、ひまし油、脱水ひまし油などと、それらを加水分解して得られる脂肪酸などが挙げられる。かかる動物油、植物油及びそれらを加水分解して得られる脂肪酸の使用量は、(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂中の50質量%を超えないことが、水性塗料の貯蔵安定性の観点から好ましい。
【0046】
(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂は、多塩基酸と多価アルコールを主成分として用いて縮合反応させることにより製造することができ、例えば、多価アルコールが多塩基酸よりも過剰に存在する条件で、溶融法、溶剤法を適用することができる。
【0047】
(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂としては、前記のように水酸基を有するポリエステル樹脂を合成後、さらに、トリレンジイソシアネートやメチレンビスフェニルイソシアネート、場合によってはヘキサメチレンジイソシアネートトリメチロールプロパンのアダクト体(TMP変性のHDI)等のポリイソシアネートを重付加反応させ、ウレタン変性させたものも使用することができる。
【0048】
(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂は、その水酸基価が50〜300mgKOH/gが好ましく、100〜250mgKOH/gがより好ましい。水酸基価がこの範囲内であれば、前記(a−1)ビニル変性脂肪酸と(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂との縮合反応を円滑に進ませることができ、また、得られる塗膜の耐水性、耐久性も優れたものとすることができる。
【0049】
本発明で使用する(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂は、例えば、(a−1)ビニル変性脂肪酸と(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂とを混合・加熱し、縮合反応させることにより製造することができる。この際、(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂の製造において例示した多塩基酸をさらに添加することもできる。
【0050】
前記した縮合反応の温度は、特に制限されるものでなく、170〜210℃が好ましい。反応速度の観点からは、カルボキシル基を有するα、β−エチレン性不飽和単量体の種類によって適度な温度を選定するのが望ましい。
【0051】
縮合反応は、(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂の水酸基と、(a−1)ビニル変性脂肪酸の有するカルボキシル基との間でおこる。(a−1)ビニル変性脂肪酸は、不飽和脂肪酸由来のカルボキシル基と、ビニル重合体部分由来のカルボキシル基とを有するものであるが、そのなかでも不飽和脂肪酸由来のカルボキシル基と、(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂の水酸基とを縮合反応させることが、得られる(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂の水分散性をより優れたものとすることができるという観点から好ましい。
【0052】
特に、ビニル重合体部分由来のカルボキシル基が、メタクリル酸由来のカルボキシル基である場合には、当該カルボキシル基の反応性が不飽和脂肪酸由来のカルボキシル基の反応性と比較して低いことから、不飽和脂肪酸由来のカルボキシル基が、もっぱら当該縮合反応に関与するのでより好ましい。
【0053】
また、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂は、前記方法とは別に、(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂の存在下に、必要に応じて少量の有機溶剤を添加した後、前記した不飽和脂肪酸、カルボキシル基を有するα、β−エチレン性不飽和単量体等の単量体類を添加、混合し、次いで昇温し縮合反応させることにより製造することもできる。
【0054】
また、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂は、(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂及び不飽和脂肪酸を縮合反応させて得られるポリエステル樹脂に、前記したカルボキシル基を有するα、β−エチレン性不飽和単量体等の単量体類を添加、混合し重合させる方法でも得ることができる。
【0055】
さらに、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂は、(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂及び不飽和脂肪酸を縮合反応させて得られるポリエステル樹脂に、カルボキシル基含有ビニル重合体を、重合させて得ることもできる。
【0056】
(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂の酸価は20〜100mgKOH/gが好ましく、25〜60mgKOH/gがより好ましい。酸価が20mgKOH/gを下回ると、水分散性が低下して塗膜外観が悪化しやすくなり、100mgKOH/gを上回ると、塗膜の耐水性、耐久性が低下しやすい。また、水酸基価は20〜150mgKOH/gが好ましく、40〜150mgKOH/gがより好ましい。水酸基価が20mgKOH/gを下回ると、塗膜硬度が低下して、下地との密着性が不十分になりやすく、150mgKOH/gを上回ると、耐水性が低下しやすくなる。
【0057】
(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂の中和度は、当該樹脂のカルボキシル基の全てを中和したものであってよく、又その一部を中和したものであってもよいが、70〜100%であるものを用いることが好ましい。更に好ましくは80〜100%である。下限未満では、親水性が低下して水分散性が得難くなり、塗膜外観が悪化しやすくなる。
ここで、本明細書において樹脂の中和度とは、当該樹脂(固形分)1gが有しているカルボキシル基の総量(単位:モル)のうち、中和されたカルボキシル基の量(単位:モル)を百分率で表したものをいう(単位:モル%)。例えば、当該樹脂のカルボキシル基の全てを中和した場合には、その中和度は100%になり、当該樹脂のカルボキシル基の一部を中和した場合には、その中和度は中和されたカルボキシル基の量(単位:モル)を当該樹脂が有するカルボキシル基の総量(単位:モル)で除して百分率換算した値になる。
ここで、カルボキシル基の中和に用いられる中和剤としては、例えば、アンモニア;エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、モノエタノールアミン、ネオペンタノールアミン、2−アミノプロパノール、3−アミノプロパノール等の第一級モノアミン;ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジ−n−プロパノールアミン、ジ−iso−プロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン等の第二級モノアミン;ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール等の第三級モノアミン;ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミン等のアミノ化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物等を使用することができる。作業性等の観点から、好ましくは第三級モノアミンである。
【0058】
また、本発明で使用する(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂は、その15〜45質量%が前記ビニル重合体部分となるようにすることが好ましい。15質量%を下回ると、顔料分散性が不十分となりやすく、45質量%を上回ると、水分散性が低下して塗膜外観が悪化しやすくなる。
【0059】
また、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、10000〜150000の範囲が好ましく、30000〜100000の範囲がより好ましい。10000を下回ると、塗膜硬度が低下して、下地との密着性が不十分になりやすく、150000を上回ると、樹脂粘度が高くなる傾向があり、塗料固形分濃度を必要以上に低くせざるを得なくなるおそれがある。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による測定値をポリスチレン標準で換算した値である。
【0060】
本発明の水性中塗り塗料は、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂のビニル重合体部分に由来する優れた顔料分散性を有する。したがって、中塗り塗膜中で顔料が均一に分散するため、当該塗料により意匠性の高い中塗り塗膜が形成される。さらにこの優れた顔料分散性により、不均一性が目立ち易い着色顔料の使用が容易になり、ベース塗膜やクリヤー塗膜中の着色顔料との組み合わせにより、さらに意匠性の高い多層塗膜を形成することができる。また、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂の使用により、中塗り塗膜表面の親水性が向上する。
【0061】
本発明で使用する(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂は、エポキシ基を有する水溶性のポリエステル樹脂である。(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂は、(b−1)エポキシ樹脂により、1分子中に2個以上の水酸基を有するポリエステル樹脂〔以下、(b−2)水酸基含有ポリエステル樹脂と称する。〕を変性することで得られる。
【0062】
(b−1)エポキシ樹脂としては、通常塗料分野で用いられているものを使用することができる。具体的には、エピコート828、834、836、1001、1004、1007、DX-225(以上、シェル化学社製)、アラルダイトGY-260、6071、6084(チバガイギー社製)、DER-330、331、660、661、66(ダウケミカル社製)、エピクロン800、830、850、860、1050、4050(大日本インキ工業(株)製)などのビスフェノール型のエポキシ樹脂、DEN-431、438(ダウケミカル社製)などのフェノールノボラック型エポキシ樹脂、アラルダイトCT508(チバガイギー社製)、DER732、736(ダウケミカル社製)などのポリグリコール型エポキシ樹脂、エステル型エポキシ樹脂、鎖式脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリオール型エポキシ樹脂等を用いることができる。また上記の各エポキシ樹脂において、ハロゲンを含有するものを用いてもよい。
【0063】
(b−2)水酸基含有ポリエステル樹脂は、例えば、多価アルコールと多塩基酸又はその無水物とを重縮合して(エステル反応して)得られるものであり、上記(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂と同様の方法で製造することができる。また多価アルコールや多塩基酸又はその無水物も上記(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂の製造で例示したものを挙げることができ、例えば、上記多価アルコールの水酸基と上記多塩基酸又はその無水物のカルボキシル基とが、モル比で1.2〜1.8となるように反応させればよい。
【0064】
(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂は、(b−1)エポキシ樹脂と(b−2)ポリエステル樹脂の反応により合成することができ、例えば、付加、縮合、グラフトなどの反応が挙げられる。具体的には、(b−1)エポキシ樹脂のエポキシ基と(b−2)ポリエステル樹脂のカルボキシル基または水酸基との反応や、ポリイソシアネート化合物を使用した際の、当該化合物と(b−1)エポキシ樹脂および(b−2)ポリエステル樹脂の水酸基との反応が挙げられる。
【0065】
(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂の重量平均分子量は5000〜30000であるのが好ましく、10000〜25000がより好ましい。重量平均分子量が5000を下回ると、塗膜硬度が低下しやすく、下地との密着性が不十分になりやすく、30000を上回ると、樹脂粘度が高くなる傾向があり、塗料固形分濃度を必要以上に低くせざるを得なくなるおそれがある。水酸基価は75〜200mgKOH/gが好ましく、80〜150mgKOH/gがより好ましい。水酸基価が、75mgKOH/gを下回ると、塗膜硬度が低下しやすく、下地との密着性が不十分になりやすく、200mgKOH/gを上回ると、樹脂粘度が高くなる傾向があり、塗料固形分濃度を必要以上に低くせざるを得なくなるおそれがある。酸価は25〜50mgKOH/gが好ましく、27〜40mgKOH/gがより好ましい。酸価が25mgKOH/gを下回ると、水分散性が低下して塗膜外観が悪化しやすくなる。50mgKOH/gを上回ると、樹脂粘度が高くなる傾向があり、塗料固形分濃度を必要以上に低くせざるを得なくなるおそれがあり、塗料の貯蔵安定性が低下しやすい。(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂の中和度は、当該樹脂のカルボキシル基の全てを中和したものであってよく、又その一部を中和したものであってもよいが、70〜100%であるものを用いることが好ましい。更に好ましくは、80〜100%である。下限未満では、親水性が低下して水溶性が得難くなり、塗膜外観が悪化しやすくなる。
【0066】
(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂を含有する水性中塗り塗料を使用することで、耐チッピング性、耐水性に優れる多層塗膜を形成することができる。また、(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂の使用により、中塗り塗膜表面の親水性が向上する。
【0067】
従来、水分散性塗料を塗布した後、プレヒート処理をすると表面が疎水化する傾向があったが、(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂を含有する水性塗料による塗膜はプレヒート処理後も表面を親水性に保つことができる。本発明の水性中塗り塗料はこの効果を利用するものである。すなわち、まずプレヒート処理等により中塗り塗膜中の固形分濃度を高めることで、優れた下地隠蔽効果が得られる。また、この処理により、中塗り塗膜表面の平滑性が一時的に悪化することがあっても、中塗り塗膜表面の親水性が維持されることで、その上にウエットオンウエット法で塗布された水性ベース塗料中の水分が中塗り塗膜に移行し、最終的には中塗り塗膜表面(ベース塗膜との界面)の平滑性が向上する。本発明においては、塗膜形成樹脂として、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂とともに(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂を用いたことにより、上記中塗り塗膜表面の親水化効果が得られるのである。
【0068】
本発明の水性中塗り塗料は、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂と(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂の質量比が、樹脂固形分換算で、5:95〜95:5であることが好ましい。(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂の含有量が少ないと、顔料分散性が劣るために、中塗り塗膜による下地隠蔽性が不十分で、多層塗膜の意匠性が低下しやすくなる。一方(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂の含有量が少ないと、ベース塗料塗布前の中塗り塗膜表面が疎水化しやすく、水移行による中塗り塗膜とベース塗膜の界面の平滑化効果が得られにくく、ベース塗膜の表面平滑性が悪化しやすくなる。さらに、耐水性および耐チッピング性も低下する。上記観点からより好ましくは、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂と(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂の質量比が、樹脂固形分換算で、10:90〜90:10、さらに好ましくは15:85〜85:15である。
【0069】
本発明においては硬化剤として、(c)メラミン樹脂を使用する。(c)メラミン樹脂はメラミンとホルムアルデヒドの反応により得られるメチロールメラミンを重合し、さらにメチロール基をアルコールによりエーテル化することで得られる。本発明においては、塗膜性能と塗料の水性化の観点から、水溶性のメラミン樹脂が好ましく、特にその反応性基が、(I)式
【0070】
【化6】

【0071】
で表される基であるメチロール型、(II)式
【0072】
【化7】

【0073】
で表される基であるイミノ型、並びに(I)式および(II)式で表される基が混在するメチロール/イミノ型から選ばれる一種または二種以上のメラミン樹脂が好ましい。上記(I)式および/または(II)式で表される基を有するメラミン樹脂は硬化性が高いために、耐チッピング性等の塗膜性能の高い多層塗膜が得られる。
【0074】
また、意匠性の面からは(c)メラミン樹脂として、上記メチロール型、イミノ型、またはメチロール/イミノ型のメラミン樹脂と、反応性基が(III)式
【0075】
【化8】

【0076】
で表される基である完全アルキルエーテル型のメラミン樹脂とを併用することが好ましい。ここで、(III)式中、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表す。完全アルキルエーテル型のメラミン樹脂は他のメラミン樹脂に比べて反応速度が遅いために、当該併用をすることで硬化時間を調整することができ、中塗り塗膜とベース塗膜の界面の平滑性に優れる多層塗膜を形成することができる。併用する場合は(c)メラミン樹脂全量に対して完全アルキルエーテル型のメラミン樹脂の含有量が、60質量%以下が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。60質量%を超えると塗膜性能が低下しやすくなる。
【0077】
(c)メラミン樹脂の重合度は好ましくは3.0以下、より好ましくは1.5以下である。上記重合度とは、メラミン樹脂の縮合度を示すものであり、上記重合度が3.0を超える場合、下地隠蔽性が低下する傾向がある。また、上記メラミン樹脂の単核体比率は好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上である。上記単核体比率とは、メラミン樹脂全体に含まれる重合度が1.0である単核体メラミン樹脂の比率であり、上記比率が50%未満である場合、下地隠蔽性が低下する傾向がある。
【0078】
このようなメラミン樹脂で市販されているものとしては、サイメル(登録商標)235、267、303、325および350、マイコート(登録商標)M506(いずれも三井サイテック社製)等を挙げることができる。
【0079】
(c)メラミン樹脂の含有量は、樹脂固形分換算で(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂と(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂の合計量に対して、25〜100質量%であることが好ましい。25質量%を下回ると、耐チッピング性、耐水性が低下することがあり、100質量%を上回ると、外観不良となるおそれがある。また上記観点からより好ましくは、30〜80質量%である。
【0080】
本発明の水性中塗り塗料は、さらに(d)水溶性エポキシ樹脂を含有することができる。(d)水溶性エポキシ樹脂は、1分子中に少なくとも1個の親水性部位と2個以上のエポキシ基を有する化合物である。特に、親水性部位として、エーテル結合、水酸基を有するものが好ましい。
【0081】
(d)水溶性エポキシ樹脂の特に好ましい例として、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル 、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルを挙げることができる。これらは単独でも2種以上を併用してもよい。(d)水溶性エポキシ樹脂を含有することで、塗膜の耐チッピング性が向上する。
【0082】
(d)水溶性エポキシ樹脂の市販品の例としては、ナガセケムテックス社製「デナコール(登録商標)」シリーズのEX−810、EX−811、EX−851、EX−821、EX−830、EX−832、EX−841、EX−861、共栄社化学社製「エポライト」シリーズの40E、100E、200E、400E、ダイセル化学社製「エポリード(登録商標)NT」シリーズの212、214等のエチレングリコールまたはポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ナガセケムテックス社製「デナコール(登録商標)」シリーズのEX−911、EX−941、EX−920、EX−921、EX−931、共栄社化学社製「エポライト」シリーズの70P、200P、400P、ダイセル化学社製「エポリード(登録商標)NT」シリーズの228等のプロピレングリコールまたはポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0083】
(d)水溶性エポキシ樹脂の含有量は、固形分換算で(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂、(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂、(c)メラミン樹脂の合計量に対して、3〜25質量%であることが好ましい。3質量%を下回ると、耐チッピング性不足であり、25質量%を上回ると、塗料安定性不良である。上記観点からより好ましくは、5〜20質量%、さらに好ましくは7〜15質量%である。
【0084】
本発明の水性中塗り塗料は、さらに(e)架橋樹脂粒子を含有させることができる。本発明で使用する(e)架橋樹脂粒子は、塗料用の有機溶剤に不溶となるように架橋されているポリマーからなる微粒子である。特に、水性中塗り塗料中に安定に分散する特性、すなわち親水性を備えたものであることが好ましい。(e)架橋樹脂粒子としては、粒子状のカルボキシル基含有アクリル樹脂が使用される。当該カルボキシル基含有アクリル樹脂粒子は、通常、水分散体として得られる。
【0085】
(e)架橋樹脂粒子の水分散体を製造するためには、通常、少なくとも1つのカルボキシル基を分子内に有するエチレン性不飽和モノマー(以下、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーと称する。)と他のエチレン性不飽和モノマーとを水性媒体中で乳化重合させる。
【0086】
ここで好適に用いうるカルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーには、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体および不飽和二塩基酸などが挙げられる。好ましくは、(メタ)アクリル酸誘導体であり、さらに好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体およびα-ハイドロ-ω-((1-オキソ-2-プロペニル)オキシ)ポリ(オキシ(1-オキソ-1,6-ヘキサンジイル))である。
【0087】
ここで好適に用いうる他のエチレン性不飽和モノマーは、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーとラジカル共重合可能なエチレン性不飽和化合物であり、例えば、反応性官能基を持たない(メタ)アクリレート(例えばメチルアクリレート、メチルメタアクリレート、エチルアクリレート、およびエチルメタアクリレートなど)、重合性芳香族化合物(例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルケトン、およびビニルナフタレンなど)、水酸基含有不飽和化合物(例えば2-ヒドロキシエチルアクリレートおよび2-ヒドロキシエチルメタアクリレートなど)、重合性アミド(例えばアクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドおよびN-メトキシメチルアクリルアミドなど)、重合性ニトリル(例えばアクリロニトリルおよびメタクリロニトリルなど)、ビニルハライド(例えば塩化ビニル、臭化ビニルおよびフッ化ビニルなど)、α-オレフィン(例えばエチレンおよびプロピレンなど)、ビニルエステル(例えば酢酸ビニルおよびプロピオン酸ビニルなど)、およびジエン(例えばブタジエンおよびイソプレンなど)が挙げられる。
【0088】
また、分子内に2つ以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和化合物は、架橋樹脂粒子が溶剤に溶解しないだけの十分な架橋を与えるために、他のエチレン性不飽和モノマーとして使用する必要がある。具体的には、多価アルコールの重合性不飽和モノカルボン酸エステル(例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートおよびトリメチロールプロパントリメタアクリレートなど)、多塩基酸の重合性不飽和アルコールエステル(例えば、ジアリルテレフタレート、ジアリルフタレートおよびトリアリルトリメリテートなど)、2個以上のビニル基で置換された芳香族化合物(例えば、ジビニルベンゼンなど)、およびエポキシ基含有エチレン性不飽和単量体とカルボキシル基含有エチレン性不飽和基単量体との付加物(例えば、グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタアクリレートとアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸およびマレイン酸との反応物など)が挙げられる。
【0089】
このような他のエチレン性不飽和モノマーは単独で、または2種以上を混合して用いうる。
【0090】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとの乳化重合に際しての配合割合は、(e)架橋樹脂粒子を製造するのに用いるエチレン性不飽和モノマーの総量を基準にして、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーが1〜50質量%、好ましくは10〜40質量%、他のエチレン性不飽和モノマーが99〜50質量%、好ましくは90〜60質量%である。当該他のエチレン性不飽和モノマーのうち、分子内に2つ以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和化合物としては、前記エチレン性不飽和モノマーの総量を基準にして、1〜10質量%、好ましくは1〜7質量%、より好ましくは1〜5質量%である。
【0091】
乳化重合反応は、水、または必要に応じてアルコールなどのような有機溶剤を含む水性媒体中に乳化剤を溶解させ、加熱撹拌下、エチレン性不飽和モノマーおよび重合開始剤を滴下することにより行われる。乳化剤と水とを用いて予め乳化したエチレン性不飽和モノマーを同様に滴下してもよい。
【0092】
好適に用いうる重合開始剤としては、アゾ系の油性化合物(例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)および2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)など)、および水性化合物(例えば、アニオン系の4,4'-アゾビス(4-シアノ吉草酸)およびカチオン系の2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン));並びにレドックス系の油性過酸化物(例えば、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドおよびt-ブチルパーベンゾエートなど)、および水性過酸化物(例えば、過硫酸カリおよび過酸化アンモニウムなど)が挙げられる。
【0093】
乳化剤には、当業者に通常使用されているものを用いうるが、反応性乳化剤、例えば、アントックス(Antox)MS-60(日本乳化剤製)、エレミノール(登録商標)JS-2(三洋化成工業製)およびアクアロン(登録商標)HS-10(第一工業製薬製)などが特に好ましい。
【0094】
分子量を調節するために、ラウリルメルカプタンのようなメルカプタンおよびα-メチルスチレンダイマーなどのような連鎖移動剤を必要に応じて用いうる。
【0095】
反応温度は開始剤により決定され、例えば、アゾ系開始剤では60〜90℃でであり、レドックス系では30〜70℃で行うことが好ましい。一般に、反応時間は1〜8時間である。不飽和化合物の総量に対する開始剤の量は、一般に0.1〜5質量%であり、好ましくは0.5〜2質量%である。
【0096】
水性媒体中で製造した架橋樹脂粒子をそのままで使用することができるが、濾過、スプレー乾燥、凍結乾燥などの方法で微小樹脂粒子を単離し、そのまま、もしくはミルなどを用いて適当な粒径に粉砕して用いることもできる。
【0097】
(e)架橋樹脂粒子の粒子径は0.01〜10μmの範囲であることが好ましく、0.01〜1.0μmの範囲であることがより好ましい。粒子径が0.01μmを下回ると作業性の改善の効果が小さく、10μmを上回ると得られる塗膜の外観が悪化する恐れがある。粒子径の調節は当業者に周知の方法で行い得る。例えば、上記のミルなどを用いた粉砕やモノマー組成の変更により可能である。
【0098】
(e)架橋樹脂粒子の水分散体の酸価は5〜80mgKOH/gが好ましく、より好ましくは、10〜70mgKOH/gである。酸価が5mgKOH/gを下回ると作業性の改善の効果が小さく、80mgKOH/gを上回ると水溶性が大きくなり粒子性を失う恐れがある。
【0099】
(e)架橋樹脂粒子の水分散体は、塩基で中和してpH5〜10で用いることができる。このpH領域においては、(e)架橋樹脂粒子水分散体の安定性が高い。この中和は重合の前又は後に、ジメチルエタノールアミンおよびトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことが好ましい。
【0100】
本発明の水性中塗り塗料は、(e)架橋樹脂粒子を含有することで、ウエットオンウエットで中塗り塗膜とベース塗膜を形成した際において、塗膜の外観を改善し、また、中塗り塗膜とベース塗膜の各塗膜成分の混ざりこみを防止することができる。したがって、塗膜成分の混ざりこみを防止しながら、上記のベース塗膜からの水の移行を達成することができ、多層塗膜の意匠性を向上することができる。
【0101】
(e)架橋樹脂粒子の含有量は、固形分換算で(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂、(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂、(c)メラミン樹脂および(d)水溶性エポキシ樹脂の合計量に対して3〜40質量%が好ましい。3質量%を下回ると、水性のベース塗料と組み合わせて中塗塗膜とベース塗膜をウェットオンウェットで複合塗膜を形成する際に両塗膜の混層が生じるおそれがあり、40質量%を上回ると、多層塗膜の平滑性が低下するおそれがある。上記観点からより好ましくは5〜30質量%、さらに好ましくは8〜25質量%である。
【0102】
本発明の水性中塗り塗料組成物は、(f)顔料を含有することができる。上記顔料としては、着色顔料や体質顔料が挙げられる。当該顔料を添加することにより、中塗塗膜の下地である電着塗膜表面の微細な凹凸を隠蔽し、塗膜の平滑性を向上させることができる。着色顔料としては、アゾレーキ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体等の有機顔料系、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、二酸化チタン、カーボンブラック等の無機顔料類が挙げられ、体質顔料としては、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク等が挙げられる。上記顔料重量濃度(PWC)は好ましくは、20〜70質量%、より好ましくは25〜60質量%である。
【0103】
本発明の水性中塗り塗料は本発明の効果を妨げない限りにおいて、その他の添加剤を含有することができ、ポリアミドワックスやポリエチレンワックス等の沈降防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコーンや有機高分子等の表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、およびセルロースアルキルエーテル等有機化合物が挙げられる。添加剤の含有量は固形分換算で塗料全体に対して、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0104】
本発明の水性中塗り塗料組成物を得る方法としては、特に限定されず、上記樹脂および顔料等の配合物をニーダーやロール等を用いて混練、サンドグラインドミルやディスパー等を用いて分散する等の当業者に周知の全ての方法を用いることができる。
【0105】
上記水性中塗り塗料は、水性ベース塗料と組み合わせて、当該水性中塗り塗料と当該水性ベースをウェットオンウェットにて複合塗膜を形成することにより、ベース塗膜中の水分が中塗り塗膜に移行しうる。当該水分の移行により、当該中塗り塗膜におけるベース塗膜との接触面の粘性が低下し、凹凸が緩和され、その結果、ベース塗膜の表面の平滑性を向上させるという効果が得られる。具体的には、
電着塗膜が形成された被塗装物上に、上記水性中塗り塗料を塗布して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程(1)、
前記中塗り塗膜の上に、水性ベース塗料を塗布して未硬化のベース塗膜を形成する工程(2)、
前記未硬化のベース塗膜上にクリヤー塗料を塗布して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程(3)、
前記中塗り塗膜、前記ベース塗膜、および前記クリヤー塗膜を同時に加熱硬化させて、多層塗膜を得る工程(4)
を含む多層塗膜の形成方法における水性中塗り塗料として用いることができる。
上記工程(1)〜(4)を含む多層塗膜形成方法に本発明の水性中塗り塗料を適用すると、水性中塗り塗料と水性ベース塗料との組合せによる上記効果によって、当該電着塗膜表面の微細な凹凸がキャンセルされ、平滑性のよい多層塗膜を形成することができる。
【0106】
特に、前記工程(1)と工程(2)の間でプレヒートを行い、前記中塗り塗膜を未硬化のまま水分量を減らす(固形分濃度を上昇させる)ことにより、水性中塗り塗料による中塗り塗膜と水性ベース塗料によるベース塗膜の混層を防止することができ、さらに優れた下地隠蔽効果が得られる。なお、本発明の水性中塗り塗料による中塗り塗膜の表面は、当該プレヒート後も親水性を保つことができるため、ベース塗膜からの水分の移行により平滑性に優れた多層塗膜を形成することができる。
また、前記工程(2)と工程(3)の間でプレヒートを行うことにより、当該プレヒートの間にベース塗膜中の水分を中塗り塗膜へ移行させることができ、その結果、多層塗膜の平滑性を向上させるこができる。当該プレヒートを前記工程(1)と工程(2)の間、および前記工程(2)と工程(3)の間で行なうこともでき、その場合は、当該プレヒートを前記工程(1)と工程(2)の間でプレヒートを行なったことによる効果と、前記工程(2)と工程(3)の間でプレヒートを行なったことによる効果とが奏されうる。
【0107】
上記多層塗膜形成法において、被塗装物としては特に限定されず、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等;これらの金属を含む合金及び鋳造物が挙げられる。具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体及び部品が挙げられる。これらの金属は、電着塗装が行われる前に、予めリン酸塩、クロム酸塩等で化成処理されたものが特に好ましい。
【0108】
上記多層塗膜形成法においては、被塗装物上にカチオン電着塗料を塗布し、カチオン電着塗膜を形成する。上記カチオン電着塗料は、特に限定されるものではなく公知のカチオン電着塗料を使用することができる。このようなカチオン電着塗料としては、カチオン性基体樹脂及び硬化剤を含有する塗料組成物を挙げることができる。
カチオン性基体樹脂としては、特に限定されないが、例えば、特公昭54−4978号公報、特公昭56−34186号公報等に記載されたアミン変性エポキシ樹脂系、特公昭55−115476号公報等に記載されたアミン変性ポリウレタンポリオール樹脂系、特公昭62−61077号公報、特開昭63−86766号公報等に記載されたアミン変性ポリブタジエン樹脂系、特開昭63−139909号公報、特公平1−60516号公報等に記載されたアミン変性アクリル樹脂系、特開平6−128351号公報等に記載されたスルホニウム基含有樹脂系等を挙げることができる。上記引例に記載されたものの他、ホスホニウム基含有樹脂系等を使用することもできる。上記カチオン性基体樹脂のなかでも、アミン変性エポキシ樹脂系を使用することが特に好ましい。
硬化剤としては、アミノ樹脂や、ブロックポリイソシアネート化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
上記多層塗膜形成法においては、電着塗膜を加熱硬化した後、本発明の水性中塗り塗料を塗布して中塗り塗膜を形成する。中塗り塗料の塗布方法としては特に限定されず、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー;通称「マイクロ・マイクロ(μμ)ベル」、「マイクロ(μ)ベル」、「メタベル」等と言われる回転霧化式の静電塗装機等を用いることにより行うことができる。好ましくは、回転霧化式の静電塗装機等を用いる方法である。
【0110】
上記中塗り塗膜の乾燥膜厚は、用途により変化するが、5〜50μmであることが好ましい。上限を超えると、塗装時にタレや焼き付け硬化時にワキ等の不具合が起こることがあり、下限を下回ると、外観が低下するおそれがある。
【0111】
上記多層塗膜形成法においては、中塗り塗膜が未硬化の状態で(すなわち、ウエットオンウエット法により)、水性ベース塗料を塗布してベース塗膜を形成する。なお、本明細書において未硬化とは、プレヒートを行なわない場合のみならず、プレヒートを行った後の状態も含む。
上記プレヒートは、中塗り塗料を塗布した後に、塗布された中塗り塗料が硬化しない条件下、例えば、室温〜100℃未満で1〜10分間放置又は加熱する工程であり、本発明の塗膜形成方法においては、固形分の調整等のために行うことができる。特に本発明の水性中塗り塗料を使用する際には、水性ベース塗料を塗布する前の状態において、中塗り塗膜の固形分が70%以上であることが好ましく、75%以上がより好ましい。中塗り塗膜の固形分が70%以上であると、優れた下地隠蔽効果が得られる。また、通常、固形分濃度が70%以上であると中塗り塗膜表面の平滑性が失われ、多層塗膜の意匠性が低下するが、本発明の中塗り塗料を使用し、水性ベース塗料をウエットオンウエット法で塗布することで、中塗り塗膜とベース塗膜の界面の平滑性が向上し、優れた意匠性を有する多層塗膜が得られる。
【0112】
上記ベース塗料としては、水性のベース塗料であれば、特に限定されず、例えば、水性の塗膜形成性樹脂、硬化剤、顔料及びその他の添加剤からなるものを挙げることができる。上記水性の塗膜形成性樹脂として特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。上記水性の塗膜形成性樹脂の形態としては特に限定されず、例えば、水分散性(エマルション型)または水溶性等が挙げられる。
上記水性ベース塗料としては、塗装作業性、耐候性、耐水性等の塗膜性能面からアクリルエマルションおよび/または水溶性アクリル樹脂を使用することが好ましく、なかでも、アクリルエマルションがより好ましい。
また、ベース塗料にはメラミン樹脂、エポキシ樹脂等の硬化剤を含有することができ、なかでも、得られる塗膜の諸性能、コストの点からメラミン樹脂が好ましい。また、低温での硬化性向上の観点から、ブロックイソシアネート樹脂、カルボジイミド化合物、または、オキサゾリン化合物を併用して添加することも好ましい。
なお、ベース塗料には、クリヤー塗膜とのなじみ防止、塗装作業性を確保するために既述の粘性制御剤、その他の添加剤を適宜配合してもよい。
【0113】
上記水性ベース塗料は、光輝性顔料を配合してメタリックベース塗料として用いることもでき、また、光輝性顔料を配合せずにレッド、ブルーあるいはブラック等の着色顔料及び必要によりさらに体質顔料を配合してソリッド型ベース塗料として用いることもできる。上記光輝性顔料としては特に限定されず、例えば、金属又は合金等の無着色若しくは着色された金属性光輝材及びその混合物、干渉マイカ粉、着色マイカ粉、ホワイトマイカ粉、グラファイト又は無色有色偏平顔料等を挙げることができる。分散性に優れ、透明感の高い塗膜を形成することができるため、金属又は合金等の無着色若しくは着色された金属性光輝材及びその混合物が好ましい。その金属の具体例としては、アルミニウム、酸化アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ等を挙げることができる。
【0114】
上記光輝性顔料の形状は特に限定されず、更に、着色されていてもよいが、例えば平均粒径(D50)が2〜50μmであり、厚さが0.1〜5μmである鱗片状のものが好ましい。平均粒径10〜35μmの範囲のものが光輝感に優れ、より好ましい。上記光輝性顔料のベース塗料中の顔料濃度(PWC)は、一般に23質量%以下である。23質量%を超えると、塗膜外観が低下する。好ましくは、0.01〜20質量%であり、より好ましくは、0.01〜18質量%である。
【0115】
上記光輝性顔料以外の顔料としては、本発明の水性中塗り塗料において記載した着色顔料、体質顔料を用いることができる。上記顔料としては、光輝性顔料、着色顔料及び体質顔料のなかから、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記光輝性顔料及びその他の全ての顔料を含めた水性ベース塗料中の顔料濃度(PWC)は、一般的には0.1〜50質量%であり、好ましくは0.5〜40質量%であり、より好ましくは1〜30質量%である。50質量%を超えると塗膜外観が低下する。上記水性ベース塗料は、用いられるその他の添加剤、及び、ベース塗料の調製方法としては、水性中塗り塗料において例示したものを挙げることができる。
【0116】
上記水性ベース塗料の塗装方法としては、中塗り塗料を塗布する際に例示した方法を挙げることができる。上記水性ベース塗料を自動車車体等に対して塗装する場合には、意匠性を高めるために、エアー静電スプレーによる多ステージ塗装、好ましくは2ステージで塗装するか、又は、エアー静電スプレーと上記の回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法により行うことが好ましい。
【0117】
上記ベース塗膜の乾燥膜厚は、用途により変化するが、5〜35μmであることが好ましい。上限を超えると、鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、流れ等の不具合が起こることがあり、下限を下回ると、色ムラが発生するおそれがある。
【0118】
上記のように、水性ベース塗料塗布前の中塗り塗膜は下地隠蔽効果を求める際には固形分濃度が70%以上と高い状態になっている。この結果、中塗り塗膜表面が一時的に平滑性に劣ることになっても、ウエットオンウエット法で水性ベース塗料を塗布することで、水性ベース塗料中の水分が中塗り塗膜表層に移行し、中塗り塗膜表面(中塗り塗膜およびベース塗膜の界面)を平滑化する。本発明の中塗り塗料は親水性であり、プレヒート後の中塗り塗膜においても疎水化することを防いだものであるため上記水分移行が起こり易く、下地隠蔽性および表面平滑性の両立を達成することができる。また、本発明の中塗り塗料は、上記水分移行は起きるが、塗膜成分の混ざりこみを抑制するものである。この結果、艶感の低下が起きず、意匠性の高い多層塗膜を形成することができる。さらに、上記混ざりこみ防止効果とともに、優れた顔料分散性を有するため、中塗り塗膜においても着色顔料を使用することができ、中塗り塗膜における着色顔料とベース塗膜における着色顔料を組み合わせによる外観向上を図ることが可能であり、意匠性の高い多層塗膜を形成することができる。
【0119】
上記多層塗膜の形成法においては、ベース塗膜が未硬化の状態で、クリヤー塗料を塗布してクリヤー塗膜を形成する。クリヤー塗膜は、ベース塗料として光輝性顔料を含むメタリックベース塗料を用いた場合に光輝性顔料に起因するベース塗膜の凹凸、チカチカ等を平滑にしたり、また、ベース塗膜を保護するために形成されるものである。上記クリヤー塗料としては特に限定されず、例えば、塗膜形成性樹脂、硬化剤及びその他の添加剤からなるものを挙げることができる。
【0120】
上記塗膜形成性樹脂としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられ、これらはアミノ樹脂及び/又はブロックイソシアネート樹脂等の硬化剤と組み合わせて用いられる。透明性又は耐酸エッチング性等の点から、アクリル樹脂及び/若しくはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、又は、カルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂及び/若しくはポリエステル樹脂等を用いることが好ましい。
【0121】
上記クリヤー塗料としては、上述した水性ベース塗料を塗布後、未硬化の状態で塗布するため、層間のなじみや反転、又は、タレ等の防止のため、粘性制御剤を添加剤として含有することが好ましい。上記粘性制御剤の添加量は、クリヤー塗料の樹脂固形分100質量部に対して0.01〜10質量部であり、好ましくは0.02〜8質量部、より好ましくは0.03〜6質量部である。10質量部を超えると、外観が低下し、0.1質量部未満であると、粘性制御効果が得られず、タレ等の不具合を起こす原因となる。
【0122】
上記クリヤー塗料の塗料形態としては、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルジョン)、非水分散型、粉体型のいずれでもよく、また必要により、硬化触媒、表面調整剤等を用いることができる。
【0123】
上記クリヤー塗料の調製方法及び塗装方法としては、従来の方法に従って行うことができる。上記クリヤー塗膜の乾燥膜厚は、用途により変化するが、10〜70μmである。この乾燥膜厚が上限を超えると、鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、流れ等の不具合が起こることがあり、下限を下回ると、外観が低下するおそれがある。
【0124】
上記多層塗膜形成法においては、前記中塗り塗膜、前記ベース塗膜、および前記クリヤー塗膜を同時に加熱硬化させて、多層塗膜を得る。
【0125】
上記加熱硬化させる温度としては、好ましくは110〜180℃、より好ましくは120〜160℃にて行うことによって、高い架橋度の硬化塗膜を得ることができる。180℃を超えると、塗膜が固く脆くなりやすく、110℃未満では硬化が不充分になりやすい。硬化時間は硬化温度により変化するが、120〜160℃で10〜60分間が適当である。本発明の塗膜形成方法によって得られる多層塗膜の膜厚は、通常30〜300μm、好ましくは50〜250μmである。300μmを超えると、冷熱サイクル等の膜物性が低下し、30μm未満であると、膜自体の強度が低下する。
【実施例】
【0126】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこの例によってなんら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り部は質量部を、%は質量%を表す。
【0127】
〔製造例1〕((a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂の製造)
(a−1)ビニル変性脂肪酸の製造
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた3リットルの四つ口フラスコに、第1表に示した量の脂肪酸とキシレン650部を仕込み、撹拌しながら130℃まで昇温し、そこにビニル重合可能な単量体類と重合開始剤の混合物を3時間かけて添加した。一晩130℃で撹拌し、80℃に降温後、メチルエチルケトン350部を添加し、(a−1)ビニル変性脂肪酸Aの溶液を得た。なお、溶液の不揮発分は50質量%である。
【0128】
【表1】

【0129】
(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂の製造
攪拌機、温度計、脱水トラップ付き還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた3リットルの四つ口フラスコに、第2表に示す組成の原料とジブチル錫オキサイド0.5質量部とを仕込み、220℃まで昇温し、脱水縮合反応を行った。このとき、樹脂溶液の一部を取り出してブチルセロソルブで不揮発分が60質量%になるまで希釈した時の溶液の酸価が、第2表の値になるまで反応を続行せしめ、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂の原料である固形の(a−2)水酸基含有ポリエステル樹脂Aを得た。
【0130】
【表2】

【0131】
(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂の製造
攪拌機、温度計、脱水トラップ付き還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた3リットルの四つ口フラスコに、第3表に示した組成の原料を仕込み、180℃まで徐々に昇温し、キシレンとメチルエチルケトンを留去させ、脱水縮合反応を行った。ここで、ブチルセロソルブで不揮発分が50質量%になるまで希釈した時の溶液の酸価が、16.5mgKOH/gになるまで反応を続行させた。反応終了後150℃で1時間撹拌し、90℃でトリエチルアミンを添加し同温度で1時間撹拌した。その後、不揮発分が40質量%になるようにイオン交換水を添加し、第3表の性状を有する(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂Aの水分散液を得た。
【0132】
得られた(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂Aについて下記濁度法により判断した結果、水分散性樹脂であることが確認された。
【0133】
濁度法(水溶性・水分散性の別の判断方法)
当該判断は、次の(i)〜(iii)によって行った。
(i)測定対象である樹脂を、水およびブチルセロソルブの混合溶媒100g中に混合し、20℃で、当該樹脂が樹脂固形分で40重量%、水が55重量%、ブチルセロソルブが5重量%となるように混合液を調整する。
(ii)当該混合液を入れたガラスビーカーの底に5号活字を敷き、視力1.5の者が、上方0.5mから当該5号活字の判読を試みる。
(iii)当該5号活字の判読ができる程度に透明であるときは当該樹脂は「水溶性」であり、当該5号活字の判読ができる程度まで透明でないときは当該樹脂は「水分散性」であると判断する。
【0134】
水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂Aの性状値を第3表に示す。
【0135】
【表3】

【0136】
(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂
以下に示す市販のエポキシ変性ポリエステル樹脂を使用した。
エポキシ変性ポリエステル樹脂(大日本インキ化学工業製、商品名 ウォーターゾール(登録商標)S−370、水酸基価100、酸価40、重量平均分子量17000、均一液型、固形分55%)
本樹脂について前記濁度法に基づき判断したところ、水溶性であることが確認された。
【0137】
(c)メラミン樹脂
以下に示す市販のメラミン樹脂を使用した。
メラミン樹脂A(三井サイテック社製、商品名:サイメル(登録商標)325、メチル基含有イミノ型、核数1)
メラミン樹脂B(三井サイテック社製、商品名:サイメル(登録商標)303、メチル基含有完全アルキル型、核数1)
【0138】
〔(d)水溶性エポキシ樹脂〕
市販のエポキシ樹脂(ナガセケムテック社製、商品名:デナコール(登録商標)EX−861)を使用した。
当該エポキシ樹脂について前記濁度法に基づいて判断したところ、水溶性であることが確認された。
【0139】
〔製造例2〕((e)架橋樹脂粒子の製造)
窒素導入管、撹拌機、冷却器、温度調節機および滴下ロートを備えた500mlの反応容器に脱イオン水185部を仕込み、83℃まで昇温した。アロニクス(登録商標)M−5300(東亜合成化学社製)20部、ジメチルエタノールアミン5.9部およびスチレン80部を滴下ロートに仕込み、モノマー溶液とした。ついで、反応容器にモノマー溶液を2時間かけて滴下した。また、4,4′−アゾビス−4−シアノバレリック酸1部をジ
メチルエタノールアミン0.55部で中和し、40部の脱イオン水に溶解した溶液をモノマー溶液と同時に開始剤として滴下した。さらに83℃で1時間撹拌を継続した後、冷却し、乳白色のエマルションを得た。得られた架橋樹脂粒子のエマルションは、固形分30%、粒子径100nm(レーザー光散乱法)であった。
【0140】
〔実施例1〜12、比較例1、2〕(中塗り塗料および多層塗膜の製造)
中塗り塗料の製造
ステンレス容器に第4表に示す所定量の(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂と、所定量の顔料と、それらと同量のガラスビーズを仕込み、ペイントシェーカーにて2時間分散させた。次いで、所定量の(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂、(c)メラミン樹脂、(d)水溶性エポキシ樹脂、(e)架橋樹脂粒子を仕込んで5分間攪拌したのち、ガラスビーズを除き、さらに、イオン交換水でフォードカップNo.4で50秒(20℃)となるように粘度を調整して、水性中塗り塗料を得た。
多層塗膜の調製
パワートップ(登録商標)U−50(日本ペイント製カチオン電着塗料)を用いて、リン酸亜鉛処理したダル鋼板に対して、乾燥膜厚が30μmになるような電着塗装し、160℃で30分間焼付けを行った。その板に、上記水性中塗り塗料を回転霧化塗装にて膜厚20μmで塗装し、80℃で3分間プレヒートした。プレヒート後の中塗り塗膜の固形分濃度は85質量%であった。なお、この水性中塗り塗料のプレヒート後の塗膜の塗膜の固形分濃度の測定は次のように行った。
予め質量を測定した150×100mmのアルミニウム箔に対して、上記ダル鋼板に対する水性中塗り塗料の塗装と同じ条件で塗装及びプレヒートを行い、未硬化の水性中塗り塗膜を得た。この未硬化の中塗り塗膜が形成されたアルミニウム箔を手早く折りたたみ質量を測定し、固形分濃度を算出した。
当該プレヒート後、アクアレックスAR−2100(日本ペイント製水性ベース塗料)をエアスプレー塗装にて膜厚12μmで塗装し、80℃で3分間プレヒートした。更にその塗板にマックフロー(登録商標)O−1820クリヤー(日本ペイント製クリヤー塗料)をエアスプレー塗装にて膜厚35μmで塗装した後、140℃で30分間焼付けを行った。一方、ベース肌の評価用試験材はベース塗料塗布後に、140℃で30分間焼き付けて作成した。
【0141】
【表4】

【0142】
得られた多層塗膜に関して、以下の測定及び試験を行った。結果を第5表に示す。
【0143】
〔ベース肌外観〕
ベース塗料塗布後に、140℃で30分間焼き付けて作成したベース肌評価用試験剤を用いて、以下の基準により評価した。なお、当該評価基準は下記の多層塗膜外観の評価基準と共通する。
◎:表面に凸凹が確認されず、光沢がかなり良好
○:表面に凸凹が確認されず、光沢が良好
△:表面に凸凹がわずかに確認され、艶が引けた状態
×:表面に凸凹があり、艶が引けた状態
【0144】
〔多層塗膜外観〕
(光沢)
ERICHSEN社製「PICOGLOSS Model500MC」を用いて、20°グロスを測定した。
(PGD測定)
日本色彩研究所製携帯用鮮明度光沢計「PGD IV型」を用いて、複層塗膜の鮮明度光沢度(Gd)値を測定した。Gd値は面に映る像の鮮明性の指標であり、その数値が大きい程、面の鮮明性が高い。
(目視)
上記のベース肌外観の評価と同じ基準により評価した。
【0145】
〔塗膜性能〕
(耐水性)
塗膜を40℃の温水中に1日間浸漬し、塗膜外観の変化を目視により以下の基準で評価した。
◎:異常なし
○:やや白化
△:白化
×:溶解
(耐チッピング性)
耐チッピング性グラベロ試験機(スガ試験機(株)製)を用いて、以下の条件で試験を行い、目視により評価した。
石の大きさ 7号砕石
石の量 50g
距離 35cm
エアー圧 4.0 kg/cm2
角度 45°
試験温度 −20℃
評価基準
◎:はがれが全くない。
○:わずかにはがれが認められる。
△:1mmφ以下のはがれが散見される。
×:はがれが目立つ。
【0146】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明によれば、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を3コート1ベーク方式で形成した際において、意匠性および機能性に優れる多層塗膜を形成することができる水性中塗り塗料が提供される。本発明の水性中塗り塗料により、優れた塗膜性能を有する多層塗膜の製造を、有機溶剤系塗料から水系塗料への転換および塗装工程の短縮化とともに達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂、(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂および(c)メラミン樹脂を含む水性中塗り塗料。
【請求項2】
(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂が、酸価20〜100mgKOH/g、中和度70〜100%、重量平均分子量は10000〜150000のポリエステル樹脂であり、
(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂が、酸価25〜50mgKOH/g、中和度70〜100%、重量平均分子量は5000〜30000のポリエステル樹脂である請求項1に記載の水性中塗り塗料。
【請求項3】
(c)メラミン樹脂が、その反応性基が(I)式
【化1】

で表される基であるメチロール型、(II)式
【化2】

で表される基であるイミノ型、並びに(I)式および(II)式で表される基が混在するメチロール/イミノ型から選ばれる一種または二種以上のメラミン樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性中塗り塗料。
【請求項4】
(c)メラミン樹脂が、その反応性基が(I)式
【化3】

で表される基であるメチロール型、(II)式
【化4】

で表される基であるイミノ型、並びに(I)式および(II)式で表される基が混在するメチロール/イミノ型から選ばれる一種または二種以上のメラミン樹脂と、
反応性基が(III)式
【化5】

(R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
で表される基である完全アルキルエーテル型のメラミン樹脂を併用してなり、(c)メラミン樹脂全量に対して、完全アルキルエーテル型のメラミン樹脂の含有量が60質量%以下である請求項1または2に記載の水性中塗り塗料。
【請求項5】
(d)水溶性エポキシ樹脂をさらに含有する請求項1〜4のいずれかに記載の水性中塗り塗料。
【請求項6】
(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂と(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂の質量比が、樹脂固形分換算で、5:95〜95:5であり、
樹脂固形分換算で、(c)メラミン樹脂の含有量が、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂および(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂の合計量に対して、25〜100質量%であり、
樹脂固形分換算で、(d)水溶性エポキシ樹脂の含有量が、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂、(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂および(c)メラミン樹脂の合計量に対して3〜25質量%である請求項5に記載の水性中塗り塗料。
【請求項7】
(e)架橋樹脂粒子をさらに含有し、樹脂固形分換算で、(e)架橋樹脂粒子の含有量が、(a)水分散性ビニル変性ポリエステル樹脂、(b)水溶性エポキシ変性ポリエステル樹脂、(c)メラミン樹脂および(d)水溶性エポキシ樹脂の合計量に対して3〜40質量%である請求項5または6に記載の水性中塗り塗料。
【請求項8】
(f)顔料をさらに含有し、(f)顔料の含有量が、顔料重量濃度(PWC)で20〜70質量%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の水性中塗り塗料。
【請求項9】
電着塗膜が形成された被塗装物上に、水性中塗り塗料を塗布して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程(1)、前記未硬化の中塗り塗膜の上に、水性ベース塗料を塗布して未硬化のベース塗膜を形成する工程(2)、前記未硬化のベース塗膜上にクリヤー塗料を塗布して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程(3)、前記未硬化の中塗り塗膜、前記未硬化のベース塗膜、および前記未硬化のクリヤー塗膜を同時に加熱硬化させる工程(4)を含む多層塗膜形成方法に用いる水性中塗り塗料である請求項1〜8のいずれかに記載の水性中塗り塗料。
【請求項10】
電着塗膜が形成された被塗装物上に、水性中塗り塗料を塗布して未硬化の中塗り塗膜を形成する工程(1)、前記未硬化の中塗り塗膜の上に、水性ベース塗料を塗布して未硬化のベース塗膜を形成する工程(2)、前記未硬化のベース塗膜上にクリヤー塗料を塗布して未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程(3)、前記未硬化の中塗り塗膜、前記未硬化のベース塗膜、および前記未硬化のクリヤー塗膜を同時に加熱硬化させる工程(4)を含む多層塗膜形成方法であって、
前記水性中塗り塗料として請求項1〜8のいずれかに記載の水性中塗り塗料を用いることを特徴とする多層塗膜形成方法。
【請求項11】
前記水性ベース塗料として、アクリルエマルションを含むベース塗料を用いる請求項10に記載の多層塗膜形成方法。
【請求項12】
前記工程(1)と工程(2)の間、および/または、工程(2)と工程(3)の間に、プレヒートを行う請求項10または11に記載の多層塗膜形成方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれかに記載の多層塗膜形成方法により形成された多層塗膜形成物。

【公開番号】特開2009−114392(P2009−114392A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291206(P2007−291206)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】