説明

水性二相系からの注射可能なヒドロゲル・ミクロスフェア

注射可能なヒドロゲル・ミクロスフェアは、ヒドロゲル前駆体が分散性水相中であるエマルジョンを形成し、そしてヒドロゲル前駆体を重合させることによって製造される。望ましい場合には、ヒドロゲル前駆体は、ポリ(エチレングリコール) ジアクリレート、およびN−イソプロピルアクリルアミドであり、そしてエマルジョンの連続相は、デキストランおよびデキストラン溶解性減少剤の水溶液である。ミクロスフェアは、水溶液から、蛋白質(例えばサイトカイン)を負荷され得る。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、The National Textile Center との二次契約によって、United States Department of Commerce Prime Grant Award No. 99-27-07400 下で、少なくとも一部分米国政府の支援を得た。米国政府は本発明にある種の権利を有する。
【0002】
関連明細書の相互参照
本出願は、米国仮特許出願第 60/440,646 号(2003年1月17日出願)に基づく権利を主張している。
【0003】
技術分野
本発明は、水溶液から水溶性蛋白質を負荷し、薬物(例えば水溶性蛋白質薬物)の制御放出に有用である、注射可能なヒドロゲル・ミクロスフェア、およびその製造に関する。
【0004】
本発明の背景
薬物送達系における最も大きな挑戦の一つは、蛋白質をベースとした薬物の制御送達であり、これは、該薬物の循環系における短半減期、低浸透性、速い蛋白質分解 (低安定性)、および免疫原性による。多単位投与形(例えばポリマー性ミクロスフェア)の使用によって、一単位投与形(例えば錠剤)が投与された場合と比較して、患者において、吸収差が大きく減少し、ヒトの身体における標的部位に、より効果的な薬物蓄積(accumulation)をもたらす。多くの技術が、薬物投与のためのポリマー性ミクロスフェアの製造のために提案されている。最も一般的に用いられる報告された技術は、溶媒蒸発または多重エマルジョン溶媒蒸発を含む。これらの技術は、有機溶媒に依拠するものであり、該溶媒は、蛋白質をベースとした薬物の生物活性の低下を起こし、かつ一般的に毒性であり、そのため完全除去が必要である。
【0005】
口腔癌を有する患者の全生存率はここ40年間で約50%である。サイトカイン免疫療法は、動物モデルおよび初期臨床試験で勇気付けられる結果を示している。しかし、サイトカインを全身に投与した場合、それらは広範な毒性像を示す。炎症誘発性サイトカインの腫瘍微小環境への局所徐放がヒドロゲルからの放出によって可能であるが、既知のヒドロゲルのサイトカインでの負荷は、有機溶液からのサイトカインの負荷を必要とし、このことがサイトカイン生物活性の著しい損失をもたらす。
【0006】
従って、有機溶媒の使用を必要とせず形成することができ、かつ、薬物を不活性化することなく水溶性蛋白質薬物を負荷するポリマー性ミクロスフェア投与剤形に対する要請がある。
【0007】
本発明の要約
注射可能なヒドロゲル・ミクロスフェアは、水溶性であるヒドロゲル前駆体から得られ、そしてその製造に有機溶媒の使用を必要としないこと、そして得られたヒドロゲル・ミクロスフェアは、蛋白質を不活性化することなく、水溶液から水溶性蛋白質を負荷することが見出された。
【0008】
ここで、本発明の方法は、蛋白質活性の有意な損失なしに水溶液から蛋白質を負荷する、注射可能なヒドロゲル・ミクロスフェアを製造するものであり、活性蛋白質のための徐放性担体を提供する。
【0009】
本発明の方法は、
a) 少なくとも1個のヒドロゲル前駆体がヒドロゲル形成において架橋リンカーおよびモノマーの両方として機能する、水に可溶なヒドロゲル前駆体の水溶液(第1水溶液という)を製造すること;
b) 第1水溶液と第2水溶液を混合し、ここで、該第2水溶液は水に溶解したポリマーを含み、該ポリマーが、存在する何れかの溶解性減少剤と共に存在するポリマーの濃度で、該混合に際して、第1水溶液と非混和性の水相を形成し、該第2水溶液は、第1水溶液と、それによって第1水溶液と第2水溶液の混合によりエマルジョンを形成する際に連続相となる相対的量で混合されること;
c) 第2水溶液が連続相であり、そして第1水溶液が分散相であり、そして該分散相が25から60μm(レーザー回折によって測定)の範囲の直径を有するスフェアからなるエマルジョンを形成すること;
d) 該分散相のヒドロゲル前駆体を重合しヒドロゲル・ミクロスフェアを形成すること;
e) ヒドロゲル・ミクロスフェアを集めること;
の段階を含むものである。
【0010】
本発明の別の態様は、水溶液からサイトカインを負荷し得る、注射可能なヒドロゲル・ミクロスフェアを指向する。ヒドロゲルの注射可能性は、投与を簡略化するのに有益である。
【0011】
“ヒドロゲル”という用語は、ここでは、水中で膨潤し、そして溶解することなくその構造中に有意な量の水を保持することが可能なポリマー性物質を意味する。
【0012】
“ヒドロゲル前駆体”という用語は、ここでは、ヒドロゲルを形成するために水溶液中で重合可能な水溶性組成物を意味する。
“ミクロスフェア”という用語は、ここでは、別の定義をされない限り、1から200もしくは300μmの範囲の直径を有する球状粒子を意味する。
【0013】
詳細な説明
ヒドロゲル形成において架橋リンカーおよびモノマーの両方として機能するヒドロゲル前駆体は、好ましくは、ポリ(エチレングリコール ジアクリレート)(時には、PEG−DAと記載される場合もある)である。ここで、ポリ(エチレングリコール)は、2,000から35,000の範囲の重量平均分子量を有する。PEG−DAは、好ましくは、Cruise, G.M., et al, Biomaterials 19, 1287-1294 (1998)に記載されている通りに、ポリ(エチレングリコール) ジオールから、塩化アクリロイルとの反応によって、ポリ(エチレングリコール)のアクリレート ジエステルを形成させて製造される。ポリ(エチレングリコール) ジオール出発物質は市販されている。
【0014】
好ましくは、第1水溶液に含まれる他のヒドロゲル前駆体はまた、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAmと記載されることもある)である。NIPAAmは、得られたヒドロゲルに温度感受性を与え、それによって、低臨界溶液温度(lower critical solution temperature)を超えたときに、得られたヒドロゲルは、水およびそれに溶解している蛋白質を失う。“低臨界溶液温度”(ここでは、“LCST”と記載する場合もある)という用語は、ヒドロゲル・ミクロスフェアをサーモグラフにかけて測定した吸熱ピークであり、それより上の温度で、ヒドロゲルが崩壊し、ヒドロゲルの体積が劇的に収縮する温度である。ここで、NIPAAmおよびPEG−DAからのヒドロゲルは約29℃のLCSTを有する。“温度感受性”という用語は、収縮や水の喪失を起こす温度の変化を意味する。
【0015】
NIPAAmおよびPEG−DAを含む第1水溶液に関して、第1水溶液におけるNIPAAmの濃度は、例えば5から25%(wt/vol%)の範囲であり、そして第1水溶液におけるPEG−DAの濃度は、例えば2から50%(wt/vol%)の範囲である。
【0016】
第2水溶液におけるポリマーは水溶性であり、そして上記のように、第2水溶液中に存在する何れかの溶解性減少剤と共に第2水溶液中に存在するポリマーの濃度で、段階(b)の混合の際に、該第1水溶液と混和可能ではない水溶液を形成する。第2水溶液のポリマーには、水溶性多糖類が望ましい。約40,000から80,000の範囲の重量平均分子量を有するデキストランが特に望ましい。他の水溶性多糖類、例えばキトサン、澱粉、藻類フコイダン、セルロース、ペクチン、ヘパリン、カシューナッツ・ゴム、およびグリコーゲンは、デキストランの代わりに用いられ得る。第2水溶液のための多糖類以外の他のポリマーは、例えば、ポリ電解質、例えばポリエチレンイミンまたはポリアクリル酸;ポリ(ビニルピロリドン);エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのコポリマー;およびカゼイン酸ナトリウムおよびアルギン酸ナトリウムの混合物である。
【0017】
第2水溶液のポリマーとしてデキストランを使用する際に、デキストランの水への溶解性を減少させ、段階(b)の混合の際に、ポリマー−ポリマー不溶性による2相水系を形成させ、すなわちPEG−DAおよびNIPAAmのデキストランからの“塩析”を起こさせ、乳化剤もしくは安定剤を必要とすることなく2つの水相の間の非混和性を助長するために、化合物が第2水溶液に加えられ得る。この目的のために望ましい化合物は、MgSOである。KClなどの他の塩、およびリン酸マグネシウムが、MgSOに代わって用いられ得る。
【0018】
第2水溶液中のデキストランおよびMgSOに関して、該溶液のデキストランの濃度は、例えば10から50%(wt/vol%)の範囲であり、MgSOの濃度は、例えば、10から60%(wt/vol%)の範囲であり得る。
【0019】
段階(b)において、第1および第2水溶液は、第2水溶液が、連続相を構成し、第1水溶液が段階(c)におけるエマルジョンの形成の際に分散相を構成するような相対的比率で混合される。
【0020】
段階(c)におけるエマルジョンの形成は、例えば15分間から2時間激しく混合することによって行われ、それによって2相の水中水型エマルジョン系を形成し、例えば10分間から1時間静置することによって安定化する。分散相は、直径がレーザー回折によって測定したとき25から60μmの範囲であるスフェアの第1水溶液によって構成される。上記の通り、乳化剤は存在する必要がなく、乳化剤は存在しない方が好ましい。
【0021】
段階(d)の重合は、形成したエマルジョンへの開始剤の添加によって、容易に行われる。PEG−DAおよびNIPAAmの重合および架橋のためには、硫酸アンモニウムおよびN,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミンの開始剤系が望ましい。他の開始剤系は、例えば、ペルオキシ二硫酸アンモニウムと重亜硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムと重亜硫酸ナトリウム、ペルオキシ二硫酸アンモニウムとアスコルビン酸、過硫酸カリウムとアスコルビン酸、および過酸化水素とFe2+の系を含む。重合および架橋反応は、15分間から24時間で、15から45℃で行われ得る。
【0022】
段階(e)の回収は、連続相をデカンテーションし、蒸留水と共に繰り返し遠心分離することにより精製することによって行われ得る。
【0023】
回収したヒドロゲル・ミクロスフェアの乾燥は、好ましくは、ミクロスフェアの形状を維持し、それらを相互に分離した状態に維持して行う。これは、例えば、水で膨潤したミクロスフェアを含む水溶液をガラススライド上に置き、過剰の水を湿らせた濾紙で除き、そして例えば15から30時間空気中で乾燥するか、または凍結乾燥によって乾燥することによって行われ得る。
【0024】
乾燥したミクロスフェアは、走査電子顕微鏡を用いて測定したとき、10から35μmの範囲の凍結乾燥径を有する。
水溶性蛋白質、例えばサイトカイン(例えばインターロイキン−2)の負荷は、例えば、乾燥したヒドロゲル・ミクロスフェアを、可溶性蛋白質を含むリン酸緩衝溶液中に、1から4日間浸漬することによって行う。
【0025】
以下に、水溶液からサイトカインを負荷し得る、注射可能なミクロスフェアを指向する、本発明の態様について述べる。注射可能なミクロスフェアは、好ましくは、ポリ(エチレングリコール) ジアクリレート(ここで、ポリエチレングリコールは2,000から35,000の範囲の重量平均分子量を有する)、およびN−イソプロピルアクリルアミドを重合することによって形成されるヒドロゲル・ミクロスフェアであり、上記の通りに製造し、上記の通りにサイトカインを負荷する。
【0026】
注射可能なヒドロゲルは、温度の上昇が収縮および水分の喪失を起こすという、温度感受性放出パターンを有する。
ここで、重量平均分子量は、単分散ポリスチレン標準を用いるゲル浸透クロマトグラフィーによって決定する。
【0027】
本発明は、米国仮特許出願第 60/440,646 号の一部である、「水性2相系中で合成されるPNIPAAm/PEG−DA ヒドロゲル・ミクロスフェア」と題された文書に示されている実験および結果および結論によって支持され、米国仮特許出願第 60/440,646 号の全体は、引用によって本明細書に組み込まれている)。
本発明は、下記の実施例によって説明される。
【実施例】
【0028】
実施例 I
ポリ(エチレングリコール)(重量平均分子量 3,600) ジアクリレート(PEG−DA)を、Cruise, G.M., et al, Biomaterials 19, 1287-1294 (1998) の方法によって製造した。
【0029】
PEG−DA(0.35g)およびN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm, 0.75g)を、蒸留水(5.0ml)に溶解し、水溶液を形成した。次に、デキストラン(重量平均分子量43,000, 3.0g)、および無水硫酸マグネシウム(MgSO, 3.0g)を蒸留水(10 ml)に溶解し、第2水溶液を形成した。2つの水溶液を30分間撹拌速度800rpmで激しく混合した。相分離が起り、生成した水中水型エマルジョン系を20分間安定化させた。次にペルオキシ二硫酸アンモニウム(150μl, 5.0wt%水溶液)、およびN,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン(100μl)を加え、重合/架橋反応を開始させた。反応は、22℃で30分間撹拌することなく行い、NIPAAmおよびPEG−DA中のアクリロイル部分を重合させた。最後に、生成したヒドロゲル・ミクロスフェアを回収し、蒸留水と共に反復して遠心分離することによって精製した。乾燥を上記の通りに空気中で乾燥させることによって行った。
【0030】
ヒドロゲル・ミクロスフェアの制御放出機能を検討するために、ウシ血清アルブミン(BSA)を、モデルの高分子量蛋白質薬として選択した。
【0031】
乾燥したヒドロゲル・ミクロスフェアを、BSA負荷リン酸緩衝溶液(8.0gのBSAおよび25mlのリン酸緩衝食塩水) (PBS, pH 7.4)に、22℃で2日間浸漬し、それによって、平衡分配によりヒドロゲル・ミクロスフェアにBSAを負荷した。膨潤したBSA負荷ヒドロゲル・ミクロスフェアを、次のBSA放出試験に用いた。ヒドロゲル・ミクロスフェアからのBSAの放出試験は、pH 7.4 リン酸緩衝食塩水(PBS)中で、そのLCST以下(22℃)もしくはそれ以上(37℃)の温度で行った。放出プロファイルは、277μmの吸光度でUVスペクトルによってモニターした。22℃で、ヒドロゲル・ミクロスフェアから、ほぼ60%のBSAが、12時間で放出された。一方、ヒドロゲル・ミクロスフェアから、37℃で40% BSAが放出された。このことは、薬物放出が、環境の温度の変化によって制御され得ることを示している。全てのBSAが24時間で放出されなかったことから、この試験は、徐放性を証明している。この結果の外挿より、約1週間以上BSAの放出が持続するであろうことが示される。
【0032】
実施例 II
ポリ(エチレングリコール) ジアクリレート(PEG−DA)を、Cruise, G.M., et al. Biomaterials 19, 1287-1294 (1998) の方法によって、重量平均分子量8,000のポリ(エチレングリコール) ジオールを用いて製造した。要するに、25gのポリ(エチレングリコール)ジオール(8,000)(PEGジオールと表記)を、50mlの無水ベンゼンに溶解し、PEG溶液を形成した。トリエチルアミン(PEGジオール末端基に対して4倍モル過剰)を、室温でPEG溶液に加え、次に塩化アクリロイル(PEGジオール末端基に対して4倍モル過剰)をPEG溶液に滴下し、PEGのアクリレート ジエステルを形成した。混合物を乾燥N下で35℃で終夜撹拌した。反応中に生じる不溶性トリエチルアミン塩を濾過して除き、PEG ジアクリレート(PEG−DA)生成物を、1.0Lの冷却したジエチルエーテル(4℃)を添加することによって沈殿させた。沈殿PEG−DAを集め、無水ベンゼン/冷却ジエチルエーテル中で2回再結晶することによって精製した。精製PEG−DAを集め、真空下で終夜40℃で回収した。
【0033】
PEG−DA(8,000, 0.35g)、およびN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm, 0.75g)を、5.0mLの蒸留水に溶解し、水相を形成した。ジアクリレート基が存在するので、PEG−DAは、次の重合/架橋反応において架橋リンカーおよび前駆体として作用する。次に、デキストラン(重量平均分子量66,000, 3.0g)および無水MgSO(3.0g)を10mLの蒸留水に溶解し、もう一方の水相を形成した。ここで、上記の2個の非混和性水相の形成を促進するために、無水MgSOを用いて、PEG−DAおよびNIPAAmを、デキストランから塩析させた(すなわち、2つの水系:デキストランおよびNIPAAm/PEG−DAの間の非混和性を増大させた)。これらの2つの水溶液を撹拌速度800rpmで60分間激しく混合した。相分離を起こし、そして得られた水中水型エマルジョン系を30分間安定化させた。次に、0.5mLの過硫酸アンモニウム溶液(50mg/mL)および0.1mLのN,N,N',N'−テトラメチレン ジアミンを加えた。
【0034】
撹拌することなく、NIPAAmおよびPEG−DA相中でアクリロイル部分を重合/架橋するために、混合物を室温で12時間静置した。得られた架橋されたPNIPAAm/PEG−DA ミクロスフェアは、繰り返し遠心分離して蒸留水で洗浄することによって精製した。水中10wt%の濃度での膨潤したミクロスフェアの懸濁液は、室温で半透明である。
【0035】
濃縮された平衡膨潤ミクロスフェアを、バーチス凍結乾燥機(Gardiner, NY)で、真空下で、−42℃で、少なくとも3日間、水が完全に昇華するまで乾燥した。
前駆体からの凍結乾燥したミクロスフェアの収率は、約54%であった。
【0036】
膨潤ヒドロゲル・ミクロスフェアの粒度は、レーザー回折によって、次のようにして決定した。凍結乾燥したミクロスフェアを、HPLCグレードの水に懸濁(5% vol)し、超音波処理して、均一な懸濁液を得た。レーザー回折を利用する粒度分析器(Particle Size Analyzer 2010, Brinkman Instruments, Inc., NY, USA)を用いて粒子径を測定した。約60%の膨潤ミクロスフェアが、約50μmの直径を有することが分かった。
【0037】
凍結乾燥したヒドロゲル・ミクロスフェアを、走査電子顕微鏡(Hitachi S4500 SEM, Mountain View, CA, USA)を用いて分析した。SEM観察前に、ミクロスフェアをアルミニウムの台に固定し、金でコートした。SEM像は直径約25μmの粒度を示した。
【0038】
粒度分析器によって測定された直径と、SEM測定による直径の間の粒度の不一致は、一方が流体力学的直径を、もう一方が非流体力学的直径を測定しているという差異による。SEM観察に高度真空が必要なために、SEMを用いて自然の膨潤状態におけるヒドロゲル・ミクロスフェアを観察することは不可能であることが分かった。環境走査電子顕微鏡(ESEM, Phillips ElectroScan 220)、および直接観察のために室温でミクロスフェア懸濁液の液滴を顕微鏡の試料受けに採取することによって調製したサンプルの使用は、直径約25μmの水和したミクロスフェアの粒度を示し、これは、SEM観察によって、凍結乾燥した粒子で得られた粒度と一致している。
【0039】
ヒドロゲルのLCSTの挙動は、示差走査熱量分析(DSC)(TA 2920 Modulated DSC, TA Instruments, Inc, DE, USA)を用いて観察した。それぞれのサンプルを室温で蒸留水に浸漬し、平衡に達した後、DSC測定を行った。約10mgの平衡膨潤サンプルを、密封用アルミニウム容器中に置き、密封用アルミニウム蓋で密封した。熱分析は、15から55℃で、膨潤ミクロスフェアのサンプルで、3℃/分の加熱速度で、乾燥窒素下(40mL/分)に行った。約29.1℃のLCSTが観察された。LCSTの存在は、ヒドロゲル・ミクロスフェアが温度感受性である、すなわち温度の上昇が収縮および水の喪失を起こすことを示している。
【0040】
室温(22℃)での平衡膨潤率を次のように測定した。
前もって定められた量の凍結乾燥ミクロスフェアのサンプルを、円筒状プラスチックチューブ(45ml)中に入れ、チューブのふたを密閉し、その重量を測定した。水(約30ml)をチューブに加え、ミクロスフェアを室温で連続的に振盪しながら12時間膨潤させた。膨潤ヒドロゲル・ミクロスフェアを遠心分離し、濃縮した。上部の透明な液体をピペットで注意深く除いた後、回収したミクロスフェアを素早く秤量し、プラスチックチューブに入れた。次いで、同体積の新しい水を、振盪しながら濃縮したミクロスフェアに加えた。チューブを室温で8時間インキュベートし、次に膨潤ヒドロゲル・ミクロスフェアを遠心分離し、再度濃縮した。この膨潤−遠心分離−秤量プロセスを、ミクロスフェアの重量が一定になる(これは、溶媒中で平衡膨潤状態に達したヒドロゲル・ミクロスフェアを意味する)まで、数回繰り返した。それぞれのサンプルについて、3つの平衡膨潤の間の平均値を取り、膨張率を次式により計算した:
膨張率=(W−W)/W
[ここで、Wは、膨潤ヒドロゲル・ミクロスフェアの重量であり、そしてWは乾燥ミクロスフェアの重量である]。計算された膨潤率は20±4である。
【0041】
モデルの薬物を次のように組み込む。膨潤率は、含浸させた薬物を放出する速度と量に関係する。膨潤率が大きいほど、放出速度は速くなり、かつ放出される薬物の量が多くなるのが普通の場合であると考えられている。ここで算定した膨潤率は、ヒドロゲル・ミクロスフェアの徐放有用性を示す。
【0042】
ヒドロゲル・ミクロスフェアに含浸するためのモデル蛋白質薬物として、ウシ血清アルブミン(BSA)を選択した。
ヒドロゲル・ミクロスフェアを製剤化する前にBSAを取り込むように、前負荷法を用いた。BSAの一定量(ポリマー前駆体の3.0wt%)を、前駆体溶液(すなわちPNIPAAm/PEG−DA水相)に加えた。次に、ヒドロゲル・ミクロスフェアを製造するために、このBSA負荷PNIPAAm/PEG−DA溶液を、デキストラン/MgSO溶液に加えた。重合および架橋後、BSA負荷PNIPAAm/PEG−DAヒドロゲル・ミクロスフェアを、遠心分離によって素早く精製し、蒸留水で5時間洗浄した。
【0043】
次に、薬物負荷ヒドロゲル・ミクロスフェア(10mg)を、1.5mLのリン酸緩衝溶液(PBS)(0.1M, pH 7.4)を含む2.0mLのバイアル中に入れた。バイアルを、前もって定められた温度(室温, すなわち22℃か37℃で)で、インキュベーター中に置いた。前もって定められた浸漬時間で、バイアルを10,000rpmで5分間遠心分離し、1.0mLの上清を除き、新しいPBSに置き換えた。上清のBSA含量を、Perkin Elmer Lambda 2 UV/VIS spectrometer (Norwalk, Connecticut) によって、277nmで測定し、放出されたBSAの濃度を、BSA標準キャリブレーション曲線から計算した。全ての放出試験を2回行った。結果を、下記の等式:
累積放出量(%)=(M/M)×100
[ここで、Mは、時間tでのヒドロゲル・ミクロスフェアから放出されたBSAの量であり、そしてMは、ヒドロゲル・ミクロスフェア中に負荷したBSAの初期量である]に従って、時間の関数としての累積放出量として表した。
【0044】
22℃(LCST以下)および37℃(LCST以上)で、経時的にヒドロゲル・ミクロスフェアから放出されたBSAの累積量を計算した。温度と無関係に、ヒドロゲルは、始めに比較的速く放出する時間、次にゆっくり放出する時間によって特徴付けられる、二相調節を示す。37℃でのBSAの放出速度および放出量は、22℃のものより遅く、かつ少なかった。例えば、始めの8時間以内では、放出された累積BSAは、22℃で約21%であり、そして37℃で13%であった。22日の試験期間中の累積BSA放出量は、22℃で60%であったのに対し、37℃で52%であった。推測に拘束されるつもりはないが、37℃で放出が少ないのは、LCST以上で崩壊したマトリックス中にBSAが捕捉されていることによると想定される。
本試験は、外温の違いによる放出速度の違いを示した。
【0045】
変法
変法は当業者に明らかである。従って、本発明の範囲は、請求項によって定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 少なくとも1個のヒドロゲル前駆体がヒドロゲル形成において架橋リンカーおよびモノマーの両方として機能する、水に可溶なヒドロゲル前駆体の水溶液(第1水溶液という)を製造すること;
b) 第1水溶液と第2水溶液を混合し、ここで、該第2水溶液は水に溶解したポリマーを含み、該ポリマーが、存在する何れかの溶解性減少剤と共に存在するポリマーの濃度で、該混合に際して、第1水溶液と非混和性の水相を形成し、該第2水溶液は、第1水溶液と、それによって第1水溶液と第2水溶液の混合によりエマルジョンを形成する際に連続相となる相対的量で混合されること;
c) 第2水溶液が連続相であり、そして第1水溶液が分散相であり、そして該分散相が25から60μm(レーザー回折によって測定)の範囲の直径を有するスフェアからなるエマルジョンを形成すること;
d) 該分散相のヒドロゲル前駆体を重合しヒドロゲル・ミクロスフェアを形成すること;
e) ヒドロゲル・ミクロスフェアを集めること;
の段階を含む、水溶液から蛋白質を負荷するヒドロゲル・ミクロスフェアを形成する方法。
【請求項2】
ヒドロゲル形成においてモノマーおよび架橋リンカーの両方として機能する、第1水溶液の第1ヒドロゲル前駆体が、ポリ(エチレングリコール) ジアクリレートであって、ここで、ポリ(エチレングリコール)が2,000から35,000の範囲の重量平均分子量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1水溶液の第2ヒドロゲル前駆体が、臨界溶液温度(critical solution temperature)を超えたときに、得られたヒドロゲルから水を喪失させる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第2ヒドロゲル前駆体が、N−イソプロピルアクリルアミドである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第2水溶液のポリマーが、水溶性多糖類である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第2水溶液のポリマーが40,000から80,000の範囲の重量平均分子量を有するデキストランである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
第2水溶液がデキストランの水への溶解性を減少させる成分を含み、その結果段階(b)の混合の際に2相の水系が形成され得る、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
水溶液からサイトカインを負荷され得る、注射可能なミクロスフェア。
【請求項9】
ポリエチレングリコールが2,000から35,000の範囲の重量平均分子量を有するポリエチレングリコール ジアクリレート、およびN−イソプロピルアクリルアミドを重合することによって形成されるヒドロゲルである、請求項8に記載の注射可能なミクロスフェア。

【公表番号】特表2006−517523(P2006−517523A)
【公表日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−567410(P2004−567410)
【出願日】平成15年12月4日(2003.12.4)
【国際出願番号】PCT/US2003/037076
【国際公開番号】WO2004/066704
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(592035453)コーネル・リサーチ・ファンデーション・インコーポレイテッド (39)
【氏名又は名称原語表記】CORNELL RESEARCH FOUNDATION, INCORPORATED
【Fターム(参考)】