説明

水性分散体、その製造法および積層体

【課題】従来、水性分散体として得ることができなかった、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なく、かつ溶融時の流動性が低い(メルトフローレート値が低い)エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体を提供する。
【解決手段】不飽和カルボン酸成分を1質量%以上かつ10質量%未満含有し、メルトフローレートが0.5〜100g/10分のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体、又は不飽和カルボン酸成分を10〜15質量%含有し、メルトフローレートが0.5g/10分以上かつ30g/10分未満のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体であって、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基のモル数に対して0.5〜15倍当量モルのアンモニア及び/又は有機アミン化合物を含有し、かつ不揮発性水性分散化助剤を実質的に含まないことを特徴とするエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なく、かつ溶融時の流動性が低いエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体、それらの製造方法、及びそれらを塗布した積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体に代表される、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体はアミンやアンモニア、アルカリ金属化合物などに代表される金属化合物によって水に分散(水性分散化)され、均一で良好な水性分散体が得られる事は古くから知られおり、各分野で接着剤やコーティング剤として広く利用されている。ただし、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散化は、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なくなる程、メルトフローレート値が低くなる程、困難となる傾向にあり、酸成分含有量やメルトフローレートの組み合わせにもよるが、不飽和カルボン酸成分の含有量が15質量%程度以下の場合または190℃・2160g荷重で測定したメルトフローレート(以下、単にメルトフローレートという)が300g/10分程度以下の場合において、水性分散化が困難となる傾向があった。
【0003】
不飽和カルボン酸成分の含有量が15質量%以下であるか、またはメルトフローレートが300g/10分以下であるような、難水分散性のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、アルカリ金属化合物のような金属化合物を用いると水性分散化が比較的容易となる傾向がある(特許文献1,2)。しかし、金属化合物を用いて得られた水性分散体の塗膜には、乾燥後も金属化合物が残存するために、耐水性に乏しく塗膜を水に浸漬しておくと剥離や白化するという問題や、耐アルカリ性や接着性が乏しいという問題があった。したがって耐水性、耐アルカリ性、高接着性を必要とする用途ではそのまま利用することは不可能であった。
【0004】
一方、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体をアンモニアやアミンを用いて水性分散化する方法も提案されている(特許文献3、5)
特許文献3では、アンモニアを用いて、不飽和カルボン酸成分の含有量が15〜35質量%、かつメルトフローレートが50〜2000g/10分のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を水性化が提案されている。しかしながら特許文献3の実施例には、不飽和カルボン酸成分の含有量が20質量%以上で、かつメルトフローレートが60g/10分以上の共重合体が水性化し得たことしか示されておらず、不飽和カルボン酸成分の含有量が20質量%未満での効果が示されているとは言いがたい。さらに、特許文献3の同一出願人による後願である特許文献4には、かかる水性分散体には少なからずゲルやブツが存在すると記載されており、十分均一な水性分散体であるとはいえなかった。
【0005】
また特許文献5には、特定のアミンを用いた、不飽和カルボン酸成分の含有量が10〜30質量%、かつメルトフローレートが30〜1500g/10分のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体が示されている。しかしながら特許文献4の実施例には、不飽和カルボン酸成分の含有量が15質量%以上で、かつメルトフローレートが60g/10分以上のものしか例示されていない。さらには、本発明者らの検証によれば、特許文献4記載の水性分散化方法によって、不飽和カルボン酸成分の含有量が11質量%、かつメルトフローレートが100g/10分の該共重合体を水性分散化した場合には、大粒径の未分散物が大量に確認され、全くもって均一な水性分散体を得ることは不可能であった(本願明細書の比較例5参照)。
【0006】
不飽和カルボン酸成分の含有量が15質量%以下であるか、またはメルトフローレートが300g/10分以下であるような、難水分散性のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体をアンモニアやアミンを用いて水性分散化する方法として、界面活性剤などの不揮発性水性分散化助剤を添加する方法が知られている(例えば特許文献6)。しかしながら、これらの方法で得られた水性分散体の塗膜には、乾燥後も不揮発性水性分散化助剤が残存するために、ブリードアウトの問題や、耐水性などの性能が著しく低下するといった問題があった。
【特許文献1】特開昭51−62890号公報
【特許文献2】特許第3617753号公報
【特許文献3】特開2000−248141号公報
【特許文献4】特開2002−220498号公報
【特許文献5】特許第3813567号公報
【特許文献6】特開2005−336277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような課題に対して、アンモニアやアミンを用い、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なく、かつ溶融時の流動性が低い(すなわち、メルトフローレート値が低い)、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の樹脂水性分散体、及びそれらの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なく、かつ溶融時の流動性が低いエチレン・不飽和カルボン酸共重合体であっても、特定の有機溶媒を添加して水性分散化することで、アンモニア及び/又は有機アミン化合物によって水性分散化され、かつ実質的に不揮発性水性化助剤を含有していない水性分散体を見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)不飽和カルボン酸成分を1質量%以上かつ10質量%未満含有し、JIS K7210:1999に基づき190℃・2160g荷重で測定したメルトフローレート(以下、単にメルトフローレートという。)が0.5〜100g/10分のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体、又は不飽和カルボン酸成分を10〜15質量%含有し、メルトフローレートが0.5g/10分以上かつ30g/10分未満のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体であって、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基のモル数に対して0.5〜15倍当量モルのアンモニア及び/又は有機アミン化合物を含有し、かつ不揮発性水性分散化助剤を実質的に含まないことを特徴とするエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体。
(2)不飽和カルボン酸成分を1質量%以上かつ10質量%未満含有しメルトフローレートが0.5〜100g/10分のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体又は不飽和カルボン酸成分を10〜15質量%含有しメルトフローレートが0.5/10分以上かつ30g/10分未満のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体と、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上でかつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒と、アンモニア及び/又は有機アミン化合物と、水とを、80〜280℃の温度で混合することを特徴とする(1)記載の水性分散体の製造方法。
(3)(1)記載の水性分散体より得られる塗膜。
(4)(3)記載の塗膜を基材上に形成させてなる積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水性分散体によれば、これを塗布・乾燥することにより、耐水性、耐アルカリ性、接着性、耐溶剤性を兼備した塗膜を得ることができ、こうした塗膜を基材上に設けた積層体は、包装材料等の用途に好適に使用することができる。
【0011】
また、本発明の水性分散体の製造方法によれば、従来は困難であった、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なく、かつメルトフローレート値が低いエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を不揮発性水性化助剤を用いることなしに、簡便に水性分散化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明に用いるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体において、その構成成分である不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルなどが挙げられ、これらの混合物であっても構わない。この中でもアクリル酸及び/又はメタクリル酸が、エチレンとの重合反応性に優れ好ましい。
【0014】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の不飽和カルボン酸の含有量は、1〜15質量%の範囲である。好ましくは2〜15質量%であり、より好ましくは3〜15質量%、特に好ましくは4〜15質量%である。不飽和カルボン酸の含有量が1質量%未満であると水性分散化が困難となり、一方、15質量%を超えると塗膜の耐水性や耐アルカリ性などの性能が低下する傾向がある。
【0015】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のメルトフローレートとしては、0.5〜100g/10分のものであり、好ましくは1〜100g/10分であり、より好ましくは2〜100g/10分、特に好ましくは3〜100g/10分である。メルトフローレートが0.5g未満/10分であると水性分散化が困難となり、一方、100g/10分を超えると、得られる塗膜の表面硬度や剛性は小さく、接着性や耐アルカリ性、耐溶剤性も悪化する傾向にある。なお、本発明において、メルトフローレートは、JIS K7210:1999に基づき190℃・2160g荷重における値を意味する。
【0016】
さらに、本発明に用いるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、不飽和カルボン酸の含有量とメルトフローレートとの特定の組合せからなるものである。すなわち、「不飽和カルボン酸の含有量が1質量%以上かつ10質量%未満で、メルトフローレートが0.5〜100g/10分」のものか、「不飽和カルボン酸の含有量の含有量が10〜15質量%でメルトフローレートが0.5g/10分以上かつ30g/10分未満」のものか、いずれかであり、前記いずれかの条件を満たすエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を水性分散化したことに特徴がある。
【0017】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体において、不飽和カルボン酸の含有量が1質量%以上10質量%未満のときには、メルトフローレートは0.5〜100g/10分の範囲のものでよい。しかしながら、不飽和カルボン酸の含有量の含有量が10〜15質量%の場合においては、この値が10質量%未満のものに対して、接着性や耐溶剤性が低下する傾向にあるため、性能を維持するために、より低いメルトフローレートを必要とする。このため、メルトフローレートは、0.5g/10分以上30g/10分未満とする必要がある。
【0018】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体には、本発明の効果を損なわない範囲で他の単量体が共重合されても構わない。単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルなどの不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素、二酸化硫黄など挙げることができる。これら単量体の含有量は、樹脂全体に対して0〜30質量%であればよい。
【0019】
本発明において、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、1種類のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を用いてもよいし、2種類以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を混合して用いてもよい。2種類以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を混合する場合には、混合後の樹脂における不飽和カルボン酸の含有量及びメルトフローレート値が、本発明に規定する範囲内であればよく、単独では本発明に規定する範囲を外れる樹脂を他の樹脂と混合して本発明に規定する範囲内となるようにして用いてもよい。
【0020】
2種類以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を混合して用いる場合には、混合方法として溶融ブレンドしたものが好ましいが、それぞれの樹脂ペレットをドライブレンドしてこれを水性分散化してもよい。なお、ドライブレンド物における不飽和カルボン酸含有量とメルトフローレートは、同一の混合比の溶融ブレンド物おける不飽和カルボン酸含有量とメルトフローレートを用いる。
【0021】
本発明の水性分散体において、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基を中和するために、アンモニア及び/又は有機アミン化合物を用いる。有機アミン化合物としては、沸点が0〜250℃のものが好ましい。沸点が0℃未満の場合は、水性分散化時に揮発する割合が多くなり、水性分散化の進行が不完全となる場合がある。沸点が250℃を超えると樹脂被膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、被膜の耐水性が悪化する場合がある。
【0022】
有機アミン化合物の具体例としては、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等が挙げられ、これらの混合物、又はアンモニアとこれらの混和物であっても構わない。中でもジエチルアミン、トリエチルアミンを用いるのが好ましい。
【0023】
アンモニア及び/又は有機アミン化合物の添加量はエチレン・不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基のモル数に対して0.5〜15倍当量モルであり、通常では0.8〜3.0倍当量モルが好ましく、1.0〜2.5倍当量モルがより好ましい。但し、不飽和カルボン酸の含有量が5質量%以下の場合においては、これら添加量を3〜15倍当量モルとした場合、驚くべきことに水性分散化がより容易となる傾向があり、4〜12倍当量モルが好ましく、5〜10倍当量モルがより好ましい。添加量が0.5倍当量モル未満では、添加の効果が認められず、15倍当量モルを超えると、添加の効果が変わらないうえに、塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体がはげしく着色したりする傾向がある。
【0024】
なお、本発明で得られる水性分散体は後述する脱溶剤処理によって、アンモニア及び/又は有機アミン化合物の一部を留去することが可能であるが、その場合においては、最終的なアンモニア及び/又は有機アミン化合物の含有量は前記したように、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基のモル数に対して0.5当量モル以上となるようにする必要がある。0.5倍当量未満となった場合は、水性分散体中の樹脂粒子同士が凝集し保存安定性が悪くなる傾向がある。アンモニア及び/又は有機アミン化合物の含有量はガスクロマトグラフィーで定量することができる。
【0025】
本発明の水性分散体には、アルカリ金属化合物などに代表される金属化合物を添加する必要は特にないが、水性分散体の使用目的において必要がある場合は、本発明の効果を損ねない範囲で、それらを添加しても差し支えない。
【0026】
次に、本発明の水性分散体の製造方法(水性分散化)について説明する。
【0027】
本発明におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散化は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、アンモニア及び/又は有機アミン化合物、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上でかつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒、及び水を80〜280℃で混合する方法を採用することができる。
【0028】
上記方法により、乳化剤成分や保護コロイド作用を有する化合物等の不揮発性水性分散化助剤を実質的に添加しなくとも、本発明で規定するような難水分散性のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体が水性媒体に均一に分散化された、良好な水性分散体が得られる。ここで、水性媒体とは、水、アンモニア及び/又は有機アミン化合物ならびに前記有機溶媒からなる媒体である。水性分散体中の水性媒体は、後述する脱溶剤処理によってその一部を除去しても構わない。
【0029】
水性分散化助剤とは、水性分散化において、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物を指す。不揮発性水性分散化助剤は、塗膜形成後にも残存し、塗膜を可塑化することにより、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の特性、例えば耐水性等を悪化させる。不揮発性とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
【0030】
本発明の水性分散体は不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有しないため、塗膜特性、特に耐水性に優れている。「不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有しない」とは、不揮発性水性分散化助剤を積極的には系に添加しないことにより、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体成分100質量部に対して不揮発性水性分散化助剤の含有量が0.1質量部未満であることを言い、好ましくはこの含有量がゼロである。
【0031】
本発明でいう不揮発性水性分散化助剤としては、例えば、後述する乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0032】
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0033】
本発明の水性分散化方法をさらに詳細に説明する。
【0034】
本発明の水性分散化においては、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上でかつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒を添加する必要がある。有機溶媒の20℃における水に対する溶解性は100g/L以上がより好ましい。前記の条件を満たす有機溶媒を用いることで、従来では水性分散化が困難であった、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なく、かつメルトフローレート値が低い、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散化を可能となる。20℃における水に対する溶解性が50g/L未満の場合は、水性分散化の促進効果が見られない。
【0035】
なお、これら有機溶媒は、本発明で規定するエチレン・不飽和カルボン酸共重合体に対して、高い溶解性を有している必要はなく、例えば、前記共重合体を溶解する能力の低い、溶解度0.5g/L以下のような有機溶媒でも使用することができる。前記溶解度は、例えば樹脂/有機溶媒=10/90(質量比)の混合物を80℃で2時間攪拌することにより評価できる。
【0036】
さらに、本発明の水性分散化方法に使用する有機溶媒は、沸点が30〜250℃のものである必要がある。こうした有機溶媒の具体例は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチルである。これらのうち、50〜200℃のものがより好ましい。
【0037】
上記の有機溶媒は2種以上を混合して使用してもよい。なお、有機溶媒の沸点が30℃未満の場合は、水性分散化時に揮発する割合が多くなり、水性分散化の効率が十分に高まらない場合がある。沸点が250℃を超える有機溶媒は水性分散体より得られる塗膜から乾燥によって飛散させることが困難であり、塗膜の耐水性が悪化する場合がある。また、有機溶媒の分子量は特に限定されないが、分子量90以下の物が好ましい。分子量が90を超えた場合は、得られる水性分散体がゲル化する場合がある。
【0038】
上記の有機溶媒の中でも、水性分散化促進に効果が高く、しかも後述するストリッピングと呼ばれる方法などで、除去しやすいという点から、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが好ましい。
【0039】
本発明の水性分散化においては、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上でかつ30〜250℃の沸点を有する有機溶剤の添加量として、水性媒体とエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の総和100質量%に対して5〜60質量%が好ましく、15〜50質量%がより好ましく、20〜45質量%がさらに好ましく、25〜40質量%が特に好ましい。添加量が5質量%未満の場合は水性分散化促進効果が低く、60質量%を超えた場合は水性分散化が困難となったり、得られた水性分散体がゲル化する傾向がある。
【0040】
水性分散化における、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の添加量としては、水性媒体とエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の総和100質量%に対して3〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましく、8〜20質量%がさらに好ましく、10〜15質量%が特に好ましい。添加量が3質量%未満の場合は得られる樹脂水性分散体の樹脂含有率が低すぎてそのまま使用するには塗膜の性能が発現しにくく、40質量%を超えた場合は水性分散化が困難となる傾向がある。
【0041】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の形状は特に限定されないが、水性化速度を速めるという点から、粒子径1cm以下、好ましくは0.8cm以下の粒状ないしは粉末状のものを用いることが好ましい。
【0042】
水性分散化のための容器としては、原料を加熱下で混合できる公知の固/液撹拌装置や乳化機が挙げられる。好ましくは0.1MPa(G)以上の耐圧性のある密閉容器が好ましい。本発明の製造方法において、混合手段は特に限定されず、適度に攪拌すればよい。撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されないが、樹脂が水性媒体中で浮遊状態となる程度の低速の撹拌でも十分水性分散化が達成され、高速撹拌(例えば1000rpm以上)は必須ではない。このため、簡便な装置でも水性分散体の製造が可能である。
【0043】
装置に原料を投入したあと、まず、槽内が40℃以下の温度で予備的に攪拌混合しておくことが好ましい。
【0044】
次いで、槽内温度(品温)を110〜280℃として混合することが必要である。このときの温度は、好ましくは120〜230℃、さらに好ましくは150〜200℃、特に好ましくは160〜180℃である。槽内温度が80℃未満の場合は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散化が困難になり、280℃を超える場合は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の分子量が低下する恐れがある。温度を110〜280℃に保持する時間は特に限定されないが、5〜120分間の範囲が適当である。
【0045】
本発明の水性分散化方法においては、驚くべきことに、その後の冷却時に水性分散化が進む傾向があり、特に、110から80℃へ降温の際にその傾向が顕著である。したがって、冷却の際も撹拌し続けることが好ましい。また、従来の水性分散体の製造方法では、製造時間短縮のために、冷却はできるだけ短時間で行うことが当然とされていていたが、これに反して、本発明では、110℃から80℃への降温時間は30分以上とすることが好ましく、60分以上がより好ましい。降温時間が30分未満であると水性分散体の粒子径が大きくなることがある。
【0046】
また、槽内温度110〜280℃で撹拌したときに、容器内のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は完全に水性分散化されていることが好ましいが、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の種類によっては、未分散樹脂が溶融状態で塊となって浮遊、又は撹拌翼などに絡まっている場合がある。そのような場合であっても、110℃から80℃への降温時間を30分以上とすることで、水性分散化を進行させて、収率を向上させることができる。
【0047】
冷却は攪拌しながら、最終的に槽内温度が40℃以下になるまで行うことが好ましく。冷却後に水性分散体を得ることができる。なお、この後、必要に応じてさらにジェット粉砕処理を行ってもよい。ジェット粉砕処理とは、水性分散体のような流体を、高圧下でノズルやスリットのような細孔より噴出させ、樹脂粒子同士や樹脂粒子と衝突板等とを衝突させて、機械的なエネルギーによって樹脂粒子をさらに細粒化することである。ジェット粉砕処理のための装置の具体例としA.P.V.GAULIN社製ホモジナイザー、みずほ工業社製マイクロフルイタイザーM-110E/H等が挙げられる。
【0048】
このようにして得られた水性分散体は、固形分濃度や有機溶媒濃度を、所望の濃度となるように、ストリッピングと呼ばれる脱溶媒操作などで系外へ留去したり、水により希釈したりすることで調整可能である。固形分濃度や有機溶媒量などを調整しても、特に性能面での影響はなく、各種用途に良好使用することができる。
【0049】
ストリッピング方法としては、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶媒を留去する方法を挙げることができる。有機溶媒の含有率はガスクロマトグラフィーで定量することができる。また、水性媒体が留去されて固形分濃度が高くなるために、粘度が上昇し作業性が悪くなるような場合には、水で希釈したり又は予め水性分散体に水を添加しておくことが好ましい。
【0050】
水性分散体中の有機溶媒の含有量は、その使用目的によって任意の濃度に調整すればよいが、使用時や保存時の安全性を確保するためには、少ないほうが好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0051】
水性分散体の固形分濃度は5〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましく、10〜25質量%がさらに好ましく、15〜20質量%が特に好ましい。5質量%未満の場合は固形分濃度が低すぎて塗膜の性能が発現しにくく、40質量%を超えた場合は著しい増粘やゲル化する傾向がある。
【0052】
水性分散体製造における水性分散化収率は、得られた水性分散体中に残存する粗大粒子の量によって知ることができる。具体的には、例えば、水性分散体を460メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織、目開き20μm)で加圧濾過(MAX0.5MPa(G))し、フィルター上に残存する樹脂量を測定することで求めることができる。なお、十分に高い水性化収率が得られず、粗大粒子が残存する場合でも、これを除去すれば本発明の水性分散体としての使用は可能である。製造コストや濾過の作業性の観点から、水性化収率は60%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましい。
【0053】
本発明の水性分散体は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体が水性媒体中に分散され、均一な液状である。均一な液状であるとは、外観上、水性分散体中に沈殿、相分離あるいは皮張りといった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が観察されない状態にあることをいう。
【0054】
本発明の水性分散体は、優れたポットライフを有し、室温で100日静置させた場合においても均一な液状を維持している。
【0055】
水性分散体中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体粒子の数平均粒子径(以下、mn)は、水性分散体の保存安定性が向上するという観点から、1μm以下であることが好ましく、低温造膜性の観点から0.5μm以下がより好ましく、0.2μm以下が特に好ましく、0.1μm以下がさらに好ましく、0.05μm未満が最も好ましい。さらに、体積平均粒子径(以下、mv)に関しても、3μm以下が好ましい。なお、前記した本発明の製造方法によれば、上記の好ましい数平均粒子径範囲を容易に実現することができる。
【0056】
水性分散体の粘度は、1〜50000mPa・s/20℃が好ましく、5〜5000mPa・s/20℃がより好ましい。またpHは9.0〜13が好ましく、9.5〜12がより好ましい。
【0057】
本発明においては、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体を2種類以上混合して、本発明の水性分散体としてもよい。
【0058】
本発明の水性分散体には、添加剤を配合することができる。添加剤としては、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールのような多価アルコール、水溶性エポキシ化合物、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、nプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート等のエステル類、他の重合体の水性分散体、無機粒子、架橋剤、レベリング剤、消泡剤、発泡剤、ワキ防止剤、酸化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、可塑剤、顔料、顔料分散剤、染料、抗菌剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防錆剤、接着剤、筆記性改良剤、無機充填剤、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料あるいは染料が挙げられる。また、水性分散体の安定性を損なわない範囲で上記以外の有機もしくは無機の化合物を水性分散体に添加することもできる。上記添加剤は2種類以上を用いてもよい。
【0059】
上記他の重合体の水性分散体は、特に限定されず、例えば、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・無水マレイン酸三元共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、スチレン・マレイン酸樹脂、スチレン・ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の水性分散体を挙げることができる。これらは、2種以上を混合して使用してもよい。
【0060】
上記無機粒子としては、特に限定されず、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化すず等の金属酸化物、炭酸カルシウム、シリカなどの粒子のほか、バーミキュライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、合成雲母等の水膨潤性の層状無機化合物の粒子が挙げられる。これらの無機粒子の平均粒子径は水性分散体の安定性の面から0.005〜10μmが好ましく、より好ましくは0.005〜5μmである。無機粒子は2種以上を混合して使用してもよい。
【0061】
上記架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができ、このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。これらの架橋剤を組み合わせて使用してもよい。凝集力や耐水性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるための好ましい架橋剤の添加量は、水性分散体中の樹脂100質量部に対して0.01〜100質量部、より好ましくは0.1〜60質量部である。
【0062】
本発明の水性分散体から得られる塗膜は、様々な基材との密着性に優れるため、接着剤、ヒートシール性付与剤、表面保護、塗料など種々の目的で、各種基材上に設けて積層体とすることができる。基材としては、例えば、プラスチック、金属、ガラス、又は紙等があげられ、さらに詳しくは、高、中、低密度ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体又はそのアイオノマー、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体又はそのアイオノマー、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテンのようなオレフィン重合体又は共重合体、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ABS型樹脂、スチレン・ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物のようなスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル、ナイロン6、ナイロン66のようなポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル及びこれらの任意割合の混合物などの熱可塑性重合体、天然ゴム、合成ゴムのようなゴム材料、フェノール樹脂、ポリウレタンのような熱硬化性樹脂、鉄、銅、アルミニウム、ステンレスのような金属、ガラス、セラミックス、木材、紙、レーヨン、皮革等の天然素材などを例示することができる。熱可塑性重合体にあっては、フィルム、シート、中空成形品、射出成形品、織布、不織布、合成皮革など種々の成形品に適用することができる。基材として、フィルム、シート、織布、不織布、合成皮革、紙などの扁平状基材を使用することにより、基材上にヒートシール層が形成された積層体を容易に得ることができる。本発明の水性分散体は、極性材料に対しては勿論のことオレフィン系重合体やスチレン系重合体などの疎水性材料に対しても、濡れ性が優れているので、塗工性よく水性分散体を塗布することができる。例えばOPPフィルムに代表されるポリオレフィンフィルムに本発明の水性分散体を塗布、乾燥して得られるフィルムは、透湿性が低く、良好なヒートシール性能を有しており、各種包装材料として好適に使用することができる。また金属材料に本発明の水性分散体を塗布、乾燥して得られる積層体は、防錆性、とくに耐湿防錆性に優れており、防錆性の要求される用途に好適に使用することができる。さらにガラスに本発明の水性分散体を塗布、乾燥して得られる積層体は、塗膜接着性に優れており、ガラス向け接着剤、ガラス向けインクなどの分野で使用することができる。
【0063】
塗膜の形成には公知の方法を用いることができ、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥又は乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂被膜を基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間は、被コーティング物である基材の特性や後述する硬化剤の種類、配合量等により適宜選択されるが、経済性を考慮した場合、温度は30〜250℃が好ましく、60〜230℃がより好ましく、80〜210℃が特に好ましく、時間は1秒〜20分が好ましく、5秒〜15分がより好ましく、5秒〜10分が特に好ましい。なお、架橋剤を添加した場合の温度と時間は、樹脂成分と架橋剤の反応性に応じて適宜選定される。
【0064】
本発明の水性分散体を用いて形成される塗膜の厚さは、用途によって適宜選択されるが、0.01〜100μmが好ましく、0.1〜50μmがより好ましく、0.2〜30μmが特に好ましい。塗膜厚さを調節するには、コーティング装置や使用条件の選択とともに、目的の厚さに適した固形分濃度の水性分散体を使用することが好ましい。
【実施例】
【0065】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各種特性については以下の方法によって測定または評価した。
【0066】
1. エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の特性
(1)不飽和カルボン酸成分の含有量
FT−IR法によって測定した。
(2)メルトフローレート
JIS K7210:1999記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
【0067】
2. 水性分散体の特性
(1)水性分散化収率
水性分散化後の樹脂水性分散体を、460メッシュのステンレス製フィルター(線径35μm、平織、目開き20μm、濾過面積133cm2)で加圧濾過(MAX0.5MPa(G))後に、フィルター上に残存する樹脂を、110℃真空乾燥で1時間乾燥し樹脂重量を測定、仕込み樹脂重量より収率を算出した。
(2)水性分散体の固形分濃度
460メッシュ濾過後の水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
(3)水性分散体の平均粒子径
日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、460メッシュ濾過後の樹脂水性分散体の数平均粒子径を求めた。ここで、粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
(4)ポットライフ
460メッシュ濾過後の水性分散体を、透明なガラス容器に入れ、室温で100日間静置したときの外観を目視観察し、次の3段階で評価した。
○:外観に変化なし。
△:増粘が見られる。
×:固化、凝集や沈殿物の発生が見られる。
(5)粘度
460メッシュ濾過後の水性分散体を、B型粘度計(トキメック社製、DVL−BII型デジタル粘度計)を用い、温度20℃における回転粘度を測定した。
(6)pH
460メッシュ濾過後の水性分散体を、pHメータ(堀場製作所社製、F−52)を用い、温度20℃におけるpHを測定した。
【0068】
3. 塗膜の特性
以下の試験では、460メッシュ濾過後の樹脂水性分散体を用い、延伸ポリエチレン(PE)フィルム(東セロ社製、厚み50μm)、アルミ(AL)箔(三井化学ファブロ社製、厚み12μm)、延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(東セロ社製、厚み50μm)、及びガラス板(厚み1.5mm)を基材とした。
(1)密着性(テープ剥離試験)
延伸PEフィルム、AL箔、OPPフィルム及びガラス板に、樹脂水性分散体をマイヤーバーを用いて塗布した後、90℃で2分間、乾燥させ、厚さ1μmの塗膜を有する積層体を得た。得られた積層体を室温で1日放置後、評価した。接着剤面にセロハンテープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を次の基準で目視評価した。
○:全く剥がれなし。
△:一部が剥がれた。
×:殆どが剥がれた。
(2)接着性
延伸PEフィルムのコロナ面、及びAL箔の非光沢面に水性分散体をマイヤーバーを用いて塗布した後、90℃で2分間、乾燥させ、厚さ1.5μmの塗膜を有する積層体を得た。得られた積層体のコート面同士を貼り合わせ、ヒートプレス機(シール圧0.2MPa/cm2で10秒間)にてプレスした。プレス温度は、PE/PE、及びPE/ALの貼り合わせは110℃とし、AL/ALの貼り合わせは140℃とした。この様にして得られた、サンプルを15mm幅で切り出し、1日後、引張試験機(インテスコ株式会社製インテスコ精密万能材料試験機2020型)を用い、引張速度200mm/分、引張角度90度で剥離強度を測定した。測定はn=5で行い測定値はその平均値とした。
(3)耐水性試験
ガラス板に、水性分散体をメイヤーバーでコートし、150℃で2分間乾燥し、厚さ10μmの塗膜を形成した。このガラス板を、水道水に浸漬し室温で24時間静置後、塗膜の溶解性や剥離状態などの程度を次の基準で目視評価した。
○:外観に変化なし。
△:塗膜の白化、膨潤や一部剥がれが見られる。
×:塗膜の溶解、又は剥がれにより塗膜が確認できない。
(4)耐アルカリ性試験
(3)と同様に塗膜を形成したガラス板を、0.2質量%NaOH水溶液に浸漬し室温で24時間静置後、コート層の溶解性や剥離状態などの程度を次の基準で目視評価した。
○:外観に変化なし。
△:塗膜の白化、膨潤や一部剥がれが見られる。
×:塗膜の溶解、又は剥がれにより塗膜が確認できない。
(5)耐溶剤性試験
(3)と同様に塗膜を形成したガラス板を、テトラヒドロフラン(THF)に浸漬し室温で24時間静置後、コート層の溶解性や剥離状態などの程度を次の基準で目視評価した。
○:外観に変化なし。
△:塗膜の白化、膨潤や一部剥がれが見られる。
×:塗膜の溶解、又は剥がれにより塗膜が確認できない。
【0069】
原料である、エチレン・不飽和カルボン酸共重合としては、市販品である、ニュクレル(三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン・メタクリル酸重合体)、レクスパールEAA(日本ポリエチレン社製、エチレン・アクリル酸重合体)、プリマコール(ダウケミカル社製、エチレン・アクリル酸重合体)の各種銘柄を用いた。試験に用いたエチレン・不飽和カルボン酸共重合の特性を表1にまとめた。
【0070】
【表1】

【0071】
[実施例1]
撹拌機及びヒーターを備えた、密閉できる1Lの耐圧ガラス容器に、原料としてニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、n−プロパノール(以下、NPA)を175.0g(35質量%)、トリエチルアミン(以下、TEA)を17.6g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を257.4gそれぞれ仕込み、密閉し撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでガラス容器全体を保温材で被い、ヒーターの電源を入れ、系内温度を170℃にし、さらに60分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り、回転速度400rpmのまま攪拌しつつ、自然冷却にて80℃まで冷却した。この時、系内温を120℃から80℃に降温するのに要した時間は1時間であった。その後、ガラス容器の保温材を外し、ガラス容器の下半分を水に浸し水冷した。系内温が35℃以下になったときに攪拌を停止し、ガラス容器内の内容物を460メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0072】
[実施例2]
原料として、ニュクレルN1108Cを50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、TEAを16.2g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を258.8gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って水性分散体を得た。水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0073】
[実施例3]
原料として、ニュクレルN0903HCを50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、TEAを13.2g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を261.8gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0074】
[実施例4]
原料として、ニュクレルAN42115Cを50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、ジエチルアミン(以下、DEA)を14.9g(7倍当量/COOH)、及び蒸留水を260.1gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0075】
[実施例5]
原料として、ニュクレルAN4225Cを50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、DEAを21.2g(10倍当量/COOH)、及び蒸留水を253.8gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0076】
[実施例6]
原料として、レクスパールEAA、A221Mを50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、TEAを14.9g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を260.1gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0077】
[実施例7]
原料として、レクスパールEAA、A210Kを50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、TEAを12.3g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を262.7gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0078】
[実施例8]
原料として、プリマコール3150を50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、DEAを7.6g(5倍当量/COOH)、及び蒸留水を267.4gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0079】
[実施例9]
原料として、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、28%アンモニア水を12.7g(3倍当量/COOH)、及び蒸留水を262.3gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表−2に示した。
【0080】
[実施例10]
原料として、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、イソプロパノール(以下、IPA)を175.0g(35質量%)、TEAを17.6g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を257.4gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表−2に示した。
【0081】
[実施例11]
原料として、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、エタノール(以下、EtOH)を175.0g(35質量%)、TEAを17.6g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を257.4gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表−2に示した。
【0082】
[実施例12]
原料として、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、メタノール(以下、MeOH)を175.0g(35質量%)、TEAを17.6g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を257.4gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表−2に示した。
【0083】
[実施例13]
原料として、ニュクレルN0903HCを75.0g(15質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、TEAを19.8g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を230.2gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0084】
[実施例14]
原料として、ニュクレルAN42115Cを50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、DEAを5.3g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を269.7gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0085】
[実施例15]
撹拌機及びヒーターを備えた、密閉できる1Lの耐圧ガラス容器に、原料として、ニュクレルN0903HCを50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、TEAを13.2g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を261.8g、それぞれ仕込み、密閉し撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌混合したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでガラス容器全体を保温材で被い、ヒーターの電源を入れ、系内温度を170℃にし、さらに60分間撹拌した。その後、ガラス容器を被った保温材を全て外し、ヒーターの電源を切り、回転速度400rpmのまま攪拌しつつ、その状態で系内温が35℃以下になるまで冷却した。この時、系内温が120℃から80℃に降温するのに要した時間は約15分であった。系内温が35℃以下になった所で、攪拌を止め、ガラス容器内の内容物を460メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表2に示した。
【0086】
【表2】

【0087】
[比較例1]
原料として、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、TEAを17.6g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を432.4gとした以外は、実施例1と同様の操作を行ったところ、濾過工程にて殆ど全ての原料樹脂が回収され、殆ど全く水性分散体は得られなかった。
【0088】
[比較例2]
原料として、ニュクレルN1108Cを50.0g(10質量%)、TEAを16.2g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を433.8gとした以外は、実施例1と同様の操作を行ったところ、濾過工程にて全ての原料樹脂が回収され、全く水性分散体は得られなかった。
【0089】
[比較例3]
原料として、レクスパールEAA A221Mを50.0g(10質量%)、TEAを14.9g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を435.1gとした以外は、実施例1と同様の操作を行ったところ、濾過工程にて全ての原料樹脂が回収され、全く水性分散体は得られなかった。
【0090】
[比較例4]
原料として、プリマコール3150を50.0g(10質量%)、DEAを7.6g(5倍当量/COOH)、及び蒸留水を442.4gとした以外は、実施例1と同様の操作を行ったところ、濾過工程にて全ての原料樹脂が回収され、全く水性分散体は得られなかった。
【0091】
[比較例5]
原料として、ニュクレルN1110Hを50.0g(10質量%)、DEAを14.0g(3倍当量/COOH)、及び蒸留水を436.0gとした以外は、実施例1と同様の操作を行ったところ、濾過工程にて殆どの原料樹脂が回収され、評価可能な良好な水性分散体は全く得られなかった。
【0092】
[比較例6]
原料として、ニュクレルN1110Hを50.0g(10質量%)、NPAを100.0g(20質量%)、TEAを16.2g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を333.8gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表3に示した。
【0093】
[比較例7]
原料として、ニュクレルN1050Hを50.0g(10質量%)、TEAを17.6g(3.0倍当量/COOH)、及び蒸留水を432.4gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表3に示した。
【0094】
[比較例8]
原料として、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、NPAを125.0g(25質量%)、塩化カリウム(以下、KOH)を3.9g(1.0倍当量/COOH)、及び蒸留水を321.1gとした以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂水性分散体を得た。樹脂水性分散体の各種特性を表3に示した。
【0095】
[比較例9]
原料として、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、トルエンを175g、TEAを17.6g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を257.4gとした以外は、実施例1と同様の操作を行ったところ、濾過工程にて殆どの原料樹脂が回収され、評価可能な良好な水性分散体は全く得られなかった。
【0096】
[比較例10]
原料として、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、メチルシクロヘキサン(以下、MCH)を175g、TEAを17.6g(2.5倍当量/COOH)、及び蒸留水を257.4gとした以外は、実施例1と同様の操作を行ったところ、濾過工程にて殆どの原料樹脂が回収され、評価可能な良好な水性分散体は全く得られなかった。
【0097】
【表3】

【0098】
実施例1〜15の結果は、従来は不揮発性水性分散化助剤なしには水性分散化することができなかった難水分散性のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体が、本発明の水性分散化方法により水性化可能であることを示している。また、得られた水性分散体は優れた、ポットライフ、粒子径、粘度を有していた。さらにこの水性分散体よりえられる塗膜は各種基材に対する密着性、接着性、耐水性、耐アルカリ性、耐溶剤性に優れていた。
【0099】
実施例14と4の対比より、有機アミン化合物の添加量を増加させると、水性分散化収率が向上することがわかる。また、実施例15と3の対比より、冷却に要する時間を長くすることで、水性分散化収率が向上することがわかる。
【0100】
比較例1〜4は、本発明で規定するエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、本発明で適する有機溶媒の使用なしには水性分散化できないことを示している。比較例5は、不飽和カルボン酸成分の含有量が11質量%で、かつメルトフローレートが100g/10分のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を特許文献4記載の方法により水性化を試みたが、十分な水性分散化収率が得られなかった。
【0101】
また、比較例1〜5の結果より、これらの比較例に用いたエチレン・不飽和カルボン酸共重合体に比べて不飽和カルボン酸の含有量が低いか、または、メルトフローレート値が低い樹脂、すなわち、N0903HC、AN42115C、AN4225C、A210Kは、さらに水性分散化が困難であるため、比較例1〜5同様、有機溶媒の使用なしには水性分散体が得られないことは容易に推測される。
【0102】
比較例7では、用いたエチレン・アクリル酸共重合体のカルボン酸成分またはメルトフローレートが本発明の規定を上方に外れており、有機溶媒を用いなくても樹脂の水性化が可能であったが、得られた塗膜は、耐水性は良好であったものの、耐アルカリ性と耐溶剤性に劣っていた。
【0103】
比較例9、10の結果より、水性分散化時に添加する有機溶媒を、20℃における水に対する溶解性が50g/L未満のものを用いた場合、水性分散化の促進効果が確認できなかった。
【0104】
比較例8は、有機アミン化合物に代わりに、金属化合物を用いて水性分散化を行った例であるが、水性化は可能であったが、得られた塗膜の耐水性、耐アルカリ性に劣っていた。
【0105】
実施例1〜15と比較例6〜7の比較より、各種基材に対する接着性、耐アルカリ性、耐溶剤性は実施例1〜15の方が優れていることがわかる。優れた接着性は原料樹脂のメルトフローレート値が低いために接着層の強度が高まったためと考えられ、優れた耐アルカリ性は原料樹脂の不飽和カルボン酸の含有量が低くいために、アルカリによって軟化され難くなったためと考えられ、優れた耐溶剤性は原料樹脂のメルトフローレート値が低いために溶剤に対する溶解性が低くなったと考えられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸成分を1質量%以上かつ10質量%未満含有し、JIS K7210:1999に基づき190℃・2160g荷重で測定したメルトフローレート(以下、単に「メルトフローレート」という。)が0.5〜100g/10分のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体、又は不飽和カルボン酸成分を10〜15質量%含有し、メルトフローレートが0.5g/10分以上かつ30g/10分未満のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体であって、前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基のモル数に対して0.5〜15倍当量モルのアンモニア及び/又は有機アミン化合物を含有し、かつ不揮発性水性分散化助剤を実質的に含まないことを特徴とするエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体。
【請求項2】
不飽和カルボン酸成分がアクリル酸および/又はメタクリル酸であることを特徴とする請求項1記載の水性分散体。
【請求項3】
不飽和カルボン酸成分を1質量%以上かつ10質量%未満含有しメルトフローレートが0.5〜100g/10分のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体又は不飽和カルボン酸成分を10〜15質量%含有しメルトフローレートが0.5/10分以上かつ30g/10分未満のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体と、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上でかつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒と、アンモニア及び/又は有機アミン化合物と、水とを、110〜280℃の温度で混合することを特徴とする請求項1または2記載の水性分散体の製造方法。
【請求項4】
20℃における水に対する溶解性が50g/L以上でかつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒が、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールであることを特徴とする請求項3記載の水性分散体の製造方法。
【請求項5】
有機アミン化合物の含有量が、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基のモル数に対し3〜15倍当量モルであることを特徴とする請求項3または4記載の水性分散体の製造方法。
【請求項6】
加熱後、容器内温が110℃から80℃に降温するのに30分以上かけて冷却することを特徴とする請求項3〜5いずれかに記載の水性分散体の製造方法。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれかに記載の方法において、さらに水性分散体の脱溶剤処理を行うことを特徴とする水性分散体の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2記載の水性分散体より得られる塗膜。
【請求項9】
請求項8記載の塗膜を基材上に形成させてなる積層体。
【請求項10】
基材が、金属、ガラス、プラスチック、又は紙である請求項9記載の積層体。

【公開番号】特開2009−91426(P2009−91426A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262142(P2007−262142)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】