説明

水性分散体および積層体

【課題】帯電防止性能を有しながら、耐擦過性、耐溶剤、印刷性を併せ持つ塗膜を得ることができる水性分散体を提供する。
【解決手段】非水溶性ポリビニルアルコール、水分散性樹脂、酸化スズ系超微粒子が水性媒体中に分散された水性分散体であって、酸化スズ系超微粒子の含有量が水性分散体中の総固形分の75〜95質量%である水性分散体。さらに、該水性分散体を基材上に塗布することにより、基材上に塗膜を形成したものである積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐擦過性、耐溶剤性、印刷性に優れた帯電防止性の塗膜を得ることができる水性分散体、およびそれを塗工して成る積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の産業界において、各種物品への「帯電防止」という処理は欠かせないものになっている。とりわけ、樹脂はその加工性に加えて、軽くてさびず、さらに、安価であるなどの理由から、種々の産業界で大量に使われているが、表面抵抗率が高いために摩擦などにより帯電し、しかもそれが容易に徐電されないため、塵やホコリを吸着しやすい。その結果、外観不良や異物混入、さらには電気電子機器の機能破壊や作動不良などの原因となるため、帯電防止コーティング剤による表面処理を求められるケースは少なくない。
昨今、帯電防止コーティング剤には、帯電防止性能の付与に加えて、耐擦過性、耐溶剤性、印刷性などの特性を有することが求められるケースが増えてきた。酸化スズ系材料を用いた帯電防止コーティング剤は、帯電防止性、透明性に優れた材料であり、各種バインダを混在させて使用する技術が提案されている。本願発明者らも、特許文献1、2などで、水分散性樹脂をバインダに使用した帯電防止コート剤を提案している。しかしながら、特許文献1、2で示した水性分散体から得られる塗膜には、耐擦過性、耐溶剤性の面で改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4005392号
【特許文献2】特許4064086号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような問題点を解決するものであって、帯電防止性能を有しながら、耐擦過性、耐溶剤、印刷性を併せ持つ塗膜を得ることができる水性分散体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、非水溶性ポリビニルアルコール、水分散性樹脂、酸化スズ系超微粒子が水性媒体中に分散された水性分散体から得られる塗膜は、帯電防止性を有しながら、耐擦過性、耐溶剤、印刷性を有することを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)非水溶性ポリビニルアルコール、水分散性樹脂、酸化スズ系超微粒子が水性媒体中に分散された水性分散体であって、酸化スズ系超微粒子の含有量が水性分散体中の総固形分の75〜95質量%であることを特徴とする水性分散体。
(2)(1)記載の水性分散体を基材上に塗布することにより、基材上に塗膜を形成したものであることを特徴とする積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水性分散体は、塗工することにより、優れた帯電防止性と透明性を有しながら、耐擦過性、耐溶剤性、印刷性にも優れる塗膜を得ることができる。また、本発明の水性分散体は水系であるため環境保全性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の水性分散体は、非水溶性ポリビニルアルコール(以下「非水溶性PVA」と略称する)、水分散性樹脂、架橋剤、酸化スズ系超微粒子が水性媒体中に分散された水性分散体である。
【0009】
本発明における水性媒体とは、水を主成分とする液体からなる媒体であり、水性媒体には、後述する親水性有機溶剤や塩基性化合物を含有していてもよい。
【0010】
本発明の水性分散体には、酸化スズ系超微粒子を水性分散体中の総固形分の75〜95質量%含有している必要があり、好ましくは80〜90質量%、より好ましくは85〜90質量%である。酸化スズ系超微粒子の割合が75質量%未満ではこの水性分散体を用いて得られる塗膜の帯電防止性、耐溶剤性が不十分になることがあり、一方、95質量%を超えると、耐擦過性が低下する。
【0011】
酸化スズ系超微粒子は、数平均粒子径が50nm以下のものが好ましく、より好ましくは数平均粒子径が30nm以下、さらに好ましくは10nm以下のものである。数平均粒子径が50nmを超えると、水性分散体中において酸化スズ系超微粒子が凝集し、分散安定性や希釈安定性が低下する場合がある。さらには後述するような塗膜形成も困難になり、塗膜にした際の耐擦過性が低下する場合もある。ここで、上記酸化スズ系超微粒子の数平均粒子径は、動的光散乱法によって測定される。
酸化スズ系超微粒子を水性媒体中に分散する方法は特に限定されないが、一般的に、塩基性化合物または酸性化合物により分散安定化され、塩基性化合物を用いた際により微細に解膠される傾向にあることから、本発明では塩基性化合物により分散安定化する方法を好ましく採用する。微細に分散されていることで、水性分散体としての分散安定性や希釈安定性の維持が容易になり、後述する塗膜形成も可能となる。
【0012】
酸化スズ系超微粒子の具体例としては、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化スズ、酸化スズドープインジウム、アルミニウムドープ酸化スズ、タングステンドープ酸化スズ、酸化チタン−酸化セリウム−酸化スズの複合体、酸化チタン−酸化スズの複合体などが挙げられ、それらの溶媒和物や配位化合物も用いることができる。なかでも導電性などの性能に優れかつそれとコストとがバランスのとれた酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、酸化スズドープインジウムおよびそれらの溶媒和物や配位化合物が好ましく用いられる。
【0013】
上記の酸化スズ系超微粒子の製造方法は特に限定されないが、例えば、金属スズやスズ化合物を加水分解または熱加水分解する方法や、スズイオンを含む酸性溶液をアルカリ加水分解する方法、スズイオンを含む溶液をイオン交換膜やイオン交換樹脂によりイオン交換する方法など何れの方法も用いることができる。
また、酸化スズ系超微粒子は市販のものを使用することもできる。例えば、酸化スズ超微粒子の水分散体としては、ユニチカ製AS11T、山中化学工業社製EPS−6などがある。
【0014】
本発明の水性分散体は、得られる塗膜の耐擦過性および耐溶剤性を向上させるために、非水溶性PVAを含んでいることが必要である。ここで非水溶性とは、20℃の純水に対する溶解性が1質量%未満であることを意味する。水溶性ポリビニルアルコール(以下「水溶性PVA」と略称する)を用いた場合、水性分散体の保存安定性や親水性有機溶剤による希釈安定性が低下する。
【0015】
本発明で用いられる非水溶性PVAは、ケン化度が1〜50mol%であることが好ましく、より好ましくは5〜45mol%であって、さらに好ましくは10〜40mol%である。ケン化度が1mol%未満の場合、耐擦過性に劣る塗膜となりやすい。一方、ケン化度が50mol%を超えると、水溶性の性質が強くなり、水性分散体とした際の保存安定性が低下する場合がある。また、塗膜にした際に基材との密着性が低下する場合もある。
重合度は特に限定されるものではないが、塗膜にした際の耐擦過性と、水性媒体への溶解性を考慮すると、150〜2000のものが好ましく、200〜1000のものがより好ましい。
非水溶性PVAは市販のものを使用することができ、本発明で特に好ましく用いられるものとしては、日本酢酸ビ・ポバール社製のJMRシリーズが挙げられる。具体的な商品名として、「JMR−10L」、「JMR−20L」、「JMR−30L」などがある。
【0016】
非水溶性PVAの配合比は、塗膜にした際の耐擦過性、耐溶剤性と基材への密着性を考慮すると、水分散性樹脂と非水溶性PVAの質量比(水分散性樹脂/非水溶性PVA)が、20/80〜80/20であることが好ましく、より好ましくは30/60〜70/30、さらに好ましくは、60/40〜60/40である。水分散性樹脂及び非水溶性PVAの割合ともに上記範囲より少ない場合は、塗膜にした際の耐擦過性や耐溶剤性が低下する場合がある。
【0017】
そして、本発明の水性分散体は、得られる塗膜の耐擦過性、耐溶剤性および印刷性を向上させるために、水分散性樹脂を含んでいることが必要である。
水分散性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、変性ナイロン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、これらを2種以上含んでいてもよい。
水分散性樹脂を水性媒体中に分散する方法は特に限定されないが、一般に、自己分散型と強制分散型に分類することができる。本発明で用いられる水分散性樹脂は、樹脂中に含まれるイオン性基を中和されることによってなされる自己分散型を採用することが好ましく、特に、酸化スズ系超微粒子との混合安定性の点から、陰イオン性基を有する水分散性樹脂を塩基性化合物で中和する方法が好ましい。強制分散型の方法では、水性分散体を界面活性剤(カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、あるいは両性界面活性剤)などにより分散安定化しているものは、塗膜にした際に界面活性剤が表面にブリードアウトするなどして、塗膜性能、具体的には、帯電防止性能や印刷性を低下させてしまうおそれがある。以上の点から、自己分散型の樹脂、具体的には、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂が好ましく、特に、塗膜にした際の耐擦過性、耐溶剤性に優れる、ポリオレフィン樹脂が好ましく用いられる。
水分散性樹脂は市販のものを使用することもできる。例えば、ポリオレフィン樹脂を含有する水分散体としては、ユニチカ社製アローベースシリーズ、三井化学社製ケミパールシリーズ、東邦化学社製ハイテックシリーズ、住友精化社製ザイクセンシリーズなどが挙げられる。ポリエステル樹脂を含有する水分散体としては、ユニチカ社製エリーテルシリーズ、東洋紡社製バイロナールシリーズなど、ポリウレタン樹脂を含有する水分散体としては、旭電化社製アデカボンタイターシリーズや三井化学社製タケラックシリーズなど、アクリル樹脂を含有する水分散体としては楠本化成社製NeoCrylシリーズなどがそれぞれ挙げられる。
【0018】
本発明で水分散性樹脂として用いられるポリオレフィン樹脂としては、不飽和カルボン酸またはその無水物、オレフィン化合物及び側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和化合物との3成分を含む共重合体が好ましい。さらには、不飽和カルボン酸またはその無水物成分の含有率が0.01質量%以上5質量%未満、オレフィン化合物と側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和化合物の質量比〔(オレフィン化合物)/(側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和化合物)〕が85/15〜99/1であることが好ましい。
【0019】
上記のポリオレフィン樹脂において、不飽和カルボン酸またはその無水物の含有率は、中でも0.1質量%以上5質量%未満、さらには0.5質量%以上5質量%未満であることが好ましく、最も好ましくは1質量%以上4質量%未満である。不飽和カルボン酸またはその無水物の含有率が0.01質量%未満の場合、得られる塗膜は十分な耐擦過性が得られないことがある。一方、不飽和カルボン酸またはその無水物の含有量が5質量%を超える場合も、得られる塗膜は十分な耐擦過性が得られないことがある。
【0020】
さらに、上記のポリオレフィン樹脂において、共重合体構成成分であるオレフィン化合物と側鎖に酸素を含むエチレン性不飽和化合物との合計を100質量%とした場合に、オレフィン化合物と側鎖に酸素を含むエチレン性不飽和化合物との質量比〔(オレフィン化合物)/(側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和化合物)〕は、中でも87/15〜97/3であることが好ましく、90/20〜95/5であることがより好ましい。側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和化合物の割合が上記範囲より少ない場合、後述する水性化が困難となりやすい。一方、同化合物の割合が上記範囲より多い場合、得られる塗膜の耐擦過性や耐溶剤性が低下する場合がある。
【0021】
上記のポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸またはその無水物とは、分子内(モノマー単位内)に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物であり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられ、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また不飽和カルボン酸は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていれば良く、その形態は限定されるものではなく、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
また、オレフィン化合物としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のオレフィン類が挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のオレフィンがより好ましく、特にエチレンが好ましい。
側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどの炭素数3〜30までのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類、ビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、(メタ)アクリル酸アミド類などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。この中で、(メタ)アクリル酸エステル類がより好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、あるいは(メタ)アクリル酸エチルが特に好ましい。なお、不飽和カルボン酸またはその無水物も側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和化合物であるが、ここでは不飽和カルボン酸またはその無水物以外の化合物を側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和化合物と呼ぶことにする。
【0022】
本発明で水分散性樹脂として用いるポリオレフィン樹脂は、実質的にエチレン、アクリル酸メチル或いはアクリル酸エチル、無水マレイン酸からなる三元共重合体が最も好ましい。ここで、アクリル酸エステル類は、後述する樹脂の水性化の際に、エステル結合のごく一部が加水分解してアクリル酸単位に変化することがあるが、その様な場合には、それを含めた不飽和カルボン酸単位の合計の含有量が上述の範囲であればよい。
なお、本発明で用いる無水マレイン酸単位を含有するポリオレフィン樹脂中のマレイン酸単位は乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した無水マレイン酸構造を取りやすく、一方、後述する塩基性化合物を含有する水性媒体中ではその一部、又は全部が開環してマレイン酸、或いはその塩の構造を取りやすくなる。
【0023】
ポリオレフィン樹脂のメルトフローレートは、190℃、2160g荷重において1〜500g/10分であることが好ましく、1〜200g/10分であることがより好ましく、2〜100g/10分であることがさらに好ましく、2〜10g/10分であることが特に好ましい。1g/10分未満のものは樹脂の製造が困難なうえ、後述する水性分散体とするのが困難になり、500g/10分以上のものは、得られる塗膜の耐擦過性が低下する。
【0024】
本発明で特に好ましく用いられるポリオレフィン樹脂の商品名としては、アルケマ社製の無水マレイン酸ポリオレフィン樹脂であるボンダインシリーズが挙げられる。具体的な商品名として、「LX−4110」、「HX−8210」、「HX−8290」、「TX−8030」などがある。
【0025】
水分散性樹脂の水性分散体中における数平均粒子径は、水性分散体の保存安定性の観点から、数平均粒子径は1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.1μm以下が特に好ましい。ここで、水分散性樹脂の数平均粒子径は、上述の酸化スズ系超微粒子の数平均粒子径の測定同様、動的光散乱法によって測定される。
【0026】
本発明の水性分散体は上記したような非水溶性PVA、水分散性樹脂、酸化スズ系超微粒子が水性媒体中に分散されたものであるが、基材への塗工性付与および非水溶性PVAの混合安定性を目的として、水性分散体中には親水性有機溶剤を含んでいることが好ましい。水性分散体中の親水性有機溶剤の含有量は10〜50質量%が好ましく、30〜40質量%が特に好ましい。親水性有機溶剤量の含有量が30質量%未満では非水溶性PVAの混合安定性が低下する場合があり、一方、50質量%を超える場合には、塗剤の分散安定性が低下する場合がある。
また、親水性有機溶剤の沸点は30〜250℃であることが好ましく、50〜200℃であることがより好ましい。親水性有機溶剤の沸点が30℃未満の場合は、水性分散体を調製する際に揮発する割合が多くなり、取り扱いにくい。沸点が250℃を超える場合は、塗膜に残留しやすく耐擦過性や耐溶剤性が低下する傾向にある。
【0027】
さらに、親水性有機溶剤としては、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上のものが好ましく、こうした親水性有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール(以下「IPA」と略称する)等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコール誘導体等が挙げられる。これらは、2種以上を混合して使用してもよい。これらの親水性有機溶剤の中でも、低温乾燥性の点からメタノール、エタノール、n−プロパノール、IPA、テトラヒドロフランが特に好ましい。
【0028】
また、本発明の水性分散体は、水分散性樹脂および酸化スズ系超微粒子を分散安定化するために塩基性化合物を含有していることが好ましい。この塩基性化合物は、水分散性樹脂中の陰イオン性基を中和し、静電気的反発力によって、水性分散体中での樹脂粒子間の凝集を防ぎ、水性分散体に安定性を付与することができる。また、酸化スズ系超微粒子の水性分散体中での分散安定性にも寄与し、水性分散体に安定性が付与される。したがって、塩基性化合物としては水分散性樹脂中の陰イオン基を中和でき、かつ酸化スズ系超微粒子を分散安定化できるものが用いられる。塩基性化合物の必要量は、水分散性樹脂の種類や、酸化スズ系超微粒子の種類、水分散性樹脂と酸化スズ系超微粒子との比率、水性分散体の固形分濃度によっても異なるが、水性分散体のpHが8.0〜12.0になる量とすることが好ましく、さらに好ましくはpHが9.0〜11.0になる量である。pHが8.0未満では水性分散体の安定性が乏しくなる場合がある。一方でpHが12.0を超えるとコストアップの原因となったり、塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体が着色する場合がある。
【0029】
なお、塩基性化合物は塗工時に揮発し、塗膜には残らないようにすることが好ましく、このため、塩基性化合物は揮発性のものが好ましい。ここでいう揮発性とは、300℃未満の沸点を有することである。特に、沸点が30〜250℃、さらには50〜200℃の塩基性化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、後述する樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が300℃以上であると、塗膜の乾燥時に塩基性化合物を揮発させることが困難になり、塗膜の耐水性や耐擦過性が悪くなる場合がある。
【0030】
上記のような性質を有する塩基性化合物として、具体的には、アンモニア又は有機アミン化合物が好ましい。有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン(以下「TEA」と略称する)、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等が挙げられる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
本発明の水性分散体は、フッ素化合物、シリコーン化合物、ワックス類、界面活性剤の合計含有量が総固形分の1質量%未満であることが好ましい。これらの含有量が少ないほど、得られる塗膜の耐溶剤性や印刷性が向上する。したがって、中でも0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(これらを全く含んでいない)ことが特に好ましい。
【0032】
フッ素化合物とは、フッ素原子を含む化合物を意味し、シリコーン化合物とは、有機基をもつケイ素と酸素が交互に結合してできた主鎖をもつ化合物を意味する。
【0033】
ワックス類とは、数平均分子量が10000以下の植物ワックス、動物ワックス、鉱物ワックス、石油化学ワックス等を意味する。
【0034】
界面活性剤とは、一般に乳化重合に用いられるもののほか、前述した樹脂の強制分散化に用いられるものも含まれる。カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性(非イオン性)界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、反応性界面活性剤等が挙げられる。
【0035】
また、本発明の水性分散体は、架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤を含有することによって、得られる塗膜の耐擦過性や耐溶剤性を向上させることができる。架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、水分散性樹脂が有する官能基、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物等を用いることができ、このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物等が好ましく、特に、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物が効果的である。これらの架橋剤は組み合わせて使用してもよい。得られる塗膜の耐擦過性や耐溶剤性などの各種性能をさらに向上させるための好ましい架橋剤の添加量は、非水溶性PVAと水分散性樹脂の合計100質量部に対して30〜200質量部、より好ましくは50〜150質量部である。
【0036】
次に本発明の水性分散体を製造する方法について説明する。非水溶性PVA、水分散性樹脂、酸化スズ系超微粒子の各成分が水性媒体中に均一に混合される方法であれば、特に限定されるものではなく、例えば、次のような方法が挙げられる。
(i)水分散性樹脂の水性分散体、酸化スズ系超微粒子またはその水性分散体、非水溶性PVAの溶液を混合する方法。
(ii)水分散性樹脂と酸化スズ系超微粒子、非水溶性PVAとの混合物を水性分散化する方法。
(iii)(i)と(ii)を組み合わせた方法。具体的には、水分散性樹脂と酸化スズ系超微粒子の混合物を水性分散化した後、非水溶性PVAの溶液を混合する方法や、水分散性樹脂と非水溶性PVAとの混合物を水性分散化した後、酸化スズ系超微粒子またはその水性分散体を混合する方法や、酸化スズ系超微粒子、非水溶性PVAとの混合物を水性分散化した後、水分散性樹脂の水性分散体を混合する方法。
上記(i)の方法の場合は、適宜混合すればよい。上記(ii)の方法の場合は、水分散性樹脂を水性分散化する際に、酸化スズ系超微粒子、非水溶性PVAを添加すればよい。上記(iii)の方法の場合は、上記(i)および(ii)の方法を組み合わせればよい。
また、他の成分を添加する場合においても、(i)、(ii)及び(iii)の製法における任意の段階で添加を行うことができる。
【0037】
他の成分としては、本発明の水性分散体の特性が損なわれない範囲で、酸化防止剤、消泡剤、着色剤、紫外線吸収剤などを添加することができる。
【0038】
上述した特に好ましく用いられる特定組成のポリオレフィン樹脂を上記のような水性分散体とする方法は特に限定されないが、例えば、国際公開WO02/055598号に記載されたものが挙げられる。
【0039】
本発明の水性分散体の固形分含有率は、積層条件、目的とする塗膜の厚さにより適宜選択すればよいが、水性分散体の粘性を適度に保ち、かつ良好な塗膜を形成させるためには、固形分含有率は1〜60質量%が好ましく、中でも5〜30質量%が好ましい。
【0040】
次に本発明の積層体について説明する。本発明の積層体は、上述したような本発明の水性分散体を基材上に塗布することにより、基材上に塗膜を形成したものである。
水性分散体を基材に塗工する方法としては、公知の方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等を挙げることができる。これらの方法により水性分散体を基材の表面に均一に塗工し、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥処理又は乾燥のための加熱処理に供することにより、均一な塗膜を基材に密着させて形成することができる。
【0041】
水性分散体を塗布する基材としては、樹脂材料、ガラス材料等で形成されたものが挙げられる。基材の厚みは、特に限定されるものではないが、通常は10〜1000μmであればよく、10〜500μmが好ましく、10〜100μmが好ましい。
【0042】
基材に用いることができる樹脂材料としては、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ(メタ)アクリルロニトリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、トリアセテートセルロース(TAC)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂、ポリウレタン系樹脂、再生セルロース系樹脂、ジアセチルセルロース系樹脂、アセテートブチレートセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン3元共重合系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノルボルネン系樹脂等が挙げられる。それらの中でも、汎用性及び用途実績等の観点から、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、トリアセテートセルロース(TAC)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が好ましい。樹脂材料は延伸処理されていてもよい。樹脂材料は、公知の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤などを含んでいてもよい。樹脂材料は、その他の材料と積層する場合の密着性を良くするために、表面に前処理としてコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理等を施したものでもよい。また、シリカ、アルミナ等が蒸着されていてもよく、バリア層や易接着層、帯電防止層、紫外線吸収層、接着層、離型層、反射防止層、ハードコート層、アンチグレア層などの他の層が積層されていてもよい。
【0043】
基材上に形成される塗膜の厚みは、30〜300nmの範囲とすることが好ましく、50〜150nmであることがより好ましい。30nm未満では耐擦過性や耐溶剤性が低下する場合があり、十分な帯電防止性も得られない場合がある。一方、300nmを超える場合は耐擦過性が低下する場合がある。
【0044】
本発明の水性分散体から得られる塗膜は帯電防止性に優れるものであるが、塗膜表面の表面抵抗率は、1012Ω/□以下であることが好ましく、1011Ω/□以下であることがより好ましく、1010Ω/□以下であることが特に好ましい。表面抵抗率が1012Ω/□を超えると、帯電防止効果に乏しく、埃などの付着抑制能が不足しやすくなる。
【0045】
本発明の積層体のヘイズは特に限定されるものではないが、包装用途などに使用する場合、5%以下であることが好ましく、光学用途に使用する場合、1%以下がより好ましい。
【0046】
本発明の積層体は、例えば、包装材料や電子材料、光学材料等の用途に使用することができる。さらに積層体は、例えば、袋状、箱状等に成形して成形体として使用することもできる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
(1)水性分散体の有機溶剤含有率
島津製作所社製、ガスクロマトグラフGC−8A[FID検出器使用、キャリアーガス:窒素、カラム充填物質(ジーエルサイエンス社製):PEG−HT(5%)−Uniport HP(60/80メッシュ)、カラムサイズ:直径3mm×3m、試料投入温度(インジェクション温度):150℃、カラム温度:60℃、内部標準物質:n-ブタノール]を用い、水性分散体または水性分散体を水で希釈したものを直接装置内に投入して、有機溶剤の含有率を求めた。検出限界は0.01質量%であった。
(2)ポリオレフィン樹脂の構成
1H−NMR分析(バリアン社製 GEMINI2000/300、300MHz)より求めた。オルトジクロロベンゼン(d4)を溶媒とし、120℃で測定した。
(3)ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)
JIS K7210:1999記載の方法で測定した。
(4)水性分散体の固形分濃度
水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
(5)水分散性樹脂粒子および酸化スズ系超微粒子の数平均粒子径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、数平均粒子径を求めた。粒子径算出に用いるポリオレフィン樹脂の屈折率は1.50、ポリエステル樹脂の屈折率は1.57、アクリル樹脂の屈折率は1.49、酸化スズの屈折率は2.00とした。
(6)水性分散体の分散安定性
得られた水性分散体を30日間静置し、水性分散体の外観を次の3段階で評価した。
3:外観に変化なし、2:分離がみられる、1:固化や凝集、沈殿物の発生が見られる
(7)水性分散体の希釈安定性
得られた水性分散体をメタノールで2倍に希釈し、その安定性を次の2段階で評価した。
2:外観に変化なし、1:固化や凝集、沈殿物の発生が見られる
(8)塗膜の厚み
接触式膜厚計により、得られた積層体の全体の厚さと基材の厚さを測定し、積層体の厚さから基材の厚さを減じて求めた。
(9)帯電防止性能
JIS−K6911に基づいて、株式会社アドバンテスト製デジタル超高抵抗/微小電流計、R8340を用いて、積層体の塗膜表面の表面抵抗率を、温度23℃、湿度65%雰囲気下で測定した。
(10)耐擦過性
得られた積層体の塗膜表面に対して45°になるように10円玉を接触させ、150±30gの加重になるようコントロールしながら擦った。台秤上で実施することにより荷重のコントロールを行った。その表面状態を次の4段階で評価した。
4:傷が全く見えない、3:擦った形跡が見える、2:僅かに傷が見える、1:傷がはっきり見える
(11)耐溶剤性
塗膜表面を酢酸エチル含浸脱脂綿で擦り、その表面状態を次の3段階で評価した。
3:10回擦っても変化が見えない、2:5〜10回擦ると曇る、1:5回未満で曇る
(12)印刷性
塗膜表面に水性ペン(ZEBRA社製 蛍光ペン)で10cmの線を描き、その印刷性を次の2段階で評価した。
2:ハジキ・滲みが見えない、1:ハジキ・滲みが見える
【0048】
〔ポリオレフィン樹脂水性分散体O−1〕
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの「ボンダイン LX−4110」(アルケマ社製、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、エチレン/アクリル酸エチル/無水マレイン酸=91/7/2質量%、MFR:5g/10分)、90.0gのIPA(和光純薬社製)、3.0gのTEA(和光純薬社製)および147.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込んだ。そして、撹拌翼の回転速度を300rpmとし、系内温度を140〜145℃に保って、60分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。さらに、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧ろ過(空気圧0.2MPa)した。これによって、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体O−1を得た(固形分濃度:20質量%、IPA:30質量%)。数平均粒子径は100nm以下であった。
〔ポリオレフィン樹脂水性分散体O−2〕
「ボンダイン LX−4110」の代わりに「ボンダイン HX−8290」(アルケマ社製、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、エチレン/アクリル酸エチル/無水マレイン酸=80/18/2質量%、MFR:65g/10分)を用いた以外は、ポリオレフィン樹脂水性分散体O−1の製法と同様の操作を行った。これによって、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体O−2を得た(固形分濃度:20質量%、IPA:50質量%)。数平均粒子径は100nm以下であった。
【0049】
〔非水溶性PVA水性溶液P−1〕
非水溶性PVA「JMR−10L」(日本酢酸ビ・ポバール社製、ケン化度:35.3mol%、重合度:250)90gを、20質量%の蒸留水を含むIPA溶液210gとともにガラス容器内に仕込んだ。そして、撹拌翼の回転速度を300rpmとし、系内温度を100〜110℃に保って、60分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。さらに、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧ろ過(空気圧0.2MPa)した。これによって、無色透明の均一な水性溶液P−1を得た(固形分濃度:30質量%、IPA:56質量%)。
〔水溶性PVA水性溶液P−2〕
水溶性PVA「VC−10」(日本酢酸ビ・ポバール社製、ケン化度:99.3mol%、重合度:1000)30gを、蒸留水270gとともにガラス容器内に仕込んだ。それ以外は非水溶性PVA水性溶液P−1の製法と同様の操作を行った。これによって、無色透明の均一な水性溶液P−2を得た(固形分濃度:10質量%)。
【0050】
〔ポリエステル樹脂水性分散体E−1〕
市販の分散体E−1(ユニチカ社製、エリーテル KZA−3556、固形分濃度:30質量%、IPA:22質量%)を使用した。数平均粒子径は100nm以下であった。
〔アクリル樹脂水性分散体A−1〕
市販の分散体A−1(楠本化成社製、Neocryl XK−12、固形分濃度:45質量%、親水性有機溶剤:0質量%)を使用した。数平均粒子径は100nm以下であった。
〔酸化スズ系超微粒子の水性分散体T−1〕
市販の分散体T−1(ユニチカ社製、AS11T、固形分濃度:11.7質量%)を使用した。数平均粒子径は10nm以下であった。
〔ワックス水性分散体W−1〕
市販の分散体W−1(ユニチカ社製、CAW−30M、固形分濃度:30質量%)を使用した。
【0051】
実施例1
酸化スズ系超微粒子の水性分散体T−1に、得られる水性分散体の30質量%になるように親水性有機溶剤としてIPAを加えて撹拌し、透明な水性分散体を得た。これに、ポリオレフィン樹脂水性分散体O−1を、ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ系超微粒子が1600質量部となるように添加し、撹拌してポリオレフィン樹脂と酸化スズ系超微粒子とを含有する水性分散体を得た。さらに、非水溶性PVA水性溶液P−1を、ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対して非水溶性PVA固形分が100質量部となるように添加し、撹拌して、非水溶性PVAとポリオレフィン樹脂、酸化スズ系超微粒子とを含有した水性分散体を得た。得られた水性分散体を二軸延伸ポリエステル樹脂フィルム(ユニチカ社製「エンブレットPET−12」、厚さ12μm)のコロナ処理面にマイヤーバーを用いてコートした後、120℃で30秒間乾燥させて、150nmの塗膜をフィルム上に形成し、積層体を得た。
【0052】
実施例2
非水溶性PVA水性溶液P−1を、ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対して非水溶性PVA固形分が150質量部となるように添加した以外は、実施例1と同様に行い、水性分散体を得た。さらに、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0053】
実施例3〜5
ポリオレフィン樹脂水性分散体O−1の代わりにポリオレフィン樹脂水性分散体O−2(実施例3)、ポリエステル樹脂水性分散体E−1(実施例4)、アクリル樹脂水性分散体A−1(実施例5)を添加した以外は、実施例1と同様に行い、水性分散体を得た。さらに、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0054】
実施例6〜7
ポリオレフィン樹脂水性分散体O−1の添加量を、ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ系超微粒子が2400質量部(実施例6)、3200質量部(実施例7)となるように添加した以外は、実施例1と同様に行い、水性分散体を得た。さらに、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0055】
実施例8〜10
実施例1の水性分散体を用い、塗膜の厚みが300nm(実施例8)、50nm(実施例9)、30nm(実施例10)となるように塗膜をフィルム上に形成した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0056】
実施例11
IPAの添加量を、得られる水性分散体の20質量%になるように変更した以外は、実施例1と同様に行い、水性分散体を得た。さらに、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0057】
実施例12
架橋剤(日本触媒社製 WS−500、物質名:オキサゾリン基含有ポリマー、固形分濃度:40質量%、親水性有機溶剤:40質量%)を、非水溶性PVAとポリオレフィン樹脂の固形分の合計100質量部に対して80質量部となるよう追加添加した以外は、実施例1と同様に行い、水性分散体を得た。さらに、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0058】
比較例1
酸化スズ系超微粒子の水性分散体T−1に、得られる水性分散体の30質量%になるように親水性有機溶剤としてIPAを加えて撹拌し、透明な水性分散体を得た。これに、ポリエステル樹脂水性分散体E−1を、ポリエステル樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ系超微粒子が800質量部となるように添加し、撹拌してポリエステル樹脂と酸化スズ系超微粒子とを含有する水性分散体を得た。得られた水性分散体を用い、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0059】
比較例2
ポリエステル樹脂水性分散体E−1の代わりに非水溶性PVA水性溶液P−1を用いた以外は、比較例1と同様にして水性分散体を得た。得られた水性分散体を用い、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0060】
比較例3
ポリオレフィン樹脂水性分散体O−1の添加量を、ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ系超微粒子が400質量部となるように添加した以外は、実施例1と同様に行い、水性分散体を得た。さらに、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0061】
比較例4
ポリオレフィン樹脂水性分散体O−1の添加量を、ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ系超微粒子が4800質量部となるように添加した以外は、実施例1と同様に行い、水性分散体を得た。さらに、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0062】
比較例5
非水溶性PVA水性溶液P−1の代わりに水溶性PVA水性溶液P−2を用いた以外は、実施例1と同様に行い、水性分散体を得た。さらに、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0063】
比較例6
ポリエステル樹脂水性分散体E−1の代わりにポリオレフィン樹脂水性分散体O−1を用い、さらに、ワックス水性分散体W−1(ユニチカ社製 CAW−30M、ワックスの成分:キャンデリラワックス、固形分濃度:30質量%)を、ポリオレフィン樹脂固形分100質量部に対してワックス固形分が10質量部となるように追加添加した以外は、比較例1と同様にして水性分散体を得た。そして、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0064】
実施例1〜12、比較例1〜6で得られた水性分散体と積層体の特性値及び評価結果を表1、2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表1から明らかなように、実施例1〜12で得られた水性分散体は、優れた分散安定性と希釈安定性を有し、水性分散体を基材に塗工してなる塗膜は、帯電防止性を有しながら、耐擦過性、耐溶剤性、印刷性の評価に優れていた。なお、実施例3〜5で得られた水性分散体は、水分散性樹脂として特定組成のポリオレフィン樹脂を用いていなかったので、他の実施例の水性分散体よりも塗膜の耐擦過性や耐溶剤性評価は劣るものであった。実施例8では塗膜厚みを厚くしたため、僅かに耐擦過性に劣るものであった。実施例10では塗膜厚みを薄くしたことで、僅かに耐擦過性や耐溶剤性に劣るものであった。相対的に帯電防止性能も低くなった。実施例11では親水性有機溶剤の添加量が少なかったため、僅かに分散安定性に劣るものであった。実施例12は架橋剤を添加したことで、耐擦過性が向上した。
【0068】
一方、比較例1の水性分散体は、非水溶性PVAを含まないものであったため、得られた塗膜は、耐擦過性に乏しく、耐溶剤性も劣るものであった。比較例2の水性分散体は、水分散性樹脂を含まないものであったため、得られた塗膜は、耐擦過性に乏しく、耐溶剤性も劣るものであった。比較例3の水性分散体は、酸化スズ系超微粒子の含有量が少なかったため、得られた塗膜は耐溶剤性に乏しく、帯電防止性能も低かった。比較例4の水性分散体は、酸化スズ系超微粒子の含有量が多すぎたため、得られた塗膜は耐擦過性に劣るものであった。比較例5の水性分散体は、水溶性PVAを用いたため、分散安定性や希釈安定性に劣った。また、比較例6の水性分散体は、非水溶性PVAの代わりにワックスを添加したものであったため、得られた塗膜は、耐擦過性は優れていたが、耐溶剤性、印刷性に劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶性ポリビニルアルコール、水分散性樹脂、酸化スズ系超微粒子が水性媒体中に分散された水性分散体であって、酸化スズ系超微粒子の含有量が水性分散体中の総固形分の75〜95質量%であることを特徴とする水性分散体。
【請求項2】
非水溶性ポリビニルアルコールのケン化度が1〜50mol%である請求項1記載の水性分散体。
【請求項3】
水分散性樹脂と非水溶性ポリビニルアルコールの質量比が20/80〜80/20である請求項1または2に記載の水性分散体。
【請求項4】
親水性有機溶剤を30〜40質量%含む請求項1〜3のいずれかに記載の水性分散体。
【請求項5】
水分散性樹脂がポリオレフィン樹脂であって、ポリオレフィン樹脂が、不飽和カルボン酸またはその無水物、オレフィン化合物及び側鎖に酸素原子を含むエチレン性不飽和化合物との3成分を含む共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の水性分散体。
【請求項6】
フッ素化合物、シリコーン化合物、ワックス類、界面活性剤の合計含有量が総固形分の1質量%未満である請求項1〜5のいずれかに記載の水性分散体。
【請求項7】
架橋剤を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の水性分散体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の水性分散体を基材上に塗布することにより、基材上に塗膜を形成したものであることを特徴とする積層体。
【請求項9】
塗膜厚みが50〜150nmである請求項8に記載の積層体。


【公開番号】特開2011−84693(P2011−84693A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240452(P2009−240452)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】