説明

水性分散体の製造方法

【課題】アンモニアやアミンを用いて、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なく、かつ溶融時の流動性が低い(メルトフローレート値が低い)エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の樹脂水性分散体を得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】不飽和カルボン酸成分を1〜15質量%含有するとともに、190℃、21.2N荷重におけるメルトフローレートが0.5〜200g/10分であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体と、20℃の水に対する溶解性が50g/L以上でありかつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒と、アンモニアおよび/または有機アミン化合物と、水とを原料として用い、これらの原料を80〜280℃の温度で加熱しながら撹拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性分散体の製造方法に関し、特に、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体に代表される、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、アミン、アンモニア、アルカリ金属化合物などに代表される金属化合物などによって水に分散(水性分散化)され、それによって均一で良好な水性分散体が得られる。このことは古くから知られおり、得られた水性分散体は、各分野で接着剤やコーティング剤として広く利用されている。ただし、この共重合体の水性分散化は、共重合体における不飽和カルボン酸成分の含有量が少なくなる程、また共重合体のメルトフローレート値が低くなる程、困難となる傾向にある。不飽和カルボン酸成分の含有量とメルトフローレートとの組み合わせにより、一概には言えないが、具体的には、不飽和カルボン酸成分の含有量が15質量%程度以下、また190℃、21.2N(2160g)荷重で測定したメルトフローレートが300g/10分程度以下の場合において、水性分散化が困難であったり、水性分散化が可能であっても、得られた水性分散体の粒子径が大きかったりする。
【0003】
ただ、アルカリ金属化合物などに代表される金属化合物を用いて水性分散化した場合は、アンモニアやアミンを用いて水性分散化した場合に比べて、より不飽和カルボン酸成分の含有量が少なく、かつメルトフローレート値が低い共重合体であっても、水性分散化が容易となる傾向がある。この点を利用して、特許文献1、2には、ナトリウムやカリウムを用いた、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体が示されている。しかしこのような金属化合物を用いて得られた水性分散体の塗膜には、乾燥後も金属化合物が残存するために、耐水性に乏しく塗膜を水が浸漬すると剥離や白化が生じるという問題や、耐アルカリ性や接着性が乏しいという問題がある。したがって、耐水性、耐アルカリ性、高接着性を必要とする用途では、そのまま利用することは不可能である。
【0004】
一方、アンモニアやアミンを用いて得られた水性分散体は、耐水性に優れた塗膜を得ることが可能である。しかし、水性分散化が困難なために不飽和カルボン酸成分の含有量が多く、かつメルトフローレート値が高いエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体に限られている。そのため、得られる水性分散体の乾燥塗膜は、表面硬度や剛性が小さく、剥がれが生じやすくしかも傷つきやすいという問題がある。それらの課題を解消すべく、アンモニアやアミンを用いて、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なく、かつメルトフローレート値が低いエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を水性分散化する方法について、多くの検討がなされている。たとえば特許文献3には、特定量のアンモニアが添加されて、不飽和カルボン酸成分の含有量が15〜35質量%、かつメルトフローレートが50〜2000g/10分であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体が示されている。しかしながら、特許文献3では、実際には、不飽和カルボン酸成分の含有量が20質量%以上で、かつメルトフローレートが60g/10分以上のものしか具体的な例示がない。このため、不飽和カルボン酸成分の含有量が少ないものであるとは言いがたい。さらに、このような水性分散体には少なからずゲルやブツが存在し、十分均一な水性分散体であるとはいえない。
【0005】
特許文献4には、特定のアミンが用いられて、不飽和カルボン酸成分の含有量が10〜30質量%、かつメルトフローレートが30〜1500g/10分であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体が示されている。しかしながら、特許文献4では、実際には、不飽和カルボン酸成分の含有量が15質量%以上で、かつメルトフローレートが60g/10分以上のものしか具体的な例示がない。さらに、本発明者らが実験したところによると、特許文献4に記載されているような特定のアミンを用いた水性分散化方法では、たとえば、不飽和カルボン酸成分の含有量が11質量%、かつメルトフローレートが100g/10分のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を水性分散化した場合には、大量の大径未分散物が確認され、全くもって均一な水性分散体を得ることは不可能である(後述の比較例2に対応)。
【0006】
アンモニアやアミンを用いて、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なく、かつメルトフローレート値が低いエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散化については、唯一、界面活性剤などの不揮発性水性分散化助剤を添加する方法のみが知られている。たとえば、特許文献5には、その方法が示されている。しかしながら、この方法で得られた水性分散体の塗膜には、乾燥後も不揮発性水性分散化助剤が残存するために、ブリードアウトが生じるといった問題や、耐水性などの性能が著しく低下するといった問題がある。
【特許文献1】特開昭51−62890号公報
【特許文献2】特開平10−298295号公報
【特許文献3】特開2000−248141号公報
【特許文献4】特開2004−143293号公報
【特許文献5】特開2005−336277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような課題に対して、アンモニアやアミンを用いて、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なく、かつ溶融時の流動性が低い(メルトフローレート値が低い)エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の樹脂水性分散体を得ることができる製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なく、かつ溶融時の流動性が低い(メルトフローレート値が低い)エチレン・不飽和カルボン酸共重合体であっても、特定の有機溶媒を添加して水性分散化することで、アンモニアおよび/または有機アミン化合物によって水性分散化され、かつ実質的に不揮発性水性化助剤を含有していない水性分散体とすることができることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0010】
(1)不飽和カルボン酸成分を1〜15質量%含有するとともに、190℃、21.2N荷重におけるメルトフローレートが0.5〜200g/10分であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体と、20℃の水に対する溶解性が50g/L以上でありかつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒と、アンモニアおよび/または有機アミン化合物と、水とを原料として用い、これらの原料を80〜280℃の温度で加熱しながら撹拌することを特徴とする水性分散体の製造方法。
【0011】
(2)不飽和カルボン酸成分がアクリル酸および/またはメタクリル酸であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を原料として用いることを特徴とする(1)の水性分散体の製造方法。
【0012】
(3)有機溶媒として、メタノール、エタノール、nプロパノール、イソプロパノールの少なくともいずれかを用いることを特徴とする(1)または(2)の水性分散体の製造方法。
【0013】
(4)エチレン・不飽和カルボン酸共重合体におけるカルボキシル基のモル数に対し、0.5〜15倍当量モルとなるように、有機アミン化合物を用いることを特徴とする(1)から(3)までのいずれかの水性分散体の製造方法。
【0014】
(5)加熱後に、品温が120℃から80℃に降温するのに30分以上かかるように冷却することを特徴とする(1)から(4)までのいずれかの水性分散体の製造方法。
【0015】
(6)不揮発性水性分散化助剤を用いないことを特徴とする(1)から(5)までのいずれかの水性分散体の製造方法。
【0016】
(7)上記(1)から(6)までのいずれかの方法で水性分散体を得た後、さらに脱溶剤処理を行って、水性分散体の有機溶媒含有量を減少させることを特徴とする水性分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なく、かつメルトフローレート値が低いために、従来では水性分散体として得ることが不可能であったエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散化が可能であり、また粒子径が細かい水性分散体を得ることが可能である。さらには本発明で得られる水性分散体は、かかる共重合体の特性により、従来より優れた、塗膜の耐水性、耐アルカリ性、接着性、耐溶剤性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の構成成分である不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルなどが挙げられる。これらの混合物であっても構わない。この中でも、アクリル酸、および/または、メタクリル酸が好ましい。
【0019】
同共重合体における不飽和カルボン酸の含有量は、1〜15質量%であることが必要である。好ましくは2〜15質量%であり、より好ましくは3〜15質量%、特に好ましくは4〜15質量%である。不飽和カルボン酸の含有量が1質量%未満であると水性分散化が困難となり、一方、15質量%を超えると本発明をもってしなくとも容易に水性分散化が可能である。
【0020】
本発明に用いられるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の、190℃、21.2N(2160g)荷重におけるメルトフローレート(JIS K7210:1999)は、0.5〜200g/10分であることが必要である。好ましくは1〜200g/10分であり、より好ましくは2〜200g/10分、特に好ましくは3〜200g/10分である。メルトフローレートが0.5g/10分未満であると、水性分散化が困難となる。一方、200g/10分を超えると、本発明をもってしなくとも容易に水性分散化が可能でありあり、また得られた水性分散体の塗膜は、表面硬度や剛性が小さく、さらには接着性、耐溶剤性が悪化する傾向にある。
【0021】
本発明に用いられるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の単量体が共重合されても構わない。そのような単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチルなどの不飽和カルボン酸エステル;一酸化炭素;二酸化硫黄など挙げることができる。これら単量体の含有量は、樹脂全体に対して0〜30質量%であればよく、0〜20質量%であることが好ましい。
【0022】
本発明において、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、そのただ1種類の共重合体を用いることは勿論構わないが、不飽和カルボン酸の含有量、種類、および/または、メルトフローレート値の異なった、2種類以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を混合して用いてもよい。その場合には、2種類以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を溶融ブレンドしたものが好ましい。ただし、ドライブレンドのまま水性分散化しても構わない。共重合体の2種類以上を混合したものについての不飽和カルボン酸の含有量およびメルトフローレート値は、溶融ブレンドしたものを実測することによって求めることができる。すなわち、ドライブレンドしたものであっても、同一の混合比の共重合体を別途溶融ブレンドして、その樹脂を実測する必要がある。なお、共重合体の不飽和カルボン酸の含有量およびメルトフローレート値の実測値が本発明の範囲内であるかぎり、その共重合体の一部に、不飽和カルボン酸の含有量および/またはメルトフローレート値が本発明の範囲から外れるものを使用しても構わない。
【0023】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の形態は、特に限定されないが、水性化速度を速めるという点から、粒子径1cm以下、好ましくは0.8cm以下の粒状状ないしは粉末状であることが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法を実行するときのエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の添加量は、水性媒体とエチレン・不飽和カルボン酸共重合体との総和100質量%に対して3〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%がより好ましく、8〜20質量%がさらに好ましく、10〜15質量%が特に好ましい。添加量が3質量%未満である場合は、得られる樹脂水性分散体の樹脂含有率が低すぎて、そのまま使用すると塗膜の性能が発現しにくい。反対に40質量%を超えた場合は、水性分散化が困難となる傾向がある。
【0025】
本発明の方法においては、従来は水性分散化が困難であった、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なく、かつメルトフローレート値が低い、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を用いて、その水性分散化を可能とするために、また、それとともに水性分散体の粒子径を細かくするために、水性分散化の際に、20℃の水に対する溶解性が50g/L以上でありかつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒を添加する必要がある。この有機溶媒は、20℃の水に対する溶解性が100g/L以上であることがより好ましい。20℃の水に対する溶解性が50g/L未満であると、水性分散化の促進効果が見られない。なお、この有機溶媒は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体に対して高い溶解性を有している必要は特になく、たとえば、この共重合体10質量%とこの有機溶媒90質量%との混和物を80℃で撹拌した際の溶解性が0.5g/L以下であるものであっても、いっこうに構わない。
【0026】
このような有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体;さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール;3−メトキシブタノール;アセトニトリル;ジメチルホルムアミド;ジメチルアセトアミド;ジアセトンアルコール;アセト酢酸エチル等が挙げられる。
【0027】
有機溶媒は、沸点が30〜250℃であることが必要であり、50〜200であることが特に好ましい。これらの有機溶媒は、2種以上を混合して使用しても良い。なお、有機溶媒の沸点が30℃未満である場合は、水性分散化時に揮発する割合が多くなって、水性分散化の効率が十分に高まらない。沸点が250℃を超える有機溶媒は、水性分散体より得られる塗膜から乾燥によって飛散させることが困難であり、このため塗膜の耐水性が悪化する。有機溶媒の分子量は、特に限定されないが、分子量90以下の物が好ましい。分子量が90を超えた場合は、得られる水性分散体がゲル化する場合がある。
【0028】
上記の有機溶媒の中でも、水性分散化促進の効果が高く、しかも後述するストリッピングと呼ばれる方法などで除去しやすいという点から、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールが好ましい。
【0029】
本発明の製造方法において、有機溶剤の添加量は、水性媒体とエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の総和100質量部に対して5〜60質量部であることが好ましく、15〜50質量部であることがより好ましく、20〜45質量部がさらに好ましく、25〜40質量部が特に好ましい。添加量が5質量部未満の場合は水性分散化促進効果が低く、反対に60質量部を超えた場合は、水性分散化が困難となったり、得られた水性分散体がゲル化したりする傾向がある。
【0030】
本発明の製造方法に用いる、アンモニア、有機アミン化合物としては、塗膜形成時に揮発するものが、被膜の耐水性の面から好ましく、中でも沸点が0〜250℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が0℃未満の場合は、後述する水性分散化時に揮発する割合が多くなり、このため水性分散化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えると、樹脂被膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、被膜の耐水性が悪化する場合がある。
【0031】
有機アミン化合物の具体例としては、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。これらの混合物、またはアンモニアとこれらの混和物であっても構わない。中でも、ジエチルアミン、トリエチルアミンが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法におけるアンモニアおよび/または有機アミン化合物の添加量は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基のモル数に対して0.5〜15倍当量モルとなる量であることが好ましく、通常では0.8〜3.0倍当量モルとなる量であることがより好ましく、1.0〜2.5倍当量モルとなる量であることがさらに好ましい。なお、不飽和カルボン酸の含有量が少ない(たとえば5質量%以下)場合においては、これら添加量を3〜15倍当量モルとした場合に、驚くべきことに水性分散化がより容易となる傾向がある。この場合の添加量は、4〜12倍当量モルであることがより好ましく、5〜10倍当量モルであることがさらに好ましい。添加量が0.5倍当量モル未満では、添加の効果が認められにくい。反対に15倍当量モルを超えると、それ以上は添加の効果が変わらないうえに、塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体がはげしく着色したりする傾向が生じる。
【0033】
本発明の製造方法においては、アルカリ金属化合物などに代表される金属化合物を添加する必要は特にない。しかし、水性分散体の使用目的において必要がある場合は、本発明の効果を損ねない範囲で、それらを添加しても差し支えない。
【0034】
次に、本発明の実際の水性分散体の製造方法、すなわち実際の水性分散化方法について説明する。
本発明の製造方法におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散化は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体と、20℃の水に対する溶解性が50g/L以上でありかつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒と、アンモニアおよび/または有機アミン化合物と、水とを、80〜280℃の温度で加熱しながら撹拌する必要がある。
【0035】
上記方法により、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体が水性媒体に均一に分散されて、良好な水性分散体が得られる。ここで、水性媒体とは、水性分散体中における、樹脂固形分以外の、水を主成分とする液体からなる媒体のことをいう。水性媒体は、後述するストリッピングと呼ばれる方法などによって、含有する有機溶媒を減少または完全に除去したものであってもよい。
【0036】
本発明の水性分散化方法によれば、乳化剤成分や、保護コロイド作用を有する化合物等の、不揮発性水性分散化助剤を、実質的に添加しなくとも、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を良好に水性分散体とすることができる。つまり、本発明の水性分散体の製造方法は、不揮発性水性分散化助剤を用いないようにすることができる。これらを用いずとも、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体を、数平均粒子径1μm以下で水性媒体中に安定に維持することができる。不揮発性水性分散化助剤は、塗膜形成後にも残存し、塗膜を可塑化することにより、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の特性、たとえば耐水性等を悪化させる。本発明においては、不揮発性水性分散化助剤を用いないことで、製造された水性分散体は、不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有しないことになるため、塗膜特性、特に耐水性に優れたものとなる。
【0037】
ここで、「水性分散化助剤」とは、水性分散化において、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことをいう。「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。「不揮発性水性分散化助剤を実質的に含有しない」とは、不揮発性水性分散化助剤を積極的には系に添加しないことにより、製造された水性分散体が、結果的にこれらを含有しないことを意味する。すなわち、こうした不揮発性水性分散化助剤は、含有量がゼロであることが特に好ましいが、本発明の効果を損ねない範囲で、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体成分に対して0.1質量%未満程度なら、含まれていても差し支えない。
【0038】
本発明では用いない不揮発性水性分散化助剤としては、例えば、後述する乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
【0039】
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられる。一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。たとえば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられる。ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物や、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられる。両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0040】
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0041】
本発明の水性分散化方法をさらに詳しく説明すると、水性分散化のための容器としては、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入された水性媒体と共重合体粉末ないしは粒状物との混合物を適度に撹拌でき、加熱できるものであればよく、さらせには0.1MPa(G)以上の耐圧性のある密閉容器が好ましい。そのような装置としては、固/液撹拌装置や乳化機として広く当業者に知られている装置を使用することができる。本発明における撹拌の方法、撹拌の回転速度は、特に限定されないが、樹脂が水性媒体中で浮遊状態となる程度の低速の撹拌でも十分水性分散化が達成されるため、高速撹拌(例えば1000rpm以上)は必須ではない。このため、簡便な装置でも水性分散体の製造が可能である。
【0042】
この装置の槽内に、アンモニアおよび/または有機アミン化合物と、20℃の水に対する溶解性が50g/L以上でありかつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒と、水とからなる水性媒体を投入するとともに、粒状ないしは粉末状のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を投入する。そして、好ましくは40℃以下の温度で撹拌混合しておく。次いで、槽内の温度(品温)を80〜280℃、好ましくは120〜230℃、さらに好ましくは150〜200℃、特に好ましくは160〜180℃に保ちつつ、5〜120分間撹拌を続けることが好ましい。槽内の温度が80℃未満の場合は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散化が困難になる。反対に280℃を超える場合は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の分子量が低下する恐れがある。槽内の加熱、冷却方法は、特に限定されないが、例えば槽外壁にジャケットを設けたり、槽内にコイル状の管を設けたうえで熱媒としてのオイル、スチーム、水などを用いて制御したり、あるいは槽にヒーターを取り付けて制御したりすることができる。
【0043】
このとき、すなわち槽内温度が80〜280℃のとき、容器内のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、必ずしも分散化が完了している必要はなく、溶融状態で塊となって浮遊していたり、撹拌翼などに絡まったりしていても、問題ない。本発明の水性分散化方法では、驚くべきことに、その後の冷却時に水性分散化が進む傾向があり、さらには120℃から80℃へ降温するときにその傾向が顕著になる。よって、冷却の際も撹拌し続けることが好ましい。また、従来の水性分散体の製造方法では、製造時間短縮のため冷却はできるだけ急冷することが当然となっていたが、本発明の方法では、120℃から80℃への降温は30分以上かけた徐冷とすることが好ましく、60分以上かけることがより好ましい。この降温時間が30分未満であると、水性分散体の粒子径が大きくなったり、大量に未分散樹脂が残るために水性分散化収率が低下したりする場合がある。
【0044】
冷却は、撹拌しながら、最終的に40℃以下になるまで行うことが好ましい。冷却の後に、水性分散体を得ることができる。なお、この後、必要に応じてさらにジェット粉砕処理を行ってもよい。ここでいうジェット粉砕処理とは、流動体状のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体を、高圧下でノズルやスリットのような細孔より噴出させ、樹脂粒子同士を衝突させたり、樹脂粒子と衝突板等とを衝突させたりして、機械的なエネルギーによって樹脂粒子をさらに細粒化することをいう。そのための装置の具体例としては、A.P.V.GAULIN社製のホモジナイザーや、みずほ工業社製のマイクロフルイタイザーであるM−110E/H等が挙げられる。
【0045】
このようにして得られた水性分散体は、固形分濃度や、有機溶媒濃度や、アミンおよび/または有機アミン化合物濃度が、所望の濃度となるように、これらを、ストリッピングと呼ばれる脱溶媒操作などで系外へ留去したり、水により希釈したりすることで、その調整を行うことが可能である。詳しくは、常圧下または減圧下で水性分散体を撹拌しながら加熱することで、有機溶媒を留去する方法を挙げることができる。有機溶媒の含有率は、ガスクロマトグラフィーで定量することができる。また、水性媒体が留去されることによって固形分濃度が高くなるために、たとえば粘度が上昇して作業性が悪くなるような場合には、水で希釈したり、または予め水性分散体に水を添加したりしておくことが好ましい。
【0046】
水性分散体中の有機溶媒の含有量は、その使用目的によって任意の濃度に調整すればよいが、使用時や保存時の安全性を確保するためには、少ないほうが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
アンモニアおよび/または有機アミン化合物は、このような脱溶媒操作によって完全に留去することは好ましくない。アンモニアおよび/または有機アミン化合物の含有量は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体中のカルボキシル基のモル数に対して0.5倍当量モル以上であることが好ましく、0.7倍当量モル以上がより好ましく、1.0倍当量モル以上がさらに好ましい。含有量が0.5倍当量未満となった場合は、水性分散体中の樹脂粒子同士が凝集して、保存安定性が悪くなる傾向がある。アンモニアおよび/または有機アミン化合物の含有量は、ガスクロマトグラフィーで定量することができる。
【0048】
水性分散体の固形分濃度は、水性媒体とエチレン・不飽和カルボン酸共重合体との総和100質量%に対して5〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%がより好ましく、10〜25質量%がさらに好ましく、15〜20質量%が特に好ましい。5質量%未満の場合は、固形分濃度が低すぎて塗膜の性能が発現しにくい。40質量%を超える場合は、著しい増粘やゲル化が生じる傾向がある。
【0049】
本発明の製造方法によって得られた水性分散体は、上記のようにストリッピングによって固形分濃度や有機溶媒量などを調整しても、特に性能面での影響はなく、各種用途に良好に使用することができる。
【0050】
水性分散体の製造における水性分散化収率は、得られた水性分散体中に残存する粗大粒子の量によって知ることができる。具体的には、たとえば水性分散体を460メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織、目開き20μm)で加圧濾過(MAX0.5MPa(G))し、フィルター上に残存する樹脂量を測定することで、水性分散化収率を求めることが可能である。なお、残存樹脂が多少存在し、収率が低い場合でも、製造工程中で上記の濾過を行って、こうした粗大粒子を除去すれば、以降の工程で水性分散体としての使用は可能である。ただし、製造コストや濾過の作業性の観点から、水性分散化収率は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0051】
上記のようにして得られた水性分散体は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体が水性媒体中に分散され、均一な液状に調製された状態となる。さらに、優れたポットライフを有し、室温で100日静置させた場合においても均一な液状を維持している。ここで、均一な液状であるとは、外観上、水性分散体中に沈殿、相分離、皮張りといった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見いだされない状態にあることをいう。
【0052】
水性分散体中のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体粒子の数平均粒子径(mn)は、水性分散体の保存安定性が向上するという観点から、1μm以下であることが好ましく、低温造膜性の観点から0.5μm以下であることがより好ましく、0.2μm以下が特に好ましく、0.1μm以下がさらに好ましく、0.05μm未満が最も好ましい。さらに、体積平均粒子径(mv)に関しても、3μm以下であることが好ましい。
【0053】
水性分散体の粘度は、1〜50000mPa・S/20℃であることが好ましく、5〜5000mPa・S/20℃であることがより好ましい。そのpHは、9.0〜13であることが好ましく、9.5〜12であることがより好ましい。
【0054】
本発明の方法によって得られた水性分散体は、不飽和カルボン酸の含有量、種類、およびび/または、メルトフローレート値の異なった、2種類以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の水性分散体を、任意の比率で混合していても構わない。たとえば、エチレン・メタクリル酸共重合体の水性分散体と、エチレン・アクリル酸共重合体の水性分散体との混合物などが挙げられる。
【0055】
本発明によって得られた水性分散体は、任意に各種添加剤を配合することができる。このような添加剤の例としては、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールのような多価アルコール;水溶性エポキシ化合物;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、nプロピルアルコール等の低級アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート等のエステル類;他の重合体の水性分散体;無機粒子;架橋剤;レベリング剤;消泡剤;発泡剤;ワキ防止剤;酸化防止剤;耐候安定剤;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;可塑剤;顔料;顔料分散剤;染料;抗菌剤;滑剤;ブロッキング防止剤;防錆剤;接着剤筆記性改良剤;無機充填剤などの各種薬剤や、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料あるいは染料を挙げることができる。これらの添加剤を添加することで、本発明の方法により得られた水性分散体をコーティング剤や塗料として使用することができる。また、水性分散体の安定性を損なわない範囲で、上記以外の有機もしくは無機の化合物を添加することも可能である。また、上記に示した添加剤などは、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
上記のうち、他の重合体の水性分散体は、特に限定されるものではない。たとえば、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・無水カルボン酸三元共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデ、スチレン・マレイン酸樹脂、スチレン・ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の水性分散体を挙げることができる。これらは、2種以上を混合して使用しても良い。
【0057】
上記のうち、無機粒子としては、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化すず等の金属酸化物;炭酸カルシウム;シリカなどの粒子を挙げることができる。そのほかに、バーミキュライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、合成雲母等の水膨潤性の層状無機化合物を添加することができる。これらの無機粒子の平均粒子径は、水性分散体の安定性の面から、0.005〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.005〜5μmである。なお、無機粒子は、2種以上を混合して使用しても良い。
【0058】
凝集力や耐水性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、架橋剤を、水性分散体中の樹脂100質量%に対して0.01〜100質量%、好ましくは0.1〜60質量%、添加することができる。架橋剤の添加量が0.01質量%未満の場合は、塗膜性能の向上の程度が小さく、100質量%を超える場合は、加工性等の性能が低下してしまう。
【0059】
架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤や、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物や、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができる。このうち、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用しても良い。
【0060】
本発明の製造方法によって得られた水性分散体、またはそれから得られる樹脂組成物は、様々な基材との密着性に優れるため、接着剤、ヒートシール性付与剤、防錆塗膜など、種々の目的で、種々の基材に塗布して乾燥することができ、これらの機能を付与させた積層体を得ることができる。基材としては、例えば、プラスチック、金属、ガラス、紙等が挙げられる。さらに詳しくは、高、中、低密度ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体またはそのアイオノマー、エチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体またはそのアイオノマー、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテンのようなオレフィン重合体または共重合体;ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ABS型樹脂、スチレン・ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物のようなスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル;ナイロン6、ナイロン66のようなポリアミド;ポリカーボネート、ポリ塩化ビニルおよびこれらの任意割合の混合物などの熱可塑性重合体;天然ゴム、合成ゴムのようなゴム材料;フェノール樹脂、ポリウレタンのような熱硬化性樹脂;鉄、銅、アルミニウム、ステンレスのような金属;ガラス;セラミックス;木材、紙、レーヨン、皮革等の天然素材などを例示することができる。熱可塑性重合体にあっては、フィルム、シート、中空成形品、射出成形品、織布、不織布、合成皮革など種々の成形品に適用することができる。基材として、フィルム、シート、織布、不織布、合成皮革、紙などの扁平状基材を使用することにより、基材上にヒートシール層が形成された積層体を容易に得ることができる。
【0061】
本発明の方法で製造された水性分散体は、極性材料に対しては勿論のこと、オレフィン系重合体やスチレン系重合体などの疎水性材料に対しても、濡れ性が優れているので、塗工性よく塗布することができる。
【0062】
たとえばポリオレフィンフィルム、代表的には延伸ポリプロピレンフィルムに本発明の水性分散体を塗布、乾燥して得られるフィルムは、透湿性が低く、良好なヒートシール性能を有しており、各種包装材料として好適に使用することができる。また金属材料に本発明の水性分散体を塗布、乾燥して得られる積層体は、防錆性、とくに耐湿防錆性に優れており、防錆性の要求される用途に好適に使用することができる。さらにガラスに本発明の水性分散体を塗布、乾燥して得られる積層体は、塗膜接着性に優れており、ガラス向け接着剤、ガラス向けインクなどの分野で使用することができる。
【0063】
それら基材への成膜方法としては、公知の方法を用いることができる。たとえばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥または乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂被膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。そのときの加熱温度や加熱時間は、被コーティング物である基材の特性や添加する硬化剤の種類、配合量等により適宜選択されるものである。しかし、経済性を考慮した場合、加熱温度としては、30〜250℃が好ましく、60〜230℃がより好ましく、80〜210℃が特に好ましい。加熱時間としては、1秒〜20分が好ましく、5秒〜15分がより好ましく、5秒〜10分が特に好ましい。なお、架橋剤を添加した場合は、ポリオレフィン中のカルボキシル基と架橋剤との反応を十分進行させるために、加熱温度および時間は架橋剤の種類によって適宜選定することが望ましい。
【0064】
本発明の方法によって得られた水性分散体を用いて形成される樹脂被膜の厚さは、その用途によって適宜選択されるものであるが、0.01〜100μmであることが好ましく、0.1〜50μmがより好ましく、0.2〜30μmが特に好ましい。樹脂被膜の厚さが上記範囲となるように成膜すれば、均一性に優れた樹脂被膜が得られる。樹脂被膜の厚さを調節するためには、コーティングに用いる装置やその使用条件を適宜選択することに加えて、目的とする樹脂被膜の厚さに適した濃度の水性分散体を使用することが好ましい。このときの濃度は、調製時の仕込み組成により調節することができる。また、いったん調製した水性分散体を適宜希釈あるいは濃縮するように調節してもよい。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各種特性については、以下の方法によって測定または評価した。
【0066】
1.エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の特性
(1)不飽和カルボン酸成分の含有量
IR法によって測定した。
【0067】
(2)メルトフローレート
JIS K7210:1999に記載の方法(190℃、21.2N(2160g)荷重)で測定した。
【0068】
2.樹脂水性分散体の特性
(1)水性分散化収率
水性分散化後の樹脂水性分散体を、460メッシュのステンレス製フィルター(線径35μm、平織、目開き20μm、濾過面積133cm)で、加圧濾過した(MAX0.5MPa(G))。その後に、フィルター上に残存する樹脂を、110℃真空乾燥で1時間乾燥し、樹脂質量を測定し、測定された質量と仕込み樹脂質量とを用いて収率を算出した。
【0069】
(2)水性分散体の固形分濃度
460メッシュ濾過後の水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、その質量から固形分濃度を求めた。
【0070】
(3)水性分散体の平均粒子径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、460メッシュ濾過後の樹脂水性分散体の数平均粒子径(mn)を求めた。粒子径の算出に用いるための樹脂の屈折率は、1.50とした。
【0071】
(4)ポットライフ
460メッシュ濾過後の水性分散体を、透明なガラス容器に入れ、室温で100日間静置し、その外観を目視観察により次の3段階で評価した。
【0072】
○:外観に変化なし
△:増粘が見られる
×:固化、凝集や沈殿物の発生が見られる
【0073】
(5)粘度
460メッシュ濾過後の水性分散体について、B型粘度計(トキメック社製、DVL−BII型デジタル粘度計)を用い、温度20℃における回転粘度を測定した。
【0074】
(6)pH
460メッシュ濾過後の水性分散体について、pHメータ(堀場製作所社製、F−52)を用い、温度20℃におけるpHを測定した。
【0075】
3.塗膜の特性
(1)密着性(テープ剥離試験)
延伸ポリエチレン(PE)フィルム(東セロ社製、厚み50μm)、アルミ(AL)箔(三井化学ファブロ社製、厚み12μm)、延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(東セロ社製、厚み50μm)、ガラス板(厚み1.5mm)に、460メッシュ濾過後の樹脂水性分散体を、それぞれ乾燥後の膜厚が1μmになるようにマイヤーバーを用いて塗布した後、90℃で2分間乾燥させた。得られた積層体を室温で1日放置後、評価した。
【0076】
詳細には、接着剤面にセロハンテープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を、目視により次の基準で評価した。
○:全く剥がれなし
△:一部が剥がれた
×:殆どが剥がれた
【0077】
(2)接着性
延伸ポリエチレン(PE)フィルム(東セロ社製、厚み50μm)のコロナ面、およびアルミ(AL)箔(三井化学ファブロ社製、厚み12μm)の非光沢面のそれぞれに、460メッシュ濾過後の水性分散体を、乾燥後の膜厚が1.5μmになるように、マイヤーバーを用いて塗布した後、90℃で2分間乾燥させ、積層体を得た。得られた積層体のコート面同士を貼り合わせ、ヒートプレス機(シール圧0.2MPa)にて10秒間プレスした。プレス温度は、PE/PE、およびPE/ALの貼り合わせは110℃とし、AL/ALの貼り合わせは140℃とした。このようにして得られたサンプルを15mm幅で切り出し、1日後、引張試験機(インテスコ社製、インテスコ精密万能材料試験機2020型)を用い、引張速度200mm/分、引張角度90度で剥離強度を測定した。測定はサンプル数n=5で行い、測定値はその平均値とした。
【0078】
(3)耐水性
ガラス板(厚み1.5mm)に、460メッシュ濾過後の水性分散体を、乾燥後の塗膜層の厚みが10μmになるようメイヤーバーでコートし、150℃で2分間乾燥した。このようにして得られたガラス板を、水道水に浸漬し、室温で24時間静置した。その後、コート層の溶解性や剥離状態などの程度を、目視により次の基準で評価した。
【0079】
○:外観に変化なし
△:コート層の白化、膨潤、一部剥がれが見られる
×:コート層の溶解または剥がれにより、コート層を確認できない
【0080】
(4)耐アルカリ性
ガラス板(厚み1.5mm)に、460メッシュ濾過後の樹脂水性分散体を、乾燥後の塗膜層の厚みが10μmになるようメイヤーバーでコートし、150℃で2分間乾燥した。このようにして得られたガラス板を、0.2質量%NaOH水溶液に浸漬し、室温で24時間静置した。その後、コート層の溶解性や剥離状態などの程度を、目視により次の基準で評価した。
【0081】
○:外観に変化なし
△:コート層の白化、膨潤、一部剥がれが見られる
×:コート層の溶解または剥がれにより、コート層を確認できない
【0082】
(5)耐溶剤性
ガラス板(厚み1.5mm)に、460メッシュ濾過後の樹脂水性分散体を、乾燥後の塗膜層の厚みが10μmになるようメイヤーバーでコートし、150℃で2分間乾燥した。このようにして得られたガラス板を、テトラヒドロフラン(THF)に浸漬し、室温で24時間静置した。その後、コート層の溶解性や剥離状態などの程度を、目視により次の基準で評価した。
【0083】
○:外観に変化なし
△:コート層の白化、膨潤、一部剥がれが見られる
×:コート層の溶解または剥がれにより、コート層を確認できない
【0084】
[原料]
原料であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合としては、市販品を用いた。すなわち、ニュクレル(三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン・メタクリル酸重合体)、レクスパールEAA(日本ポリエチレン社製、エチレン・アクリル酸重合体)、プリマコール(ダウケミカル社製、エチレン・アクリル酸重合体)を用いた。試験に用いたエチレン・不飽和カルボン酸共重合の特性を表1にまとめた。
【0085】
【表1】

【0086】
[実施例1]
撹拌機およびヒーターを備えた、密閉できる1Lの耐圧ガラス容器に、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、nプロパノール(NPA)を175.0g(35質量%)、トリエチルアミン(TEA)を17.6g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を257.4g仕込んだ、そして、ガラス容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこで、ガラス容器全体を保温材で被い、ヒーターの電源を入れ、系内温度を170℃にし、さらに60分間撹拌した。その後、ヒーターの電源を切り、回転速度400rpmのまま撹拌しつつ、自然冷却にて約80℃まで冷却した。この時、系内温度が120℃から80℃に降温するのに要した時間は約1時間であった。その後、ガラス容器の保温材を外し、ガラス容器の下半分を水に浸して水冷した。系内温度が35℃以下になったところで、撹拌を止め、ガラス容器内の内容物を460メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
[実施例2]
水性分散化の原料は、ニュクレルN1110Hを50.0g(10質量%)、NPAを100.0g(20質量%)、TEAを16.2g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を333.8gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表2に示す。
【0089】
[実施例3]
水性分散化の原料は、ニュクレルN1108Cを50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、TEAを16.2g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を258.8gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表2に示す。
【0090】
[実施例4]
水性分散化の原料は、ニュクレルN0903HCを50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、TEAを13.2g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を261.8gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表2に示す。
【0091】
[実施例5]
水性分散化の原料は、ニュクレルAN42115Cを50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、ジエチルアミン(DEA)を14.9g(7倍当量/COOH)、蒸留水を260.1gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表2に示す。
【0092】
[実施例6]
水性分散化の原料は、ニュクレルAN4225Cを50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、DEAを21.2g(10倍当量/COOH)、蒸留水を253.8gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表2に示す。
【0093】
[実施例7]
水性分散化の原料は、ニュクレルN1560を50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、TEAを13.2g(1.5倍当量/COOH)、蒸留水を261.8gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表2に示す。
【0094】
[実施例8]
水性分散化の原料は、レクスパールEAA、A210Kを50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、TEAを12.3g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を262.7gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表2に示す。
【0095】
[実施例9]
水性分散化の原料は、プリマコール3150を50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、DEAを7.6g(5倍当量/COOH)、蒸留水を267.4gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表3に示す。
【0096】
【表3】

【0097】
[実施例10]
水性分散化の原料は、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、28%アンモニア水を12.7g(3倍当量/COOH)、蒸留水を262.3gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表3に示す。
【0098】
[実施例11]
水性分散化の原料は、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、イソプロパノール(IPA)を175.0g(35質量%)、TEAを17.6g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を257.4gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表3に示す。
【0099】
[実施例12]
水性分散化の原料は、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、エタノール(EtOH)を175.0g(35質量%)、TEAを17.6g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を257.4gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表3に示す。
【0100】
[実施例13]
水性分散化の原料は、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、メタノール(MeOH)を175.0g(35質量%)、TEAを17.6g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を257.4gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表3に示す。
【0101】
[実施例14]
水性分散化の原料は、ニュクレルN0903HCを75.0g(15質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、TEAを19.8g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を230.2gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表3に示す。
【0102】
[実施例15]
水性分散化の原料は、ニュクレルAN42115Cを50.0g(10質量%)、NPAを175.0g(35質量%)、DEAを5.3g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を269.7gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表3に示す。
【0103】
[実施例16]
実施例4と同様の原料および方法で、ガラス容器を加熱し、系内温度を170℃にし、さらに60分間撹拌した。その後、ガラス容器を被った保温材を全て外し、ヒーターの電源を切り、ガラス容器の下半分を水に浸け、回転速度400rpmのまま撹拌しつつ、その状態で系内温度が35℃以下になるまで冷却した。この時、系内温度が120℃から80℃に降温するのに要した時間は約15分間であった。系内温度温が35℃以下になったところで、撹拌を止め、ガラス容器内の内容物を460メッシュのステンレス製フィルターでろ過して、水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表3に示す。
【0104】
[比較例1]
水性分散化の原料は、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、TEAを17.6g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を432.4gとした。すなわち、有機溶媒を用いなかった。それ以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、濾過工程にて殆ど全ての原料樹脂が回収され、水性分散体はまったく得られなかった。その結果を表4に示す。
【0105】
【表4】

【0106】
[比較例2]
水性分散化の原料は、ニュクレルN1110Hを50.0g(10質量%)、TEAを16.2g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を433.8gとした。すなわち、比較例1と同様に有機溶媒を用いなかった。それ以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、濾過工程にて殆どの原料樹脂が回収され、評価可能な良好な水性分散体はまったく得られなかった。その結果を表4に示す。
【0107】
[比較例3]
水性分散化の原料は、ニュクレルN1108Cを50.0g(10質量%)、TEAを16.2g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を433.8gとした。すなわち、比較例1、2と同様に有機溶媒を用いなかった。それ以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、濾過工程にてすべての原料樹脂が回収され、水性分散体はまったく得られなかった。その結果を表4に示す。
【0108】
[比較例4]
水性分散化の原料は、レクスパールEAA A210Kを50.0g(10質量%)、TEAを12.3g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を437.7gとした。すなわち、比較例1〜3と同様に有機溶媒を用いなかった。それ以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、濾過工程にてすべての原料樹脂が回収され、水性分散体はまったく得られなかった。その結果を表4に示す。
【0109】
[比較例5]
水性分散化の原料は、プリマコール3150を50.0g(10質量%)、DEAを7.6g(5倍当量/COOH)、蒸留水を442.4gとした。すなわち、比較例1〜4と同様に有機溶媒を用いなかった。それ以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、濾過工程にてすべての原料樹脂が回収され、水性分散体はまったく得られなかった。その結果を表4に示す。
【0110】
[比較例6]
水性分散化の原料は、ニュクレルN1560を50.0g(10質量%)、TEAを13.2g(1.5倍当量/COOH)、蒸留水を436.8gとした。すなわち、比較例1〜5と同様に有機溶媒を用いなかった。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表4に示す。
【0111】
[比較例7]
水性分散化の原料は、不飽和カルボン酸成分の含有量は10質量%と本発明の範囲内であるがメルトフローレートが500g/10分と本発明の範囲を超えたニュクレルN1050Hを50.0g(10質量%)、N,N−ジメチルエタノールアミン(DMEA)を6.2g(1.2倍当量/COOH)、蒸留水を443.8gとした。すなわち、同様に有機溶媒を用いなかった。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表4に示す。
【0112】
[比較例8]
水性分散化の原料は、不飽和カルボン酸成分の含有量が20質量%、メルトフローレートが300g/10分と、いずれも本発明の範囲を超えたプリマコール5980Iを50.0g(10質量%)、TEAを21.1g(1.5倍当量/COOH)、蒸留水を428.9gとした。すなわち、同様に有機溶媒を用いなかった。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表4に示す。
【0113】
[比較例9]
水性分散化の原料は、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、NPAを125.0g(25質量%)、塩化カリウム(KOH)を3.9g(1.0倍当量/COOH)、蒸留水を321.1gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行って、樹脂水性分散体を得た。得られた樹脂水性分散体の各種特性を表4に示す。
【0114】
[比較例10]
水性分散化の原料は、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、20℃の水に対して実質的に不溶であるトルエンを175g(35質量%)、TEAを17.6g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を257.4gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、濾過工程にて殆どの原料樹脂が回収され、評価可能な良好な水性分散体はまったく得られなかった。その結果を表4に示す。
【0115】
[比較例11]
水性分散化の原料は、ニュクレルN1214を50.0g(10質量%)、20℃の水に対して実質的に不溶であるメチルシクロヘキサン(MCH)を175g(35質量%)、TEAを17.6g(2.5倍当量/COOH)、蒸留水を257.4gとした。それ以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、濾過工程にて殆どの原料樹脂が回収され、評価可能な良好な水性分散体はまったく得られなかった。
【0116】
従来の水性分散化方法に対応して有機溶媒を用いなかった比較例1〜5では、水性分散化することが出来なかったのに対し、実施例1〜6、8〜16では、不飽和カルボン酸成分の含有量が少なくかつメルトフローレート値が低いエチレン・不飽和カルボン酸共重合体であっても、特定の有機溶媒を添加することにより、水性分散化が可能であった。また、得られた水性分散体は、ポットライフ、粒子径、粘度の点で優れたものであった。なお、比較例1〜5の結果から、不飽和カルボン酸の含有量が少なかったり、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のメルトフローレート値が低い樹脂(N0903HC、AN42115C、AN4225C)は、仮に従来の水性分散化方法を適用したとすると、さらに水性分散化が困難となり、水性分散体が得られないことが、容易に推測される。
【0117】
実施例7と比較例6とを対比すると、不飽和カルボン酸成分の含有量が15質量%で、かつメルトフローレートが60g/10分のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(N1560)の場合は、従来の水性分散化方法(比較例6)であっても水性分散体を得ることが可能であった。しかし、水性分散化の際にNPAを添加することによって(実施例7)、数平均粒子径を格段に細かくすることが可能であった。
【0118】
実施例1〜9のように、有機溶媒としてのNPAを用いることで、多種類のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体について水性分散化が可能であった。また実施例10のように、アンモニアを添加した場合であっても、水性分散化が可能であった。さらに、実施例11〜13のように、IPA、EtOH、MeOHを用いても、NPAの場合と同様に水性分散化が可能であった。
【0119】
実施例14のように固形分濃度を高くした場合であっても、同様に水性分散化が可能であった。
実施例5と15の対比より、不飽和カルボン酸成分の含有量が5質量%とより少ないエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(AN42115)であっても、実施例5のように有機アミン化合物を過剰添加することで、さらに水性分散化収率を向上させることができる効果があった。
【0120】
実施例4と16の対比より、実施例4のように冷却時間を長くすることで、すなわち徐冷することで、水性分散化収率をさらに向上させる効果があった。
比較例7のように、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体(N1050H)における不飽和カルボン酸成分の含有量が10質量%とやや少ない場合であっても、メルトフローレートが500g/10分と高い値であると、従来方法でも水性分散化が可能であった。しかし、実施例のものに比べて接着性が低いものであった。さらに、比較例8のように、樹脂がエチレン・アクリル酸共重合体であっても、同様に、不飽和カルボン酸成分の含有量が多く、メルトフローレート値が高い場合は、従来方法でも水性分散化が可能であった。しかし、実施例のものに比べて接着性が低いものであった。
【0121】
比較例10、11のように、水性分散化時に添加する有機溶媒として、20℃の水に対する溶解性が50g/L未満のものを用いた場合は、水性分散化の促進効果が確認できなかった。
【0122】
実施例1と比較例9との対比より、有機アミン化合物の代わりに金属化合物を用いて水性分散化した場合は、得られた水性分散体の耐水性が著しく悪化した。
実施例1、3〜6、8、9と比較例6〜8とを対比すると、各種基材に対する接着性は実施例1、3〜6、8、9の方が優れていた。このような良好な接着性能が発現された理由としては、原料樹脂のメルトフローレート値が低いために接着層の強度が高まったためと考えられる。
【0123】
実施例3〜6、8、9と比較例6〜8とを対比すると、耐アルカリ性は実施例3〜6、8、9の方が優れていた。このような良好な耐アルカリ性能が発現された理由は、原料樹脂の不飽和カルボン酸の含有量が低いためにアルカリによって軟化され難くなるうえに、メルトフローレート値が低いために塗膜の強度が高いことが原因したと考えられる。
【0124】
実施例1、3〜6、8、9と比較例6〜8とを対比すると、耐溶剤性は実施例1、3〜6、8、9の方が優れていた。このような良好な耐溶剤性能が発現された理由は、原料樹脂のメルトフローレート値が低いために、溶剤に対する塗膜の溶解性が低くなったことが原因したと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸成分を1〜15質量%含有するとともに、190℃、21.2N荷重におけるメルトフローレートが0.5〜200g/10分であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体と、20℃の水に対する溶解性が50g/L以上でありかつ30〜250℃の沸点を有する有機溶媒と、アンモニアおよび/または有機アミン化合物と、水とを原料として用い、これらの原料を80〜280℃の温度で加熱しながら撹拌することを特徴とする水性分散体の製造方法。
【請求項2】
不飽和カルボン酸成分がアクリル酸および/またはメタクリル酸であるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体を原料として用いることを特徴とする請求項1記載の水性分散体の製造方法。
【請求項3】
有機溶媒として、メタノール、エタノール、nプロパノール、イソプロパノールの少なくともいずれかを用いることを特徴とする請求項1または2記載の水性分散体の製造方法。
【請求項4】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体におけるカルボキシル基のモル数に対し、0.5〜15倍当量モルとなるように、有機アミン化合物を用いることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の水性分散体の製造方法。
【請求項5】
加熱後に、品温が120℃から80℃に降温するのに30分以上かかるように冷却することを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の水性分散体の製造方法。
【請求項6】
不揮発性水性分散化助剤を用いないことを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項記載の水性分散体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法で水性分散体を得た後、さらに脱溶剤処理を行って、水性分散体の有機溶媒含有量を減少させることを特徴とする水性分散体の製造方法。

【公開番号】特開2009−242504(P2009−242504A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88985(P2008−88985)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】