説明

水性分散体及びその製造方法

【課題】室温でも分散安定性に優れ、しかも弱酸性域であっても微小な粒子径を維持できるポリアミド樹脂水性分散体と、その製造方法とを提供する。
【解決手段】ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含み、アミン価が酸価より大きくかつ1mgKOH/g以上であるダイマー酸系ポリアミド樹脂と、乳酸と、水性媒体とを含有するポリアミド樹脂水性分散体。及びダイマー酸系ポリアミド樹脂と、乳酸と、水性媒体とを70〜280℃下で加熱攪拌するポリアミド樹脂水性分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性を有するポリアミド樹脂と乳酸を含む水性分散体に関するものであり、室温における弱酸性域での分散安定性に優れるポリアミド樹脂水性分散体、並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイマー酸とは、炭素数36のジカルボン酸成分であり、オレイン酸やリノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られるものであり、植物由来の脂肪酸である。ダイマー酸を主成分とするジカルボン酸成分と、各種ジアミン成分との縮合反応させることにより、ダイマー酸系ポリアミド樹脂を得ることができる。
【0003】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂は、一般に密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性に優れる樹脂であり、自動車部品やケーブルなど幅広い用途でのホットメルト接着剤や樹脂改質用の添加剤などに用いられている。また、ジカルボン酸成分、ジアミン成分、末端酸成分量、末端アミン成分量などによって、樹脂の軟化点やMFR、接着性や柔軟性などの特性を幅広く制御できることも特徴の一つである。
【0004】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂の特性を損なうことのなく溶液もしくは分散体を得ることができれば、例えば樹脂フィルムやシート、紙、金属などの表面に容易にダイマー酸系ポリアミド樹脂塗膜を形成し、良好な密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性を付与することができる。しかしながら、ダイマー酸系ポリアミド樹脂はアルコール類やトルエンなど各種溶媒への溶解性が劣り、安定した溶液を得ることが困難である。
【0005】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂水性分散体を得ようとする試みもある。例えば特許文献1において、酸価8以上のポリアミド樹脂を20質量%以上のアルキルアルカノールアミンを含む水性媒体中に分散する方法が検討されている。そして、特許文献2〜5には、ダイマー酸系ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂の水性分散体を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−20261号公報
【特許文献2】特開平2−4862号公報
【特許文献3】特開平2−4863号公報
【特許文献4】特開2000−7787号公報
【特許文献5】特開2001−270987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1記載の方法により得られる水性分散体は、室温においてゲル化し、分散安定性に優れる水性分散体を得には至っていない。
【0008】
また、上記特許文献2〜5記載の方法で得られるものは、いずれも乳化剤や界面活性剤を含有させたポリアミド樹脂水性分散体である。このような分散体は、加温下では低粘度であるものの、冷却することによって増粘が始まることがあり、室温下でかなり増粘もしくはゲル化する場合がある。さらに、成分調整することで室温下での増粘を抑えることができたとしても、分散体中の樹脂の平均粒子径は、最も小さいものでも0.5μmであり、いずれも、分散安定性に優れ緻密な塗膜を形成するのに十分な微小粒子径の水性分散体とはいえないものであった。
【0009】
そして、pHが7よりも大きいアニオン性水性分散体は、酸性域においては、樹脂粒子同士の凝集が発生し、安定な分散体形状を保持することができないという問題がある。つまり、酸性域でのみ安定な化合物、溶液、分散液などと混合し、塗剤として利用することは困難であった。
【0010】
また、pHが7より小さいカチオン性水性分散体を得る試みもあり、pHが5未満の酸性域では安定であるものの、pHが5以上の中性に近い弱酸性域では、安定性に劣るという問題があった。
【0011】
さらに、常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性分散化助剤を実質的に含有しないポリアミド樹脂水性分散体も得られているが、水性分散体を製造する過程で一部の有機溶媒を揮発除去する際、分散性を付与するために添加した有機酸などが有機溶媒と共に揮発することによって、分散体中に凝集物が発生したり、分散体が固化したりする問題があった。
【0012】
本発明は上記のような問題点を解決するものであって、室温でも分散安定性に優れ、しかも弱酸性域であっても微小な粒子径を維持できるポリアミド樹脂水性分散体と、その製造方法とを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定組成のダイマー酸系ポリアミド樹脂と乳酸とを用いることで、水性媒体中に微小粒子径の樹脂を安定性よく分散できることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0015】
(1)ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含み、アミン価が酸価より大きくかつ1mgKOH/g以上であるダイマー酸系ポリアミド樹脂と、乳酸と、水性媒体とを含有することを特徴とするポリアミド樹脂水性分散体。
(2)アミン価が5〜20mgKOH/gであるダイマー酸系ポリアミド樹脂からなる上記(1)記載のポリアミド樹脂水性分散体。
(3)水性分散体中のポリアミド樹脂の数平均粒子径が0.5μm未満であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のポリアミド樹脂水性分散体。
(4)pHが5〜7であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアミド樹脂水性分散体。
(5)水性媒体が親水性有機溶剤を含有することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリアミド樹脂水性分散体。
(6)ダイマー酸系ポリアミド樹脂と、乳酸と、水性媒体とを70〜280℃下で加熱攪拌することを特徴とする上記(1)記載のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリアミド樹脂水性分散体は、微小粒子径のダイマー酸系ポリアミド樹脂が分散し、室温でもゲル化せず、分散安定性に優れたものである。このため、本発明のポリアミド樹脂水性分散体を塗布することにより、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の緻密な塗膜を得ることが可能で、かつ得られる塗膜は、密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性に優れている。
【0017】
また、本発明によれば、従来得ることができなかったpHが5〜7の弱酸性領域において、室温でもゲル化せず、分散安定性に優れた、ポリアミド樹脂水性分散体を得ることができる。さらに製造工程上、加熱によって一部の有機溶媒を揮発除去させる場合にも、分散性付与のために添加した成分が揮発し難く、その結果、良好な分散性を有するポリアミド樹脂水性分散体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明のポリアミド樹脂水性分散体は、ダイマー酸を所定量含むと共に、アミン価が酸価より大きくかつアミン価が所定の範囲を満足するダイマー酸系ポリアミド樹脂と、乳酸と、水性媒体とを含むものである。
【0020】
本発明における水性媒体とは、水、又は水と後述する有機溶剤との混合液をいい、有機溶剤の含有量としては、一般に50質量%未満が好ましい。
【0021】
本発明におけるポリアミド樹脂では、アミン価を酸価より大きくする必要がある。これは、アミン価が酸価よりも小さくなると、得られる水性分散体の弱酸性域における安定性が大幅に低下するからである。
【0022】
ポリアミド樹脂のアミン価としては、1mgKOH/g以上である必要がある。アミン価が1mgKOH/g未満になると、水性分散体の安定性が大幅に低下する。アミン価の上限としては、特に限定されるものでないが、実用上50mgKOH/gまでとするのが好ましい。これは、50mgKOH/gを超えると、後に作製する塗膜の耐薬品性が低下する傾向にあるからである。さらに、実用面に加え本発明の効果などを考慮すると、アミン価としては、3〜25mgKOH/gであることが好ましく、5〜20mgKOH/gであることがより好ましい。
【0023】
一方、ポリアミド樹脂の酸価としては、40mgKOH/g以下が好ましく、10mgKOH/g以下がより好ましく、2mgKOH/g以下がさらに好ましい。酸価が40mgKOH/gを超えると、後に作製する塗膜の耐薬品性が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0024】
なお、アミン価とは、樹脂1g中のアミン成分とモル当量となる水酸化カリウムのミリグラム数で表されるものである。一方、酸価とは、樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数で定義されるものである。いずれも、JIS K2501に記載の方法で測定される。
【0025】
本発明におけるポリアミド樹脂は、主鎖にアミド結合を有するものであり、主にダイマー酸を含むジカルボン酸成分とジアミン成分とを用いた脱水縮合反応によって得られるものである。ダイマー酸とは、オレイン酸やリノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られるものであり、水素添加して不飽和度を低下させたものも含まれる。
【0026】
本発明におけるポリアミド樹脂は、一般的なポリアミド樹脂として広く使用されているナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などの樹脂に比べて、大きな炭化水素グループを有するために柔軟性を有している。ダイマー酸としては、例えば市販されているハリダイマーシリーズ(ハリマ化成社製)、プリポールシリーズ(クローダジャパン社製)、ツノダイムシリーズ(築野食品工業社製)などを用いることができる。
【0027】
本発明では、ポリアミド樹脂を構成する全ジカルボン酸成分のうち、ダイマー酸の含有割合を50モル%以上にする必要があり、60モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。ダイマー酸の割合が50モル%未満になると、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の特性や効果を奏することが困難となる。
【0028】
ダイマー酸以外の他のジカルボン酸成分としては、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ピメリン酸、スベリン酸、ノナンジカルボン酸、フマル酸などを用いることができる。他の成分の含有割合としては、ジカルボン酸成分全体の50モル%未満とする必要があり、25モル%以下とすることが好ましく、これにより、樹脂の軟化点や接着性などの制御が容易となる。また、ダイマー酸製造時の副生物であるモノマー酸(単量体、炭素数18)やトリマー酸(三量体、炭素数54)、さらには炭素数20〜54などの他の重合脂肪酸なども、本発明におけるポリアミド樹脂を構成する一成分として用いてよく、その使用量としては、ダイマー酸の使用量に対し25質量%以下とすることが好ましい。
【0029】
また、ポリアミド樹脂を構成するジアミン成分としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、m−キシレンジアミン、フェニレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピペラジンなどを用いることができ、中でもエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、m−キシレンジアミン、ピペラジンが好ましい。
【0030】
樹脂の重合度、酸価及びアミン価を所望の範囲とすることは、樹脂を重合する際のジカルボン酸成分とジアミン成分との仕込み比を調整するにより可能である。
【0031】
また、本発明におけるポリアミド樹脂の軟化点としては、70〜250℃が好ましく、80〜240℃がより好ましく、80〜200℃がさらに好ましい。軟化点が70℃未満になると、後に塗膜とした際、塗膜の強度が低くなる傾向にあり、さらに室温におけるタック感が高くなる傾向にあり、好ましくない。一方、250℃を超えると、樹脂を水性媒体中に分散させるのが困難となる傾向にあり、好ましくない。
【0032】
本発明の水性分散体には、上記のポリアミド樹脂以外に、乳酸を含有させる必要がある。乳酸を含有することによって、ダイマー酸系ポリアミド樹脂に含まれるアミン性基の一部又は全てが中和され、カチオンが生成し、その電気的反発力によって、樹脂微粒子間の凝集が解れ、水性分散体に安定性が付与される。
【0033】
本発明の水性分散体において、乳酸の含有量としては、ポリアミド樹脂のアミン性基のモル数に対して0.5〜5倍当量モルが好ましく、0.8〜3倍当量モルがより好ましく、1〜2.5倍当量モルがさらに好ましい。乳酸の含有量が0.5当量モル未満になると、安定した水性分散体を得ることが困難になる傾向にあり、一方、5当量モルを超えると、水性分散体が着色する、pHが小さくなりすぎるなどの傾向があり、いずれも好ましくない。
【0034】
本発明の水性分散体では、ポリアミド樹脂中のアミン性基が乳酸で中和されており、弱酸性域で安定した形態を保つことができる。水性分散体のpHとしては、3〜7の範囲が好ましく、pHが5〜7の範囲であることがより好ましい。
【0035】
このように、本発明の水性分散体では、水性媒体中にポリアミド樹脂が安定して分散されている。ポリアミド樹脂粒子の数平均粒子径としては、0.5μm未満であることが好ましく、より好ましくは0.4μm以下であり、さらに好ましくは0.2μm以下、最も好ましくは0.1μm以下である。水性分散体中においてポリアミド樹脂粒子の数平均粒子径が0.5μm以上になると、分散安定性及び希釈安定性が低下し、さらに塗膜にした際、緻密さに欠けてしまう恐れがある。ポリアミド樹脂粒子の数平均粒子径は、動的光散乱法により測定される。具体的には、日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用いて測定する。
【0036】
また、本発明の水性分散体は、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤又は両性乳化剤などの一般に乳化重合に用いられる乳化剤や界面活性剤類、保護コロイドを有する化合物を含むことなく得ることができる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネートなどがあげられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やソルビタン誘導体などがあげられる。そして、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイドなどがあげられる。
【0037】
保護コロイドを有する化合物としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類及びその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などの不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマー及びその塩、ポリイタコン酸及びその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼインなど、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物などがあげられる。
【0038】
また、本発明の水性分散体中のポリアミド樹脂の含有量(固形分濃度)としては、使用目的や保存方法などにあわせて適宜選択でき、特に限定されないが、3〜40質量%であることが好ましく、中でも10〜35質量%であることが好ましい。水性分散体中のダイマー酸系ポリアミド樹脂の含有量が上記範囲より少ない場合は、乾燥工程によって塗膜を形成する際に時間を要することがあり、また厚い塗膜を得難くなる傾向にあり、好ましくない。一方、水性分散体中のダイマー酸系ポリアミド樹脂の含有量が上記範囲より多い場合は、分散体の保存安定性が低下しやすくなる傾向にあり、好ましくない。
【0039】
そして、本発明の水性分散体の粘度としては、特に限定されないが、室温でも低粘度であることが好ましい。具体的には、B型粘度計(トキメック社製、DVL−BII型デジタル粘度計)を用いて20℃下で測定した回転粘度として、100000mPa・s以下が好ましく、10000mPa・s以下がより好ましく、5000mPa・s以下がさらに好ましく、1000mPa・s以下が特に好ましい。水性分散体の粘度が100000mPa・sを超えると、基材に分散体を均一に塗布することが難しくなる傾向にあり、好ましくない。
【0040】
次に、本発明のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法について説明する。
【0041】
本発明の水性分散体を得るにあたっては、密閉可能な容器を用いることが好ましい。つまり、密閉可能な容器に各成分を仕込み、加熱、攪拌する手段が好ましく採用される。
【0042】
具体的には、所定量のポリアミド樹脂と、乳酸と、水性媒体とを容器に投入し、容器を密閉した後、好ましくは70〜280℃、より好ましくは100〜250℃の温度で、加熱撹拌する。加熱攪拌時の温度が70℃未満になると、ポリアミド樹脂の分散が進み難くなる傾向にあり、一方、280℃を超えると、ポリアミド樹脂の分子量が低下する恐れがあり、また、系の内圧が無視できない程度まで上がることもあり、いずれも好ましくない。
【0043】
加熱撹拌する際は、樹脂が水性媒体中に均一に分散されるまで毎分10〜1000回転で加熱撹拌することが好ましい。
【0044】
さらに、本発明の製造方法では、ポリアミド樹脂の粒子径をより小さくし、同時にポリアミド樹脂の水性媒体への分散をより促進する観点から、水性媒体として親水性有機溶剤を含むものを使用することが好ましい。親水性有機溶剤とは、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上の有機溶剤をいい、本発明では、中でも100g/L以上のものが好ましく、600g/L以上のものがより好ましく用いられ、特に水と任意の割合で溶解するものが最も好ましく用いられる。
【0045】
親水性有機溶剤の沸点としては、30〜250℃であることが好ましく、50〜200℃であることがより好ましい。沸点が30℃未満になると、水性分散体の調製中に親水性有機溶剤が揮発しやすくなり、結果、親水性有機溶剤を使用する意味が失われると共に、作業環境も悪化しやすくなるため、好ましくない。一方、250℃を超えると、水性分散体から親水性有機溶剤を除去することが困難となる傾向にあり、結果、後に塗膜となしたとき、塗膜に有機溶剤が残留し、塗膜の耐溶剤性などを低下させることがあるため、好ましくない。
【0046】
親水性有機溶剤の配合量としては、水性媒体全体に対し50質量%以下の割合で配合されるのが好ましく、2〜40質量%がよりに好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。親水性有機溶剤の配合量が50質量%を超えると、水性化の促進効果がそれ以上期待できないばかりか、場合によっては水性分散体をゲル化させる傾向にあり、好ましくない。
【0047】
親水性有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール(NPA)、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン類;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルなどのエステル類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチルなどがあげられる。
【0048】
水性化の際に配合された有機溶媒は、その一部をストリッピングと呼ばれる脱溶剤操作で、水性分散体から除くことができる。このようなストリッピングによって有機溶媒の含有量は必要に応じて0.1質量%以下まで低減することが可能である。有機溶媒の含有量が0.1質量%以下となっても、水性分散体の性能面での影響は特に確認されない。ストリッピングの方法としては、常圧又は減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶媒を留去する方法をあげることができる。この点、従来の方法では、分散性付与のために添加した酸性化合物として、ギ酸、酢酸などが使用されてきたが、これらは加熱・減圧条件によっては有機溶媒と共に揮発し易く、分散体の安定性を低減させ易いものであった。これに対し、本発明では、酸性化合物として乳酸を用いているため、ストリッピングの過程で酸性化合物が揮発し難く、分散体の安定性維持に寄与することができる。
【0049】
また、分散体をストリッピングすると、水性媒体の一部が同時に留去されることにより、水性分散体中の樹脂固形分濃度が高くなることがあるため、樹脂固形分濃度を適宜調整することが好ましい。
【0050】
水性化促進に効果的であり、上記脱溶剤操作が容易な親水性有機溶媒としては、例えば、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどがあり、本発明では、特にエタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフランなどが好ましく用いられる。
【0051】
また、本発明の製造方法において、親水性有機溶剤を含有する水性媒体中に、樹脂の分散を促進させる目的で、トルエンやシクロヘキサンなどの炭化水素系有機溶剤を、水性媒体を構成する成分の全体に対し、10質量%以下の範囲で配合してもよい。炭化水素系有機溶剤の配合量が10質量%を超えると、製造工程において水との分離が著しくなり、均一な水性分散体が得られない場合がある。
【0052】
本発明の水性分散体は、以上の方法により得ることができるが、各成分を加熱攪拌した後は、得られた水性分散体を必要に応じて室温まで冷却してもよい。無論、本発明の水性分散体は、かかる冷却過程を経ても何ら凝集することなく、安定性は当然維持される。
【0053】
また、本発明の水性分散体には、用途に応じて各種添加剤を配合してもよく、特に酸性や中性の材料を配合しても良好な分散安定性を維持できる。
【0054】
さらに、本発明の水性分散体は、架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤を水性分散体に含有させることによって、得られる塗膜は、樹脂の軟化点以上の温度の高温下でも流動性を低くすることができる。
【0055】
本発明において架橋剤としては、ダイマー酸系ポリアミド樹脂同士を架橋できるものであれば、どのようなものでも使用でき、例えば、ヒドラジド化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物が好ましく、中でもエポキシ化合物が好適である。これらの化合物は、単独で又は混合して用いることができる。
【0056】
また、架橋剤として、アミノ基と反応する官能基を分子中に複数個有する架橋剤を使用すると、ポリアミド樹脂中のアミノ基と効率よく反応させることができる。この他、架橋剤として、自己架橋性を有するものや多価の配位座を有するものなども使用できる。
【0057】
架橋剤としては、ダイマー酸系ポリアミド樹脂同士を架橋できるものであれば、どのようなものでも使用でき、例えば、ヒドラジド化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物が好ましく、中でもエポキシ化合物が好適である。これらの化合物は、単独で又は混合して用いることができる。
【0058】
また、架橋剤として、アミノ基と反応する官能基を分子中に複数個有する架橋剤を使用すると、ダイマー酸系ポリアミド樹脂中のアミノ基と効率よく反応させることができる。この他、架橋剤として、自己架橋性を有するものや多価の配位座を有するものなども使用できる。
【0059】
本発明では、入手が容易であるという点から、市販の架橋剤を用いてもよい。具体的には、ヒドラジド化合物としては、大塚化学社製のAPAシリーズ(APA−M950、APA−M980、APA−P250、APA−P280など)などがあげられ、イソシアネート化合物としては、BASF社製のバソナート(BASONAT)PLR8878、バソナートHW−100、住友バイエルウレタン社の製バイヒジュール(Bayhydur)3100、バイヒジュールVPLS2150/1などがあげられ、メラミン化合物としては、三井サイテック社製サイメル325などがあげられ、尿素化合物としては、DIC社製のベッカミンシリーズがあげられ、エポキシ化合物としては、ナガセケムテック社製のデナコールシリーズ(EM−150、EM−101など)、ADEKA社製のアデカレジンEM−0517、EM−0526、EM−051R、EM−11−50Bなどがあげられ、カルボジイミド化合物としては、日清紡社製のカルボジライトシリーズ(SV−02、V−02、V−02−L2、V−04、E−01、E−02、V−01、V−03、V−07、V−09、V−05)などあげられ、オキサゾリン化合物としては、日本触媒社製のエポクロスシリーズ(WS−500、WS−700、K−1010E、K−1020E、K−1030E、K−2010E、K−2020E、K−2030E)などがあげられる。これらは、架橋剤を含む分散体又は溶液として市販されている。
【0060】
水性分散体における架橋剤の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.5〜100質量部であることが好ましい。架橋剤の含有量が0.5質量部未満であると、塗膜において所望の高温下低流動性が得難くなり、一方、100質量部を超えると、水性分散体の液安定性や加工性などが低下する結果、塗膜としての基本性能が得難くなる。
【0061】
本発明の水性分散体は、主に積層体を得るときのコート剤として使用することができる。そこで、本発明の水性分散体を用いて積層体を得る方法について説明する。
【0062】
積層体は、基本的に本発明の水性分散体を基材に塗布し、後に乾燥することにより得ることができる。
【0063】
本発明の水性分散体を基材に塗布する方法としては、公知の方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法などをあげることができる。これらの方法により水性分散体を基材の表面に均一に塗工することができる。
【0064】
水性分散体を塗布する基材としては、特に限定されないが、例えば、樹脂材料、ガラス材料などで形成されたものが好適である。基材の厚みとしても、特に限定されるものではないが、10〜1000μmが好ましく、10〜500μmがより好ましく、10〜200μmが特に好ましい。
【0065】
基材は一般に樹脂材料から形成される。樹脂材料としては、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ(メタ)アクリルロニトリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、トリアセテートセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、再生セルロース系樹脂、ジアセチルセルロース系樹脂、アセテートブチレートセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノルボルネン系樹脂などがあげられる。樹脂材料は延伸処理されていてもよい。また、樹脂材料は、公知の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤などが含まれていてもよい。樹脂材料には、その他の材料と積層する場合の密着性などを考慮して、表面に前処理としてコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理などが施されていてもよい。また、シリカ、アルミナなどが蒸着されていてもよく、バリア層や易接着層、帯電止層、紫外線吸収層、接着層、離型層、反射防止層、ハードコート層、アンチグレア層などの他の層が積層されていてもよい。
【0066】
上記のように、本発明のポリアミド樹脂水性分散体を基材に塗布した後、乾燥熱処理することにより、水性媒体を除去することができ、緻密なポリアミド樹脂塗膜を基材に密着させて形成することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各種の値の測定及び評価は以下のように行った。
【0068】
(1)ポリアミド樹脂の特性値
〔酸価、アミン価〕
JIS K 2501に記載の方法により測定した。
〔軟化点温度〕
樹脂10mgをサンプルとし、顕微鏡用加熱(冷却)装置ヒートステージ(リンカム社製、Heating−Freezing ATAGE TH−600型)を備えた顕微鏡を用いて、昇温速度20℃/分の条件で測定を行い、樹脂が溶融した温度を軟化点とした。
〔溶融粘度〕
ブルックフィールド溶融粘度計DV−II+PRO型にて、樹脂温度200℃、ずり速度1.25/秒で測定した。溶融開始後、約25分間回転させ、粘度がほぼ経過時間で安定した時点での溶融粘度の値を読み取った。
【0069】
(2)水性分散体の固形分濃度
得られた水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
【0070】
(3)水性分散体のpH
pHメータ(堀場製作所社製、F−52)を用い、pHを測定した。
【0071】
(4)水性分散体の粘度
前記の方法で測定した。
【0072】
(5)水性分散体中のポリアミド樹脂の数平均粒子径
前記の方法で測定した。
【0073】
(6)水性分散体の分散安定性
得られた水性分散体を室温で10日間静置し、水性分散体の外観を次の3段階で評価した。
○:外観に変化なし、△:分離、一部ゲル化あり、×:完全ゲル化、凝集物の発生あり
【0074】
(7)剥離強度
基材として銅箔(厚さ20μm)を用い、この基材の片面に、得られた水性分散体を乾燥後の樹脂層の厚さが3μmになるようにワイヤーバーを用いて塗布し、120℃で1分間加熱乾燥することにより、塗膜を銅箔の表面に形成した。次に、塗膜表面に上記と同じ銅箔を重ね合わせ、ヒートプレス機(シール圧0.2MPaで30秒間)を用いて160℃でプレスした。
得られた銅積層体から幅15mm、長さ10cmの測定サンプルを切り出し、引張り試験機(インテスコ社製精密万能材料試験機2020型)を用い、室温下、引張り速度200mm/分の条件にてT型剥離試験を行うことにより剥離強度を測定し、その値の大きさで接着性を評価した。なお、測定はサンプルを5枚採取し、その平均値を剥離強度とした。
【0075】
(8)柔軟性
基材として軟質塩化ビニルシートを用い、この基材の片面に、得られた水性分散体を乾燥後の樹脂層の厚さが3μmになるようにワイヤーバーを用いて塗布し、120℃で1分間加熱乾燥処理をすることにより、樹脂塗膜を軟質塩化ビニルシートの表面に形成して積層体を得た。
これにゲルボフレックス試験機で100回処理(20℃、約15cmのストロークで1分間に40往復の処理)を行った後、JIS K5600に記載の方法に従い、クロスカット法によって、次の4段階で密着性を評価し、それを塗膜の柔軟性の指標とした。
【0076】
◎:どの格子にも剥がれが見られない。
○:格子カットの縁に沿ってわずかに剥がれが見られる。全体の5%以下。
△:全体の5〜15%程度の剥がれが見られる。
×:全体の15%以上の剥がれが見られる。
【0077】
(9)耐アルカリ性
基材としてアルミニウム箔を用い、この基材の片面に、得られた水性分散体を乾燥後の樹脂層の厚さが2μmになるようにワイヤーバーを用いて塗布し、120℃で1分間加熱乾燥処理をすることにより、樹脂塗膜をアルミニウム箔の表面に形成した。その後、NaOH水溶液(20℃においてpH12.0に調整)に50℃で3分間浸漬した後、塗膜の溶解、あるいは剥離の有無を目視で評価した。
○:外観に変化なし。
×:塗膜が溶解、あるいは剥離、白化する。
【0078】
ポリアミド樹脂としては、以下のP−1〜P−8を用いた。
【0079】
なお、P−1〜P−8製造時には、ダイマー酸原料として、築野食品工業社製「ツノダイム395(商品名)」(ダイマー酸を94質量%、モノマー酸を3質量%、トリマー酸を3質量%含有)を用いた。
【0080】
〔ポリアミド樹脂P−1〕
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分としてピペラジンを60モル%、エチレンジアミンを40モル%含有し、酸価が0.4mgKOH/g、アミン価15.0mgKOH/g、軟化点90℃、230℃における溶融粘度が3300mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0081】
〔ポリアミド樹脂P−2〕
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分としてピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が0.3mgKOH/g、アミン価15.5mgKOH/g、軟化点135℃、230℃における溶融粘度が4500mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0082】
〔ポリアミド樹脂P−3〕
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を80モル%、アゼライン酸を20モル%含有し、ジアミン成分としてピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が0.1mgKOH/g、アミン価15.0mgKOH/g、軟化点190℃、230℃における溶融粘度が5500mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0083】
〔ポリアミド樹脂P−4〕
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分としてピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が0.1mgKOH/g、アミン価29.0mgKOH/g、軟化点138℃、230℃における溶融粘度が3900mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0084】
〔ポリアミド樹脂P−5〕
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分としてピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が0.4mgKOH/g、アミン価48.0mgKOH/g、軟化点140℃、230℃における溶融粘度が3,800mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0085】
〔ポリアミド樹脂P−6〕
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分としてピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が0.2mgKOH/g、アミン価60.0mgKOH/g、軟化点133℃、230℃における溶融粘度が4400mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0086】
〔ポリアミド樹脂P−7〕
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を45モル%、アゼライン酸を55モル%含有し、ジアミン成分としてピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が0.2mgKOH/g、アミン価15.2mgKOH/g、軟化点130℃、230℃における溶融粘度が4000mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0087】
〔ポリアミド樹脂P−8〕
ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分としてピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価が0.2mgKOH/g、アミン価0.5mgKOH/g、軟化点135℃、230℃における溶融粘度が4200mPa・sであるポリアミド樹脂。
【0088】
(実施例1)
撹拌機及びヒーターを備えた密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、ポリアミド樹脂P−1を80g、酸性化合物として乳酸(和光純薬製)を1.9g(ポリアミド樹脂のアミン性基のモル数に対して1.0倍当量モル)、親水性有機溶媒としてNPAを80g、及び蒸留水を238g仕込んだ後、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を300rpmにして撹拌混合した。このとき、撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を120℃とし、さらに60分間撹拌した。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過し、乳白黄色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−1を得た。
【0089】
実施例1で得られた水性分散体の特性値及び評価結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
(実施例2)
ポリアミド樹脂として、P−2を80g、酸性化合物として乳酸を2.0g(ポリアミド樹脂のアミン性基のモル数に対して1.0倍当量モル)にする以外は実施例1と同様の方法により、乳白色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−2を得た。
【0092】
(実施例3)
1LナスフラスコにE−2を400g入れ、そこに水を120g添加し、95℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、NPA、水の混合媒体約120gを留去し、乳白色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−2−1を得た。
【0093】
(比較例1)
撹拌機及びヒーターを備えた密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、ポリアミド樹脂P−2を80g、酸性化合物としてギ酸(和光純薬製)を0.9g(ポリアミド樹脂のアミン性基のモル数に対して1.0倍当量モル)、親水性有機溶媒としてNPAを80g、及び蒸留水を239g仕込んだ後、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を300rpmにして撹拌混合した。このとき、撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を120℃とし、さらに60分間撹拌した。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過し、乳白黄色の均一なポリアミド樹脂水性分散体を得た。
【0094】
得られた水性分散体400gを1Lナスフラスコに入れ、そこに水を120g添加し、95℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、NPA、水の混合媒体約120gを留去したところ、樹脂の凝集物が発生した(これをE−2−2とする)。
【0095】
(実施例4)
撹拌機及びヒーターを備えた密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、ポリアミド樹脂P−3を70g、酸性化合物として乳酸(和光純薬製)を4.2g(ポリアミド樹脂のアミン性基のモル数に対して2.5倍当量モル)、親水性有機溶媒としてTHFを70g、及び蒸留水を206g仕込んだ後、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を300rpmにして撹拌混合した。このとき、撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を120℃とし、さらに60分間撹拌した。その後、その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過し、水性分散体を得た。
【0096】
得られた水性分散体350gを1Lナスフラスコに入れ、そこに水を105g添加し、95℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、THF、水の混合媒体約105gを留去し、乳白色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−3を得た。
【0097】
(実施例5)
ポリアミド樹脂として、P−4を80g、酸性化合物として乳酸を3.7g(ポリアミド樹脂のアミン性基のモル数に対して1.0倍当量モル)にする以外は実施例1と同様の方法により、乳白黄色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−4を得た。
【0098】
(実施例6)
ポリアミド樹脂として、P−5を80g、酸性化合物として乳酸を3.1g(ポリアミド樹脂のアミン性基のモル数に対して0.5倍当量モル)にする以外は実施例1と同様の方法により、乳白黄色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−5を得た。
【0099】
(実施例7)
ポリアミド樹脂として、P−6を80g、酸性化合物として乳酸を3.9g(ポリアミド樹脂のアミン性基のモル数に対して0.5倍当量モル)にする以外は実施例1と同様の方法により、乳白黄色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−6を得た。
【0100】
(比較例2)
ポリアミド樹脂として、P−7を80gにする以外は実施例1と同様の方法により、乳白色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−7を得た。
【0101】
(比較例3)
ポリアミド樹脂として、P−8を80g、酸性化合物として乳酸を1.3g(ポリアミド樹脂のアミン性基のモル数に対して20倍当量モル)にする以外は実施例1と同様の方法を試みたが、樹脂の塊が残り、良好なポリアミド樹脂水性分散体は得られなかった。
【0102】
表1に示すように、本発明の水性分散体(実施例1〜7)は、特定組成のダイマー酸系ポリアミド樹脂と乳酸を含むものであり、安定性に優れており、樹脂が微小粒子径に分散していることが確認できた。
【0103】
特に、実施例1〜3、実施例5、6で得られたポリアミド樹脂水性分散体は、pHが5〜7の弱酸性を示すものであった。
【0104】
また、実施例3、4では、水性分散体を調製する際に、一部の溶媒を揮発除去する工程を経たにもかかわらず良好な安定性の水性分散体を得ることができたのに対して、比較例1では、乳酸の代わりにギ酸を用いたことにより、95℃の加熱によってギ酸の一部が揮発したために、水性分散体の安定性が大きく低下したとみられる。
【0105】
実施例5〜7では、いずれも良好なポリアミド樹脂水性分散体が得られた。水性分散体を用いて形成したポリアミド樹脂塗膜の耐アルカリ性については、アミン価が60.0mgKOH/gである実施例7においてのみ、若干低下傾向がみられた。
【0106】
比較例2では、良好な水性分散体が得られたが、用いたポリアミド樹脂が、ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含まないため、柔軟性に劣る塗膜であった。
【0107】
比較例3では、ポリアミド樹脂のアミン価が1mgKOH/g以上ではないため、水性分散体を得ることができなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含み、アミン価が酸価より大きくかつ1mgKOH/g以上であるダイマー酸系ポリアミド樹脂と、乳酸と、水性媒体とを含有することを特徴とするポリアミド樹脂水性分散体。
【請求項2】
アミン価が5〜20mgKOH/gであるダイマー酸系ポリアミド樹脂からなる請求項1記載のポリアミド樹脂水性分散体。
【請求項3】
水性分散体中のポリアミド樹脂の数平均粒子径が0.5μm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂水性分散体。
【請求項4】
pHが5〜7であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂水性分散体。
【請求項5】
水性媒体が親水性有機溶剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂水性分散体。
【請求項6】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂と、乳酸と、水性媒体とを70〜280℃下で加熱攪拌することを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法。



【公開番号】特開2012−233082(P2012−233082A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102510(P2011−102510)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】