説明

水性分散体及びその製造方法

【課題】後に、良好な密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性を有するポリアミド樹脂塗膜を得ることのできる水性分散体であって、室温でも分散安定性に優れ、しかも酸性域であっても微小な粒子径を維持できるポリアミド樹脂水性分散体と、その製造方法とを提供すること。
【解決手段】ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含み、アミン価が酸価より大きくかつ1mgKOH/g以上であるダイマー酸系ポリアミド樹脂と、酸性化合物と、水性媒体とを含有し、前記ダイマー酸系ポリアミド樹脂の数平均粒子径が0.5μm未満であるポリアミド樹脂水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性領域で安定な分散性を示すポリアミド樹脂水性分散体に関するものであり、詳しくは、後に良好な密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性を有するポリアミド樹脂塗膜を得ることのできる水性分散体、並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主鎖にアミド結合を有するポリアミド樹脂は、主に、アジピン酸やセバシン酸などのジカルボン酸成分と、ヘキサメチレンジアミンやエチレンジアミンなどのジアミン成分を用いた脱水縮合反応によって得られる樹脂であり、食品包装用途や工業用途など幅広い分野で用いられている。
【0003】
ダイマー酸とは、炭素数36のジカルボン酸成分であり、オレイン酸やリノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られるものであり、植物由来の脂肪酸である。ダイマー酸を主成分とするジカルボン酸成分と各種ジアミン成分の縮合反応によって、ダイマー酸系ポリアミド樹脂を得ることができる。
【0004】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂は、一般に密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性に優れた樹脂であり、自動車部品やケーブルなど幅広い用途でのホットメルト接着剤や樹脂改質用の添加剤などに用いられている。また、ジカルボン酸成分、ジアミン成分、末端酸成分量、末端アミン成分量などによって、樹脂の軟化点やMFR、接着性や柔軟性などの特性を幅広く制御できることも特徴の一つである。
【0005】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂の特性を損なうことのなく溶液もしくは分散体を得ることができれば、例えば樹脂フィルムやシート、紙、金属などの表面に容易にダイマー酸系ポリアミド樹脂塗膜を形成し、良好な密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性を付与することができる。しかしながら、ダイマー酸系ポリアミド樹脂は、特にその酸価、アミン価が小さい樹脂、また軟化点の高い樹脂においてはアルコール類やトルエンなど各種溶媒への溶解性が劣り、安定した溶液を得ることが困難である。
【0006】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂水性分散体を得ようとする試みもある。例えば特許文献1において、酸価8以上のポリアミド樹脂を通常20質量%以上のアルキルアルカノールアミンを含む水系溶媒中に分散する方法が検討されている。そして、特許文献2〜5には、ダイマー酸系ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂の水性分散体を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭64−20261号公報
【特許文献2】特開平2−4862号公報
【特許文献3】特開平2−4863号公報
【特許文献4】特開2000−7787号公報
【特許文献5】特開2001−270987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1記載の方法により得られる水性分散体は、室温においてゲル化し、分散安定性に優れる水性分散体を得には至っていない。
【0009】
また、上記特許文献2〜5記載の方法では、いずれも乳化剤や界面活性剤を必須成分とすることから、塗膜にした際に、ポリアミド樹脂成分以外に乳化剤や界面活性剤が含有してしまい、これらが塗膜の特性、例えば本来ポリアミド樹脂が有する良好な接着性や耐薬品性などに悪影響を及ぼすという問題がある。また、加温下においては低粘度の分散体が得られるが、冷却することによって増粘が始まり、室温ではかなり増粘、ゲル化するという問題がある。
【0010】
さらに、室温で増粘せずに得られる水性分散体においても、分散体中の樹脂の平均粒子径は、最も小さいものでも0.5μmであり、いずれも、分散安定性に優れ緻密な塗膜を形成するのに十分な微小粒子径の水性分散体とはいえないものであった。
【0011】
そして、pHが7よりも大きいアニオン性水性分散体は、酸性域においては、樹脂粒子同士の凝集が発生し、安定な分散体形状を保持することができないという問題がある。つまり、酸性域でのみ安定な化合物、溶液、分散液などを、アニオン性水性分散体と混合し、塗剤として利用することは困難であった。
【0012】
本発明は上記のような問題点を解決するものであって、後に、良好な密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性を有するポリアミド樹脂塗膜を得ることのできる水性分散体であって、室温でも分散安定性に優れ、しかも酸性域であっても微小な粒子径を維持できるポリアミド樹脂水性分散体と、その製造方法とを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定組成のダイマー酸系ポリアミド樹脂を用いることで、水性媒体中で微小の粒子径に安定性よく分散できるだけでなく、酸性域においても安定で、しかもその安定性を維持したまま酸性の材料と混ぜ合わせることのできる水性分散体が得られることを見出し、さらに、このような水性分散体を、界面活性剤などの不揮発性水性化助剤あるいは高沸点の水性化助剤を用いずに得ること、並びにそのような水性分散体を効率よく得る手段などについても併せて見出し、本発明をなすに至った。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0015】
(1)ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含み、アミン価が酸価より大きくかつ1mgKOH/g以上であるダイマー酸系ポリアミド樹脂と、酸性化合物と、水性媒体とを含有し、前記ダイマー酸系ポリアミド樹脂の数平均粒子径が0.5μm未満であることを特徴とするポリアミド樹脂水性分散体。
(2)常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性分散化助剤を含有しないことを特徴とする上記(1)記載のポリアミド樹脂水性分散体。
(3)酸性化合物が有機酸であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のポリアミド樹脂水性分散体。
(4)pHが2〜6であることを特徴とする上記(1)〜(3)いずれかに記載のポリアミド樹脂水性分散体。
(5)ダイマー酸系ポリアミド樹脂と、酸性化合物と、水性媒体とを70〜280℃下で加熱攪拌することを特徴とする上記(1)〜(4)いずれかに記載のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法。
(6)水性媒体が親水性有機溶剤を含有するものであることを特徴とする上記(5)記載のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリアミド樹脂水性分散体では、微小粒子径のダイマー酸系ポリアミド樹脂が分散しており、室温でもゲル化し難く分散安定性に優れている。また、本発明の水性分散体は、酸性域においても安定性に優れており、酸性の材料と混合してもその安定性を維持することができる。
【0017】
そして、本発明の水性分散体を各種基材に塗布することにより、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の緻密な塗膜を得ることができ、得られる塗膜は、密着性、柔軟性、耐薬品性、耐熱接着性などに優れている。特に本発明では、乳化剤や界面活性剤を用いないで、目的の水性分散体を得ることもできるため、塗膜の密着性、耐薬品性などのさらなる向上が期待できる。
【0018】
さらに、本発明の製造方法によれば、上記の優れた水性分散体を、簡便な手段によりコストをかけず効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明のポリアミド樹脂水性分散体は、ダイマー酸を所定量含むと共に、アミン価が酸価より大きくかつアミン価が所定の範囲を満足するダイマー酸系ポリアミド樹脂が、水性媒体中に分散したものである。
【0021】
本発明における水性媒体とは、水、又は水と後述する有機溶剤との混合液をいう。
【0022】
本発明におけるダイマー酸系ポリアミド樹脂では、アミン価を酸価より大きくする必要がある。これは、アミン価が酸価よりも小さくなると、得られる水性分散体の酸性域における安定性が大幅に低下するからである。
【0023】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂のアミン価としては、1mgKOH/g以上である必要がある。アミン価が1mgKOH/g未満になると、水性分散体の安定性が大幅に低下する。アミン価の上限としては、特に限定されるものでないが、実用上50mgKOH/gまでとするのが好ましい。これは、50mgKOH/gを超えると、後に作製する塗膜の耐薬品性が低下する傾向にあるからである。さらに、実用面に加え本発明の効果などを考慮すると、アミン価としては、3〜25mgKOH/gであることが好ましく、5〜20mgKOH/gであることがより好ましい。
【0024】
一方、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の酸価としては、40mgKOH/g以下が好ましく、10mgKOH/g以下がより好ましく、2mgKOH/g以下がさらに好ましい。酸価が40mgKOH/gを超えると、後に作製する塗膜の耐薬品性が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0025】
なお、アミン価とは、樹脂1g中のアミン成分とモル当量となる水酸化カリウムのミリグラム数で表されるものである。一方、酸価とは、樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数で定義されるものである。いずれも、JIS K2501に記載の方法で測定される。
【0026】
本発明におけるダイマー酸系ポリアミド樹脂は、主鎖にアミド結合を有するものであり、主にダイマー酸を含むジカルボン酸成分とジアミン成分を用いた脱水縮合反応によって得られるものである。ダイマー酸とは、オレイン酸やリノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られるものであり、水素添加して不飽和度を低下させたものも含まれる。
【0027】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂として広く使用されているナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などの樹脂に比べて、大きな炭化水素グループを有するために柔軟性を有している。ダイマー酸としては、例えば市販されているハリダイマーシリーズ(ハリマ化成社製)、プリポールシリーズ(クローダジャパン社製)、ツノダイムシリーズ(築野食品工業社製)などを用いることができる。
【0028】
本発明では、ポリアミド樹脂を構成する全ジカルボン酸成分のうち、ダイマー酸の含有割合を50モル%以上にする必要があり、60モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。ダイマー酸の割合が50モル%未満になると、ダイマー酸系ポリアミド樹脂の特性や効果を奏することが困難となる。
【0029】
ダイマー酸以外の他のジカルボン酸成分としては、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ピメリン酸、スベリン酸、ノナンジカルボン酸、フマル酸などを用いることができる。他のジカルボン酸成分の含有割合としては、ジカルボン酸成分全体の50モル%未満とし、30モル%以下とすることが好ましい。これにより、樹脂の軟化点や接着性などの制御が容易となる。また、ダイマー酸製造時の副生物であるモノマー酸(単量体、炭素数18)やトリマー酸(三量体、炭素数54)、さらには炭素数20〜54などの他の重合脂肪酸なども、本発明におけるポリアミド樹脂を構成する一成分として用いてよく、その使用量としては、ダイマー酸の使用量に対し25質量%以下とすることが好ましい。
【0030】
また、ポリアミド樹脂を構成するジアミン成分としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、m−キシレンジアミン、フェニレンジアミン、ジエチレントリアミン、ピペラジンなどを用いることができ、中でもエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、m−キシレンジアミン、ピペラジンが好ましい。
【0031】
樹脂の重合度、酸価及びアミン価を所望の範囲とすることは、樹脂を重合する際のジカルボン酸成分とジアミン成分との仕込み比を調整するにより可能である。
【0032】
また、本発明におけるダイマー酸系ポリアミド樹脂の軟化点としては、70〜250℃が好ましく、80〜240℃がより好ましく、80〜200℃がさらに好ましい。軟化点が70℃未満になると、後に塗膜とした際、塗膜の強度が低くなる傾向にあり、さらに室温におけるタック感が高くなる傾向にあり、好ましくない。一方、250℃を超えると、樹脂を水性媒体中に分散させるのが困難となる傾向にあり、好ましくない。
【0033】
本発明の水性分散体には、上記のポリアミド樹脂以外にも、酸性化合物を含有させる必要がある。酸性化合物を含有することによって、ダイマー酸系ポリアミド樹脂に含まれるアミノ基の一部又は全てが中和され、カチオンが生成し、その電気的反発力によって、樹脂微粒子間の凝集が解れ、水性分散体に安定性が付与される。
【0034】
酸性化合物の酸解離定数(pKa)としては、8以下であることが好ましく、−9〜7がより好ましく、−5〜6がさらに好ましく、0〜5が特に好ましい。pKaが8を超えると、アミノ基が中和され難くなり、樹脂の分散化が困難となることがあり、好ましくない。pKaの下限については、特に限定こそされないものの、あまり小さくしすぎると、酸性化合物の腐食性が強くなり、水性分散化のための設備や水性分散体を利用するための設備などを傷めることがあり、好ましくない。
【0035】
さらに、酸性化合物は揮発性であることが好ましく、具体的には、沸点が20〜250℃であることが好ましく、30〜200℃がより好ましく、50〜150℃がさらに好ましく、50〜120℃が特に好ましい。酸性化合物が不揮発性、すなわち、沸点が250℃を超えると、塗膜となした後、その塗膜中に酸性化合物が少なからず残留し、塗膜の密着性、耐水性に悪影響を及ぼすことがあり、好ましくない。一方、酸性化合物の沸点が低すぎる、すなわち、20℃未満になると、水性分散体を調製する際に酸性化合物の多くが揮発してしまう結果、中和効率が低下することがあり、好ましくない。
【0036】
pKaが8以下である酸性化合物の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸などの有機酸、及び塩酸、硫酸、リン酸、硝酸などの無機酸があげられる。これらの中でも、比較的腐食性が低くかつアミノ基の中和に優れる有機酸が好ましく、中でもギ酸、酢酸が特に好ましい。
【0037】
本発明の水性分散体において、酸性化合物の含有量としては、ポリアミド樹脂のアミノ基のモル数に対して0.5〜5倍当量モルが好ましく、0.8〜3倍当量モルがより好ましく、1〜2.5倍当量モルがさらに好ましい。酸性化合物の含有量が0.5当量モル未満になると、安定した水性分散体を得ることが困難になる傾向にあり、一方、5当量モルを超えると、水性分散体が着色する、塗膜とするときの乾燥時間が長くなるなどの傾向があり、いずれも好ましくない。
【0038】
本発明の水性分散体では、ポリアミド樹脂中のアミノ基が酸性化合物で中和されており、酸性域で安定した形態を保つことができる。水性分散体のpHとしては、2〜6の範囲が好ましい。
【0039】
このように、本発明の水性分散体では、水性媒体中にダイマー酸系ポリアミド樹脂が安定して分散されており、ダイマー酸系ポリアミド樹脂粒子の数平均粒子径としては、0.5μm未満である必要があり、好ましくは0.4μm以下であり、より好ましくは0.2μm以下、最も好ましくは0.1μm以下である。水性分散体中においてダイマー酸系ポリアミド樹脂粒子の数平均粒子径が0.5μm以上になると、分散安定性及び希釈安定性が低下し、さらに塗膜にした際、緻密さに欠けてしまう。ポリアミド樹脂粒子の数平均粒子径は、動的光散乱法により測定される。具体的には、日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用いて測定する。
【0040】
また、本発明の水性分散体は、常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性化助剤を含有しないことが好ましい。常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性化助剤とは、乳化剤成分又は保護コロイド作用を有する化合物などを指す。つまり、本発明では、かかる水性化助剤を使用しなくても、樹脂の粒子径を微小なものとなし安定した水性分散体が得られるから、あえてこのような水性化助剤を使用する必要がないのである。ただ、かかる水性化助剤の使用により水性分散体の安定性が直ちに低減するというわけではないので、本発明ではこのような水性化助剤の使用を妨げるものでない。しかしながら、本発明の水性分散体は、水性化助剤を必須成分として使用する方法により得られたものとは明確に区別されるため、水性化助剤はできる限り使用しないことが好ましく、全く使用しないことが特に好ましい。ただし、本発明の水性分散体を得た後については、目的に応じて水性化助剤を積極的に使用してもよく、例えば、本発明の水性分散体を構成成分の一部とする塗剤を得るときなど、目的に応じて水性化助剤を添加してよいことはいうまでもない。
【0041】
ここで、乳化剤成分としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤又は両性乳化剤があげられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネートなどがあげられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やソルビタン誘導体などがあげられる。そして、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイドなどがあげられる。
【0042】
保護コロイドを有する化合物としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類及びその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などの不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマー及びその塩、ポリイタコン酸及びその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼインなど、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物などがあげられる。
【0043】
また、本発明の水性分散体中のポリアミド樹脂の含有量(固形分濃度)としては、使用目的や保存方法などにあわせて適宜選択でき、特に限定されないが、3〜40質量%であることが好ましく、中でも10〜35質量%であることが好ましい。水性分散体中のダイマー酸系ポリアミド樹脂の含有量が上記範囲より少ない場合は、乾燥工程によって塗膜を形成する際に時間を要することがあり、また厚い塗膜を得難くなる傾向にあり、好ましくない。一方、水性分散体中のダイマー酸系ポリアミド樹脂の含有量が上記範囲より多い場合は、分散体の保存安定性が低下しやすくなる傾向にあり、好ましくない。
【0044】
そして、本発明の水性分散体の粘度としては、特に限定されないが、室温でも低粘度であることが好ましい。具体的には、B型粘度計(トキメック社製、DVL−BII型デジタル粘度計)を用いて20℃下で測定した回転粘度として、100000mPa・s以下が好ましく、10000mPa・s以下がより好ましく、5000mPa・s以下がさらに好ましく、1000mPa・s以下が特に好ましい。水性分散体の粘度が100000mPa・sを超えると、基材に分散体を均一に塗布することが難しくなる傾向にあり、好ましくない。
【0045】
次に、本発明のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法について説明する。
【0046】
本発明の水性分散体を得るにあたっては、密閉可能な容器を用いることが好ましい。つまり、密閉可能な容器に各成分を仕込み、加熱、攪拌する手段が好ましく採用される。
具体的には、所定量のダイマー酸系ポリアミド樹脂と、酸性化合物と、水性媒体と容器に投入し、容器を密閉した後、好ましくは70〜280℃、より好ましくは100〜250℃の温度で、加熱撹拌する。加熱攪拌時の温度が70℃未満になると、ポリアミド樹脂の分散が進み難く、樹脂の数平均粒子径を0.5μm未満とすることが難しくなる傾向にあり、一方、280℃を超えると、ポリアミド樹脂の分子量が低下する恐れがあり、また、系の内圧が無視できない程度まで上がることもあり、いずれも好ましくない。
【0047】
加熱撹拌する際は、樹脂が水性媒体中に均一に分散されるまで毎分10〜1000回転で加熱撹拌することが好ましい。
【0048】
さらに、本発明の製造方法では、ポリアミド樹脂の粒子径をより小さくし、同時にポリアミド樹脂の水性媒体への分散をより促進する観点から、水性媒体として親水性有機溶剤を含むものを使用することが好ましい。親水性有機溶剤とは、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上の有機溶剤をいい、本発明では、中でも100g/L以上のものが好ましく、600g/L以上のものがより好ましく用いられ、特に水と任意の割合で溶解するものが最も好ましく用いられる。
【0049】
親水性有機溶剤の沸点としては、30〜250℃であることが好ましく、50〜200℃であることがより好ましい。沸点が30℃未満になると、水性分散体の調製中に親水性有機溶剤が揮発しやすくなり、結果、親水性有機溶剤を使用する意味が失われると共に、作業環境も悪化しやすくなるため、好ましくない。一方、250℃を超えると、水性分散体から親水性有機溶剤を除去することが困難となる傾向にあり、結果、後に塗膜となしたとき、塗膜に有機溶剤が残留し、塗膜の耐溶剤性などを低下させることがあるため、好ましくない。
【0050】
親水性有機溶剤の配合量としては、水性媒体全体に対し60質量%以下の割合で配合されるのが好ましく、1〜50質量%がより好ましく、2〜40質量%がさらに好ましく、3〜30質量%が特に好ましい。親水性有機溶剤の配合量が60質量%を超えると、水性化の促進効果がそれ以上期待できないばかりか、場合によっては水性分散体をゲル化させる傾向にあり、好ましくない。
【0051】
親水性有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルなどのエステル類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチルなどがあげられる。
【0052】
水性化の際に配合された有機溶媒や酸性化合物は、その一部をストリッピングと呼ばれる脱溶剤操作で、水性分散体から除くことができる。このようなストリッピングによって有機溶媒の含有量は必要に応じて0.1質量%以下まで低減することが可能である。有機溶媒の含有量が0.1質量%以下となっても、水性分散体の性能面での影響は特に確認されない。ストリッピングの方法としては、常圧又は減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶媒を留去する方法をあげることができる。この際、酸性化合物が完全に留去されないような温度、圧力を選択することが好ましい。また、水性媒体の一部が同時に留去されることにより、水性分散体中の樹脂固形分濃度が高くなるため、樹脂固形分濃度を適宜調整することが好ましい。
【0053】
水性化促進に効果的であり、上記脱溶剤操作が容易な親水性有機溶媒としては、例えば、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどがあり、本発明では、特にエタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフランなどが好ましく用いられる。
【0054】
また、本発明の製造方法において、親水性有機溶剤を含有する水性媒体中に、樹脂の分散を促進させる目的で、トルエンやシクロヘキサンなどの炭化水素系有機溶剤を、水性媒体を構成する成分の全体に対し、10質量%以下の範囲で配合してもよい。炭化水素系有機溶剤の配合量が10質量%を超えると、製造工程において水との分離が著しくなり、均一な水性分散体が得られない場合がある。
【0055】
本発明の水性分散体は、以上の方法により得ることができるが、各成分を加熱攪拌した後は、得られた水性分散体を必要に応じて室温まで冷却してもよい。無論、本発明の水性分散体は、かかる冷却過程を経ても何ら凝集することなく、安定性は当然維持される。
【0056】
本発明では、水性分散体を冷却した後、直ちにこれを払い出し、次なる使用に供しても基本的に何ら問題ない。しかしながら、容器内には異物や少量の未分散樹脂が稀に残っていることがあるため、水性分散体を払い出す前に、一旦濾過工程を設けることが好ましい。濾過工程としては、特に限定されないが、例えば、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(例えば空気圧0.5MPa)する手段が採用できる。
【0057】
本発明の水性分散体には、用途に応じて各種添加剤を配合してもよく、特に酸性の材料を配合しても良好な分散安定性を維持できる。
本発明の水性分散体は、主に積層体を得るときのコート剤として使用することができる。そこで、本発明の水性分散体を用いて積層体を得る方法について説明する。
積層体は、基本的に本発明の水性分散体を基材に塗布し、後に乾燥することにより得ることができる。
【0058】
本発明の水性分散体を基材に塗布する方法としては、公知の方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法などをあげることができる。これらの方法により水性分散体を基材の表面に均一に塗工することができる。
【0059】
水性分散体を塗布する基材としては、特に限定されないが、例えば、樹脂材料、ガラス材料、紙材料、金属材料などで形成されたものが好適である。基材の厚みとしても、特に限定されるものではないが、10〜1000μmが好ましく、10〜500μmがより好ましく、10〜200μmが特に好ましい。
【0060】
この場合、例えば、樹脂材料としては、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ(メタ)アクリルロニトリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、トリアセテートセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、再生セルロース系樹脂、ジアセチルセルロース系樹脂、アセテートブチレートセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノルボルネン系樹脂などがあげられる。樹脂材料は延伸処理されていてもよい。また、樹脂材料は、公知の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤などが含まれていてもよい。樹脂材料には、その他の材料と積層する場合の密着性などを考慮して、表面に前処理としてコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理などが施されていてもよい。また、シリカ、アルミナなどが蒸着されていてもよく、バリア層や易接着層、帯電止層、紫外線吸収層、接着層、離型層、反射防止層、ハードコート層、アンチグレア層などの他の層が積層されていてもよい。
【0061】
上記のように、本発明のポリアミド樹脂水性分散体を基材に塗布した後、乾燥熱処理することにより、水性媒体を除去することができ、緻密なダイマー酸系ポリアミド樹脂塗膜を基材に密着させて形成することができる。このとき、水性分散体中の酸性化合物が留去される条件で乾燥熱処理することにより、水性分散体中の酸性化合物をも除去することができる。
【0062】
基材に形成されるポリアミド樹脂塗膜の厚みとしては、特に限定されるものではないが、0.05〜20μmの範囲とすることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましい。0.05μm未満では、ポリアミド樹脂塗膜の特性が十分に発現されないことがあり、20μmを超えるとポリアミド樹脂塗膜の特性(効果)が飽和し、コスト的に不利となることがあるため、いずれも好ましくない。
【実施例】
【0063】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各種の値の測定及び評価は以下のように行った。
【0064】
(1)ポリアミド樹脂の特性値
〔酸価、アミン価〕
JIS K 2501に記載の方法により測定した。
〔軟化点温度〕
樹脂10mgをサンプルとし、顕微鏡用加熱(冷却)装置ヒートステージ(リンカム社製、Heating−Freezing ATAGE TH−600型)を備えた顕微鏡を用いて、昇温速度20℃/分の条件で測定を行い、樹脂が溶融した温度を軟化点とした。
〔溶融粘度〕
ブルックフィールド溶融粘度計DV−II+PRO型にて、樹脂温度200℃、ずり速度1.25/秒で測定した。溶融開始後、約25分間回転させ、粘度がほぼ経過時間で安定した時点での溶融粘度の値を読み取った。
【0065】
(2)水性分散体の固形分濃度
得られた水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
【0066】
(3)水性分散体の分散安定性
得られた水性分散体を室温で10日間静置し、水性分散体の外観を次の3段階で評価した。
○:外観に変化なし、△:分離、一部ゲル化あり、×:完全ゲル化、凝集物の発生あり
【0067】
(4)水性分散体のpH
pHメータ(堀場製作所社製、F−52)を用い、pHを測定した。
【0068】
(5)水性分散体の粘度
前記の方法で測定した。
【0069】
(6)水性分散体中のポリアミド樹脂の数平均粒子径
前記の方法で測定した。
【0070】
(7)密着性
基材として軟質塩化ビニルシートを用い、この基材の片面に、得られたポリアミド樹脂水性分散体を乾燥後の樹脂層の厚さが3μmになるようにワイヤーバーを用いて塗布し、120℃で1分間加熱乾燥処理をすることにより、ダイマー酸系ポリアミド樹脂塗膜を軟質塩化ビニルシートの表面に形成した。得られた積層体の塗膜について、JIS K5600に記載の方法に従い、クロスカット法によって、次の4段階で密着性を評価した。
◎:どの格子にも剥がれが見られない。
○:格子カットの縁に沿ってわずかに剥がれが見られる。全体の5%以下。
△:全体の5〜15%程度の剥がれが見られる。
×:全体の15%以上の剥がれが見られる。
【0071】
(8)酸性材料との混合安定性
ポリアミド樹脂水性分散体に、酸性の樹脂水性分散体を混合、攪拌した際の、凝集物の発生の有無を次の3段階で評価した。
○:凝集物なし、△:わずかに凝集物あり、×:凝集物あり
【0072】
(実施例1)
ポリアミド樹脂として、(P−1)を用いた。
【0073】
P−1:ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分として、ピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価0.3mgKOH/g、アミン価15.5mgKOH/g、軟化点135℃、230℃における溶融粘度4500mPa・s。
【0074】
P−1製造時には、ダイマー酸原料として、築野食品工業社製「ツノダイム395(商品名)」を用いた(ダイマー酸を94質量%、モノマー酸を3質量%、トリマー酸を3質量%含有)。
【0075】
撹拌機及びヒーターを備えた密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、上記P−1を75g、酸性化合物としてギ酸(和光純薬製、pKa=3.75)を1.9g(ポリアミド樹脂のアミノ基のモル数に対して2倍当量モル)、親水性有機溶媒としてテトラヒドロフラン(和光純薬製、以下THFと称することがある)を93.8g、及び蒸留水を204.3g仕込んだ後、容器を密閉し、撹拌翼の回転速度を300rpmにして撹拌混合した。このとき、撹拌によって容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでヒーターの電源を入れ、容器内温度を120℃とし、さらに60分間撹拌した。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、150gの蒸留水を追加した後、1Lナスフラスコに移し、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、THF及び水を合計して約150g留去(脱溶剤)した。その後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過し、褐色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−1を得た。
【0076】
(実施例2)
ギ酸1.9gに代えて酢酸(和光純薬製、pKa=4.76)2.5g(ポリアミド樹脂のアミノ基のモル数に対して2倍当量モル)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、乳白黄色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−2を得た。
【0077】
(比較例1)
ポリアミド樹脂として、(P−2)を用いた。
【0078】
P−2:ジカルボン酸成分として、ダイマー酸を90モル%、アゼライン酸を10モル%含有し、ジアミン成分として、ピペラジンを50モル%、エチレンジアミンを50モル%含有し、酸価10.0mgKOH/g、アミン価0.1mgKOH/g、軟化点135℃、230℃における溶融粘度4200mPa・s。
【0079】
P−2製造時には、ダイマー酸原料として、築野食品工業社製「ツノダイム395(商品名)」を用いた(ダイマー酸を94質量%、モノマー酸を3質量%、トリマー酸を3質量%含有)。
【0080】
以降、P−1に代えてP−2を用いる以外、実施例1と同様の方法にてポリアミド樹脂水性分散体を調製しようと試みた。しかし、樹脂塊が残り、水性分散体は得られなかった。
【0081】
(比較例2)
撹拌機及びヒーターを備えた密閉できる1リットルの耐圧ガラス容器に、P−2を75g、イソプロパノールを37.5g、THFを37.5g、N,N−ジメチルエタノールアミン(和光純薬社製)を7.5g、蒸留水を217.8g仕込んだ。そして、回転速度300rpmで撹拌しながら、系内を加熱し、120℃で60分間加熱攪拌した。その後、撹拌しながら室温付近(約30℃)まで冷却し、150gの蒸留水を追加した後、1Lナスフラスコに移し、80℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、IPA、THF及び水を合計して150gを留去(脱溶剤)した。続いて、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)でごくわずかに加圧しながらろ過し、乳白黄色の均一なポリアミド樹脂水性分散体E−3を得た。
【0082】
実施例1、2、比較例1、2で得られた水性分散体の特性値及び評価結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
(実施例3)
まず、酸性の材料として、カチオンタイプエステル型ウレタン樹脂水性分散体U−1(DIC社製「ハイドランCP7050(商品名)」)を用意した。U−1のpHは5.0、固形分濃度は25質量%であった。
【0085】
次に、E−1とU−1とを撹拌しながら混合した。このとき、E−1の樹脂固形分100質量部に対しU−1の樹脂固形分が10質量部となるよう混合した。
【0086】
(実施例4、比較例3)
E−1に代えてE−2(実施例4)、E−3(比較例3)をそれぞれ用いる以外は、実施例3と同様に行い、混合物を得た。
【0087】
(実施例5、6、比較例4)
U−1に代えてカチオンタイプアクリル樹脂水性分散体(大成ファインケミカル社製「UW−223XS(商品名)」、pH4.0、固形分濃度34質量%)を用いる以外、実施例3、4、比較例3と同様に行い、順次3種の混合物(実施例5、6、比較例4)を得た。
【0088】
以下、実施例3〜6、比較例3、4で得られた混合物の混合安定性を表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
表1に示すように、本発明の水性分散体(実施例1、2)は、特定組成のダイマー酸系ポリアミド樹脂を用いたものであり、安定性に優れており、樹脂が微小粒子径に分散していることが確認できた。また、界面活性剤などの不揮発性水性化助剤を使用せずに、目的とする水性分散体を得ることができた。さらに、得られた水性分散体は、酸性を示し、実施例3〜6に示すように、酸性の材料と混合しても良好な安定性を維持できるものであった。加えて、後に積層体となしときの塗膜の密着性も、優れるものであった。
【0091】
これに対し、比較例1では、樹脂のアミン価が酸価よりも小さく、酸性域での安定性が大幅に低下した結果、水性分散体となすことができなかった。比較例2では、水性分散体を得ることはできたものの、アルカリ性を示し、比較例3、4にあるように、酸性材料との混合安定性の面で問題があった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイマー酸をジカルボン酸成分全体の50モル%以上含み、アミン価が酸価より大きくかつ1mgKOH/g以上であるダイマー酸系ポリアミド樹脂と、酸性化合物と、水性媒体とを含有し、前記ダイマー酸系ポリアミド樹脂の数平均粒子径が0.5μm未満であることを特徴とするポリアミド樹脂水性分散体。
【請求項2】
常圧時の沸点が185℃以上もしくは不揮発性の水性分散化助剤を含有しないことを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂水性分散体。
【請求項3】
酸性化合物が有機酸であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリアミド樹脂水性分散体。
【請求項4】
pHが2〜6であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のポリアミド樹脂水性分散体。
【請求項5】
ダイマー酸系ポリアミド樹脂と、酸性化合物と、水性媒体とを70〜280℃下で加熱攪拌することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項6】
水性媒体が親水性有機溶剤を含有するものであることを特徴とする請求項5記載のポリアミド樹脂水性分散体の製造方法。


【公開番号】特開2012−31261(P2012−31261A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170774(P2010−170774)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】