説明

水性分散体及びそれを含有する化粧料

【課題】黒酸化鉄やカーボンブラックの代替として十分な機能を発揮することができ、化粧料に配合した際にも良好な特性を維持できるとともに、環境負荷を低減し人体への安全性の向上に有効な水性分散体とその水性分散体を含有する化粧料を提供する。
【解決手段】粉砕により平均粒子径が0.15〜0.7μmで、かつ最小粒子径が0.1μm以上にコントロールされるとともに、含有炭素量が95質量%以上の植物炭を15〜60質量%含有し、分散剤として、植物由来のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びセルロースガムから選ばれる1種以上を含有し、分散媒体として水を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色顔料として植物炭を含み、全ての成分が植物由来の原料にて構成された水性分散体と、この水性分散体を含有する化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、黒色顔料はファンデーション、アイシャドウ、マスカラ、ほほ紅などのメイクアップ化粧料に多く用いられてきており、使用される黒色顔料としては、黒酸化鉄やカーボンブラックが多い。しかしながら、黒酸化鉄、カーボンブラックはその磁性や凝集性により一般的には分散性が悪い顔料と考えられている。また、黒色顔料は、飛散した粉体による作業環境の悪化も懸念されるため、顔料分散性の改良とハンドリング性などの観点から、水性または油性媒体などに予め分散させた顔料分散体として用いられる。
【0003】
ここで、黒色顔料を顔料分散体として用いるためには、分散している顔料が長期間にわたり安定した分散性を示す必要がある。しかし、特に顔料粒子径が大きく高比重の黒酸化鉄の場合、これを安定して分散させることは極めて困難である。また、黒酸化鉄は顔料自体の黒色度が低いことや、粒子径が大きいために、アイライナーなどの低粘度化粧料では沈降してハードケーキを形成する可能性があり、ペン先の詰まりなども懸念される。
【0004】
一方、カーボンブラックの場合は、黒色度も高く粒子径も非常に微細なため、一般的には黒酸化鉄のような問題は生じにくい。しかし、近年、微粒子の人体に対する安全性の問題が指摘されており、代替顔料の要求は非常に大きくなってきている。
【0005】
このような問題を解決するために、特許文献1に見られるように黒色顔料としてチタンブラックを用いる方法が提案されている。しかし、チタンブラックは非常に高価であるため、安価な黒酸化鉄やカーボンブラックの代替としては適していない。また、特許文献1でも使用されている非イオン系界面活性剤には、皮膚刺激や目刺激を起こすものや生分解性が低いものもあるので、環境負荷や人体に対しての安全性の観点からは問題がある場合も存在する。
【0006】
特許文献2,3,4,5には黒色顔料として薬用炭などの植物炭を用いた例が開示されている。しかし、これらのものは粒子径が細か過ぎるため、安全性の面からは問題が残っている。また、濃度が低いため、黒酸化鉄やカーボンブラックの代替として使用するには多くの制限が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−231233号公報
【特許文献2】特開2001−48747号公報
【特許文献3】特開2007−126583号公報
【特許文献4】特開2006−8577号公報
【特許文献5】特開2006−22008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、黒酸化鉄やカーボンブラックの代替として十分な機能を発揮することができ、化粧料に配合した際にも良好な特性を維持できるとともに、環境負荷を低減し人体への安全性の向上に有効な水性分散体とその水性分散体を含有する化粧料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、黒色顔料として植物炭を含み、この植物炭の粒子径をコントロールすることで高い黒色度を示し、さらに他の全ての成分も植物由来の原料で構成することにより、使用者や環境に優しい水性分散体が得られることを見出した。また、本発明者らは、植物炭の高濃度化を行うことで、コスト面でもカーボンブラックや黒酸化鉄の代替として使用できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、第1発明による水性分散体は、
粉砕により平均粒子径が0.15〜0.7μmで、かつ最小粒子径が0.1μm以上にコントロールされるとともに、含有炭素量が95質量%以上の植物炭を15〜60質量%含有し、分散剤として、植物由来のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びセルロースガムから選ばれる1種以上を含有し、分散媒体として水を含有することを特徴とするものである。
【0011】
第1発明において、前記植物炭は、吸油量が100ml/g以下であるのが好ましい(第2発明)。
【0012】
第3発明による化粧料は、
前記第1発明又は第2発明の水性分散体を1〜95質量%含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、植物炭の平均粒子径が0.15μm〜0.7μmにコントロールされているので、黒酸化鉄よりも高く、カーボンブラック相当の黒色度を得ることができる。また、最小粒子径が0.1μm以上にコントロールされているので、微粒子の人体に対する安全性の問題を回避することができる。こうして、黒酸化鉄やカーボンブラックの代替として十分な機能を発揮することができる。また、この水性分散体を化粧料に配合した際にも良好な特性を維持できるとともに、環境負荷を低減し人体への安全性の向上に有効な化粧料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明による水性分散体及びそれを含有する化粧料の具体的な実施の形態について説明する。
【0015】
本発明で用いられる植物炭としては、備長炭、竹炭、梅炭、松炭、白樺炭、楓炭などの植物由来炭、及びやしがらなどから製造される活性炭などを用いることができるが、中でも炭素含有量が95%以上(強熱残渣が5%以下)のものを用いる必要がある。また、その用途が化粧料であることを考慮すると、日本国内では日本薬局方(薬用炭)に適合していること、また海外ではヨーロッパ規格E−153(Vegetable Carbon)に適合していることが望ましい。
【0016】
本発明で用いられる植物由来の分散剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステルとして、モノラウリン酸ポリグリセリル、モノミスリリン酸デカグリセリル、モノステアリン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、モノミリスチン酸ポリグリセリルなどが挙げられる。また、ショ糖脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸スクロース、パルチミン酸スクロース、ミリスチン酸スクロース、ラウリン酸スクロース、オレイン酸スクロースなどが挙げられる。ここで、分散溶媒との親和性より、分散剤のHLB値が12以上のものを使用することにより、顔料を効率良く分散溶媒中へ分散させることができる。さらに、セルロースガムとしては、カルボキシメチルセルロースナトリウムが挙げられるが、その粘度は2%溶液、25℃で300mPas以下の粘度が好ましく、より好ましくは20mPas以下の低粘度品である。これらの分散剤は、単独でも使用できるが、2種以上を併用して使用することもできる。また、これらの分散剤は、予め植物炭に表面処理して用いることもできる。
【0017】
本発明の分散体に配合される植物炭は、分散体中に15〜60質量%配合される。この配合量が60質量%を超えると、分散体の粘度が高くなり過ぎ、15質量%未満では、黒色度の不足やコスト高になる。また、植物炭の濃度を高めかつ低粘度分散体を得るためには、植物炭の吸油量が低いほうが好ましく、吸油量が100ml/g以下であると、20質量%以上の濃度でも分散体を低粘度に抑えることができる。
【0018】
分散剤は化粧料として1〜95質量%の間で自由に処方することができるが、好ましくは化粧料に対して10〜40質量%配合される。40質量%を超えると、粉体量が多すぎ化粧料の流動性が低くなり、逆に10質量%未満では黒色度が低すぎて使用できない。
【0019】
本発明の分散体は植物炭を粉砕して粒子径をコントロールすることを特徴としており、平均粒子径を0.15μm〜0.7μmにすることで黒酸化鉄よりも高く、カーボンブラック相当の黒色度を得ることができる。また、微粒子問題を回避するために、最小粒子径は0.1μm以上にコントロールされている必要がある。
【0020】
このような粒子径の粉砕には、静電気爆発などの安全性を考慮すると湿式粉砕処理が好ましく、より好ましくは湿式ビーズミルのようなメディアミルによる連続粉砕処理である。特にこの種の粉砕装置を使用し、循環時間を管理することで目的の粒度を持った水性分散体を得ることができる。
【実施例】
【0021】
次に、本発明による水性分散体及びそれを含有する化粧料の具体的な実施例をあげ、更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるのもではない。
【0022】
(実施例1)
植物炭として備長炭(吸油量62ml/100gラテスト社製)30質量%、モノステアリン酸ポリグリセリル10質量%、イオン交換水67質量%を加え、湿式ビーズミル(アシザワ・ファインテック社製 スターミルナノゲッターDMS−65)にて湿式粉砕処理した。粉砕はφ0.3mmジルコニアビーズにて、平均粒子径0.5μm、最小粒子径0.12μmまで実施した。粒度分布測定は、レーザー散乱式粒度分布測定器(Microtrac HRA:日機装)を用いて行った。
【0023】
(実施例2)
植物炭として竹炭(吸油量92ml/100gラテスト社製)25質量%、モノラウリン酸ポリグリセリル10質量%、イオン交換水65質量%を加え、実施例1と同様に湿式ビーズミルにて粉砕処理を行った。粉砕は平均粒子径0.65μm、最小粒子径0.15μmまで実施した。
【0024】
(実施例3)
植物炭として活性炭(吸油量180ml/100g NORIT社製)15質量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム(2%、25℃粘度5mPas以下)1質量%およびラウリン酸スクロース1質量%、イオン交換水83質量%を加え、実施例1と同様に湿式ビーズミルにて粉砕処理を行った。粉砕は平均粒子径0.68μm、最小粒子径0.16μmまで実施した。
【0025】
(比較例1)
前記実施例1と同様の水性分散体について、その平均粒度が1.0μm、最小粒子径が0.52μmまで湿式粉砕を実施することで、実施例1よりも粒子径が大きな水性分散体を得た。
【0026】
(比較例2)
植物炭の代わりに、黒酸化鉄(吸油量48ml/100gチタン工業社製)35質量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム2質量%、イオン交換水63質量%を加え、実施例1と同様に湿式分散処理を行った。黒酸化鉄の場合は、植物炭とは異なりビーズミルでもその粒子は粉砕することができず、凝集粒子の塊砕処理であった。その結果、粒度分布は平均粒子径0.72μm、最小粒子径0.43μmとなった。
【0027】
(比較例3)
比較例1の黒酸化鉄に代えてカーボンブラック(吸油量103ml/100g大東化成工業社製)25質量%、分散剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル8質量%、イオン交換水67質量%を加え、比較例1と同様に湿式分散処理を行った。粒度分布は、平均粒子径0.12μmで、最小粒子径は0.06μmとなった。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ショ糖脂肪酸エステルなどの植物由来分散剤では分散できなかったため、分散剤には通常のポリオキシエーテル系界面活性剤を使用した。
【0028】
上記のようにして得られた分散体について、分散体の平均粒度、最小粒度、粘度を測定し分散安定性を評価した。この結果を表1に示す。さらに、それぞれの水性分散体を黒色顔料濃度5質量%となるように配合し、アイライナーを作成した。アイライナーにした状態での分散安定性を評価し、色調について塗膜を作成して色差計にて測定したL*値にて黒色度を評価した。この評価結果を表2に示す。なお、全体的な色調としては、L*a*b*表色系の全てを考慮する必要があるが、相対的な黒色度の評価としては、L*値が低いほど黒色度は低くなると考えられる。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
上述のように、植物炭の粒子径をコントロールすることで、同じ植物炭(例えば、実施例1と比較例1)でも、化粧料にした場合の黒色度に差が生じ、平均粒子径が小さくなるほど黒色度も高くなる傾向を示した。この範囲の粒子径であれば、少なくとも黒酸化鉄と同等もしくはそれ以上の黒色度を示し、黒酸化鉄の代替として十分な機能を発揮することができる。
また、カーボンブラックでは、0.1μm以下の粒子が存在することで微粒子問題が懸念され、分散剤についても植物由来分散剤では通常濃度の水性分散体を得ることができなかった。
また、吸油量に関しては、実施例1及び実施例3を比較すると、吸油量の低い備長炭の方がより高濃度で充填することができ、コストや処方の自由度に関して優位にあることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の水性分散体は、高い黒色度を示し、黒酸化鉄やカーボンブラックの代替として十分な機能を発揮することができ、また、化粧料に配合した際にも良好な特性が維持され、完全植物由来の水性分散体として、環境負荷を低減し人体への安全性の向上に非常に有効であるので、各種の化粧料に適用してその実用的価値が大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕により平均粒子径が0.15〜0.7μmで、かつ最小粒子径が0.1μm以上にコントロールされるとともに、含有炭素量が95質量%以上の植物炭を15〜60質量%含有し、分散剤として、植物由来のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びセルロースガムから選ばれる1種以上を含有し、分散媒体として水を含有することを特徴とする水性分散体。
【請求項2】
前記植物炭は、吸油量が100ml/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の水性分散体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水性分散体を1〜95質量%含有することを特徴とする化粧料。

【公開番号】特開2012−240919(P2012−240919A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108962(P2011−108962)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(391015373)大東化成工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】