説明

水性分散液とその製造方法、および塗工物

【課題】塩素含有樹脂が用いられておらず、熱可塑性樹脂、特にスチレン系樹脂に対する付着性に優れ、耐水性および耐湿性が高い皮膜を形成できる水性分散液を提供する。
【解決手段】本発明の水性分散液は、エチレン含有率が63〜77質量%、質量平均分子量が20,000〜100,000であるエチレン酢酸ビニル共重合体(A)と、質量平均分子量が1,000〜10,000である酸変性ポリオレフィン(B)と、アニオン系乳化剤(C)と、水とを含有し、酸変性ポリオレフィン(B)の含有量が、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して5〜20質量部であり、アニオン系乳化剤(C)の含有量が、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して3〜20質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂用のプライマ、バインダ、接着剤などとして使用される水性分散液とその製造方法に関する。また、基材上に水性分散液が塗工されてなる塗工物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂等のプラスチックは、自動車、家電、建材など、多様な部材に使用されており、今後も増加傾向にあると予測されている。特に自動車においては、内装部品はもちろんのこと、最近ではエンジンルーム内の機能部品をはじめとして、エレクトロニクスシステム、燃料システム等にもプラスチックが使用されてきている。
一般に、プラスチックの成形品は、意匠性を高めるために塗装を施して使用される。その塗装には、乾燥性能、塗膜外観、付着性などに優れることから、溶剤系塗料が広く用いられていたが、近年、各種溶剤の環境汚染および人体に対する有害性の点から、水性塗料への代替が求められている。
しかし、水性塗料は、環境に対する影響は少ないものの、熱可塑性樹脂に対する付着性が低く、しかも得られる皮膜の耐水性および耐湿性も低かった。特に、熱可塑性樹脂がスチレン系樹脂を含む場合には顕著であった。
そこで、熱可塑性樹脂に対する付着性が高い水性塗料として、塩素化ポリオレフィンを含む水性塗料組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3738876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に記載の水性塗料組成物においても、ABS樹脂等のスチレン系樹脂に対する付着性は不充分であり、しかも得られる皮膜の耐水性および耐湿性も不充分であった。
また、特許文献1に記載の水性塗料組成物は、塩素化ポリオレフィンという塩素含有樹脂を主成分としており、廃棄物焼却時の塩素ガス発生やリサイクルの面で問題があった。そのため、塩素含有樹脂を含まない水性塗料組成物が求められていた。
本発明の目的は、塩素含有樹脂が用いられておらず、熱可塑性樹脂、特にスチレン系樹脂に対する付着性に優れ、耐水性および耐湿性が高い皮膜を形成できる水性分散液を提供することにある。また、そのような水性分散液を容易に製造できる水性分散液の製造方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、耐水性および耐湿性に優れた皮膜を有する塗工物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下の構成を包含する。
[1] エチレン含有率が63〜77質量%、質量平均分子量が20,000〜100,000であるエチレン酢酸ビニル共重合体(A)と、質量平均分子量が1,000〜10,000である酸変性ポリオレフィン(B)と、アニオン系乳化剤(C)と、水とを含有し、
酸変性ポリオレフィン(B)の含有量が、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して5〜20質量部であり、
アニオン系乳化剤(C)の含有量が、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して3〜20質量部であることを特徴とする水性分散液。
[2] 酸変性ポリオレフィン(B)が酸変性ポリエチレンであることを特徴とする[1]に記載の水性分散液。
[3] エチレン酢酸ビニル共重合体(A)と酸変性ポリオレフィン(B)とアニオン系乳化剤(C)とを溶融混練して溶融混練物を調製する工程と、該溶融混練物に水をエチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して2〜15質量部添加し、さらに溶融混練する工程とを有する水性分散液の製造方法であって、
エチレン酢酸ビニル共重合体(A)として、エチレン含有率が63〜77質量%、質量平均分子量が20,000〜100,000のものを使用し、酸変性ポリオレフィン(B)として、質量平均分子量が1,000〜10,000のものを使用し、
酸変性ポリオレフィン(B)の添加量を、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して5〜20質量部とし、
アニオン系乳化剤(C)の添加量を、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して3〜20質量部とすることを特徴とする水性分散液の製造方法。
[4] 水の代わりにアルカリ水溶液を溶融混練物に添加することを特徴とする[3]に記載の水性分散液の製造方法。
[5] アニオン系乳化剤(C)の代わりに有機酸を用いることを特徴とする[4]に記載の水性分散液の製造方法。
[6] [1]または[2]に記載の水性分散液を、ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(D)および硬質重合体(E)を含有する熱可塑性樹脂(F)からなる基材上に塗工してなることを特徴とする塗工物。
[7] 熱可塑性樹脂(F)は、芳香族ビニル系単量体単位を、該熱可塑性樹脂(F)100質量部に対して50〜70質量部含有することを特徴とする[6]に記載の塗工物。
[8] 熱可塑性樹脂(F)中の、ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(D)および硬質重合体(E)の合計量が40〜100質量部であることを特徴とする[6]または[7]に記載の塗工物。
【発明の効果】
【0005】
本発明の水性分散液は、塩素含有樹脂が用いられておらず、熱可塑性樹脂、特にスチレン系樹脂に対する付着性に優れ、耐水性および耐湿性が高い皮膜を形成できる。
本発明の水性分散液の製造方法によれば、上述した水性分散液を容易に製造できる。
本発明の塗工物は、耐水性および耐湿性に優れた皮膜を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(水性分散液)
本発明の水性分散液は、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)と酸変性ポリオレフィン(B)とアニオン系乳化剤(C)と水とを含有する。
【0007】
<エチレン酢酸ビニル共重合体(A)>
エチレン酢酸ビニル共重合体(A)は、エチレンと酢酸ビニルとを共重合して得られる共重合体である。ただし、一部の酢酸ビニル単位がケン化されていても構わない。
エチレン酢酸ビニル共重合体(A)のエチレン含有率は63〜77質量%であり、70〜74質量%であることが好ましい。エチレン酢酸ビニル共重合体(A)のエチレン含有率が77質量%を超えると、熱可塑性樹脂に対する付着性が低くなり、63質量%未満であると耐水性が低くなる。
エチレン酢酸ビニル共重合体(A)の質量平均分子量は20,000〜100,000であり、50,000〜70,000であることが好ましい。エチレン酢酸ビニル共重合体(A)の質量平均分子量が100,000を超えると熱可塑性樹脂に対する付着性が低くなる傾向にあり、20,000未満であると、実用的な皮膜を形成できないことがある。
エチレン酢酸ビニル共重合体(A)のX線結晶化度は25%以下(0%であっても構わない。)であることが好ましい。エチレン酢酸ビニル共重合体(A)のX線結晶化度が25%を超えると、該水性分散液から得られた皮膜にクラックが生じて付着性が低くなる傾向にある。
【0008】
<酸変性ポリオレフィン(B)>
酸変性ポリオレフィン(B)は、ポリオレフィンが不飽和カルボン酸によって酸変性されたものである。不飽和カルボン酸は塩を形成していても構わない。
酸変性ポリオレフィン(B)を構成するポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられ、具体的には、エチレンの単独重合体、プロピレンの単独重合体、エチレンとプロピレンとの共重合体、エチレンまたはプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体、エチレンまたはプロピレンとビニル化合物との共重合体等が挙げられる。
ポリオレフィンがエチレンまたはプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体である場合、他のα−オレフィンとしては炭素数4〜18のα−オレフィン、例えば、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等が挙げられる。
不飽和カルボン酸としては、不飽和ジカルボン酸が好ましい。
酸変性ポリオレフィンは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
酸変性ポリオレフィンのうち、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)と相溶性の高いものが水性分散液の小粒子径化に有効であることから、エチレンの単独重合体が酸変性された酸変性ポリエチレンが好ましい。
【0009】
酸変性ポリオレフィン(B)の質量平均分子量は1,000〜10,000であり、2,000〜4,000であることが好ましい。酸変性ポリオレフィンの質量平均分子量が1,000未満であっても、10,000を超えても、水性分散液の粒子径が増大し、付着性が低下する。
【0010】
酸変性ポリオレフィン(B)の量は、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して、5〜20質量部であり、7〜18質量部であることが好ましい。酸変性ポリオレフィン(B)の量が5質量部未満であると、あるいは、20質量部を超えると、安定な乳化物が得られず凝集物量が増加する。
【0011】
<アニオン系乳化剤(C)>
本発明におけるアニオン系乳化剤(C)は、有機酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)のことである。
アニオン系乳化剤(C)を構成する有機酸としては、例えば、第一級高級脂肪酸、第二級高級脂肪酸、第一級高級アルコール硫酸エステル、第二級高級アルコール硫酸エステル、第一級高級アルキルスルホン酸、第二級高級アルキルスルホン酸、高級アルキルジスルホン酸、スルホン化高級脂肪酸、高級脂肪酸硫酸エステル、高級脂肪酸エステルスルホン酸、高級アルコールエーテルの硫酸スルホン酸、高級アルコールエーテルのスルホン酸、高級脂肪酸アミドのアルキロール化硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルフェノールスルホン酸、アルキルナフタリンスルホン酸、アルキルベイゾイミダゾールスルホン酸などが挙げられる。
これらの有機酸の中で特に好適なものとしては、高級脂肪酸類、特に炭素数10〜20の飽和または不飽和の高級脂肪酸塩、特にアルカリ金属塩が挙げられ、具体的には、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、アラキン酸等の飽和脂肪酸、リンデン酸、ツズ酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
アニオン系乳化剤(C)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
アニオン系乳化剤(C)としては市販のものを使用してもよいし、有機酸を中和して得た有機酸のアルカリ金属塩を使用してもよい。
【0012】
水性分散液におけるアニオン系乳化剤(C)の含有量は、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して、3〜20質量部の範囲であり、5〜15質量部であることが好ましい。アニオン系乳化剤(C)の含有量が3質量部未満であっても、20質量部を超えても、安定な乳化物が得られず、凝集物量が多くなる。
【0013】
<その他の成分>
本発明の水性分散液は、必要に応じて、通常の水性分散液に使用することができる各種副資材、例えば、アニオン系乳化剤以外の乳化剤、分散剤、安定化剤、湿潤剤、起泡剤、凝固剤、ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、塩酸吸収剤、顔料、染料、核剤、ブロッキング防止剤、スリップ剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、充填剤、着色剤、付香剤、粘着防止剤、離型剤等が含まれてもよい。
また、本発明の水性分散液には、必要に応じて、水性アクリル系樹脂、水性ウレタン系樹脂、水性オレフィン系樹脂の群から選択される水性樹脂が含まれてもよい。これらの水性樹脂は公知の乳化技術により製造することができる。
【0014】
<水性分散液の性状>
本発明の水性分散液は、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)および酸変性ポリオレフィン(B)に由来する樹脂固形分が乳化して水中に分散している。
水性分散液における樹脂固形分の平均粒子径は0.01〜5μmであることが好ましく、0.1〜1μmであることがより好ましく、0.15〜0.4μmであることが特に好ましい。樹脂固形分の平均粒子径が0.01μm未満の水性分散液は容易に製造できないことがあり、また、熱可塑性樹脂に対する付着性が低下する傾向にある。樹脂固形分の平均粒子径が5μmを超えると水性分散液の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
本発明の水性分散液は、固形分濃度が25〜65質量%であることが好ましい。固形分濃度が25質量%未満であると、熱可塑性樹脂に対する付着性が低下して実用的ではなくなる傾向にあり、固形分濃度が65質量%を超えると、水性分散液の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0015】
本発明者らが調べた結果、上述した特定のエチレン酢酸ビニル共重合体と酸変性ポリオレフィンとを含有する水性分散液は、熱可塑性樹脂、特にABS樹脂等のスチレン系樹脂に対する付着性に優れることが判明した。また、上述した水性分散液によれば、耐水性および耐湿性が高い皮膜を形成できることが判明した。
また、上述した水性分散液は、塩素含有樹脂を用いていないので、廃棄物焼却時の塩素ガス発生やリサイクルの面で問題が生じにくい。
このような水性分散液は、熱可塑性樹脂、特に、スチレン系樹脂の接着または塗装する際に使用するプライマ、バインダ、接着剤などの用途に適している。
【0016】
(水性分散液の製造方法)
本発明の水性分散液の製造方法の一例について説明する。
本例の水性分散液の製造方法は、溶融混練手段により、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)と酸変性ポリオレフィン(B)とアニオン系乳化剤(C)とを溶融混練して溶融混練物を調製する工程(以下、溶融混練工程という。)と、該溶融混練物に水を添加し、さらに溶融混練して、転相させる工程(以下、転相工程という。)とを有する方法である。溶融混練工程と転相工程とは逐次的に行ってもよいし、同時に行ってもよい。
【0017】
溶融混練工程で用いる溶融混練手段としては、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、多軸スクリュー押出機などが挙げられる。
【0018】
溶融混練工程における酸変性ポリオレフィン(B)の添加量は、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して5〜20質量部であることが好ましく、7〜18質量部であることがより好ましい。酸変性ポリオレフィン(B)の添加量が5質量部未満であると、あるいは、20質量部を超えると、安定な乳化物が得られず凝集物量が増加する。
アニオン系乳化剤(C)の添加量は、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して3〜20質量部であることが好ましく、4〜13質量部であることがより好ましい。アニオン系乳化剤(C)の添加量が3質量部未満であっても、20質量部を超えても、安定な乳化物が得られず、凝集物量が多くなる。
【0019】
後述するように、転相工程にて、溶融混練物に、アルカリ性物質を水に溶解させたアルカリ水溶液を添加する場合には、アニオン系乳化剤(C)の代わりに有機酸を用いてもよい。有機酸はアルカリ性物質によってアニオン系乳化剤(C)を形成するからである。
有機酸としては、アニオン系乳化剤(C)を構成するものと同様のものが使用される。
【0020】
溶融混練工程では、溶融混練と同時に加熱することが好ましく、加熱温度としては140〜240℃であることが好ましい。加熱温度が140℃未満であっても、240℃を超えても、水性分散液を得ることが困難になる傾向にある。
【0021】
転相工程では、水と同時にアルカリ性物質を添加することが好ましい。アルカリ性物質としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア、およびアミン等の水中で塩基として作用する物質、アルカリ金属の酸化物、水酸化物、弱塩基、水素化物、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、弱塩基、水素化物等の水中で塩基として作用する物質、これらの金属のアルコキシド等が挙げられる。これらアルカリ性物質は、未中和の酸変性ポリオレフィンおよび中和してアニオン系乳化剤となる有機酸のケン化に使用される。
アルカリ性物質の添加量は、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)に対して0.4〜8質量部が好ましい。
水と同時にアルカリ性物質を添加する場合には、水の代わりに、アルカリ性物質を水に溶解させたアルカリ水溶液を添加すればよい。アルカリ水溶液を添加した場合には、より安定な水性分散液を製造できる。
【0022】
転相工程における水の添加量は、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して2〜15質量部であり、4〜13質量部であることが好ましい。水の添加量がエチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して2質量部未満であると、水性分散液の小粒子径化が困難であり、皮膜の耐水性、耐湿性を低下させ、20質量部を超えても同様に水性分散液の小粒子径化が困難となり、皮膜の耐水性、耐湿性を低下させる。
水の代わりに、アルカリ水溶液を添加する場合には、アルカリ水溶液の添加量が、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して2〜15質量部である。
【0023】
転相工程時でも、溶融混練工程と同様に、140〜240℃で加熱することが好ましい。加熱した場合、得られた水性分散液を自然冷却または強制冷却により室温程度にまで冷却することが好ましい。
【0024】
上述した溶融混練工程と転相工程とを有する製造方法によれば、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)および酸変性ポリオレフィン(B)に由来する樹脂固形分が水中に乳化分散した水性分散液を容易に製造できる。しかも、この製造方法によれば、安定性に優れた水性分散液が得られる。
【0025】
(塗工物)
本発明の塗工物は、上述した水性分散液を、ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(D)および硬質重合体(E)を含有する熱可塑性樹脂(F)からなる基材上に塗工してなるものである。
【0026】
基材上に水性分散液を塗工した後には、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)の融点よりも高い乾燥温度で乾燥することが好ましい。エチレン酢酸ビニル共重合体(A)の融点より高い温度で乾燥すれば、成膜性が向上し、付着性がより高くなる。
【0027】
<基材>
[ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(D)]
ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(D)は、ゴム質重合体に、芳香族ビニル系単量体を含む原料単量体をグラフト重合してなるものである。
ゴム質重合体としては、共役ジエン系重合体(例えば、ポリブタジエン、ブタジエンとブタジエン以外のビニル系単量体との共重合体等)、アクリルエステル系重合体(例えば、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステルとアクリル酸エステル以外のビニル系単量体との共重合体等)、エチレン−プロピレン又はブテン、好ましくはプロピレン−非共役ジエン共重合体、ポリオルガノシロキサン系重合体等が挙げられる。ここで、アクリル酸エステル重合体のアクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−メチルペンチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレートなどが挙げられる。エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体に含有されるジエンとしては、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,4−ヘプタジエン、1,5−シクロオクタジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、11−エチル−1,11−トリデカジエン、5−メチレン−2−ノルボルネンなどが挙げられる。
ゴム質重合体としては、これらのうちの1種を単独で、あるいは2種以上の複合ゴムとして用いることができる。
【0028】
ゴム質重合体にグラフト重合する原料単量体に含まれる芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられる。これらの中でも、スチレン系樹脂に対する付着性を高める場合には、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
また、原料単量体には、必要に応じて、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド化合物、不飽和カルボン酸等が含まれてもよい。
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリルニトリル等が挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルが挙げられる。
マレイミド化合物としては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。
これらは、それぞれ1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
[硬質重合体(E)]
硬質重合体(E)は、ガラス転移温度が40℃以上のものである。硬質重合体(E)の中でも、ABS樹脂に対する付着性を高くする場合には、芳香族ビニル系単量体と、シアン化ビニル系単量体との共重合体が好ましい。芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体としては、上述したものが挙げられる。
また、前記共重合体は、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体と共重合可能な他の不飽和単量体と他の単量体がさらに共重合したものであってもよい。他の単量体としては、例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド化合物、不飽和カルボン酸などが挙げられる。
【0030】
熱可塑性樹脂(F)には、他の熱可塑性樹脂が含まれても構わない。他の熱可塑性樹脂としては、ゴム含有芳香族ビニル系グラフト重合体(F)および硬質重合体(E)との相溶性に優れるポリカーボネートが好ましい。
【0031】
[熱可塑性樹脂(F)の配合]
熱可塑性樹脂(F)中の、ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(D)および硬質重合体(E)の合計量は40〜100質量部であることが好ましい。熱可塑性樹脂(F)中の、ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(D)および硬質重合体(E)の合計量が40質量部未満であると、水性分散液から得られる皮膜の付着性が低く、耐水性および耐湿性も低くなることがある。
熱可塑性樹脂(F)においては、芳香族ビニル系単量体単位を、該熱可塑性樹脂100質量部に対して50〜70質量部含有することが好ましく、55〜65質量部含有することがより好ましい。芳香族ビニル系単量体単位が50質量部未満であると、水性分散液から得られる皮膜の付着性が低く、耐水性および耐湿性も低くなることがあり、50質量部を超えると、水性分散液から得られる皮膜の付着性が低下する。
【0032】
[形状]
基材の形状としては特に制限されず、例えば、シート状であってもよいし、立体形状であってもよい。
【0033】
上述した塗工物は、上記水性分散液を基材上に塗工して得たものであるから、基材上に耐水性および耐湿性に優れる皮膜を有する。
【実施例】
【0034】
以下、製造例、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載において、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を意味する。
【0035】
以下の例において、
・エチレン酢酸ビニル共重合体のエチレン含有量は、JIS K7192に準拠し測定した。
・質量平均分子量は、GPC法により測定した。数値はポリスチレン換算である。
・エチレン酢酸ビニル共重合体の融点は、JIS K7121に準拠し測定した。
・エチレン酢酸ビニル共重合体のX線結晶化度は、X線回折装置(LabX XRD−6100 島津製作所製)で測定した。
・水性分散液中の樹脂固形分の平均粒子径は、Microtrac UPA(Mountech Co.Ltd)で測定した。
【0036】
(製造例1):水性分散液(X−1)の製造
エチレン含有率が72%、質量平均分子量が61,000、融点が62℃、X線結晶化度が15%であるエチレン酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックス EV210」)100部と、酸変性ポリオレフィンである質量平均分子量が2,700である無水マレイン酸変性ポリエチレン(三井化学(株)製「三井ハイワックス 2203A」、表中では、「酸変性ポリエチレンA」と表記する。)7部と、アニオン系乳化剤であるオレイン酸カリウム8部とを混合した。
次いで、得られた混合物を二軸スクリュー押出機(池貝鉄工(株)製「PCM−30型」、L/D=40)のホッパーより4kg/時間で供給し、溶融混練した。さらに水酸化カリウム9%水溶液を240g/時間で連続的に供給しながら、加熱温度160℃で溶融混練して、溶融体を得た。引き続き、該溶融体を二軸押出機先端に取り付けた冷却装置に連続的に供給し、90℃まで冷却した。
そして、冷却により得た固体を80℃の温水中に投入し、連続的に分散させて、樹脂固形分の平均粒子径が0.21μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−1)を得た。
【0037】
(製造例2):水性分散液(X−2)の製造
酸変性ポリオレフィンとして、質量平均分子量が3,000である無水マレイン酸変性ポリプロピレン(クラリアントジャパン(株)製「リコセンPP MA 6252」)7部を使用した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径が1.21μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−2)を得た。
【0038】
(製造例3):水性分散液(X−3)の製造
酸変性ポリオレフィンとして、質量平均分子量が1,500である無水マレイン酸変性ポリエチレン(三井化学(株)製「三井ハイワックス 1105A」、表中では、「酸変性ポリエチレンB」と表記する。)7部を使用した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径が0.53μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−3)を得た。
【0039】
(製造例4):水性分散液(X−4)の製造
水酸化カリウム水溶液を40g/時間で連続的に供給した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径が1.36μm、固形分濃度40%の水性分散液(X−4)を得た。
【0040】
(製造例5):水性分散液(X−5)の製造
水酸化カリウム水溶液を800g/時間で連続的に供給した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径が1.23μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−5)を得た。
【0041】
(製造例6):水性分散液(X−6)の製造
アニオン系乳化剤としてオレイン酸カリウムを4部使用した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径が1.38μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−6)を得た。
【0042】
(製造例7):水性分散液(X−7)の製造
アニオン系乳化剤としてオレイン酸カリウムを18部使用した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径が0.92μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−7)を得た。
【0043】
(製造例8):水性分散液(X−8)の製造
エチレン含有率が72%、質量平均分子量が61,000、融点が62℃、X線結晶化度が15%であるエチレン酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックス EV210」)100部と、酸変性ポリオレフィンとして質量平均分子量が2,700である無水マレイン酸変性ポリエチレン(三井化学(株)製「三井ハイワックス 2203A」)15部とを、80℃のトルエン300部に溶解した後、アニオン系乳化剤としてオレイン酸カリウム18部を添加して、完全に溶解させて、樹脂溶液を調製した。
次いで、80℃の水288部に上記樹脂溶液を加え、乳化した後にホモミキサーで攪拌した。その後、トルエンを減圧除去して、樹脂固形分の平均粒子径が3.21μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−8)を得た。
【0044】
(製造例9):水性分散液(X−9)の製造
エチレン酢酸ビニル共重合体として、エチレン含有率が72%、質量平均分子量が73,000、融点が65℃、X線結晶化度が15%であるエチレン酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックス EV220」)100部を使用した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径が0.29μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−9)を得た。
【0045】
(製造例10):水性分散液(X−10)の製造
エチレン酢酸ビニル共重合体として、エチレン含有率が67%、質量平均分子量が42,000、融点が61℃、X線結晶化度が10%であるエチレン酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックス V5772ET」)100部を使用した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径が0.45μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−10)を得た。
【0046】
(製造例11):水性分散液(X−11)の製造
エチレン酢酸ビニル共重合体として、エチレン含有率が75%、質量平均分子量が56,000、融点が66℃、X線結晶化度が18%であるエチレン酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックス EV310」)100部を使用した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径が0.25μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−11)を得た。
【0047】
(製造例12):水性分散液(X−12)の製造
エチレン酢酸ビニル共重合体として、エチレン含有率が72%、質量平均分子量が53,000、融点が73℃、X線結晶化度が23%であるエチレン酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックス EV210ET」)100部を使用した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径0.23μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−12)を得た。
【0048】
(製造例13):水性分散液(X−13)
酸変性ポリオレフィンとして、質量平均分子量が16,000である酸変性ポリエチレン(三洋化成工業(株)製「ユーメックス2000」、表中では、「酸変性ポリエチレンC」と表記する。)7部を使用した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径が5.32μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−13)を得た。
【0049】
(製造例14):水性分散液(X−14)の製造
酸変性ポリオレフィンとして、質量平均分子量が428であるモンタン酸(クラリアント(株)製「Licowax S」)7部を使用した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径が1.80μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−14)を得た。
【0050】
(製造例15)
酸変性ポリオレフィンとして、酸変性ポリエチレンA3部を使用した以外は製造例1と同様に実施し、取り出した固体を80℃の温水中に投入したが、水性分散液は得られなかった。
【0051】
(製造例16)
酸変性ポリオレフィンとして、酸変性ポリエチレンA25部を使用した以外は製造例1と同様に実施し、取り出した固体を80℃の温水中に投入したが、水性分散液は得られなかった。
【0052】
(製造例17)
アニオン系乳化剤として、オレイン酸カリウム2部を使用した以外は製造例1と同様に実施し、取り出した固体を80℃の温水中に投入したが、水性分散液は得られなかった。
【0053】
(製造例18)
アニオン系乳化剤として、オレイン酸カリウム25部を使用した以外は製造例1と同様に実施し、取り出した固体を80℃の温水中に投入したが、水性分散液は得られなかった。
【0054】
(製造例19):水性分散液(X−15)
エチレン酢酸ビニル共重合体として、エチレン含有率が81%、質量平均分子量が56,000、融点が75℃、X線結晶化度が28%であるエチレン酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックス EV410」)100部を使用した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径が0.19μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−15)を得た。
【0055】
(製造例20):水性分散液(X−16)
エチレン酢酸ビニル共重合体として、エチレン含有率が59%、質量平均分子量が90,000、融点が40℃、X線結晶化度が0%であるエチレン酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックス EV40W・Y」)100部を使用した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径0.72μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−16)を得た。
【0056】
(製造例21):水性分散液(X−17)
エチレン酢酸ビニル共重合体として、エチレン含有率が72%、質量平均分子量が128,000、融点が72℃、X線結晶化度が15%であるエチレン酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックス EV260」)100部を使用した以外は製造例1と同様に実施して、樹脂固形分の平均粒子径が0.32μm、固形分濃度が40%の水性分散液(X−17)を得た。
【0057】
製造例1〜21の水性分散液の配合、平均粒子径については、表1,2にまとめて示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
(実施例1)
下記熱可塑性樹脂(Fa)〜(Ff)のシート(100mm×100mm、2mm厚)に、各々、バーコーターにより乾燥膜厚が20μmになるように水性分散液(X−1)を塗工し、70℃、30分間乾燥して、塗工物を得た。
熱可塑性樹脂(Fa):ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(ポリブタジエン成分55%、アクリロニトリル単位10%、スチレン成分35%)40部と、アクリロニトリル−スチレン共重合体からなる硬質重合体(アクリロニトリル単位23%、スチレン単位77%)60部とを含有する組成物。
熱可塑性樹脂(Fb):ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(ポリブタジエン成分55%、アクリロニトリル単位17%、スチレン成分28%)40部と、アクリロニトリル−スチレン共重合体からなる硬質重合体(アクリロニトリル単位40%、スチレン単位60%)60部とを含有する組成物。
熱可塑性樹脂(Fc):ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(ポリブタジエン成分45%、アクリロニトリル単位5%、スチレン成分50%)40部と、アクリロニトリル−スチレン共重合体からなる硬質重合体(アクリロニトリル単位5%、スチレン単位95%)60部とを含有する組成物。
熱可塑性樹脂(Fd):ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(ポリブタジエン成分55%、アクリロニトリル単位10%、スチレン成分35%)25部と、アクリロニトリル−スチレン−α−メチルスチレン−N−フェニルマレイミド共重合体からなる硬質重合体(アクリロニトリル単位29%、スチレン単位25%、α−メチルスチレン単位36%、N−フェニルマレイミド単位10%)75部とを含有する組成物。
熱可塑性樹脂(Fe):ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(ポリブタジエン成分55%、アクリロニトリル単位10%、スチレン成分35%)20部と、アクリロニトリル−スチレン共重合体からなる硬質重合体(アクリロニトリル単位23%、スチレン単位77%)30部と、ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロンS−2000R」)50部とを含有する組成物。
熱可塑性樹脂(Ff):ポリプロピレン(プライムポリマー製「J715M」)。
【0061】
(実施例2)
水性分散液(X−1)塗工後の乾燥条件を80℃、30分間としたこと以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0062】
(実施例3)
水性分散液として水性分散液(X−2)を使用した以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0063】
(実施例4)
水性分散液として水性分散液(X−3)を使用した以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0064】
(実施例5)
水性分散液として水性分散液(X−4)を使用した以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0065】
(実施例6)
水性分散液として水性分散液(X−5)を使用した以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0066】
(実施例7)
水性分散液として水性分散液(X−6)を使用した以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0067】
(実施例8)
水性分散液として水性分散液(X−7)を使用した以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0068】
(実施例9)
水性分散液として水性分散液(X−8)を使用した以外は実施例1と同様に実施して、各種塗工物を得た。
【0069】
(実施例10)
水性分散液として水性分散液(X−9)を使用した以外は実施例1と同様に実施し各種塗工物を得た。
【0070】
(実施例11)
水性分散液として水性分散液(X−10)を使用した以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0071】
(実施例12)
水性分散液として水性分散液(X−11)を使用した以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0072】
(実施例13)
水性分散液として水性分散液(X−12)を使用した以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0073】
(実施例14)
水性分散液(X−1)を水性分散液(X−12)に変更し、水性分散液(X−12)塗工後の乾燥条件を80℃、30分間とした以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0074】
(比較例1)
水性分散液として水性分散液(X−13)を使用した以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0075】
(比較例2)
水性分散液として水性分散液(X−14)を使用した以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0076】
(比較例3)
水性分散液として水性分散液(X−15)を使用した以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0077】
(比較例4)
水性分散液(X−1)を水性分散液(X−15)に変更し、水性分散液(X−15)塗工後の乾燥条件を80℃、30分間とした以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0078】
(比較例5)
水性分散液として水性分散液(X−16)を使用した以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0079】
(比較例6)
水性分散液として水性分散液(X−17)を使用した以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0080】
(比較例7)
水性分散液(X−1)を水性分散液(X−17)に変更し、水性分散液(X−17)塗工後の乾燥条件を80℃、30分間とした以外は実施例1と同様に実施して各種塗工物を得た。
【0081】
(比較例8)
水性分散液として、水系塩素化ポリオレフィン分散液(日本製紙ケミカル(株)製「スーパークロンE723」を使用した以外は実施例1と同様にして、各種塗工物を得た。
【0082】
得られた塗工物について以下のようにして付着性、耐湿性、耐水性を評価した。これらの結果を表3〜5に示す。
・付着性試験
得られた塗工物の塗膜表面にカッターで基材に達する切れ目を入れて2mm間隔で100個の碁盤目を形成しその上に粘着テープを密着させた後、180度方向に引き剥がした。その後残存した碁盤目の数を数えた。残存数が多いほど付着性に優れる。
・耐湿性試験
得られた塗工物をプログラム恒温恒湿槽中にて、相対湿度95%、50℃の条件下で10日静置した。その後、塗膜を十分に乾燥して上記の付着性試験と同様の方法で評価した。
・耐水性試験
得られた塗工物をウォーターバス中にて、40℃水中の条件下で10日浸漬した。その後、塗膜を十分に乾燥し上記の付着性試験と同様の方法で評価した。
【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
【表5】

【0086】
特定のエチレン酢酸ビニル共重合体(A)と酸変性ポリオレフィン(B)とアニオン系乳化剤(C)とを特定量含有する実施例1〜14の水性分散液では、ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(D)および硬質重合体を含有する熱可塑性樹脂に対する付着性に優れていた。しかし、熱可塑性樹脂がポリプロピレンの場合には、付着性が低かった。
また、実施例1〜14の水性分散液は、得られた皮膜の耐水性および耐湿性に優れていた。
【0087】
酸変性ポリオレフィン(B)を含有しない比較例1の水性分散液、酸変性ポリオレフィンの質量平均分子量が特定範囲を超える比較例2の水性分散液、アニオン系乳化剤(C)の含有量が特定の範囲にない比較例3,4の水性分散液、エチレン酢酸ビニル共重合体のエチレン含有率が特定の範囲にない比較例5,6の水性分散液、エチレン酢酸ビニル共重合体の質量平均分子量が特定範囲を超える比較例7の水性分散液、塩素化ポリオレフィンの分散液の比較例8の水性分散液では、熱可塑性樹脂に対する付着性が低く、しかも得られた皮膜の耐水性および耐湿性が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン含有率が63〜77質量%、質量平均分子量が20,000〜100,000であるエチレン酢酸ビニル共重合体(A)と、質量平均分子量が1,000〜10,000である酸変性ポリオレフィン(B)と、アニオン系乳化剤(C)と、水とを含有し、
酸変性ポリオレフィン(B)の含有量が、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して5〜20質量部であり、
アニオン系乳化剤(C)の含有量が、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して3〜20質量部であることを特徴とする水性分散液。
【請求項2】
酸変性ポリオレフィン(B)が酸変性ポリエチレンであることを特徴とする請求項1に記載の水性分散液。
【請求項3】
エチレン酢酸ビニル共重合体(A)と酸変性ポリオレフィン(B)とアニオン系乳化剤(C)とを溶融混練して溶融混練物を調製する工程と、該溶融混練物に水をエチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して2〜15質量部添加し、さらに溶融混練する工程とを有する水性分散液の製造方法であって、
エチレン酢酸ビニル共重合体(A)として、エチレン含有率が63〜77質量%、質量平均分子量が20,000〜100,000のものを使用し、酸変性ポリオレフィン(B)として、質量平均分子量が1,000〜10,000のものを使用し、
酸変性ポリオレフィン(B)の添加量を、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して5〜20質量部とし、
アニオン系乳化剤(C)の添加量を、エチレン酢酸ビニル共重合体(A)100質量部に対して3〜20質量部とすることを特徴とする水性分散液の製造方法。
【請求項4】
水の代わりにアルカリ水溶液を溶融混練物に添加することを特徴とする請求項3に記載の水性分散液の製造方法。
【請求項5】
アニオン系乳化剤(C)の代わりに有機酸を用いることを特徴とする請求項4に記載の水性分散液の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の水性分散液を、ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(D)および硬質重合体(E)を含有する熱可塑性樹脂(F)からなる基材上に塗工してなることを特徴とする塗工物。
【請求項7】
熱可塑性樹脂(F)は、芳香族ビニル系単量体単位を、該熱可塑性樹脂(F)100質量部に対して50〜70質量部含有することを特徴とする請求項6に記載の塗工物。
【請求項8】
熱可塑性樹脂(F)中の、ゴム含有芳香族ビニル系グラフト共重合体(D)および硬質重合体(E)の合計量が40〜100質量部であることを特徴とする請求項6または7に記載の塗工物。

【公開番号】特開2008−156397(P2008−156397A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343954(P2006−343954)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】