説明

水性分散液及びその製造方法

【課題】高濃度であっても粒子の分散性が高く、かつ長期保存しても沈殿の生成が生じづらい安定性の高く、更に透明性の高い水性分散液を提供すること。
【解決手段】本発明の水性分散液は、BET比表面積が10〜200m2/gである希土類リン酸塩からなる粒子を含む。該粒子の最大粒径Dmaxが100nm以下であり、該水性分散液のpHが1以上5未満であり、該粒子の濃度が5〜50質量%である。また該水性分散液のpHは9.1以上14以下であってもよい。この水性分散液は、可視光の波長領域における透過率が、光路長1cmのセルを用いて測定したとき50%以上であることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類リン酸塩からなる粒子を含む水性分散液及びその製造方法に関する。本発明の水性分散液は、これを塗膜にして乾燥させることで、各種光学材料に有用な薄膜を形成するための原料として好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
希土類リン酸塩は、可視光の波長領域を含む紫外光から赤外光の波長領域において屈折率及びアッベ数が高い材料であることが知られている。これらの特性を生かし、希土類リン酸塩は光学材料として種々の分野で利用されている。
【0003】
希土類リン酸塩の水分散液に関する従来技術としては、例えば特許文献1及び2に記載の技術が知られている。特許文献1には、LaPO4等の希土類元素のリン酸塩の等方性粒子の水性コロイド分散体が記載されている。このコロイド分散体は、2.5以上のpKを有する錯化剤や、2.5〜5の範囲のpKaを有する水に可溶な一塩基酸の陰イオンを含有している。また特許文献2には、LaPO4等の希土類のリン酸塩と、少なくとも2.5のpKaを有する水溶性の一塩基性酸の陰イオンとを含むコロイド分散液が記載されている。このリン酸塩は針状等の異方性のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−515433号公報
【特許文献2】特表2004−525051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載の水分散液は、それに含まれる希土類リン酸塩の固形分濃度が高々数パーセントいう低濃度のものである。したがって、かかる水分散液の塗布によって薄膜を製造する場合、ある程度の厚みを有する薄膜を形成するためには、該水分散液の塗布を複数回行う必要があり、製造に手間がかかる。
【0006】
したがって本発明の課題は、光学材料分野に有用な薄膜などを容易に形成することができる水性分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、BET比表面積が10〜200m2/gである希土類リン酸塩からなる粒子を含む水性分散液であって、該粒子の最大粒径Dmaxが100nm以下であり、該水性分散液のpHが1以上5未満であり、該粒子の濃度が5〜50質量%である水性分散液を提供することで前記の課題を解決したものである。
【0008】
また本発明は、前記の水性分散液の好適な製造方法として、
BET比表面積が10〜200m2/gである希土類リン酸塩からなる粒子を水性媒体に分散させるとともに、pHを1以上5未満に調整することを特徴とする水性分散液の製造方法を提供するものである。
【0009】
また本発明は、BET比表面積が10〜200m2/gである希土類リン酸塩からなる粒子を含む水性分散液であって、該粒子の最大粒径Dmaxが100nm以下であり、該水性分散液のpHが9.1以上14以下であり、該粒子の濃度が5〜50質量%である水性分散液を提供することで前記の課題を解決したものである。
【0010】
また本発明は、前記の水性分散液の好適な製造方法であって、
BET比表面積が10〜200m2/gである希土類リン酸塩からなる粒子を水性媒体に分散させるとともに、pHを9.1以上14以下に調整することを特徴とする水性分散液の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性分散液は、高濃度であっても粒子の分散性が高く、かつ長期保存しても沈殿の生成が生じづらい安定性の高いものであり、更に透明性の高いものでもある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例1〜5及び比較例1で得られたリン酸ルテチウム粒子のXRD回折図である。
【図2】図2(a)〜(e)はそれぞれ、実施例1〜5で得られたリン酸ルテチウム粒子の反射率を示す図である。
【図3】図3は、実施例1の水性分散液についての可視光の透過曲線を示す図である。
【図4】図4は、実施例6の水性分散液についての可視光の透過曲線を示す図である。
【図5】図5は、実施例7の水性分散液についての可視光の透過曲線を示す図である。
【図6】図6は、実施例9ないし12で得られた希土類リン酸塩粒子のXRD回折図である。
【図7】図7は、実施例9で得られたリン酸イッテルビウム粒子の反射率を示す図である。
【図8】図8は、実施例10で得られたリン酸イットリウム粒子の反射率を示す図である。
【図9】図9は、実施例11で得られたリン酸ガドリニウム粒子の反射率を示す図である。
【図10】図10は、実施例12で得られたリン酸ランタン粒子の反射率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の水性分散液は、水を媒体とし、分散質としてLnPO4(Lnは希土類元素を表す。以下「Ln」というときには、この意味で用いられる。)で表される希土類リン酸塩からなる粒子が含まれているものである。希土類リン酸塩は一般に高屈折率でかつ高アッベ数を有する材料なので、かかる材料を含む本発明の水分散液は、光学レンズ等の光学材料を製造するための原料として好適なものである。本発明の水性分散液は、希土類リン酸塩を1種含むものであってもよく、必要に応じ2種以上含むものであってもよい。なお、本明細書にいうリン酸塩とはオルトリン酸塩のことである。オルトリン酸塩には正塩、リン酸水素塩及びリン酸二水素塩が知られているところ、本発明で用いられる希土類リン酸塩はオルトリン酸の正塩である。
【0014】
LnPO4で表される希土類リン酸塩における希土類元素には、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuがある。これらのうち、リン酸塩の屈折率及びアッベ数が特に高いことから、Y、La、Gd、Yb及びLuから選択される希土類元素を用いることが好ましい。
【0015】
本発明で用いる希土類リン酸塩は、結晶性のものであってもよく、あるいはアモルファス(非晶質)のものであってもよい。希土類リン酸塩が結晶性のものである場合、その結晶系としては正方晶又は単斜晶であることが光学的な特性が有利になる点から好ましい。
【0016】
希土類元素のリン酸塩については、ゼノタイム構造、モナザイト構造及びラブドフェーン構造の結晶構造が知られている。一般にリン酸塩中に主としてLu、Yb又はYなどが含まれる場合、そのリン酸塩は正方晶のゼノタイム構造を取り、主としてGd又はLaなどが含まれる場合、単斜晶のモナザイト構造を取る。また、希土類元素のリン酸塩が水和物である場合には、六方晶のラブドフェーン構造を取る。希土類元素のリン酸塩を光学レンズに応用する場合、高屈折率であることが重要となることが多いところ、ラブドフェーン構造は水分子を含む影響で他の結晶構造と比較して屈折率が低いなど光学的な特性が不利になることが考えられる。更に水和物である場合、経時安定性に問題がある可能性がある。このような理由から希土類元素のリン酸塩は、その結晶構造が正方晶又は単斜晶であることが好ましい。また希土類元素のリン酸塩は、これらの結晶構造を取る代わりにアモルファスであってもよい。
【0017】
本発明の水性分散液は、上述の希土類リン酸塩を含むものであることに加え、該希土類リン酸塩の濃度が高いものであることによっても特徴付けられる。後述するように、本発明で用いる希土類リン酸塩粒子は微粒のものなので、そのような微粒の粒子を高濃度で高分散させることは容易でないところ、本発明者は、希土類リン酸塩粒子として特定のBET比表面積を有するものを用いることで、意外にも微粒の希土類リン酸塩粒子を高濃度で高分散させることが可能であることを見いだした。詳細には、本発明においては、希土類リン酸塩粒子としてBET比表面積が10〜200m2/gであるものを用いている。この範囲内のBET比表面積を有する希土類リン酸塩粒子を用いることで、該粒子が微粒であっても該粒子を高濃度で安定的に高分散させることができる。特に、希土類リン酸塩粒子のBET比表面積が好ましくは20〜200m2/g、更に好ましくは20〜180m2/g、更に一層好ましくは30〜180m2/gであると、該粒子を一層高濃度で一層安定的に高分散させることができる。
【0018】
本発明において前記のBET比表面積は、例えば島津製作所社製の「フローソーブ2300」を用い、N2吸着法で測定することができる。測定粉末の量は0.3gとし、予備脱気条件は大気圧下、120℃で10分間とした。なお、水中に分散している状態の希土類リン酸塩粒子のBET比表面積を測定することはできないので、本発明においては、水分散液から分散媒を除去した後に残留する希土類リン酸塩粒子を測定対象としてBET比表面積を測定している。また、本発明の水分散液を調製するために用いられる原料の希土類リン酸塩粒子のBET比表面積と、水分散液から分散媒を除去した後に残留する希土類リン酸塩粒子のBET比表面積とは実質的に同じであることを、本発明者は確認している。
【0019】
上述のBET比表面積を有する希土類リン酸塩粒子を用いることで、本発明の水分散液は、該粒子の濃度が5〜50質量%という高濃度のものとなる。好ましい濃度は5〜40質量%であり、更に好ましい濃度は5〜30質量%であり、一層好ましい濃度は5〜20質量%であり、更に一層好ましい濃度は7〜15質量%である。かかる高濃度の水分散液は、該水分散液の塗布によって例えば光学レンズを製造する場合に、塗布の回数を少なくしても所望の厚みを有する薄膜を形成できる点から有利である。
【0020】
後述するとおり、本発明の水性分散液は透明性の高いものであるところ、該水性分散液を透明なものとするためには、該水性分散液に含まれる希土類リン酸塩粒子の最大粒径Dmaxが重要となる。詳細には、希土類リン酸塩粒子の最大粒径Dmaxを100nm以下とすることが必要であり、好ましくは70nm以下、更に好ましくは60nm以下とする。最大粒径Dmaxが100nmを超えると、可視光の散乱によって水性分散液の透明性が低下する。最大粒径Dmaxの下限値に特に制限はなく、小さければ小さいほど好ましいが、20nm程度に最大粒径Dmaxが小さくなれば、水性分散液の透明性は十分に高くなる。希土類リン酸塩粒子の最大粒径Dmaxは、光子相関法を利用した動的光散乱法によって測定される。例えば日機装株式会社製のナノトラック粒度分布測定装置を用いて測定される。
【0021】
水性分散液に含まれる希土類リン酸塩粒子の最大粒径Dmaxは上述のとおりであるところ、該粒子の体積換算平均粒径D50は1〜70nmであることが好ましく、1〜40nmであることが更に好ましく、5〜40nmであることが一層好ましい。最大粒径Dmaxが上述の範囲であることに加えて、平均粒径D50がこの範囲であることによって、水性分散液の透明性が一層向上する。平均粒径D50は、最大粒径Dmaxと同様の方法で測定される。
【0022】
希土類リン酸塩粒子は、その形状として、例えば球状、多面体状、針状などの形状を採用し得る。特に、希土類リン酸塩粒子が球状であると、該粒子を含む本発明の水分散液から光学レンズを製造する場合に、該光学レンズに複屈折が生じにくくなる点から好ましい。
【0023】
水性分散液は、希土類リン酸塩粒子に加え、高屈折率を有する金属酸化物の粒子を更に含んでいてもよい。そのような金属酸化物としては、例えばMg、Ca、Ti、Zn、Zr、Ta、Nb、Ga、Ge、Sn、In、Hf、Y、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)などの金属の酸化物が挙げられる。これらの金属酸化物は、1種又は2種以上を用いることができる。これらの金属酸化物は、水性分散液に含まれる固形分としての粒子全体に対して、0.1〜50質量%程度用いることができる。
【0024】
本発明の水性分散液は、長期間保存したときの安定性が高いものであることによっても特徴づけられる。水性分散液の安定性を高めるために、水性分散液のpHを酸性側の特定の範囲又はアルカリ性側の特定の範囲に設定する。酸性側については、水性分散液のpHを1以上5未満に設定し、好ましくは2以上5未満、更に好ましくは2以上4以下に設定する。酸性側において水性分散液のpHが1未満の場合には、希土類リン酸塩粒子が溶解してしまうおそれがある。pHが5以上の場合には、希土類リン酸塩粒子を高度に分散させることが容易でなく、直ちに又は長期間保存すると沈殿を生じる。アルカリ性側については、水性分散液のpHを9.1以上14以下に設定し、好ましくは9.1以上13.5以下、更に好ましくは9.1以上13以下に設定する。アルカリ性側において水性分散液のpHが9.1未満の場合には、希土類リン酸塩粒子を高度に分散させることが容易ではなく、直ちに又は長期間保存すると沈殿を生じる。pHが14超の場合には水酸化物イオンとの反応により粒子表面が変質するおそれがある。これらのpHは、水性分散液の保存中又は使用時における温度での値のことである。
【0025】
水性分散液のpHを上述の範囲内に調整するためには、水性分散液にpH調整剤を添加すればよい。酸性側で用いられるpH調整剤としては、例えば各種の有機酸や無機酸を用いることができる。有機酸としては例えば酢酸、ギ酸及びプロピオン酸などが挙げられる。無機酸としては、例えばフッ酸、硝酸、塩酸及び硫酸などが挙げられる。これらの有機酸や無機酸は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。アルカリ性側で用いられるpH調整剤としては、各種の水酸化物、アルキルアミン及びアンモニア水等を用いることができる。水酸化物としては例えば水酸化テトラメチルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。アルキルアミンとしては、pH調整のしやすさに応じてモノアルキルアミン、ジアルキルアミン及びトリアルキルアミンのいずれをも用いることができる。アルキルアミンにおけるアルキル基としては、例えば同一の又は異なる、炭素数1〜4の低級アルキル基(メチル基やエチル基等)を用いることができる。これら水酸化物、アルキルアミン及びアンモニア水等は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。以上の各種のpH調整剤の水性分散液への添加量は、水性分散液のpHが上述の範囲となるような量とすればよい。
【0026】
水性分散液は、水を媒体とし、1種又は2種以上の希土類リン酸塩粒子を媒質とし、必要に応じてpH調整剤を含有する以外は他の成分を極力含んでいないことが望ましい。特に、希土類リン酸塩粒子以外の固形成分を含んでいないことが望ましい。
【0027】
本発明の水性分散液は、可視光の波長領域(400〜800nm)において高透明性であることによっても特徴づけられる。詳細には、可視光の波長領域における透過率が、光路長1cmのセルを用いて測定したとき好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上、一層好ましくは90%以上という高透明性のものである。このように透明性の高い水性分散液を用いて塗膜を形成すると、乾燥後の塗膜の透明性が極めて高くなる。したがって、本発明の水性分散液は、可視光の波長領域において高屈折率及び低波長分散性を有する透明膜の製造に非常に有用である。可視光の波長領域において高屈折率及び低波長分散性を有する透明膜は、例えばシート状レンズを始めとして、光学レンズの薄型化に寄与する。水性分散液の透明性は、例えば(株)日立ハイテクノロジー社製の分光光度計U−4000によって測定することができる。
【0028】
高透明性を有することに加え、本発明の水性分散液は、長期保存しても安定性が高いものである。例えば、室温下に1ヶ月間保存しても沈殿が生じない程度の安定性を有している。
【0029】
次に、本発明の水性分散液の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、(i)希土類リン酸塩粒子の製造工程及び(ii)水性分散液の製造工程に大別される。これら両工程についてそれぞれ説明する。
【0030】
まず、(i)の希土類リン酸塩粒子の製造工程について説明する。希土類リン酸塩粒子は、1種又は2種以上の希土類元素を含む水溶液と、オルトリン酸を含む水溶液とを混合して、1種又は2種以上の希土類リン酸塩の沈殿を生じさせることで得られる。この沈殿は必要に応じて焼成工程に付され、その結晶化度が高められる。
【0031】
希土類元素を含む水溶液と、リン酸を含む水溶液との混合には、以下の(a)及び(b)の態様がある。
(a)希土類元素を含む水溶液中に、リン酸を含む水溶液を添加する。
(b)リン酸を含む水溶液中に、希土類元素を含む水溶液を添加する。
いずれの態様であっても、混合後は、熟成を行うことが好ましい。熟成時間は5〜300分とすれば十分である。
【0032】
希土類元素を含む水溶液としては、該水溶液中における希土類元素の濃度が、0.01〜1.5mol/リットル、特に0.01〜1mol/リットル、とりわけ0.01〜0.5mol/リットルのものを用いることが好ましい。この水溶液中において希土類元素は三価のイオンの状態になっているか、又は三価のイオンに配位子が配位した錯イオンの状態になっている。希土類元素を含む水溶液を調製するためには、例えば硝酸水溶液に希土類酸化物(例えばLn23等)を添加してこれを溶解させればよい。
【0033】
オルトリン酸を含む水溶液としては、該水溶液中におけるリン酸化学種の合計の濃度を、0.01〜3mol/リットル、特に0.01〜1mol/リットル、とりわけ0.01〜0.5mol/リットルとすることが好ましい。また、pH調整のために、アルカリ種を添加することもできる。アルカリ種としては、例えばアンモニア、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、エチルアミン、プロピルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。
【0034】
希土類元素を含む水溶液とリン酸を含む水溶液は、リン酸イオン/希土類元素イオンのモル比が0.5〜10、特に1〜10、とりわけ1〜5となるように混合することが、効率よく沈殿生成物が得られる点から好ましい。
【0035】
前記の(a)及び(b)のいずれの混合方法を採用する場合であっても、反応によって生成した核粒子の成長を妨げる物質が存在しないことが好ましい。そのような物質が反応系に存在すると、生成した核粒子の成長が阻害され、得られる希土類リン酸塩粒子の一次粒子径が過度に小さくなり、BET比表面積が過度に大きくなってしまう。一次粒子径が過度に小さくなることは、希土類リン酸塩粒子の表面活性が過度に高くなって、意図しない溶解析出反応が起こり、分散液中での安定性が低下する点からも有利とは言えない。生成した核粒子の成長を妨げる物質としては、例えば特許文献1に記載されているクエン酸などが挙げられる。クエン酸は、生成した核粒子の表面に吸着して、該粒子がそれ以上大きくなることを阻害する。別の側面として、クエン酸を用いることは、反応後の廃液中のBOD(Biochemical Oxygen Demand)が高くなり、廃液処理を経済的に行えない点から有利ではない。
【0036】
反応系のpHは、後述する理由によって、沈殿生成物の形態へ影響を及ぼす。上述した混合方法(a)及び(b)と、反応系のpHとの関係は以下のとおりである。(a)の態様で反応を行った場合、反応溶液は低いpHで推移しやすい。この理由は、希土類元素を含む水溶液がpH<1の酸性のためである。一方、(b)の態様で反応を行った場合、反応溶液のpHはリン酸を含む水溶液のpHに依存し、アンモニアをpH調整剤として用いた場合、0.1〜10のpH範囲で調整が可能である。
【0037】
リン酸イオンはpHによって形態が変化する。また希土類元素イオンとの反応において、リン酸イオンの形態は沈殿生成物へ影響を及ぼす。例えばアンモニアをpH調整剤として用いた場合、pH<4ではH2PO4-の存在が支配的になる。pHが4〜8では、H2PO4-及びHPO42-の存在が支配的になる。pH>8ではHPO42-及びPO43-の存在が支配的になる。希土類元素イオンとリン酸イオンとの反応において、低pHで生じるH2PO4-と希土類元素イオンとの反応ではLnHPO4が生成しやすい。一方、高pHで生じるPO43-と希土類元素イオンとの反応ではLnPO4が生成しやすい(永長久彦著「溶液を反応場とする無機合成」培風館(2000年))。
【0038】
また沈殿生成物は、混合時の温度によっても変化する。この観点から、反応温度は好ましくは20〜100℃である。一般的な傾向として、反応温度が高くなると、結晶性の希土類リン酸塩が得られやすくなり、かつその結晶性が高くなる。結晶性が高い場合には、以下に説明する焼成工程が不要となるので、一層簡便な手法で希土類リン酸塩を得ることができる。また、球状の粒子を得る観点から、(a)の態様で混合を行った場合には、反応温度を20〜50℃とすることが好ましい。
【0039】
以上のようにして希土類リン酸塩が得られたら、これを常法に従い固液分離した後、1回又は複数回水洗する。水洗は、液の導電率が例えば2000μS/cm以下になるまで行うことが好ましい。
【0040】
沈殿生成物がアモルファスである場合、これを結晶性のものにするために焼成を行うことが好ましい。焼成は、大気中等の含酸素雰囲気で行うことができる。その場合の焼成条件は、焼成温度が好ましくは300〜1000℃であり、更に好ましくは400〜1000℃である。この温度範囲を採用することで、目的とするBET比表面積を有する希土類リン酸塩粒子を容易に得ることができる。焼成温度が過度に高くなると、焼結が進行して粒子のBET比表面積が低下する傾向にある。焼成時間は、焼成温度がこの範囲内であることを条件として、好ましくは1〜20時間、更に好ましくは1〜10時間である。
【0041】
本製造方法で重要な点は、(ii)の水性分散液に供する希土類リン酸塩粒子の比表面積である。詳細には、BET比表面積が好ましくは10〜200m2/g、更に好ましくは20〜200m2/g、一層好ましくは20〜180m2/g、更に一層好ましくは30〜180m2/gである希土類リン酸塩粒子を(ii)の水性分散液の調製のために供する。これによって、高濃度で高分散が可能であり、透明性が高く、かつ長期間にわたって安定な水性分散液が容易に得られる。
【0042】
リン酸を含む水溶液と、希土類元素を含む水溶液との反応によって得られた沈殿生成物が上述のBET比表面積を有している場合には、これをそのまま(ii)の水性分散液に供することが有利である。先に述べた焼成工程に付されたリン酸塩化合物を(ii)の水性分散液に供することも可能ではあるが、その場合には焼成に起因するBET比表面積の低下に留意しなければならない。焼成条件として、先に述べた条件を採用すれば、焼成後のリン酸塩化合物のBET比表面積を上述の範囲内におさめることが容易である。
【0043】
上述の好適な範囲のBET比表面積を有する希土類リン酸塩粒子の比表面積換算粒径は、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下、一層好ましくは20nm以下である。
【0044】
次に、(ii)の水性分散液の製造工程について説明する。本工程においては、結晶性又はアモルファスの希土類リン酸塩粒子と水とを混合してスラリーとなし、ビーズミル等のメディアミルによって湿式粉砕を行う。使用するビーズとしては、例えばジルコニアビーズやアルミナビーズ等が挙げられる。この場合、各種のpH調整剤をスラリーに添加して粉砕操作を行うことで、希土類リン酸塩粒子を単分散状態に近づけやすくなる。pH調整剤としては、液のpHを好ましくは1以上5未満、更に好ましくは2以上5未満、一層好ましくは2以上4以下に調整できるものを用いることが好ましい。そのようなpH調整剤としては、例えば、先に述べた有機酸や無機酸を用いることができる。また、液のpHを好ましくは9.1以上14以下、更に好ましくは9.1以上13.5以下、一層好ましくは9.1以上13以下に調整できるものを用いることが好ましい。そのようなpH調整剤としては、例えば、先に述べた各種の水酸化物を用いることが好ましい。
【0045】
上述のpH調整剤は、これを湿式粉砕時にスラリーに添加することに代えて、湿式粉砕して得られた水性分散液に添加してもよい。pH調整剤を水性分散液に添加する場合、その添加量は、水性分散液のpHが、好ましくは上述の範囲内となるようにする。なお、湿式粉砕によって希土類リン酸塩粒子に新たな表面が生じ、該表面が酸又はアルカリと反応する結果、液のpHが変動することがある。したがって、湿式粉砕時にpH調整剤を添加する場合には、湿式粉砕におけるpHの変動を見越してpH調整剤の添加量を決定することが好ましい。
【0046】
湿式粉砕後、液とビーズとを分離し、更にメンブランフィルタによって粗粒を除去することで、目的とする水性分散液が得られる。このようにして得られた水性分散液は無色透明であり、可視光の透過率が高いものである。また、長期間保存しても沈殿の生じない安定なものである。
【0047】
このようにして得られた水性分散液は、それに含まれる希土類リン酸塩が有する高屈折率及び低波長分散性や、水性分散液が有する可視光に対する透明性を利用して、各種の光学材料や電子材料に用いることができる。例えば、レンズ等の光学系部品、反射防止膜、赤外線透過膜等に用いることができる。具体的には、水性分散液を各種の基板、例えば透明基板やレンズ等の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることで、高透明性、高屈折率及び低波長分散性を有する薄膜を形成することができる。乾燥後の薄膜を、必要に応じて不活性雰囲気下、大気等の酸化性雰囲気下又は弱還元性雰囲気下(例えば爆発限界濃度以下の含水素雰囲気下)に焼成してもよい。この薄膜は、レンズの屈折率を更に高めるために、あるいは薄型レンズそのものとして有用である。更に本発明の水性分散液は、それに含まれる希土類リン酸塩粒子が樹脂中に分散されてなる樹脂レンズの原料としても好適に用いられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0049】
〔実施例1〕
(1)リン酸ルテチウム粒子の製造
以下の1)〜13)の工程に従いリン酸ルテチウム粒子を製造した。この工程は、先に述べた(a)に相当するものである。
1) ガラス容器に水370gを計量し、80℃に加温した。
2) 1)へ85%硝酸(和光社製)14.4gを添加した。
3) 2)へLu23(日本イットリウム社製)7.4gを添加し、完全に溶解させ室温(25℃)まで冷却した。
4) 別のガラス容器に水390g、25%リン酸5.26g、25%アンモニア水9.30gを添加した。この水溶液のpHは11.1であった。
5) 3)の溶液中へ4)の溶液を逐次フィードした。反応液のpHは0.8〜1.6であった。反応液の温度は25℃であった。反応によって沈殿物が生成した。
6) フィード終了後、25℃で10分間エージングを行った。
7) 沈殿物をデカンテーション洗浄により、上澄みの導電率が100μS/cm以下になるまで洗浄した。
8) 洗浄終了後、減圧濾過で固液分離した。
9) 8)を大気中で120℃×5時間乾燥させ、白色粉末を得た。
10) 9)を大気中800℃で5時間焼成した。
11) 10)で得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、正方晶のLuPO4ピークが確認された。XRD測定結果を図1に示す。
12) 10)で得られた焼成粉末の比表面積を測定したところ、42m2/gであり、換算粒子径は22nmであった。また、この焼成粉末を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、その形状は球状であった。
13) 10)で得られた焼成粉末の可視光に対する反射率を測定したところ、吸収端は200nm付近であり、可視光領域の透明性を確認した。反射率測定結果を図2(a)に示す。測定には、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4000を用いた。
【0050】
(2)水性分散液の製造
50mlの樹脂製容器に、10)で得られたLuPO4粒子2.0gと、純水23gとを入れてスラリーを得、次いで該容器に酢酸1.2gを添加して該スラリーのpHを2.3に調整した。更に0.1mmφのジルコニアビーズを100g入れ、容器を密栓した後、ペイントシェーカによって湿式粉砕を行った。湿式粉砕は3時間行った。最後に液を0.2μmのメンブランフィルタに通し粗粒を除去して、目的とするリン酸ルテチウム粒子の水性分散液(ゾル)を得た。この水性分散液のpHは2.5であった。得られた水性分散液は無色透明であり、これに赤色レーザ(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸ルテチウム粒子が高度に分散していることが確認された。
【0051】
得られた水性分散液をコロジオン膜にすくい取り、透過型電子顕微鏡(TEM)観察したところ、リン酸ルテチウム粒子の一次粒子径は10nmであった。また、日機装株式会社製のナノトラック粒度分布測定装置を用いてその最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表1に示す。
【0052】
この水性分散液を少量はかり取り、200℃で乾燥させた後のリン酸ルテチウム粒子の固形分濃度は8.5%であり、ガラス質の透明な固形分が残存することが確認された。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸ルテチウム粒子についてBET比表面積を測定したところ50m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を(株)日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4000、光路長1cmの石英セルを用いて測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は83%以上であった(最低値がλ=400nmで83%)。
【0053】
この水性分散液を常温(25℃)で1ヶ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0054】
〔実施例2〕
以下の1)〜11)の工程に従いリン酸ルテチウム粒子を製造した。この工程は、先に述べた(b)に相当するものである。
1) ガラス容器に水370gを計量し、80℃に加温した。
2) 1)へ85%硝酸(和光社製)14.4gを添加した。
3) 2)へLu23(日本イットリウム社製)7.4gを添加し、完全に溶解させ室温(25℃)まで冷却した。
4) 別のガラス容器に水380g、25%リン酸8.8g、25%アンモニア水16.6gを添加した。この水溶液のpHは9.6であった。
5) 4)の溶液中へ3)の溶液を逐次フィードした。反応液の温度は25℃であった。反応液のpHは9.6〜7.4であった。
6) フィード終了後、25℃で10分間エージングを行った。
7) 沈殿物をデカンテーション洗浄により、上澄みの導電率が100μS/cm以下になるまで洗浄を行った。
8) 洗浄終了後、減圧濾過で固液分離した。
9) 8)を大気中で120℃×5時間乾燥させ、白色粉末を得た。この粉末のXRD測定結果を図1に示す。XRDパターンはアモルファス様でありLuPO4ピークははっきりと観察されないが、Lu及びPの含有量をICP(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)によって測定したところ、Lu:P=1:1.06であった。
10) 9)で得られた粉末の比表面積を測定したところ、125m2/gであり、換算粒子径は7nmであった。この粉末をTEMで観察したところ、その形状は球状であった。
11) 10)で得られた粉末の反射率を測定したところ、吸収端は300nm付近であり、可視光領域の透明性を確認した。反射率測定結果を図2(b)に示す。
【0055】
得られたLuPO4粒子を用い、実施例1と同様にして水性分散液を得た。この水性分散液のpHは2.4であった。得られた水性分散液は無色透明であり、これに赤色レーザ(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸ルテチウム粒子が高度に分散していることが確認された。
【0056】
得られた水性分散液中のリン酸ルテチウム粒子の一次粒子径を実施例1と同様に測定したところ6nmであった。また、実施例1と同様にして最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表1に示す。
【0057】
この水性分散液を少量はかり取り、200℃で乾燥させた後のリン酸ルテチウム粒子の固形分濃度は8.5%であり、ガラス質の透明な固形分が残存することが確認された。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸ルテチウム粒子についてBET比表面積を測定したところ130m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を実施例1と同様に測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は87%以上であった(最低値がλ=400nmで87%)。
【0058】
更に、この水性分散液を常温(25℃)で1ヶ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0059】
〔実施例3〕
1) 実施例2で得られたLuPO4粒子を大気中800℃×5時間で焼成した。
2) 1)で得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、正方晶のLuPO4ピークが確認された。XRD測定結果を図1に示す。
3) 1)で得られた焼成粉末の比表面積を測定したところ、28m2/gであり、換算粒子径は33nmであった。この粉末をTEMで観察したところ、その形状は球状であった。
4) 1)で得られた焼成粉末の反射率を測定したところ、吸収端は300nm付近であり、可視光領域の透明性を確認した。反射率測定結果を図2(c)に示す。
【0060】
得られたLuPO4粒子を用い、実施例1と同様にして水性分散液を得た。この水性分散液のpHは2.6であった。得られた水性分散液は無色透明であり、これに赤色レーザ(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸ルテチウム粒子が高度に分散していることが確認された。
【0061】
得られた水性分散液中のリン酸ルテチウム粒子の一次粒子径を実施例1と同様に測定したところ14nmであった。また、実施例1と同様にして最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表1に示す。
【0062】
この水性分散液を少量はかり取り、200℃で乾燥させた後のリン酸ルテチウム粒子の固形分濃度は8.4%であり、ガラス質の透明な固形分が残存することが確認された。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸ルテチウム粒子についてBET比表面積を測定したところ35m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を実施例1と同様に測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は81%以上であった(最低値がλ=400nmで81%)。
【0063】
また、この水性分散液を常温(25℃)で1ヶ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0064】
〔実施例4〕
以下の1)〜11)の工程に従いリン酸ルテチウム粒子を製造した。この工程は、先に述べた(a)に相当するものである。
1) ガラス容器に水370gを計量し、80℃に加温した。
2) 1)へ85%硝酸(和光社製)14.4g、Lu23(日本イットリウム社製)7.4gを添加し、溶解させた。
3) 別のガラス容器に水380g、25%リン酸13.8gを添加した。この水溶液のpHは1.4であった。
4) 2)へ3)を添加し、80℃のまま1時間エージングを行った。反応液のpHは0.4〜0.7であった。
5) 沈殿物をデカンテーション洗浄により、上澄みの導電率が100μS/cm以下になるまで洗浄を行った。
6) 洗浄終了後、減圧濾過で固液分離した。
7) 6)を大気中で120℃×5時間乾燥させ、白色粉末を得た。この粉末のXRD測定を行ったところ、正方晶のLuPO4ピークが確認された。
8) 7)で得られた粉末の比表面積を測定したところ、168m2/gであり、換算粒子径は5nmであった。この粉末をTEMで観察したところ、その形状は球状であった。9) 8)で得られた粉末の反射率を測定したところ、吸収端は200nm付近であり、可視光領域の透明性を確認した。反射率測定結果を図2(d)に示す。
【0065】
得られたLuPO4粒子を用い、実施例1と同様にして水性分散液を得た。この水性分散液のpHは2.4であった。得られた水性分散液は無色透明であり、これに赤色レーザ(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸ルテチウム粒子が高度に分散していることが確認された。
【0066】
得られた水性分散液中のリン酸ルテチウム粒子の一次粒子径を実施例1と同様に測定したところ5nmであった。また、実施例1と同様にして最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表1に示す。
【0067】
この水性分散液を少量はかり取り、200℃で乾燥させた後のリン酸ルテチウム粒子の固形分濃度は8.1%であり、ガラス質の透明な固形分が残存することが確認された。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸ルテチウム粒子についてBET比表面積を測定したところ176m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を実施例1と同様に測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は88%以上であった(最低値がλ=400nmで88%)。
【0068】
また、この水性分散液を常温(25℃)で1ヶ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0069】
〔実施例5〕
1) 実施例4で得られた粉末を大気中800℃×5時間焼成した。
2) 1)で得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、正方晶のLuPO4ピークが確認された。XRD測定結果を図1に示す。
3) 1)で得られた焼成粉末の比表面積を測定したところ、51m2/gであり、換算粒子径は18nmであった。この粉末をTEMで観察したところ、その形状は球状であった。
4) 1)で得られた焼成粉末の反射率を測定したところ、吸収端は200nm付近であり、可視光領域の透明性を確認した。反射率測定結果を図2(e)に示す。
【0070】
得られたLuPO4粒子を用い、実施例1と同様にして水性分散液を得た。この水性分散液のpHは2.3であった。得られた水性分散液は無色透明であり、これに赤色レーザ(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸ルテチウム粒子が高度に分散していることが確認された。
【0071】
得られた水性分散液中のリン酸ルテチウム粒子の一次粒子径を実施例1と同様に測定したところ10nmであった。また、実施例1と同様にして最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表1に示す。
【0072】
この水性分散液を少量はかり取り、200℃で乾燥させた後のリン酸ルテチウム粒子の固形分濃度は7.5%であり、ガラス質の透明な固形分が残存することが確認された。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸ルテチウム粒子についてBET比表面積を測定したところ60m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を実施例1と同様に測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は84%以上であった(最低値がλ=400nmで84%)。
【0073】
更に、この水性分散液を常温(25℃)で1ヶ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0074】
〔実施例6〕
実施例1の1)〜10)の工程を行いLuPO4粒子を得た。得られたLuPO4粒子3.0gと、1%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液26gとを50mLの樹脂製容器に入れ、pHが12.5のスラリーを得た。更に0.1mmφジルコニアビーズを100gを入れ、ペイントシェーカーによって湿式粉砕を行った。湿式粉砕は3時間行った。湿式粉砕後のスラリーのpHは9.1に低下した。最後にスラリーを0.2μmのメンブランフィルターに通し粗粒を除去して、目的とするリン酸ルテチウム粒子の水性分散液(ゾル)を得た。得られた水性分散液は無色透明であり、これに赤色レーザー(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸ルテチウム粒子が高度に分散していることが確認された。
【0075】
得られた水性分散液中のリン酸ルテチウム粒子の一次粒子径を実施例1と同様に測定したところ10nmであった。また、実施例1と同様にして最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表1に示す。
【0076】
この水性分散液を少量測り取り、200℃で乾燥させたときの固形分濃度は11.7%であり、ガラス質の透明な固形分が残存していた。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸ルテチウム粒子についてBET比表面積を測定したところ、45m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を実施例1と同様に測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は87%以上であった(最低値がλ=400nmで87%)。透過率測定結果を図4に示す。
【0077】
この水性分散液を常温(25℃)で1カ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0078】
〔実施例7〕
実施例1の1)〜10)の工程を行いLuPO4粒子を得た。得られたLuPO4粒子3.0gと、2%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液21gとを50mLの樹脂製容器に入れ、pHが12.8のスラリーを得た。更に0.1mmφジルコニアビーズを100gを入れ、ペイントシェーカーによって湿式粉砕を行った。湿式粉砕は3時間行った。湿式粉砕後のスラリーのpHは10.2に低下した。最後にスラリーを0.2μmのメンブランフィルターに通し粗粒を除去して、目的とするリン酸ルテチウム粒子の水性分散液(ゾル)を得た。得られた水性分散液は無色透明であり、これに赤色レーザー(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸ルテチウム粒子が高度に分散していることが確認された。
【0079】
得られた水性分散液中のリン酸ルテチウム粒子の一次粒子径を実施例1と同様に測定したところ10nmであった。また、実施例1と同様にして最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表1に示す。
【0080】
この水性分散液を少量測り取り、200℃で乾燥させたときの固形分濃度は12.2%であり、ガラス質の透明な固形分が残存していた。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸ルテチウム粒子についてBET比表面積を測定したところ、47m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を実施例1と同様に測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は88%以上であった(最低値がλ=400nmで88%)。透過率測定結果を図5に示す。
【0081】
この水性分散液を常温(25℃)で1カ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0082】
〔実施例8〕
実施例1の1)〜10)の工程を行いLuPO4粒子を得た。得られたLuPO4粒子3.0gと、5%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液21gとを50mLの樹脂製容器に入れ、pHが13.1のスラリーを得た。更に0.1mmφジルコニアビーズを100gを入れ、ペイントシェーカーによって湿式粉砕を行った。湿式粉砕は3時間行った。湿式粉砕後のスラリーのpHは12.2に低下した。最後にスラリーを0.2μmのメンブランフィルターに通し粗粒を除去して、目的とするリン酸ルテチウム粒子の水性分散液(ゾル)を得た。得られた水性分散液は無色透明であり、これに赤色レーザー(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸ルテチウム粒子が高度に分散していることが確認された。
【0083】
得られた水性分散液中のリン酸ルテチウム粒子の一次粒子径を実施例1と同様に測定したところ10nmであった。また、実施例1と同様にして最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表1に示す。
【0084】
この水性分散液を少量測り取り、200℃で乾燥させたときの固形分濃度は12.5%であり、ガラス質の透明な固形分が残存していた。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸ルテチウム粒子についてBET比表面積を測定したところ、43m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を実施例1と同様に測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は89%以上であった(最低値がλ=400nmで89%)。
【0085】
この水性分散液を常温(25℃)で1カ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0086】
〔比較例1〕
実施例1において焼成条件を大気中1200℃×3時間とする以外は実施例1と同様にしてLuPO4粒子を得た。得られた粒子について実施例1と同様の測定を行った。その結果を表1に示す。更に、得られた粒子を用い、実施例1と同様にして水性分散液を得た。得られた水性分散液について実施例1と同様の測定を行った。その結果を表1に示す。この水性分散液は白濁しており、直ちに沈殿が観察され、保存安定性が悪いものであることが確認された。
【0087】
【表1】

【0088】
表1及び図2ないし図5に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた水性分散液は、高濃度のものであり、透明性が高く、かつ1ヶ月保存しても沈殿の生成が観察されず、高分散状態が維持されていることが判る。比較例1で得られた水性分散液では粒子を分散させることができなかった。
【0089】
〔実施例9〕
(1)リン酸イッテルビウム粒子の製造
1) ガラス容器に水380gを計量し、80℃に加温した。
2) 1)へ85%硝酸(和光社製)14.4gを添加した。
3) 2)へYb23(日本イットリウム社製)7.5gを添加し、完全に溶解させ、室温(25℃)まで冷却した。
4) 別のガラス容器に水390g、25%リン酸5.26g、25%アンモニア水9.30gを添加した。この水溶液のpHは9.6であった。
5) 3)の溶液中へ4)の溶液を25℃に逐次フィードした。反応液のpHは1.2〜2.3であった。反応によって沈殿物が生成した。
6) フィード終了後25℃のまま10分間エージングを行った。
7) 沈殿物をデカンテーション洗浄により、上澄みの導電率が100μS/cmになるまで洗浄を行った。
8)洗浄終了後、減圧濾過で固液分離した。
9) 8)を大気中で120℃×5時間乾燥させ、白色粉末を得た。
10) 9)を大気中800℃×5時間焼成した。
11) 10)で得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、正方晶のYbPO4ピークが確認された。XRD測定結果を図6に示す。
12) 10)で得られた焼成粉末の比表面積を測定したところ、42m2/gであり、換算粒子径は22nmであった。また、この焼成粉末を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、その形状は球状であった。
13) 10)で得られた焼成粉末の可視光に対する反射率を測定したところ、吸収端は200nm付近であり、可視光領域の透明性を確認した。反射率測定結果を図7に示す。測定には、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4000を用いた。
【0090】
(2)水性分散液の製造
50mlの樹脂製容器に、10)で得られたYbPO4粒子3.0gと、2%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液21gを添加してスラリーのpHを12.2に調整した。更に、0.1mmΦジルコニアビーズ100gを入れ、ペイントシェーカーによって湿式粉砕を行った。湿式粉砕は3時間行った。最後に液を0.2μmのメンブランフィルターに通し粗粒を除去して、目的とするリン酸イッテルビウム粒子の水性分散液(ゾル)を得た。これに赤色レーザー(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸イッテルビウム粒子が高度に分散していることが確認された。
【0091】
得られた水性分散液をコロジオン膜にすくい取り、透過型電子顕微鏡(TEM)観察したところ、リン酸イッテルビウム粒子の一次粒子径は13nmであった。また、日機装株式会社製のナノトラック粒度分布測定装置を用いてその最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表2に示す。
【0092】
この水性分散液を少量はかり取り、200℃で乾燥させたときのリン酸イッテルビウム粒子の固形分濃度は11.1%であり、ガラス質の透明な固形分が残存していた。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸イッテルビウム粒子についてBET比表面積を測定したところ、48m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を(株)日立ハイテクノロージーズ社製分光光度計U−4000、光路長1cmの石英セルを用いて測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は84%以上であった(最低値がλ=400nmで84%)。
【0093】
この水性分散液を常温(25℃)で1ヶ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0094】
〔実施例10〕
(1)リン酸イットリウム粒子の製造
1) ガラス容器に水370gを計量し、80℃に加温した。
2) 1)へ85%硝酸(和光社製)20.4gを添加した。
3) 2)へY23(関東化学社製)6.1gを添加し、完全に溶解させ室温(25℃)まで冷却した。
4) 別のガラス容器に水380g、25%リン酸7.5g、25%アンモニア水13.2gを添加した。この水溶液のpHは8.9であった。
5) 3)の溶液中へ4)の溶液を25℃に逐次フィードした。反応液のpHは1.5〜1.9であった。反応によって沈殿物が生成した。
6) フィード終了後25℃のまま10分間エージングを行った。
7) 沈殿物をデカンテーション洗浄により、上澄みの導電率が100μS/cm以下になるまで洗浄を行った。
8) 洗浄終了後、減圧濾過で固液分離した。
9) 8)を大気中で120℃×5時間乾燥させ、白色粉末を得た。
10) 9)を大気中800℃×5時間焼成した。
11) 10)で得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、正方晶のYPO4ピークが確認された。XRD測定結果を図6に示す。
12) 10)で得られた焼成粉末の比表面積を測定したところ、63m2/gであり、換算粒子径は22nmであった。また、この焼成粉末を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、その形状は球状であった。
13) 10)で得られた焼成粉末の可視光に対する反射率を測定したところ、吸収端は200nm付近であり、可視光領域の透明性を確認した。反射率測定結果を図8に示す。測定には、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4000を用いた。
【0095】
(2)水性分散液の製造
50mLの樹脂製容器に、10)で得られたYPO4粒子3.0gと、2%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液21gを添加してスラリーのpHを12.8に調整した。更に、0.1mmΦジルコニアビーズ100gを入れ、ペイントシェーカーによって湿式粉砕を行った。湿式粉砕は3時間行った。最後に液を0.2μmのメンブランフィルターに通し粗粒を除去して、目的とするリン酸イットリウム粒子の水性分散液(ゾル)を得た。これに赤色レーザー(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸イットリウム粒子が高度に分散していることが確認された。
【0096】
得られた水性分散液をコロジオン膜にすくい取り、透過型電子顕微鏡(TEM)観察したところ、リン酸イットリウム粒子の一次粒子径は11nmであった。また、日機装株式会社製のナノトラック粒度分布測定装置を用いてその最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表2に示す。
【0097】
この水性分散液を少量はかり取り、200℃で乾燥させたときのリン酸イットリウム粒子の固形分濃度は12.7%であり、ガラス質の透明な固形分が残存していた。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸イットリウム粒子についてBET比表面積を測定したところ、69m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を(株)日立ハイテクノロージーズ社製分光光度計U−4000、光路長1cmの石英セルを用いて測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は85%以上であった(最低値がλ=400nmで85%)。
【0098】
この水性分散液を常温(25℃)で1ヶ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0099】
〔実施例11〕
(1)リン酸ガドリニウム粒子の製造
1) ガラス容器に水380gを計量し、80℃に加温した。
2) 1)へ85%硝酸(和光社製)15.0gを添加した。
3) 2)へGd23(関東化学社製)7.2gを添加し、完全に溶解させ室温(25℃)まで冷却した。
4) 別のガラス容器に水390g、25%リン酸5.5g、25%アンモニア水9.7gを添加した。この水溶液のpHは9.3であった。
5) 3)の溶液中へ4)の溶液を25℃にて逐次フィードした。反応液のpHは1.3〜2.1であった。反応によって沈殿物が生成した。
6) フォード終了後25℃のまま10分間エージングを行った。
7) 沈殿物をデカンテーション洗浄により、上澄みの導電率が100μS/cm以下になるまで洗浄を行った。
8) 洗浄終了後、減圧濾過で固液分離した。
9) 8)を大気中で120℃×5時間乾燥させ、白色粉末を得た。
10) 9)を大気中800℃×5時間焼成した。
11) 10)で得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、単斜晶のGdPO4ピークが確認された。XRD測定結果を図6に示す。
12) 10)で得られた焼成粉末の比表面積を測定したところ、28m2/gであり、換算粒子径は36nmであった。また、この焼成粉末を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、その形状は球状であった。
13) 10)で得られた焼成粉末の可視光に対する反射率を測定したところ、吸収端は200nm付近であり、可視光領域の透明性を確認した。反射率測定結果を図9に示す。測定には、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4000を用いた。
【0100】
(2)水性分散液の製造
50mLの樹脂製容器に、10)で得られたGdPO4粒子1.8gと、2%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液21gを添加してスラリーのpHを12.8に調整した。更に、0.1mmΦジルコニアビーズ100gを入れ、ペイントシェーカーによって湿式粉砕を行った。湿式粉砕は3時間行った。最後に液を0.2μmのメンブランフィルターに通し粗粒を除去して、目的とするリン酸ガドリニウム粒子の水性分散液(ゾル)を得た。これに赤色レーザー(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸ガドリニウム粒子が高度に分散していることが確認された。
【0101】
得られた水性分散液をコロジオン膜にすくい取り、透過型電子顕微鏡(TEM)観察したところ、リン酸ガドリニウム粒子の一次粒子径は18nmであった。また、日機装株式会社製のナノトラック粒度分布測定装置を用いてその最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表2に示す。
【0102】
この水性分散液を少量はかり取り、200℃で乾燥させたときのリン酸ガドリニウム粒子の固形分濃度は5.5%であり、ガラス質の透明な固形分が残存していた。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸ガドリニウム粒子についてBET比表面積を測定したところ、30m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を(株)日立ハイテクノロージーズ社製分光光度計U−4000、光路長1cmの石英セルを用いて測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は86%以上であった(最低値がλ=400nmで86%)。
【0103】
この水性分散液を常温(25℃)で1ヶ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0104】
〔実施例12〕
(1)リン酸ランタン粒子の製造
1) ガラス容器に水380gを計量し、80℃に加温した。
2) 1)へ85%硝酸(和光社製)16.3gを添加した。
3) 2)へLa23(関東化学社製)7.0gを添加し、完全に溶解させ室温(25℃)まで冷却した。
4) 別のガラス容器に水390g、25%リン酸6.0g、25%アンモニア水10.5gを添加した。この水溶液のpHは9.6であった。
5) 3)の溶液中へ4)の溶液を25℃にて逐次フィードした。反応液のpHは1.2〜2.1であった。反応によって沈殿物が生成した。
6) フォード終了後25℃のまま10分間エージングを行った。
7) 沈殿物をデカンテーション洗浄により、上澄みの導電率が100μS/cm以下になるまで洗浄を行った。
8) 洗浄終了後、減圧濾過で固液分離した。
9) 8)を大気中で120℃×5時間乾燥させ、白色粉末を得た。
10) 9)を大気中800℃×5時間焼成した。
11) 10)で得られた焼成粉末のXRD測定を行ったところ、単斜晶のLaPO4ピークが確認された。XRD測定結果を図6に示す。
12) 10)で得られた焼成粉末の比表面積を測定したところ、32m2/gであり、換算粒子径は37nmであった。また、この焼成粉末を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、その形状は球状であった。
13) 10)で得られた焼成粉末の可視光に対する反射率を測定したところ、吸収端は200nm付近であり、可視光領域の透明性を確認した。反射率測定結果を図10に示す。測定には、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4000を用いた。
【0105】
(2)水性分散液の製造
50mLの樹脂製容器に、10)で得られたLaPO4粒子1.8gと、2%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液21gを添加してスラリーのpHを12.8に調整した。更に、0.1mmΦジルコニアビーズ100gを入れ、ペイントシェーカーによって湿式粉砕を行った。湿式粉砕は3時間行った。最後に液を0.2μmのメンブランフィルターに通し粗粒を除去して、目的とするリン酸ランタン粒子の水性分散液(ゾル)を得た。これに赤色レーザー(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸ランタン粒子が高度に分散していることが確認された。
【0106】
得られた水性分散液をコロジオン膜にすくい取り、透過型電子顕微鏡(TEM)観察したところ、リン酸ランタン粒子の一次粒子径は17nmであった。また、日機装株式会社製のナノトラック粒度分布測定装置を用いてその最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表2に示す。
【0107】
この水性分散液を少量はかり取り、200℃で乾燥させたときの固形分濃度は10.2%であり、ガラス質の透明な固形分が残存していた。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸ランタン粒子についてBET比表面積を測定したところ、35m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を(株)日立ハイテクノロージーズ社製分光光度計U−4000、光路長1cmの石英セルを用いて測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は87%以上であった(最低値がλ=400nmで87%)。
【0108】
この水性分散液を常温(25℃)で1ヶ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0109】
〔実施例13〕
50mLの樹脂製容器に、実施例1で得られたLuPO4粒子1.8gと、水21gを添加した後、酢酸を用いてスラリーのpHを4.0に調整した。更に0.1mmΦジルコニアビーズ100gを入れ、ペイントシェーカーによって湿式粉砕を行った。湿式粉砕は3時間行った。最後に液を0.2μmのメンブランフィルターに通し粗粒を除去して、目的とするリン酸ルテチウム粒子の水性分散液(ゾル)を得た。これに赤色レーザー(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸ルテチウム粒子が高度に分散していることが確認された。
【0110】
得られた水性分散液をコロジオン膜にすくい取り、透過型電子顕微鏡(TEM)観察したところ、リン酸ルテチウム粒子の一次粒子径は10nmであった。また、日機装株式会社製のナノトラック粒度分布測定装置を用いてその最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表2に示す。
【0111】
この水性分散液を少量はかり取り、200℃で乾燥させたときの固形分濃度は9.2%であり、ガラス質の透明な固形分が残存していた。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸ルテチウム粒子についてBET比表面積を測定したところ、47m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を(株)日立ハイテクノロージーズ社製分光光度計U−4000、光路長1cmの石英セルを用いて測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は82%以上であった。(最低値がλ=400nmで82%)
【0112】
この水性分散液を常温(25℃)で1ヶ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0113】
〔実施例14〕
50mLの樹脂製容器に、実施例1で得られたLuPO4粒子6.5gと、水21gを添加した後、酢酸を用いてスラリーのpHを2.0に調整した。更に0.1mmΦジルコニアビーズ100gを入れ、ペイントシェーカーによって湿式粉砕を行った。湿式粉砕は3時間行った。最後に液を0.2μmのメンブランフィルターに通し粗粒を除去して、目的とするリン酸ルテチウム粒子の水性分散液(ゾル)を得た。これに赤色レーザー(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸ルテチウム粒子が高度に分散していることが確認された。
【0114】
得られた水性分散液をコロジオン膜にすくい取り、透過型電子顕微鏡(TEM)観察したところ、リン酸ルテチウム粒子の一次粒子径は10nmであった。また、日機装株式会社製のナノトラック粒度分布測定装置を用いてその最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表2に示す。
【0115】
この水性分散液を少量はかり取り、200℃で乾燥させたときの固形分濃度は30.2%であり、ガラス質の透明な固形分が残存していた。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸ルテチウム粒子についてBET比表面積を測定したところ、51m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を(株)日立ハイテクノロージーズ社製分光光度計U−4000、光路長1cmの石英セルを用いて測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は68%以上であった(最低値がλ=400nmで68%)。
【0116】
この水性分散液を常温(25℃)で1ヶ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0117】
〔実施例15〕
50mLの樹脂製容器に、実施例11で得られたGdPO4粒子2.0gと、水21gを添加した後、酢酸を用いてスラリーのpHを2.8に調整した。更に0.1 mmφジルコニアビーズ100gを入れ、ペイントシェーカーによって湿式粉砕を行った。湿式粉砕は3時間行った。最後に液を0.2μmのメンブランフィルターに通し粗粒を除去して、目的とするリン酸ガドリニウム粒子の水性分散液(ゾル)を得た。これに赤色レーザー(波長650nm)を照射したところ、チンダル現象が観察され、リン酸ガドリニウム粒子が高度に分散していることが確認された。
【0118】
得られた水性分散液をコロジオン膜にすくい取り、透過型電子顕微鏡(TEM)観察したところ、リン酸ガドリニウム粒子の一次粒子径は18nmであった。また、日機装株式会社製のナノトラック粒度分布測定装置を用いてその最大粒径Dmax及び体積換算平均粒径D50を測定した。その結果を表2に示す。
【0119】
この水性分散液を少量はかり取り、200℃で乾燥させたときの固形分濃度は8.5%であり、ガラス質の透明な固形分が残存していた。また、水性分散液を2gはかり取り、150℃で乾燥させて残留したリン酸ガドリニウム粒子についてBET比表面積を測定したところ、32m2/gであった。更に、この水性分散液の可視光に対する透明性を(株)日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4000、光路長1cmの石英セルを用いて測定したところ、可視光の波長領域(波長400〜800nm)における透過率は87%以上であった。(最低値がλ=400nmで87%)
【0120】
この水性分散液を常温(25℃)で1カ月保存して保存安定性を調べたところ、沈殿の生成は観察されず、高分散状態が維持されていることが確認された。
【0121】
〔比較例2〕
本比較例は、水性分散液のpHを中性付近に設定した例である。50mLの樹脂製容器に、実施例1で得られたLuPO4粒子2.0gと、水21gを添加した。スラリーのpHは6.7であった。更に0.1mmΦジルコニアビーズ100gを入れ、ペイントシェーカーによって湿式粉砕を行った。湿式粉砕は3時間行ったが高分散の液は得られなかった。したがって、一次粒子径、最大粒径Dmax、体積換算平均粒径D50、BET比表面積及び可視光最低透過率を測定することはできなかった。
【0122】
【表2】

【0123】
表2及び図6ないし図10に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた水性分散液は、高濃度のものであり、透明性が高く、かつ1ヶ月保存しても沈殿の生成が観察されず、高分散状態が維持されていることが判る。比較例2で得られた水性分散液では粒子を分散させることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が10〜200m2/gである希土類リン酸塩からなる粒子を含む水性分散液であって、該粒子の最大粒径Dmaxが100nm以下であり、該水性分散液のpHが1以上5未満であり、該粒子の濃度が5〜50質量%である水性分散液。
【請求項2】
BET比表面積が10〜200m2/gである希土類リン酸塩からなる粒子を含む水性分散液であって、該粒子の最大粒径Dmaxが100nm以下であり、該水性分散液のpHが9.1以上14以下であり、該粒子の濃度が5〜50質量%である水性分散液。
【請求項3】
可視光の波長領域における透過率が、光路長1cmのセルを用いて測定したとき50%以上である請求項1又は2に記載の水性分散液。
【請求項4】
前記粒子の体積換算平均粒径D50が1〜70nmである請求項1ないし3のいずれか一項に記載の水性分散液。
【請求項5】
請求項1記載の水性分散液の製造方法であって、
BET比表面積が10〜200m2/gである希土類リン酸塩からなる粒子を水性媒体に分散させるとともに、pHを1以上5未満に調整することを特徴とする水性分散液の製造方法。
【請求項6】
請求項2記載の水性分散液の製造方法であって、
BET比表面積が10〜200m2/gである希土類リン酸塩からなる粒子を水性媒体に分散させるとともに、pHを9.1以上14以下に調整することを特徴とする水性分散液の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の水性分散液を基板の表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることを特徴とする透明薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−14497(P2013−14497A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−58558(P2012−58558)
【出願日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】