説明

水性分散液

【課題】クロロプレン系接着剤の貯蔵安定性と、使用時の老化と変色を防止した新規な含水組成物を提供する。
【解決手段】クロロプレンの重合後に残存モノマーを除去し、次いでヒドロキシアルキルアミンの添加により、発生する塩化水素を捕捉し、分散液のpHを安定化させて、さらにヒドロキシアルキルアミンの効果により、酸化が防止されるポリクロロプレン/ヒドロキシルアミン誘導体含有含水組成物及びその製造法、及び該組成物を接着剤、シーラント、塗料に適用したもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願のクロス・リファレンス
本願は、米国特許法35U.S.C.119条(a)〜(d)の規定により、独国特許出願DE102006001942(出願日:2006年1月14日)に基づく優先権を主張する出願である。
発明の分野
ポリクロロプレンとヒドロキシルアミン誘導体に基づく含水組成物、特に水性ポリマー分散液、該含水組成物の製造法、該含水組成物の用途(特に、シーラント及び塗料の製造用原料、就中、接着性塗料の製造原料としての用途)、片面若しくは両面に該含水組成物を塗布した支持体の結合法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリクロロプレン(CR)に基づく触圧接着剤としては、結合されるべき支持体へ塗布された後で乾燥させる溶剤含有接着剤が主流を占めている。該支持体を加圧下で接合させることによって、接合後、直ちに高い初期強度を有する接合構造体が得られる。
【0003】
生態学的理由から、対応する水性CR接着剤配合物を得るために加工できる適当な水性CR接着性分散液に対する需要が高まっている。この種の接着剤配合物は、例えば、噴霧混合法によって使用されている。この場合、水性接着剤配合物と凝固剤は、スプレーガン内へ別々に送給された後、スプレージェット中で混合され、該CR接着剤は支持体上で凝固する。この方法の概説書としては、下記の非特許文献1及び2が例示される。
【0004】
しかしながら、多くの場合、水性CR分散液又は配合物に適当な貯蔵安定性と使用時の安全性を付与するため、又は接着性塗料の老化と変色を防止するために、例えば、安定剤及び/又は酸化防止剤のような添加剤を添加することが必要になる。
【0005】
後者の目的のためには、水性配合物を酸化亜鉛と混合することが有利である。この理由は、酸化亜鉛は、ポリクロロプレン分散液に基づく配合物中において、CRポリマーからのHClの放出に起因する接合支持体の変色と接着剤層の急激な老化に逆らう作用をするからである。
【0006】
酸化防止剤も添加される。好ましい酸化防止剤はオリゴ官能性の芳香族第二アミン又はオリゴ官能性置換フェノール類、例えば、下記の非特許文献3に記載されているような次のタイプの生成物である:6−PPD[N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン;「ブルカノックス(登録商標)」、ランクセス・ドイチュラント社]、DTPD,DDA,BPH及びBHT等。「ブルカノックスDDA」(ジフェニルアミン誘導体)が特に有効である。
【0007】
しかしながら、今日まで知られている酸化亜鉛分散液は沈殿する傾向を示す。このような沈殿又は相分離は許容されず、特にこの種の接着剤配合物を噴霧混合法において使用する場合には、ノズルを閉塞させるので許容されない。ノズルの清浄化処理は時間を浪費してコスト集約的であり、経済的観点から満足できる処理ではない。
【0008】
有機酸化防止剤は変色に対して耐性を示さないか(オリゴ官能性の芳香族第二アミンの場合)、または、有効性が低い(オリゴ官能性置換フェノール類の場合)。
【非特許文献1】「ハンドブック・オブ・アドヘッシブズ」、イルビング・スカイスト、チャップマン、ホール(ニューヨーク)、第3版、1990年、第15部、第301頁。
【非特許文献2】R.ムッシュら、「アドヘッシブズ・エイジ」、2001年1月、第17頁、「発泡体−接着用のディスパーコル(登録商標)Cに基づく接着剤の噴霧混合」、バイエル社の技術情報、no.KA−KR−0001d/01/05.96。
【非特許文献3】「ゴム工業用ハンドブック」(1992年版)、バイエル社(レバークーセン、ドイツ)発行、第4章、「ブルカノックス」、第423頁。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、残存モノマーを含まず、貯蔵安定性を示すと共に、接合されるべき支持体へ塗布された後で、ポリマーからのHClの放出に対して高い耐性を示す新規な水性ポリクロロプレン分散液及び接着剤配合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
水性ポリクロロプレン分散液と配合物の安定化が、ヒドロキシルアミン及びその誘導体の添加によって著しく改善されることが判明した。ヒドロキシルアミンは、従来から使用されている酸化防止剤に加えて添加してもよく、あるいは、常套の酸化防止剤の一部又は全部をヒドロキシルアミンで代替させてもよい。
【0011】
ヒドロキシルアミンはポリクロロプレンから放出されるHClを捕捉することによってポリクロロプレン分散液を安定化させ、また、水性配合物から形成される乾燥フィルム中でのラジカル反応を停止させることによって酸化防止剤として作用する。
【0012】
ナノメーターサイズの酸化亜鉛を使用することによって、付加的な安定化が達成され、これによって、従来技術における酸化亜鉛分散液の沈殿の問題が解決される。さたに、ナノメーターサイズの二酸化ケイ素分散液も、水性配合物から形成される乾燥フィルムの変色とHClの放出に対する耐性に関して安定化効果をもたらす。
【0013】
本発明は、下記の成分(A)〜(C)を含有する組成物を提供する:
(A)ポリクロロプレン粒子、
(B)下記の一般式(I)で表されるヒドロキシルアミン誘導体:
【化1】

(式中、R及びRは相互に独立して、水素原子(H)、線状若しくは分枝状で、飽和若しくは不飽和の、非置換、一置換若しくは多置換のC〜C20−アルキル残基、C〜C12−アリール残基、C〜C14−アラルキル残基若しくはC〜C−シクロアルキル残基を示すか、あるいは、R及びRは、非置換、一置換若しくは多置換のC〜C−シクロアルキル残基を介して相互に結合する。)、及び
(C)水。
該組成物は、特に水性分散液である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本願の特許請求の範囲と明細書(実施例を含む)においては、特に明確に規定しない限り、全ての数値は、「約」という用語が明確に付加されていなくても、該用語を修飾させて読んでもよい。また、特許請求の範囲と明細書に記載の数値範囲は、該範囲に包含される全ての下位の範囲を含む。
【0015】
本発明の範囲内に包含されるポリクロロプレン粒子は、ポリクロロプレン(ポリ−(2−クロロ−1,3−ブタジエン))の粒子及びプロロプレン含有コポリマーの粒子である。
【0016】
ポリクロロプレン(ポリ−(2−クロロ−1,3−ブタジエン))の粒子は水性分散液の状態で本発明による組成物中へ添加するのが簡便である。ポリクロロプレン分散液の調製法自体は既知であり、該分散液はアルカリ性水性媒体中での乳化重合によって得られ、これに関しては下記の文献を参照されたい:「ウルマン・エンサイクロペディー・デア・テヒニッシェンヘミー」、第13巻、第614頁、フェアラーク・ヘミー(バインハイム、ニューヨーク)、第4版(1997年);「エンサイクロペディア・オブ・ポリマーサイエンス・アンド・テクノロジー」、第3巻、第705頁〜第730頁、ジョン・ウィリー(ニューヨーク)、1965年;「メトーデン・デア・オーガニッシェンヘミー」(フーベン・ベイル)、第14巻(1)、第733頁以降、ゲオルク・チーメ・フェアラーク(ストゥッツガルト)、1961年。
【0017】
例えば、WO02/24825(実施例2)及び独国特許公報DE−A−3002734(実施例6)に記載されているような連続重合によって調製されるポリクロロプレン分散液は特に好ましい分散液である。この場合、調節剤の含有量は0.01〜0.5重量%の範囲内で変化させることができる。
【0018】
適当な共重合性モノマーとしては、1分子あたり3〜12個の炭素原子及び1個若しくは2個の共重合性C=C二重結合を有する化合物が好ましい。好ましい共重合性モノマーとしては、2,3−ジクロロブタジエン及び1−クロロブタジエンが例示される。
【0019】
本発明方法に使用するためのポリクロロプレン分散液は温度が0〜70℃(好ましくは5〜45℃)で、pHが10〜14(好ましくは11〜13)の条件下における乳化重合によって調製される。活性化は常套の活性剤又は活性剤系を用いておこなわれる。
【0020】
活性剤又は活性剤系としては下記のものが例示される:フォルムアミジンスルフィン酸、カリウムペルオキソジスルフェート、カリウムペルオキソジスルフェート及び所望によるアントラキノン−β−スルフォン酸のナトリウム塩若しくは銀塩に基づくレドックス系(この場合、レドックスの相手としては、フォルムアミジンスルフィン酸、ヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム塩、ナトリウムスルファイト及びナトリウムジチオナイトのような化合物が使用される)。ペルオキシド及びヒドロペルオキシドに基づくレドックス系も適当な活性剤系である。本発明において用いるポリクロロプレンは、連続重合法及びバッチ重合法のいずれによっても製造できるが、連続重合法が好ましい。
【0021】
本発明によるポリクロロプレンの粘度を調整するためには、常套の連鎖延長剤を使用することができ、この種の連鎖延長剤としては、メルカプタン類(例えば、DE−A3002711、英国特許公報GB−A1048235及び仏国特許公報FR−A2073106等参照)、及びキサントゲンジスルフィド(例えば、DE−A1186215、DE−A2156453、DE−A2306610、DE−A3044811、ヨーロッパ特許公報EP−A0053319、GB−A512458、GB−A952156、米国特許公報US−A2321693、及びUS−A2567117等参照)等が例示される。
【0022】
重合反応は、一般にモノマー転化率が50〜95%(好ましくは60〜80%)に達する時点で停止させる。この場合、抑制剤としては、例えば、フェノチアジン、t−ブチルピロカテコール又はジエチルヒドロキシルアミン等を重合反応系へ添加することができる。
【0023】
上記のラジカル乳化重合反応においては、モノマーは種々の配置様式(即ち、トランス−1,4配置、シス−1,4配置、1,2配置及び3,4配置)でポリマー鎖中へ組み込まれ、1,2位置に組み込まれるモノマーは、ポリマーからのHClの放出の原因となる不安定で容易に分離される塩素原子を保有する。これらに関しては、次の文献を参照されたい:W.オブレヒト(フーベン・ベイル)、「メトーデン・デア・オーガニッシェンヘミー」、第20巻、第3部;「高分子量物質」、第845頁(1987年)。
【0024】
重合後、残存するモノマー性クロロプレンを水蒸気蒸留によって除去することによって、残存モノマーを含まない分散液が得られる。水蒸気蒸留は、例えば、次の文献に記載方法に従っておこなうことができる:W.オブレヒト(フーベン・ベイル)、「メトーデン・デア・オーガニッシェンヘミー」、第20巻、第3部;「高分子量物質」、第852頁(1987年)。水蒸気蒸留を繰り返すことによって、ポリマー中に含まれるモノマー性クロロプレンの含有量を約100ppm(好ましくは50ppm以下)まで低減させることができる。本発明においては、このような分散液は、残存モノマーを含有しない分散液として分類される。なお、この過程においては、重合段階から得られた分散液(ラッテクス)中に存在するジエチルヒドロキシルアミン(停止剤)の含有量は、検出限界値(>1ppm)よりも低い値まで低下する。
【0025】
重合を停止させるための重合抑制剤としてヒドロキシルアミンの単独使用又は他の停止剤との併用に関しては次の文献を参照されたい:「メトーデン・デア・オーガニッシェンヘミー」(フーベン・ベイル)、第14巻(1)、第435頁、第441頁、及び第746頁以降、ゲオルク・チーメ・フェアラーク(ストゥッツガルト)、1961年。
【0026】
重合中の「ポップコーン形成」として知られている現象を抑制するための特定のヒドロキシルアミンの有効性も該文献に記載されている。
【0027】
本発明による安定化効果は、残存モノマーを含まない最終的なポリマー分散液にはみられない。この理由は、先に言及したように、前記のヒドロキシルアミンは、毒物学的理由から重合の終了後に直ちに得られるラテックスから、例えば、水蒸気蒸留によって除去される残存モノマーと共に除去されるからである。
【0028】
モノマー含有量の少ないポリクロロプレン分散液中の固形分含有量は、必要に応じて、濃縮過程によるその後の過程(クリーミング過程)によって増加させることができる。このクリーミング過程は、例えば、アルギン酸塩の添加によっておこなわれるか(「ネオプレンラテックス、ジョンC.カール、E.I.デュポン、1964年、第13頁」参照)、又は融合助剤を用いるクリーミング過程によっておこなわれるが(DE−A10145097参照)、後者が特に好ましい。
【0029】
本発明の好ましい態様においては、ポリクロロプレン粒子は220nm未満の平均一次粒子径を有する。
【0030】
DIN 53206;1992−08に類似して、「一次粒子」という用語は、適当な物理的方法によって単一体として検知される粒子を示す。ポリクロロプレン粒子に関しては、該粒子がほぼ球形であるために、「直径」という用語を使用することが可能である。
【0031】
ポリクロロプレン粒子の平均一次粒子径は、好ましくは超遠心分離法により、本発明に従って測定される。重量平均値で示す。超遠心分離法に関しては次の文献を参照されたい:H.G.ミュラー、Progr. Colloid. Polym. Sci.、第107巻、第180頁〜第188頁(1997年)。
【0032】
220nmよりも大きな平均一次粒子径は不利である。何故ならば、この場合には、ポリクロロプレン分散液から残存モノマー(2−クロロ−1,3−ブタジエン)を水蒸気蒸留によって除去する間に望ましくない沈降が発生するからである。
【0033】
本発明の別の好ましい態様においては、ポリクロロプレン粒子は60nmよりも大きな平均一次粒子径を有する。
【0034】
60nm未満の平均一次粒子径は不利である。何故ならば、ポリマー分散液中の固形分の含有量を>55重量%にすることができなくなるからである。従って、例えば、78nmの粒径を有するスチレン−ブタジエン(SBR)ラテックスをアルギン酸アンモニウムを用いて濃縮させることはできない(Ind. Eng. Chem.、第43巻、第407頁(1951年))。
【0035】
好ましくは、ポリクロロプレン粒子は60〜220nm(より好ましくは70〜160nm)の平均一次粒子径を有する。
【0036】
このような平均一次粒子径を有するポリクロロプレン粒子は、本発明による組成物を調製するために使用される水性分散液及び該水性分散液から得られる本発明による組成物中に存在する。
【0037】
本発明に従って使用するためのヒドロキシルアミンの調製法は既知であり、例えば、次の文献に記載されている:「メトーデン・デア・オーガニッシェンヘミー」(フーベン・ベイル)、第10巻(1)、第1097頁〜第1279頁、ゲオルク・チーメ・フェアラーク(ストゥッツガルト)、1971年。
【0038】
このようなヒドロキシルアミンは次の一般式(I)で表される:
【化2】

式中、R及びRは相互に独立して、水素原子(H)、線状若しくは分枝状で、飽和若しくは不飽和の、非置換、一置換若しくは多置換のC〜C20−アルキル残基、C〜C12−アリール残基、C〜C14−アラルキル残基若しくはC〜C−シクロアルキル残基を示すか、あるいは、R及びRは、非置換、一置換若しくは多置換のC〜C−シクロアルキル残基を介して相互に結合する。
【0039】
適当なヒドロキシルアミンには、例えば、脂肪族及び芳香族のヒドロキシルアミン(N−置換及びO−置換されたヒドロキシルアミンを含む)が包含される。N−置換された脂肪族及び芳香族の低分子量ヒドロキシルアミンが好ましい。本発明においては、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、N−イソプロピルヒドロキシルアミン、N,N−ジベンジルヒドロキシルアミン、N,N−ジブチルヒドロキシルアミン、及びN−t−ブチルヒドロキシルアミンが特に好ましい。
【0040】
本発明によれば、ヒドロキシルアミンは最終的なポリクロロプレン分散液中へ単独で添加されるか、又は他の助剤と共に添加される。ヒドロキシルアミンの添加量は、老化から保護しようとするポリクロロプレンの性状と所望の保護効果の程度に応じて左右されが、当業者であれば、予備的な試験によって容易に決定することができる。ヒドロキシルアミンの一般的な添加量は、固形分に基づいて、0.05〜2重量%(好ましくは、0.1〜1重量%)である。ヒドロキシルアミンはいずれの時点で添加してもよいが、好ましくは、分散液の重合による調製直後に添加するか、又は最終的な配合物中への後添加剤として添加してもよい。
【0041】
本発明による組成物は、付加的にナノメーターサイズの酸化亜鉛粒子(D1)(平均粒度:150nm未満、好ましくは100nm未満、特に好ましくは50nm未満)を含有していてもよい。ナノメーターサイズの酸化亜鉛粒子は球状ではないので、粒子の大きさは「平均粒子径」を用いて表現するよりも、「粒度」を用いて表現するほうがより正確である。
【0042】
この種の酸化亜鉛粒子(D1)は、本発明による組成物中においては、一次粒子として存在していてもよく、また、凝集塊の状態で存在していてもよい。本発明においては、「酸化亜鉛の平均粒度」という用語は、超遠心分離法によって決定される平均粒度を意味し、一次粒子の大きさと存在することがある凝集塊の大きさも含まれ、重量平均値で規定される。この点に関しては、次の文献を参照されたい:H.G.ミュラー、Progr. Colloid. Polym. Sci.、第107巻、第180頁〜第188頁(1997年)。
【0043】
ナノメーターサイズの酸化亜鉛粒子は、ZnOの水性分散液の状態で本発明による組成物中へ添加する態様が簡便である。このような水性分散液は付加的に高沸点溶剤(例えば、トリエタノールアミン又はエチレングリコール)及び/又は表面改質性化合物を含有していてもよい。ZnO粒子は、前記の粒度を有する非凝集性ZnO一次粒子若しくはZnO凝集塊、又は分散されたZnO一次粒子とZnO凝集塊との混合物から構成されていてもよい。
【0044】
本発明による組成物を製造するために使用される好ましい酸化亜鉛の水性分散液は種々の方法によって調製することができる。しかしながら、特に適当な方法は、亜鉛塩溶液からアルカリを用いて酸化亜鉛粒子を沈殿させ、該沈殿物をさらに加工することによって分散液を調製する方法である。
【0045】
適当な分散液を以下に例示する:
I)酸化亜鉛ゲル(平均一次粒度:<15nm)の再分散によって調製される酸化亜鉛ゾル(例えば、国際公開公報WO00/50503参照)。使用する溶剤としては、水又は水/エチレングリコール混合物が適当であり、所望により、表面改質性化合物を溶剤に添加してもよい。
【0046】
II)例えば、国際公開公報WO02/083797に記載の方法によって製造される酸化亜鉛ゾル(平均一次粒度:<30nm、凝集塊の平均粒度:<100nm)(例えば、国際公開公報WO02/083797参照)。
【0047】
本発明による組成物を調製するために適当なZnO分散液は、表面改質酸化亜鉛(例えば、DE−A10163256参照)を原料として、該公報に記載のいずれかの方法によって調製されるZnO分散液である。
【0048】
本発明の好ましい態様においては、本発明による組成物は他の添加剤、例えば、特に二酸化ケイ素粒子(D2)を含有する。二酸化ケイ素粒子と酸化亜鉛粒子との併用によって、接着性分散液の粘度は増加する。ナノメーターサイズの酸化亜鉛粒子(D1)と二酸化ケイ素粒子(D2)を共存させた分散液は特に好ましい。
【0049】
前述の超遠心分離法によって決定される二酸化ケイ素の平均粒度又は二酸化ケイ素粒子(粒子がほぼ球形の場合)の平均粒子径は、好ましくは1〜400nm(より好ましくは5〜100nm、特に好ましくは8〜50nm)である。二酸化ケイ素の平均粒子径には、一次粒子の粒子径と存在することある凝集塊の粒子径が含まれる。
【0050】
好ましくは、二酸化ケイ素粒子は、水性分散液(SiO粒子の平均粒子径:1〜400nm、好ましくは5〜100nm、特に好ましくは8〜50nm)の状態で本発明による組成物中へ添加する。
【0051】
特に好ましくは、二酸化ケイ素の水性分散液は含水シリカゾルの状態で本発明による組成物中へ添加される。シリカゾルの粒度は、本発明による組成物中への配合に際して実質的な変化をもたらさない。
【0052】
本発明において適当な二酸化ケイ素分散液は、原料として、シリカゾル、シリカゲル、熱分解法シリカ、沈降シリカ及びこれらの任意の混合物を用いて調製することができ、これに関しては、次の文献を参照されたい:DE−A10224898。
【0053】
粒子の表面上にヒドロキシル基を有するSiO粒子も好ましい。水性二酸化ケイ素分散液としては、水性シリカゾルが特に好ましい。
【0054】
本発明の別の好ましい態様においては、本発明による組成物は、前記のZnO粒子とは異なる少なくとも1種の酸化防止剤を含有する。好ましい酸化防止剤は、オリゴ官能性の芳香族第二アミン(D3)及び/又はオリゴ官能性の置換フェノール類(D4)に基づくもの、例えば、下記の文献に記載されているような次のタイプの生成物である:6−PPD、DTPD,DDA,BPH及びBHT等:「ゴム工業用ハンドブック」(1992年版)、バイエル社(レバークーセン、ドイツ)発行、第4章、「ブルカノックス」、第423頁。「ブルカノックスDDA」(ジフェニルアミン誘導体)が特に有効である。
【0055】
HClの放出に対して最適な耐性を示す接着剤を製造するためには、0.1〜10重量%(より好ましくは0.2〜3重量%)の酸化防止剤、好ましくはオリゴ官能性の芳香族第二アミン(D3)又はオリゴ官能性の置換フェノール類(D4)に基づくものを単独で添加してもよく、あるいは2〜30重量%のシリカゾル分散液(D2)と共に添加してもよい。
【0056】
本発明による組成物は、付加的に、その他の常套の接着剤用の助剤及び添加剤(E)を0〜79.99重量%含有することができる。
【0057】
例えば、他のポリマー(例えば、ポリアクリレート、ポリビニリデンクロリド、ポリブタジエン、ポリビニルアセテート及び/又はスチレン−ブタジエンゴム等)を、好ましくは水性分散液(濃度:組成物の固形分に基づいて30重量%まで)の状態で添加してもよい。この種のポリマーは接着剤配合物の特性を改質するために使用することができる。
【0058】
接着剤用のその他の助剤及び添加剤(E)としては、例えば、充填剤(例えば、シリカ粉末、シリカサンド、バライト、炭酸カルシウム、チョーク、ドロマイト又はタルク等)を所望による湿潤剤(例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウムのようなリン酸塩、ポリホスフェート、ナフタレンスルホン酸、ポリアクリル酸のアンモニウム塩若しくはナトリウム塩等)と共に添加してもよい。充填剤及び湿潤剤の配合量は、組成物中の固形分に基づいてそれぞれ、好ましくは75重量%まで(より好ましくは10〜60重量%、特に好ましくは20〜50重量%は)及び0.2〜0.6重量%である。
【0059】
充填剤の添加量は、特に、本発明による組成物が接着剤として使用されるか、又はシーラントとして使用されるかによって左右される。接着剤として使用される場合、充填剤の好ましい最大添加量は、組成物の固形分に基づいて約30〜40重量%である。この場合、ポリクロロプレン粒子の好ましい含有量は40重量%を越える量である。
【0060】
シーラントとして使用する場合、充填剤の好ましい最大添加量は、組成物の固形分に基づいて約60〜75重量%である。この場合、ポリクロロプレン粒子の好ましい含有量は40重量%未満である。
【0061】
さらに別の適当な助剤としては、有機増粘剤、例えば、セルロース誘導体、アルギン酸塩、澱粉、澱粉誘導体、ポリウレタン増粘剤、及びポリアクリリ酸等を、固形分に基づいて約0.01〜1重量%使用してもよく、あるいは、無機増粘剤、例えば、ベントナイト等を、固形分に基づいて0.05〜5重量%使用してもよい。
【0062】
保存のために、本発明のよる接着剤組成物には殺カビ剤を添加することができる。殺カビ剤の使用量は、不揮発性成分に基づいて、例えば、0.02〜1重量%である。適当な殺カビ剤としては、フェノールとクレゾール誘導体及び有機錫化合物等が例示される。
【0063】
本発明によるポリマー分散液には、所望により、粘着性樹脂、例えば、未変性若しくは変性天然樹脂(例えば、ロジンエステル及び炭化水素樹脂等)及び合成樹脂(例えば、フタレート樹脂等)を分散状態で添加することができる。この点に関しては、次の文献を参照されたい:R.ジョーダン及びR.ヒンターバルドナー、「粘着樹脂」、第75頁〜第115頁(1994年)、ヒンターバルドナー・フェアラーク、ミュンヘン。70℃よりも高い軟化点(特に好ましくは、110℃よりも高い軟化点)を有するアルキルフェノール樹脂及びテルペン樹脂の分散液が好ましい。
【0064】
可塑剤、例えば、アジペート、フタレート又はホスフェート等に基づく可塑剤を、固形分含量に基づいて0.5〜10重量%添加することができる。
【0065】
本発明による組成物中の固形分含量は、組成物の全重量に基づいて、好ましくは少なくとも約50重量%(より好ましくは少なくとも約60重量%、就中、70重量%よりも高含量)である。換言すれば、本発明による組成物中の揮発性成分の含有量は、好ましくは約50重量%未満(より好ましくは約40重量%未満、就中、約30重量%未満)である。
【0066】
本発明による組成物中には、有機溶剤、例えば、トルエン、キシレン、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ジオキサン、トリエタノールアミン、エチレングリコール又はこれらの任意の混合溶剤を配合することができる。本発明による含水組成物中への有機溶剤の添加量は、揮発性成分の全重量に基づいて多くて約50重量%である。有機溶剤は、例えば、接着が困難な支持体への接着性の改善に役立つ。
【0067】
本発明による組成物を製造するためには、下記の成分(A)及び(B)並びに(D1)、(D2)、(D3)、(D4)及び(E)の水性分散液を以下の割合で一緒に混合する方法が簡便である:
(A)ポリクロロ分散液 50〜99.95重量%
(B)ヒドロキシルアミン 0.05〜2重量%
(D1)酸化亜鉛分散液 0〜10重量%
(D2)二酸化ケイ素分散液 0〜40重量%
(D3、D4)酸化亜鉛以外の少なくとも1種の酸化防止剤 0〜10重量%
(E)接着剤用の常套のその他の助剤及び添加剤 0〜79.95重量%
【0068】
上記の配合処方における各成分の重量百分率は、組成物の固形分含量に基づくものであり、全体で100%までである。特に言及しない限り、以下の記載における重量は固形分含量に関するものである。この場合、固形分含量は、不揮発性成分、例えば、特にポリクロロプレン、ZnO及びSiOの重量を意味する。揮発性成分には、特に、250℃/15torr までの条件下で留去可能な高沸点溶剤も含まれる。固形分含量は全体で100重量%までである。さらに、酸化防止剤(D1)の好ましい添加量は、組成物の固形分含量に基づいて0〜10重量%(より好ましくは0〜3重量%)である。
【0069】
本発明は、本発明による組成物の製造法であって、含水ポリクロロプレン分散液(A)を含水ヒドロキシルアミン分散液(B)若しくは水溶性ヒドロキシルアミンと混合し、該混合物中へ、所望により酸化亜鉛分散液(D1)及び/又は二酸化ケイ素分散液(D2)及び/又は酸化防止剤(D3、D4)を添加し、得られる混合物中へ、所望によりさらに接着剤用の常套のその他の助剤及び添加剤(E)を添加することを含む該製造法にも関する。
【0070】
本発明による組成物は、接着剤又はシーラント(sealant)として使用することができるが、接着剤としての用途が好ましい。
【0071】
本発明は、接着剤配合物を製造するためのヒドロキシルアミン含有ポリマー分散液の用法、このようにして得られる接着剤配合物自体、該接着剤配合物で被覆された支持体、ポリマー分散液から得られるポリマー塗料、及び該ポリマー塗料によって接合された支持体も提供する。
【0072】
DIN 16920によれば、接着剤は、被着体を表面結合(接着)と内部強度(凝集)によって接合させることができる非金属性物質である。
【0073】
本発明による接着剤配合物は既知の方法、例えば、スプレッド法、流し込み法、ナイフ塗布法、噴霧法、ローラー塗布法又は浸漬塗布法等によって塗布することができる。接着剤皮膜は室温下又は高温下で乾燥させることができる。
【0074】
好ましい塗布法は、例えば、EP−A0624634に記載されているような噴霧法である。
【0075】
本発明による接着剤は、例えば、類似若しくは非類似の特性を有するいずれの支持体、例えば、木材、紙、プラスチック、織物、革、ゴム又は無機材料(例えば、セラミック、陶器、繊維ガラス及びセメント等)の接合にも使用されるが、繊維及び紙の含浸、被覆及び積層のために、繊維用又は靴の飾り先の補強用のバインダーとして使用することができ、また、絶縁材料としても使用することができる。
【実施例】
【0076】
A.使用した原料
実施例において使用した原料を以下の表1〜表3に示す。
【表1】

ポリクロロプレン粒子の平均粒子径は95nmであった。
【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
「ボーチャーズ(登録商標)VP9802」:粒度が50000〜150000nmの酸化亜鉛の水性分散液。
「ディスパーコル(登録商標)S3030」:300m/gの比表面積及び約9nmの平均粒子径を有するシリカゲル。
【0080】
B.使用したナノメーターサイズの酸化亜鉛分散液Aの製造
nmサイズの酸化亜鉛分散液AはWO 00/50503(実施例1:酢酸亜鉛二水和物からのメタノール中での酸化亜鉛ゲルの製造)に記載された方法に従って製造した。酸化亜鉛ゲルからの酸化亜鉛ゾルの製造は該国際公開公報の実施例7に記載された方法に準拠しておこなった。酸化亜鉛ゲルを水とトリエタノールアミンのみと混合し、メタノール成分は真空下で除去することによって、トリエタノール/水を媒体とするナノメーターサイズの酸化亜鉛分散液を得た。平均一次粒度は10.5nm(数平均値)であり、酸化亜鉛含量は15%であった。
【0081】
C.測定方法
C1:熱安定度(HCl安定度)の測定
DIN 53381(方法B)に従って、乾燥させた接着剤試料について試験した。
【0082】
測定法
測定装置:「763PVCサーモマット」(メトローム社(CH−9101、ヘリサウ、スイス)製)。
試料(厚さ:0.1〜1mm)を、エッジ長さが約2〜3mmになるように切断し、0.2gを秤量して試験管内へ入れ、測定は180℃において、空気をキャリヤーガスとして使用することによっておこなった。生成したHClガスが再溶解した水の電気抵抗を測定した。電気抵抗が50μS/cmに達するまでの時間をHCl安定度とした。この値が高いほど、測定に供した試料は、HCl放出の点で、より安定である。
【0083】
D.結果
D1:貯蔵安定性(pHの変化性)
ジエチルヒドロキシルアミン2gをポリクロロプレン分散液100g中へ撹拌下で添加し、該分散液を60℃で貯蔵した。該分散液を7日間及び14日間貯蔵した後、該分散液のpHを測定した。結果を以下の表4に示す。
【0084】
【表4】

【0085】
D2:種々の酸化亜鉛分散液を使用し、酸化防止剤「レノフィットDDA」をDEHAで置き換えた配合物の熱安定性
結果を以下の表5に示す。
【0086】
【表5】

【0087】
D3:「ディスパーコルC」含有配合物のHCl安定度に対するN,N−ジエチルヒドロキシルアミン(DHHA)及びナノメーターサイズの二酸化ケイ素の影響
結果を以下の表6に示す。
【0088】
【表6】

【0089】
配合物7〜10は配合物11〜14に対応する(但し、後者は、本発明に従ってヒドロキシルアミン誘導体を含有する)。配合物7、8、9及び10に関するデータをそれぞれ配合物11、12、13及び14に関するデータと比較すれば明らかなように、いずれの比較においても、ヒドロキシルアミン誘導体を含有する配合物の場合には、HClの発生は著しく遅延される(即ち、ヒドロキシルアミン誘導体の添加は安定化効果をもたらす)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
残存モノマーを含有しない水性ポリマー分散液であって、下記の成分(A)及び(B)を含有する該水性ポリマー分散液:
(A)ポリクロロプレン粒子、及び
(B)下記の一般式(I)で表されるヒドロキシルアミン誘導体:
【化1】

式中、R及びRは相互に独立して、水素原子(H)、線状若しくは分枝状で、飽和若しくは不飽和の、非置換、一置換若しくは多置換のC〜C20−アルキル残基、C〜C12−アリール残基、C〜C14−アラルキル残基若しくはC〜C−シクロアルキル残基を示すか、あるいは、R及びRは、非置換、一置換若しくは多置換のC〜C−シクロアルキル残基を介して相互に結合する。
【請求項2】
ヒドロキシルアミン誘導体(B)を、分散液の固形分に基づいて、0.05〜2重量%含有する請求項1記載の水性ポリマー分散液。
【請求項3】
ヒドロキシルアミン誘導体(B)を、分散液の固形分に基づいて、0.1〜1.0重量%含有する請求項1記載の水性ポリマー分散液。
【請求項4】
ヒドロキシルアミン誘導体(B)として、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン及び/又はN−イソプロピルヒドロキシルアミンを含有する請求項1記載の水性ポリマー分散液。
【請求項5】
請求項1記載の水性ポリマー分散液を含有する接着剤配合物又はシーラント配合物。
【請求項6】
請求項5記載の接着剤配合物を用いて被覆された支持体。
【請求項7】
請求項1記載の水性ポリマー分散液から得られるポリマー塗料。
【請求項8】
請求項7記載のポリマー塗料によって結合された支持体。
【請求項9】
下記の工程(1)〜(3)を含む水性ポリクロロプレン分散液の製造法:
(1)モノマー性ポリクロロプレンを重合させ、
(2)残存するモノマー及びその他の揮発性成分を蒸留によって除去し、次いで
(3)下記の一般式(I)で表されるヒドロキシアルキルアミンを添加する:
【化2】

式中、R及びRは相互に独立して、水素原子(H)、線状若しくは分枝状で、飽和若しくは不飽和の、非置換、一置換若しくは多置換のC〜C20−アルキル残基、C〜C12−アリール残基、C〜C14−アラルキル残基若しくはC〜C−シクロアルキル残基を示すか、あるいは、R及びRは、非置換、一置換若しくは多置換のC〜C−シクロアルキル残基を介して相互に結合する。
【請求項10】
水性ポリクロロプレン分散液の安定化法であって、該分散液の調製後、残存モノマーを除去し、次いで、下記の一般式(I)で表されるヒドロキシアルキルアミンを添加する工程を含む該安定化法:
【化3】

式中、R及びRは相互に独立して、水素原子(H)、線状若しくは分枝状で、飽和若しくは不飽和の、非置換、一置換若しくは多置換のC〜C20−アルキル残基、C〜C12−アリール残基、C〜C14−アラルキル残基若しくはC〜C−シクロアルキル残基を示すか、あるいは、R及びRは、非置換、一置換若しくは多置換のC〜C−シクロアルキル残基を介して相互に結合する。

【公開番号】特開2007−217668(P2007−217668A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−4455(P2007−4455)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】