説明

水性分散液

【課題】 経時での安定性に優れ、透明性とガスバリア性に優れた乾燥皮膜が得られるEVOHの水性分散液の提供を目的とすること。
【解決手段】 α−ヒドロキシアルキル基、およびスルホン酸基を有し、エチレン含有率が20〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体の水性分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体の水性分散液に関するものであり、さらに詳しくは、経時安定性に優れ、ガスバリア性に優れた乾燥皮膜が得られるエチレン−ビニルアルコール系共重合体の水性分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン−ビニルエステル系共重合体をケン化して得られるエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記する。)は、透明性、ガスバリア性、耐溶剤性、耐油性、機械強度などに優れており、包装材料や保護皮膜材料として有用である。
例えば、内容物の酸化防止や保香性が必要とされる食品、医薬品などの包装材には、EVOHを内層や中間層に有する多層構造体のフィルム、シート、ボトルが広く用いられている。また、プラスチック、金属、紙、木材などの表面にEVOH層を形成することによって、これらに含まれる可塑剤や防腐剤などが染み出して表面を汚染するのを防止したり、油分や有機溶剤などから表面を保護することが可能である。
【0003】
一般に、EVOH層を形成する方法としては、溶融成形による方法と、EVOH溶液、あるいは分散液を基材に塗布、乾燥する方法が挙げられ、フィルムなどの多層構造体の製造には、溶融成形法が好ましく用いられる。一方、表面保護層を形成する場合には、薄膜が容易に得られ、複雑形状の基材表面にも対応できることから、塗布・乾燥法が好適である。
【0004】
かかる塗布・乾燥法には、EVOH溶液とEVOH分散液のいずれも使用可能であるが、EVOH溶液として、現在、多用されているDMSO溶液、あるいは水/アルコール混合溶媒溶液は、いずれも乾燥に高温を要し、また、使用時にに有機溶剤が揮散し、作業環境を悪化させるという問題がある。さらに、EVOHの高濃度溶液は粘度が高く、塗工性や作業性の点で難点がある
【0005】
一方、EVOH分散液、特に、水を分散媒とする分散液は、環境に対する負荷が小さく、高濃度化しても粘度上昇が小さいという利点も有している。
かかるEVOHの水性分散液としては、例えば、特定量のスルホン酸アニオン性基がランダムに導入されたEVOHを用いた、安定性が改善された水性分散液が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−086240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のEVOH水性分散液は、スルホン酸アニオン性基の電気的反発によって、水中でEVOHの分散粒子を安定化したものであるが、長期間の安定性は、まだまだ不充分であった。
さらに、かかる水性分散液から得られるEVOH皮膜は、透明性、およびガスバリア性の点で、まだまだ改善の余地があるものであった。
【0008】
すなわち、本願発明は、経時での安定性に優れ、透明性とガスバリア性に優れた乾燥皮膜が得られるEVOHの水性分散液の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意検討した結果、α−ヒドロキシアルキル基、およびスルホン酸基を有し、エチレン含有率が20〜60モル%である変性EVOHを用いた水性分散液によって本発明の課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
かかる変性EVOHの水性分散液は、スルホン酸基同士の電気的反発に加え、α−ヒドロキシアルキル基中の一級水酸基によって分散粒子表面に安定な水和層が形成されることによって、変性EVOHが水中に安定に微分散され、分散質粒子の凝集が高度に抑制されたものと推測される。
また、本発明の水性分散液中の変性EVOH分散粒子は小粒径で安定に存在しているため、緻密な乾燥皮膜が得られ、その結果、優れた透明性とガスバリア性が得られるものと推測される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性分散液は、分散質粒子の粒子径が小さく、凝集物の発生が少なく、長期間の保存が可能であり、また使用時の安定性にも優れるものである。さらにその乾燥皮膜は透明性とガスバリア性に優れるものである。かかる特徴により、本発明の水性分散液は、プラスチックや金属、紙、木材などの表面保護層形成用の塗工液として好適に用いることができ、各種基材の表面に耐溶剤性に優れ、透明性とガスバリア性に優れた表面保護膜を形成することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、各順に説明する。
【0013】
〔変性EVOH〕
まず、本発明で用いられる変性EVOHについて説明する。
本発明で用いられる変性EVOHは、α−ヒドロキシアルキル基とスルホン酸基を有し、エチレン含有量が20〜60モル%である変性EVOHである。
かかる変性EVOHにおけるビニルアルコール構造単位は、通常のEVOHと同様、ビニルエステル系モノマーに由来するもので、かかるビニルエステル系モノマーをエチレン、その他のモノマーと共重合させた後、これをケン化して得られるものである。
また、α−ヒドロキシアルキル基、およびスルホン酸基をEVOHに導入する方法は、エチレンとビニルエステル系モノマーの共重合時に同時に相当するモノマーを共重合する方法、EVOHに後反応によって導入する方法のいずれを採用することも可能である。
【0014】
かかるビニルエステル系モノマーとしては、市場からの入手性、経済性、および製造工程で生成する副生成物等の除去効率が良い点から、酢酸ビニルが好ましく用いられる。このほか、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等を用いることも可能で、これらを単独で、あるいは混合して用いても良い。
また上述のモノマーの他に、樹脂物性に大幅な影響を及ぼさない範囲であれば、共重合成分として、イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル;アクリロニトリル等のニトリル類、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類、などが共重合されていてもよい。
【0015】
かかるエチレン−ビニルエステル共重合体は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより製造することが可能であるが、通常は、エチレン加圧下での溶液重合が好ましく用いられる。エチレンの圧力は、所望のエチレン含有量に応じて適宜制御すればよいが、通常は25〜100kg/cm2の範囲から選択される。
また、かかる溶液重合で用いられる溶媒としてはアルコール系溶媒が好適であり、特にメタノールが好ましく用いられる。
さらにエチレン−ビニルエステル共重合体のケン化も、公知の酸ケン化、アルカリケン化のいずれの方法を採用することが可能であるが、通常は、アルカリ金属水酸化物、好適には水酸化ナトリウムをケン化触媒とするアルカリケン化が行われる。
【0016】
本発明で用いられる変性EVOHのエチレン含有量は20〜60モル%であり、特に25〜55モル%、さらに30〜50モル%のものが好適に用いられる。かかるエチレン含有量が大きすぎると、これから得られた水性分散液から得られたEVOH層のガスバリア性が不充分となる傾向があり、逆に小さすぎると水との親和性が強くなり、水性分散液の安定性が不充分となる傾向がある。
【0017】
また、かかる変性EVOHのケン化度は、通常、90モル%以上、特に98モル%以上、さらに99モル%以上のものが好ましい。かかるケン化度は高ければ高いほどガスバリア性に優れたEVOH層を得ることができ、逆に低すぎるとガスバリア性が不充分になったり、水との親和性が強くなり、水性分散液の安定性が不充分となる傾向がある。
【0018】
また、変性EVOHの重合度は、通常、300〜3000、特に400〜2000、さらに500〜700のものが好ましく用いられる。かかる重合度は、高いものほど得られたEVOH皮膜の強度が大きくなる傾向があるが、製造が困難になるため実用的ではない。逆に、重合度が小さすぎると、水性分散液から得られた皮膜の強度が小さくなる傾向がある。
【0019】
(α−ヒドロキシアルキル基)
本発明の変性EVOHが有するα−ヒドロキシアルキル基は、その炭素数が、通常、2〜10のものであり、特に2〜6、さらに2〜4のものが好ましい。かかる炭素数が多すぎると立体障害によってEVOHの結晶性を低下させる要因となり、ガスバリア性が不充分となる傾向がある。
また、α−ヒドロキシアルキル基の中でも、特に下記一般式(1)で表される1,2−ジヒドロキシアルキル基が、分散粒子表面の水和層形成の点で好ましい。
【化1】

【0020】
本発明で用いられる変性EVOHのα−ヒドロキシアルキル基の含有量は、通常0.5〜10モル%であり、特に1〜5モル%、さらに2〜4モル%のものが好ましく用いられる。かかるα−ヒドロキシアルキル基の含有量が少なすぎると水性分散液の安定性が不充分になる傾向があり、逆に多すぎると乾燥皮膜のガスバリア性が不充分となる傾向がある。
【0021】
かかるα−ヒドロキシアルキル基は、ガスバリア性や熱安定性の点からEVOHの主鎖に直接結合していることが望ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、各種結合鎖を介してEVOHの主鎖と結合していてもよい。
かかる結合鎖としては、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素鎖、−O−、−(CH2O)m−、等のエーテル結合を含む結合鎖、−CO−、−CO(CH2mCO−等のカルボニル基を含む結合鎖、−S−、−SO−、−SO2−、等の硫黄原子を含む結合鎖、−NR−、−CONR−、等の窒素原子を含む結合鎖、ケイ素、チタン、アルミニウムなどの金属原子を含む結合鎖などを挙げることができる。
かかる結合鎖が長いと立体障害によってガスバリア性を低下させる傾向があるため、短いものが好ましく、原子数で3以下であることが望ましい。
【0022】
EVOHにα−ヒドロキシアルキル基を導入する方法としては、共重合による方法、後反応による方法のいずれでも可能である。
例えば、後反応による方法としては、EVOHの水酸基にグリシジル化合物を付加反応する方法が挙げられる。ただし、かかる方法によると、α−ヒドロキシアルキル基がエーテル結合によって主鎖と結合するため、熱安定性が必要となる用途に対しては好ましくない場合がある。
【0023】
また、共重合の場合、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合してエチレン−ビニルエステル共重合体とする際に、さらに共重合モノマーとして末端に水酸基を有するオレフィン化合物を用いればよく、かかるオレフィン化合物としては、4−ヒドロキシ−1−ブテン、5−ヒドロキシ−1−ペンテン、6−ヒドロキシ−1−ヘキセンなどのモノヒドロキシオレフィン化合物、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセンなどのジヒドロキシオレフィン化合物を挙げることができる。
なお、かかる水酸基を有するオレフィン化合物中の水酸基がケン化工程等で脱保護可能な官能基で保護されているものもビニルエステル等との共重合性の点で好ましく、例えば、これらのアシル化物などの誘導体を挙げることができ、特に、ビニルエステル系モノマーとして多用される酢酸ビニルとケン化工程での副生物が共通するアセチル化物が好ましく用いられる。
【0024】
本発明において、最も好ましい実施態様である、一般式(1)で表される1,2−ジヒドロキシ基がEVOH主鎖に直接結合した変性EVOHを得る方法としては、(i)共重合モノマーとして3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、あるいはそのアシル化物などの誘導体を用い、これとビニルエステル系モノマー、エチレンと共重合し、次いで得られた共重合体をケン化する方法、(ii)共重合モノマーとしてビニルエチレンカーボネートを用い、得られた共重合体をケン化、脱炭酸する方法、(iii)共重合モノマーとして2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランを用い、得られた共重合体をケン化、脱アセタール化する方法等を挙げることができる。
【0025】
中でも、共重合反応性に優れ、変性基をEVOH中に均一に導入することが容易である点、工業的な取扱い性に優れる点から(i)の方法が好ましく用いられる。特に、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテンのアセチル化物を用いれば、ビニルエステル系モノマー等との共重合性に優れ、ビニルエステル系モノマーとして多用される酢酸ビニルとケン化時の副生成物が共通するため、その分離回収を同時に行うことが可能な点から好ましい。
【0026】
(スルホン酸基)
本発明の変性EVOHは、さらにスルホン酸基を有するものである。
かかるスルホン酸基は、EVOHの主鎖に直接結合しているものでも、各種結合鎖を介して結合しているものでもよい。
かかる結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素鎖、−O−、−(CH2O)m−、等のエーテル結合を含む結合鎖、−CO−、−CO(CH2mCO−等のカルボニル基を含む結合鎖、−S−、−SO−、−SO2−、等の硫黄原子を含む結合鎖、−NR−、−CONR−、等の窒素原子を含む結合鎖、ケイ素、チタン、アルミニウムなどの金属原子を含む結合鎖などを挙げることができる。
なお、かかるスルホン酸基は、水中でスルホン酸基となるものであれば、その一部、あるいは全部が塩を形成していても構わず、また、その一部がエステル化されていても構わない。
【0027】
本発明で用いられる変性EVOH中のスルホン酸基の含有量は、通常、0.1〜3モル%であり、特に0.2〜2モル%、さらに0.3〜1モル%の範囲が好適に用いられる。かかるスルホン酸基の含有量が少なすぎると水性分散液の安定性が不充分になる傾向があり、逆に多すぎると乾燥皮膜のガスバリア性が不充分となる傾向がある。
【0028】
また、かかるスルホン酸基含有量は、α−ヒドロキシアルキル基含有量よりも少なくすることが好ましく、通常α−ヒドロキシアルキル基含有量の10〜90%、特に20〜80%の範囲が好ましく用いられる。
【0029】
EVOHにスルホン酸基を導入する方法としては、共重合による方法、後反応による方法のいずれも可能である。
例えば、共重合による方法としては、エチレンとビニルエステル系モノマー、およびその他のモノマーを共重合してエチレン−ビニルエステル系共重合体とする際に、さらに共重合モノマーとしてスルホン酸基を有するビニル化合物を用いればよく、かかるビニル化合物としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアクリルアミド系スルホン酸化合物;スチレンスルホン酸などのスチレン系スルホン酸化合物;アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸などのアリル系スルホン酸化合物;ビニルスルホン酸などのビニル系スルホン酸塩化合物;これらのナトリウムアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、およびエステル化物を挙げることができる。
かかる共重合モノマーを用いて得られたスルホン酸基、あるいはその誘導体を有するエチレン−ビニルエステル共重合体は、公知の方法でケン化することにより、スルホン酸基を有する変性EVOHへと変換することができる。
【0030】
また、後反応による方法としては、EVOHの水酸基へのスルホン酸基含有ビニル化合物のマイケル付加反応、スルホン酸基含有アルデヒド、あるいはケトンによるアセタール化、ケタール化反応、スルホン酸基含有エポキシ化合物の付加反応、あるいは硫酸によるエステル化反応などを挙げることができる。
中でも、反応条件がマイルドであり、未反応の原料や副生物の除去が容易であるなどの点でマイケル付加反応が好ましく用いられる。
【0031】
かかるEVOHの水酸基へのマイケル付加反応に用いられるスルホン酸基を有するビニル化合物としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアクリルアミド系スルホン酸化合物;スチレンスルホン酸などのスチレン系スルホン酸化合物;アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸などのアリル系スルホン酸化合物;ビニルスルホン酸などのビニル系スルホン酸塩化合物;これらのナトリウムアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、およびエステル化物を挙げることができる。中でも、少量の変性で優れた水性分散液の安定化効果が得られる、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が好ましく用いられる。
【0032】
なお、かかるマイケル付加反応を本発明のα−ヒドロキシアルキル基を有するEVOHに対して行う場合、EVOH主鎖の2級水酸基と、側鎖の1級水酸基の両方に付加する可能性があるが、立体障害、および反応性の点で側鎖1級水酸基への付加が優先するものと推測される。そして、かかる反応によって得られた本発明の変性EVOHは、スルホン酸基が主鎖から距離をおいて存在するため、その電気的反発の効果が、未変性のEVOHにスルホン酸を導入したものと比較して大きいものと推測される。
【0033】
EVOHと上記スルホン酸基含有ビニル化合物とのマイケル付加反応は、通常、溶液中で行われ、かかる溶媒としてはEVOHを溶解するものであれば、特に制限なく用いることが可能であるが、特に水−メチルアルコール、水−エチルアルコール、水−プロピルアルコール、水−ブチルアルコールなどの水と炭素数1〜4の低級アルコールの混合系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが好適であり、中でも反応後の精製・溶液の留去の経済性・環境に対する負荷に優れる点で、イソプロピルアルコールと水の混合溶媒が好ましく用いられる。
【0034】
かかるマイケル付加反応は、通常、アルカリ触媒の存在下で行われ、かかる触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、トリエチルアミンなどを挙げることができる。
かかる触媒の使用量は、通常、EVOHの水酸基に対して0.1〜100モル%であり、特に20〜80モル%、さらに50〜60モル%の範囲が好適に用いられる。
触媒の使用量が少なすぎると未反応の原料が多く系内に残存する傾向があり、逆に多すぎると反応後の中和酢酸が多量必要となり、また副生する酢酸ナトリウム量も増大するため、好ましくない。
【0035】
反応温度および反応時間は、用いるビニル化合物、触媒量、所望の変性量によって一概に言えないが、通常、5〜90℃、特に20〜70℃の範囲で行われ、30分〜20時間、特に5〜8時間の範囲から適宜選択される。
【0036】
(水性分散液)
かくして得られたα−ヒドロキシアルキル基とスルホン酸基を有する変性EVOHは、自己乳化性に優れ、公知の方法によって水性分散液とすることが可能である。
例えば、変性EVOHを水と有機溶剤の混合溶媒溶液とし、かかる溶液を攪拌しながら加熱し、必要に応じて減圧し、有機溶剤のみを留去することによって、本発明の水性分散液を得ることができる。
【0037】
かかる方法で用いられる有機溶剤としては、水との相溶性に優れ、水よりも沸点が低いものであり、水との混合溶媒が本発明の変性EVOHを溶解するものであれば特に制限なく用いることが可能であり、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの脂肪族1価アルコール類が好ましく用いられる。
かかる有機溶剤と水との混合比率は、所望の分散液の濃度や変性EVOHの溶解性などによって異なるので一概には言えないが、通常、1/4〜4/1の範囲が用いられる。
【0038】
その他の水性分散液の製造方法として、上述の変性EVOHの水/有機溶剤混合溶液を水と接触させて変性EVOHを微粒子状に析出させ、次いで溶剤を除去する方法や、同混合溶液を冷却することにより微粒子を析出させ、これを濾別した後、水中に分散させる方法、などを挙げることができる。
【0039】
かくして本発明の水性分散液が得られるわけであるが、その固形分濃度は使用用途により適宜選択すればよいが、通常、5〜60重量%であり、特に10〜50重量%、さらに15〜40重量%の範囲が好適に用いられる。本発明の水性分散液は、高濃度であっても安定性に優れる点を特徴とするものであるが、かかる固形分濃度があまりに高すぎると、高温、あるいは超低温条件において水性分散液の安定性が不充分となる場合がある。
【0040】
本発明の水性分散液には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、通常の水性分散液に用いられる添加剤、例えば、粘度低減剤としてアルカリ(土類)金属塩などの電解質、層状無機化合物、無機酸化物などの無機フィラー、造膜助剤、界面活性剤などの分散剤、酸化防止剤、各種安定剤、顔料、滑剤、防黴剤、防腐剤、などを配合することができる。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0042】
実施例1
(α−ヒドロキシ基含有EVOHの作製)
冷却コイルを持つ重合缶に酢酸ビニルを500重量部、メタノール75重量部、アセチルパーオキシド500ppm(対酢酸ビニル)、クエン酸20ppm(対酢酸ビニル)、および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン50重量部を仕込み、系を窒素ガスで一旦置換した後、エチレンで置換して、さらにエチレンを圧力50kg/cm2となるまで圧入し、攪拌しながら、67℃まで昇温、重合を開始した。重合率が50%になった6時間後に重合反応を停止した。
【0043】
得られたエチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液を棚段塔(ケン化塔)の塔上部より10kg/時の速度で供給し、同時に該共重合体中の酢酸基に対して、0.012当量の水酸化ナトリウムを含むメタノール溶液を塔上部より供給した。一方、塔下部からは15kg/時でメタノールを供給した。その際の塔内温度は100〜110℃、塔圧は3kg/cm2Gであった。仕込み開始後30分から、1,2−ジヒドロキシアルキル基含有EVOHの30%メタノール溶液を塔底部から取出した。
【0044】
かかるメタノール溶液をメタノール/水溶液調整塔の塔上部から10kg/時で供給、塔下部からは120℃のメタノール蒸気を4kg/時、水蒸気を2.5kg/時の速度で供給した。その際の塔内温度は95〜110℃であった。仕込み開始後30分から、1,2−ジヒドロキシアルキル基含有EVOHの水/アルコール溶液(樹脂濃度35%)を塔底部から取出した。
【0045】
かかる水/アルコール溶液を、孔径4mmのノズルより、メタノール5%、水95%よりなる5℃に維持された凝固液槽中にストランド状に押し出して凝固させ、得られたストランド状物をカッターで切断し、直径3.8mm、長さ4mm、含水率45%の1,2−ジヒドロキシ基含有EVOHペレットを得た。
得られた1,2−ジヒドロキシ基含有EVOH中の1,2−ジヒドロキシアルキル基の含有量は3モル%、エチレン含有量は38モル%であり、重合度は550、ケン化度は99.5モル%であった。
【0046】
(スルホン酸基の導入)
次いで、かかる1,2−ジヒドロキシアルキル基含有EVOHを水とイソプロピルアルコールの1対1混合溶剤に溶解し、樹脂濃度15%の溶液を得た。
還流冷却器、攪拌機を備えた反応缶に、かかる1,2−ジヒドロキシアルキル基含有EVOHの15%溶液150g、50%水酸化ナトリウム水溶液9gを仕込み、70℃に加熱して1時間攪拌し、均一な溶液を得た。次いで、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムの50%水溶液10.35gを添加し、70℃で攪拌してマイケル付加反応を進行させた。6.5時間後、酢酸を加え、反応液を中和した。次いで、かかる反応液に水を加え、析出物を水洗、脱水後、減圧下で乾燥し、1,2−ジヒドロキシアルキル基とスルホン酸基を有する変性EVOHを得た。
かかる変性EVOH中のスルホン酸基含有量は0.82モル%であった。
【0047】
(水性分散液の作製)
得られた変性EVOH10gを水とイソプロピルアルコールの1対1混合溶剤190gに加え、80℃で加熱、溶解した。得られた溶液を攪拌しながら70℃で減圧し、イソプロピルアルコールを留去し、樹脂濃度14.2%の変性EVOHの水性分散液を得た。
得られた水性分散液の分散粒子径、安定性、造膜性、および酸素ガスバリア性を以下の要領で評価した。結果を表2に示す。
【0048】
〔分散粒子の平均粒子径〕
かかる変性EVOHの水性分散液を1000倍に希釈した後、超音波を用いて30秒間処理し、かかる液中の分散粒子の重量平均粒子径を、Particle Sizing Systems社製「NICOMP380」を用いて測定した。
【0049】
〔水性分散液の安定性〕
得られた変性EVOHの水性分散液を室温で放置し、分散粒子の凝集・沈降、あるいはゲル化までの時間を求めた。
結果を表2に示す。
【0050】
〔皮膜の透明性〕
変性EVOHの水性分散液をPETフィルム上にバーコーターにて塗工し、80℃の送風乾燥機中で5分間乾燥させ、評価用のフィルムを作製した。かかるフィルム(厚み5μm)のヘイズを濁度計(日本電色工業社製「NDH2000」)を用い測定した。結果を表2に示す。
【0051】
〔皮膜の酸素ガスバリア性〕
変性EVOHの水性分散液をPETフィルム上にバーコーターにて塗工し、80℃の送風乾燥機中で5分間乾燥させ、評価用のフィルムを作製した。かかるフィルムの23℃、65%RHにおける酸素ガス透過量(3μm換算)を酸素透過試験機(MOCON社製「OX−TRAN 100A、TWIN、2/20(Lタイプ)」を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0052】
比較例1
実施例1において、α−ヒドロキシアルキル基含有EVOHに代えて、エチレン含有量38モル%、ケン化度99.5モル%、重合度550のEVOHを用い、スルホン酸基の導入時の2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムの50%水溶液の使用量を14.4gとした以外は実施例1と同様に変性EVOH、およびその水性分散液を作製し、実施例1と同様に評価した。それぞれの分析値を表1に、評価結果を表2に示す。
【0053】
比較例2
比較例1において、スルホン酸基の導入時の2−アクリルアミド−1−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムの50%水溶液の使用量を28.8gとした以外は比較例1と同様に変性EVOH、およびその水性分散液を作製し、実施例1と同様に評価した。それぞれの分析値を表1に、評価結果を表2に示す。ただし、分散液がゲル化したため、フィルムの作製とその評価はできなかった。
【0054】
〔表1〕

【0055】
〔表2〕

【0056】
これらの結果から明らかなように、本発明の水性分散液は、スルホン酸基に加えてα−ヒドロキシアルキル基を有する変性EVOHを用いていることから、分散液の安定性に優れ、分散粒子の粒子径が小さく、透明な皮膜が得られ、得られた皮膜の酸素ガスバリア性も優れたものであった。
一方、スルホン酸基のみを有する変性EVOHの場合、分散粒子の平均粒子径が本発明のものと比較して大きく、その分散液の安定性が不充分であり、それはスルホンン酸基の量を増やしても改善できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の水性分散液は凝集物の発生が少なく、長期間の保存が可能であり、また使用時の安定性にも優れるものである。さらにその乾燥皮膜は透明性とガスバリア性に優れるものである。かかる特徴により、本発明の水性分散液は、プラスチックや金属、紙、木材などの表面保護層形成用の塗工液として好適に用いることができ、各種基材の表面に耐溶剤性に優れ、透明性とガスバリア性に優れた表面保護膜を形成することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−ヒドロキシアルキル基、およびスルホン酸基を有し、エチレン含有率が20〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体の水性分散液。
【請求項2】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体が、α−ヒドロキシアルキル基を有するエチレン−ビニルアルコール系共重合体とスルホン酸基を有するビニル化合物とのマイケル付加物である請求項1記載の水性分散液。
【請求項3】
α−ヒドロキシアルキル基が、下記一般式(1)で表される1,2−ジヒドロキシアルキル基である請求項1または2記載の水性分散液。
【化1】


【公開番号】特開2011−16928(P2011−16928A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162552(P2009−162552)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】