説明

水性切削液および水性切削剤

【課題】砥粒の分散安定性及び再分散性に優れた水性切削液を提供することである。
【解決手段】水性切削液は、式(1)で表される化合物及び(2)で表される化合物を必須成分とする。
【化1】
(Rは、炭素数1〜3のアルキル基からなる側鎖を有する炭素数8〜9のアルキル基であり、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基であり、BOはオキシブチレン基であり、aは、炭素数2または3のオキシアルキレン基の平均付加モル数であってa=6〜20であり、bは、オキシブチレン基の平均付加モル数であってb=1〜3であり、AOを構成する炭素数2または3のオキシアルキレン基に占めるオキシエチレン基の割合が70〜100重量%である。)
【化2】
(式(2)中、R、Rは、それぞれ互いに独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基であり、c=1〜10である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性切削液に関する。さらに詳しくは、シリコン単結晶や多結晶、その他化合物半導体やセラミックス等のインゴットの切削液として有用な水性切削液に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶のインゴット等は、炭化ケイ素等から成る遊離砥粒等を用いてワイヤソーやバンドソー等を用いて切削されており、これら切削具と被切削物間の湿潤、摩擦熱の除去、切削屑の洗浄等を目的として、一般に切削液が使用されている。このような切削液としては、従来、鉱物油を主成分とする油性切削液が用いられてきたが、切断面の冷却性に劣ることと、切削後の洗浄に有機溶剤を使用しなければならず環境への負荷が大きいことから、水性切削液にシフトしつつある。
【0003】
また、砥粒は切削液と比較して著しく比重が高いため、タンク内や配管内等において砥粒が堆積し易く、その結果、切削性能や切削精度が低下するという問題や、長時間作業を停止した際に沈降・堆積した砥粒がハードケーキ化するという問題があった。そこで、砥粒のハードケーキ化の問題を解決するために、砥粒の沈降を防止する分散安定性や、分散された砥粒が沈降・堆積した際の再分散性の向上を目的としたグリコール系の水性切削液が提案されている。
【0004】
例えば、低分子量ポリアルキレングリコール、低分子量グリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールから成るポリエーテル化合物を用いたワイヤソー用切削油剤が提案されている(特許文献1:特開2006−111728)。これらの化合物を用いることで切削油剤の粘度が調整され、砥粒の分散安定性を向上させることができる。
【0005】
また、アセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物を用いた水性切削液及び水性切削剤が提案されており(特許文献2:特開2011−012249)、砥粒の分散安定性の向上には一応の効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−111728
【特許文献2】特開2011−012249
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1、2記載の切削液では、いったん分散された砥粒が沈降・堆積した際にハードケーキ化を起こしやすく、再分散性が十分でないことを見いだした。このため、砥粒の分散安定性のみでなく、再分散性について十分な効果がある水性切削液が求められる。
【0008】
本発明の目的は、砥粒の分散安定性及び再分散性に優れた水性切削液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、炭素数1〜3のアルキル基からなる側鎖を有する炭素数8〜9のアルコールに炭素数2または3のオキシアルキレン基およびオキシブチレン基を特定の割合で付加させた構造の化合物を用いた水性切削液が、砥粒の分散安定性及び再分散性に優れることを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、式(1)で表される化合物及び(2)で表される化合物を必須成分とする水性切削液である。
【化1】



(式(1)中、Rは、炭素数1〜3のアルキル基からなる側鎖を有する炭素数8〜9のアルキル基であり、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基であり、BOはオキシブチレン基であり、aは、炭素数2または3のオキシアルキレン基の平均付加モル数であってa=6〜20であり、bは、オキシブチレン基の平均付加モル数であってb=1〜3であり、AOを構成する炭素数2または3のオキシアルキレン基に占めるオキシエチレン基の割合が70〜100重量%である。)
【化2】


(式(2)中、R、Rは、それぞれ互いに独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基であり、c=1〜10である。)
【0011】
また、式(1)の化合物および式(2)の化合物に加えて、さらに下記の式(3)で表される化合物を必須成分とする水性切削液である。
【化3】


(式中、R、R、Rは、それぞれ互いに独立して、水素原子、炭素数2〜4のアルカノール基、または炭素数1〜10のアルキル基である。)
【0012】
さらに、前記水性切削液、および遊離砥粒を含有することを特徴とする、水性切削剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、砥粒の分散安定性及び再分散性に優れた水性切削液を提供することができるため、大変有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(式(1)で表される化合物)
は、側鎖を有する炭素数8〜9のアルキル基であり、また、炭素数1〜3のアルキル基からなる側鎖を有する炭素数8〜9の一価アルコールから水酸基を除いた残基にあたる。式(1)で表される化合物を製造するのに用いるアルコールは、炭素数1〜3のアルキル基からなる側鎖を有する炭素数8〜9のアルキル基を有する一価アルコールである。具体的なアルコールの例として、プロピレン、ブテン、イソブチレンを用いてオキソ法によって製造される、分岐型の飽和一級アルコールが挙げられる。該製法によって得られる市販品として、例えば、イソオクチルアルコール、2−エチル−1−ヘキサノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール(ノニルアルコール)、イソノニルアルコール等が挙げられ、2−エチル−1−ヘキサノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、イソノニルアルコールが好ましく、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノールが特に好ましい。
【0015】
を構成するアルキル基は側鎖を有する分枝アルキル基である。この側鎖は、炭素数3以下のアルキル基であり、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピルが挙げられるが、メチル基、エチル基が特に好ましい。また、本発明の観点からは、側鎖の数は1〜3個であるが、2個以上が好ましく。3個が特に好ましい。
【0016】
を構成するアルキル基は、具体的には、イソオクチル基、2−エチル−1−ヘキシル基、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル基、イソノニル基が好ましく、2−エチル−1−ヘキシル基、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル基、イソノニル基がさらに好ましく、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル基が特に好ましい。
【0017】
また、一つの切削液中において、式(1)の化合物を構成する、側鎖を有する炭素数8〜9のアルキル基は、一種類であってよく、二種以上の混合物であってよい。また、式(1)の化合物において炭素数は一種類であってよく、二種類以上の混合物であってよい。さらに、式(1)の化合物においてアルキル基の炭素数が同じである場合、アルキル基は、一種類であってよく、二種類以上の異性体の混合物であってよい。式(1)の化合物において側鎖を有するアルキル基が二種類以上混合される場合には、アルキル基の炭素数は、平均値とする。
【0018】
AOは、炭素数2〜3のオキシアルキレン基であり、具体的にはオキシエチレン基、オキシプロピレン基である。オキシエチレン基はエチレンオキシド由来、オキシプロピレン基はプロピレンオキシド由来である。オキシエチレン基とオキシプロピレン基とは、それぞれ、単一でも併用してもよく、両者併用する場合は、ブロック付加物でもランダム付加物でも良い。特に、式(1)で表される化合物の凝固点を低下させてハンドリング性を向上させると共に、水や後述の式(2)で表される化合物との適度な親和性を維持することで再分散性を向上させる目的から、オキシエチレン基とオキシプロピレン基は併用した方が好ましく、ランダム付加物が最も好ましい。
【0019】
aは、炭素数2または3のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、AOとしてオキシエチレン基とオキシプロピレン基とを併用する場合は合計平均付加モル数を示す。(AO)部分にオキシエチレン基とオキシプロピレン基とを併用する場合(両者の合計量を100重量%とする)、オキシエチレン基の割合は70〜95重量%が好ましく、70〜90重量%がより好ましく、75〜85重量%がさらに好ましく、77〜82重量%が最も好ましい。(AO)部分に占めるオキシエチレン基の割合を70重量%以上とすることによって、水や後述の式(2)で表される化合物との親和性が高くなり、砥粒が分離しにくくなる。
【0020】
aの範囲は、6〜20とする。本発明の観点から、aは7以上であることが好ましく、8以上であることが更に好ましい。また、aは、17以下とすることが好ましく、15以下が更に好ましく、12以下が一層好ましく、10以下が最も好ましい。aが6より小さい場合は、先述のRの性能が強くなることで、水や後述の式(2)で表される化合物との適度な親和性が維持できなくなり、分散された砥粒が分離しやすくなる。また、aが20より大きい場合は、式(1)で表される化合物が凝固してハンドリング性が低下したり、先述のRの性能が弱くなることで、砥粒の再分散性が低下する。
【0021】
BOは、ブチレンオキシド由来のオキシブチレン基である。具体的には、オキシ−1−エチルエチレン基、オキシ−1、2−ジメチルエチレン基、オキシテトラメチレン基が好ましく、1,2−ブチレンオキシド由来のオキシ−1−エチルエチレン基が特に好ましい。
【0022】
bは、オキシブチレン基の平均付加モル数を示す。bの範囲は、1〜3が好ましく、1〜2が好ましく、1が特に好ましい。bが1より小さい場合は、砥粒の再分散性が低下し、3よりも大きい場合は、水や後述の式(2)で表される化合物との適度な親和性が維持できなくなり分散された砥粒が分離しやすくなる。
【0023】
(式(2)で表される化合物)
、Rは、それぞれ互いに独立して、水素原子、または炭素数1〜4のアルキル基である。R、Rとの一方または双方がアルキル基の場合は、アルキル基の炭素数は1〜4であるが、4であることがさらに好ましく、また直鎖であっても分岐であっても良い。炭素数1〜4のアルキル基は、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられ、n−ブチル基が特に好ましい。また、式(1)で表される化合物や水との相溶性の観点から、R、Rの少なくとも一方は水素原子であることが特に好ましい。
【0024】
AOは、炭素数2〜3のオキシアルキレン基であり、具体的にはオキシエチレン基、オキシプロピレン基である。オキシエチレン基はエチレンオキシド由来、オキシプロピレン基はプロピレンオキシド由来であり、これらは単一付加物でもよく、ブロック付加物またはランダム付加物でも良い。
【0025】
cは、炭素数2または3のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、AOが2種以上の場合は合計平均付加モル数を示す。cの範囲は、切削液のハンドリング性と砥粒の分散性の観点から1〜10が好ましい。
【0026】
式(2)で表される化合物の好ましい具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられ、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールモノブチルエーテルが好ましく、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールモノブチルエーテルが特に好ましい。これらは、単一でも2種以上を併用しても良い。
【0027】
(式(3)で表される化合物)
、R、Rは、それぞれ、互いに独立して、水素原子、炭素数2〜4のアルカノール基、または炭素数1〜10のアルキル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、デシル基が好ましい。アルカノール基としては、エタノール基、プロパノール基、ブタノール基が好ましい。
【0028】
式(3)の化合物の具体例としては、例えば、メチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、イソブタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−プロピルエタノールアミン、N−イソプロピルエタノールアミン、N,N−ジイソプロピルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン等が挙げられるが、これらは、単一でも2種以上を併用しても良い。なお、これらのうち、トリエタノールアミンが特に好ましい。
【0029】
(分散剤)
本発明の水性切削液には、砥粒の沈降を防止し分散安定性を向上させることを目的として、必要に応じて分散剤を添加することができる。使用できる分散剤としては、切削油の粘度を向上させることを利用するものと、砥粒に吸着した分散剤の反発を利用するものがある。前者としては、例えばベントナイトが挙げられる。後者としては、例えばスチレン・無水マレイン酸共重合体アルキルエステル、オレフィン・無水マレイン酸共重合体、不飽和基を有するポリオキシアルキレン化合物・無水マレイン酸共重合体等のポリカルボン酸系のグラフト共重合体およびその塩が挙げられる。これらのうち、切削液及び切削液組成物の調製のし易さやハンドリング性の観点から、ポリカルボン酸系のグラフト共重合体およびその塩が特に好ましい。これらは、単一でも2種以上を併用しても良い。
【0030】
(水性切削液)
式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物及び水の合計が100重量%となるように各成分を配合して本発明の水性切削液が得られるが、各成分の配合比は下記の通りである。
【0031】
式(1)で表される化合物の含有量は、水及び式(2)で表される化合物との相溶性、砥粒の分散安定性及び再分散性の観点から、0.5〜5.0重量%が好ましく、0.5〜4.0重量%がより好ましく、0.7〜3.0重量%がさらに好ましい。
【0032】
式(2)で表される化合物の含有量は、水及び式(1)で表される化合物との相溶性、砥粒の分散安定性、切削性能の観点から、65.0〜94.5重量%が好ましく、76.0〜92.5重量%がより好ましく、77.0〜89.3重量%がさらに好ましい。
【0033】
水の含有量は、切断時の冷却性、砥粒の分散性や再分散性、消防法上の非危険物化の観点から、5.0〜30.0重量%が好ましく、7.0〜20.0重量%が好ましく、10.0〜20.0重量%がさらに好ましい。
【0034】
また、式(3)で表される化合物を添加する場合、その含有量は砥粒の分散性や再分散性の観点から、上記の式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物及び水の合計100重量%に対して、0.1〜5.0重量%が好ましく、0.1〜2.0重量%がより好ましく、0.1〜1.0重量%がさらに好ましい。
【0035】
さらに、分散剤を添加する場合、その含有量は、上記の式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物及び水の合計100重量%に対して、0.1〜1.5重量%が好ましく、0.5〜1.4重量%がより好ましく、0.7〜1.3重量%がさらに好ましい。分散剤の添加量を1.5重量%以下とすることによって、砥粒が凝集しにくくなり、分散安定性が向上する。
【0036】
(遊離砥粒)
本発明の水性切削液に混合する遊離砥粒、あるいは同時に使用する遊離砥粒としては、金属、金属または半金属の炭化物、金属または半金属の窒化物、金属または半金属の酸化物、金属または半金属のホウ化物、及びダイヤモンド等が挙げられる。ここでいう金属または半金属は、周期律表の3A、4A、5A、3B、4B、5B、6B、7B又は8B族由来のものであり、具体的にはアルミナ、炭化ケイ素、ダイヤモンド、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等が挙げられる。これらのうち、切削速度の観点から炭化ケイ素が好ましく、緑色炭化ケイ素が特に好ましい。また、砥粒の粒径としては、GC#600〜3000のものが好ましい。
【0037】
(遊離砥粒の混合割合)
一実施形態では、水性切削液と遊離砥粒を混合することよって、水性切削剤が得られる。この場合は、式(1)の化合物、式(2)の化合物、(必要に応じて含有されている場合には)式(3)の化合物、水、および遊離砥粒の合計量を100重量%としたとき、切削剤の流動性及び切削効率等の観点から、式(1)の化合物、式(2)の化合物、式(3)の化合物および水の合計量を30.0〜80.0重量%とすることが好ましく、40.0〜70.0重量%とすることがより好ましく、40.0〜60.0重量%とすることがさらに好ましい。
【0038】
また、式(1)の化合物、式(2)の化合物、式(3)の化合物、水、および遊離砥粒の合計量を100重量%としたとき、遊離砥粒の含有量は、切削剤の流動性及び切削効率等の観点から、20.0〜70重量%が好ましく、30.0〜60.0重量%がより好ましく、40.0〜60.0重量%がさらに好ましい。
【0039】
本発明の水性切削液と遊離砥粒との混合物は、公知の方法で均一に撹拌することにより得ることができる。
【0040】
本発明の水性切削液を用いる場合、切削の対象となる非切削物の材質は、シリコン単結晶や多結晶、GaAs、その他半導体やセラミックス等のインゴット等が挙げられ、特に半導体素子や太陽電池の材料であるシリコンウェハーの切断に好適に用いることができる。また、これらの切断には、ワイヤソーやバンドソー加工機を用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、合成品の分析は、H NMR測定により行った。
【0042】
本発明にかかる式(1)で表される化合物の合成例を示す。
(合成例1(化合物1))
5Lオートクレーブに、ノナノール(商品名、協和発酵ケミカル製3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール)433g(3mol)および水酸化カリウム3gを仕込み、窒素置換後、撹拌しながら120℃に昇温した。次に滴下装置によりエチレンオキシド1057g(24mol)を滴下し、1時間反応させた。続いて滴下装置によりブチレンオキシド216g(3mol)を滴下し、2時間反応させた。その後、オートクレーブ内から、反応物を取り出し、塩酸で中和して、pH6〜7とし、含有する水分を除去するため、100℃、1時間、減圧処理を行い、最後に濾過により塩を除去して、1620gの化合物1を得た。
【0043】
(合成例2(化合物4))
5Lオートクレーブに、ノナノール(商品名、協和発酵ケミカル製3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール)433g(3mol)および水酸化カリウム3gを仕込み、窒素置換後、撹拌しながら120℃に昇温した。次に滴下装置によりエチレンオキシド1322g(30mol)とプロピレンオキシド348g(6mol)の混合物を滴下し、1時間反応させた。続いて滴下装置によりブチレンオキシド216g(3mol)を滴下し、2時間反応させた。その後、オートクレーブ内から、反応物を取り出し、塩酸で中和して、pH6〜7とし、含有する水分を除去するため、100℃、1時間、減圧処理を行い、最後に濾過により塩を除去して、2200gの化合物4を得た。(AO)部分におけるオキシエチレン基の割合は79重量%である。
【0044】
(合成例3(化合物5))
5Lオートクレーブに、オクタノール(商品名、協和発酵ケミカル製2−エチルー1−ヘキサノール)391g(3mol)および水酸化カリウム3gを仕込み、窒素置換後、撹拌しながら120℃に昇温した。次に滴下装置によりエチレンオキシド1189g(27mol)を滴下し、1時間反応させた。続いて滴下装置によりブチレンオキシド216g(3mol)を滴下し、2時間反応させた。その後、オートクレーブ内から、反応物を取り出し、塩酸で中和して、pH6〜7とし、含有する水分を除去するため、100℃、1時間、減圧処理を行い、最後に濾過により塩を除去して、1706gの化合物5を得た。
【0045】
上記合成例1及び2に準じて、下記の表1に示す化合物2、3、6、7を合成した。また、その他化合物として、下記の表2に示す化合物8〜10を用いた。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
(実施例1)
化合物1:1.0g、ポリオキシエチレン(4.2モル)ポリオキシプロピレン(4.2モル)モノブチルエーテル(ランダム共重合体:平均分子量:500):5.0g、プロピレングリコール:77.8g、トリエタノールアミン:1.0g、ポリオキシエチレン(11モル)モノアリルモノメチルエーテル・無水マレイン酸共重合体:1.0g、イオン交換水:15.0gを均一になるまで混合し、水性切削液を得た。
【0049】
200mLビーカーに、上記で得られた水性切削液:50.0g、砥粒(緑色炭化ケイ素、昭和電工(株)製グリーンデンシックGC−S #800):50.0g秤量し、ディスパーにて3000rpmで5分間撹拌して水性切削液と遊離砥粒との混合物を得た。この混合物を100mLスクリュー管に全量移し、蓋をして室温にて静置した。静置1日後、分散性試験及び再分散試験を行った。結果を表3に示す。
【0050】
分散安定性試験:砥粒が分離しているかを目視で確認(○:分離なし、×:分離)
再分散性試験:1日静置後のスクリュー管を水平に傾けると同時に1rpmで回転させ始め、回転速度を維持しつつ、回転開始後から砥粒が均一になるまでの時間を計測した。砥粒が均一になるまでの時間が短い程、再分散性に優れることを示す。
【0051】
(実施例2〜5、比較例1〜6)
表3に示した重量で各成分を混合し、水性切削液を得た。
これを用いて実施例1と同様の操作で水性切削液と砥粒との混合物を調製し、1日静置後に分散性試験及び再分散性試験を行った。結果を合わせて表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
本発明の式(1)、(2)及び(3)で表される化合物を必須成分とした実施例1〜5は、いずれも優れた砥粒の分散安定性と再分散性を示した。
【0054】
比較例1では、式(1)のオキシエチレン基の平均付加モル数が本発明の範囲外のため、再分散性に劣る。比較例2では、式(1)のオキシブチレン基を含んでいないため、再分散性に劣る。比較例3〜5では、式(1)の化合物を含んでいないため、再分散安定性に劣る。なお、比較例5では泡立ちが激しいために分散安定性試験が行えなかった。比較例6では、式(1)の化合物の替わりにこの重量分のポリオキシエチレン(11モル)モノアリルモノメチルエーテル・無水マレイン酸共重合体を添加したところ、砥粒の分離を確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物及び式(2)で表される化合物を必須成分とすることを特徴とする、水性切削液。
【化4】


(式(1)中、Rは、炭素数1〜3のアルキル基からなる側鎖を有する炭素数8〜9のアルキル基であり、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基であり、BOはオキシブチレン基であり、aは、炭素数2または3のオキシアルキレン基の平均付加モル数であってa=6〜20であり、bは、オキシブチレン基の平均付加モル数であってb=1〜3であり、AOを構成する炭素数2または3のオキシアルキレン基に占めるオキシエチレン基の割合が70〜100重量%である。)
【化5】


(式(2)中、R、Rは、それぞれ互いに独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、AOは炭素数2または3のオキシアルキレン基であり、c=1〜10である。)
【請求項2】
下記の式(3)で表される化合物を必須成分とすることを特徴とする、請求項1記載の水性切削液。
【化6】


(式中、R、R、Rは、それぞれ互いに独立して、水素原子、炭素数2〜4のアルカノール基、または炭素数1〜10のアルキル基である。)
【請求項3】
請求項1または2記載の水性切削液、および遊離砥粒を含有することを特徴とする、水性切削剤。

【公開番号】特開2013−23662(P2013−23662A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162328(P2011−162328)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】