説明

水性制振塗料組成物

【課題】車体の軽量化に寄与する、幅広い温度領域での高い制振性を有し保存安定性に優れた水性制振塗料組成物を提供する。
【解決手段】重合体粒子のエマルションを用いた水性制振塗料組成物であって、重合体粒子の、(標準ポリスチレン換算重量平均分子量/標準ポリスチレン換算数平均分子量)で規定される多分散度が5以上である水性制振塗料組成物を用いる。組成物によれば、ピーク温度域の幅を広くし、かつピークの低下を抑制することができるので、幅広い温度領域での高い制振性と優れた保存安定性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性制振塗料組成物に関し、さらに詳しくは自動車、内装材、金属屋根、建材、家電機器、モーター、金属製品等の振動により騒音を発生させる製品に使用され、機械的振動や騒音を減衰させる水性制振塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源等のエネルギーの枯渇の問題や、二酸化炭素等の温暖化ガスの発生の問題に鑑み、自動車についても、消費燃料の低減や排気ガスの低減のため、車体の軽量化が大きな課題となっている。従来、車体等の鋼板には、制振性を付与するためにアスファルトシート等のシート型制振材が使用されている。このシート型制振材料を貼り付ける工程を自動化したり、作業環境を改善するため、高分子からなる水性制振塗料組成物を用いた制振材料が開発され、使用されている。
【0003】
高分子を用いる制振材料は、高分子の粘弾性を利用するものであり、外部からの振動エネルギーを熱エネルギーに変換し、外部に放出させて振動エネルギーを損失させる機能を利用するものである。しかし、この減衰効果は、高分子のガラス転移温度(Tg)付近の温度領域にのみ制限される。そのため、高分子を用いる従来の制振材料では、振動減衰に必要な高い損失係数(tanδ)を示す使用可能温度範囲が狭いという問題がある。
【0004】
これに対し、より広い温度範囲で制振性を発現させるために、ガラス転移温度が離れた2種類以上の高分子を混合することが行われている(非特許文献1)。しかし、混合された高分子が非相溶性であれば、それぞれのガラス転移温度で損失係数のピーク(以下、損失係数のピークを与える温度範囲をピーク温度域という。)が現れ、幅広いピーク温度域を得ることができない。また、相溶性が良ければ単一のピーク温度となる。そこで、半相溶性の高分子を選択して混合することが試みられている。しかし、ピーク温度域の幅は広くなるが、ピークの高さが低くなり制振性能は低下するという問題がある。
【0005】
また、2つ以上の高分子を相互網目構造にしたり、非相溶性の樹脂に対し相溶化剤を用いたりする方法も提案されている(特許文献1)。この方法では、ピーク温度域の幅は広がるが、ピークの高さが低くなり制振性能が低下するという問題がある。また、相溶化剤が物性を低下させるという欠点がある。
【0006】
また、所定の分子量範囲を持ち相溶性があり、ガラス転移温度が異なる2種類の樹脂を用いることにより相溶化剤の欠点をなくそうという試みがある(特許文献2)。しかし、相溶性が良いため、ピーク温度域の幅を広くしようとすると、ピークの高さが低くなり、ピークの高さを高くしようとすると、ピーク温度域の幅が狭くなるという問題がある。
【0007】
また、高い損失係数を得るために、マイカなどの扁平な無機フィラーを添加すると、その扁平な構造の為、炭酸カルシウムなどの球状フィラーと比べて、加熱乾燥時に異常膨れが生じる。この異常膨れ対策として、脂肪族アルコールにアルキレンオキサイドを付加したノニオン性化合物が提案されている(特許文献3)。しかし、それらを添加すると損失係数が下がり、制振性能が低下する。
【0008】
また、扁平な無機フィラーは、炭酸カルシウムなどの球状フィラーと比べて分散が悪い。そこで、カルボン酸塩等の分散剤や安定化剤が多量に必要になるが、それらの添加剤は制振性能を低下させる。また、無機充填剤の添加量を多くするため、保存安定性が悪く、塗料が増粘する等の欠点があった。安定化させる添加剤が見つからない為、製造後、出来るだけ早く使うという方法がとられている。しかし、保管時の事故が起きやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−152028号公報
【特許文献2】特開2005−281576号公報
【特許文献3】特開2006−257395号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「高分子制振材料・応用製品の最新動向」、株式会社シーエムシー発行、1997年、p.21」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の従来の水性制振塗料組成物の問題点を解決し、車体の軽量化に寄与する、幅広い温度領域で高い制振性を有し保存安定性に優れた水性制振塗料組成物を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、(標準ポリスチレン換算重量平均分子量/標準ポリスチレン換算数平均分子量)で規定される多分散度が5以上である重合体粒子のエマルションを用いた水性制振塗料組成物が上記課題を解決できることを見出して本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の水性制振塗料組成物は、重合体粒子のエマルションを用いた水性制振塗料組成物であって、該重合体粒子の、(標準ポリスチレン換算重量平均分子量/標準ポリスチレン換算数平均分子量)で規定される多分散度が5以上であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明においては、上記エマルションが、HLBが14以上のポリオキシアルキレン系非イオン性乳化剤を0.1重量%〜20重量%含むことが好ましい。
【0014】
また、上記重合体粒子が、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、(標準ポリスチレン換算重量平均分子量/標準ポリスチレン換算数平均分子量)で規定される多分散度が5以上である重合体粒子のエマルションを用いることにより、ピーク温度域の幅を広くし、かつピークの低下を抑制することが可能となる。これにより、幅広い温度領域での高い制振性を有し保存安定性に優れた水性制振塗料組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の水性制振塗料組成物は、重合体粒子のエマルションを用いた水性制振塗料組成物であって、該重合体粒子の、(標準ポリスチレン換算重量平均分子量/標準ポリスチレン換算数平均分子量)で規定される多分散度が5以上である。
【0017】
本発明に用いる重合体粒子には、アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニルや酢酸ビニル系共重合体等の酢ビ系樹脂、ゴムラテックス等のゴム系樹脂を用いることができるが、アクリル系樹脂が好ましい。アクリル系樹脂には、通常の乳化重合あるいは水溶液重合等によって得られる水系のポリ(メタ)アクリル系樹脂の他、溶剤重合など水系以外の重合手段を用いて得られたポリ(メタ)アクリル系樹脂を強制乳化や自己乳化などの方法によって後乳化させたものも用いることができる。アクリル系樹脂を構成する主たる単量体には、例えば、メチル(メタ)アクリレ−ト、エチル(メタ)アクリレ−ト、n-ブチル(メタ)アクリレ−ト、i-ブチル(メタ)アクリレ−ト、t-ブチル(メタ)アクリレ−ト、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレ−ト、シクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、ラウリル(メタ)アクリレ−ト、ステアリル(メタ)アクリレ−トなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−トなどの水酸基含有(メタ)アクリル系単量体、(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有アクリル系単量体、そしてアクリロニトリルなどのニトリル基含有(メタ)アクリル系単量体を1種以上挙げることができる。
【0018】
さらに、アクリル系樹脂には、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族基を有するビニル系単量体を共重合させることもできる。
【0019】
さらに、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有単量体を共重合させることもできる。
【0020】
本発明における好ましいアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル共重合体又はスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体である。また、これら共重合体は、(メタ)アクリル酸を含むことが好ましい。
【0021】
本発明の重合体粒子の製造には、モノマ−滴下重合、乳化モノマ−滴下重合法などの公知の乳化重合法を用いることができる。
乳化重合において用いられるラジカル生成開始剤としては、通常の乳化重合に用いられているものを使用することができる。例えば過酸化水素、過酸化ベンゾイル、t-ブチルハイドロパ−オキサイド、クメンハイドロパ−オキサイドなどの有機過酸化物、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4-ジメチル)バレロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなどの有機アゾ化合物、さらに過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、などの過硫酸塩をあげることができる。または、これら過硫酸塩や過酸化物と鉄イオンなどの金属イオンおよびピロ亜硫酸ソ−ダ、L-アスコルビン酸などの還元剤とを組み合わせて用いる公知のレドックス系開始剤も用いることが出来る。
【0022】
さらに必要に応じて重合体粒子の分子量を調整するために連鎖移動剤を添加することが出来る。例えば、ラウリルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、そしてα−メチルスチレンダイマ−等を挙げることができる。
【0023】
また、乳化重合において用いられる乳化剤には、例えばアルキルアリルスルホコハク酸ソーダ、アルキルベンゼンスルホン酸ソ−ダ、ラウリル硫酸ソ−ダ、ナトリウムジオクチルスルホサクシネ−ト、またはアンモニウム塩等のアニオン性乳化剤、エチレン性不飽和二重結合を有する反応性乳化剤、ポリオキシアルキレン系エーテル、ポリオキシアルキレン共重合体系エーテル等のノニオン性乳化剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等を挙げることができる。また、ポリビニルアルコ−ル、ヒドロキシエチルセルロ−ス等の水溶性ポリマー、水溶性オリゴマ−等の保護コロイドを用いることもできる。ここで、乳化重合に用いる乳化剤を第1の乳化剤という。
【0024】
主に乳化重合の際に用いられる上述の第1の乳化剤に加え、本発明では以下の第2の乳化剤を含むことが好ましい。これに用いるために好適な乳化剤はノニオン性乳化剤であり、好ましくはHLBが14以上、さらに好ましくはHLBが17以上のポリオキシアルキレン系エーテルである。本発明の組成物にこれら第2の乳化剤を添加した場合、組成物の安定性を向上させることができる。この特定の乳化剤の具体例としては、ポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシアルキレントリスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化クレゾールエーテル、ポリオキシエチレンβ−ナフトールエーテル、ポリオキシエチレンβーナフチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等を挙げることができる。好ましくは、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェニルエーテル、ここでアルキレン基はエチレン基又はプロピレン基である。具体例としては、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、又はポリオキシエチレンジスチレン化クレゾールエーテルである。なお、第2の乳化剤を、上述の第1の乳化剤のノニオン性乳化剤に代えて用いることもできる。
【0025】
これら特定の乳化剤は、エマルション中に0.1重量%〜20重量%含まれるように添加することが好ましい。さらに好ましくは0.3重量%〜10重量%である。0.1重量%より少ないと、塗料の保存安定性が低下し、20重量%より多いと、塗料の物性が低下するからである。
【0026】
また、本発明では、重合体粒子の、(標準ポリスチレン換算重量平均分子量/標準ポリスチレン換算数平均分子量)で規定される多分散度が5以上である。好ましくは、5〜200である。また、分子量は、重量平均分子量が、2万〜100万であることが好ましい。
【0027】
なお、乳化重合において多分散度を大きくするには、例えば、モノマーの滴下中に、開始剤の量、連鎖移動剤の量、反応温度、モノマーの滴下速度、架橋剤の量を2回以上変えて、多段階で変化させる多段重合を用いることにより行うことができる。重合の段数は特に限定されず、目的の多分散度に合わせて適宜設定することができる。また、分子量が異なる複数のエマルションを混合することによっても多分散度を大きくすることができる。
【0028】
開始剤としては、過硫酸塩、重亜硫酸塩、亜硫酸塩、有機過酸化物などが用いられる。通常は、モノマーに対し0.1〜1重量%使用する。開始剤が多くなると反応を開始する点が多くなり、分子量は低くなる。開始剤が少ないと、反応を開始する点が少なくなり、分子量は大きくなる。そこで、後段の重合で用いる開始剤の量を前段の重合で用いる開始剤の量より多くすることにより、分子量分布が大きな、多分散のポリマーが得られる。例えば、3段で行う場合、2段目の開始剤量を1段目の開始剤量より多くし、3段目の開始剤量を2段目の開始剤量より多くする。
【0029】
過硫酸塩としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどを用いることができる。例えば、過硫酸塩を開始剤として用いる場合には、重合の反応温度は通常、70〜90℃で行う。反応温度を低くすると、分子量は大きくなり、反応温度を高くすると分子量は低くなる。そこで、後段の重合の反応温度を前段の重合の反応温度よりも高くすることにより、分子量分布が大きな、多分散のポリマーが得られる。例えば、3段で行う場合、2段目の反応温度を1段目の反応温度より高くし、3段目の反応温度を2段目の反応温度より高くする。
【0030】
分子量を低くするためには、連鎖移動剤が用いることができる。ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸、チオグリセリン等のメルカプタン類、またはα−メチルスチレン・ダイマー等の付加開裂型連鎖移動剤を用いる。通常、モノマーの0.01〜0.5重量%用いる。0.05〜3重量%加えると更に低分子のものが得られる。そこで、後段の重合に用いる連鎖移動剤の量を前段の重合に用いる連鎖移動剤の量よりも多くすることにより、分子量分布が大きな、多分散のポリマーが得られる。なお、前段の重合に連鎖移動剤を用いない場合も含まれる。例えば、3段で行う場合、2段目の連鎖移動剤量を1段目の連鎖移動剤量より多くし、3段目の連鎖移動剤量を2段目の連鎖移動剤量より多くする。
【0031】
また、反応系にモノマーを時間をかけて滴下すると、その間に連鎖移動や停止反応が起こり分子量が低くなる。一方、短時間に滴下すると分子量が大きくなる。そこで、後段の重合におけるモノマーの滴下時間を前段の重合におけるモノマーの滴下時間よりも短くすることにより、分子量分布が大きな、多分散のポリマーが得られる。なお、後段の重合においてモノマーを一度に滴下する場合も含まれる。例えば、3段で行う場合、2段目のモノマー滴下時間を1段目のモノマー滴下時間よりも短くし、2段目のモノマー滴下時間を3段目のモノマー滴下時間より短くする。
【0032】
また、このように多段重合法によって水系のアクリル系樹脂を製造する場合、重合反応が同一バッチで行なえるため工程的あるいは設備的な簡便性に優れるという利点を有する。ただし、上記の多段重合法においては、それぞれの段階および次の段階へ移行する間の条件設定や重合開始剤との組み合わせによって、生成するポリマーの分子量分布が影響を受け易い為、都度適正な重合条件を設定する必要がある。
【0033】
また、それぞれを単独で重合してこれらを均一に混合する手法では、それぞれの分子量が既知のものを適宜選定して用いることができるため、より分子量の多分散度を制御しやすいという利点を有する。
【0034】
こうしたポリマーの多分散度を制御するいずれの方法においても本発明に用いるそれぞれのポリマーのガラス転移温度が極端に異なる場合やポリマー同士の相溶性が極めて低い場合、あるいはこれら双方が共に生じている場合には得られる塗料組成物の制振性が低くなる場合があるため、これらにも配慮する必要がある。一般的にはそれぞれのポリマーのガラス転移温度の差が50℃以内であり、それぞれのポリマーのSP値の差が4以内である場合に優れた制振性を示す。
【0035】
本発明の水性制振塗料組成物は、さらに、無機フィラーを含むことができる。フィラーには、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、ケイ酸カルシウム、チタン酸バリウム、フェライト、そしてカーボンブラック等の球状フィラーや、層状粘土鉱物及び/又は鱗片状シリカ等の板状フィラー、そして球状フィラーと板状フィラーの混合物を挙げることができる。好ましくは、より制振性に優れた板状フィラーである。板状フィラーには、層状粘土鉱物が好ましく、具体例を挙げれば、ハイドロタルサイト、カオリン、ハロイサイト、タルク、マイカ、セリサイト、スメクタイト及びバーミキュライトからなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。ここで、スメクタイトには、モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライトが含まれる。さらに好ましくは、マイカ、特に膨潤性マイカである。
【0036】
無機フィラーの添加量は、エマルション中の重合体粒子100重量部に対し10〜600重量部、より好ましくは100〜400重量部である。10重量部より少ないと制振性が十分でなく、600重量部を超えると、接着力が低下するからである。
【0037】
さらに、本発明の水性制振塗料組成物においては、使用温度で結晶状態である有機材料であって、融点が40〜200℃である有機フィラーをさらに添加することができる。
有機フィラーの具体例として、スチレンアクリル系共重合オリゴマー、低分子66ナイロン、エチレンテレフタル酸オリゴマー、ウレタンオリゴマー、官能基を有する石油樹脂やロジン類、そして環状アミン等を挙げることができる。ここで、官能基には、カルボン酸基、アミノ基、水酸基、グリシジル基、スルホン酸基、リン酸基、アミド基、イミド基が含まれる。
【0038】
本発明の水性制振塗料組成物用エマルションには、必要に応じて塗料用の添加剤を加えることが出来る。公知の添加剤としては、例えば、無機顔料、有機顔料等の着色剤、殺菌剤、防腐剤、キレート剤、分散剤、増粘剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、圧縮回復剤、界面活性剤、揺変剤、凍結防止剤、pH 調整剤、消泡剤、湿潤剤、防錆剤、密着付与剤、架橋剤、酸化亜鉛や硫黄や加硫促進剤等の加硫剤、可塑剤、ブロッキング防止剤、難燃剤、起泡剤、整泡剤、浸透剤、撥水・撥油剤等が挙げられる。
【0039】
なお、上記添加剤の中で、加硫促進剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤を上記の有機フィラーとしても用いることができる。
【0040】
本発明の水性制振塗料組成物は、種々の形状に成形して制振材料として用いることができる。例えば、組成物をホットプレス等により単体でシート状に成形して非拘束型制振材料として用いたり、変形しにくい拘束層の間に積層して拘束型制振材料として用いることもできる。また、塗料タイプの組成物として用い、種々の形状の基体に塗布して塗膜を形成し、基体と複合化して用いることもできる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の「部」とは、特に断らない限り「重量部」である。
【0042】
実施例1.
モノマーの組成は、スチレン55部、ブチルアクリレート43部、アクリル酸2部、乳化剤はポリオキシエチレンジスチレン化クレゾール硫酸アンモニウム塩2部、(ニューコール707SF、日本乳化剤社製)、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル4部(エマルゲンA90 2部、エマルゲンA500 2部、いずれも花王社製)を用い、多段重合によりエマルションを得た。なお、ニューコール707SFのHLBは12.3,エマルゲンA90のHLBは14.5、エマルゲンA500のHLBは18.0である。
ここで、多段重合は、モノマーを3等分し、1段目のモノマーに開始剤として過硫酸アンモニウムを全モノマーの0.1部、2段目のモノマーに、開始剤として過硫酸アンモニウムを全モノマーの0.2部、3段目のモノマーに開始剤として過硫酸アンモニウムを全モノマーの0.3部加えることにより行った。
次に、エマルション100部に対してマイカ(200HK、クラレ社製)を100部加え、水性制振塗料組成物とした。
【0043】
実施例2.
モノマーを3等分し、1段目のモノマーに開始剤として過硫酸アンモニウムを全モノマーの0.02部、2段目のモノマーに、開始剤として過硫酸アンモニウムを全モノマーの0.2部、3段目のモノマーに開始剤として過硫酸アンモニウムを全モノマーの0.3部加えて、多段重合を行った以外は実施例1と同様に行った。
【0044】
実施例3.
モノマーを3等分し、1段目のモノマーに開始剤として過硫酸アンモニウムを全モノマーの0.02部、2段目のモノマーに、開始剤として過硫酸アンモニウムを全モノマーの0.2部、3段目のモノマーに開始剤として過硫酸アンモニウムを全モノマーの1.0部加えて、多段重合を行った以外は実施例1と同様に行った。
【0045】
実施例4.
モノマーを3等分し、1段目のモノマーに開始剤として過硫酸アンモニウムを全モノマーの0.1部、2段目のモノマーに開始剤として過硫酸アンモニウムをモノマーの0.2部、連鎖移動剤としてドデシルメルカプタンを全モノマーの0.05部、3段目のモノマーに開始剤として過硫酸アンモニウムを全モノマーの0.3部、連鎖移動剤としてドデシルメルカプタンを全モノマーの0.05部加えて、多段重合をした以外は実施例1と同様に行った。
【0046】
実施例5.
実施例1において、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルの量を1部(エマルゲンA90 0.5部、エマルゲンA500 0.5部、いずれも花王社製)とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0047】
実施例6.
実施例1において、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル4部(エマルゲンA90 2部、エマルゲンA500 2部、いずれも花王社製)に代えて、ポリオキシエチレンオレイルエーテル4部(エマルゲン420 4部、花王社製)を用い、重合後のエマルションにポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル0.2部(エマルゲンA90 0.1部、エマルゲンA500 0.1部、いずれも花王社製)を加えて混合した以外は、実施例1と同様に行った。なお、エマルゲン420のHLBは13.6である。
【0048】
実施例7.
実施例1において、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル4部(エマルゲンA90 2部、エマルゲンA500 2部、いずれも花王社製)に代えて、ポリオキシエチレンオレイルエーテル4部(エマルゲン420 2部 花王社製、アデカトールLB103 2部 アデカ社製)を用い、重合後のエマルションにポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル0.2部(エマルゲンA90 0.1部、エマルゲンA500 0.1部、いずれも花王社製)を加えて混合した以外は、実施例1と同様に行った。なお、アデカトールLB103のHLBは12.3である。
【0049】
実施例8.
実施例1において、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル4部(エマルゲンA90 2部、エマルゲンA500 2部、いずれも花王社製)に代えて、ポリオキシエチレンオレイルエーテルと特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤の計4部(エマルゲン420 2部 花王社製、ポイズ520 40%水溶液 5部 花王社製)を用い、重合後のエマルションにポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル0.2部(エマルゲンA90 0.1部、エマルゲンA500 0.1部、いずれも花王社製)を加えて混合した以外は、実施例1と同様に行った。
【0050】
比較例1.
モノマーの組成は、スチレン55部、ブチルアクリレート43部、アクリル酸2部、乳化剤はポリオキシエチレンジスチレン化クレゾール硫酸アンモニウム塩2部、(ニューコール707SF、日本乳化剤社製)、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル4部(エマルゲンA90 2部、エマルゲンA500 2部、いずれも花王社製)を用い、乳化重合によりエマルションを得た。
ここで、乳化重合は、モノマーに開始剤として過硫酸アンモニウムを全モノマーの0.6部加えて、1段で重合をした。
次に、エマルションを100部に対してマイカ(200HK クラレ製)を100部加えて水性制振塗料組成物とした。
【0051】
比較例2.
乳化剤に、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル 4部(エマルゲンA90 2部、エマルゲンA500 2部、いずれも花王社製)を用い、ドデシルメルカプタンを全モノマーの0.1部用いた以外は比較例1と同様に行った
【0052】
比較例3.
比較例1において、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニエーテルに代えて、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(エマルゲン420、花王社製)を4部用いた以外は、比較例1と同様に行った。
【0053】
比較例4.
比較例1において、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルに代えて、ポリオキシエチレンオレイルエーテル4部(エマルゲン420 2部 花王社製、アデカトールLB103 2部、アデカ社製)を用いた以外は、比較例1と同様に行った。
【0054】
比較例5.
比較例1において、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルに代えて、ポリオキシエチレンオレイルエーテルと特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤の計4部(エマルゲン420 2部 花王社製、ポイズ520 40%水溶液 5部 花王社製)を用いた以外は、比較例1と同様に行った。
【0055】
比較例6.
開始剤として過硫酸アンモニウムを全モノマーの1.22部使用した以外は比較例1と同様に行なった。
【0056】
比較例7.
比較例1と同様に行なって作製したエマルションに対して、ポリオキシエチレンオレイルエーテル 4部(エマルゲン420、花王社製)を後添加し、その後エマルションを100部に対してマイカ(200HK クラレ社製)を100部加えて水性制振塗料組成物とした。
【0057】
比較例8.
比較例1と同様に行なって作製したエマルションに対して、ポリオキシエチレンオレイルエーテル 8部(エマルゲン420、花王社製)を後添加し、その後エマルションを100部に対してマイカ(200HK クラレ社製)を100部加えて水性制振塗料組成物とした。
【0058】
比較例9.
比較例1と同様に行なって作製したエマルションに対して、ポリオキシエチレンオレイルエーテル4部(エマルゲン420 2部 花王社製、アデカトールLB103 2部 アデカ社製)を後添加し、その後エマルションを100部に対してマイカ(200HK クラレ社製)を100部加えて水性制振塗料組成物とした。
【0059】
比較例10.
比較例1と同様に行なって作製したエマルションに対して、ポリオキシエチレンオレイルエーテルと特殊ポリカルボン酸型高分子界面活性剤の計4部(エマルゲン420 2部 花王社製、ポイズ520 40%水溶液 5部 花王社製)を後添加し、その後エマルションを100部に対してマイカ(200HK クラレ社製)を100部加えて水性制振塗料組成物とした。
【0060】
(評価)
1.ガラス転移温度(Tg)測定
ガラス転移点は島津製作所製の示差走査熱量計DSC−50を用いて測定した。
【0061】
2.分子量測定
GPC LC−10(島津製作所製)を使用し、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)を使用し、40℃にて分子量分布の測定を行い、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量、数平均分子量を求めた。分子量の分布を示す値として、標準ポリスチレン換算重量平均分子量/標準ポリスチレン換算数平均分子量(多分散度)を用いた。
【0062】
3.粒径測定
コールター社製、粒度分布測定装置N4Plusを用いて行った。
【0063】
4.制振性評価
10mm×230mm×1mmの鋼板(SPCC)に、制振塗料を10mm×200mmの大きさで、面密度が2.2kg/mになるように塗布し、130℃で30分の2回焼付けをして試験片を作製した。この試験片について片持ち梁法によって2次共振周波数を測定し、半値幅法によって損失係数を算出した。40℃での測定結果を表1に示した。
【0064】
5.安定性評価
塗料を50℃で2週間放置後の粘度をB型回転粘度計を用いて測定し、放置前との差が10%以下の時は○、10〜30%の時△、30%以上の時×とし○のみを合格とした。
【0065】
(結果)
実施例1から8について、エマルション中の重合体粒子の構成成分のガラス転移点から計算したTgは約15℃で、DSC測定で求めた結果は、20℃であった。また、粘弾性測定装置で求めた10Hzの正弦損失のピーク温度は45℃であった。
【0066】
比較例1から10について、エマルション中の重合体粒子の構成成分のガラス転移点から計算したTgは約15℃で、DSC測定で求めた結果は、20℃であった。また、粘弾性測定装置で求めた10Hzの正弦損失のピーク温度は45℃であった。
【0067】
表1に得られた結果を示す。本発明によれば、重合体粒子の多分散度が5以上であるエマルションを用いることにより、比較例に比べ制振性が大きく、かつ安定性に優れた水性制振塗料組成物を得ることができる。
【0068】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体粒子のエマルションを用いた水性制振塗料組成物であって、
該重合体粒子の、(標準ポリスチレン換算重量平均分子量/標準ポリスチレン換算数平均分子量)で規定される多分散度が5以上である水性制振塗料組成物。
【請求項2】
上記エマルションが、HLBが14以上のポリオキシアルキレン系非イオン乳化剤を0.1重量%〜20重量%含む請求項1記載の水性制振塗料組成物。
【請求項3】
上記重合体粒子が、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体である請求項1又は2に記載の水性制振塗料組成物。

【公開番号】特開2011−26528(P2011−26528A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176491(P2009−176491)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000168632)高圧ガス工業株式会社 (17)
【出願人】(000251277)スズカファイン株式会社 (7)
【Fターム(参考)】