説明

水性合成樹脂エマルジョン及びそれを用いた接着剤組成物

【課題】 耐水性、耐温水性、耐煮沸性、強靭性及び耐久性に優れた皮膜を形成することができる水性合成樹脂エマルジョン及び接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】 ポリビニルアルコール系樹脂で分散安定化された水性合成樹脂エマルジョンであって、該水性合成樹脂を構成する共重合性モノマーとして、20℃の水に対する溶解度が0.1%以下である疎水性モノマーを共重合性モノマー全体に対して30重量%以上含有してなる水性合成樹脂エマルジョン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性合成樹脂エマルジョンに関し、更に詳しくは、耐水性、耐温水性、耐煮沸性、更に長期の耐久性に優れた皮膜を形成する水性合成樹脂エマルジョンに関するものであり、特に、木部あるいは木質用、紙用などの接着剤、無機仕上げ剤、塗料、セメント・石膏などの水硬性材料用混和剤などの各種用途に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来より、水性エマルジョンに機械安定性や凍結安定性を付与するために、保護コロイド剤としてポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある。)が使用されている。しかし、エマルジョンの機械安定性や凍結安定性は改善されるものの、特に疎水性モノマーを主体として重合する場合においては重合安定性が不十分であったり、得られたエマルジョンの経時安定性が不十分であったりすることが多かった。特に、エマルジョンの不揮発分が50重量%を超えるような高不揮発分ではその傾向が強かった。
【0003】
そのため、疎水性のアクリル系、スチレン系エマルジョンの保護コロイドとしてPVAを使用する場合には、エマルジョンの不揮発分を50重量%以下にする必要があり、生産性の点で問題があった。又、得られるエマルジョンの安定性、特に経時安定性も不十分で、増粘するという問題もあった。
【0004】
かかる対策として、種々のPVAを乳化分散剤として使用することが提案されている。
例えば、特許文献1では、機械安定性、凍結安定性及び高温放置安定性を改善するために、アセト酢酸エステル基、メルカプト基、ジアセトンアクリルアミド基などの活性水素基を含有し、ブロックキャラクター[η]が0.6より大きく、ケン化度が95.0モル%より高く、かつブロック性の低いPVAを重合体に付着させた水性エマルジョンが提案されている。
【0005】
特許文献2では、粘度の経時変化が少なく、放置安定性を改善するために、エチレンスルホン酸アルカリ塩を含有する酢酸ビニル−エチレンスルホン酸アルカリ塩共重合体をケン化して製造される変性ポリビニルアルコールを乳化剤としてエチレン性不飽和単量体を乳化重合してなるエマルションが提案されている。
【0006】
特許文献3では、平均ケン化度が90モル%以下で、スルホン酸基含有量が0.1〜20モル%の変性PVAからなる乳化重合用安定剤が提案されている。
【0007】
特許文献4では、側鎖に炭素数4以上の炭化水素基とスルホン酸基もしくは硫酸エステル基とを含有する変性PVAからなるスチレンの乳化安定剤を用いて得られたエマルジョンが、優れた安定性を示しかつ適度の粘性を有しており、接着剤、セメント混和剤などとして用いることが提案されている。
【0008】
特許文献5では、エチレン性不飽和単量体またはジエン系単量体の少なくとも1種から構成される重合体粒子の表面に、アセト酢酸基及び/又はメルカプト基を有し、かつブロックキャラクターが0.3〜0.6のポリビニルアルコール系樹脂が吸着した水性エマルジョンが提案されている。
【0009】
更には、特許文献6では、かかるブロックキャラクターに、更に特定粒径に分別されたアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコールの各々の平均アセト酢酸エステル化度の最大値を最小値で割った値が1.0〜3.0のポリビニルアルコール系樹脂が吸着した水性エマルジョンが提案されている。
【0010】
【特許文献1】特開2003−277419号公報
【特許文献2】特開昭50−155579号公報
【特許文献3】特開平10−060015号公報
【特許文献4】特開昭58−063706号公報
【特許文献5】特開2002−60406号公報
【特許文献6】特開2005−272481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の開示技術では、機械安定性、凍結安定性及び高温放置安定性の良好な水性エマルジョンが得られているものの、長期の保管における粘度安定性についてはまだまだ満足のいくものではなかった。
また、特許文献2〜4の開示技術では、重合安定性が不充分であったり、また、グラフト率が低く機械安定性が劣るものであったりするため、木部・木質用接着剤用途において、フィラーなどとの混和安定性が不充分であり、まだまだ満足のいくものではなかった。
【0012】
更に、特許文献5〜6の開示技術では、いずれも皮膜の耐水性の向上は見られるものの、近年においては、特に、構造用集成材用などに使用される木部・木質用接着剤として長期の耐久性の向上が求められ、更なる耐水性・耐温水性・耐煮沸性が要求されており、これらを考慮するとまだまだ満足のいくものではなく更なる改良が望まれるものであった。
【0013】
即ち、上記の従来技術においては、接着力は勿論のこと、高レベルの耐水性、耐温水性、耐熱水性、強靱性及び長期の耐久性などが求められる木部・木質用接着剤としては、物性面でまだまだ不十分であった。
【0014】
そこで、本発明ではこのような背景下において、水性エマルジョンの保護コロイドとしてPVAを使用する場合には、特にアクリル系、スチレン系の疎水性モノマーを主体として重合する場合において、エマルジョンの不揮発分が50重量%以上でも安定に、且つ粒子径が比較的小さいエマルジョンができ、更に、耐水性、耐温水性、耐煮沸性、強靭性及び長期の耐久性に優れた皮膜を形成するための水性合成樹脂エマルジョン、及び、それを用いた接着剤組成物、特に木部・木質用接着剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
しかるに、本発明者等はかかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、PVA系樹脂で分散安定化された水性合成樹脂エマルジョンであって、該水性合成樹脂を構成する共重合性モノマーとして、20℃の水に対する溶解度が0.1%以下である疎水性モノマーを、従来よりも多量に用いることにより、得られた皮膜の耐水性、耐温水性、耐煮沸性、強靭性及び耐久性に優れた効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0016】
即ち、本発明の要旨は、PVA系樹脂で分散安定化された水性合成樹脂エマルジョンであって、該水性合成樹脂を構成する共重合性モノマーとして、20℃の水に対する溶解度が0.1%以下である疎水性モノマーを共重合性モノマー全体に対して30重量%以上含有してなる水性合成樹脂エマルジョンに関するものである。
【0017】
更に本発明は、水性合成樹脂エマルジョンを含む接着剤組成物に関するものであり、好ましく更に、架橋剤を含有してなる接着剤組成物に関するものである。
そして、前記接着剤組成物は、木部あるいは木質用として非常に有用である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の水性合成樹脂エマルジョンは、皮膜を形成したときに、耐水性、耐温水性、耐煮沸性、強靭性及び長期の耐久性に優れた効果を有するものであり、特に、木部あるいは木質用、紙用などの接着剤、無機仕上げ剤、塗料、セメント・石膏などの水硬性材料用混和剤などの各種用途に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の水性合成樹脂エマルジョンは、PVA系樹脂で分散安定化された水性合成樹脂エマルジョンであって、該水性合成樹脂を構成する共重合モノマーとして、20℃の水に対する溶解度が0.1%以下である疎水性モノマーを30%以上含有してなるものである。
【0020】
まず、本発明で用いられるPVA系樹脂について説明する。
本発明において、乳化重合の保護コロイド(分散安定化剤)としては、PVA系樹脂を使用する。
【0021】
なお、PVA系とは、PVA自体、または、例えば、各種変性種によって変性されたものを意味し、その変性度は、通常20モル%以下、好ましくは15モル%以下、更に好ましくは10モル%以下である。
【0022】
かかる変性種としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノまたはジアルキルエステル等、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン〔1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル〕エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。また、上記の他、アセトアセチル基変性、メルカプト基変性、ジアセトンアクリルアミド変性等の活性水素を含有する変性種も挙げられる。
【0023】
かかるPVA系樹脂の平均ケン化度としては、通常80モル%以上であり、好ましくは85〜99.5モル%、特に好ましくは95〜99モル%である。PVA系樹脂の平均ケン化度が小さすぎると、安定に重合が進行しにくくなる傾向があり、重合が完結したとしても水性エマルジョンの保存安定性が良好でなくなることがあり、大きすぎると、水性エマルジョンの不揮発分を高めることが難しく、且つ重合途中でゲル化する傾向がある。
【0024】
なお、本明細書において、平均ケン化度は、JIS K 6726に記載のケン化度の算出方法にしたがって求めることができる。
【0025】
また、PVA系樹脂の平均重合度としては、通常200〜1000であり、特に好ましくは200〜500である。PVA系樹脂の平均重合度が小さすぎると、乳化重合時の保護コロイド能力が十分でなくなったり、重合が安定に進行しなかったりする傾向があり、大きすぎると、重合時に増粘して反応系が不安定になったりする傾向がある。
【0026】
なお、本明細書において、平均重合度は、JIS K 6726に記載の平均重合度の算出方法にしたがって求めることができる。
【0027】
本発明においては、PVA系樹脂の中でも、活性水素を含有するPVA系樹脂であることが、共重合性モノマーの反応性が良好となり重合安定性に優れる点で好ましい。
【0028】
かかる活性水素を含有するPVA系樹脂としては、アセトアセチル基変性PVA系樹脂、メルカプト基変性PVA系樹脂、ジアセトンアクリルアミド変性PVA系樹脂などから選ばれる少なくとも1種が挙げられるが、なかでもアセトアセチル基変性PVA系樹脂が重合安定性を改善したり、合成樹脂へのグラフト率が高くなったりすることから皮膜の耐水性を向上するなどの点で最も好ましい。
【0029】
本発明において、かかるアセトアセチル基変性PVA系樹脂の変性度合いを示すアセトアセチル化度が0.01〜10モル%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜6モル%、更に好ましくは0.03〜3モル%、特に好ましくは0.03〜2モル%、最も好ましくは0.03〜1モル%である。かかるアセトアセチル化度が小さすぎると耐温水性、耐煮沸性やフィラー類などとの混和性が低下する傾向となり、大きすぎると乳化重合時の重合安定性が不良となる傾向がある。
【0030】
更に、PVA系樹脂分子上に存在するアセトアセチル基は分子内の一定領域にブロック状に固まって配置しているものよりも、分子内において相対的にランダムに配置されてなるものの方が好ましい。
【0031】
また、アセトアセチル基変性PVA系樹脂の平均ケン化度は、90モル%以上であることが好ましく、より好ましくは97〜99.8モル%である。ケン化度が小さすぎると、安定に重合が進行しにくくなる傾向があり、重合が完結したとしても水性合成樹脂エマルジョンの保存安定性が良好でなくなる傾向がある。なお、アセトアセチル基変性PVA系樹脂の平均ケン化度が大きすぎると、重合安定性が悪くなり、重合途中でゲル化する傾向がある。
【0032】
アセトアセチル基変性PVA系樹脂の平均重合度は、少なくとも50〜2000であることが好ましく、より好ましくは200〜600である。PVAの平均重合度が小さすぎると、乳化重合時の保護コロイド能力が十分でなくなることがあり、重合が安定に進行しないことがあり、大きすぎると、重合時に増粘して反応系が不安定になったりする傾向がある。
【0033】
本発明において、保護コロイド(分散安定化剤)として使用するPVA系樹脂、好ましくはアセトアセチル基変性PVA系樹脂の使用量は、使用される全共重合モノマー量に対して3〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは8〜15重量%である。かかる使用量が少なすぎると、乳化重合の際の保護コロイド量が不足となって、重合安定性が不良となる傾向があり、多すぎると、木部・木質用接着剤として耐水性が低下する傾向がある。
【0034】
本発明において、PVA系樹脂として、アセトアセチル基変性PVA系樹脂のみならず、本発明の目的を阻害しない範囲において非変性タイプの部分・完全ケン化PVA系樹脂などを併用しても良い。
【0035】
また、本発明では、PVA系樹脂は、通常、水系媒体を用いて水溶液とし、これが乳化重合の過程において使用される。ここで水系媒体とは、水、または水を主体とするアルコール性溶媒をいい、好ましくは水のことをいう。
この水溶液におけるPVA系樹脂の量(不揮発分換算)については特に限定されないが、取り扱いの容易性の観点からは、5〜30重量%であることが望ましい。
【0036】
次に、PVA系樹脂で分散安定化される水性合成樹脂について説明する。
本発明における水性合成樹脂は、疎水性モノマーを共重合性モノマー全体に対して30重量%以上含有する共重合性モノマーを乳化重合して得られるものである。
【0037】
かかる疎水性モノマーとしては、20℃の水に対する溶解度が0.1%以下である重合性モノマーであればよく、アクリル系モノマー、スチレン系モノマー、ビニル系モノマーから選ばれる。
【0038】
かかる疎水性モノマーにおいて、アクリル系モノマーとしては、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル基の炭素数が4以上、好ましくは6〜18の(メタ)アクリレート、特に脂肪族系(メタ)アクリレートや、フェノキシアクリレート等の芳香族系(メタ)アクリレート、メタクリル酸トリフルオロエチルなどが挙げられる。これらは1種または2種以上併用して用いられる。
【0039】
なお、ここで、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0040】
疎水性モノマーにおいて、スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。これらは1種または2種以上併用して用いられる。
疎水性モノマーにおいて、ビニル系モノマーとしては、例えば、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどが挙げられる。これらは1種または2種以上併用して用いられる。
【0041】
上記の中でも疎水性モノマーとして、2−エチルヘキシルアクリレート、スチレンがより好ましい。加えて、水性合成樹脂エマルジョンの物性などに応じて、共重合性モノマーにおいて、疎水性モノマーを2種以上組み合わせて使用することができる。
【0042】
本発明においては、上記の疎水性モノマーは、本発明の水性合成樹脂を構成する必須成分となるものであり、その使用量は、共重合性モノマー全体に対して30重量%以上含有することが必要であり、好ましくは40重量%以上、更に好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。なお、上限は特に限定されないが、通常、100重量%以下、好ましくは99.5重量%以下、特に好ましくは99重量%以下であり、少量の親水性モノマーを含有するのが好ましい。疎水性モノマーの含有量が上記範囲外では所望の耐水性や耐候性が不充分となる。
【0043】
本発明において、上記疎水性モノマーと共重合される共重合性モノマーとしては特に限定されないが、(メタ)アクリル系のモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、などのアルキル基の炭素数が3以下、好ましくは2以下の(メタ)アクリレート、特に脂肪族系(メタ)アクリレートが使用できる。ビニル系モノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどが使用できる。
【0044】
また、本発明においては、本発明の目的を阻害しない範囲において、以下の共重合可能なモノマーを併用することができる。
エチレンなどのオレフィン系モノマー;塩化ビニルなどのハロゲン化オレフィン系モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアクリルアミド系モノマー;(メタ)アクリルニトリルなどニトリル系モノマー;メチルビニルエーテルなどのビニルエーテル系モノマー;(メタ)アクリル酸、(無水)イタコン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸およびこれらのエステル系モノマーなどが使用できる。
【0045】
また、本発明においては、乳化重合する際に、疎水性モノマーとともに官能性モノマーを共重合することが木部・木質材料に対する耐温水性、耐煮沸性の点で好ましい。かかる官能性モノマーとしては、下記(a)〜(f)からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
(a)アリル基含有モノマー
(b)グリシジル基含有モノマー
(c)加水分解性シリル基含有モノマー
(d)アセトアセチル基含有モノマー
(e)分子構造中にビニル基を2個以上有するモノマー
(f)カルボニル基含有モノマー
(g)ヒドロキシ基含有モノマー
【0046】
アリル基含有モノマー(a)の具体例としては、例えば、トリアリルオキシエチレン、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、テトラアリルオキシエタン等のアリル基を2個以上有するモノマー、アリルグリシジルエーテル、酢酸アリル等が挙げられる。この内、湿潤時の接着性の観点から、アリルグリシジルエーテルが好ましい。
【0047】
グリシジル基含有モノマー(b)の具体例としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。この内、木部・木質用接着剤の耐水性向上の観点から、グリシジル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0048】
加水分解性シリル基含有モノマー(c)の具体例としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。この内、湿潤時接着性の観点から、ビニルトリメトキシシランが好ましい。
【0049】
アセトアセチル基含有モノマー(d)の具体例としては、例えば、アセト酢酸ビニルエステル、アセト酢酸アリルエステル、ジアセト酢酸アリルエステル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチルクロトナート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピルクロトナート、2−シアノアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。この内、木部・木質用接着剤の耐水性向上の観点から、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0050】
分子構造中にビニル基を2個以上有するモノマー(e)の具体例としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0051】
カルボニル基含有モノマー(f)の具体例としては、例えば、ダイアセトンアクリルアマイド等が挙げられる。
【0052】
ヒドロキシ基含有モノマー(g)の具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の脂肪族(メタ)アクリレートなどが挙げられる。このうち、木部・木質用接着剤の耐水性向上の観点から、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。
【0053】
本発明の好ましい態様によれば、官能性モノマーは、グリシジル基含有モノマー(b)、加水分解性シリル基含有モノマー(c)、アセトアセチル基含有モノマー(d)及びヒドロキシ基含有モノマー(g)からなる群より選択されることが好ましく、特には、グリシジル基含有モノマー(b)及びヒドロキシ基含有モノマー(g)のうち少なくとも1つを含んでなることが、木部・木質用接着剤の耐温水性・耐煮沸性の向上の点で特に好ましい。
【0054】
官能性モノマーの使用量は、共重合性モノマー全体に対して0.01〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.1〜5重量%、更に好ましくは0.1〜1重量%である。使用量が少なすぎると、耐水性や耐湿潤接着性の改善が不充分となる傾向があり、多すぎると、重合不良となったりすることがある。なお、これらの官能性モノマーは2種以上のものを組み合わせて使用することができる。
【0055】
本発明による水性合成樹脂エマルジョンにおいては、前記した疎水性モノマーや官能性モノマーなどの共重合性モノマー成分以外に、必要に応じて他の成分をさらに用いることができる。このような他の成分としては、水性合成樹脂エマルジョンとしての性質を低下させることがない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。他の成分としては、例えば、重合開始剤、重合調整剤、補助乳化剤、可塑剤、造膜助剤等が挙げられる。
【0056】
重合開始剤としては、通常の乳化重合に使用できるものであれば特に制限なく使用でき、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;有機過酸化物、アゾ系開始剤、過酸化水素、ブチルパーオキサイド等の過酸化物;およびこれらと酸性亜硫酸ナトリウムやL−アスコルビン酸等の還元剤とを組み合わせたレドックス重合開始剤等が挙げられる。これらは、2種以上を併用してもよい。
本発明においては、これらの中でも、皮膜物性や強度増強に悪影響を与えず重合が容易な点で過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウムが好ましい。
【0057】
重合調整剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができる。このような重合調整剤としては、例えば、連鎖移動剤、バッファーなどが挙げられる。
【0058】
ここで、連鎖移動剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;および、ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ノルマルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル、チオグリセロール等のメルカプタン類などが挙げられる。これらは、2種以上を併用してもよい。連鎖移動剤の使用は、重合を安定に行わせるという点では有効であるが、合成樹脂の重合度を低下させるため、得られる皮膜の耐水性や木部・木質用接着剤としては耐水接着力等が低下する可能性がある。このため、連鎖移動剤を使用する場合には、その使用量をできる限り低く抑えることが望ましい。
【0059】
ここで、前記バッファーとしては、例えば、酢酸ソーダ、酢酸アンモニウム、第二リン酸ソーダ、クエン酸ソーダなどが挙げられる。これらは、2種以上を併用してもよい。
【0060】
補助乳化剤としては、乳化重合に用いることができるものとして当業者に公知のものであれば、いずれのものでも使用可能である。したがって、補助乳化剤は、例えば、アニオン性、カチオン性、およびノニオン性の界面活性剤、PVA以外の保護コロイド能を有する水溶性高分子、および水溶性オリゴマー等の公知のものの中から適宜選択することができる。
【0061】
界面活性剤の好ましい具体例としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアニオン性界面活性剤、および、プルロニック型構造を有するものやポリオキシエチレン型構造を有するものなどのノニオン性界面活性剤が挙げられる。また、該界面活性剤として、構造中にラジカル重合性不飽和結合を有する反応性界面活性剤を使用することもできる。
【0062】
乳化剤の使用は乳化重合をスムーズに進行させ、コントロールし易くする。加えて、重合中に発生する粗粒子やブロック状物の発生を抑制する効果がある。
ただし、これら界面活性剤を乳化剤として多く使用すると、グラフト率が低下する傾向がある。
このため、界面活性剤を使用する場合には、その使用量はPVA系樹脂に対して補助的な量であること、すなわち、できる限り少なくすることが望ましい。
【0063】
PVA系樹脂以外の保護コロイド能を有する水溶性高分子としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、更にイソブチレン無水マレイン酸共重合やスチレン・無水マレイン酸共重合体のような無水マレイン酸誘導体などが挙げられる。これらは、エマルジョンの増粘やエマルジョンの粒子径を変えて粘性を変化させる点、更に接着性を向上させる点で効果がある。ただし、その使用量によっては皮膜の耐水性を低下させることがあるため、使用する場合には少量で使用することが望ましい。
【0064】
水溶性オリゴマーとしては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、アルキレングリコール基などの親水性基を有する重合度が好ましく、中でも10〜500程度の重合体または共重合体が好適に挙げられる。水溶性オリゴマーの具体例としては、例えば、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体などのアミド系共重合体、メタクリル酸ナトリウム−4−スチレンスルホネート共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ポリ(メタ)アクリル酸塩などが挙げられる。さらに、具体例としては、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、アルキレングリコール基などを有するモノマーやラジカル重合性の反応性乳化剤を予め単独または他のモノマーと共重合してなる水溶性オリゴマーなども挙げられる。本発明においては、これらの中でも、顔料および炭カル等のフィラーとの混和安定性の点で、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体、メタクリル酸ナトリウム−4−スチレンスルホネート共重合体が好ましい。水溶性オリゴマーは、乳化重合を開始する前に予め重合したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。これらは、2種以上を併用してもよい。
【0065】
また、可塑剤としては、アジペート系可塑剤、フタル酸系可塑剤、燐酸系可塑剤などが使用できる。また、沸点が260℃以上の造膜助剤も使用できる。
これら他の成分の使用量は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0066】
次に、本発明の水性合成樹脂エマルジョンの製造について説明する。
前記したように、本発明による水性合成樹脂エマルジョンは、PVA系樹脂を保護コロイドとして用いて、疎水性モノマー、好ましくは更に官能性モノマーを含む共重合性モノマーを乳化重合することによって製造することができる。
【0067】
乳化重合の方法としては、特に制限はなく、例えば、反応缶に、水、保護コロイドを仕込み、昇温して共重合性モノマーと重合開始剤を滴下するモノマー滴下式乳化重合法;および、滴下するモノマーを予め保護コロイドと水とで分散・乳化させた後、滴下する乳化モノマー滴下式乳化重合法などが挙げられるが、重合工程の管理やコントロール性等の面でモノマー滴下式が便利である。
【0068】
通常、乳化重合は、保護コロイドや乳化剤および前記共重合性モノマー成分以外に、重合開始剤、重合調整剤、補助乳化剤等のような前記した他の成分を必要に応じて用いて実施する。また、重合の反応条件は、特に制限はなく、共重合性モノマーの種類、目的等に応じて適宜選択することができる。
【0069】
乳化重合過程をさらに具体的に説明にすると、以下のとおりである。
先ず反応缶に水、保護コロイド、必要に応じて補助乳化剤を仕込み、これを昇温(通常65〜90℃)した後、共重合性モノマー成分の一部と重合開始剤をこの反応缶に添加して、初期重合を実施する。次いで、残りの共重合性モノマー成分を、一括または滴下しながら反応缶に添加し、必要に応じてさらに重合開始剤を添加しながら重合を進行させる。重合反応が完了したと判断されたところで、反応缶を冷却し、目的とする水性合成樹脂エマルジョンを取り出すことができる。
【0070】
本発明において、乳化重合より得られる水性合成樹脂エマルジョンは、典型的には、均一な乳白色であって、その平均粒子径は0.2〜2μmであることが好ましく、より好ましくは0.3〜1.5μmである。
なお、ここで、エマルジョンの平均粒子径は、慣用の方法、例えばレーザー解析/散乱式粒度分布測定装置「LA−910」(株式会社堀場製作所製)により測定することができる。
【0071】
また、水性合成樹脂エマルジョン中の水性合成樹脂のガラス転移温度としては、特に限定されないが、−20〜+30℃であることが接着力などの物性面などの点で好ましく、特には−15〜+20℃であることが好ましい。かかるガラス転移温度が低すぎると接着力が低下する傾向となり、高すぎるとジブチルフタレートなどの可塑剤を多く入れてエマルジョンの造膜温度を低下させることが望まれ、この結果、耐温水性、耐煮沸性接着力が低下となる傾向がある。
【0072】
なお、本発明においてガラス転移温度(Tg)とは、共重合体を構成するそれぞれの単量体成分の単独重合体のTgを用いて次式によって求めたものである。
1/Tg=w1/Tg1+w2/Tg2+・・・・・・・・・・・・Wk/Tgk
但し、Tgは共重合体のガラス転移温度であり、Tg1,Tg2,・・・・・・・・Tgkは各単量体成分の単独共重合体のTgであり、w1,w2,・・・・・・・・・・wkは各単量体成分のモル分率を表し、w1+w2+・・・・・・・・・wk=1である。
【0073】
更に、本発明においては、PVA系樹脂の少なくとも一部が合成樹脂にグラフトしていることが、得られる乾燥前の水性エマルジョン自体の貯蔵安定性や接着力測定における測定値のバラツキが少なくなることなどの点で好ましい。
【0074】
PVA系樹脂が合成樹脂にグラフトした場合に、下記式(1)で表される値(G)が50重量%以上であることが好ましく、より好ましくは60〜95重量%であり、さらに好ましくは65〜85重量%である。かかる値は、グラフト化程度の目安になるものであり、この値(G)が低すぎると、乳化重合時の保護コロイド作用が低下し、重合安定性が低下したり、加えてフィラー類との混和性が低下したりするなどの傾向がある。かかる式(1)で算出される値(G)を50重量%以上に調整する方法としては、乳化重合温度を従来よりもやや高くしたり、重合用触媒として使用する過硫酸塩に極微量の還元剤(例えば、酸性亜硫酸ソーダ、など)を併用したりする等が挙げられる。
【0075】
式(1)の値(G)は、以下のようにして算出される。即ち、対象となるエマルジョン等を、40℃×16時間乾燥して、厚さが約0.5mmの皮膜を作製し、それを23℃×65%RH下に2日間放置する。その皮膜を、沸騰水中で8時間抽出を行った後、アセトン中で8時間抽出を行い、グラフト化していない樹脂等を除去する。この場合の、抽出前の皮膜絶乾重量をw1(g)、抽出後の皮膜絶乾重量をw2(g)とし、下記の式より求める。
【0076】
G(重量%)=(w2)/(w1)×100 …(1)
w1:抽出前の皮膜絶乾重量(g)
w2:抽出後の皮膜絶乾重量(g)
なお、抽出前の皮膜絶乾重量(w1)は、予め、抽出試験サンプルとは別のサンプルを105℃×1時間乾燥させ、抽出前サンプルの皮膜絶乾重量を算出したものであり、抽出後の皮膜絶乾重量(w2)は、抽出後のサンプルを105℃×1時間乾燥させた時の重量である。これらw1とw2の重量の算出は、それぞれ別のサンプルを用いたものであるため、同一条件下での取り扱いとすべく、両サンプルの乾燥にともなう揮発分割合により補正して、両サンプルの皮膜絶乾重量を算出した。
【0077】
本発明においては、乳化重合後の水性合成樹脂エマルジョンに、必要に応じて各種添加剤をさらに加えてもよい。このような添加剤としては、例えば、有機顔料、無機顔料、水溶性添加剤、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【0078】
かくして本発明の水性合成樹脂エマルジョンが得られるわけであるが、各種用途への使用に際しては、不揮発分として通常40〜60重量%に調整することが好ましい。
【0079】
本発明の水性合成樹脂エマルジョンは、木部・木質用接着剤、各種セメントや石膏等の水硬性材料への添加剤、粉末塗料、無機仕上げ剤、などの各種用途に用いることができ、好ましくは、木部・木質用接着剤や各種セメント、石膏等の水硬性材料への添加剤として有用である。
【0080】
更に本発明では、本発明の水性合成樹脂エマルジョン、あるいは接着剤組成物に、架橋剤を配合して木部・木質接着用の接着剤として使用することができる。
架橋剤としては、特に限定されないが、イソシアネート系化合物あるいはそのプレポリマーやエポキシ系化合物あるいはそのプレポリマーが好適に用いられる。
架橋剤の使用量は、水性合成樹脂エマルジョン、あるいは接着剤組成物の全重量に対して1〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜25重量%である。架橋剤が少なすぎると、架橋効果が少なく期待する接着強度などが得難くなる傾向があり、多すぎると、該接着剤の可使時間が極端に短くなり作業性に支障を来たす傾向がある。
【0081】
かくして本発明の水性合成樹脂エマルジョンは、得られた皮膜の耐水性、耐温水性、耐煮沸性、強靭性及び耐久性に優れた効果を有するものであり、特に、木部あるいは木質用、紙用などの接着剤、無機仕上げ剤、塗料、セメント・石膏などの水硬性材料用混和剤などの各種用途に有用である。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0083】
<水性合成樹脂エマルジョンの製造例>
〔エマルジョン1〕
攪拌機と還流冷却器とを備えた2Lサイズのステンレス製反応缶に、670部の水と、平均ケン化度約98モル%で、平均重合度約400で、且つアセトアセチル化度0.5モル%であるアセトアセチル基変性PVA(日本合成化学工業株式会社製)46部を仕込み、反応缶を85℃に加熱して、アセトアセチル基変性PVAを水に溶解させた。次に、この反応缶の温度を80℃に保ち、ここに、予め混合しておいた混合モノマー(ブチルアクリレート358部/スチレン293部/グリシジルメタクリレート6.5部=54.5/44.5/1(重量比)(疎水性モノマー=99%))の66部を添加し、重合開始剤として過硫酸アンモニウム1.6gを水30gに溶解した過硫酸アンモニウム水溶液の30%を加えて、初期重合反応を1時間行った。次いで、残りの混合モノマーと重合開始剤として前記過硫酸アンモニウム水溶液の60%を反応缶に4時間に渡って滴下して重合を進行させた。滴下終了後に前記過硫酸アンモニウム水溶液の10%を加え、同温度で1時間熟成させ、不揮発分50%の水性合成樹脂エマルジョン(エマルジョン1)を得た。
このモノマー組成(ブチルアクリレート/スチレン/グリシジルメタクリレート=54.5/44.5/1(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+100℃、+41℃とした場合、−2℃である。
【0084】
〔エマルジョン2〕
混合モノマーの種類と組成比をブチルアクリレート/2−エチルへキシルアクリレート/スチレン/グリシジルメタクリレート=20/25/54/1(重量比)(疎水性モノマー=99%)に変更した以外は、前記エマルジョン1と同様にして、エマルジョン2を製造した。
このモノマー組成(ブチルアクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート/スチレン/グリシジルメタクリレート=20/25/54/1(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、−70℃、+100℃、+41℃とした場合、+4℃である。
【0085】
〔エマルジョン3〕
混合モノマーの種類と組成比をブチルアクリレート/スチレン/グリシジルメタクリレート=39.5/59.5/1(重量比)(疎水性モノマー=99%)に変更した以外は、前記エマルジョン1と同様にして、エマルジョン3を製造した。
このモノマー組成(ブチルアクリレート/スチレン/グリシジルメタクリレート=39.5/59.5/1(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+100℃、+41℃とした場合、+20℃である。
但し、最低造膜温度を調整する目的で可塑剤としてジブチルフタレートを樹脂分に対して10%添加した。
【0086】
〔エマルジョン4〕
混合モノマーの種類と組成比をブチルアクリレート/メチルメタクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート/スチレン/グリシジルメタクリレート=20/34.5/24.5/20/1(重量比)(疎水性モノマー=64.5%)に変更した以外は、前記エマルジョン1と同様にして、エマルジョン4を製造した。
このモノマー組成(ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート/スチレン/グリシジルメタクリレート=20/34.5/24.5/20/1(重量比)からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+105℃、−70℃、+100℃、+41℃とした場合、+5℃である。
【0087】
〔エマルジョン5〕
混合モノマーの種類と組成比をメチルメタクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート/グリシジルメタクリレート=48.5/50.5/1(重量比)(疎水性モノマー=50.5%)に変更した以外は、前記エマルジョン1と同様にして、エマルジョン5を製造した。
このモノマー組成(メチルメタクリレート/2−エチルヘキシルアクリレート/グリシジルメタクリレート=48.5/50.5/1(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを+105℃、−70℃、+41℃、とした場合、−10℃である。
【0088】
〔エマルジョン6〕
混合モノマーの種類と組成比をブチルアクリレート/スチレン=55/45(重量比)(疎水性モノマー=100%)に変更した以外は、前記エマルジョン1と同様にして、エマルジョン6を製造した。
このモノマー組成(ブチルアクリレート/スチレン=55/45(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+100℃とした場合、−2℃である。
【0089】
〔エマルジョン7〕
混合モノマーの種類と組成比をブチルアクリレート/2−エチルへキシルアクリレート/スチレン=20/25/55(重量比)(疎水性モノマー=100%)に変更した以外は、前記エマルジョン1と同様にして、エマルジョン7を製造した。
このモノマー組成(ブチルアクリレート/2エチルヘキシルアクリレート/スチレン=20/25/55(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、−70℃、+100℃とした場合、+4℃である。
【0090】
〔エマルジョン8〕
混合モノマーの種類と組成比をブチルアクリレート/スチレン/2−ヒドロキシエチルメタクリレート=53.4/43.7/2.9(重量比)(疎水性モノマー=97.1%)に変更した以外は、前記エマルジョン1と同様にして、エマルジョン8を製造した。
このモノマー組成(ブチルアクリレート/スチレン/2−ヒドロキシエチルメタクリレート=53.4/43.7/2.9(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−52℃、+100℃、+55℃とした場合、−1℃である。
【0091】
〔エマルジョン9(比較例)〕
混合モノマーの種類と組成比を2−エチルヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート/2−ヒドロキシエチルメタクリレート/グリシジルメタクリレート=25/62/12/1(重量比)(疎水性モノマー=25%)に変更した以外は、前記エマルジョン1と同様にして、エマルジョン9を製造した。
このモノマー組成(2−エチルヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート/2−ヒドロキシエチルメタクリレート/グリシジルメタクリレート=25/62/12/1(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを−70℃、+105℃、+55℃、+41℃とした場合、+33℃である。
但し、最低造膜温度を調整する目的で可塑剤としてジブチルフタレートを樹脂成分に対して10%添加した。
【0092】
〔エマルジョン10(比較例)〕
混合モノマーの種類と組成比を酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/ブチルアクリレート/グリシジルメタクリレート=74/5/20/1(重量比)(疎水性モノマー=25%)に変更し、且つ平均ケン化度約98モル%、平均重合度約400で、アセトアセチル化度0.5モル%であるアセトアセチル基変性PVA(日本合成化学工業株式会社製)23部及び平均重合度500、平均ケン化度88モル%の部分ケン化PVA(ゴーセノールGL05/日本合成化学工業株式会社製)23部に変更した以外は前記エマルジョン1と同様にして、エマルジョン10を製造した。
このモノマー組成(酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/ブチルアクリレート/グリシジルメタクリレート=74/5/20/1(重量比))からなる合成樹脂の計算上のガラス転移温度(Tg)は、それぞれのホモポリマーのTgを+30℃、−3℃、−52℃、+41℃とした場合、+8℃である。
【0093】
実施例1
エマルジョン1 200部に、予め調合しておいた平均重合度1400、平均ケン化度88モル%の部分ケン化PVA(「ゴーセノールGM14S」(商品名)、日本合成化学工業株式会社製)8部とフィラーとして炭酸カルシウム 45部、及びヒドロキシエチルセルロース 2.5部の3成分を加えてよく攪拌し、更に水 27部を加えて、粘度を5〜6万に調整して、木部・木質用接着剤組成物を得た。
【0094】
実施例2〜8
実施例1と同様にして、エマルジョン2〜8を用いて木部・木質用接着剤組成物を得た。後添加する水量は得られる木部・木質用接着剤組成物の粘度(5〜6万mPa・s(B型粘度計、10rpm、23℃)に応じて調整した。
【0095】
比較例1〜2
実施例1と同様にして、エマルジョン9及び10を用いて木部・木質用接着剤組成物を得た。後添加する水量は得られる木部・木質用接着剤組成物の粘度(5〜6万mPa・s(B型粘度計、10rpm、23℃)に応じて調整した。
【0096】
<評価試験>
(試験1:エマルジョンの平均粒子径)
水性合成樹脂エマルジョンの各製造例にて得られた各エマルジョンの平均粒子径をレーザー解析/散乱式粒度分布測定装置「LA−910」(株式会社 堀場製作所製)にて測定した。
【0097】
(試験2:上記式(1)の値(G)測定)
抽出前の皮膜絶乾重量(w1)は、予め、抽出試験サンプルとは別のサンプルを105℃×1時間乾燥させ、その揮発分割合から補正して、抽出前サンプルの皮膜絶乾重量を算出したものであり、抽出後の皮膜絶乾重量(w2)は、抽出後のサンプルを105℃×1時間乾燥させた時の重量である。
水性合成樹脂エマルジョンの各製造例における各エマルジョンにおいて、40℃×16時間乾燥して、厚さが約0.5mmの皮膜を作製し、それを23℃×65%RH下に2日間放置した。その皮膜を、沸騰水中で8時間抽出を行った後、アセトン中で8時間抽出を行い、グラフト化していない樹脂等を除去した。この場合の、抽出前の皮膜絶乾重量をw1(g)、抽出後の皮膜絶乾重量をw2(g)とし、下記の式より算出した。
G(重量%)=(w2)/(w1)×100 …(1)
w1:抽出前の皮膜絶乾重量(g)
w2:抽出後の皮膜絶乾重量(g)
なお、抽出前の皮膜絶乾重量(w1)は、予め、抽出試験サンプルとは別のサンプルを105℃×1時間乾燥させ、抽出前サンプルの皮膜絶乾重量を算出したものであり、抽出後の皮膜絶乾重量(w2)は、抽出後のサンプルを105℃×1時間乾燥させた時の重量である。これらw1とw2の重量の算出は、それぞれ別のサンプルを用いたものであるため、同一条件下での取り扱いとすべく、両サンプルの乾燥にともなう揮発分割合により補正して、両サンプルの皮膜絶乾重量を算出した。
【0098】
(試験3:木材接着評価(酢酸ビニル樹脂エマルジョン木材接着剤))
実施例1〜8および比較例1〜2で得られた接着剤組成物の木材圧縮せん断接着強さをJIS K 6804(2003年版)の接着強さの試験方法に従って測定した。
【0099】
具体的な試験方法は次の通りであった。
JIS K6804にて規定されている「かばのまさ目」板を使用し、接着剤を接着面に200g/m2の割合で塗り、貼り合わせてから0.8MPaの荷重で10分後に圧縮し、そのまま23℃で24時間保持した。除圧後、48時間経過してから測定に供した。
常態試験;試験片を温度23℃、湿度50%の試験室に48時間保持した後、そのままの状態で試験した。
耐水試験;試験片を30℃の水中に3時間浸せきした後、23℃の水中に10分間浸し、ぬれたままの状態で試験した。
得られた結果をJISの1および2種の品質に準拠して、下記の基準で評価した。
【0100】
判断基準:
A:常態試験による接着強さが10N/mm2以上で、耐水試験による接着強さが4N/mm2以上である。
B:常態試験による接着強さが10N/mm2未満および/または耐水試験による接着強さが4N/mm2未満である。
【0101】
(試験4:木材接着評価(水性高分子−イソシアネート系木材接着剤))
実施例1〜8および比較例1〜2で得られた接着剤組成物100部に、架橋剤(ポリジメチルジフェニルジイソシアネート/日本ポリウレタン工業株式会社製)15部を添加し、十分に撹拌して接着剤組成物を得た。木材圧縮せん断接着強さをJIS K 6806(2003年版)の接着強さの試験方法に従って測定した。
【0102】
具体的な試験方法は次の通りであった。
JIS K6806にて規定されている「かばのまさ目」板を使用し、架橋剤を添加した接着剤を接着しようとする面のそれぞれに、125g/m2の割合で均一に塗り、その接着面を密着させ、1200kPaの圧力で締め付けたままの状態で23℃に24時間静置後、除圧した。引き続き同温度で72時間静置してから測定に供した。
常態試験;試験片作製後、直ちに試験した。
煮沸繰り返し試験;試験片を煮沸水中に4時間浸せきした後、60℃の空気中で20時間乾燥し、更に煮沸水中に4時間浸せきしてから、室温の水中に冷えるまで浸し、ぬれたままの状態で試験した。
得られた結果をJISの1種1号の性能を基に下記の基準で評価した。
【0103】
判断基準:
A:常態圧縮せん断接着強さが981N/cm2以上で、煮沸繰返し圧縮せん断接着強さが588N/cm2以上である。
B:常態圧縮せん断接着強さが981N/cm2未満および/または煮沸繰返し圧縮せん断接着強さが588N/cm2未満である。
【0104】
これらの評価結果は、表1に示されるとおりであった。

【0105】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の水性合成樹脂エマルジョンは、得られた皮膜の耐水性、耐温水性、耐煮沸性、強靭性及び長期の耐久性に優れた効果を有するものであり、特に、木部あるいは木質用、紙用などの接着剤、無機仕上げ剤、塗料、セメント・石膏などの水硬性材料用混和剤などの各種用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂で分散安定化された水性合成樹脂エマルジョンであって、該水性合成樹脂を構成する共重合性モノマーとして、20℃の水に対する溶解度が0.1%以下である疎水性モノマーを共重合性モノマー全体に対して30重量%以上含有してなることを特徴とする水性合成樹脂エマルジョン。
【請求項2】
水性合成樹脂のガラス転移温度が−20〜+30℃であることを特徴とする請求項1記載の水性合成樹脂エマルジョン。
【請求項3】
疎水性モノマーとしてスチレン系モノマーを含むことを特徴とする請求項1または2記載の水性合成樹脂エマルジョン。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系樹脂が、活性水素を含有するポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の水性合成樹脂エマルジョン。
【請求項5】
ポリビニルアルコール系樹脂の少なくとも一部が合成樹脂にグラフトしていることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の水性合成樹脂エマルジョン。
【請求項6】
水性合成樹脂が、更に下記の群より選択される1種以上の官能性モノマーを共重合成分として含有することを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の水性合成樹脂エマルジョン。
(a)アリル基含有モノマー
(b)グリシジル基含有モノマー
(c)加水分解性シリル基含有モノマー
(d)アセトアセチル基含有モノマー
(e)分子構造中にビニル基を2個以上有するモノマー
(f)カルボニル基含有モノマー
(g)ヒドロキシ基含有モノマー
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載の水性合成樹脂エマルジョンを含むことを特徴とする接着剤組成物。
【請求項8】
更に、架橋剤を含有することを特徴とする請求項7記載の接着剤組成物。
【請求項9】
木部あるいは木質用として用いることを特徴とする請求項7または8記載の接着剤組成物。

【公開番号】特開2009−13386(P2009−13386A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201808(P2007−201808)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000113148)ニチゴー・モビニール株式会社 (24)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】