説明

水性塗料を含む湿式塗装ブース循環水の処理方法

【課題】
本発明は、水性塗料を使用する湿式塗装ブースにおいて、ブース循環水に捕集された未塗着水性塗料の分離及び回収を容易かつ効率的に行う処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
水性塗料を含む湿式塗装ブースのブース循環水中に、凝結剤と吸着剤を添加して、該循環水中の塗料を浮上分離することを特徴とするブース循環水の処理方法であって、凝結剤としては、カチオン性ポリマー、メラミン−アルデヒド酸コロイド、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、及びアルミナゾル等、吸着剤としては常温で固体ろう状物質の水性液等を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式塗装ブースのブース循環水中に水性塗料を含む場合のブース循環水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や電気製品等の塗装法の一種として、塗料を被塗装物に噴霧するスプレー塗装法がある。スプレー塗装法では塗料品質の保持及び作業環境の保全のため、湿式塗装ブース内で塗料の噴霧が行われている。この湿式塗装ブースには、被塗装物に塗料を噴霧するための塗装室、塗装室の空気を吸引するためのファンを有するダクト、吸引した空気とブース循環水とを接触させるための接触部、及びブース循環水を貯留可能なピットが備えられている。
【0003】
この湿式塗装ブースでは、被塗装物に塗着しなかった未塗着塗料がファンによって空気とともにダクト内に吸引される。この際、未塗着塗料は接触部においてブース循環水と接触して捕集され、未塗着塗料を沈殿あるいは浮上させることにより分離される。こうして分離された未塗着塗料は回収され、廃棄処分される。
【0004】
近年においては、従来から多用されている油性塗料に代わり、有機溶剤の環境への影響を考慮して、水性塗料が多く用いられるようになってきた。水性塗料は水に溶解あるいは分散するため固液分離が困難であり、油性塗料使用時の処理とは異なる処理方法が必要である。
【0005】
そこで、未塗着水性塗料に対しては、ポリエチレンイミンを成分として含む塗料処理剤(例えば特許文献1参照)や、カチオン性有機化合物とアニオン性有機化合物とを含む塗料処理剤(例えば特許文献2参照)等が提案されている。また、水性塗料及び/又は溶剤塗料を含む湿式塗装ブース循環水の処理方法としてカチオン系ポリマーとフェノール樹脂を使用する処理方法(例えば特許文献3参照)が提案されている。しかし、これら方法では分離した未塗着塗料が分散しやすくなり、回収を十分に行うことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−74607号公報
【特許文献2】特開昭63−42706号公報
【特許文献3】特開2004−337671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、水性塗料を使用する湿式塗装ブースにおいて、ブース循環水に捕集された未塗着水性塗料の分離及び回収を容易かつ効率的に行う処理方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、水性塗料を含む湿式塗装ブースのブース循環水中に凝結剤と吸着剤を添加することにより、上記課題を解決することができることを発見し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に係る発明は、水性塗料を含む湿式塗装ブースのブース循環水中に、凝結剤と吸着剤を添加して、該循環水中の塗料を浮上分離することを特徴とするブース循環水の処理方法である。
【0010】
請求項2に係る発明は、凝結剤が、カチオン性ポリマー、メラミン−アルデヒド酸コロイド、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、及びアルミナゾルから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1記載のブース循環水の処理方法である。
【0011】
請求項3に係る発明は、吸着剤が、常温で固体ろう状物質から選ばれる少なくとも1種以上の水性液であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のブース循環水の処理方法である。
【0012】
請求項4に係る発明は、上記の常温で固体ろう状物質が、高級アルコール及びその誘導体、高級脂肪酸及びその誘導体、ポリエチレンワックス及びその誘導体、及び、パラフィンワックス及びその誘導体からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項3記載のブース循環水の処理方法である。
【0013】
請求項5に係る発明は、上記の水性液が、常温で固体ろう状物質から選ばれる少なくとも1種以上を界面活性剤によって乳化した水性液であることを特徴とする請求項3記載のブース循環水の処理方法である。
【0014】
請求項6に係る発明は、ブース循環水中の電荷量が−200μeq/L〜+400μeq/Lとなるように、凝結剤の添加量を調整することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のブース循環水の処理方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、水性塗料を使用する湿式塗装ブースにおいて、ブース循環水に捕集された未塗着水性塗料の分離及び回収を容易かつ効率的に行うことができるため、該湿式塗装ブースの操業が安定し、塗装工程の生産性が向上することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のブース循環水の処理試験に用いた湿式塗装ブースの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のブース循環水の処理方法において、ブース循環水に添加される凝結剤はブース循環水中に均一に分散あるいは溶解した未塗着の水性塗料を凝結させて、不溶化する効果を奏する。
【0018】
本発明のブース循環水の処理方法において、ブース循環水に添加される吸着剤は、凝結剤によって凝結され不溶化した微細な塗料粒子を、物理的吸着作用によって捕集し集塊化して固液分離を容易にし、ブース循環水中の未塗着塗料の回収効率を高める効果を奏する。中でも、常温で固体ろう状の物質を用いると、その性状が疎水性、且つ比重が軽いため、不溶化した未塗着水性塗料の微細な粒子を吸着した常温で固体ろう状の物質は循環水表面に浮上する傾向が強く、常温で固体ろう状の物質と共に水面に浮上分離した未塗着水性塗料は容易かつ効率的に回収できる。
【0019】
本発明のブース循環水の処理方法において、本発明で用いる凝結剤を単独で使用しても、未塗着の水性塗料を凝結させて不溶化することは可能であるが、不溶化した塗料粒子が集塊化しないため、その固液分離は不十分であり、その結果、ブース循環水中の未塗着水性塗料の回収効率が非常に低くなる。従って、ブース循環水中の未塗着水性塗料を容易かつ効率的に回収するという、本発明の課題を解決できない。
【0020】
また、本発明のブース循環水の処理方法において、本発明で用いる吸着剤を単独で使用しても、循環水中に不溶化した微細な未塗着水性塗料粒子が存在しないので、その吸着・捕集効果を発揮することはできず、本発明の課題を解決できない。
【0021】
本発明のブース循環水の処理方法においては、凝結剤と吸着剤を併用することによって、ブース循環水中に均一に分散あるいは溶解した未塗着の水性塗料を凝結し不溶化する作用と、その不溶化した塗料粒子を捕集し集塊化し、浮上分離させる作用が連結し、本発明の課題を解決できる。
【0022】
本発明の作用機構では、凝結作用に続いて吸着作用が行われるが、これらの作用を進める凝結剤と吸着剤を添加するブース循環水は、湿式塗装ブース操業中は常時循環しているため、必ずしも凝結剤の後流に吸着剤を添加する必要は無く、これらの薬剤がブース循環水に効率的に混合される箇所であれば、どのような添加順序であっても良い。
【0023】
本発明で用いる凝結剤としては、カチオン性ポリマー、メラミン−アルデヒド酸コロイド、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、及びアルミナゾル等があり、該カチオン性ポリマーは、水中でカチオン性を帯び、ブース循環水中の水溶性塗料の表面電荷を中和して不溶化する効果を有する物質である。このようなカチオン性ポリマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸エステル(炭素数1〜4のアルコールのエステル)・(メタ)アクリルアミノエチルトリメチルアンモニウム共重合体、(メタ)アクリルアミド・(メタ)アクリルアミノエチルトリメチルアンモニウム共重合体、(メタ)アクリルアミノジアルキル(炭素数1〜4のアルキル基)・(メタ)アクリルアミノエチルトリメチルアンモニウム共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミノエチルトリメチルアンモニウム等の(メタ)アクリルアミノエチルトリメチルアンモニウム共重合体;ジシアンジアミド重合体、ジシアンジアミド−ホルムアルデヒド共重合体、ジシアンジアミド−ジエチレントリアミン共重合体等のジシアンジアミド共重合体;ジメチルアミン−エピクロロヒドリン共重合体、ジエチルアミン−エピクロロヒドリン共重合体、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン−アンモニア共重合体、ジエチルアミン−エピクロルヒドリン−アンモニア共重合体等のジアルキルアミン−エピハロヒドリン共重合体;ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−(メタ)アクリルアミド共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−(メタ)アクリル酸共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリルアミド共重合体等のジアリルジメチルアンモニウムクロライド(以下、DADMACとする。)共重合体;ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン等のポリアルキルアミン、ポリアクリルアミド、アクリルアミド−アクリル酸共重合体、ポリアクリルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリメタクリルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロライド、及びアクリルアミド−[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロライド・[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム共重合体等が挙げられる。
【0024】
これらの中でも、アクリルアミド−アクリルアミノエチルトリメチルアンモニウム(クロライド)共重合体、アクリルアミド−メタクリルアミノエチルトリメチルアンモニウム(クロライド)共重合体、ジシアンジアミド−ホルムアルデヒド共重合体、ジシアンジアミド−ジエチレントリアミン共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−二酸化硫黄共重合体、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン共重合体及びジメチルアミン−エピクロルヒドリン−アンモニア共重合体、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(ポリDADMAC)、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、アクリルアミド−アクリル酸共重合体、ポリアクリルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロライド、及びアクリルアミド−[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロライド・[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム共重合体が好適である
【0025】
本発明で用いる凝結剤としてのメラミン−アルデヒド酸コロイドは、メラミンとアルデヒドを反応させて得られるメチロールメラミンに酸を加えることによって調製することができる。用いるアルデヒドとしてはパラホルムアルデヒド、ホルムアルデヒドが好ましい。また、用いる酸としては塩酸、硝酸、酢酸、乳酸などが好ましく、特に好ましくは乳酸、塩酸である。
【0026】
本発明で用いる凝結剤として、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、アルミン酸ソーダ、及びアルミナゾルを用いることができ、中でも装置腐食への影響が小さいアルミン酸ソーダ、アルミナゾルが好ましい。
【0027】
本発明で用いる吸着剤としては、常温で固体ろう状の物質等が使用できる。「常温で固体ろう状の物質」の語は最も広義に解釈するものとし、蜜蝋、鯨蝋などの動物系天然ワックス、木蝋、カルナバワックスなどの植物系天然ワックス、モンタンワックス、オゾケライトなどの鉱物系天然ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタインワックスなどの石油系天然ワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャー・トロプシェワックスなどの合成ワックス、高級アルコール、高級脂肪酸等を言い、例えば、酸化パラフィンワックス、酸化パラフィンワックスの酸化エチレン及び/または酸化プロピレン付加物、酸化ポリエチレンワックス、酸変性ポリエチレンワックス、高級アルコールの酸化エチレン及び/または酸化プロピレン付加物、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸のアミン塩、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸エステル等の誘導体を含め、ろうと類似の物理的性質を示すものを表す。
【0028】
これらの中でも、パラフィンワックスもしくはその誘導体、ポリエチレンワックスもしくはその誘導体、高級アルコールもしくはその誘導体、高級脂肪酸もしくはその誘導体が微細塗料の吸着効果に優れており好ましい。
【0029】
本発明で用いる吸着剤として常温で固体ろう状の物質を用いると、その疎水性、且つ比重が軽い特性により、吸着した不溶化未塗着水性塗料の微細な粒子を循環水表面に浮上分離させることができ、その結果、ブース循環水中の未塗着水性塗料の回収を容易かつ効率的に行うことができるため好ましい。
【0030】
本発明に用いる常温で固体ろう状の物質は水性液の形態で循環水へ添加する。ここで言う水性液とは、常温で固体ろう状の物質と水の乳化液、常温で固体ろう状の物質を水中に懸濁した懸濁液、または、常温で固体ろう状の物質を水中に分散した分散液を意味し、水性液を得る調製法は特に限定されるものではなく、公知の調製法を用いることができる。中でも公知のWater to wax法、Wax to water法、加圧乳化法で各種界面活性剤を用いて水性液を得る方法が簡便で好ましい。
【0031】
本発明のブース循環水の処理方法において、処理の対象となる水性塗料としては特に限定はなく、例えば水性アルキッド樹脂塗料、水性ポリエステル樹脂塗料、水性アクリル樹脂塗料、水性ポリウレタン樹脂塗料等が挙げられる。
【0032】
本発明のブース循環水の処理方法において、凝結剤と吸着剤を添加する場所については前述のように特に限定はないが、循環ポンプの手前等、これらの薬剤がブース循環水中に混合され易い箇所で添加することが好ましい。また、添加方法についても特に限定はないが、定量ポンプで連続的に添加したり、間歇的に添加したりするなど適宜選択することができる。
【0033】
本発明で用いる凝結剤と吸着剤の添加量は、未塗着塗料重量に対する割合として決められる。この未塗着塗料重量は、塗装時に噴霧された塗料液の総重量から被塗装物に付着した塗料液分を引いた残りとして算出される。
【0034】
本発明で用いる凝結剤の添加量は、未塗着塗料重量に対して有効成分(=固形分)として0.05重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上である。添加量が有効成分として0.05重量%より少ないと、十分な凝結効果が得られないことがあり、好ましくない。また、凝結剤の添加量が該循環水中の塗料に対して有効成分として100重量%を越えると、添加量に比例した効果の伸長が得られなくなり、経済的見地から好ましくない。
【0035】
本発明で用いる吸着剤の添加量は、循環水中の塗料に対して有効成分(=固形分)として0.01重量%以上、好ましくは0.02重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上である。添加量が有効成分として0.01重量%より少ないと、十分な吸着効果が得られないことがあり、好ましくない。また、吸着剤の添加量が該循環水中の塗料に対して有効成分として100重量%を越えると、添加量に比例した効果の伸長が得られなくなり、経済的見地から好ましくない。
【0036】
また、凝結剤の添加量をブース循環水中の電荷量によって管理することも好ましい。発明者らの試験結果によれば、ブース循環水中の電荷量は凝結剤の添加量によって大きく変化し、吸着剤、特に常温で固体ろう状の物質の水性液の添加によるブース循環水の電荷量の変化は極僅かである。そこで、本発明においては、主に凝結剤の添加量を調節してブース循環水中の電荷量を−300〜+500μeq/L程度に維持し、特に、電荷量が−200〜+400μeq/Lとなるように凝結剤を添加すれば、水性塗料の固液分離・回収が極めて容易となる。ブース循環水中の電荷量は、コロイド滴定法、粒子電荷測定法(PCD法)、電気泳動法等の既に公知の方法で測定することができる。
【0037】
コロイド滴定法〔「コロイド滴定試験法」千手諒一著、3〜6頁、南江堂、1969年刊参照〕は、水中の電解質、コロイド粒子、懸濁物質等の電荷量をアニオン性及びカチオン性水溶性高分子電解質で電荷の中和を行ない、指示薬の色の変化で定量する方法である。例えば、アニオン電荷の測定には、指示薬としてトルイジンブルー(TB)を数滴加えて、カチオン性水溶性電解質水溶液であるメチルグリコールキトサン水溶液(以下、「MGK」と略す)を過剰となる既知量加え、残存したMGKをアニオン性水溶性電解質のポリビニル硫酸カリウム(以下、「PVSK」と略す)水溶液で滴定し、カチオン電荷量を測定する。当初加えたMGK量からカチオン電荷測定値を引き、アニオン電荷を求める。一方、カチオン電荷量の測定は、PVSKで直接、測定して求められる。手分析でも数分の短時間で測定され、市販の自動化分析装置を使用すれば更に短時間で分析される。
【0038】
PCDによる電荷測定は、例えばPCD装置(Muteck社製)と自動滴定装置を組み合わせた市販の測定装置を用いて容易に測定できる。このPCD装置は、円筒状容器の上下に電極を備えたセルとセルの中にセル内径よりわずかに小さい棒状のピストンを入れたものである。セルの中に所定量の試料水を入れ、セルの内径よりわずかに小さい棒状のピストンを浸せきさせ、上下に動かすことで、電荷を持った電解質の移動により電流が発生し、これを電位差として検出し、電位差を0とするまでカチオン性高分子電解質あるいはアニオン性高分子電解質を添加して試料水の電荷量を測定する。この時に使用されるカチオン性高分子電解質としては、一般的にポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液が使われ、アニオン性高分子電解質としては、一般的にポリスチレンスルフォン酸ナトリウム水溶液が使用されている。
【0039】
電気泳動法による測定は、少量の試料水を採取して、ガラス製の円筒状セルに入れ、セル両端に電圧をかけながら、セル内を顕微鏡で観察して電極間を移動する粒子の速度を測定して、電荷量を求める方法である。
【実施例】
【0040】
本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
処理剤A:使用した凝結剤
(A−1)
カチオン性ポリマーとしてジメチルアミン−エピクロルヒドリン縮合物(平均分子量5000:長瀬産業製「ワイステックスT−101−50」商品名)を用いた。
(A−2)
メラミン126重量部、パラホルムアルデヒド60重量部、水200重量部を加え、苛性ソーダでpHを10に調整後、70℃に加温して反応させ、メチロール化メラミンを得た。このメチロール化メラミンに乳酸を添加し、メラミン−ホルムアルデヒド酸コロイド溶液を得た。
(A−3)
アルミニウム化合物としてアルミン酸ソーダ[朝日化学製NA−170(商品名)]を用いた。
【0042】
処理剤B:使用した吸着剤
(B−1)
ステアリルアルコール100重量部、水299重量部、乳化剤1重量部の混合物を70℃に加熱しながらホモミキサーを使ってステアリルアルコールの水性液を得た。
(B−2)
ステアリン酸100重量部、水299重量部、乳化剤1重量部の混合物を70℃に加熱しながらホモミキサーを使ってステアリン酸の水性液を得た。
(B−3)
パラフィンワックスエマルション[明成化学工業製「メイカジットPF−1」商品名]を用いた。
(B−4)
ポリエチレンワックスエマルション[明成化学工業製「メイカテックスPEC−15H」商品名]を用いた。
【0043】
処理剤C:その他比較例に使用した化合物
(C−1)
ノボラックフェノールホルムアルデヒド樹脂[昭和高分子製「ショウノールBRG−555」(商品名)]の苛性ソーダ溶液を用いた。
【0044】
(実施例1)
実施例1では、凝結剤としてA−1、吸着剤としてB−1を使用した。未塗着塗料重量に対して、A−1は有効成分として0.1重量%の割合で添加し、B−1は有効成分として0.5重量%の割合で添加した。
(実施例2)
実施例2では、凝結剤としてA−1、吸着剤としてB−1を使用した。未塗着塗料重量に対して、A−1は1.0重量%の割合で添加し、B−1は有効成分として0.5重量%の割合で添加した。
(実施例3)
実施例3では、凝結剤としてA−2、吸着剤としてB−1を使用した。未塗着塗料重量に対して、A−2は有効成分として4.0重量%の割合で添加し、B−1は有効成分として0.1重量%の割合で添加した。
(実施例4)
実施例4では、凝結剤としてA−3、吸着剤としてB−1を使用した。未塗着塗料重量に対して、A−3は有効成分として4.0重量%の割合で添加し、B−1は有効成分として0.02重量%の割合で添加した。
(実施例5)
実施例5では、凝結剤としてA−3、吸着剤としてB−1を使用した。未塗着塗料重量に対して、A−3は有効成分として4.0重量%の割合で添加し、B−1は有効成分として0.2重量%の割合で添加した。
(実施例6)
実施例6では、凝結剤としてA−3、吸着剤としてB−2を使用した。未塗着塗料重量に対して、A−3は有効成分として2.0重量%の割合で添加し、B−2は有効成分として0.5重量%の割合で添加した。
(実施例7)
実施例7では、凝結剤としてA−2、吸着剤としてB−3を使用した。未塗着塗料重量に対して、A−2は有効成分として10.0重量%の割合で添加し、B−1は有効成分として0.5重量%の割合で添加した。
(実施例8)
実施例8では、凝結剤としてA−1、吸着剤としてB−4を使用した。未塗着塗料重量に対して、A−1は有効成分として2.0重量%の割合で添加し、B−4は有効成分として2.0重量%の割合で添加した。
(実施例9)
実施例9では、凝結剤としてA−1、吸着剤としてB−1を使用した。未塗着塗料重量に対して、A−1は有効成分として0.05重量%の割合で添加し、B−1は有効成分として0.5重量%の割合で添加した。
(実施例10)
実施例10では、凝結剤としてA−1、吸着剤としてB−1を使用した。未塗着塗料重量に対して、A−1は有効成分として4.0重量%の割合で添加し、B−1は有効成分として0.01重量%の割合で添加した。
【0045】
(比較例1)
比較例1では、ブース循環水中に何も添加しなかった。
(比較例2)
比較例2では、吸着剤として処理剤B−1のみを使用した。未塗着塗料重量に対して、B−1を有効成分として2.0重量%の割合で添加した。
(比較例3)
比較例3では、凝結剤A−1のみを使用した。未塗着塗料重量に対して、A−1を有効成分として1.0重量%の割合で添加した。
(比較例4)
比較例4では、凝結剤A−3のみを使用した。未塗着塗料重量に対して、A−3を有効成分として5.0重量%の割合で添加した。
(比較例5)
比較例5では、凝結剤A−1と、ノボラックフェノールホルムアルデヒド樹脂であるC−1を使用した。未塗着塗料重量に対して、A−1は有効成分として1.0重量%の割合で添加し、C−1は4.0重量%の割合で添加した。
【0046】
[ブース循環水の処理試験]
(試験1)
ブース循環水の処理試験を行った。試験に用いた湿式塗装ブースは、図1に示すように、塗装を行うための塗装ブース本体1と、塗装ブース本体1において流下されるブース循環水を受ける循環水槽2を備えている。塗装ブース本体1でスプレーされた塗料は循環水に捕集され、循環水槽2で浮上分離される。循環水槽底部からはポンプ3によって塗装ブース本体1へ循環水が送られる。本発明における、凝結剤は添加場所4に添加され、吸着剤は添加場所5に添加される。この湿式塗装ブースの保有水量は100Lであり、ポンプ3によるブース循環水の水量は40L/分である。この試験用塗装ブース装置においては、被塗装物が無いので、噴霧された塗料液の総重量が未塗着塗料重量になる。
【0047】
以上のように構成された試験用湿式塗装ブースを用い、実施例あるいは比較例に示した上記薬品の所定量を添加しつつ、塗装ブース内でブース循環水に向けて水性塗料を各3g/分で連続して3時間噴霧した。水性塗料としては、黒色の自動車用水性上塗り塗料(日本ペイント(株)製)を用いた。また、塗料を噴霧している間、ブース循環水の電荷をコロイド滴定により測定し、電荷が所定の範囲になるように凝結剤の添加量を調節した。また、ブース循環水のpHが6〜8になるように希水酸化ナトリウムあるいは希塩酸でpH調整した。この試験では、循環水は循環水中に噴霧され水中に分散・溶解した自動車用水性上塗り塗料により、急速に黒色に着色する。しかし、循環水中の水性塗料が効率的に不溶化し固液分離されれば、水中から黒色の水性塗料が除去されるので循環水濁度は低下する。従って、実施例・比較例における、循環水に添加された水性塗料の固液分離効果は、循環水の濁度を測定することにより評価でき、循環水濁度が低いほど、その効果が高い。固液分離効果の評価のため、塗料噴霧終了後のブース循環水を採取し、濁度を測定した。濁度はJISK 0101に準じて評価した。その結果を表1に示した。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示すように、ブース循環水中に本発明の凝結剤と吸着剤を添加した実施例1〜10では、濁度が180度以下と低く、特に、ブース循環水の電荷量が−200〜+400(μeq/L−ブース循環水)になるように調節した実施例1〜8では、濁度が130度以下であり、ブース循環水中の塗料の分離が効率よく行われたことが分かる。これに対して、比較例2は吸着剤のみを添加した場合であるが、無添加時と同様に濁度が高く、極めて塗料の分離が不十分であった。また、比較例3,4,5は、凝結剤を使用してブース循環水の電荷量を−200〜+400(μeq/L−ブース循環水)の範囲に調節した例であるが、本発明で用いる吸着剤を併用しないため、濁度が300〜380度と高く、ブース循環水中の微細な塗料の分離が不十分であった。
【0050】
(試験2)
水性塗料を用い自動車用樹脂部品をスプレー塗装しているブースでは、ブース循環水の表面に浮上分離した未塗着塗料を人力で回収している。該ブースに処理剤を添加しない場合は、水性塗料の固液分離がほとんど無いため、塗料の回収率は6%と低く、5日間操業後の循環水の濁度は1000度以上に達していた。その対策として、ブースの循環水に凝結剤A−1を有効成分として2重量%(対未塗着塗料量)添加したところ、塗料の回収率は28%まで上昇したが、まだ不十分であり、5日間操業後の循環水の濁度は430度まで低下したが、まだ高い状態であった。そこで、本発明である次に述べる2つの処理方法を実施し、処理性の比較を行った。1つの処理方法は凝結剤A−1を有効成分として1.5重量%(対未塗着塗料量)と吸着剤B−2を有効成分として0.3重量%(対未塗着塗料量)を添加した。もう1つの処理方法は凝結剤A−3を有効成分として3重量%(対未塗着塗料量)と吸着剤B−2を有効成分として0.3重量%(対未塗着塗料量)を添加した。5日間操業後のブース循環水の濁度と塗料の回収率の結果を表2に示した。尚、濁度はJISK 0101に準じて評価し、塗料の回収率は各試験期間中に循環水に捕集された未塗着塗料量と、循環水表面に浮上分離し回収された塗料量から下記計算式で算出した。固形分は噴霧された塗料液のサンプル、あるいは回収された塗料滓のサンプルを105℃で恒量になるまで乾燥し、その結果から算出した。

塗料回収率(%)=(Y/X)×100
X:未塗着塗料量の固形分(kg)
Y:回収された塗料量の固形分(kg)

【0051】
【表2】

【0052】
表2の結果から、水性塗料を使用する湿式塗装ブースにおいて本発明の処理方法を行うことにより、ブース循環水に捕集された未塗着水性塗料の分離及び回収を効率的に行うことが可能になり、その結果、ブース循環水の濁度も低減されたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、水性塗料を使用する湿式塗装ブースにおいて、ブース循環水に捕集された未塗着水性塗料の分離及び回収を容易かつ効率的に行う処理方法として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
1…塗装ブース本体
2…循環水槽
3…循環ポンプ
4…凝結剤の添加場所
5…吸着剤の添加場所


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性塗料を含む湿式塗装ブースのブース循環水中に、凝結剤と吸着剤を添加して、該循環水中の塗料を浮上分離することを特徴とするブース循環水の処理方法。
【請求項2】
凝結剤が、カチオン性ポリマー、メラミン−アルデヒド酸コロイド、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、及びアルミナゾルから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1記載のブース循環水の処理方法。
【請求項3】
吸着剤が、常温で固体ろう状物質から選ばれる少なくとも1種以上の水性液であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のブース循環水の処理方法。
【請求項4】
上記の常温で固体ろう状物質が、高級アルコール及びその誘導体、高級脂肪酸及びその誘導体、ポリエチレンワックス及びその誘導体、及び、パラフィンワックス及びその誘導体からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項3記載のブース循環水の処理方法。
【請求項5】
上記の水性液が、常温で固体ろう状物質から選ばれる少なくとも1種以上を界面活性剤によって乳化した水性液であることを特徴とする請求項3記載のブース循環水の処理方法。
【請求項6】
ブース循環水中の電荷量が−200μeq/L〜+400μeq/Lとなるように、凝結剤の添加量を調整することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のブース循環水の処理方法。


【図1】
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【公開番号】特開2011−20084(P2011−20084A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168904(P2009−168904)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】