説明

水性塗料を含む湿式塗装ブース循環水の処理方法

【課題】水性塗料を含む湿式塗装ブースにおいてブース循環水中の未塗着塗料の分離及び回収を容易かつ効率的に行う処理方法を提供する。
【解決手段】水性塗料を含む湿式塗装ブースのブース循環水中に、疎水性溶剤である特定のカルボニル化合物、及び/又は灯油と、それを乳化するアニオン性界面活性剤を添加して水中油型エマルションを形成し、さらにそのエマルションの一部に、鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物を添加してエマルションを破壊し、塗料成分を前記ブース循環水から分離することを特徴とするブース循環水の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式塗装ブースのブース循環水中に水性塗料を含む場合のブース循環水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や電気製品等の塗装法の一種として、塗料を被塗装物に噴霧するスプレー塗装法がある。スプレー塗装法では塗料品質の保持及び作業環境の保全のため、湿式塗装ブース内で塗料の噴霧が行われている。この湿式塗装ブースは、被塗装物に塗料を噴霧するための塗装室と、塗装室の空気を吸引するためのファンを有するダクトと、吸引した空気とブース循環水とを接触させるための接触部と、ブース循環水を貯留可能なピットとが備えられている。
【0003】
この湿式塗装ブースでは、被塗装物に塗着しなかった未塗着塗料がファンによって空気とともにダクト内に吸引される。この際、未塗着塗料は接触部においてブース循環水と接触して捕集され、未塗着塗料を沈殿あるいは浮上させることにより分離される。こうして分離された未塗着塗料は回収され、廃棄処分される。
【0004】
また、未塗着塗料に含まれる大部分の揮発性有機溶剤は空気流とともにダクトから大気中に放出されるが、環境汚染対策や有価値溶剤の回収の観点から、ブース循環水に代えて、揮発性有機塗料溶剤を溶解回収できる高沸点有機液体と水を含有する水中油型エマルションを循環させる方法(特許文献1)が提案されている。特許文献1記載の方法では、炭化水素油と水を、油溶性脂肪酸乳化剤系を用いて約7.5〜12のアルカリ性pHでエマルション形成し、そのエマルション中の高沸点有機液体である炭化水素油中に揮発性有機塗料溶剤を溶解回収する。しかる後、該エマルションを約3.0〜約6.5の酸性pHに調整してエマルションを破壊し、揮発性有機塗料溶剤を高濃度で含有する炭化水素油を分離させて蒸留塔に導入し、該炭化水素油から揮発性有機塗料溶剤を蒸留回収する。更に蒸留後の炭化水素油は再びエマルション形成に利用される。
【0005】
特許文献2には、同様なエマルション用いて未塗着塗料粒子を捕集し、不粘着化し、かつ分散させた上で、塗料固体粒子と揮発性有機塗料溶剤を回収する方法が開示されている。
【0006】
特許文献3には、塗料固形分を可溶化するカルボニル化合物を用いたエマルションが開示されており、好ましい該カルボニル化合物として疎水性の2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートと2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレートが挙げられている。これら特許文献1〜3に開示された水中油型エマルションによる塗料固体粒子や揮発性有機塗料溶剤の回収方法は油性塗料を対象とした方法である。
【0007】
一方、近年、環境汚染対策として塗料そのものを油性塗料から水性塗料に代える傾向が強まってきた。水性塗料は用いられている溶剤が水に溶解あるいは分散するため、大部分がブース循環水に捕集され大気中への放出はわずかである。
【0008】
しかしながら、水性塗料は塗料樹脂や溶剤が水に溶解あるいは分散するため固液分離が困難であり、油性塗料使用時の処理とは異なる処理方法が必要である。
【0009】
そこで、未塗着水性塗料に対しては、ポリエチレンイミンを成分として含む塗料処理剤(特許文献4)が提案されている。また、水性塗料及び/又は油性塗料を含む湿式塗装ブース循環水の処理方法としてカチオン系ポリマーとフェノール樹脂を使用する処理方法(特許文献5)が提案されている。しかし、これら方法では分離した未塗着塗料が分散しやすくなり、回収を十分に行うことができない。回収できずに分散した未塗着塗料は再循環して塗装ブース内での汚れとなるほか、ピットで沈降堆積するため、塗装品質の悪化や清掃コスト増大につながっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平2−53084号公報
【特許文献2】米国特許第4919691号公報
【特許文献3】米国特許第5198143号公報
【特許文献4】特開昭61−74607号公報
【特許文献5】特開2004−337671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、水性塗料を含む湿式塗装ブースにおいてブース循環水中の未塗着塗料の分離及び回収を容易かつ効率的に行う処理方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、水性塗料を含む湿式塗装ブースのブース循環水に鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物を添加して未塗着塗料を固液分離回収することを試みたが、塗料樹脂の粘着性を無くすことができなかったため、固形分の回収率は低く、作業性が悪かった。
【0013】
そこで、油性塗料の処理方法と考えられていた疎水性溶剤であるカルボニル化合物、及び/又は灯油を用いた水中油型エマルションによって水性塗料粒子を捕集し、その一部に鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物を添加してエマルションを破壊するとともに未塗着塗料固形分の回収を試みたところ、驚くべきことに水性塗料樹脂の粘着性を完全に無くすことができることを発見し、その結果、該固形分を効率よく浮上分離回収することに成功し、更に水性塗料/油性塗料混合の場合でも同様な効果が得られ、本発明をなすに至った。
【0014】
すなわち、請求項1に係る発明は、水性塗料を含む湿式塗装ブースのブース循環水中に、疎水性溶剤である特定のカルボニル化合物、及び/又は灯油と、それを乳化するアニオン性界面活性剤を添加して水中油型エマルションを形成し、さらにそのエマルションの一部に、鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物を添加してエマルションを破壊し、塗料成分を前記ブース循環水から分離することを特徴とするブース循環水の処理方法である。
【0015】
請求項2に係る発明は、前記の特定のカルボニル化合物が2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、又は2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレートであることを特徴とする請求項1記載のブース循環水の処理方法である。
【0016】
請求項3に係る発明は、前記のアニオン性界面活性剤がオレイン酸塩であること特徴とする請求項1、又は請求項2記載のブース循環水の処理方法である。
【0017】
請求項4に係る発明は、前記の鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物が硫酸第二鉄、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、ポリ塩化アルミニウム、アルミナゾル、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、塩化亜鉛、亜鉛酸ナトリウムから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のブース循環水の処理方法である。
【発明の効果】
【0018】
湿式塗装ブースにおいて、未塗着水性塗料を含むブース循環水から塗料成分を容易かつ効率的に分離及び回収できる処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】湿式塗装ブースにおける本発明の処理方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の水中油型エマルションに用いられる疎水性溶剤は、水への溶解度が1重量%未満、かつ、沸点が180〜300℃であることが好ましい。水への溶解度が1重量%以上の場合はブース循環水中に前記溶剤が溶け込みやすくなり、そのため、ブース循環水中のCOD負荷が増し、最終的に排水処理負荷を著しく高くするため好ましくない。また、沸点が180℃未満の溶剤では揮散が著しいための溶剤の使用量が多く必要となり、作業環境に対しても好ましくなく、一方、沸点300℃を越える溶剤はブース循環水に対して乳化することが困難となり好ましくない。
【0021】
このような条件を満たす疎水性溶剤には特定のカルボニル化合物や日本工業規格JISK2203に規定された灯油が該当し、中でも好ましいカルボニル化合物は2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートと2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレートである。これらのカルボニル化合物と灯油は単独で使用しても良く、また、2種以上をどのような割合で組み合わせて使用しても良い。
【0022】
本発明で用いる疎水性溶剤の添加量は、ブース循環系に捕集された未塗着塗料(以下、「捕集未塗着塗料」と記す。)に対して有効成分として0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上である。捕集未塗着塗料に対して有効成分として0.1重量%よりも添加量が少ないと、塗料樹脂の粘着性を完全に無くすことができず、好ましくない。また、水中油型エマルションが形成される限り該添加量を増やすことが可能であるが、捕集未塗着塗料に対して大過剰量の疎水性溶剤を加えても不粘着化に関与しない部分が増えて不経済である。
【0023】
尚、ブース循環系に捕集された未塗着塗料(捕集未塗着塗料)は、塗料噴霧量から被塗装物に付着した塗料量(塗装量)を差し引いた値にブース循環水系への捕集効率を掛けた値(重量)として算出する。塗装量に係わる塗装効率や捕集効率は、塗装室、接触部及び使用するスプレーガンの性能や特性、使用する塗料の性状、及び被塗装物の種類や形状によって、それぞれ異なるため、各ブース、各条件ごとに算出する。
【0024】
本発明のブース循環水の処理方法において、ブース循環水に添加されるアニオン性界面活性剤は、前記の疎水性溶剤である特定のカルボニル化合物及び/又は灯油をブース循環水中に乳化分散させて水中油型エマルションを形成し、かつ、該エマルションの一部に、鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物を添加した場合には速やかにエマルションが破壊される乳化性能を具備しなければならない。このような性能を有するアニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、アクリル酸とマレイン酸の重合物及びその塩が挙げられる。中でも鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物の添加によって乳化が容易に破壊される脂肪酸塩が好ましい。特に好ましい脂肪酸塩はパルミチン酸塩、パルミトレイン酸塩、マルガリン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、バクセン酸塩、リノール酸塩であり、中でもオレイン酸塩が最も好ましい。また、塩の種類としてはナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
【0025】
本発明で用いるアニオン性界面活性剤の添加量は使用する疎水性溶剤の添加量(重量)に対して有効成分として20重量%以上、好ましくは30重量%以上である。疎水性溶剤の添加量に対して有効成分として2重量%よりも添加量が少ないと、十分な乳化性能が得られず、好ましくない。また、水中油型エマルションが形成される限り該添加量を増やすことが可能であるが、疎水性溶剤の添加量に対して大過剰量のアニオン性界面活性剤を加えてもエマルション形成に関与しない部分が増え、更に、該エマルションを破壊する場合に添加する鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物の添加量が多く必要となるため、不経済である。
【0026】
本発明のブース循環水に用いられる水の種類は特に制限は無く通常の工業用水が使用できるが、硬度成分濃度が高くなると前記のアニオン性界面活性剤の乳化性能が低下するので、低下分に見合ったアニオン性界面活性剤添加量の追加が必要である。
【0027】
本発明のブース循環水の処理方法においては、前記エマルションの一部に鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物を添加してエマルションを破壊し、塗料成分を前記ブース循環水から分離するが、添加される鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物としては、硫酸第二鉄、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、ポリ塩化アルミニウム、アルミナゾル、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、塩化亜鉛、亜鉛酸ナトリウムが挙げられる。分離した塗料成分を回収する方法には特に制限が無いが、塗料成分を浮上分離する方法であれば、該成分をより容易に回収できるため好ましく、この方法には特にポリ塩化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム等のアルミニウム化合物が適している。
【0028】
本発明で用いる鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物の添加量は、捕集未塗着塗料に対して有効成分として0.02重量%以上、好ましくは0.2重量%以上である。捕集未塗着塗料に対して有効成分として0.02重量%よりも添加量が少ないと、十分な固液分離が行えないため好ましくなく、また、過剰添加であってもエマルション破壊と塗料成分の分離回収は達成できるが、分離固形分量が増大し、また該固形分が浮上し難くなるため、回収作業性が悪くなり好ましくない。
【0029】
本発明は、湿式塗装ブースのブース循環水中に水性塗料を含む場合のブース循環水の処理方法であって、水性塗料以外に同時に油性塗料を含む場合にも適用できる。この水性塗料/油性塗料混合の場合において、2種の塗料がどのような混合比であっても本発明の方法は適用できる。また、本発明で用いられる水中油型エマルションと同様のエマルションを用いて未塗着油性塗料を捕集する方法は知られており、この場合も上記の鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物の添加によるエマルション破壊操作によって循環水中の油性塗料成分の分離回収が可能である。従って、今回、本発明者らが水中油型エマルションによる水性塗料の処理効果を見出したことによって、本発明の方法は、水性塗料単独、水性塗料/油性塗料混合、油性塗料単独のあらゆる場合に適用できる非常に優れた方法であることが示された。
【0030】
本発明のブース循環水の処理方法において、処理の対象となる水性塗料としては特に限定はなく、例えば水性アルキッド樹脂塗料、水性ポリエステル樹脂塗料、水性アクリル樹脂塗料、水性ポリウレタン樹脂塗料等が挙げられる。また、水性塗料と同時に処理できる油性塗料としては特に限定はなく、例えば油性アルキッド樹脂塗料、油性ポリエステル樹脂塗料、油性アクリル樹脂塗料、油性ポリウレタン樹脂塗料等が挙げられる。
【0031】
本発明のブース循環水の処理方法において用いる疎水性溶剤である特定のカルボニル化合物及び/又は灯油、アニオン性界面活性剤ならびに鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物の添加場所および添加方法について説明する。
【0032】
図1は湿式塗装ブースにおける本発明の水中油型エマルションの流れを示す模式図であり、水性塗料を使用した場合について説明する。循環ピット1の該エマルションは循環ポンプ2を経て塗装室3内に散布され、塗装室3内で被塗装物に塗着しなかった未塗着水性塗料と接触し、これを捕集する(接触部)。未塗着水性塗料を捕集した該エマルション4は循環ピット1へ返送される。該エマルションの一部は採水ポンプ5を経て固液分離装置6へ送られてエマルションが破壊され、エマルション中の水相に捕集されていた未塗着の水性塗料成分は破壊されたエマルションから分離した油相(カルボニル化合物及び/又は灯油)成分と一緒に分離回収され系外8へ排出される。未塗着塗料が除去された処理水7は循環ピット1に返送される。
【0033】
ここで、本発明のブース循環水の処理方法において用いる疎水性溶剤である特定のカルボニル化合物及び/又は灯油、及び、これを乳化し水中油型エマルションを形成するアニオン性界面活性剤は循環ポンプの直前あるいは直後等の、ブース循環水中に混合されて該エマルションが形成され易い箇所で添加することが好ましい。例えば図1における添加場所A,Bである。一方、本発明のブース循環水の処理方法において、前記エマルションを破壊し水性塗料成分を水相から分離する場合に添加する、鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物は、採水ポンプの直後あるいは固液分離装置内に添加することが好ましい。例えば図1における添加場所Cである。尚、これらの疎水性溶剤、アニオン性界面活性剤や鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物の添加方法についても特に限定はない。定量ポンプで連続的に添加したり、間歇的に添加したりするなど適宜選択することができる。また、本発明のブース循環水の処理方法の効果を損なわない範囲において、他の添加剤、例えば、消泡剤、凝集剤、凝結剤を配合・併用することに何ら制限を加えるものではない。
【実施例】
【0034】
本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
処理剤A:使用した有機溶剤
(A−1)
2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート[チッソ株式会社製]。水への溶解度:0.9重量%、沸点:248℃
(A−2)
2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート[チッソ株式会社製]。水への溶解度:0.042重量%、沸点:286℃
(A−3)
石油留分又は残油の水素化精製,改質又は分解により得られる灯油[ジャパンエナジー株式会社製「カクタスソルベントP−150(商品名)」]。水への溶解度:0.04重量%、沸点:180〜210℃
(A−4)
1,3,5−トリメチルベンゼン[関東化学製試薬]。水への溶解度:1重量%未満、沸点:164℃
(A−5)
ジメチルジプロピルナフタレン[ジャパンエナジー株式会社製「PAD−2(商品名)」]。水への溶解度:1重量%未満、沸点:310〜315℃
(A−6)
N−メチル−2−ピロリドン[関東化学製試薬]。水への溶解度:100重量%、沸点:202℃
【0036】
処理剤B:使用したアニオン性界面活性剤
(B−1)
オレイン酸ナトリウム[関東化学製試薬]。
(B−2)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム[花王株式会社製「ネオペレックス05パウダー(商品名)」]。
【0037】
処理剤C:使用した鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物
(C−1)
硫酸アルミニウム14〜18水塩[関東化学製試薬]。
(C−2)
硫酸第二鉄[関東化学製試薬]。
(C−3)
塩化亜鉛[関東化学製試薬]。
【0038】
処理剤D:その他の処理剤
(D−1)
塩酸[関東化学製試薬]。
(D−2)
ポリエチレンイミン[株式会社日本触媒製「エポミンP−1000(商品名)」]。
【0039】
(実施例1)
実施例1では、有機溶剤として本発明範囲内の処理剤A−1を用い、アニオン性界面活性剤として処理剤B−1を用い、鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物として処理剤C−1を用いた。A−1は有効成分として5重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加し、B−1は有効成分として40重量%対疎水性溶剤(=2重量%対捕集未塗着塗料)の割合で添加し、C−1は有効成分として3重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加した。
(実施例2)
実施例2では、有機溶剤として本発明範囲内の処理剤A−2を用い、アニオン性界面活性剤として処理剤B−1を用い、鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物として処理剤C−1を用いた。A−2は有効成分として5重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加し、B−1は有効成分として40重量%対疎水性溶剤(=2重量%対捕集未塗着塗料)の割合で添加し、C−1は有効成分として3重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加した。
(実施例3)
実施例3では、有機溶剤として本発明範囲内の処理剤A−3を用い、アニオン性界面活性剤として処理剤B−1を用い、鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物として処理剤C−1を用いた。A−3は有効成分として5重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加し、B−1は有効成分として40重量%対疎水性溶剤(=2重量%対捕集未塗着塗料)の割合で添加し、C−1は有効成分として3重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加した。
(実施例4)
実施例4では、有機溶剤として本発明範囲内の処理剤A−2を用い、アニオン性界面活性剤として処理剤B−2を用い、鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物として処理剤C−1を用いた。A−2は有効成分として5重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加し、B−2は有効成分として40重量%対疎水性溶剤(=2重量%対捕集未塗着塗料)の割合で添加し、C−1は有効成分として3重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加した。
(実施例5)
実施例5では、有機溶剤として本発明範囲内の処理剤A−2を用い、アニオン性界面活性剤として処理剤B−1を用い、鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物として処理剤C−2を用いた。A−2は有効成分として5重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加し、B−1は有効成分として40重量%対疎水性溶剤(=2重量%対捕集未塗着塗料)の割合で添加し、C−2は有効成分として3重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加した。
(実施例6)
実施例6では、有機溶剤として本発明範囲内の処理剤A−2を用い、アニオン性界面活性剤として処理剤B−1を用い、鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物として処理剤C−3を用いた。A−2は有効成分として5重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加し、B−1は有効成分として40重量%対疎水性溶剤(=2重量%対捕集未塗着塗料)の割合で添加し、C−3は有効成分として3重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加した。
【0040】
(比較例1)
比較例1では、ブース循環水中に何も添加せず、固液分離装置でのみ鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物として処理剤C−1を添加した。C−1は有効成分として対捕集未塗着塗料3重量%の割合で添加した。
(比較例2)
比較例2では、有機溶剤として本発明範囲外の処理剤A−4を用い、アニオン性界面活性剤として処理剤B−1を用い、鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物として処理剤C−1を用いた。A−4は有効成分として5重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加し、B−1は有効成分として40重量%対疎水性溶剤(=2重量%対捕集未塗着塗料)の割合で添加し、C−1は有効成分として3重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加した。
(比較例3)
比較例3では、有機溶剤として本発明範囲外の処理剤A−5を用い、アニオン性界面活性剤として処理剤B−1を用い、鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物として処理剤C−1を用いた。A−5は有効成分として5重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加し、B−1は有効成分として40重量%対疎水性溶剤(=2重量%対捕集未塗着塗料)の割合で添加し、C−1は有効成分として3重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加した。
(比較例4)
比較例4では、有機溶剤として本発明範囲外の処理剤A−6を用い、アニオン性界面活性剤として処理剤B−1を用い、鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物として処理剤C−1を用いた。A−6は有効成分として5重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加し、B−1は有効成分として40重量%対疎水性溶剤(=2重量%対捕集未塗着塗料)の割合で添加し、C−1は有効成分として3重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加した。
(比較例5)
比較例5では、有機溶剤として本発明範囲内の処理剤A−2を用い、アニオン性界面活性剤として処理剤B−1を用い、固液分離装置では鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物は添加せず、処理剤D−1を添加してエマルションpHを4.5に調整した。A−2は有効成分として5重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加し、B−1は有効成分として40重量%対疎水性溶剤(=2重量%対捕集未塗着塗料)の割合で添加し、D−1はpH見合いで添加した。
(比較例6)
比較例6では、ブース循環水中に処理剤D−2を添加した。D−2は有効成分として5重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加した。
(比較例7)
比較例7では、ブース循環水中に処理剤D−2を添加し、固液分離装置において鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物として処理剤C−1を添加した。D−2は有効成分として5重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加し、C−1は有効成分として3重量%対捕集未塗着塗料の割合で添加した。
【0041】
[ブース循環水の処理試験]
(試験1)水性塗料処理試験
ブース循環水の処理試験を行った。試験に用いた装置は、図1に示す湿式塗装ブースを模擬した試験装置である。塗装を行うための塗装室3と、塗装室3から流下されるブース循環水4を受ける循環ピット1を備えている。循環ピット1のブース循環水は循環ポンプ2を経て塗装室3へ送られる。塗装室3内で被塗装物に塗着しなかった未塗着塗料はブース循環水と接触し捕集され、ブース循環水とともに循環ピット1へ流下する。循環ピット1のブース循環水の一部は採水ポンプ5を経て固液分離装置6へ送られ、ブース循環水中の未塗着塗料は分離回収され系外8へ排出される。未塗着塗料が除去された処理水7は循環ピット1に返送される。ここで、水中油型エマルションを形成する実施例・比較例では「ブース循環水」を「水中油型エマルション」と読み替える。
【0042】
本発明で用いる疎水性溶剤を含む前記の有機溶剤(処理剤A)は添加場所Aに添加し、それを乳化するアニオン性界面活性剤(処理剤B)は添加場所Bに添加し、固液分離するための鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物(処理剤C)は添加場所Cに添加する。また、比較例で用いた処理剤D−1は添加場所Cに、処理剤D−2は添加場所Aに添加する。この湿式塗装ブースの保有水量は120Lであり、循環ポンプ2によるブース循環水の水量は40L/分である。
【0043】
以上のように構成された試験用湿式塗装ブースを用い、実施例あるいは比較例に示した上記処理剤の所定量を添加しつつ、塗装室内でブース循環水に向けて水性塗料を3g/分で連続して3時間噴霧した。水性塗料としては、自動車用水性上塗り塗料(日本ペイント(株)製)を用いた。また、比較例5の場合を除き、塗料を噴霧している間、ブース循環水のpHが7〜8になるように希水酸化ナトリウムあるいは希塩酸でpH調整した。pHを本範囲に調整するのは鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物の効果は十分に発揮させるためと、塗装ブース装置の腐食を防止するためである。固液分離装置では塗料スラッジを連続回収し、噴霧終了後に乾燥固形分を求めた。本測定値と噴霧した塗料の不揮発分ならびに使用した処理剤の固形分から、塗料回収率(下記、式1参照)を算出し評価した。本試験装置では被塗装物が無く、噴霧した塗料は全量ブース循環水に捕集されたとして計算した。また、試験終了時の処理水7を採取し、CODの測定を実施した。その結果を表1に示した。
(式1)

【0044】
尚、比較例6では試験終了後の循環ピット1に浮上もしくは沈降した塗料スラッジを回収して塗料回収率を求めた。また、試験終了後の循環ピット1のブース循環水を採取し、CODの測定を実施した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示すように、ブース循環水中に、処理剤Aの有機溶剤として本発明範囲の疎水性溶剤を添加し、それを乳化するアニオン性界面活性剤を添加した上、固液分離装置にて鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物を添加した実施例1〜6では、塗料回収率が80%以上と高く、水性塗料成分の分離が効率良くなされていることが分かる。また、循環水のCODも600mg・O/l以下であり、有機物が効率的に除去されていることが分かる。これに対して、比較例1は処理剤Cの硫酸アルミニウムのみを添加した場合であるが、塗料回収率が50%未満であり水性塗料成分の分離が極めて不十分であった。比較例2は処理剤Aの有機溶剤として沸点が180℃未満の疎水性溶剤を添加した場合であるが、溶剤が揮散しやすいため、しだいに未塗着塗料の乳化性が悪化し、不十分な塗料回収率となった。比較例3は処理剤Aの有機溶剤として沸点が300℃を越える疎水性溶剤を添加した場合であるが、溶剤を水に乳化する乳化性が不十分であり、不十分な塗料回収率であった。比較例4は処理剤Aの有機溶剤として水への溶解度が1重量%以上の親水性溶剤を添加した場合であるが、溶剤が水に溶け込み、1200mg・O/l以上もの高いCODとなった。比較例5は固液分離する方法として処理剤Cを用いず、塩酸を添加してエマルションpHを4.5に調整し、エマルションを破壊した場合であるが、pH酸性化によってエマルションが破壊されても水相に溶解している水性塗料を十分に分離できず、不十分な塗料回収率となった。比較例6はブース循環水中に特許文献4記載のポリエチレンイミンを添加した場合であるが、塗料回収率は50%以下であり水性塗料成分の分離が不十分であった。比較例7はブース循環水中に特許文献4記載のポリエチレンイミンを添加し、かつ固液分離する工程で硫酸アルミニウムを添加した場合であるが、処理剤をそれぞれ添加した比較例1や比較例6の場合よりも塗料回収率は向上したが、60%の回収率であり不十分な回収性であった。
【0047】
(試験2)水性塗料と油性塗料の混合処理試験
試験1と同じ試験用湿式塗装ブースを用いブース循環水の処理試験を行った。本試験では塗装湿内でブース循環水に向けて水性塗料を2g/分と油性塗料1g/分を同時に連続して3時間噴霧した。水性塗料としては、自動車用水性上塗り塗料(関西ペイント(株)製)を用い、油性塗料としては、自動車用溶剤クリア塗料(関西ペイント(株)製)を用いた。実施例7〜12で用いた処理剤と添加量はそれぞれ実施例1〜6と同じであり、比較例8〜12で用いた処理剤と添加量はそれぞれ比較例1〜5と同じである。更に比較例12におけるpH調整は比較例5と同じくpH4.5に調整した。その他、処理剤の添加場所、試験用湿式塗装ブースの諸元等の条件は試験1と同じとした。その結果を表2に示した。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示すように、ブース循環水中に、処理剤Aの有機溶剤として本発明範囲の疎水性溶剤を添加し、それを乳化するアニオン性界面活性剤を添加した上、固液分離装置にて鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物を添加した実施例7〜12では、試験1と同様に塗料回収率が80%以上と高く、ブース循環水中の塗料の分離が効率よくなされていることが分かる。また、循環水のCODも500mg・O/l以下であり、有機物が効率的に除去されていることが分かる。これに対して、比較例8は処理剤Cの硫酸アルミニウムのみを添加した場合であるが、粘着性のある油性塗料が試験装置に付着し、塗料回収率が30%と極めて塗料の分離が不十分であった。比較例9、比較例10、比較例11ならびに比較例12についても試験1と同様に不十分な効果であった。
【0050】
実施例1〜6と比較例1〜7の結果、及び実施例7〜12と比較例8〜12の結果から、本発明のブース循環水の処理方法を用いることによって、水性塗料単独の場合であっても水性塗料/油性塗料混合の場合であってもブース循環水中の未塗着塗料の分離及び回収を容易かつ効率的に行うことができ、本発明が湿式塗装ブースのブース循環水中に水性塗料を含む場合におけるブース循環水の処理方法として従来の技術よりも格段に優れていることが明確に示された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、湿式塗装ブースのブース循環水中に水性塗料を含む場合におけるブース循環水の処理方法として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1.循環ピット
2.循環ポンプ
3.塗装室
4.水中油型エマルション(あるいはブース循環水)
5.採水ポンプ
6.固液分離装置
7.処理水
8.系外への排出



【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性塗料を含む湿式塗装ブースのブース循環水中に、疎水性溶剤である特定のカルボニル化合物、及び/又は灯油と、それを乳化するアニオン性界面活性剤を添加して水中油型エマルションを形成し、さらにそのエマルションの一部に、鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物を添加してエマルションを破壊し、塗料成分を前記ブース循環水から分離することを特徴とするブース循環水の処理方法。
【請求項2】
前記の特定のカルボニル化合物が2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、又は2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレートであることを特徴とする請求項1記載のブース循環水の処理方法。
【請求項3】
前記のアニオン性界面活性剤がオレイン酸塩であること特徴とする請求項1、又は請求項2記載のブース循環水の処理方法。
【請求項4】
前記の鉄化合物、アルミニウム化合物または亜鉛化合物が硫酸第二鉄、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、ポリ塩化アルミニウム、アルミナゾル、アルミン酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、塩化亜鉛、亜鉛酸ナトリウムから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のブース循環水の処理方法。



【図1】
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【公開番号】特開2012−61406(P2012−61406A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207002(P2010−207002)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】