説明

水性塗料用アルミニウム顔料組成物および水性塗料

【課題】水性塗料のチクソトロピー性を向上させ、塗着後のアルミニウム顔料の配向性が向上することによりメタリックムラが改善され、有機溶剤系の塗料と同程度の色調および外観を達成できる水性塗料用アルミニウム顔料組成物を提供する。
【解決手段】水性塗料用アルミニウム顔料組成物は、アルミニウム顔料、レオロジーコントロール剤および有機溶剤を含み、該有機溶剤は6〜12の溶解度パラメータを有し、かつ20℃での水への溶解度が30質量%以下であり、該レオロジーコントロール剤は、これを樹脂エマルション中に添加してB型粘度計を用いて粘度を測定した場合に60回転時の粘度B60と6回転時の粘度B6とがともに0.3〜30Pa・sの範囲内にあり、かつ該B6と該B60との比B6/B60であるチクソトロピックインデックスが1〜60を示すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料に配合した場合に配向性に優れ、メタリックムラを溶剤系の塗料と同程度まで改善することができる水性塗料用アルミニウム顔料組成物およびこれを含有する水性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メタリック塗料は有機溶剤を使用した溶剤系の塗料が主流であった。しかしながら、近年のVOC規制をはじめとする環境問題へ対応するために、水を主溶剤として使用した水性塗料への移行が進んでいる。
【0003】
溶剤系のメタリック塗料と比較すると水性メタリック塗料(本発明では単に「水性塗料」とも記す)は塗料中でのアルミニウム顔料の分散性、沈降性など諸特性が異なる。この塗料タイプの違い(すなわち溶剤系であるか水性であるか)が塗膜化した際のアルミニウム顔料の配向性に影響を及ぼすことは広く知られている。また、このアルミニウム顔料の配向は、塗料の特性だけでなく塗装機による影響も大きいことが判っている。特に近年、水性メタリック塗料の塗装においては、意匠性よりも塗着効率を優先するメタリックベル塗装が主流となっているため、塗膜形成後にいわゆるメタリックムラ(メタリックムラには吹きムラ、流れムラ、クリヤー塗膜への戻しムラがあり、塗膜内でアルミニウム顔料が動き、不均一に並んだり凝集、偏在することでムラになって見えることをいう)が生じやすい環境にある。なお、流れムラ、戻しムラは塗料粘度が低すぎたり、一度に厚く塗ったり、短時間に何回も塗り重ねると起こりやすいことが知られている。
【0004】
このメタリックベル塗装では、吐出時に高回転のシア(せん断力)を塗料に与えることで、霧化効率を上げている。このため霧化粒子が非常に細かくなり、さらに塗板に対する衝突速度が遅くなることでアルミニウム顔料が衝突配向しにくい状態となる。衝突配向とはスプレー時に塗料粒子(アルミニウム顔料)が被塗装面に衝突し、塗着する際の変形および流動によって被塗装面と平行になるように配向する挙動のことである。このことから従来の吐出量を絞って衝突配向させるエアスプレーに比べ、塗膜におけるアルミニウム顔料の配向性が乱れる傾向にある。
【0005】
このようなアルミニウム顔料の配向性の乱れを制御する目的で水性メタリック塗料中に各種添加剤を添加することが行なわれているが、配向性の制御は難しく、溶剤系のメタリック塗料と同程度の色調、外観を水性塗料で達成することはできていない。
【0006】
このメタリックムラを解決するものとして、アルミニウム顔料によりアプローチするものもあるが、特開2005−240013号公報(特許文献1)には、フレーク状アルミニウム粉末の表面に、制御された特定量の樹脂をコーティングすることにより、自動車のボディ用やバンパー用さらには部品用、補修用等のメタリック塗装において、樹脂コートアルミニウム顔料粒子が極めて優れた配向性を示し、それゆえ高い光輝度並びに粒子感の小さい塗膜を与えうることができる旨が開示されている。
【0007】
しかしながら、この処理方法では、樹脂をコーティングする工程が必要となるため、手間がかかり、さらには樹脂をコーティングしていることから、本来のアルミニウム顔料の反射率を反映する塗膜を得ることはできない。
【特許文献1】特開2005−240013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、水性塗料中でのアルミニウム顔料表面に種々の処理や被膜を形成することにより化学的安定性を向上させることは可能となっているが、塗膜中でのアルミニウム顔料の配向性を溶剤系と同程度まで向上させることはできず、メタリックムラの発生を抑えることはできていない。
【0009】
上述の各種表面処理を施したアルミニウム顔料は、水性塗料への分散性を考慮して親水性溶剤にてペースト化したものが水性塗料へ配合されている。この思想は、溶剤系塗料の場合において塗料溶剤との親和性が高い溶剤にてアルミニウム顔料をペースト化することで分散性を高め色調を高めるということが行なわれていることに倣ったものであり、水性塗料の場合においてもアルミニウム顔料を親水性溶剤にてペースト化することで水性塗料中での分散性は向上する。
【0010】
しかしながら、このように水性塗料中での分散性が向上しても色調、特に塗膜中での配向性は溶剤系と同程度までに向上することはできていない。これは塗装工程における塗着時やその後の塗膜形成時(ウェット塗膜の収縮;収縮配向)にアルミニウム顔料の配向性が乱れていることが原因であるが、この傾向が顕著に現れた場合、塗着時に塗料のタレが生じる。これらは水性塗料中でのアルミニウム顔料の分散性を向上させることが、特に塗着後のチクソトロピー性の低下につながるためであると推察している。これらの要因により、水性塗料ではアルミニウム顔料の配向性が低下し、メタリックムラを生じ易くなる傾向にあった。
【0011】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、水性塗料のチクソトロピー性を向上させ、塗着後のアルミニウム顔料の配向性が向上することによりメタリックムラが改善され、以って有機溶剤系の塗料と同程度の色調および外観を達成することができる水性塗料用アルミニウム顔料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、水性塗料中でのアルミニウム顔料の配向性を向上するために、水性塗料中でのアルミニウム顔料の挙動、特に塗着時や塗膜形成時のアルミニウム顔料の挙動に着目した。そこで、アルミニウム顔料に対してレオロジーコントロール剤を添加、混合することにより、アルミニウム顔料表面に積極的にレオロジーコントロール剤を吸着させ、これにより水性塗料の塗着後の塗料粘度が増加し、以ってタレが生じないとともに、塗膜形成時にアルミニウム顔料の配向が乱れず、メタリックムラの改善ができることを見出した。
【0013】
さらに、本発明者は上記に加えてアルミニウム顔料を分散する有機溶剤が水性塗料に及ぼす影響について着目した結果、親水性溶剤にてペースト化した場合において塗着時や塗膜形成時にアルミニウム顔料の配向性が乱れるのは、親水性溶剤が起因していることを突き止めるとともに、水性塗料中の主溶媒である水と親和性の低い溶剤にて組成物化することでアルミニウム顔料の配向性が向上し、メタリックムラを改善できることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明の水性塗料用アルミニウム顔料組成物は、アルミニウム顔料、レオロジーコントロール剤および有機溶剤を少なくとも含むものであって、該有機溶剤は6〜12の溶解度パラメータ(SP値)を有し、かつ20℃での水への溶解度が30質量%以下であり、該レオロジーコントロール剤は、これを樹脂エマルション中の固形分100質量部に対して2.5質量部添加してB型粘度計を用いて粘度を測定した場合に60回転時の粘度B60と6回転時の粘度B6とがともに0.3〜30Pa・sの範囲内にあり、かつ該B6と該B60との比B6/B60であるチクソトロピックインデックス(TI値)が1〜60を示すことを特徴としている。
【0015】
また、該レオロジーコントロール剤は、該アルミニウム顔料100質量部に対して0.01〜50質量部含まれることが好ましい。
【0016】
また、該レオロジーコントロール剤は、ウレタン、アクリル、ポリオレフィン、アマイド、アニオン系活性剤、ノニオン系活性剤、ポリカルボン酸、セルロース、およびウレアからなる群より選ばれる1種または2種以上の化合物であることが好ましい。
【0017】
また、上記有機溶剤は、アルミニウム顔料100質量部に対して、10〜1000質量部含まれることが好ましい。
【0018】
このように、特定のSP値を有し、かつ水への溶解度が特定量以下である有機溶剤がアルミニウム顔料組成物中に含まれることにより、レオロジーコントロール剤との相乗効果によって、水性塗料のチクソトロピー性を保つことができる。これは、アルミニウム顔料を含む水性塗料が塗着した際に水とのなじみの悪いアルミニウム顔料が油性成分に包まれた状態で存在し、水や水に親和性の高い樹脂層とは異なる領域を形成するため、アルミニウム顔料が塗膜中で流動する範囲を狭めることになる。
【0019】
また、焼付け時の塗膜の体積収縮では油性成分と水性成分の界面が形成され、この界面にアルミニウム顔料が存在することによって、揮発成分により引き起こされるベナードセルの流れで配向が乱れることなく、平行に配列し易くなると考えられる。
【0020】
また、上述のようにレオロジーコントロール剤との併用により、更なるチクソトロピー性を発現し、アルミニウム顔料を塗膜中で平行配列した状態で止める効果が発現し、配向性やメタリックムラの改善に対して効果を示すものである。
【0021】
さらに、本発明の水性塗料は、上記の水性塗料用アルミニウム顔料組成物を含有するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、水性塗料に配合される水性塗料用アルミニウム顔料組成物中にレオロジーコントロール剤を導入し、水性塗料のチクソトロピー性を向上させることにより、配向性の向上ならびにメタリックムラの改善が図れるものである。さらに、特定のSP値を有する有機溶剤(水性塗料中の主溶媒である水との親和性が低い溶剤)が併用されることにより、特に水性塗料のチクソトロピー性を向上することができるため、塗着後のアルミニウム顔料の配向性が向上することによりメタリックムラが改善され、以って有機溶剤系の塗料と同程度の色調および外観を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<水性塗料用アルミニウム顔料組成物>
本発明の水性塗料用アルミニウム顔料組成物は、水性塗料に配合することを目的として調製される組成物であって、アルミニウム顔料、レオロジーコントロール剤および有機溶剤を少なくとも含むものである。これらの3成分を含む限り、本発明の効果を示す範囲内において任意の他の成分を含むことができる。
【0024】
水性塗料用アルミニウム顔料組成物中にレオロジーコントロール剤を含むことにより水性塗料中でチクソトロピー性を発現し、塗料を塗着した後の塗膜中でアルミニウム顔料を平行配列した状態で止める効果が発現し、アルミニウム顔料の配向性やメタリックムラを改善する効果が得られる。
【0025】
水性塗料中に各種添加剤を添加することにより塗料中のレオロジーをコントロールしようとする思想は従来よりあったが、本発明のようにアルミニウム顔料そのものに着目してアルミニウム顔料の配向性をレオロジーのコントロールにより向上させるという技術的思想は従来存在しなかった全く新規な技術的思想である。
【0026】
<アルミニウム顔料>
本発明の水性塗料用アルミニウム顔料組成物に用いられるアルミニウム顔料としては、アルミニウム粒子およびそれを基材とするものが用いられる。
【0027】
ここで、本発明に用いるアルミニウム粒子は、アルミニウムのみから構成されていてもよく、またアルミニウム合金から構成されていてもよい。アルミニウムのみから構成される場合、アルミニウムの純度は特に限定されず、不純物が含まれていても本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0028】
また、本発明に用いるアルミニウム粒子の形状は、粒状、板状、塊状、フレーク状(鱗片状)、などの種々の形状を含み得るが、塗膜に優れたメタリック感および輝度を与えるためには、フレーク状であることが好ましい。
【0029】
そして、本発明に用いるアルミニウム粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、2μm以上であることが好ましく、特に5μm以上であればより好ましい。また、この平均粒径は、40μm以下であることが好ましく、特に30μm以下であればより好ましい。平均粒径が2μmより小さいと、製造工程での取り扱いが難しく、粒子は凝集しやすくなる傾向を示し、平均粒径が40μmを超えると、塗料として使用したときに塗膜表面が荒れて、好ましい意匠性を実現できない場合がある。
【0030】
さらに、本発明に用いるアルミニウム粒子は、平均粒径を平均厚みで割った形状係数(本発明においては「アスペクト比」と記す)が5以上のものが好ましく、特に15以上であることが好ましい。また、このアスペクト比は1000以下であることが好ましく、特に500以下であることが好ましい。アスペクト比が5未満の場合には光輝感不足となる傾向があり、アスペクト比が1000を超えるとアルミニウム粒子の機械的強度が低下して色調が不安定となる場合がある。
【0031】
ここで、本発明に用いるアルミニウム粒子の平均粒径は、レーザー回折法、マイクロメッシュシーブ法、コールターカウンター法、などの公知の粒度分布測定法により測定された粒度分布により、体積平均を算出して求められる。平均厚みについては、アルミニウム顔料の隠ぺい力と密度より算出される。
【0032】
そして、本発明に用いるアルミニウム粒子の表面には、粉砕助剤が付着していてもよい。粉砕助剤としては、通常不飽和脂肪酸を使用する。ここで使用される不飽和脂肪酸としては、たとえば、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、リシノール酸、エライジン酸、ゾーマリン酸、ガドレイン酸、エルカ酸などが挙げられる。
【0033】
なお、本発明のアルミニウム顔料は、後述のようにアルミニウム粒子を基材としてその表面に耐水性被膜が形成されたものを用いることもできる。本発明においては、アルミニウム粒子の表面に耐水性被膜が形成されたものに対して、「アルミニウム顔料の表面に耐水性被膜が形成された」と表現する場合があり、この点において表現上「アルミニウム顔料」と「アルミニウム粒子」とを明確に区別して用いるものではない。
【0034】
<レオロジーコントロール剤>
レオロジーコントロール剤とは、一般的には塗料に添加することにより塗料のレオロジーをコントロールする作用を奏する添加剤をいい、チクソトロピック剤、沈降防止剤、タレ止め剤、増粘剤等、各種の名称で呼ばれるが、本発明においてはこのようなレオロジーコントロール剤の中でも特に樹脂エマルション中に添加して(樹脂エマルションの固形分100質量部に対して2.5質量部の割合で添加)B型粘度計を用いて粘度を測定した場合に60回転時の粘度B60と6回転時の粘度B6とがともに0.3〜30Pa・sの範囲内にあり、かつ該B6と該B60との比B6/B60であるチクソトロピックインデックス(TI値)が1〜60を示すという特性を奏するものが採用される。このような特性を備えることにより、水性塗料のチクソトロピー性が飛躍的に向上したものとなる。上記の規定において、粘度B60またはB6が0.3Pa・s未満である場合、またはTI値が1未満である場合は水性塗料のチクソトロピー性が向上する効果が期待できないという問題があり、一方粘度B60またはB6が30Pa・sを超える場合、またはTI値が60を超える場合には、水性塗料の静的粘度が高すぎて再攪拌し辛く、塗装時の流動性を確保するのが難しくなるという問題がある。
【0035】
以下に当該レオロジーコントロール剤が上記の特性を示すか否かを評価するために使用される粘度測定用の樹脂エマルションの組成の一例を示す。
【0036】
<樹脂エマルションの組成>
JONCRYL 62J(*A) (固形分として)21質量部
JONCRYL 711(*B) (固形分として)79質量部
(*A)BASF Japan:スチレンアクリル系樹脂水溶液
(*B)BASF Japan:アクリル系樹脂エマルション
(*A)および(*B)の符号は社名(製造者)および化合物名を示す。上記「JONCRYL 62J」と上記「JONCRYL 711」とを質量比にして前者:後者=1:3で配合すれば、上記に示した固形分割合の組成が得られる。なお、このような組成を有する樹脂エマルションを以下では「樹脂エマルションA」と記す。
【0037】
<レオロジーコントロール剤の評価法>
上記樹脂エマルションAの固形分100質量部に対して、評価するレオロジーコントロール剤(の有効成分)が2.5質量部となるようにレオロジーコントロール剤を添加し、さらに1000rpmで3分間ディスパー攪拌した直後60秒後の粘度をB型粘度計(商品名「DVM−BII」、東機産業社製)を用いて測定し(ロータNo.3使用)、上記粘度B6と粘度B60とを求めることができる。
【0038】
本発明のレオロジーコントロール剤は、上記のような特性を示す限り、その化学構造は特に限定されず、たとえばウレタン(分子中にウレタン構造を含むポリマー、オリゴマー等)、アクリル(分子中にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルのポリマー、オリゴマーからなる構造を含むもの)、ポリオレフィン(たとえばポリエチレン、ポリプロピレン等)、アマイド(高級脂肪酸アマイド、ポリアマイド、オリゴマー等)、アニオン系活性剤(硫酸エステル系、陰イオン脂肪酸系、直鎖アルキルベンゼン系、高級アルコール系、アルファオレフィン系、ノルマルパラフィン系等)、ノニオン系活性剤(非イオン脂肪酸系、高級アルコール系、アルキルフェノール系等)、ポリカルボン酸(分子中に少なくとも2つ以上のカルボキシル基を有する誘導体を含む)、セルロース(ニトロセルロース、アセチルセルロース、セルロースエーテルなど種々の誘導体を含む)、およびウレア(分子中にウレア構造を含むポリマー、オリゴマー等)からなる群より選ばれる1種または2種以上の化合物が用いられる。
【0039】
ここで、本発明に用いるレオロジーコントロール剤がポリマーである場合は、上記に列挙したポリマーを主鎖とし、その主鎖のみから構成されていてもよいし、その主鎖に対して種々の置換基、たとえば燐酸基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基等が導入されていてもよい。このように置換基が導入される場合は、上記の主鎖に対する置換基の導入量は特に限定されない。
【0040】
また、本発明に用いるレオロジーコントロール剤は、常温で固体、液体のいずれの状態をとるものであってもよいが、製造工程で容易に添加することができるという観点から液状であることがより好ましい。ただし、常温で固体の状態のものでも適当な溶剤に溶解し、あるいは分散させることにより使用することはできる。さらにアルミニウム顔料が水と反応することを防ぐためにレオロジーコントロール剤は水以外の溶剤で希釈された状態のものが特に好ましく、またレオロジーコントロール剤自体が液状であることも好ましい。
【0041】
そして、本発明に用いるレオロジーコントロール剤の添加量は、アルミニウム顔料100質量部に対して0.01〜50質量部含まれることが好ましく、さらに0.5〜10質量部であることが好ましい。レオロジーコントロール剤の添加量が0.01質量部未満では、色調、ムラ改善への効果はほとんど期待できず、添加量が50質量部を超えると、塗料のチクソトロピー性が大きくなりすぎて、平常時(貯蔵時)の粘度が増粘し過ぎるため、塗料として成立できない場合がある。なお、上記のように「アルミニウム顔料」を配合量の基準とする場合、アルミニウム顔料の表面に耐水性被膜が形成される場合はそのような耐水性被膜が形成されたアルミニウム顔料の質量を基準にするものとする(以下において同じ)。
【0042】
本発明に用いるレオロジーコントロール剤としてより具体的には、ポリカルボン酸系のものとしてRohm&Hass(株)の「ASE−60」、Ciba(株)の「VISCALEX HV30」、共栄社化学(株)の「チクゾールK−130B」等が挙げられ、ポリウレタン系のものとしては(株)ADEKAの「UH750」や「SDX−1014」、Rohm&Hass(株)の「RM−12W」や「RM−285」、ELEMENTIS(株)の「REOLATE FX1070」等が挙げられ、ポリアマイド系のものとしては楠本化成(株)の「ディスパロンAQ−610」、共栄社化学(株)の「チクゾールW300」等が挙げられ、セルロース系のものとしては主鎖としてHEC(ヒドロキシエチルセルロース)、疎水化HEC、CMC(カルボキシメチルセルロース)等が挙げられ、ウレア系のものとしてはビックケミー(株)の「BYK−410」、「BYK−411」、「BYK−420」、「BYK−425」等が挙げられ、硫酸エステル系アニオン系活性剤としては共栄社化学(株)の「フローノンSDR−80」等が挙げられ、ポリオレフィン系のものとしては共栄社化学(株)の「フローノンSA−345HF」等が挙げられ、高級脂肪酸アマイド系のものとしては共栄社化学(株)の「フローノンHR−4AF」等が挙げられる。
【0043】
<有機溶剤>
本発明の水性塗料用アルミニウム顔料組成物には有機溶剤が含まれ、かかる有機溶剤は6〜12の溶解度パラメータ(SP値)を有し、かつ20℃での水への溶解度が30質量%以下であることを要する。このように特定の溶解度パラメータを有する有機溶剤を上記の特定のレオロジーコントロール剤と併用したことにより、これらが相乗的に作用し、以って水性塗料のチクソトロピー性を向上させるとともに、アルミニウム顔料の配向性の向上ならびにメタリックムラを飛躍的に改善したものである。
【0044】
本発明の有機溶剤のSP値は、さらに7〜9であることが好ましく、さらに水への溶解度は20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下である。SP値が6未満の有機溶剤はほとんど無く、水性塗料系に持ち込むことは通常考えられない。一方、SP値が12を超え、さらに水への溶解度が30質量%を超える場合、水性塗料中の樹脂、および水との親和性が高くなり、チクソトロピー性を下げる点で好ましくない。
【0045】
このようにSP値が6〜12であり、かつ水への溶解度が30質量%以下の有機溶剤とは水への溶解性が限定されるものであり、特にSP値が7〜9であり、かつ水への溶解度が10質量%以下の有機溶剤となると水に不溶または難溶のものであるが、このような性質を示す有機溶剤を水性塗料に用いることは、従来の技術常識を覆すものである。すなわち、従来は水性塗料中でのアルミニウム顔料の分散性を向上するために水性塗料用アルミニウム顔料組成物、特に耐水性被膜処理を施したアルミニウム顔料を含む水性塗料用アルミニウム顔料組成物用の有機溶剤としては、親水性溶剤を使用することが常であり、また、水性塗料中に水への溶解性が限定される有機溶剤や水に不溶または難溶である有機溶剤が含まれることは、塗料物性に悪影響を与えるものであると考えられていた。このため、本発明のように水性塗料用アルミニウム顔料組成物を構成する有機溶剤として水への溶解性が限定される有機溶剤や水に不溶または難溶である有機溶剤を含有させることは従来の技術常識を覆すものであり、当業者といえども(むしろ当業者であればこそ)、水への溶解性が限定される有機溶剤や水に不溶または難溶である有機溶剤の使用により上記のような優れた効果を奏することは全く予想されるものではなかった。本発明は、このような全く新規な知見に基づきなされたものである。
【0046】
ここで、このような本発明で用いられる有機溶剤としては、上述の条件を満たすものであれば特に限定されないが、たとえばヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、石油ベンジン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、キシレン、トルエン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素類、クロルベンゼン、トリクロルベンゼン、パークロルエチレン、トリクロルエチレン等のハロゲン化炭化水素類、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ブタノール等のアルコール類、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、2−エチルヘキシルアセテート等のエステル類、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン等のケトン類、n−ブトキシプロパノール等のグリコールエーテル類等が例示でき、これらは各単独で用いられていても良いし、2種以上のものを組合せて用いることもできる。すなわち、単独の溶剤であろうが2種以上のものを組み合わせた混合溶剤であろうが、本発明で特定される有機溶剤の要件を満たすのであれば使用できる。
【0047】
また、このような有機溶剤は、アルミニウム顔料100質量部に対して、10〜1000質量部含まれることが好ましい。より好ましくは、40〜250質量部である。10質量部未満では色調、ムラ改善への効果はほとんど期待できず、1000質量部を超えるとアルミニウム顔料の水性塗料への分散が十分に得られないことがある。
【0048】
なお、本発明の水性塗料用アルミニウム顔料組成物は、上記のような有機溶剤を含む限り、親水性の有機溶剤をさらに含むこともできる。しかし、親水性の有機溶剤の占める割合は少ない方が好ましく、本発明の有機溶剤に対して10質量%未満とすることが好ましい。このような親水性の有機溶剤としては、たとえばエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、等のプロピレングリコール系溶剤およびエチレングリコール系溶剤、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤等を挙げることができる。
【0049】
後述のようにアルミニウム顔料表面に耐水性被膜を形成した段階では、被膜処理工程で使用する溶剤は主に親水性の有機溶剤からなる。したがって、本発明の水性塗料用アルミニウム顔料組成物を得るには、そのような耐水性被膜を有するアルミニウム顔料とともに存在する親水性の有機溶剤の全部または所定の割合を、6〜12のSP値を有し、かつ20℃での水への溶解度が30質量%以下である有機溶剤によって溶剤置換することが好ましい。
【0050】
<耐水性被膜>
本発明のアルミニウム顔料は、その表面に耐水性被膜が形成されたものを用いることができる。そのような耐水性被膜としては、たとえば特開平06−057171号公報に記載のモリブデン酸被膜や、特開平07−070468号公報に記載されるようなモリブデン酸被膜の上にさらに燐酸系被膜を形成した被膜や、国際公開WO2004/096921号パンフレットに記載されるようなシリカ被膜および/またはシランカップリング剤から形成される被膜が例示できるがこれらのみに限定されるものではない。
【0051】
以下にこのような耐水性被膜として、アルミニウム顔料表面にモリブデン酸系被膜を形成する方法とアルミニウム顔料表面にシリカ被膜を形成する方法を示す。
【0052】
<モリブデン酸系被膜>
モリブデン酸系被膜を有するアルミニウム顔料は、アルミニウム顔料(アルミニウム粒子)表面上に、アルミニウムに対してMo金属換算量で0.1〜10質量%のモリブデン酸系被膜を有する。アルミニウム顔料表面上にモリブデン酸系被膜を形成するための一次処理は、水溶性溶剤に分散させたアルミニウム顔料をモリブデン酸アンモニウムを含むアルカリ性水溶液で処理することからなる。
【0053】
モリブデン酸系被膜の形成に使用するアルミニウム顔料は、処理液に湿潤し易いように予め後記の親水性の有機溶剤(以下単に水溶性溶剤と記す)に分散させておくことが望ましい。粉砕媒体が処理液と相溶性がない場合には、予め水溶性溶剤で置換しておく必要がある。
【0054】
処理液は、モリブデン酸アンモニウムを水と水溶性溶剤の混合液に数質量%以下の濃度になるように溶解させて調製するのがよい。
【0055】
水溶性溶剤は、当然のことながら水相と混和するから、アルミニウム顔料とモリブデン酸アンモニウムとの接触を実現させる上で不可欠である。使用可能な水溶性溶剤としては、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、イソプロピルアルコールなどが例示できる。
【0056】
上記アルミニウム顔料を処理液と反応させるとき、反応はアルカリ下で行なうことが重要である。通常処理液のpHは7〜10、好ましくは7.5〜9.5、さらに好ましくは8〜9である。pHが7未満では、アルミニウム顔料表面に吸着した脂肪酸などの存在によるためかアルミニウムとの反応が遅々として進まず(無論、不動態領域を外れた酸性ではアルミニウムが溶解してしまう)、一方pHが10を越えると、急激な反応が起こるために塗膜の色調の優れたアルミニウム顔料が得られない。
【0057】
一次処理は反応系から水と未反応物を除去することによって完了する。反応完了後、洗浄濾過してから二次処理が施される。一次処理したアルミニウム顔料のケーキが水を含んでいる場合は、二次処理を施す前に水を上記水溶性溶剤で置換するのが望ましい。
【0058】
こうして形成されたモリブデン酸系被膜は、アルミニウム顔料に対してMo金属換算量で0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜3質量%の範囲内にある。下限値未満では、水素ガス発生を抑止するには不十分であり、一方上限値を越えると、被膜が厚くなりすぎるため塗膜の色調が逆に悪くなる。
【0059】
そして、さらに、一次処理で形成されたモリブデン酸被膜の上にアルミニウムに対してP元素換算量で0.05〜1質量%の燐酸系被膜を形成する。燐酸系被膜を形成するための二次処理は、上記一次処理したアルミニウム顔料を無機もしくは有機の燐酸化合物の溶液で処理することからなる。
【0060】
二次処理に使用される燐酸化合物としては、従来アルミニウム顔料の耐食性を向上させ得る化合物として公知のものが使用される。無機燐酸化合物としては、オルト燐酸、ピロ燐酸、ポリ燐酸等が例示され、燐酸1水素2アンモニウム、燐酸2水素1アンモニウム、燐酸マンガン(II)1塩基性塩等の無機燐酸塩も使用され得る。有機燐酸化合物としては、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ヘキシルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、トリフェニルホスファイト等の有機酸性燐酸エステルが使用され得る。有機燐酸エステルの塩類を構成する塩基としては、種々の有機アミンが使用できるが、その中でも合計炭素数が3〜36の脂肪族第一級アミンや第二級アミンが好ましい。これら有機アミンとの酸性塩類の形で添加すると、塗膜物性、特に耐温水性が顕著に改善されるからである。
【0061】
脂肪族第一級アミンや第二級アミンとしては、ブチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、デシルアミン、ジデシルアミン、ラウリルアミン、ジラウリルアミン、ミリスチルアミン、ジミリスチルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミンなどがある。
【0062】
一次処理したアルミニウム顔料を上記燐酸系二次処理剤で処理する方法は、その二次処理剤の種類に依存する。処理剤が燐酸塩などの有機溶剤不溶性の水溶性化合物の場合には、1次処理したアルミニウム顔料ケーキに二次処理剤の水溶液を添加して反応させ、固液分離した後に水と混合可能な有機溶剤で洗浄することが望ましい。水と混合可能な有機溶剤で洗浄することにより、水溶性の燐酸化合物がアルミニウム顔料表面に均一かつ強固に析出し固定されると同時に塗膜の耐温水性を低下させる原因になる遊離の燐酸イオンはこの有機溶剤で洗い流される。一方、二次処理剤がオルト燐酸、ブチルアシッドホスフェートなどの有機溶剤可溶性化合物の場合には、一次処理したアルミニウム顔料ケーキにイソプロピルアルコール、トルエンなどの適当な有機溶剤に溶解させた処理液を添加し、混練することが望ましい。
【0063】
こうして形成された燐酸系被膜は、アルミニウムに対してP元素含有量で0.05〜1質量%、好ましくは0.1〜0.5質量%の範囲内にある。下限値未満では、水素ガス発生を抑止するには不十分であり、一方上限値を越えると、アルミニウム顔料から作成した塗膜の耐温水性および密着性が低下してしまう。
【0064】
このようにモリブデン酸系被膜が形成されたアルミニウム顔料は、用途的観点から揮発性成分として通常高沸点の親水性溶剤を含む。高沸点の親水性溶剤としては、プロピレングリコール系溶剤およびエチレングリコール系溶剤、例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどが使用できる。
【0065】
<シリカ被膜および/またはシランカップリング剤から形成される被膜>
アルミニウム顔料(アルミニウム粒子)表面にシリカ被膜を形成させる方法としては、前処理としてアルミニウム粒子に対してその表面を被覆するモリブデン被膜を形成する場合がある。
【0066】
ここで、モリブデン被膜は、モリブデン酸化物および/またはモリブデン水和物からなる被膜であり、モリブデン酸化物とは具体的にはMoO3、Mo23などのことを表わし、モリブデン水和物とは具体的にはMoO3・H2O、MoO3・H22・H2Oなどのことを表わすものとする。
【0067】
本発明に用いるアルミニウム粒子の表面にモリブデン被膜を形成することにより、該被膜が析出の核となって、該モリブデン被膜の表面をさらに被覆するシリカ被膜の形成が容易になる。
【0068】
また、モリブデン被膜は一定の耐食性を有するため、モリブデン被膜を有するアルミニウム顔料は耐食性が向上する。さらに、モリブデン被膜には、シリカ被膜および/またはシランカップリング剤から形成される被膜の形成過程での処理溶液(水を含有し、かつアルカリ性または酸性が強い溶液)とモリブデン被膜により被覆されたアルミニウム粒子との異常反応を防止する効果もある。
【0069】
本発明に用いるアルミニウム粒子表面に形成されるモリブデン被膜中に含有されるMoの量は、アルミニウム粒子100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であればより好ましい。また、このMoの量は、5.0質量部以下であることが好ましく、2.0質量部以下であればより好ましい。このMoの量は処理されるアルミニウム粒子の比表面積に応じて変化させることが望ましい。比表面積の大きいアルミニウム粒子に対してはMoの量を多くし、また比表面積が小さい場合には少なくすることが好ましい。
【0070】
Moの量が0.01質量部よりも少ない場合は、化学的安定性が低下する傾向があり、5.0質量部を超えるとアルミニウム顔料の色調(金属光沢感)の低下が大きくなったり、アルミニウム顔料が凝集したり、塗膜物性が低下するなどといった不都合が生じる場合がある。
【0071】
また、上記のモリブデン被膜は、モリブデン酸化物および/またはモリブデン水和物のみからなる被膜である必要はなく、本発明の特性を損なわない範囲で、他の添加物や不純物を含んでいてもよい。
【0072】
次に、シリカ被膜は、前述のモリブデン被膜の表面をさらに被覆する場合とシランカップリング剤から形成される被膜とともにアルミニウム表面を直接被覆する場合がある。
【0073】
ここで、シリカ被膜とは、非晶質シリカからなる被膜であり、非晶質シリカとは具体的にはシロキサン[H3SiO(H2SiO)nSiH3]、SiO2、SiO2・nH2Oなどのことを表わすものとする。ここで、上記化学式においてnは任意の正の整数を表わすものとする。
【0074】
なお、アルミニウム顔料表面にシリカ被膜を有するものは、モリブデン被膜のみを有する場合よりもさらに優れた耐食性を有する。
【0075】
また、非晶質シリカは親水性表面を持つため、シリカ被膜を有する本発明のアルミニウム顔料は、水性塗料に容易に分散することができる。しかも、非晶質シリカは水溶液中で非常に安定であるため、シリカ被膜を有する本発明のアルミニウム顔料は、水溶液中で非常に安定である。
【0076】
さらに、アルミニウム顔料表面のシリカ被膜には、アルミニウム顔料の耐食性をさらに改善する目的で、他の腐食抑制剤を添加しても良い。添加する腐食抑制剤としては、特に限定されず、本発明の効果を損なわない程度の配合量で公知の腐食抑制剤を用いることができるが、具体例としては、酸性燐酸エステル、ダイマー酸、有機リン化合物、モリブデン酸の金属塩などを挙げることができる。
【0077】
また、上記のシリカ被膜は、非晶質シリカのみからなる被膜である必要はなく、本発明の特性を損なわない範囲で、他の添加物や不純物を含んでいてもよい。
【0078】
また、モリブデン被膜の上、またはシリカ被膜の上にシランカップリング剤から形成される被膜を付与することにより、水に対する反応性をさらに抑制することができると共に、密着性、耐湿性、耐候性などの塗膜物性の向上や、塗料中での分散性の改善、アルミニウム顔料の配向性改善など、さまざまな効果が期待できる。
【0079】
ただし、使用するシランカップリング剤の種類によっては、水に対する分散性が低下する場合があるが、適当な界面活性剤の使用により改善できる。シランカップリング剤から得られる被膜は下記に示すようなシランカップリング剤を加水分解し、アルミニウム粒子表面のシリカ被膜中の水酸基と反応させることにより得られる。
【0080】
たとえば、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、3−アミノプロピル−トリメトキシシラン、n−メチル−3−アミノプロピル−トリメトキシシラン、3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、3−アミノプロピル−トリス(2−メトキシ−エポキシ−シラン)、n−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、n−アミノエチル−3−アミノプロピル−メチル−ジメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピル−トリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピル−メチル−ジメトキシシラン、3−アクリルオキシプロピル−トリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピル−トリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピル−メチル−ジメトキシシラン、3−メルカプトプロピル−トリメトキシシラン、3−メルカプトプロピル−トリエトキシシラン、3−メルカプトプロピル−メチルジメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、3−(3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシ)シラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ユレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロルプロピルトリメトキシシラン、3−アニリドプロピルトリメトキシシラン、3−(4,5−ジヒドロイミダゾールプロピルトリエトキシ)シラン、n−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0081】
特に好ましいシランカップリング剤として下記の化合物が使用される。
A−Si(ORB3またはRA−SiRB(ORB2
A:炭素数2〜18のアルキル基またはアリール基またはアルケニル基
B:炭素数1〜3のアルキル基
また、下記の化合物も例示される。
【0082】
たとえば、n−プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0083】
ここで、シリカ被膜、シランカップリング剤から形成される被膜に含まれる珪素の含有量は合計で、アルミニウム顔料100質量部に対し1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であればより好ましい。また、この珪素の含有量は、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であればより好ましい。
【0084】
この珪素の含有量が1質量部よりも少ない場合には、耐食性、水分散性、安定性などが低下する傾向があり、この珪素の含有量が20質量部を超えると、アルミニウム顔料が凝集したり、隠蔽性が低下したり、金属光沢感などの色調が損なわれるといった問題が生じる場合がある。
【0085】
<水性塗料用アルミニウム顔料組成物の製造方法>
本発明の水性塗料用アルミニウム顔料組成物の製造方法は、アルミニウム顔料、レオロジーコントロール剤および有機溶剤を添加し混合することにより製造することができる。
【0086】
レオロジーコントロール剤を添加する方法は特に限定されず、たとえばレオロジーコントロール剤が常温で液体の状態の場合には必要量をそのまま添加することができる。また、レオロジーコントロール剤が常温で固体の状態のものである場合は適当な溶剤に溶解しあるいは分散させた後に必要量を添加することが好ましい。レオロジーコントロール剤の添加は、一度に添加してもよいし段階的に分割添加してもよい。
【0087】
また、上記3者を添加した後の混合方法は、アルミニウム顔料、レオロジーコントロール剤および有機溶剤の混合物がスラリー状態の場合にはディスパー等の通常の攪拌機により均一に混合すればよく、当該混合物がペースト状態の場合にはニーダーミキサー等の混練機により均一に混合すればよいが、これらに限定されるものではない。
【0088】
さらに、アルミニウム顔料、レオロジーコントロール剤および有機溶剤を添加する順序は特に限定されないが、アルミニウム顔料および有機溶剤の混合物(スラリー状態またはペースト状態)にレオロジーコントロール剤を添加するのが均一に混合し易い点で好ましい。
【0089】
なお、アルミニウム顔料および有機溶剤の混合物中の該有機溶剤として親水性の有機溶剤を使用している場合には、後述するようにこの親水性の有機溶剤を、本発明で特定される所定の条件を満たす有機溶剤に置換する工程(親水性の有機溶剤除去工程)を行なった後にレオロジーコントロール剤を添加するのが好ましい。親水性の有機溶剤除去工程を行なう前にレオロジーコントロール剤を添加した場合には、当該工程中にレオロジーコントロール剤が親水性の有機溶剤とともに除去されるおそれがありそれにより本発明の効果が減殺される可能性があるからである。さらには本発明の効果を奏するためには過剰なレオロジーコントロール剤を添加する必要があり経済面で好ましくなく、また、当該工程において本発明で特定される所定の条件を満たす有機溶剤を用いて行なわれるろ過・洗浄の度合いによっては、本発明の効果にバラツキが生じる可能性があるため製造面においても好ましくない。
【0090】
また、本発明の水性塗料用アルミニウム顔料組成物に用いられるアルミニウム顔料は、特に限定されないが水性塗料中でのアルミニウム顔料の耐水性を考慮すると上記のように表面に耐水性被膜が形成される処理を施されたものがよい。このような耐水性被膜の形成工程としては特に限定されないが、上記のようにアルミニウム顔料表面にモリブデン酸系被膜を形成する方法やアルミニウム顔料表面にシリカ被膜を形成する方法に示した工程が例示できる。耐水性被膜の形成工程には親水性の有機溶剤を使用することが多く、処理後のアルミニウム顔料組成物中の有機溶剤として親水性の有機溶剤を使用することが常である。この場合は特に、この親水性の有機溶剤を、水への溶解性が限定される有機溶剤や水に不溶または難溶である本発明の有機溶剤に置換する工程(親水性の有機溶剤除去工程)が必要となることがある。
【0091】
<親水性の有機溶剤除去工程>
耐水性被膜の形成工程後のアルミニウム顔料組成物は主溶剤として親水性の有機溶剤を含んだ状態である場合が多い。
【0092】
この状態から親水性の有機溶剤を除去する方法としては特に限定されないが、たとえば、耐水性被膜の形成工程後のアルミニウム顔料組成物を、水への溶解性が限定される有機溶剤や水に不溶または難溶である有機溶剤(すなわち6〜12のSP値を有し、かつ水への溶解度が30質量%以下である有機溶剤)に分散しスラリー化した後、吸引ろ過し、さらに6〜12のSP値を有し、かつ水への溶解度が30質量%以下である有機溶剤にて1回から数回ろ過・洗浄を繰り返すことにより親水性の有機溶剤を除去することができる。
【0093】
また別の方法としては、耐水性被膜形成工程後のアルミニウム顔料組成物のみを吸引ろ過した後に、6〜12のSP値を有し、かつ水への溶解度が30質量%以下である有機溶剤にてろ過・洗浄を行なうことによっても親水性の有機溶剤を除去することができる。
【0094】
耐水性被膜の形成工程後のアルミニウム顔料組成物を6〜12のSP値を有し、かつ水への溶解度が30質量%以下である有機溶剤に分散させる際の、アルミニウム顔料組成物と6〜12のSP値を有し、かつ水への溶解度が30質量%以下である有機溶剤との割合や、吸引ろ過後の6〜12のSP値を有し、かつ水への溶解度が30質量%以下である有機溶剤でのろ過・洗浄回数の頻度により、親水性の有機溶剤の除去度合いを調整することができる。
【0095】
そして、これらの親水性の有機溶剤除去工程で吸引ろ過・洗浄後のアルミニウム顔料に6〜12のSP値を有し、かつ水への溶解度が30質量%以下である有機溶剤を加えることにより所定の割合で6〜12のSP値を有し、かつ水への溶解度が30質量%以下である有機溶剤を含んだ水性塗料用アルミニウム顔料組成物を得ることができる。
【0096】
<水性塗料>
本発明の水性塗料は、上述の水性塗料用アルミニウム顔料組成物を含有するものであり、アルミニウム顔料が含まれることから水性メタリック塗料あるいは水性メタリック塗料組成物と呼ばれることもある。
【0097】
本発明の水性塗料における水性塗料用アルミニウム顔料組成物の配合量は、水性塗料に対して0.1〜30質量%の範囲内とされることが好ましい。該配合量が0.1質量%以上である場合は目的とする意匠性が良好に得られる点で好ましく、30質量%以下である場合は塗膜が良好な鮮映性を有する点で好ましい。また、該配合量が0.1質量%よりも少ない場合は水性塗料の塗膜の装飾(メタリック)効果が低下する傾向があり、該配合量が30質量%よりも多い場合は水性塗料の特性(耐候性、耐食性、機械強度など)が不十分なものとなる場合がある。
【0098】
本発明の水性塗料には、水性塗料用バインダーを適宜配合できる。水性塗料用バインダーとしては、例えば熱硬化型アクリル樹脂/メラミン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂/CAB(セルロースアセテートブチレート)/メラミン樹脂、熱硬化型ポリエステル(アルキド)樹脂/メラミン樹脂、熱硬化型ポリエステル(アルキド)樹脂/CAB/メラミン樹脂、イソシアネート硬化型ウレタン樹脂/常温硬化型アクリル樹脂、水希釈型アクリルエマルジョン/メラミン樹脂、等が例示できる。このような水性塗料用バインダーは、水性塗料に対して50〜90質量%の範囲内で配合することが好ましい。
【0099】
また、本発明の水性塗料には、水性塗料用アルミニウム顔料組成物および水性塗料用バインダーに加え、別の着色顔料あるいは体質顔料または染料を併用しても良い。併用される着色顔料としては、有機着色顔料、無機着色顔料、パールマイカ、アルミナフレーク、板状酸化鉄、シリカフレーク等、が例示できる。これらは、水性塗料に対して1〜30質量%の範囲内で配合することが好ましい。
【0100】
なお、本発明の水性塗料には、上記の成分の他、添加剤として、界面活性剤、顔料分散剤、消泡剤、沈降防止剤や紫外線吸収剤等も適宜配合され得る。
【実施例】
【0101】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0102】
<アルミニウム顔料の調製>
以下のようにしてアルミニウムペーストAに含まれるアルミニウム顔料の表面にモリブデン酸系被膜を形成することによりアルミニウムペーストBおよびアルミニウムペーストCを作製した。すなわち、アルミニウムペーストBおよびアルミニウムペーストCはそれぞれ耐水性被膜としてモリブデン酸系被膜がその表面に形成されたアルミニウム顔料を含むものである。なお、以下に記載するアルミニウム顔料の平均粒径は「D50」(レーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320−X100」、日機装株式会社製)で測定した50%累積時の粒径)を示す。
【0103】
まず、過酸化水素30質量%を含む過酸化水素水10gに、金属モリブデン粉末0.5gを少しずつ加え、反応させて得られた溶液をイソプロピルアルコール(SP値:11.5、20℃での水への溶解度(以下、単に「水への溶解度」と記す):100質量%)(以下、IPAと記す)600gに溶解し、さらに、耐水性被膜を有さないアルミニウム顔料を含むアルミニウムペーストA(アルミニウム顔料の平均粒径18μm、固形分65質量%、有機溶剤としてミネラルスピリット(SP値:7.7、水への溶解度:ほぼ0質量%)25gおよびソルベントナフサ(SP値:約8.7、水への溶解度:ほぼ0質量%)28.8gを含有する)153.8g(アルミニウム分として100g)とプロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.2、水への溶解度:100質量%)30gとを加え、50℃で1時間攪拌し、耐水性被膜を表面に有するアルミニウム顔料を固液分離したのちにプロピレングリコールモノメチルエーテルで溶剤量を調整することによりアルミニウムペーストB(耐水性被膜を表面に有するアルミニウム顔料の平均粒径18μm、固形分65質量%、親水性の有機溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを35質量%含有する)を得た。
【0104】
一方、このようにして得られたアルミニウムペーストB100gをさらにミネラルスピリット100gに分散し、吸引ろ過を行なった。ろ過後、さらにミネラルスピリット100gにてろ過・洗浄した。これによりアルミニウムペーストBに含まれる親水性の有機溶剤であるプロピレングリコールモノメチルエーテルをミネラルスピリットに置換したアルミニウムペーストC(固形分65質量%、ミネラルスピリットを35質量%含有)を得た。
【0105】
<実施例1>
市販のレオロジーコントロール剤である「フローノンSDR−80」(共栄社化学社製、有効成分80質量%、硫酸エステル系アニオン系活性剤)2.5gを、耐水性被膜を有さないアルミニウム顔料を含むアルミニウムペーストD(商品名「6360NS」:東洋アルミニウム社製、アルミニウム顔料の平均粒径12μm、固形分69質量%、有機溶剤としてミネラルスピリット(17質量%)、ソルベントナフサ(14質量%)を含有する)145g(アルミニウム分として100g)に加え、50℃で10分間攪拌し、アルミニウムペーストE(固形分67.8質量%)を得た。このアルミニウムペーストEは、アルミニウム顔料(耐水性被膜を有さない)、レオロジーコントロール剤(硫酸エステル系アニオン系活性剤)および有機溶剤(ミネラルスピリット(16.7質量%)、ソルベントナフサ(13.8質量%))を含む本発明の水性塗料用アルミニウム顔料組成物に相当する。ここで上述の「樹脂エマルションA」および「レオロジーコントロール剤の評価法」を用いて「フローノンSDR−80」の特性を調べたところ、粘度B60は364mPa・s(0.364Pa・s)、粘度B6は0.43Pa・sであり、TI値は1.2であった。
【0106】
なお、このアルミニウムペーストEを後述する塗料組成、塗料化条件および塗装条件にてメタリックベルで塗装した結果(色調およびメタリックムラ)を表1に示す。
【0107】
なお、表1中、「アルミニウムペースト」とは使用したアルミニウムペーストの種類を示す。「耐水性被膜」の欄には水性塗料用アルミニウム顔料組成物に含まれるアルミニウム顔料の表面に耐水性被膜が形成される場合は「有」と表記し、耐水性被膜が形成されない場合は「無」と表記した。「特定の有機溶剤」の欄には6〜12の溶解度パラメータを有し、かつ20℃での水への溶解度が30質量%以下である有機溶剤として水性塗料用アルミニウム顔料組成物がミネラルスピリットを含む場合は「MS」と表記し、ソルベントナフサを含む場合は「SN」と表記し(以上の両者を含む場合はそれらを併記し)、いずれも含まない場合は空欄とした。「親水性の有機溶剤」の欄には、水性塗料用アルミニウム顔料組成物がプロピレングリコールモノメチルエーテルを含む場合は「PG」と表記し、いずれも含まない場合は空欄とした。「レオロジーコントロール剤」の欄には水性塗料用アルミニウム顔料組成物がレオロジーコントロール剤を含む場合は「含有」と表記し、それを含まない場合は「不含」と表記し、また水性塗料用アルミニウム顔料組成物としてはレオロジーコントロール剤を含まないが水性塗料中にレオロジーコントロール剤を添加したものは「外添」と表記した。
【0108】
<実施例2>
市販のレオロジーコントロール剤である「フローノンSA−345HF」(共栄社化学社製、有効成分10質量%、ポリオレフィンベース)20gを、実施例1で用いたのと同じアルミニウムペーストD145gに加え、50℃で10分間攪拌し、アルミニウムペーストF(固形分61質量%)を得た。このアルミニウムペーストFは、アルミニウム顔料(耐水性被膜を有さない)、レオロジーコントロール剤(ポリオレフィンベース)および有機溶剤(ミネラルスピリット(15質量%)、ソルベントナフサ(12質量%))を含む本発明の水性塗料用アルミニウム顔料組成物に相当する。ここで上述の「樹脂エマルションA」および「レオロジーコントロール剤の評価法」を用いて「フローノンSA−345HF」の特性を調べたところ、粘度B60は437mPa・s(0.437Pa・s)、粘度B6は0.51Pa・sであり、TI値は1.2であった。
【0109】
なお、このアルミニウムペーストFを後述する塗料組成、塗料化条件および塗装条件にてメタリックベルで塗装した結果を表1に示す。
【0110】
<実施例3>
市販のレオロジーコントロール剤である「フローノンHR−4AF」(共栄社化学社製、有効成分20質量%、高級脂肪酸アマイド)17.4gを、実施例1で用いたのと同じアルミニウムペーストD145gに加え、50℃で10分間攪拌し、アルミニウムペーストG(固形分62質量%)を得た。このアルミニウムペーストGは、アルミニウム顔料(耐水性被膜を有さない)、レオロジーコントロール剤(高級脂肪酸アマイド)および有機溶剤(ミネラルスピリット(15質量%)、ソルベントナフサ(12質量%))を含む本発明の水性塗料用アルミニウム顔料組成物に相当する。ここで上述の「樹脂エマルションA」および「レオロジーコントロール剤の評価法」を用いて「フローノンHR−4AF」の特性を調べたところ、粘度B60は401mPa・s(0.401Pa・s)、粘度B6は0.43Pa・sであり、TI値は1.1であった。
【0111】
なお、このアルミニウムペーストGを後述する塗料組成、塗料化条件および塗装条件にてメタリックベルで塗装した結果を表1に示す。
【0112】
<実施例4>
市販のレオロジーコントロール剤である「BYK−425」(ビックケミー社製、固形分100質量%、ウレア変性ウレタン構造を有する)2.0gを実施例1で用いたのと同じアルミニウムペーストD145gに加え、50℃で10分間攪拌し、アルミニウムペーストH(固形分68質量%)を得た。このアルミニウムペーストHは、アルミニウム顔料(耐水性被膜を有さない)、レオロジーコントロール剤(ウレア変性ウレタン構造を有する)および有機溶剤(ミネラルスピリット(16.8質量%)、ソルベントナフサ(13.8質量%))を含む本発明の水性塗料用アルミニウム顔料組成物に相当する。ここで上述の「樹脂エマルションA」および「レオロジーコントロール剤の評価法」を用いて「BYK−425」の特性を調べたところ、粘度B60は614mPa・s(0.614Pa・s)、粘度B6は0.79Pa・sであり、TI値は1.3であった。
【0113】
なお、このアルミニウムペーストHを後述する塗料組成、塗料化条件および塗装条件にてメタリックベルで塗装した結果を表1に示す。
【0114】
<実施例5>
実施例4で用いたのと同じ「BYK−425」2.0gを、上記で得たアルミニウムペーストC154g(アルミニウム分として100g)に加え、50℃で10分間攪拌し、アルミニウムペーストI(固形分64質量%)を得た。このアルミニウムペーストIは、アルミニウム顔料(耐水性被膜を有する)、レオロジーコントロール剤(ウレア変性ウレタン構造を有する)および有機溶剤(ミネラルスピリット(34.7質量%))を含む本発明の水性塗料用アルミニウム顔料組成物に相当する。
【0115】
なお、このアルミニウムペーストIを後述する塗料組成、塗料化条件および塗装条件にてメタリックベルで塗装した結果を表1に示す。
【0116】
<比較例1>
上記のアルミニウムペーストAを、後述する塗料組成、塗料化条件および塗装条件にてメタリックベルで塗装した結果を表1に示す。
【0117】
なお、アルミニウムペーストAは、アルミニウム顔料(耐水性被膜を有さない)、および有機溶剤(ミネラルスピリット(16質量%)、ソルベントナフサ(19質量%))を含む比較用の水性塗料用アルミニウム顔料組成物に相当する。
【0118】
<比較例2>
上記のアルミニウムペーストBを、後述する塗料組成、塗料化条件および塗装条件にてメタリックベルで塗装した結果を表1に示す。
【0119】
なお、アルミニウムペーストBは、アルミニウム顔料(耐水性被膜を有する)、および有機溶剤(親水性のプロピレングリコールモノメチルエーテル(35質量%))を含む比較用の水性塗料用アルミニウム顔料組成物に相当する。
【0120】
<比較例3>
上記のアルミニウムペーストDを、後述する塗料組成、塗料化条件および塗装条件にてメタリックベルで塗装した結果を表1に示す。
【0121】
なお、アルミニウムペーストDは、アルミニウム顔料(耐水性被膜を有さない)、および有機溶剤(ミネラルスピリット、ソルベントナフサ)を含む比較用の水性塗料用アルミニウム顔料組成物に相当する。
【0122】
<比較例4>
上記のアルミニウムペーストDを用いて後述する組成で水性塗料を調製した後に、実施例4で用いたレオロジーコントロール剤である「BYK−425」を、アルミニウムペーストDに対して2.0質量%となるようにこの水性塗料中に添加した。そして、この水性塗料を用いて、後述する塗料化条件および塗装条件にてメタリックベルで塗装した結果を表1に示す。
【0123】
なお、アルミニウムペーストDは、アルミニウム顔料(耐水性被膜を有さない)、および有機溶剤(ミネラルスピリット、ソルベントナフサ)を含む比較用の水性塗料用アルミニウム顔料組成物に相当し、かつこのようにレオロジーコントロール剤を含まない水性塗料用アルミニウム顔料組成物を用いて一旦水性塗料を作製した後、その水性塗料に別個独立してレオロジーコントロール剤を添加したものである。
【0124】
<塗料組成、塗料化条件および塗装条件>
上記のアルミニウムペーストをそれぞれ用い、下記の組成の水性塗料(以下ベースコート用水性塗料組成物と記す)を作製し、自動車用カチオン電着塗料を電着させた表面処理鋼板(JISG3310の鋼板に燐酸亜鉛系化成処理を行なったもの)にさらにポリエステル/メラミン樹脂系の中塗り塗装を施した鋼板の表面に対して、このベースコート用水性塗料組成物を次のような塗装条件で塗装した。
【0125】
すなわち、上記の電着塗装および中塗り塗装を施した鋼板(450mm×300mm)に対して、ベースコート用水性塗料組成物をメタリックベルで塗装し(ベル回転数:25000rpm、コンベア速度:3m/min、レシプロ速度:60m/min、レシプロ長:1000mm、シェーピングエアー:2.5kg/cm2、吐出量:150cc、印加電圧:−90kV、ブース雰囲気:温度25℃、湿度75%RH)、80℃×3分間のプレヒートを行なった。次に、下記の組成の有機溶剤型トップコート用塗料を、乾燥膜厚40μmとなるようにエアースプレー塗装し、メタリック塗装塗板を作製した。次いで、このメタリック塗装塗板を140℃で30分間焼き付けた。硬化乾燥後のベースコート層およびトップコート層の膜厚はそれぞれ15μmおよび40μmであった。
【0126】
<ベースコート用水性塗料組成物>
アルミニウムペースト 0.9質量部
ブチルグリコール 4.8質量部
AQ320(*1) 0.1質量部
ジメチルエタノールアミン(10%水溶液) 6.4質量部
脱イオン水 27.0質量部
Setalux6802 AQ−24(*2) 26.7質量部
Bayhydrol PT241(*3) 3.9質量部
Bayhydrol XP2621(*4) 16.0質量部
Cymel327(*5) 1.8質量部
Viscalex HV30(*6) 0.4質量部
脱イオン水 12.0質量部
<トップコート用有機溶剤型塗料>
DesmophenA 870BA(*7),70% in butyl acetate 51.2質量部
Baysilone Paint Additive OL 17(*8),10% in xylene 0.5質量部
Modaflow(*9),1% in xylene 0.5質量部
Tinuvin 292(*10),10% in xylene 5.3質量部
Tinuvin 1130(*11),10% in xylene 10.7質量部
1−メトキシプロピルアセテート/ソルベントナフサ=1/1溶剤 10.2質量部
ブチルグリコールアセテート 2.1質量部
DesmodurN 3390BA/SN(*12),
90%ブチルアセテート/ソルベントナフサ=1/1溶液 19.5質量部
(*1)〜(*12)の符号は、次の通りの社名(製造者)および化合物名を示す。

【0127】
<色調の評価>
上記のようにして得られた各メタリック塗装塗板について色調評価を行なった。
【0128】
色調評価は、X−Rite MA68IIマルチアングル分光測色計を用いて、メタリック塗装塗板の明度と彩度とを測色することにより行なった。測色値は、L***表色系(CIE1976)で表し、L*値の変化に着目して評価した。測色は入射光に対して正反射光から15°、25°、45°、75°、110°ずれた光を検出した。今回は特に正反射光に最も近い15°を基準に色調の良否を評価した。表1に実測値を示す。数値が大きくなる程、明度が高いことを示す。
【0129】
<メタリックムラの評価>
上記のようにして得られた各メタリック塗装塗板についてメタリックムラの評価を行なった。観測者1名の目視による官能評価を行なった。評価は、10段階評価とした。すなわち、メタリックムラのない最良の状態を「10」とし、数値が小さくなる程ムラが大きくなり、最不良の状態を「1」とした。
【0130】
【表1】

【0131】
上記の表1の結果を下記にまとめる。
<レオロジーコントロール剤の配合の有無による効果の差>
実施例1、2、3、4と比較例3とを比較すると、水性塗料用アルミニウム顔料組成物中にレオロジーコントロール剤を配合することによりメタリックムラが改善されること(すなわちアルミニウム顔料の配向性が向上すること)が判った。
【0132】
<レオロジーコントロール剤の添加時期による効果の差>
実施例4と比較例4とを比較すると、水性塗料用アルミニウム顔料組成物ではなく水性塗料中に直接レオロジーコントロール剤を配合した比較例4ではメタリックムラが悪化することが判った。
【0133】
<6〜12の溶解度パラメータを有し、かつ20℃での水への溶解度が30質量%以下である有機溶剤とレオロジーコントロール剤との組合せによる相乗効果>
実施例1、5と比較例2とを比較すると、6〜12の溶解度パラメータを有し、かつ20℃での水への溶解度が30質量%以下である有機溶剤とレオロジーコントロール剤との組合せにより、色調とメタリックムラの向上が図れることが判った。
【0134】
<耐水性の評価>
上記の実施例5と比較例2の水性塗料用アルミニウム顔料組成物に含まれるアルミニウム顔料は、ともにその表面に耐水性被膜を有しているためそれを有さないものに比し耐水性に優れていた。すなわち、各実施例の水性塗料用アルミニウム顔料組成物と各比較例の水性塗料用アルミニウム顔料組成物とをそれぞれ含む上記ベースコート用水性塗料組成物200gを採取し、その採取物を40℃に調整した湯煎器内で7日間保管した場合の累積水素ガス発生量を水置換法によりメスシリンダーで測定した。その結果、実施例5と比較例2の水性塗料用アルミニウム顔料組成物を含んだ各ベースコート用水性塗料組成物は7日間放置してもガスの発生は認められなかったのに対して、他の水性塗料用アルミニウム顔料組成物を7日間放置するといずれもガスの発生が確認された。
【0135】
このように実施例5と比較例2の水性塗料用アルミニウム顔料組成物は、ともに耐水性に優れるものであったが、表1より明らかなように実施例5の水性塗料用アルミニウム顔料組成物は比較例2の水性塗料用アルミニウム顔料組成物に比しメタリックムラは極めて良好であった。
【0136】
したがって、本発明の構成を有する水性塗料用アルミニウム顔料組成物は、耐水性の向上とメタリックムラの改善とを高度に両立することができるものであることが確認できた。
【0137】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0138】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム顔料、レオロジーコントロール剤および有機溶剤を少なくとも含む水性塗料用アルミニウム顔料組成物であって、
前記有機溶剤は、6〜12の溶解度パラメータを有し、かつ20℃での水への溶解度が30質量%以下であり、
前記レオロジーコントロール剤は、これを樹脂エマルション中の固形分100質量部に対して2.5質量部添加してB型粘度計を用いて粘度を測定した場合に60回転時の粘度B60と6回転時の粘度B6とがともに0.3〜30Pa・sの範囲内にあり、かつ前記B6と前記B60との比B6/B60であるチクソトロピックインデックスが1〜60を示すことを特徴とする水性塗料用アルミニウム顔料組成物。
【請求項2】
前記レオロジーコントロール剤は、前記アルミニウム顔料100質量部に対して0.01〜50質量部含まれる請求項1記載の水性塗料用アルミニウム顔料組成物。
【請求項3】
前記レオロジーコントロール剤は、ウレタン、アクリル、ポリオレフィン、アマイド、アニオン系活性剤、ノニオン系活性剤、ポリカルボン酸、セルロース、およびウレアからなる群より選ばれる1種または2種以上の化合物である請求項1または2に記載の水性塗料用アルミニウム顔料組成物。
【請求項4】
前記有機溶剤は、前記アルミニウム顔料100質量部に対して10〜1000質量部含まれる請求項1〜3のいずれかに記載の水性塗料用アルミニウム顔料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水性塗料用アルミニウム顔料組成物を含有する、水性塗料。

【公開番号】特開2009−242457(P2009−242457A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87604(P2008−87604)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】