説明

水性塗料用架橋性耐候性向上材

【課題】各種水性塗料に添加することにより、光沢保持性、耐黄変性、耐水性等の耐候性を飛躍的に向上させ、耐汚染性についても向上させることができる水性塗料用耐候性向上材の提供。
【解決手段】分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)6〜50質量%と、分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を持つエチレン性不飽和単量体(b)50〜94質量%(但し(a)、(b)の合計は100質量%)を乳化重合することで得られる共重合体粒子(A)の重量平均分子量が5,000〜300,000の範囲であることを特徴とする水性塗料用耐候性向上材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性塗料用耐候性向上材に関するものであり、より詳しくは各種水性塗料に添加することにより、光沢保持性、耐黄変性、耐水性等の耐候性を飛躍的に向上させ、耐汚染性についても向上させることができる水性塗料用耐候性向上材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、メンテナンスコスト低減や省資源化による環境負荷低減の観点から、屋外等の過酷な環境下で用いられる高分子材料の高耐久化がより強く求められている。
【0003】
このうち、塗料分野においては、地球環境や塗装作業環境等への配慮から、有機溶剤を媒体とする溶剤系塗料から、水を分散媒とする水性塗料への変換が図られており、水性塗料の用途が急速に拡大している。そのため、水性塗料への要求性能も高度になってきており、高度な耐候性能を有する水性塗料が提案されている。特許文献1では、分子内に不飽和二重結合を有するヒンダードアミン型光安定剤(HALS、以下、不飽和二重結合を有するHALSを反応性HALSという)を疎水性の高いシクロヘキシル基含有重合性単量体と共重合することにより、HALS成分の塗膜からのブリードアウトがなく、長期間に亘り優れた耐候性が得られるとの記載がある。
【0004】
特許文献2では、ターシャリーブチル(メタ)アクリレートと反応性HALS、カルボニル基又はアルデヒド基含有エチレン性不飽和単量体、カルボン酸基含有エチレン性不飽和単量体を共重合して得られる共重合体と、水性分散媒中に分子内に2個以上のヒドラジン残基を含有する有機ヒドラジン化合物とを含有することで優れた耐候性が得られるとの記載がある。
【0005】
また、水性塗料分野においては、従来、汎用的に使用されてきた比較的耐候性の低い水性塗料の塗料物性を変えずに耐候性能のみを向上させるための耐候性向上材に関する検討もなされている。しかしながら、水性塗料については、主たる媒体が水であるため、これらを添加した場合、経時的に系の上層に浮遊するなど品質安定性に問題あった。また、攪拌直後の水性塗料を用いて成膜した場合でも、耐候性向上材を塗膜中に均一に分散させることが難しく、十分な性能を発現しない場合があるという問題点があった。このような問題点に対し、特許文献3では、分子内に不飽和二重結合を持たない非反応性紫外線吸収剤(UVA)、非反応性HALSを予め乳化剤で水中に分散させ、水性塗料に添加することにより水性塗料の耐候性を向上させる技術が提案されている。
【0006】
また、特許文献4では、多段乳化重合法によりシクロヘキシル基含有シランカップリング材存在下で、反応性HALSを最終段にて高濃度に共重合させたエマルションを、他の水性塗料へ添加して耐候性を向上する技術が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特許第2637574号公報
【特許文献2】特公平3−46506号公報
【特許文献3】特公平3−46506号公報
【特許文献4】特開2004−10805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2の方法では、酸性官能基含有不飽和単量体(以下、酸成分)と反応性HALSを同一重合場内で乳化重合していることから重合安定性に劣り、HALSの共重合量、使用可能な乳化剤の制限があり、耐水性、耐候性も不十分であった。
【0009】
また、水性塗料用耐候性向上材について見た場合、特許文献3の方法では、耐候性向上材が低分子型であるため、経時的に塗装皮膜からブリードアウトが生じ、長期に亘って耐候性を維持することが困難であった。また特許文献4の方法で得られたエマルションを添加材として用いた場合には、成膜時のHALS成分の拡散性が低位であるため、耐候性向上能は不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記問題を解決することを目的として鋭意検討を重ねた結果、ある特定の分子量領域に制御されかつ、特定の構造を持つHALSと架橋成分を特定の割合で共重合することで得られる組成物が高い重合安定性及び貯蔵安定性を有しつつ、極めて幅広い種類の水性塗料に対して適用可能であって、所定量添加した場合に、被添加水性塗料の耐候性を飛躍的に向上させることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)6〜50質量%と、分子内に架橋性官能基を持つエチレン性不飽和単量体(b)0.1〜20質量%、前記(a)及び(b)以外のエチレン性不飽和単量体(c)30〜93.9質量%(ただし、(a)、(b)、(c)の合計は100質量%)からなる不飽和単量体混合物を乳化重合することで得られ、重量平均分子量が3,000〜50,000であることを特徴とする共重合体(A)を特徴とする耐候性向上材であって、各種水性塗料に対し一定量添加することにより、塗膜の耐候性を飛躍的に向上でき、耐汚染性についても向上可能である。
【0012】
【化1】

【0013】
(Rは水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基、Xは酸素原子又はイミノ基、Yは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシル基、Zは水素原子又はシアノ基を示す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水性塗料に添加した場合、塗膜中への拡散性、塗膜からの耐ブリードアウト性に優れ、光沢保持性、耐黄変性、耐水性等の耐候性を飛躍的に向上せしめることができ、耐汚染性についても向上させることができる水性塗料用耐候性向上材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の水性塗料用耐候性向上材(以下、向上材という)は、上記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)6〜50質量%と、分子内に架橋性官能基を持つエチレン性不飽和単量体(b)0.1〜20質量%、前記(a)及び(b)以外のエチレン性不飽和単量体(c)30〜93.9質量%(ただし、(a)、(b)、(c)の合計は100質量%)からなる不飽和単量体混合物を乳化重合することで得られ、重量平均分子量が3,000〜50,000であることを特徴とする共重合体(A)であり、各種水性塗料に添加されることによって、塗膜の耐候性を飛躍的に向上させ、耐汚染性についても向上させることができる。
【0016】
本発明の向上材に用いられる共重合体(A)は、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合等の既知の重合法により得ることが出来る。中でも異層構造化による構造制御、被添加水性塗料への添加適正等を考慮すると乳化重合により重合することが好ましい。
【0017】
本発明の向上材を構成する共重合体(A)は、被添加水性塗料の耐候性発現と拡散性のバランスの点及び重合安定性の点から、重合時の全単量体量を100質量%としたとき、一般式(I)で表されるエチレン性不飽和単量体(a)が6〜50質量%である必要ある。(a)の含有量が6質量%以上であれば、被添加水性塗料の最低造膜温度(Minimum film forming temperature:以下、MFT)以外の特性を低下させない程度の添加量で、耐候性能を向上できる。また、50質量%以下であれば、十分な重合安定性が得られる。より好ましい含有量は、10〜50質量%であり、20〜50質量%が最も好ましい。
【0018】
単量体(a)としては、紫外線安定化機能(ラジカル捕捉機能)を有するものを使用することができ、例えば、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
本発明の向上材を構成する共重合体(A)は、本向上材を添加した際の塗膜からのブリードアウトを高度に抑制し、長期に亘り水性塗料の耐候性を発現するだけでなく、耐ブロッキング性、耐汚染性を向上するためには、重合時の全単量体量を100質量%としたとき、架橋性を有するエチレン性不飽和単量体(b)が0.1〜20質量%である必要ある。耐ブロッキング性、耐汚染性をさらに向上するためには架橋性を有するエチレン性不飽和単量体(b)が1〜20質量%であることが好ましい。
【0020】
単量体(b)としては、常温又は加熱乾燥により架橋性を有する官能基を少なくとも1個含むエチレン性不飽和単量体を使用することができる。例えば、架橋性を有する官能基としては、カルボニル基又はアルデヒド基、加水分解性シリル基、エポキシ基、水酸基などが挙げられる。具体的には、カルボニル基又はアルデヒド基含有ラジカル重合性単量体や、分子内に1個以上の加水分解性シリル基と、1個以上のエチレン性不飽和基を含有するシランカップリング剤、エポキシ基含有ラジカル重合性単量体、水酸基含有ラジカル重合性単量体などが挙げられる。中でもカルボニル基又はアルデヒド基含有ラジカル重合性単量体や、分子内に1個以上の加水分解性シリル基と、1個以上のエチレン性不飽和基を含有するシランカップリング剤を用いることが、塗料の貯蔵安定性、ハンドリング性の面から好ましい。
【0021】
カルボニル基又はアルデヒド基含有ラジカル重合性単量体としては、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルアルキルケトン等があり、好ましくは、炭素数4〜7個のビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナールの他、ピバリンアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
カルボニル基又はアルデヒド基を架橋性官能基として用いる場合、水性塗料中に、分子中に少なくとも2個のヒドラジノ基を有する有機ヒドラジン化合物などの、カルボニル基又はアルデヒド基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤を配合することが好ましい。カルボニル基又はアルデヒド基と反応しうる官能基としてはヒドラジノ基が好ましい。分子中に少なくとも2個のヒドラジノ基を有する有機ヒドラジン化合物としては、例えば、エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ジヒドラジン、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等の炭素数2〜15のジカルボン酸ヒドラジド及び1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントイン、1−ヒドラジノカルボエチル−3−ヒドラジノカルボイソプロピル−5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントイン等のヒダントイン骨格を有する有機ヒドラジン化合物、これらは必要に応じて1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、塗装被膜の耐汚染性を向上させるためには、ヒダントイン骨格を有する有機ヒドラジン化合物が好ましく、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントインが特に好ましい。
【0023】
また、それぞれの使用量としては、共重合体(A)中のカルボニル基及び/又はアルデヒド基のモル数を(P)、水性塗料に配合されるの有機ヒドラジン化合物(B)のヒドラジノ基のモル数を(Q)としたとき、その比率を0.1<(P)/(Q)<10の範囲とすることが好ましく、0.8<(P)/(Q)<2の範囲とすることがより好ましい。これは、(P)/(Q)が0.1以下ではカルボニル基又はアルデヒド基と架橋反応を起こさない有機ヒドラジン化合物が大過剰に存在するため耐水性が低下し、(P)/(Q)が10以上では、架橋度が低いために架橋の効果が得られないためである。
【0024】
分子内に1個以上の加水分解性シリル基と、1個以上のエチレン性不飽和基を含有するシランカップリング剤を用いることができる。加水分解性シリル基としては、重合反応性、取り扱いの容易さ等の点からアルコキシシリル基が好ましい。具体例としてはビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルシラン類や3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロキシアルキルシラン類が挙げられる。
【0025】
分子内にエポキシ基を含有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート等が挙げられる。分子内に水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−(3−)ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有ラジカル重合性単量体類;ヒドロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリプロピレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−プロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−ポリテトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−テトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリプロピレンオキシド−ポリテトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリプロピレンオキシド−ポリテトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、アリロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、オクトキシ(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシ(ポリエチレンオキシド−プロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレンオキシド基含有(メタ)アクリレート類等が挙げられる。これらの分子内に含有される水酸基を架橋性官能基として用いる場合、水性塗料中に分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物、好ましくは分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリマーなどの水酸基と反応しうる官能基を2つ以上有する架橋剤を配合することが望ましい。このポリマーは自己分散型でも乳化剤により強制乳化されていてもよい。それぞれの使用量としては、共重合体(A)中の水酸基のモル数を(R)、イソシアネート基のモル数を(S)としたとき、その比率を0.5<(R)/(S)<2の範囲とすることが好ましい。
【0026】
上記単量体(a)及び(b)以外のエチレン性不飽和単量体(c)としては、本発明の向上材を添加する水性塗料に応じて、かかる水性塗料を構成する(共)重合体(B)の主たる単量体を単独又は2種以上組み合わせて用いることが、本発明の向上材を添加する水性塗料の諸特性維持の点から最も好ましいが、これらに限定されるものではない。単量体(c)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、p−t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールなどの窒素含有重合性単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン含有単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族単量体;酢酸ビニル等のビニルエステル;ビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等の重合性シアン化合物、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、フマル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチルなどの如きカルボキシル基含有単量体;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸及びスルホエチル(メタ)アクリレート等の如きスルホン酸基含有単量体;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロプロピルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルフェニルリン酸等の酸性リン酸エステル系単量体等の酸性官能基含有不飽和単量体等を用いることができる。上記単量体は単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、本発明の向上材を添加した水性塗料の耐候性向上の点から、(メタ)アクリル酸エステル系不飽和単量体を用いることが好ましい。また、耐候性以外の性能を向上材に付与したい場合には、その要求性能に応じて、単量体(c)を選択すれば良い。また後述するように、酸性官能基含有不飽和単量体を単量体(a)重合時以外の段階で重合することが好ましい。また酸性官能基含有不飽和単量体を単量体(a)と共に重合する場合は、酸性官能基含有不飽和単量体の量をできる限り少量に抑え、十分な量の乳化剤と共に重合することが重合安定性の点から好ましい。酸性官能基含有不飽和単量体の量として、0.2%以下であることが重合安定性の点から好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0027】
本発明の共重合体(A)のMwは、本水性樹脂を添加する水性塗料中での拡散性と耐候性向上能維持の点から、3,000〜50,000の範囲である必要がある。高度な耐候性を求められる場合には、5,000〜50,000の範囲であることがより好ましい。
【0028】
Mwを調整する方法は特に規定しないが、開始剤量の調整による方法の他、連鎖移動剤を用いるのも有効な手段である。連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤を用いればよい。連鎖移動剤の使用量は、使用する連鎖移動剤の種類や不飽和単量体の構成比に応じて変化させれば良い。上記連鎖移動剤は、単独、もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。水性塗料用耐候性向上材として用いる場合は、単量体(a)と(b)、(c)の共重合性、多層構造化、生産性、ハンドリング性の点から乳化重合法にて重合することが特に好ましい。乳化重合にて重合を行う際に使用する乳化剤としては、従来より知られる各種のアニオン性、又はノニオン性の非反応性乳化剤、さらには高分子乳化剤が挙げられる。また分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する反応性乳化剤を用いると共重合体(A)からなる向上材を含む水性塗料においてより高度な耐水性、耐候性が得られる。反応性乳化剤としては、例えば(株)ADEKA製商品名「アデカリアソープSR−10」、「同SE−10」、第一工業製薬社製商品名「アクアロンKH−05」、「同KH−10」、「同HS−10」等の反応性アニオン性乳化剤、例えば(株)ADEKA製商品名「アデカリアソープNE−10」、「同ER−10」、「同NE−20」、「同ER−20」、「同NE−30」、「同ER−30」、「同NE−40」、「同ER−40」、第一工業製薬社製商品名「アクアロンRN−10」、「同RN−20」、「同RN−30」、「同RN−50」等の反応性ノニオン性乳化剤などが挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。特に高い機械安定性が必要とされる用途では、反応性アニオン性乳化剤と反応性ノニオン性乳化剤を併用することがより好ましい。乳化剤の量については特に規定しないが、本発明の向上材を添加した水性塗料の耐候性、耐水性の点から全単量体を100質量%とした時、0.5〜10質量%の範囲内で使用することが好ましい。尚、本発明で言う不飽和単量体の中には反応性乳化剤は含まないものとする。
【0029】
なお、共重合体(A)の粒子構造は、単層構造であっても多層構造であってもよいが、多層構造の場合、生産効率及び粒子径制御の観点から3層構造以下であることが好ましい。また、多層構造の場合、本発明の向上材を添加した水性塗料の耐候性向上の点から、外層ほど単量体(a)の濃度を高くすることが好ましい。
【0030】
本発明の向上材を構成する共重合体(A)を重合するための重合開始剤は、一般的にラジカル重合に使用されるものが使用可能であり、その具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類;2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}及びその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)及びその塩類2,2’−アゾビス(2−メチルプロピンアミジン)及びその塩類、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]及びその塩類等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類等が挙げられる。これらの開始剤は単独でも使用できるほか、2種類以上の混合物としても使用できる。また、重合速度の促進、70℃以下での低温の重合が望まれるときには、例えば、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、アスコルビン酸塩等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いると有利である。
【0031】
ラジカル重合開始剤の添加量としては、通常、エチレン性不飽和単量体の全量に対して0.01〜10質量%の範囲である。
【0032】
また、本発明の向上材を構成する共重合体(A)粒子の粒子径は特に規定しないが、重量平均粒子径で300nm以下であることが好ましい。重量平均粒子径が300nm以下であれば、本発明の向上材を添加する水性塗料の種類や成膜条件にかかわらず、ラジカル捕捉機能を有する基が、水性塗料中に十分に分散でき、高度な耐候性向上性能を付与できる。重量平均粒子径としては、170nm以下がより好ましく、140nm以下が特に好ましい。また乳化剤の増加による耐水性低下を防ぐためには、重量平均粒子径が30nm以上であることが好ましい。
【0033】
また、本発明の向上材を構成する共重合体(A)のガラス転移温度(以下Tgとする)は特に規定しないが、単量体(c)による共重合単位におけるTgとして100℃以下であることが好ましい。このTgが100℃以下であれば、本発明の向上材を添加した水性塗料において、十分な造膜性が得られ、また耐水性や耐候性を低下させることもない。エチレン性不飽和単量体(c)による共重合単位のTgとして、好ましくは70℃以下であり、50℃以下がさらに好ましい。なお、上記TgとしてはFoxの計算式により求められる計算ガラス転移温度を使用する。Foxの式とは、以下に示すような、共重合体のガラス転移温度(℃)と、共重合モノマーのそれぞれを単独重合したホモポリマーのガラス転移温度(℃)との関係式である
【0034】
1/(273+Tg)=Σ(W/(273+Tg))
[式中、Wはモノマーiの質量分率、TgはモノマーiのホモポリマーのTg(℃)を示す。]
【0035】
なお、ホモポリマーのTgとしては、具体的には、「Polymer Handbook 3rd Edition」(A WILEY−INTERSCIENCE PUBLICATION、1989年)に記載された値を使用することができる。
【0036】
乳化重合法により共重合体(A)を合成する場合、重合開始前、重合中及び重合後、塩基性化合物の添加により系のpHを弱アルカリ性、すなわちpH7.5〜10.0程度の範囲に調整することで系の安定性を高めることができる。この塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1−アミノオクタン、2−ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、2−プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。VOCを含まないことが望まれる内装用途などの場合は、無機系塩基化合物を用いることが好ましい。さらに僅かな臭気もないことが望まれる場合は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の不揮発性無機系塩基化合物を用いることが好ましい。
【0037】
本発明における共重合体(A)は、その他の(共)重合体(B)を含む水性塗料に添加し、(共)重合体(B)の耐候性を飛躍的に高めることが出来る。水性塗料を構成しているその他の(共)重合体(B)としては、(メタ)アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系、アルキッド系等の各種高分子を使用することができる。また、これらの(共)重合体(B)は、共重合体(A)において用いられているものと同一種の架橋性官能基を有することが好ましい。同一種の架橋性官能基を有することにより、耐候性、耐ブロッキング性、耐汚染性が更に向上する。特に、(共)重合体(B)を構成する成分100質量%のうち、0.1〜20質量%が、分子内に架橋性官能基を持つエチレン性不飽和単量体(b)であることが好ましい。特に、共重合体(A)と(共)重合体(B)において、同種の単量体(b)を選択することが好ましい。
【0038】
本発明の向上材の水性塗料への添加量については、水性塗料の目標耐候性能に応じて添加量を変えることができ、特に規定されないが、本発明の向上材中の共重合体(A)と、水性塗料中の(共)重合体(B)の合計を100質量%とした場合、共重合体(A)の比率が1〜50質量%の範囲で使用することが好ましい。添加量が1質量%以上では、本発明の向上材を添加した水性塗料の耐候性能が十分向上する。50質量%以下では、本発明の向上材を添加した水性塗料の特性のいずれをも大幅に低下させる心配がない。また、本発明の向上材を構成する共重合体(A)は、同一組成の共重合体を単独で使用しても、組成の異なる共重合体を2種以上組み合わせて使用しても良い。また、本発明の向上材及び該向上材を添加した水性塗料に高度な性能を発現させるために、各種顔料、消泡剤、顔料分散剤、レベリング剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、スリップ剤、防腐剤を、本発明の向上材及び/又は被添加水性塗料に添加しても良い。
【0039】
本発明の向上材の添加方法としては、(共)重合体(B)を含む水性塗料組成物に、上記のように質量基準の比率として共重合体(A):(共)重合体Bが1:99〜50:50となる量を添加し、機械攪拌により十分混合することが好ましい。また、架橋剤を用いる場合は、本発明の向上材を水性塗料組成物に添加する際に添加することが好ましい。本発明の向上材及び/又は被添加水性塗料には、公知の造膜助剤を添加することができる。造膜助剤を添加する場合は、本発明の向上材と被添加水性塗料とを混合してから添加しても、各々に添加してから混合しても良いが、造膜性、MFT等に大きな差異がある場合は、各々に添加してから混合することが好ましい。
【0040】
本発明の向上材を添加した水性塗料を用いて各種材料の表面に塗膜を形成するためには、例えば、噴霧コート法、ローラーコート法、バーコート法、エアナイフコート法、刷毛塗り法、ディッピング法等の各種の塗装法を適宜選択して実施すればよい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」は質量基準である。
【0042】
水性樹脂としての評価は、下記方法に従って以下の項目について試験を実施した。
【0043】
<試験方法>
(1)機械安定性試験
実施例1〜6、比較例1〜3の水性樹脂について、各100gをマローン試験機にて15kgのシェアをかけて10分間試験を行い、100メッシュのナイロン紗によってろ過し、その残渣の量を測定し、以下の基準で評価をした。
「◎」 :残渣の量が0.01g以下であるかほとんど見られない。
「○」 :残渣の量が0.01〜0.1gである。
「△」 :残渣の量が0.1〜0.5gである。
「×」 :残渣の量が0.5g以上である、又は試験中にゲル化する。
【0044】
(2)貯蔵安定性
実施例1〜6、比較例1〜3の水性樹脂について、各200gを密栓可能なガラスビンに入れ、50℃の恒温水槽に1週間入れる。その後取り出し、凝固物の有無と粘度を確認し、以下の基準で評価をした。
「◎」 :凝固物も無く、粘度の変化率は±20%以内である。
「○」 :凝固物も無く、粘度の変化率は±20%以上±35%以内である。
「△」 :凝固物も無く、粘度の変化率は±20%以上±50%以内である。
「×」 :凝固物が見られる。
【0045】
(3)重合安定性
実施例1〜6、比較例1〜3において重合時のカレットについて、100メッシュのナイロン紗でろ過捕集し、50℃の乾燥炉で24時間乾燥させその重量を測定し、以下の基準で評価した。
「◎」 :ドライ状態のカレット量が100ppm未満である。
「○」 :ドライ状態のカレット量が100ppm以上1000ppm未満である。
「△」 :ドライ状態のカレット量は1000ppm以上であるが、重合可能。
「×」 :不安定なため、重合不可能。
【0046】
また、本発明の向上材を添加した水性塗料としての試験については、下記方法で成膜用塗料を調製後、下記方法に従って試験を実施した。
【0047】
<クリアー塗料の調製>
実施例1〜6、比較例1〜3の向上材を参考例1、2の各種水性樹脂に対し下表2に記載の比率にて配合する。調製した水性塗料100gに対し、「サーフィノールDF−58」(商品名、エア・プロダクツ(株)製、消泡剤)0.5gを加え、十分に攪拌し100メッシュナイロン紗を用いてろ過を行い、評価用クリアー塗料を得た。リン酸亜鉛処理鋼鈑(ボンデライト#100処理鋼鈑、板厚0.8mm、70mm×150mm)に上記で作成した塗料を乾燥膜厚が50μmになるようにスプレー塗装し、その後室温で1時間放置し、80℃で1時間強制乾燥したものを、耐汚染試験、耐候性試験、耐候性向上性試験の試験塗板とした。
【0048】
(4)相溶性試験
ガラス板上に8MILアプリケーターを用いてクリアー塗料を塗布し、その後室温にて1時間乾燥させた後、80℃で1時間強制乾燥したものを、相溶性評価用の塗板とした。塗膜の状態を目視で確認し、以下の基準で判定した。
「○」 :ヘイズが見られないか、見られたとしても極めて僅かである。
「×」 :ヘイズが明確に見られる。
【0049】
(5)耐水性試験
ガラス板上に8MILアプリケーターを用いてクリアー塗料を塗布し、その後室温にて1時間乾燥させた後、80℃で1時間強制乾燥したものを、耐温水性評価用の塗板とした。評価塗板を室温にて水に1週間浸漬させた。取り出し直後の塗膜白化度ΔLを日本電色工業(株)製スペクトロカラーメーターSE−2000を用いて測定した。
「◎」 :3以下
「○」 :3より大きく5以下
「△」 :5より大きく10以下
「×」 :10より大きい
【0050】
(6)耐汚染試験
上記にて作成した塗板を45°実爆を3ヶ月行い雨筋のつき方、汚染度について以下の基準で評価した。汚染度についてはΔLの値とし、日本電色工業(株)製スペクトロカラーメーターSE−2000を用いて測定した。
全体汚染
「◎」 :ΔL値は3以下であり、雨筋汚染も少なく耐汚染性は良好。
「○」 :ΔL値は3より大きく5以下であり、雨筋汚染は見られる。
「△」 :ΔL値は5より大きく7.5以下であり、顕著な雨筋汚染が見られる。
「×」 :ΔL値は7.5よりも大きく、顕著な雨筋汚染が見られる。
【0051】
(7)耐候性試験
サンシャインカーボンウエザオメーター(スガ試験機製、WEL−SUN−HC−B型)耐候試験機(ブラックパネル温度63±3℃、降雨12分間、照射48分間のサイクル)を用いて4000時間試験を行い、光沢保持率を測定し、以下の基準で判定した。
「◎」 :80%以上。
「○」 :70%以上、80%未満。
「△」 :40%以上、70%未満。
「×」 :40%未満。
【0052】
(8)耐候性向上評価
<クリアー>
「◎」 :耐候性評価において、被添加塗膜の耐候性を3段階向上させる。
「○」 :耐候性評価において、被添加塗膜の耐候性を2段階向上させる。
「△」 :耐候性評価において、被添加塗膜の耐候性を1段階向上させる。
「×」 :耐候性評価における、被添加塗膜の耐候性向上が見られないか、みられたとしても1段階の向上効果もない。
【0053】
<実施例>
(実施例1)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプ及び窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水45部、表1に示す割合で配合された乳化物Aのうちの5質量%を反応容器内に仕込み、反応容器内部を窒素で置換しながら75℃まで昇温した後、過硫酸アンモニウム(重合開始剤)0.1部を1部の水に溶解した開始剤溶液を加えシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、乳化物Aの残りを内温75℃で4時間かけて滴下し、さらに内温75℃のまま2時間熟成することで乳化物Aの単量体の重合を行い、共重合体(A)粒子を形成した。
【0054】
その後冷却を行い、60℃以下の温度で25質量%アンモニア水をpH9になるまで添加し、エマルションA1を得た。得られたエマルション中の固形分、pH、粘度、MFT、共重合体(A)のTg、重量平均分子量(Mw)は下記表1に示す通りであった。
【0055】
(実施例2〜6、比較例1〜4)
実施例1と同様な方法で、表1に示された組成の乳化物Aからエマルションを調製した。得られたエマルション中の固形分、pH、粘度、MFT、共重合体のTg、Mwは下記表1に示す通りであった。
【0056】
(参考例1)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプ及び窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水45部と乳化剤「アデカリアソープSR-10」(商品名、(株)ADEKA製、以下SR−10と記す)0.2部を仕込み反応容器内部を窒素で置換した。スチレン16部、メチルメタクリレート37部、n−ブチルアクリレート45部、脱イオン水50部、乳化剤「SR−10」3部をプレ乳化し乳化物(α)とした。乳化物(α)のうち5質量%を反応容器中に仕込み、75℃まで昇温した後、過硫酸アンモニウム(重合開始剤)0.2部を5部の水に溶解した開始剤溶液を加えシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、乳化物(α)の残り45質量%を内温75℃で2時間かけて滴下し、乳化物(β)とした。残りの乳化物(α)50質量%に対し、2部のアクリル酸を加え再度プレ乳化し乳化物(γ)とし、乳化物(β)の調製1時間後より乳化物(γ)を内温75℃で2時間かけて乳化物(β)に滴下した。その後内温75℃のまま2時間熟成することで共重合体(B−1)の重合を行い、その後冷却を行い、60℃以下の温度で1部の28質量%アンモニア水溶液を添加し水性樹脂組成物を調製し、被添加塗料エマルションB1を得た。
【0057】
(参考例2)
参考例1と同様の装置、窒素置換を行い、スチレン16部、メチルメタクリレート34部、n−ブチルアクリレート45部、ダイアセトンアクリルアミド3部、脱イオン水50部、乳化剤「SR−10」 3部をプレ乳化し乳化物(α)とした。乳化物(α)のうち5質量%を反応容器中に仕込み、75℃まで昇温した後、過硫酸アンモニウム(重合開始剤)0.2部を5部の水に溶解した開始剤溶液を加えシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、乳化物(α)の残り45質量%を内温75℃で2時間かけて滴下し、乳化物(β)とした。残りの乳化物(α)50質量%に対し2部のアクリル酸を加え再度プレ乳化し乳化物(γ)とし、乳化物(β)の調製1時間後より乳化物(γ)を内温75℃で2時間かけて乳化物(β)に滴下した。その後内温75℃のまま2時間熟成することで共重合体(B−2)の重合を行い、その後冷却を行い、60℃以下の温度で1部の28質量%アンモニア水溶液を添加し水性樹脂組成物を調製し、被添加塗料エマルションB2を得た。
【0058】
(実施例7)
実施例1のエマルションA1の10g(固形分5g)と参考例1のエマルションB1の190g(固形分95g)を密栓可能なガラス瓶に採取し、造膜助剤として「キョーワノールM」(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートの商品名:協和発酵ケミカル(株)製)6gを加え、ガラス棒で10分間十分に攪拌し、密栓して一晩放置し、塗膜評価用水性塗料を調製した。
【0059】
(実施例8〜13)
実施例7と同様な方法で、樹脂固形分が下表2に示された比率となるよう混合し、水性塗料を調製した。表2にてヒドラジン化合物(ADH、VDH)を添加すると記載のあるものについては、50%水分散体とし、ヒドラジン化合物の添加を行った。
【0060】
(実施例14)
実施例7と同様な方法で、樹脂固形分が下表2に示された比率となるよう混合した。イソシアネート「アクアネート100」(商品名、日本ポリウレタン工業(株)製)20gをとり、水20gを加え、ホモディスパー(特殊機化工業(株)製)を用いて5000rpmにて5分間攪拌、固形分50%の乳化液とした。そのうち2gを塗膜評価用水性塗料に添加した。
【0061】
(比較例5,6)
参考例1,2にて調製したエマルションB1及びB2のそれぞれ200gを密栓可能なガラス瓶に採取し、造膜助剤として「キョーワノールM」6gを加え、ガラス棒で10分間十分に攪拌し、密栓して一晩放置し、塗膜評価用水性塗料を調製した。
【0062】
(比較例7〜11)
実施例7と同様な方法で、樹脂固形分が下表2に示された比率となるよう混合し、水性塗料を調製した。
【0063】
実施例1〜6、比較例1〜4で得たエマルションについて、固形分(NV)、粘度、共重合体(A)粒子の平均粒子径、重合安定性評価結果、機械安定性試験結果、貯蔵安定性試験結果を下記表1にまとめて示す。粘度は、エマルションの温度を25℃にし、東機産業(株)社製R−100型粘度計にて測定した値を用いた。平均粒子径は、濃度1%に調整した試料を大塚電子(株)社製濃厚系アナライザーFPAR−1000を用い、25℃にて測定して得られた値を用いた。
【0064】
さらに、実施例7〜14、比較例5〜11で調製した水性塗料の初期光沢、相溶性、耐水性、耐候性評価試験結果を表2にまとめて示す。
【0065】
【表1】

【0066】
HALS1:4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン
KBM−502:ガンマメタクリロキシプロピルモノメチルジメトキシシラン(商品名、信越化学工業(株)製)
DAAm:ダイアセトンアクリルアミド
2−HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
n−BMA:ノルマルブチルメタクリレート
n−BA:ノルマルブチルアクリレート
2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
SR−10:反応型アニオン性界面活性剤「アデカリアソープSR−10」(商品名、(株)ADEKA製)
ER−30:反応型ノニオン性界面活性剤「アデカリアソープER−30」(商品名、(株)ADEKA製)
NDM:ノルマルドデシルメルカプタン
【0067】
【表2】

【0068】
表2において、
ADH:アジピン酸ジヒドラジド
VDH:1,3−ビス(ヒドラジノカルボノエチル)−5−イソプロピルヒダントイン(商品名「アミキュアVDH」、味の素ファインテクノ(株)製)
イソシアネート:商品名「アクアネート100」、日本ポリウレタン工業(株)製
【0069】
表1及び表2から明らかなように、本実施例の向上材(共重合体(A))は、機械安定性、貯蔵安定性、重合安定性に優れると共に、各種水性塗料に添加した場合、顕著な耐汚染性、耐候性向上が図れる。
【0070】
これに対して、比較例の共重合体(水性樹脂)は、本発明の特定の組成範囲に入っていないものであり、重合安定性や貯蔵安定性が劣り、また重合可能であったとしても水性塗料に添加した場合、相溶性、耐水性向上機能、耐候性向上機能が十分ではない。
【0071】
したがって、本発明によれば、重合安定性、機械的安定性、貯蔵安定性が良く、顕著な耐水性向上機能、耐候性向上機能を有する水性塗料用耐候性向上材及び高耐候な水性塗料を提供できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の耐候性向上材は、セメントモルタル、スレート板、石膏ボード、押し出し成形板、発泡性コンクリート、金属、ガラス、磁器タイル、アスファルト、木材、防水ゴム材、プラスチック、珪酸カルシウム基材等の各種素材の表面仕上げに使用される水性塗料に添加することにより、長期間に亘って耐候性を向上させることができ、工業上極めて有益なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)6〜50質量%と、分子内に架橋性官能基を持つエチレン性不飽和単量体(b)0.1〜20質量%、前記(a)及び(b)以外のエチレン性不飽和単量体(c)30〜93.9質量%(ただし、(a)、(b)、(c)の合計は100質量%)からなる不飽和単量体混合物を乳化重合することで得られ、重量平均分子量が3,000〜50,000であることを特徴とする共重合体(A)。
【化1】

(Rは水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基、Xは酸素原子又はイミノ基、Yは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基又はアルコキシル基、Zは水素原子又はシアノ基を示す。)
【請求項2】
請求項1記載の共重合体(A)を含有することを特徴とする耐候性向上材。
【請求項3】
請求項2に記載の耐候性向上材を含む水性塗料。
【請求項4】
耐候性向上材中の共重合体(A)と被添加水性塗料中の重合体(B)とが、(A):(B)の質量比率が1:99〜50:50であることを特徴とする水性塗料。
【請求項5】
重合体(B)を構成する成分100質量%のうち0.1〜20質量%が分子内に架橋性官能基を持つエチレン性不飽和単量体(b)であることを特徴とする請求項4記載の水性塗料。

【公開番号】特開2008−127527(P2008−127527A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317066(P2006−317066)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】