説明

水性塗料用樹脂組成物、および水性塗料

【課題】有機溶剤や塩素化合物を使用しなくても、ポリオレフィン基材、ABS基材、PC基材に対する付着性に優れ、かつ耐水性および耐油性を有する塗膜を形成できる水性塗料用樹脂組成物、および水性塗料の提供。
【解決手段】非塩素化ポリオレフィン(A)と、アクリル−スチレン共重合体(B)とを含有する、非塩素系の水性塗料用樹脂組成物であって、前記(A)は、融点が60〜70℃である非塩素化ポリオレフィン(a1)と、融点が90〜130℃である非塩素化ポリオレフィン(a2)を含み、前記(B)は、ガラス転移温度が70〜90℃であるアクリル−スチレン共重合体(b1)を含み、かつ、当該組成物の固形分100質量%中における、前記(a1)の含有量が15〜30質量%、前記(a2)の含有量が10〜30質量%、前記(b1)の含有量が20〜70質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非塩素系の水性塗料用樹脂組成物、および水性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や電化製品等の工業材料として、軽量かつ安価であるなどの理由からポリオレフィンが普及している。ポリオレフィンの成形品(基材)には、意匠性や保護を目的として表面にトップコートなどの塗装が施される場合が多い。しかし、一般的にポリオレフィンは低極性であるため、塗膜の付着性が悪い。
そこで、従来、ポリオレフィン基材に対する塗膜の付着性を高めるため、塩素化ポリオレフィン系の樹脂を含む塗料がプライマー塗料として用いられてきた。
【0003】
しかし、塩素化ポリオレフィン系の樹脂は、トルエン、キシレン等の特定の有機溶剤にしか溶解しないため、得られる塗料も有機溶剤を多量に含有する、いわゆる有機溶剤系の塗料であり、環境汚染等の面で問題を有するものであった。
また、塩素化ポリオレフィン系の樹脂は、焼却した際に塩素化合物を発生するため、近年、環境への配慮からハロゲンフリー(非塩素系)の塗料が望まれている。
【0004】
非塩素系の水性プライマー塗料として、例えば特許文献1には、融点が120℃以下の不飽和カルボン酸もしくは酸無水物変性ポリオレフィンが水性媒体中に分散した非塩素系変性ポリオレフィンの水性分散体を含む水性プライマー組成物が開示されている。
また、特許文献2には、融点40〜100℃の非塩素系ポリオレフィンを水性化して得られる非塩素系ポリオレフィンエマルションを含有する水性プライマー組成物が開示されている。
特許文献1、2に記載の水性プライマー組成物は、バインダー樹脂成分として非塩素系ポリオレフィンを用いているので、非塩素系かつ水性の塗料である。また、非塩素系ポリオレフィンの融点を調整することで、ポリオレフィン基材に対する付着性をも有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第06/019171号パンフレット
【特許文献2】特開2009−292951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近では、ポリオレフィン以外に、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体 (以下、「ABS」と略す。)やポリカーボネート (以下、「PC」と略す。)なども、自動車や電化製品等の工業材料として用いられる場合がある。そのため、これらの基材に対しても、ポリオレフィン基材と同程度の付着性を有する塗料が求められている。
しかしながら、特許文献1、2に記載のプライマー組成物は、ポリオレフィン基材に対しては良好な付着性を示すが、ABS基材やPC基材に対する付着性は不十分であり、ABS基材やPC基材には不向きであった。
そのため、これまでは、基材の材質によってプライマー塗料を使い分ける必要があった。
【0007】
また、特許文献1、2に記載のプライマー組成物は、塗装のために用いる下塗り塗料であるため、耐水性や耐油性といった塗膜の耐久性には乏しい。さらに、上塗り塗料などを塗装することが前提であるため、基材への全ての塗装が完了するまでに要する時間やコストを考えると、生産性を満足するものではなかった。
【0008】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、有機溶剤や塩素化合物を使用しなくても、ポリオレフィン基材、ABS基材、PC基材に対する付着性に優れ、かつ耐水性および耐油性を有する塗膜を形成できる水性塗料用樹脂組成物、および水性塗料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の融点を有する2種類の非塩素化ポリオレフィンと、特定のガラス転移温度を有するアクリル−スチレン共重合体を必須成分とし、かつこれらを特定の割合で配合することで、各基材に対する付着性、耐水性、および耐油性を塗膜に付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の水性塗料用樹脂組成物は、非塩素化ポリオレフィン(A)と、アクリル−スチレン共重合体(B)とを含有する、非塩素系の水性塗料用樹脂組成物であって、前記非塩素化ポリオレフィン(A)は、融点が60〜70℃である非塩素化ポリオレフィン(a1)と、融点が90〜130℃である非塩素化ポリオレフィン(a2)を含み、前記アクリル−スチレン共重合体(B)は、ガラス転移温度が70〜90℃であるアクリル−スチレン共重合体(b1)を含み、かつ、当該水性塗料用樹脂組成物の固形分100質量%中における、前記非塩素化ポリオレフィン(a1)の含有量が15〜30質量%、前記非塩素化ポリオレフィン(a2)の含有量が10〜30質量%、前記アクリル−スチレン共重合体(b1)の含有量が20〜70質量%であることを特徴とする。
また、本発明の水性塗料は、前記水性塗料用樹脂組成物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有機溶剤や塩素化合物を使用しなくても、ポリオレフィン基材、ABS基材、PC基材に対する付着性に優れ、かつ耐水性および耐油性を有する塗膜を形成できる水性塗料用樹脂組成物、および水性塗料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
[水性塗料用樹脂組成物]
本発明の水性塗料用樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」と略す。)は、非塩素化ポリオレフィン(A)と、アクリル−スチレン共重合体(B)とを含有するものであって、非塩素系の水性塗料のバインダーとして好適に用いられる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの両方を示すものとする。
【0013】
<非塩素化ポリオレフィン(A)>
非塩素化ポリオレフィン(A)(以下、「(A)成分」と略す。)は、塩素化されていないポリオレフィンであり、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンの単独重合体もしくは共重合体である。中でもエチレン−プロピレン共重合体が好ましい。なお、このエチレン−プロピレン共重合体は、エチレンとプロピレンとの二元共重合体はもちろんのこと、エチレンとプロピレンとこれら以外の単量体との多元共重合体も含む。多元共重合体としては、エチレンとプロピレンと1−ブテンの共重合体が一般的である。
【0014】
(A)成分は、融点が60〜70℃である非塩素化ポリオレフィン(a1)と、融点が90〜130℃である非塩素化ポリオレフィン(a2)を含む。
これら非塩素化ポリオレフィンの融点は、共重合体を構成する単量体(α−オレフィン)の種類や配合割合を調整することで調節できる。
【0015】
非塩素化ポリオレフィン(a1):
非塩素化ポリオレフィン(a1)(以下、「(a1)」と略す。)は、ポリオレフィン基材に対する付着性を塗膜に付与する役割を主に果たす。
(a1)は融点が60〜70℃である。(a1)の融点が60℃未満であると、塗膜にタックが残りやすくなる。一方、(a1)の融点が70℃を超えると、塗膜が硬くなりすぎ、ポリオレフィン基材、ABS基材、PC基材に対する付着性が低下する。
なお、(a1)の融点は、示差走査熱量計を用い、昇温速度5℃/秒にて熱分析を行って測定した値である。
【0016】
(a1)としては、融点が60〜70℃であれば特に限定されないが、上述したように、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンの単独重合体もしくは共重合体が挙げられ、中でもエチレン−プロピレン共重合体が好ましい。
また、(a1)としては、市販品を用いることができ、例えば日本製紙ケミカル株式会社製の「アウローレンAE201」、「アウローレンAE301」、「S− 6097」、「S−6283」;星光PMC株式会社製の「ZE−1223」、「ZE−1224」、「ZE−1225」、「ZE−1363」、「ZE−1364」、「ZE−1365」;UMG ABS株式会社製の「TP604B」、「TP605B」、「TP606B」などが挙げられる。
(a1)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
(a1)の含有量は固形分換算で、樹脂組成物の固形分100質量%中、15〜30質量%である。(a1)の含有量が15質量%未満であると、各基材、特にポリオレフィン基材に対する塗膜の付着性が低下する。一方、(a1)の含有量が30質量%を超えると、塗膜の耐油性が低下する。
【0018】
非塩素化ポリオレフィン(a2):
非塩素化ポリオレフィン(a2)(以下、「(a2)」と略す。)は、耐水性および耐油性を塗膜に付与する役割を主に果たす。
(a2)は融点が90〜130℃である。(a2)の融点が90℃未満であると、塗膜の耐油性が低下する。一方、(a2)の融点が130℃を超えると、造膜性が悪くなり、塗膜が形成されにくくなる。特に、ABS基材上に塗装する場合、塗膜を乾燥させる際の乾燥温度の上限値は80℃程度であるため、(a2)の融点が乾燥温度を大幅に超えると造膜性が低下しやすくなる。
なお、(a2)の融点は、(a1)の融点の測定と同様にして測定した値である。
【0019】
(a2)としては、融点が90〜130℃であれば特に限定されないが、上述したように、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンの単独重合体もしくは共重合体が挙げられ、中でもエチレン−プロピレン共重合体が好ましい。
また、(a2)としては、市販品を用いることができ、例えば東洋化成工業株式会社製の「NA3002」、「NA3003」、「NA3006」、「NA3009」;UMG ABS株式会社製の「TP001Mα」、「TP007Mα」、「TP903Eα」、「TP904Eα」、「TP016M」などが挙げられる。
(a2)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
(a2)の含有量は固形分換算で、樹脂組成物の固形分100質量%中、10〜30質量%である。(a2)の含有量が10質量%未満であると、塗膜の耐油性が低下する。一方、(a2)の含有量が30質量%を超えると、各基材に対する塗膜の耐水性が低下する。
【0021】
(A)成分は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、上述した(a1)、(a2)以外の融点を有する非塩素系ポリオレフィンを任意成分として含んでもよい。
【0022】
<アクリル−スチレン共重合体(B)>
アクリル−スチレン共重合体(B)(以下、「(B)成分」と略す。)は、(メタ)アクリル酸エステルとスチレンを単量体成分として共重合した共重合体である。
(B)成分は、ガラス転移温度が70〜90℃であるアクリル−スチレン共重合体(b1)を含む。
【0023】
アクリル−スチレン共重合体(b1):
アクリル−スチレン共重合体(b1)(以下、「(b1)」と略す。)は、ABS基材やPC基材に対する付着性を塗膜に付与する役割を主に果たす。
(b1)はガラス転移温度(Tg)が70〜90℃である。(b1)のTgが70℃未満であると、塗膜の耐油性が低下する。一方、(b1)のTgが90℃を超えると、造膜性が著しく悪くなる。
【0024】
なお、(b1)のTgは、JIS K7121に準拠して測定される。具体的には、まず測定する試料を、示差走査熱量計を用いて予測される試料のTg(予測温度)より約50℃高い温度で10分加熱した後、予測温度より50℃低い温度まで冷却して前処理する。その後、窒素雰囲気下において、昇温速度10℃/分にて昇温して吸熱開始温度を測定し、これをTgとする。
【0025】
(b1)としては、Tgが70〜90℃であり、(メタ)アクリル酸エステルとスチレンを単量体成分として共重合した共重合体あれば特に限定されない。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルキルまたはシクロアルキルエステルなどが挙げられる。
単量体成分には、(メタ)アクリル酸エステルとスチレン以外の他の単量体が含まれていてもよい。他の単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸などが挙げられる。
(b1)は、共重合体のTgが70〜90℃になるように、上述した(メタ)アクリル酸エステルの中から1種以上と、必要に応じて他の単量体の中から1種以上とを選択し、これらとスチレンとを共重合することで得られる。各単量体の配合割合は、共重合体のTgが70〜90℃になるように、適宜設定される。
【0026】
また、(b1)としては、市販品を用いることができ、例えばDIC株式会社製の「WHK−885」、「WJK−327」、「WJK−328」、「WJK−329」、「WJK−330」;楠本化成株式会社製の「ネオクリルA6075」;藤倉化成株式会社製の「PP−N−24」、「PP−N−89」などが挙げられる。
(b1)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
(b1)の含有量は固形分換算で、樹脂組成物の固形分100質量%中、20〜70質量%である。(b1)の含有量が20質量%未満であると、各基材、特にABS基材およびPC基材に対する塗膜の付着性が低下する。一方、(b1)の含有量が70質量%を超えると、各基材、特にポリオレフィン基材に対する塗膜の付着性が低下する。
【0028】
(B)成分は、上述した(b1)以外のアクリル−スチレン共重合体(b2)(以下、「(b2)」と略す。)を含んでいてもよい。
(b2)は、Tgが(b1)のTgの範囲外であるが、(b2)を併用する場合は、特に、Tgが70℃未満のアクリル−スチレン共重合体を用いるのが好ましい。このようなアクリル−スチレン共重合体は、Tgが70℃未満になるように、(メタ)アクリル酸エステルと、必要に応じて他の単量体とを選択し、これらとスチレンとを共重合することで得られる。(メタ)アクリル酸エステルおよび他の単量体としては、(b1)の説明において先に例示した(メタ)アクリル酸エステルおよび他の単量体が挙げられる。
また、Tgが70℃未満のアクリル−スチレン共重合体としては、市販品を用いることができ、例えば藤倉化成株式会社製の「PP−N−102」などが挙げられる。
【0029】
また、(b2)として70℃未満のアクリル−スチレン共重合体を用いる場合、その含有量は固形分換算で、樹脂組成物の固形分100質量%中、35質量%以下が好ましい。含有量が35質量%を超えると、ポリオレフィン基材、ABS基材、PC基材に対する塗膜の付着性が低下しやすくなると共に、塗膜の耐水性や耐油性も低下する。
【0030】
<(A)成分と(B)成分の比率>
(A)成分と(B)成分の質量比は、固形分換算で(A)成分/(B)成分=30/70〜50/50が好ましい。(A)成分と(B)成分の質量比が上記範囲内であれば、より優れた付着性、耐水性、および耐油性といった特性を塗膜に付与できる。一方、質量比が上記範囲から外れると、ポリオレフィン基材に対する塗膜の特性、もしくはABS基材およびPC基材に対する塗膜の特性が低下しやすくなる。
【0031】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物は、上述した(A)成分および(B)成分以外にも、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、例えばスチレン−ブタジエン系ラテックス、ウレタンディスパージョンなどが挙げられる。
【0032】
<樹脂組成物の製造>
本発明の樹脂組成物は、(A)成分と、(B)成分と、必要に応じてその他の成分を撹拌混合することで得られる。
なお、(A)成分や(B)成分としてエマルションの状態のものを使用する場合は、各成分の含有量が固形分換算で上記範囲内となるように、これらの使用量を決めればよい。また、樹脂組成物には、エマルションの分散媒が含まれていてもよい。分散媒としては、通常、水が用いられるが、(A)成分や(B)成分の製造段階で使用するアルコール(メタノールやエタノールなど)等の水溶性の有機溶剤が含まれていてもよい。
【0033】
このようにして得られる本発明の樹脂組成物は、特定量の(a1)と(a2)と(b1)とを必須成分として含有するので、ポリオレフィン基材、ABS基材、PC基材に対する付着性、耐水性、および耐油性を塗膜に付与できる。
また、本発明の樹脂組成物は、基材に対する付着性を塗膜に付与できるので塩素化ポリオレフィン系の樹脂を用いる必要がない。よって、本発明の樹脂組成物は非塩素系であり、かつ水への溶解性を示すので、水性塗料のバインダーとして好適であり、しかも環境にも配慮している。
【0034】
[水性塗料]
本発明の水性塗料は、上述した樹脂組成物をバインダーとして含む。
樹脂組成物の含有量は固形分換算で、水性塗料の固形分100質量%中、10〜25質量%が好ましく、14〜27質量%がより好ましい。樹脂組成物の含有量が10質量%未満であると、バインダー効果が低減し、塗膜の付着性、耐水性、耐油性が低下する。一方、樹脂組成物の含有量が25質量%を超えると、基材上への塗装作業に支障をきたす場合がある。
【0035】
本発明の水性塗料は、溶媒として水を含む。また、必要に応じて各種添加剤が含まれていてもよい。
添加剤としては、塗料用に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば着色剤、体質顔料、消泡剤、樹脂粒子、造膜剤、造膜助剤、分散剤、充填剤、可塑剤、表面調整剤、塗面調製剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などが挙げられる。
添加剤の含有量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0036】
本発明の水性塗料は、樹脂組成物を水に分散させ、これに必要に応じて添加剤を加え、攪拌混合することで得られる。
樹脂組成物を水に分散させる方法としては、溶液状態からの水置換法、分散剤と共に機械分散する方法などがあるが、均一に分散できれば分散方法は特に限定されない。
なお、上述したように、樹脂組成物がエマルションの分散媒を含有する場合は、樹脂組成物をそのまま水性塗料として用いてもよいし、所望の濃度になるように水で希釈し、これを水性塗料として用いてもよい。また、これらには、必要に応じて添加剤を加えてもよい。
【0037】
以上説明した本発明の水性塗料は、上述した本発明の樹脂組成物を含むので、ポリオレフィン基材、ABS基材、PC基材に対する付着性に優れ、かつ耐水性および耐油性を有する塗膜を形成できる。
また、本発明の水性塗料は、樹脂組成物が非塩素系であり、かつ水への溶解性を示すので、有機溶剤を用いる必要がなく、環境に配慮した塗料である。
加えて、本発明の水性塗料より形成される塗膜は、耐水性および耐油性を有するので、上塗り塗料などをさらに塗装する必要がない。従って、本発明の水性塗料を用いれば、基材への塗装時間を短縮できるので、コストおよび生産性を十分に満足する。
【0038】
本発明の水性塗料は、自動車や電化製品等の各種樹脂成形品の使用に適しているが、特に、ポリオレフィン基材、ABS基材、PC基材への塗装に好適である。
水系塗料の塗布方法については特に限定はなく、刷毛塗り、スプレー、浸漬等公知の方法が採用できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、例中「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を示す。
実施例および比較例で用いた使用原料を以下に示す。
【0040】
[使用原料]
(A)成分として、以下に示す化合物を用いた。
・a1−1:エチレン−プロピレン共重合体のエマルション(星光PMC株式会社製、「ZE−1224」)、固形分31%、融点69℃。
・a1−2:エチレン−プロピレン共重合体のエマルション(日本製紙ケミカル株式会社製、「アウローレンAE301」)、固形分30%、融点60℃。
・a2−1:エチレン−プロピレン共重合体のエマルション(UMG ABS株式会社製、「TP016M」)、固形分29%、融点128℃。
・a2−2:エチレン−プロピレン共重合体のエマルション(東洋化成工業株式会社製、「NA3002」)、固形分30%、融点100℃。
【0041】
(B)成分として、以下に示す化合物を用いた。
・b1−1:アクリル−スチレン共重合体エマルション(藤倉化成株式会社製、「PP−N−24」)、固形分45%、Tg74.6℃。
・b1−2:アクリル−スチレン共重合体エマルション(藤倉化成株式会社製、「PP−N−89」)、固形分45%、Tg88.2℃。
・b2−1:アクリル−スチレン共重合体エマルション(藤倉化成株式会社製、「PP−N−102」)、固形分45%、Tg31.4℃。
【0042】
[実施例1]
<樹脂組成物の調製>
攪拌機を備えた容器に、(A)成分としてa1−1を71部(固形分換算で22部)、a2−1を63部(固形分換算で18部)、(B)成分としてb1−1を133部(固形分換算で60部)仕込み、均一に攪拌して樹脂組成物を得た。
表1に、各成分の配合組成を示す。なお、表1に示す値は、各成分を固形分換算した値である。
【0043】
<水性塗料の調製>
バインダー樹脂として先に得られた樹脂組成物106.8部(樹脂固形分で40部)に、着色剤(レッドスポット社製、「T019」)5部、消泡剤(サンノプコ株式会社製、「SNデフォーマー1070」)0.05部、アクリルビーズ(根上工業株式会社製、「Art Pearl GR−400T」)4部、体質顔料分散体(タルク59%、水40%、分散剤1%)10部を添加し、均一に攪拌して水性塗料を調製した。
【0044】
<評価>
(試験片の作製)
ポリプロピレン(PP)製の板、ABS製の板、PC製の板に、それぞれに、乾燥膜厚が25μmになるように水性塗料をスプレー塗装し、75℃で15分乾燥させて塗膜を形成し、これを試験片とした。
各試験片について以下に示す評価を行い、塗膜のPP、ABS、PCに対する特性を評価した。結果を表1に示す。
【0045】
(初期付着性の評価)
各試験片に1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分に粘着テープを貼着し剥がす操作を実施し、塗膜の剥離具合について以下の評価基準にて評価した。
○:剥離が見られない。
△:剥離したマスの数が1〜19マス。
×:剥離したマスの数が20マス以上。
【0046】
(耐水性の評価)
各試験片の塗膜面にガラスリングを接着し、蒸留水を20mL入れ、時計皿で蓋をして40℃×24時間放置し、耐水性試験を行った。その後、目視にて塗膜の水接触部分の色の変化を非接触部分と比べ、以下の評価基準にて評価した。
○:変化が見られない。
×:明らかに変化が見られた。
【0047】
(耐油性の評価)
各試験片の塗膜面に、ラードを0.1g/cmの割合で塗り、ガーゼ5枚をかぶせて80℃×7日間加熱し、耐油性試験を行った。ついで、石鹸水で水洗した後、初期付着性の評価と同様にして塗膜の付着性について評価した。
【0048】
[実施例2〜11、比較例1〜9]
各成分の種類および配合量を表1、2に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物および水性塗料を調製し、各評価を行った。結果を表1、2に示す。
なお、表1、2に示す値は、各成分を固形分換算した値である。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表1から明らかなように、各実施例で得られた樹脂組成物およびこれを含む水性塗料は、PP基材、ABS基材、PC基材に対する付着性に優れ、かつ耐水性および耐油性を有する塗膜を形成できた。
【0052】
一方、表2から明らかなように、a1の含有量が多く、かつa2を含まない比較例1の樹脂組成物、およびこれを含む水性塗料は、PP基材に対する塗膜の耐油性が悪かった。
a2を含まず、かつb1の含有量が多い比較例2の樹脂組成物、およびこれを含む水性塗料は、ABS基材およびPC基材に対する特性は有していたものの、PP基材に対する特性に劣り、塗膜の付着性、耐水性、耐油性が悪かった。
a1の含有量が多く、かつa2およびb1を含まない比較例3の樹脂組成物、およびこれを含む水性塗料は、PP基材、ABS基材およびPC基材に対する特性を満足する塗膜を形成できなかった。
a1、a2の含有量が多く、かつb1を含まない比較例4の樹脂組成物、およびこれを含む水性塗料は、PP基材に対する特性は有していたものの、ABS基材およびPC基材に対する特性に劣り、塗膜の付着性、耐水性、耐油性が悪かった。
a2の含有量が多く、かつb1を含まない比較例5の樹脂組成物、およびこれを含む水性塗料は、PP基材に対する塗膜の耐水性、およびABS基材、PC基材に対する塗膜の付着性と耐油性が悪かった。
b1の含有量が少ない比較例6の樹脂組成物、およびこれを含む水性塗料は、塗膜の耐油性が悪かった。
a1の含有量が少ない比較例7の樹脂組成物、およびこれを含む水性塗料は、PP基材に対する特性に劣り、塗膜の付着性、耐水性、耐油性が悪かった。
a1の含有量が多い比較例8の樹脂組成物、およびこれを含む水性塗料は、PP基材に対する特性に劣り、塗膜の耐油性が悪かった。
a2の含有量が多い比較例9の樹脂組成物、およびこれを含む水性塗料は、各基材に対する塗膜の耐水性が悪かった。また、ABS基材およびPC基材に対する塗膜の耐油性も悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非塩素化ポリオレフィン(A)と、アクリル−スチレン共重合体(B)とを含有する、非塩素系の水性塗料用樹脂組成物であって、
前記非塩素化ポリオレフィン(A)は、融点が60〜70℃である非塩素化ポリオレフィン(a1)と、融点が90〜130℃である非塩素化ポリオレフィン(a2)を含み、
前記アクリル−スチレン共重合体(B)は、ガラス転移温度が70〜90℃であるアクリル−スチレン共重合体(b1)を含み、
かつ、当該水性塗料用樹脂組成物の固形分100質量%中における、前記非塩素化ポリオレフィン(a1)の含有量が15〜30質量%、前記非塩素化ポリオレフィン(a2)の含有量が10〜30質量%、前記アクリル−スチレン共重合体(b1)の含有量が20〜70質量%であることを特徴とする水性塗料用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の水性塗料用樹脂組成物を含むことを特徴とする水性塗料。

【公開番号】特開2011−195718(P2011−195718A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64469(P2010−64469)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】