説明

水性塗料用樹脂組成物

【課題】乳化重合時に凝集物が発生せず、貯蔵安定性が良好で塗料化が極めて容易である水性塗料用樹脂組成物であって、塗料とした場合に、水性汚染物質で汚染されている室内面の塗り替えに使用しても水性汚染物質が塗膜表面へ移行するのを防止することができる水性塗料となる、水性塗料用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】多段乳化重合法によって得られる異相構造粒子含有エマルションからなる水性塗料用樹脂組成物であって、該異相構造粒子の少なくとも1相が、アニオン界面活性剤の存在下でカチオン性官能基を持つモノマーとカルボキシル基を持たないその他のモノマーとを乳化重合させて得られる共重合体で形成されており、少なくとも1相が、アニオン界面活性剤の存在下でカルボキシル基を持つモノマーとカチオン性官能基を持たないその他のモノマーとを乳化重合させて得られる共重合体で形成されている、水性塗料用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性塗料用樹脂組成物に関し、特に、煙草の煙によるヤニ、油煙、手垢、煤、シミ等で汚染された壁面、天井を塗装するのに適した水性エマルション塗料用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物や一般家屋の内壁や天井の塗り替えには、環境衛生、消防法等の観点から水性エマルション塗料が使用されることが多い。しかしながら、それらの室内面は煙草の煙によるヤニ、手垢等の水性汚染物質で汚染されている場合が多く、それでそれらの汚染面の塗り替えに水性エマルション塗料を使用すると、塗布後の塗膜乾燥までにそれら汚染物質が塗膜表面に染み出してくることがある。それで、塗り替えが白または淡彩色の塗装仕上げの場合には、汚染物質の染み出しにより美観が損なわれることから水系塗料による改装は至難とされてきた。
【0003】
上記の問題点を解決するための手段、方法として、水性塗料のバインダーとしてアニオン性の常温架橋型エマルションを用いることで、緻密かつ剛直な塗膜を形成し汚染物質のブリードを防ぐ方法(特許文献1参照)が知られている。しかし、この方法では、塗料に無機質充填剤を添加した場合や、塗装する下地の状態等により十分に緻密な塗膜が得られない場合が多く、汚染物質のブリード止め効果は不十分であった。また、不定形珪素含有粒子表面に水不溶性アルミニウム化合物を吸着させた複合粒子を塗料中に含有させて、ヤニの吸着と塗膜の艶消し効果とを実現する方法(特許文献2参照)や、中空型樹脂粒子等の軽量化剤及び硬化性の官能基を有する樹脂成分を用いることにより汚染物質のブリードを防止する方法(特許文献3参照)が知られているが、何れも艶消し用の塗料にのみ有効な処方であるといえる。
【0004】
更に、汚染物質の大半がアニオン性に帯電していることから、カチオン性エマルションをバインダーとすることで、汚染物質をイオン吸着により捕捉し、塗膜表面への移行を妨げる方法(特許文献4参照)が知られているが、カチオン性であるため、通常用いられるアニオン性のカラーペーストやアニオン性塗料との混和が困難となり、使用上の制限が多くなる。これを改良した手法として、アニオン性とカチオン性の乳化剤・モノマーを用いて得られる両イオン性の水性エマルションを用いて、アニオンに帯電する汚染物質の捕捉とアニオン性のカラーペースト及びアニオン性水性塗料との相溶性を両立する方法(特許文献5参照)も知られているが、乳化重合時にカチオン性原料とアニオン性原料とを同時に用いるので重合時に凝集物が多量に発生し、実用性に欠ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−249587号公報
【特許文献2】特開平8−217997号公報
【特許文献3】特開2005−193147号公報
【特許文献4】特公昭63−35184号公報
【特許文献5】特開平8−27401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を背景になされたものであり、乳化重合時に凝集物が発生せず、貯蔵安定性が良好で塗料化が極めて容易である水性塗料用樹脂組成物であって、塗料とした場合に、煙草の煙によるヤニ、手垢等の水性汚染物質で汚染されている室内面の塗り替えに使用しても水性汚染物質が塗膜表面へ移行するのを防止することができ、通常用いられているアニオン性又はカチオン性のカラーペーストやアニオン性又はカチオン性の塗料と混合して使用しても問題はなく、煙草の煙によるヤニ、油煙、手垢、煤、シミ等で汚染された壁面、天井を塗装するのに適した水性塗料となる、水性塗料用樹脂組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の目的を達成するために鋭意検討を行った結果、アニオン性の界面活性剤を用いた乳化重合でカチオン性官能基を持つモノマー及びカルボキシル基を持つモノマーをそれぞれ乳化重合させるが、それらのモノマーを混合状態では乳化重合させず、それらのモノマーをそれぞれ他のモノマーと併用して多段階に重合する多段乳化重合法によって得られる特定の異相構造粒子含有エマルションを用いることにより、上記の目的が確実に達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明の水性塗料用樹脂組成物は、多段乳化重合法によって得られる異相構造粒子含有エマルションからなる水性塗料用樹脂組成物であって、
該異相構造粒子の少なくとも1相が、アニオン界面活性剤の存在下でカチオン性官能基を持つモノマーとカルボキシル基を持たないその他のモノマーとを乳化重合させて得られる共重合体で形成されており、
該異相構造粒子の少なくとも1相が、アニオン界面活性剤の存在下でカルボキシル基を持つモノマーとカチオン性官能基を持たないその他のモノマーとを乳化重合させて得られる共重合体で形成されている
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性塗料用樹脂組成物は、その乳化重合時に凝集物が発生せず、貯蔵安定性が良好で塗料化が極めて容易であり、塗料とした場合に、煙草の煙によるヤニ、手垢等の水性汚染物質で汚染されている室内面の塗り替えに使用しても水性汚染物質が塗膜表面へ移行するのを防止することができ、通常用いられているアニオン性又はカチオン性のカラーペーストやアニオン性又はカチオン性の塗料と混合して使用しても問題はなく、煙草の煙によるヤニ、油煙、手垢、煤、シミ等で汚染された壁面、天井を塗装するのに適した水性塗料となる、水性塗料用樹脂組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の水性塗料用樹脂組成物は、多段乳化重合法によって得られる異相構造粒子含有エマルションからなるものであり、該異相構造粒子の少なくとも1相が、アニオン界面活性剤の存在下でカチオン性官能基を持つモノマーとカルボキシル基を持たないその他のモノマーとを乳化重合させて得られる共重合体で形成されており、該異相構造粒子の少なくとも1相が、アニオン界面活性剤の存在下でカルボキシル基を持つモノマーとカチオン性官能基を持たないその他のモノマーとを乳化重合させて得られる共重合体で形成されている。
【0011】
本発明に係る異相構造粒子含有エマルションの製造に採用される多段乳化重合法は、水中に上記の何れか一方のモノマーの組合せ(例えば、カチオン性官能基を持つモノマーとカルボキシル基を持たないその他のモノマーとの組合せ)、アニオン界面活性剤及び重合開始剤、更に必要に応じて連鎖移動剤や、乳化安定剤等を含有する水性乳濁液を形成し、従来から公知の乳化重合法で、通常60〜90℃の加温下で乳化重合させ、次いで他方のモノマーの組合せ(例えば、カルボキシル基を持つモノマーとカチオン性官能基を持たないその他のモノマーとの組合せ)を添加し、従来から公知の乳化重合法で、通常60〜90℃の加温下で乳化重合させ、このような乳化重合を2段階以上、通常は2〜5段階繰り返し実施して、乳化共重合体が異相構造、即ち、特性の異なる最外相と一相以上の内部相からなる粒子を形成させる多段乳化重合法である。
【0012】
上記のカチオン性官能基を持つモノマーの代表例として、ジメチルジアリルアンモニウム塩、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩メタクリレート等を挙げることができる。
上記のカルボキシル基を持つモノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β-カルボキシエチルアクリレート等を挙げることができる。
【0013】
上記のその他のモノマーとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、i−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、トリデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−ブトキシエチルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、アリルアクリレート、グリシジルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリル酸ソーダ、トリメチロールプロパンアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等のアクリル酸エステルモノマー、並びにメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、アリルメタクリレート、エチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、テトラエチレングリコールメタクリレート、1,3−ブチレングリコールメタクリレート、トリメチロールプロパンメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステルモノマーを挙げることができる。
【0014】
更に、上記のアクリル系モノマー類に加えて、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン等のカルボニル基を持つα,β−エチレン性不飽和モノマーやアクリルアミド、アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のビニルモノマーを共重合成分として用いることができる。
【0015】
本発明においては、乳化剤として塗料原料との混和性を得るためアニオン界面活性剤を使用する。アニオン界面活性剤として、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪酸塩や、高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩、更には、スルホン酸基又は硫酸エステル基と重合性不飽和基を分子中に有する、いわゆる反応界面活性剤等を挙げることができる。また、アニオン界面活性剤と共にノニオン界面活性剤を併用することもできる。ノニオン界面活性剤を用いると塗料の機械的安定性、凍結−融解安定性が向上する。
【0016】
上記の重合開始剤として、従来から一般的にラジカル重合に使用されているものが使用可能であるが、中でも水溶性のものが好適であり、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;2,2'−アゾビス(2−アミノジプロパン)ハイドロクロライドや、4,4'−アゾビス−シアノバレリックアシッド、2,2'−アゾビス(2−メチルブタンアミドオキシム)ジハイドロクロライドテトラハイドレート等のアゾ系化合物;過酸化水素水、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物等を挙げることができる。更に、L−アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤と、硫酸第一鉄等とを組み合わせたレドックス系も使用できる。
【0017】
上記の連鎖移動剤として、例えば、n−ドデシルメルカプタン等の長鎖のアルキルメルカプタン類や、芳香族メルカプタン類、ハロゲン化炭化水素類等を挙げることができる。また、上記の乳化安定剤として、ポリビニルアルコールや、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。
【0018】
本発明に係る異相構造粒子含有エマルションの製造に採用される多段乳化重合の各段において、モノマー混合物を一括して仕込むモノマー一括仕込み法や、モノマー混合物を連続的に滴下するモノマー滴下法、モノマー混合物と水とアニオン界面活性剤とを予め混合乳化しておき、これを滴下するプレエマルション法、あるいは、これらを組み合わせる方法等を採用することができる。
【0019】
本発明の水性塗料用樹脂組成物に含まれる異相構造粒子において、その最外相がアニオン界面活性剤の存在下でカチオン性官能基を持つモノマーとカルボキシル基を持たないその他のモノマーとを乳化重合させて得られる共重合体で形成されている場合には、そのような水性塗料用樹脂組成物を用いた塗料を塗装することにより、塗膜表面への水性汚染物質の移行をより良く防止し得るので、そのような最外相とすることが好ましい。
【0020】
本発明の水性塗料用樹脂組成物に含まれる異相構造粒子においては、異相構造粒子を構成する各相の少なくとも一相が内部架橋構造を有する乳化共重合体で形成されていてもよい。このような粒子内部架橋構造を有する乳化共重合体は、内部架橋構造を有する相を形成させるための多段乳化重合の所定の段階で加えるモノマー混合物の一部としてジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有するモノマーを使用して乳化重合させる方法;乳化重合反応時の温度で相互に反応する官能基を持つモノマーの組合せ、例えば、カルボキシル基とグリシジル基や、水酸基とイソシアネート基等の組合せの官能基を持つエチレン性不飽和モノマーを選択含有させたモノマー混合物を使用して乳化重合させる方法;加水分解縮合反応の生じる(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシリル基を持つエチレン性不飽和モノマーを含有させたモノマー混合物を使用して乳化重合させる方法;等の方法により製造することができる。
【0021】
本発明の水性塗料用樹脂組成物にアンモニアやトリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン類を添加してpH6〜10に調整しておくと、凍結―融解安定性や貯蔵安定性が更に良くなる。
【0022】
なお、カチオン性官能基を持たないモノマーから得られる通常のアクリルエマルションを用いた塗料では十分なヤニ止め効果が得られない。また、カルボキシル基を持たないモノマーから得られるエマルションの場合には、重合安定性、物理的安定性、化学的安定性等各種安定性が悪くなり、また、カルボキシル基を持つモノマーとカチオン性官能基を持つモノマーとを同時に共重合した場合には、重合安定性が著しく悪化する。
【0023】
本発明の水性塗料用樹脂組成物は、以上説明した多段乳化重合法によって得られる異相構造粒子含有エマルションからなるものであるが、塗料としての各種機能を付与するために、必要に応じて、消泡剤や防腐剤、防カビ剤、増粘剤、凍結安定剤、湿潤剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色顔料、体質顔料、分散剤、沈降防止剤等の公知の添加剤等を配合しても良い。
【0024】
本発明の水性塗料用樹脂組成物をバインダーとして用いた塗料は、無機系、金属系、木材系、プラスチック系等の各種基材に適用できる。特に、シミ・ヤニ止め性に優れることから、汚染された旧塗膜の塗り替え用として好適である。
【0025】
以下に、本発明を実施例及び比較例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中、「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準で示す。
【0026】
実施例1及び2
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イオン交換水260部、非反応性アニオン界面活性剤「ハイテノールNF−13」(第一工業製薬株式会社製)(ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム塩、エチレンオキシド平均付加モル数13モル)2部をそれぞれ仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温した。
【0027】
次いで、過硫酸カリウム(重合開始剤)1部を加え、予め別容器で撹拌混合しておいた第1表に示す乳化物(A)(数値は部を示す、以下同じ)を2時間かけて連続滴下し、続いて1段目と同様に予め撹拌混合しておいた第1表に示す乳化物(B)を2時間かけて連続滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌を続けながら熟成し、40℃まで冷却した後、50%ジメチルエタノールアミンにてpH9.0に調整し、2相からなる異相構造粒子含有エマルションからなる水性塗料用樹脂組成物を得た。
【0028】
実施例3
イオン交換水260部に実施例1及び2で配合した非反応性アニオン界面活性剤2部の代わりに反応性アニオン界面活性剤「アクアロンKH−10」(第一工業製薬株式会社製)〔α−スルホナト−ω−(1−(アリルオキシメチル)アルキルオキシ)ポリオキシエチレンのアンモニウム塩、エチレンオキシド平均付加モル数10モル〕2部を使用し、第1表に示す乳化物(A)及び乳化物(B)を使用して、実施例1と同様の操作で水性塗料用樹脂組成物を得た。
【0029】
実施例4
イオン交換水260部に配合した非反応性アニオン界面活性剤「ハイテノールNF−13」2部の他に更にノニオン界面活性剤「ノイゲンEA−187」(第一工業製薬株式会社製)(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、HLB17)2部を使用し、第1表に示す乳化物(A)及び乳化物(B)を使用して、実施例1と同様の操作で水性塗料用樹脂組成物を得た。
【0030】
比較例1
特開平8−027401号公報の実施例2で示されている方法を基にして水性塗料用樹脂組成物を得た。撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、第2表に示す乳化物(C)を加え、加熱してこの反応液の温度が70℃に達した時に過硫酸カリウム1.2部を加え、さらに80℃まで加熱した。反応液の温度を約5時間80℃に保った後、冷却した。その後、アンモニアを用いてpH9.0に調整し、水性エマルションを得た。
【0031】
比較例2
特開平4−249587号公報の製造例1で示されている方法を基にして水性塗料用樹脂組成物を得た。撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イオン交換水185.6部、アニオン界面活性剤「ニューコール707―SF」(日本乳化剤株式会社製)(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステルのアンモニウム塩、エチレンオキシド平均付加モル数7モル)1.8部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら80℃まで昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム(重合開始剤)0.6部を加え、予め別容器で撹拌混合しておいた第2表に示す乳化物(C)を、3時間かけて連続滴下した。滴下終了の30分後より、0.6部の過硫酸アンモニウムを6部の脱イオン水に溶かした溶液を30分かけて滴下し、さらに2時間80℃に保持し、その後約40〜60℃に降温した後、25部の脱イオン水に3.9部のアジピン酸ジヒドラジドを溶かした溶液を加え、アンモニア水でpHを9.0に調整して水性エマルションを得た。
【0032】
比較例3
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イオン交換水260部、上記の非反応性アニオン界面活性剤「ハイテノールNF−13」2部をそれぞれ仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら80℃まで昇温した後、過硫酸カリウム(重合開始剤)1部を加え、続いて、予め別容器で撹拌混合しておいた第2表に示す乳化物(C)を4時間かけて連続滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌を続けながら熟成し、40℃まで冷却した後、50%ジメチルエタノールアミンにてpH9.0に調整して水性エマルションを得た。この場合、カチオン性モノマーとカルボキシル基を持つモノマーとを同時に乳化共重合しているため、得られるエマルションは、異相構造粒子を含有するものではない。
【0033】
比較例4
第2表に示す乳化物(C)を用いる以外は比較例3と同様の操作で水性エマルションを得た。乳化物(C)にはカチオン性官能基を持つモノマーは含まれていない。
【0034】
比較例5
第2表に示す乳化物(C)を用いる以外は比較例3と同様の操作で水性エマルションを得た。乳化物(C)にはカルボキシル基を持つモノマーは含まれていない。
【0035】
実施例1〜4及び比較例1〜5の各々のエマルションの乳化重合時の重合安定性を下記の基準で目視で評価した。それらの結果は第1表及び第2表に示す通りであった。
<重合安定性>
◎ 重合時ほとんど凝集物が発生せず、安定なエマルションが得られる
○ 若干の凝集物を生じたが、安定なエマルションが得られる
△ 重合安定性が悪く、多量の凝集物が生じる
× 重合安定性が極めて悪く、反応の遂行が困難である。
【0036】
<塗料製造例>
実施例1〜4及び比較例1〜5の各々のエマルション65部をそれぞれ、下記の配合のチタン白分散ペーストに添加し、さらにMFTが0℃以下になるように必要に応じてテキサノールを添加してPWC38%、PVC18%のエマルション塗料を製造した。
脱イオン水 12部
酸化チタン(石原産業株式会社製タイペークCR-90) 20部
ノニオン界面活性剤(ビックケミージャパン株式会社製 Disperbyk-190) 0.2部
ウレタン系増粘剤(ローム・アンド・ハース株式会社製 プライマルRM-8W) 2部
シリコン系消泡剤(サンノプコ株式会社製 SNデフォーマー1312) 0.4部
エチレングリコール 2部
【0037】
実施例1〜4及び比較例1〜5の各々のエマルションを用いた塗料製造時の塗料化の容易性、塗料の貯蔵安定性を下記の基準で目視で評価した。それらの結果は第1表及び第2表に示す通りであった。
<塗料安定性>
◎ 塗料化でき、貯蔵安定性も良好である
○ 問題なく塗料化できる
△ 塗料化できるが貯蔵安定性に問題がある
× 塗料化が困難である。
【0038】
<ヤニ止め性>
乾燥したたばこの葉50gに水500gを加え、4時間80℃で維持し、200gに煮詰めてヤニ抽出液を得た。このヤニ抽出液10部を白色塗料90部に加えて作成したヤニ塗料を、白色塗料を塗装したスレート板に半面塗装し、室温で乾燥させて試験板とした。この試験板に実施例1〜4及び比較例1〜5の各々のエマルションを塗料化して得られた塗料を塗装し、室温で2時間乾燥した後、同塗料を再塗装して室温で48時間乾燥した。その後、汚染物質(ヤニ)の染み出し性を下記の基準で目視及び色差計で評価した。それらの結果は第1表及び第2表に示す通りであった。
【0039】
<ヤニ止め性試験結果>
◎ ヤニの染み出しを完全に防止できる
○ ヤニ止め性を有する
△ 若干のヤニ止め性を有する
× 全くヤニ止め性を示さない。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
なお、第1表及び第2表中の略号の化合物は次の通りである。
ST スチレン
MMA メチルメタクリレート
BA ブチルアクリレート
EA エチルアクリレート
2EHA 2−エチルヘキシルアクリレート
BMA ブチルメタクリレート
HEA ヒドロキシエチルアクリレート
AA アクリル酸
MAA メタクリル酸
GMA グリシジルメタクリレート
DVB ジビニルベンゼン
DM ジメチルアミノエチルメタクリレート
DAAM ジアセトンアクリルアマイド
【0043】
第1表及び第2表から明らかなように、本発明の水性塗料用樹脂組成物は重合安定性、塗料安定性、ヤニ止め性ともに優れている。一方、カチオン界面活性剤とアニオン界面活性剤とを同時に用いて重合した比較例1及びカチオン性官能基を持つモノマーとカルボキシル基を持つモノマーとを同時に混合滴下した比較例3の場合には重合安定性が極めて悪く、安定なエマルションが得られなかった。また、比較例5の場合にはカルボキシル基を持つモノマーを配合していないことから塗料化時の機械的安定性、化学的安定性に欠け、安定な塗料が得られなかった。比較例2、4の場合には重合安定性、塗料安定性に優れた水性塗料用樹脂組成物が得られたものの、ヤニ止め性能が好ましくなかった。
【0044】
これらの結果から、本発明の水性塗料用樹脂組成物はカチオン性官能基がアニオン性に帯電した水性汚染物質を膜中で捕捉することからブリード止め効果が良好となり、且つアニオン性の界面活性剤を用いた乳化重合でカチオン性官能基を持つモノマー及びカルボキシル基を持つモノマーをそれぞれ乳化重合させるが、それらのモノマーを混合状態では乳化重合させず、それらのモノマーをそれぞれ他のモノマーと併用して多段階に重合することから良好な重合安定性が得られ、また、異相構造粒子表面がアニオン性の界面活性剤で覆われていることから良好な塗料安定性が得られる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
多段乳化重合法によって得られる異相構造粒子含有エマルションからなる水性塗料用樹脂組成物であって、
該異相構造粒子の少なくとも1相が、アニオン界面活性剤の存在下でカチオン性官能基を持つモノマーとカルボキシル基を持たないその他のモノマーとを乳化重合させて得られる共重合体で形成されており、
該異相構造粒子の少なくとも1相が、アニオン界面活性剤の存在下でカルボキシル基を持つモノマーとカチオン性官能基を持たないその他のモノマーとを乳化重合させて得られる共重合体で形成されている
ことを特徴とする水性塗料用樹脂組成物。
【請求項2】
異相構造粒子の最外相が、アニオン界面活性剤の存在下でカチオン性官能基を持つモノマーとカルボキシル基を持たないその他のモノマーとを乳化重合させて得られる共重合体で形成されている請求項1記載の水性塗料用樹脂組成物。
【請求項3】
異相構造粒子を構成する各相の少なくとも1相の共重合体が内部架橋構造を有している請求項1又は2記載の水性塗料用樹脂組成物。


【公開番号】特開2012−132019(P2012−132019A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−51044(P2012−51044)
【出願日】平成24年3月7日(2012.3.7)
【分割の表示】特願2006−71742(P2006−71742)の分割
【原出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】