説明

水性塗料用組成物及びトップコート用塗料

【課題】塗料用組成物に通常含まれている揮発性有機化合物を大幅に低減又は実質的に不含有としても、極めて良好な低温造膜性を発揮して、耐汚染性や耐候性、耐温水白化性等の各種物性に優れる塗膜を与えることができ、健康や環境への負荷を大幅に軽減できる水性塗料用組成物、及び、それを用いたトップコート用塗料を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリルエマルションを含む水性塗料用組成物であって、上記組成物は、オキサゾリン基含有重合体及び/又はオキサゾリン化合物を含有するものであり、かつ上記組成物100質量%に対し、揮発性有機化合物の総含有量が3質量%未満である水性塗料用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料用組成物及びトップコート用塗料に関する。より詳しくは、建築・土木構造物等を扱う塗料分野において有用な水性塗料用の組成物、及び、それを含むトップコート用塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
建築・土木構造物等を扱う塗料分野では、近年、塗装作業者や居住者の健康被害、水質汚濁や大気環境汚染等の環境汚染等を懸念して、有機溶剤を溶媒とする溶剤型塗料から、有機溶剤を必須としない水性組成物を用いた水性塗料への転換が進んでいる。
しかしながら、水性塗料による塗膜は、一般に溶剤型の塗料による塗膜に比べ、塗膜硬度が低く、汚染物質が付着した際の染み込み性が高い傾向にある。そこで、このような水性塗料の課題を解決するために、例えば、オキサゾリン基含有単量体、反応性基含有単量体及び反応性乳化剤を必須とする単量体成分を重合して得られる重合体を含む水性樹脂組成物(特許文献1参照。)や、(メタ)アクリルエマルションと水溶性樹脂とを必須として構成され、かつ、(メタ)アクリルエマルションと水溶性樹脂とが架橋構造を形成し得るものである塗料用水性樹脂組成物(特許文献2参照。)等の技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−069249号公報
【特許文献2】国際公開第2008/102816号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、水性塗料用の組成物が種々開発されており、特に、特許文献1及び2に記載の組成物は、硬化後の塗膜が耐汚染性や耐候性、耐温水白化性等の各種物性を発揮できるため、塗料分野において極めて有用な材料となっている。
【0005】
このような特許文献1及び2に記載の組成物のように、近年、塗料分野ではエマルション型組成物が多様されつつある。エマルション型組成物は、水が揮散してエマルション粒子(樹脂粒子)同士が融着することで塗膜を形成するため、乾燥温度により組成物に低温造膜性が求められることが多々ある。そこで、従来の組成物には、通常、成膜助剤(造膜助剤ともいう。)として、揮発性有機化合物等の有機溶剤を含有させる手段が採用されている。例えば、特許文献1及び2では、具体的な実施例において、成膜助剤として、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート及びブチルセロソルブの混合溶液が使用されている。
なお、このような成膜助剤は、組成物の全量100質量%中に少なくとも約5〜6質量%以上は含有されるのが通常であり、特許文献1、2実施例においても、この程度の量が使用されている。
【0006】
ところで、健康被害及び環境問題への意識の高まりから、シックハウス症候群対策としての建築物内装用塗料はもとより、外装用塗料においても揮発性有機化合物(VOC:volatile organic compounds)が大幅に低減された又は含まない(VOCフリー)塗料が望まれている。しかし、塗料用のエマルション型組成物から成膜助剤を除去又は大幅に低減すると、塗料用組成物として大前提となる塗膜の形成自体が容易ではなくなるというのが当業界の共通の認識であり、そのため、このような組成物から成膜助剤として使用される揮発性有機化合物までも削減する技術自体が未だ検討されていない。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、塗料用組成物には通常含まれている揮発性有機化合物を大幅に低減又は実質的に不含有としても、極めて良好な低温造膜性を発揮して、耐汚染性や耐候性、耐温水白化性等の各種物性に優れる塗膜を与えることができ、健康や環境への負荷を大幅に軽減できる水性塗料用組成物、及び、それを用いたトップコート用塗料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、水性塗料用組成物について種々検討したところ、(メタ)アクリルエマルションを含むことで耐水性等の有利な性能を発揮できることに着目し、オキサゾリン基含有重合体及び/又はオキサゾリン化合物を含有する水性塗料用組成物とすると、耐汚染性や耐候性、耐温水白化性等の特性に優れた塗膜を与えるのみならず、極めて良好な低温造膜性を発揮することができることを見いだした。すなわち、水性塗料用組成物中に、オキサゾリン基を有する化合物や重合体を含有させることで、組成物に低温造膜性が付与され、それが著しく顕著な効果であることを見いだした。そして、このような水性塗料用組成物において、通常必要な成膜助剤等として用いられる揮発性有機化合物を大幅に低減又は実質的に含まないこととしても、従来の組成物と同等又はそれ以上の塗膜形成能を発揮できるという、従来の技術常識を覆すほどの極めて異質な作用効果が発揮されることを新たに見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。つまり、従来の水性塗料用組成物には当然に含有されてきた揮発性有機化合物を大幅に低減するか又は実質的に含まないものとしても、塗料として充分に機能できることを見いだした点に、本発明の重要な技術的意義がある。したがって、このような組成物を用いれば、高性能でかつ揮発性有機化合物を実質的に含まないVOCフリー塗料を実現することも可能になる。また、このような水性塗料用組成物は、低温造膜性においても優れるため、各種のトップコート用塗料に有用なものとなることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、(メタ)アクリルエマルションを含む水性塗料用組成物であって、上記組成物は、オキサゾリン基含有重合体及び/又はオキサゾリン化合物を含有するものであり、かつ上記組成物100質量%に対し、揮発性有機化合物の総含有量が3質量%未満である水性塗料用組成物である。
本発明はまた、上記水性塗料用組成物を含むトップコート用塗料でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明の水性塗料用組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)は、(メタ)アクリルエマルションと、オキサゾリン基含有重合体及び/又はオキサゾリン化合物とを必須成分として含むものであるが、(メタ)アクリルエマルションを構成する重合体としてオキサゾリン基含有重合体を含む形態もまた、本発明に含まれる。なお、これら必須成分は、それぞれ1種又は2種以上を使用することができる。
このような組成物においては、本発明の効果を妨げない限り、他の成分を含んでもよいが、(メタ)アクリルエマルションと、オキサゾリン基含有重合体及び/又はオキサゾリン化合物とが、上記組成物の主成分であることが好適である。主成分であるとは、上記組成物100質量%中、(メタ)アクリルエマルションと、オキサゾリン基含有重合体及びオキサゾリン化合物との合計量が50質量%以上であることを意味する。この含有割合は、要求される物性によって異なるが、70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
【0011】
上記水性塗料用組成物において、オキサゾリン基含有重合体とは、オキサゾリン基を有する重合体を意味し、オキサゾリン基含有単量体を含む単量体成分を重合させて得られたものであればよい。本発明においては、水性塗料用組成物中に、少なくともオキサゾリン基含有重合体を含むものが特に好適である。
上記オキサゾリン基含有単量体としては、下記一般式(1);
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素、ハロゲン、アルキル、フェニル又は置換フェニル基を表す。Rは、付加重合性不飽和結合をもつ非環状有機基を表す。)で表される化合物であることが好適である。
上記一般式(1)で表されるオキサゾリン基含有単量体としては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロぺニル−5−エチル−2−オキサゾリン等が挙げられ、1種又は2種以上を使用することができる。中でも、工業的に入手容易性の観点から、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが好ましい。
【0014】
上記水性塗料用組成物において、オキサゾリン化合物とは、上記オキサゾリン基含有重合体以外のオキサゾリン基を有する化合物を意味し、上述したオキサゾリン基含有単量体等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0015】
上記水性塗料用組成物中、オキサゾリン基含有重合体及び/又はオキサゾリン化合物の配合割合は、水性塗料用組成物100質量%に対し、オキサゾリン化合物の総含有量として0.1〜10質量%であることが好適である。0.1質量%未満であると、低温造膜性や低汚染性が充分ではなく、例えばトップコート用塗料により好適に用いることができないおそれがあり、10質量%より多いと、耐水性が充分とはならないおそれがある。より好ましくは0.2〜5質量%である。
なお、ここでいう「水性塗料用組成物100質量%に対するオキサゾリン化合物の総含有量」とは、オキサゾリン基含有重合体を用いる場合は、水性塗料用組成物を構成する全成分に対する、重合成分としてのオキサゾリン基含有単量体の使用割合を意味する。
【0016】
上記水性塗料用組成物において、(メタ)アクリルエマルションとは、(メタ)アクリル系単量体を必須に含む単量体成分を乳化重合して得られるエマルションを意味する。
このような(メタ)アクリルエマルションの分子量は、1万〜300万であることが好適である。分子量が1万未満であると、耐水性をより充分なものとすることができないおそれがあり、300万を超えると造膜性を更に向上することができないおそれがある。より好ましくは5万〜150万である。
なお、ここでの分子量は、重量平均分子量(Mw)であり、例えば、(メタ)アクリルエマルションを0.2質量%溶液になるようにTHF(テトラヒドロフラン)に溶解した溶液を試料とし、下記条件下、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という)により、測定することができる。
<GPC測定条件>
GPC本体:東ソー社製「HLL−8120GPC」
GPCカラム:東ソー社製「TSK−GEL G5000HXL」と「GMHXL−L」との連結カラム
移動相:テトラヒドロフラン
検量線:ポリスチレン標準サンプルを用いて作成する。
【0017】
上記(メタ)アクリルエマルションはまた、平均粒子径が30〜300nmであることが好適である。平均粒子径が30nm未満であると、粒子安定性がより充分とはならないおそれがあり、300nmより大きいと、耐水性をより向上することができないおそれがある。より好ましくは50〜200nmである。
なお、平均粒子径は、体積平均粒子径を意味し、動的光散乱法により求めることができる。例えば、動的光散乱法による粒度分布測定器(Particle Sizing Systems社製「NICOMP Model 380」)を用いて求めることができる。
【0018】
上記(メタ)アクリルエマルションの粒子構造としては、本発明の効果を発揮する限り特に制限されず、例えば、コア−シェル構造、パワーフィード構造、均一構造が挙げられる。中でも、コア−シェル構造であることが好ましく、このような粒子構造を有するものであることにより、硬度と造膜性とをより両立することが可能になる。
【0019】
上記(メタ)アクリルエマルションはまた、その全体のガラス転移温度(Tg)が−50〜100℃であることが好適である。Tgが−50℃未満であると、塗膜硬度が充分とはならないおそれがあり、100℃を超えると、低温造膜性をより向上させることができないおそれがある。より好ましくは−40〜50℃であり、更に好ましくは−30〜30℃である。
【0020】
上記(メタ)アクリルエマルションは更に、Tgの異なる2種以上の重合体から構成されるものであることが好適である。この場合、硬さを付与する成分(硬質部)と軟らかさを付与する成分(軟質部)とが、それぞれ少なくとも1種類ずつ存在することが好ましい。
上記2種以上の重合体のTgは、Tgが最も高い重合体においては、50〜200℃であることが好適である。50℃未満であると、塗膜硬度がより充分とはならず、200℃を超えると、低温造膜性をより向上させることができないおそれがある。より好ましくは60〜150℃であり、更に好ましくは70〜120℃である。
またTgが最も低い重合体においては、−40〜40℃であることが好適である。−40℃未満であると、塗膜硬度がより充分とはならず、40℃を超えると、低温造膜性をより向上させることができないおそれがある。より好ましくは−40〜15℃であり、更に好ましくは−40〜0℃である。
【0021】
上記(メタ)アクリルエマルションのガラス転移温度(単位:K)は、エマルションを構成する各単量体成分のホモポリマーのガラス転移温度(Tgn)を用いて、下記Foxの式より計算できる。
1/Tg=Σ(Wn/Tgn)/100
(式中、Wnは、単量体nの質量分率(質量%)を表す。Tgnは、単量体nのホモポリマーのガラス転移温度(K:絶対温度)を表す。)
なお、上述したTgの数値(ガラス転移温度)は、上述したFox式による計算値であるが、実測値の場合にも、同様の範囲が好ましい。Tgの実測値は、例えば、水性塗料用組成物を示差熱走査熱量分析することによって求めることができる。
【0022】
示差熱走査熱量分析を行う測定装置としては特に限定されず、例えば、DSC220C(セイコーインストゥルメンツ社製)等、市販品が挙げられる。また、DSC曲線を描画する方法、DSC曲線から一次微分曲線を得る方法、スムージング処理を行う方法、目的のピーク点の温度を求める方法としては特に限定されず、上記測定装置によって得られたデータから作図する方法が挙げられる。この方法は、通常の数学的処理を行うことができる解析ソフトウェアを用いて行うことが好ましい。解析ソフトウェアとしては特に限定されず、例えば、EXSTAR6000(セイコーインストゥルメント社製解析ソフトウェア)等が挙げられる。なお、このようにして求められたピーク点の温度は、作図による誤差として上下5℃程度の誤差を含む場合がある。
【0023】
上記(メタ)アクリルエマルションがTgの異なる2種以上の重合体から構成される場合、各々の重合体の含有割合としては、Tgが最も高い重合体が、上記(メタ)アクリルエマルションを構成する全重合体の総量100質量%に対して、1〜30質量%となるように設定することが好適である。Tgが最も高い重合体が1質量%未満であると、塗膜硬度が充分とはならず、30質量%より多いと、低温造膜性をより向上させることができないおそれがある。より好ましくは5〜30質量%であり、更に好ましくは10〜30質量%である。
【0024】
本発明では特に、Tgが50〜200℃の重合体を、上記(メタ)アクリルエマルションを構成する全重合体の総量100質量%に対して、1〜30質量%含むことが好適である。これにより、充分な塗膜硬度を与える作用と低温造膜性とをバランスよく発揮することができ、塗料用組成物として更に有用なものとなる。
【0025】
上記(メタ)アクリルエマルションを得るために使用される単量体成分において、(メタ)アクリル系単量体とは、分子中に(メタ)アクリロイル基(CH=CHCO−)を有する化合物であればよいが、例えば、下記の単量体等の1種又は2種以上を使用することが好ましい。
なお、(メタ)アクリル系単量体の含有量は、(メタ)アクリルエマルションを得るために使用される単量体成分の全量100質量%に対し、10質量%以上であることが好適である。より好ましくは30質量%以上である。
【0026】
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート類;
アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、これらの酸無水物等の酸性官能基を有する(メタ)アクリレート類;
(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール等のオキソ基を有する重合性単量体類;
【0027】
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート等のフッ素含有重合性単量体類;
(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等の窒素原子含有重合性単量体類;
グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する重合性単量体類;
2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2−(メタ)アクロイルオキシエトキシ)ベンゾフェノン等の紫外線吸収性重合性単量体類;
4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン等の紫外線安定性重合性単量体類等。
【0028】
これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、紫外線吸収性重合性単量体、紫外線安定性重合性単量体が、耐侯性の観点からも特に好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル類としては、上記例示化合物の中でも特に、シクロアルキル基、t−ブチル基及びイソブチル基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有する重合性単量体が好ましい。このような重合性単量体を重合性単量体成分として含むことにより、耐ブロッキング性を好適に発現させうるとともに、耐侯性、耐温水白化性を更に向上させることができる。中でも、シクロアルキル基を少なくとも有する重合性単量体が好適である。この場合、シクロアルキル基含有単量体の使用量は、特に限定はされないが、例えば、全単量体成分100重量部に対し、5〜60質量%であることが好ましい。より好ましくは10〜60質量%、更に好ましくは20〜60質量%である。
【0029】
上記単量体成分はまた、オキサゾリン基含有単量体を含んでもよい。この場合、得られる(メタ)アクリルエマルションはオキサゾリン基を有する重合体を含むものとなるため、該(メタ)アクリルエマルションに加えて、更にオキサゾリン基含有重合体やオキサゾリン化合物を含まなくても、本発明の水性塗料用組成物を構成することになる。すなわち、オキサゾリン基含有重合体を含む(メタ)アクリルエマルションを含有する水性塗料用組成物もまた、本発明の好適な形態の1つである。但し、このような(メタ)アクリルエマルションに加え、更にオキサゾリン基含有重合体及び/又はオキサゾリン化合物を含んでもよいことは言うまでもない。
上記オキサゾリン基含有単量体としては、上述したオキサゾリン基含有単量体の1種又は2種以上を使用することができる。
【0030】
上記単量体成分は更に、その他の単量体として、上記(メタ)アクリル系単量体や必要に応じて含まれるオキサゾリン基含有単量体等と共重合可能な単量体を含んでもよい。このような単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等のビニル化合物類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;N−ビニルピロリドン等の1種又は2種以上が挙げられる。
なお、上記単量体成分としてオキサゾリン基等の架橋構造を形成し得る官能基を有する単量体を用いる場合、該単量体は最終段に重合することが好適である。但し、それ以前の重合工程に含まれていてもよい。(メタ)アクリルエマルションとしてパワーフィード構造を有するものを製造する場合は、徐々にオキサゾリン基等の架橋構造を形成し得る官能基を増加していくことが好ましい。
【0031】
上記(メタ)アクリルエマルションとしてはまた、上記単量体成分とともにシランカップリング剤を使用して得られるものであることが好適である。これにより、得られる水性塗料用組成物の耐水性等がより向上することになる。
上記シランカップリング剤としては、ビニル重合性シラン化合物、エポキシ基含有シラン化合物等が挙げられ、具体的には、下記化合物等の1種又は2種以上を使用することができる。
【0032】
メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン類;
ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン類;
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリルシラン類;
β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン類;
N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジエトキシシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン類;
γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のチオシラン類等。
【0033】
上記シランカップリング剤としては、また、下記一般式(2)
(R10)n−Si−(R11)4−n (2)
(式(2)中、R10は、ラジカル重合性を有する基であり、R11は、水酸基、アルキル基、エポキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基、フェノキシ基、メルカプト基のうちから選択される1種以上を有する置換基であり、nは、1〜3の整数である。)で示されるSi含有単量体を含むことが好ましい。これによりアクリルポリマー鎖をシロキサン結合によって強固に架橋した構造を形成し、例えば、光酸化触媒反応によるポリマー劣化の抑制や、耐温水白化性、更に耐ブロッキング性を向上させることができる。
【0034】
上記一般式(2)において、R10で表されるラジカル重合性を有する基の具体例としては、例えば、(メタ)アクリロキシ基、ビニル基等が挙げられる。また、一般式(2)において、n又は4−nの数が2以上となる場合、複数となるR10、R11は、それぞれ、同一であっても良いし、異なっていてもよい。
上記一般式(2)で示されるSi含有単量体そのものの具体例としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン等が挙げられる。中でも、耐汚染性、耐温水白化性を考慮すると、(メタ)アクリルシラン類が好ましい。特に好ましくは、γ−メタクリロイルオキシエチルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランである。なお、Si含有単量体は1種のみを用いてもよいし、2種以上であってもよい。
【0035】
上記シランカップリング剤の配合割合は、特に限定はされないが、例えば、上記(メタ)アクリルエマルションを得るために使用される単量体成分の全量及びシランカップリング剤の合計量100質量%に対し、0.1〜10質量%であることが好ましい。シランカップリング剤が0.1質量%未満であると、耐温水白化性や耐水白化性等の耐水性が充分に向上しないおそれがあり、10質量%を超えると、充分に成膜できないおそれがある。より好ましくは0.3〜5質量%、更に好ましくは0.5〜3質量%である。
なお、シランカップリング剤の全量100質量%中、上記Si含有単量体の占める割合が70質量%以上であることが好適である。より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
【0036】
上記(メタ)アクリルエマルションは、乳化剤の存在下で、上記単量体成分及び必要に応じて使用されるシランカップリング剤を乳化重合することにより得ることができるが、乳化重合の手法としては特に限定されず、例えば、多段階フィード法、パワーフィード法等の通常よく知られている方法を用いて行うことができる。具体的には、水、又は、必要に応じてアルコール等の有機溶剤を含む水性媒体中に乳化剤を溶解させ、加熱撹拌下、原料となる単量体成分及び重合開始剤を滴下する方法や、乳化剤と水とを用いて予め乳化した原料となる単量体成分を同様に滴下する方法等を挙げることができる。
【0037】
上記重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、2,2−アゾビス(2―ジアミノプロパン)ハイドロクロライド等のアゾ化合物;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素等の過酸化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。具体的には、例えば、アゾ系の油性化合物(例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等)、水性化合物(例えば、アニオン系の4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、カチオン系の2,2−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン));レドックス系の油性過酸化物(例えば、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート等)、水性過酸化物(例えば、過硫酸カリ及び過酸化アンモニウム等)等が挙げられる。
【0038】
上記重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、例えば、上記単量体成分及び必要に応じて含まれるシランカップリング剤の合計量100重量部に対し、0.05〜1重量部とすることが好適である。重合開始剤の使用量が0.05重量部未満であると、重合速度が充分とはならず、未反応の重合性単量体が残存しやすくなり、1重量部を超えると、形成される塗膜の耐水性が充分とはならないおそれがある。より好ましくは0.1〜0.5重量部である。
なお、重合開始剤の添加方法は特に限定されず、例えば、一括仕込み、分割仕込み、連続滴下等のいずれの方法であってもよい。また、重合の完了を速めるためには、最終段の重合性単量体成分の滴下終了前後に、重合開始剤の一部を添加してもよい。
【0039】
上記乳化重合においては、重合開始剤の分解を促進する目的で、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤や硫酸第一鉄等の遷移金属塩を添加してもよく、また必要に応じ、pH緩衝剤、キレート剤、連鎖移動剤等の通常使用される添加剤を添加してもよい。連鎖移動剤としては、t−ドデシルメルカプタン等のチオール基を有する化合物等が挙げられる。
【0040】
上記乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤又は高分子乳化剤が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
上記アニオン性乳化剤としては、例えば、ナトリウムアルキルジフェニルエーテルジスルフォネート(例えば、花王製「ペレックスSSL」)、アンモニウムドデシルスルフォネート、ナトリウムドデシルスルフォネート等のアルキルスルフォネート塩;アンモニウムドデシルベンゼンスルフォネート、ナトリウムドデシルナフタレンスルフォネート等のアルキルアリールスルフォネート塩;ポリオキシエチレンアルキルスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬社製「ハイテノール18E」、花王社製「ラテムルE−118B」等);ジアルキルスルホコハク酸塩;アリールスルホン酸ホルマリン縮合物;アンモニウムラウリレート、ナトリウムステアリレート等の脂肪酸塩;ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化スルフォネート塩(例えば、日本乳化剤社製「アントックスMS−60」等)、プロペニル−アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩(例えば、三洋化成工業社製「エレミノールRS−30」等)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬社製「アクアロンKH−10」等)等のアリル基を有する硫酸エステル(塩)、アリルオキシメチルアルコキシエチルポリオキシエチレンの硫酸エステル塩(例えば、旭電化工業社製「アデカリアソープSR−10」等)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(例えば、花王社製「ラテムルPD−104」等)等が好適である。
【0041】
上記ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、三洋化成工業社製「ナロアクティーN−200」、第一工業製薬社製「ノイゲンTDSシリーズ」、「ノイゲンSDシリーズ」、花王社製「エマルゲン1118S」、花王社製「エマルゲン1108S」等);ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの縮合物;ソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;脂肪酸モノグリセライド;ポリオキシアルキレンデシルエーテル(第一工業製薬社製「ノイゲンXLシリーズ」)、ポリオキシエチレンスチレン化フェノールエーテル(第一工業製薬社製「ノイゲンEAシリーズ」);エチレンオキサイドと脂肪族アミンの縮合生成物;アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、旭電化工業社製「アデカリアソープER−20」等)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(例えば、花王社製「ラテムルPD−420」、「ラテムルPD−430」等)等が好適である。
【0042】
上記カチオン性乳化剤としては、例えば、ドデシルアンモニウムクロライド等のアルキルアンモニウム塩等が好適である。
上記両性乳化剤としては、例えば、ベタインエステル型乳化剤等が好適である。
上記高分子乳化剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム等のポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリヒドロキシエチルアクリレート等のポリヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;これらの重合体を構成する重合性単量体のうちの1種以上を共重合成分とする共重合体等が好適である。
【0043】
上記乳化剤の中でも、特に耐水性を重視する場合には、重合性基を有する乳化剤、すなわち、いわゆる反応性乳化剤を使用することが好適であり、上記(メタ)アクリルエマルションは、反応性乳化剤を用いて得られるものであることが特に好ましい。
上記反応性乳化剤とは、単量体中に不飽和二重結合を有する、その他の単量体と重合可能な界面活性剤を意味する。具体的には、分子中にビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基、プロペニル基等のラジカル重合性の二重結合を有し、非反応性乳化剤と同様に乳化、分散機能を持つ乳化剤である。重合安定性や塗膜性能の観点から、ポリオキシアルキレン鎖を分子構造中に有するものが特に好ましい。
【0044】
上記反応性乳化剤としては、例えば、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート化スルフォネート塩(例えば、日本乳化剤社製、アントックスMS−60等)、プロペニル−アルキルスルホコハク酸エステル塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルフォネート塩、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンホスフォネート塩(例えば、三洋化成工業社製、エレミノールRS−30等)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテルスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬社製、アクアロンHS−10等)、アリルオキシメチルアルキルオキシポリオキシエチレンのスルフォネート塩(例えば、第一工業製薬社製、アクアロンKH−10等)やアリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレンのスルフォネート塩(例えば、旭電化工業社製、アデカリアソープSE−10等)、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン硫酸エステル塩(例えば、旭電化工業社製、アデカリアソープSR−10、SR−30等)、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、旭電化工業社製、アデカリアソープER−20等)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬社製、アクアロンRN−20等)、アリルオキシメチルノニルフェノキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、旭電化工業社製、アデカリアソープNE−10等)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。特に環境面を重視する場合には、非ノニルフェニル型の乳化剤を用いるのが好ましい。このような反応性乳化剤の例を以下に示す。
【0045】
【化2】

【0046】
上記化学式中、Rは、アルキル基を表す。R〜Rは、アルキル基又は水素原子を表す。Aは、アルキレン基を表す。Mは、軽金属又はアンモニウムイオンを表す。nは、整数である。
【0047】
上記反応性乳化剤の配合割合は、使用される乳化剤の全量100質量%に対し、例えば、50質量%以上であることが好適である。これにより、耐水性により優れた塗膜が得られることになる。より好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。
【0048】
上記乳化重合に使用される全乳化剤の配合割合は、塗膜の耐水性及び重合安定性の双方を充分なものとする観点から、上記単量体成分の全量及びシランカップリング剤の合計量100重量部に対し、0.5〜10重量部とすることが好ましい。反応性乳化剤の使用量が多すぎると、塗膜の耐水性がより充分なものとはならないおそれがあり、少なすぎると、重合安定性がより充分なものとはならないおそれがある。より好ましくは1〜8重量部、更に好ましくは2〜6重量部である。
【0049】
上記乳化重合における重合条件に関し、重合温度としては特に限定されないが、好ましくは0〜100℃、より好ましくは40〜95℃とするのがよい。重合温度は一定であってもよいし、重合途中で又は各段階によって変化させてもよい。重合時間についても特に限定はなく、反応の進行状況に応じて適宜設定すればよいが、例えば、重合開始から終了まで2〜8時間の範囲とするのが好ましい。重合時の雰囲気については、重合開始剤の効率を高めるため窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好適である。
【0050】
上記(メタ)アクリルエマルションはまた、2段階以上(多段階)で段階的に重合させて製造することが好適である。段階的重合工程としては、まずカルボキシル基含有単量体を含む単量体成分(i)を重合し、ここに単量体成分(ii)を更に加えて重合を行うものであることが好適である。オキサゾリン基含有単量体を用いる場合は、単量体成分(ii)中にオキサゾリン基含有単量体を含めることが好ましく、また、単量体成分(ii)の重合を行う前の反応系内のpHを6以上とすることが好適である。これにより、カルボキシル基とオキサゾリン基の架橋反応を抑制(ブロック)し、硬化制御を行うことが可能となるため、長期保存安定性が良好で、塗膜形成時には反応系内のpHを6以上とするために使用した中和剤が揮発するとともに粒子内での架橋反応が進行する、いわゆる自己架橋性エマルションを得ることができる。
なお、上記単量体成分(i)に含まれるカルボキシル基含有単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、これらの酸無水物等の酸性官能基を有する(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0051】
上記反応系内のpHを6以上とする際に使用可能な中和剤としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン等の有機アミン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸化物等のアルカリ性物質を用いることができる。これらの中でも、アンモニア、トリエチルアミン等の有機アミン類といった揮発性をもつアルカリ性物質が好ましく、アンモニアが特に好ましい。
【0052】
上記単量体成分(ii)を重合する工程前の反応系のpHは、6以上10未満の範囲に設定することが好ましい。pHが6未満であると、単量体成分(i)から得られる重合体と単量体成分(ii)から得られる重合体との反応制御が充分にできず、得られる(メタ)アクリルエマルションの造膜性が充分とはならないおそれがある。また、10以上であると塗膜形成時の架橋の進行が遅延し、硬度が発現しにくくなるおそれがある。より好ましくは、7以上9.5未満、更に好ましくは8以上9未満である。
【0053】
本発明の水性塗料用組成物は更に、N−ビニル環状ラクタム単位を有する重合体を含むことが好適である。これにより、低汚染性をより向上させることが可能になる。このような重合体として好ましくは、該重合体100質量%に対し、N−ビニル環状ラクタム単位を20質量%以上有するものである。N−ビニル環状ラクタム単位が20質量%未満であると、上記水性塗料用組成物から得られる塗膜の親水性がより充分とはならず、より高度な耐汚染性を発揮できないおそれがある。より好ましくはN−ビニル環状ラクタム単位を40質量%以上有するものである。
【0054】
上記N−ビニル環状ラクタム単位を有する重合体は、例えば、N−ビニルピロリドンやN−ビニルカプロラクタム等のN−ビニル環状ラクタム単位を構成する単量体を重合又は共重合させて得られるホモポリマー(単独重合体)又は共重合体等の1種又は2種以上を使用することができる。
上記共重合体としては、N−ビニルピロリドンやN−ビニルカプロラクタムを、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸やそのエステル、マレイン酸やそのエステル、アクリロニトリル、スチレン、アルキルビニルエーテル、N−ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、アリルアルコール、オレフィン類等と共重合させて得られるコポリマーが挙げられる。これらの中でも、N−ビニルピロリドンやN−ビニルカプロラクタムを酢酸ビニルと共重合させて得られる共重合体が好ましい。なお、(メタ)アクリル酸、マレイン酸のエステルとしては、炭素数1〜20のアルキルエステル、ジメチルアミノアルキルエステル及びその四級塩、ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。
【0055】
上記N−ビニル環状ラクタム単位を有する重合体の分子量は、1000〜300万であることが好ましい。より好ましくは、3000〜100万であり、更に好ましくは、5000〜50万である。また、特に好ましくは、7000〜30万であり、最も好ましくは、1万〜10万である。
なお、ここでの分子量は、重量平均分子量であり、例えば、上述したGPC測定方法により求めることができる。
【0056】
上記水性塗料用組成物が上記N−ビニル環状ラクタム単位を有する重合体を含む場合、その含有量は、上記水性塗料用組成物100質量%に対し、例えば、0〜20質量%であることが好適である。20質量%を超えると、耐水性が充分とはならないおそれがある。より好ましくは0.5〜15質量%であり、更に好ましくは1〜10質量%である。
【0057】
上記N−ビニル環状ラクタム単位を有する重合体の合成は、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、沈殿重合等の重合方法によって行うことができるが、溶液重合が好ましく、水を溶媒とする水溶液重合がより好ましい。重合条件は、通常の重合条件とすればよい。
【0058】
本発明の水性塗料用組成物は、該組成物100質量%に対し、揮発性有機化合物の総含有量が3質量%未満となるものである。近年の健康被害及び環境問題への意識の高まりから、揮発性有機化合物の使用を極力避けることが望まれているが、従来の塗料用組成物では成膜助剤等として揮発性有機化合物を含むのが通常であった。しかし、本発明では、水性塗料用組成物を上述したような構成とすることによって、揮発性有機化合物を大幅に低減させるか又は実質的に用いなくても良好な低温造膜性を発揮でき、塗料としての特性を充分に発揮できる、という画期的な効果が得られることを見いだしたのであり、これにより、従来の組成物よりも健康・環境への負荷が著しく軽減された塗料用組成物が実現されることになる。このような本発明の効果をより充分に発現させるため、上記揮発性有機化合物の総含有量は、より好ましくは2質量%未満、更に好ましくは1質量%未満である。また、特に好ましくは0.5質量%以下であり、最も好ましくは、揮発性有機化合物を実質的に含まないことである。
ここで、「実質的に含まない」とは、揮発性有機化合物を意図的に添加していないことを意味し、例えば、塗料中に含有される揮発性有機化合物の含有量を測定する際に検出されない量以下であることが挙げられる。
【0059】
上記水性塗料用組成物はまた、最低造膜温度(MFT:Minimum Film−forming Temperature)が0℃以下であることが好ましい。0℃を超えると、成膜助剤(造膜助剤ともいう)等の有機化合物を少量配合する必要が生じるおそれがある。より好ましくは−5℃以下であり、特に好ましくは−10℃以下である。
なお、MFTは、JIS K6828−2(2003)に準じて測定され、適当な温度勾配を有する平板の上に帯状にエマルションを塗布したときの造膜した部分と造膜していない部分との境界温度であり、「亀裂のない均一皮膜が得られる最低温度」と定義される。具体的には、熱勾配試験機の上に置いたガラス板上に厚さ0.2mmのアプリケーターで組成物を塗工、乾燥し、その塗膜にクラックの生じた温度を最低成膜温度(MFT)(℃)とすることができる。
【0060】
上記水性塗料用組成物は、例えば、建築建材用、建築外装用塗料等の種々の塗料用途に有用なものであり、上記水性塗料用組成物を含む塗料は、本発明の好適な実施形態の1つである。このような塗料は、低温造膜性に著しく優れ、これにより形成される塗膜が硬度や耐水性、耐候性等の特性を発揮することができるうえ、環境的に非常に有利なものである。塗料の中でも、トップコート用塗料に好適に用いることができ、上記水性塗料用組成物を含むトップコート用塗料もまた、本発明の1つである。低温造膜性に著しく優れるものであるため、特に、建築外装用に好適に用いられることになるが、高温での造膜性にも優れるため、建築内装用等にも好ましく適用できる。
【0061】
上記トップコート用塗料において、本発明の水性塗料用組成物の含有量としては、トップコート用塗料100質量%に対し、例えば10〜90質量%であることが好適である。これにより、上記水性塗料用組成物の効果をより充分に発揮できるとともに、トップコート用塗料として更に好適なものとなる。より好ましくは15〜85質量%、更に好ましくは20〜80質量%である。
【0062】
上記トップコート用塗料は、必要に応じて添加剤等を配合することとなる。添加剤等としては、例えば顔料、骨材等が挙げられる。また、充填剤、レベリング剤、分散剤、増粘剤、湿潤剤、可塑剤、安定剤、染料、酸化防止剤等の1種又は2種以上を含有してもよい。
上記顔料としては、例えば、無機顔料として酸化チタン、三酸化アンチモン、亜鉛華、リトポン、鉛白等の白色顔料、カーボンブラック、黄鉛、モリブデン赤、ベンガラ等の着色顔料等が挙げられ、有機顔料としてベンジジン、ハンザイエロー等のアゾ化合物やフタロシアニンブルー等のフタロシアニン類等が挙げられる。なお、これらを単独で使用してもよいし、2種以上を併用して使用してもよい。
上記顔料の中でも、塗膜の耐候性を低下させることのないように、耐候性の良好なものを選択することが好適であり、例えば、白色顔料である酸化チタンに関しては、アナタース型の酸化チタンを用いるよりもルチル型の酸化チタンを用いる方が塗膜の耐候性の面で好ましい。また、ルチル型としては、硫酸法酸化チタンよりは塩素法酸化チタンの方が長期に耐候性を維持発現させることができるため好適である。
【0063】
上記骨材としては、透明骨材であっても着色骨材であってもよいが、透明骨材としては長石、硅砂、硅石、寒水砂、ガラスビーズ、合成樹脂ビーズ等が挙げられ、また、着色骨材としては大理石粉、御影石粉、蛇紋岩、蛍石、着色硅砂粉、有色陶磁器粉等が挙げられる。なお、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記顔料や骨材等の添加剤を含む場合、その効果を充分に発揮するためには、上記トップコート用塗料100質量%中、クリアー塗料等に用いる場合は40質量%未満とすることが好適である。また、エナメル塗料等に用いる場合は、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは10〜70質量%、更に好ましくは20〜60質量%である。
【0065】
上記トップコート用塗料の施工形態としては、単独で一層に塗工される形態でもよいし、二層以上に重ね塗りする形態でもよい。また、二層以上に重ね塗りする場合には、その一部の層のみが上記トップコート用塗料により形成される形態でもよいし、全部の層が上記トップコート用塗料により形成される形態でもよい。
上記重ね塗りの方法は、例えば、プライマー処理やシーラー処理等を施した塗装対象物に、第1層(下塗り層)の塗料を塗布して乾燥させ、続いて第2層(上塗り層)の塗料を上塗りして乾燥させる方法等を挙げることができる。塗料を塗布する方法としては、スプレーやローラー、ハケ、コテ等を用いることができる。
【0066】
本発明の水性塗料用組成物及びそれを含むトップコート用塗料は、種々の用途に用いることができ、具体的には、例えば、プラスチック成形品用、家電製品用、鋼製品、大型構造物、車両用(例えば、自動車補修用のソリッドカラー用やメタリックベース用、クリヤートップ用)、建材用、建築内・外装用、瓦用、木工用等の各種下塗り、中塗り、上塗り等に利用することができる。特に、建材用、建築内・外装用として好適に用いることができ、建築建材用、建築外装用としてより好適に用いることができる。中でも、環境配慮型の低汚染用、石材調塗料用クリアートップコート用に更に好適に用いることができる。
【0067】
本発明の水性塗料用組成物やそれを含むトップコート用塗料を建築建材用として用いる場合、その基材としては、例えば、スレート板、フレキシブルボード、セメントスラグ抄造板、セメントスラグ成形板、硬質木片セメント板、押出成形セメント板、金属板、プラスチック板、セラミック板、ケイ酸カルシウム板、木板、金属部品鋼板等を用いることができ、これらの基材上に塗布することにより塗膜を形成することができる。また、建築外装用として用いる場合、その基材としては、例えば、コンクリート、PCパネル、セメントモルタル、ALCパネル、コンクリートブロック、スレート板、石綿セメント系サイディング等を使用することができ、これらの基材上に塗布することにより塗膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0068】
本発明の水性塗料用組成物は、上述のような構成であるので、従来の塗料用組成物には通常含まれている揮発性有機化合物を大幅に低減又は実質的に不含有としても、極めて良好な低温造膜性を発揮して、耐汚染性や耐候性、耐温水白化性等の各種物性に優れる塗膜を与えることができ、健康や環境への負荷を大幅に軽減できるものである。特に、このような組成物を用いれば、揮発性有機化合物を実質的に含まないVOCフリー塗料を実現することが可能になり、このような水性塗料用組成物を含むトップコート用塗料は、各種物性に優れる塗膜を形成できるとともに環境に優しい外装用塗料として、土木・建築分野で非常に有用なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0070】
なお、下記製造例や実施例等において、各種物性等は以下のように評価した。
<評価方法>
(1)pH
pHメーター(堀場製作所社製「F−23」)により25℃での値を測定した。
(2)粘度
BM型粘度計(東京計器社製)により30min−1、25℃にて測定した。粘度測定時には、粘度に応じてローターを選定した。
(3)平均粒子径
動的光散乱法による粒度分布測定器(Particle Sizing Systems社製「NICOMP Model 380」)を用い、体積平均粒子径を測定した。
(4)最低造膜温度(MFT)
熱勾配試験機の上に置いたガラス板上に厚さ0.2mmのアプリケーターで得られた水性樹脂分散体を塗工、乾燥し、その塗膜にクラックの生じた温度を最低成膜温度(MFT)(℃)とした。
【0071】
(5)ガラス転移温度(Tg、単位:K)
(メタ)アクリルエマルションを構成する各単量体成分のホモポリマーのガラス転移温度を用いて、上記Foxの式より計算した値を採用した。
(6)ポリビニルピロリドンポリマーのK値
ポリビニルピロリドンポリマーを水に1質量%の濃度で溶解させた溶液の粘度を25℃において毛細管粘度計によって測定し、この測定値を用いて次のフィケンチャー式:
(logηrel)/C=〔(75Ko)/(1+1.5KoC)〕+KoK=1000Ko
(式中、Cは、溶液100ml中のポリビニルピロリドンのg数を表す。ηrelは、溶媒に対する溶液の粘度を表す。)から計算した。K値が高いほど、分子量は高いと言える。
(7)NV(不揮発分、Nonvolatile matter)
サンプル1gを150℃で20分加熱した後の残渣の質量から、サンプル中のNV(%)を求めた。
【0072】
<塗料の評価方法>
(1)塗料VOC量(%)の評価方法
実施例・比較例で作成した塗料を、1℃風速1m/sの恒温恒湿ボックス内で、Wet150μm塗布し、6時間後に塗膜を観察し、クラックの有無を確認する。クラックが生じた塗料については、クラックが入らなくなるまで、成膜助剤である「CS−12」(チッソ社製、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート)を1%ずつ追加して試験を行い、判明した必要成膜助剤量を塗料VOC量(%)とした。クラックが生じなかった塗料には、成膜助剤は使用しなかった(すなわち、0%)。
なお、下記の塗料の評価試験(2)〜(4)における塗料配合中の成膜助剤量は、低温造膜性試験でクラックが入らない上記の最小量を添加した配合にて行った。
【0073】
(2)低汚染性(耐汚染性)試験
JIS A5430(2004年)に準ずるスレート板(70mm×150mm×6mm、日本テストパネル社製)に、溶剤系シーラー(エスケー化研社製、商品名「EXシーラー」)を乾燥重量20g/mになるようにエアスプレーにて塗装し、23℃、湿度50%にて24時間乾燥させた後、実施例・比較例の塗料を6milアプリケーターにて塗装し、23℃、湿度50%にて2週間静置養生して試験体を得た。養生後、該試験板のL値(L0)を色差計(日本電色工業社製、分光式色差計SE−2000)にて測定し、JIS Z2381(大気暴露試験方法通則)に準じ、以下の条件にて屋外暴露試験を行った。1ヵ月後、6ヵ月後に試験板を引き上げ、上記色差計にてL値(L1)を測定した。
ΔL=(L1)−(L0)として、L値の変化値を算出し、1ヵ月後のL値で初期汚染性、6ヵ月後のL値で長期汚染性を評価した。
−試験条件−
南面30°、直接暴露(暴露地:大阪府吹田市/日本触媒社敷地内)
−評価基準−
◎:ΔL=2.0未満
○:ΔL=2.0以上、3.0未満
△:ΔL=3.0以上、4.0未満
×:ΔL=4.0以上
【0074】
(3)耐候性試験
耐汚染性試験で調整した養生後の試験体の光沢値(Gs60°)を測定し、JIS A6909(耐候性B法)に準じてキセノンウェザーメーターにて試験を行い評価した。
−評価基準−
○:JIS区分、耐侯形1種
△:JIS区分、耐候形2種
×:JIS区分、耐侯形3種
(4)耐水性試験
耐汚染性試験で調整した養生後の試験体を23℃の水に浸漬し、3日後の塗膜状態を観察し基準に基づき判定評価した。
−評価基準−
○:異常なし
△:5%未満の面積でフクレ・剥がれが見られる
×:5%以上の面積でフクレ・剥がれが見られる
【0075】
<水性樹脂組成物((メタ)アクリルエマルション)(A)>
製造例A1
滴下ロート、攪拌機、窒素導入管、温度計及び還流冷却管を備えたフラスコに、脱イオン水335部を仕込んだ。滴下ロートに、脱イオン水78部、乳化剤(「アクアロンHS−10/第一工業製薬社製」)の25%水溶液40部、2−エチルヘキシルアクリレート90部、メチルメタクリレート155部、アクリル酸5部からなる1段目のプレエマルションを調整し、そのうち全量合性単量体成分の総量の10%にあたる144部をフラスコに投入し、ゆるやかに窒素ガスを吹き込みながら80℃まで昇温し、過硫酸アンモニウムの5%水溶液60部を添加し重合を開始した。その後、1段目のプレエマルションの残部を90分にわたり均一に滴下した。滴下終了後、同温度で60分間維持し、1段目の重合を終了した。次に25%アンモニア水溶液4.7部を添加し、系のPHが7以上になったことを確認し、引き続いて、脱イオン水233部、乳化剤(「アクアロンHS−10/第一工業製薬社製」)の25%水溶液120部、2−エチルへキシルアクリレート250部、メチルメタクリレート180部、シクロへキシルメタクリレート300部、アクリル酸2部からなる2段目のプレエマルションを180分間にわたって均一に滴下した。滴下終了後、同温度で180分間維持し2段目に重合を終了した。得られた反応液を室温まで冷却後、300メッシュの金網でろ過して水性樹脂組成物(水性樹脂組成物(A1)とする。)を得た。
なお、表1に、1段目、2段目にそれぞれ使用した各単量体の量を、両段で使用した全単量体成分合計量100部に対する比率(重量部)で示した。
【0076】
製造例A2〜A7
表1に示す乳化剤及び単量体成分を使用して重合した(製造例A6及びA7については3段重合し、中和は2段目終了後に行った)以外は、製造例A1と同様にして水性樹脂組成物(A2)〜(A7)を得た。
【0077】
<水性樹脂組成物(B)>
製造例B1
冷却管、窒素導入ライン、温度計を設置した重合容器に、脱イオン水206部と、N−ビニルピロリドン90部を加え、窒素を導入して窒素雰囲気とした。室温下で攪拌しながら、0.1%の硫酸銅水溶液0.045部、25%アンモニア水溶液0.5部、30%過酸化水素水溶液2.1部を加え、重合を開始した。内温が重合熱によって上昇した後、80℃で1.5時間加熱攪拌を続けた。次に、30%過酸化水素水溶液1.0部を加えた後、更に1時間加熱攪拌を続け、ポリビニルピロリドン(PVP)ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液はNV30.0%、K値は29.8であった。
【0078】
製造例B2
冷却管、窒素導入ライン、温度計を設置した重合容器に、脱イオン水39.1部と、製造例B1で得たPVPポリマー溶液400部を加え、窒素を導入して窒素雰囲気とした。室温下で攪拌しながら、85℃まで昇温し、温度が一定になったところで、80%アクリル酸水溶液37.5部、脱イオン水75.2部、25%アンモニア水溶液34.5部を混合した水溶液を90分かけて投入した。平行して過硫酸アンモニウム3.7部を脱イオン水69.5部に溶解させた開始剤水溶液を同様に90分かけて投入した。投入終了後、同温度で1時間加熱攪拌を続け、反応を終了した。得られたポリマー溶液(重合体B2:VP−AAとも称す。)はNV29.6%であった。
なお、表2に、重合体B2を得るために使用したPVPポリマーと、アクリル酸との質量割合を示す。
【0079】
製造例B3
冷却管、窒素導入ライン、温度計を設置した重合容器に、脱イオン水39.1部と、製造例B1で得たPVPポリマー溶液400部を加え、窒素を導入して窒素雰囲気とした。室温下で攪拌しながら、85℃まで昇温し、温度が一定になったところで、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン30.0部、脱イオン水82.7部、25%アンモニア水溶液34.5部を混合した水溶液を90分かけて投入した。平行して過硫酸アンモニウム3.7部を脱イオン水69.5部に溶解させた開始剤水溶液を同様に90分かけて投入した。投入終了後、同温度で1時間加熱攪拌を続け、反応を終了した。得られたポリマー溶液(重合体B3:VP−OXとも称す。)はNV29.4%であった。
なお、表2に、重合体B2を得るために使用したPVPポリマーと、オキサゾリン基含有単量体(2−イソプロペニル−2−オキサゾリン)との質量割合を示す。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
表中の記載は、以下のとおりである。
<乳化剤>
アクアロンHS−10:第一工業製薬社製
アクアロンKH−10:第一工業製薬社製
アデカリアソープSR−10:旭電化工業社製
アクアロンRN−20:第一工業製薬社製
【0083】
<単量体成分>
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート(Tg:−70℃)
MMA:メチルメタクリレート(Tg:105℃)
St:スチレン(Tg:100℃)
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート(Tg:83℃)
t−BMA:ターシャリーブチルメタクリレート(Tg:107℃)
IBMA:イソボルニルメタクリレート(Tg:180℃)
MAA:メタクリル酸(Tg:130℃)
AA:アクリル酸(Tg:106℃)
IPO:2−イソプロペニル−2−オキサゾリン(Tg:100℃)
HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート(Tg:55℃)
RUVA:2−[2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル]−2
HALS:4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン(Tg:130℃)
なお、上記単量体の化合物名の後に括弧書きにて示したTgは、当該単量体からなるホモポリマーのTg(℃)である。
【0084】
実施例1〜7、比較例1〜2
表4に示す配合にて水性樹脂組成物(A)及び(B)を用いて水性塗料用組成物を調整した。なお、実施例1〜5及び比較例1〜2では、水性樹脂組成物(B)を使用していないため、水性樹脂組成物(A)のみを水性塗料用組成物とした。
得られた水性塗料用組成物の各々について、表3−2における塗料配合にて塗料化し、各種物性を評価した。評価結果を表4に示す。
【0085】
【表3−1】

【0086】
【表3−2】

【0087】
表3−2中、実施例又は比較例で得た水性塗料用組成物の配合量(※1)は、表4に記載の量を意味する。すなわち、水性塗料用組成物としての配合量は、実施例1〜5及び比較例1〜2では200部、実施例6〜7では207部である。また、「CS−12」の配合量(※2)は、上記塗料VOC量(%)の評価方法において詳述したように、低温造膜性試験でクラックが入らなくなるまで添加した、CS−12の最小量である。
【0088】
【表4】

【0089】
表4より、本発明の構成とすることによって、塗料用組成物には通常含まれている揮発性有機化合物を大幅に低減又は実質的に不含有としても、極めて良好な低温造膜性を発揮して、耐汚染性や耐候性、耐温水白化性等の各種物性に優れる塗膜を与えることができ、健康や環境への負荷を大幅に軽減できる水性塗料用組成物が得られることが確認された。
すなわち、比較例1及び2は、オキサゾリン基含有重合体及びオキサゾリン化合物のいずれも含まない組成物の例であるが、比較例1のように成膜助剤を通常量(水性塗料用組成物100質量%に対して7質量%)使用した場合には、初期汚染性及び長期汚染性に劣り、また成膜助剤を多量使用しているために環境への負荷軽減を図ることができない。比較例2は、比較例1よりも成膜助剤の含有量を低減させた例であるが、この場合は、初期汚染性及び長期汚染性のいずれもが劣り、耐候性も良好ではない。これに対し、オキサゾリン基含有重合体及び/又はオキサゾリン化合物を用いた実施例1〜7では、成膜助剤の含有量を大幅に低減又は実質的に含有しないこととしても、低温乾燥後にクラックが生じない、すなわち著しく低温造膜性に優れるうえ、初期汚染性及び長期汚染性や耐候性も良好で、各種塗料に極めて有用であることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリルエマルションを含む水性塗料用組成物であって、
該組成物は、オキサゾリン基含有重合体及び/又はオキサゾリン化合物を含有するものであり、かつ該組成物100質量%に対し、揮発性有機化合物の総含有量が3質量%未満である
ことを特徴とする水性塗料用組成物。
【請求項2】
前記揮発性有機化合物の総含有量は、前記水性塗料用組成物100質量%に対し、1質量%未満である
ことを特徴とする請求項1に記載の水性塗料用組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリルエマルションは、ガラス転移温度が50〜200℃の重合体を、前記(メタ)アクリルエマルションを構成する全重合体の総量100質量%に対し、1〜30質量%含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水性塗料用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の水性塗料用組成物を含む
ことを特徴とするトップコート用塗料。

【公開番号】特開2010−229167(P2010−229167A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74878(P2009−74878)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】