説明

水性塗料用耐候性向上材

【課題】被添加水性塗料の耐候性能を飛躍的に向上させる水性塗料用耐候性向上材の提供。
【解決手段】カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)を含む単量体混合物(B)を重合した後、下記式(1)の単量体(a)5〜60%とその他のエチレン性不飽和単量体を(b)を含む単量体混合物(A)を最終段階で重合させ、(A)の含有率が10〜90%、(a)の含有率が4.5〜50%であり、(a)を含む重合体のMwが5000〜300000または全体としてMwが10000以上である共重合体粒子(α)の水性分散体である水性塗料耐候性向上材を使用する。


(R1は水素原子または炭素数1〜2のアルキル基、Xは酸素原子またはイミノ基、Yは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシル基、Zは水素原子またはシアノ基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性塗料用耐候性向上材に関するものであり、より詳しくは各種水性塗料に添加することにより、光沢保持性、耐黄変性、耐水性等の耐候性を向上させることができる水性樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料分野においては、地球環境や塗装作業環境等への配慮から、有機溶剤を媒体とする溶剤系塗料から、水を分散媒とする水性塗料への変換が図られている。そのため、水性塗料の用途が急速に拡大されつつあり、それに伴って水性塗料への要求性能も高度になってきている。そうした要求性能の中でも、塗膜の耐候性能は最も重要な性能の1つであり、シリコーンやフッ素等の高耐候成分を含有させる等、様々な手段によってその向上が図られている。
【0003】
一方、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン型ラジカル捕捉剤(以下HALS)、酸化防止剤などの耐候性向上剤の添加は、要求性能の異なる各種塗料の耐候性を向上できる有効な手段として用いられている。しかしながら、水性塗料については、主たる媒体が水であるため、これらを添加した場合、経時的に系の上層に浮遊するなど品質安定性に問題あった。また、攪拌直後の水性塗料を用いて成膜した場合でも塗膜中に均一に分散させることが難しく、十分な性能を発現しない問題点があった。このような点から、添加剤を予め乳化剤を用いて水中に分散させ、塗膜中に均一に分散させる技術が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この場合、添加剤の経時的なブリードアウトが起こり、長期に渡って耐候性を維持することは困難である。
【0004】
また、分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を持つ反応性HALSを高濃度に共重合させたエマルションを多段重合法によって合成し、これを水系塗料へ添加して耐候性を向上する技術が提案されている(特許文献2、特許文献3参照)。しかし、この多段重合法により得られる共重合体は、最外層において高濃度に反応性HALSを共重合させているため、架橋反応が起こりやすく、成膜時のHALS成分の拡散性低下を招き、十分な耐候性向上能が得られる水性塗料の種類は限られてしまう問題があった。また、最外層における反応性HALSの濃度によっては十分な重合安定性および貯蔵安定性が得られない危険性もあった。
【特許文献1】特公平3−46506号公報
【特許文献2】特開2004−10805号公報
【特許文献3】特開2004−292748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、高い重合安定性および貯蔵安定性を有しつつ、極めて幅広い種類の水性塗料に対して適用可能であって、所定量を添加することにより、被添加水性塗料の耐候性能を飛躍的に向上させる水性塗料用耐候性向上材の提供、およびこの水性塗料用耐侯性向上剤を添加した高耐候な水性塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、上記問題を解決することを目的として鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を持つ単量体を重合して得られる組成物であって、さらに特定の重量平均分子量の範囲内にあるものは、高い重合安定性および貯蔵安定性を有しつつ、極めて幅広い種類の水性塗料に対して適用可能であって、所定量添加した場合、被添加水性塗料の耐候性を飛躍的に向上させることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明の水性塗料用耐候性向上材は、エチレン性不飽和単量体を多段乳化重合してなる共重合体粒子(α)の水性分散体であって、以下の条件を全て満たしていることを特徴とする水性塗料用耐侯性向上材である。
(1)最終段階で重合せしめるエチレン性不飽和単量体混合物(A)が、下記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)5〜60質量%と、単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体(b)40〜95質量%(但し(a)、(b)の合計は100質量%)からなること。
(2)カルボキシル基含有エチレン性単量体(c)を必須成分とするエチレン性不飽和単量体混合物(B)を最終段階以前のいずれかの段階で重合せしめること。
(3)共重合体粒子(α)中の(A)の含有率が10〜90質量%(ただし、共重合体粒子(α)中のエチレン性不飽和単量体混合物(A)及び(B)の合計は100質量%であること)の範囲であること。
(4)共重合体粒子(α)中の(a)の含有率が4.5〜50質量%(ただし、共重合体粒子(α)中のエチレン性不飽和単量体混合物(A)及び(B)の合計は100質量%であること)の範囲であること。
(5)共重合体粒子(α)を構成する共重合体成分のうち、(a)を含む重合体の重量平均分子量(Mw)が5,000〜300,000の範囲であること、または(a)を含む重合体と(c)を含む重合体の混合物の重量平均分子量(Mw)が10,000以上であること。
【0008】
【化1】

【0009】
(R1は水素原子または炭素数1〜2のアルキル基、Xは酸素原子またはイミノ基、Yは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシル基、Zは水素原子またはシアノ基を示す。)
【0010】
上記水性塗料用耐候性向上剤は、さらに共重合体粒子(α)を多段乳化重合する際に分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を持つ反応性乳化剤を含む場合に効果が向上し、使用する全ての乳化剤が反応性乳化剤である場合に特に向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水性塗料に添加した場合、塗膜からのブリードアウトがほとんどなく、光沢保持性、耐黄変性、耐水性等の耐候性を飛躍的に向上せしめる水性塗料用耐候性向上材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の水性塗料用耐候性向上材は、エチレン性不飽和単量体を多段乳化重合してなる共重合体粒子(α)の水性分散体であって、以下の条件を全て満たしていることを特徴とする水性樹脂である。
(1)最終段階で重合せしめるエチレン性不飽和単量体混合物(A)が、下記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)5〜60質量%と、単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体(b)40〜95質量%(但し(a)、(b)の合計は100質量%)からなること。
(2)カルボキシル基含有エチレン性単量体(c)を必須成分とするエチレン性不飽和単量体混合物(B)を最終段階以前のいずれかの段階で重合せしめること。
(3)共重合体粒子(α)中の(A)の含有率が10〜90質量%(ただし、共重合体粒子(α)中のエチレン性不飽和単量体混合物(A)及び(B)の合計は100質量%であること)の範囲であること。
(4)共重合体粒子(α)中の(a)の含有率が4.5〜50質量%(ただし、共重合体粒子(α)中のエチレン性不飽和単量体混合物(A)及び(B)の合計は100質量%であること)の範囲であること。
(5)共重合体粒子(α)を構成する共重合体成分のうち、(a)を含む重合体の重量平均分子量(Mw)が5,000〜300,000の範囲であること、または(a)を含む重合体と(c)を含む重合体の混合物の重量平均分子量(Mw)が10,000以上であること。
【0013】
【化2】

【0014】
(R1は水素原子または炭素数1〜2のアルキル基、Xは酸素原子またはイミノ基、Yは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシル基、Zは水素原子またはシアノ基を示す。)
【0015】
本発明の水性塗料用耐侯性向上材に用いられる最終段階用エチレン性不飽和単量体混合物(A)は当該水性塗料用耐侯性向上材を添加する水性塗料を構成する重合体との相溶性及び塗装皮膜の耐候性発現の点から、単量体混合物(A)を構成する全単量体量を100質量%としたとき、一般式(I)で表されるエチレン性不飽和単量体(a)が5〜60質量%の範囲である必要ある。単量体(a)の含有量が5質量%未満であると、共重合粒子(α)中の単量体混合物(A)の比率を最大限増やしたとしても、単量体(a)が低濃度となる為、耐候性を十分に向上する為には、当該水性塗料用耐侯性向上材を多量に添加する必要があり、塗料物性や塗膜物性に大きな変化を招き、好ましくない。また、60質量%より多い場合、重合安定性および貯蔵安定性を低下させると共に当該水性塗料用耐侯性向上材を添加する水性塗料の種類によっては十分な相溶性が得られない場合がある。より好ましい単量体(a)の含有量は、5〜50質量%である。単量体(a)としては、紫外線安定化機能を有するものを使用することができ、例えば、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。単量体(a)として一般式(I)におけるR1がメチル基であるメタクリレート系単量体を単独または2種以上組み合わせて用いることが、当該水性塗料用耐侯性向上材を含む水性塗料の耐候性向上の点から特に好ましい。
【0016】
単量体混合物(A)を構成する単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体(b)としては当該水性塗料用耐侯性向上材を添加する水性塗料に応じて、かかる水性塗料を構成する主たる単量体を単独または2種以上組み合わせて用いることが、当該水性塗料用耐侯性向上材を添加する水性塗料の諸特性維持の点から最も好ましいが、これらに限定されるものではない。単量体(b)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、p−t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−(3−)ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有ラジカル重合性単量体類;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールなどの窒素含有重合性単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン等のハロゲン含有単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族単量体;酢酸ビニル等のビニルエステル;ビニルエーテル;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸及びスルホエチル(メタ)アクリレート等の如きスルホン酸基含有単量体;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロプロピルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルフェニルリン酸等の酸性リン酸エステル系単量体等の酸性官能基含有不飽和単量体等を用いることができる。上記単量体は単独、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、本発明の水性塗料用耐侯性向上材を含む水性塗料の耐候性向上の点から、(メタ)アクリル酸エステル系不飽和単量体を用いることが好ましい。また、耐候性以外の性能を水性樹脂に付与したい場合には、要求性能に応じて、単量体(b)を選択すれば良い。
【0017】
また、本発明の水性塗料用耐侯性向上材は、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)を必須成分とするエチレン性不飽和単量体混合物(B)を最終段階の重合を行う前に重合せしめておく必要がある。カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)が必須成分として含まれない場合、高度な貯蔵安定性、機械的安定性を発揮しない場合がある。カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、フマル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル等を使用することができる。カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)の量については特に規定しないが、共重合粒子(α)中に0.2質量%以上あることが粒子の機械安定性、貯蔵安定性の点から好ましく、本水性塗料用耐侯性向上材を含む水性塗料の耐水性の点から、10質量%以下であることが好ましい。これらのカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)を含むエチレン性不飽和単量体混合物(B)を重合した場合、最終段階の重合を行う前に塩基性化合物の添加により中和し、予めpHを4.0以上に調製しておくことが重合安定性の点から好ましく、pHを7以上に調製しておくことが特に好ましい。中和に用いる塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1−アミノオクタン、2−ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、2−プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0018】
また、本発明の耐性向上材は、共重合体粒子(α)中のエチレン性不飽和単量体混合物(A)及び(B)の合計を100質量%とした時、単量体混合物(A)の含有率が10〜90質量%である必要がある。単量体混合物(A)の含有率が10質量%未満の場合、共重合体粒子(α)中の単量体(a)が低濃度となる為、耐候性を十分に向上する為には、当該水性塗料用耐侯性向上材を多量に添加する必要があり、塗料物性や塗膜物性に大きな変化を招き、好ましくない。また、単量体混合物(A)の含有率が90%を超えると単量体混合物(A)を重合する前段階でカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)を含む単量体混合物(B)を重合せしめても、単量体混合物(A)重合後の粒子表面において安定性に寄与するカルボキシル基の量が低下し、結果として機械安定性や貯蔵安定性に問題が生じる場合がある。
【0019】
また、本発明の水性塗料用耐侯性向上材は、共重合体粒子(α)中のエチレン性不飽和単量体混合物(A)及び(B)の合計を100質量%とした時、単量体(a)の含有量が4.5〜50質量%の範囲である必要がある。単量体(a)の含有量が4.5質量%未満であると、当該水性塗料用耐侯性向上材を含む水性塗料の耐候性を十分に向上する為には、当該水性塗料用耐侯性向上材を多量に添加する必要があり、塗料物性や塗膜物性に大きな変化を招く為、好ましくない。また、50質量%より多い場合、重合安定性および貯蔵安定性を低下させると共に当該水性塗料用耐侯性向上材を添加する水性塗料の種類によっては十分な相溶性が得られない場合がある。より好ましい含有量は、6〜48質量%である。
【0020】
また、本発明の水性塗料用耐侯性向上材は、共重合体粒子(α)を構成する共重合体成分のうち、単量体(a)を含む重合体の重量平均分子量(Mw)が5,000〜300,000の範囲であること、または単量体(a)を含む重合体と単量体(c)を含む重合体の混合重合体物の重量平均分子量(Mw)が10,000以上であることのいずれかの条件を満たす必要がある。
【0021】
単量体(a)を含む重合体の重量平均分子量(Mw)が5,000未満であると非反応性HALSと同様の理由、すなわち本発明の水性塗料用耐侯性向上材を含む水性塗料皮膜からのブリードアウトにより、長期に亘る耐候性能に問題が生じる場合がある。また、重量平均分子量(Mw)が300,000を超える場合は、当該水性塗料用耐侯性向上材を含む水性塗料における成膜過程において、十分な拡散性が得られず、当該水性塗料用耐侯性向上材を含む水生塗料の耐候性能が十分に向上しない危険性がある。最も好ましい重量平均分子量(Mw)は5,000〜200,000である。また、単量体(a)を含む重合体と単量体(c)を含む重合体の混合重合体物の重量平均分子量(Mw)が10,000未満であると、当該耐侯性向上材を含む水性塗料の耐候性が十分に向上しない場合がある。重量平均分子量(Mw)を調整する方法は特に規定しないが、開始剤量の調整による方法の他、連鎖移動剤を用いてもよい。重量平均分子量(Mw)調整に使用する連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー等の公知の連鎖移動剤を挙げることができる。連鎖移動剤の使用量は、使用する連鎖移動剤の種類や不飽和単量体の構成比に応じて変化させれば良い。上記連鎖移動剤は、単独、もしくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
また、本発明の水性塗料用耐侯性向上材に用いられる共重合体粒子(α)を乳化重合する際に使用される乳化剤としては、従来より知られる各種のアニオン性非反応性乳化剤、ノニオン性非反応性乳化剤、高分子乳化剤等が挙げられるが、これらの非反応性乳化剤と共に分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する反応性乳化剤を併用すると、本発明の水性塗料用耐侯性向上材を含む水性塗料において、より高度な耐水性、耐侯性が得られ、反応性乳化剤のみで重合すると、さらにその効果は顕著なものとなる。反応性乳化剤としては、例えば、旭電化社製商品名「アデカリアソープSR−10」、「同SE−10」、第一工業製薬社製商品名「アクアロンKH−05」、「同KH−10」、「同HS−10」等の反応性アニオン性乳化剤、例えば、旭電化社製商品名「アデカリアソープNE−10」、「同ER−10」、「同NE−20」、「同ER−20」、「同NE−30」、「同ER−30」、「同NE−40」、「同ER−40」、第一工業製薬社製商品名「アクアロンRN−10」、「同RN−20」、「同RN−30」、「同RN−50」等の反応性ノニオン性乳化剤などが挙げられる。これらは必要に応じて1種を単独、または2種以上を組み合わせて使用できる。特に高い機械安定性が必要とされる用途では反応性アニオン性乳化剤と反応性ノニオン性乳化剤を併用することが好ましい。乳化剤の量については特に規定しないが、本発明の水性塗料用耐侯性向上材を含む水性塗料の耐侯性、耐水性の点から、全単量体を100質量部とした時、0.5〜10質量部の範囲内で使用されることが好ましい。尚、本発明で言う、不飽和単量体の中には反応性乳化剤は含まないものとする。
【0023】
本発明の水性塗料用耐侯性向上材に用いられる共重合体粒子(α)は、例えば水媒体中で上記エチレン性不飽和単量体類(a)、(b)、(c)を用い、ラジカル性重合開始剤を用いて乳化重合することで作ることができる。なお共重合体粒子(α)は2層構造以上の多層構造であるが、生産効率および粒子径制御の観点から3層構造以下であることが好ましい。
【0024】
本発明の水性塗料用耐侯性向上材に用いられる共重合体粒子(α)を重合するための重合開始剤は、一般的にラジカル重合に使用されるものが使用可能であり、その具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類;2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}およびその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)およびその塩類2,2’−アゾビス(2−メチルプロピンアミジン)およびその塩類、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]およびその塩類等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類等が挙げられる。これらの開始剤は単独でも使用できるほか、2種類以上の混合物としても使用できる。また、重合速度の促進、70℃以下での低温の重合が望まれるときには、例えば、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、アスコルビン酸塩等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いると有利である。
【0025】
ラジカル重合開始剤の添加量は、通常、エチレン性不飽和単量体の全量に対して0.01〜10質量%の範囲であるが、単量体(a)の含有量等を考慮して上記重量平均分子量の範囲内になるよう変化させればよい。
【0026】
また、本発明の水性塗料用耐侯性向上材に用いられる共重合体粒子(α)の粒子径は特に規定しないが、重量平均粒子径で300nm以下であることが好ましい。重量平均粒子径が300nmを超えると、本発明の耐侯性向上材を添加する水性塗料の種類や成膜条件によっては、ラジカルトラップ能を有する官能基が十分に拡散できないために、高度な耐候性向上性能を発現しない場合がある。重量平均粒子径としては、170nm以下がより好ましく、140nm以下が特に好ましい。また乳化剤の増加による耐水性低下を防ぐ為には、重量平均粒子径が30nm以上であることが好ましい。
【0027】
また、本発明の水性塗料用耐侯性向上材に用いられる共重合粒子(α)を構成する、単量体(a)を含む重合体および単量体(c)を含む重合体のガラス転移温度(Tg)は特に規定しないが、いずれの重合体においても100℃以下であることが好ましい。特に単量体(a)を含む重合体のガラス転移温度(Tg)が100℃を超えると本発明の耐侯性向上材を含む水性塗料において、十分な造膜性が得られない場合があり、耐水性や耐侯性を低下させる要因となりえる。単量体(a)を含む重合体および単量体(c)を含む重合体のガラス転移温度(Tg)として、好ましくは70℃以下であり、50℃以下がより好ましい。なお、上記ガラス転移温度(Tg)としてはFoxの計算式により求められる計算ガラス転移温度を使用する。Foxの式とは、以下に示すような、共重合体のガラス転移温度(℃)と、共重合モノマーのそれぞれを単独重合したホモポリマーのガラス転移温度(℃)との関係式である。
【0028】
1/(273+Tg)=Σ(Wi/(273+Tgi))
[式中、Wiはモノマーiの質量分率、TgiはモノマーiのホモポリマーのTg(℃)を示す。]
【0029】
なお、ホモポリマーのTgとしては、具体的には、「Polymer Handbook 3rd Edition」(A WILEY−INTERSCIENCE PUBLICATION、1989年)に記載された値を使用することができる。
【0030】
本発明の水性塗料用耐侯性向上材は、最終段階重合前に十分に中和をした場合を除き、重合後、塩基性化合物の添加により系のpHを弱アルカリ性、すなわちpH7.5〜10.0程度の範囲に調整することで系の安定性を高めることができる。この塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1−アミノオクタン、2−ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、2−プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。VOCを含まないことが望まれる内装用途などの場合は、無機系塩基化合物を用いることが好ましい。さらに僅かな臭気もないことが望まれる場合は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の不揮発性無機系塩基化合物を用いることが好ましい。
【0031】
本発明の水性塗料用耐侯性向上材は、通常、固形分20〜80質量部の範囲で使用されるが、これらに限定されるものではなく、本発明の水性塗料用耐侯性向上材を添加する水性塗料の粘度に応じて使用すればよい。本発明の水性塗料用耐侯性向上材は、(メタ)アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系、アルキッド系等の各種水性塗料に対して、使用することができ、水性塗料の目標耐候性能に応じて添加量を変えることができる。添加量については特に規定されないが、被添加水性塗料に対し、1〜50質量部の範囲で使用することが好ましい。添加量が1質量部未満では、当該水性塗料用耐侯性向上材を含む水性塗料の耐候性能が十分向上しない場合がある。50質量部を超える場合は本発明の水性塗料用耐侯性向上材を含む水性塗料の特性のうち1つ以上を大幅に低下させる危険ある。また、本発明の水性塗料用耐侯性向上材は、同一組成の樹脂を単独で使用しても、組成の異なる樹脂を2つ以上組み合わせて使用しても良い。また、本発明の水性塗料用耐侯性向上材およびそれを含む水性塗料に高度な性能を発現させるために、各種顔料、消泡剤、顔料分散剤、レベリング剤、たれ防止剤、艶消し剤、非反応性HALS、非反応性紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、スリップ剤、防腐剤などを添加しても良い。
【0032】
本発明の水性塗料用耐侯性向上材を含む水性塗料を用いて各種材料の表面に塗膜を形成する為には、例えば、噴霧コート法、ローラーコート法、バーコート法、エアナイフコート法、刷毛塗り法、ディッピング法等の公知の塗装法を適宜選択して実施すればよい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」は質量基準である。
【0034】
実施例1〜10、比較例1〜11は水性塗料用耐侯性向上材として評価した水性樹脂、参考例1〜5は水性塗料のベースとなる水性樹脂に関する。これら水性樹脂としての評価は、下記方法に従って以下の項目について試験を実施した。
【0035】
<試験方法>
(1)機械安定性試験
実施例1〜10、比較例1〜11、参考例1〜5の水性樹脂について、各100gをマローン試験機にて15Kgのシェアをかけて20分間試験を行い、100メッシュのナイロン紗によってろ過し、その残渣の量を測定し、以下の基準で評価をした。
「◎」 :残渣の量が0.01g未満であるかほとんど見られない。
「○」 :残渣の量が0.01g以上0.1g未満である。
「△」 :残渣の量が0.1g以上0.5g未満である。
「×」 :残渣の量が0.5g以上である、または試験中にゲル化する。
【0036】
(2)貯蔵安定性
実施例1〜10、比較例1〜11、参考例1〜5の水性樹脂について、各200gをガラスビンに入れ50℃の恒温水槽に2週間入れる。その後取り出し、凝固物の有無と粘度を確認し、以下の基準で評価をした。
「◎」 :凝固物も無く、粘度の変化率は±20%未満である。
「○」 :凝固物も無く、粘度の変化率は±20%以上±35%未満である。
「△」 :凝固物も無く、粘度の変化率は±20%以上±50%未満である。
「×」 :凝固物が見られる。
【0037】
(3)重合安定性
実施例1〜10、比較例1〜11、参考例1〜5において重合時のカレットについて、100メッシュのナイロン紗で濾過捕集し、50℃の乾燥炉で24時間乾燥させその重量を測定し、以下の基準で評価した。
「◎」 :ドライ状態のカレット量が100ppm未満である。
「○」 :ドライ状態のカレット量が100ppm以上1000ppm未満である。
「△」 :ドライ状態のカレット量は1000ppm以上であるが、重合可能。
「×」 :不安定な為、重合不可能。
【0038】
(4)重量平均分子量(Mw)
実施例1〜10、比較例1〜11、参考例1〜5について、各0.1gをサンプル瓶に採取し、テトラヒドロフラン(THF)10gを添加して室温で一晩放置する。調製した試料溶液を東ソー(株)製「HLC−8120」を用いて以下の条件にて測定し、標準ポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)を得た。
【0039】
カラム:TSK−gel TSL−gel SuperHM−M×4本(6.0mmI.D.×15cmL)
溶離液:THF
流量:0.6ml/min
注入量:20μl
カラム温度:40℃
検出器:RI
【0040】
(5)溶解性試験
実施例1〜10、比較例1〜11について、GPC測定にて分離カラムより溶出した試料の全量を回収し、THF溶媒を揮発除去後、熱分解ガスクロマトグラフ/質量分析法を用いて溶解成分の定性分析を実施した。装置名、条件などは以下の通りである。
装置:ガスクロマトグラフ質量分析計:アジレント テクノロジー(株)製
6890/5973N
熱分解装置:フロンティア・ラボ(株)製 商品名「ダブルショット・パイロライザー PY−2010D」
分離カラム:フロンティア・ラボ(株)製 金属キャピラリーカラム UA−5
30m×0.25mmi.d. 膜厚:0.25μm
熱分解温度:550℃
注入口温度:300℃
オーブン温度:40℃(2分保持)→10℃毎分で昇温→300℃(10分保持)
キャリヤーガス:ヘリウム
ガス流量:1.0ml/min(コンスタントフロー)
イオン化法:電子衝撃イオン化法
検出モード:スキャンモード
スキャン範囲(m/z):33〜500
【0041】
上記分析条件で溶出した成分を分析したところ、溶出成分は3種の形別に分けることができた。すなわち、1つ目にはGPCから溶出した成分が共重合体粒子(α)を回収して得られる組成とほぼ一致し、単量体(a)を含む重合体と単量体(c)を含む重合体を合わせた組成であり、共重合粒子(α)を構成する重合体がすべて溶解すると考えられるものである。2つ目は、回収した成分が単量体(a)をほぼ含有していないと判断されるものであって、単量体(a)を含む重合体が架橋構造を形成するか超高分子量化することによって不溶化した一方、単量体(c)を含む重合体は溶媒に可溶であると判断されるものである。3つ目には、単量体(c)の含有量が少ない反面、単量体(a)の比率が高いものであり、単量体(c)を含む重合体が架橋剤によって不溶化した一方、単量体(a)を含む重合体は溶媒に可溶と判断されるものである。以上の結果を考慮し、溶解性は以下の基準で評価した。
【0042】
(A):単量体(a)を含む重合体および単量体(c)を含む重合体の両方が可溶と判断される。
(B):単量体(c)を含む重合体は可溶であるが、単量体(a)を含む重合体は実質的に不溶であると判断される。
(C):単量体(c)を含む重合体は実質的に不溶であるが、単量体(a)を含む重合体は可溶と判断される。
また、水性塗料としての試験については、下記方法で成膜用塗料を調製後、下記方法に従って試験を実施した。
【0043】
<クリアー塗料の調製>
実施例1〜10、比較例1〜11の水性樹脂を参考例1〜5の各種水性塗料用ベース樹脂に対し下表2に記載の比率にて配合する。調製した耐候性評価用ベース樹脂100g100gに対し、造膜助剤として「CS−12」(商品名、チッソ(株)製、造膜助剤)を最低造膜温度が5℃となるまで加え、「SPシールH」(商品名、(株)カレイド製、シリカ系つや消し剤)10g、「RHEOLATE350」(商品名、RHEOX(株)製、増粘剤)を0.5g、「サーフィノールDF−58」(商品名、エア・プロダクツ(株)製、消泡剤)0.5gを加え、十分に攪拌し100メッシュナイロン紗を用いてろ過を行い、評価用クリアー塗料を得た。
【0044】
<クリアー試験板の作成>
リン酸亜鉛処理鋼鈑(ボンデライト#100処理鋼鈑、板厚0.8mm、70mm×150mm)に上記で作成した塗料を乾燥膜厚が50μmになるようにスプレー塗装し、その後室温で1時間放置し、80℃で1時間強制乾燥したものを、耐候性試験、耐候性向上性試験の試験塗板とした。
【0045】
<白エナメル塗料の調製>
「タイペークCR−97」(商品名、石原産業(株)製、塩素法酸化チタン)707g、「アデカコールW−193」(商品名、旭電化工業(株)製、顔料分散剤)12g、「サーフィノールDF−58」(商品名、エア・プロダクツ(株)製、消泡剤)25g、脱イオン水256gを十分に混合し、ガラスビーズを加えて高速分散機で30分間顔料分散を行い、次いでガラスビーズ等を300メッシュナイロン紗で濾別し、評価用ミルベースを得た(固形分71質量%)。
【0046】
次に、実施例1〜10、比較例1〜11の水性樹脂を参考例1〜5の各種水性塗料用ベース樹脂に対し下表2に記載の比率にて配合した耐候性評価用ベース樹脂100g(固形分50質量%基準)に対し、造膜助剤として「CS−12」(商品名、チッソ(株)製、造膜助剤)を最低造膜温度が5℃となるまで加え、上記の評価用ミルベースを47g、「RHEOLATE350」(商品名、RHEOX(株)製、増粘剤)を0.5g、順に加え、十分に攪拌し、フォードカップ#4で30秒程度になるように脱イオン水を加えて調整した。その後、再度300メッシュナイロン紗を用いてろ過を行い、PWC=40%の評価用白エナメル塗料を得た。
【0047】
<エナメル試験板の作成>
リン酸亜鉛処理鋼鈑(ボンデライト#100処理鋼鈑、板厚0.8mm、70mm×150mm)に上記で作成した塗料を乾燥膜厚が50μmになるようにスプレー塗装し、その後室温で1時間放置し、80℃で1時間強制乾燥したものを、耐候性試験、チョーキング試験、耐候性向上性試験、顔料分散性試験の試験塗板とした。
【0048】
(6)耐候性試験
上記で作成した試験塗板を、評価装置「ダイプラ・メタルウエザーKU−R4−W型」(商品名:ダイプラ・ウィンテス(株)製)にこの試験板を入れ、試験サイクル:照射6時間/結露2時間、UV強度:85mW/cm2、ブラックパネル温度:照射時63℃/結露時30℃、湿度:照射時50%RH/結露時96%RHの条件で、1500時間経過後の60゜グロスの光沢保持率を耐候性の指標とし、以下の基準で判定した。
【0049】
なお、60゜グロスは日本電色工業(株)製変更光沢計「VG−2000型」を用いて測定した。
「◎」 :80%以上。
「○」 :70%以上、80%未満。
「○△」 :60%以上、70%未満。
「△」 :50%以上、60%未満。
「×」 :30%以上、50%未満。
「××」 :30%未満。
【0050】
(7)耐水性試験
ガラス板上に8MILアプリケーターを用いてクリアー塗料を塗布し、その後室温にて1時間乾燥させた後、80℃で1時間強制乾燥したものを、耐温水性評価用の塗板とした。評価塗板を室温(約20℃)にて水に1週間浸漬させた。取り出し直後の塗膜白化を目視で確認し、以下の基準で判定した。
「◎」 :全く白化が見られない。
「○」 :わずかに白化が見られる。
「△」 :白化が見られる。
「×」 :著しい白化が見られる。
【0051】
(8)相溶性試験
ガラス板上に8MILアプリケーターを用いてクリアー塗料を塗布し、その後室温にて1時間乾燥させた後、80℃で1時間強制乾燥したものを、相溶性評価用の塗板とした。塗膜の状態を目視で確認し、以下の基準で判定した。
「○」 :ヘイズはまったく確認されない。
「△」 :僅かにヘイズが見られる。
「×」 :著しいヘイズが見られる。
【0052】
(9)チョーキング試験
1500時間促進耐侯試験後の塗膜のチョーキング状態を目視で評価し、以下の基準で判定した。
「○」 :チョーキングなし。
「△」 :僅かにチョーキングが見られる。
「×」 :著しいチョーキングが見られる。
【0053】
(10)耐候性向上評価
<クリアー>
「◎」 :耐候性評価において、未添加塗膜の耐候性を3段階以上向上させ、耐水性も低下させない。
「○」 :耐候性評価において、未添加塗膜の耐候性を2段階向上させ、耐水性も低下させない。
「△」 :耐候性評価において、未添加塗膜の耐候性を2段階向上させるが、耐水性は低下させる。もしくは、耐候性を1段階向上させる。
「×」 :耐候性を向上させない。
【0054】
<エナメル>
「◎」 :耐候性評価において、未添加塗膜の耐候性を3段階向上させる。
「○」 :耐候性評価において、未添加塗膜の耐候性を2段階向上させる。
「△」 :耐候性評価において、未添加塗膜の耐候性を1段階向上させる。
「×」 :耐候性を向上させない。
【0055】
<実施例>
(実施例1)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプおよび窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水60部を仕込む。続いて全段の乳化物を足し合わせた物の5質量%に相当する量を表1記載の1段目重合用乳化物(乳化物(I))から量りとり、反応容器内に仕込み、反応容器内部を窒素で置換しながら75℃まで昇温した後、過硫酸アンモニウム(重合開始剤)0.1部を1部の水に溶解した開始剤溶液を加えシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、乳化物(I)の残りを内温75℃で4時間かけて滴下し、1時間熟成後25質量%アンモニア水をpH4になるまで添加し、乳化物(II)を内温75℃で4時間かけて滴下する。滴下後内温75℃のまま2時間熟成することで残存モノマーの低減を行い、共重合体粒子(α)を形成した。
【0056】
その後冷却を行い、60℃以下の温度で25質量%アンモニア水をpH9になるまで添加し、固形分(NV)が50%となるように適量の脱イオン水を加え、水性樹脂を得た。得られた本発明の水性樹脂の固形分(NV)、pH、粘度、MFT、ガラス転移温度(Tg)、重量平均分子量(Mw)は下記表1に示す通りであった。
【0057】
(実施例2〜6、8〜10)
実施例1と同様な方法で、表1に示された組成の水性樹脂を調製した。得られた本発明の水系樹脂の固形分(NV)、pH、粘度、MFT、ガラス転移温度(Tg)、重量平均分子量(Mw)は下記表1に示す通りであった。
【0058】
(実施例7)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプおよび窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水60部を仕込む。続いて全段の乳化物を足し合わせた物の5質量%に相当する量を乳化物(I)から量りとり、反応容器内に仕込み、反応容器内部を窒素で置換しながら60℃まで昇温した後、「パーブチルH−69」(商品名、日本油脂社製)0.2部を加え、続いてホルムアルデヒドスルホキシレート0.02部、第一硫酸鉄0.001部、エチレンジアミンテトラアセテート0.002部を1部の水で溶解した還元剤水溶液を加えてシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、乳化物(I)の残りとホルムアルデヒドスルホキシレート0.15部を3部の水で溶解した還元剤水溶液を内温65℃で4時間かけて滴下し、1時間熟成後25質量%アンモニア水をpH4になるまで添加し、乳化物(II)とホルムアルデヒドスルホキシレート0.15部を3部の水で溶解した還元剤水溶液を内温65℃で4時間かけて滴下する。さらに内温65℃のまま2時間熟成し、共重合体粒子(α)を形成した。
【0059】
その後冷却を行い、60℃以下の温度で25質量%アンモニア水をPH9になるまで添加し、固形分が50%となるように適量の脱イオン水を加え、水性樹脂を得た。得られた本発明の水系樹脂の固形分(NV)、pH、粘度、MFT、ガラス転移温度(Tg)、重量平均分子量(Mw)は下記表1に示す通りであった。
【0060】
(比較例1)
実施例1と同様な方法で、表1に示された組成の水性樹脂を調製した。得られた本発明の水性樹脂の固形分(NV)、pH、粘度、MFT、ガラス転移温度(Tg)、重量平均分子量(Mw)は下記表1に示す通りであった。
【0061】
(比較例2〜11)
実施例1と同様な方法で、表1に示された組成の水性樹脂を調製した。得られた本発明の水系樹脂の固形分(NV)、pH、粘度、MFT、ガラス転移温度(Tg)、重量平均分子量(Mw)は下記表1に示す通りであった。
【0062】
(参考例1)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプおよび窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水45部、表1に示す割合で配合された乳化物(I)の5質量%を反応容器内に仕込み、反応容器内部を窒素で置換しながら75℃まで昇温した後、過硫酸アンモニウム(重合開始剤)0.1部を1部の水に溶解した開始剤溶液を加えシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、乳化物(I)の残りを内温75℃で4時間かけて滴下し、さらに内温75℃のまま2時間熟成することで乳化物(I)の単量体の重合を行い、共重合体粒子(α)を形成した。
【0063】
その後冷却を行い、60℃以下の温度で25質量%アンモニア水をpH=9になるまで添加し、水性樹脂を得た。得られた本発明の水性樹脂の固形分(NV)、pH、粘度、MFT、ガラス転移温度(Tg)、重量平均分子量(Mw)は下記表1に示す通りであった。
【0064】
(参考例2〜4)
参考例1と同様な方法で、表1に示された組成の乳化物(I)を調製し、同様に水性樹脂を得た。得られた水性樹脂の固形分(NV)、pH、粘度、MFT、ガラス転移温度(Tg)、重量平均分子量(Mw)は下記表1に示す通りであった。
【0065】
(参考例5)
オクタメチルシクロテトラシロキサン95部と、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン5部、水310部およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.7部からなる組成物をホモミキサーで予備混合した後、圧力式ホモジナイザーによる200kg/cm2の圧力で強制乳化してシリコーン原料エマルジョンを得た。
【0066】
次いで、水50部およびドデシルベンゼンスルホン酸5部を攪拌機、コンデンサー、加熱ジャケットおよび滴下ポンプを備えたフラスコに仕込み、攪拌下に、フラスコ内の温度を85℃に保ちながら5時間かけて上記のシリコーン原料エマルジョンを滴下した。滴下終了後、さらに1時間重合を進行させた後、冷却してアンモニア水を加えてpH=7に中和し、ポリオルガノシロキサン重合体の水性分散体を得た。この固形分は20%であった。
【0067】
攪拌機、コンデンサー、温度制御装置、滴下ポンプおよび窒素導入管を備えたフラスコ内に、得られたポリオルガノシロキサン重合体の水性分散体を固形分換算で5部、および表2に示す単量体(a)のうちn−BMA12部、BA17部、2−EHA17部を加えて40分間窒素雰囲気下で攪拌する。その後槽内を60℃に昇温し、パーブチルH69(t−ブチルハイドロパーオキサイドの69%水溶液 日本油脂(株)製)0.1部、ついで硫酸第一鉄0.0002部、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム塩0.0004部、そしてロンガリット0.02部を溶解させた水1部を加えて重合を開始させた。開始1時間後に槽内温度を80℃に昇温し、さらに2時間反応させた後、表1に示す単量体(a)の残りと乳化剤および水10部を混合してなる乳化分散液と、単量体(a)に対して0.001質量%に相当する過硫酸アンモニウムと水10部の水溶液を2時間かけて滴下した。その後80℃にて60分保持した後、室温まで冷却、表2に示す中和塩基を添加してpHを9に調整して異相構造型重合体を得た。得られた水性樹脂の固形分(NV)、pH、粘度、MFTは下記表1に示す通りであった。
【0068】
(実施例11)
実施例1の水性樹脂10gと参考例4の水性塗料90gを密栓可能なガラス瓶に採取し、ガラス棒で5分間十分に攪拌し、密栓して一晩放置し、耐侯性評価用ベース樹脂を調整した。上記クリアー塗料の調製に記載の方法でクリアー塗料を上記エナメル塗料の調製に記載の方法でおよびエナメル塗料を作成した。上記クリアー試験板の作成、エナメル試験板の作成記載の方法で試験板を作成し、耐侯性に供した。また耐水性、相溶性試験の項目に記載の方法で試験板を作成し、耐水性、相溶性試験に供した。耐侯性、耐水性、耐侯性向上性、相溶性試験の結果は表2に記載の通りであった。
【0069】
(実施例12〜21)
下表2に示された比率で、実施例11と同様な方法で塗料を作成し、耐侯性、耐水性、相溶性試験に供した。耐侯性、耐水性、耐侯性向上性、相溶性試験の結果は表2に記載の通りであった。
【0070】
(比較例12〜16)
参考例1〜5の水性樹脂を耐侯性評価用ベース樹脂とし、実施例11と同様な方法で塗料を作成し、耐侯性、耐水性試験に供した。耐侯性、耐水性試験の結果は表2に記載の通りであった。
【0071】
(比較例17〜27)
下表2に示された比率で、実施例11と同様な方法で塗料を作成し、耐侯性、耐水性、相溶性試験に供した。耐侯性、耐水性、耐侯性向上性、相溶性試験の結果は表2に記載の通りであった。
【0072】
実施例1〜10、比較例1〜11で得た水性樹脂について、固形分(NV)、粘度、共重合粒子(α)の平均粒子径、重合安定性評価結果、機械安定性試験結果、貯蔵安定性試験結果を下記表1(表1−1〜1−4)にまとめて示す。最低造膜温度(MFT)は、各水性樹脂3gを用いて、高林理化(株)製最低造膜温度測定装置にて、「JIS K 6828 5.11」準拠の方法でMFTを測定した。粘度は、水性樹脂の温度を25℃にし、東機産業(株)社製「R−100型粘度計」にて測定した値を用いた。平均粒子径は、濃度1%に調整した試料を大塚電子(株)社製濃厚系アナライザー「FPAR−1000」を用い、25℃にて測定して得られた値を用いた。さらに、実施例11〜21、比較例12〜27で調製した水性塗料の耐水性、耐候性評価試験結果を表2(表2−1〜2−3)にまとめて示す。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
MMA:メチルメタクリレート
St:スチレン
t−BMA:ターシャリーブチルメタクリレート
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
n−BMA:ノルマルブチルメタクリレート
n−BA:ノルマルブチルアクリレート
2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
AA:アクリル酸
MAA:メタアクリル酸
HALS1:4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン
HALS2:4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン
E−118B:非反応型アニオン性界面活性剤「ラテムルE−118B」(商品名、花王(株)製)
SR−10:反応型アニオン性界面活性剤「アデカリアソープSR−10」(商品名、旭電化(株)製)
ER−30:反応型ノニオン性界面活性剤「アデカリアソープER−30」(商品名、旭電化(株)製)
NDM:ノルマルドデシルメルカプタン
【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
【表7】

【0081】
表1及び表2から明らかなように、本実施例の共重合体(水性樹脂)は、機械安定性、貯蔵安定性、重合安定性に優れると共に、各種水性塗料に添加した場合、顕著な耐候性向上が図れる。
【0082】
これに対して、比較例の共重合体(水性樹脂)は、本発明の特定の組成範囲に入っていないものであり、重合安定性や貯蔵安定性が劣り、またこれらの特性が実用上十分なものであったとしても水性塗料に添加した場合、耐候性向上機能が十分ではない。
【0083】
したがって、本発明によれば、重合安定性、機械的安定性、貯蔵安定性が良く、顕著な耐候性向上機能を有する水性塗料用耐候性向上材および高耐候な水性塗料を提供できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の水性樹脂は、セメントモルタル、スレート板、石膏ボード、押し出し成形板、発泡性コンクリート、金属、ガラス、磁器タイル、アスファルト、木材、防水ゴム材、プラスチック、珪酸カルシウム基材等の各種素材の表面仕上げに使用される水性塗料に添加することにより、長期間に渡って耐候性を向上させることができ、工業上極めて有益なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和単量体を多段乳化重合してなる共重合体粒子(α)の水性分散体であって、以下の条件を全て満たしていることを特徴とする水性塗料用耐候性向上材。
(1)最終段階で重合せしめるエチレン性不飽和単量体混合物(A)が、下記一般式(I)で表される、分子内にピペリジル基を持つエチレン性不飽和単量体(a)5〜60質量%と、単量体(a)以外のエチレン性不飽和単量体(b)40〜95質量%(但し(a)、(b)の合計は100質量%)からなること。
(2)カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(c)を必須成分とするエチレン性不飽和単量体混合物(B)を最終段階以前のいずれかの段階で重合せしめること。
(3)共重合体粒子(α)中の(A)の含有率が10〜90質量%(ただし、共重合体粒子(α)中のエチレン性不飽和単量体混合物(A)及び(B)の合計は100質量%であること)の範囲であること。
(4)共重合体粒子(α)中の(a)の含有率が4.5〜50質量%(ただし、共重合体粒子(α)中のエチレン性不飽和単量体混合物(A)及び(B)の合計は100質量%であること)の範囲であること。
(5)共重合体粒子(α)を構成する共重合体成分のうち、(a)を含む重合体の重量平均分子量(Mw)が5,000〜300,000の範囲であること、または(a)を含む重合体と(c)を含む重合体の混合物の重量平均分子量(Mw)が10,000以上であること。
【化1】

(R1は水素原子または炭素数1〜2のアルキル基、Xは酸素原子またはイミノ基、Yは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基またはアルコキシル基、Zは水素原子またはシアノ基を示す。)
【請求項2】
多段乳化重合する際に使用される乳化剤として、分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する反応性乳化剤を含むことを特徴とする請求項1記載の水性塗料用耐候性向上材。
【請求項3】
多段乳化重合する際に使用される乳化剤として、分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する反応性乳化剤を用いることを特徴とする請求項1記載の水性塗料用耐候性向上材。
【請求項4】
請求項1または2または3記載の水性塗料用耐侯性向上材を含有することを特徴とする水性塗料。

【公開番号】特開2007−231164(P2007−231164A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54805(P2006−54805)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】