説明

水性塗料組成物、有機無機複合塗膜及びその製造方法

【課題】 耐水性、透明性、及び耐磨耗性などの諸物性を高いレベルで同時に備える有機無機複合塗膜とその製造方法、及びそれを与えることができる保存安定性が良好な水性塗料組成物を提供すること。
【解決手段】 カチオン性樹脂(A)の水性分散体と、金属アルコキシド又はその縮合物(B)と、酸触媒(C)とを含有することを特徴とする水性塗料組成物、金属酸化物(B’)からなるマトリクス中に、カチオン性樹脂(A)からなる粒子が分散していることを特徴とする有機無機複合塗膜、及びカチオン性樹脂(A)の水分散体に酸触媒(C)を添加した後、金属アルコキシド又はその縮合物(B)を加えて得られる水性塗料組成物を基板上に塗布し、乾燥することで、カチオン性樹脂(A)からなる粒子が、金属酸化物(B’)からなるマトリクス中に分散している複合塗膜を作製することを特徴とする有機無機複合塗膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機成分と無機成分とを含有する水性塗料組成物、及びこれを用いて得られる有機無機複合塗膜とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング材料、成形材料などの分野では、柔軟性・成形加工性などの取扱い性と、硬さ・耐熱性・耐候性等の耐用性とを同時に実現する必要性が高まっている。このような、通常では同時に達成しにくい諸特性を同時に発揮し得る材料として、有機ポリマーと無機ポリマーとの有機無機複合体が知られている。この有機無機複合体は、有機ポリマーの特徴である柔軟性や成形加工性等と、無機ポリマーの特徴である硬さ、耐熱性、耐候性等とを同時に発揮し得ると考えられており、従来、有機ポリマーを無機ポリマーであるシリコーン樹脂により変性したシリコーン変性樹脂について種々の検討がなされてきた。ところが、このようなシリコーン変性樹脂は、シリコーンの含有率を高めることが困難であり、このため、耐熱性や硬度といったシリコーンによる特性を十分に発揮させうるものではなく、また、利用可能なシリコーン樹脂の種類に制約があり、価格も高いものであった。
【0003】
そこで、上述のようなシリコーン変性樹脂に代わるものとして、アルコキシシランの加水分解縮合反応によるゾル−ゲル法を利用する方法がある。具体的には、有機ポリマーの存在下でアルコキシシランの加水分解と重縮合とを同時に進行させ、これにより有機ポリマーと無機ポリマーとを複合化する方法である。
【0004】
このような方法としては、例えば、ポリウレタンと加水分解性アルコキシシランとを含有するアルコールゾル溶液を基材に塗布し、乾燥することによって、有機無機複合塗膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。これは、塗装後、乾燥する際に、空気中の水分等によって該アルコキシシランがシリカ微粒子となりながら、粒子表面のシラノール基とポリウレタンとが水素結合やエステル結合を形成することによって複合化することによるものであり、ポリウレタンのマトリクス中にシリカ微粒子が均一に分散した塗膜が得られる。しかしこの方法では、有機溶媒であるアルコールを使用していることから、環境への負荷が大きいといった問題点があり、また空気中の水分を利用する点から、使用環境(温度・湿度)によって得られる複合体(塗膜)の性能にブレが生じる可能性があり、実用上問題がある。
【0005】
また、ヒドロキシ基及び/又はアミノ基を有するポリウレタンと加水分解性アルコキシシランとを含有する組成物を用いることにより、ポリウレタンの有する柔軟性を保持した耐熱性に優れる有機無機複合体である塗膜が得られることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。これは、ポリウレタン中のハードセグメントドメインにシリカを複合させることによって、ソフトセグメントが有する柔軟性を損なわないで塗膜全体としての耐熱性を向上させようとしたものであるが、その構造上、均一塗膜でないことが明らかであり、シリカ成分を多く含有させると相分離が発生しやすく、耐摩耗性に優れた複合体(塗膜)を得ることはできなかった。
【0006】
更に、ヒドロキシ基を有する有機化合物の水混和物とポリアルコキシシランと触媒とを含む組成物を用いることによって、透明均一で硬質かつ耐水性を有する有機無機複合塗膜を得ることができることも報告されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、該組成物は保存中にもポリアルコキシシランの加水分解と縮合反応が進行し続けるために保存安定性が悪く、また、得られる塗膜は鉛筆硬度(2H〜6H程度)を満たすレベルでの硬さでしかなく、有機無機複合塗膜として要求される耐摩耗性に値する塗膜ではない。更に、アミノプラスト樹脂等の硬化剤を併用しなければ、90℃1時間の耐熱水性試験において白化が起こりやすいことが示されているが、該硬化剤を用いることによって塗料用組成物の保存安定性は更に悪くなる。即ち、塗料用組成物として、保存安定性と得られる塗膜の十分な性能とを兼備するものでなく、更なる改良が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開平6−136321号公報
【特許文献2】特開2001−64346号公報
【特許文献3】特開平8−319457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、耐水性、透明性、及び耐磨耗性などの諸物性を高いレベルで同時に備える有機無機複合塗膜とその製造方法、及びそれを与えることができる保存安定性が良好な水性塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、鋭意検討を行ったところ、カチオン性の樹脂の存在下で、金属アルコキシドのゾル−ゲル反応を行うことによって、ナノスケールで有機成分と無機成分との複合化を達成することができ、且つ該複合体からなる塗膜は上記性能を有することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、カチオン性樹脂の水性分散体と、金属アルコキシド又はその縮合物と、酸触媒とを含有することを特徴とする水性塗料組成物を提供するものである。
【0011】
更に、本発明は、金属酸化物からなるマトリクス中に、カチオン性樹脂の粒子が分散していることを特徴とする有機無機複合塗膜、及び簡便な方法で該有機無機複合塗膜を製造する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保存安定性が良好な有機成分と無機成分とを含有する水性塗料組成物を提供することができる。該水性塗料組成物を用いて得られる塗膜は、高い耐磨耗性、耐水性と透明性とをバランス良く有する有機無機複合塗膜であって、その製造方法も簡便である。該塗膜は、自動車用、建材用、木工用、プラスチックハードコート用等の各種の用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の水性塗料組成物は、カチオン性樹脂(A)の水性分散体と、金属アルコキシド又はその縮合物(B)と、酸触媒(C)とを含有することを特徴とする。
【0014】
自然界での珪藻類、スポンジ類生き物(いわゆる、バイオシリカ)の多くは、シリカと有機物質との複合膜で自分たちの細胞を保護していることが最近の研究から知られている。特に、バイオシリカの複合膜では、シリカがカチオン性ポリマーまたはカチオン性タンパク質と複合されることにより、その膜の機能が発現されることが示唆された(W.E.G.Muller Ed.,Silicon Biomineralizattion:Biology−Biotechnology−Molecular Biology−Biotechnology,2003,Springer)。カチオン性ポリマー又はカチオン性タンパク質の働きについて未だに完全解明されてないが、基本的に、シリカ縮合化における触媒効果、シリカゾル形成とゾル融合における空間次元の誘導(即ち、一定形状のハイブリッド膜を形成すること)、ナノレベルハイブリッド構造形成におけるポリマーとシリカとの接着効果などを有すると考えられている。
【0015】
有機無機複合塗膜創製において、バイオシリカの仕組みを理解した上での設計思想は極めて重要であると考えられる。特に、バイオシリカに複合される多くのカチオン性タンパク質は、親水表面を持っていても、実は水中不溶である特徴を有する。本発明者らは、この点に着目し、それをカチオン性の表面を持つ樹脂粒子と同類化することを考案した。即ち、本発明では、カチオン性ポリマーとしてカチオン性樹脂(A)の水性分散体を用いることにより、該カチオン性樹脂の存在下で金属アルコキシド又はその縮合物(B)の酸触媒(C)によるゾル−ゲル反応を行うことで、有機成分であるカチオン性樹脂からなる微粒子と、無機成分である金属アルコキシド又はその縮合物から得られる金属酸化物のマトリックスとを、高度に複合化させ得ることを見出したことに基づくものである。
【0016】
本発明の水性塗料組成物において、金属アルコキシド又はその縮合物(B)の初期加水分解は酸触媒(C)によって促進されるが、その後の縮合反応はカチオン性樹脂(A)により抑制され、系全体は、金属ゾル表面のヒドロキシ基と、カチオン性樹脂(A)水性分散体の樹脂微粒子表面のカチオンとのイオン的な相互作用に支配される。その結果、ゾルの成長は一定の大きさで止まり、カチオン性樹脂(A)水性分散体の微粒子表面にアニオンゾルが濃縮され、安定性が良好な水性分散液を得ることができる。この水性分散液を塗装することにより、金属酸化物を連続相とするゲル化膜が形成され、その連続相中に、カチオン性樹脂(A)からなる樹脂微粒子が凝集されずに粒子一個一個が均一に分散し複合化された、ナノオーダーの繰り返し構造を有する塗膜を得ることができる。このようにして得られた塗膜では、有機成分と無機成分の複合効果が最大限に発現され、耐摩耗性・耐水性などの塗膜物性が大きく向上する。このような構造およびその構造由来の効果は、アニオン性樹脂水性分散体やノニオン性樹脂水性分散体を用いることでは得られないものである。
【0017】
以下、本発明で用いる材料について詳述する。
〔カチオン性樹脂(A)〕
本発明で用いるカチオン性樹脂(A)とは、カチオン性の官能基を有する有機化合物であって、水性媒体中で安定に分散した水性分散体を形成するものである。前記水性媒体としては、水を主成分とする均一溶媒系であれば特に限定はされない。このような溶媒系としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールといったアルコール系の水溶性有機溶媒と水とを混和させた溶媒系や、テトラヒドロフラン、ブチルセロソルブといったエーテル系の水溶性有機溶媒と水とを混和させた溶媒系が挙げられる。この中で最も好適な水性媒体としては、イソプロパノール/水の混合溶媒系である。また、このような水溶性の有機溶媒を添加する量としては、水性塗料組成物全体中に含まれる水の量に対して、50質量%以下にすることが好ましい。
【0018】
前記カチオン性樹脂(A)は水性媒体中で分散するものであり、その分散した樹脂粒子の平均粒子径としては、得られる複合塗膜の耐磨耗性と透明性を兼備する点から、0.005μm〜1μmであることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.4μmである。
【0019】
前記カチオン性の官能基としては、例えば、第一級から第三級のアミノ基や、ホスフィノ基の塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、プロピオン酸、酪酸、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等の酸との反応物、四級アンモニウム基、四級ホスホニウム基などが挙げられる。
【0020】
前記カチオン性の官能基の含有量としては、カチオン性樹脂(A)が水性媒体中で溶解することがなく、安定な分散体を形成できる範囲であれば、特に限定されるものではない。従って、カチオン性樹脂(A)の分子量・分岐度等のカチオン性の官能基以外の構造等によって、好ましいカチオン性官能基の含有量が異なるものであるが、通常、該カチオン性樹脂(A)固形分中に、カチオン当量として0.01〜1当量/kg含有していれば水性分散体とすることができ、特にカチオン性樹脂(A)の水性媒体中への分散性と得られる塗膜の耐水性とのバランスに優れる点から、0.02〜0.8当量/kg含有していることが好ましく、0.03〜0.6当量/kg含有していることが特に好ましい。
【0021】
カチオン性樹脂(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値で求められる数平均分子量(Mn)としては、カチオン性樹脂(A)が水性媒体中で溶解せずに安定な分散体を形成できる範囲であれば特に限定されるものではなく、通常1,000〜5,000,000の範囲であり、好ましくは、5,000〜1,000,000の範囲である。
【0022】
カチオン性樹脂(A)の種類としては特に限定されるものではなく、例えばポリアクリレート、ポリスチレンといったポリビニル系のポリマーや、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエポキシといった各種のポリマーを使用することができる。
【0023】
これらの中でも、製造の容易さ、後述する金属酸化物(B’)との親和性の良さという観点から、ポリウレタンやポリアクリレートを用いることがより好適である。これらをそれぞれ、カチオン性ウレタン樹脂(A−1)、カチオン性アクリル樹脂(A−2)と以下、呼称する。
【0024】
カチオン性ウレタン樹脂(A−1)は、ポリイソシアネート、ポリオール、及び必要に応じて併用される鎖伸長剤からなる、カチオン性の官能基を有するウレタン樹脂である。
【0025】
カチオン性ウレタン樹脂(A−1)の原料として用いることができるポリイソシアネートとしては、有機ポリイソシアネートとして、例えば、鎖状脂肪族ポリイソシアネート、環状脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、アミノ酸誘導体から得られるポリイソシアネート等の各種のものを例示できる。
【0026】
鎖状脂肪族ポリイソシアネートの具体例としては、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸が有するカルボキシル基をイソシアネート基に置き換えたダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられる。
【0027】
環状脂肪族ポリイソシアネートの具体例としては、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。
【0028】
芳香族ポリイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート等のジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルテトラメチルメタンジイソシアネート等のテトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0029】
芳香脂肪族ポリイソシアネートの具体例としては、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。また、アミノ酸誘導体から得られるポリイソシアネートの具体例としては、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0030】
カチオン性ウレタン樹脂(A−1)の原料として用いることができるポリオールとしては、一分子中に2個以上のヒドロキシ基を有する各種化合物を挙げることができ、得られる有機無機複合塗膜の可とう性に優れる点から、高分子ポリオールを使用するのが好ましい。高分子ポリオールとしては、例えば、酸化エチレン、酸化プロピレン、酸化イソブチレン、テトラヒドロフラン等の重合体または共重合体等のポリエーテルポリオール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4−ブチンジオール、ジプロピレングリコール等の飽和もしくは不飽和の各種の低分子グリコール類またはn−ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル類、バーサティック酸グリシジルエステル等のモノカルボン酸グリシジルエステル類と、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、しゅう酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の二塩基酸またはこれらに対応する酸無水物やダイマー酸などを脱水縮合して得られるポリエステルポリオール類;環状エステル化合物を開環重合して得られるポリエステルポリオール類;その他ポリカーボネートポリオール類、ポリブタジエンジオール、ポリイソプレンジオール、ポリクロロプレンジオール、ポリブタジエングリコールの水素化物、ポリイソプレングリコールの水素化物等のポリオレフィンジオール類、ビスフェノールAに酸化エチレンまたは酸化プロピレンを付加して得られたグリコール類、2つ以上のヒドロキシ基およびメルカプト基等の連鎖移動基を1つ有する連鎖移動剤の存在下にアルキル(メタ)アクリレート等の各種のラジカル重合性不飽和単量体を重合させて得られるアクリルポリマー等のマクロモノマー、ポリジメチルシロキサン等のポリアルコキシシラン類、ヒマシ油ポリオール、塩素化ポリプロピレンポリオール等が挙げられる。
【0031】
前述のポリイソシアネートとポリオールとを用いて、本発明で用いることができるカチオン性ウレタン樹脂(A−1)の水性分散体を製造する方法としては、特に限定されるものではないが、カチオン性の官能基を該ウレタン樹脂(A−1)の主鎖に導入する方法としては、例えば、特開2002−307811号公報に記載のように、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールと、分子中に三級アミノ基を有する鎖伸長剤を用いてウレタン樹脂を合成し、該樹脂中の三級アミノ基を酸で中和もしくは四級塩化した後に水性媒体中に分散させる方法や、特開2001−64346号公報に記載のように、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールと、一級と二級のアミノ基を有するポリアミン化合物とを反応させてウレタン樹脂を合成し、該樹脂中の二級アミンを中和して水性媒体中に分散させる方法等を挙げることができる。
【0032】
上記のアミノ基の一部又は全てを中和する際に使用することができる酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、酪酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、マロン酸、アジピン酸などの有機酸類や、スルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機スルホン酸類、及び、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、硼酸、亜リン酸、フッ酸等の無機酸等を使用することができる。これらの酸は単独使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
また、前記の四級化する際に使用することができる四級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のジアルキル硫酸類や、メチルクロライド、エチルクロライド、ベンジルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、ベンジルブロマイド、メチルヨーダイド、エチルヨーダイド、ベンジルヨーダイドなどのハロゲン化アルキル類、メタンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸メチル等のアルキル又はアリールスルホン酸メチル類、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等のエポキシ類などを使用することができ、これらは単独使用でもよく2種以上を併用してもよい。
【0034】
本発明で用いるカチオン性ウレタン樹脂(A−1)は、樹脂の分散安定性を阻害しない範囲で、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エポキシ基といった反応性官能基を有していても良い。また、カチオン性ウレタン樹脂(A−1)の分散安定性を高めるために、ノニオン性の親水性基、例えば、ポリエチレンオキサイド鎖や、ポリアミド鎖などを分子中に有していても良い。更に、安定な水性分散体とするために、乳化剤を併用したものであっても良い。
【0035】
本発明で用いることができるカチオン性アクリル樹脂(A−2)は、カチオン性の官能基を含有する水分散型のポリアクリレートである。このようなカチオン性アクリル樹脂(A−2)の水性分散体の製造方法としては、各種の方法を用いることができるが、例を挙げるならば、有機溶媒中で、カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体とカチオン性基を有さないエチレン性不飽和単量体との混合物と、ラジカル重合開始剤を滴下しながら加熱重合させた後、有機溶媒を除去して、カチオン性基を前記酸類で中和して水性媒体中に分散する方法が挙げられる。このとき、水性分散体の安定性を向上させるために乳化剤を併用しても良い。
【0036】
更に、前記カチオン性アクリル樹脂(A−2)の水性分散体の合成法として、水性媒体中で、アミノ基を有する(メタ)アクリレートとアミノ基を有さない(メタ)アクリレートとの混合物と、ラジカル重合開始剤を滴下しながら加熱重合させる乳化重合法も挙げられる。
【0037】
前記有機溶媒中でのラジカル重合において用いることができる有機溶媒として、特に限定されるものではない。例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂肪族系または脂環族系の炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロレングリコールモノメチルエーテル、プロレングリコールモノエチルエーテル、プロレングリコールモノプロピルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸n−アミル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シコロヘキサノン等のケトン類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドまたはエチレンカーボネート、等が挙げられる。これらの有機溶剤はそれぞれを単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン等のビニルピリジン類;2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、β−(tert−ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩等の(メタ)アクリル酸エステル類等が挙げられる。
【0039】
前記カチオン性基を有さないエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸もしくはメタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル類;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有アクリレート類;メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有メタクリレート類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等のアミド化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有ビニル系化合物が挙げられる。
【0040】
また、前述の各種の(メタ)アクリル系単量体に加えて、主々の(メタ)アクリル系以外のビニル系単量体を併用することもできる。前記(メタ)アクリル系以外の単量体としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸あるいはクロトン酸等の(メタ)アクリル酸以外のカルボキシ基含有モノマー;前記した(メタ)アクリル酸以外のカルボキシ基含有モノマーと各種の1価アルコール類とのエステル;クロトノニトリル、クロトン酸アミドあるいはそのN−置換誘導体等のクロトン酸の誘導体;スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミルスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類等が挙げられる。
【0041】
また、前記ラジカル重合開始剤としては、例えば、クメンヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、過酢酸−t−ブチル、過硫酸塩等の過酸化物系の重合開始剤や、アゾビスイソブチロニトリルといったアゾ系の重合開始剤が挙げられる。
【0042】
〔金属アルコキシド(B)〕
本発明で用いる金属アルコキシド又はその縮合物(B)中の金属としては、珪素、チタン、アルミニウムを好ましい例として挙げることができる。
【0043】
珪素アルコキシド又はその縮合物としては、一般的にゾル−ゲル反応で用いられるアルコキシシランであれば、特に限定されるものではない。例示するならば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシランまたはこれらの部分縮合物等が挙げられる。
【0044】
チタンアルコキシドとしては、例えば、チタンイソプロポキシド、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートなどが挙げられ、アルミニウムアルコキシドとしては、例えば、アルミニウムイソプロポキシドなどが挙げられる。
【0045】
これらの中でも、工業的入手のしやすさから、珪素アルコキシド又はその縮合物を用いるのが好適である。その中でも最も好適なのは、テトラメトキシシラン及びその縮合物である。また、カチオン性樹脂(A)中のカチオン性官能基と反応する官能基を有するアルコキシシランを併用することにより、塗膜の架橋をさらに緻密にすることができ、耐水性等の塗膜物性をより向上させることもできる。この場合に最も好適なのは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである。
【0046】
また、前記カチオン性樹脂(A)の質量と金属アルコキシド又はその縮合物(B)の加水分解縮合後の質量(B1)との比が、(A)/(B1)で表される質量比で10/90〜70/30の範囲であることが好ましく、20/80〜70/30であることがより好ましく、30/70〜70/30であるのがさらに好ましい。金属アルコキシドの加水分解反応式は以下の通りである。
【0047】
【化1】

〔式中、Rは有機基であり、Rはアルキル基であり、Xは(m+n)価の金属原子である。〕
【0048】
従って、完全加水分解縮合後の金属アルコキシドの質量(B1)は、(仕込み量)/(加水分解反応前の金属アルコキシドの式量)×(加水分解反応後の金属アルコキシドの式量)で計算することができる。
【0049】
〔酸触媒(C)〕
本発明で用いる酸触媒(C)としては、各種の酸触媒を用いることができる。例示するならば、塩酸、ホウ酸、硫酸、フッ酸、リン酸といった無機酸や、酢酸、フタル酸、マレイン酸、フマル酸、パラトルエンスルホン酸、などといった有機酸を用いることができる。また、これらの酸は単独、もしくは2種以上を併用してもよい。これらの中でも、目的とするpHの範囲への調整が容易であり、得られる水性塗料組成物の保存安定性が良好で、且つ得られる有機無機複合塗膜の耐水性に優れる点から、マレイン酸を用いることが好ましい。
【0050】
また、カチオン性樹脂(A)の水性分散体に酸触媒(C)を加えた後の液のpHとしては、酸による機械の腐食等の問題が起こりにくく、且つ、得られる水性塗料組成物の保存安定性が良好である点から、通常1.0〜4.0の範囲で、好ましくは1.0〜3.0の範囲で、さらに好ましくは2.0〜3.0の範囲である。この範囲にpHを調整することが耐摩耗性と耐水性とに優れる有機無機複合塗膜を得るために重要であり、特にカチオン性樹脂(A)として市販の製品を用いる場合には、酸触媒(C)を徐々に滴下しながら、pHの調整を行うことが好ましい。
【0051】
〔水性塗料組成物〕
本発明の水性塗料組成物の調整方法としては、カチオン性樹脂(A)の水性分散体と、酸触媒(C)とを混合し均一化した後、金属アルコキシド又はその縮合物(B)を混合するのが最も好適である。また、金属アルコキシド又はその縮合物(B)の加水分解により生成するアルコールは、残存したまま本発明の水性塗料組成物としても良く、また、種々の方法、例えば減圧下で放置又は加温することにより、該アルコールを除去したのち、水性塗料組成物としても良い。
【0052】
本発明の水性塗料組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、各種の増粘剤、濡れ剤、チキソ剤などの添加剤、あるいはフィラー等を加えても良い。更に、前記カチオン性樹脂(A)中の官能基と反応するような架橋剤、例えば、ポリエポキシ化合物や、ジアルデヒド化合物、ジカルボン酸化合物といった架橋剤を併用しても良い。
【0053】
また、本発明の水性塗料組成物は、クリアー塗料組成物として用いることもできるが、各種顔料分散体、染料などを混入して、着色塗料用組成物としても用いることができる。
【0054】
本発明の水性塗料組成物の不揮発分としては、特に限定されるものではないが、10質量%以上、50質量%以下であることが、保存安定性が良好である点から好ましい。
【0055】
本発明の水性塗料組成物の機材への塗工方法に関しては、特に限定されるものではないが、例を挙げるならば、エアースプレー法、フローコーター法、ロールコーター法などの各種の塗工方法で塗装することができる。
【0056】
本発明の水性塗料組成物の塗装対象は、特に限定されるものではなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム及びその他の金属、ABS、ポリカーボネート、PMMA、PET、ポリスチレンといったプラスチック類、ガラス、木材、セメント及びその他の基板、あるいは、粒状体、繊維状体のものの表面に皮膜を形成する目的で用いることができる。
【0057】
さらに、基材への密着性向上、基材の着色、基材の保護などを目的として、各種プライマー、シール剤、アンダーコート等を前記各種基材に塗装したのち、本発明の水性塗料組成物を塗装することもできる。
【0058】
また、塗装後の乾燥条件としては特に限定されるものではないが、20℃〜250℃の間で乾燥させることが好ましく、60℃〜200℃の間で乾燥させることがさらに好ましい。
【0059】
本発明の有機無機複合塗膜は、金属酸化物(B’)からなるマトリクス中に、カチオン性樹脂(A)の粒子が分散していることを特徴とする。
【0060】
前記金属酸化物(B’)は、前述の金属アルコキシド又はその縮合物(B)の加水分解・縮合反応によって得られるものであり、該複合塗膜中では、マトリクスを形成している。これは、前述のようにカチオン性樹脂(A)が水性分散体中で形成する微粒子の表面を取り囲むように金属ゲルが濃縮されているため、水性媒体が揮発した後は、近接する微粒子の該表面の金属ゲルが架橋することによって形成されるものである。したがって、カチオン性樹脂(A)の微粒子同士は凝縮することがなく、有機無機複合塗膜中で分散していることになる。これは、添付した図面(電子顕微鏡写真)によって明らかである。
【0061】
本発明の有機無機複合塗膜の製造方法は、カチオン性樹脂(A)の水分散体に酸触媒(C)を添加した後、金属アルコキシド又はその縮合物(B)を加えて得られる水性塗料組成物を基板上に塗布し、乾燥することで、カチオン性樹脂(A)からなる粒子が、金属酸化物(B’)からなるマトリクス中に分散している複合塗膜を作製することを特徴とする。該製造方法は、特別な装置を必要とせず、また、空気中の水分等を利用しない点から、環境依存性がなく、したがって応用範囲に制限されることがないため、工業的に簡便で有用なものである。
【実施例】
【0062】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。特に断らない限り、「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を表す。
【0063】
(合成例1)カチオン性アクリル樹脂の水分散体(A−2−1)の調製
攪拌機、温度計、滴下漏斗、還流冷却管および不活性ガスの送入管と排出管とを備えた反応容器に、窒素を導入しながら、メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド12部、n−ドデシルメルカプタン0.4部、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド 1部、イオン交換水540部を入れ、攪拌しながら内温を80℃に上げ、同温で1時間維持して反応させることによって反応生成物を得た。次に、該反応生成物の存在する反応容器に、別の容器中で予め混合した単量体混合物(ブチルアクリレート220部、メチルメタクリレート180部)と、重合開始剤水溶液(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドの5%水溶液)40部を、各々別の滴下漏斗から3時間かけて滴下し重合させた。滴下中は反応容器内温度を80℃に維持した。滴下終了後、さらに液温を80℃で1時間攪拌し、次いで25℃に冷却し、イオン交換水にて不揮発分が35%になるように調整し、PH3.5、粒子径0.3μm、カチオン当量0.14当量/kgのカチオン性アクリル樹脂(A−2−1)の水分散体を得た。
【0064】
(合成例2)カチオン性アクリル樹脂の水分散体(A−2−2)の調製
攪拌機、温度計、滴下漏斗、還流冷却管および不活性ガスの送入管と排出管とを備えた反応容器にプロピレングリコール−n−プロピルエーテル425部を仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら100℃に保ち、ジメチルアミノエチルメタクリレート35部、メチルメタクリレート300部、ブチルアクリレート165部からなる混合物500部を約3時間かけてゆっくりと滴下した。並行して、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(商品名パーブチルO、日本油脂株式会社製)10部、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル65部からなる溶液を約3時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了から1時間後、パーブチルO 2.5部、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル10部からなる溶液を加え、さらに液温を100℃で3時間保ち重合反応を完結させた。次いで、氷酢酸13.5部を添加してよく撹拌混合して中和させた後、イオン交換水980部を滴下して、水分散化を行った後、更に引き続いて減圧下脱溶剤することにより、不揮発分35%、PH5.8、粒子径0.1μm、カチオン当量0.44当量/kgのカチオン性アクリル樹脂(A−2−2)の水分散体を得た。
【0065】
(比較合成例1)
攪拌機、温度計、還流冷却管および不活性ガスの送入管と排出管とを備えた反応容器に116部のヘキサメチレンジアミンを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら50℃に保ち、210部のプロピレンカーボネートを約一時間かけてゆっくりと滴下した。反応容器を90〜100℃に保ちながら20時間反応させたところ、白色ワックス状の軟固体である、ヘキサメチレンジアミンのビスヒドロキシカルバメート(以下、A’−1と称す)を得た。酸滴定の結果、アミン含量は0.1%以下であった。
【0066】
(比較合成例2)
攪拌機、温度計、滴下漏斗、還流冷却管および不活性ガスの送入管と排出管とを備えた反応容器にプロピレングリコール−n−プロピルエーテル425部を仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら100℃に保ち、ジメチルアミノエチルメタクリレート100部、メチルメタクリレート260部、ブチルアクリレート140部からなる混合物500部を約3時間かけてゆっくりと滴下した。並行して、パーブチルO 10部、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル65部からなる溶液を約3時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後から更に1時間後、パーブチルO 2.5部、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル10部からなる溶液を加え、さらに液温を100℃で3時間保ち重合反応を完結させた。次いで、氷酢酸38.2部を添加してよく撹拌混合して中和させた後、イオン交換水980部を滴下して攪拌し、更に引き続いて減圧下脱溶剤することにより、不揮発分35%、PH6.0、カチオン当量1.27当量/kgのカチオン性アクリル樹脂(A’−2)の透明な水溶液を得た。
【0067】
[塗料組成物]
(実施例1)
スーパーフレックス650(第一工業製薬株式会社製 カチオン性ウレタン樹脂の水性分散体、不揮発分25%、平均粒径0.01μm、以下、SF650と称す。)28.0部、イオン交換水1.5部、2−プロパノール(以下、IPAと称す)8部を撹拌混合した後、10%マレイン酸水溶液3.9部を徐々に滴下した。このときの混合液のPHは2.6であった。引き続き、撹拌しながらテトラメトキシシラン縮合物(メチルシリケート51:多摩化学工業株式会社製品。以下、MS−51と称す。)14.4部と3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(以下、GPTMSと称す。)4.4部からなる混合液を徐々に加えて、一時間攪拌し、水性塗料組成物(1)を得た。
【0068】
(実施例2〜13)
実施例1と同様に、表1〜2の配合で水性塗料組成物を調整し、水性塗料組成物(2)〜(13)を得た。
【0069】
(比較例1)
比較合成例1で合成したヒドロキシ基含有ポリマーA’−1を15部、イオン交換水を15部、メタノール5部を混合した溶液に、テトラエトキシシラン(以下、TEOSと称す。)20部、硬化剤として、メラミン樹脂サイメル303(サイテック株式会社製)0.5部を加えて均一溶液を作成した。この溶液に、触媒として0.3部の濃塩酸を加えて、約30℃で一時間加熱し、比較用の水性塗料組成物(1’)を得た。
【0070】
(比較例2)
比較合成例2で得られたカチオン性ウレタン樹脂(A−2’)の水溶液20部、イオン交換水8.5部、2−プロパノール(以下、IPAと称す)8部を撹拌混合した後、10%マレイン酸水溶液3.9部を徐々に滴下した。このときの混合液のpHは2.3であった。引き続き、撹拌しながらMS−51を14.4部とGPTMSを4.3部からなる混合液を徐々に加えて、一時間攪拌し、比較用の水性塗料組成物(2’)を得た。
【0071】
(水性塗料組成物の安定性評価方法)
実施例1〜13、及び比較例1〜2で得られた水性塗料組成物を23℃で保管したときの塗液状態を目視で観察し、ゲル化が起こるまでの日数を記載した。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
表1〜3の脚注
(A)/(B1):カチオン性樹脂(A)の質量と金属アルコキシド又はその縮合物(B)の加水分解縮合後の質量(B1)との比
UW550CS:アクリットUW550−CS、大成ファインケミカル株式会社製 カチオン性アクリル樹脂の水性分散体、不揮発分34%、平均粒径0.04μm
MTMS:メチルトリメトキシシラン
【0076】
[塗膜]
(実施例14〜26)
実施例1〜13で得た水性塗料組成物(1)〜(13)を、ポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学株式会社製、製品名ユーピロン、膜厚100μm)上に塗布後、130℃で30分乾燥させ、膜厚約5μmの有機無機複合塗膜(塗膜1〜塗膜13)を得た。
【0077】
(比較例3〜4)
比較例1〜2で得た水性塗料組成物を、ポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学株式会社製、製品名ユーピロン、膜厚100μm)上に塗布後、130℃で30分乾燥させ、膜厚約5μmの比較有機無機複合塗膜(比較塗膜1’〜2’)を得た。
【0078】
(実施例27〜29)
実施例1、7、及び10で得た水性塗料組成物(1)、(7)及び(10)をポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学株式会社製、製品名ユーピロン、膜厚100μm)上に塗布後、80℃で30分乾燥させ、膜厚約5μmの有機無機複合塗膜(塗膜14〜塗膜16)を得た。
【0079】
(実施例30〜32)
実施例1、7、及び10で得た水性塗料組成物(1)、(7)、及び(10)をポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学株式会社製、製品名ユーピロン、膜厚100μm)上に塗布後、23℃で24時間乾燥させ、膜厚約5μmの有機無機複合塗膜(塗膜17〜塗膜19)を得た。
【0080】
得られた塗膜1〜19及び比較塗膜1’〜2’の物性測定結果を表4〜8に示す。なお、塗膜の評価は以下の手法により行った。
【0081】
(耐磨耗性)
学振式磨耗試験機(大栄科学精器製作所製品、RT−200)にて評価を行った。磨耗体:スチールウール(日本スチールウール株式会社製、商品名ボンスター、品番No.0000)、荷重:500g、往復回数:250回。表の数字は、試験前後の塗膜の濁度の差を数値化したものであり、数字が少ないほど耐磨耗性が良好であることを示す。
【0082】
(耐水性)
40℃温水中に塗膜を浸漬し、塗膜の表面状態変化の有無を目視で判定した。
◎:2週間浸漬後、変化なし。
○:一週間浸漬後、変化なし。
×:一週間浸漬後、塗膜の白化または割れが発生した。
【0083】
(塗膜状態)
塗膜の状態を目視で評価した。
○:塗膜が透明。
×:塗膜に割れを生じた。
【0084】
【表4】

【0085】
【表5】

【0086】
【表6】

【0087】
【表7】

【0088】
【表8】

【0089】
実施例14で得られた有機無機複合塗膜1の断面を透過型電子顕微鏡(JEM−2200FS、日本電子株式会社製)にて観測を行い、得られた画像を図1に示した。これより、塗膜中にカチオン性樹脂の微粒子が均一に分散している様子を確認することができる。その他の実施例で得られた塗膜についても、同様にカチオン性樹脂の微粒子が分散していることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例14によって得られた有機無機複合塗膜1の断面構造の透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性樹脂(A)の水性分散体と、金属アルコキシド又はその縮合物(B)と、酸触媒(C)とを含有することを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
前記カチオン性樹脂(A)がカチオン性ウレタン樹脂(A−1)又はカチオン性アクリル樹脂(A−2)である請求項1記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記カチオン性樹脂(A)の水性分散体における該カチオン性樹脂(A)からなる粒子の平均粒子径が0.01〜0.4μmの範囲である請求項1記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記金属アルコキシド又はその縮合物(B)が、珪素アルコキシド又はその縮合物である請求項1記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
前記カチオン性樹脂(A)の質量と金属アルコキシド又はその縮合物(B)の加水分解縮合後の質量(B1)との比が、(A)/(B1)で表される質量比で10/90〜70/30の範囲である請求項1〜4の何れか一項記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
金属酸化物(B’)からなるマトリクス中に、カチオン性樹脂(A)からなる粒子が分散していることを特徴とする有機無機複合塗膜。
【請求項7】
カチオン性樹脂(A)の水分散体に酸触媒(C)を添加した後、金属アルコキシド又はその縮合物(B)を加えて得られる水性塗料組成物を基板上に塗布し、乾燥することで、カチオン性樹脂(A)からなる粒子が、金属酸化物(B’)からなるマトリクス中に分散している複合塗膜を作製することを特徴とする有機無機複合塗膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−186682(P2007−186682A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330531(P2006−330531)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】