説明

水性塗料組成物及び塗装物品

【課題】 低温硬化性、仕上り性、塗膜硬度、耐薬品性、耐水性、及び防食性、特に無処理鋼板の防食性に優れる水性塗料組成物を提供すること。
【解決手段】
特定の水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)と特定のマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体を固形分質量比で35/65〜90/10の割合で含有し、さらに該両成分の固形分合計100質量部を基準にして、亜リン酸金属塩(C)を1〜60質量部含有することを特徴とする水性塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、 低温硬化性、仕上り性、塗膜硬度、耐薬品性、耐水性及び防食性、特に無処理鋼板の防食性に優れた塗膜を形成し得る水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低温硬化型塗料は、自動車部品やニ輪車用部品を始めとする幅広い用途分野に使用されてきている。例えば、熱容量が大きく乾燥炉の熱が十分に伝達しない被塗物や、プラスチックやゴムが組み込まれていて加熱することができない被塗物(例えば、産業用機械)に対しては、低温硬化型の有機溶剤系塗料が用いられてきた。
しかし有機溶剤系塗料は、沸点が140℃未満の低沸点有機溶剤の使用がVOC(揮発性有機化合物、volatile organic compounds)やHAPs(有害性大気汚染物質、Hazardous Air Pollutants)規制によって制限されている。
【0003】
その為、特許文献1には、脂肪酸変性エポキシエステル(A)、ビニル単量体(B)及び油脂(C)と配合し重合反応して得られたビニル変性エポキシエステルおよび当該ビニル変性エポキシエステル樹脂を含有してなる水性被覆剤が開示されている。
また、特許文献2には、ビスフェノール型エポキシ樹脂(a)20〜75重量%と脂肪酸(b)20〜60重量部%を含む反応成分を反応させて得られる脂肪酸変性エポキシエステル樹脂100重量部に、非イオン系反応性乳化剤を含む重合性モノマー(c)3〜20重量部を反応させて得られた、酸価10〜50のビニル変性エポキシエステル樹脂を含有してなる水性塗料用樹脂組成物が開示されている。
【0004】
他に、特許文献3に、エポキシ樹脂(a)と脂肪酸(b)と重合性モノマー(c)とを含む反応成分を反応させて得られるビニル変性エポキシエステル樹脂(A)と、エポキシ樹脂(e)に共重合性不飽和単量体(f)を反応させて得られるビニル変性エポキシ樹脂(B)とを含有してなる水性塗料用樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献4には、ビニル重合体部分が結合した脂肪酸鎖を有するビニル変性エポキシエステル樹脂(A)及び水を含有してなり、特定のカルボキシル基含有構造を有し、該カルボキシル基含有構造の一部又は全部が塩基性化合物で中和されていることを特徴とする水性塗料用樹脂組成物が開示されている。
【0005】
他に、特許文献5には、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(A1)及びその他の重合性不飽和モノマー(A2)を含むモノマー混合物(I)を微分散させ、得られるモノマー乳化物を重合することにより製造される水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)、及び脂肪酸(b1)及び重量平均分子量が200以上のエポキシ樹脂(b2)を構成単位として含有する水性脂肪酸変性エポキシ樹脂(B)を含む水性樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献6には、水分散型エポキシエステル樹脂と、水、亜鉛/リン酸系防錆顔料とを含有する水性塗料組成物であって、前記水分散型エポキシエステル樹脂は水素イオン指数がpH7〜pH10の範囲内、分子量が2万〜7万の範囲内、粒子径が10nm〜100nmの範囲内であり、前記水分散型エポキシエステル樹脂の固形分1重量部〜500重量部に対して前記亜鉛・リン酸系防錆顔料の含有量が1重量部〜50重量部であり、揮発性有機化合物(VOC)量が前記水性塗料組成物全体に対して1重量%〜20重量%であることを特徴とする水性塗料組成物が開示されている(特許文献6)。
しかし、これらの特許文献1〜6に記載の水性塗料組成物は、乾燥温度100℃以下の低温焼付けにおいては、仕上り性、塗膜硬度、耐水性及び防食性のいずれかが不十分であり、とりわけ無処理鋼板上の塗膜の防食性低下が著しく、これらの性能を全て満足する水性塗料組成物の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−269249号公報
【特許文献2】特開2002−309162号公報
【特許文献3】特開2003−253193号公報
【特許文献4】特開2006−124658号公報
【特許文献5】特開2006−37027号公報
【特許文献6】特開2007−269972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が、解決しようとする課題は、低温硬化性、仕上り性、塗膜硬度、耐薬品性、耐水性及び防食性、特に無処理鋼板上の防食性に優れた塗膜を形成し得る水性塗料組成物を提供することである。さらに、上記塗膜性能に優れる自動車部品を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)と特定のマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体を一定の割合で含有し、かつ亜リン酸金属塩(C)を含有する水性塗料組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
1.下記特徴の水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)と下記特徴のマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体を固形分質量比で35/65〜90/10の割合で含有し、さらに該両成分の固形分合計100質量部を基準にして、亜リン酸金属塩(C)を1〜60質量部含有することを特徴とする水性塗料組成物。
水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A):ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)及び/又は脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)を含んでなる混合物(I)を、水性媒体中に分散させて得られる乳化物中で重合性不飽和モノマーをラジカル重合させて得られる樹脂
マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体:脂肪酸エポキシエステル樹脂(b1)に、無水マレイン酸を反応させて、次いで無水基に下記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレンアミン類(b2)を付加反応させて得られる付加物に、さらに残存無水基にモノアルコール類(b3)及び/又はモノアミン類(b4)を付加反応させて得られるマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂を中和し、水分散して得られる分散体
【0009】
【化1】

【0010】
式(1)
(式(1)中、aは1〜8の整数、bは8〜40の整数、b個の繰り返し単位中の各Rは同一又は相異なってもよく水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す)
2.水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)における脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)が、エポキシ樹脂(a31)と脂肪酸(a32)を反応させてなる樹脂である1項に記載の水性塗料組成物、
3.マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂樹脂(B)の水分散体における脂肪酸エポキシエステル樹脂(b1)が、エポキシ樹脂(b11)と脂肪酸(b12)と反応させることにより得られる樹脂である1項に記載の水性塗料組成物、
4.前記水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)と前記マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂樹脂(B)の水分散体の固形分合計100質量部を基準にして、平均粒子径が10μm以上の偏平状顔料(D)を30〜200質量部含有する1〜3項のいずれか1項に記載の水性塗料組成物、
5.被塗物に、1〜4項のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗装して得られた塗装物品、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性塗料組成物は、低温硬化性、仕上り性、塗膜硬度、耐水性及び防食性、特に無処理鋼板の防食性に優れた塗膜を形成でき、従って本発明組成物を用いることによってこれら塗膜性能に優れた自動車部品等の塗装物品を得ることが可能である。
【0012】
詳細には、水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)とマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体の最適な配合比率とし、さらに、亜リン酸金属塩(C)や特定の偏平状顔料(D)を配合することによって、塗膜に浸入する腐蝕生成物質を遮断して腐食を抑制でき、耐薬品性、耐水性、防食性、特に無処理鋼板上の防食性の向上を図ることができる。
【0013】
特に、マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)は、顔料分散性の向上に寄与することができる。理由として、疎水性の脂肪酸との相互作用により顔料の分散性が向上し、マレイン酸由来のカルボキシル基とポリオキシアミン類(b2)由来のポリエーテル鎖による親水部から、水媒体中での安定性が図れる。
また、顔料分散性が向上したことから得られた塗膜において腐食生成物の透過阻止能の向上、及び防錆顔料の表面積が向上したことによって、防食性、特に無処理鋼板上の防食性の向上が図れた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、特定の水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)とマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体を固形分質量比で35/65〜90/10の割合で含有し、さらに該両成分の固形分合計100質量部を基準にして、亜リン酸金属塩(C)を1〜60質量部含有することを特徴とする水性塗料組成物に関する。
以下、詳細に述べる。
【0015】
水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A):
水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)は、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)及び/又は脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)を含んでなる混合物(I)を、水性媒体中に分散させて得られる乳化物中で重合性不飽和モノマーをラジカル重合させて得られる樹脂である。
【0016】
具体的には、水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)には、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)を含んでなる混合物(I1)を水性媒体中に分散させて得られる乳化物中で、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)をラジカル重合させて得られる樹脂(A1);ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)を含んでなる混合物(I2)を水性媒体中に分散させて得られる乳化物中でラジカル重合性不飽和モノマー(a1)をラジカル重合させて得られる樹脂(A2);ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)及び脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)を含んでなる混合物(I3)を水性媒体中に分散させて得られる乳化物中で、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)とをラジカル重合させて得られる樹脂(A3);が挙げられる。
【0017】
これらの樹脂(A1)、樹脂(A2)、及び樹脂(A3)の中でも、樹脂(A3)が、耐薬品性、耐水性、防食性、特に無処理鋼板上の防食性向上の為にも好ましい。
【0018】
ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)
水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)を製造するに際し、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)は、1分子中に少なくとも1個の重合性不飽和基を有するモノマーで、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などを有するモノマーが挙げられる。
【0019】
具体的には、後記の脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)以外のモノマーとして、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、シクロドデシル(メタ)アクリレ−トなどのC1〜C20アルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレートなどのイソボルニル基を有する重合性不飽和モノマー;アダマンチル(メタ)アクリレートなどのアダマンチル基を有する重合性不飽和モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル基を有する重合性不飽和モノマー;ポリジメチルシロキサンマクロモノマー等のシリコンオリゴマー;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレートなどのパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィンなどのフッ素化アルキル基を有する重合性不飽和モノマー;マレイミド基等の光重合性官能基を有する重合性不飽和モノマー;1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、2,2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート等;N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニルなどのビニルモノマー;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレートなどのカルボキシル基を有するモノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、β一メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基を有する重合性不飽和モノマー;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物などの含窒素重合性不飽和モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC2〜C8ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコ−ル、上記C2〜C8ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体などの水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する重合性不飽和モノマー;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレート及びそのナトリウム塩やアンモニウム塩などのスルホン酸基を有する重合性不飽和モノマー;2−ヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノンなどのヒドロキシベンゾフェノン類とグリシジル(メタ)アクリレートとの付加反応生成物、或いは2−(2'−ヒドロキシ−5'−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収性官能基を有する重合性不飽和モノマー;4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどの紫外線安定性重合性不飽和モノマー;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)などのカルボニル基を有する重合性不飽和モノマー;アリル(メタ)アクリレ−ト、エチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、テトラエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,3−ブチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリ(メタ)アクリレ−ト、1,4−ブタンジオ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ネオペンチルグリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,6−ヘキサンジオ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ペンタエリスリト−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ペンタエリスリト−ルテトラ(メタ)アクリレ−ト、グリセロ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレ−ト、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレ−ト、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレ−ト、トリアリルイソシアヌレ−ト、ジアリルテレフタレ−ト、ジビニルベンゼンなどの1分子中に少なくとも2個の重合性不飽和基を有する多ビニル化合物等が挙げられ、これらは得られる水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)に望まれる性能などに応じてそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0020】
ここで、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)は、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(a11)を0.5〜10質量%の範囲で含有することが、樹脂の安定性(塗料の機械的安定性や夾雑物混入などの化学的安定性)から望ましい。
【0021】
上記カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(a11)は、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等を挙げることができ、特に、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸が好適である。
上記のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(a11)を使用することにより、得られる水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)の水性媒体中における安定性を確保することができる。
【0022】
また、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)は、炭素数が4以上の直鎖状、分岐状もしくは環状で飽和又は不飽和の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(a12)(以下、「重合性不飽和モノマー(a12)」と略することがある)を1〜30質量%の範囲で含有することが、造膜性の点から望ましい。
【0023】
上記、重合性不飽和モノマー(a12)は、例えば、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート及び「イソステアリルアクリレート」(大阪有機化学社製)などのC18−アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、シクロドデシル(メタ)アクリレートなどのC4〜C20アルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレートなどのイソボルニル基を有する重合性不飽和化合物;アダマンチル(メタ)アクリレートなどのアダマンチル基を有する重合性不飽和化合物;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物等を挙げることができる。かかる重合性不飽和モノマー(a12)の使用により、得られる塗膜の耐水性を向上させることができる。
【0024】
また、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)は、炭素数が6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー(a13)(以下、「重合性不飽和モノマー(a13)」と略することがある)を1〜20質量%の範囲で含有することが、塗膜の耐水性の点から望ましい。
【0025】
上記、重合性不飽和モノマー(a13)には、例えば、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート及び「イソステアリルアクリレート」(大阪有機化学社製)などのC18−アルキル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、これらはそれぞれ単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)の少なくとも一部として、重合性不飽和モノマー(a13)を使用することにより、耐水性に優れた塗膜を形成することができる。
また、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)は、芳香族ビニルモノマー(a14)を5〜50質量%の範囲で含有することが、防食性の点から望ましい。
【0027】
上記、芳香族ビニルモノマー(a14)は、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物を挙げることができ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。かかる芳香族ビニルモノマー(a14)の使用により、全重合性不飽和モノマーの共重合性を高めることができ、さらに耐水性や防食性を向上させることができる。
【0028】
さらに、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)は、水酸基を有する重合性不飽和モノマー(a15)を0.5〜10質量%の範囲で含有することが、樹脂の(塗料の機械的安定性や夾雑物混入などの化学的安定性)、及び塗膜の付着性の点から望ましい。
【0029】
該水酸基を有する重合性不飽和モノマー(a15)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC2〜C8ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;アリルアルコ−ル;上記C2〜C8ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体などの水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する重合性不飽和化合物等を挙げることができ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。また、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)は、カルボニル基含有重合性不飽和モノマー(a16)を0.5〜10質量%の範囲で含有することが、低温硬化性の点から望ましい。
【0030】
カルボニル基含有重合性不飽和モノマー(a16)には、1分子中に1個のカルボニル基と1個の重合性不飽和結合を有する化合物が包含され、具体的には、例えば、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、特にダイアセトン(メタ)アクリルアミドが好適である。
【0031】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)
脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)は、エポキシ基を有する重合性不飽和モノマー(a21)と脂肪酸(a22)とを反応させることにより得られるモノマーを含有することが、低温硬化性、耐水性、耐薬品性、防食性の面から望ましい。
【0032】
上記、エポキシ基を有する重合性不飽和モノマー(a21)は、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β一メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0033】
上記脂肪酸(a22)は、炭化水素鎖の末端にカルボキシル基が結合した構造を有しているものが包含され、例えば、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸、不乾性油脂肪酸を挙げることができる。乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸は、厳密に区別できるものではないが、通常、乾性油脂肪酸はヨウ素価が130以上の不飽和脂肪酸であり、半乾性油脂肪酸はヨウ素価が100以上かつ130未満の不飽和脂肪酸である。他方、不乾性油脂肪酸は、通常、ヨウ素価が100未満である脂肪酸である。
【0034】
乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸としては、例えば、魚油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸、ハイジエン酸脂肪酸等が挙げられ、また、不乾性油脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、水添ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸等が挙げられる。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。さらに、これらの脂肪酸は、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等と併用することができる。脂肪酸(a22)は、得られる塗膜の硬化性の観点から、乾性油脂肪酸及び/又は半乾性油脂肪酸を使用することが好ましい。
【0035】
上記エポキシ基を有する重合性不飽和モノマー(a21)と脂肪酸(a22)との反応は、通常、重合禁止剤の存在下に、ゲル化などの反応上の問題を起こすことなく、エポキシ基を有する重合性不飽和モノマー(a21)中のエポキシ基と脂肪酸(a22)中のカルボキシル基とが円滑に反応するような条件下で行うことができ、140〜170℃で6時間〜15時間加熱するのが適している。この反応において、N,N−ジメチルアミノエタノールなどの3級アミン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウムなどの4級アンモニウム塩等のエステル化反応触媒を用いることができ、さらに不活性な有機溶媒を使用してもよい。
【0036】
上記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロカテコール、p−tert−ブチルカテコールなどのヒドロキシ化合物;ニトロベンゼン、ニトロ安息香酸、o−,m−又はp−ジニトロベンゼン、2,4−ジニトロトルエン、2,4−ジニトロフェノール、トリニトロベンゼン、ピクリン酸などのニトロ化合物;p−ベンゾキノン、ジクロロベンゾキノン、クロルアニル、アンスラキノン、フェナンスロキノンなどのキノン化合物;ニトロソベンゼン、ニトロソ−β−ナフトールなどのニトロソ化合物等のラジカル重合禁止剤が挙げられ、これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0037】
また、上記の脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)には、水酸基含有重合性不飽和モノマーと脂肪酸(a22)を反応させることにより、得られる脂肪酸変性重合性不飽和モノマーも用いることができる。
【0038】
なお水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)の製造に際して、混合物(I)中に脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)が包まれていると、水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)の安定性が向上し、特に脂肪酸(a22)として乾性油又は半乾性油脂肪酸を用いると、塗膜の乾燥過程において脂肪酸由来の酸化硬化が円滑に進行し、低温硬化性や防食性の向上が得られるので好適である。
【0039】
脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)
水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)の製造に、必要に応じて用いられる脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)は、通常、エポキシ樹脂(a31)を脂肪酸(a32)と反応させることにより得ることができる。
【0040】
上記、エポキシ樹脂(a31)は、1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物であり、340〜1,500、さらに好ましくは340〜1,000の数平均分子量、及び170〜500、さらに好ましくは170〜400の範囲内のエポキシ当量を有するものが適しており、特に、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂が好ましい。
【0041】
本明細書において重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィにより測定した保持時間(保持容量)をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算した値である。数平均分子量は、その重量平均分子量から計算によって求めた値である。
【0042】
該エポキシ樹脂の形成のために用いられるポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン[水添ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン[水添ビスフェノールA]、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−2もしくは3−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどを挙げることができる。
【0043】
さらに、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂については、ビスフェノールAから誘導される下記式(2)で表されるエポキシ樹脂が防食性向上の点からも好ましい。
【0044】
【化2】

【0045】
式(2)
(式(2)中、n=0〜2)で示されるものが好適である。
【0046】
かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)からjER828EL、jER1001、jER1004、jER1007、jER1009なる商品名で販売されているものが挙げられる。
【0047】
上記エポキシ樹脂(a31)の変性のために用いられる脂肪酸(a32)は、前記の脂肪酸(a22)と同様の脂肪酸を用いることができる。エポキシ樹脂(a31)を変性するための脂肪酸(a32)としては、得られる塗膜の低温硬化性の観点から、乾性油脂肪酸及び/又は半乾性油脂肪酸を使用することが好ましい。
【0048】
エポキシ樹脂(a31)と脂肪酸(a32)と反応させる場合の両者の使用割合は、厳密に制限されるものではないが、脂肪酸(a32)中のカルボキシル基に対するエポキシ樹脂(a31)中のエポキシ基との当量比が、1.25/1〜0.25/1、好ましくは1.1/1〜0.85/1の範囲内にするのが適している。
【0049】
上記エポキシ樹脂(a31)と脂肪酸(a32)との反応は、必要に応じて、重合禁止剤の存在下に、ゲル化などの反応上の問題を起こすことなく、エポキシ樹脂(a31)中のエポキシ基と脂肪酸(a32)中のカルボキシル基とが円滑に反応するような条件下で行うことができ、140〜170℃で6時間〜15時間加熱するのが適している。
【0050】
この反応において、N,N−ジメチルアミノエタノールなどの3級アミン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウムなどの4級アンモニウム塩等の反応触媒を用いることができ、さらに不活性な有機溶媒を使用してもよい。
【0051】
上記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロカテコール、p−tert−ブチルカテコールなどのヒドロキシ化合物;ニトロベンゼン、ニトロ安息香酸、o−,m−又はp−ジニトロベンゼン、2,4−ジニトロトルエン、2,4−ジニトロフェノール、トリニトロベンゼン、ピクリン酸などのニトロ化合物;p−ベンゾキノン、ジクロロベンゾキノン、クロルアニル、アンスラキノン、フェナンスロキノンなどのキノン化合物;ニトロソベンゼン、ニトロソ−β−ナフトールなどのニトロソ化合物等のラジカル重合禁止剤が挙げられ、これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0052】
樹脂(A1)において、上記ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)の使用割合は、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)の合計量を基準にして、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)は10〜90質量%、好ましくは20〜90質量%、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)は、10〜90質量%、好ましくは10〜80質量%の範囲が、防食性の点からから好適である。
【0053】
樹脂(A2)において、上記ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)の使用割合は、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)の合計量を基準にして、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)は10〜90質量%、好ましくは20〜90質量%、脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)は、10〜90質量%、好ましくは10〜80質量%の範囲が、防食性の点から好適である。
【0054】
樹脂(A3)において、上記ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)及び脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)の使用割合は、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)と脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)の合計量を基準にして、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)は10〜80質量%、好ましくは20〜70質量%、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)は、1〜50質量%、好ましくは5〜45質量%、脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)は、1〜60質量%、好ましくは20〜50質量%の範囲が、防食性の点から好適である。
【0055】
なお、上記水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)は、例えば、以上に述べた全重合性
不飽和モノマーの混合物を水性媒体中に、平均粒子径を500nm以下、好ましくは平均粒子径を50〜500nm、さらに好ましくは75〜400nmの範囲内となるように分散した後、重合させることにより製造することができる。
【0056】
また、上記水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)の製造は、ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)及び/又は脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)を含んでなる混合物(I)を水性媒体中に微分散させることにより、乳化物が形成できる。また、水性媒体としては、水、又は水を主体としてこれに水溶性有機溶媒などの有機溶媒を混合してなる水−有機溶媒混合溶液などを挙げることができる。
【0057】
上記、混合物(I)の水性媒体中における濃度は、形成されるモノマー乳化物の微粒化適性、重合段階における安定性、水性塗料に適用したときの実用性などの観点から、一般に、10〜70質量%、好ましくは20〜60質量%の範囲内が好適である。
【0058】
混合物(I)の水性媒体中への微分散は、特に制限されるものではなく、通常、高エネルギーせん断能力を有する分散機を用いて行うことができる。その際に使用しうる該分散機としては、例えば、高圧乳化装置、超音波乳化機、高圧コロイドミル、高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの分散機は、通常、10〜1000MPa、好ましくは50〜300MPa程度の高圧下で操作することができる。また、該機械にて分散を行う前に、該混合物(I)をあらかじめディスパー等で予備乳化してもよい。
なお、本明細書において、平均粒子径は、「SALD−3100」(商品名、島津製作所社製、レーザー回折式粒度分布測定装置)を用い、試料を脱イオン水にて測定に適した濃度に希釈し、20℃で測定したときの値である。
【0059】
マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体:
マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体は、脂肪酸エポキシエステル樹脂(b1)に、無水マレイン酸を反応させて、次いで無水基に下記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレンアミン類(b2)を付加反応させて得られる付加物に、さらに残存無水基にモノアルコール類(b3)及び/又はモノアミン類(b4)を反応させて得られるマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂を中和し、水分散して得られる分散体である。
【0060】
【化3】

【0061】
式(1)
(式(1)中、aは1〜8の整数、bは8〜40の整数、b個の繰り返し単位中の各Rは同一又は相異なってもよく水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す)。
【0062】
脂肪酸エポキシエステル樹脂(b1)
上記、脂肪酸エポキシエステル樹脂(b1)は、エポキシ樹脂(b11)と脂肪酸(b12)と反応させることにより得られる樹脂である。
エポキシ樹脂(b11)は、前記エポキシ樹脂(a31)と同様のエポキシ樹脂を使用することができる。かかるエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン株式会社からjER828EL、jER1001、jER1004、jER1007、jER1009なる商品名で販売されている樹脂が使用できる。また、脂肪酸(b12)も前記脂肪酸(a22)と同様の脂肪酸を用いることができる。
【0063】
また上記反応には、必要に応じて触媒として、安息香酸ナトリウムなどの安息香酸塩や、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジアセテート、オクチル酸錫、ナフテン酸錫、ジブチル錫ベンゾエート、ジオクチル錫ベンゾエートなどの有機錫化合物などを用いることができる。
【0064】
ポリオキシアルキレンアミン類(b2)
ポリオキシアルキレンアミン類(b2)は、前記式(1)で表される化合物である。このようなポリオキシアルキレンアミン類(b2)の分子量としては、500〜2,000、好ましくは600〜1,100であることが、塗料安定性、仕上り性と防食性の面から好ましい。ポリオキシアルキレンジアミン類(b2)の市販品としては、例えば、ジェファーミンM600、ジェファーミンM1000、ジェファーミンM2005、ジェファーミンM2070(以上、ハンツマン株式会社)を使用することができる。
【0065】
モノアルコール類(b3)
モノアルコール類(b3)は、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノール、n−オクタノール、ベンジルアルコール、ラウリルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノn−プロピルエーテルなどが挙げられる。
【0066】
モノアミン類(b4)
モノアミン類(b4)は、例えば、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、t−ブチルアミン、n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ベンジルアミン、ラウリルアミン、モノエタノールアミン、ネオペンタノールアミン、2−アミノプロパノール、3−アミノプロパノールが挙げられる。
【0067】
モノアミン類(b4)を配合することによって、マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)中に、アミド結合を生じるので耐加水分解性優れ、耐水性や防食性に優れた塗膜が得られる。特に、モノアミン類(b4)の中でもn−オクチルアミンが耐水性や防食性、相溶性の面から好ましい。
【0068】
本発明において、マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体を製造する方法は、脂肪酸エポキシエステル樹脂(b1)に、無水マレイン酸を180〜230℃で2〜5時間反応させて、次いで無水基にポリオキシアルキレンアミン類(b2)を80〜150℃で反応させ、さらに残存無水基にモノアルコール類(b3)及び/又はモノアミン類(b4)を加えて、80〜150℃で2〜5時間反応させて得られるマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)を中和剤にて中和し、必要に応じて界面活性剤を加え、水と親水性溶剤との混合溶剤又は水のみに溶解又は分散させて、塗料化時に用いることができる。
【0069】
上記有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノールなどのアルコール系;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール系化合物、あるいはこれらの混合物などが挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で又は2種類以上組み合わせて使用される。
【0070】
上記中和剤としては、カルボキシル基を中和できるものであれば特に制限はないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、ジメチルアミノエタノール、2−メチル−2−アミノプロパノール、トリエチルアミン、アンモニウムなどが挙げられる。
【0071】
また、界面活性剤を使用することで、水分散体の粒子径と安定性を向上させることができる。界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−オキシプロピレンブロック共重合物等のノニオン系界面活性剤、ラウリル硫酸ソーダ、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等のアニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0072】
このようなマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の重量平均分子量は、8,000〜60,000、好ましくは9,000〜40,000、さらに好ましくは10,000〜30,000、酸価は30〜90mgKOH/g、好ましくは40〜70mgKOH/gが、水分散性、耐水性や防食性の点から好適である。
【0073】
本発明の水性樹脂組成物における、前記水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)と前記マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体の配合割合は、該樹脂(A)と該樹脂(B)の固形分質量比で、該樹脂(A)/該樹脂(B)=35/65〜90/10、好ましくは55/45〜88/12が、低温硬化性に優れ、かつ仕上り性、塗膜硬度、耐薬品性、耐水性及び防食性向上の為にもよい。
【0074】
亜リン酸金属塩(C):
本発明の水性塗料組成物は、水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)とマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体に加えて、亜リン酸金属塩(C)を含有する。このことによって、塗膜の耐薬品性、耐水性、防食性、特に無処理鋼板上の防食性が格段に向上する。
【0075】
上記亜リン酸金属塩(C)は、無毒性の防錆顔料であり、亜鉛、カルシウム、マグネシウム及びアルミニウムからなる群から、選ばれた1種以上の金属の亜リン酸塩が好ましい。溶出した亜リン酸イオンが、塗膜中に侵入してくる酸素を補足し、亜リン酸はリン酸に酸化され、そのリン酸イオンが金属表面の金属イオンと反応し、錯化合物を形成して金属表面を保護し、防錆効果をもたらすと考えられている。例えば、市販品としては、亜リン酸亜鉛系のEXPERT NP−1500、EXPERT NP−1600(東邦顔料製)、亜リン酸カルシウム系のEXPERT NP−1000、EXPERT NP−1020C(東邦顔料製)、亜リン酸アルミニウム系としてはEXPERT NP−1100、EXPERT NP−1102(東邦顔料製)等が挙げられる。
【0076】
本発明において、亜リン酸金属塩(C)の配合量は、前記水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)と前記マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体の固形分合計100質量部に対して、1〜60質量部、好ましくは5〜50質量部が、さらに好ましくは10〜45質量部が、仕上り性、耐水性、防食性、特に無処理鋼板上の防食性向上の面から好ましい。
【0077】
また本発明の水性塗料組成物においては、亜リン酸金属塩(C)に、必要に応じて従来から公知の防錆顔料も併用することができ、例えば、酸化亜鉛、亜リン酸亜鉛、オルトリン酸亜鉛、ポリリン酸亜鉛、トリポリリン酸ニ水素アルミニウムが挙げられる。なお、トリポリリン酸ニ水素アルミニウムの市販品は、KW−140、KW−105(テイカ社製)がある。
【0078】
偏平状顔料(D):
本発明の水性塗料組成物は、必要に応じて、平均粒子径10μm以上、好ましくは平均粒子径12〜20μmの偏平状顔料(D)を含有することによって、得られた塗膜の耐水性、防食性、特に無処理鋼板上の防食性向上を図ることができる。偏平状顔料(D)は、例えば、タルク、アルミニウムフレーク、雲母フレークなどが挙げられ、このうちタルクが好ましい。
【0079】
上記タルクとは、層状構造を持った鱗片状の粒子であり、化学組成的には含水珪酸マグネシウムであり、一般的には化学式4SiO2・3MgO・2H2Oで表され、通常SiO2を56〜65重量%、MgOを28〜35重量%、H2O約5重量%程度から構成されている。その他の少量成分としてFe23が0.03〜1.2重量%、Al23が0.05〜1.5重量%、CaOが0.05〜1.2重量%、K2Oが0.2重量%以下、Na2Oが0.2重量%以下などを含有しており、比重は約2.7、モース硬度は1である。なお、タルクの市販品は、例えば、ミクロエースシリーズ、タルクMA(日本タルク社製)等が挙げられる。
【0080】
塗膜性能が向上する理由は、形成した塗膜内で他の各種顔料粒子と共に層状をなして重畳しあうことにより、腐食因子(例えば、塩素イオン、アルカリ金属イオン、水、酸素)が外部から侵入することを防止する遮蔽層として機能すると考える。
【0081】
なお、偏平状顔料(D)の平均粒子径は、レーザー回折分布測定装置(ナノトラックUPX−EX−250、日機装株式会社製)を用いて水、アルコール等の分散媒中に懸濁させて測定した篩下法の積分分布曲線から求めた50%相当粒子径D50のことを意味する。
【0082】
また、偏平状顔料(D)のDBP吸油量は、DBP吸油量が30ml/100g以下、好ましくは28ml/100g以下であることが、耐水性、防食性の向上のために好ましい。なおDBP吸油量は、次のように算出される。まず、乾燥した偏平状顔料(D)1.0gを精確に秤かり取り、これを300mm×300mm以上の大きさの平滑なガラス板又は石板上に移し、もし粒状であれば、へらで適度の圧力をかけ粒を砕く。ビュレットから必要とされる予測量のDBP(フタル酸ジブチル)量の約1/2をガラス板又は石板上に静かに注ぎ加え、DBPを円状に均等に広げてから試料を少しずつDBPの上に移して分散させ、へらで小円形を描く操作で丁寧に練る。
【0083】
この時、へらに付着した試料は、他のへらでかき落として元に戻したらこの操作を行う。さらに必要とされる予測量のDBP約1/3〜1/4を加え、同一操作を繰り返して混合物が均一になるようにする。滴下及び練り合わせを繰り返し、全体が硬いパテ状の塊となったら1滴ごとに練り合わせて、最後の1滴で、へらを用いてらせん状に巻くことができる状態になったときを終点とする。ただし、らせん状に巻くことができない場合は、DBPの1滴で急激に柔らかくなる直前を終点とする。
【0084】
この操作は、10〜15分で終わるようにし、操作終了後3分経過してからビュレット中のDBP滴下量を読み、次式によって吸油量:OA(ml/100g)を算出する。
OA=(V/W)×100
(式中、Vは終点までに用いたDBPの使用量(ml)であり、Wは乾燥試料の重さ(g)である)。
前記、本水性塗料組成物において、必要に応じて配合される偏平状顔料(D)の配合量は、水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)とマレイン化脂肪酸エポキシエステル
樹脂(B)の水分散体の固形分合計100質量部に対して、偏平状顔料(D)を30〜200質量部、好ましくは70〜180質量部、さらに好ましくは100〜150質量部の範囲がよい。
【0085】
さらに、本発明の水性塗料組成物は、必要に応じて、カルシウムイオン交換され
た非晶質シリカ微粒子(以下、「イオン交換シリカ」と略称することがある)を含有する。イオン交換シリカは、微細な多孔質のシリカ担体にイオン交換によってカルシウムイオンが導入されたシリカ微粒子である。
【0086】
塗膜中に配合されたイオン交換シリカは、塗膜を透過してきた水素イオンなどとイオン交換され、カルシウムイオンCa2+が放出されて金属表面を保護するものと考えられる。
【0087】
このようなイオン交換シリカの市販品としては、SHIELDEX(シールデックス、登録商標)C303、SHIELDEX AC−3、SHIELDEX AC−5(以上、いずれもW.R.Grace & Co.社製)などを挙げることができる。
本水性塗料組成物において、必要に応じて配合されるイオン交換シリカの配合量は、水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)とマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体の固形分合計100質量部に対して、イオン交換シリカを1〜30質量部、好ましくは5〜15質量部の範囲がよい。
【0088】
本発明の水性塗料組成物は、その他の成分として、カーボンブラック、ベンガラ等の着色顔料、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ハイドロタルサイト等のような体質顔料、界面活性剤、フラッシュラスト抑止剤、増粘剤、金属ドライヤー、硬化触媒、湿潤剤、消泡剤、可塑剤、造膜助剤、有機溶剤、防腐剤、防かび剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、表面調整剤などの添加剤を適宜選択し、単独でもしくは2種以上組み合わせて含有できる。
【0089】
水性塗料組成物の製造方法について
本発明の水性塗料組成物の製造は、マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体に、亜リン酸金属塩(C)、必要に応じて偏平状顔料(D)、その他の顔料成分や触媒、添加剤、水を加えて分散して顔料分散ペーストを調製する。
【0090】
次いで、該顔料分散ペーストに、水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)を配合し、さらにその他の添加剤を加え、脱イオン水などで調整して、塗料固形分濃度を5〜50質量%、好ましくは30〜45質量%、pH7.0〜13.0、好ましくは7.5〜10.0の範囲内となるように調整する。
【0091】
上記水性塗料組成物が適用できる被塗物は、例えば、アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、マグネシウム、銅、チタン、ステンレス、ブリキ、トタン等からなる金属板や合金板が挙げられる。さらに、これらの金属板や合金板に、亜鉛、銅、クロム等のメッキや、クロム酸、リン酸亜鉛等で処理して用いることができる。さらに、熱容量が大きく乾燥炉の熱が十分に伝達しない被塗物や、プラスチックやゴムが組み込まれていて加熱することができない被塗物も挙げられる。なお被塗物の用途は、産業用機械部品、自動車部品、2輪用部品、電気製品、建材等が挙げられる。
【0092】
本発明の水性塗料組成物の塗装方法は、例えば、浸漬塗り、刷毛塗り、ロール刷毛塗り、スプレーコート、ロールコート、スピンコート、ディップコート、バーコート、フローコート、静電塗装、ダイコート等による塗装法等が好適である。これら塗装方法による塗膜の膜厚は、乾燥膜厚5μm〜80μm、好ましくは乾燥膜厚15μm〜50μmである。
【0093】
なお塗膜の硬化方法としては、50℃を越えて100℃以下の温度で5〜40分間の強制乾燥を行った後、50℃以下で24時間〜10日間、好ましくは3日間〜7日間で塗膜を硬化させる方法。または100〜200℃で10〜120分間、好ましくは120〜180℃で20〜90分間にて塗膜硬化させる方法、等を用いることができる。例えば、被塗物の熱容量が大きく塗膜を十分に加熱できない部品やプラスチックやゴムなどを組み込んだ部品である場合にも適用可能である。
【0094】
本発明の水性塗料組成物の保存容器としては特に限定されないが、例えば、1L〜200Lのものを用いることができ、具体的には、ドラム缶、石油缶等が使用可能である。これらの容器は、オートクレーブ、紫外線、ガンマ線などで滅菌処理してもよいし、カビの発生や容器内の物質の腐敗を防ぐために、容器の内側をコーティングしてもよい。
【実施例】
【0095】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれによって限定されるものではない。尚、「部」及び「%」は「質量部」及び「質量%」を示す。
【0096】
水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)の製造例
製造例1 脂肪酸変性エポキシ樹脂の製造 (a3成分)
反応容器に、サフラワー油脂肪酸560部及び「jER 1001」(商品名、
ビスフェノール型エポキシ樹脂、分子量1,000、エポキシ当量450〜500)990重量部を入れ、攪拌しながら反応温度150℃で反応させて、脂肪酸変性エポキシ樹脂(I)を得た。
【0097】
製造例2 脂肪酸変性モノマーNo.1の製造 (a2成分)
反応容器に下記成分を入れ、攪拌しながら反応温度140℃で反応させ、脂肪酸変性モノマーNo.1を得た。エポキシ基とカルボキシル基の反応は残存カルボキシル基の量を測定することにより定量した。反応が完了するまで約5時間を要した。
アマニ油脂肪酸 280部
グリシジルメタクリレート 142部
【0098】
製造例3 水性脂肪酸変性アクリル樹脂の製造
ガラスビーカーに下記「成分1」を入れ、ディスパーにて2000rpmで15分間攪拌し、予備乳化液を製造した後、この予備乳化液を、高圧エネルギーを加えて流体同士を衝突させる高圧乳化装置にて高圧処理することにより平均粒子径が200nmのモノマー乳化物を得た。
「成分1」
製造例1による脂肪酸変性エポキシ樹脂(I) 25部
製造例2による脂肪酸変性モノマーNo.1 12部
スチレン 15部
メチルメタクリレート 11部
i−ブチルメタクリレート 14部
2−エチルヘキシルアクリレート 15部
ヒドロキシエチルメタクリレート 7部
メタクリル酸 1部
「Newcol707SF」(注1) 10部
脱イオン水 85部
次いで上記モノマー乳化物をフラスコへ移し、脱イオン水にて固形分濃度が45%となるように希釈した。その後85℃まで昇温させ、過硫酸アンモニウム1.0部を脱イオン水15部に溶解させた開始剤水溶液をフラスコに投入し、温度を85℃に保持しながら3時間攪拌した。その後過硫酸アンモニウム0.3部を脱イオン水2.7部に溶解させた開始剤水溶液をフラスコに添加し、温度を保持しながら1時間攪拌した後40℃まで冷却し、ジメチルアミノエタノールでpHを8.0に調整し、固形分濃度40%、平均粒子径が190nmの水性脂肪酸変性アクリル樹脂No.1を得た。
(注1)「Newcol707SF」:商品名、日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性乳化剤。
【0099】
製造例4
ガラスビーカーに入れる「成分2」として表1の内容とする以外は、製造例3と同様にして、固形分濃度40%、平均粒子径が170nmの水性脂肪酸変性アクリル樹脂No.2を得た。
【0100】
製造例5 水性脂肪酸変性アクリル樹脂の製造
ガラスビーカーに下記「成分3」を入れ、ディスパーにて2000rpmで15分間攪拌し、予備乳化液を製造した後、この予備乳化液を、超音波分散機にて処理することにより平均粒子径が180nmのモノマー乳化物を得た。
「成分3」
脂肪酸変性モノマーNo.1 30部
スチレン 20部
メチルメタクリレート 20部
i−ブチルメタクリレート 14部
2−エチルヘキシルアクリレート 7部
ヒドロキシエチルメタクリレート 8部
メタクリル酸 1部
「Newcol707SF」(前記注1) 10部
脱イオン水 85部
次いで上記モノマー乳化物をフラスコへ移し、脱イオン水にて固形分濃度が45%となるように希釈した。その後85℃まで昇温させ、過硫酸アンモニウム1.0部を脱イオン水15部に溶解させた開始剤水溶液をフラスコに投入し、温度を85℃に保持しながら3時間攪拌した。その後過硫酸アンモニウム0.3部を脱イオン水2.7部に溶解させた開始剤水溶液をフラスコに添加し、温度を保持しながら1時間攪拌した後40℃まで冷却し、ジメチルアミノエタノールでpHを8.0に調整し、固形分濃度40%、平均粒子径が175nmの水性脂肪酸変性アクリル樹脂No.3を得た。
【0101】
製造例6 水性脂肪酸変性アクリル樹脂の製造
ガラスビーカーに下記「成分4」を入れ、ディスパーにて2000rpmで15分間攪拌し、予備乳化液を製造した後、この予備乳化液を、高圧ホモジナイザーにて処理することにより平均粒子径が220nmのモノマー乳化物を得た。
「成分4」
脂肪酸変性エポキシ樹脂(I) 40部
スチレン 25部
メチルメタクリレート 10部
i−ブチルメタクリレート 12部
2−エチルヘキシルアクリレート 7部
ヒドロキシエチルメタクリレート 4部
メタクリル酸 2部
「Newcol707SF」(注1) 10部
脱イオン水 85部
次いで上記モノマー乳化物をフラスコへ移し、脱イオン水にて固形分濃度が45%となるように希釈した。その後85℃まで昇温させ、過硫酸アンモニウム1.0部を脱イオン水15部に溶解させた開始剤水溶液をフラスコに投入し、温度を85℃に保持しながら3時間攪拌した。その後過硫酸アンモニウム0.3部を脱イオン水2.7部に溶解させた開始剤水溶液をフラスコに添加し、温度を保持しながら1時間攪拌した後40℃まで冷却し、ジメチルアミノエタノールでpHを8.0に調整し、固形分濃度40%、平均粒子径が200nmの水性脂肪酸変性アクリル樹脂No.4を得た。
【0102】
【表1】

【0103】
製造例7 アクリルエマルションAの製造(比較例用)
ガラスビーカーに下記「成分5A」を入れ、ディスパーにて2000rpmで15分間攪拌し、乳化液を製造した。次いで、フラスコに下記「成分5B」を入れ、85℃まで昇温させた。
「成分5A」
スチレン 45部
メチルメタクリレート 25部
i−ブチルメタクリレート 10部
2−エチルヘキシルアクリレート 8部
ヒドロキシエチルメタクリレート 10部
メタクリル酸 2部
「Newcol707SF」(注1) 8部
脱イオン水 40部
「成分5B」
脱イオン水 45部
「Newcol707SF」(注1) 2部
次いで上記モノマー乳化液と、過硫酸アンモニウム1.3部を、脱イオン17.7部に溶解させた開始剤水溶液をともに3時間かけてフラスコへ滴下し温
度を保持しながら2時間攪拌した後40℃まで冷却し、ジメチルアミノエタノールでpHを8.0に調整し、固形分濃度40%のアクリルエマルションAを得た。
【0104】
マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体の製造例
製造例8 マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂の水分散体No.1(実施例用)
工程1:反応容器に、jER828EL(ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノール型エポキシ樹脂)を131部、亜麻仁油脂肪酸369部を加え、230℃で酸価が5mgKOH/g以下になるまで付加、縮合反応を進め、脂肪酸変性エポキシエステル樹脂を得た。
工程2:工程1で使用した反応容器中に、前記工程1で得られた脂肪酸変性エポキシエステル樹脂490部、及び無水マレイン酸86部加え、200℃で4時間付加反応を行い、マレイン化脂肪酸エポキシエステル溶液を得た。
工程3:工程2で得られたマレイン化脂肪酸エポキシエステル576部に、ジェファーミンM1000(ハンツマン社製)を70部加え、100℃で1時間付加反応を行い、ついでブチルアルコール85部を加え、100℃で3時間付加反応させた。
工程4:エチレングリコールモノブチルエーテル200部、トリエチルアミン67.5部を添加し、水を加えて調整し、固形分35質量%、pHが8.7、重量平均分子量19,000、酸価60mgKOH/gのマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂の水分散体No.1を得た。
【0105】
製造例9 マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂の水分散体No.2(実施例用)
工程1:反応容器に、jER828ELを131部、亜麻仁油脂肪酸369部を加え、230℃で酸価が5以下になるまで付加、縮合反応を進め、脂肪酸変性エポキシエステル樹脂を得た。
工程2:工程1で使用した反応容器中に、前記工程1で得られた脂肪酸変性エポキシエステル樹脂490部、及び無水マレイン酸86部加え、230℃で4時間付加反応を行い、マレイン化脂肪酸エポキシエステル溶液を得た。
工程3:工程2で得られたマレイン化脂肪酸エポキシエステル576部に、ジェファーミンM1000(ハンツマン社製)を70部加え、100℃で1時間付加反応を行い、ついでn−オクチルアミン23部、ブチルアルコール62部を加え、100℃で3時間付加反応させた。
工程4:エチレングリコールモノブチルエーテル200部、トリエチルアミン67.5部を添加し、水を加えて調整し、固形分35質量%、pHが8.66、重量平均分子量19,500、酸価60mgKOH/gのマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂の水分散体No.2を得た。
【0106】
製造例10 マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂の水分散体No.3(実施例用)
工程1:反応容器に、jER828ELを131部、亜麻仁油脂肪酸369部を加え、230℃で酸価が5以下になるまで付加、縮合反応を進め、脂肪酸変性エポキシエステル樹脂を得た。
工程2:工程1で使用した反応容器中に、前記工程1で得られた脂肪酸変性エポキシエステル樹脂490部、及び無水マレイン酸86部加え、230℃で4時間付加反応を行い、マレイン化脂肪酸エポキシエステル溶液を得た。
工程3:工程2で得られたマレイン化脂肪酸エポキシエステル576部に、ジェファーミンM1000(ハンツマン社製)を70部加え、100℃で1時間付加反応を行い、ついでn−オクチルアミン105部を加え、100℃で3時間付加反応させた。
工程4:エチレングリコールモノブチルエーテル200部、トリエチルアミン67.5部を添加し、水を加えて調整し、固形分35質量%、pHが8.66、重量平均分子量19,500、酸価60mgKOH/gのマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂の水分散体No.3を得た。
【0107】
製造例11 マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂の水分散体No.4(比較例用)
工程1:反応容器に、jER828ELを131部、亜麻仁油脂肪酸369部を加え、230℃で酸価が5以下になるまで付加、縮合反応を進め、脂肪酸変性エポキシエステル樹脂を得た。
工程2:工程1で使用した反応容器中に、前記工程1で得られた脂肪酸変性エポキシエステル樹脂490部、及び無水マレイン酸86部加え、200℃で4時間付加反応を行い、マレイン化脂肪酸エポキシエステル溶液を得た。
工程3:工程2で得られたマレイン化脂肪酸エポキシエステル576部にブタノール90部を加え、100℃で3時間付加反応させた。
工程4:エチレングリコールモノブチルエーテル200部、トリエチルアミン67.5部を添加し、水を加えて調整し、固形分35質量%、pHが8.6、重量平均分子量16,000、酸価60mgKOH/gのマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂の水分散体No.4を得た。
【0108】
製造例12 マレイン化脂肪酸エポキシエステルの水分散体No.5(比較例用)
工程1:反応容器に、jER828ELを131部、亜麻仁油脂肪酸369部を加え、230℃で酸価が5mgKOH/g以下になるまで付加、縮合反応を進め、脂肪酸変性エポキシエステル樹脂を得た。
工程2:工程1で使用した反応容器中に、前記工程1で得られた脂肪酸変性エポキシエステル樹脂490部、及び無水マレイン酸86部加え、200℃で4時間付加反応を行い、マレイン化脂肪酸エポキシエステル溶液を得た。
工程3:工程2で得られたマレイン化脂肪酸エポキシエステル576部に、n−オクチルアミンを23部加え、100℃で1時間付加反応を行い、ついでブタノール62部を加え、100℃で3時間付加反応させた。
工程4:エチレングリコールモノブチルエーテル200部、トリエチルアミン67.5部を添加し、水を加えて調整し、固形分35質量%、pHが8.6、重量平均分子量16,000、酸価60mgKOH/gのマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂の水分散体No.5を得た。
【0109】
製造例13 マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂の水分散体No.6(比較例用)
工程1:反応容器に、jER828EL(ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノール型エポキシ樹脂)を131部、亜麻仁油脂肪酸369部を加え、230℃で酸価が5以下になるまで付加、縮合反応を進め、脂肪酸変性エポキシエステル樹脂を得た。
工程2:工程1で使用した反応容器中に、前記工程1で得られた脂肪酸変性エポキシエステル樹脂490部、及び無水マレイン酸86部加え、200℃で4時間付加反応を行い、マレイン化脂肪酸エポキシエステル溶液を得た。
工程3:工程2で得られたマレイン化脂肪酸エポキシエステル576部に、ユニオックスM−1000(ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、日油社製)を70部加え、100℃で1時間付加反応を行い、ついでブタノール85部を加え、100℃で3時間付加反応させた。
工程4:エチレングリコールモノブチルエーテル200部、トリエチルアミン67.5部を添加し、水を加えて調整し、固形分35質量%、pHが8.7、重量平均分子量19,000、酸価60mgKOH/gのマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂の水分散体No.6を得た。
【0110】
顔料分散ペーストの製造
製造例14 顔料分散ペーストNo.1の製造例
製造例8で得た固形分35質量%のマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂の水分散体No.1を171部(固形分60部)、カーボンMA−100(注7)5.0部、タルクMA(注8)120部、EXPERT NP−1020C(注12)40部、脱イオン水135部加え、ボールミルに仕込み20時間攪拌することによって固形分50%の顔料分散ペーストNo.1を得た。
【0111】
製造例15〜38
表2〜表4の配合内容とする以外は、製造例14と同様にして、顔料分散ペーストNo.2〜No.25を得た。
【0112】
【表2】

【0113】
【表3】

【0114】
【表4】

【0115】
(注7)カーボンブラックMA−100:カーボンブラック、商品名、三菱化学社製
(注8)タルクMA:林化成社製、商品名、タルク、平均粒子径14μm、吸油量27ml/100g
(注9)Tタルク:竹原化学工業社製、商品名、タルク、平均粒子径9.0μm、吸油量27ml/100g
(注10)ミクロエースSG−95:日本タルク社製、商品名、微粉タルク、平均粒子径2.5μm、吸油量47ml/100g
(注11)ハイミクロンHE5:竹原化学工業社製、商品名、微粉タルク、平均粒子径1.6μm、吸油量52ml/100g
(注12)EXPERT NP−1020C:東邦化学社製、商品名、亜リン酸カルシウム
(注13)EXPERT NP−1500:東邦化学社製、商品名、亜リン酸亜鉛
(注14)KW−140E:テイカ社製、商品名、トリポリリン酸ニ水素アルミニウム
(注15)SHIELDEX AC−5:W.R.Grace & Co.社製、商品名、イオン交換シリカ。
【0116】
水性塗料の製造
実施例1 水性塗料No.1の製造例
製造例3で製造した固形分40%の脂肪酸変性アクリル樹脂の水分散体No.1を100部(固形分40部)、50%の顔料分散ペーストNo.1を450部(固形分225部)、各々をディスパーで攪拌しながら脱イオン水113部を加えて混合して固形分40%の水性塗料No.1を得た。
【0117】
実施例2〜19 水性塗料No.2〜No.19の製造例
表5及び表6の配合内容とする以外は、実施例1と同様にして、水性塗料No.2〜No.19を得た。次いで、試験板作成に従って得た試験板を、後記の試験方法によって試験に供した結果を表5及び表6に示す。
【0118】
【表5】

【0119】
【表6】

【0120】
比較例1〜10
表7の配合内容とする以外は、実施例1と同様にして、水性塗料No.20〜No.29を得た。次いで、試験板作成に従って得た試験板を、下記の試験方法による試験に供した結果を表7に示す。
【0121】
【表7】

【0122】
試験板の作成
上記の実施例1〜19、比較例1〜10にて得た水性塗料No.1〜No.29を用いて、冷延鋼板(無処理)に乾燥膜厚が20±2μmとなるようにスプレー塗装した。次に、電気熱風乾燥機を用いて75℃で20分間強制乾燥し、次いで室温(23℃)で7日間エージング(養生乾燥)を行って試験板を得た。
【0123】
(注16)塗料安定性:
各水性塗料を250mlのガラス容器に入れて暗所で、40℃にて30日間貯蔵し、状態をチェックした。
○は、塗料のゲル化及び相分離のいずれも認められず、
△は、やや塗料のゲル化及び相分離の少なくともいずれかがみられる、
×は、著しい塗料のゲル化及び相分離の少なくとも一つが著しくみられる。
【0124】
(注17)仕上り性:
各試験板の塗面外観を目視で評価した。
○は、平滑性が良好で問題なし
△は、ハジキ、凹み、曇りの少なくとも1種の低下がやや見られる、
×は、ハジキ、凹み、曇りの少なくとも1種の低下が大きい。
【0125】
(注18)鉛筆硬度:
JIS K 5600-5-4に準じて、試験塗板面に対し約45°の角度に鉛筆の芯を当て、芯が折れない程度に強く試験塗板面に押し付けながら前方に均一な速さで約10mm動かした。塗膜が破れなかったもっとも硬い鉛筆の硬度記号を鉛筆硬度とした。
【0126】
(注19)耐薬品性:
濃度5%の硫酸水溶液に、各試験板を60℃で3時間浸漬した後の塗面を目視で評価した。
◎は、塗膜に全く異常がない。
〇は、塗膜にツヤビケがわずかに認められるが製品として問題ないレベル
△は、塗膜にフクレ又はワレのいずれかが認められる。
×は、塗膜にフクレ又はワレが著しく認められる。
【0127】
(注20)耐水性:
各試験板を23℃で脱イオン水に72時間浸漬し、その後乾燥させた後に、塗面状態を評価した。
◎は、良好で問題ない
○は、ややツヤビケが見られるが製品として問題ないレベル
△は、フクレ、色落ちのいずれかが見られる、
×は、フクレ、色落ちのいずれかが大きい。
【0128】
(注21)防食性:
各試験板の塗膜にナイフでクロスカット傷を入れ、これをJIS Z−2371に準じて480時間耐塩水噴霧試験を行った。
試験後、ナイフ傷からの錆、フクレ幅によって以下の基準で評価した。
◎は、錆、フクレの最大幅が、カット部から2mm未満(片側)、
○は、錆、フクレの最大幅が、カット部から2mm以上でかつ3mm未満(片側)、
△は、錆、フクレの最大幅が、カット部から3mm以上でかつ4mm未満(片側)、
×は、錆、フクレの最大幅が、カット部から4mm以上(片側)。
【産業上の利用可能性】
【0129】
無処理鋼板の防食性に優れ、さらに熱容量が大きく乾燥炉の熱が十分に伝達しない被塗物やプラスチックやゴムが組み込まれていて加熱することができない被塗物においても、防食性に優れた塗装物品を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記特徴の水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)と下記特徴のマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体を固形分質量比で35/65〜90/10の割合で含有し、さらに該両成分の固形分合計100質量部を基準にして、
亜リン酸金属塩(C)を1〜60質量部含有することを特徴とする水性塗料組成物。
水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A):ラジカル重合性不飽和モノマー(a1)と、脂肪酸変性重合性不飽和モノマー(a2)及び/又は脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)を含んでなる混合物(I)を、水性媒体中に分散させて得られる乳化物中で重合性不飽和モノマーをラジカル重合させて得られる樹脂
マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂(B)の水分散体:脂肪酸エポキシエステル樹脂(b1)に、無水マレイン酸を反応させて、次いで無水基に下記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレンアミン類(b2)を付加反応させて得られる付加物に、さらに残存無水基にモノアルコール類(b3)及び/又はモノアミン類(b4)を付加反応させて得られるマレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂を中和し、水分散して得られる分散体
【化1】

式(1)
(式(1)中、aは1〜8の整数、bは8〜40の整数、b個の繰り返し単位中の各Rは同一又は相異なってもよく水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す)
【請求項2】
水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)における脂肪酸変性エポキシ樹脂(a3)が、エポキシ樹脂(a31)と脂肪酸(a32)を反応させてなる樹脂である請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂樹脂(B)の水分散体における脂肪酸エポキシエステル樹脂(b1)が、エポキシ樹脂(b11)と脂肪酸(b12)と反応させることにより得られる樹脂である請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記水性脂肪酸変性アクリル樹脂(A)と前記マレイン化脂肪酸エポキシエステル樹脂樹脂(B)の水分散体の固形分合計100質量部を基準にして、平均粒子径が10μm以上の偏平状顔料(D)を30〜200質量部含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
被塗物に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗装して得られた塗装物品。

【公開番号】特開2012−224771(P2012−224771A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94582(P2011−94582)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】