説明

水性塗料組成物

【課題】 塗装作業性や仕上がり性が良好で、付着性、耐水性、さらには耐水付着性に優れた塗膜を形成するのに適する水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】 (A)一般式(1)で表されるリン酸基含有重合性不飽和モノマー0.1〜10重量%、(b)炭素数が6以上の直鎖状又は分岐状の炭化水素基含有重合性不飽和モノマー1〜50重量%、(c)水酸基含有重合性不飽和モノマー1〜40重量%、(d)カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー0.1〜15重量%及び(e)その他の重合性不飽和モノマー0〜97.8重量%を親水性有機溶剤の存在下で重合開始剤により共重合することにより得られる水性アクリル樹脂、並びに(B)水性ウレタン樹脂を含有し、樹脂(A)と樹脂(B)の配合割合が、樹脂(A)/樹脂(B)固形分重量比で、1/99〜50/50の範囲内であることを特徴とする水性塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温乾燥又は強制乾燥の条件でも仕上がり性、付着性に優れた塗膜を形成でき、自動車補修塗装分野におけるベースコート塗料として有用な水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディ等における上塗り塗膜の形成方法には、通常、ベースコート塗料を塗装し次いでクリヤーコート塗料を塗装する仕上げ塗装が行われている。近年、環境保全の点からベースコート塗料として水系の塗料が採用されつつあり、常温乾燥や強制乾燥により塗膜形成を行うことのある自動車補修塗装の分野においても水系化の検討がなされてきた。
【0003】
例えば特許文献1において本出願人は、水溶性樹脂及び/又は水分散性樹脂、及び顔料を主成分とし、中和剤として、沸点が150℃以下で1分子中に水酸基を1つ以上有するアミンを用いることを特徴とする水性塗料組成物を提案した。
【0004】
該水性塗料組成物においては、常温乾燥や強制乾燥の条件でも耐水性に優れる塗膜を形成することができるが、該水性塗料組成物をベースコートとし、該ベースコート塗膜上にクリヤー塗装することにより形成された複層塗膜は、屋外での経年の暴露で、特にベースコート塗膜と有機溶剤希釈型のクリヤーコート塗膜との間で層間ハガレが生じる場合があり、さらに塗膜を水中に浸漬した後の付着性(耐水付着性ということがある)に劣るという問題があった。
【0005】
こうした問題点に対し、本出願人は特許文献2及び3において、水性ベースコート塗料の塗装の前及び/又は後に、該ベースコート塗膜との親和性向上成分を含有するインナーコート塗料を塗装することを特徴とする塗装方法及びベースコート塗膜上に、マクロモノマーを5〜50重量%含有するモノマー混合物を共重合してなる水酸基含有アクリル系共重合体及びイソシアネート硬化剤を含有する有機溶剤型クリヤーコートを塗装する塗装方法について提案した。該方法によれば、被塗面とベースコート塗膜又はベースコート塗膜とクリヤー塗膜の間の層間ハガレが生じることなく、耐候性及び耐水付着性に優れた複層塗膜を形成できるが、ベースコート塗膜の膜厚が厚い場合において、初期付着性を適度に有していても耐水付着性が十分とはいえない場合があった。特に二酸化チタンなどの白色顔料を含むホワイトベースコート塗料の場合、顔料濃度を高くしても塗膜の下地隠蔽性が不十分であることから、他の顔料の場合と比較してベースコート塗膜を厚膜とする必要があり、耐水付着性が不十分である傾向があった。
【0006】
【特許文献1】特開平11−124545号公報
【特許文献2】特開2004−130237号公報
【特許文献3】特開2004−130238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、塗装作業性や仕上がり性が良好で、付着性、耐水性、さらには耐水付着性に優れた塗膜を形成するのに適する水性塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討した結果、特定の水性アクリル樹脂、水性ウレタン樹脂を特定量含有する水性塗料組成物により本発明に到達した。即ち本発明は、
1. (A)(a)下式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、nは1〜3の整数を表す)
で表されるリン酸基含有重合性不飽和モノマー0.1〜10重量%、(b)炭素数が6以上の直鎖状又は分岐状の炭化水素基含有重合性不飽和モノマー1〜50重量%、(c)水酸基含有重合性不飽和モノマー1〜40重量%、(d)カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー0.1〜15重量%及び(e)その他の重合性不飽和モノマー0〜97.8重量%を親水性有機溶剤の存在下で重合開始剤により共重合することにより得られる水性アクリル樹脂、
並びに(B)水性ウレタン樹脂を含有し、樹脂(A)と樹脂(B)の配合割合が、樹脂(A)/樹脂(B)固形分重量比で、1/99〜50/50の範囲内であることを特徴とする水性塗料組成物、
2. さらにアクリル乳化重合体(C)を含有する1項に記載の水性塗料組成物、
3. アクリル乳化重合体(C)を構成する重合性不飽和モノマーからなる共重合体のガラス転移温度が、−100〜50℃の範囲内であることを特徴とする2項に記載の水性塗料組成物、
4. アクリル乳化重合体(C)が、共重合成分として炭素数が6以上の直鎖状又は分岐状の炭化水素基含有重合性不飽和モノマー(b)を10〜80重量%の範囲内で含むことを特徴とする2項または3項に記載の水性塗料組成物、
5. アクリル乳化重合体(C)が、共重合成分としてリン酸基含有重合性不飽和モノマー(a)を含むことを特徴とする2項ないし4項のいずれか1項に記載の水性塗料組成物、
6. アクリル乳化重合体(C)の配合量が、樹脂(A)、樹脂(B)及び乳化重合体(C)の合計固形分を基準にして、1〜50重量%の範囲内であることを特徴とする2項ないし5項のいずれか1項に記載の水性塗料組成物、
7. 被塗面に、1項ないし6項のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗装することを特徴とする塗膜形成方法、
8. 被塗面に、1項ないし6項のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗装した後、該塗膜上にトップクリヤー塗料を塗装することを特徴とする塗膜形成方法、
9. 7項または8項に記載の塗膜形成方法により得られる塗装物品、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性塗料組成物によれば、塗装作業性が良好で、常温乾燥又は強制乾燥の条件でも乾燥性に優れ、仕上がり性、耐候性、付着性、耐水性に優れるベースコート塗膜を形成することができる。しかも該塗膜は耐水付着性にも優れるものであり、ベースコート塗膜が厚膜の場合でも耐水付着性が良好であるので、ホワイトベースコート等の厚膜化を要する淡彩色系の塗料にも使用することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
水性アクリル樹脂(A)
本発明において、リン酸基含有重合性不飽和モノマー(a)は、下式(1)
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、nは1〜3の整数を表す)
で表される化合物であり、例えば、(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−アクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート、(2−メタクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。該モノマー(a)により、本発明の水性塗料組成物から形成される塗膜の被塗面に対する付着性を向上させることができる。
【0015】
炭素数が6以上、特に6〜18の直鎖状又は分岐状の炭化水素基含有重合性不飽和モノマー(b)としては、例えば、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」(大阪有機化学社製)等を挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。該モノマー(b)により、本発明の水性塗料組成物から形成される塗膜の付着性、耐水性を向上させることができる。
【0016】
水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコ−ル、上記C〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体などの水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。該モノマー(c)により、水性アクリル樹脂(A)の水に対する溶解性を向上させることができ、本発明の水性塗料組成物から形成される塗膜の付着性を向上させることができる。
【0017】
カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(d)としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等を挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。該モノマー(d)により、本発明の水性塗料組成物の貯蔵安定性及び調色安定性を向上させることができる。
【0018】
その他の重合性不飽和モノマー(e)としては、上記モノマー(a)、(b)、(c)及び(d)と共重合可能なモノマーであり、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート等の炭素数が1〜5の直鎖状または分岐状の炭化水素基含有重合性不飽和モノマー;シクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、シクロドデシル(メタ)アクリレ−ト等のシクロアルキル基含有重合性不飽和モノマー;イソボルニル(メタ)アクリレート等のイソボルニル基を有する重合性不飽和モノマー;アダマンチル(メタ)アクリレート等のアダマンチル基を有する重合性不飽和モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル基含有重合性不飽和モノマー;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィン等のフッ素化アルキル基を有する重合性不飽和モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、β一メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;マレイミド基等の光重合性官能基を有する重合性不飽和モノマー;1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、2,2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート等;N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等のビニル化合物;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物等の含窒素重合性不飽和モノマー;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレート;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレート及びそのナトリウム塩やアンモニウム塩等のスルホン酸基を有する重合性不飽和モノマー;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等のカルボニル基含有重合性不飽和モノマー等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。該モノマーにより、水性アクリル樹脂(A)製造時における重合安定性を向上させることができる。
【0019】
本発明において上記重合性不飽和モノマーは、親水性有機溶剤の存在下、重合開始剤により重合されるものであり、この場合における上記モノマー(a)、モノマー(b)、モノマー(c)、モノマー(d)及びモノマー(e)の使用割合は、これらモノマーの合計量を基準として、
リン酸基含有重合性不飽和モノマー(a)が0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜3重量%、
炭素数が6以上の直鎖状又は分岐状の炭化水素基含有重合性不飽和モノマー(b)が、1〜50重量%、好ましくは15〜35重量%、
水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)が1〜40重量%、好ましくは5〜30重量%、
カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(d)が0.1〜15重量%、好ましくは0.1〜10重量%及び
その他の重合性不飽和モノマー(e)が、0〜97.8重量%、好ましくは22〜79.8重量%の範囲内であることが望ましい。
【0020】
上記親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノtert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノtert−ブチルエーテル等のエチレングリコールエーテル系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル等のプロピレングリコールエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、3−メトキシブチルアセテート等のエステル系溶剤等が挙げられ、これらは単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0021】
重合開始剤としては、従来公知のものが制限なく使用でき、例えば、ベンゾイルパーオキシド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキシド、ステアロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等を挙げることができる。
【0022】
また、上記水性アクリル樹脂(A)は、該樹脂(A)の水溶解性を向上させ、本発明の水性塗料組成物の仕上がり性を向上させる目的で、カルボキシル基を中和剤により中和することが望ましい。かかる中和剤としては、カルボキシル基を中和できるものであれば特に制限はなく、例えばアンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノ−ルアミン、ジエタノ−ルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、メチルエタノ−ルアミン、ジメチルエタノ−ルアミン、ジメチルプロパノ−ルアミンなどのアミン化合物が挙げられ、特にジメチルエタノ−ルアミンが好適である。
【0023】
上記水性アクリル樹脂(A)の重量平均分子量としては、1000〜100,000好ましくは8,000〜70,000の範囲内であることができる。
【0024】
本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(東ソー(株)社製、「HLC8120GPC」)で測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算した値である。カラムは、「TSKgel G−4000H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0025】
水性ウレタン樹脂(B)
本発明において水性ウレタン樹脂(B)としては、従来公知のものを制限なく使用でき、平均粒子径が0.01〜1μm、特に0.1〜0.5μmの範囲内の粒子形態のエマルションを使用することが望ましい。本明細書において、平均粒子径とは、「ナノマイザーN−4」(商品名、コールター社社製、粒度分布測定装置)にて、試料を脱イオン水で希釈して、20℃にして測定した値とする。
【0026】
本発明において上記水性ウレタン樹脂(B)は、貯蔵安定性及び形成塗膜の耐水性の点から、酸価が5〜100mgKOH/g、好ましくは10〜70mgKOH/gの範囲内のものであることが望ましい。
【0027】
本発明において上記水性ウレタン樹脂(B)は、例えば、ポリイソシアネート、ポリオール及びカルボキシル基含有ジオールを反応させてなるウレタンプレポリマーを水中に分散することにより得ることができる。
【0028】
ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート化合物;これらのジイソシアネート化合物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;イソホロンジイソシアネート、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−(又は−2,6−)ジイソシアネート、1,3−(又は1,4−)ジ(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート化合物;これらのジイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート、4,4´−トルイジンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルエーテルイソシアネート、(m−もしくはp−)フェニレンジイソシアネート、4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、3,3´−ジメチル−4,4´−ビフェニレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトフェニル)スルホン、イソプロピリデンビス(4−フェニルイソシアネート)などの芳香族ジイソシアネート化合物;これらのジイソシアネ−ト化合物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;トリフェニルメタン−4,4´,4´´−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、4,4´−ジメチルジフェニルメタン−2,2´,5,5´−テトライソシアネートなどの1分子中に3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物;これらのポリイソシアネート化合物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、ポリアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのポリオールの水酸基にイソシアネート基が過剰量となる比率でポリイソシアネート化合物を反応させてなるウレタン化付加物;これらのウレタン化付加物のビュ−レットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物等を挙げることができる。
【0029】
上記ポリオールとしては、例えば重量平均分子量が200〜10000範囲内のものを使用でき、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン−プロピレン(ブロック又はランダム)グリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、ポリオクタメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオール;ジカルボン酸(アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等)とグリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン等)との縮重合させたポリオール、例えばポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート、ポリ−3−メチルペンチルアジペート、ポリエチレン/ブチレンアジペート、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペート等のポリエステルポリオール;ポリカプロラクトンポリオール、ポリ−3−メチルバレロラクトンポリオール;ポリカーボネートポリオール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、オクタンジオール、トリシクロデカンジメチロール、水添ビスフェノールA、シクロヘキサンジメタノール、1,6ヘキサンジオール等の低分子量グリコール類;等が挙げられ、単独で又は2種以上併用して使用することができる。
【0030】
上記カルボキシル基含有ジオールとしては、例えばジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸等が挙げられる。
【0031】
本発明において上記水性ウレタン樹脂(B)は、中和剤により中和することができる。中和剤としては、特に制限はなく、例えば、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノ−ルアミン、ジエタノ−ルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、メチルエタノ−ルアミン、ジメチルエタノ−ルアミン、ジメチルプロパノ−ルアミンなどのアミン化合物が挙げられる。中和剤はカルボキシル基1当量に対して、通常0.5〜2.0当量、好ましくは0.7〜1.3当量となる割合で、使用することができる。
【0032】
水性塗料組成物
本発明の水性塗料組成物は、上記水性アクリル樹脂(A)及び水性ウレタン樹脂(B)を必須成分として含有し、樹脂(A)と樹脂(B)の配合割合が、樹脂(A)/樹脂(B)固形分重量比で、1/99〜50/50、好ましくは5/95〜30/70の範囲内であることを特徴とする。
【0033】
配合割合が1/99未満では、本発明の水性塗料組成物から形成される塗膜の耐水付着性が悪く、一方50/50を超えると塗膜強度が低下して塗膜が軟化し、例えば塗膜に異物が付着した際にサンドペーパー等の研磨剤を用いて行う研磨作業の際に、該研磨剤による傷が塗膜に深く入ることがあり、好ましくない。
【0034】
また、上記水性塗料組成物は、形成塗膜の耐水付着性の点からアクリル乳化重合体(C)を含有することが望ましい。
【0035】
本発明におけるアクリル乳化重合体(C)は、アクリル共重合体が水性媒体中に均一に分散してなるものであり、例えば重合性不飽和モノマーを水及び界面活性剤のような分散安定剤の存在下で、1段又は多段で乳化重合せしめることによって得ることができる。
【0036】
乳化重合せしめる重合性不飽和モノマーとしては、前記水性アクリル樹脂(A)で例示した重合性不飽和モノマー類から適宜選ばれたものであることができる。
【0037】
本発明において上記アクリル乳化重合体(C)は、形成塗膜の付着性、耐水付着性及び研磨作業性の点から、アクリル乳化重合体(C)を構成する重合性不飽和モノマーからなる共重合体のガラス転移温度が、−100〜50℃、好ましくは−70〜25℃、さらに好ましくは−60〜−20℃の範囲内であることが望ましい。
【0038】
本明細書において、ガラス転移温度(絶対温度)は、下記式により算出される値である。
【0039】
1/Tg=W/T+W/T+・・・W/T
式中、W、W・・・Wは各モノマーの重量%〔=(各モノマーの配合量/モノマー全重量)×100〕であり、T、T・・・Tは各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)である。なお、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、Polymer Hand Book (4th Edition)による値であり、該文献に記載されていないモノマーのガラス転移温度は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が5万程度になるようにして合成し、そのガラス転移温度を示差走査型熱分析により測定したときの値を使用する。
【0040】
上記アクリル乳化重合体(C)における好適な共重合成分としては、上記炭素数が6以上の直鎖状又は分岐状の炭化水素基含有重合性不飽和モノマー(b)を挙げることができ、該モノマー(b)の使用量としては、アクリル乳化重合体(C)の製造に使用される全モノマー中10〜80重量%、好ましくは15〜70重量%、さらに好ましくは20〜60重量%の範囲内であることができる。
【0041】
また、アクリル乳化重合体(C)の水中における安定性と本発明の水性塗料組成物から形成される塗膜の耐水付着性の点から、該アクリル乳化重合体(C)は、共重合成分として、上記水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)、及びカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(d)を含んでなることが望ましい。
【0042】
上記水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)の使用量としては、アクリル乳化重合体(C)の製造に使用される全モノマー中1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%の範囲内であることができ、また、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマーの使用量としては、アクリル乳化重合体(C)の製造に使用される全モノマー中0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の範囲内であることができる。
【0043】
本発明において、アクリル乳化重合体(C)は、上記リン酸基含有重合性不飽和モノマー(a)を共重合成分として含有するものであってもよい。かかるリン酸基含有重合性不飽和モノマー(a)を使用する場合は、その使用量としては、アクリル乳化重合体(C)の製造に使用される全モノマー中、0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の範囲内であることができる。
【0044】
上記アクリル乳化重合体(C)の平均粒子径は、0.01〜1.0μm、0.1〜0.5μmの範囲内とすることができる。
【0045】
本発明の水性塗料組成物が上記アクリル乳化重合体(C)を含有する場合は、その配合量としては、形成塗膜の耐水付着性、研磨作業性のバランスから、上記水性アクリル樹脂(A)、水性ウレタン樹脂(B)及びアクリル乳化重合体(C)の合計固形分を基準にして、1〜50重量%、好ましくは1〜40重量%、さらに好ましくは15〜35重量%の範囲内であることが望ましい。
【0046】
上記本発明の水性塗料組成物に用いられる顔料は、通常塗料分野で用いられる光輝性顔料、着色顔料、体質顔料等の顔料が特に制限なく使用できる。光輝性顔料として例えば、アルミニウム粉、ブロンズ粉、銅粉、錫粉、鉛粉、リン化鉄等のメタリック顔料;パール状金属コーティング雲母粉、マイカ状酸化鉄等のパール顔料を挙げることができ、着色顔料としては、酸化チタン等の白色顔料;カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、鉄黒、アニリンブラックなどの黒色顔料;黄色酸化鉄、チタンイエロー、モノアゾイエロー、縮合アゾイエロー、アゾメチンイエロー、ビスマスバナデート、ベンズイミダゾロン、イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、ベンジジンイエロー、パーマネントイエロー等の黄色顔料;パーマネントオレンジ等の橙色顔料;赤色酸化鉄、ナフトールAS系アゾレッド、アンサンスロン、アンスラキノニルレッド、ペリレンマルーン、キナクリドン系赤顔料、ジケトピロロピロール、ウォッチングレッド、パーマネントレッド等の赤色顔料;コバルト紫、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット等の紫色顔料;コバルトブルー、フタロシアニンブルー、スレンブルーなどの青色顔料;フタロシアニングリーンなどの緑色顔料;等をあげることができ、体質顔料としては、バリタ粉、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシム、石膏、クレー、シリカ、亜鉛末、ホワイトカーボン、珪藻土、タルク、炭酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、マイカ粉などを挙げることができる。
【0047】
上記メタリック顔料において、その形状は特に限定されないが、燐片状が適当である。また該メタリック顔料は、リン酸基あるいはスルホン酸基を含有する処理剤で分散処理され被覆されていることが水素ガス発生抑制の点から好適である。リン酸基あるいはスルホン酸基含有処理剤には従来公知の低分子化合物や共重合体が特に制限なく適用できる。
【0048】
本発明において顔料を配合する場合その配合量は、顔料の種類に応じて適宜調整することができ、水性塗料中に含まれる樹脂固形分の合計重量を基準にして、一般に1〜200重量%、好ましくは5〜150重量%の範囲内とするのが適当である。例えば白色顔料の場合は、被塗面との付着性の点から、樹脂固形分の合計重量を基準にして、一般に10〜200重量%、好ましくは50〜150重量%の範囲内であることができる。
【0049】
本発明において、顔料の配合方法としては、特に限定されるものではないが、水性アクリル樹脂(A)により分散することにより行うことができる。
【0050】
本発明の水性塗料組成物は、貯蔵安定性及び塗装作業性の点から、増粘剤を含有することができる。かかる増粘剤としては、従来公知のものが制限なく使用することができ、具体的には例えば、ケイ酸塩、金属ケイ酸塩、モンロリロナイト、有機モンモリロナイト、コロイド状アルミナ等の無機系増粘剤;ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のポリアクリル酸系増粘剤;「UH−814N」、「UH−462」、「UH−420」、「UH−472」、「UH−540」(以上、旭電化社製)、「SNシックナー612」、「SNシックナー621N」、「SNシックナー625N」、「SNシックナー627N」(以上、サンノプコ社製)等のウレタン会合型増粘剤;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の繊維素誘導体系増粘剤;カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム等のタンパク質系増粘剤;アルギン酸ソーダ等のアルギン酸系増粘剤;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルベンジルエーテル共重合体等のポリビニル系増粘剤;プルロニックポリエーテル、ポリエーテルジアルキルエステル、ポリエーテルジアルキルエーテル、ポリエーテルエポキシ変性物等のポリエーテル系増粘剤;ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体の部分エステル等の無水マレイン酸共重合体系増粘剤;ポリアマイドアミン塩等のポリアマイド系増粘剤等を挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0051】
上記増粘剤の中でも貯蔵安定性の点から、ポリアクリル酸系増粘剤が好適である。かかるポリアクリル酸系増粘剤の酸価としては、例えば30〜300mg/KOH、好ましくは80〜280mg/KOHの範囲内であることができる。
【0052】
本発明において上記増粘剤は、水性塗料組成物中の樹脂固形分を基準にして一般に0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜10重量%の範囲内で含まれることが望ましい。
【0053】
本発明の水性塗料組成物においては、通常水性塗料の膜形成成分として使用される他の水溶性及び/又は水分散性樹脂を適宜選択し併用してもよい。かかる他の水溶性及び/又は水分散性樹脂としては、例えばアルキド系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロ−ス系樹脂などを水溶性又は水分散化したものが挙げられる。
【0054】
本発明の水性塗料組成物には、さらに必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、表面調整剤、ポリマー微粒子、分散助剤、塩基性中和剤、防腐剤、シランカップリング剤、増粘剤、消泡剤、硬化触媒、水、上記親水性有機溶剤以外の有機溶剤などの水性塗料調整の際に通常用いられる他の成分を配合してもよい。
【0055】
本発明の水性塗料組成物は、上記水性アクリル樹脂(A)及び水性ウレタン樹脂(B)を必須成分とし、場合によりアクリル乳化重合体(C)を含有するものであり、必要に応じて硬化剤を含有することもできる。
【0056】
上記硬化剤としては、ノニオン性の親水基を導入した水分散性ポリイソシアネート、オキサゾリン系化合物、ポリカルボジイミド系化合物、ブロックポリイソシアネート化合物、メラミン等を挙げることができ、硬化剤の種類に応じて塗料形態を、一液型塗料、二液型塗料、多液型塗料などに適宜選択できる。
【0057】
本発明は、被塗面に上記の通り得られる本発明の水性塗料組成物を塗装することを特徴とする塗膜形成方法を提供する。
【0058】
被塗面としては、鉄、アルミニウム、真鍮、銅板、ステンレス鋼板、ブリキ板、亜鉛メッキ鋼板、合金化亜鉛(Zn−Al、Zn−Ni、Zn−Feなど)メッキ鋼板などの金属;これらの金属表面にりん酸亜鉛処理、クロメート処理などの化成処理を施した表面処理金属;プラスチック、木材、コンクリート、モルタル等の被塗物素材面、又はこれら被塗物素材面にプライマー等の下塗り及び/又は中塗り及び/又は上塗り塗料を塗装した塗膜面などが挙げられる。
【0059】
本発明の水性塗料組成物を塗装する塗装手段としては、スプレー塗装、静電塗装、ハケ塗装、ローラー塗装等特に制限はなく、乾燥方法としては、加熱乾燥、強制乾燥、常温乾燥のいずれであってもよい。本明細書では40℃未満の乾燥条件を常温乾燥とし、40℃以上で且つ80℃未満の乾燥条件を強制乾燥とし、80℃以上の乾燥条件を加熱乾燥とする。
【0060】
また、本発明は、被塗面に上記水性塗料組成物を塗装した後、該塗膜上にトップクリヤー塗料を塗装して塗膜を形成することを特徴とする塗膜形成方法である。
【0061】
上記水性塗料組成物による塗膜はトップクリヤー塗料を塗装する前に硬化乾燥させてもよいし、未硬化の該塗膜上にトップクリヤー塗料を塗装し、両塗膜を乾燥させることもできる。
【0062】
本発明方法に用いられるトップクリヤー塗料としては、従来公知のものが特に制限なく使用でき、例えば水酸基などの架橋性官能基を含有するアクリル樹脂やフッ素樹脂を主剤とし、ブロックポリイソシアネート、ポリイソシアネートやメラミン樹脂などを硬化剤として含有する硬化型塗料、あるいはセルロースアセテートブチレート変性のアクリル樹脂を主成分とするラッカー塗料などが好適に使用でき、さらに必要に応じて顔料類、繊維素誘導体類、添加樹脂、紫外線吸収剤、光安定剤、表面調整剤、硬化触媒などの塗料用添加剤を含有することができる。このうちポリイソシアネート硬化剤を含有する塗料を用いた場合、トップクリヤー塗膜から水性塗料組成物による塗膜中にポリイソシアネート硬化剤が一部しみ込んでくるので、水性塗料組成物による塗膜中の水酸基と反応することができ、水性塗料組成物中に硬化剤成分を用いない或いは減量できる上、水性塗料組成物による塗膜とトップクリヤー塗膜間の付着性、耐水付着性を向上させることができ、好適である。
【0063】
次に実施例をあげて、本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0064】
水性アクリル樹脂の製造
製造例1
4リットルのフラスコにプロピレングリコールモノプロピルエーテル350部を加え、窒素気流中で115℃に昇温した。115℃に達した後、メチルメタクリレート350部、n−ブチルアクリレート200部、2−エチルヘキシルメタクリレート250部、4−ヒドロキシブチルアクリレート130部、アクリル酸60部、「ライトエステルPM 」(注1)10部にアゾビスイソブチロニトリル10部を溶解したモノマー混合物を3時間かけて加え、2時間熟成を行った。反応終了後、ジメチルエタノールアミンで当量中和し、さらにプロピレングリコールモノプロピルエーテルを450部を加えて、ジメチルエタノールアミンでpH7.5に調整し、酸価50mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/g、ガラス転移温度が5℃、重量平均分子量45,000、固形分55%の黄色液状のアクリル樹脂溶液(A−1)を得た。
(注1)「ライトエステルPM」:商品名、共栄社化学株式会社製、(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート。
【0065】
製造例2〜6
製造例1において、モノマー混合物の配合を表1に示す通りとする以外は製造例1と同様にして各アクリル樹脂溶液(A−2)〜(A−6)を得た。
【0066】
【表1】

【0067】
ウレタンエマルションの製造
製造例7
4リットルのフラスコに、数平均分子量2000のポリブチレンアジペート115.5部、数平均分子量2000のポリカプロラクトンジオール115.5部、ジメチロールプロピオン酸23.2部、1,4−ブタンジオール6.5部及びイソホロンジイソシアネート120.1部を重合容器に仕込み、撹拌下に窒素気流中、85℃で7時間反応せしめてNCO含有量4.0%のプレポリマーを得た。次いで該プレポリマーを50℃まで冷却し、アセトン165部を加え均一に溶解した後、撹拌下にトリエチルアミン15.7部を加え、50℃以下に保ちながら脱イオン水600部を加え、得られた水分散体を50℃で2時間保持し水伸長反応を完結させた後、減圧下70℃以下でアセトンを留去し、トリエチルアミンと脱イオン水でpHを8.0に調整し、酸価が26mgKOH/g、固形分30%、平均粒子系が0.15μmのウレタン樹脂エマルション(B−1)を得た。
【0068】
アクリル樹脂エマルションの製造
製造例8
反応容器に脱イオン水100部、「Newcol707SF」(日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性乳化剤、固形分30%)2.5部およびモノマー混合物(スチレン9部、n−ブチルアクリレート40部、2−エチルヘキシルアクリレート40部、2−ヒドロキシエチルアクリレート10部、メタクリル酸1部)のうちの1部を加え、窒素気流で攪拌混合し、60℃で3%過硫酸アンモニウム水溶液3部を加えた。次いで、80℃に昇温して前記モノマー混合物の残りの99部、「Newcol707SF」2.5部、3%過硫酸アンモニウム4部および脱イオン水100部からなるプレエマルションを4時間かけて定量ポンプを用いて反応容器に加え、添加終了後1時間熟成を行った。その後、脱イオン水33部を加え、ジメチルエタノールアミンでpH7.5に調整し、ガラス転移温度が−44℃、平均粒子径が0.1μm、固形分30%のアクリル樹脂エマルション(C−1)を得た。
【0069】
製造例9〜10
製造例8において、モノマー混合物の配合を表2に示す通りとする以外は製造例8と同様にしてアクリル樹脂エマルション(C−2)〜(C−3)を得た。
【0070】
【表2】

【0071】
チタン白顔料ペーストの作成
製造例11
攪拌混合容器に脱イオン水40部にチタン白(「JR701」、テイカ社製)100部及び製造例1で得たアクリル樹脂(A−1)溶液を36.3部を加え、ディスパーにより15分間攪拌混合し、さらにサンドミルにて30分間分散処理をした。
製造例12〜19
製造例11において、配合組成を表3に示す通りとする以外は製造例11と同様にして各チタン白顔料ペースト(D−2)〜(D−9)を得た。
【0072】
【表3】

【0073】
ベースコート塗料の作成
実施例1
製造例11で得たチタン白顔料ペースト(D−1)176.3 部と製造例7で得たウレタンエマルション200部とさらに製造例8で得たアクリルエマルション(C−1)66.7部を混合し1時間攪拌した後、「プライマルASE60」(注2)14.2部を添加し、さらに1時間攪拌を続けた。得られた混合物をジメチルエタノールアミンでpH8.0に調整した後、脱イオン水を添加し、固形分35%のベースコート塗料(I−1)を得た。また、このベースコート塗料(I−1)における樹脂固形分100重量部に対する顔料の量は100重量部である。また、増粘剤の有効成分の量は、ベースコート塗料(I−1)の樹脂固形分100重量部に対して4重量部である。
(注2)「プライマルASE−60」:商品名、ロームアンドハース社製、ポリアクリル酸系増粘剤、酸価270mgKOH/g、有効成分28%。
【0074】
実施例2〜8及び比較例1〜5
実施例1において、配合組成を表4に示す通りとする以外は実施例1と同様にして各ベースコート塗料(I−2)〜(I−13)を得た。
【0075】
【表4】

【0076】
塗装及び塗膜の乾燥
実施例9〜16及び比較例6〜10
自動車車体用クリヤー塗料を塗装した工程板を、#800耐水ペーパーで研磨、脱脂し、被塗板とした。該被塗板に上記で作成した各水性ベースコート塗料を脱イオン水で25秒(イワタカップ/25℃)に粘度調整し、20℃、60%RH雰囲気下でエアスプレーにより4段階(ステージ)にて塗装した。各ステージ間は熱風発生装置により50℃、10m/sの温風を発生させて、各試験塗板に送風し、表面が指触によりベトツキのない状態になるまで乾燥させ、乾燥膜厚が40μmの塗膜を得た。(このように被塗板に対してベース塗膜を設けた塗板を試験塗板Aとする)さらにトップクリヤー仕上げとして、「レタンPGマルチクリヤーHX(Q)」(商品名、関西ペイント社製、水酸基含有アクリル樹脂を含むクリヤー塗料)100部に「レタンPGマルチクリヤースタンダード硬化剤」(商品名、関西ペイント製、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート型ポリイソシアネート硬化剤)50部を塗装直前に混合したトップクリヤー塗料を、ベース塗膜上に乾燥膜厚が40μmとなるようにエアスプレー塗装し、乾燥機を用いて塗板の温度を60℃に保った状態で20分間強制乾燥し、試験塗板を得た。(このように被塗板に対してベース塗膜及びトップクリヤー塗膜からなる複層塗膜を設けた塗板を試験塗板Bとする。)。
【0077】
評価試験
上記各水性ベースコート塗料組成物を用いて作成した試験塗板A又はBに関し、以下の各項目について評価試験を行った。結果を表5に示す。
【0078】
【表5】

【0079】
(1)塗装作業性:調製した各水性ベースコート塗料を被塗板にスプレー塗装する際の塗料の微粒化を以下の基準で評価した。
○:良好
△:やや劣る
×:かなり劣る
(2)ゴミ取り作業性:各試験塗板Aを#800水研ペーパーで研磨を行い、塗面に生じる研磨傷を観察することにより評価した。
○:研磨傷が浅く、殆ど目立たない
△:研磨傷が若干深いが、実用レベルである
×:研磨傷が非常に深く、傷が非常に目立つ
(3)塗膜外観:各試験塗板Bの塗膜面を目視で評価した。
○:塗面が平滑である
△:塗面に凹凸がある
×:塗面に大きな凹凸がある
(4)初期付着性:各試験塗板Bに素地に達するようにカッターで切り込みを入れ、大きさ1mm×1mmのゴバン目を100個作り、その表面に粘着セロハンテープを貼着し、20℃においてそのテープを急激に剥離した跡のゴバン目塗膜の残存数を調べた。
◎:100個残存、
○:99〜81個残存、
△:80〜41個残存、
×:40個以下残存していたことを示す。
また、ゴバン目が剥離した場合における剥離位置を表中に併記した。
(イ):被塗板表面と各水性ベースコート塗膜との界面
(ロ):各水性ベースコート塗膜とトップクリヤー塗膜との界面
(5)耐水性:各試験塗板Bを40℃の温水に10日間浸漬し、引き上げてから各塗膜表面を観察した。
◎:良好、
○:異常なし、
△:わずかに白化がみられる、
×:フクレ、白化などの異常が見られる
(6)耐水付着性:各試験塗板Bを40℃の温水に10日間浸漬し、引き上げ、室温で12時間乾燥してから、上記(4)の初期付着性と同様にしてゴバン目試験を行った。評価基準も(4)と同じである。
(7)促進耐候性:各試験塗板Bを、Qパネル(株)製促進耐候性試験機(QUV)を用いた促進耐候性試験に供した。試験条件は、(紫外線照射:70℃で8時間〜湿潤:4時間)の繰り返しを100時間行った後、試験後の塗板を40℃の温水に2日間浸漬するのを1サイクルとした。この1サイクル後と2サイクル後の塗板を各々、上記(4)の初期付着性と同様にしてゴバン目試験に供した。評価基準も(4)と同じである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)下式(1)
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、nは1〜3の整数を表す)
で表されるリン酸基含有重合性不飽和モノマー0.1〜10重量%、(b)炭素数が6以上の直鎖状又は分岐状の炭化水素基含有重合性不飽和モノマー1〜50重量%、(c)水酸基含有重合性不飽和モノマー1〜40重量%、(d)カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー0.1〜15重量%及び(e)その他の重合性不飽和モノマー0〜97.8重量%を親水性有機溶剤の存在下で重合開始剤により共重合することにより得られる水性アクリル樹脂、
並びに(B)水性ウレタン樹脂を含有し、樹脂(A)と樹脂(B)の配合割合が、樹脂(A)/樹脂(B)固形分重量比で、1/99〜50/50の範囲内であることを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
さらにアクリル乳化重合体(C)を含有する請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
アクリル乳化重合体(C)を構成する重合性不飽和モノマーからなる共重合体のガラス転移温度が、−100〜50℃の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
アクリル乳化重合体(C)が、共重合成分として炭素数が6以上の直鎖状又は分岐状の炭化水素基含有重合性不飽和モノマー(b)を10〜80重量%の範囲内で含むことを特徴とする請求項2または3に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
アクリル乳化重合体(C)が、共重合成分としてリン酸基含有重合性不飽和モノマー(a)を含むことを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
アクリル乳化重合体(C)の配合量が、樹脂(A)、樹脂(B)及び乳化重合体(C)の合計固形分を基準にして、1〜50重量%の範囲内であることを特徴とする請求項2ないし5のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
被塗面に、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗装することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項8】
被塗面に、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗装した後、該塗膜上にトップクリヤー塗料を塗装することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の塗膜形成方法により得られる塗装物品。

【公開番号】特開2006−117798(P2006−117798A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307200(P2004−307200)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】