説明

水性塗料組成物

【課題】長期にわたって安定的にアルデヒド吸着能に優れ、安価でかつ人体及び環境に無害であり、良好な耐水性及び形状維持性を有する水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】アクリル樹脂及び水を含有する水性塗料組成物に、グアニジン塩のうちの重炭酸アミノグアニジンを添加する。また、かかる水性塗料組成物を用いて塗膜や当該塗膜を具備する建材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種建築物の内・外壁や天井等の内装若しくは外装の化粧塗装に適し、かつ水性塗料として要求される各種の塗料性能及び塗膜物性を充足しつつアルデヒド吸着能に優れる水性塗料組成物に関する。さらに本発明は、前記水性塗料組成物を塗布してなる塗装物、特に建材に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂等を含むエマルション塗料は有機溶剤を用いない水性塗料であり、環境や人体に悪影響を与える環境ホルモン物質を放出しない優しい塗料であることから、各種建築物の内・外壁や天井等の内装若しくは外装等に幅広く用いられている。
【0003】
特に、近年の住宅建築における室内壁面の仕上げには、塩ビクロス貼りや合成樹脂エマルション塗装等の仕上げ方法が多く採用されているが、化学物質過敏症やシックハウス症候群等の化学物質による悪影響が問題視され、かかる悪影響のない漆喰等の天然素材が再び見直されてきている。
【0004】
例えば特許文献1においては、漆喰壁材の成分である消石灰を主成分とし、形成される塗膜が漆喰壁特有の質感を有しかつ耐アルカリ性や耐洗浄性を始めとする塗膜物性並びに調湿性、防カビ性及び耐火性等の塗膜機能に優れる水性塗料の提供を意図して、消石灰、アクリル樹脂、酸化チタン及び水をそれぞれ所定の量で含有する塗料組成物が提案されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2においては、塗膜からの室内への揮発性有機化合物の放散を限りなく零とすることが可能で、室内環境中に放散しているホルムアルデヒドや硫化水素等の有害化学物質を吸着及び分解し得る高機能性室内環境対応型の水性塗料組成物の提供を意図して、活性炭、シリカ、アルミニウムシリケート、珪藻土等の物理吸着能を有する多孔質の添加剤、リン酸系化合物、アミン系化合物等の化学吸着能を有する添加剤、二酸化チタンや酸化亜鉛等の光触媒活性により有害化学物質を分解する能力のある添加剤を用いることが提案されている。
【0006】
さらに、特許文献3においては、低室内濃度でも、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒド等のアルデヒド類を効率的に捕捉し、無害化できるアルデヒドキャッチャー剤を提供することを意図して、少なくともアミノグアニジン塩と水を含有してなることを特徴とするアルデヒドキャッチャー剤が提案されている。
【特許文献1】特許第3094227号公報
【特許文献2】特開2002-173645号公報
【特許文献3】特開2005-97340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1記載の水酸化カルシウムを塗料化して得られる漆喰塗料においては、ホルムアルデヒドと水酸化カルシウムとがホルモース反応によって当該ホルムアルデヒドを無害化できるとも言われているが、その効果は必ずしも充分なものではない。また、上記ホルモース反応が有意であると仮定しても、上記漆喰塗料が乾燥したときに水酸化カルシウムが空気中の炭酸ガスにより炭酸化し、ホルムアルデヒド分解能は経時的に低下するものと考えられる。
【0008】
また、上記特許文献2記載において提案されている二酸化チタンや酸化亜鉛等の触媒を添加した塗料は、いずれも非常に高価で一般的に広く使用されているものではなく、また、これらの触媒は他の成分と反応してしまったりするため、これを抑制するために他の添加剤等を用いる必要があり塗料化が煩雑になる。珪藻土に関しては、ホルムアルデヒド吸着能は高いものの、昨今その結晶形状から発がん性を示唆されて第二のアスベストになり得る可能性を秘めていることから、積極的に使用すべきではないと考えられる。
【0009】
さらにこの珪藻土及びゼオライトに関しては、ホルムアルデヒドを物理的には吸着するものの、ホルムアルデヒドを化学的に吸着して分解する機能までは有しておらず、場合によってはホルムアルデヒドを再放出することも懸念され、長期にわたるアルデヒド吸着能が期待できない。
【0010】
また、上記特許文献3においては、アミノグアニジン塩が水溶性であるから、有機溶剤を使用しなくても、アミノグアニジン塩と水を含有するアルデヒドキャッチャー剤を木質建材、無機質建材、紙、布、樹脂等に塗布したり、含浸させたり、混合、分散させたりすることができると記載されているが、かかるアルデヒドキャッチャー剤を塗料に添加して塗膜を形成しようとすると、当該アミノグアニジン塩が溶け出して成膜性及び形状維持性(耐久性)等に劣るという問題がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、できるだけ長期にわたって安定的にアルデヒド吸着能に優れ、安価でかつ人体及び環境に無害であり、良好な成膜性、耐水性及び形状維持性を有する水性塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のような課題を解決すべく、本発明は、重炭酸アミノグアニジン、アクリル樹脂及び水を含有すること、を特徴とする水性塗料組成物を提供する。すなわち、本発明は、従来公知のグアニジン塩のうちの重炭酸アミノグアニジンを水性塗料組成物に用いることを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、重炭酸アミノグアニジンがアルデヒドと反応し得る官能基を複数有し、かつカルボニル炭素に電子供与基が結合しているアセトアルデヒド等のアルデヒドとも高い反応性を示すため、低濃度領域(例えば0.01〜0.1ppm程度)においてもアルデヒドを効率的に捕捉することができる。
【0014】
また、重炭酸アミノグアニジンは水難溶性であることから、水性塗料組成物又は当該水性塗料組成物で形成された塗膜中においてアルデヒドを捕捉した後でも、塗膜の耐水性を低下させることなく成膜性及び形状維持性をより確実に付与することができる。また、重炭酸アミノグアニジンは白色固体であることから、塗料に求められる隠蔽力にも寄与することができる。
【0015】
本発明の水性塗料組成物は、重炭酸アミノグアニジンを含有していれば上記のような所望の効果を発揮することができ、重炭酸アミノグアニジンの含有量(下限値)には特に制限はないが、固形分換算で0.01重量%以上であることが好ましい。0.01重量%以上であれば、アルデヒド吸着能をより確実に得ることができる。さらに、重炭酸アミノグアニジンの含有量(下限値)が固形分換算で0.05重量%以上、特に0.25重量%以上であること、が特に好ましい。これらの範囲であれば、長期にわたってさらに優れたアルデヒド吸着能を発揮することができる。
【0016】
また、本発明の水性塗料組成物は、重炭酸アミノグアニジンの含有量が多いほど長期間にわたってアルデヒド吸着能に優れることから、成膜性及び耐水性等に悪影響を与えない範囲であれば前記重炭酸アミノグアニジンの含有量(上限値)には特に制限はないが、固形分換算で30.0重量%以下であることが好ましい。30.0重量%以下であれば、余分な重炭酸アミノグアニジンを用いることなく長期にわたって優れたアルデヒド吸着能を確実に得ることができる。さらに、重炭酸アミノグアニジンの含有量(上限値)が固形分換算で1.0重量%以下、特に0.5重量%以下であること、が特に好ましい。これらの範囲であれば、余分な重炭酸アミノグアニジンを用いることなく当該重炭酸アミノグアニジンを添加して得られるアルデヒド吸着能をほぼ最大限に発揮させることができる。
【0017】
本発明の水性塗料組成物を調製する際には、前記アクリル樹脂及び水の混合物としてエマルションを好適に用いることができる。そのため、前記アクリル樹脂含有量は入手できるエマルションの種類や仕様によって種々異なっていてもよく、例えば固形分換算で2〜45重量%であればよい。
【0018】
また、本発明は、上記の本発明の水性塗料組成物から形成されたこと、を特徴とする塗膜にも関する。上述のように、本発明の水性塗料組成物に含まれる重炭酸アミノグアニジンは水難溶性であるため塗膜から溶け出しにくく、よって本発明の塗膜は耐水性に優れており特に形状維持性をより確実に維持し得るものである。
【0019】
さらに、本発明は、基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に設けられた上記塗膜と、を有すること、を特徴とする建材も提供する。かかる建材としては、例えば内・外壁材や天井材として用いられる内装及び外装用の各種建材(ボード、パネル及びクロス等)等が挙げられ、上記のような本発明の水性塗料組成物を用いて形成された本発明の塗膜を具備するため、耐水性及び耐候性に優れるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、長期にわたって安定的にアルデヒド吸着能に優れ、安価でかつ化学物質過敏症やシックハウス症候群等を誘発しにくく人体及び環境に無害であり、形成後に良好な耐水性及び形状維持性を有する塗膜を実現し得る水性塗料組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の水性塗料組成物は、重炭酸アミノグアニジン、アクリル樹脂及び水を主成分として含有する塗料組成物である。本発明者は、上記課題を解決すべくアルデヒド吸着能を有するものとして知られている数々の化合物を水性塗料組成物に使用することについて鋭意実験を行って検討した。
【0022】
上記特許文献3の開示によれば、アルデヒド吸着能を有する化合物としては、アルデヒドと反応し得る官能基を有していることが重要であるとされていることから、例えばアミノ基を有している化合物であれば容易に本発明の課題を解決することができるようにも考えられるが、本発明の目的とするところは人体や環境に優しい水性塗料組成物を得ることにあり、水性塗料組成物における安定性やアルデヒド吸着能等が重要であり、必ずしもアルデヒドと反応し得るアミノ基を有してさえいればよいというものではない。
【0023】
そこで、本発明者は上記のように鋭意実験を行って検討に検討を重ねた結果、優れたアルデヒド吸着能を有するグアニジン塩に着目するとともに、それらのなかでも重炭酸アミノグアニジンが水難溶性に優れ、アクリル樹脂エマルションを用いた水性塗料組成物特有の機能を低下させないこと、換言すると従来のアクリル樹脂エマルション塗料と同等の品質及び使用感を有すること、さらに、耐水性に優れる塗膜が得られること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0024】
本発明の水性塗料組成物においては、上述のように、重炭酸アミノグアニジンがアルデヒドと反応し得る官能基を複数有し、かつカルボニル炭素に電子供与基が結合しているアセトアルデヒド等のアルデヒドとも高い反応性を示すため、低濃度領域(例えば0.01〜0.1ppm程度)においてもアルデヒドを効率的に捕捉することができる。
【0025】
すなわち、本発明者はアクリル樹脂及び水を含むエマルションに重炭酸アミノグアニジンを配合することにより、従来のアクリル樹脂エマルション塗料の質感や機能を損なうことなく貯蔵安定性、塗装作業性及び成膜性を有し、特にアルデヒド吸着能、耐水性及び形状維持性に優れた塗膜を実現し得る水性塗料組成物が調製できることを見出した。
【0026】
さらに、本発明者は、上記のような本発明の水性塗料組成物を用いれば、極めて少量の塗布量で施工面(被塗布面)を隠蔽することができ、かつ成膜性に優れることを見出し、加えて、形成された塗膜が充分な付着性及び靱性を発揮し得ること、また、レベリング性にも優れ、より少ない塗布量で薄塗膜化が可能となり、刷毛、ローラー及びスプレー等の従来公知の塗装手段によって塗膜を簡単にかつ美しく仕上げられることを見出した。
【0027】
ここで、本発明において用いられる重炭酸アミノグアニジンは、化学式:[NHC(NH)NHNH]HCOで示される白色の結晶性の粒状粉末である。この重炭酸アミノグアニジンは、上述のように、アルデヒドと反応し得る官能基を複数有し、カルボニル炭素に電子供与基が結合しているアセトアルデヒド等のアルデヒドと高い反応性を示し、アルデヒドを効率的に捕捉することができる。また、上記官能基の部分によってアルデヒドと化学結合するため、アルデヒドを化学的に吸着させることとなり、よって長期にわたってアルデヒド吸着能を発揮することができる。
【0028】
また、重炭酸アミノグアニジンは水難溶性であることから、水性塗料組成物又は当該水性塗料組成物で形成された塗膜中においてアルデヒドを捕捉した後でも、塗膜の耐水性を低下させることなく形状維持性をより確実に発揮することができ、塗料に求められる隠蔽力をも発揮し得る。また、重炭酸アミノグアニジンは例えば以下のような性状を有する。
分子量:136.1
溶解度:0.05g/100g・aq以下(20℃)
融点:約170℃
LD50:1160mg/kg(ipr−rat)
【0029】
本発明において用いられるアクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、及び(メタ)アクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種のアクリル系モノマーをモノマー成分として含む重合体(ホモポリマー又はコポリマー)を挙げることができる。上記モノマー成分であれば特に制限はないが、例えば、以下の(i)〜(iv)のモノマー成分が挙げられる。
【0030】
(i)アクリル酸、メタクリル酸。
【0031】
(ii)アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル:例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸パルミチル又はアクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸パルミチル及びメタクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基の炭素数が1〜18程度のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸の側鎖に水酸基を有するアルキルエステル;アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸メトキシブチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシブチル、メタクリル酸エトキシブチル等の(メタ)アクリル酸の側鎖にアルコキシル基を有するアルキルエステル;アクリル酸アリルやメタクリル酸アリル等の(メタ)アクリル酸のアルケニルエステル;アリルオキシエチルアクリレートやアリルオキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルケニルオキシアルキルエステル;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、並びにアクリル酸メチルグリシジルやメタクリル酸メチルグリシジル等のアクリル酸の側鎖にエポキシ基を有するアルキルエステル;アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸メチルアミノエチル、メタクリル酸メチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸のモノ−又はジ−アルキルアミノアルキルエステル;側鎖としてシラン基又はアルコキシシラン基を有する(メタ)アクリル酸エステル。
【0032】
(iii)アクリルアミド類又はメタクリルアミド類:例えばアクリルアミド;メタクリルアミド;N−メチロールアクリルアミド及びN−メチロールメタクリルアミド等のメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;N−アルコキシメチロールアクリルアミド(例えば、N−イソブトキシメチロールアクリルアミド等)、及びN−アルコキシメチロールメタクリルアミド(例えば、N−イソブトキシメチロールメタクリルアミド等)等のアルコキシメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド;N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のアルコキシアルキル基を有する(モノ)アクリルアミド等。
【0033】
(iv)アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の各種のアクリル系モノマー。
【0034】
これらのアクリル系モノマーはそれぞれ単独で、又は2種以上を任意に混合して使用することができる。すなわち、本発明で用いられるアクリル樹脂は、例えば上記モノマー成分の1種から構成されるホモポリマーであっても、任意の2種以上の組み合わせから構成されるコポリマーであってもよい。好ましくは(メタ)アクリル酸又はそれらのエステルをモノマー単位とする重合体(ホモポリマー、コポリマー)である。なお、本発明の効果を損なわない限り、例えばモノマー成分の約30%まで、例えばスチレンや酢酸ビニル等の上記のアクリル系モノマー以外のビニル系モノマーを用いることを妨げるものではない。
【0035】
アクリル系モノマーの種類、使用量及び重合度等は、本発明の水性塗料組成物の使用温度(硬化温度)や水性塗料組成物の他成分との相溶性等を考慮しながら、例えば得られる樹脂のガラス転移点(Tg)等を目安として適宜選択される。例えば、水性塗料組成物を常温乾燥型塗料として調製する場合に用いられるアクリル樹脂としては、特に制限はされないが、ガラス転移点が−80℃〜20℃程度となるようなものを選択することが好ましい。好ましくはガラス転移点が−40℃〜10℃、より好ましくは−20℃〜5℃となるようなものを選ぶことができる。
【0036】
また、水性塗料組成物を強制乾燥型塗料(例えば乾燥温度:50℃〜200℃)として調製する場合に用いられるアクリル樹脂としては、特に制限されないが、ガラス転移点が20℃〜100℃の範囲になるようなものを選択することが好ましい。
【0037】
本発明の水性塗料組成物を現場での塗装施工に簡便に用いる態様で調製する場合には、当該水性塗料組成物は室温〜常温で硬化し得る常温乾燥型塗料であることが好ましく、この場合に用いられるアクリル樹脂も常温乾燥型樹脂であることが好ましい。
【0038】
また、本発明において用いることのできるアクリル樹脂の形態は特に制限されず、エマルションや水性ポリマーディスパージョン等の水性乳濁若しくは分散形態、再乳化形粉末樹脂等の粉末形態、液状ポリマー等の液状等のいずれの形態であってもよい。好ましくはエマルションの形態である。エマルションとして配合する場合、エマルションは重合性不飽和二重結合を有するモノマーをエマルション重合して得られるもの、又は、予め合成した樹脂を水性分散媒に分散剤を使用して分散したもののいずれでもよく、さらに粉末型のポリマーを水等に分散して調製したものを挙げることができる。
【0039】
本発明で用いるアクリル樹脂は、水性塗料組成物中の重炭酸アミノグアニジンや後述する種々の添加剤同士の接着強度、水性塗料組成物から形成される塗膜の成膜性、形状維持性及び耐久性、並びに水性塗料組成物と被塗布物との接着強度を高める。そして、被塗布物表面に形成された塗膜(被覆層)のひび割れを防止し、建材の靱性を向上させる働きを有している。
【0040】
アクリル樹脂の配合割合は本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限はないが、貯蔵安定性や塗装作業性並びに成膜性等といった水性塗料として要求される性能、好ましくは後述するJIS K 5663−1955に規定される少なくとも2種ペイントの性質を充足する範囲であるのが好ましく、使用するアクリル樹脂の種類に応じて適宜定めることができる。具体的には、本発明の水性塗料組成物のうち固形分換算で2〜45重量%がアクリル樹脂であればよい。好ましくは5〜30重量%、より好ましくは8〜15重量%である。
【0041】
本発明においては、上記重炭酸アミノグアニジン及びアクリル樹脂に加えて、さらに顔料(白色顔料、有色顔料、体質顔料)並びに各種の添加剤をそれぞれ単独で又は適宜組み合わせて配合することができる。かかる添加剤としては、例えば顔料分散剤、湿潤剤、消泡剤、増粘剤、凍結融解安定剤、皮膜形成助剤及びレオロジー調整剤等の塗膜形成助剤の他、無機材料(細骨材等の無機充填材)、界面活性剤、可塑剤、減水剤、流動化剤、防腐剤及び抗菌剤等を挙げることができる。
【0042】
顔料としては、水性塗料に用いられるものであれば特に制限されず、いずれの顔料をも採用することもできるが、好ましくは無機顔料である。かかる無機顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、リトポン、硫化亜鉛、アンチモン白等の白色顔料;カーボンブラックや酸化鉄等の黒色顔料;カドミウムレッド、べんがら(酸化鉄)、モリブデンレッド、鉛丹等の赤色顔料;黄鉛(クロムイエロー)、チタンイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、アンチモンイエロー、バナジウムスズイエロー、バナジウムジルコニウムイエロー等の黄色顔料;酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、コバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、ビクトリアグリーン等の緑色顔料;群青、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトシリカブルー、コバルト亜鉛シリカブルー等の青色顔料等の各種有色顔料;タルク、カオリンクレー、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム)、ベントナイト、硫酸バリウム(沈降性硫酸バリウム、バライト粉)、ホワイトカーボン、シリカ等の体質顔料が挙げられる。
【0043】
さらに体質顔料としては、例えば珪砂、寒水砂、パーライト、バーミキュライト、シラス球及び汚泥焼成骨材等の再生骨材等の無機質骨材(細骨材)の他、カオリン、ハロイサイト、モンモリロナイト、ベントナイト、ギブサイト、マイカ、セラミックサンド、ガラスビーズ、パーライト、酸性白土、陶石、ロウ石、長石、石灰石、石膏、ドロマイト、マグネサイト、滑石等の天然無機質材料;水酸化カルシウム(消石灰)、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、天然カルシウム等の水不溶性金属水酸化物;トベルモナイトやゾノトライト等のケイ酸カルシウム系水和物;カルシウムアルミネート水和物、カルシウムスルホアルミネート水和物等の各種酸化物の水和物;アルミナ、シリカ、含水ケイ酸、マグネシア、酸化亜鉛、スピネル、合成炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウム等の合成無機質等の粉末状、繊維状若しくは粒状の無機材料が挙げられる。
【0044】
本発明の水性塗料組成物中に配合する顔料の割合は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されず、また、所望の隠蔽力並びに色彩(明度、色度、彩度)に応じて適宜選択調整することができる。
【0045】
上記顔料のうち好ましいものとしては酸化チタン等の白色顔料を挙げることができる。酸化チタンにはルチル型、アナタース型並びにブルッカイト型があり、いずれを用いることもできる。なお、一般的にルチル型のほうがアナタース型よりも耐光性や隠蔽力が優れている。また粒径及び形状も特に制限されず、市販品の中から目的に応じて適宜選択することができる。例えば、粒径0.1〜0.5μmの略球状形の酸化チタン、0.01〜0.05μmの超微粒子の酸化チタン、及び紫外線吸収用板状酸化チタン等がある。
【0046】
隠蔽力の観点からは、ルチル形の酸化チタンを用いることが好ましく、また0.1〜0.3μmの粒径を有する酸化チタンが好適に使用できる。また隠蔽力を向上させるためには、さらに体質顔料を組み合わせて使用することができ、かかる体質顔料として炭酸カルシウムを好適に挙げることができる。
【0047】
例えば酸化チタンを用いる場合の配合割合は、水性塗料組成物のうち固形分換算で10〜30重量%であればよい。好ましくは13〜25重量%、より好ましくは16〜20重量%である。本発明の水性塗料組成物に酸化チタンを上記割合で配合することにより、より少ない塗布量で被塗布面を隠蔽することができ、形成された塗膜は薄いにもかかわらず所望の外観や物性を有する。
【0048】
上記顔料及び無機材料としては、特に制限されないが、例えば60〜130メッシュ、又は80〜100メッシュの範囲の粒度を有するものが挙げられる。また、無機細骨材等、無機充填材を本発明の水性塗料組成物に配合する場合のその割合は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定することができる。塗装作業性、成膜性並びに塗膜の外観等に影響を与えない範囲であれば、本発明の水性塗料組成物中には繊維状の充填材等を含んでもよい。
【0049】
上記分散剤及び湿潤剤としては、従来公知のものを用いることができ、例えばポリカルボン酸ナトリウム塩、アルキルナフタレンスルホン酸ソーダのホルマリン縮合物、低分子ポリアクリル酸アンモニウム塩、低分子量スチレン−マレイン酸共重合体のアンモニウム塩、ポリオキシエチレンの脂肪酸エステルやアルキルフェノールエーテル、スルホコハク酸誘導体、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドとのブロックポリマー等が挙げられる。これらの配合割合も、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定することができる。
【0050】
上記消泡剤としても、従来公知のものを用いることができ、例えば鉱物油系配合物、オクチルアルコール、グリコール誘導体、シクロヘキサン、シリコン、プルロニック系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の各種の抑泡剤及び破泡剤が挙げられる。これらの配合割合も、適宜選択でき制限はされず、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定することができる。
【0051】
増粘剤としては、例えばセルロースエーテル、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系;サッカロース、グルコース等の多糖類;アクリル系;その他、アルミニウムステアレート、ジンクステアレート、有機ベントナイト、シリカゲル、ポリビニルアルコール、アルギン酸ソーダ、ケイ酸系、モンモリロナイト、ベントナイト、カゼイン酸ソーダ等が挙げられる。
【0052】
以上のような組成を有する本発明の水性塗料組成物は、例えば塗料調合用機器(ミキサー、シェーカー、ミル及びニーダー等)等の従来公知の装置を用いて混合することにより、重炭酸アミノグアニジン、アクリル樹脂、及び必要に応じて添加する各種添加剤や顔料等を、水中に安定に分散させることにより、得ることができる。そして、スプレー液、スラリー、又はパテ等の種々の形態を有する塗料として調製することができる。混合する際の雰囲気温度は特に制限されるものではないが、通常20〜95℃で行うことができる。
【0053】
例えばスプレー塗り(エアスプレー及びエアレススプレー等)、刷毛塗り、ローラー塗り、パテ塗り、コート塗り(カーテンフローコーター及びロールコーター等)等の種々の塗装方法に応じて、本発明の水性塗料組成物は、所望の粘度を有するように調製することができる。例えば塗装作業性、レベリング、塗膜外観等を考慮して好ましい粘度範囲を適宜選択調製することができる。
【0054】
本発明の水性塗料組成物は、通常、例えば常温(25±5℃)で100〜150000mPa・sの粘度範囲となるように調製される。特に液状(低粘度)の水性塗料組成物(低粘度品)の粘度としては、例えば刷毛塗り、ローラー塗り又はスプレー塗りする場合、例えば常温で300〜3000mPa・sの範囲とすればよい。また、高粘度の水性塗料組成物(高粘度品)の粘度としては、例えばコテ塗りする場合、例えば常温で100000〜130000mPa・sの範囲とすればよい。
【0055】
また、本発明の水性塗料組成物は、各種建築物の天井面や壁(内・外壁)面等の内装面及び外装面の塗装、並びに建築物の天井や壁(内・外壁)の下地材や化粧材として用いられる種々の建材(クロス、パネル及びボード等)の塗装に使用することができる。また、本発明の水性塗料組成物を上記のように従来公知の方法によって塗装した後、凹凸模様付けローラーで模様付けを行ったり、塗膜表面を処理したりすることによって、さらに意匠仕上げを施すこともできる。
【0056】
本発明の水性塗料組成物は、好適には、塗液の性状並びにその乾燥塗膜の外観及び物性において、JIS K 5663−1995に規定されている少なくとも2種ペイントに関する、(1)容器の中での状態、(2)塗装作業性、(3)低温安定性、(4)塗膜の外観、(5)耐アルカリ性、(6)耐洗浄性及び(7)隠蔽率の要件を満たすように調製することが好ましい。
【0057】
さらに、本発明の水性塗料組成物は、耐水性(JIS K 5400の8.19)に関して、脱イオン水に96時間浸しても異常がなく(JIS K 5663−1995の5.9)、促進耐候性(JIS K 5400の9.8.1)に関し、白亜化度が8点以上で、膨れ、はがれ及び割れがなく、色の変化の程度が見本品に比べて大きくない(JIS K 5663−1995の5.12)ことが好ましく、また隠蔽率が0.93以上(JIS K 5663−1995の5.8)を満たし、さらに耐候性(JIS K 5400の9.9)に関して、12ヶ月の試験期間後に膨れ、はがれ及び割れがなく色の変化の程度と白亜化度が見本品に比べて大きくない(JIS K 5663−1995の5.13)との要件を満たすことが好ましい。
【0058】
本発明の水性塗料組成物を塗布する場合の乾燥時間は、その組成(成分の種類、固形分含量及び水分含量等)並びに粘度等を適宜調整することによって変更することができ、特に限定されるものではないが、JIS K 5663−1995の5.6にしたがって、JIS K 5400の6.5の試験方法に準じて実施した場合に、20℃で2時間以内に半硬化状態になるように、また5℃で4時間以内に半硬化状態になるように調製することが好ましい。
【0059】
本発明は、上記のような本発明の水性塗料組成物で形成された塗膜にも関する。本発明の塗膜は、上述のような本発明の水性塗料組成物を、低粘度品の場合は、例えば基材(被塗布物)の面積1mあたり、固形分換算で少なくとも50g、好ましくは150g程度使用することによって形成することができる。高粘度品の場合は、例えば基材(被塗布物)の面積1mあたり、固形分換算で少なくとも500g、好ましくは750g程度使用することによって形成することができる。本発明の塗膜の機能は水性塗料組成物の塗布量、特に重炭酸アミノグアニジン及びアクリル樹脂の量が増すに従って向上するため、上記塗布量の上限は制限されるものではないが、塗料の成膜性及び形状維持性、コスト並びに塗装作業性等を考慮すれば、本発明の水性塗料組成物は被塗布物の面積1mあたり、低粘度品の場合は固形分換算で50g〜300gの範囲で用いることが好ましく、高粘度品の場合は固形分換算で500g〜1000gの範囲で用いることが好ましい。
【0060】
また、本発明の塗膜の厚さは、特に制限されず、例えば本発明の建材において基材の被塗布面が十分に隠蔽被覆される厚さであればよい。本発明の水性塗料組成物は、塗膜隠蔽力が500μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは100μm以下となるように調製することができるため、塗膜の厚さとして少なくとも500μm、好ましくは少なくとも300μm、より好ましくは少なくとも200μm、さらに好ましくは少なくとも100μmの厚さが挙げられる、コスト、塗装作業性及び成膜性等の塗膜の物性や機能等に鑑みて、通常10〜300μm、好ましくは20〜250μm、より好ましくは30〜200μm、さらに好ましくは50〜150μmの範囲であってもよい。ただし、アルデヒド吸着能の観点からは塗膜は厚い方が好ましく、本発明の水性塗料組成物を使用してさらに厚い塗膜を形成することも可能である。
【0061】
さらに、本発明は、基材(被塗布物)と、当該基材の表面の少なくとも一部に設けられた本発明の塗膜と、を具備する建材にも関する。かかる基材としては、特に制限されることはないが、例えば建築物の天井や壁(内・外壁)の下地材や化粧材として用いられる種々の材料、例えばクロス、ボード及びパネル等が挙げられる。なお、上記基材の表面に例えばシーラー処理等の種々の処理を施してもよい。
【0062】
上記クロスとしては、例えば建築用の内装(室内の壁や天井等)に用いられるクロス材料を広く挙げることができる。クロス材料としては紙や各種繊維からなる不織布又は織布等の繊維質シートを挙げることができる。紙としては和紙、洋紙(上質紙及び中質紙)、クラフト紙、薄葉紙、裏打紙、樹脂含浸紙等、ボール紙及び厚紙等のいずれであってもよく、例えば難燃処理を施した紙であって壁紙の施工に適する難燃性裏打紙や不燃紙等も包含される。繊維質シートとしては、例えば天然繊維;ガラス繊維;又はポリプロピレン、アクリル、ナイロン、ポリエステル、ポリアミド、ビニロン等の合成繊維等を構成素材として得られる多孔性の織布や不織布、並びに編み物等が挙げられる。なお、本発明の建材における基材は、1種単独であっても2種以上の任意の組み合わせ(例えば積層体等)であってもよい。
【0063】
上記ボード及びパネルとしては、例えば建築用の内装(室内の壁や天井等)や外装に用いられるボード材料及びパネル材料が挙げられる。木質板、合板、中密度繊維板、プラスチック板、セメントモルタル、コンクリート板、PCパネル、ALCパネル、石綿スレート、石膏ボード、パーティクルボード、発泡セメントボード、木片セメント板、ケイ酸カルシウムボード及びサイディングボード等を例示することができる。好ましくは、石膏ボード、石膏パーティクルボード、木質板、中密度繊維板、プラスチック板、サイディングボード(金属系、窯業系を含む)等が挙げられる。
【0064】
これらの基材へ本発明の水性塗料組成物を塗布し、本発明の塗膜を有する建材を作製する方法は、特に制限されず、ロールコーターやフローコーター、ハケやローラー等を用いる塗付け方法及びスプレーや種々のガンを用いた吹き付け方法等が挙げられる。例えば、圧縮空気を用いたスプレー塗装によれば、まず適当な粘度を有する本発明の水性塗料組成物のスプレー液若しくはスラリーを基材の一面に吹き付ける。この吹き付けによって、水性塗料組成物は基材の表面に塗膜を形成し基材と一体化する。
【0065】
この際、より詳細には、塗料組成物に含まれるアクリル樹脂成分が重炭酸アミノグアニジン等の成分を強固に結合させ、水性塗料組成物で構成された塗膜前駆体(乾燥前の塗膜)を基材表面に形成するとともに、塗膜前駆体と基材とを一体化する。ついで、基材に塗布された塗膜前駆体を乾燥して硬化させる。かかる方法は、基材に水性塗料組成物を塗布した後、自然乾燥、通風乾燥又は強制乾燥を行うことにより容易かつ簡便に実施することができる。
【0066】
本発明の塗膜及び建材は、直射日光、斜光、照明及び陰影等の種々の光に対しても吹きむら、色むら及び艶むら等の不都合を生じず、常に一定の色、艶及びきめを有した外観を呈するため、内・外壁材及び天井材等に有用である。一般にボード(パネル)やクロス等の建材の場合、施工後の建材間の継目や接合部の処理が問題となるが、特に繊維状の充填材等を含まない本発明の水性塗料組成物(特に繊維状の充填材等を含まない場合)を用いて得られる塗膜及び建材によれば、壁等に施工後、建材の継目や接合部の塗膜表面を研磨ずりすることにより周囲の塗膜層と殆ど区別できないほどに連続的かつ均一に仕上げることができる。
【0067】
また、本発明の水性塗料組成物(特に繊維状の充填材等を含まない場合)を塗布して得られる塗膜を有する建材によれば、壁等に施工された後の修繕を容易かつ簡便に行うことができる。すなわち、施工後に建材に傷や汚れが生じた場合、本発明の水性塗料組成物を使用してその損傷部だけを部分的に修繕することができる。この修繕は、例えば損傷部を削り、当該部分に周辺塗膜層と同じ組成であって含水率を低減して粘度を高くした本発明の水性塗料組成物を充填し、養生硬化後、必要に応じて表面を研磨ずりすればよい。研磨ずりによって損傷部が他周辺領域と区別できないように修復修繕することもできる。
【0068】
本発明の水性塗料組成物はまた、建材の施工(内外装の施工)にも好適に用いることができる。本発明の建材(特に内外装パネル)を壁下地材に釘やビス打ち施工する場合、釘(ビス)打ちによって形成された建材表面の釘頭凹部に、上記のような比較的粘度の高い本発明の水性塗料組成物(パテ)を充填し、また、必要に応じてその上からさらに本発明の水性塗料組成物(スプレー液、スラリー)を塗布して、養生硬化し、さらに必要に応じて該塗膜表面を研磨ずりすることによって、釘打ち部がほとんど認識できないように施工することができる。これによれば接着剤による建材の貼着を省略できる。
【0069】
また、本発明の水性塗料組成物は、建築内外装の修復にも好適に用いることができる。すなわち、本発明は、上記水性塗料組成物又は建材を用いた建築物内装・外装の施工面の修復方法に関する。例えば、本発明の水性塗料組成物を塗布して形成される塗膜層を表面に有する壁面の損傷部を修復する場合、必要に応じて損傷部の塗膜層を削り取り、削り取った部分に本発明の水性塗料組成物を充填又は塗布して乾燥し、必要に応じて当該塗膜面を研磨ずりすればよい。
【0070】
以下において、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様に過ぎず、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
[実施例1〜10及び比較例1〜12]
まず、表1のうちのA欄に示す3種の成分をミキサーで数分間攪拌して混合物Aを得た。ついで、表1のうちのB欄に示す3種の成分を上記混合物Aに添加して混合物Bを得、ミキサーの回転数を上げてから混合物Bにガラスビーズ(ポッターズ・バロティーニ)を入れ、混合物B中に含まれる粒子を細かく粉砕した。ミキサーの攪拌による粉砕を約8分間行った後、表1のうちのC欄に示す2種の成分を上記混合物Bに添加して混合物Cを得、30分間以上攪拌を行った。その後、ガラスビーズ、泡及び不純物等をろ過によって取り除き、本発明の水性塗料組成物1〜10及び比較用水性塗料組成物1〜12を得た。
【0072】
ただし、各成分の量は、得られる水性塗料組成物における各成分の重量比(固形分換算)が表1に示す値となるように調整し、特に添加剤Xの含有量(固形分換算)は表2に示す値となるように調整した。
【0073】
【表1】

【0074】
ただし、添加剤Xとしては、以下のものを用いた。
・実施例1〜10 (株)三和ケミカル製の重炭酸アミノグアニジン
・比較例2〜6 キシダ化学(株)製の特級メラミン
・比較例7〜10 東京化成工業(株)製の炭酸グアニジン
・比較例11 キシダ化学(株)製の1級尿素
・比較例12 和光純薬工業(株)製の1級エチレン尿素
【0075】
[評価試験1]
(1)ホルムアルデヒド吸着試験1
本発明の水性塗料組成物1〜10及び比較用水性塗料組成物1〜12を用いて得られる塗膜のホルムアルデヒド(HCHO)吸着能を試験した。本発明の水性塗料組成物1〜10及び比較用水性塗料組成物1〜12のそれぞれを、50mm×50mm×1.8mmのガラス板(旭硝子(株)製の並ガラス)の表面に約1.0gずつ刷毛により塗布して自然乾燥させた。これにより厚さ約100μmの塗膜を作製した。
【0076】
一方、予め前日から5リットルの容量の第1のテドラーバッグ(米国デュポン社製)にホルマリンを入れて気化させておいた。上記のように塗膜を設けたガラス板を第2のテドラーバッグ(米国デュポン社製)に入れて密封して空気を注入した。ついで、上記第1のテドラーバッグ内で気化したホルムアルデヒドをシリンジにより吸引し、上記第2のテドラーバッグに注入した。
【0077】
そして、上記第2のテドラーバッグへホルムアルデヒドを注入した後、注入直後、1時間経過後及び5時間経過後の計3回、ジーエルサイエンス(株)製のガステック検知管No.91(ホルムアルデヒド検知管)を用いて、上記第2のテドラーバッグ内のホルムアルデヒド濃度を測定した。
【0078】
また、注入直後のホルムアルデヒド濃度及び5時間後のホルムアルデヒド濃度を用いて、以下の数式に基づいてホルムアルデヒド吸着率を算出した。ただし、注入直後のホルムアルデヒド濃度の値を100として規格化して指数で表した。結果を表2に示した。
【0079】
【数1】

【0080】
【表2】

【0081】
表2に示す結果から、本発明の水性塗料組成物を用いて得られる塗膜は、重炭酸アミノグアニジンの含有量が0.01重量%(実施例1)以上であれば、優れたホルムアルデヒド吸着能を有することがわかる。また、メラミン、炭酸グアニジン、尿素及びエチレン尿素を使用した比較例の場合よりも、重炭酸アミノグアニジンを使用した実施例の場合のほうが、ホルムアルデヒド吸着能が高かった。
【0082】
(2)ホルムアルデヒド吸着試験2
重炭酸アミノグアニジンの含有量が1.0重量%(実施例6)の本発明の水性塗料組成物を用いて得られる塗膜について、さらにホルムアルデヒド吸着能を測定した。具体的には、上記(1)の試験の3日後、さらにホルムアルデヒドを注入し、注入直後及び5時間経過後の計2回、上記(1)と同様にして上記第2のテドラーバッグ内のホルムアルデヒド濃度及び吸着率を測定した。以降、3日おきに同様の試験を行った。さらにここでは、各回(1日目、4日目、7日目及び10日目)の5時間経過後の測定後、3日間放置して、再度ホルムアルデヒド吸着率を測定した。
【0083】
【表3】

【0084】
表3に示す結果から、本発明の重炭酸アミノグアニジンの含有量が1.0重量%(実施例6)の水性塗料組成物を用いて作製した塗膜のホルムアルデヒド吸着能は、測定回数ごとに低下するが、累計(13日後)では厚生労働省が策定する室内濃度指針値である0.08ppmの約800倍ものホルムアルデヒドを吸着したことがわかる。このことから、本発明の塗膜は、初期のホルムアルデヒド吸着能に優れるとともに、ホルムアルデヒド吸着能の耐久性にも優れていると言える。
【0085】
(3)ホルムアルデヒド吸着試験3
重炭酸アミノグアニジンの含有量が1.0重量%(実施例6)、10.0重量%(実施例8)及び20.0重量%(実施例9)の本発明の水性塗料組成物、並びに炭酸グアニジンの含有量が1.0重量%(比較例7)、10.0重量%(比較例9)及び20.0重量%(比較例10)の比較用水性塗料組成物を用いて得られる塗膜について、水分を含んだ場合に、経時的にホルムアルデヒドの吸着率が低下するか否かを検討した。
【0086】
具体的には、本発明の水性塗料組成物6、8及び9並びに比較用水性塗料組成物7、9及び10のそれぞれを、150mm×70mm×3mmのスレート板((株)ノザワ製)の表面に約3.0gずつ刷毛により塗布して自然乾燥させた。その後、ナガセケムテックス(株)製のエポマーP−800を用いて上記塗膜を除く部分のシーリングを行った。
【0087】
ついで、シーリング後の塗膜を、恒量になるまで50℃恒温槽内に静置し、恒量になった後に、2日間水に浸漬させて、再び恒量になるまで50℃恒温槽内に静置した。浸漬前後の塗膜について、上記(1)と同様に、注入直後、1時間経過後及び5時間経過後の計3回、ホルムアルデヒド濃度を測定し、5時間後の吸着率を算出した。ただし、注入直後のホルムアルデヒド濃度の値を100として規格化して指数で表した。結果を表4に示した。
【0088】
また、浸漬前後のホルムアルデヒド吸着率を用いて、以下の数式に基づいて浸漬前後の吸着率の低減率(%)を算出した。結果を表4に示した。
【数2】

【0089】
【表4】

【0090】
表4に示す結果から、重炭酸アミノグアニジン及び炭酸グアニジンのいずれを用いた水性塗料組成物を用いて得られる塗膜について、水への浸漬後にはホルムアルデヒド吸着率が低下することがわかる。しかし、重炭酸アミノグアニジン及び炭酸グアニジンの含有量が多いほどホルムアルデヒド吸着率が高く、浸漬前後吸着率低減率が小さくなっており、かつ、炭酸グアニジンよりも重炭酸アミノグアニジンを用いた場合のほうが、浸漬前後吸着率低減率がより小さく、長期にわたって優れたホルムアルデヒド吸着率が維持されることがわかる。
【0091】
[評価試験2]
重炭酸アミノグアニジンの含有量が1.0重量%(実施例6)、5.0重量%(実施例7)、10.0重量%(実施例8)及び20.0重量%(実施例9)の本発明の水性塗料組成物、並びに炭酸グアニジンの含有量が1.0重量%(比較例7)、5.0重量%(比較例8)、10.0重量%(比較例9)及び20.0重量%(比較例10)の比較用水性塗料組成物を用いて得られる塗膜について、耐水性を試験した。
【0092】
具体的には、本発明の水性塗料組成物6〜9及び比較用水性塗料組成物7〜10のそれぞれを、150mm×70mm×1.8mmのガラス板(旭硝子(株)製の並ガラス)の表面に約3.0gずつ刷毛により塗布して自然乾燥させた。これにより厚さ約72μmの塗膜を作製した。このようにして得た塗膜の上にスポイトで水を1滴落とした後、黒布(ユザワヤ商事(株)製のフェルト羊毛 ソリッドNo.9/黒)で塗膜を擦り、当該黒布に塗料がどの程度付着するかを目視により観察した。
【0093】
その結果、重炭酸アミノグアニジンを含む本発明の塗膜においては、水滴と塗膜表面のなす接触角は大きかった。そして、擦り試験においては、いずれの塗膜の場合も黒布に塗料が付着することはなかった。一方、炭酸グアニジンを含む比較用の塗膜においては、水滴と塗膜表面のなす接触角は小さかった。そして、擦り試験においては、塗膜における炭酸グアニジンの含有量が多いほど黒布への塗料の付着量が多かった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の水性塗料組成物は、長期にわたって安定的にアルデヒド吸着能に優れ、安価でかつ化学物質過敏症やシックハウス症候群等を誘発しにくく人体及び環境に無害であり、形成後に良好な耐水性及び形状維持性を有する塗膜を実現し得る。したがって、本発明の水性塗料組成物は、塗膜、建材、建材(内外装)の施工方法、及び建材(内外装)の修復方法等に好適に用いることができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
重炭酸アミノグアニジン、アクリル樹脂及び水を含有すること、を特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
前記重炭酸アミノグアニジンの含有量が固形分換算で0.01重量%以上であること、を特徴とする請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
前記重炭酸アミノグアニジンの含有量が固形分換算で30.0重量%以下であること、を特徴とする請求項1または2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
前記アクリル樹脂の含有量が固形分換算で2〜45重量%であること、を特徴とする請求項1〜3のうちのいずれかに記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれかに記載の水性塗料組成物から形成されたこと、を特徴とする塗膜。
【請求項6】
基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に設けられた請求項5に記載の塗膜と、を具備すること、を特徴とする建材。






【公開番号】特開2008−285528(P2008−285528A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129643(P2007−129643)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(503236326)株式会社パラテックスジャパン (4)
【Fターム(参考)】