説明

水性塗材

【課題】気温が0℃以下となりうる寒冷地の冬期においては、有機溶剤型塗材が主に用いられている。しかし、有機溶剤型塗材は揮発した有機溶剤が人体に悪影響を及ぼすため、好ましくない。そこで、本発明は養生温度が0℃以下の環境下であっても、硬化性に優れる水性塗材を提供することを目的とする。
【解決手段】合成樹脂エマルジョンと、骨材と、充填材と、顔料と、添加剤と、水と、カルボジイミド化合物と、を含む水性塗材である。また、カルボジイミド化合物は、水性塗材中に、合成樹脂エマルジョン、骨材、充填材、顔料、添加剤、及び、水の総量100重量部に対して0.1〜10.0重量部含まれていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、養生温度が0℃以下の条件下でも硬化性に優れる水性塗材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の内外壁面に塗布される塗材として、近年では従来の有機溶剤型塗材に代えて水性塗材が多く用いられている。水性塗材とは、特許文献1にあるように、溶媒に水を用いた塗材であって、主に合成樹脂が水に溶解したバインダー成分と、体質顔料などのフィラー成分とにより構成されている。この水性塗材を塗布すると、溶媒である水が蒸発し、塗膜が形成される。
【0003】
また、水性塗材を構成する成分の1つである水性バインダー成分は、水性塗材中のフィラー成分を結合させたり、塗膜を被塗装物へ密着させるためのものである。この水性バインダー成分には、塗膜の耐水性や耐候性などの耐久性が優れていることから、合成樹脂エマルジョンが多く用いられている。
【0004】
ところで、この水性塗材の塗膜形成は、溶媒の水の蒸発にともなうエマルジョン粒子の凝集によるものである。そのため、乾燥時の温度が低いと、溶媒蒸発の速度が低下し、塗膜が十分に硬化しないことがある。この場合、雨水等により塗膜が流れてしまうという施工上の問題が発生する。
【0005】
この問題解決のため、特許文献2には、低温度の条件下でも塗膜が十分に硬化する水性塗料組成物が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−189955号公報
【特許文献2】特開平4−325583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在のところ、気温が0℃以下となりうる寒冷地の冬期においては、有機溶剤型塗材が用いられているのが実状である。これは、養生温度が0℃以下となる条件下の使用に適した水性塗材が提供されていないためである。しかし、有機溶剤型塗材は揮発した有機溶剤が人体に悪影響を及ぼすため、好ましくない。
【0008】
上記特許文献2に記載の水性塗料組成物は、養生温度が5℃の条件下でしか硬化性が評価されておらず、養生温度が0℃以下の条件下でこの水性塗料組成物が使用に適するかどうかは不明である。以上のことから、気温が0℃以下となる寒冷地の冬期においても、硬化性の問題のない水性塗材が望まれていた。
【0009】
よって、本発明は、養生温度が0℃以下の環境下であっても、硬化性に優れる水性塗材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、合成樹脂エマルジョンを含む水性塗材であって、この水性塗材にカルボジイミド化合物が含まれることにより、養生温度が0℃以下となる条件下でも極めて優れた硬化性が発揮されることを見出した。すなわち、本発明の請求項1に記載の発明は、合成樹脂エマルジョンと、骨材と、充填材と、顔料と、添加剤と、水と、カルボジイミド化合物と、を含む水性塗材である。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記カルボジイミド化合物は、前記合成樹脂エマルジョン、骨材、充填材、顔料、添加剤、及び、水の総量100重量部に対して0.1〜10.0重量部含まれていることを特徴とする請求項1に記載の水性塗材である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の水性塗材は、塗膜形成において、水の蒸発によるエマルジョン粒子の凝集だけではなく、エマルジョン粒子がカルボジイミド化合物と架橋反応することにより、塗膜形成が促進される。そのため、水の蒸発速度が遅い0℃以下の条件下でも塗膜が十分に硬化するものである。
【0013】
また、請求項2に記載の水性塗材は、カルボジイミド化合物の含有量を0.1重量部以上とすることにより、塗膜の硬化性、及び、乾燥性が十分に発揮されるとともに、カルボジイミド化合物の含有量を10.0重量部以下とすることにより、エマルジョン粒子とカルボジイミド化合物との過剰な反応が抑制され、塗膜強度が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明に用いる合成樹脂エマルジョンとしては、アクリル酸エステル共重合系樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン・酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル・アクリル酸エステル系樹脂、エチレン・塩化ビニル系樹脂、シリコン変性アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等の合成樹脂エマルジョンが使用できる。
【0015】
塗材組成物中の樹脂分は5〜25重量%が好ましい。5重量%以上とすることにより、密着性、塗膜強度、塗布性等が良好となる。また、25重量%以下とすることにより、以下に記載するその他の添加剤等の配合量が適切となり、さらにコストメリットを確保することができる。
【0016】
本発明で用いるカルボジイミド化合物は、カルボジイミド当量が200〜1000(カルボジイミド基1モルあたりの化学式量)の範囲にあるカルボジイミド化合物を使用する。本発明においては、市販品を使用することができ、例えば、日清紡株式会社製のカルボジライトV−02(商品名、登録商標)を使用することができる。
【0017】
さらに、この水性塗材は、充填材、顔料、増粘剤、分散剤、防カビ剤、及び、防藻剤を既調合とした塗材組成物であり、必要に応じて水、骨材を配合して使用することもできる。
【0018】
充填剤には、固形分の調整、粘度・塗布性の調整などのため水酸化アルミニウム、重質炭酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、珪砂、細珪砂等が使用できる。このうち、重質炭酸カルシウムは安価でコスト的負担を減らすことができ、白色であるため、塗材の各種調色に好都合である。
【0019】
また、顔料には、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化第二鉄(べんがら)、クロム酸鉛(モリブデードオレンジ)黄鉛、黄色酸化鉄等の無機系顔料等が使用できる。このうち、酸化チタンは下地の隠蔽性に優れ、白色であるため、塗材の各種調色に好都合である。
【0020】
充填材の配合量は、塗材組成物の固形分換算で10〜90重量%が好ましい。10重量%以上とすることにより、塗材組成物の粘度が適度に高くなり、施工しやすくなる。また、90重量%以下とすることにより、塗材組成物の塗布性、密着性、及び、塗膜強度を十分に確保することができる。
【0021】
また、顔料の配合量は、塗材組成物の固形分換算で20重量%以下が好ましい。20重量%以下とすることにより、塗材組成物の粘度が適度に低くすることができ、施工に適するものとなる。
【0022】
添加剤として、増粘剤、成膜助剤、分散剤、防カビ剤、及び、防藻剤が使用される。添加剤の配合量は、塗材組成物中の固形分換算で20重量%以下が好ましい。20重量%以下とすることにより、塗膜の環境性や安全性を確保することができる。
【0023】
骨材には、一般に塗料に配合されるものであれば何ら問題無く使用でき、寒水石、珪砂、大理石、山砂、ガラス粉砕物、セラミック粉砕物等が使用できる。骨材の配合量は塗材組成物の固形分換算で90重量%以下が好ましい。90重量%以下とすることにより、塗材組成物の粘度が適度に低くなり、施工に適したものとなる。さらに、骨材の粒径としては、0.05〜10mmのものが好ましい。0.05mm以上とすることにより、作業性が確保されるとともに、10mm以下とすることにより、美しい外観を確保することができる、
【0024】
本発明の水性塗材の塗布方法としてコテ、ローラー、吹き付けガン等を使用して、塗布量0.5〜1.5kg/m2を塗布し、上塗り層の吸い込みむら防止、下地の隠蔽のため、下塗り層を形成する。適正粘度としては塗布作業の面から、300〜700Pa・S/0℃が好ましい。このような適正粘度にするため、下塗り層用の塗材組成物中に水を加えて調整することができる。該下塗り層の乾燥後、上塗り層として仕上がり外観によっては、下塗り層と同一の水系塗材組成物に骨材を配合して使用することも可能である。
【0025】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。言うまでもなく、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、重量部を単に部と記載する。
【0026】
(実施例1)
アクリル樹脂エマルジョンとして、アクロナール295DN(固形分50%、BASF社製、商品名)を26部、骨材として細珪砂を45部、充填材として、炭酸カルシウム及び珪砂粉を9部、顔料として二酸化チタンを4部、水を9部、添加剤として、増粘剤、消泡剤、分散剤、防腐剤、防カビ剤、高沸点溶剤等を7部配合し、さらに、カルボジイミド化合物として、カルボジライトV−02(以下、カルボジイミドと記載)を2部添加し、実施例1の水性塗材を調製した。
【0027】
(実施例2)
実施例1の水性塗材において、カルボジイミド2部の添加に代えて、カルボジイミドを9部添加したものを実施例2の水性塗材とした。
【0028】
(比較例1)
実施例1の水性塗材において、カルボジイミドを添加しないものを比較例1の水性塗材とした。
【0029】
(比較例2)
実施例1の水性塗材において、カルボジイミド2部の添加に代えて、カルボジイミドを12部添加したものを比較例2の水性塗材とした。
【0030】
上記で調製した基準塗材、実施例の水性塗材、及び、比較例の水性塗材について、以下の通り、乾燥性、耐候性、作業性、及び、仕上がり性を評価した。
【0031】
(硬化性)
フレキシブルボード(縦×横×厚み=150mm×150mm×8mm)に、シーラーとして水性アクリル系下塗材(JS−560、アイカ工業株式会社製、商品名)を塗布して乾燥したのち、実施例、及び、比較例の水性塗材をそれぞれ2.0kg/m2づつコテ塗り仕上げし、その後、養生温度0℃で48時間養生させた。さらに、48時間、養生後の塗膜を水中浸漬(水温20℃)させた後、塗膜のふくれ、及び、はがれの有無を目視確認した。
評価基準
○:塗膜のふくれ、及び、はがれが認められない。
×:塗膜のふくれ、または、はがれが認められる。
【0032】
(耐候性)
JIS A 6909の耐候性試験A法に準じてキセノン光源照射(300h)を行い、JIS L 0804に規定するグレースケールを用い、JIS Z 8723によって変色の程度を基準の未照射試験体と比較するとともに、表面のひび割れ、及び、はがれの有無を目視で確認した。
評価基準
○:ひび割れ及びはがれが認められず、かつ、グレースケール3号以上である。
×:ひび割れ、または、はがれが認められるか、もしくは、グレースケールが3号より大きい。
【0033】
(作業性)
コテ塗りにおいて、作業性を下記の基準により評価した。
○:0℃条件下において、巻き込み泡、及び、塗布ムラが認められず、さらに、塗布から10分後にパターン付けが可能である。
×:同条件下において、巻き込み泡、または、塗布ムラが認められるか、もしくは、塗布から10分後にパターン付けが不可能である。
【0034】
(仕上り性)
コテ塗り後の仕上がり性を下記の基準により評価した。
○:乾燥後の塗膜にパターンのタレ、てかり、及び、ひび割れが認められない。
×:乾燥後の塗膜にパターンのタレ、または、てかり、もしくは、ひび割れが認められる。
【0035】
上記の評価結果を表1に示す。
【表1】

注:上記の添加量は、カルボジイミドの添加量を示す。
【0036】
上記評価結果に示される通り、比較例1の水性塗材は、耐候性、作業性、及び、仕上り性においては良好であるものの、硬化性が劣っている。
【0037】
一方、実施例1及び2の水性塗材は、それぞれ比較例1の水性塗材にカルボジイミド化合物を適量添加したものであり、これらは、耐候性、作業性、及び、仕上り性に加え、硬化性についても良好な結果を示し、養生温度が0℃の条件下でも使用に適することが確認された。
【0038】
また、比較例2の水性塗材は、耐候性を除く評価項目において劣る結果となった。これは、比較例2の水性塗材は、塗布後の塗膜硬化が実施例の水性塗材よりも急速に進行するため、これらと比較して作業性及び仕上り性が劣化するとともに、溶媒の水が乾燥時に十分に蒸発せず、塗膜中に大量に残ってしまうからと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂エマルジョンと、骨材と、充填材と、顔料と、添加剤と、水と、カルボジイミド化合物と、を含む水性塗材。
【請求項2】
前記カルボジイミド化合物は、前記合成樹脂エマルジョン、骨材、充填材、顔料、添加剤、及び、水の総量100重量部に対して0.1〜10.0重量部含まれていることを特徴とする請求項1に記載の水性塗材。

【公開番号】特開2007−9130(P2007−9130A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194696(P2005−194696)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】