説明

水性多彩塗料組成物とそれより得られる塗装品

【課題】複雑で不均一な模様の塗膜を形成できる水性多彩塗料組成物とそれより得られる塗装品の実現。
【解決手段】平均粒子径が0.2〜2.0mmである大粉粒体11を2色以上含むエマルジョン塗料をゲル化膜Gでカプセル化した大粉粒体含有多彩着色粒子10を含有することを特徴とする水性多彩塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性多彩塗料組成物とそれより得られる塗装品に関する。
【背景技術】
【0002】
壁材などの対象物の表面には、保護や装飾などを目的とした塗装が施される場合が多い。従来、所望する色調の塗料を得るには、予め塗料用の樹脂溶液又は樹脂エマルジョン中に、無機又は有機顔料を分散させ、色調の異なった数種類の着色塗料を準備し、これらを任意に混合することによって製造するのが一般的であった。
しかし、着色塗料を混合して得られる所望色調の塗料は、その中に色調の異なった顔料が混在しているにもかかわらず、同一色の顔料のみによって製造されたような塗膜しか得られず、平面的な単一色で変化に乏しいものであった。
【0003】
そこで、意匠性を高めることを目的として、エマルジョン塗料を親水性コロイド形成物質のゲル化膜でカプセル化した着色粒子を水性分散媒中に分散させた着色塗料組成物が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
特許文献1、2に記載の着色塗料組成物は、ゲル化膜でカプセル化した単色系の着色粒子を2色以上含有するので、多彩模様の塗膜が形成できた。
【特許文献1】特開昭64−16879号公報
【特許文献2】特開2007−238919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、より複雑で多彩なデザインが要求されており、これを考慮すると、特許文献1、2に記載の着色塗料組成物では、形成される塗膜の模様が全体的に単調になりやすく、必ずしも意匠性を十分に満足するものではなかった。
【0005】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、複雑で不均一な模様の塗膜を形成できる水性多彩塗料組成物とそれより得られる塗装品の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水性多彩塗料組成物は、平均粒子径が0.2〜2.0mmである大粉粒体を2色以上含むエマルジョン塗料をゲル化膜でカプセル化した大粉粒体含有多彩着色粒子を含有することを特徴とする。
また、前記大粉粒体が、カラーマイカ、着色樹脂ビーズ、着色ガラスビーズ、着色珪砂、ブリックサンド、セラミックバルーンよりなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
さらに、平均粒子径が0.1〜50.0μmである小粉粒体を1色以上含むエマルジョン塗料をゲル化膜でカプセル化した小粉粒体含有着色粒子をさらに含有することが好ましい。
また、前記小粉粒体含有着色粒子は、前記大粉粒体含有多彩着色粒子より平均粒子径が小さいことが好ましい。
さらに、前記小粉粒体含有着色粒子の含有量が、該小粉粒体含有着色粒子と前記大粉粒体含有多彩着色粒子との合計100質量%中、70質量%以下であることが好ましい。
また、本発明の塗装品は、前記水性多彩塗料組成物から形成された塗膜を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水性多彩塗料組成物によれば、複雑で不均一な模様の塗膜を形成できる。
また、本発明の水性多彩塗料組成物は、例えば堆積岩や大谷石などの自然石のような、複雑で不均一であり、意匠性に優れた多彩模様の塗膜を形成できる。
さらに、本発明の塗装品は、本発明の水性多彩塗料組成物より得られるので、意匠性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
[水性多彩塗料組成物]
本発明の水性多彩塗料組成物は、エマルジョン塗料をゲル化膜でカプセル化した大粉粒体含有多彩着色粒子を含む。
【0009】
<大粉粒体含有多彩着色粒子>
図1は、大粉粒体含有多彩着色粒子の一例を示す模式図である。大粉粒体含有多彩着色粒子10は、樹脂エマルジョンと、親水性コロイド形成物質と、着色顔料である大粉粒体11とを含有するエマルジョン塗料を、分散媒に分散させることにより得られる。
ここで、各成分について説明する。
【0010】
(エマルジョン塗料)
樹脂エマルジョン;
樹脂エマルジョンとしては、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル、ベオバ(分岐脂肪酸ビニルエステル)、天然又は合成ゴムや、それらの共重合体のエマルジョンなど、一般に市販されている樹脂エマルジョンを使用することができる。中でも、アクリル樹脂が好ましい。
【0011】
親水性コロイド形成物質;
親水性コロイド形成物質としては、例えば、セルロース誘導体;ポリエチレンオキサイド;ポリビニルアルコール;カゼイン、デンプン、ガラクトマンノン、グアルゴム、ローカストビーンゴムなどの天然高分子などを含有する水溶液が挙げられる。中でもグアルゴムの水溶液が好ましく、水溶液の濃度は0.5〜5質量%が好ましく、1.0〜3質量%がより好ましい。親水性コロイド形成物質は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
親水性コロイド形成物質の含有量は、樹脂エマルジョン100質量部に対して、0.05〜5質量部が好ましく、0.1〜3.0質量部がより好ましい。親水性コロイド形成物質の含有量を上記範囲内とすることにより、安定したゲル化膜が得られる。
エマルジョン塗料が親水性コロイド形成物質を含有することにより、該親水性コロイド形成物質と後述するゲル化剤とが反応してエマルジョン塗料をカプセル化することができる。
【0012】
大粉粒体;
大粉粒体は、平均粒子径が0.2〜2.0mmであり、0.3〜1.5mmが好ましい。大粉粒体の平均粒子径が0.2mm未満であると、形成される塗膜は、各色の粉粒体同士の色が混じり合ったような視覚的に単色に見える色合になり、多彩感に乏しくなる。一方、大粉粒体の平均粒子径が2.0mmを超えると、大粉粒体をカプセルの中に保持しにくくなり、大粉粒体が大粉粒体含有多彩着色粒子から脱落しやすくなる。その結果、水性多彩塗料組成物中で大粉粒体が沈降し、例えばスプレー塗布した際に、塗り始めと塗り終わりとで異なる色合いの塗膜が形成され、不自然な斑模様になりやすくなる。
【0013】
ここで、本明細書における平均粒子径とは、体積基準のメジアン径のことであり、具体的にはレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した値である。
【0014】
大粉粒体含有多彩着色粒子を構成するエマルジョン塗料は、大粉粒体を2色以上含む。大粉粒体を2色以上含むことで、複雑で多彩な色合いを有する塗膜を形成できる。組み合わせる色の数が多いほど、より複雑で多彩な色合いになりやすい。
また、色の組み合わせは特に制限されないが、多彩感が得られやすい組み合わせとしては、例えば白と黒など明度差が大きい粉粒体の組み合わせ、白と赤など彩度差が大きい粉粒体の組み合わせ、赤と黄など色相差のある粉粒体の組み合わせ等が好ましい。
【0015】
大粉粒体としては、カラーマイカ、着色樹脂ビーズ、着色ガラスビーズ、着色珪砂、ブリックサンド、セラミックバルーンよりなる群から選ばれる1種以上を用いるのが好ましい。
大粉粒体の含有量は、樹脂エマルジョン100質量部に対して、0.01〜50質量部が好ましく、0.1〜30質量部がより好ましい。大粉粒体の含有量が0.01質量部以上であれば、複雑で多彩な色合いを有する着色粒子が得られやすくなる。一方、大粉粒体の含有量が50質量部以下であれば、大粉粒体を着色粒子内に容易に保持しやすくなる。
【0016】
なお、大粉粒体含有多彩着色粒子を構成するエマルジョン塗料は、大粉粒体を2色以上含めば、平均粒子径が0.2〜2.0mmの範囲外である他の粉粒体を1色以上含んでもよい。ただし、上述したように平均粒子径が大きくなると他の粉粒体が大粉粒体含有多彩着色粒子から脱落しやすくなるので、他の粉粒体の平均粒子径は0.2mm未満であることが好ましい。他の粉粒体としては、大粉粒体の説明において先に例示したものの中から1種以上を選択して用いることができる。また、後述する小粉粒体を1色以上含んでもよい。
他の粉粒体および/または小粉粒体を含有させる場合、その含有量は、樹脂エマルジョン100質量部に対して、0〜20質量部が好ましく、1〜15質量部がより好ましい。
【0017】
エマルジョン塗料の製造方法;
エマルジョン塗料は、上記樹脂エマルジョンに親水性コロイド形成物質を加え撹拌混合したものに、大粉粒体と水の混合溶液を加えさらに撹拌混合して得られる。
水の含有量は、エマルジョン塗料100質量%中、40〜90質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましい。
【0018】
(分散媒)
本発明に使用される分散媒は、ゲル化剤を含む水性の分散媒である。また、分散媒には、必要に応じて体質顔料や水溶性高分子化合物が任意成分として含まれてもよい。
ゲル化剤;
ゲル化剤としては、例えば、マグネシウムモンモリロナイト粘土、ナトリウムペンタクロロフェノール、ホウ酸塩、タンニン酸、乳酸チタン、塩化カルシウムなどを含有する水溶液が挙げられる。中でもホウ酸塩の水溶液が好ましく、水溶液の濃度は0.05〜10質量%が好ましく、0.5〜8質量%がより好ましい。ゲル化剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ゲル化剤の含有量(固形分量)は、分散媒100質量%中、0.05〜5質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましい。ゲル化剤の含有量を上記範囲内とすることにより、安定したゲル化膜が得られる。
【0019】
体質顔料;
体質顔料としては、カオリン、硫酸バリウム、含水ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどを含有する分散液が挙げられる。中でも含水ケイ酸マグネシウムの分散液が好ましく、分散液の濃度は0.05〜20質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。体質顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
体質顔料の含有量(固形分量)は、分散媒100質量部中、0.05〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。
【0020】
水溶性高分子化合物;
水溶性高分子化合物としては、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールなどを含有する水溶液が挙げられる。中でもカルボキシメチルセルロースの水溶液が好ましく、水溶液の濃度は0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜3質量%がより好ましい。水溶性高分子化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
水溶性高分子化合物の含有量(固形分量)は、分散媒100質量部中、0.05〜3質量部が好ましく、0.1〜2質量部がより好ましい。
【0021】
分散媒の製造方法;
本発明に使用される分散媒は、ゲル化剤を含む水溶液と、体質顔料を含む分散液と、水溶性高分子化合物を含む水溶液とを撹拌混合したものに、水を加え希釈することにより得られる。水の含有量は、分散媒100質量%中、20〜80質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましい。
【0022】
(大粉粒体含有多彩着色粒子の製造方法)
エマルジョン塗料をゲル化膜でカプセル化した大粉粒体含有多彩着色粒子は、公知の方法で製造できる。具体例として、上述したエマルジョン塗料を分散媒中に混合し、ディソルバなどの分散機で撹拌しながら細分化して製造する。これにより、エマルジョン塗料に含まれる親水性コロイド形成物質と、分散媒に含まれるゲル化剤とが作用して形成される三次元的網状組織の中にエマルジョン塗料が閉じ込められ、さらに細分化することにより、図1に示すようなゲル化膜Gでカプセル化した大粉粒体含有多彩着色粒子10が得られる。該大粉粒体含有多彩着色粒子10は、大粉粒体11を2色以上含有する。すなわち、大粉粒体11aと、該大粉粒体11aの色とは異なる色の大粉粒体11bを少なくとも含有する。
【0023】
エマルジョン塗料の配合量は、分散媒100質量部に対して100〜500質量部が好ましく、150〜400質量部がより好ましい。エマルジョン塗料の配合量を上記範囲内とすることにより、形状が均一なカプセル化された大粉粒体含有多彩着色粒子となる。
エマルジョン塗料をゲル化膜でカプセル化することにより、大粉粒体含有多彩着色粒子が分散媒中で安定して分散することができる。
【0024】
このようにして得られる大粉粒体含有多彩着色粒子は水分を多く含み、柔らかい粒子である。大粉粒体含有多彩着色粒子の粒子径は、エマルジョン塗料や分散媒の粘度、分散機の回転数、撹拌時間、親水性コロイド形成物質およびゲル化剤の組み合わせや配合量によって自由にコントロールできる。通常、エマルジョン塗料や分散媒の粘度を高くすれば粒子径は大きくなり、分散機の回転数を早くすれば粒子径は小さくなる。
【0025】
大粉粒体含有多彩着色粒子の平均粒子径は5〜50mmが好ましく、10〜40mmがより好ましい。平均粒子径が5mm以上であれば、複雑で不均一な模様の塗膜を形成しやすくなる。一方、平均粒子径が50mm以下であれば、例えば堆積岩や大谷石などの自然石のような、自然でバランスの取れた多彩模様の塗膜を形成しやすくなる。
なお、大粉粒体含有多彩着色粒子の平均粒子径は、無作為に20個の着色粒子を選択し、その長径をノギスで測定した平均値である。
【0026】
大粉粒体含有多彩着色粒子の含有量は、水性多彩塗料組成物100質量%中、30〜100質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましい。大粉粒体含有多彩着色粒子の含有量が30質量%以上であれば、複雑で不均一な模様の塗膜を形成しやすくなる。
【0027】
なお、上述したように、大粉粒体を2色以上と、他の粉粒体を1色以上含んだエマルジョン塗料を用いれば、図2(a)に示すように、大粉粒体11(11a、11b)を2色以上と、他の粉粒体12を1色以上含んだ大粉粒体含有多彩着色粒子10aが得られる。
また、大粉粒体を2色以上と、後述する小粉粒体を1色以上含んだエマルジョン塗料を用いれば、図2(b)に示すように、大粉粒体11(11a、11b)を2色以上と、小粉粒体21を1色以上含んだ大粉粒体含有多彩着色粒子10bが得られる。
【0028】
<小粉粒体含有着色粒子>
本発明の水性多彩塗料組成物は、エマルジョン塗料をゲル化膜でカプセル化した小粉粒体含有着色粒子を含有してもよい。
図3は、小粉粒体含有着色粒子の一例を示す模式図である。小粉粒体含有着色粒子20は、樹脂エマルジョンと、親水性コロイド形成物質と、着色顔料である小粉粒体21とを含有するエマルジョン塗料を、分散媒に分散させることにより得られる。
【0029】
小粉粒体含有着色粒子を構成するエマルジョン塗料に含まれる樹脂エマルジョン、および親水性コロイド形成物質としては、大粉粒体含有多彩着色粒子の説明において先に例示した樹脂エマルジョン、および親水性コロイド形成物質の中から、1種以上を選択して用いることができる。
また、分散媒に含まれるゲル化剤、体質顔料、水溶性高分子化合物についても、大粉粒体含有多彩着色粒子の説明において先に例示したゲル化剤、体質顔料、水溶性高分子化合物の中から、1種以上を選択して用いることができる。
【0030】
小粉粒体含有着色粒子を構成するエマルジョン塗料は、平均粒子径が0.1〜50.0μmである小粉粒体を1色以上含む。小粉粒体の平均粒子径は0.2〜30.0μmが好ましい。
色の組み合わせとしては特に制限されないが、小粉粒体含有着色粒子が白色、黄色、ベージュ色などの淡色系になるように、小粉粒体を単独または併用して用いるのが好ましい。小粉粒体含有着色粒子が淡色系であれば、大粉粒体含有多彩着色粒子の多彩感がより発現しやすくなる。
【0031】
小粉粒体としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、クロム酸鉛、カドミウムイエロー、カドミウムレッドなどの無機顔料、パール顔料、マイカ顔料、マイカコーティングパール顔料、アルミニウム粉、ステンレス粉などの光輝性顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドンレッドなどの有機顔料が挙げられる。これら小粉粒体は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
小粉粒体の含有量は、本発明において特に限定されないが、樹脂エマルジョン100質量部に対して、0.01〜50質量部が好ましく、0.1〜30質量部がより好ましい。
【0032】
また、小粉粒体含有着色粒子を構成するエマルジョン塗料には、必要に応じて体質顔料が任意成分として含まれてもよい。体質顔料としては、カオリン、硫酸バリウム、含水ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。これら体質顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
体質顔料の含有量は、エマルジョン塗料100質量%中、0〜30質量%が好ましく、0〜20質量%より好ましい。
【0033】
小粉粒体含有着色粒子は、大粉粒体含有多彩着色粒子と同様の製造方法で得られる。すなわち、エマルジョン塗料を分散媒中に混合し、ディソルバなどの分散機で撹拌しながら細分化することで、図3に示すようなゲル化膜Gでカプセル化した小粉粒体含有着色粒子20が得られる。該小粉粒体含有着色粒子20は、小粉粒体21を1色以上含有する。
なお、小粉粒体21を2色以上用いた場合、各小粉粒体21の色が均一に混じり合ったような単色系の色合いの小粉粒体含有着色粒子が得られる。
【0034】
小粉粒体含有着色粒子の平均粒子径は0.5〜20mmが好ましく、1〜15mmがより好ましい。また、前記大粉粒体含有多彩着色粒子の平均粒子径よりも小さいことが特に好ましい。小粉粒体含有着色粒子が大粉粒体含有多彩着色粒子の平均粒子径よりも小さければ、大粉粒体含有多彩着色粒子の多彩感を損なうことなく、複雑な深み感を有する塗膜を形成できる。
【0035】
小粉粒体含有着色粒子の含有量は、該小粉粒体含有着色粒子と前記大粉粒体含有多彩着色粒子との合計100質量%中、70質量%以下が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。小粉粒体含有着色粒子の含有量が70質量%以下であれば、大粉粒体含有多彩着色粒子の多彩感を損なうことなく、複雑な深み感を有する塗膜を形成できる。
【0036】
<その他の着色粒子>
本発明の水性多彩塗料組成物は、必要に応じて、上述した大粉粒体含有多彩着色粒子や、小粉粒体含有着色粒子以外のその他の着色粒子を含有してもよい。
図4に示すように、その他の着色粒子30としては、例えば、大粉粒体11aを1色含むエマルジョン塗料をゲル化膜Gでカプセル化した着色粒子30a(図4(a))、大粉粒体11aを1色と他の粉粒体12を1色以上含むエマルジョン塗料をゲル化膜Gでカプセル化した着色粒子30b(図4(b))、他の粉粒体12を1色以上含むエマルジョン塗料をゲル化膜Gでカプセル化した着色粒子30c(図4(c))などが挙げられる。さらに、その他の着色粒子には、小粉粒体が含まれていてもよい。
その他の着色粒子を含む場合、その含有量は、水性多彩塗料組成物100質量%中、0〜30質量%が好ましい。
【0037】
<バインダ成分>
本発明の水性多彩塗料組成物は、上述した大粉粒体含有多彩着色粒子や、必要に応じて小粉粒体含有着色粒子、その他の着色粒子を含有する。これら着色粒子は、バインダ機能を有するので、本発明の水性多彩塗料組成物はバインダ樹脂を含有しなくてもよいが、必要に応じてバインダの役割を果たす樹脂エマルジョンを含有してもよい。樹脂エマルジョンとしては、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル、ベオバ(分岐脂肪酸ビニルエステル)、天然又は合成ゴムや、それらの共重合体のエマルジョンなど、一般に市販されている樹脂エマルジョンを使用することができる。中でも、アクリル樹脂が好ましい。
樹脂エマルジョンの含有量は、水性多彩塗料組成物100質量%中、0〜50質量%が好ましく、20〜40質量%がより好ましい。樹脂エマルジョンを上記範囲内で含むことにより、塗装作業性に優れると共に、耐久性のよい塗膜が得られる。
【0038】
<任意成分>
また、本発明の水性多彩塗料組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で公知の添加剤、例えば、増粘剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、レベリング剤などを適宜添加することができる。
【0039】
<水性多彩塗料組成物の製造方法>
水性多彩塗料組成物は、上述した大粉粒体含有多彩着色粒子と水とを撹拌混合して得られる。その際、必要に応じて小粉粒体含有着色粒子、その他の着色粒子、バインダ樹脂(樹脂エマルジョン)、および任意成分を添加してもよい。
水の含有量は、水性多彩塗料組成物100質量%中、30〜85質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましい。
【0040】
このようにして得られた水性多彩塗料組成物の用途については特に制限はなく、モルタル、コンクリート、窯業系素材、プラスチック、金属、木材、紙など、種々の対象物に塗布することが可能である。塗布時における水性多彩塗料組成物の塗布量には特に制限はないが、通常、300〜600g/mとなるように塗布するのが好ましい。また、塗装方法にも制限はなく、刷毛、こて、ローラー、スプレーなどの公知の塗布方法で塗布することができ、常温乾燥、加熱乾燥することができる。
【0041】
このように、本発明の水性多彩塗料組成物によれば、平均粒子径が0.2〜2.0mmである大粉粒体を2色以上含むエマルジョン塗料をゲル化膜でカプセル化した大粉粒体含有多彩着色粒子を含むことにより、複雑で不均一な模様の塗膜を形成できる。
【0042】
[塗装品]
本発明の塗装品は、本発明の水性多彩塗料組成物から形成された塗膜を有することを特徴とするものである。
本発明の塗装品は、少なくとも本発明の水性多彩塗料組成物から形成された塗膜を有するものであればよいので、被塗装物の表面に予め下塗り塗料を塗布してベースコートを施しておき、その上に本発明の水性多彩塗料組成物を用いて塗膜を形成したものであってもよい。また、該塗膜の上に、さらに上塗り塗料を塗布してトップコートを施したものであってもよい。
本発明の塗装品は、複雑で不均一な模様の塗膜を備えるので、意匠性に優れる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、例中「部」とは「質量部」を、「%」とは「質量%」を示す。
【0044】
[着色粒子の製造]
<エマルジョン塗料の調製>
アクリル樹脂エマルジョン(日本アクリル化学社製、「プライマルAC38」)38部と、非イオン性グアルゴム誘導体の1.5%水溶液28.5部(固形分0.43部)とを混合し、混合溶液(a)を調製した。
別途、大粉粒体a(カラーマイカ・白、平均粒子径:0.75mm)3部、大粉粒体b(カラーマイカ・黒、平均粒子径:0.75mm)3部、大粉粒体c(セラミックバルーン・グレー、平均粒子径:0.2mm)4部と、アニオン性高分子分散剤(日本アクリル化学社製、「オロタン731」)1部と、水22.5部とを混合し、混合溶液(b)を調製した。
混合溶液(a)に混合溶液(b)を加え撹拌し、エマルジョン塗料(多彩グレー1)を得た。
表1、2に示す質量割合で各成分を含有するその他のエマルジョン塗料(多彩グレー2、多彩グレー3、多彩グレー4、多彩オレンジ、単色白、単色黒、単色グレー1、単色グレー2)も、同様にして製造した。
【0045】
各エマルジョン塗料に用いた粉粒体等の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、「SALD−3100」)を用いて測定した。
【0046】
また、表1、2に示す粉粒体は、以下の通りである。
大粉粒体a:カラーマイカ・白(山口雲母工業所社製、平均粒子径:0.75mm)、
大粉粒体b:カラーマイカ・黒(山口雲母工業所社製、平均粒子径:0.75mm)、
大粉粒体c:セラミックバルーン・グレー(太平洋セメント社製、平均粒子径:0.2mm)、
他の粉粒体d:セラミックバルーン・白(太平洋セメント社製、平均粒子径:0.1mm)、
他の粉粒体e:セラミックバルーン・黒(太平洋セメント社製、平均粒子径:0.1mm)、
他の粉粒体f:セラミックバルーン・グレー(太平洋セメント社製、平均粒子:約0.1mm)、
他の粉粒体g:カラーマイカ・白(山口雲母工業所社製、平均粒子径:3.5mm)、
大粉粒体h:着色ガラスビーズ・赤(フジ商事社製、平均粒子径:1mm)、
大粉粒体i:着色ガラスビーズ・黄(フジ商事社製、平均粒子径:1mm)、
小粉粒体j:チタン白(石原産業社製、「チタンR930」、平均粒子径:0.28μm)、
小粉粒体k:酸化鉄・黒(ランクセス社製、「バイフェロックス318」、平均粒子径:0.2μm)。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
<分散媒の調製>
含水ケイ酸マグネシウムの4%水中分散液25部(固形分1部)に、重ホウ酸アンモニウムの5%水溶液5部(固形分0.25部)と、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの1%水溶液25部(固形分0.25部)を加え撹拌混合した後、水45部を加えて希釈し、分散媒を得た。
【0050】
<着色粒子の製造>
(大粉粒体含有多彩着色粒子A)
分散媒40部に、エマルジョン塗料(多彩グレー1)60部を加え、ディソルバで粒子径が30mmになるまで撹拌して、大粉粒体含有多彩着色粒子Aを得た。大粉粒体含有多彩着色粒子Aを無作為に20個選択し、その長径をノギスで測定した平均値は約30mmであった。
【0051】
(大粉粒体含有多彩着色粒子B)
粒子径が10mmになるまで撹拌した以外は、大粉粒体含有多彩着色粒子Aと同様にして、平均粒子径が約10mmの大粉粒体含有多彩着色粒子Bを得た。
【0052】
(大粉粒体含有多彩着色粒子C〜D、およびその他の着色粒子E〜F)
表3に示すエマルジョン塗料を用いた以外は、大粉粒体含有多彩着色粒子Aと同様にして、平均粒子径が約30mmの大粉粒体含有多彩着色粒子C〜D、およびその他の着色粒子E〜Fを得た。
【0053】
(小粉粒体含有着色粒子G〜I、およびその他の着色粒子J)
表3に示すエマルジョン塗料を用い、粒子径が10mmになるまで撹拌した以外は、大粉粒体含有多彩着色粒子Aと同様にして、平均粒子径が約10mmの小粉粒体含有着色粒子G〜I、およびその他の着色粒子Jを得た。
【0054】
【表3】

【0055】
[実施例1]
<水性多彩塗料組成物の製造>
アクリル樹脂エマルジョン(日本アクリル化学社製、「プライマルAC38」)25部に、大粉粒体含有多彩着色粒子Aを70部と、アルカリ可溶型増粘剤(サンノプコ社製、「SNシックナー636」)1部と、25%アンモニア水0.1部と、水3.9部とを混合し、ディソルバで撹拌して水性多彩塗料組成物を製造した。
【0056】
<外観評価>
得られた水性多彩塗料組成物を、予め下地としてグレー色の着色塗料が塗布されたスレート板の表面に、塗布量が500g/mになるようスプレーにより塗布し、常温乾燥した。
塗膜の外観について、10人のモニター(被験者)により、以下に示す評価基準で目視評価を行った。
1:塗膜の模様が全体的に単調であり、人工的な多彩模様の外観である。
2:塗膜の模様が自然石のように複雑で、変化に富んだ多彩模様の外観である。
3:塗膜の模様が堆積岩や大谷石などの自然石のように複雑で、変化に富み意匠性に優れた多彩模様の外観である。
そして、10人が評価した結果を合計した合計値を算出し、この合計値より以下に示す基準にて外観評価を行った。結果を表4に示す。
◎:合計値が24以上。
○:合計値が17以上、24未満。
×:合計値が17未満。
【0057】
[実施例2〜6]
表4に示すように、着色粒子の種類や配合量を変化させた以外は、実施例1と同様にして水性多彩塗料組成物を製造し、外観評価を実施した。結果を表4に示す。
【0058】
[比較例1〜5]
表5に示すように、着色粒子の種類や配合量を変化させた以外は、実施例1と同様にして水性多彩塗料組成物を製造し、外観評価を実施した。結果を表5に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
表4より明らかなように、実施例1〜6で得られた各水性多彩塗料組成物は、自然石のように複雑で不均一な模様の塗膜を形成できた。
一方、表5より明らかなように、大粉粒体含有多彩着色粒子を含有しない比較例1〜5で得られた各水性多彩塗料組成物は、実施例に比べて多彩感に乏しく、単調な塗膜を形成した。
【0062】
具体的には、比較例1、2で得られた水性多彩塗料組成物は、小粉粒体含有着色粒子のみを含有したため、形成された塗膜は単調で人工的な模様であった。
比較例3で得られた水性多彩塗料組成物は、小粉粒体含有着色粒子とその他の着色粒子を併用したが、その他の着色粒子に含まれる3色の粉粒体のうち、2色の粉粒体の平均粒子径が0.1mmと3.5mmであったため、形成された塗膜は不自然な斑模様であった。これは、平均粒子径が3.5mmの粉粒体がその他の着色粒子より脱落したことによるものである。
【0063】
比較例4で得られた水性多彩塗料組成物は、小粉粒体含有着色粒子とその他の着色粒子を併用したが、その他の着色粒子に含まれる3色の粉粒体のうち、2色の粉粒体の平均粒子径が0.1mmであったため、その他の着色粒子は粉粒体同士の色が混じり合ったような色合となり、形成された塗膜は多彩感が乏しかった。
比較例5で得られた水性多彩塗料組成物は、小粉粒体含有着色粒子とその他の着色粒子を併用したが、これら着色粒子は同系色であり、形成された塗膜は各着色粒子の色が均一に混じり合ったような単色系の色合になり、多彩感が乏しかった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に用いる大粉粒体含有多彩着色粒子の一例を示す模式図である。
【図2】本発明に用いる大粉粒体含有多彩着色粒子の他の例を示す模式図である。
【図3】本発明に用いる小粉粒体含有着色粒子の一例を示す模式図である。
【図4】本発明に用いるその他の着色粒子の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0065】
10,10a,10b:大粉粒体含有多彩着色粒子、 11,11a,11b:大粉粒体、 12:他の粉粒体、 20:小粉粒体含有着色粒子、 21:小粉粒体、 30,30a,30b,30c:その他の着色粒子、 G:ゲル化膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.2〜2.0mmである大粉粒体を2色以上含むエマルジョン塗料をゲル化膜でカプセル化した大粉粒体含有多彩着色粒子を含有することを特徴とする水性多彩塗料組成物。
【請求項2】
前記大粉粒体が、カラーマイカ、着色樹脂ビーズ、着色ガラスビーズ、着色珪砂、ブリックサンド、セラミックバルーンよりなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の水性多彩塗料組成物。
【請求項3】
平均粒子径が0.1〜50.0μmである小粉粒体を1色以上含むエマルジョン塗料をゲル化膜でカプセル化した小粉粒体含有着色粒子をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の水性多彩塗料組成物。
【請求項4】
前記小粉粒体含有着色粒子は、前記大粉粒体含有多彩着色粒子より平均粒子径が小さいことを特徴とする請求項3に記載の水性多彩塗料組成物。
【請求項5】
前記小粉粒体含有着色粒子の含有量が、該小粉粒体含有着色粒子と前記大粉粒体含有多彩着色粒子との合計100質量%中、70質量%以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の水性多彩塗料組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の水性多彩塗料組成物から形成された塗膜を備えたことを特徴とする塗装品。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−132747(P2010−132747A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308662(P2008−308662)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】