説明

水性媒体中の溶存物質の濃度のモニタリング法

次のステップを含む水性媒体中の溶存物質の濃度をモニタリングするための方法。高温反応室と測定室を含む分析装置の気体循環系内に規定量の水性媒体を導入するステップ。気体循環系は高温反応室と測定室を通ってのび、水性媒体は高温反応室より上流もしくはその中に導入される。;高温反応室内で水性媒体を蒸発させるステップ;高温反応室内で溶存物質を少なくとも一種の反応相手と反応させて気体反応生成物を得るステップ。;気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度の関数である、測定変数の現在値を記録するステップ。気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度は、一方では時間依存性の気体循環系の状態に依存し、他方では水性媒体中の物質の濃度に依存する。:測定変数の現在値を適用することによって水性媒体中の物質の濃度を確認するステップ。ここで、水性媒体中の物質の濃度を確認するステップにおいて、気体循環系の状態による、気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度への影響は、状態のモデルに基づいて確認され、この影響に基づいて、気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度の補正がなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性媒体中の溶存物質の濃度をモニタリングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶存物質の例として、全有機体炭素(TOC)がある。TOCは、二酸化炭素への酸化後、二酸化炭素濃度を確認することで測定される。他の溶存物質の例としては、全結合窒素(TNb)がある。
【0003】
溶存物質のモニタリング法は、例えばDE 199 20 580 C1およびDE 197 27 839 A1で論じられている。さらに、記載されたモニタリング法を実行するための分析装置は、例えばSTIP-tocという名前で出願人から利用可能である。
【0004】
本発明にかかる方法は、基本的に次のステップを含む。
【0005】
高温反応室と測定室を含む分析装置の気体循環系内に規定量の水性媒体を導入するステップ。気体循環系は高温反応室と測定室を通ってのび、水性媒体は高温反応室より上流に導入される。
【0006】
高温反応室内で水性媒体を蒸発させるステップ。
【0007】
高温反応室内で溶存物質を燃焼させて反応生成物を得るステップ。
【0008】
気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度の関数である、測定変数の現在値を記録するステップ。気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度は、一方では時間依存性の気体循環系の状態に依存し、他方では水性媒体中の物質の濃度に依存する。
【0009】
測定変数の現在値を適用することによって、水性媒体中の物質の濃度を確認するステップ。
【0010】
反応生成物の濃度の確認は、通常は測光法によってなされる。TOCを確認するためには、通常、炭素を酸化、すなわち燃焼し、気体循環系内で得られる二酸化炭素の濃度を赤外吸収測定で測光法によって確認する。他方で、測定をバッチ方式で行うことができ、ある試料量が燃焼すると、それに対応して短い信号ピークをもたらす。燃焼生成物が循環系内で循環しない場合、この信号を統合しなければならない。循環方式では、燃焼生成物は一様に分布し、均一な信号をもたらす。気体循環系内の燃焼生成物が上記のように分布するため、連続方式における水性媒体の注入は、データの平滑化もしくは慣性につながる。加えて連続方式には、測定精度を落とすような気体循環系の汚染を認識することができないという問題がある。基準測定がなされない限り、このような問題は連続方式の妨げとなる。
【0011】
実際には、バッチ方式では個々のバッチ間で気体循環系を洗浄して基準測定を行う機会があるものの、そのような場合、こうした基準測定のために測定時間がかかり過ぎる可能性がある。
【0012】
従って本発明の目的は、少ない回数の基準測定で必要な測定精度を満たすような方法を提供することである。
【発明の概要】
【0013】
水性媒体中の溶存物質の濃度をモニタリングするための本発明の方法は次のステップを含む。
【0014】
高温反応室と測定室を含む分析装置の気体循環系内に規定量の水性媒体を導入するステップ。気体循環系は高温反応室と計測室を通ってのび、水性媒体は高温反応室より上流、もしくはその中に導入される。
【0015】
高温反応室内で水性媒体を蒸発させるステップ。
【0016】
高温反応室内で溶存物質を燃焼させて反応生成物を得るステップ。
【0017】
気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度の関数である、測定変数の現在値を記録するステップ。気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度は、一方では時間依存性の気体循環系の状態に依存し、他方では水性媒体中の物質の濃度に依存する。
【0018】
測定変数の現在値を適用することによって、水性媒体中の物質の濃度を確認するステップ。
【0019】
ここでさらに、水性媒体中の物質の濃度を確認するステップにおいて、気体循環系の状態による、気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度への影響は、状態のモデルに基づいて確認され、この影響に基づいて、気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度の補正がなされる。
【0020】
反応相手は、例えば搬送ガスとして気体循環系内に存在してもよい。搬送ガスは例えばCO2を含まない空気、もしくはO2であってもよい。さらに、触媒が高温反応室内で反応相手となってもよい。
【0021】
気体循環系の清浄状態を作り出すための本発明の一実施形態では、気体循環系は、無視できるほどの不純物の可能性を除き、所定の時間に、もしくは状態依存的に、反応生成物の化学種を含まない搬送ガスでパージされる。
【0022】
現時点で好ましい本発明のこの実施形態のさらなる発展例では、気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度を確認するために、測定変数の現在値は、搬送ガスでのパージの直後、かつ水性媒体の新たな導入前に、基準値として、特に気体循環系の清浄状態を説明するためのゼロ点として記録される。
【0023】
反応生成物の化学種が、気体循環系への汚染物質として、分析装置の環境から得られる場合、本発明の別の実施形態において、モデルは、汚染による気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度の時間依存性変化を説明する。
【0024】
本発明のさらなる発展例では、搬送ガスでのパージ後、汚染に基づいて濃度の時間挙動をモデリングするための現在データを得るために、水性媒体の追加試料を導入することなく、測定変数の時間挙動が観察される。
【0025】
汚染に基づく濃度の時間挙動のモデリングは、例えば拡散モデルを含んでもよい。
【0026】
本発明の一実施形態では、気体循環系は、反応生成物の化学種の濃度を確認する毎に、搬送ガスでパージされない。代わりに、第一の規定量の水性媒体を気体循環系内に最初に導入し、その後反応生成物の化学種の濃度を確認した後、第二の規定量の水性媒体を気体循環系内へ少なくともさらに一回導入し、引き続いて、反応生成物の化学種の現在の濃度が、測定変数の現在値に基づいて確認され、第二の規定量の水性媒体中の物質の現在の濃度は、気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度および気体循環系の状態のモデルに基づいて確認される。規定量の水性媒体の初期の導入と燃焼に基づき、気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度がモデルに入力される。
【0027】
本発明のさらなる発展例では、規定量の試料をさらに導入し、その後反応生成物の濃度を確認するステップは、気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度を充分正確に確認することができる測定変数の現在値を決定するために、測定単位のダイナミックレンジの間繰り返され、その後にのみ、気体循環系が搬送ガスでパージされる。
【0028】
本発明の方法は、溶存物質として、反応生成物が二酸化炭素である全有機体炭素(TOC)、もしくは反応生成物が一酸化窒素(NO)である全結合窒素(TNb)をモニタリングするために特に適している。
【0029】
気体循環系は、高温反応室内での反応および測定変数の現在値の確認の最中、閉鎖循環系であることが好ましい。
【0030】
気体循環系の状態モデリングは、本方法が実行される分析系のモニタリングをさらに可能にする。例えば、汚染に基づく気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度の時間変化が限界値を超えるとき、これは、気体循環系内の臨界サイズを上回る拡散漏出を示唆する可能性があるため、警報信号を出力することができる。
【0031】
さらなる発展例では、汚染に基づく気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度の時間変化は、時間間隔をおいて確認され、そこから、汚染に基づく濃度の時間変化の変化率を導き出すことができる。加えて、汚染に基づく濃度の時間変化の変化率、および汚染に基づく濃度の時間変化の現在値から、汚染に基づく濃度の時間変化の限界値に達したことを所定の時間内に予測できる場合、警報信号が出力される。
【0032】
本発明のさらなる発展例では、モデルに従って確認される、気体循環系内の反応生成物の化学種の濃度に基づいて、水性媒体中の溶存物質の濃度を充分な精度でさらに確認することがもはや不可能であるとき、信号が生成される。例えば信号を通して、上記の気体循環系の洗浄のためのパージステップが導入されてもよい。
【0033】
例えば冷却トラップもしくは酸のフィルタ除去を利用する凝縮ステップを、随時方法に組み入れてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
ここで、図面で説明するように、本発明を一実施形態の一実施例に基づいて説明する。唯一つの図面は以下を示す。
【図1】本発明の方法でTOCを確認するための分析装置の原理の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1に記載の装置は気体循環系1を含み、その中では高温反応室2が850℃の温度で保持されている。気体循環系はそこから測定室3にのび、測定室3は、気体循環系内のCO2量を確認するため、赤外線測光器を含む。
【0036】
気体循環系は、例えば酸素、もしくは無視できる量のCO2のみを含むろ過空気などの搬送ガスを含む。必要な場合、搬送ガスは、気体循環系内のCO2量が高くなって充分な精度の測定がもはや不可能であるとき、気体循環系をパージするために、第一制御絞り弁を介して貯留層4から気体循環系内へ流れることができる。パージの最中、気体循環系内の気体の一部は、このようにして気体循環系内のCO2量を薄めるために制御出口弁6において排出される。
【0037】
気体循環系にはさらに、水の除去用の凝縮ドライヤ7、HClおよび硫酸の除去用の酸フィルタ8が備わっている。
【0038】
TOCの確認のため、規定量の水性媒体を、第二制御絞り弁5を介して気体循環系1内の高温反応室2の上流で測定するか、もしくは、高温反応室内で直接測定するかのいずれかが可能である。
【0039】
試料量としては、例えば100μlから約1000μlまで、例えば400から600μlであってもよく、試料は例えば数十秒から1分までの時間にわたって測定される。選択される試料量は、例えば期待されるTOC量および測光器の感度に依存し得る。
【0040】
気体循環系は、気体循環系内で所定の流速を維持するためにポンプ9を備える。流速は、ガス量のサイクル時間が測定タスクに適切であるように選択されることが好ましい。現在、サイクル時間は1分未満であることが好ましく、30秒未満であることがさらに好ましい。現時点で好ましい本発明の実施形態では、気体循環系の内蔵量は約600 mlに達し、気体循環系は約1.5 l/minの流速を持つ。
【0041】
分析装置1は制御・評価部10によって制御され、一方では拡散モデルに基づいて周囲の空気からCO2による汚染を確認し、他方では、確認された発生CO2に基づいてTOCを確認するために、測定室3の測光器の測定データを記録し、評価する。例えば、ある試料から次の試料への気体循環系内のCO2量の上昇が、350 ppmから390 ppmと検出され、一方、搬送ガスでの最後のパージ後、測光器のnull信号の観察に基づいて、汚染率が2 ppm/minと確認され、試料の評価に2分かかる場合、最終試料に関連する気体循環系内のCO2量は、たった390 ppm - 350 ppm - 2 x 2 ppm = 36 ppmである。この値がTOC確認のために使用される。
【0042】
制御・評価部はさらに、気体循環系のパージを制御する。パージ導入のための必須基準は、気体循環系内のCO2量である。例えば最終測定値が、次の測定値が限界値を超えることを示すとき、パージを実行するために信号が設定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温反応室と測定室を含む分析装置の気体循環系内に規定量の水性媒体を導入するステップであり、前記気体循環系は前記高温反応室と前記測定室を通ってのび、前記水性媒体は、前記高温反応室よりも上流、もしくはその中に導入される、ステップと、
前記高温反応室内で前記水性媒体を蒸発させるステップと、
前記高温反応室内で溶存物質を少なくとも一種の反応相手と反応させ、気体反応生成物を得るステップと、
前記気体循環系内の前記反応生成物の化学種の濃度の関数である、測定変数の現在値を記録するステップであり、前記気体循環系内の前記反応生成物の前記化学種の前記濃度は、一方では時間依存性の前記気体循環系の状態に依存し、他方では前記水性媒体中の物質の濃度に依存する、ステップと、
前記測定変数の前記現在値を適用することによって、前記水性媒体中の前記物質の前記濃度を確認するステップと、
を含み、
前記水性媒体中の前記物質の前記濃度を確認する前記ステップにおいて、前記気体循環系の前記状態による、前記気体循環系内の前記反応生成物の前記化学種の前記濃度への影響は、前記状態のモデルに基づいて確認され、この影響に基づいて、前記気体循環系内の前記反応生成物の前記化学種の前記濃度の補正がなされることを特徴とする、
水性媒体中の溶存物質の濃度をモニタリングするための方法。
【請求項2】
前記気体循環系の清浄状態を作り出すために、前記気体循環系は、無視できるほどの不純物の可能性を除き、所定時間に、もしくは状態依存的に、前記反応生成物の前記化学種を含まない搬送ガスでパージされる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記気体循環系内の前記反応生成物の前記化学種の濃度を確認するために、前記測定変数の現在値は、前記搬送ガスでの前記パージの直後、かつ前記水性媒体の新たな導入前に、基準値として、特に前記気体循環系の清浄状態を説明するためのゼロ点として記録される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記反応生成物の前記化学種は、前記分析装置の環境から、前記気体循環系内の汚染物質として得ることができ、前記モデルは前記気体循環系内の前記反応生成物の前記化学種の前記濃度の時間依存性変化を説明する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記搬送ガスでのパージ後、汚染の時間挙動をモデリングするための現在データを得るために、前記水性媒体の追加試料を導入することなく、前記測定変数の時間挙動が観察される、請求項2および4に記載の方法。
【請求項6】
前記モデリングは拡散モデルを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記気体循環系は、前記気体循環系内の前記反応生成物の前記化学種の前記濃度を確認する毎に、前記搬送ガスでパージされないが、代わりに、第一の規定量の水性媒体を前記気体循環系内に最初に導入し、その後前記反応生成物の前記化学種の前記濃度を確認した後、第二の規定量の水性媒体を前記気体循環系内へ少なくともさらに一回導入し、引き続いて、前記反応生成物の前記化学種の現在の濃度が、前記測定変数の前記現在値に基づいて確認される。ここで、
前記第二の規定量の前記水性媒体中の物質の現在の濃度は、前記気体循環系内の前記反応生成物の前記化学種の前記濃度および前記気体循環系の前記状態の前記モデルに基づいて確認され、規定量の前記水性媒体の初期の導入と燃焼に基づき、前記気体循環系内の前記反応生成物の前記化学種の前記濃度が前記モデルに入力される、
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記物質は全有機体炭素(TOC)を含み、前記反応生成物は二酸化炭素である。あるいは、前記物質は全結合窒素(TNb)を含み、前記反応生成物は一酸化窒素(NO)である、請求項1もしくは2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
規定量の試料をさらに導入し、その後前記反応生成物の前記濃度を確認する前記ステップは、前記気体循環系内の前記反応生成物の前記化学種の前記濃度を充分正確に確認することができる前記測定変数の前記現在値を決定するために、測定単位のダイナミックレンジの間繰り返され、その後にのみ、前記気体循環系が前記搬送ガスでパージされる、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記気体循環系は、前記水性媒体の前記導入は別として、前記燃焼および前記測定変数の前記現在値の確認の最中、閉鎖循環系である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
汚染に基づく、前記気体循環系内の前記反応生成物の前記化学種の前記濃度の時間に対する変化が限界値を超えるとき、警報信号が出力される、請求項4もしくはその従属請求項のうちの一項に記載の方法。
【請求項12】
汚染に基づく、前記気体循環系内の前記反応生成物の前記化学種の前記濃度の時間に対する変化は、時間間隔をおいて確認され、そこから、汚染に基づく前記濃度の前記時間変化の変化率が導き出される。ここで、汚染に基づく前記濃度の前記時間変化の前記変化率、および汚染に基づく前記濃度の前記時間変化の前記現在値から、汚染に基づく前記濃度の前記時間変化の限界値に達したことを所定の時間内に予測できる場合、警報信号が出力される、
請求項4もしくはその従属請求項のうちの一項に記載の方法。
【請求項13】
前記モデルに従って確認される、前記気体循環系内の前記反応生成物の前記化学種の前記濃度に基づいて、前記水性媒体中の前記溶存物質の前記濃度を充分な精度でさらに確認することがもはや不可能であるとき、信号が生成される、
請求項4もしくはその従属請求項のうちの一項に記載の方法。
【請求項14】
前記信号を通して、請求項2に記載のパージステップが導入される、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−523938(P2010−523938A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539711(P2009−539711)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063063
【国際公開番号】WO2008/068196
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(504001369)エンドレス ウント ハウザー コンダクタ ゲゼルシャフト フューア メス‐ ウント レーゲルテヒニック エムベーハー ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (8)
【氏名又は名称原語表記】ENDRESS + HAUSER CONDUCTA GESELLSCHAFT FUR MESS‐ UND REGELTECHNIK MBH + CO.KG
【Fターム(参考)】