説明

水性樹脂分散体、セメントモルタル用配合剤、セメントモルタル組成物、及びセメントモルタル硬化物

【課題】曲げ・圧縮強度の良好なセメントモルタル硬化物を実現し得る水性樹脂分散体等を提供する。
【解決手段】エチレン性不飽和カルボン酸単量体と芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを乳化重合して得られ、そのTg1が20〜60℃である重合体と、エチレン性不飽和カルボン酸単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを乳化重合して得られ、そのTg2が−10〜30℃である重合体と、エチレン性不飽和カルボン酸単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体と加水分解性シリル基を有するビニル系単量体を乳化重合して得られ、そのTg3が10〜50℃である重合体とを含み、各重合体が一定比率で配合され、前記Tg1〜Tg3が一定の関係を有することを特徴とする水性樹脂分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に土木・建築分野(例えば、建築物の補修材、床材、防水材、保護材、防食材、仕上げ材、薄塗り材、接着剤、成型材等)において好ましく使用されるセメントモルタル組成物等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からセメントモルタル硬化物の物性改良を目的として、セメントモルタル硬化物を与えるセメントモルタル組成物(実質的に硬化反応が終了していないもの。「未硬化物」と記載することがある。)に、水性樹脂分散体(「エマルジョン」、又は「ラテックス」とも言う。「エマルジョン/ラテックス」と記載することがある。)が配合されてきた。即ち、エマルジョン/ラテックスを配合することにより、セメントモルタル硬化物の曲げ強さの向上、下地コンクリートへの密着性の向上、耐水性の向上、耐薬品性の向上、中性化防止、耐磨耗性の向上、等が図られてきた。
セメントモルタル組成物に使用されるエマルジョン/ラテックスとしては、例えば、エチレン−酢酸ビニル系エマルジョン、スチレン−ブタジエン系ラテックス、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系エマルジョン、(メタ)アクリル酸エステル系エマルジョン等が挙げられる。中でも、耐久性、耐環境特性、耐薬品性、耐水性、耐候性等が求められる用途においては、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系エマルジョン、(メタ)アクリル酸エステル系エマルジョンが特に好ましく使用されている。
【0003】
近年、セメントモルタル硬化物の軽量化が求められている。軽量化を図る一つの方法としては、セメントモルタル硬化物の厚みを薄くする方法が挙げられる。そして、軽量かつ実用上の強度を有するセメントモルタル硬化物を得るためには、セメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮強さ等を向上させる必要がある。従来のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル系エマルジョン、(メタ)アクリル酸エステル系エマルジョンを用いた場合、エマルジョンを配合しないセメントモルタルに比べて曲げ・圧縮強さの改善が可能ではあるものの、その改善の程度についてはなお改良の余地を有していた。
【0004】
このような事情の下、特許文献1には、少なくとも2段階以上の乳化重合によって重合されてなる多段階樹脂の水性エマルジョンであって、最外層の樹脂が少なくとも1種のエチレンオキシド基を有する不飽和単量体と少なくとも1種のエチレン性不飽和単量体の共重合体である多段階樹脂水性エマルジョンが記載されている。
また、特許文献2には、カルボキシル基を有する不飽和単量体と、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルから選ばれる少なくとも一つの不飽和単量体とを含み、不飽和単量体の共重合体について重量分率法により算出したガラス転移温度が220〜270Kである混合物を、エチレン性不飽和結合とポリオキシアルキレン基とを有する分子を含む乳化剤を用いて乳化重合して得られるポリマーエマルジョンが記載されている。
更に、特許文献3には、2段階以上の乳化重合で得られる水性樹脂分散体であって、1段目に使用するエチレン性不飽和カルボン酸単量体(a−1)と最終段に使用するエチレン性不飽和カルボン酸単量体(a−最終)との質量比(a−最終)/(a−1)が4〜8であるセメントモルタル用水性樹脂分散体が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−217513号公報
【特許文献2】特開平10−251313号公報
【特許文献3】特開2005−029457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載された水性樹脂分散体はいずれも、セメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮強さをより向上させる観点からは、なお改良の余地を有していた。
本発明は、エマルジョン、セメント、充填材等を含有するセメントモルタル組成物を形成するに際して、曲げ・圧縮強度の良好なセメントモルタル硬化物を実現し得る水性樹脂分散体等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定のガラス転移温度を有する3種の重合体を特定の比率で含有した水性樹脂分散体が、上記課題を解決するために有効な手段となり得ることを見いだし、本発明をなすに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の水性樹脂分散体等を提供する。
[1]以下の重合体(1)〜(3)、
重合体(1):エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)、芳香族ビニル単量体(b)、及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)を含む単量体組成物(m1)を乳化重合して得られ、そのガラス転移温度Tg1が20〜60℃である重合体、
重合体(2):エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)、及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)を含む単量体組成物(m2)を乳化重合して得られ、そのガラス転移温度Tg2が−10〜30℃である重合体、
重合体(3):エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)、(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)、及び加水分解性シリル基を有するビニル系単量体(d)を含む単量体組成物(m3)を乳化重合して得られ、そのガラス転移温度Tg3が10〜50℃である重合体、
を含み、
前記重合体(1)〜(3)の質量比は、前記重合体(1)/前記重合体(2)/前記重合体(3)(質量比)として30〜50/30〜50/10〜30であると共に、
前記Tg1〜Tg3は、Tg1>Tg2、及びTg2<Tg3なる関係を有することを特徴とする水性樹脂分散体。
[2]前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)が、前記単量体組成物(m1)と前記単量体組成物(m2)と前記単量体組成物(m3)との総量中に占める割合は、1〜2.5質量%である[1]記載の水性樹脂分散体。
[3]さらに、塩基性アルカリ金属化合物を含む[1]又は[2]に記載の水性樹脂分散体。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載の水性樹脂分散体を主成分として含むセメントモルタル用配合剤。
[5][4]に記載のセメントモルタル用配合剤0.5〜100質量部(固形分)と、セメント100質量部と、充填剤5〜600質量部とを含むセメントモルタル組成物。
[6][5]に記載のセメントモルタル組成物が硬化して得られるセメントモルタル硬化物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性樹脂分散体を含む樹脂セメントモルタル組成物は、良好な曲げ・圧縮強さを有するセメントモルタル硬化物を与える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施の形態の水性樹脂分散体(以下、「エマルジョン」と記載することがある)は、以下の重合体(1)〜(3)、
重合体(1):エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)、芳香族ビニル単量体(b)、及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)を含む単量体組成物(m1)を乳化重合して得られ、そのガラス転移温度Tg1が20〜60℃である重合体、
重合体(2):エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)、及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)を含む単量体組成物(m2)を乳化重合して得られ、そのガラス転移温度Tg2が−10〜30℃である重合体、
重合体(3):エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)、(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)、及び加水分解性シリル基を有するビニル系単量体(d)を含む単量体組成物(m3)を乳化重合して得られ、そのガラス転移温度Tg3が10〜50℃である重合体、
を含むものである。
【0011】
前記重合体(1)を形成する、前記単量体組成物(m1)に含有されるエチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸のモノエステル、フマル酸のモノエステル、イタコン酸のモノエステルなどのエチレン性不飽和モノカルボン酸;
イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸;
等が挙げられる。中でも、得られるセメントモルタル硬化物の曲げ強さをより高める観点から、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸から選ばれる1種以上のエチレン性不飽和カルボン酸である。
このようなエチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)を用いることは、セメントモルタルとの配合性や、得られる硬化物(セメントモルタル硬化物)の曲げ・圧縮強さを向上させる観点から好ましい。
【0012】
前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)が、前記単量体組成物(m1)中に占める割合としては、好ましくは0.1〜1.5質量%、より好ましくは0.2〜1質量%である。当該割合を0.1質量%以上とすることは、セメントモルタル組成物の配合安定性を向上させる観点から好ましい。一方、当該割合を1.5質量%以下とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮強度を向上させる観点から好ましい。
【0013】
また、前記単量体組成物(m1)に含有される芳香族ビニル単量体(b)としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどが挙げられる。中でも、得られるセメントモルタル硬化物の耐久性の観点から、好ましくはスチレンである。
前記芳香族ビニル単量体(b)が、前記単量体組成物(m1)中に占める割合としては、好ましくは40〜80質量%、より好ましくは50〜70質量%である。当該割合を40質量%以上とすることは、セメントモルタル組成物の配合安定性を向上させる観点から好ましい。一方、当該割合を80質量%以下とすることは、セメントモルタル硬化物の耐久性を向上させる観点から好ましい。
【0014】
更に、前記単量体組成物(m1)に含有される(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート等が挙げられる。中でも、得られるセメントモルタル硬化物の耐久性の観点から、好ましくは、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートである。
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)が、前記単量体組成物(m1)中に占める割合としては、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは30〜50質量%である。当該割合を20質量%以上とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の耐久性を向上させる観点から好ましい。一方、当該割合を60質量%以下とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の耐久性を向上させる観点から好ましい。
【0015】
なお、前記単量体組成物(m1)には、得られるセメントモルタル硬化物の様々な品質・物性を改良する観点から、上記以外の単量体成分を更に配合することもできる。そのような上記以外の単量体成分(以下、「その他の単量体成分」と記載することがある。)としては、例えば以下の(イ)〜(チ)成分、
(イ)アミド基含有ビニル単量体;
(ロ)ヒドロキシル基含有ビニル単量体;
(ハ)エポキシ基含有ビニル単量体;
(ニ)メチロール基含有ビニル単量体;
(ホ)アルコキシメチル基含有ビニル単量体;
(ヘ)シアノ基含有ビニル単量体;
(ト)ラジカル重合性の二重結合を2個以上有しているビニル系単量体;
(チ)その他のビニル系単量体
等が挙げられる。
【0016】
前記(イ)成分としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−メチレンビスアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、マレイン酸アミド、マレイミド等を挙げることができる。中でも、曲げ強さの観点から、好ましくはアクリルアミド、メタクリルアミドである。
【0017】
前記(ロ)成分としては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート等が挙げられる。中でも、曲げ強さの観点から、好ましくはヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートである。
【0018】
前記(ハ)成分としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルアクリレート、メチルグリシジルメタクリレートなどが挙げられる。中でも、曲げ強さの観点から、好ましくはグリシジルメタクリレートである。
【0019】
前記(ニ)成分としては、例えば、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ジメチロールアクリルアミド、ジメチロールメタクリルアミドなどが挙げられる。
前記(ホ)成分としては、例えば、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミドなどが挙げられる。
前記(ヘ)成分としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0020】
前記(ト)成分としては、例えば、ジビニルベンゼン、ポリオキシエチレンジアクリレート、ポリオキシエチレンジメタクリレート、ポリオキシプロピレンジアクリレート、ポリオキシプロピレンジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレートなどが挙げられる。
【0021】
前記(チ)成分としては、例えば、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基などの官能基を有する各種のビニル系単量体、さらには酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルピロリドン、メチルビニルケトン、ブタジエン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等を挙げることができる。
【0022】
なお、上記「その他の単量体成分」が、前記単量体組成物(m1)中に占める割合としては、好ましくは0〜50質量%である。また、前記単量体組成物(m1)に用いられる各単量体成分は、一種であっても複数種であってもよい。
【0023】
前記単量体組成物(m2)に含有されるエチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)、(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)としては、前記単量体組成物(m1)に含有されるものと同様である。
ここで、前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)が、前記単量体組成物(m2)中に占める割合としては、好ましくは0.5〜2質量%、より好ましくは0.8〜1.8質量%である。当該割合を0.2質量%以上とすることは、セメントモルタル組成物の配合安定性を向上させる観点から好ましい。一方、当該割合を1.8質量%以下とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮強度を向上させる観点から好ましい。
また、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)が、前記単量体組成物(m2)中に占める割合としては、好ましくは1〜99.5質量%、より好ましくは30〜99質量%である。当該割合を1質量%以上とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮強度を向上させる観点から好ましい。一方、当該割合を99.5質量%以下とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の耐久性を向上させる観点から好ましい。
【0024】
前記単量体組成物(m2)には、得られる硬化物の様々な品質・物性を改良する観点から、前記「その他の単量体成分」を更に配合することや、前記単量体組成物(m1)に含有される芳香族ビニル単量体(b)を更に配合することも可能である。このような「その他の単量体成分」が、前記単量体組成物(m2)中に占める割合としては、好ましくは0〜50質量%である。なお、前記単量体組成物(m2)に用いられる各単量体成分は、一種であっても複数種であってもよい。
【0025】
前記単量体組成物(m3)に含有されるエチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)、(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)としては、前記単量体組成物(m1)に含有されるものと同様である。
ここで、前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)が、前記単量体組成物(m3)中に占める割合としては、好ましくは2〜8質量%、より好ましくは3〜7質量%である。当該割合を2質量%以上とすることは、セメントモルタル組成物の配合安定性の観点から好ましい。一方、当該割合を8質量%以下とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮強度を向上させる観点から好ましい。
また、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)が、前記単量体組成物(m3)中に占める割合としては、好ましくは1〜99.5質量%、より好ましくは30〜99質量%である。当該割合を1質量%以上とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮強度を向上させる観点から好ましい。一方、当該割合を99.5質量%以下とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の耐久性を向上させる観点から好ましい。
【0026】
前記単量体組成物(m3)に含有される加水分解性シリル基を有するビニル系単量体(d)としては、例えば、ビニルシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。中でも、未硬化セメントモルタルの流動性の観点から、好ましくはγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。
前記ビニル系単量体(d)が、前記単量体組成物(m3)中に占める割合としては、好ましくは1〜4質量%、より好ましくは1.5〜3.5質量%である。当該割合を1質量%以上とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の耐久性を向上させる観点から好ましい。一方、当該割合を4質量%以下とすることは、セメントモルタル組成物の流動性を向上させる観点から好ましい。
【0027】
前記単量体組成物(m3)には、得られる硬化物の様々な品質・物性を改良する観点から、前記「その他の単量体成分」を更に配合することや、前記単量体組成物(m1)に含有される芳香族ビニル単量体(b)を更に配合することも可能である。このような「その他の単量体成分」が、前記単量体組成物(m3)中に占める割合としては、好ましくは0〜50質量%である。なお、前記単量体組成物(m3)に用いられる各単量体成分は、一種であっても複数種であってもよい。
【0028】
本実施の形態において、前記重合体(1)〜(3)の質量比は、前記重合体(1)/前記重合体(2)/前記重合体(3)(質量比)として30〜50/30〜50/10〜30、好ましくは35〜45/35〜45/15〜25である。
重合体(1)を30〜50の質量比で配合することは、得られるセメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮強度を向上させる観点から好ましい。また、重合体(2)を30〜50の質量比で配合することは、得られるセメントモルタル硬化物の耐久性を向上させる観点から好ましい。更に、重合体(3)を10〜30の質量比で配合することは、セメントモルタル組成物の流動性を向上させる観点や、得られるセメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮強度を向上させる観点から好ましい。
更に、前記重合体(1)〜(3)の質量比は、曲げ強さの観点から、(重合体(1)の質量比又は重合体(2)の質量比)>重合体(3)の質量比なる関係を有することが好ましい。
【0029】
前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)が、全単量体(前記単量体組成物(m1)と前記単量体組成物(m2)と前記単量体組成物(m3)との総量)中に占める割合としては、好ましくは1〜2.5質量%、より好ましくは1.2〜2.2質量%である。当該割合を1質量%以上とすることは、セメントモルタルへの配合性を向上させる観点から好ましい。一方、当該割合を2.5質量%以下とすることは、セメント硬化の遅延問題を低減する観点や、セメントモルタル組成物の流動性を向上させる観点から好ましい。
【0030】
本実施の形態において、前記重合体(1)〜(3)はそれぞれ、特定範囲のガラス転移温度(Tg)を有する。
前記重合体(1)のガラス転移温度Tg1としては、20〜60℃、好ましくは30〜50℃である。Tg1を20℃以上とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮性能を向上させる観点から好ましい。一方、60℃以下とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の耐久性を向上させる観点から好ましい。
また、前記重合体(2)のガラス転移温度Tg2としては、−10〜30℃、好ましくは0〜20℃である。Tg2を−10℃以上とすることは、セメントモルタル組成物の配合安定性を向上させる観点から好ましい。一方、30℃以下とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮性能を向上させる観点から好ましい。
更に、前記重合体(3)のガラス転移温度Tg3としては、10〜50℃、好ましくは20〜40℃である。Tg3を10℃以上とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮性能を向上させる観点から好ましい。一方、50℃以下とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の耐久性を向上させる観点から好ましい。
【0031】
なお、本実施の形態における前記前記Tg1〜Tg3は、Tg1>Tg2、及びTg2<Tg3なる関係を有する。Tg1>Tg2の関係を有することは、得られるセメントモルタル硬化物の曲げ圧縮強度を向上させる観点から必要である。また、Tg2<Tg3の関係を有することは、得られるセメントモルタル硬化物の耐久性を向上させる観点から必要である。
【0032】
ここで、本実施の形態におけるTgとは、単量体のホモ重合体のガラス転移温度と単量体の共重合比率より、次式によって決定されるものである。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・
Tg:単量体1、2・・・よりなる共重合体のガラス転移温度(゜K)
W1、W2・・:単量体1、単量体2、・・の質量分率
ここでW1+W2+・・=1
Tg1、Tg2・・:単量体1、単量体2、・・のホモ重合体のガラス転移温度(゜K)
【0033】
上記の式に使用する単量体のホモ重合体のTg(゜K)は、例えば、ポリマーハンドブック(Jhon Willey & Sons)に記載されている。本実施の形態において使用される数値を、以下に例示する。カッコ内の値がホモ重合体のTgを示す。
ポリスチレン(373゜K)、ポリメタクリル酸メチル(373゜K)、ポリアクリル酸ブチル(228゜K)、ポリアクリル酸2−エチルヘキシル(218゜K)、ポリアクリル酸(360゜K)、ポリメタクリル酸(417゜K)、ポリアクリロニトリル(369゜K)、ポリアクリル酸2−ヒドロキシエチル(258゜K)、ポリメタクリル酸2−ヒドロキシエチル(328゜K)。
【0034】
本実施の形態における前記重合体(1)〜重合体(3)は、それぞれ前記単量体組成物(m1)〜単量体組成物(m3)を乳化重合して得られるものである。
乳化重合の方法に関しては特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。すなわち、水性媒体中で単量体組成物、界面活性剤、ラジカル重合開始剤、および必要に応じて用いられる連鎖移動剤等の他の添加剤成分などを基本組成成分とする分散系において、単量体組成物を重合する方法である。
【0035】
本実施の形態の水性樹脂分散体を得る具体的な方法としては、例えば、以下のような方法を挙げることができる。
(I)重合体(1)、及び重合体(2)、及び重合体(3)を各々水中で乳化重合し、その後、混合する方法。
(II)水中で重合体(1)をまず重合し、その存在下に重合体(2)を連続重合し、さらに重合体(3)を連続重合する方法。
中でも、上記(II)の方法を採用することが、得られるセメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮強さをより向上させる水性樹脂分散体を得る観点から好ましい。
【0036】
ここで、上記ラジカル重合開始剤としては、熱または還元性物質によりラジカル分解して単量体の付加重合を開始させる化合物のいずれも使用できる。また、無機系開始剤、有機系開始剤のいずれも使用できる。更に、水溶性、油溶性の重合開始剤のいずれも使用できる。
水溶性の重合開始剤としては、例えば、ペルオキソ二硫酸塩、過酸化物、水溶性のアゾビス化合物、過酸化物−還元剤のレドックス系開始剤などが挙げられる。
ペルオキソ二硫酸塩としては、例えば、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(NPS)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)などが挙げられる。
過酸化物としては、例えば、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシマレイン酸、コハク酸パーオキシド、過酸化ベンゾイルなどが挙げられる。
水溶性アゾビス化合物としては、例えば、2,2−アゾビス(N−ヒドロキシエチルイソブチルアミド)、2、2−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩化水素、4,4−アゾビス(4−シアノペンタン酸)などが挙げられる。
過酸化物−還元剤のレドックス系開始剤としては、例えば、先の過酸化物に対して以下のような還元剤:ナトリウムスルホオキシレートホルムアルデヒド、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸の塩、第一銅塩、第一鉄塩などを組み合わせた化合物が挙げられる。
なお、上記ラジカル重合開始剤の使用量としては、全単量体100質量部に対して、好ましくは0.05〜1質量部である。
【0037】
また、上記界面活性剤としては、一分子中に少なくとも一つ以上の親水基と一つ以上の親油基を有する化合物を用いることができる。このような界面活性剤としては、例えばアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、非反応性のアルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。
また、ノニオン性界面活性剤としては、例えば、非反応性のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0038】
上記界面活性剤としては、一分子中に更にエチレン性2重結合を導入した、いわゆる反応性界面活性剤を用いることも可能である。
このような反応性界面活性剤に含まれるアニオン性界面活性剤としては、例えば、スルホン酸基、スルホネート基又は硫酸エステル基及びこれらの塩を有するエチレン性不飽和単量体を挙げることができる。中でも、スルホン酸基、又はそのアンモニウム塩かアルカリ金属塩である基(アンモニウムスルホネート基、又はアルカリ金属スルホネート基)を有する化合物であることが好ましい。
より具体的には、例えば、アルキルアリルスルホコハク酸塩(例えば、三洋化成(株)製エレミノール(商標)JS−2、JS−5や、花王(株)製ラテムル(商標)S−120、S−180A、S−180等が挙げられる)、
ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩(例えば、第一工業製薬(株)製アクアロン(商標)HS−10等が挙げられる)、
α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ポリオキシエチレン硫酸エステル塩(例えば、旭電化工業(株)製アデカリアソープ(商標)SE−1025N等が挙げられる)、
アンモニウム−α−スルホナト−ω−1−(アリルオキシメチル)アルキルオキシポリオキシエチレン(例えば、第一工業製薬(株)製アクアロンKH−10などが挙げられる)、
スチレンスルホン酸塩、等が挙げられる。
【0039】
一方、反応性界面活性剤に含まれるノニオン性界面活性剤としては、例えば、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン(例えば、旭電化工業(株)製アデカリアソープNE−20、NE−30、NE−40等が挙げられる)、
ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(例えば、第一工業製薬(株)製アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50等が挙げられる)、
などが挙げられる。
【0040】
上記界面活性剤の使用量としては、全単量体100質量部に対して、アニオン性界面活性剤であれば0.5〜5質量部、ノニオン性界面活性剤であれば0.5〜10質量部である。これらは併用することも可能である。
また、上記界面活性剤の添加時期としては、重合前、重合中、重合後のいずれでもよい。
【0041】
上記連鎖移動剤としては、例えば、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類;テトラメチルチウラジウムジスルフィドなどのジスルフィド類;四塩化炭素などのハロゲン化誘導体;α−メチルスチレンダイマー;などが挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、曲げ強さの観点から、好ましくはn−ドデシルメルカプタンである。
なお、連鎖移動剤の使用量としては、全単量体100質量部に対して、好ましくは0〜1.0質量部である。
【0042】
本実施の形態において、先に記載した(I)重合体(1)、及び重合体(2)、及び重合体(3)を各々水中で乳化重合して得られた重合体の粒子径、又は(II)水中で重合体(1)をまず重合し、その存在下に重合体(2)を連続重合し、さらに重合体(3)を連続重合して得られた重合体の粒子径は特に限定されない。これらの粒子径としては、通常50〜400nmであり、好ましくは100〜200nmである。
粒子径コントロール方法としては、例えば、シードラテックスを使用する方法や、界面活性剤の使用割合などを調整する方法等を採用することができる(一般に、それらの使用割合を高くするほど生成する重合体複合物の粒子径は小さくなり、その逆は粒子径が大きくなる傾向となる)。
【0043】
なお、シードラテックスを用いる方法を採用する場合、かかるシードラテックスは上記重合体を形成する前に反応容器に投入されてもよいし、上記重合体を形成する際に、単量体と同時に反応容器に投入されても良い。
また、本実施の形態において粒子径の測定は、光散乱法により測定を行うことができる。測定装置は粒径測定装置(LEED&NORTHRUP社製、MICROTRACTMUPA150)を用い、体積平均粒子径を測定することができる。
【0044】
本実施の形態の水性樹脂分散体には、セメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮強さをより向上させる観点から、塩基性アルカリ金属化合物を含有させることが好ましい。
このような塩基性アルカリ金属化合物の含有量としては、水性樹脂分散体のpHが5〜12、好ましくは7〜10となるように適宜設定される。
また、上記塩基性アルカリ金属化合物としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩、有機カルボン酸塩などが挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を挙げることができる。また、炭酸水素塩や炭酸塩としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム等を挙げることができる。更に、アルカリ金属の有機カルボン酸塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。中でも、曲げ強さの観点から、好ましくはアルカリ金属の水酸化物であり、さらに好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれる1種以上のアルカリ金属の水酸化物である。
なお、本実施の形態の水性樹脂分散体には、上記塩基性アルカリ金属化合物の他、長期の分散安定性を保つため、他の塩基性化合物を追加してもよい。このような他の塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、ジメチルアミノエタノールなどのアミン類が挙げられる。
【0045】
本実施の形態の水性樹脂分散体に用いられる分散媒体としては、水が用いられる。また、水性樹脂分散体の固形分濃度としては、好ましくは30〜70質量%に調整される。
【0046】
本実施の形態のセメントモルタル用配合剤は、上記水性樹脂分散体を主成分として含むものである。ここで、「主成分」とは、当該セメントモルタル用配合剤中に占める上記水性樹脂分散体の割合が好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上であることを意味し、100質量%であっても良い。
【0047】
上記セメントモルタル用配合剤には、得られるセメントモルタル硬化物の各種物性を向上させる観点から、更に添加剤を配合してもよい。
このような添加剤としては、例えば、水溶性樹脂、溶剤、可塑剤、消泡剤、増粘剤、レベリング剤、分散剤、カップリング剤、着色剤、耐水化剤、潤滑剤、pH調整剤、防腐剤、無機顔料、有機顔料、界面活性剤、架橋剤、エポキシ系化合物、多価金属化合物、イソシアネート系化合物などが挙げられる。また、減水剤や流動化剤(ポリカルボン酸系、メラミンスルホン酸系、ナフタリンスルホン酸系、リグニンスルホン酸系など)、収縮低減剤(グリコールエーテル系、ポリエーテル系等)、耐寒剤(塩化カルシウム、珪酸塩等)、防水剤(ステアリン酸、シリコン系等)、防錆剤(リン酸塩、亜硝酸塩等)、粘度調整剤(メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール等)、凝結調整剤(リン酸塩等)等を配合してもよい。
【0048】
本実施の形態の樹脂セメントモルタル組成物は、上記セメントモルタル用配合剤0.5〜100質量部(固形分)と、セメント100質量部と、充填剤5〜600質量部とを含む。
上記セメントとしては、特に限定はなく、例えばJIS R5210(ポルトランドセメント)、R5211(高炉セメント)、R5212(シリカセメント)、R5213(フライアッシュセメント)に規定されている、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントが使用できる。また、社団法人セメント協会が、セメントの常識(1994年3月発行)に記載している特殊セメント、白色ポルトランドセメント、セメント系固化材、アルミナセメント、超速硬セメント、コロイドセメント、湯井セメント、地熱井セメント、膨張セメント、その他特殊セメント等、種々のセメントを使用できる。
【0049】
上記セメントモルタル用配合剤の配合量としては、上記セメント100質量部に対して好ましくは0.5〜100質量部(固形分)、より好ましくは1〜80質量部、更に好ましくは2〜50質量部である。当該配合量を0.5質量部以上とすることは、セメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮強さを向上させる観点から好ましい。一方、100質量部以下とすることは、セメントモルタル組成物への配合安定性を向上させる観点から好ましい。
【0050】
上記充填材としては、特に限定はなく、一般的にセメントモルタルに用いられる砂、珪砂、寒水砂、天然及び人工軽量骨材等が使用できる。また、無機または有機の顔料等も用いることができる。無機顔料としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、チタン、アルミニウム、アンチモン、鉛などの各種金属酸化物、水酸化物、硫化物、炭酸塩、硫酸塩または珪酸化合物などが挙げられる。より具体的には、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、シリカ、石膏、バライト粉、アルミナホワイト、サチンホワイトなどである。有機顔料としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどの固体高分子微粉末などが挙げられる。
【0051】
上記充填材の配合量としては、上記セメント100質量部に対して好ましくは5〜600質量部、好ましくは50〜500質量部である。当該配合量を5質量部以上とすることは、セメントモルタル硬化物の曲げ・圧縮強さを向上させる観点から好ましい。一方、600質量部以下とすることは、得られるセメントモルタル硬化物の耐久性を向上させる観点から好ましい。
【0052】
本実施の形態のセメントモルタル組成物には、更に他の種々の成分を添加しても良い。上述したセメントモルタル用の添加剤(減水剤等)や、膨張剤(エトリンガイト系、石灰系等)、着色剤(酸化鉄、酸化クロム等)、消泡剤(シリコン系、鉱油系等)、補強材(鋼繊維、ガラス繊維、合成繊維等)、界面活性剤(アニオン、ノニオン、カチオン系等)、増粘剤、レベリング剤、成膜助剤、溶剤、可塑剤、分散剤、耐水化剤、潤滑剤等を適宜配合することが可能である。更に、本実施の形態の水性樹脂分散体とは異なるその他の水性樹脂分散体を適宜配合してもよい。このようなその他の水性樹脂分散体としては、例えば、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニルエマルジョン、ウレタンエマルジョン、スチレン−ブタジエンラテックス、アクリロニトリル−ブタジエンラテックスなどが挙げられる。さらに、再乳化型の粉末樹脂を配合してもよい。
【0053】
本実施の形態のセメントモルタル組成物を得る際に用いられる配合法は特に限定されない。水性樹脂分散体、セメント、充填材を一緒に混合しても良く、順次混合してもよい。混合順も特に限定はない。
また、本実施の形態のセメントモルタル組成物の成型法についても特に限定されるものでない。例えば、木枠等で作られた枠にセメントモルタル組成物を投入してもよい。また養生条件も特に限定されるものでなく、室温での養生、加温下での養生、蒸気中での養生、これらの組み合わせによる養生等が挙げられる。
【実施例】
【0054】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお。例中の部数は、すべて有り姿での部数(即ち、水性樹脂分散体は水を含有したそのものの部数である)を示した。また、「部」は特に断らない限り「質量部」を示すものである。
【0055】
[製造例1〜16]
表1、表2、表3、表4に示す1段目単量体組成物に、エマルゲン150(花王(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル)の20%水溶液10質量部、ラテムルE118B(花王(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム)の25%水溶液30質量部、ペルオキソ二硫酸アンモニウム1.0質量部、水200質量部を添加し、ホモミキサーで攪拌を行い、プレ乳化液を作製した。
また、同様に2段目単量体組成物にエマルゲン150(花王(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル)の20%水溶液50質量部、ラテムルE118B(花王(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム)の25%水溶液30質量部、ペルオキソ二硫酸アンモニウム1.0質量部、水200質量部を添加し、ホモミキサーで攪拌を行い、プレ乳化液を作製した。
更に、同様に3段目単量体組成物にエマルゲン150(花王(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル)の20%水溶液50質量部、ラテムルE118B(花王(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム)の25%水溶液2質量部、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.6質量部、水150質量部を添加し、ホモミキサーで攪拌を行い、プレ乳化液を作製した。
【0056】
これとは別に、攪拌装置と温度調節用ジャケットを取り付けた重合容器に、エマルゲン150の20%水溶液4.0質量部とラテムルE118Bの25%水溶液8質量部、水350質量部を仕込み、内温を80℃に昇温した。次いで、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.3質量部を水50質量部に溶解した水溶液を添加した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液添加5分後、前記1段目プレ乳化液を2時間かけて一定流速で添加した。同温度で0.5時間重合を続けた。次いで、2段目プレ乳化液を2時間かけて一定流速で添加した。同温度で0.5時間重合を続けた。次いで、3段目プレ乳化液を0.5時間かけて一定流速で添加した。同温度で1.0時間重合を続けた。
その後、冷却し、10%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。次いで、200メッシュの金網を用いてろ過を行い、固形分が45%となるよう水を配合し、水性樹脂分散体としての水性樹脂分散体1〜16を得た。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
[実施例1〜12、比較例1〜4]
表5〜7に記載のセメントモルタル組成物を調整し、作業性、流動性、セメントモルタル硬化物の曲げ強さ、及び圧縮強さ、セメントモルタル硬化物の耐久性試験後の曲げ強さについて評価を行った。評価結果を表5〜7に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

【0064】
【表7】

【0065】
[製造例17]
スチレン250部、MMA50部、2−EHA97.5部、メタクリル酸2.5部の単量体組成物に、エマルゲン150(花王(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル)の20%水溶液10質量部、ラテムルE118B(花王(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム)の25%水溶液30質量部、ペルオキソ二硫酸アンモニウム1.0質量部、水200質量部を添加し、ホモミキサーで攪拌を行い、プレ乳化液を作製した。
これとは別に、攪拌装置と温度調節用ジャケットを取り付けた重合容器に、エマルゲン150の20%水溶液4.0質量部とラテムルE118Bの25%水溶液8質量部、水250質量部を仕込み、内温を80℃に昇温した。次いで、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.3質量部を水50質量部に溶解した水溶液を添加した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液添加5分後、前記1段目プレ乳化液を2時間かけて一定流速で添加した。同温度で1時間重合を続けた。その後冷却し、水性樹脂分散体17−1とした。
【0066】
また、MMA235部、2−EHA160部、メタクリル酸5部の単量体組成物にエマルゲン150(花王(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル)の20%水溶液50質量部、ラテムルE118B(花王(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム)の25%水溶液30質量部、ペルオキソ二硫酸アンモニウム1.0質量部、水200質量部を添加し、ホモミキサーで攪拌を行い、プレ乳化液を作製した。
これとは別に、攪拌装置と温度調節用ジャケットを取り付けた重合容器に、エマルゲン150の20%水溶液4.0質量部とラテムルE118Bの25%水溶液8質量部、水250質量部を仕込み、内温を80℃に昇温した。次いで、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.3質量部を水50質量部に溶解した水溶液を添加した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液添加5分後、前記1段目プレ乳化液を2時間かけて一定流速で添加した。同温度で1時間重合を続けた。その後冷却し、水性樹脂分散体17−2とした。
【0067】
更に、同様にMMA127部、2−EHA58部、メタクリル酸10部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン5部の単量体組成物にエマルゲン150(花王(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル)の20%水溶液50質量部、ラテムルE118B(花王(株)製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム)の25%水溶液2質量部、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.6質量部、水150質量部を添加し、ホモミキサーで攪拌を行い、プレ乳化液を作製した。
これとは別に、攪拌装置と温度調節用ジャケットを取り付けた重合容器に、エマルゲン150の20%水溶液4.0質量部とラテムルE118Bの25%水溶液8質量部、水100質量部を仕込み、内温を80℃に昇温した。次いで、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.3質量部を水50質量部に溶解した水溶液を添加した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム水溶液添加5分後、前記1段目プレ乳化液を2時間かけて一定流速で添加した。同温度で0.5時間重合を続けた。同温度で1時間重合を続けた。その後冷却し、水性樹脂分散体17−3とした
【0068】
次いで、水性樹脂分散体17−1、17−2、17−3をそのまま混合し、10%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。pH調整後200メッシュの金網を用いてろ過を行い、固形分が45%となるよう水を配合し、水性樹脂分散体17を得た。
【0069】
[実施例13]
水性樹脂分散体17を用いた以外は実施例1と同様にセメントモルタル組成物を調整し、作業性、流動性、セメントモルタル硬化物の曲げ強さ、及び圧縮強さ、セメントモルタル硬化物の耐久性試験後の曲げ強さについて評価を行った。その結果、作業性 合格、流動性 8秒、曲げ強さ 13.5N/mm、圧縮強さ 53.8N/mm、耐久性試験後の曲げ強さ 10.8N/mm、であった。
【0070】
なお、表5〜7に記載された原材料は、以下の通りである。
セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)
充填材:JIS R 5201 10.2記載の標準砂
【0071】
〔評価方法〕
また、各特性は次のようにして求めた。
(1)セメントモルタル組成物の作業性、流動性
JIS A 1171−2000(ポリマーセメントモルタルの試験方法)の5.ポリマーセメントモルタルの調整方法の手練りによる方法に準拠し、セメントモルタル組成物を調整した。セメントモルタル組成物のフロー値は170±5mmとなるよう水を20〜30質量部添加した。その後、20℃に放置し2時間以上攪拌可能な場合を合格とした。なお、本評価は、モルタルへの配合安定性とシマリ性を現す。
また、セメントモルタル組成物を調整し、フロー値を測定した際、150mmを通過する時間を測定し、流動性の評価とした。
【0072】
(2)セメントモルタル硬化物の曲げ強さ、及び圧縮強さ
JIS A 1171−2000(ポリマーセメントモルタルの試験方法)の7.2曲げ強さ圧縮強さ試験に準拠して測定を行った。
但し、養生条件として、水中養生後の放置日数は14日とした。
【0073】
(3)セメントモルタル硬化物の、耐久性試験後の曲げ強さ
JIS A6909(建築用仕上塗材)7.11温冷繰り返し試験条件に樹脂セメントモルタル硬化物を放置し、温冷繰り返し50サイクルを実施した。その後、曲げ強さを測定した。なお、本評価はモルタル硬化物の耐環境性を現す。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の水性樹脂分散体は、各方面で用いることができる。例えば、建築物の防水材、補修材、養護材、仕上げ材、下地調整材、タイル接着用、防錆、グラウト用、パテ用、セルフレベリング床用、耐磨耗性床用、基礎コンクリート部の被覆材、デッキカバリング用、弾性モルタル用、セメント成型体、塗料用、防食用などの分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の重合体(1)〜(3)、
重合体(1):エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)、芳香族ビニル単量体(b)、及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)を含む単量体組成物(m1)を乳化重合して得られ、そのガラス転移温度Tg1が20〜60℃である重合体、
重合体(2):エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)、及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)を含む単量体組成物(m2)を乳化重合して得られ、そのガラス転移温度Tg2が−10〜30℃である重合体、
重合体(3):エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)、(メタ)アクリル酸エステル単量体(c)、及び加水分解性シリル基を有するビニル系単量体(d)を含む単量体組成物(m3)を乳化重合して得られ、そのガラス転移温度Tg3が10〜50℃である重合体、
を含み、
前記重合体(1)〜(3)の質量比は、前記重合体(1)/前記重合体(2)/前記重合体(3)(質量比)として30〜50/30〜50/10〜30であると共に、
前記Tg1〜Tg3は、Tg1>Tg2、及びTg2<Tg3なる関係を有することを特徴とする水性樹脂分散体。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a)が、前記単量体組成物(m1)と前記単量体組成物(m2)と前記単量体組成物(m3)との総量中に占める割合は、1〜2.5質量%である請求項1記載の水性樹脂分散体。
【請求項3】
さらに、塩基性アルカリ金属化合物を含む請求項1又は2に記載の水性樹脂分散体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の水性樹脂分散体を主成分として含むセメントモルタル用配合剤。
【請求項5】
請求項4に記載のセメントモルタル用配合剤0.5〜100質量部(固形分)と、セメント100質量部と、充填剤5〜600質量部とを含むセメントモルタル組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のセメントモルタル組成物が硬化して得られるセメントモルタル硬化物。

【公開番号】特開2008−174641(P2008−174641A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9543(P2007−9543)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】