説明

水性樹脂分散体の製造方法

【課題】
多量の有機溶剤等を使用しなくても不飽和基を含有する水性樹脂分散体を安定に製造する方法を提供する。
【解決手段】
ジシクロペンテニル基を含有する重合性不飽和モノマー(A)及び該モノマー(A)と共重合可能なその他の重合性不飽和モノマー(B)を含むモノマー成分を含むモノマー混合物(I)を、水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られる乳化物を重合させることを特徴とする水性樹脂分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥性に優れ、仕上がり性の良好な塗膜を形成することが可能な水性樹脂分散体の製造方法、該分散体を含む水性樹脂組成物及び該樹脂組成物を含んでなる水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料、インキ、接着剤等の分野では、省資源、環境衛生、無公害、非危険物化等の観点から、有機溶剤型の組成物から水性型の組成物への転換が進められている。水性塗料組成物に使用されるビヒクルとしては、例えば、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂が挙げられる。
【0003】
ところで、これらの水性塗料組成物に含有される樹脂に不飽和基が導入されると、塗膜に酸化硬化性を付与することができることから、不飽和基含有樹脂の水性化が近年求められている。例えば、特許文献1には、不飽和アルキル基、アリル基及びジシクロペンテニル基等の不飽和基を有する水溶性アクリル樹脂、前記不飽和基を有する疎水性アクリル樹脂及びジイソシアネート化合物の混合物を中和して、攪拌下に水を加えて乳化分散することを特徴とする樹脂水性分散体の製造方法が提案されている。該方法により製造される樹脂水性分散体は、両樹脂分子の一部がジイソシアネート化合物により架橋され、貯蔵安定性が良好であり、酸化硬化性を有するものであるが、該分散体を含む水性塗料組成物は、該分散体から持ち込まれる多量の有機溶剤を包含するという問題点がある。
【0004】
【特許文献1】特開平7−118356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主たる目的は、多量の有機溶剤等を使用しなくても不飽和基を含有する水性樹脂分散体を安定に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、今回、特定の不飽和基を含有する重合性不飽和モノマーを含む重合性不飽和モノマー成分を含むモノマー混合物を水性媒体中に特定の平均粒子径となるように微分散させ、得られる乳化物を重合する方法により本発明に到達した。
【0007】
かくして、本発明は、
1.ジシクロペンテニル基を含有する重合性不飽和モノマー(A)及び該モノマー(A)と共重合可能なその他の重合性不飽和モノマー(B)を含むモノマー成分を含有するモノマー混合物(I)を、水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られる乳化物を重合させることを特徴とする水性樹脂分散体の製造方法、
2.その他の重合性不飽和モノマー(B)が、脂肪酸変性重合性不飽和モノマーを含んでなる1項に記載の製造方法、
3.その他の重合性不飽和モノマー(B)が、炭素数が6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー、シクロアルキル基を有する重合性不飽和モノマー及びカルボニル基含有重合性不飽和モノマーよりなる群からなる少なくとも1種の重合性不飽和モノマーを含んでなる1項または2項に記載の製造方法、
4.1項ないし3項のいずれか1項に記載の製造方法により得られる水性樹脂分散体、
5.4項に記載の水性樹脂分散体を含む水性樹脂組成物、
6.ヒドラジン誘導体をさらに含む5項に記載の水性樹脂組成物、
7.5項または6項に記載の水性樹脂組成物を含む水性塗料組成物、
8.被塗面に、7項に記載の水性塗料組成物を塗装することを特徴とする塗膜形成方法、
9.8項に記載の方法により得られた塗装物品、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明の製造方法によれば、多量の有機溶剤や、補助界面活性剤等を使用しなくても、不飽和基を含有する水性樹脂分散体を安定に製造することができる。本発明の水性樹脂分散体によれば、貯蔵安定性、造膜性などに優れ、1液型でありながら常温でも容易に硬化させることができ、しかも、形成される硬化塗膜は透明性、光沢、仕上り性(肉持ち感)に優れ、耐水性、耐久性、耐食性、耐候性等の性能にも優れるという顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の製造方法は、
ジシクロペンテニル基を含有する重合性不飽和モノマー(A)及び該モノマー(A)と共重合可能なその他の重合性不飽和モノマー(B)を含むモノマー成分を含有するモノマー混合物(I)を、水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られる乳化物を重合させることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の製造方法において、上記乳化物中のモノマー混合物(I)粒子の平均粒子径が500nmを超えると、モノマー混合物(I)の乳化物の貯蔵時の沈降や、得られる水性樹脂分散体粒子の親水−疎水組成分布の不均一性が極端になり、それを用いて形成される塗膜の白濁などの原因となることがあるので好ましくない。
【0011】
本明細書において、平均粒子径は、試料を脱イオン水にて希釈し、「SALD−3100」(商品名、島津製作所社製、レーザー回折式粒度分布測定装置)を用いて、20℃にて測定したときの値であり、また、微粒化されたモノマー混合物(I)の乳化物及び水性樹脂分散体の平均粒子径の測定はそれぞれ製造後30分経過した時点で行うものとする。
【0012】
また、重合時に使用する水性媒体としては、水、又は水を主体としてこれに水溶性有機溶媒などの有機溶媒を混合してなる水−有機溶媒混合溶液などを挙げることができる。
【0013】
ジシクロペンテニル基を含有する重合性不飽和モノマー(A)
本発明の製造方法において、ジシクロペンテニル基を含有する重合性不飽和モノマー(A)としては、例えば下記式(1)で表される化合物を挙げることができる。
【0014】
【化1】

【0015】
上記式(1)において、Rは、炭素数が2〜12のアルキレン基、nは0〜2の整数を表し、nが2のとき、繰り返し単位中の各Rは、同一であっても異なっていてもよく、R1の合計炭素原子数は4〜24であり、Rはメチル基又は水素原子である。
【0016】
上記重合性不飽和モノマー(A)の具体例としては、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシプロピルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシプロピルメタクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート等が挙げられる。
【0017】
その他の重合性不飽和モノマー(B)
本発明の製造方法において使用されるその他の重合性不飽和モノマー(B)は、前記ジシクロペンテニル基を有する重合性不飽和モノマー(A)と共重合可能な重合性不飽和モノマーであり、分子中に少なくとも1個、好ましくは1個の重合性不飽和基、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などを含有する化合物が包含される。
【0018】
具体的には、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、シクロドデシル(メタ)アクリレ−ト等のアルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート等のイソボルニル基を有する重合性不飽和化合物;脂肪酸変性重合性不飽和モノマー;アダマンチル(メタ)アクリレート等のアダマンチル基を有する重合性不飽和化合物;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル基を有する重合性不飽和化合物;ポリジメチルシロキサン鎖を有する重合性不飽和モノマー;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィン等のフッ素化アルキル基を有する重合性不飽和化合物;マレイミド基等の光重合性官能基を有する重合性不飽和化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基を含有する重合性不飽和モノマー;1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、2,2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート等;N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等のビニル化合物;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基を有する化合物;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物等の含窒素重合性不飽和化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコ−ル、上記C〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体などの水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等の水酸基を有する重合性不飽和化合物;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレート及びそのナトリウム塩やアンモニウム塩等のスルホン酸基を有する重合性不飽和化合物;2−ヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノンなどのヒドロキシベンゾフェノン類とグリシジル(メタ)アクリレートとの付加反応生成物、或いは2−(2'−ヒドロキシ−5'−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収性官能基を有する重合性不飽和化合物;4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の紫外線安定性重合性不飽和化合物;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等のカルボニル基を有する重合性不飽和化合物;アリル(メタ)アクリレ−ト、エチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、トリエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、テトラエチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,3−ブチレングリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、トリメチロ−ルプロパントリ(メタ)アクリレ−ト、1,4−ブタンジオ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ネオペンチルグリコ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,6−ヘキサンジオ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ペンタエリスリト−ルジ(メタ)アクリレ−ト、ペンタエリスリト−ルテトラ(メタ)アクリレ−ト、グリセロ−ルジ(メタ)アクリレ−ト、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレ−ト、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレ−ト、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレ−ト、トリアリルイソシアヌレ−ト、ジアリルテレフタレ−ト、ジビニルベンゼン等の1分子中に少なくとも2個の重合性不飽和基を有する多ビニル化合物等が挙げられ、これらは得られる水性樹脂分散体に望まれる性能などに応じて単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0019】
上記モノマー(A)及びモノマー(B)の使用割合は、特に制限されるものではなく、目的とする水性樹脂分散体に望まれる性能や用途などに応じて適宜選択することができるが、形成塗膜の酸化硬化性と耐候性を両立させる点から、一般には、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、モノマー(A)は1〜90重量%、好ましくは5〜60重量%、さらに好ましくは10〜40重量%の範囲内、そしてモノマー(B)は10〜99重量%、好ましくは40〜95重量%、さらに好ましくは60〜90重量%の範囲内とすることができる。
【0020】
本発明の製造方法においては、モノマー混合物(I)の乳化時の微粒化(又はミニエマルション化)を容易にし、また、重合段階において微粒化後の乳化物を安定化させ、モノマー(A)及びモノマー(B)を含むモノマー成分が重合場である該乳化物から水性媒体中へ拡散するのを抑制させるため、そして、製造される水性樹脂分散体粒子を用いて形成される塗膜の仕上がり性に肉もち感を付与するために上記その他の重合性不飽和モノマー(B)が脂肪酸変性重合性不飽和モノマーを含有することが望ましい。かかる脂肪酸変性重合性不飽和モノマーとしては、脂肪酸由来の炭化水素鎖の末端に重合性不飽和基を有する重合性不飽和モノマーが包含される。ここで、重合性不飽和基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基などを挙げることができ、特に(メタ)アクリロイル基が好適である。
【0021】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマーとしては、例えば、脂肪酸をエポキシ基含有重合性不飽和モノマー又は水酸基含有重合性不飽和モノマーと反応させることにより得られるものを挙げることができる。
【0022】
脂肪酸としては、炭化水素鎖の末端にカルボキシル基が結合した構造を有しているものが挙げられ、例えば、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸、不乾性油脂肪酸を挙げることができる。乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸は、厳密に区別できるものではないが、通常、乾性油脂肪酸はヨウ素化が130以上の不飽和脂肪酸であり、半乾性油脂肪酸はヨウ素化が100以上かつ130未満の不飽和脂肪酸である。他方、不乾性油脂肪酸は、通常、ヨウ素価が100未満である脂肪酸である。
【0023】
乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸としては、例えば、魚油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸、ハイジエン酸脂肪酸等が挙げられ、また、不乾性油脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、水添ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。さらに、これらの脂肪酸は、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等と併用することができる。
【0024】
本発明においては、形成塗膜の酸化硬化性を向上させるために、上記脂肪酸が乾性油脂肪酸及び/又は半乾性油脂肪酸であることが望ましい。
【0025】
脂肪酸変性重合性不飽和モノマーを製造するために上記脂肪酸と反応させうるエポキシ基含有重合性不飽和モノマーとしては、1分子中に1個のエポキシ基と1個の重合性不飽和基を有する化合物が包含され、具体的には例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β一メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
上記脂肪酸とエポキシ基含有重合性不飽和モノマーは、脂肪酸中のカルボキシル基とエポキシ基含有モノマー中のエポキシ基との当量比が0.75:1〜1.25:1、好ましくは0.8:1〜1.2:1の範囲内となるような割合で反応させることができる。
【0027】
上記脂肪酸とエポキシ基含有重合性不飽和モノマーとの反応は、通常、重合禁止剤の存在下に、ゲル化などの反応上の問題を起こすことなく、脂肪酸成分中のカルボキシル基とエポキシ基含有重合性不飽和モノマー中のエポキシ基とが円滑に反応できる条件下で行うことができ、通常、約100〜約180℃の温度で約0.5〜約10時間加熱することにより行うのが適している。
【0028】
この反応において、N,N−ジメチルアミノエタノール等の3級アミン、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム等の4級アンモニウム塩等のエステル化反応触媒を用いることができ、さらに、反応に対して不活性な有機溶剤を使用してもよい。
【0029】
上記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロカテコール、p−tert−ブチルカテコールなどのヒドロキシ化合物;ニトロベンゼン、ニトロ安息香酸、o−,m−又はp−ジニトロベンゼン、2,4−ジニトロトルエン、2,4−ジニトロフェノール、トリニトロベンゼン、ピクリン酸などのニトロ化合物;p−ベンゾキノン、ジクロロベンゾキノン、クロルアニル、アンスラキノン、フェナンスロキノンなどのキノン化合物;ニトロソベンゼン、ニトロソ−β−ナフトールなどのニトロソ化合物等のそれ自体既知のラジカル重合禁止剤が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0030】
また、脂肪酸変性重合性モノマーは、上記脂肪酸を水酸基含有重合性不飽和モノマーとエステル化反応させることによっても得ることができる。かかる水酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、1分子中に1個の水酸基と1個の重合性不飽和基を有する化合物が包含され、具体的には例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコ−ル、上記C〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体などの水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0031】
上記脂肪酸と水酸基含有重合性不飽和モノマーは、通常、該脂肪酸中のカルボキシル基対水酸基含有重合性不飽和モノマー中の水酸基との当量比が0.4:1〜1.25:1、好ましくは0.5:1〜1.2:1の範囲内となるような割合で反応させることができる。
【0032】
上記脂肪酸と水酸基含有重合性不飽和モノマーとの反応は、通常、重合禁止剤の存在下に、ゲル化などの反応上の問題を起こすことなく、脂肪酸成分中のカルボキシル基と水酸基含有重合性不飽和モノマー中の水酸基とが円滑に反応できる条件下で行うことができ、通常、エステル化触媒の存在下に、約100〜約180℃の温度で約0.5〜約10時間加熱することにより行うのが適している。エステル化触媒としては、例えば、硫酸、硫酸アルミニウム、硫酸水素カリウム、アルキル置換ベンゼン、塩酸、硫酸メチル、リン酸等が挙げられ、これらの触媒は、通常、反応させる上記脂肪酸と水酸基含有重合性不飽和モノマーの合計量に基準にして、約0.001〜約2.0重量%の範囲内で使用することができる。さらに、反応に対して不活性な有機溶剤を使用することもできる。
【0033】
上記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ピロカテコール、p−tert−ブチルカテコールなどのヒドロキシ化合物;ニトロベンゼン、ニトロ安息香酸、o−,m−又はp−ジニトロベンゼン、2,4−ジニトロトルエン、2,4−ジニトロフェノール、トリニトロベンゼン、ピクリン酸などのニトロ化合物;p−ベンゾキノン、ジクロロベンゾキノン、クロルアニル、アンスラキノン、フェナンスロキノンなどのキノン化合物;ニトロソベンゼン、ニトロソ−β−ナフトールなどのニトロソ化合物等のそれ自体既知のラジカル重合禁止剤が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0034】
上記脂肪酸変性重合性不飽和モノマーは、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量に対して5〜60重量%、好ましくは10〜40重量%含有することが望ましい。
また、本発明においてその他の重合性不飽和モノマー(B)は、炭素数が6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー、シクロアルキル基を有する重合性不飽和モノマー及びカルボニル基含有重合性不飽和モノマーよりなる群からなる少なくとも1種の重合性不飽和モノマーを含んでなることが望ましい。
【0035】
炭素数が6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマーとしては、例えば、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」(大阪有機化学社製)等を挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0036】
その他の重合性不飽和モノマー(B)の少なくとも一部として、炭素数が6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマーを使用することにより、該その他の重合性不飽和モノマー(B)を重合性不飽和モノマー(A)などの他の成分と共に微粒化した後のモノマー混合物(I)の乳化物の重合安定性を保持することができ、しかも、耐水性に優れた塗膜を形成する水性樹脂分散体を製造することができる。
【0037】
該炭素数が6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマーは、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、1〜55重量%、好ましくは5〜30重量%含んでなることが望ましい。
【0038】
シクロアルキル基を有する重合性不飽和モノマーとしては、1分子中に1個の炭素数が6以上のシクロアルキル基と1個の重合性不飽和結合を有する化合物が好適であり、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、シクロドデシル(メタ)アクリレ−ト等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、シクロヘキシル(メタ)アクリレートが好適である。
【0039】
その他の重合性不飽和モノマー(B)の少なくとも一部として、シクロアルキル基を有する重合性不飽和モノマーを含んでなるものを使用することにより、得られる水性樹脂分散体を用いて形成される塗膜の耐候性を向上させることができ、また、耐水性、耐汚染性等も改善することができる。耐候性向上を目的とする場合のその含有量は、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、1〜70重量%、好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは15〜45重量%の範囲内が好適である。
【0040】
カルボニル基含有重合性不飽和モノマーとしては、1分子中に1個のカルボニル基と1個の重合性不飽和結合を有する化合物が包含され、具体的には例えば、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、特にダイアセトン(メタ)アクリルアミドが好適である。
【0041】
その他の重合性不飽和モノマー(B)の少なくとも一部として、カルボニル基含有重合性不飽和モノマーを含んでなるものを使用し且つ得られる水性樹脂分散体に後述のヒドラジン誘導体を配合せしめることにより、脂肪酸成分による酸化硬化に加えてモノマー由来のカルボニル基とヒドラジン誘導体との補助架橋を進行させることができ、塗膜の乾燥性をより一層向上させることができ、耐候性、耐水性等の物性にも優れた塗膜を形成する塗料組成物を調製することができる。
【0042】
かかるカルボニル基含有重合性不飽和モノマーは、一般に、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、0.5〜35重量%、好ましくは2〜20重量%の範囲内で使用するのが適している。
【0043】
また、その他の重合性不飽和モノマー(B)がカルボニル基含有重合性不飽和モノマーを含んでなる場合において、脂肪酸の種類は特に制限されるものではないが、半乾性油脂肪酸及び/又は不乾性油脂肪酸からなることもできる。半乾性油脂肪酸及び/又は不乾性油脂肪酸は、一般に酸化硬化性が低い脂肪酸であり、前記例示のものを使用することができる。
【0044】
その他の重合性不飽和モノマー(B)の少なくとも一部としてカルボニル基含有重合性不飽和モノマーを使用することによって、後述のヒドラジン誘導体を併用することにより、カルボニル基とヒドラジン誘導体との間の架橋が進行するので、形成塗膜の乾燥性を維持することが可能である。
【0045】
また、その他の重合性不飽和モノマー(B)は、酸基含有重合性不飽和モノマーを、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%の範囲内で含んでなることが望ましい。
【0046】
酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレート及びそのナトリウム塩やアンモニウム塩等のスルホン酸基を有する重合性不飽和モノマー等を挙げることができ、特に、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸が好適である。
【0047】
その他の重合性不飽和モノマー(B)の少なくとも一部として酸基含有重合性不飽和モノマーを使用することにより、得られる水性樹脂分散体粒子の水性媒体中における安定性や機械安定性を確保することができ、また、それを含有する水性樹脂組成物をエナメル塗料に適用した場合において、塗料の調色性を向上させることができる。
【0048】
また、その他の重合性不飽和モノマー(B)は、その少なくとも一部として、芳香族ビニルモノマーを含んでなることが望ましい。芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。かかる芳香族ビニルモノマーの使用により、全モノマーの共重合性を高めることができ、そして耐水性など形成塗膜の物性を向上させることができる。
【0049】
該芳香族ビニルモノマーは、一般に、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、1〜50重量%、好ましくは2〜30重量%の範囲内で使用するのが好適である。
【0050】
本発明において、モノマー混合物(I)は、以上に述べたジシクロペンテニル基含有重合性不飽和モノマー(A)及びモノマー(A)と共重合可能なその他の重合性不飽和モノマー(B)を含むモノマー成分を必須成分として含むものであり、モノマー成分からのみなっていてもよいが、さらに、必要に応じて実質的に重合性不飽和基を含有しない化合物を含有することもできる。
【0051】
モノマー混合物(I)として、モノマー成分にさらに上記の実質的に重合性不飽和基を含有しない化合物を加えた混合物を使用することにより、該化合物を内包する水性樹脂分散体粒子を製造することができる。
【0052】
実質的に重合性不飽和基を含有しない化合物としては、例えば、紫外線吸収剤、紫外線安定剤及び金属ドライヤー等の塗料用添加剤;アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂等の樹脂;顔料、染料等の着色剤、イソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂等の硬化剤を挙げることができ、これらは単独で又は適宜選択して2種以上組み合わせて使用することができるが、特に、紫外線吸収剤、紫外線安定剤及び金属ドライヤーから選ばれる少なくとも1種が好適である。
【0053】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリシレ−ト、p−オクチルフェニルサリシレ−ト、4−t−ブチルフェニルサリシレ−トなどのサリチル酸誘導体;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2´−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノントリヒドレ−ト、2,2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、ナトリウム2,2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2´,4,4´−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、5−クロロ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、レゾルシノ−ルモノベンゾエ−ト、2,4−ジベンゾイルレゾルシノ−ル、4,6−ジベンゾイルレゾルシノ−ル、ヒドロキシドデシルベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物;2−(2´−ヒドロキシ−5´−メチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ルなどのベンゾトリアゾ−ル系化合物、その他シュウ酸アニリド、シアノアクリレ−トなどの化合物、上記例示の紫外線吸収モノマーを共重合成分とするアクリル共重合体などが挙げられる。
【0054】
紫外線安定剤としては、例えば、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t-ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチル・1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t-ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ビス−(2,2´,6,6´−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバテ−ト、4−ベンゾイルオキシ−2,2´,6,6´−テトラメチルピペリジン、上記例示の紫外線安定性モノマーを共重合成分とするアクリル共重合体等が挙げられる。
【0055】
本発明において、前記モノマー成分にさらに紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤を加えたものをモノマー混合物(I)として使用することによって、得られる水性樹脂分散体粒子の少なくとも一部が該紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤を内包し、その結果、該水性樹脂分散体を用いて形成される被膜に均一に該紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤が分散されるようになるとともに、被膜形成後、該紫外線吸収剤及び/又は紫外線安定剤が雨水等により溶出されることがなく、その効果を長期にわたり安定に発揮するようになる。
【0056】
また、金属ドライヤーとしては、例えば、アルミニウム、カルシウム、セリウム、コバルト、鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、ジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と酸との塩が挙げられ、該酸としては、例えば、カプリン酸、カプリル酸、イソデカン酸、リノレン酸、ナフテン酸、ネオデカン酸、オクテン酸、オレイン酸、パルミチン酸、樹脂酸、リシノール酸、大豆油脂肪酸、ステアリン酸、トール油脂肪酸等が挙げられる。
【0057】
本発明において、金属ドライヤーを重合を行う前のモノマー混合物(I)中に含有させると、得られる水性樹脂分散体から形成される硬化塗膜の酸化硬化性を向上させることができる。これは、水性樹脂分散体粒子の少なくとも一部に金属ドライヤーが内包され、該内包粒子が成膜されると金属ドライヤーが内包粒子内で効果的に酸化硬化型重合性不飽和基に作用することができるためであると考えられる。
【0058】
上記モノマー混合物(I)は、水性媒体に微分散するに際して、必要に応じて、乳化剤を含んでいてもよい。該乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤が好適であり、該アニオン性乳化剤としては、例えば、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸などのナトリウム塩やアンモニウム塩が挙げられ、また、ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられる。
【0059】
また、1分子中にアニオン性基とポリオキシエチレン基やポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基を有するポリオキシアルキレン基含有アニオン性乳化剤や、1分子中に該アニオン性基と重合性不飽和基とを有する反応性アニオン性乳化剤を使用してもよい。
【0060】
該乳化剤は使用されるモノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして0.1〜15重量%、好ましくは0.5〜12重量%の範囲内で使用することができる。
【0061】
また、モノマー混合物(I)は、得られる水性樹脂分散体の分子量を調整する目的で、連鎖移動剤を含んでいてもよい。該連鎖移動剤としては、メルカプト基を有する化合物が包含され、具体的には例えば、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルへキシル、2−メチル−5−tert−ブチルチオフェノール、メルカプトエタノ−ル、チオグリセロ−ル、メルカプト酢酸(チオグリコ−ル酸)、メルカプトプロピオネート、n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート等が挙げられる。該連鎖移動剤の使用量は、一般に、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、0.05〜10重量%、特に0.1〜5重量%の範囲内が好適である。
【0062】
本発明の製造方法によれば、重合段階において、モノマー(A)及びモノマー(B)が重合場である微分散された粒子から拡散するのを抑制することができ、水性樹脂分散体を安定に製造することができるものであるが、必要に応じてモノマー混合物(I)に、ヘキサデカン等の長鎖飽和炭化水素系溶剤、ヘキサデカノール等の長鎖アルコール系溶剤等の一般にミニエマルション重合で使用される疎水性有機溶剤を配合してもよい。
【0063】
本発明に従えば、以上に述べたモノマー混合物(I)は水性媒体中に微分散させることによりモノマー成分を含有する粒子分散物である乳化物(以下、「モノマー乳化物」と略称することがある)が形成せしめられる。
【0064】
上記モノマー混合物(I)の水性媒体中における濃度は、形成される乳化物の微粒化適性、重合段階における安定性、水性塗料に適用したときの実用性などの観点から、一般に、10〜70重量%、好ましくは20〜60重量%の範囲内が好適である。
【0065】
モノマー混合物(I)の水性媒体中への微分散は、特に制限されるものではなく、通常、高エネルギーせん断能力を有する分散機を用いて行うことができる。その際に使用しうる該分散機としては、例えば、高圧乳化装置、超音波乳化機、高圧コロイドミル、高圧ホモジナイザー等が挙げられる。これらの分散機は、通常、10〜1000MPa、好ましくは50〜300MPa程度の高圧下で操作することができる。また、該機械にて分散を行う前に、該モノマー混合物(I)をあらかじめディスパー等で予備乳化してもよい。
【0066】
モノマー混合物(I)を上記手法により水性媒体中に微分散させることにより得られるモノマー乳化物中の分散粒子の平均粒子径は、形成塗膜の透明性、耐水性等の点から、500nm以下、好ましくは80〜400nm、さらに好ましくは100〜300nmの範囲内が適している。
【0067】
かくして得られるモノマー乳化物の重合は、例えば、微分散後のモノマー乳化物を撹拌機を備えた反応器に全量仕込み、重合開始剤を添加し、攪拌しながら加熱することにより行うことができる。
【0068】
上記重合開始剤としては、油溶性、水溶性のいずれのタイプのものであってもよく、油溶性の重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキシド、ステアロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられ、また、水溶性の開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレート、 tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、 tert−ブチルパーオキシアセテート、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビス(2−メチルプロピオンニトリル)、アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、4、4'−アゾビス(4−シアノブタン酸)、ジメチルアゾビス(2−メチルプロピオネート)、アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]−プロピオンアミド}等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩等が挙げられる。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて用いることができる。また、上記重合開始剤に、必要に応じて、糖、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、鉄錯体等の還元剤を併用し、レドックス重合系としてもよい。
【0069】
上記重合開始剤の使用量は、一般に、モノマー(A)及びモノマー(B)の合計重量を基準にして、0.1〜5重量%、特に0.2〜3重量%の範囲内が好ましい。該重合開始剤の添加方法は、特に制限されるものではなく、その種類や量などに応じて適宜選択することができる。例えば、予めモノマー混合物(I)又は水性媒体に含ませてもよく、或いは重合時に一括して添加してもよく又は滴下してもよい。
【0070】
本発明においては、得られる水性樹脂分散体の粒子の機械的安定性を向上させるために、該水性樹脂分散体が酸性基を有する場合には、これを中和剤により中和することが望ましい。該中和剤としては、酸性基を中和できるものであれば特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、ジメチルアミノエタノール、2−メチル−2−アミノ−1−プロパノール、トリエチルアミン、アンモニア水などが挙げられ、これらの中和剤は、中和後の水性樹脂分散体のpHが6.5〜9.0程度となるような量で用いることが望ましい。
【0071】
以上に述べた本発明の製造方法によれば、分散樹脂の平均粒子径が500nm以下、特に好ましくは100〜300nmの範囲内にある水性樹脂分散体を製造することができる。
【0072】
本発明の製造方法に従って製造される水性樹脂分散体は、一般に、10000〜300000、特に30000〜200000の範囲内の重量平均分子量を有することが望ましい。本明細書において、重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィにより測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算したときの値である。ゲルパーミュエーションクロマトグラフィに用いるカラムとしては、「TSKgel G−4000H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)を挙げることができる。
【0073】
水性樹脂組成物
本発明により提供される水性樹脂組成物は以上に述べた如くして得られる水性樹脂分散体を含んでなるものである。
【0074】
上記水性樹脂組成物は、ヒドラジン誘導体をさらに含んでなることができる。該ヒドラジン誘導体としては、具体的には例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、こはく酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等の2〜18個の炭素原子を有する飽和ジカルボン酸ジヒドラジド;マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドなどのモノオレフィン性不飽和ジカルボン酸ジヒドラジド;フタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジドまたはイソフタル酸ジヒドラジド;ピロメリット酸のジヒドラジド、トリヒドラジドまたはテトラヒドラジド;ニトリロトリヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド;カルボン酸低級アルキルエステル基を有する低重合体をヒドラジンまたはヒドラジン水化物(ヒドラジンヒドラード)と反応させることにより得られるポリヒドラジド;炭酸ジヒドラジド等のヒドラジド基含有化合物;ビスセミカルバジド;ヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート又はそれから誘導されるポリイソシアネート化合物にN,N−ジメチルヒドラジン等のN,N−置換ヒドラジンや上記例示のヒドラジドを過剰に反応させて得られる多官能セミカルバジド、該ポリイソシアネート化合物とポリエーテルとポリオール類やポリエチレングリコールモノアルキルエーテル類等の親水性基を含む活性水素化合物との反応物中のイソシアネート基に上記例示のジヒドラジドを過剰に反応させて得られる水系多官能セミカルバジド;該多官能セミカルバジドと水系多官能セミカルバジドとの混合物等のセミカルバジド基を有する化合物;ビスアセチルジヒドラゾン等のヒドラゾン基を有する化合物等が挙げられる。
【0075】
上記水性樹脂組成物が上記ヒドラジン誘導体を含有することにより、それから形成される塗膜は空気中の有害物質、例えばホルムアルデヒドを吸着することができ、これらの有害物質の除去のために有用であり、また、水性樹脂分散体がカルボニル基を有する場合には、補助架橋のための架橋剤として作用することができる。
【0076】
上記ヒドラジン誘導体の配合量は、水性樹脂分散体の樹脂固形分に対して、一般に、0.01〜10重量%、特に0.1〜8重量%の範囲内が望ましい。
【0077】
上記水性樹脂組成物は、必要に応じて、湿潤剤、消泡剤、可塑剤、造膜助剤、有機溶剤、増粘剤、防腐剤、防かび剤、pH調整剤、硬化触媒、表面調整剤等の添加剤;イソシアネート化合物、メラミン樹脂等の硬化剤などを適宜選択し組合わせて含有することができる。また、前記で説明したごとき金属ドライヤー、紫外線吸収剤、紫外線安定剤を該水性樹脂組成物に含ませることもできる。
【0078】
かくして、上記水性樹脂組成物は、建築用、自動車外板用、自動車部品用等の塗料用途や印刷インキ等の被覆材、塗料用添加剤、不織布用等の接合剤、接着剤、充填剤、成形材料、レジスト等の種々の用途に使用することができる。
【0079】
水性塗料組成物
本発明の水性塗料組成物は、上記の水性樹脂組成物を含んでなる塗料である。
【0080】
上記水性塗料組成物は、クリヤー塗料として又はエナメル塗料として使用することができる。
【0081】
エナメル塗料として使用する場合には、顔料分として、塗料分野で既知の着色顔料,光輝性顔料、体質顔料、防錆顔料等を配合することができる。
【0082】
例えば、チタン白を含有する水性塗料組成物の場合、形成塗膜の肉もち感を保持し且つ光沢ある仕上がり外観とするためには、一般に、チタン白を5〜25%、好ましくは7〜22%の範囲内の体積顔料濃度(PVC)で含有することが望ましい。上記チタン白としては、耐候性の点からルチル型であることが好ましい。ここで「顔料体積濃度」は、塗料中の全樹脂分と全顔料との合計固形分に占めるその顔料分の体積割合である。本明細書において、顔料の体積を算出する際のもとになる顔料の比重は「塗料原料便覧第6版」(社団法人日本塗料工業会)によるものであり、また、樹脂固形分の比重は1と近似するものとする。
【0083】
上記水性塗料組成物は、上記成分の他に、水溶性もしくはエマルション型のアクリル樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の改質用樹脂、顔料分散剤、界面活性剤、分散剤、消泡剤、増粘剤、造膜助剤、防腐剤、防カビ剤、凍結防止剤、pH調整剤、フラッシュラスト抑止剤、アルデヒド捕捉剤、層状粘度鉱物、粉状もしくは微粒子状の活性炭、光触媒酸化チタン、ポリアルキレングリコール変性アルキルシリケート等の低汚染化剤等の添加剤を単独でもしくは2種以上組み合わせて含有することができる。
【0084】
上記水性塗料組成物は、新しい基材面や旧塗膜面に適用することができ、該基材としては、特に制限されるものではなく、例えば、コンクリート、モルタル、スレート板、PC板、ALC板、セメント珪酸カルシウム板、コンクリートブロック、木材、石材等の無機基材;プラスチック等の有機基材;鉄、アルミニウム等の金属などが挙げられ、また、旧塗膜としては、これら基材上に設けられたアクリル樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、ポリウレタン樹脂系、フッ素樹脂系、シリコンアクリル樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、エポキシ樹脂系、アルキド樹脂などの塗膜が挙げられる。これらの被塗面には、水性又は溶剤型の下塗り材を塗布してもよく、必要に応じて、該下塗り材を塗布した後、上記水性塗料組成物を上塗り材として塗布することができる。また、本発明の水性塗料組成物を下塗り材として塗布した後、既知の水性上塗り材を塗布することも可能である。
【0085】
また、本発明の水性塗料組成物は、さらに、亜硝酸塩、フィチン酸塩、タンニン酸塩、及びアミン類よりなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性化合物を含むことができる。亜硝酸塩としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸アンモニウムなどが挙げられ、フィチン酸塩としては、例えば、フィチン酸ナトリウム、フィチン酸カリウムなどが挙げられ、タンニン酸塩としては、例えば、タンニン酸ナトリウム、タンニン酸カリウム等が挙げられ、アミン類としては、例えば、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、プロピレンジアミン四酢酸(PDTA)、イミノ二酢酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DTPMP)等を挙げることができる。また、該アミン類はこれら例示の化合物のアルカリ金属塩であってもよく、また、モノアルキルアミンやポリアミン、第四級アンモニウムイオンなどをトリポリリン酸二水素アルミニウムなどの層状りん酸塩にインターカレートしてなる層間化合物等も包含される。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0086】
これら塩基性化合物の添加により、水性塗料組成物を金属面に直接塗布した場合に該金属面の錆が塗膜表面にブリードして点錆などを発生させるのを防止することが可能である。上記塩基性化合物の添加量は、水性塗料組成物の重量を基準にして、0.02〜2重量%、好ましくは0.05〜1重量%の範囲内が適当である。
【0087】
本発明の水性塗料組成物は、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電塗装、ハケ塗装、ローラー塗装、リシンガン、万能ガン等の方法で塗布することができ、また、乾燥方法としては、加熱乾燥、強制乾燥、常温乾燥のいずれであってもよい。本明細書では、40℃未満の乾燥条件を常温乾燥とし、40℃以上で且つ80℃未満の乾燥条件を強制乾燥とし、80℃以上の乾燥条件を加熱乾燥とする。本発明の水性塗料組成物の塗布量としては、例えば、50〜300g/mの範囲内とすることができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、「部」及び「%」は「重量部」及び「重量%」である。
脂肪酸変性重合性不飽和モノマーの製造
製造例1
反応容器に下記の成分を入れ、攪拌しながら反応温度140℃で反応させ、脂肪酸変性モノマー(a−1)を得た。エポキシ基とカルボキシル基の反応は残存カルボキシル基の量を測定することによりモニターした。反応が完了するまで約5時間を要した。
サフラワー油脂肪酸 280部
グリシジルメタクリレート 142部
水性樹脂分散体の製造
実施例1
ガラスビーカーに下記成分を入れ、ディスパーにて2000rpmで15分間攪拌し、予備乳化液を製造した後、この予備乳化液を、高圧エネルギーを加えて流体同士を衝突させる高圧乳化装置にて100MPaで高圧処理することにより、分散粒子の平均粒子径が190nmのモノマー乳化物を得た。
モノマー乳化物組成
ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート 20部
脂肪酸変性モノマー(a−1) 30部
スチレン 5部
i−ブチルメタクリレート 20部
2−エチルヘキシルアクリレート 24部
メタクリル酸 1部
「Newcol707SF」(注1) 10部
脱イオン水 85部
上記モノマー乳化物546部をフラスコへ移し、脱イオン水95部にて希釈した。攪拌しながら85℃まで昇温させ、過硫酸アンモニウム1部を脱イオン水64.7部に溶解させた開始剤水溶液をフラスコに投入し、該温度を保持しながら3時間攪拌した。さらに、過硫酸アンモニウム0.25部を脱イオン水16.2部に溶解させた開始剤水溶液をフラスコに投入し、該温度を保持しながら3時間攪拌した後40℃まで冷却した。ジメチルアミノエタノールでpHを8.0に調整し、固形分濃度40%、分散樹脂の平均粒子径が185nmの水性樹脂分散体(I−1)を得た。
【0089】
(注1)「Newcol707SF」:商品名、日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性乳化剤、有効成分30%、
【0090】
【表1】

【0091】
実施例2〜6及び比較例1
モノマー乳化物の配合組成を表1に記載のとおりに変更する以外は上記実施例
1と同様にして、水性樹脂分散体(I−2)〜(I−6)及び(I−7)を得た。
【0092】
比較例2
温度計、撹拌機および還流冷却器を備えたフラスコにエチレングリコールモノブチルエーテル50部を入れ、窒素ガスを通気しながら、115℃に加熱した。該温度、攪拌下、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート20部、脂肪酸変性モノマー(a−1)30部、スチレン5部、i−ブチルメタクリレート20部、2−エチルヘキシルアクリレート21部、メタクリル酸4部、エチレングリコールモノブチルエーテル20部及びアゾイソブチロニトリル1部からなる混合液を4時間を要して滴下し、該温度を保持しながら1時間攪拌した。さらにアゾイソブチロニトリル0.5部、エチレングリコールモノブチルエーテル10部の混合物を30分を要して滴下し、該温度を保持しながら1時間攪拌後、80℃まで冷却してジメチルアミノエタノール3.2部を添加して、アクリル樹脂を得た。該アクリル樹脂にディスパー攪拌下、脱イオン水を105部加えて、重量平均分子量が45000、固形分含有率が35%の水性樹脂分散体(I−8)を得た。
【0093】
水性塗料組成物の製造
実施例7〜12及び比較例3〜4
容器に表3に記載の組成(A)に示される各成分を順次仕込み、ディスパーで30分間均一になるまで攪拌を続け、各顔料ペーストを得た。その後、該各顔料ペーストに各水性樹脂分散体(I−1)〜(I−8)を仕込み、表3に記載の組成(B)に示される各成分を順次添加し、各水性塗料組成物を得た。ついで各水性塗料組成物を下記基準にて評価した。結果を表2に各水性塗料組成物の性状値と共に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
(注3)「DICNATE1000W」:商品名、大日本インキ社製、金属ドライヤー、Co含有率3.6%
(注4)「TEXANOL」:商品名、イーストマンケミカル社製、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、造膜助剤
(注5)「スラオフ72N」:商品名、武田薬品工業(株)製、防腐剤
(注6)「ノプコサントK」:商品名、サンノプコ社製、顔料分散剤
(注7)「アデカノールUH−438」:商品名、アデカ社製、増粘剤
(注8)「チタン白JR−600A」:商品名、テイカ社製、チタン白、比重4.1
(注9)「サンライトSL−1500]:商品名、竹原化学社製、タンカル、比重2.7
(注10)「LFボウセイP−W−2」:商品名、キクチカラー社製、リン酸亜鉛系防錆顔料、比重3.5
(注11)「SNデフォーマー380」:商品名、サンノプコ社製、消泡剤。
【0096】
(*1)硬化性
各水性樹脂組成物を離型紙に乾燥膜厚が20μmになるように塗布し、1週間乾燥させた後、遊離塗膜を20℃のアセトン溶剤に入れ、24時間抽出した後の塗膜の残存率(%)を調べた。値が高い程硬化性が良好であることを示す。
(*2)肉持ち感
各水性塗料組成物を6ミルドクターブレードを用いてガラス板に塗装し、気温20℃、相対湿度60%の条件下で乾燥させて各試験板を得た。1日後に塗膜外観を目視にて評価した。
◎:肉持ち感が特に優れる、
○:肉持ち感に優れる、
△:肉持ち感に乏しい。
(*3)光沢
上記(*2)と同様にして得た試験塗板の60度グロスを測定した。値が大きい程光沢が良好であることを示す。
(*4)耐水性
JIS K 5410に規定する鋼板(150×70×0.8mm)をキシレンにて脱脂し、その上に、各水性塗料組成物を上水で約70KUに希釈して刷毛にて塗布量が150g/mとなるように塗装し、気温20℃、相対湿度60%の条件下で1週間乾燥させて各試験塗板を得た。各試験板を、JIS K 5400の8.19に準じて耐水性試験(96時間浸漬)に供した。試験後の各塗面を下記基準で評価した。
◎:割れ、はがれがなく、また光沢保持率が70%以上である。
○:割れ、はがれがなく、また光沢保持率が60%以上で且つ70%未満である。
△:割れ、はがれ又は光沢保持率60%未満の光沢低下のうち少なくとも1つが発生。
(*5)防食性
素材としてJIS K 5410に規定する鋼板(150×70×0.8mm)をキシレンにて脱脂したものを使用し、これに各水性塗料組成物を上水で粘度約70KUに希釈し、刷毛にて塗布量が約100g/mとなるように塗装した。
さらに乾燥1日後に2回目の塗装を1回目と同様に行ない、気温20℃相対湿度60%の条件下で7日乾燥させて各試験塗板を作製した。各試験塗板をJIS K 5621に規定されている耐複合サイクル防食性試験に36サイクル供して、その塗膜面を下記基準で評価した。
○:塗膜にさびが認められない、
△:塗膜に一部さびが認められる、
×:塗膜の全面にサビが認められる。
(*6)促進耐候性
防食試験用と同様に作製した各試験塗板を、JIS K 5400の9.8.1(サンシャインカーボンアーク灯式)の促進耐候性試験に準じて、1000時間照射した後、各塗板面をJIS K 5400の9.6白亜化度によって評価した。点数の低いほど白亜化が進んでいることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジシクロペンテニル基を含有する重合性不飽和モノマー(A)及び該モノマー(A)と共重合可能なその他の重合性不飽和モノマー(B)を含むモノマー成分を含有するモノマー混合物(I)を、水性媒体中に平均粒子径が500nm以下になるように微分散させ、得られる乳化物を重合させることを特徴とする水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項2】
その他の重合性不飽和モノマー(B)が、脂肪酸変性重合性不飽和モノマーを含んでなる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
その他の重合性不飽和モノマー(B)が、炭素数が6以上の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー、シクロアルキル基を有する重合性不飽和モノマー及びカルボニル基含有重合性不飽和モノマーよりなる群からなる少なくとも1種の重合性不飽和モノマーを含んでなる請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の製造方法により得られる水性樹脂分散体。
【請求項5】
請求項4に記載の水性樹脂分散体を含む水性樹脂組成物。
【請求項6】
ヒドラジン誘導体をさらに含む請求項5に記載の水性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項5または6に記載の水性樹脂組成物を含む水性塗料組成物。
【請求項8】
被塗面に、請求項7に記載の水性塗料組成物を塗装することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法により得られた塗装物品。

【公開番号】特開2006−22280(P2006−22280A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203785(P2004−203785)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】