説明

水性樹脂分散体

【課題】耐候性と耐ブロッキング性に優れる塗膜の形成を可能とする水性樹脂分散体を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度(Tg)が異なる2種類以上の重合性単量体を用いて重合した水性樹脂分散体であって、その水性樹脂分散体は、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上の高Tg成分と、ガラス転移温度(Tg)が40℃以下の低Tg成分からなり、高Tg成分と低Tg成分の比が高Tg成分/低Tg成分(重量比)=46/54〜70/30からなることを特徴とする水性樹脂分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜助剤が低減でき、耐候性と耐ブロッキング性に優れた塗料やコーティング用途等に用いられる水性樹脂分散体に関する。ここで。ブロッキング性とは、各種被塗物、例えば、金属、木材、紙、プラスチック、無機建材等の基材に水性樹脂分散体が塗装されたものが積み重ねられた際に、塗膜同士が接着する現象をさす。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の観点から水性塗料の使用が多くなっており、水性樹脂分散体が塗料やコーティング用途に広く用いられている。しかしながら、水性樹脂分散体の造膜(皮膜形成)は、ポリマー粒子の融合により行われるため、ガラス転移温度(Tg)が高いものは造膜助剤を多量に使用して造膜させなければならない。したがって、塗膜の乾燥が不十分な場合、残存する造膜助剤の影響で耐ブロッキング性が悪くなるという問題点があった。また、樹脂分散体のガラス転移温度(Tg)の低いものは常温付近で造膜させることができるが、形成された塗膜は乾燥後も粘着性が残り、耐ブロッキング性が悪くなるという問題がある。耐ブロッキング性が悪いと塗膜の破損や基材の破壊が生じ、塗装本来の目的である被覆物の保護や美観を向上させるという目的が達成されないため、工場塗装用等に用いられる水性樹脂分散体には耐ブロッキング性が必要になる。
【0003】
そこで、高いTgで造膜助剤が少なくて済むような低い造膜温度(MFT)をもつ水性樹脂分散体について様々な検討が行われている。それらの手法として水性樹脂分散体のコア部に高いTg成分の単量体を用い、シェル部に低いTg成分の単量体を使用することで前述した特長を示す水性樹脂分散体が特許文献1〜3に開示されている。しかし、特許文献1では高Tg成分が10〜35と少ないため一定の耐ブロッキング性能は得られるが、過酷な条件下では耐ブロッキング性が不十分であった。特許文献2では、耐候性に問題があり、なおかつポリエチレングリコール鎖又はポリプロピレングリコール鎖を有するエチレン性不飽和単量体を使用するため、耐水性が不十分であった。特許文献3では、高Tg成分が10〜45と少ないため、一定の耐ブロッキング性能は得られるが、過酷な条件下では耐ブロッキング性が不十分であった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−226793号公報
【特許文献2】特開2001−164178号公報
【特許文献3】特開2002−012601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、成膜助剤が低減でき、耐候性、耐ブロッキング性に優れた塗膜を形成し得る水性樹脂分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のような問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の第1は、重合体のガラス転移温度(Tg)が異なる2種類以上の重合性単量体を用いて重合した水性樹脂分散体であって、その水性樹脂分散体は、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上の高Tg成分と、ガラス転移温度(Tg)が40℃以下の低Tg成分からなり、高Tg成分と低Tg成分の比が高Tg成分/低Tg成分(重量比)=46/54〜70/30からなることを特徴とする水性樹脂分散体である。
本発明の第2は、高Tg成分を得るために使用する重合性単量体の60質量%以上がメタクリル酸メチルであることを特徴とする上記第1記載の水性樹脂分散体。
本発明の第3は、水性樹脂分散体を得るために使用する重合性単量体全体の50質量%を超える量が、20℃における水の溶解度が0.1質量%以上であることを特徴する上記第1または2記載の水性樹脂分散体である。
【0007】
本発明の第4は、低Tg成分の重合性単量体に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸シクロヘキシルの使用量が夫々5質量%以上であることを特徴とする上記第1〜〜3のいずれかに記載の水性樹脂分散体である。
本発明の第5は、水性樹脂分散体を得るために使用する重合性単量体全体の5〜45質量%のメタクリル酸シクロヘキシルを使用することを特徴とする上記第1〜4のいずれかに記載の水性樹脂分散体である。
本発明の第6は、下記式(1)で表されるSi含有化合物をも含んでいることを特徴とする上記第1〜5のいずれかに記載の水性樹脂分散体。
(R1 n −Si−(R2 4-n (1)
(式中、nは0から3の整数であり、R1 は水素、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基から選ばれる基である。n個のR1 は同一であっても、異なっても良い。R2 は炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、水酸基から選ばれる基である。4−n個のR2 は同一であっても、異なっても良い。)
【0008】
本発明の第7は、高Tg成分が水性樹脂分散体粒子の中心部分(コア)、低Tg成分が水性樹脂分散体粒子の外側部分(シェル)からなる構造を有することを特徴とする上記第1〜6のいずれかに記載の水性樹脂分散体である。
本発明の第8は、2段階以上の工程で乳化重合して得られることを特徴とする上記第1〜7のいずれかに記載の水性樹脂分散体である。
本発明の第9は、乳化重合中のpHが4以下で製造するして得られたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の水性樹脂分散体である。
本発明の第10は、低Tg成分にカルボニル基及び/又はアルデヒド基含有重合性単量体を使用することを特徴とする上記第1〜9のいずれかに記載の水性樹脂分散体である。
本発明の第11は、上記第10記載の水性樹脂分散体に、分子中に少なくとも2個のヒドラジノ基を有する有機ヒドラジン化合物、セミカルバジド系硬化剤を配合すること特徴とする粒子間架橋が可能な水性樹脂分散体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性樹脂分散体を使用すれば、耐候性と耐ブロッキング性に優れる塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
〔水性樹脂分散体〕
本発明における水性樹脂分散体には、ガラス転移温度(Tg)が異なる複数の重合性単量体成分の個々が重合する過程で一体化してなる水性樹脂分散体であり、高Tg成分のTgが50℃以上、低Tg成分のTgが40℃以下からなるアクリル系重合体である。特に耐ブロッキング性と成膜性から高Tg成分がコア部、低Tg成分がシェル部にあり、コア部のTgが70℃以上、シェル部のTgが30℃以下、全体Tgが40℃以上であることが好ましい。なお、本発明において、水性樹脂分散体のTg(K:絶対温度)は、次のFOX式を用いて計算されるものをいう。
1/Tg=W1 /Tg1 +W2 /Tg2 +‥‥+Wi /Tgi +‥‥Wn /Tgn
[上記FOX式は、n種の単量体からなる重合体を構成する各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度をTgi (K)とし、各モノマーの重量分率をWi としており、(W1 +W2 +‥‥+Wi +‥‥+Wn =1)]
【0011】
さらに本発明において、高Tg成分と低Tg成分の比率は、高Tg成分/低Tg成分(重量比)=46/54〜70/30であることが重要である。好ましくは、高Tg成分/低Tg成分(重量比)=50/50〜60/40であるのが良い。高Tg成分の比率が前記比率より少ないと、耐ブロッキング性が悪くなる。一方、高Tg成分の比率が前記範囲より多いと、最低造膜温度(MFT)が上昇し、耐凍害性を損なうこととなる。
上記した高Tg成分がコア部、低Tg成分がシェル部にあることを確認する方法としてSPM(走査プローブ顕微鏡)を用いることができる。
本発明に使用されるメタクリル酸メチル、メタクリル酸シクロヘキシル、Si含有化合物以外の重合性単量体としては特に限定はなく、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、ビニルトルエン等の芳香族単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、パーチサック酸ビニル等のビニルエステル類、(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、ブタジエン等が挙げられ、さらに種々の官能性単量体、例えば、アルコキシシラン基含有単量体、カルボキシル基含有単量体、水酸基含有単量体、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸グリシジル、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、ジビニルベンゼン、メチルビニルケトンなどが含まれる。
【0012】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルなどが挙げられる。
シクロアルキル基含有重合性単量体の具体例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、第3級ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらの群から選ばれた1または2種以上が使用される。特に好ましくは、シクロヘキシル(メタ)アクリレートである。さらに、水性樹脂分散体を得るために使用する重合性単量体全体の5〜45質量%のシクロアルキル基含有重合性単量体を使用することが重要である。特に重合安定性、耐候性と耐ブロッキング性の観点から10〜40質量%が好ましい。
【0013】
本発明に使用されるアルコキシシラン基含有重合性単量体としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられ、これらの群から選ばれた1または2以上が使用される。特に好ましくは、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランである。さらに、水性樹脂分散体を得るために使用する重合性単量体全体の0.1〜10質量%のアルコキシシラン基含有重合性単量体を使用することが重要である。特に重合安定性、耐水性と耐ブロッキング性の観点から0.1〜5質量%が好ましい。
【0014】
カルボキシル基含有重合性単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸などが挙げられ、これらの郡から選ばれた1または2種以上が使用される。特にアクリル酸とメタクリル酸が好ましい。さらに、水性樹脂分散体を得るために使用する重合性単量体全体の0.5〜10質量%のカルボキシル基含有重合性単量体を使用することが重要である。特に耐ブロッキング性と下地との密着性の観点から1〜5質量%が好ましい。
水酸基含有重合性単量体の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらの郡から選ばれた1または2種以上が使用される。特に好ましくは2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートである。これらの1種類以上を水性樹脂分散体を得るために使用する重合性単量体全体の0.1〜5質量%を使用することが耐水性と発色性の観点から重要である。
【0015】
また本発明において、高Tg成分を得るために使用する重合性単量体の60質量%以上がメタクリル酸メチルであることが、耐ブロッキング性を得るために重要である。
また本発明において、水性樹脂分散体を得るために使用する重合性単量体全体の50質量%を超える量が、20℃における水の溶解度が0.1質量%以上であることが重要である。20℃における水の溶解度が0.1質量%以上である重合性単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。重合性単量体中の前記比率が50質量%未満になると、最低造膜温度(MFT)が高くなるとともに、耐ブロッキング性も悪くなる。
また本発明において、低Tg成分の重合性単量体に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸シクロヘキシルの使用量が夫々5質量%以上であることが重要である。低Tg成分中の前記比率が夫々5質量%未満になると、エナメル光沢が低くなり、良くない。
さらに本発明において、水性樹脂分散体を得るために使用する重合性単量体全体の5〜45質量%のメタクリル酸シクロヘキシルを使用することが重要である。重合性単量体中の前記比率が5質量%未満であると、耐候性が不良である。また、重合性単量体中の前記比率が45質量%を超えると、重合安定性が悪くなる。
【0016】
〔Si含有化合物〕
本発明に使用されるSi含有化合物としては、下記式(1)で表される化合物である。
(R1 n −Si−(R2 4-n (1)
(式中、nは0〜3の整数であり、R1 は水素、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基から選ばれる基である。n個のR1 は同一であっても、異なっても良い。R2 は炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、水酸基から選ばれる基である。4−n個のR2 は同一であっても、異なっても良い。)
Si含有化合物(E)には、式(1)においてn=0としたシラン(I)及び/又はn=1としたシラン(II)の少なくとも1種を含んでいることが好ましく、良好な水分散体の重合安定性を得るためにはn=1のシラン(II)であることがさらに好ましい。
【0017】
シラン(I)のR2 はそれぞれ独立して、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、水酸基が好ましい。シラン(I)の好ましい具体例として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどがある。
シラン(II)のR1 としてはメチル基、フェニル基が好ましく、R2 はそれぞれ独立して、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、水酸基が好ましい。シラン(II)の好ましい具体例としては、メチルトリメトシキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシランなどが挙げられる。
また、柔軟性を必要とされる場合には、Si含有化合物が、環状シラン及び式(1)においてn=2とおいて得られるシラン(III)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これは、シラン(II)と、環状シラン及びシラン(III)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることより、Si含有化合物(E)が形成するシリコーン重合体の架橋密度を低くし、重合体の構造が複雑になるのを防ぐことができ、これによって、水性樹脂分散体から提供される塗膜に柔軟性を付与することができるためであり、シラン(II)と併用した場合に特に好ましい。
【0018】
環状シランの具体例としては、オクタメチルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、などが挙げられる。
シラン(III)の具体例として、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルシランが挙げられる。
さらに、Si含有化合物には、加水分解基を有する線状シロキサン、アルコシシシランオリゴマー及び式(1)においてn=3とおいて得られるシラン(IV)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでも良い。
シラン(IV)の具体例として、トリフェニルエトキシシラン、トリメチルメトキシシランなどが挙げられる。
【0019】
加水分解基を有する線状シロキサンの例としては、下記の一般式(2)、(3)、(4)で表される化合物が挙げられる。
【化1】

(式中、R1 は水素、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜10のアクリル酸アルキル基又は炭素数1〜10のメタクリル酸アルキル基から選ばれ、各R2 はそれぞれ、独立して炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、水酸基、エポキシ基、アルキレンオキサイド基又はポリアルキレンオキサイド基から選ばれ、mは1〜999の正の整数を表す。)
【0020】
シラン(III)またはシラン(IV)において、R1 としてはメチル基、フェニル基が特に好ましく、R2 としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、水酸基が特に好ましい。
Si含有化合物(E)は、シラン(II)および、環状シラン、シラン(III)、線状シロキサン、アルコキシシランオリゴマー、シラン(IV)からなる群から選ばれる少なくとも1種に加え、クロロシラン、例えば、メチルクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルクロロシラン、を含むことができる。
本発明に使用されるSi含有化合物によって、本発明の水性樹脂分散体より得られる塗膜の屋外などに長期曝露における光沢保持性を改善することができる。上記したシラン縮合物の存在は、29SiNMR(29Si核磁気共鳴スペクトル)または 1HNMR(プロトン核磁気共鳴スペクトル)によって知ることができる。例えば、シラン(II)の縮合物は、29SiNMRのケミカルシフトが−40〜−80PPMにピークを示すことで同定することができる。
【0021】
本発明の水性樹脂分散体の製造方法としては通常の多段乳化重合法が採用できる。その代表例としては、水中にて乳化剤及び重合開始剤などの存在下で、pHが4以下の状態で不飽和単量体を、通常60〜90℃の加温下で乳化重合し、この工程を複数段回繰り返し行う方法が挙げられる。前記乳化剤としては、特に限定はなく、例えば、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性乳化剤、高分子乳化剤等を使用することができる。例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなどの脂肪酸塩や、高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩、スルホン酸基又は硫酸エステル基と重合性の不飽和二重結合を分子中に有する、いわゆる反応性乳化剤などのアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテルや、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、又は前述の骨格と重合性の不飽和二重結合を分子中に有する反応性ノニオン性界面活性剤などのノニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩や、第四級アンモニウム塩などのカチオン性界面活性剤;(変性)ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0022】
前記乳化剤の使用量は、特に限定はされないが、例えば、全重合性単量体成分の合計使用量に対して、好ましくは1.0〜5.0重量%がよい。乳化剤の使用量を多くすると重合安定性が向上し、少なくすると耐水性を向上させることができる。また、高Tg成分をコアに低Tg成分をシェルにするためには、各段の乳化剤使用量について、低Tg成分をつくる段の使用量よりも高Tg成分をつくる段の使用量を多くすることが好ましい。
本発明の水性樹脂分散体を乳化重合する際の重合方法は、単量体を一括して仕込む単量体一括仕込み法や、単量体を連続的に滴下する単量体滴下法、単量体と水と乳化剤とを予め混合乳化しておき、これらを滴下するプレエマルション法、あるいは、これらを組み合わせる方法などが挙げられる。この時に重合開始剤の使用方法は特に限定されるものではない。また、Si含有化合物の使用方法としては、加水分解性シランの縮合反応と不飽和単量体のラジカル重合を同時に及び/又は加水分解性シランの縮合反応を先行させた後に不飽和単量体のラジカル重合を進行させる乳化重合方法または不飽和単量体のラジカル重合を進行させた後に加水分解性シランの縮合反応を進行させる方法などが用いられる。
【0023】
本発明の水性樹脂分散体を乳化重合する際に使用する重合開始剤としては、一般に用いられるラジカル開始剤である。ラジカル重合開始剤は、熱又は還元性物質等によってラジカルを生成して重合性単量体の付加重合を起こさせるもので、水溶性又は油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物がある。具体的には過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、好ましくは水溶性のものである。なお、重合速度の促進や低温反応を望む場合には、重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸、ホルムアルデヒドスルホオキシレート塩等の還元剤をラジカル重合開始剤と組み合わせて用いることができる。必要に応じて乳化重合に際して、分子量調整剤を使用することができる。具体的にはドデシルメルカプタン、ブチルメルカプタン等が挙げられる。使用方法は特に限定されるものではないが、好ましくはシェル部に使用し、その量は全体単量体量の2質量%以下が好ましい。
【0024】
本発明の水性樹脂分散体は、エマルジョンの長期の分散安定性を保つため、塩基性物質、例えば、アンモニア、ジメチルアミノエタノールなどのアミン類を始めとする塩基性有機化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属塩を始めとする塩基性無機化合物等を用いてpH5〜10の範囲に調整することが好ましい。
本発明のSi含有化合物を用いた乳化重合において、乳化重合終了後、成膜時の硬化触媒として、例えば、ジブチルすずジラウレート、ジオクチルすずジラウレート、ジブチルすずジアセテート、オクチル酸すず、ラウリン酸すず、オクチル酸鉄、オクチル酸鉛、テトラブチルチタネートなどの有機酸の金属塩、n−ヘキシルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセンなどのアミン化合物を添加することができる。なおこれらの硬化用触媒が水溶性でない場合には、その使用に際して、界面活性剤と水を用いてエマルジョン化しておくことが望ましい。
【0025】
また本発明では、塗膜の耐汚染性、耐候性、耐水性、強度、耐溶剤性および各種下地に対する密着性の点から、水性樹脂分散体を構成する重合性単量体として、カルボニル基及び/又はアルデヒド基含有重合性単量体を含有し、この水性樹脂分散体に、分子中に少なくとも2個のヒドラジノ基を有する有機ヒドラジン化合物、セミカルバジド系硬化剤を配合することがより好ましい。これは、塗膜の乾燥時に、水性樹脂分散体中のカルボニル基と、配合された有機ヒドラジン化合物、セミカルバジド系硬化剤のヒドラジノ基との間で架橋反応が進行し、さらに優れた塗膜の耐汚染性、耐候性、耐水性、強度、耐溶剤性および各種下地に対する密着性が得られるためである。
【0026】
使用されるカルボニル基及び/又はアルデヒド基含有重合性単量体としては、例えば、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルアルキルケトン(好ましくは、炭素数4〜7個のビニルアルキルケトンである、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン)、(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナール、(メタ)アクリルアミド、ピバリンアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニルアクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、特に好ましくは、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトンである。これらは、必要に応じて1種以上を適宜選択して使用することができ、水性樹脂分散体の外側部分(シェル)構成する低Tg成分で使用されることが好ましい。更に低Tg成分を得るために使用する重合性単量体の0.5〜10質量%がカルボニル基及び/又はアルデヒド基含有重合性単量体であることが、重合安定性、耐水性、塗膜の柔軟性の点から好ましい。
【0027】
水性樹脂分散体に配合される分子中に少なくとも2個のヒドラジノ基を有する有機ヒドラジン化合物としては、例えば、エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ジヒドラジン、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等の炭素数2〜15のジカルボン酸のジヒドラジドおよび1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントイン、1−ヒドラジノカルボエチル−3−ヒドラジノカルボイソプロピル−5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントイン等のヒダントイン骨格を有する有機ヒドラジン化合物が挙げられる。セミカルバジド系硬化剤は、1分子中に−NCO基を3個以上有するポリイソシアネート化合物とヒドラジン誘導体とを反応させることによって得られものである。これらは必要に応じて1種以上を適宜選択して使用できる。更に、その配合量は、カルボニル基及び/又はアルデヒド基に対して0.4〜2等量であることが、耐水性の観点から好ましい。
【0028】
その他、本発明の水性樹脂分散体には、通常水系塗料に添加配合される成分、例えば、増粘剤、成膜助剤、可塑剤、凍結防止剤、消泡剤、染料、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を任意に配合することができる。
増粘剤として具体的には、ポリビニルアルコール(部分鹸化ポリ酢酸ビニル等を含む)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の高分子分散安定剤等、その他ポリエーテル系、ポリカルボン酸系増粘剤等が挙げられる。
成膜助剤として具体的には、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ブタンジオールイソブチレート、グルタル酸ジイソプロピル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、等が挙げられる。これら成膜助剤は、単独または併用など任意に配合することができる。
【0029】
可塑剤として具体的には、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等が挙げられる。
凍結防止剤として具体的には、プロピレングリコール、エチレングルコール等が挙げられる。
紫外線吸収剤にはベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系があり、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤として具体的には、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ステアリルオキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0030】
ラジカル重合性ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤として具体的には、2−ヒドロキシ−4−アクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メタクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−アクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−メタクリロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(アクリロキシ−エトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(メタクリロキシ−エトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(メタクリロキシ−ジエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(アクリロキシ−トリエトキシ)ベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0031】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として具体的には、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニル〕ベンゾトリアゾール)、メチル−3−〔3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネートとポリエチレングリコール(分子量300)との縮合物(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN1130)、
【0032】
イソオクチル−3−〔3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN384)、2−(3−ドデシル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN571)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−(3”,4”,5”,6”−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN900)などが挙げられる。
【0033】
ラジカル重合性ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤として具体的には、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(大塚化学(株)製、製品名:RUVA−93)、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチル−3−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリリルオキシプロピル−3−tert−ブチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、3−メタクリロイル−2−ヒドロキシプロピル−3−〔3’−(2”−ベンゾトリアゾリル)−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチル〕フェニルプロピオネート(日本チバガイギー(株)製、製品名:CGL−104)などが挙げられる。
トリアジン系紫外線吸収剤として具体的には、TINUVIN400(製品名、日本チバガイギー(株)製)などがある。
【0034】
光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤が好ましく、その中で塩基性の低いものがより好ましく、塩基定数(pKb)が8以上のものが特に好ましい。具体的には、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)サクシネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、1−〔2−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕エチル〕−4−〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル−セバケートの混合物(日本チバガイギー(株)製、製品名:TINUVIN292)、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、TINUVIN123(製品名、日本チバガイギー(株)製)などが挙げられる。
【0035】
ラジカル重合性ヒンダードアミン系光安定剤として具体的には、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルアクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアクリレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−イミノピペリジルメタクリレート、2,2,6,6,−テトラメチル−4−イミノピペリジルメタクリレート、4−シアノ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、4−シアノ−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレートなどが挙げられる。
【0036】
本発明において、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤は、水性樹脂分散体を製造する乳化重合時に存在させることにより水性樹脂分散体に導入する方法、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を成膜助剤などと混合して水性樹脂分散体に添加することにより導入する方法、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を成膜助剤と混合し、界面活性剤、水を加え乳化させた後、水性樹脂分散体に添加することにより導入する方法が挙げられる。また、紫外線吸収剤と光安定剤を併用すると、相乗効果により卓越した耐久性を示す。
本発明の水性樹脂分散体は、分散質の平均粒子径として、30〜500nmであることが好ましい。得られたエマルジョン中の分散質(固形分)と分散媒としての水性媒体との質量比は70/30以下、好ましくは30/70以上65/35以下である。
本発明の水性樹脂分散体は、塗料、建材の下地処理材または仕上げ材、紙加工剤、または織布、不織布の仕上げ材として有用であり、とくに塗料用、建材の仕上げ材として具体的には、コンクリート、セメントモルタル、スレート板、ケイカル板、石膏ボード、押し出し成形板、発砲性コンクリートなどの無機建材、織布あるいは不織布を基材とした建材、金属建材などの各種下地に対する塗料または建築仕上げ材として、複層仕上げ塗材用の主材およびトップコート、薄付け仕上塗材、厚付け仕上塗材、石材調仕上げ材、グロスペイントなどの合成樹脂エマルジョンペイント、金属用塗料、木部塗料、瓦用塗料として有用である。
【実施例】
【0037】
以下に実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものでない。尚、実施例及び比較例中の部及び%はそれぞれ質量部、及び質量%を表す。また、得られた水性樹脂分散体の物性試験については、該水性樹脂分散体を用いて下記に示す配合組成で塗料を調整し、以下に示す試験方法に従って試験を実施した。
<塗料配合組成>
・顔料ディスパージョンの作製
分散剤:SNディスパーザント5027(製品名、サンノプコ(株)製)
5.00部
アンモニア水 0.50部
プロピレングリコール 23.50部
水 147.80部
タイペークCR−97(商品名、石原産業(株)製) 333.55部
消泡剤:SNデフォマー1310(商品名、サンノプコ(株)製)2.85部
上記、配合物を卓上サンドミルにて20分分散させ、顔料ディスパージョンを得た。
・エナメル塗料の作製
各水性樹脂分散体(固形分換算) 500.00部
エチレングリコールモノブチルエーテル50部と水50部
の混合液 100.00部
CS−12(製品名、チッソ(株)製) 50.00部
上記顔料ディスパージョン 513.20部
増粘剤:アデカノールUH−438(旭電化工業(株)製)
の10%水溶液 適量
【0038】
<試験方法>
・重合安定性の評価
乳化重合後に得られた水性樹脂分散体を100メッシュの濾布で凝固物を濾過し、その残渣質量を水性樹脂分散体の質量で割り、残渣率とした。
(判断基準) ○ :残渣率が100ppm未満
△ :残渣率が100ppm以上
× :多量の凝集物が発生
・粒子径の測定
得られた水性樹脂分散体の平均粒子径を、リーズ&ノースラップ社製のマイクロトラック粒度分布計にて測定した。
・水性樹脂分散体等の固形分
水性樹脂分散体等固形分測定対象物を105℃にて3時間乾燥させた後の乾燥質量である。
【0039】
・水性樹脂分散体等の固形分率の測定
予め質量の分かっているアルミ皿に、約1gの水分散体等固形分率測定対象物を正確に秤量し、恒温乾燥機で105℃にて3時間乾燥した後、シリカゲルを入れたデシケーター中で、30分放冷後に精秤する。当該物質の乾燥後質量を乾燥前質量で割ったものを固形分率とした。
・最低成膜温度(MFT)
熱勾配試験機の上に置いたアルミ板上に0.1mmのアプリケーターでその対象物を塗工、乾燥し、その塗膜にクラックの生じた最高の温度を最低成膜温度(MFT)とした。
・エナメル光沢
上記のエナメル塗料配合物をワイヤーコーターNo.50を用いて、硫酸アルマイト板に塗布し、50℃、1 週間乾燥させた。乾燥後の塗膜について、光沢計(マイクロトリグロスμ、BYKガードナー社製)にて60°光沢を測定した。
【0040】
・耐候性
上記のエナメル塗料配合物をワイヤーコーターNo.50を用いて、硫酸アルマイト板に塗布し、50℃、1週間乾燥させた。引き続きサンシャイン型ウエザオメーター(スガ試験機(株)製、WEL−SUN−DC)を使用して曝露試験(降雨サイクル;18分/2時間、ブラックパネル温度60〜66℃)を行った。曝露2000時間経過後の外観の変化を観察した。判定基準は以下の通りである。
◎;変化なし。
○;つやびけが見られる。
△;つやびけと一部にクラックが見られる。
×;つやびけと全面にクラックが見られる。
【0041】
・耐ブロッキング性
上記のエナメル塗料配合物をMFT10℃になるように成膜助剤量(エチレングリコールモノブチルエーテルとCS−12)を調節したものを8ミルのアプリケータで塗装し、90℃、5分間強制乾燥させた後、50℃の乾燥機内に速やかに移動し1分間放置後に塗膜表面にガーゼをのせ、更にその上におもりを置き、1.0kg/cm2 の荷重を10分間かけた。そして、常温まで冷却した後、ゆっくりガーゼをはがし、塗膜の状態を目視にて観察し、下記の基準に従って評価した。
◎;ガーゼの痕跡がほとんどなし。
○;ガーゼの痕跡が少し見られる。
△;網目状の痕跡あり。
×;ガーゼの剥離が困難。
【0042】
[実施例1]
撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取り付けた反応容器に水578.9部、アニオン性反応性界面活性剤(製品名:アクアロンKH−10、第一工業製薬(株)製)1.6部を投入し、反応容器中の温度を80℃に上げてから、過硫酸アンモニウムの2%水溶液15部を添加した5分後に、メタクリル酸メチル310部、メタクリル酸シクロヘキシル180部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート5部、メタクリル酸5部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(SZ6030、東レダウコーニング(株)製)5部、アニオン性界面活性剤(製品名:ニューコール707SF、日本乳化剤(株)製)の30%溶液を40部、ノニオン性界面活性剤(製品名:エマルゲン120、花王(株)製)の20%水溶液20部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液25部、水219.5部からなる乳化混合液を滴下槽より105分かけて流入させる。流入中は反応容器の温度を80℃に保った。流入が終了してから反応容器の温度を80℃にして30分保った。
【0043】
次に、メタクリル酸メチル153部、メタクリル酸シクロヘキシル50部、アクリル酸n−ブチル252部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート25部、メタクリル酸10部、アクリル酸10部、ニューコール707SFの30%溶液を10部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液25部、水262.5部からなる乳化混合液を90分かけて流入させた。流入中は反応容器の温度を80℃に保つ。流入が終了してから、水67部を加え、反応容器の温度を80℃にして90分保った。
室温まで冷却後、25%アンモニア水溶液を添加してpHを8.5に調整してから100メッシュの金網でろ過した。ろ過された凝集物の乾燥質量は全単量体に対して0.03%とわずかであった。得られた水性樹脂分散体の固形分率は45.1%、粒子径135nmで単一分布であった。
【0044】
[実施例2]
撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取り付けた反応容器に水578.9部、アニオン性反応性界面活性剤(製品名:アクアロンKH−10、第一工業製薬(株)製)1.6部を投入し、反応容器中の温度を80℃に上げてから、過硫酸アンモニウムの2%水溶液を15部添加した5分後に、メタクリル酸メチル390部、メタクリル酸シクロヘキシル100部、2−ヒドキシエチルメタクリレート5部、メタクリル酸5部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(SZ6030、東レダウコーニング(株)製)5部、アニオン性反応性界面活性剤(製品名:アクアロンKH−10、第一工業製薬(株)製)の25%溶液を40部、ノニオン性界面活性剤(製品名:エマルゲン120、花王(株)製)の20%水溶液20部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液25部、水219.5部からなる乳化混合液を滴下槽より105分かけて流入させる。流入中は反応容器の温度を80℃に保った。流入が終了してから反応容器の温度を80℃にして30分保った。
【0045】
次に、メタクリル酸メチル160部、メタクリル酸シクロヘキシル50部、アクリル酸n−ブチル250部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート20部、メタクリル酸10部、アクリル酸10部、KH10の25%溶液を12部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液25部、水250.5部からなる乳化混合液を90分かけて流入させた。流入中は反応容器の温度を80℃に保つ。流入が終了してから、水67部を加え、反応容器の温度を80℃にして90分保った。
室温まで冷却後、25%アンモニア水溶液を添加してpHを8.5に調整してから100メッシュの金網でろ過した。ろ過された凝集物の乾燥質量は全単量体に対して0.03%とわずかであった。得られた水性樹脂分散体の固形分率は45.2%、粒子径127nmで単一分布であった。
【0046】
[実施例3]
撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取り付けた反応容器に水578.9部、アニオン性反応性界面活性剤(製品名:アクアロンKH−10、第一工業製薬(株)製)1.6部を投入し、反応容器中の温度を80℃に上げてから、過硫酸アンモニウムの2%水溶液を15部添加した5分後に、メタクリル酸メチル400部、メタクリル酸シクロヘキシル85部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート5部、メタクリル酸10部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(SZ6030、東レダウコーニング(株)製)5部、アニオン性界面活性剤(製品名:ニューコール707SF、日本乳化剤(株)製)の30%溶液を40部、ノニオン性界面活性剤(製品名:エマルゲン120、花王(株)製)の20%水溶液20部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液25部、水218.9部からなる乳化混合液を滴下槽より105分かけて流入させた。流入中は反応容器の温度を80℃に保った。流入が終了してから反応容器の温度を80℃にして30分保った。
【0047】
次に、メタクリル酸メチル120部、メタクリル酸シクロヘキシル50部、アクリル酸n−ブチル290部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート20部、メタクリル酸10部、アクリル酸10部、KH10の25%溶液を12部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液25部、水250.5部からなる乳化混合液を90分かけて流入させた。流入中は反応容器の温度を80℃に保つ。流入が終了してから、水67部を加え、反応容器の温度を80℃にして90分保った。
室温まで冷却後、25%アンモニア水溶液を添加してpHを8.5に調整してから100メッシュの金網でろ過した。ろ過された凝集物の乾燥質量は全単量体に対して0.04%とわずかであった。得られた水性樹脂分散体の固形分率は45.1%、粒子径117nmで単一分布であった。
【0048】
[実施例4]
撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取り付けた反応容器に水578.9部、アニオン性反応性界面活性剤(製品名:アクアロンKH−10、第一工業製薬(株)製)1.6部を投入し、反応容器中の温度を80℃に上げてから、過硫酸アンモニウムの2%水溶液を15部添加した5分後に、メタクリル酸メチル480部、メタクリル酸シクロヘキシル105部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート5部、アクリル酸10部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(SZ6030、東レダウコーニング(株)製)5部、アニオン性界面活性剤(製品名:ニューコール707SF、日本乳化剤(株)製)の30%溶液を48部、ノニオン性界面活性剤(製品名:エマルゲン120、花王(株)製)の20%水溶液20部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液30部、水264.0部からなる乳化混合液を滴下槽より115分かけて流入させた。流入中は反応容器の温度を80℃に保った。流入が終了してから反応容器の温度を80℃にして30分保った。
【0049】
次に、メタクリル酸メチル88部、メタクリル酸シクロヘキシル40部、アクリル酸n−ブチル232部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート20部、メタクリル酸10部、アクリル酸10部、KH10の25%溶液を10部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液20部、水198.9部からなる乳化混合液を70分かけて流入させた。流入中は反応容器の温度を80℃に保った。流入が終了してから、水67部を加え、反応容器の温度を80℃にして90分保った。
室温まで冷却後、25%アンモニア水溶液を添加してpHを8.5に調整してから100メッシュの金網でろ過した。ろ過された凝集物の乾燥質量は全単量体に対して0.02%とわずかであった。得られた水性樹脂分散体の固形分率は45.4%、粒子径124nmで単一分布であった。
【0050】
[実施例5〜7]
1段目および2段目でそれぞれ用いる重合性単量体の種類および量を表1に示すように変更した以外は、実施例3と同様の方法にて、水性樹脂分散体を得た。なお各重合性単量体の量は、両段で使用した重合性単量体成分の合計量100重量部に対する比率で示した。
【0051】
[実施例8]
撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取り付けた反応容器に水578.9部、アニオン性反応性界面活性剤(製品名:アクアロンKH−10、第一工業製薬(株)製)1.6部を投入し、反応容器中の温度を80℃に上げてから、過硫酸アンモニウムの2%水溶液を15部添加した5分後に、メタクリル酸メチル310部、メタクリル酸シクロヘキシル180部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート5部、メタクリル酸5部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(SZ6030、東レダウコーニング(株)製)5部、アニオン性界面活性剤(製品名:ニューコール707SF、日本乳化剤(株)製)の30%溶液を40部、ノニオン性界面活性剤(製品名:エマルゲン120、花王(株)製)の20%水溶液20部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液25部、水264.0部からなる乳化混合液を滴下槽より115分かけて流入させた。流入中は反応容器の温度を80℃に保った。流入が終了してから反応容器の温度を80℃にして30分保った。
【0052】
次に、メタクリル酸メチル129部、メタクリル酸シクロヘキシル50部、アクリル酸n−ブチル246部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート25部、メタクリル酸10部、アクリル酸10部、ダイアセトンアクリルアミド30部、KH10の25%溶液を10部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液20部、水198.9部からなる乳化混合液を70分かけて流入させた。流入中は反応容器の温度を80℃に保った。流入が終了してから、水67部を加え、反応容器の温度を80℃にして90分保った。
室温まで冷却後、25%アンモニア水溶液を添加してpHを8.5に調整した。次に、ADH(アジピン酸ジヒドラジド)15部を水30部に分散させてから添加した後、100メッシュの金網でろ過した。ろ過された凝集物の乾燥質量は全単量体に対して0.02%とわずかであった。得られた水性樹脂分散体の固形分率は44.8%、粒子径132nmで単一分布であった。
【0053】
[実施例9]
撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取り付けた反応容器に水578.9部、アニオン性反応性界面活性剤(製品名:アクアロンKH−10、第一工業製薬(株)製)1.6部を投入し、反応容器中の温度を80℃に上げてから、過硫酸アンモニウムの2%水溶液を15部添加した5分後に、メタクリル酸メチル310部、メタクリル酸シクロヘキシル180部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート5部、メタクリル酸5部、アニオン性界面活性剤(NEWCOL−707SF、日本乳化剤)の30%溶液を40部、ノニオン性界面活性剤(製品名:エマルゲン120、花王(株)製)の20%水溶液20部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液25部、水222.35部からなる乳化混合液を滴下槽より105分かけて流入させた。また、その乳化液が滴下しはじめてから5分後からγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(SZ6030、東レダウコーニング(株)製)30部、ジメチルジメトキシシラン(AY43−004、東レダウコーニング(株)製)30部、メチルトリメトキシシラン(SZ6070、東レダウコーニング(株)製)20部の混合液を別の滴下槽より90分かけて滴下した。流入中は反応容器の温度を80℃に保った。乳化混合液の流入が終了してから反応容器の温度を80℃にして30分保った。
【0054】
次に、メタクリル酸メチル153部、メタクリル酸シクロヘキシル50部、アクリル酸n−ブチル252部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート25部、メタクリル酸10部、アクリル酸10部、NEWCOL−707SFの30%溶液を10部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液25部、水268.5部からなる乳化混合液を90分かけて流入させた。流入中は反応容器の温度を80℃に保った。流入が終了してから、水67部を加え、反応容器の温度を80℃にして90分保った。
室温まで冷却後、25%アンモニア水溶液を添加してpHを8.5に調整してから100メッシュの金網でろ過した。ろ過された凝集物の乾燥質量は全単量体に対して0.04%とわずかであった。得られた水性樹脂分散体の固形分率は45.1%、粒子径128nmで単一分布であった。
【0055】
[実施例10]
撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取り付けた反応容器に水578.9部、アニオン性反応性界面活性剤(製品名:アクアロンKH−10、第一工業製薬(株)製)1.6部を投入し、反応容器中の温度を80℃に上げてから、過硫酸アンモニウムの2%水溶液を15部添加した5分後に、メタクリル酸メチル310部、メタクリル酸シクロヘキシル180部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート5部、メタクリル酸5部、紫外線吸収剤(TINUYIN400、日本チバガイギー(株)製)を5部、光安定剤(TINUVIN123、日本チバガイギー(株)製)を5部、アニオン性界面活性剤(NEWCOL−707SF、日本乳化剤)の30%溶液を40部、ノニオン性界面活性剤(製品名:エマルゲン120、花王(株)製)の20%水溶液20部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液25部、水222.35部からなる乳化混合液を滴下槽より105分かけて流入させた。また、その乳化液が滴下しはじめてから5分後からγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(SZ6030、東レダウコーニング(株)製)30部、ジメチルジメトキシシラン(AY43−004、東レダウコーニング(株)製)30部、メチルトリメトキシシラン(SZ6070、東レダウコーニング(株)製)20部の混合液を別の滴下槽より90分かけて滴下した。流入中は反応容器の温度を80℃に保った。乳化混合液の流入が終了してから反応容器の温度を80℃にして30分保った。
【0056】
次に、メタクリル酸メチル153部、メタクリル酸シクロヘキシル50部、アクリル酸n−ブチル252部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート25部、メタクリル酸10部、アクリル酸10部、NEWCOL−707SFの30%溶液を10部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液25部、水268.5部からなる乳化混合液を90分かけて流入させた。流入中は反応容器の温度を80℃に保った。流入が終了してから、水67部を加え、反応容器の温度を80℃にして90分保った。
室温まで冷却後、25%アンモニア水溶液を添加してpHを8.5に調整してから100メッシュの金網でろ過した。ろ過された凝集物の乾燥質量は全単量体に対して0.03%とわずかであった。得られた水性樹脂分散体の固形分率は45.0%、粒子径125nmで単一分布であった。
【0057】
[比較例1]
撹拌機、還流冷却器、滴下槽および温度計を取り付けた反応容器に水578.9部、アニオン性反応性界面活性剤(製品名:アクアロンKH−10、第一工業製薬(株)製)1.6部を投入し、反応容器中の温度を80℃に上げてから、過硫酸アンモニウムの2%水溶液を15部添加した5分後に、メタクリル酸メチル317部、メタクリル酸シクロヘキシル68部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート5部、アクリル酸10部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(SZ6030、東レダウコーニング(株)製)5部、アニオン性界面活性剤(製品名:ニューコール707SF、日本乳化剤(株)製)の30%溶液を32部、ノニオン性界面活性剤(製品名:エマルゲン120、花王(株)製)の20%水溶液20部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液20部、水183部からなる乳化混合液を滴下槽より85分かけて流入させた。流入中は反応容器の温度を80℃に保った。流入が終了してから反応容器の温度を80℃にして30分保った。
【0058】
次に、メタクリル酸メチル150部、メタクリル酸シクロヘキシル60部、アクリル酸n−ブチル350部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20部、メタクリル酸10部、アクリル酸10部、KH10の25%溶液を14.4部、過硫酸アンモニウムの2%の水溶液30部、水296.2部からなる乳化混合液を100分かけて流入させた。流入中は反応容器の温度を80℃に保った。流入が終了してから、水67部を加え、反応容器の温度を80℃にして90分保った。
室温まで冷却後、25%アンモニア水溶液を添加してpHを8.5に調整してから100メッシュの金網でろ過した。ろ過された凝集物の乾燥質量は全単量体に対して0.03%とわずかであった。得られた水性樹脂分散体の固形分率は45.1%、粒子径123nmで単一分布であった。
【0059】
[比較例2〜5]
1段目および2段目でそれぞれ用いる重合性単量体の種類および量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法にて、水性樹脂分散体を得た。しかし、重合安定性がかなり悪く、凝集物が多量に発生したためその他の評価は行わなかった。なお各重合性単量体の量は、両段で使用した重合性単量体成分の合計量100重量部に対する比率で示した。
比較例1は、低Tg成分の比率が高いため、耐ブロッキング性が不良である。比較例2は、高Tg成分中のメタクリル酸メチル及びメタクリル酸シクロヘキシルの比率が70%未満になるため、耐ブロッキング性が不良である。比較例3は、20℃における水の溶解度が0.1質量%以上である重合性単量体の比率が50%未満であるため、造膜温度(MFT)が高く、耐ブロッキング性も不良である。比較例4は、低Tg成分の重合性単量体に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸シクロヘキシルがそれぞれ5%未満であるため、エナメル光沢が低く、不良である。比較例5は、メタクリル酸シクロヘキシルの使用比率が水分散体を得るために使用する重合性単量体全体の5%未満であるため、耐候性が不良である。
【0060】
なお、表中の略語は以下の通りである。また、Foxの式により重合性単量体のガラス転移温度(Tg/℃)を算出するために使用した各々のホモポリマーのTg値を( )内に示した。
MMA:メタクリル酸メチル(105)
BA:アクリル酸n−ブチル(−45)
BMA:メタクリル酸n−ブチル(22)
2EHA:アクリル酸2−エチルへキシル(−55)
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル(83)
2HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(55)
AA:アクリル酸(87)
MAA:メタクリル酸(144)
DAAM:ダイアセトンアクリルアミド(65)
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の水性樹脂分散体は、塗料やコーティング用途として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体のガラス転移温度(Tg)が異なる2種類以上の重合性単量体を用いて重合した水性樹脂分散体であって、その水性樹脂分散体は、ガラス転移温度(Tg)が50℃以上の高Tg成分と、ガラス転移温度(Tg)が40℃以下の低Tg成分からなり、高Tg成分と低Tg成分の比が高Tg成分/低Tg成分(重量比)=46/54〜70/30からなることを特徴とする水性樹脂分散体。
【請求項2】
高Tg成分を得るために使用する重合性単量体の60質量%以上がメタクリル酸メチルであることを特徴とする請求項1記載の水性樹脂分散体。
【請求項3】
水性樹脂分散体を得るために使用する重合性単量体全体の50質量%を超える量が、20℃における水の溶解度が0.1質量%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の水性樹脂分散体。
【請求項4】
低Tg成分の重合性単量体に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸シクロヘキシルの使用量が夫々5質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水性樹脂分散体。
【請求項5】
水性樹脂分散体を得るために使用する重合性単量体全体の5〜45質量%のメタクリル酸シクロヘキシルを使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水性樹脂分散体。
【請求項6】
下記式(1)で表されるSi含有化合物をも含んでいることを特徴とする請求項1〜5記載の水性樹脂分散体。
(R1 n −Si−(R2 4-n (1)
(式中、nは0から3の整数であり、R1 は水素、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基から選ばれる基である。n個のR1 は同一であっても、異なっても良い。R2 は炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、水酸基から選ばれる基である。4−n個のR2 は同一であっても、異なっても良い。)
【請求項7】
高Tg成分が水性樹脂分散体粒子の中心部分(コア)、低Tg成分が水性樹脂分散体粒子の外側部分(シェル)からなる構造を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水性樹脂分散体。
【請求項8】
2段階以上の工程で乳化重合して得られることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の水性樹脂分散体。
【請求項9】
乳化重合中のpHが4以下で製造して得られることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の水性樹脂分散体。
【請求項10】
低Tg成分にカルボニル基及び/又はアルデヒド基含有重合性単量体を使用することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の水性樹脂分散体。
【請求項11】
請求項10記載の水性樹脂分散体に、分子中に少なくとも2個のヒドラジノ基を有する有機ヒドラジン化合物、セミカルバジド系硬化剤を配合すること特徴とする粒子間架橋が可能な水性樹脂分散体。

【公開番号】特開2008−56751(P2008−56751A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232975(P2006−232975)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】